(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】遅延時間変化を有するMALDI-TOF質量分析計及び関連する方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/40 20060101AFI20220610BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20220610BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220610BHJP
【FI】
H01J49/40 300
H01J49/16 400
G01N27/62 B
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020054456
(22)【出願日】2020-03-25
(62)【分割の表示】P 2017507808の分割
【原出願日】2015-08-27
【審査請求日】2020-04-24
(32)【優先日】2014-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502073946
【氏名又は名称】ビオメリュー・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ヴァンゴードン
(72)【発明者】
【氏名】ブラッドフォード クレイ
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-243667(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0014640(US,A1)
【文献】特表2008-530557(JP,A)
【文献】米国特許第05777325(US,A)
【文献】Eric D. Erickson et al.,Mass dependence of time-lag focusing in time-offlight mass spectrometry-an analysis,INTERNATIONAL JOURNAL OF MASS SPECTROMETRY AND ION PROCESSES,1990年,vol.97, pp.97-106
【文献】田中耕一 ほか,遅延引き出し法の基礎,Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan,vol.57, no.1, pp.31-36,2009年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/40
H01J 49/16
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遅延引出し(DE)マトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)飛行時間型質量分析計(TOF MS)であって、
分析フロー経路を包囲するハウジングと、
前記分析フロー経路と光学的に接続された固体レーザと、
可変電圧入力と、
前記可変電圧入力に接続された遅延引出しプレートと、
前記ハウジング内にあり、前記遅延引出しプレートの下流側に配置され、且つ、前記分析フロー経路の自由ドリフト部分を定義する飛行管と、
前記飛行管と連通している検出器と、
前記レーザと前記可変電圧入力と通信可能とされており、単一のサンプルについての信号取得の際に複数の異なる一連の遅延時間を用いて前記可変電圧入力を操作するように構成されている可変遅延時間モジュールであって、各遅延時間をそれぞれ別の遅延時間と比べておよそ1ナノ秒からおよそ500ナノ秒の範囲で増大又は減少させることによって複数の異なる収束質量を伴う信号を検出器にて取得する、可変遅延時間モジュールと
前記検出器及び/又は前記MALDI-TOF MSのコントローラと通信可能な分析モジュールと
を備え、
該分析モジュールは、前記MALDI-TOF MSの異なる時間遅延を伴う異なるパスにおいて前記検出器によって取得された信号からm/zピークについてコンポジットスペクトルを生成するように構成され、
前記コンポジットスペクトルは前記単一のサンプルについての2以上の異なる収束質量における前記信号の平均である、DE-MALDI-TOF MS。
【請求項2】
前記飛行管の長さはおよそ0.4mからおよそ1mの間である、請求項1に記載のDE-MALDI-TOF MS。
【請求項3】
前記固体レーザは紫外線レーザ、赤外線レーザ又は可視光レーザである、請求項1に記載のDE-MALDI-TOF MS。
【請求項4】
前記固体レーザは、波長がおよそ340nmから370nmの間であるレーザビームを発するように構成された紫外線レーザである、請求項1に記載のDE-MALDI-TOF MS。
【請求項5】
電圧源と前記可変遅延時間モジュールと通信可能とされている遅延引出しパルスジェネレータをさらに備える、請求項1に記載のDE-MALDI-TOF MS。
【請求項6】
前記複数の異なる一連の遅延時間は、それぞれの単一のサンプルについて典型的にはおよそ20からおよそ30秒の間の積算信号取得時間であって60秒未満である積算信号取得時間における、1ナノ秒から2400ナノ秒である3~10個の間の異なる遅延時間を含む、請求項1に記載のDE-MALDI-TOF MS。
【請求項7】
前記複数の異なる一連の遅延時間は長さにおいて連続的に増加する、請求項1に記載のDE-MALDI-TOF MS。
【請求項8】
前記収束質量は2000からおよそ20,000ダルトンの間である、請求項1に記載のDE-MALDI-TOF MS。
【請求項9】
前記レーザは、ターゲットにて測定したエネルギーがおよそ1~10マイクロジュールの間であり、パルス幅がおよそ2~5ナノ秒の間である紫外線レーザビームを入力するように構成されている、請求項1に記載のDE-MALDI-TOF MS。
【請求項10】
前記可変遅延時間モジュールは遅延引出しパルスジェネレータと通信可能とされているか又は遅延引出しパルスジェネレータ内に統合されている請求項1に記載のDE-MALDI-TOF MSであって、該要素は、既知の遅延時間を伴う以前のパスからのサンプル固有のスペクトルに基づいて、それぞれのサンプルについての他の遅延時間を選択することによって、アダプティブ遅延時間機能を実現するように構成されている、DE-MALDI-TOF MS。
【請求項11】
前記検出器と通信可能なデジタイザをさらに備える請求項1に記載のDE-MALDI-TOF MSであって、前記可変遅延時間モジュールは、前記検出器と通信可能な前記デジタイザをアクティベートするためのトリガタイミング制御を提供するようにも構成された、制御回路内又は制御回路のコンポーネント内に少なくとも部分的に取り込まれている、DE-MALDI-TOF MS。
【請求項12】
遅延引出し(DE)マトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)飛行時間型質量分析計(TOF MS)内でサンプルを分析する方法であって、該方法は、
パルス状イオン化と加速との間の遅延時間を電子的且つ自動的に変化させて単一のサンプルについて異なる収束質量を伴う信号を検出器で収集するステップと、
前記単一のサンプルに係る前記異なる収束質量における前記信号に基づいて、コンポジットスペクトルを電子的に生成するステップと
を含み、
前記コンポジットスペクトルは前記単一のサンプルについての2以上の異なる収束質量における前記信号の平均である、方法。
【請求項13】
前記遅延時間を電子的且つ自動的に変化させるステップは遅延時間を連続的に増加させるように行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記遅延時間は別の遅延時間と比べて1~500ナノ秒の範囲で増大又は減少されて遅延時間が1ナノ秒から2500ナノ秒の間であり、前記異なる遅延時間は3~10個の異なる遅延時間を含み、それぞれの単一のサンプルについての積算信号取得時間はおよそ20からおよそ30秒の間である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記遅延時間を電子的且つ自動的に変化させるステップの前に、
第1の遅延時間において信号についての第1の基準値的パスを取得するステップと、
前記第1の基準値的パスの収束質量の両側についての既定範囲の外に関心対象となるピークがあるか否かを決定するステップと、
前記既定範囲の外に関心対象となるピークがあるか否かに基づいて、前記電子的且つ自動的に変化させるステップのために異なる遅延時間を選択するステップと
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
レーザパルスを電子的にスイッチングし、加速電圧の立上げを制御して変化した遅延時間を生成するステップをさらに含む請求項12に記載の方法であって、それぞれの遅延時間はおよそ10ナノ秒から300ナノ秒の範囲で変化する、方法。
【請求項17】
およそ2000からおよそ20,000ダルトンの質量範囲内に1以上の微生物が存在しているか否かを決定するために前記サンプルの分析を行う、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
およそ2000~20,000ダルトンの質量範囲内に1以上のタイプのバクテリアが存在していそうか否かを決定するために前記サンプルの分析を行う、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記信号に基づいて前記サンプル内の微生物を識別するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
既知の遅延時間及び収束質量でパスを実行して第1のスペクトルを生成するステップと、
前記第1のスペクトルの分解能を電子的に分析するステップと、
前記遅延時間に対する変更を電子的に決定して前記信号の分解能を増大させるステップであって、前記それぞれの遅延時間は他の遅延時間と比べて50ナノ秒から300ナノ秒の間で増大又は減少されて遅延時間が50ナノ秒から2400ナノ秒の間の範囲内である、ステップと
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2014年8月29日に出願された米国仮特許出願第62/043,533号
の利益及び優先権を主張するのであり、その内容は、完全に再掲されたように参照によっ
て本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して質量分析法に関し、特に飛行時間(TOF)質量分析計に関する。
【背景技術】
【0003】
質量分析計は、サンプルを気化させてイオン化して、そして発生したイオン集団の質量
対電荷比を決定する装置である。良く知られている質量アナライザとしては飛行時間質量
分析計(TOFMS、time-of-flight mass spectrometer)があり、この装置ではイオン
の質量対電荷比は、パルス電場下においてイオンがイオン源から検出器まで移動するのに
要した時間によって決定される。TOFMSのスペクトルの品質は、フィールドフリーの
ドリフト領域へ向けての加速の前のイオンビームの初期条件を反映する。具体的には、同
じ質量のイオンが異なる運動エネルギーを有することとなる任意の要素及び/又は同じ質
量のイオンが空間的に異なる位置から加速されることとなる任意の要素が介在することに
よって、結果としてスペクトル分解能の劣化が生じ、これによって質量の正確性が損なわ
れる。マトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI、matrix assisted laser desorp
tion ionization)は、質量分析のための生体分子を気相化するための方法として良く知
られている。MALDI-TOFのための遅延引出し(DE、delayed extraction)の発
展により、MALDI系装置では高分解能が一般的となった。DE-MALDIでは、レ
ーザによってトリガされたイオン化イベントと、TOFソース領域へ向かっての加速パル
スの印加との間で、短い遅延が設けられる。高速(即ち、高エネルギーの)イオンは低速
イオンより遠くに移動し、イオン化に際してのエネルギー分布が(引出しパルス印加の前
のイオン化領域における)加速に際しての空間分布に変換される。
【0004】
特許文献1~3を参照されたい。また、非特許文献1~4も参照されたい。これらの文
献の内容は、完全に再掲されたように、参照によって本願に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第5,625,184号
【文献】米国特許第5,627,369号
【文献】米国特許第5,760,393号
【文献】米国特許第6,717,132号
【文献】米国特許第6,002,127号
【文献】米国特許第6,057,543号
【文献】米国特許第6,281,493号
【文献】米国特許第6,541,765号
【文献】米国特許第5,969,348号
【文献】米国特許第5,777,325号
【文献】米国特許第7,176,454号
【文献】米国特許第6,130,426号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Wiley et al., Time-of-flight mass spectrometer with improved resolution, Review of Scientific Instruments vol. 26, no. 12, pp. 1150-1157 (2004)
【文献】M. L. Vestal, Modern MALDI time-of-flight mass spectrometry, Journal of Mass Spectrometry, vol. 44, no. 3, pp. 303-317 (2009)
【文献】Vestal et al., Resolution and mass accuracy in matrix-assisted laser desorption ionization-time-of-flight, Journal of the American Society for Mass Spectrometry, vol. 9, no. 9, pp. 892-911 (1998)
【文献】Vestal et al., High Performance MALDI-TOF mass spectrometry for proteomics, International Journal of Mass Spectrometry, vol. 268, no. 2, pp. 83-92 (2007)
【文献】Introduction to Mass Spectrometry by Watson and Sparkman
【文献】M. Vestal and K. Hayden, "High performance MALDI-TOF mass spectrometry for proteomics," International Journal of Mass Spectrometry, vol. 268, no. 2, pp. 83-92, 2007
【文献】Proteomics. 2008 April; 8(8): 1530-1538
【発明の概要】
【0007】
本発明の実施形態は、引出しパルス用の連続的かつ自動可変の遅延時間を制御可能なD
E-MALDI-TOF MSシステムを対象とし、所与の加速電圧及び引出し電圧につ
いて、単一のサンプルに関しての質量信号の取得及び分析について収束質量を変化させる
ことができる。
【0008】
本発明の実施形態は、DE-MALDI-TOF MSを対象とする。DE-MALD
I-TOF MSは次の要素を備える:分析フロー経路を包囲するハウジングと;分析フ
ロー経路と光学的に接続された固体レーザと;可変電圧入力と;可変電圧入力に接続され
た遅延引出しプレートと;ハウジング内にあり、遅延引出しプレートの上流側に配置され
、且つ、分析フロー経路の自由ドリフト部分を定義する飛行管と;飛行管と連通している
検出器と;レーザと可変電圧入力と通信可能であり、単一のサンプルの信号取得の際に複
数の異なる一連の遅延時間を用いて可変電圧入力を操作するように構成された可変遅延時
間モジュール。各遅延時間をそれぞれ別の遅延時間と比べておよそ1ナノ秒からおよそ5
00ナノ秒の範囲で増大又は減少させ、複数の異なる収束質量を伴う信号を検出器により
取得する。
【0009】
飛行管の長さはおよそ0.4mからおよそ1mの間とすることができる。もっとも、随
意的には、より長い又はより短い寸法を用いることができる。
【0010】
固体レーザは紫外線レーザ、赤外線レーザ又は可視光レーザとすることができる。
【0011】
固体レーザは、波長がおよそ340nmから370nmの間であるレーザビームを発す
るように構成された紫外線レーザとすることができる。
【0012】
DE-MALDI-TOF MSは、電圧源と可変遅延時間モジュールと通信可能な遅
延引出しパルスジェネレータを備えることができる。
【0013】
複数の異なる一連の遅延時間は、それぞれの単一のサンプルについておよそ20からお
よそ30秒の積算信号取得時間に、1ナノ秒から2400ナノ秒の3~10個の異なる遅
延時間を含むことができる。
【0014】
複数の異なる一連の遅延時間は、長さが連続的に増加することができる。
【0015】
収束質量は2000からおよそ20,000ダルトンとすることができる。
【0016】
レーザは、ターゲットにて測定したエネルギーがおよそ1~10マイクロジュールとな
るように、且つ、パルス幅がおよそ2~5ナノ秒の間となる紫外線レーザビームを入力す
るように構成することができる。
【0017】
DE-MALDI-TOF MSは、検出器及び/又はMALDI-TOF MSのコン
トローラと通信可能な分析モジュールを含むことができる。分析モジュールは、MALD
I-TOF MSの異なる時間遅延を伴う異なるパスにおいて検出器によって取得された
信号からm/zピークについて重畳スペクトル又はコンポジットスペクトルの少なくとも
1つを生成するように構成することができる。
【0018】
可変遅延時間モジュールは遅延引出しパルスジェネレータと通信可能とされているか或
いは遅延引出しパルスジェネレータ内に統合されることができ、既知の遅延時間を伴う前
のパスからのサンプル固有のスペクトルに基づいて、それぞれのサンプルについての他の
遅延時間を選択することによって、アダプティブ遅延時間機能を実現するように構成され
ている。
【0019】
DE-MALDI-TOF MSは、検出器と通信可能なデジタイザを含むことができ
る。可変遅延時間モジュールは、制御回路内又は制御回路のコンポーネント内に少なくと
も部分的に取り込まれていることができ、検出器と通信可能なデジタイザをアクティベー
トするためのトリガタイミング制御を提供するようにも構成されている。
【0020】
遅延引出し(DE、delayed extraction)マトリクス支援レーザ脱離イオン化(MAL
DI、matrix assisted laser desorption ionization)飛行時間型質量分析計(TOF
MS、time-of-flight mass spectrometer)内でサンプルを分析する方法は、パルス状イ
オン化と加速との間の遅延時間を電子的且つ自動的に変化させて単一のサンプルについて
異なる収束質量を伴う信号を検出器にて収集するステップを含む。
【0021】
遅延時間を電子的且つ自動的に変化させるステップは遅延時間を連続的に増加させるよ
うに実行することができる。
【0022】
遅延時間は別の遅延時間と比べて1~500ナノ秒の範囲で増大又は減少され、遅延時
間が1ナノ秒から2500ナノ秒の間とすることができる。
【0023】
異なる遅延時間は、それぞれの単一のサンプルについて3~10個の間の異なる遅延時
間とすることができる。
【0024】
それぞれの単一のサンプルについての積算信号取得時間は60秒未満とされ得、典型的
にはおよそ20からおよそ30秒の間とすることができる。
【0025】
方法は、遅延時間を電子的且つ自動的に変化させるステップの前に:第1の遅延時間に
おいて信号についての第1の基準値的パスを取得するステップと;第1の基準値的パスの
収束質量の両側についての既定範囲の外に関心対象となるピークがあるか否かを決定する
ステップと;既定範囲の外に関心対象となるピークがあるか否かに基づいて、電子的且つ
自動的に変化させるステップのために異なる遅延時間を選択するステップ、とを含むこと
ができる。
【0026】
方法は、レーザパルスを電子的にスイッチングし、加速電圧の立ち上げを制御して変化
した遅延時間を生成するステップを含むことができる。
【0027】
それぞれの遅延時間はおよそ10ナノ秒から300ナノ秒の範囲で変化することができ
る。
【0028】
およそ2000からおよそ20,000ダルトンの質量範囲内に1以上の微生物が存在
しているか否かを決定するためにサンプルを分析することができる。
【0029】
およそ2000~20,000ダルトンの質量範囲内に1以上のタイプのバクテリアが
存在し得るか否かを決定するためにサンプルを分析することができる。
【0030】
方法は、信号に基づいてサンプル内の微生物を識別するステップを含むことができる。
【0031】
方法は、単一のサンプルについての異なる収束質量における信号に基づいてコンポジッ
トスペクトルを電子的に生成するステップを含むことができる。
【0032】
コンポジットスペクトルは、単一のサンプルについての2以上の異なる収束質量におけ
る信号の平均とすることができる。
【0033】
方法は、単一のサンプルについての異なる収束質量における信号に基づいて重畳スペク
トルを電子的に生成するステップを含むことができる。
【0034】
方法は次のステップを含むことができる:既知の遅延時間及び収束質量にてパスを実行
して第1のスペクトルを生成するステップと;第1のスペクトルの分解能を電子的に分析
するステップと;遅延時間に対しての変更を電子的に決定して信号の分解能を増大させる
ステップ。それぞれの遅延時間は他の遅延時間と比べて50ナノ秒から300ナノ秒の間
で増大又は減少され、遅延時間は50ナノ秒から2400ナノ秒の範囲内とされることが
できる。
【0035】
さらに別の実施形態は、遅延引出し(DE、delayed extraction)マトリクス支援レー
ザ脱離イオン化(MALDI、matrix assisted laser desorption ionization)飛行時
間型質量分析計(TOF MS、time-of-flight mass spectrometer)のためのコンピュ
ータプログラム製品を対象とする。コンピュータプログラム製品は、非一時的なコンピュ
ータ可読記憶媒体であって該媒体内にはコンピュータ可読コードを備える媒体を含む。コ
ンピュータ可読コードは、単一のサンプルについて複数の異なる遅延時間を用いてMAL
DI-TOF MSを動作させるように構成されたコンピュータ可読コードを含む。それ
ぞれの遅延時間は他の遅延時間と比べて1ナノ秒から500ナノ秒の間で増大又は減少さ
れる。
【0036】
コンピュータプログラム製品は、異なる遅延時間において、MALDI-TOF MS
の検出器によって複数のパスに亘って収集された、異なる収束質量及び典型的にはおよそ
20~30秒の間とされる積算信号取得時間で且つ60秒未満の積算信号取得時間につい
て、複数のパスにおいてスペクトルからコンポジット及び/又は重畳された信号を生成す
るように構成されたコンピュータ可読コードを、含むことができる。
【0037】
それぞれの異なる遅延時間は他の遅延時間と比べて50ナノ秒から300ナノ秒の間で
増大又は減少される。
【0038】
添付の図面及び詳細な説明を参照した当業者であれば、本発明のさらなる特徴、長所及
び詳細事項を理解することができるが、詳細な説明は本発明の例示にすぎない。
【0039】
1つの実施形態との関係で説明された発明の側面は、具体的に論じられていなくとも異
なる実施形態において取り込まれることができる。即ち、全部の実施形態及び/又は任意
の実施形態の特徴を任意の態様及び/又は組み合わせで組み合わせることができる。出願
人は、出願当初のクレームを変更する権利を留保し、相応に任意の新規のクレームを提出
する権利を留保し、これらには次の行為を行うための権利留保も含まれる:当初はそのよ
うな態様で権利付与請求がなされていなかった任意の他のクレームの任意の特徴に従属す
るように及び/又はこれを取り込むように、当初のクレームを補正すること。本発明のこ
れらの及びこれら以外の対象及び/又は側面は、続く詳細な説明にて詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1A】本発明の実施形態に係るDE-MALDI-TOF MSの例示的回路に関するブロック図である。
【
図1B】本発明の実施形態に係るDE-MALDI-TOF MSの例示的回路に関する別のブロック図である。
【
図1C】本発明の実施形態に係るDE-MALDI-TOF MSの例示的回路に関する別のブロック図である。
【
図1D】タイミング図に関して起こり得るジッタの例を図示するグラフである。
【
図2A】本発明の幾つかの実施形態に係る、逐次的に変更される遅延時間を表すタイミング図である。
【
図2B】本発明の幾つかの実施形態に係る、逐次的に変更される遅延時間を表すタイミング図である。
【
図2C】本発明の実施形態に係るDE-MALDI-TOF MSシステムの単一スペクトル取得に関するタイミング図である。
【
図3A】本発明の実施形態に係るDE-MALDI-TOF MSシステムの概略図である。
【
図3B】本発明の実施形態に係る別のDE-MALDI-TOF MSシステムの概略図である。
【
図3C】本発明の実施形態に係る卓上型のDE-MALDI-TOF MSシステムの概略図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る、スキャンの遅延時間を変化させたことに基づく、サンプルに関するコンポジットレポートの概略図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るネットワーク型システムの概略図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る、サンプル信号取得に際しての遅延時間変化に関する「純粋信号強度」型プロトコルのフローチャートである。
【
図7】本発明の実施形態に係る、特定のサンプルとの関係で特定の遅延時間を使うべきか否か、及び/又は、特定のサンプルとの関係でどのような値の遅延時間を使うべきか、を決定するためのアダプティブプロトコルのフローチャートである。
【
図8】本発明の実施形態に係る、特定のサンプルとの関係で特定の遅延時間を使うべきか否か、及び/又は、特定のサンプルとの関係でどのような値の遅延時間を使うべきか、を決定するためのアダプティブプロトコルのフローチャートである。
【
図9】本発明の実施形態に係る、データ処理システムのブロック図である。
【
図10A】異なる収束質量及び異なる飛行管の長さに関して算出される分解能を示すグラフである。
【
図10B】異なる飛行管の長さに関する、収束質量(kDa)対算出された平均分解能のグラフである。
【
図11】DE-MALDI-TOF MSシステムの概略図であり、実施例の箇所に記載した仮定及び数式は、
図10A/10Bの分解能を計算するために用いられた数式及び項を説明するものである。
【
図12】理論的な収束質量(kDa)対引出し遅延時間(ns)のグラフであり、これによりある質量スペクトルについて所与の引出し遅延時間に関して分解能を最適化することができる。
【
図13】引出し遅延時間を200nsとした際のATCC8739 E. coliのサンプル16個の質量スペクトルを平均化することによって生成された質量スペクトルである。
【
図14】引出し遅延時間を500nsとした際のATCC8739 E. coliのサンプル16個の質量スペクトルを平均化することによって生成された質量スペクトルである。
【
図15】引出し遅延時間を800nsとした際のATCC8739 E. coliのサンプル16個の質量スペクトルを平均化することによって生成された質量スペクトルである。
【
図16】引出し遅延時間を1100nsとした際のATCC8739 E. coliのサンプル16個の質量スペクトルを平均化することによって生成された質量スペクトルである。
【
図17】引出し遅延時間を1400nsとした際のATCC8739 E. coliのサンプル16個の質量スペクトルを平均化することによって生成された質量スペクトルである。
【
図18】引出し遅延時間を1700nsとした際のATCC8739 E. coliのサンプル16個の質量スペクトルを平均化することによって生成された質量スペクトルである。
【
図19】引出し遅延時間を2000nsとした際のATCC8739 E. coliのサンプル16個の質量スペクトルを平均化することによって生成された質量スペクトルである。
【
図20】引出し遅延時間を2300nsとした際のATCC8739 E. coliのサンプル16個の質量スペクトルを平均化することによって生成された質量スペクトルである。
【
図21】引出し遅延時間を200nsとした際のATCC8739 E. coliのサンプル16個の質量スペクトルを平均化することによって生成された質量スペクトルであり、質量スペクトルは4~10kDaにズームされておりピークラベルは除外されている。
【
図22】引出し遅延時間を800nsとした際のATCC8739 E. coliのサンプル16個の質量スペクトルを平均化することによって生成された質量スペクトルであり、質量スペクトルは4~10kDaにズームされておりピークラベルは除外されている。
【
図23】引出し遅延時間を1400nsとした際のATCC8739 E. coliのサンプル16個の質量スペクトルを平均化することによって生成された質量スペクトルであり、質量スペクトルは4~10kDaにズームされておりピークラベルは除外されている。
【
図24】ATCC8739 E. coliのサンプル48個の質量スペクトルを平均化することによって生成された質量スペクトルであり、48個のサンプルは16サンプルずつの3群で構成されており、各々の引出し遅延時間は200ns、800ns、1400nsである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
添付の図面を参照して本発明についてより詳しく説明する。図面には例示的実施形態が
示されている。同様の参照符号は同様の構成要素を表し、同様の構成要素の異なる実施形
態は異なる個数の上付きアポストロフィを付記することによって表すことができる(例え
ば、10、10’、10’’、10’’’)。
【0042】
図中において、簡潔性のために特定のレイヤ、コンポーネント又は特徴を誇張すること
ができ、別段の表示なき限り破線は随意的な特徴又はオペレーションを表すことができる
。明細書又は図中において、図の略号として、「FIG.」や「Fig.」等の表記を可
換的に用いる場合がある。もっとも、本発明は様々な異なる形態にて実施されることがで
き、開示の実施形態に限定されるものとは解されてはならず、むしろ、これらの実施形態
は開示の十分さ及び完全性担保のために提供されており、これによって当業者に対して発
明の範囲が完全に伝達されることが意図されている。
【0043】
様々な構成要素、コンポーネント、領域、レイヤ及び/又はセクションを説明するため
に第1、第2、等の用語が用いられるが、これらの用語によってこれらの構成要素、コン
ポーネント、領域、レイヤ及び/又はセクションが限定されてはならないことに留意され
たい。これらの用語は、1つの構成要素、コンポーネント、領域、レイヤ又はセクション
を他の領域、レイヤ又はセクションと区別するために使用されているにすぎない。したが
って、本発明の教示事項から逸脱せずに、第1の構成要素、コンポーネント、領域、レイ
ヤ又はセクションを、第2の構成要素、コンポーネント、領域、レイヤ又はセクションと
称することが可能である。
【0044】
図中に示されているように、「下」、「下方」、「下部」、「より低位」、「上」、「
より上位」等の空間に関して相対的な関係を示す用語は、ある構成要素又は特徴の、他の
構成要素又は特徴との関係での相対的関係を容易に記述するために用いることができる。
空間的に相対的な用語は、図中の向きに加えて、装置が使用されるに際して或いは装置が
運用されるに際しての、異なる配向性をも包括することが意図されている。例えば、図中
の装置が倒置されるならば、他の要素又は特徴の「下」又は「下方」にあると形容された
要素は、その場合該他の要素又は特徴の「上」に配されていることになる。したがって、
例示的な用語たる「下」は、配向性としての「上」、「下」及び「背後」をも包括するこ
とができる。装置は他の方向に向いていることができ(90°回転されているか他の方向
に向いていることができる)、本願中の空間的に相対的な記述用語は相応に解釈されるこ
とを要する。
【0045】
「およそ」との用語は、記述された値に対して+/-20%の範囲内の数値を指し示す
。
【0046】
本願明細書にて用いられる場合、不定冠詞又は定冠詞が付された状態の単数形は、明示
的に別段の意が示されていない限り、複数形を含むことが意図されている。また、本願明
細書にて用いられる場合、「含む」、「備える」、「含んでいる」及び/又は「備えてい
る」の用語は、宣言された特徴、単位要素、ステップ、オペレーション、構成要素、及び
/又はコンポーネントの存在を指定しており、1以上の他の特徴、単位要素、ステップ、
オペレーション、構成要素、コンポーネント、及び/又はそれらの群の存在又は追加を遮
断するわけではない。ある構成要素が別の構成要素と「接続」又は「結合」されていると
説明される場合、該ある構成要素は該別の構成要素と直接的に接続又は結合されているこ
とができるか、或いは、介在する構成要素があってもよい。本願明細書にて用いられる場
合、「及び/又は」との用語は、関連して列挙されたものを1以上含む任意の組み合わせ
及び全部の組み合わせを含む。
【0047】
別段の定義なき限り、(技術的用語及び科学的用語を含む)全ての用語は、本発明の属
する技術分野の当業者が一般的に理解するであろう意味と同じ意味を持つ。さらに、一般
的に使用される辞書等で定義されている用語に関しては、本願明細書の文脈及び関連技術
分野における意義と整合するように解釈され、明示的に明細書中にて定義されていない限
り、理想化された又は過度に形式化された態様で解釈されてはならない。
【0048】
「信号取得時間」との用語は、単一のサンプルに関しての質量スペクトルのデジタル信
号が、サンプルの分析のために質量分析計の検出器から収集又は取得された時間を意味す
る。
【0049】
「時間遅延」及び「遅延時間」との用語は可換的に使用されるのであり、レーザ発光(
点灯/発射)とイオン引出しとの間の時間を意味し、即ち、イオン化と遅延引出しのため
の加速との間の時間を意味する。
【0050】
一部の実施形態では、遅延時間を用いておよそ2,000からおよそ20,000ダル
トンの質量範囲に含まれるサンプルからのイオン信号を取得することができる。
【0051】
「パス」との用語は、単一のスペクトル収集行為を意味し、即ちあるスポットについて
の1つのフルスイープである。「ショット」との用語は、単一のスペクトルの生成及び収
集行為を意味する。
【0052】
「サンプル」との用語は、分析に付される物質を意味し、広範囲の分子量を有する任意
の媒体とすることができる。一部の実施形態では、サンプルは、バクテリアや菌類等の微
生物の存否に関して評価される。もっとも、サンプルは、毒素や他の化学物質を含む他の
構成物質の存否に関して評価されることができる。
【0053】
ピーク分解能に言及する際に用いられる「実質的に同一」との用語は、ターゲット範囲
(典型的には、2kDaから20kDa、3kDaから18kDa、4kDaから12k
Da)に関して、あるスペクトルが定義された収束質量ピーク分解能の10%以内の分解
能を有することを意味する。収束質量の例は、4kDa、8kDa、12kDa及び18
kDaであってよい。
【0054】
「ジッタ」との用語は、周期的であると仮定される信号が真の周期性から逸脱している
度合いを意味し、多くの場合クロック源との関連で言及される。当業者に知られているよ
うに、MALDI-TOFとの関係では、パワーレゾリューション計算において校正係数
又は調整係数を適用してジッタを考慮することができる。例えば、質量校正を用いてタイ
ミングジッタを補償することができ、これは例えばバクテリア識別アルゴリズム等の一部
のプロトコル又は方法で行われ得る。ジッタ補償は有益であるが、分解能を最大化するた
めには、最も低くなるように合理的に達成可能な範囲でジッタを減少又は最小化すること
が特に好適となり得る。
【0055】
「卓上型」との用語は、標準的なテーブルの上若しくはカウンターの上に収まることが
できる又はテーブルトップに等価な設置面積に収まる比較的にコンパクトなユニットを意
味し、例えば想定されるテーブルトップは、幅と長さの寸法がおよそ1フット×6フィー
トであり、典型的にその高さ寸法はおよそ1~4フィートである。一部の実施形態では、
システムは、28インチ(幅)×28インチ(奥行き)×38インチ(高さ)のエンクロ
ージャ又はハウジング内に収められる。
【0056】
本発明の実施形態はそれぞれの遅延引出しに関連づけられた可変時間遅延を提供し、単
一の固定時間遅延を用いてサンプルから収集されたスペクトルに比べて、より拡張された
分解能を有するスペクトルが生成され得る。
【0057】
図1A~1Cは、DE-MALDI-TOF MSシステム10の例示的回路10cを
示す。回路10cは、少なくとも1つのコントローラ12(
図1C:ディスプレイ12d
を有するコンピュータ12c内に設けられていることができる)と、可変遅延時間変更モ
ジュール15と、固体レーザ20と、少なくとも1つの電圧源25と、少なくとも1つの
検出器35とを含むことができる。
【0058】
「モジュール」との用語は、ハードウェア、ファームウェア、ハードウェア及びファー
ムウェア、又は、ハードウェア(例えば、コンピュータハードウェア等)及びソフトウェ
アコンポーネントを意味する。可変パルス遅延モジュール15は、異なる遅延時間をそれ
ぞれの分析対象サンプルについて選択/生成するための数式、ルックアップテーブル及び
/又は定義済みアルゴリズムを伴うソフトウェア又はプログラム的コードでプログラミン
グされた、少なくとも1つのプロセッサ及び/又は電子的メモリを含むことができる。モ
ジュール15は次のように構成されることができる:パルスジェネレータ18に対して、
予め定義した引出し時間を用いて逐次的に動作するように命じるか、及び/又は、単一の
サンプルを分析するに際して異なるレーザ発光態様を得るために異なる遅延時間をアダプ
ティブな態様で選択するように命じることができる。したがって、モジュール15は、そ
れぞれの単一のサンプルを分析するに際してMSシステム10を動作させるための遅延引
出しパルス時間を、選択及び/又は変更するように構成されている。モジュール15は単
一の装置内に統合されていることができる:例えば、レーザシステム20に搭載されたり
、パルスジェネレータ18に搭載されたり、コントローラ12内に搭載されたりすること
ができる。モジュール15は独立/別個のモジュールであることができ、プリント基板並
びに/又は例えばレーザ20及び/若しくはパルスジェネレータ18と通信可能なプロセ
ッサ等とすることができる。モジュール15は様々なコンポーネント間に分散されること
ができ、MSシステムとの関係でローカル又はリモートに配置されることができる。シス
テム10は、TOFチューブ50も含む(
図1A、3A、3Bを参照)。システム10は
、TOFチューブ50の上流側に所在する遅延引き出しプレート30pをさらに含むこと
ができる。
図1Aに示すように、遅延引き出しプレート30pは例えばサンプル45とT
OFチューブ50との間に所在することができる。遅延引出しプレート30pは、可変電
圧入力30に接続されていることができ、可変電圧入力30は1以上の他の構成要素にさ
らに接続されている。例えば、可変電圧入力30は、電圧源25及び/又はサンプルプレ
ート45にも接続されていることができる。可変電圧入力30は、遅延引出しプレート3
0p及び/又はサンプルプレート45に電圧を印加し、この電圧を変化させて電場の強度
を決定することができる。
【0059】
遅延引出しプレート30pは、グリッド有り又はグリッド無しのものとすることができ
る。例えば、
図3Aに示すように、遅延引出しプレート30pは、イオンが通過して飛行
管へと飛翔するためのグリッドを含むことができる。対照的に、
図3Bでは、遅延引き出
しプレート30pはグリッド無し設計とされており、イオン光学系に瞳孔があり、これを
通過してイオンが飛行管へと進む。商業的に入手可能なグリッド無しイオン光学系として
は、BioMerieux社(事業所:Durham, NC, USA、法人本部:フランス)のVITEK M
Sシステムがある。特許文献4も参照されたい。特許文献4は、例示的な意味でのみ参照
による取り込みが行われる。なお、対照のために一般的に述べれば、グリッド有りイオン
光学系は、電場をより均質にするために、瞳孔に広がる(ワイヤグリッド/スクリーンに
類似した)グリッドを含んでいる。
【0060】
回路10cは、随意的には、可変な遅延時間をもたらすための電子的な(例えば、デジ
タルな)遅延引出しパルスジェネレータ18を含むことができる。パルスジェネレータ1
8は、コントローラ12及び/又は少なくとも1つの電圧源25及び/又はレーザ20と
通信するように構成されることができる。「通信可能な」との用語は、無線式、電子的な
有線式、光学的な有線式及び/又は電子式の接続のいずれをも含む。
【0061】
図1A~1Cに示すように、回路10cは、遅延引出しパルス信号18sを電圧入力3
0へと送信できる電圧源25(例えば、電源)と通信可能な遅延引出しパルスジェネレー
タ18を含むことができる。
図1Aでは、電圧入力30が遅延引き出しプレート30pを
備えることができることが示されており、該プレートはTOFチューブ50(検出器35
から離れた側の端部寄り)に隣り合うグリッドを有していても有していなくてもよい。図
1Aにも示すように、電圧源25はプログラマブル高電圧電源を備えることができる。
【0062】
検出器35は、検出器35からの信号を収集するデジタイザ37と通信できるように構
成されることができる。デジタイザ37は、検出器信号35s(スペクトル)をコントロ
ーラ12及び/又は分析モジュール40へと送信することができる。デジタイザ37は、
商業的に入手可能なデジタイザ又はカスタム型のデジタイザとすることができる。商業的
に入手可能なデジタイザとしては、(Agilent Technologies社(Santa Rosa, CA)を起源
とする会社である)Keysight Technologies社のKeysight U5309Aデジタイザがある。
【0063】
コントローラ12、レーザ20及び/又は遅延引出しパルスジェネレータ18は、トリ
ガ信号37sをデジタイザ37へと送信できるように、デジタイザ37と通信できるよう
に構成されることができる。トリガ信号37sは、レーザ20がいつ発射されたかに基づ
いて送出されることができ、これによって信号35sを収集することができる。即ち、図
1Aに示すように、デジタイザ37及び/又は検出器35は、トリガ信号37sを用いて
動作して、レーザ20が発射されたときに基づいて動作の同期を行うことができ、これは
、レーザ20からのトリガアウト信号20s及び/又は電圧入力30に遅延引出し(DE
)パルス18sが送出されたときとして示される。
【0064】
図1Aに示すように、一部の実施形態では、レーザ20は、トリガアウト信号20sを
可変パルス遅延回路/モジュール15に送出することができ、可変パルス遅延回路/モジ
ュール15は、遅延引出しパルスジェネレータ18が、選択した(調整可能な又は可変な
)遅延時間をそれぞれのサンプルについて用いて遅延引き出しパルス18sを(可変)電
圧入力30に転送することに使用できる。引出しパルス18sに関して異なる遅延時間を
用いてこの動作を各サンプルについて少なくとも1回ずつ素早く逐次的に反復することが
でき、これによって、一部の実施形態では、それぞれのサンプルについておよそ60秒以
内であって典型的には30秒以内に、スペクトルの収集を行うことができる。
【0065】
図1Cには、遅延引出しパルスジェネレータ18が、可変パルス遅延回路/モジュール
15と通信するように構成され且つ遅延引出しパルスジェネレータ18PGと通信する引
出し遅延ジェネレータ18Gを含むことができることが示されている。引出し遅延ジェネ
レータ18Gは、トリガ信号を、デジタル信号平均器として構成され得るデジタイザ37
’に送信することができる。デジタイザ37’は検出器35からの信号を収集する増幅器
37Aと通信するように構成されていることができる。信号平均器37’は、DEパルス
ジェネレータ18PGに入力することができるトリガ出力を有することができる。平均器
37’は、ORTEC(R)/Ametekが提供するFASTFLIGHT(TM)デジタル信号平均器や上述さ
れたOak Ridge、TN等が提供する他のデジタイザを含むことができる。
【0066】
ここでも、一般的に述べれば、レーザ20は、引き出し遅延ジェネレータ18Gと通信
する可変パルス遅延回路/モジュール15に同期信号を送出して、遅延引出しパルスがレ
ーザ20の発光から時間遅延分だけ遅れて同期されるようにする。デジタイザ37’によ
るデータ取得もレーザ20の発光と引出しパルスジェネレータ18とに同期させることが
でき、この場合遅延引出しが行われた時点から特定の時間だけ遅れてデジタイザ37’が
検出器35から信号を取得し始める。
【0067】
図1A~1Cは、可変遅延時間を伴うレーザ入力を提供するための回路を例示的に示す
。もっとも、他の装置又は構成によっても時間遅延バリエーションを提供ないし制御する
ことが可能であるものと理解されたい。
【0068】
レーザ20は質量分析計10のイオン化領域Iにレーザパルスを(例えばパルスイオン
化のために)送出するように構成されることができ、典型的にはサンプルプレート45上
のマトリクスにおいて、該領域は分析されるターゲットサンプルに近接していることがで
きる(
図1A、3A、3B)。検出器35は、リニア検出器35l及び/又はリフレクタ
検出器35r(
図3A、3B)又は他の任意の適切な検出器とすることができる。リフレ
クタ検出器の場合、周知であるように、システム10は、飛行管の最遠端(ソース/イオ
ン化領域から離れている端部)とリフレクタ検出器との間にリフレクタを含むことができ
る。
【0069】
MALDI-TOF MSシステムは周知である。例えば、特許文献1~3、5~9を
参照されたい。これらの文献の内容は、完全に再掲されたように参照によってここに組み
込まれる。近代的なMALDI-TOF MSシステムの大部分は、初期イオンエネルギ
ー分布のスペクトルへの悪影響を緩和するために、遅延引出しを採用する(例えば、タイ
ムラグを伴うフォーカシング)。過去においては、MALDI-TOF MSシステムは
、所与の遅延時間に関して、「収束質量」と称される単一のイオン質量電荷比のみについ
て最適化された分解能が提供されていた。情報及び慣例に従って、所与のサンプル分析及
び/又は質量分析計の設計型に関しては、遅延時間が固定されていた。このため、DE-
MALDIにおける固定遅延時間は、比較的狭小な質量電荷比の領域についてのみ性能の
最適化をもたらしていた。よって、取得されたスペクトル又はターゲットスペクトルに関
しては分解能が不必要に変動し得、校正が非線形的になる場合もあった。
【0070】
本発明の実施形態では、システム10は、単一のサンプルの分析に関してスペクトルを
得るに際して、異なる遅延時間を用いたり、典型的には素早く逐次的に変更される異なる
遅延時間を用いたりすることができる。
【0071】
(少なくとも1つの)コントローラ12は、いつレーザ20が発射されたかを決定し、
電圧源25に対して作動を命じて適切な遅延時間(「td2」)を伴って加速電圧入力を
(典型的には遅延引き出しパルスジェネレータ18を介して)提供させる。一部の実施形
態では、レーザ20及び/又はパルスジェネレータ18からのクロック信号又は他のトリ
ガ信号を用いて発射時点が識別され、該発射時点は所望される遅延時間を識別/アクティ
ベート/生成及び/又は選択するために使用される時間を同期するために使用される。異
なる遅延時間の間の差は、およそ1ナノ秒から500ナノ秒とすることができる。一連の
異なる遅延時間を、自動的に動的に変更された遅延時間として提供することができ、これ
ら動的に変更された遅延時間によりパルス引き出しが可能となり、迅速な分析が可能とな
る(典型的には、サンプル毎に30秒以下で、生体分子及び/又はバクテリア等の微生物
に関してのサンプル識別に関する分析を行い得る)。システムは、広範囲の質量対電荷比
に関して高い分解能を有し得る。
【0072】
一部の実施形態では、MSシステム10は、異なる遅延時間を生成して、異なる収束質
量を生成し、これによって信号/質量スペクトルを生成でき、これにより従来的なMAL
DI-TOF MSシステムにおける単一収束質量に関する測定に対応する程度の所要時
間で、サンプル又はサンプル構成物質を識別できる。この運用プロトコルによれば、単一
の質量分析計をもって、短期の信号取得時間を用いて、且つ、サンプル信号収集に先立っ
たユーザによる質量分析計チューニング行為を要求しない態様で、サンプル及び/又はサ
ンプル構成物質の識別を行うことができる。収束質量のチューニングは自動化されている
。チューニングは、初期に取得されたスペクトルに関しての(例えば、コンピュータプロ
グラム及び/又はソフトウェアによって指揮される)電子的分析に基づいていることがで
きる。異なる収束質量を用いる用途の一例としては、低分解能においては幅広ピークとし
て現れるものをより良好に分解してダブレットピークをより良好に解像することが挙げら
れる。
【0073】
一部の実施形態では、分解能は興味対象とされる質量電荷比に関してはおよそ2000
~3000となり得、興味対象の範囲は次の1以上を含むことができる:2kDaからお
よそ20kDaまで、3kDaから18kDaまで、及び/又は4kDa~12kDa。
【0074】
図1Aに示すように、本発明の実施形態は制御回路/分析システムを含むことができ、
これらはレーザ20によって発射されるパルス20pに合わせて遅延引き出しパルス18
sを同期したり、随意的にはデジタイゼーション37sの開始に同期させたりすることが
できる。運用においては、ジッタにより時間遅延に変動が幾ばくか生じ得、質量校正及び
/又は当業者が知っているであろう調整ファクタによって補償することができるが、所望
の分解能を達成するためにシステムを低ジッタ状態で運用できるように構成することもで
きる(この場合には調整や補償は不要となる)。
図1Dはタイミング波形におけるジッタ
を示しており、「理想的」な波形と、早すぎる又は遅すぎる遷移をもたらすジッタによる
変動とが示されている。ジッタは、温度変化、電気信号間のクロストーク、スイッチング
誤差等によって発生し得る。MALDI-TOF MSにおけるジッタの説明としては、
非特許文献7を参照されたい。非特許文献7の内容は、完全に再掲されたようにここに参
照によって組み込まれる。該文献で論じられているように、TOFデータには2種類のシ
ステム的計器誤差が見られる:スペクトルとスペクトルとの間のトリガ時間の変動、及び
、加速電圧における微少な変動。トリガ時間誤差又はスペクトル間のジッタは、測定され
るTOF開始時間に関しての差異であり、デジタイズのためのクロックの出力及び/又は
補助系をなすアナログ電子部品における変動によってもたらされる。これらのタイミング
誤差は、TOFスペクトルにおいては定数的な時間オフセットとして表出し、少なくとも
±1タイムカウントに達すると予想されている。トリガ時間誤差はスペクトル内の測定全
てに対して等しい影響を与えるため、各時間の値から定数を減算することによって容易に
排除することができる。開始時間ジッタに加えて、質量分析計の加速電圧に関する低周波
変動及びTOF飛行管の熱膨張(又は収縮)があると、時間測定尺度において見かけ上の
線形的な伸張又は収縮がもたらされる。ジッタに対する補償と同様に、このようなシステ
ム的誤差を排除するためには、スペクトル内の全ての位置に関して同時的に補正を行うこ
とができる。このタイプの誤差は、単純な線形係数を用いて補正することができる。非特
許文献7を参照されたい。
【0075】
タイミング
図2A及び2Bにて概略的に説明されているように、本発明の実施形態では
、MALDI-TOF MSシステム10が自動的且つ電子的な態様で逐次的に異なる遅
延時間(イオン化と加速の間の遅延、即ちレーザの発射と引き出し電圧/電位差の印加と
の間の遅延)を用いることによって、それぞれの単一のサンプルを分析することができる
。レーザパルスの幅は、典型的には2~5ナノ秒であるが、他のパルスを用いることもで
きる。
図2Bは、一連の遅延時間t
1~t
3が連続的に増加する遅延時間であることがで
きることを示しており、具体的には、t
1が最短であり、t
3が最長である。
図2Aは、
一連の遅延時間が連続的に減少する遅延時間であることができることを示しており、具体
的には、最初の遅延時間t
1が最長であり、最後の遅延時間t
4が最短である。また、短
い遅延時間と長い遅延時間をインターリーブすることも想定されており、この場合遅延時
間は単調に増減することを要さない。
【0076】
それぞれの遅延引出し時間は典型的にはおよそ1ナノ秒から500ナノ秒の間であり、
遅延時間の個数の奇遇はどちらでも良く、典型的には2から10個の一連の異なる遅延時
間をそれぞれのサンプルについて用いることができる。より典型的には、それぞれの単一
のサンプルに関して一連の異なる遅延時間をおよそ4~6個の異なる遅延時間として提供
することができ、信号取得時間をおよそ10~30秒とすることができる。典型的なサン
プル分析に関しては、引き出し遅延時間は、100nsから3000nsの範囲内に含ま
れることができる。
【0077】
時間的な側面においては、それぞれのサンプルのレーザパルス送出を行うDEパルスジ
ェネレータ18のための一連の引出し遅延時間は変動することができ、典型的には、他の
時間との比較で1~500ナノ秒程変動することができ、より典型的にはおよそ10~5
00ナノ秒又は10~300ナノ秒とすることができ、例えばおよそ50からおよそ30
0ナノ秒とすることができ、これらには次の値が含まれる:50ns,60ns,70n
s,80ns,90ns,100ns,110ns,120ns,130ns,140n
s,150ns,160ns,170ns,180ns,180ns,190ns,20
0ns,210ns,220ns,230ns,240ns,250ns,260ns,
270ns,280ns,290ns,及び300ns。
【0078】
図2Cは、MALDI-TOF MSシステム10の単一スペクトル取得に関するタイ
ミング図の概略図である。
図2Cを参照するに、以下のイベントが「ショット」又は単一
質量スペクトル取得イベントを構成する(異なる遅延引出し電圧パルス遅延時間を用いて
少なくとも1回反復することができる)。
1. サンプル(例えば、スライド)が位置づけされて質量分析計内で調整されると、コ
ントローラがレーザ発射のための信号を立ち上げる。時間遅延t
d1はコントローラ立上
げからレーザ発射までの時間遅延である。
2. レーザが信号を受信し、発射の準備をする。レーザから他のサブシステムに電子的
な同期信号が送出されて下流側イベントが同期できるようになる。この出力に対しては厳
密に制御されたオフセット時間が適用され、これによって精緻なタイミングを維持するこ
とができる。
3. 同期信号がDE回路に到達してDE引出しパルサーのアクティベーションを開始す
る。この時間遅延は、主として電子的信号がレーザユニットからパルサーに伝播するため
の伝達時間に起因する(典型的には、1フットあたり1ナノ秒の伝播遅延が想定される)
。時間遅延t
d2は、レーザ発射からDEプレート内における電圧変化までの時間遅延で
あり、パルサーによって制御される。
4. 同期信号は、MALDIイオン検出器に接続されている信号デジタイザにも送信さ
れる。若干長くした時間遅延を有するのがより有益である。なぜならば、DEパルスの後
に最初のイオンが検出器に衝突するためには幾ばくかのナノ秒の経過が必要となるからで
ある。時間遅延t
d3は、デジタイザアクティベーション時間遅延である。
【0079】
一部の実施形態では、レーザは1000ヘルツのレートで発射され、レーザの発射とス
ペクトルの取得とを行うプロセスは、1msecより長く行われてはならない。0.8m
の飛行管の場合、17,000ダルトンのイオンが検出器35に到達するにはおよそ54
マイクロ秒かかる。したがって、引き出し遅延を増大させつつ非スペクトルオーバーラッ
プを維持する時間的余裕が十分にある。
【0080】
典型的には、検出器35は、加速電圧の立上げの時刻と近接した信号、例えば、実質的
に同じ遅延時間の信号を収集するように運用される。検出器35は、(レーザの単発発射
による)スペクトル取得行為の全般にわたって信号を取得することができる。レーザの発
射間には、イオンが検出器35に衝突しない空白期間が生じる。
【0081】
下記の表1には、t1等の6個、5個及び4個の逐次的遅延時間(単位はナノ秒)に関
する例が示されており、これらは、異なる遅延引出し電圧パルスに関し、異なる遅延時間
のシーケンスについて、それぞれのTOF MALDI引き出しパルス遅延シーケンスで
あるt1~tnに用いることができ、例えば
図2Cのタイミング図に示すtd2はそれぞ
れのサンプルを分析するためのデータを生成するものである。これらの一連の遅延時間は
非限定的例示としてのみ提供される。
【0082】
【0083】
固体レーザ20は素早く展開される一連の遅延時間をもたらし得、典型的には、単一の
サンプルの分析に関して2~10個の異なる遅延時間、より典型的には単一のサンプルの
分析に関して4~6個の異なる遅延時間を提供することができる。単一サンプル分析にお
いては、一連の異なる遅延時間を用いて、典型的にはおよそ10~30秒である累積的又
は総合的な信号取得時間を得ることができる。
【0084】
固体レーザ20は波長が320nmより高い紫外線レーザとすることができる。固体レ
ーザ20は、波長がおよそ347nmからおよそ360nmまでの間の波長を有するレー
ザ光線を生成することができる。固体レーザ20は、代替的には、赤外線レーザ又は可視
光レーザとすることができる。
【0085】
商業的に入手可能な固体レーザの例としてはSpectra-Physics Explorer(登録商標)On
e(TM)シリーズがあり、紫外線モデルは349nmと355nmとが入手可能である
。Explorer One 349 nm型の装置は、パルスエネルギーが60μJ及び120μJであり
1kHz仕様である一方、Explorer One 355 nm型の装置は300mW以上の平均出力を
生成し、反復レートは50kHzである。ターゲット即ちイオン化領域Iに転送されるレ
ーザ出力/エネルギーの量を調節するために、レーザアッテネータ20a(
図3A、3B
)を用いることができる。一部の実施形態では、レーザ20は、パルス幅がおよそ1~5
nsの間の(又は1nsよりも短い)レーザパルスを出力するように構成されており、レ
ーザの出口部分/出力部分ではなくターゲットで測定したエネルギーがおよそ1~10マ
イクロジュールの間である。本明細書中において、「ターゲットで」とは、サンプルプレ
ートのサンプルに与えられるエネルギーを意味する。随意的には、サンプルはマトリクス
を伴う生体サンプルであることができ、マトリクスとはレーザエネルギーを吸収してマト
リクスを気化させる物質である。一部の実施形態では、スペクトルの取得のためのレーザ
の(ターゲットにて測定した)エネルギーは、低いパルスエネルギーを有することができ
、ターゲットにて測定したエネルギーがパルスあたり1~5マイクロジュール等とするこ
とができ、より典型的にはパルスあたり1.5から2.0マイクロジュールとすることが
できる。もっとも、必要とされる(ターゲットにて測定した)パルスエネルギーはレーザ
のスポットサイズにも関連しており(より小さいスポットはより低いエネルギーを必要と
し、他方でより大きいスポットサイズはより多くのエネルギーを必要とする)、異なるシ
ステム/実施形態では変動し得ることに留意されたい。波長及びエネルギーはマトリクス
に依存することができ、及び/又は、他のシステムパラメータに依存し得る。
【0086】
レーザ20は、1kHzから2kHzの間の反復レートを達成でき、典型的にはおよそ
10kHzまで対応できる。所与の反復レートは所与の取得時間に応じて定まる。
【0087】
図3A及び3Bは、DE-MALDI-TOF MSシステム10の例を示す。もっと
も、本発明はこれらの構成例には限定されず、任意のDE-MALDI-TOF MSシ
ステムと共に使用されることができる。DE-MALDI-TOF MSシステム10は
、包囲された分析フローチャンバー11と連通している真空ポンプ60であって、ユニッ
トに搭載されているかハウジング10hに搭載されているかこれらに接続されている、真
空ポンプ60を含むことができる。
【0088】
図3Bは、検出器35を示し、リニア型検出器35l又はリフレクタ型検出器35r又
は両方であり、及び/又は各タイプを複数備えることができる。
【0089】
加速電圧Vaは、適切な任意の電圧とすることができ、典型的にはおよそ10kVから
25kVの間とされ、より典型的にはおよそ20kVとされる。可変電圧Vvは加速電圧
より低い電圧とすることができ、典型的にはVaのおよそ70%~90%とすることがで
きる。上述したように、システム10は、パルスジェネレータ18、及び/又は、電子的
入出力装置、又は、可変遅延時間を制御及び/又は生成するために使用され得る制御装置
、を含むことができる。また、電場ベクトルが同じである限り、電圧の極性を変更するこ
とも想定されている。
【0090】
飛行管50は、任意の適切な長さとすることができ、典型的にはおよそ0.4mから2
mの間の長さとすることができる。一部の実施形態では、飛行管50は、システム10が
卓上型MSシステムとなりうる程度の長さでありうる。システム10は、ハウジング10
h内に収められているか、又はハウジング10hによって保持されている。一部の実施形
態では、飛行管50の長さは、およそ0.5m、およそ0.6m、およそ0.7m、およ
そ0.8m、およそ0.9m、又はおよそ1mである。また、飛行管50は、1m以上の
長さを有することができ、明確化のために述べると、DE-MALDI MSシステムは
ベンチトップ型システムである必要はない。
【0091】
図3Cは、MALDI-TOFシステム10を卓上型システムとして表すものであり、
レーザ20及び例えば
図1A、1B、及び/又は1Cの他のコンポーネントが含まれる。
真空ポンプ60はハウジングに搭載されるか、プラグインコンポーネントとして提供され
ることができる。レーザ20はハウジング10hに(例えば、ハウジング内に)搭載され
るか、又は、外部的プラグインコンポーネントとして提供されることができる。
【0092】
図1Bにおいてコントローラ12と通信する別個のモジュール15として表されている
が、モジュール15は、コントローラ12と統合したり、コントローラのメモリ内に全部
又は一部をモジュールとして格納したり、又は、全部又は一部をコントローラ12とは別
個に保持したりすることができる。モジュール15は、サーバ80(
図5)内においてそ
の全部又は一部を格納することができ、該サーバはMSシステム10のハウジング10h
との関係でリモートに位置しているものとすることができる。可変DE回路/モジュール
15は、DEパルスジェネレータ18及び/又はレーザ20内にその全部又は一部を格納
することができる。可変DE回路/モジュール15は、コンポーネント及び/又はDE-
MALDIシステム10の他のタイミングコンポーネントを有するユニット内にその全部
又は一部を格納することができる。
【0093】
コントローラ12は、少なくとも1つのデジタル信号プロセッサであることができ、及
び/又は少なくとも1つのデジタル信号プロセッサを含むことができる。コントローラ1
2は、特定用途向け集積回路(ASIC)であることができ、及び/又はASICを含む
ことができる。
【0094】
回路10cは、分析モジュール40も含むことができる。複数の遅延時間が一連の且つ
別個なスペクトルをもたらし得る。
【0095】
コントローラ12及び/又は分析モジュール40は、異なる遅延時間のスペクトルを重
畳させてコンポジット信号スペクトル90を得る等して、コンポジットスペクトル90(
図4)を生成することができる。一部の実施形態では、分析モジュール40は、諸々のパ
スから選択された1つのパスについてのそれぞれの質量電荷比について最大化されたピー
ク分解能を用いてコンポジットスペクトルを生成することができ、例えば、1つの遅延時
間からの信号に着目することができ、単一のコンポジットスペクトルに含まれる異なるピ
ークが異なる遅延時間から得られているようにすることができる。コンポジットグラフ/
スペクトルにおけるそれぞれのピークを得るためにどの遅延時間が用いられたかについて
ユーザが視覚的に認識できるようにするために、ピークに対して視覚的凡例を付すること
ができ、例えば、線の種類を変化させたり、アイコンを用いたり及び/又は色分けしたり
することができる。
図4は概略的(予言的)な図であり、(3つの異なる遅延時間に由来
する)3つの異なる収束質量を伴う3通りの異なるパスからのピークを用いてサンプル分
析m/zを生成することができることを示している。分析モジュール40は、各信号から
最大ピークを電子的に選択し、統計的に想定されない値(例えば、異常値)を示し得る任
意のピークを破棄するかエラーとしてフラグ付けするか、識別するように構成され得る。
コンポジット質量スペクトル90は、異なる遅延時間から取得された平均スペクトルも提
供することができ、又は異なる遅延時間から取得された平均スペクトルを追加的に提供す
ることができる(
図24も参照)。分析モジュール40はコントローラ12と通信する別
個のモジュールとして示されているが、コントローラ12と統合したり、コントローラの
メモリ内に全部又は一部をモジュールとして格納したり、又は、全部又は一部をコントロ
ーラ12とは別個に保持したりすることができる。モジュール40は、サーバ80(
図5
)内においてその全部又は一部を格納することができ、該サーバはMSシステム10のハ
ウジング10hとの関係で離れて位置しているものとすることができる。
【0096】
図5は、少なくとも1つのサーバ80(2台のサーバとして図示されている)及び複数
のDE-MALDI-MSシステム10(例として3個のシステム101,102,10
3が図示されている)を有するネットワーク化されたシステム100を示す。分析モジュ
ール40及び/又は遅延時間変更モジュール15は、少なくとも1つのサーバにその全部
又は一部を格納されることができる。適切なファイアウォールFを提供して、データ交換
規則について構成を行って、HIPAA規則や他のプライバシーガイドラインに準拠する
ことができる。サンプル分析情報を、様々な電子システム又は定義されたユーザと関連づ
けられた装置へと送信することができる。システム10は患者記録データベース及び/又
は、プライバシーアクセス制限を有する電子医療記録(EMR、electronic medical rec
ords)を含むサーバを含むことができ、クライアントサーバー型運用態様及びユーザ毎の
特権定義型アクセス故に該EMRはHIPAA規則に準拠している。
【0097】
少なくとも1つのウェブサーバ80は、コントロールノード(ハブ)としての単一のウ
ェブサーバを含むか、又は、複数のサーバを含むことができる。システム100は、ルー
タを含むことができる(不図示)。例えば、ルータがデータ交換又はアクセスに関するプ
ライバシー規則の連携を図ることができる。1台より多数のサーバ用いられる場合、異な
るサーバ(及び/又はルータ)が異なるタスクを実行したり、タスクを共有したり、タス
クの部分を共有したりすることができる。例えば、システム100は、次の要素に関して
1つ又は1以上の組み合わせを含むことができる:セキュリティー管理サーバ、登録参加
者/ユーザに関するディレクトリサーバ、患者記録管理サーバ等。システム100は、フ
ァイアウォールF及び他のセキュア接続及び通信プロトコルを含むことができる。インタ
ーネット用途のアプリケーションに関し、サーバ80及び/又は関連づけられる少なくと
も一部のウェブクライアントは、SSL及び/又は高レベルの暗号化を用いて動作するよ
うに構成されることができる。追加のセキュリティー機能も提供することができる。例え
ば、患者のプライバシーをさらに担保するためのさらなるセキュリティーを提供するため
に、クライアント側にて通信プロトコルスタックを実装し、また、サーバ側にてSSL通
信又はIPSec等のVPNテクノロジをサポートすることができる。
【0098】
MALDI-TOF MSシステム10及び/又はネットワーク化されたシステム10
0は、クラウドコンピューティングを用いて提供されることができ、これにはコンピュー
タネットワークを介してオンデマンドで提供されるコンピューティング資源が含まれる。
資源は、様々なインフラストラクチャーサービス(例えば、演算や記憶域)として具現化
されることができ、又は、アプリケーション、データベース、ファイルサービス、電子メ
ール等としても具現化されることができる。コンピューティングの伝統的な様式では、デ
ータ及びソフトウェアの双方が完全にユーザのコンピュータに含まれていた。これに対し
てクラウドコンピューティングでは、ユーザのコンピュータが少しのソフトウェア及びデ
ータしか含んでおらず(例えば、オペレーティングシステム及び/又はウェブブラウザの
み)、ほとんど外部コンピュータのネットワーク上でなされている処理を表示するための
端末としてのみ機能し得る。クラウドコンピューティングサービス(又は複数のクラウド
資源のアグリゲーション)は、一般的に「クラウド」と称され得る。クラウドストレージ
は、ネットワーク化されたコンピュータデータストレージのモデルを含むことができ、こ
の場合データは複数の仮想サーバ上に格納され、1以上の専用サーバ上にホスティングさ
れるものではない。
【0099】
図6、7及び8は、本発明の実施形態による方法を行うための例示的な動作を示す。図
6は、「純粋」信号強度バージョンであり、サンプルの大部分又は全てのサンプル又は少
なくとも同じタイプのサンプルに関して定義された時間間隔シーケンスを用いて動作する
ように構成されることができる。
図7及び8は、時間遅延プロトコルのアダプティブバー
ジョンであり、これらは取得された信号データを考慮して、取得プロトコルを自動的に修
正し、これによってその分析に基づいて1以上の追加の遅延時間を選択し、各サンプルに
ついて時間遅延をカスタマイズできるようにし、又は、データに関して定義された時間遅
延を用いた第1のパスに基づく一連の遅延時間を少なくとも決定することができる。
【0100】
まず
図6を参照するに、TOF飛行管と固体レーザとを有するMALDI-TOF M
Sシステム内に分析用サンプルを導入する(ブロック200)。可変時間遅延を用いて遅
延引出しパルスと共に用いられるレーザパルスは(例えば、「td2」や対応する「td
3」等の異なる遅延引き出し時間。
図2Cを参照)、それぞれの単一のサンプルを分析す
るに際して逐次的に印加され、これによって質量スペクトルが取得される(ブロック21
0)。単一のサンプルの、異なる遅延時間に関してのスペクトルが取得される(ブロック
220)。取得されたスペクトルに基づいてサンプル内の物質(例えば、構成物質、生体
分子、微生物等)が識別される(ブロック230)。
【0101】
レーザは、(ターゲットにて測定された)エネルギーが1~10マイクロモジュールと
なるレーザパルスを出力することができる(ブロック203)。
【0102】
レーザパルス幅は、およそ3~5nsとすることができる(ブロック204)。
【0103】
TOF飛行管の長さは、随意的には、およそ0.4mから1.0mの間とすることがで
きる(ブロック205)。もっとも、一部の実施形態では、より長い又はより短い飛行管
を用いることができる。
【0104】
MSシステムは、随意的には、卓上型ユニットとすることができ、TOF飛行管の長さ
をおよそ0.8mとすることができる(ブロック207)。
【0105】
およそ20~30秒にわたって単一のサンプルについてスペクトルを生成するために、
変化させた遅延時間を用いて複数の信号取得を行うことができる(ブロック215)。
【0106】
サンプルは患者からの生体サンプルとすることができ、識別ステップを実行することに
より、患者に関して医学的評価を行うためにサンプル内にバクテリア等の定義された微生
物が存在しているか否かを識別することができる(ブロック235)。
【0107】
分析によって、およそ150種(又はこれ以上)の異なる定義されたバクテリアがそれ
ぞれのサンプル内にあるか否かを識別することができ、この識別は取得されたスペクトル
に基づく(ブロック236)。
【0108】
固体レーザは紫外線固体レーザとすることができ、波長はおよそ320nmよりも高く
、典型的にはおよそ347nmから360nmとすることができる(ブロック202)。
【0109】
遅延時間は、一連のレーザパルス間で異なることができ、又は、単一のサンプルに関し
ての1以上の異なるレーザパルス間で異なることができ、変化はおよそ1nsからおよそ
300nsとすることができ、それぞれのレーザパルスとの関係での遅延引出しに関する
総遅延時間は典型的には10nsから2500nsの間となる(ブロック212)。
【0110】
ターゲット質量範囲は、およそ2,000~20,000ダルトンとすることができる
(221)。
【0111】
遅延時間の個数は2~10個とすることができ、典型的には異なる2~6の遅延時間が
設けられ、総積算信号取得時間はおよそ20~30秒の間とされ、例えば単一のサンプル
に関して2,3,4,5又は6個の異なる遅延時間が用いられ、これによって全域にわた
って取得されたスペクトルの分解能が良好なものとなる(ブロック222)。
【0112】
スペクトルは、ターゲット域3~20kDaに関して3.2程度に低下した分解能Δm
を有することができ、及び/又は、単一の質量ウェイトにおける収束質量のピーク分解能
と実質的に等価な分解能を有することができる。これは理論的な最小ピーク分離(Δm、
3~20kDaの範囲内)に基づく。スペクトルは、ターゲット域3~20kDaに関し
て3.2程度に低下した分解能Δm(典型的には、50Da及び3.2Daの間)を有す
ることができ、及び/又は、単一の質量ウェイトにおける収束質量のピーク分解能と実質
的に等価な分解能を有することができる(ブロック233)。
【0113】
TOFシステムは、m/z軸の全域にわたって一定の分解能をもたらすように動作する
わけではない。非特許文献5を参照されたい。より低い分解能がより良く、「高分解能質
量分析法」は典型的には分解能の最大化を意味することに注意することが重要である。幾
つかのtd2遅延シーケンスを使用するプロトタイプシステムにおいて実測されたΔm値
は、例示的かつ所望された収束質量である8kDaにおける30Daにより近いものであ
った。
【0114】
図7を参照するに、ここでも再びサンプルが固体レーザを有するMALDI-TOF
MSシステム内へと導入される(ブロック250)。質量信号(m/z)は、遅延放出の
ための定義済み時間遅延を用いる第1のパスから取得される(ブロック260)。システ
ムは、第1のパスにおいて取得されたスペクトルのm/zピークが、定義された収束質量
及び/又は定義されたm/z位置の両側における定義された範囲の外側にあるか否かを電
子的に評価するが、ここではおそらく収束質量よりも低い分解能となっている(ブロック
270)。そうでない場合、取得された信号からのm/zピークを用いて定義された1以
上の微生物がサンプル内に存在しているか否かを電子的に識別することができる(ブロッ
ク280)。そうである場合、10nsから300nsの間で変化され第1のパスと異な
る時間遅延を有する少なくとも1つの追加的なパスを用いることによって、さらなるスペ
クトル信号を取得することできる(ブロック272)。
【0115】
総パス数は、一部の実施形態では、4~6パスとすることができ、1ns~2500n
sの範囲内の4~6個の異なる遅延時間を用いて、異なる遅延時間は単一のサンプルに関
して1nsから500nsの間で増減される(より典型的には、およそ10nsから40
0nsの間とされ、例えば100ns、200ns、300ns及び400nsとするこ
とができる)。それぞれのサンプルについて30秒未満で信号を蓄積するために異なる遅
延時間を用いることができ、典型的には20~30秒の総信号取得時間とすることができ
る(ブロック274)。
【0116】
異なる遅延時間は、連続的に増加する遅延時間とすることができ、単一のサンプルに関
して1nsから500nsの間で増減することができ、総信号取得時間は20~30秒と
することができる。
【0117】
異なる遅延時間は、連続的に減少する遅延時間とすることができ、単一のサンプルに関
して1nsから500nsの間で増減することができ、総信号取得時間は20~30秒と
することができる。
【0118】
取得された信号は、2,000~20,000ダルトンの範囲内とすることができる(
ブロック262)。
【0119】
定義域は定義された収束質量から1標準偏差の範囲である(ブロック276)。
【0120】
定義域は定義された収束質量から2標準偏差の範囲である(ブロック277)。
【0121】
微生物は、バクテリアであることができる(ブロック282)。
【0122】
固体レーザは、紫外線レーザとすることができ、レーザパルスは1~10マイクロジュ
ールのエネルギーを有することができ(ターゲットにて測定)、レーザは発振レートが1
kHzから2kHz又はそれ以上の間(例えば、典型的には10kHz未満)とすること
ができる(ブロック252)。
【0123】
図8を参照するに、サンプルを、固体レーザを有するDE-MALDI-TOF MS
システム内に導入する(ブロック300)。遅延放出のための第1の定義済み時間遅延を
用いて質量スペクトル信号(m/z)を取得する(ブロック310)。取得された信号内
のm/zピークを電子的に評価して、任意のターゲットピーク又は対象ピークが定義済み
の質量収束ピークの片側又は両側の外側の既定域又は既定位置に存在し得るかを決定する
(ブロック320)。存在しない場合、取得された信号のm/zピークを用いて1以上の
定義された微生物がサンプル内に存在しているかの識別に関して、第1のパスの信号が十
分であることになる(ブロック330)。存在する場合、収束質量を既定域又は既定位置
の外側のピークにより接近するように移動させる時間遅延を、電子的に選択及び/又は識
別する(ブロック325)。第1の時間遅延とは異なる時間遅延を伴う少なくとも1つの
追加的パスを用いてさらなるスペクトル信号を取得し、識別された時間遅延に基づいて(
少なくとも1つの)別の遅延時間との関係で調整を(増大するように又は減少するように
)行い、調整幅は1nsから500nsの範囲内として行われ、典型的には10nsと4
00nsとの間又は10nsと300nsとの間とされる(ブロック328)。コンポジ
ット信号は、評価されることができる(ブロック330)。
【0124】
本発明の実施形態は、方法、システム、データ処理システム、又はコンピュータプログ
ラム製品として具現化できることが、当業者により理解されるであろう。さらに、本発明
は、コンピュータでの取り扱いが可能なプログラムコードが含まれる非一時的なコンピュ
ータでの取り扱いが可能な記憶媒体上に配置可能な、コンピュータプログラム製品の形式
をとることができる。任意の適切なコンピュータ可読媒体を用いることができるのであり
、これにはハードディスク、CD-ROM、光学記憶装置、インターネットやイントラネ
ットを担う送信媒体、又は、磁気的若しくは他のタイプの電子的記憶装置が含まれる。
【0125】
本発明を実施するためのコンピュータプログラムコードは、Java(登録商標)、S
malltalk、C#又はC++等のオブジェクト指向プログラミング言語で記述され
ることができる。もっとも、本発明のオペレーションを実行するためのコンピュータプロ
グラムコードは、「C」プログラミング言語等の従来的な手続型言語で、又は、ビジュア
ルベーシック等の視覚指向型プログラミング環境で記述されることもできる。
【0126】
プログラムコードの特定部分は、スタンドアロンソフトウェアパッケージとしてユーザ
の1以上のコンピュータ上で完結的に実行されるか、ユーザのコンピュータ上で部分的に
実行されるか、又は、ユーザのコンピュータ及びリモートコンピュータ上でそれぞれ部分
的に実行されるか、又は、リモートコンピュータ上で完結的に実行されることができる。
後者の局面では、リモートコンピュータはLAN又はWANを介してユーザのコンピュー
タに接続されていることができ、又は、接続は(例えばISPを用いてインターネットを
介して)外部コンピュータへとなされていることができる。典型的には、一部のプログラ
ムコードは少なくとも1つのウェブ(ハブ)サーバ上で実行され、また、一部のコードは
少なくとも1つのウェブクライアント上で実行され、インターネットを用いてサーバとク
ライアント間の通信が確立される。
【0127】
以下、方法、システム、コンピュータプログラム製品、及びデータ及び/又はシステム
アーキテクチャ構造のフローチャート、イラスト及び/又はブロック図を参照して、本発
明の実施形態による発明を部分的に説明する。例示される各々のブロック及び/又はブロ
ックの組合せは、コンピュータプログラム命令を用いて実装することができる。これらの
コンピュータプログラム命令を汎用コンピュータ若しくは特殊用途コンピュータのプロセ
ッサ又は他のプログラマブルデータ処理装置に提供することができ、これによってマシン
が構成され、命令はコンピュータのプロセッサ若しくは他のプログラマブルデータ処理装
置によって実行され、これにより諸ブロックにて指定される機能/行為を実現するための
手段が形成される。
【0128】
これらのプログラム命令は、コンピュータ可読メモリ又は記憶域に格納されることがで
き、特定の態様で機能するようにコンピュータ又は他のプログラマブルデータ処理装置を
指揮することができ、コンピュータ可読メモリ又は記憶域に格納された命令は、諸ブロッ
クにて指定される機能/行為を実現するための命令的手段を含む製造物の品目を製造する
。
【0129】
コンピュータプログラム命令はコンピュータ又は他のプログラマブルデータ処理装置に
読み込まれることができ、これによってコンピュータ又は他のプログラマブルデータ処理
装置にて一連のオペレーション的ステップを実行させることができ、これによってコンピ
ュータ実施方法が提供され、コンピュータ又は他のプログラマブルデータ処理装置にて実
行される命令が諸ブロックにて指定される機能/行為を実現するためのステップを提供す
る。
【0130】
本明細書の特定の図のフローチャートやブロック図は、本発明の実施形態について可能
な実装態様の例示的なアーキテクチャ、機能性、及び動作態様を例示する。この点、フロ
ーチャートやブロック図の各ブロックは、指定された論理的機能を実装するための1以上
の実行可能命令を構成するモジュールかセグメントかコードの部分を表す。また、一部の
代替的実装例では、ブロック内に記された機能は、図示の順番によらずに発生し得ること
にも留意されたい。例えば、関与する機能に応じて、連続して図示された2つのブロック
は、実質的に同時並行的に実行されるか、時には逆順で実行されるか、又は、2以上のブ
ロックを併合することができる。
【0131】
図9は、MALDI-MS TOFシステム10のための遅延時間変更モジュール15
及び/又は分析モジュール40を提供する回路又はデータ処理システム400の概略図で
ある。回路及び/又はデータ処理システム400は、任意の適切な装置内のデジタル信号
プロセッサに統合されることができる。
図9に示すように、プロセッサ410は、クライ
アント又はローカルユーザ装置と通信するか及び/又はこれらと一体化されているか、並
びに/又は、アドレス/データバス448を介してメモリ414と通信するか及び/又は
これらと一体化されている。プロセッサ410は、商業的に入手可能な任意のマイクロプ
ロセッサ、又はカスタム型のマイクロプロセッサとすることができる。メモリ414は、
データ処理システムの機能性を実装するために用いられるソフトウェア及びデータを含む
メモリ装置の全体的ヒエラルキーを代表的に表す。メモリ414は次の装置タイプを含み
得るがこれらには限定されない:キャッシュ、ROM、PROM、EPROM、EEPR
OM、フラッシュメモリ、SRAM、及び、DRAM。
【0132】
図9は、メモリ414が、データ処理システムにおいて使用される複数の種類のソフト
ウェア及びデータを含むことができることを例示しており、これには次のものが含まれる
:オペレーティングシステム449、アプリケーションプログラム454、入出力(I/
O)装置ドライバ458、及び、データ455。データ455は、時間遅延シーケンス及
び/又はm/z識別パターンに相関づけられたサンプル識別ライブラリを含むことができ
る。
【0133】
当業者が理解するように、オペレーティングシステム449は、データ処理システムと
一緒に使用するのに適する任意のオペレーティングシステムであることができ、例えば、
International Business Machines社(Armonk, NY)のOS/2(登録商標)、AIX(
登録商標)、若しくはzOS(登録商標);Microsoft社(Redmond, WA)のWindows(登
録商標) CE、Windows NT、Windows95、Windows98、Windows2000、Windows XP、Windows
Vista、Windows 7、Windows CE、若しくは、他のバージョンのWindows;Palm OS(登録商
標);Symbian(登録商標) OS;Cisco IOS(登録商標);VxWorks;Unix(登録商標);
若しくはLinux(登録商標);Apple Computer社のMac OS(登録商標);LabView(登録商
標);又は他のプロプライエタリなオペレーティングシステムが含まれる。
【0134】
I/O装置ドライバ458は、I/Oデータポート、データ記憶域455、及び特定の
メモリ414コンポーネント等の装置と通信するためにアプリケーションプログラム45
4がオペレーティングシステム449を介してアクセスするソフトウェアルーチンを典型
的には含む。アプリケーションプログラム454はデータ処理システムの様々な特徴を実
装するプログラムを表し、本発明の実施形態によればオペレーションを支援する少なくと
も1つのアプリケーションを含むことができる。最後に、データ455は、アプリケーシ
ョンプログラム454、オペレーティングシステム449、I/O装置ドライバ458、
及び、メモリ414内に存し得る他のソフトウェアプログラムによって使用される静的及
び動的なデータを表す。
【0135】
図9のアプリケーションプログラムである逐次的時間遅延モジュール450、アダプテ
ィブ時間遅延モジュール451、及び分析モジュール452を参照して本発明は例示され
ているが、当業者が理解するように、本発明の教示事項の利益を享受しつつ別の構成を活
用することもできる。例えば、モジュール及び/又はそれ以外をオペレーティングシステ
ム449やI/O装置ドライバ458等のデータ処理システムの他のこのような論理区分
に組み込むことができる。したがって、本発明は
図9の構成例に限定されるべきではなく
、説明されたオペレーションを実行し得る任意の構成が包括されることが意図されている
。さらに、1以上のモジュール(即ち、モジュール450,451,452)は、別個の
又は単一的なプロセッサ等の他のコンポーネントと通信するか、該他のコンポーネントと
完全に統合されるか、該他のコンポーネントと部分的に統合されることができる。
【0136】
I/Oデータポートは、情報を、データ処理システム並びに別のコンピュータシステム
若しくはネットワーク(例えば、インターネット)間で転送するために用いることができ
、又は、プロセッサによって制御される他の装置に転送するために用いることができる。
これらのコンポーネントは、多くの従来的なデータ処理システムにおいて用いられる従来
的なコンポーネントであることができ、これらは、本発明の実施形態によれば本明細書に
て説明されたように構成され得る。
【0137】
システム10は、プライバシーアクセス制限を伴った電子医療記録(EMR、electron
ic medical records)を含む患者記録データベース及び/又はサーバを含むことができ、
該EMRは、クライアントサーバー型運用態様及びユーザ毎の特権定義型アクセスにより
HIPPA規則に準拠している。
【0138】
本発明の実施形態を説明したが、次に特定の例を参照して説明し、これらの例は例示目
的のみで説明に含められており、発明を限定することは意図されていない。
【0139】
[実施例]
図10Aは、異なる収束質量及び異なる飛行管の長さに関して算出される分解能を示す
グラフである。
図10Bは、異なる飛行管の長さに関しする収束質量(kDa)対算出さ
れた平均分解能のグラフである。
【0140】
図11は、TOFシステムの概略図である。理論的に算出される平均分解能は、1.6
mの飛行管を有するシステムのほうが高いが、この場合には、多くの卓上型用途に関して
はMSシステムの専有面積が所望されるよりも大きくなる。上述した所与の加速電圧及び
引出し電圧に関して収束質量を変更するための可変引出し機能により、より短い飛行管(
例えば、例示にすぎないが、0.8mの長さの飛行管)により、より高いピーク分解能の
利点を享受することが可能となると考えられる。
【0141】
図10A/10Bに示される分解能計算に関し、MSシステムの理論的な動作態様を説
明するために、次の数式/仮定を用いることができる。
・ d
0=5mm
・ d
1=10mm
・ y=10
・ V
a=20kV
・ δx=0.025mm
・ δv0=5×10
-4mm/ns
・ δt=4ns
・ c
1=1.38914×10
-2 (vがmm/ns、mがDa、tがns、及びd
がmmの場合)
・ 全ての粒子は1価にイオン化されている
・ 初期位置及び速度分布に起因する分解能への影響に関し、高次の項は無視される
・ D
e≒D
・ D
v=D
・ 末端部及び貫通性の電場効果は無視される
【0142】
[数式について]
・ 表2に列挙した変数に基づいて以下の数式を用いることによって理論的な分解能を計
算することができる。係数yを用いてイオンビームの「焦点距離」、Dv及びDsを調節
することができる(特許文献10及び11を参照されたい。特許文献10及び11の内容
は、完全に再掲されたように参照によってここに組み込まれる)。
【0143】
・ 「焦点距離」は時的なフォーカシングを意味するのであり、空間的なフォーカシング
を意味しない。
【0144】
【0145】
・ イオン速度はニュートン力学によって記述することができる(特許文献10を参照さ
れたい。特許文献10の内容は、完全に再掲されたように参照によってここに組み込まれ
る)。
【0146】
【0147】
・ イオン化と引き出しパルスの印加との間の遅延はΔtとして表すことができる(非特
許文献6を参照されたい。非特許文献6の内容は、完全に再掲されたように参照によって
ここに組み込まれる)。
【0148】
【0149】
・ Rxx値は、総合的分解能に関与する個別の因子とすることができる(非特許文献6
及び特許文献12を参照されたい。非特許文献6及び特許文献12の内容は、完全に再掲
されたようには参照によってここに組み込まれる)。
【0150】
【0151】
分解能Rは個別の関与因子の求積和である(特許文献11を参照されたい。特許文献1
1の内容は、完全に再掲されたように参照によってここに組み込まれる)。
分解能はR-1として定義される:
【0152】
【0153】
【0154】
[理論的な遅延時間と収束質量]
図12は、遅延時間対収束質量に関する理論的なグラフを示し、所与の遅延時間に関す
る質量スペクトルについてどの程度の質量にて分解能が最適化されるかを示している。こ
の質量を、一般に計器の収束質量と称する。特定の実施形態では、一般的にTOF MA
LDIシステムを8kDaにフォーカスすることができ、これは約900nsの引出し遅
延時間に対応する。
【0155】
異なるサンプルに関して、異なる引出し遅延時間を伴って質量スペクトルを取得した。
引出し遅延時間を200nsから2,300nsとし、それぞれについて、ATCC87
39 E. coliに関する16サンプル(スポットともいう)について質量スペクトルを取得
した。個別のスポットに関する質量スペクトルを共に平均化して
図13~20に示すスペ
クトルを生成した。8kDa付近のピークに関する最高分解能は、引出し遅延時間を80
0ns及び1,100nsとした場合のスペクトルに見いだされることに留意されたい。
これら2つの遅延時間が、8kDaの収束質量の理論的遅延時間の境界となる。
【0156】
200ns、800ns、及び1,400nsの引出し遅延時間に関するスペクトルに
ついては、4~10kDaの範囲についてズームしており、この付近においてATCC8
739のピークの多くがあり、
図21~23にこれが示されている。また、ピークの特徴
をより容易に区別できるようにするため、ピークのラベルを除外した。各スペクトルにつ
いて2つの質量範囲が丸で囲われている:6.2~6.5kDa及び8.0~9.4kD
a。これらの領域に着目すると、異なる引出し遅延時間を用いることによって、異なる質
量範囲におけるピークの分解が可能となることが明確になる。より短い引出し遅延時間は
より低質量域におけるピークの分解により優れており、より長い引出し遅延時間はより高
質量域におけるピークの分解により優れているべきである。
【0157】
図21~23に示されるスペクトルを共に平均化して
図24のスペクトルを生成した。
上記の全てのスペクトルを、bioMerieux社のプロプライエタリなインビトロ診断(IVD
、in-vitro diagnostic)微生物識別アルゴリズムに入力した。識別結果を表3に示す。
表3におけるスペクトルの全ては
図13~20及び
図24の質量スペクトルに対応する。
【0158】
【0159】
試したアルゴリズムは遅延時間が800ns及び1,100nsのスペクトルのみにお
いて識別に成功しているが、これらは理論的な最適引出し遅延時間であるおよそ900n
sに最も近接している箇所である。もっとも、200nsと800nsと1,400ns
とに対応するスペクトルに関して単純な平均化を行うと、アルゴリズムは、微生物がE.
Coliであると正しく識別した。このことは、引出し遅延時間に対する任意の依存性を
除去するために、単一の未知のサンプルについて様々な引出し遅延時間を使って取得を行
うことの有用性を示している。このように取得に関してスペクトルを適切にポストプロセ
スすることによって、取得行為前において予め引出し遅延時間が適切にチューニングされ
ているようにしておく必要性をなくすことができる。また、引出し遅延時間を用いること
によってもたらされる分解能の増大に対応する質量域に関しては、開発用途との関係では
より多くの分析用データを得ることができる。
【0160】
上記は本発明を例示するにすぎず、限定的に解釈されてはならない。本発明に関する幾
つかの例示的実施形態が説明されているが、例示的実施形態に対しては様々な改造を施す
ことが可能であるということを当業者は良く理解するはずであり、この際、本発明の新規
な教示事項及び利点からの逸脱は実質的には生じない。したがって、このような改造の全
ては、本発明に包括されることが意図されている。よって、上記は本発明に関して例示的
に説明していると解するべきであり、開示された具体的実施形態に限定されるものと解さ
れるべきではなく、開示の実施形態及び他の実施形態に対しての改造は本発明に包括され
ることが意図されている。