(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、フィルム接着剤、プリプレグ及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/12 20060101AFI20220610BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20220610BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220610BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20220610BHJP
C09J 179/04 20060101ALI20220610BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20220610BHJP
C09J 7/26 20180101ALI20220610BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
C08G73/12
C08L79/00
C08L101/00
C08J5/24
C09J179/04 B
C09J7/35
C09J7/26
C09J201/00
(21)【出願番号】P 2020557739
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2019046183
(87)【国際公開番号】W WO2020111065
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2018224300
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】堀川 美希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴也
(72)【発明者】
【氏名】桑原 広明
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-149742(JP,A)
【文献】特開2009-105283(JP,A)
【文献】特開昭54-039495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/12
C08L 79/00
C08L 101/00
C08J 5/24
C09J 179/04
C09J 7/35
C09J 7/26
C09J 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマレイミド化合物と、
下記化学式(12)、(13)、又は(14)
【化1】
【化2】
【化3】
(化学式(12)~(14)中、Rは炭素数1~15の脂肪族鎖である。)
で表されるトリアジン化合物と、
を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂組成物が、前記ビスマレイミド化合物100質量部に対して前記トリアジン化合物を0.1~30質量部含む請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂組成物が、さらに熱可塑性樹脂を含む請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
基材繊維と、熱硬化性樹脂組成物と、を含んで成り、
前記熱硬化性樹脂組成物がビスマレイミド化合物と、
下記化学式(12)、(13)、又は(14)
【化4】
【化5】
【化6】
(化学式(12)~(14)中、Rは炭素数1~15の脂肪族鎖である。)
で表されるトリアジン化合物と
、
を含むことを特徴とするフィルム接着剤。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂組成物が、前記ビスマレイミド化合物100質量部に対して前記トリアジン化合物を0.1~30質量部含む請求項4に記載のフィルム接着剤。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂組成物が、さらに熱可塑性樹脂を含む請求項4又は5に記載のフィルム接着剤。
【請求項7】
前記基材繊維が、ガラス繊維又は炭素繊維である請求項4乃至6の何れか1項に記載のフィルム接着剤。
【請求項8】
目付が50~1500g/m
2である請求項4乃至7の何れか1項に記載のフィルム接着剤。
【請求項9】
基材繊維と、熱硬化性樹脂組成物と、を一体化することを特徴とする請求項4に記載のフィルム接着剤の製造方法。
【請求項10】
前記一体化が、前記基材繊維への前記熱硬化性樹脂組成物の含浸である請求項9に記載のフィルム接着剤の製造方法。
【請求項11】
強化繊維と、前記強化繊維から成る強化繊維層内に含浸した熱硬化性樹脂組成物と、から成り、
前記熱硬化性樹脂組成物がビスマレイミド化合物と、
下記化学式(12)、(13)、又は(14)
【化7】
【化8】
【化9】
(化学式(12)~(14)中、Rは炭素数1~15の脂肪族鎖である。)
で表されるトリアジン化合物と、
を含むことを特徴とするプリプレグ。
【請求項12】
前記熱硬化性樹脂組成物が、前記ビスマレイミド化合物100質量部に対して前記トリアジン化合物を0.1~30質量部含む請求項11に記載のプリプレグ。
【請求項13】
前記熱硬化性樹脂組成物が、さらに熱可塑性樹脂を含む請求項11又は12に記載のプリプレグ。
【請求項14】
前記強化繊維が、炭素繊維である請求項11乃至13の何れか1項に記載のプリプレグ。
【請求項15】
強化繊維と、請求項1乃至3の何れか1項に熱硬化性樹脂組成物と、を一体化することを特徴とするプリプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、該熱硬化性樹脂組成物を含むフィルム接着剤、プリプレグ、及びこれらの製造方法に関する。詳しくは、金属との接着性に優れた熱硬化性樹脂組成物、該熱硬化性樹脂組成物を含むフィルム接着剤、該熱硬化性樹脂組成物を含むプリプレグ、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂組成物やそれを含んで成るフィルム接着剤は、各種接着剤として広く利用されている。しかし、航空機構造部材など高い強度が求められる用途において、繊維強化複合材料と金属材料とをフィルム接着剤を用いて接着する場合、十分な接着強度が得られない場合がある。そのため、一般的に、金属材料を表面処理することによって接着強度を高める手法が採られている。しかし、金属材料の表面処理は、接着工程の前に煩雑な作業を必要とし、手間がかかることが問題になっている。また、金属材料の表面処理には、一般的に、塩素などの元素を含むハロゲン化合物が使用されている。ハロゲン化合物は環境的および毒物学的に好ましくない有害物質(毒性、感作および発がん性)に分類され、環境などへの影響が懸念される。
【0003】
特許文献1には、接着をより簡便にするため、接着接合プライマーを用いない金属材料の表面処理方法が記載されている。また、特許文献2には、ハロゲン化合物を用いない金属材料の表面処理法が記載されている。しかし、これらの方法では、表面処理による化成層の形成を必要としており、依然として煩雑な作業が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-524629号公報
【文献】特開2014-047353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、金属材料の表面処理の有無にかかわらず、金属材料との接着性に優れる熱硬化性樹脂組成物を提供することにある。また、この熱硬化性樹脂組成物を用いて構成されるフィルム状の接着剤やプリプレグ、及びこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ビスマレイミド化合物と、所定の構造を有するトリアジン化合物と、を含む熱硬化性樹脂組成物は、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
上記課題を解決する本発明は、以下に記載のものである。
【0008】
〔1〕 ビスマレイミド化合物と、ジアミノトリアジンの構造を有するトリアジン化合物と、を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【0009】
〔2〕 前記熱硬化性樹脂組成物が、前記ビスマレイミド化合物100質量部に対して前記トリアジン化合物を0.1~30質量部含む〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0010】
〔3〕 前記熱硬化性樹脂組成物が、さらに熱可塑性樹脂を含む〔1〕又は〔2〕に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0011】
上記〔1〕~〔3〕に記載の発明は、ビスマレイミド化合物及び所定の構造を有するトリアジン化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物である。この熱硬化性樹脂組成物は、以下の〔4〕に記載のフィルム接着剤や〔11〕に記載のプリプレグの材料としても利用される。
【0012】
〔4〕 基材繊維と、熱硬化性樹脂組成物と、を含んで成り、
前記熱硬化性樹脂組成物がビスマレイミド化合物、及びジアミノトリアジンの構造を有するトリアジン化合物を含むことを特徴とするフィルム接着剤。
【0013】
〔5〕 前記熱硬化性樹脂組成物が、前記ビスマレイミド化合物100質量部に対して前記トリアジン化合物を0.1~30質量部含む〔4〕に記載のフィルム接着剤。
【0014】
〔6〕 前記熱硬化性樹脂組成物が、さらに熱可塑性樹脂を含む〔4〕又は〔5〕に記載のフィルム接着剤。
【0015】
〔7〕 前記基材繊維が、ガラス繊維又は炭素繊維である〔4〕乃至〔6〕の何れかに記載のフィルム接着剤。
【0016】
〔8〕 目付が50~1500g/m2である〔4〕乃至〔7〕の何れかに記載のフィルム接着剤。
【0017】
上記〔4〕~〔8〕に記載の発明は、上記〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物が基材繊維によって担持されているフィルム状の接着剤である。
【0018】
〔9〕 基材繊維と、熱硬化性樹脂組成物と、を一体化することを特徴とする〔4〕に記載のフィルム接着剤の製造方法。
【0019】
〔10〕 前記一体化が、前記基材繊維への前記熱硬化性樹脂組成物の含浸である〔9〕に記載のフィルム接着剤の製造方法。
【0020】
〔11〕 強化繊維と、前記強化繊維から成る強化繊維層内に含浸した熱硬化性樹脂組成物と、から成り、
前記熱硬化性樹脂組成物がビスマレイミド化合物と、ジアミノトリアジンの構造を有するトリアジン化合物と、を含むことを特徴とするプリプレグ。
【0021】
〔12〕 前記熱硬化性樹脂組成物が、前記ビスマレイミド化合物100質量部に対して前記トリアジン化合物を0.1~30質量部含む〔11〕に記載のプリプレグ。
【0022】
〔13〕 前記熱硬化性樹脂組成物が、さらに熱可塑性樹脂を含む〔11〕又は〔12〕に記載のプリプレグ。
【0023】
〔14〕 前記強化繊維が、炭素繊維である〔11〕乃至〔13〕の何れかに記載のプリプレグ。
【0024】
上記〔11〕~〔14〕に記載の発明は、上記〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物が強化繊維に含浸しているプリプレグである。
【0025】
〔15〕 強化繊維と、〔1〕乃至〔3〕の何れかに熱硬化性樹脂組成物と、を一体化することを特徴とするプリプレグの製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の熱硬化性樹脂組成物及びそれを含んで成るフィルム接着剤は、特に金属に対する高い接着性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の熱硬化性樹脂組成物、フィルム接着剤、プリプレグ及びこれらの製造方法の詳細について説明する。
【0028】
(1) 熱硬化性樹脂組成物
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ビスマレイミド化合物と、ジアミノトリアジンの構造を有するトリアジン化合物と、を含んでなる。このトリアジン化合物は、硬化反応時にビスマレイミド化合物に溶解するとともに、トリアジン環のNH2基が金属と配位結合を形成することによって、金属材料に対する接着性を向上させる。
【0029】
(1-1) ビスマレイミド化合物
本熱硬化性樹脂組成物に配合されるビスマレイミド化合物(以下、「BMI」ともいう)としては、従来公知のビスマレイミド化合物を用いることができる。例えば、下記化学式(1)で表されるビスマレイミド化合物が挙げられる。
【0030】
【0031】
化学式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に、-H、-CH3、-C2H5、-C3H7、-F、-Cl、-Br及び-Iからなる群から選ばれる基を表す。Xについては後述する。
【0032】
本発明においては、ビスマレイミド化合物は、芳香族ビスマレイミド及び脂肪族ビスマレイミドの何れであっても良い。本発明において、熱硬化性樹脂組成物に含まれるビスマレイミド化合物全体に対する芳香族ビスマレイミドの量は70質量%以上であることが好ましい。また、本発明において、熱硬化性樹脂組成物の全体量に対する全ビスマレイミド化合物の量は10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。
【0033】
(1-1-1) 芳香族ビスマレイミド化合物
ビスマレイミド化合物が芳香環構造を含む(以下、「芳香族ビスマレイミド化合物」ともいう)場合、化学式(1)中のXは、以下の化学式(2)~(8)に記載する構造であることが好ましい。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
化学式(5)中、R5は、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-を表す。
【0039】
【0040】
化学式(6)中、R5は、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-を表す。また、R6~R9は、それぞれ独立に、-H、-CH3、-C2H5、-C3H7、-F、-Cl、-Br及び-Iからなる群から選ばれる基を表す。
【0041】
【0042】
化学式(7)中、R5は、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-を表す。
【0043】
【0044】
化学式(8)中、R10~R11は、それぞれ独立に、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-を表す。化学式(8)中、nは0~0.5である。
【0045】
このような芳香族ビスマレイミド化合物としては、N,N’-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、N,N’-p-フェニレンビスマレイミド、N,N’-m-トルイレンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ビフェニレンビスマレイミド、N,N’-4,4’-(3,3’-ジメチルビフェニレン)ビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ベンゾフェノンビスマレイミド等を挙げることができる。
【0046】
加熱硬化後の耐熱性の観点からは、N,N’-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’-m-トルイレンビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ベンゾフェノンビスマレイミドが好ましく、N,N’-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’-4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’-m-トルイレンビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミドが特に好ましい。これらの芳香族ビスマレイミド化合物は、単独で使用しても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0047】
本熱硬化性樹脂組成物における芳香族ビスマレイミド化合物の含有量は、本熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して10~80質量%であることが好ましく、20~65質量%であることがより好ましく、25~60質量%であることが特に好ましい。芳香族ビスマレイミド化合物の含有量が10質量%未満である場合、本熱硬化性樹脂組成物を用いて作製するフィルム接着剤の耐熱性が低くなる傾向がある。芳香族ビスマレイミド化合物の含有量が80質量%を超える場合、本熱硬化性樹脂組成物を用いて作製するフィルム接着剤の取扱い性が低くなる傾向がある
【0048】
(1-1-2) 脂肪族ビスマレイミド化合物
ビスマレイミド化合物が芳香環構造を含まない(以下、「脂肪族ビスマレイミド化合物」ともいう)場合、化学式(1)中のXは、以下の化学式(9)~(11)に記載する構造であることが好ましい。
【0049】
【0050】
化学式(9)中、nは10以下の整数であり、1、2、3、4、6が好ましい。
【0051】
【0052】
【0053】
このような脂肪族ビスマレイミド化合物としては、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、ヘキサメチレンジアミンビスマレイミド、N,N’-1,2-エチレンビスマレイミド、N,N’-1,3-プロピレンビスマレイミド、N,N’-1,4-テトラメチレンビスマレイミドを挙げることができる。1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、ヘキサメチレンジアミンビスマレイミドは特に好ましい。脂肪族ビスマレイミド化合物は、単独で使用しても良く、2種類以上を併用してもよい。
【0054】
本熱硬化性樹脂組成物における脂肪族ビスマレイミド化合物の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して3~30質量%であることが好ましく、5~20質量%であることが好ましく、7~15質量%であることが特に好ましい。脂肪族ビスマレイミド化合物の配合量が3質量%未満である場合、本熱硬化性樹脂組成物を用いて作製されるフィルム接着剤の取扱い性が低下しやすい。脂肪族ビスマレイミド化合物の含有量が30質量%を超える場合、本熱硬化性樹脂組成物の硬化物の耐熱性が低下しやすい。
【0055】
(1-2) トリアジン化合物
本発明に用いるトリアジン化合物は、ジアミノトリアジンの構造を有するトリアジン化合物である。例えば、下記化学式(12)~(14)で表されるトリアジン化合物が挙げられる。
【0056】
【0057】
ここで、化学式(12)中、Rは炭素数1~15の脂肪族鎖であることが好ましい。
【0058】
【0059】
ここで、化学式(13)中、Rは炭素数1~15の脂肪族鎖であることが好ましい。
【0060】
【0061】
ここで、化学式(14)中、Rは炭素数1~15の脂肪族鎖であることが好ましい。
【0062】
本発明において、ジアミノトリアジンの構造を有するトリアジン化合物としては、OH基を有する化合物が好ましく、OH基を2つ以上有する化合物が好ましい。OH基を有する化合物は、金属との接着性に加え、OH基が樹脂との接着性に寄与するため、金属と樹脂の接着性をより高めることができる。
【0063】
また、本発明においてジアミノトリアジンの構造を有するトリアジン化合物としては、その融点が100℃以上であることが好ましい。融点が100℃以上のジアミノトリアジン構造を有するトリアジン化合物は、特にハニカムサンドイッチパネル向けフィルム接着剤として、フィレット形成性に優れるため好ましい。なお、フィレットとは、成形時に温度が上がると同時に樹脂の粘度が低下してハニカムの端部に形成される樹脂だまりのことである。フィレットが形成されることで接着面積が向上し、ハニカムと表皮材との接着性が向上する。
【0064】
本熱硬化性樹脂組成物における上記トリアジン化合物の含有量は、熱硬化性樹脂組成物に含まれるビスマレイミド化合物100質量部に対して0.1~30質量部であることが好ましく、1~20質量部であることがより好ましく、1~10質量部であることが特に好ましい。0.1質量未満である場合、特に金属材料との接着性が低下する傾向がある。
【0065】
本熱硬化性樹脂組成物では、トリアジン化合物はビスマレイミド化合物中に分散していても良いし、その一部又は全部がビスマレイミド化合物に溶解していても良い。未溶解のトリアジン化合物は、硬化反応時の加熱によりビスマレイミド化合物中に溶解する。
【0066】
(1-3) 共反応物質
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、共反応物質を含んでいることが好ましい。この共反応物質は、室温で液状であることが好ましい。このような共反応物質としては、アルケニルフェノール及び/又はアルケニルフェノールエーテルが例示される。
【0067】
アルケニルフェノールエーテルは、フェノール系化合物とアルケニルハライドとの反応により得られる。アルケニルフェノールエーテルをクライゼン転移することによりアルケニルフェノールが得られる(特開昭52―994号公報)。アルケニルフェノール及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物には、その転移構造体が含まれていてもよい。
【0068】
アルケニルフェノール及び/又はアルケニルフェノールエーテルとしては、アリルフェノール、メタリルフェノール又はそれらのエーテルが好ましい。特に、以下の化学式(15)~(19)の化合物が好ましい。
【0069】
【0070】
化学式(15)中、R12、R13、R14はそれぞれ独立して水素又は炭素数2~10のアルケニル基であり、好ましくはアリル基又はプロペニル基である。ただし、R12、R13、R14の少なくとも1個は炭素数2~10のアルケニル基である。
【0071】
【0072】
化学式(16)中、R15は、直接結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-S-、-SO-又は-SO2-である。R16、R17、R18、R19はそれぞれ独立して水素又は炭素数2~10のアルケニル基であり、好ましくはアリル基又はプロペニル基である。ただし、R16、R17、R18、R19の少なくとも1個は炭素数2~10のアルケニル基である。
化学式(16)のうち、以下の化学式(17)の化合物は特に好ましい。
【0073】
【0074】
化学式(17)中、R15は、直接結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-S-、-SO-又は-SO2-を表す。
【0075】
【0076】
化学式(18)中、R20、R21は、直接結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-S-、-SO-又は-SO2-である。R22、R23、R24、R25、R26、R27は、それぞれ独立して水素、炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数2~10のアルケニル基であり、好ましくはアリル基又はプロペニル基である。ただし、R22、R23、R24、R25、R26、R27の少なくとも1個は炭素数2~10のアルケニル基である。Pは0~10の整数である。
【0077】
【0078】
化学式(19)中、R15は、直接結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-O-、-S-、-SO-又は-SO2-を表す。R28、R29は、それぞれ独立して水素、炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数2~10のアルケニル基であり、好ましくはアリル基又はプロペニル基である。ただし、R28、R29の少なくとも1個は炭素数2~10のアルケニル基である。
【0079】
このようなアルケニルフェノール又はアルケニルフェノールエーテル化合物としては、O,O’-ジアリルビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアリルジフェニル、ビス(4-ヒドロキシ-3-アリルフェニル)メタン、2,2’-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジアリルフェニル)プロパン、2,2’-ジアリルビスフェノールF、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアリルジフェニルエーテル、4,4’-ビス-O-プロペニルフェノキシ-ベンゾフェノン等を挙げることができる。これらの中でも、加熱硬化後のガラス転移点が高いため、O,O’-ジアリルビスフェノールA、2,2’-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジアリルフェニル)プロパン、2,2’-ジアリルビスフェノールF等が好ましい。O,O’-ジアリルビスフェノールAは、樹脂組成物の粘度を低くするため特に好ましい。本熱硬化性樹脂組成物では、アルケニルフェノール及び/又はアルケニルフェノールエーテルは単独で用いても良く、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0080】
アルケニルフェノール及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物は、ビスマレイミド化合物の硬化剤として機能する。本熱硬化性樹脂組成物における配合量は、5~70質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、15~40質量%であることが特に好ましい。本熱硬化性樹脂組成物は、アルケニルフェノール及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物を上記の所定の範囲内で適宜含有することにより、粘度が調整され、良好な取扱性を得ることができる。また、本熱硬化性樹脂組成物におけるアルケニルフェノール及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物の含有量は、熱硬化性樹脂組成物に含まれるビスマレイミド化合物100質量部に対して10~400質量部であることが好ましく、25~250質量部であることがより好ましく、40~150質量部であることが特に好ましい。ビスマレイミド化合物とアルケニルフェノール及び/又はアルケニルフェノールエーテル化合物の配合量の割合をこの範囲とすることで、取扱性と、硬化物の機械特性に優れた熱硬化性樹脂組成物とすることができる。
【0081】
(1-4) 熱可塑性樹脂
本樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を使用することができる。
熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド等を挙げることができる。
【0082】
熱可塑性樹脂を配合する場合、その含有量は、0.1~40質量%であることが好ましく、0.1~30質量%であることがより好ましく、1~20質量%であることが特に好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が0.1質量%未満の場合、樹脂組成物の粘度が十分に上昇せず、接着性が不十分となる場合がある。熱可塑性樹脂の含有量が高すぎる場合、樹脂組成物の粘度が高くなり、取扱い性が著しく悪化する場合がある。
【0083】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に可溶な熱可塑性樹脂(以下、「可溶性熱可塑性樹脂」ともいう)、不溶な熱可塑性樹脂(以下、「不溶性熱可塑性樹脂」ともいう)のいずれも用いることができる。
【0084】
(1-4-1) 可溶性熱可塑性樹脂
本発明において、可溶性熱可塑性樹脂とは、180℃において熱硬化性樹脂組成物中に一部又は全部が溶解する熱可塑性樹脂を意味する。可溶性熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂組成物中に溶解し、熱硬化性樹脂組成物の粘度を増加させる。
【0085】
可溶性熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド等を挙げることができる。
【0086】
可溶性熱可塑性樹脂を配合する場合、その含有量は、0.1~40質量%であることが好ましく、1~30質量%であることがより好ましい。可溶性熱可塑性樹脂の含有量が0.1質量%未満の場合、熱硬化性樹脂組成物の粘度が十分に上昇せず、熱硬化性樹脂組成物の流出を招くおそれがある。可溶性熱可塑性樹脂の含有量が高すぎる場合、熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなり、取扱い性が著しく悪化する場合がある。
【0087】
(1-4-2) 不溶性熱可塑性樹脂
本発明において、不溶性熱可塑性樹脂とは、180℃において熱硬化性樹脂組成物中に溶解しない熱可塑性樹脂をいう。不溶性熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂を挙げることができる。
【0088】
不溶性熱可塑性樹脂を配合する場合、その含有量は、0.1~40質量%であることが好ましく、1~20質量%であることがより好ましい。不溶性熱可塑性樹脂をこの範囲で含むことで、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の耐衝撃性を向上させることができる。不溶性熱可塑性樹脂の含有量が0.1質量%未満の場合、熱硬化性樹脂組成物の粘度が十分に上昇せず、熱硬化性樹脂組成物の流出を招くおそれがある。不溶性熱可塑性樹脂の含有量が高すぎる場合、熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなり取扱い性が著しく悪化する場合がある。不溶性熱可塑性樹脂の粒子径は、特に限定されないが、0.1~100μmであることが好ましく、1~50μmであることがより好ましい。
【0089】
(1-5) その他の成分
本熱硬化性樹脂組成物には、接着性を損なわない限り、他の成分を含有させることができる。他の成分として、重合防止剤、導電性粒子、導電性フィラー、無機フィラー、ゴム状成分、靭性付与剤、安定剤や離型剤、着色剤等が例示される。
【0090】
(2) 熱硬化性樹脂組成物の製造方法
本熱硬化性樹脂組成物を製造するには、上述の成分を混合して均一に溶解及び/又は分散した組成物とすればよく、その方法に特に制限はない。これらの成分を常温で混合してもよいが、経済的に製造するためには加熱して混合することが好ましい。この場合、加熱温度は通常30~150℃であり、50~120℃が好ましい。150℃を超える温度では重合反応が速くなり、本熱硬化性樹脂組成物が混合中に硬化する可能性がある。
【0091】
混合は、一段で行ってもよいし、多段で行ってもよい。また、樹脂組成物の各成分の混合順序は限定されないが、固相成分として配合する成分は、樹脂組成物中の他の成分が溶解した後に添加することが好ましい。これにより、固相成分を樹脂組成物中に均一に分散させやすくなる。混合時間は温度により相違するが、10~180分が好ましい。
【0092】
混練機械装置としては、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー等、従来公知の装置を用いることができる。
【0093】
(3) フィルム接着剤
本発明のフィルム接着剤は、前述の熱硬化性樹脂組成物が基材繊維に担持されて成る。熱硬化性樹脂組成物は基材繊維に含浸していることが好ましい。フィルム接着剤の目付は、50~1500g/m2が好ましく、100~500g/m2がより好ましい。
【0094】
本フィルム接着剤に用いる基材繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維などを挙げることができる。これらの中でも、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維が好ましく、ガラス繊維がより好ましい。
【0095】
基材繊維の形状は限定されないが、シート状物であることが加工性の点から好ましい。例えば、多数本の繊維を一方向に引き揃えたシート状物や、平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙などを挙げることができる。基材繊維シートの厚さは、0.01~0.5mmが好ましく、0.02~0.15mmがより好ましい。また、基材繊維シートの目付は、10~400g/m2が好ましく、20~150g/m2がより好ましい。
【0096】
フィルム接着剤中の本熱硬化性樹脂組成物の含有量は、20~95質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。20質量%未満である場合、基材繊維中に本熱硬化性樹脂組成物が含浸されて(つまり、本熱硬化性樹脂組成物が基材繊維層の中に留まり、被接着体と接触する基材繊維層の表面の本熱硬化性樹脂組成物の存在量が少なくなる場合があるため、)接着剤として機能し難い場合がある。95質量%を超える場合、基材繊維が本熱硬化性樹脂組成物を十分に担持できない場合がある。
【0097】
本発明のフィルム接着剤の接着接合強度は、後述する実施例において測定されるフラットワイズ引張試験において2.5MPa以上であることが好ましく、3.0MPa以上であることがより好ましく、3.5MPa以上であることが特に好ましい。また、後述する実施例において測定されるラップシェア引張負荷が10MPa以上であることが好ましく、13MPa以上であることがより好ましい。
【0098】
(4) フィルム接着剤の製造方法
本発明のフィルム接着剤は、本熱硬化性樹脂組成物と基材繊維とを一体化することにより製造することができる。本熱硬化性樹脂組成物を基材繊維と一体化させる方法としては、公知の湿式含浸法や乾式含浸法を用いることができる。湿式含浸法は有機溶媒を用いるため、樹脂組成物を含浸した後、有機溶媒を除去する必要がある。したがって、有機溶媒が残存する虞がない乾式法であるホットメルト法を用いることが好ましい。
【0099】
ホットメルト法は、基材繊維に樹脂組成物を積重して加圧下で加熱することにより、樹脂組成物の粘度を低下させ、樹脂組成物を基材繊維内に含浸させる方法である。基材繊維がシート状物の場合、フィルム状に成形した樹脂組成物を基材繊維に積重することが好ましい。
【0100】
本熱硬化性樹脂組成物は、公知の方法でフィルム状に成形できる。例えば、本熱硬化性樹脂組成物をダイコーター、アプリケーター、リバースロールコーター、コンマコーター、ナイフコーターなどを用いて、離型紙、離型フィルムなどの支持体上に流延させることによりフィルム状に成形することができる。フィルムを製造する温度は、本熱硬化性樹脂組成物の粘度に応じて適宜設定される。通常、温度は50~130℃が好ましく、80~110℃がより好ましい。
【0101】
本熱硬化性樹脂組成物のフィルムの厚さは、概ね8~500μmとすることが好ましく、10~300μmとすることがより好ましい。
【0102】
基材繊維に本熱硬化性樹脂組成物を含浸させる際の加圧条件は、本熱硬化性樹脂組成物の組成や粘度に応じて適宜調整される。加圧は行わなくてもよい。加圧を行う場合は、通常、線圧245N/cm以下であり、より好ましくは147N/cm以下である。加圧は、1回で行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。
【0103】
基材繊維に本熱硬化性樹脂組成物を含浸させる際の加熱温度は、本熱硬化性樹脂組成物の粘度に応じて適宜調整される。通常、25℃以上であり、30℃以上が好ましい。加熱温度の上限は160℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、140℃以下が特に好ましい。加熱温度が25℃未満である場合、本熱硬化性樹脂組成物の粘度が低くならず、本熱硬化性樹脂組成物を基材繊維内に十分に含浸させることができない。加熱温度が150℃を超える場合、本熱硬化性樹脂組成物の硬化反応が進行し易い。
【0104】
(5) フィルム接着剤の使用方法
本発明のフィルム接着剤は、接着界面に配置して公知の手法により硬化させることにより使用される。特に、繊維強化複合材料同士を接着する場合や、繊維強化複合材料と金属材料とを接着する場合に好ましく使用される。また、繊維強化複合材料を作製するためのプリプレグに積重して使用することもできる。即ち、繊維強化複合材料を作製するとともに、該繊維強化複合材料を接着対象物(他の繊維強化複合材料や金属材料)に接着することもできる。
【0105】
本発明のフィルム接着剤は、基材繊維に担持されているため、ハニカムコア等に対する接着性が優れている。即ち、基材繊維に担持された本熱硬化性樹脂組成物の一部が、ハニカムコアの壁面に沿って侵入し、ハニカムコアの壁面部にフィレットを形成し易い。特に、金属製のハニカムコアに対して優れた接着性を有する。
【0106】
(6) プリプレグ
本発明のプリプレグ(以下、「本プリプレグ」ともいう)は、前述の本熱硬化性樹脂組成物が強化繊維基材に含浸しているプリプレグである。
【0107】
本プリプレグの製造において、強化繊維基材を構成する強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維などを挙げることができる。これらの強化繊維の中でも、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維が好ましく、比強度、比弾性率が良好で軽量かつ高強度の繊維強化複合材料が得られる炭素繊維がより好ましく、炭素繊維の中でも、引張強度に優れるポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維が特に好ましい。
【0108】
強化繊維にPAN系炭素繊維を用いる場合、引張弾性率は、170~600GPaであることが好ましく、220~450GPaであることが特に好ましい。また、引張強度は3920MPa(400kgf/mm2)以上であることが好ましい。このような炭素繊維を用いることにより、繊維強化複合材料の機械的性質を向上できる。
【0109】
強化繊維基材の形状は限定されないが、シート状物であることが加工性の点から好ましい。強化繊維シートとしては、例えば、多数本の強化繊維を一方向に引き揃えたシート状物や、平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙などを挙げることができる。強化繊維シートの厚さは、0.01~3mmが好ましく、0.1~1.5mmがより好ましい。また、強化繊維シートの目付は、70~400g/m2が好ましく、100~300g/m2がより好ましい。
【0110】
本プリプレグ中の本熱硬化性樹脂組成物の含有量は、強化繊維基材と本熱硬化性樹脂組成物の合計質量に対して20~60質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。本熱硬化性樹脂組成物の含有量が20質量%未満である場合、このプリプレグを用いて作製される繊維強化複合材料の内部にボイド等が発生する場合がある。本熱硬化性樹脂組成物の含有量が60質量%を超える場合、強化繊維の含有量が不足し、得られる繊維強化複合材料の強度が低下し易い。
【0111】
本プリプレグの吸水率は、2~40%が好ましく、4~25%がより好ましい。本発明において吸水率は、プリプレグ中の空隙率を示す指標であり、吸水率が高いほどプリプレグ中の空隙率が高いことを示す。吸水率が高い場合、プリプレグ中に空隙が多いため、成形時の取扱い性が悪化する。また、製造される繊維強化複合材料に空隙が残りやすいため、その機械特性に悪影響を及す場合がある。吸水率が低い場合、プリプレグ中の空隙が少ないため、ドレープ性が低くなる。そのため、良好な成形加工性(形状追従性)が得られなくなる。
【0112】
(7) プリプレグの製造方法
本プリプレグは、本熱硬化性樹脂組成物を強化繊維基材内に含浸させることにより製造することができる。本熱硬化性樹脂組成物を強化繊維基材内に含浸させる方法としては、公知の湿式法や乾式法を用いることができる。湿式法は有機溶媒を用いるため、樹脂組成物を含浸した後、有機溶媒を除去する必要がある。したがって、有機溶媒が残存することがない乾式法であるホットメルト法を用いることが好ましい。
【0113】
ホットメルト法は、本熱硬化性樹脂組成物と積重した強化繊維基材とを加圧下で加熱することにより、本熱硬化性樹脂組成物の粘度を低下させ、本熱硬化性樹脂組成物を強化繊維基材内に含浸させる。強化繊維基材がシート状物の場合、フィルム状に成形した本熱硬化性樹脂組成物を強化繊維基材に積重することが好ましい。
【0114】
本熱硬化性樹脂組成物は、公知の方法でフィルム状に成形できる。例えば、本熱硬化性樹脂組成物をダイコーター、アプリケーター、リバースロールコーター、コンマコーター、ナイフコーターなどを用いて、離型紙、離型フィルムなどの支持体上に流延させることによりフィルム状に成形することができる。フィルムを製造する温度は、本熱硬化性樹脂組成物の粘度に応じて適宜設定される。通常、温度は60~130℃が好ましく、80~110℃がより好ましい。
【0115】
本熱硬化性樹脂組成物のフィルムの厚さは、概ね8~350μmとすることが好ましく、10~200μmとすることがより好ましい。
【0116】
強化繊維基材に本熱硬化性樹脂組成物を含浸させる際の加圧条件は、本熱硬化性樹脂組成物の組成や粘度に応じて適宜調整される。通常、線圧0.98~245N/cmであり、より好ましくは19.6~147N/cmである。線圧が0.98N/cm未満である場合、樹脂組成物を強化繊維シート内に十分に含浸させるのが困難である。加圧は、1回で行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。
【0117】
強化繊維基材に本熱硬化性樹脂組成物を含浸させる際の加熱温度は、本熱硬化性樹脂組成物の粘度に応じて適宜調整される。通常、70~160℃であり、80~120℃が好ましい。加熱温度が低過ぎる場合、本熱硬化性樹脂組成物の粘度が低くならず、本熱硬化性樹脂組成物を強化繊維基材内に含浸させ難くなる。加熱温度が高過ぎる場合、本熱硬化性樹脂組成物中の硬化反応が進行し、プリプレグのタック性やドレープ性が悪化し易い。
【0118】
プリプレグの工業的生産速度は特に限定されないが、生産性や経済性などを考慮すると、連続生産の場合、0.1m/min以上であることが好ましく、1~50m/minであることがより好ましく、5~20m/minであることが特に好ましい。
【0119】
(8) 本プリプレグの使用方法
本プリプレグは公知の手法により硬化させることにより繊維強化複合材料を作製することができる。本プリプレグを用いて繊維強化複合材料を作製する方法としては、従来公知の方法、例えば、マニュアルレイアップ、自動テープレイアップ(ATL)、自動繊維配置、真空バギング、オートクレーブ硬化、オートクレーブ以外の硬化、流体援用加工、圧力支援プロセス、マッチモールドプロセス、単純プレス硬化、プレスクレーブ硬化、又は連続バンドプレスを使用する方法が挙げられる。
【0120】
例えば、本プリプレグを積層して、オートクレーブ中で0.2~1MPaに加圧し、150~204℃で1~8時間加熱することによって、成形された繊維強化複合材料を作製することができる。ポストキュアとして180~280℃の温度範囲で温度を段階的に上昇させながら2~20時間処理することにより、耐熱性をさらに向上させることができる。
【0121】
本プリプレグは、高耐熱性の樹脂組成物を用いている。したがって、本プリプレグを用いて作製される繊維強化複合材料は、少なくとも180℃以上の耐熱性を有する。繊維強化複合材料を構成している硬化後の樹脂組成物は、ASTM D7028に準拠した測定方法で得られるガラス転移温度が200~400℃であることが好ましく、250~350℃であることがより好ましい。
【0122】
本プリプレグを用いて作製される繊維強化複合材料の損傷後圧縮強度(CAI)は、100~500MPaであり、より好ましくは150~400MPaである。なお、損傷後圧縮強度(CAI)は、SACMA SRM 2R-94に準拠した測定方法で得られる、30.5Jの衝撃を与えた後に圧縮する損傷後圧縮強度(CAI)を意味する。
【0123】
本プリプレグに使用される樹脂の樹脂曲げ弾性率は3.0~5.0GPaであることが好ましく、3.5~4.5GPaであることがより好ましい。なお、樹脂曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠した測定方法で得られる値を意味する。
【0124】
本プリプレグに使用される樹脂の樹脂曲げ強度は30~300MPaであることが好ましく、50~300MPaであることがより好ましい。なお、樹脂曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠した測定方法で得られる値を意味する。
【0125】
本プリプレグに使用される樹脂の樹脂曲げ伸度は1~30%であることが好ましく、3~20%であることがより好ましい。なお、樹脂曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠した測定方法で得られる値を意味する。
【0126】
本プリプレグは保存安定性に優れ、本プリプレグの製造後、少なくとも10日間を経過しても、製造直後の成形加工性を維持する。したがって、所定の時間が経過した後も、耐熱性及び耐衝撃性が高い繊維強化複合材料を作製することができる。
【0127】
本発明のプリプレグは、金属材料への接着性に優れているため、本発明のプリプレグを接合する金属材料と接着させた状態で、プリプレグを硬化させることで、金属材料と接着された繊維強化複合材料を得ることができる。
【0128】
本発明のプリプレグは、ハニカムコア等に対する接着性にも優れ、特に金属製のハニカムコアに対する接着性に優れている。本発明のプリプレグを用いると、フィルム接着剤を用いなくても、本熱硬化性樹脂組成物の一部が、ハニカムコアの壁面に沿って侵入し、ハニカムコアの壁面部にフィレットを形成し、繊維強化複合材料とハニカムを接着させる。本発明のプリプレグとハニカムコアとの接着接合強度は、後述する実施例において測定されるフラットワイズ引張試験において2.5MPa以上であることが好ましい。
【0129】
本発明のプリプレグと金属材料を積重、硬化させて金属材料と接着した繊維強化複合材料を得る場合、プリプレグと金属材料の間に、さらに、本発明のフィルム接着剤を配置してもよい。本発明のフィルム接着剤を併用することで、繊維強化複合材料と金属材料をより高い接着強度で接着させることができる。一方、フィルム接着剤を併用しない場合、より軽量な複合体を、より安価に得ることができる。
【0130】
(9) 繊維強化複合材料
本熱硬化性樹脂組成物と、強化繊維から成る強化繊維基材と、を複合化して硬化させることで繊維強化複合材料を得ることができる。強化繊維基材と複合化する方法としては、特に制限はなく、本発明のプリプレグのように強化繊維基材と本熱硬化性樹脂組成物を予め複合化してもよい。また、例えば、レジントランスファー成形法(RTM法)、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法などのように成形時に複合化してもよい。
【0131】
繊維強化複合材料に用いる強化繊維基材は、上述の強化繊維基材を用いることができる。繊維強化複合材料中の本熱硬化性樹脂組成物の含有量は、強化繊維基材と本熱硬化性樹脂組成物の合計質量に対して10~80質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましく、30~50質量%が特に好ましい。本熱硬化性樹脂組成物の含有量が少なすぎる場合、繊維強化複合材料の内部にボイド等が発生する場合がある。本熱硬化性樹脂組成物の含有量が多すぎる場合、強化繊維の含有量が不足し、得られる繊維強化複合材料の強度が低下し易い。
【0132】
(10) 繊維強化複合材料の製造方法
強化繊維基材と、本熱硬化性樹脂組成物とを複合化した後、特定の条件で加熱加圧して硬化させることにより、繊維強化複合材料(FRP)を得ることができる。本発明のプリプレグを用いて、FRPを製造する方法としては、オートクレーブ成形の他、プレス成形等の公知の成形法が挙げられる。
【実施例】
【0133】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は以下に記載する実施例に限定されるものではない。
【0134】
熱硬化性樹脂組成物及びフィルム接着剤の原材料として、以下のものを用いた。
【0135】
[芳香族ビスマレイミド化合物]
・BMI1100-H:BMI-1100H(商品名)(N,N’-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、 大和化成工業(株)社製)
・TDAB:Compimide TDAB(商品名)(2,4-ビスマレイミドトルエン、 Evonik Industries AG社製)
[脂肪族ビスマレイミド化合物]
・BMI-TMH:BMI-TMH(商品名)(1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、 大和化成工業(株)社製)
[共反応物質]
・DABPA:DABPA(商品名)(2,2’-ジアリルビスフェノールA、 大和化成工業(株)社製)
【0136】
[可溶性熱可塑性樹脂]
・PEI:Ultem1000-1000(商品名)粉砕物(ポリエーテルイミド、 SABICイノベーティブプラスチック社製、 平均粒子径15μm)
・PES:スミカエクセル5003P(商品名)粉砕物(ポリエーテルスルホン、住友化学工業(株)製、平均粒子径15μm)
【0137】
[不溶性熱可塑性樹脂]
・AURUM:AURUM PD450M(商品名)(ポリイミド、三井化学(株)製)
【0138】
[トリアジン化合物]
(ジアミノトリアジンの構造を有するトリアジン化合物)
・VD-3(商品名)(四国化成工業株式会社製)、融点:160℃(カタログ値)、下記化学式(12)で示される化合物である。化学式(12)中、Rは炭素数1~15の脂肪族鎖であり、本化合物はその混合物である。
【0139】
【0140】
・VD-5(商品名)(四国化成工業株式会社製)、融点:80℃(カタログ値)、下記化学式(13)で示される化合物である。化学式(13)中、Rは炭素数1~15の脂肪族鎖であり、本化合物はその混合物である。
【0141】
【0142】
・VD-HT(商品名)(四国化成工業株式会社製)、融点:220℃(カタログ値)、下記化学式(14)で示される化合物である。化学式(14)中、Rは炭素数1~15の脂肪族鎖であり、本化合物はその混合物である。
【0143】
【0144】
(その他のトリアジン化合物)
・D3265(商品名)(東京化成工業株式会社製)、融点:140℃(カタログ値)、下記化学式(20)で示される化合物である。
【0145】
【0146】
[基材繊維]
・基材A:E10T 4W 106T(商品名)(ガラス繊維織物、 ユニチカグラスファイバー(株)社製、 目付:106g/m2)
・基材B:H25X104(商品名)(ガラス繊維織物、 ユニチカグラスファイバー(株)社製、 目付:24.5g/m2)
[炭素繊維基材]
・基材C:炭素繊維ストランド テナックス(登録商標) IMS 65 E 23 24K 830tex(帝人(株)社製、 引張強度:5800MPa、 引張弾性率:290GPa)を、単位面積当たりの繊維質量が190g/m2となるように炭素繊維を一方向に整列させて作製したシート状の強化繊維基材
・基材D:テナックス(登録商標) W3101 (炭素繊維織物、帝人(株)社製、目付:200g/m2)
【0147】
熱硬化性樹脂組成物、フィルム接着剤、及びプリプレグを以下の方法により評価した。
【0148】
[フラットワイズ引張試験]
BMIプリプレグとフィルム接着剤を[45°/-45°/0°/90°/フィルム接着剤]の方向に5枚積層した積層体をハニカムコアの上下に積層してハニカムコア積層体を得た。なお、プリプレグのフラットワイズ引張試験においては、フィルム接着剤を使用せず、[45°/-45°/0°/90°]の方向に4枚積層した積層体をハニカムコアの上下に積層してハニカムコア積層体を得た。この時のハニカムコアは、昭和飛行機工業株式会社製、AL3/16-5052-.002Nを使用した。この積層体をバッグ内に入れ、オートクレーブ内で1.7℃/分で昇温し、180℃にて360分間加熱し、硬化させ、さらに240℃で360分ポストキュアを行い、ハニカムサンドイッチパネルを得た。
得られたハニカムサンドイッチパネルから縦50.8mm、横50.8mmに試験片を切り出し、該試験片の上下面に縦50.8mm、横50.8mmのアルミブロックをエポキシ接着剤で接着した。接着剤が硬化した後、ハニカムサンドイッチパネルの上下方向(厚さ方向)に、ASTM C 273に準拠し、引張速度0.5mm/分で引張試験を行い、ハニカムサンドイッチパネルのフラットワイズ強度を測定した。
【0149】
[ラップシェア引張負荷試験]
アルミ板(グレード:2024-T3)を幅25.4mm、長さ101.6mmにカットし、端より12.7mmブラストした。ブラスト部分にフィルム接着剤を張り付け、上面にも12.7mmブラストしたアルミ板を重ねた。この積層体をバッグ内に入れ、オートクレーブ内で2℃/分で昇温し、180℃にて360分間加熱し、硬化させ、さらに240℃で360分ポストキュアを行いフラットワイズ試験片を得た。ASTM D 1002に準拠し、引張試験を行い、フィルム接着剤のラップシェア引張強度を測定した。
【0150】
[タック性]
ハンドレイアップの際、積層のしやすさを評価した。
十分にタックがあり、積層後も剥がれがないものを〇、
タックが弱く、積層後に端部などの剥がれが確認できるものを△、
タックが非常に弱く、常温での積層が困難であるものを×とした。
【0151】
[損傷後圧縮強度(CAI)]
プリプレグを一辺が360mmの正方形にカット、積層し、積層構成[+45/0/-45/90]3Sの積層体を得た。通常の真空オートクレーブ成形法を用い、0.59MPaの圧力下、180℃の条件で6時間成形した。得られた成形物を取り出し、熱風循環乾燥機を用いて、240℃の条件下で6時間、フリースタンドでポストキュアを実施した。成形物を幅101.6mm×長さ152.4mmの寸法に切断し、損傷後圧縮強度(CAI)試験の試験片を得た。この試験片を用いて、SACMA SRM 2R-94に従い、30.5Jの衝撃を与えて損傷させた後、損傷面積および圧縮強度(CAI)を測定した。試験片圧縮試験機のクロスヘッドスピードは1.27mm/分とし、n=5で測定を行った。
【0152】
(実施例1~15、比較例1~6)
[熱硬化性樹脂組成物の調製]
表1に示す配合で各成分を85℃で混合し、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0153】
(実施例1~13、比較例1~4)
[フィルム接着剤の作製]
各熱硬化性樹脂組成物を基材繊維内に含浸してフィルム接着剤とした。この際の加熱温度は50℃であった。このフィルム接着剤を用いてタック性を評価した。結果を表1に示した。
【0154】
作製した各フィルム接着剤にて、フラットワイズ引張試験、及びラップシェア引張負荷試験を行った。結果を表1に示した。
【0155】
(実施例14)
実施例2で得られた熱硬化性樹脂組成物と、炭素繊維基材である基材Cを用いて以下の方法でプリプレグを作製した。得られたプリプレグを用いてフラットワイズおよびタック性を評価した。結果を表2に示した。なお、フラットワイズ試験においては、フィルム接着剤を使用せず、得られたプリプレグを、[45°/-45°/0°/90°]の方向に4枚積層した積層体をハニカムコアの上下に積層してハニカムコア積層体を硬化させたハニカムサンドイッチパネルを用いて評価した。実施例14で得られたプリプレグは、フィルム接着剤を用いなくても十分に高いフラットワイズ特性を示した。
[プリプレグの作製]
リバースロールコーターを用いて、離型紙上に、熱硬化性樹脂組成物を塗布して50g/m2目付の樹脂フィルムを作製した。次に、炭素繊維基材の両面に得られた樹脂フィルムを積重し、温度100℃、圧力0.2MPaの条件で加熱加圧して、炭素繊維含有率が65質量%のプリプレグを作製した。
【0156】
(実施例15)
炭素繊維基材として基材Dを用いた以外は実施例14と同様にしてプリプレグを作製した。得られたプリプレグを用いてフラットワイズおよびタック性を評価した。結果を表2に示した。実施例14で得られたプリプレグは、フィルム接着剤を用いなくても十分に高いフラットワイズ特性を示した。
【0157】
(比較例5)
熱硬化性樹脂組成物として、比較例1で得られた樹脂組成物を用いた以外は実施例14と同様にしてプリプレグを作製した。得られたプリプレグを用いてタック性を評価した。結果を表2に示した。トリアジン化合物を含まない比較例5で得られたプリプレグのフラットワイズ特性は、不十分なものであった。
【0158】
(比較例6)
炭素繊維基材として基材Dを用いた以外は比較例5と同様にしてプリプレグを作製した。得られたプリプレグを用いてタック性を評価した。結果を表2に示した。トリアジン化合物を含まない比較例6で得られたプリプレグのフラットワイズ特性は、不十分なものであった。
【0159】
【0160】
【0161】