(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-09
(45)【発行日】2022-06-17
(54)【発明の名称】冷却作用を備えた電気駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20220610BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20220610BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
F16H57/04 G
F16H57/04 D
F16H57/04 B
F16H57/04 N
F16H57/04 K
H02K9/19 A
H02K7/116
(21)【出願番号】P 2021506547
(86)(22)【出願日】2018-10-04
(86)【国際出願番号】 EP2018077011
(87)【国際公開番号】W WO2020069744
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マーク アプゼンガー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルデマー ルップ
(72)【発明者】
【氏名】マリオ ベスゲン
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク アイヒホルツ
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ザンダー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-ヨアヒム シュマインク
(72)【発明者】
【氏名】コリン ツェアス
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0076687(US,A1)
【文献】特開平09-093871(JP,A)
【文献】特開2005-278319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
H02K 9/19
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車を駆動するための電気駆動装置であって、
ハウジングアセンブリ(8)と、
中空軸(10)として形成されたモータ軸を備えた電気機械(3)であって、前記モータ軸を回転軸線(A)を中心にして回転駆動可能である電気機械(3)と、
1つの太陽歯車(15)、1つの中空歯車(16)、複数の遊星歯車(17)、および1つの遊星キャリア(18)を備えた遊星歯車伝動装置(4)であって、前記太陽歯車(15)が前記中空軸(10)によって前記回転軸線(A)を中心にして回転駆動可能であり、前記中空歯車(16)が前記ハウジングアセンブリ(8)内に相対回動不能に保持されている、遊星歯車伝動装置(4)と、
1つの入力部分(19)および2つの出力部分(6,7)を備えた出力分岐ユニット(5)と
を含んでおり、
前記入力部分(19)は、前記遊星キャリア(18)に結合されていて、前記遊星キャリア(18)と一緒に前記回転軸線(A)を中心にして回転し、
前記2つの出力部分(6,7)のうちの一方の出力部分が、前記電気機械(3)の前記中空軸(10)を貫いて延在している中間軸(23)に結合されており、
前記ハウジングアセンブリ(8)は、モータ側の第1のハウジング部分(31)、伝動装置側の第2のハウジング部分(32)、および前記第1のハウジング部分(31)と前記第2のハウジング部分(32)との間に配置されている中間ハウジング部分(33)を有しており、前記中間ハウジング部分(33)は、モータ室(35)と伝動装置室(36)とを互いに空間的に隔てている中間壁(34)を有しており、前記伝動装置室(36)内に潤滑剤(25)が収容されている、
電気駆動装置において、
前記中間ハウジング部分(33)は、前記中間壁(34)と一体に形成されていて、前記中間壁(34)から軸方向で前記第1のハウジング部分(31)の外側の周壁区分(42)内に延在しているモータ側の周壁区分(37)と、前記中間壁(34)から軸方向で前記第2のハウジング部分(32)の方向に延在していて、該第2のハウジング部分(32)に少なくとも間接的に結合されている伝動装置側の周壁区分(38)とを有しており、
前記モータ側の周壁区分(37)の外面(43)と前記第1のハウジング部分(31)の内面(41)との間に、冷却剤の通流のためのシールされた中空室(44)が形成されている
ことを特徴とする、電気駆動装置。
【請求項2】
前記伝動装置室(36)において前記中間ハウジング部分(33)の内側の表面(51)が、前記伝動装置室(36)を取り囲む前記ハウジング部分の内側の表面全体の少なくとも30%を形成している、請求項1記載の電気駆動装置。
【請求項3】
前記中間ハウジング部分(33)の前記伝動装置側の周壁区分(38)は、軸方向で、前記太陽歯車(15)が前記遊星歯車(17)と歯列係合している係合平面(E)を越えて延在して
おり、
前記伝動装置側の周壁区分(38)の軸方向長さが、前記モータ側の周壁区分(37)の軸方向長さの少なくとも0.15倍である、請求項1または2記載の電気駆動装置。
【請求項4】
前記中間ハウジング部分(33)は、前記ハウジングアセンブリ(8)の上側の半部にオイル捕集室(52)を有しており、該オイル捕集室(52)は、少なくとも部分的に前記遊星歯車(17)と軸方向でオーバラップしており、前記遊星キャリア(18)の回転時に前記遊星歯車(17)から周囲にはね飛ばされる冷却剤が、前記オイル捕集室(52)内に一時的に貯えられ
、
前記遊星キャリア(18)と前記出力分岐ユニット(5)の前記入力部分(19)とは、互いに不動に結合されていて、キャリア要素(50)を形成しており、前記キャリア要素(50)の第1の端部が、第1のキャリア軸受(30)を用いて前記中間ハウジング部分(33)に回転可能に支持されており、前記キャリア要素(50)の第2の端部が、第2のキャリア軸受(65)を用いて前記第2のハウジング部分(32)に回転可能に支持されており、
伝動装置側の流体通路(62)が設けられていて、該流体通路(62)は、前記オイル捕集室(52)を前記第2のキャリア軸受(65)に流体接続しており、
前記中間軸(23)は、軸受(46)を用いて前記第1のハウジング部分(31)のスリーブ付設部(58)に回転可能に支持されており、
モータ側の流体通路(55)が設けられていて、該流体通路(55)は、前記軸受(46)を潤滑するために前記オイル捕集室(52)を前記第1のハウジング部分(31)の前記スリーブ付設部(58)に流体接続している、請求項1から
3までのいずれか1項記載の電気駆動装置。
【請求項5】
前記第2のハウジング部分(32)は、下側のハウジング半部内に中間室(66)を有していて、該中間室(66)は、前記伝動装置室(36)の最も深い集合箇所(67)の上に位置しており、当該電気駆動装置の作動時に、潤滑剤(25)が前記中間室(66)内に一時的に貯えられる、請求項1から
4までのいずれか1項記載の電気駆動装置。
【請求項6】
前記中間壁(34)は、前記中空軸(10)の軸受(12)のための内側の軸受座と前記キャリア要素(50)の前記第1のキャリア軸受(30)のための外側の軸受座とを備えたスリーブ区分(40)を有しており、前記中空軸(10)の前記軸受(12)と前記キャリア要素(50)の前記第1のキャリア軸受(30)とは、互いに少なくとも部分的に軸方向でオーバラップしている、請求項
4記載の電気駆動装置。
【請求項7】
前記電気機械(3)は、前記中間ハウジング部分(33)の前記モータ側の周壁区分(37)に相対回動不能に結合されてい
るステータ(21)と、前記中空軸(10)に相対回動不能に結合されているロータ(9)とを有している、請求項1から
6までのいずれか1項記載の電気駆動装置。
【請求項8】
前記中空軸(10)は、円錐形の内面(61)を備えた第1の端区分(60)を有していて、前記円錐形の内面(61)は、前記中空軸(10)と前記中間軸(23)との間の環状開口(57)から軸方向において拡大しており、
前記円錐形の内面(61)は、前記環状開口(57)を起点として
延在して
おり、
前記太陽歯車(15)は、前記中空軸(10)内に差し込まれていて軸歯列(14)を用いて前記中空軸(10)に相対回動不能に結合されている結合区分を有しており、前記軸歯列(14)は、通流する前記潤滑剤によって潤滑される、請求項1から
7までのいずれか1項記載の電気駆動装置。
【請求項9】
前記出力分岐ユニット(5)は、ディファレンシャル伝動装置として形成されており、前記遊星キャリア(18)に結合された前記入力部分(19)は、ディファレンシャルケースとして、前記2つの出力部分(6,7)は、サイドシャフト歯車として形成されて
おり、
前記遊星歯車伝動装置(4)の前記遊星歯車(17)は、二重遊星歯車として形成されていて、それぞれ、前記太陽歯車(15)と噛み合う第1の遊星歯車歯列(47)と、前記中空歯車(16)と噛み合う第2の遊星歯車歯列(48)とを有しており、
前記第1の遊星歯車歯列(47)および前記第2の遊星歯車歯列(48)はそれぞれ、斜歯歯列として、前記太陽歯車(15)から前記第1の遊星歯車歯列(47)に作用する軸方向力と、前記中空歯車(16)から前記第2の遊星歯車歯列(48)に作用する軸方向力とが、互いに逆向きに方向付けられるように形成されている、請求項1から
8までのいずれか1項記載の電気駆動装置。
【請求項10】
前記中空歯車(16)は、前記第2のハウジング部分(32)に、軸方向で前記第2のハウジング部分(32)にねじ込まれているねじ(49)を用いて結合されており、前記ねじ(49)のねじ頭が
完全に
前記中空歯車(16)の軸方向延在長さ内に位置している、請求項1から
9までのいずれか1項記載の電気駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車を駆動するための電気駆動装置に関する。電気駆動装置は、自動車のための単独の駆動装置として働いても、または内燃機関に追加して設けられていてもよく、電気駆動装置と内燃機関とは、それぞれ独自にまたは一緒に重畳されて自動車を駆動することができる。
【0002】
米国特許第8049384号明細書に基づいて、電気モータ、減速伝動装置、およびディファレンシャル伝動装置を備えた電気駆動装置が公知であり、電気モータ、減速伝動装置、およびディファレンシャル伝動装置は、1つのハウジング内に収容されている。ハウジングは、モータ用の第1のハウジング部分と伝動装置用の第2のハウジング部分とを含んでおり、両ハウジング部分は、フランジ接続部を介して互いに結合されている。第1のハウジング部分と電気モータとの間にはモータハウジングが配置されており、第1のハウジング部分とモータハウジングとの間には冷却周壁が形成されており、この冷却周壁を通して冷却剤が熱を搬出するために流れる。モータハウジング部分は、第1のハウジング部分と第2のハウジング部分との間に固定されている結合フランジを有している。
【0003】
国際公開第2016066215号に基づいて、電気モータ、減速伝動装置、およびディファレンシャル伝動装置を備えた電気駆動装置が公知であり、電気モータ、減速伝動装置、およびディファレンシャル伝動装置は、1つのハウジングアセンブリ内に収容されている。電気モータは、回転駆動可能な中空軸を有しており、この中空軸は、減速伝動装置の伝動装置軸を回転駆動する駆動歯車を備えている。ディファレンシャル伝動装置の出力軸は、中空軸を貫いて延在しており、中空軸と出力軸との間には環状通路が形成されている。ハウジングアセンブリは、潤滑剤案内ジオメトリを有しており、この潤滑剤案内ジオメトリは、潤滑剤を環状通路の伝動装置側の開口に案内するように構成されており、これによって潤滑剤は、環状通路を通って電気モータの他方の端部に流れることができる。
【0004】
国際公開第2015058788号に基づいて、電気駆動装置用の伝動装置アセンブリが公知である。伝動装置アセンブリは、1つの伝動装置ハウジング、複数の歯車、および1つの潤滑剤充填部を含んでいる。伝動装置アセンブリは、潤滑剤レベルの上に配置されていて伝動装置アセンブリの駆動時に第1の歯車の回転によって潤滑剤を充填可能な第1のリザーバと、潤滑剤レベルの上に配置されていて伝動装置アセンブリの駆動時に第2の歯車の回転によって潤滑剤を充填可能な第2のリザーバとを含んでいる。
【0005】
電気駆動装置との関連における中心テーマは、熱特性である。電気機械および伝動装置は共に熱を生ぜしめ、この熱は、許容不能に高い温度を回避するため、ひいては長い耐用寿命を保証するために排出されねばならない。電気式の駆動システムは、種々様々な走行条件に持続的に耐えなくてはならない。このことは特に、平均的なトルクまたは高いトルクを有する低速運転での走行状況に対して、オフロード車両のために典型的な運転角度をもった比較的長い勾配での走行状況に対して、および車両が内燃機関によって比較的長い時間にわたって最高速で走行させられる高速走行状況に対して言える。
【0006】
伝動装置のすべての回転する部材への潤滑剤の供給には、問題を伴うことが多い。上側に位置している軸および軸受における十分な潤滑および冷却を保証するためには、高い静的なオイルレベルを調節することが必要である。さもないと高いスプラッシュ損失が生じることになり、このことによってさらに、循環している比較的大きなオイル量によって、高められた熱形成が生じることになる。
【0007】
ゆえに、本発明の根底にある課題は、回転する駆動部分の確実な冷却および潤滑を保証し、ひいては長い耐用寿命を有する、電気機械および伝動装置を備えた電気駆動装置を提供することである。
【0008】
解決のためには、自動車を駆動するための電気駆動装置であって、ハウジングアセンブリと、中空軸として形成されたモータ軸を備えた電気機械であって、モータ軸を回転軸線を中心にして回転駆動可能である電気機械と、1つの太陽歯車、1つの中空歯車、複数の遊星歯車、および1つの遊星キャリアを備えた遊星歯車伝動装置であって、太陽歯車が中空軸によって回転軸線を中心にして回転駆動可能であり、中空歯車がハウジングアセンブリ内に相対回動不能に保持されている、遊星歯車伝動装置と、1つの入力部分および2つの出力部分を備えた出力分岐ユニットとを含んでおり、入力部分は、遊星キャリアに結合されていて、遊星キャリアと一緒に回転軸線を中心にして回転し、2つの出力部分のうちの一方の出力部分が、電気機械の中空軸を貫いて延在している中間軸に結合されており、ハウジングアセンブリは、モータ側の第1のハウジング部分、伝動装置側の第2のハウジング部分、および第1のハウジング部分と第2のハウジング部分との間に配置されている中間ハウジング部分を有しており、中間ハウジング部分は、モータ室と伝動装置室とを互いに空間的に隔てている中間壁を有しており、伝動装置室内に潤滑剤が収容されており、中間ハウジング部分は、中間壁と一体に形成されていて、中間壁から軸方向で第1のハウジング部分の外側の周壁区分内に延在しているモータ側の周壁区分と、中間壁から軸方向で第2のハウジング部分の方向に延在していて、この第2のハウジング部分に少なくとも間接的に結合されている伝動装置側の周壁区分とを有しており、モータ側の周壁区分の外面と第1のハウジング部分の内面との間に、冷却剤の通流のためのシールされた中空室が形成されている、電気駆動装置が提案される。
【0009】
電気駆動装置は、好適に確実に潤滑かつ冷却され、もしくは許容不能に高い温度が回避される。中間ハウジング部分は、電気駆動装置のモータ区分と伝動装置区分との間の熱的なブリッジを形成する。中間ハウジング部分は、2つの機能を満たしており、つまり中間ハウジング部分は、電気機械の伝動装置ハウジングの一部と、同時にモータハウジングの一部とを形成している。このようにしてハウジングアセンブリの接触箇所の数が全体として僅かになり、このことは好適な熱特性のみならず、構造寸法および重量にも好適に作用する。中間ハウジング部分の伝動装置側の区分は、伝動装置の潤滑剤からの熱を吸収し、この熱は、中間ハウジング部分の一体構成によってモータ側の周壁区分に伝達される。中間ハウジング部分のモータ側の周壁区分は、第1のハウジング部分の周壁区分の内部に配置されている。このように構成されていると、中間ハウジング周壁区分は、特に効果的に電気モータから作動時に発生する熱を吸収し、中空室を通って流れるモータ冷却剤に放出することができる。電気機械の周壁の冷却は、水または水・グリコール混合物のような通常の冷却剤によって行うことができる。外周壁と内周壁との間に形成された中空室は、例えばメアンダ形状またはコイル形状の案内構造を有していてよく、これによって大きな熱量を搬出することができる。中間ハウジング部分は、例えばフランジ接続部を用いて第2のハウジング部分に直接結合されていても、または間に介在させられた別のハウジング部分を介して間接的に結合されていてもよい。
【0010】
中間ハウジング部分が軸方向で伝動装置とのオーバラップ領域内に大きく延在していることによって、中間壁および伝動装置側の周壁区分に噴射される、伝動装置内において循環する潤滑剤もまた、作動時に効果的に冷却される。中間ハウジング部分は、中間壁および周壁区分において、中間壁および周壁区分に接触する伝動装置潤滑剤によって熱を吸収し、吸収された熱は次いで、モータ側の周壁区分を介してモータ冷却装置に排出される。全体として、特に効果的な冷却作用とコンパクトな構造形式とを有する電気駆動装置を得ることができ、このような電気駆動装置は、相応に長い耐用寿命を有している。電気駆動装置の始動時における別の利点としては、伝動装置のための潤滑剤が、電気モータによって迅速に加熱される中間壁および伝動装置周壁区分との接触によって、極めて迅速に運転温度になるということがある。このことは、電気駆動装置の効率に好適に作用する。ハウジング部分のうちの少なくとも1つの、複数の、またはすべてのハウジング部分のための材料としては、例えば金属もしくは金属材料製の合金を、例えばアルミダイカスト鋳物のような軽金属を使用することができるが、材料はこれに制限されるものではない。
【0011】
伝動装置潤滑剤の特に良好な熱排出は、伝動装置側の中間ハウジング部分の表面積が可能な限り大きい場合に生ぜしめられる。好ましくは、中間ハウジング部分の、作動時に伝動装置潤滑剤に接触する内側の表面は、内部に潤滑剤が収容されていて伝動装置室を取り囲むハウジング部分の内側の表面全体の少なくとも30%、特に少なくとも40%、場合によっては内側の伝動装置室表面全体の50%、または50%を超える割合を形成している。
【0012】
1つの実施形態によれば、中間ハウジング部分の伝動装置側の周壁区分は、軸方向で、太陽歯車が遊星歯車と歯列係合している係合平面を越えて延在している。このように構成されていると、遊星キャリアおよびその中に回転可能に支持されている遊星歯車の回転によって、駆動歯車を備えた歯列平面において周囲にはね飛ばされる潤滑剤は、冷却される中間ハウジング部分の周壁区分に向かって遠心力によって吹き飛ばされ、そこで迅速かつ効果的に熱を放出することができる。特に、伝動装置側の周壁区分の軸方向長さは、モータ側の周壁区分の軸方向長さの少なくとも0.15倍、特に少なくとも0.2倍であってよい。このように構成されていると、伝動装置側の周壁区分は特に大きく遊星キャリアを越えて突出し、これによって周壁区分が潤滑剤と接触しかつ相応に熱を排出することができる表面は、相応に大きくなる。
【0013】
1つの実施形態によれば、中間ハウジング部分は、ハウジングアセンブリの上側の半部にオイル捕集室を有していてよく、このオイル捕集室は、少なくとも部分的に遊星歯車と軸方向でオーバラップしている。遊星キャリアの回転時に遊星歯車から周囲に噴射される潤滑剤を、オイル捕集室内に一時的に貯えることができ、相応の通路および/または潤滑剤案内部を介して離れて位置しているハウジング区分に案内することができる。上側のハウジング半部という記載は、この文脈において電気モータの組付け状態に関連しており、特に、ハウジングの、回転軸線を含む水平平面の上に位置しているハウジング半部を意味している。
【0014】
択一的にまたは補足的に、第2のハウジング部分は、下側のハウジング半部内に中間室を有していてよく、この中間室は、伝動装置室の最も深い集合箇所の上に位置している。中間室は特に、作動時に潤滑剤が中間室内に達しそこで一時的に貯えられるように配置されかつ構成されている。このように構成されていると、動的な潤滑剤レベル、つまり電気駆動装置の作動時に生じるレベルは、特に低く保たれる。これによって作動時に発生するスプラッシュ損失が僅かに保たれ、このことはまた好適に熱発生を低減する。
【0015】
1つの実施形態によれば、遊星キャリアと出力分岐ユニットの入力部分とは、キャリア要素とも呼ぶことができる1つの共通の構造ユニットとして形成されていてよい。このとき特に、キャリア要素の第1の端部が、第1の軸受を用いて中間ハウジング部分に回転可能に支持されており、キャリア要素の第2の端部が、第2の軸受を用いて第2のハウジング部分に回転可能に支持されていることが提案されている。キャリア要素は、ケース形状に形成されていてよく、遊星歯車および出力分岐ユニットの部分は、キャリア要素内に収容されていてよい。キャリア要素は、第1の可能性によれば、例えば焼結のような変形プロセスによって一体に製造されていてよく、または第2の可能性によれば、例えば溶接またはねじ結合を用いて後で互いに結合される複数の別体の部分から製造されていてよい。さらに伝動装置側の流体通路が設けられていてよく、この流体通路は、オイル捕集室を、キャリア要素の、離れて位置している軸受に流体接続している。
【0016】
1つの実施形態によれば、中間軸は、その離れて位置している端部で、軸受を用いて第1のハウジング部分のスリーブ付設部に回転可能に支持されている。このとき特に流体通路が設けられており、この流体通路は、軸受を潤滑するためにオイル捕集室を第1のハウジング部分のスリーブ付設部に流体接続している。この通路は、例えば潤滑剤管路によって形成されていてよく、この潤滑剤管路は、ハウジングの外側において、ハウジングの端部における所望の軸受箇所に通じている。このとき特に、オイル捕集室に対応配置された開口が、軸受箇所に対応配置された開口よりも高いレベルに位置していることが提案されており、このように構成されていると、潤滑剤を単に重力に基づいて、オイル捕集室から離れて位置している開口に流すことができる。
【0017】
好ましくは、伝動装置区分の端部側の軸受箇所およびモータ区分の端部側の軸受箇所は、オイル捕集室に流体接続されている。この構成は、電気駆動装置の、離れて位置していて回転しかつシールする部分の確実な潤滑にも貢献する。
【0018】
内側に位置している軸受箇所、すなわち中間壁における中空軸の軸受およびキャリア要素の軸受は、互いに軸方向でオーバラップして配置されていてよく、このように構成されていると、コンパクトな構造寸法が得られる。中間壁はスリーブ付設部を有していてよく、中空軸のための軸受は、スリーブ付設部の内側の軸受座に、かつキャリア要素のための軸受は、外側の軸受座に設けられている。
【0019】
モータ中空軸とこのモータ中空軸を貫いて延在している中間軸との間には、環状室が形成されており、この環状室を通って潤滑剤は、中間軸および中空軸のための軸受の、離れて位置している領域から、再び伝動装置室内に戻り流れることができる。中空軸は、好ましくは円錐形の内面を備えた第1の端区分を有しており、円錐形の内面は、中空軸と中間軸との間の環状開口から軸方向において拡大している。中空軸の内部円錐形の構成によって、開口領域から中空軸内への、かつ中空軸の内部において中間壁もしくは伝動装置室の方向への潤滑剤のための搬送作用が生ぜしめられる。これによって全体として、電気駆動装置における回転しかつシールするすべての部分を確実に潤滑かつ冷却する潤滑剤回路が生ぜしめられる。中空軸の円錐形の内面は、環状開口を起点として、特に第1の軸受の後ろに至るまで延在していてよい。さらなる経過において中空軸は、駆動歯車が設けられている反対側の端区分に至るまで等しいままの内径を有していてもよい。
【0020】
可能な構成によれば、太陽歯車は、結合区分で中空軸内に差し込まれていて、軸歯列(スプライン)を介して中空軸に相対回動不能に結合されている。軸歯列は、通流する潤滑剤によって潤滑され、これによって嵌合腐食が阻止される。
【0021】
1つの実施形態によれば、電気機械は、中間ハウジング部分のモータ側の周壁区分に相対回動不能に結合されていて、特にモータ側の周壁区分の内周面に接触しているステータと、中空軸に相対回動不能に結合されているロータとを有している。電気機械のステータが中間ハウジング部分の周壁区分に直接結合されていることによって、熱を特に効果的に電気モータから周壁区分に排出することができ、この周壁区分はさらに冷却剤によって冷却される。
【0022】
可能な具体例によれば、電気機械は、誘導機械とも呼ばれる非同期機械の形態で形成されていてよい。非同期機械は頑丈であり、単純な構造を有していて、かつ比較的安価であるという利点を有している。非同期機械は、高回転数および高温時において作動することができる。インバータは、電気機械の如何なる任意の回転数時にも、つまり任意の車両速度においても遮断することができる。非同期機械の遮断された状態において、電圧はもはやコイルに印加されず、これによって切離しクラッチのような別体の遮断ユニットを省くことができる。しかしながらまた同期機械、つまり持続的に励起される電気機械の使用も可能であり、このような場合には、好ましくは切離しクラッチが出力経路内に設けられている。電気機械によって最大に生ぜしめることができるトルクは、例えば200Nmを超えるトルク、特に約250Nmであってよい。最大のモータ回転数は、例えば12,000rpm、特に15,000rpmを超える回転数であってよい。
【0023】
第1の実施形態によれば、出力分岐ユニットは、ディファレンシャル伝動装置として形成されていてよく、遊星キャリアに結合された入力部分は、ディファレンシャルケースとして、2つの出力部分は、サイドシャフト歯車として形成されている。ディファレンシャル伝動装置は、導入された回転運動を両サイドシャフト歯車に分割し、両サイドシャフト歯車の間において調整作用が行われる。
【0024】
択一的な第2の実施形態によれば、出力分岐ユニットは、デュアルクラッチユニットとして形成されていてよく、遊星キャリアに結合された入力部分はクラッチドラムとして、2つの出力部分はクラッチハブとして形成されている。この構成では、クラッチを個々に無段階式に操作することができるので、それぞれ伝達可能なトルクを、必要に応じて調節することができる。この機能は、アクティブなモーメント分割もしくは「トルクベクトリング」とも呼ばれる。
【0025】
1つの実施形態によれば、遊星歯車伝動装置ユニットは、8~12の全変速比(i)を、特に9~11の全変速比(i)を有しており、すなわち遊星キャリアの回転数は、電気モータの回転数の1/8~1/12である。
【0026】
可能な具体例によれば、遊星歯車伝動装置の遊星歯車は、二重遊星歯車として形成されていてよく、それぞれ、中空軸の駆動歯車と係合している第1の遊星歯車歯列と、中空歯車と係合している第2の遊星歯車歯列とを有していてよい。好ましくは、遊星歯車の歯列はそれぞれ、斜歯歯列として形成されていて、つまり特に、太陽歯車から第1の遊星歯車歯列に作用する軸方向力と、中空歯車から第2の遊星歯車歯列に作用する軸方向力とが、互いに逆向きに方向付けられているように構成されている。このように構成されていると、摩擦損失および軸受に作用する力は僅かである。
【0027】
1つの実施形態によれば、中空歯車は、第2のハウジング部分に、軸方向で第2のハウジング部分にねじ込まれているねじを用いて結合されていてよい。伝動装置室内において周囲に噴射される潤滑剤のスプラッシュ損失を低減するためには、ねじのねじ頭が、少なくとも大部分、特に完全に、中空歯車の包絡線内に位置していることが好適である。
【0028】
次に、図面を参照しながら好適な実施例について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係る電気駆動アセンブリを示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示された電気駆動アセンブリを、部分的に断面して斜め前から見て示す斜視図である。
【
図3】
図1に示された電気駆動アセンブリを、斜め後ろから見て示す斜視図である。
【
図4】
図1に示された電気駆動アセンブリを、
図1のIV-IV線に沿って断面して示す横断面図である。
【
図5】
図1に示された電気駆動アセンブリの潤滑剤供給部を、断面して示す拡大詳細図である。
【
図6】
図1に示された電気駆動アセンブリの潤滑剤供給部を、断面して示す別の拡大詳細図である。
【0030】
図1~
図6については、以下において一緒に記載する。
図1~
図6には、略して電気駆動装置とも呼ぶことができる本発明に係る電気駆動アセンブリ2が示されている。電気駆動アセンブリ2は、電気機械3、電気機械3に駆動結合されている遊星歯車伝動装置4、および遊星歯車伝動装置4から導入された回転運動を電気駆動アセンブリ2の2つの出力部分6,7に分配するための出力分岐ユニット5を含んでいる。電気機械3、遊星歯車伝動装置4、および出力分岐ユニット5は、略してハウジングとも呼ぶことができるハウジングアセンブリ8内に収容されている。
【0031】
電気機械3は、自動車の駆動軸を駆動するための駆動源として働く。電気機械3の制御は、電子制御ユニット(ECU)を組み込んだ、パルスインバータのような出力電子機器を用いて行われる。給電のために電気機械3は、バッテリ(図示せず)に接続することができる。電気機械3は、ハウジング8に不動に結合されているステータ21と、トルク伝達のためのモータ軸10に不動に結合されているロータ22とを有している。電気機械3は、本実施例では非同期機械の形態で形成されており、同期機械を使用することも可能である。
【0032】
モータ軸10は、中空軸として形成されていて、第1の軸受11および第2の軸受12を用いて回転軸線Aを中心にして回転可能にハウジング8内に支持されていて、かつロータ22によって回転駆動可能である。モータ軸10の、伝動装置4に向けられた端部には、駆動部分13が設けられており、この駆動部分13は、軸結合部14(スプライン)を介して中空軸10に相対回動不能に結合されていて、遊星歯車伝動装置4に回転運動を伝達するために働く。遊星歯車伝動装置4は、駆動部分13と一体に形成されている1つの太陽歯車15、ハウジング8に相対回動不能に結合されている1つの中空歯車16、複数の遊星歯車17、および遊星歯車17が回転可能に支持されていて遊星歯車17と一緒に公転する1つの遊星キャリア18を含んでいる。
【0033】
本実施形態では、遊星歯車伝動装置ユニット4は9~11の全変速比iを有しているが、変速比はこれに制限されるものではない。そのために遊星歯車17は、二重遊星歯車として形成されており、太陽歯車15に係合しているそれぞれ1つの第1の遊星歯車歯列47と、中空歯車16に係合しているそれぞれ1つの第2の遊星歯車歯列48とを有している。遊星歯車17の遊星歯車歯列47,48は、それぞれ斜歯歯列として形成されており、これによって太陽歯車15から第1の遊星歯車歯列47に作用する軸方向力と、中空歯車16から第2の遊星歯車歯列48に作用する軸方向力とは、互いに逆向きに方向付けられている。
【0034】
中空歯車16は、ハウジング8のハウジング部分32にねじ49を用いて結合されており、これらのねじ49は、軸方向でハウジング部分32にねじ込まれている。中空歯車16は、ねじ頭の領域に凹部を有しているので、ねじ頭は、組み付けられた状態において中空歯車16の側壁とほぼ面一を成している。これによってねじ頭の領域における渦流によるスプラッシュ損失を阻止することができる。
【0035】
遊星キャリア18は、出力分岐ユニット5の入力部分19に不動に結合されているので、遊星キャリア18と出力分岐ユニット5とは一緒に回転軸線Aを中心にして回転する。出力分岐ユニット5は、本実施例では、ディファレンシャル伝動装置として形成されており、このディファレンシャル伝動装置は、入力部分19としての1つのディファレンシャルケース、ディファレンシャルケース19と一緒に公転する複数のディファレンシャル歯車20、およびディファレンシャル歯車20と噛み合っている、出力部分6,7としての2つのサイドシャフト歯車を有している。ディファレンシャル伝動装置5は、導入された回転運動を両サイドシャフト歯車6,7に分割し、両サイドシャフト歯車6,7の間において調整作用が生じる。遊星キャリア18と、ディファレンシャルキャリアとも呼ぶことができるディファレンシャルケース19とは、本実施例では一体に形成されており、このように形成された部材は一緒にキャリア要素50とも呼ばれる。
【0036】
両サイドシャフト歯車6,7の一方のサイドシャフト歯車(6)には、中間軸23が相対回動不能に結合されており、これによってトルクを、他方の端部で中間軸23に結合すべきサイドシャフト(図示せず)に伝達することができる。中間軸23は、中空軸10を貫いて延在しており、中間軸23と中空軸10との間には、2つの端部側の開口を備えた環状室24が形成されている。第2のサイドシャフト歯車7には、所属の第2の車輪にトルクを伝達するための第2のサイドシャフト(図示せず)が結合される。回転しかつシールする部分を潤滑するために、遊星・ディファレンシャル伝動装置を含む伝動装置ユニットのために潤滑剤25が設けられている。
【0037】
本実施例の電気駆動アセンブリ2は、冷却および潤滑に関して特別の構成を有しており、これについては後で詳しく述べる。
【0038】
電気駆動装置2のハウジングアセンブリ8は、電気機械3のための収容室を形成している第1のハウジング部分31、内部に伝動装置ユニット4,5が少なくとも部分的に収容されている第2のハウジング部分32、および両端部側のハウジング部分31,32の間に配置されている中間ハウジング部分33を含んでいる。特に
図1において認識できるように、中間ハウジング部分33は中間壁34を有しており、この中間壁34は、モータ室35と伝動装置室36とを互いに空間的に隔てている。モータ室35は、乾燥しており、つまり潤滑剤フリーであり、かつ外方に向かって相応のシール部材26,27,28,29を用いてシールされており、これに対して伝動装置室36は潤滑剤25によって満たされている。
【0039】
中間ハウジング部分33は、中間壁34から軸方向で第1のハウジング部分31内に延在しているモータ側の周壁区分37、および中間壁34から軸方向で第2のハウジング部分32の方向に延在していて第2のハウジング部分32にフランジ接続部39を介して結合されている伝動装置側の周壁区分38を含んでいる。モータ側の周壁区分37、中間壁34、および伝動装置側の周壁区分38は、一体に形成されているので、これらの区分は熱伝導的に互いに接続している。外側の周壁区分42の内面41とモータ側の周壁区分37の外面43との間には、通流する冷却剤のための、シールされた環状の中空室44が形成されている。外周壁42と内周壁37との間に形成された中空室44は、表面積を増大させる案内構造を、例えばメアンダ形状の構造を有していてよく、これによって周壁部分42,37の大きな熱量を、通流する冷却剤によって吸収して搬出することができる。周壁37,42を冷却するためには、水・グリコール混合物のような汎用の冷却剤を使用することができる。
図2において両接続部45,45’を認識することができ、両接続部45,45’を通して冷却剤は、周壁内に流入し、また周壁内から再び流出する。
【0040】
中間ハウジング部分33は、特に、中間ハウジング部分33の、伝動装置室36を画定している表面51であって、作動時に内部において周囲に噴射される潤滑剤と接触する表面51が、伝動装置室36の内側の表面全体の少なくとも30%、好ましくは表面の少なくとも40%を成すように構成されている。特に
図1において認識できるように、ハウジング部分33の伝動装置側の周壁区分38は、軸方向で、太陽歯車15が遊星歯車17と歯列係合している歯列平面Eを越えて延在している。伝動装置側の周壁区分38の軸方向長さは、例えば、モータ側の周壁区分37の軸方向長さの少なくとも0.15倍、特に少なくとも0.2倍であってよい。このように構成されていると、伝動装置側の周壁区分は特に遊星キャリア18の大部分を覆うように突出しており、これによって内側の表面51を介して多くの熱を、内側の表面51に接触する潤滑剤25によって吸収し、モータ側の周壁区分37を介してモータ冷却剤に放出することができる。
【0041】
中間ハウジング部分33は、ハウジングの上側の半部にオイル捕集室52を有しており、このオイル捕集室52内には、遊星キャリア18もしくは遊星歯車17によって周囲にはね飛ばされる冷媒25を、一時的に貯えることができる。オイル捕集室52は、遊星歯車17と軸方向でオーバラップして配置されており、これによって遊星キャリア18の回転時には可能な限り多くの潤滑剤が室52内に達する。潤滑剤の流れ方向Fは、図において矢印で示されており、例として矢印のうちの幾つかにだけ符号Fが付されている。
【0042】
離れて位置している回転する軸受およびシール部材のパッシブな潤滑剤供給も行われている。電気駆動装置2のモータ側の端部に位置している軸受52およびシール部材53,54への潤滑剤供給のために、潤滑剤管路55が、オイル捕集室52から第1のハウジング部分31の底部側のスリーブ付設部58に通じている。特に
図3において認識できるように、潤滑剤管路55はハウジング8の外側においてスリーブ付設部58に通じている。オイル捕集室52に対応配置された端部は、管路55の、スリーブ付設部58に対応配置された端部よりも高いレベルに位置しており、これによって潤滑剤25は、重力に基づいて、オイル捕集室52から、スリーブ付設部58における離れて位置している開口に流れることができる。潤滑剤管路55の開口は、軸シールリング53と軸受52との間に配置されている。軸シールリング53と軸受52との間から潤滑剤25は、軸受52の下において通流開口56を介して、中空軸10と中間軸23との間の開口領域57内に達する。
【0043】
開口57から潤滑剤25は環状室24内に達し、環状室24内において、中空軸10の、中間壁34において支持されている他方の端部に流れ、そこで伝動装置室36内において再び流出する。特に
図6において認識できるように、中空軸10はその端区分60に円錐形の内面61を有しており、この内面61は、中空軸10と中間軸23との間の環状開口57から軸方向において拡大している。中空軸10の円錐形の内面61は、開口領域57から中空軸内への、かつ中空軸の内部において伝動装置室36の方向への潤滑剤25のための搬送作用を生ぜしめる。このとき潤滑剤25の少なくとも部分量は、中空軸10と駆動部分13との間の軸歯列14を通過し、これによって軸歯列14は潤滑され、嵌合腐食(Passungskorrosion)が阻止される。中空軸10の伝動装置側の開口59において潤滑剤は再び伝動装置室36内に達し、これによって全体としてパッシブな潤滑剤回路が生ぜしめられ、この潤滑剤回路によって電気駆動装置2におけるすべての回転しかつシールする部分を、確実に潤滑かつ冷却することができる。
【0044】
伝動装置ユニットの、離れて位置している部分を潤滑するために、流体通路62が設けられており、この流体通路62は、オイル捕集室52を第2のハウジング部分32の軸受兼シール区分に流体接続している。流体通路62の開口63は、軸方向でキャリア要素19の軸受65とオイルシール64との間に配置されている。
【0045】
第2のハウジング部分32の下側のハウジング半部内には、中間室66が設けられており、この中間室66内には、電気駆動装置2の作動時に潤滑剤25が貯えられる。中間室66は、伝動装置室36の最も深い集合箇所67の上に位置している。室66は、作動時に潤滑剤のための追加的な容積を提供するので、動的な潤滑剤レベルは低く位置していて、スプラッシュ損失が僅かに保たれる。潤滑剤量は、僅かであり、特に、動的な潤滑剤レベルPが遊星歯車17の軸受71の下に、好ましくは中空歯車16と遊星歯車17の比較的小さな歯列区分48との歯列係合の領域にほぼ位置するように設定されている。このように構成されていると、潤滑剤溜めの温度が低く保たれる。潤滑剤は、例えば100℃において10mm2/s未満の、特に8mm2/s未満の低い粘性を有していてよい。このことは、僅かなスプラッシュ損失に好適に貢献する。
【0046】
さらに、キャリア要素50には案内金属薄板68が設けられており、これによって潤滑剤25は、室69から、キャリア要素50に固定されたピン72に回転可能に支持されている遊星歯車17の軸受箇所71のための給油通路70内に達することができる。ディファレンシャルケース19の内部に位置している歯車20を潤滑するために、伝動装置ハウジング32は、キャリア要素50の上に滴下形状部73を有しており、この滴下形状部73から潤滑剤は、ディファレンシャルキャリア19の周囲に分配された開口内に滴下することができる。
【0047】
中間壁34は、キャリア要素50および中空軸10のための軸受箇所を有している。特に中間壁34は、半径方向内側に位置している端部にスリーブ区分40を有しており、中空軸10のための軸受12は内側の軸受座に配置されていて、キャリア要素50のための軸受30はスリーブ区分40の外側の軸受座に配置されている。キャリア要素50の軸受30と中空軸10の軸受12とは、部分的に軸方向で互いにオーバラップしているので、これによって軸方向におけるコンパクトな構造寸法が得られる。
【0048】
全体として電気駆動装置2は、電気モータ3と伝動装置ユニット4,5との同軸的な配置形式によってコンパクトな構造を有している。中間ハウジング部分33が伝動装置ユニット4,5とモータユニットとの間の熱的なブリッジを形成しているというハウジング8の構成によって、効果的な熱排出、ひいては電気駆動装置の長い耐用寿命が保証される。単に電気モータ3の記載されたステータ冷却だけが、伝動装置のためのただ1つの熱交換器として必要である。外部において駆動可能なポンプによるアクティブな冷却もしくは潤滑は、省くことができる。したがってそれどころかこの構造は、同期機械よりも高い損失を生ぜしめる誘導式の電気機械の使用をも可能にする。
【符号の説明】
【0049】
2 電気駆動アセンブリ
3 電気機械
4 遊星歯車伝動装置
5 出力分岐ユニット
6 出力部分
7 出力部分
8 ハウジングアセンブリ
10 モータ軸
11,12 軸受
13 駆動部分
14 軸結合部
15 太陽歯車
16 中空歯車
17 遊星歯車
18 遊星キャリア
19 入力部分/ディファレンシャルキャリア
20 ディファレンシャル歯車
21 ステータ
22 ロータ
23 中間軸
24 環状室
25 潤滑剤
26~29 シール部材
30 軸受
31 第1のハウジング部分
32 第2のハウジング部分
33 中間ハウジング部分
34 中間壁
35 モータ室
36 伝動装置室
37 第1の周壁区分(33)
38 第2の周壁区分(33)
39 フランジ接続部
40 スリーブ区分
41 内面
42 周壁区分(31)
43 外面
44 中空室
45,45’ 接続部
46 軸受
47,48 遊星歯車歯列
49 ねじ
50 キャリア要素
51 表面(33)
52 オイル捕集室
53,54 シール部材
55 潤滑剤管路
56 通流開口
57 開口領域
58 スリーブ付設部
59 開口
60 端区分
61 内面
62 流体通路
63 開口
64 軸受
65 オイルシール
66 中間室
67 集合箇所
68 案内金属薄板
69 室
70 給油通路
71 軸受箇所
72 ピン
73 滴下形状部
A 回転軸線
E 平面
F 流れ方向
P 動的な潤滑剤レベル
i 変速比