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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】蛍光体素子および照明装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20220610BHJP
   F21V 9/32 20180101ALI20220610BHJP
   F21V 29/502 20150101ALI20220610BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20220610BHJP
   H01S 5/02 20060101ALI20220610BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20220610BHJP
【FI】
G02B5/20
F21V9/32
F21V29/502 100
H01L33/50
H01S5/02
F21Y115:30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020539891
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031687
(87)【国際公開番号】W WO2020044426
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】近藤 順悟
(72)【発明者】
【氏名】浅井 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 直剛
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-186850(JP,A)
【文献】特開2008-305811(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110031(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/021027(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/006128(WO,A2)
【文献】特開2010-147183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
F21V 9/32
F21V 29/502
H01L 33/50
H01S 5/02
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光の入射面、前記入射面に対向する対向面および側面を備えている蛍光体部であって、前記入射面に入射する前記励起光の少なくとも一部を蛍光に変換し、前記蛍光を前記対向面または前記入射面から出射させる蛍光体部、および
前記蛍光体部の前記側面上に直接的に設けられた放熱基板であって、熱伝導率が200W/mK以上の金属からなる電解メッキ膜から構成される放熱基板を備えており、
前記放熱基板が前記入射面側の主面と前記対向面側の主面とを有しており、
前記放熱基板の厚さが300μm以上、3.0mm以下であり、
前記電解メッキ膜が、前記蛍光体部の前記側面から成長する電解メッキと、前記放熱基板の前記入射面側の前記主面および前記対向面側の前記主面の一方から他方へと向かって成長する電解メッキとが合成されてなるものであり、
前記放熱基板の前記入射面側の前記主面または前記対向面側の前記主面からの前記電解メッキの成長方向と、前記蛍光体部の前記入射面とがなす角が60~120°であることを特徴とする、蛍光体素子。
【請求項2】
前記放熱基板の前記入射面側の前記主面上に入射面側支持基板を備えていることを特徴とする、請求項1記載の蛍光体素子。
【請求項3】
前記放熱基板の前記対向面側の前記主面上に対向面側支持基板を備えていることを特徴とする、請求項1または2記載の蛍光体素子。
【請求項4】
前記蛍光体部と前記電解メッキ膜との間に低屈折率層を備えていることを特徴とする、請求項1~のいずれか一つの請求項に記載の蛍光体素子。
【請求項5】
前記蛍光体部と前記電解メッキ膜との間に反射膜を備えていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一つの請求項に記載の蛍光体素子。
【請求項6】
前記入射面の法線に対する前記蛍光体部の前記側面の傾斜角度が5°以上、30°以下であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一つの請求項に記載の蛍光体素子。
【請求項7】
複数の前記蛍光体部を有することを特徴とする、請求項1~のいずれか一つの請求項に記載の蛍光体素子。
【請求項8】
レーザ光を発振する光源、および請求項1~のいずれか一つの請求項に記載の蛍光体素子を備えることを特徴とする、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体素子および蛍光を発光する照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、レーザ光源を用いた自動車用ヘッドライトの研究が盛んに行われており、その内の一つに、青色レーザあるいは紫外レーザと蛍光体を組み合わせた白色光源がある。レーザ光を集光することにより、励起光の光密度を高めることができる上に、複数のレーザ光を蛍光体上に重ねて集光することで、励起光の光強度も高めることができる。これによって、発光面積を変えずに光束と輝度とを同時に大きくすることができる。このため、半導体レーザと蛍光体とを組み合わせた白色光源が、LEDに替わる光源として注目されている。例えば、自動車用ヘッドライトに使用する蛍光体ガラスは、日本電気硝子株式会社の蛍光体ガラス「ルミファス」や国立研究開発法人物質・材料研究機構と株式会社タムラ製作所、株式会社光波のYAG単結晶蛍光体が考えられている。
【0003】
特許文献1(特許5679435)記載の蛍光体素子では、蛍光体の幅が、入射面から出射面へ向かって拡がっている。この蛍光体の側面の傾斜角度は15度以上、35度以下とされている。そして、樹脂ケースの中に蛍光体を収容し、ケースの内面をリフレクタ部として機能させるために金属膜が形成されている。蛍光体は封止樹脂によってケースの底面に固定されており、蛍光体の側面は空気で覆われている。
【0004】
特許文献2(特開2017-85038)に記載の蛍光体素子では、蛍光体の幅が、入射面から出射面へ向かって拡がっており、放熱部材の貫通孔に蛍光体を収容し、貫通孔の側面が貫通孔の表面とガラスペーストによって接着されている。
【0005】
特許文献3(WO2013-175706 A1)では、放熱部材の貫通孔内に蛍光体を収容し、貫通孔内に蛍光体を固定する蛍光体素子が記載されている(図15図18)。放熱部材は、銅、アルミニウムのような熱伝導率が高い金属からなる金属板であり、金属板に貫通孔を形成し、嵌合(はめあい)構造、ざぐり構造によって蛍光体を貫通孔に固定することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「異材界面における接触熱抵抗の評価」 福岡俊道、他、 日本機械学術論文集、A編、76(763), P344-350, 2010年3月
【特許文献】
【0007】
【文献】特許5679435
【文献】特開2017-85038
【文献】WO2013-175706 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の照明用の蛍光体素子では、放熱性の高い材質からなる放熱基板を蛍光体板に対して接合一体化することによって、蛍光体板内に発生する熱を可能な限り放熱しようとするものである。
【0009】
しかし、本発明者が検討を進めるうちに、次の問題が明らかになってきた。すなわち、蛍光強度を高くするためには、励起光の強度を高くする必要がある。しかし、励起光強度を上げると、使用時に時間が経過すると蛍光強度が低下し、色ムラが発生することがあった。このため、継続使用時の出射光の蛍光強度を高く維持し、色ムラを抑制することが必要である。
【0010】
本発明の課題は、蛍光体部に対して励起光を入射させて蛍光を発生させるのに際して、継続使用時に、出射光の蛍光強度を高くし,出射する白色光の色ムラを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る蛍光体素子は、
励起光の入射面、前記入射面に対向する対向面および側面を備えている蛍光体部であって、前記入射面に入射する前記励起光の少なくとも一部を蛍光に変換し、前記蛍光を前記対向面または前記入射面から出射させる蛍光体部、および
前記蛍光体部の前記側面上に直接的に設けられた放熱基板であって、熱伝導率が200W/mK以上の金属からなる電解メッキ膜から構成される放熱基板を備えており、
前記放熱基板が前記入射面側の主面と前記対向面側の主面とを有しており、
前記放熱基板の厚さが300μm以上、3.0mm以下であり、
前記電解メッキ膜が、前記蛍光体部の前記側面から成長する電解メッキと、前記放熱基板の前記入射面側の前記主面および前記対向面側の前記主面の一方から他方へと向かって成長する電解メッキとが合成されてなるものであり、
前記放熱基板の前記入射面側の前記主面または前記対向面側の前記主面からの前記電解メッキの成長方向と、前記蛍光体部の前記入射面とがなす角が60~120°であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、レーザ光を発振する光源、および前記の蛍光体素子を備えることを特徴とする、照明装置に係るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蛍光体素子によれば、蛍光体部に対して励起光を入射させて蛍光を発生させるのに際して、継続使用時の出射光の蛍光強度を高く維持し、色ムラを抑制することができる。
【0014】
この点について更に述べる。特許文献3記載のような従来の蛍光体素子では、放熱部材に貫通孔を設け、蛍光体を貫通孔に嵌合しており、これによって、蛍光体の発光時に生じた熱を放熱部材へ逃がしている。しかし、実際には、継続使用時には、蛍光体から発光する蛍光強度が低下し、また色ムラが生じてくることがあった。
【0015】
本発明者がこの原因を検討したところ、以下を見いだした。すなわち、放熱部材の穴あけやザグリは、ドリル加工、レーザ加工、ワイヤ放電加工によって設けることができる。ドリル加工やレーザ加工の場合、加工後の穴部内の表面は粗面となるために、フレックスホーン等の研削ブラシにて穴部材のバリを取り、ブラシの砥粒度を上げることにより仕上げを行い、表面粗さRaを小さくすることができる。また、ワイヤ放電加工は、ワイヤとワークの間にパルス高電圧を印加してアーク放電を発生させ、ワークを溶融することにより切り出し加工を行う方法である。穴部内の表面粗さRaを小さくするために複数回実施することができる。しかし、金属の放熱基板に貫通孔を設ける場合、貫通孔に面する内壁面の表面粗さRaは、1.5μm~10μm程度となる。
【0016】
一方、蛍光体の材質は、直接接合して排熱するという観点ではセラミックスか単結晶が好ましい。セラミックスの場合、無機バインダーを混ぜて蛍光体を成形し焼結することで、任意の形状の蛍光体を製造することができる。また単結晶の場合、引き上げ法、等の方法により結晶成長させて製造することができる。その後、スライシング、べべリング加工を行うことによりウエハー形状にした後に、ウエハーをラップ、CMP研磨してから、最後にダイシングカットすることにより小片化することができる。しかし、セラミックスや単結晶は硬度が高いので、切断後の蛍光体側面の表面粗さRaは、実際上は10μm程度となる。
【0017】
このため、例えば図1(b)に示すように、蛍光体5を放熱基板6の貫通孔6aに嵌合したときには、確かに蛍光体5と放熱基板6を接触させ、機械的に固定することは可能であり、放熱も問題なくできるものと考えられていた。しかし、実際には、蛍光体5と放熱基板6とを接触させた場合には、両者の界面では、蛍光体5の表面5aの微小突起と、放熱基板6の表面の微小突起6aとがEのように点接触し、両者の界面に沿って微細な空隙が発生しているものと思われる。この微細な空隙のために、両者の界面での熱の流れ(排熱)は、両者の表面粗さおよび微細な形態に大きく依存する。こうした界面の微細構造が、継続使用時の蛍光強度の低下や色ムラの原因となっているものと考え、更に検討を進めた。
【0018】
参考として、非特許文献1は、異種材料の界面において表面粗さから接触熱伝達率をシミュレーションして、表面粗さが異材界面での排熱に大きく影響することを示している。これによると、異種材料の界面における表面粗さが大きくなると、接触熱伝達率がほぼリニアに低下し、接触熱抵抗が大きくなることによって熱の流れが悪くなる。
この場合、一方の表面粗さがある程度大きくなると、もう一方の表面粗さを小さくしても接触熱伝達率は大きくならない。
【0019】
本発明者は、非特許文献1の(4)式を使用して、蛍光体と銅を異種材料として計算した。計算に必要なパラメータを表1の様に設定し、蛍光体の表面粗さRa1を1μm、3μm、6μm、10μmの場合の銅の表面粗さRa2に対する接触熱伝達率hcの計算結果を図31に示す。
【表1】

【0020】
この結果、蛍光体の表面粗さRa1を10μmとした場合、銅の表面粗さRa2が18μmでは接触熱伝達率は9500W/mK2、10μmでは12000W/mK2、1.5μmでは20000W/mK2となる。この場合、銅の表面粗さを仮に1μm以下にできた場合にも最大で240000W/mK2程度までしか熱伝達効率が大きくならない。このことは、嵌合による接触は点接触であるために、片方の材料の表面粗さをどんなに小さくしても、もう片方の表面粗さの大きい材料で律速されて接触熱伝達率が上げられないことを示唆しており、蛍光体素子の継続使用時の蛍光強度低下や色ムラの発現と整合している。
【0021】
この結果を踏まえ、本発明者は、放熱基板と蛍光体部との間の界面の状態を改善できる構造を模索してみた。この結果、金属メッキによって放熱部材を成形することで、図1(c)に示すように、蛍光体2の側面2cの表面粗さが大きくても、側面2cの表面の凹凸に金属が入り込み、微視的に見て面接触で接する構造を実現できるために、接触熱伝達率を著しく改善できることを見いだした。この結果、蛍光体の継続使用時に蛍光体内で発生する熱を効率的に放熱基板から排熱し、蛍光体の温度消光による蛍光変換効率低下と色ムラを抑制できることを見いだし、本発明に到達した。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)は、本発明の実施形態に係る蛍光体素子を示す断面図であり、(b)は、従来の蛍光体素子の微構造を模式的に示し、(c)は、本発明の蛍光体素子の微構造を模式的に示す。
図2】(a)は、本発明に係る蛍光体素子1の斜視図であり、(b)は、蛍光体素子1の断面図である。
図3】(a)は、本発明に係る蛍光体素子11の斜視図であり、(b)は、蛍光体素子11の断面図である。
図4】(a)は、本発明に係る蛍光体素子21Aの斜視図であり、(b)は、蛍光体素子21Aの断面図である。
図5】(a)は、本発明に係る蛍光体素子21Bの斜視図であり、(b)は、蛍光体素子21Bの断面図である。
図6】(a)は、本発明に係る蛍光体素子31の斜視図であり、(b)は、蛍光体素子31の断面図である。
図7】本発明に係る蛍光体素子31Aの断面図である。
図8】(a)は、本発明に係る蛍光体素子31Bの斜視図であり、(b)は、蛍光体素子31Bの断面図である。
図9】(a)は、本発明に係る蛍光体素子31Cの斜視図であり、(b)は、蛍光体素子31Cの断面図である。
図10】(a)は、本発明に係る蛍光体素子31Dの斜視図であり、(b)は、蛍光体素子31Dの断面図である。
図11】(a)は、本発明に係る蛍光体素子31Eの斜視図であり、(b)は、蛍光体素子31Eの断面図である。
図12】(a)は、本発明に係る蛍光体素子31Fの斜視図であり、(b)は、蛍光体素子31Fの断面図である。
図13】(a)は、金属メッキ膜36内に複数の蛍光体部32を設けた状態を示す斜視図であり、(b)は、(a)の断面図である。
図14】蛍光体板41をハンドル基板42に接合する前の状態を示す斜視図である。
図15】蛍光体板41とハンドル基板42との接合体を示す斜視図である。
図16】蛍光体板41を加工して複数の蛍光体部32を形成した状態を示す斜視図である。
図17】接合層43上に低屈折率層34および反射膜35を設けた状態を示す斜視図である。
図18】金属メッキ膜46を設けた状態を示す斜視図である。
図19】金属メッキ膜を研磨加工した状態を示す斜視図である。
図20】ハンドル基板を除去した状態を示す斜視図である。
図21】ハンドル基板を除去した状態を対向面側から見た斜視図である。
図22】対向面側を研磨加工した状態を示す斜視図である。
図23】入射面側を更に研磨加工した状態を示す斜視図である。
図24図23の積層体を切断する工程を示す斜視図である。
図25】金属メッキ膜47上に入射面側支持基板50を接合する前の状態を示す。
図26】金属メッキ膜47に対して入射面側支持基板50を接合した状態を示す。
図27】ハンドル基板42を除去した状態を示す。
図28】積層体を対向側から見た状態を示す。
図29】積層体を対向面側から研磨加工した状態を示す。
図30】積層体の対向面側に対向面側支持基板50Aを接合する前の状態を示す。
図31】蛍光体の表面粗さRaと熱伝導効率との関係を示すシミュレーションである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の蛍光体素子は、励起光の入射面、入射面に対向する対向面および側面を備えている蛍光体部であって、蛍光体板に入射する励起光の少なくとも一部を蛍光に変換し、蛍光を対向面または入射面から出射させる蛍光体部を有する。
ここで、励起光の全体を蛍光に変換した場合には、蛍光のみが対向面または入射面から出射する。あるいは、励起光の一部を蛍光に変換することで、励起光および蛍光を対向面または入射面から出射させることができる。
【0024】
蛍光体部を構成する蛍光体は、励起光を蛍光に変換できるものであれば限定されないが、蛍光体ガラス、蛍光体単結晶または蛍光体多結晶であってよい。
また、蛍光体には、励起光および蛍光を散乱させるために散乱材を添加したり、空孔を設けたりすることができる。この場合、蛍光体に入射する光は、蛍光体内で散乱させるために出射光(励起光および蛍光)は散乱され散乱角は大きくなる。
散乱角は、例えば、サイバーネットシステム社の散乱測定器「Mini-Diff」によって測定することができる。散乱角は、出射光の透過スペクトルからピーク値の1/eとなる全幅角度と定義する。
このとき散乱角は5度以上であることが好ましく、10度以上であることが更に好ましい。ただし、蛍光体部を構成する蛍光体の散乱角の上限は特にないが、出射光の開口数(NA)以下であってよく、実用的な観点からは、80度以下であってよい。
蛍光体ガラスは、ベースとなるガラス中に希土類元素イオンを分散したものである。
ベースとなるガラスとしては、シリカ、酸化ホウ素、酸化カルシウム、酸化ランタン、酸化バリウム、酸化亜鉛、酸化リン、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、塩化バリウムを含む酸化ガラスが例示できる。
蛍光体ガラス中に分散される希土類元素イオンとしては、Tb、Eu、Ce、Ndが好ましいが、La、Pr、Sc、Sm、Er、Tm、Dy、Gd、Luであってもよい。
【0025】
蛍光体単結晶としては、YAl12、BaSi11 25、TbAl12やYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)が例示できる。YAGのY(イットリウム)の一部がLuに置換されていてもよい。また、蛍光体単結晶中にドープするドープ成分としては、希土類イオンが好ましく、Tb、Eu、Ce、Ndが特に好ましいが、La、Pr、Sc、Sm、Er、Tm、Dy、Gd、Luであってもよい。
【0026】
また、蛍光体多結晶としては、TAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)系、サイアロン系、窒化物系、BOS(バリウム・オルソシリケート)系、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)が例示できる。YAGのY(イットリウム)の一部がLuに置換されていてもよい。
蛍光体多結晶中にドープするドープ成分としては、希土類イオンが好ましく、Tb、Eu、Ce、Ndが特に好ましいが、La、Pr、Sc、Sm、Er、Tm、Dy、Gd、Luであってもよい。
【0027】
なお、本発明の蛍光体素子は、グレーティング(回折格子)を蛍光体部内に含んでいない無グレーティング型蛍光体素子であってよく、グレーティングが蛍光体部中に設けられていてもよい。
【0028】
蛍光体部は,励起光の入射面、対向面および側面を少なくとも有する。側面とは、入射面と対向面との間に伸びる面である。ここで、蛍光体部の形状は特に限定されない。例えば蛍光体部の入射面、対向面の形状は、例えば、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形などの多角形であってよい。
【0029】
また、励起光を入射面から入射させた後、蛍光体部内で励起光の少なくとも一部が蛍光に変換される。ここで、蛍光および必要に応じて励起光を対向面から出射させることができる。あるいは、対向面上に反射膜を形成することで蛍光と励起光とを反射させ、入射面から励起光と蛍光とを出射させることができる。
【0030】
蛍光体板の入射面上に更に部分透過膜を設けることができる。部分透過膜は、励起光の一部を反射し、残りを透過する膜である。具体的には、部分透過膜の励起光に対する反射率は、9%以上であり、50%以下が好ましい。こうした部分透過膜の材質としては、後述する反射膜用の金属膜や誘電体多層膜を挙げることができる。
【0031】
本発明では、蛍光体部の側面上に放熱基板が設けられており、放熱基板が、熱伝導率が200W/mK以上の金属からなる金属メッキ膜からなる。ここで、蛍光体部の側面とは、入射面と対向面との間に伸びる面のことを意味する。
【0032】
金属メッキ膜の種類は、電解メッキ膜である。また、電解メッキ膜は、熱伝導率(25℃)が200W/mK以上の金属からなる。この金属の熱伝導率の上限は特にないが、実際的な入手の観点からは、350W/m・K以下とすることができる。
【0033】
蛍光体部の金属メッキ膜を構成する金属の種類は、金、銀、銅、アルミニウム、あるいは、これらの金属を含む合金が特に好ましい。
【0034】
本発明においては、放熱基板の対向面側の主面からの金属メッキ膜の成長方向と、入射面とのなす角(あるいは放熱基板の入射面側の主面からの金属メッキ膜の成長方向と、入射面とのなす角)が60~120°であり、特に好ましくは70~110°であり、最も好ましくは80~100°である。これによって金属メッキ膜と蛍光体部との接合界面における凹凸の充填状態が一層良好となり、継続使用時の発光品質が最良となる。
【0035】
好適な実施形態においては、放熱基板の入射面側の主面上に入射面側支持基板を備えることができ、これによって放熱基板からの放熱効果を一層改善することができる。また、他の好適な実施形態においては、放熱基板の対向面側の主面上に対向面側支持基板を備えることができ、これによって放熱基板からの放熱効果を一層改善することができる。
【0036】
ここで、各支持基板の材質としては、熱伝導率(25℃)が200W/mK以上の材質が好ましく、300W/m・K以上の材質が特に好ましい。この材質の熱伝導率の上限は特にないが、実際的な入手の観点からは、500W/m・K以下とすることができる。
【0037】
ここで、各支持基板の材質は、光を通すために透明ないし透光性であることが好ましい。しかし、入射面側支持基板には、入射面に励起光を照射するための窓を設けることができ、この場合には入射面側支持基板の材質は透明ないし透光性である必要はない。一方、対向面から励起光および蛍光を出射させる場合には、対向面からの光を出射させるための窓を対向面側支持基板に設けることができ、この場合には対向面側支持基板の材質は透明ないし透光性である必要はない。
【0038】
各支持基板の材質が透明または透光性である場合には、支持基板の材質はアルミナ、窒化アルミ、シリコンカーバイド、水晶、ガラス
が好ましい。
【0039】
各支持基板の材質が透明、透光性ではない場合には、支持基板の材質はアルミナ、窒化アルミ、シリコンカーバイド、水晶、ガラス、銅、銀、金、アルミニウム、あるいは、上記金属を含む合金材料が好ましい。各支持基板の材質は、同じであっても異なっていてもよい。
【0040】
蛍光体部と金属メッキ膜とは直接接触していてもよい。しかし、好適な実施形態においては、蛍光体部と金属メッキ膜との間に低屈折率層を備えている。また、好適な実施形態においては、蛍光体部と金属メッキ膜との間に反射膜を備えている。
これらの構造となった場合にも、金属メッキ膜は凹凸部へ充填状態は良くなるので放熱改善効果を得ることができる。
【0041】
低屈折率層の材質としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素を例示できる。また、低屈折率層の屈折率は、蛍光体の屈折率以下が好ましく、YAG蛍光体の場合は1.7以下であることが好ましく、1.6以下であることが更に好ましい。低屈折率層の屈折率の下限は特になく、1以上であるが、1.4以上であることが実用的である。
【0042】
低屈折率層が蛍光体部と反射膜の間にある場合、低屈折率層は蛍光体よりも低屈折率の材料からなることが好ましい。このようにすると、蛍光体と低屈折率層の屈折率差による全反射を利用することができ、反射膜での反射する光成分を少なくすることができ、反射膜による反射で光が吸収されることを抑制することができる。さらに、放熱性という観点から酸化アルミニウム、酸化マグネシウムが最も良い。
【0043】
低屈折率層の厚みは1μm以下が好ましく、これによって放熱に対する影響を少なくできる。また、接合力の観点からは、低屈折率層の厚みは0.05μm以上が好ましい。
【0044】
反射膜の材質は、蛍光体層を通過してきた励起光と蛍光を反射するものであれば特に制限されない。反射膜は、励起光を全反射する必要はなく、励起光の一部を透過させても良いし、全部を透過するものであっても良い。
【0045】
好適な実施形態においては、反射膜が、金属膜または誘電体多層膜である。
反射膜を金属膜とした場合は、広い波長域で反射することができ、入射角度依存性も小さくすることができ、温度に対する耐久性、耐候性が優れている。一方、反射膜を誘電体多層膜とした場合には、吸収がないため、入射した光は損失なく100%反射光とすることが可能であるし、酸化膜から構成できるので、接合層との密着性を上げることにより、はがれを防止できる。
【0046】
反射膜による励起光の反射率は、80%以上とするが、95%以上であることが好ましく、また全反射してもよい。
誘電体多層膜は、高屈折材料と低屈折材料とを交互に積層した膜である。高屈折材料率としては、TiO、Ta 、ZnO、Si、Nbを例示できる。また、低屈折材料としては、SiO、MgF、CaFを例示できる。誘電体多層膜の積層数や合計厚さは、反射させるべき蛍光の波長によって適宜選択する。
【0047】
また、金属膜の材質としては、以下が好ましい。
(1) Al、Ag、Auなどの単層膜
(2) Al、Ag、Auなどの多層膜
金属膜の厚さは、蛍光を反射できれば特に限定されないが、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上が更に好ましい。また金属膜と基材との密着性を上げるために、Ti、Cr、Ni、等の金属膜を介して形成することもできる。
【0048】
誘電体多層膜、金属膜の成膜方法は特に限定されないが、蒸着法、スパッタ法、CVD法が好ましい。蒸着法の場合、イオンアシストを付加して成膜することもできる。
【0049】
好適な実施形態においては、蛍光体部の側面の入射面の法線に対する傾斜角度が5°以上、30°以下(好ましくは28°以下)であり、これによって蛍光体部からの出力を向上させることができる。
【0050】
また、本発明の照明装置は、レーザ光を発振する光源、および前記蛍光体素子を備える。
光源としては、照明用蛍光体の励起用として高い信頼性を有するGaN材料による半導体レーザが好適である。また、一次元状に配列したレーザアレイ等の光源も実現可能である。スーパールミネッセンスダイオード、半導体光アンプ(SOA)やLEDであってもよい。また、光ファイバーを通して光源からの励起光を蛍光体素子に対して入射させることもできる。
【0051】
半導体レーザと蛍光体から白色光を発生する方法は、特には限定されないが、以下の方法が考えられる。
青色レーザと蛍光体により黄色の蛍光を発生し、白色光を得る方法
青色レーザと蛍光体により赤色と緑色の蛍光を発生し白色光を得る方法
また青色レーザや紫外レーザから蛍光体により赤色、青色、緑色の蛍光を発生し白色光を得る方法
青色レーザや紫外レーザから蛍光体により青色と黄色の蛍光を発生し白色光を得る方法
【0052】
以下、図面を参照しつつ、本発明を更に詳細に例示する。
図1(a)、図2に示す蛍光体素子1においては,蛍光体部2は、入射面2a、対向面2bおよび側面2cを有する。本例では、蛍光体部2は直方体形状であるので、平坦な側面2cが四つ設けられているが、側面の数および形状は特に限定されるものではない。
【0053】
蛍光体部2は、金属メッキ膜からなる放熱基板3の貫通孔H内に設けられている。放熱基板3は、一対の主面3a、3bと、貫通孔に面する内壁面3cと、外周面3dとを有する。本例では、蛍光体部2の側面2cと放熱基板の内壁面3cとが直接接している。そして、蛍光体部2の入射面2aに対して矢印Aのように励起光を入射させ、励起光の一部を蛍光に変換する。そして、励起光と蛍光とが対向面2bから矢印Bのように出射する。あるいは、対向面2bに反射膜を設けることによって、励起光と蛍光とを反射し、入射面2aから矢印Cのように出射させる。
【0054】
金属メッキ膜の成長方向は、放熱基板3の主面3bから主面3aに向う矢印Dの方向である。あるいは、金属メッキ膜の成長方向は、放熱基板3の主面3aから主面3bに向う方向(矢印Dの反対方向)である。蛍光体部の側面からもメッキが成長するので、側面から成長したメッキが、主面3bまたは3aから成長したメッキと合成されながら主面3aまたは3bへと向かうことになる。
好適な実施形態においては、放熱基板の対向面側主面からの金属メッキ膜の成長方向は矢印Dの方向である。そして、金属メッキ膜の成長方向である矢印Dの方向と、入射面2aとがなす角度αは、60~120°であることが好ましい。あるいは、放熱基板の入射面側主面からの金属メッキ膜の成長方向は矢印Dの反対方向である。そして、金属メッキ膜の成長方向である矢印Dの反対方向と、入射面2aとがなす角度αは、60~120°であることが好ましい。
【0055】
図3に示す蛍光体素子11においては,蛍光体部12は、入射面12a、対向面12b、側面12cおよびフランジ部12dを有する。また、放熱基板13は、筒状部およびフランジ部を有しており、筒状部13aは、貫通孔に面する内壁面13cと、外周面13dとを有する。筒状部の末端にフランジ部13eが設けられており、フランジ部13eとフランジ部12dとは積層されている。蛍光体部2の入射面12aに対して矢印Aのように励起光を入射させ、励起光の一部を蛍光に変換する。そして、励起光と蛍光とが対向面12bから矢印Bのように出射する。あるいは、対向面12bに反射膜を設けることによって、励起光と蛍光とを反射し、入射面12aから矢印Cのように出射させる。13bは放熱基板13の対向面側端面である。
本例では、放熱基板にフランジ部13eを設け、フランジ部を外部の放熱部材に接合することによって、放熱を一層促進することができる。
【0056】
図4に示す蛍光体素子21Aにおいては、蛍光体部2は、図2に示す蛍光体部2と同じであり、放熱基板13は、図3に示す放熱基板と同じである。しかし、本例では、放熱基板13のフランジ部13eおよび蛍光体部2の対向面2bを被覆するように、対向面側支持基板6が設けられている。支持基板6の一方の主面6aはフランジ部13eおよび対向面2bに接しており、支持基板6の他方の主面6bは雰囲気に面している。
本例では、放熱基板13にフランジ部13eを設けるとともに、フランジ部13eに対して対向面側支持基板6を接合することで、より一層排熱を促進できる。
【0057】
図5に示す蛍光体素子21Bにおいては、蛍光体部2は、図2に示す蛍光体部2と同じであり、放熱基板3は、図2に示す放熱基板3と同じである。しかし、本例では、蛍光体部2の入射面2a上および放熱基板3の主面3aを被覆するように、入射面側支持基板6が設けられている。支持基板6の一方の主面6aは蛍光体部および放熱基板3に接しており、支持基板6の他方の主面6bは雰囲気に面している。
本例では、蛍光体部および放熱基板に対して入射面側支持基板6を積層することで、より一層排熱を促進できる。
【0058】
図6に示す蛍光体素子31においては,蛍光体部32は、入射面32a、対向面32bおよび側面32cを有する。ただし、本例では、蛍光の出射側取出し効率を向上させるために、蛍光体部32の側面32cの入射面32aの法線Tに対する傾斜角度βが5°以上、30°以下である。この結果、蛍光体部32の幅が、入射面32aから対向面32bに向かって徐々に大きくなっている。
また、蛍光体部の厚みは、蛍光の出射側取出し効率を向上させるために、500μm以上が好ましいが、800μm以上が一層好ましい。しかし、小型化という観点から3.0mm以下とすることが好ましい。
【0059】
蛍光体部32は、金属メッキ膜からなる放熱基板33の貫通部内に設けられている。放熱基板33は、一対の主面33a、33bと、貫通部に面する内壁面33cと、外周面33dとを有する。本例では、蛍光体部32の側面32cと放熱基板の内壁面33cとが直接接している。そして、蛍光体部32の入射面32aに対して矢印Aのように励起光を入射させ、励起光の一部を蛍光に変換する。そして、励起光と蛍光とが対向面32bから矢印Bのように出射する。あるいは、対向面2bに反射膜を設けることによって、励起光と蛍光とを反射し、入射面32aから矢印Cのように出射させる。
【0060】
放熱基板3の主面3bからの金属メッキ膜の成長方向は矢印Dの方向である。あるいは、放熱基板3の主面3aからの金属メッキ膜の成長方向は矢印Dの反対方向である。そして、金属メッキ膜の成長方向と入射面がなす角度αは、60~120°であることが好ましい。
【0061】
図7に示す蛍光体素子31Aにおいては、蛍光体部32は図6の蛍光体部と同じであり、放熱基板33は図6の放熱基板と同じである。ただし、蛍光体部32の側面32c上には低屈折率層34、反射膜35が形成されており、反射膜35が放熱基板33に接している。反射膜35と放熱基板33の間には、メッキ用の下地膜があってもよい。下地膜は、Ni、Cr、Ti、あるいは、これらの金属を含む合金であってよい。
【0062】
図8に示す蛍光体素子31Bにおいては、放熱基板13は図3の放熱基板13と同じであり、支持基板6は図3の支持基板6と同じである。ただし、蛍光体部32の側面32c上、フランジ部13e上には低屈折率層34、反射膜35が形成されており、反射膜35が放熱基板13に接している。反射膜と放熱基板13の間には、メッキ用の下地膜があってもよい。下地膜は、Ni、Cr、Ti、あるいは、これらの金属を含む合金であってよい。
【0063】
図9に示す蛍光体素子31Cにおいては,蛍光体部32Aは、入射面32a、対向面32b、側面32cおよびフランジ部32dを有する。また、放熱基板13は、筒状部およびフランジ部を有しており、筒状部13aは、貫通部に面する内壁面13cと、外周面13dとを有する。筒状部の末端にフランジ部13eが設けられており、フランジ部13eとフランジ部32dとは積層されている。更に、本例では、蛍光体部32Aの側面32cの入射面32aの法線Tに対する傾斜角度βが5°以上、30°以下である。この結果、蛍光体部32Aの幅が、入射面32aから対向面32bに向かって徐々に大きくなっている。
【0064】
図10の蛍光体素子31Dにおいては、蛍光体部32は図7の蛍光体部32と同じであり、放熱基板33は図7の放熱基板33と同じである。また、蛍光体部32と放熱基板33との間には低屈折率層34および反射膜35が形成されている。更に、放熱基板の主面および蛍光体部32の入射面32aを被覆するように、支持基板6が積層されている。
【0065】
図11の蛍光体素子31Eにおいては、蛍光体部32は図7の蛍光体部32と同じであり、放熱基板33は図7の放熱基板33と同じである。また、蛍光体部32と放熱基板33との間には低屈折率層34および反射膜35が形成されている。更に、放熱基板の主面上に入射面側支持基板16が積層されている。入射面側支持基板16の主面16aと16bとの間には窓16cが設けられており、窓16cを通して矢印Aのように励起光を入射させることができる。このように励起光を透過させる窓を支持基板に設ける場合には、支持基板の材質は透明または透光性材料である必要はない。
【0066】
図12の蛍光体素子31Fにおいては、蛍光体部32は図7の蛍光体部32と同じであり、放熱基板33は図7の放熱基板33と同じである。また、蛍光体部32と放熱基板33との間には低屈折率層34および反射膜35が形成されている。更に、放熱基板の入射面側に入射面側支持基板16Aが積層されており、反対側に対向面側支持基板16Bが接合されている。各支持基板16A、16Bの主面16aと16bとの間には窓16cが設けられており、窓16cを通して矢印Aのように励起光を入射させることができ,あるいは矢印Bのように励起光および蛍光を出射させることができる。このように窓を支持基板に設ける場合には、支持基板の材質は透明または透光性材料である必要はない。
【0067】
本発明の蛍光体素子は、金属メッキ法を利用することで、一つのウエハー中に多数同時に成形することができるので、量産性を向上させることが可能である。以下、こうした製造方法を例示する。
【0068】
図13(a)、図13(b)に示すように金属メッキ膜36中に、蛍光体部32を多数形成する。本例では、蛍光体部32と金属メッキ膜36との間に、低屈折率層34および反射膜35が設けられている。次いで、各蛍光体部32を、隣接する蛍光体部から切り離すことで、図7に示す蛍光体素子が得られる。
また、素子として切り離すことはせず、そのまま使用することもできる。こうして使用する場合は、アレイ状の照明装置に応用することができる。
【0069】
具体的な製法例について述べる。図14に示すように、ハンドル基板42上に接合層43を形成し、蛍光体板41と対向させる。次いで、図15に示すように、ハンドル基板42上に蛍光体板41を接合する。
【0070】
次いで、ハンドル基板上の蛍光体板を加工することで、必要な形態を有する蛍光体部を成形することができる。例えば、図16の例では、接合層43上に、所望形状を有する蛍光体部32を成形している。こうした加工方法としては、ダイシング、スライシング、マイクログラインダー、レーザ加工、ウォータージェット、マイクロブラストを例示できる。
【0071】
次いで、好適な実施形態においては、図17に示すように、蛍光体部32上および接合層43上に、低屈折率層34および反射膜35を順次形成する。次いで、図18に示すように、反射膜35上に全面にわたって金属メッキ膜46を形成する。次いで、金属メッキ膜46を研磨加工して薄くすることで、図19に示すように金属メッキ膜47の表面側に蛍光体部32、低屈折率層34、反射膜35を露出させる。
【0072】
次いで、ハンドル基板および接合層を除去することによって、図20に示す積層体を得ることができる。次いで、図20の積層体を裏返すと、図21に示すように、低屈折率層34の中に蛍光体部32が露出した形態となっている。この状態で積層体を研磨加工することで、図22に示すように、積層体の対向面側に低屈折率層34および反射膜35を露出させる。次いで、図22に示す余分の金属酸化物および反射膜を加工によって除去し、図23に示すような積層体を得る。次いで、図24に示すように、法線Tに沿って積層体を切断することによって、所望の蛍光体素子を得ることができる。
【0073】
一方、蛍光体素子に入射面側支持基板および対向面側支持基板を設ける製法についても述べる。例えば、図19に示すような積層体を得た後、図25に示すように、入射面側支持基板50を対向させる。51は窓であり、それぞれ蛍光体部32に対応する位置にある。次いで、図26に示すように、金属メッキ膜47と支持基板とを接合する。 次いで、ハンドル基板および接合層を除去することによって、図27に示す積層体を得ることができる。
【0074】
次いで、図27の積層体を裏返すと、図28に示すように、反射膜35中に蛍光体部32が露出した形態となっている。この状態で積層体を研磨加工することで、図29に示すように、積層体の対向面側に低屈折率層34および反射膜35を露出させる。次いで、図30に示すように、対向面側支持基板50Aを金属メッキ膜47上に積層し、積層体を得る。この積層体を所定の切断線に沿って切断することによって、所望の蛍光体素子を得ることができる。
【0075】
また、金属メッキ膜からなる放熱基板の厚さは、放熱性の観点から300μm以上が好ましいが、1.0mm以上が一層好ましい。しかし、小型化という観点から3.0mm以下とすることが好ましい。
【実施例
【0076】
図10に示す蛍光体素子31Dを製造した。
具体的には、図14に示すように、厚み1mm、直径4インチのCeをドープし、かつセラミック散乱材を添加したYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)多結晶からなる蛍光体板41と、厚み0.3mm、直径4インチのサファイアウエハー(ハンドリング基板)42とを用意した。熱可塑性樹脂を用いて両者を100℃の高温で貼り合わせを行い、その後、常温にもどして一体化した(図15)。
【0077】
次に、幅100μm、#800のブレードを使用してダイシングによるセットバック加工を行い、断面形状が入力部幅W 2mm、厚み方向の傾斜角β=26°の台形形状の蛍光体部を形成した。次いで、同様に積層体を平面的に見て90度回転させ、再びダイシングによるセットバック加工を行い、断面が台形形状になる加工を行った。このときに蛍光体部32の台形加工面の表面粗さは10μmと見積もられた(図16)。
【0078】
次いで、蛍光体部32の台形加工した傾斜面に対して、スパッタリングにてAlからなる低屈折率の低屈折率層34を側面に0.5μmの厚みが形成されるように成膜した。さらにAlの合金膜からなる反射膜35を台形側面に0.5μmの厚みが形成されるように成膜した(図17)。
【0079】
次いで、銅メッキをするための下地としてNi膜を0.2μm成膜して下地電極とした。その後、銅ダマシンプロセスを参考にして電解メッキにより台形側面に銅をメッキして、最終的に1mm厚の銅メッキ膜を形成した。その後、入力側の蛍光体と銅メッキの表面を合わせるためにラップおよびCMP研磨を行った(図19)。次に、積層体を100℃に加熱して熱可塑性樹脂を軟化させ、ハンドル基板42をおよび接合層を除去した(図20)。その後、対向面側の蛍光体表面をラップ、CMP研磨を行い放熱部材と蛍光体の面を合わせた(図21図22)。
【0080】
次いで、蛍光体部の入射面には、IBS(Ion-beam Sputter Coater)成膜装置にて、励起光である波長450nmでは無反射、蛍光である波長560nm帯では全反射となるダイクロイック膜を成膜した。ダイクロ膜を成膜して励起光を透過し、蛍光のみ反射する膜を形成した。最後にダイシングにてチップ化切断し、5mm各の蛍光体素子を製造した。
【0081】
チップ化した蛍光体素子は、出力3WのGaN系青色レーザとこのレーザを10個アレイ化した出力30Wの光源を使用して照明光の評価を行った。素子の評価結果を表2に示す。
なお、放熱基板の対向面側の主面からの金属メッキ膜の成長方向Dと、入射面とがなす角度αは90°である。ただし、金属メッキ膜の成長方向は走査型電子顕微鏡によって観測することができる。
【0082】
(白色光出力)
白色光出力(平均出力)は、全光束の時間平均を表す。全光束測定は,積分球(球形光束計)を使用して、被測定光源と全光束が値付けられた標準光源とを同じ位置で点灯し、その比較によって行う。詳細には、JISC7801にて規定されている方法を用いて測定を行った。
【0083】
(色ムラ面内分布)
出力した光を輝度分布測定装置を用いて色度図で評価を行った。そして、色度図において、中央値x:0.3447±0.005、y:0.3553±0.005の範囲にある場合は「色ムラなし」とし、この範囲外の場合には「色ムラあり」とした。
【0084】
【表2】

【0085】
(比較例)
図10に示すような形状の蛍光体素子を作成した。ただし、金属メッキ膜によって放熱基板を形成していない。
【0086】
具体的には、実施例1と同様にして、図17に示すような積層体を得た。
一方、寸法5mm角、1mm厚の銅板を用意し、蛍光体部を挿入するための台形形状の貫通穴をワイヤー放電加工にて形成した。放電加工を5回実施することによって、貫通孔に面する内壁面の表面粗さを可能な限り小さくした。最終的には、貫通穴内壁の表面粗さは1.5μmであった。
【0087】
上記のように作製した積層体の各蛍光体部を、放熱部材に設けた各貫通穴に嵌合させて固定化した。固定後に入力側、出力側の蛍光体と放熱部材の面を合わせるためにラップ、CMP研磨を行った。その後、入射側端面には実施例と同様にダイクロイック膜を形成した。
【0088】
チップ化した蛍光体素子は、出力3WのGaN系青色レーザとこのレーザを10個アレイ化した出力30Wの光源を使用して照明光の評価を行った。素子の評価結果を表3に示す。
なお、放熱基板は金属メッキ膜ではないので、成長方向は観察できなかった。
【0089】
【表3】

【0090】
以上のように、本発明によれば、蛍光体板に対して励起光を入射させて蛍光を発生させるのに際して、継続使用時に、出射光の蛍光強度を高くし,出射する白色光の色ムラを抑制することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31