(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】歯科用工具のホルダー
(51)【国際特許分類】
A61C 1/14 20060101AFI20220613BHJP
【FI】
A61C1/14 A
(21)【出願番号】P 2018052081
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】591179101
【氏名又は名称】株式会社ミクロン
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】呉 麻紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章仁
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-077720(JP,U)
【文献】実開昭61-159157(JP,U)
【文献】特開昭59-131345(JP,A)
【文献】特開昭63-161952(JP,A)
【文献】特開昭63-059947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルダー本体と押ボタンと付勢手段とを含むホルダーであって、
(A)前記ホルダー本体が、
(1)ヘッド部と、
(2)そのヘッド部の前方端部から後方側に向かって設けられた収容部と、
(3)歯科用工具の把持部を挿通するために、前記ヘッド部の上側外表面から前記収容部の収容面にわたって設けられた上側貫通孔と、
(4)歯科用工具の把持部を挿通するために、前記ヘッド部の下側外表面から前記収容部の収容面にわたって設けられた下側貫通孔と
を含むこと;
(B)前記押ボタンが、
(1)歯科用工具の把持部を挿通するために、前記押ボタンの本体部の上側外表面から下側外表面にわたって設けられた内側貫通孔を含むこと、及び
(2)前記ヘッド部の収容部に収容され、そして、前記ヘッド部の軸方向に沿って移動可能であること;
(C)前記付勢手段が、
(1)前記ヘッド部の収容部に収容され、前記ホルダー本体のヘッド部の前方端部に向かって前記押ボタンを付勢すること;
(D)前記押ボタンに対して外力が加えられていない状態では
、前記上側貫通孔、前記内側貫通孔、及び前記下側貫通孔同士を連絡させることによって形成される連絡路の半径方向の断面形状
が、歯科用工具の把持部の半径方向の断面形状よりも小さくなり、これによって歯科用工具の把持部が前記連絡路に挿通されないこと;
(E)前記付勢手段に逆らって押ボタンを押し込むことによって、前記連絡路の半径方向の断面形状が、歯科用工具の把持部の半径方向の断面形状と同一であるか又は大きくなり、これによって歯科用工具の把持部が前記連絡路に挿通可能となること
;
(F)前記歯科用工具を前記連絡路に挿通させた状態で前記押ボタンに対する外力を解除することによって、前記上側貫通孔の内周面と前記内側貫通孔の内周面とによって歯科用工具の把持部の一方の側を固定し、更に前記下側貫通孔の内周面と前記内側貫通孔の内周面とによって歯科用工具の把持部の他方の側を固定できること;
及び
(G)固定具を更に含み、その固定具を使用して前記ホルダー本体のヘッド部にストッパーが着脱可能に設けられ、更に、前記固定具の先端が、前記押ボタンに設けられた固定具用収納部に収納されていること;
を特徴とする、前記ホルダー。
【請求項2】
前記ホルダーを歯科用ハンドピース本体に取り付けた状態において、前記ハンドピース本体の中心軸と前記押ボタンの中心軸とで形成される角度が、15°~25
°である、請求項1に記載のホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動発生装置を内蔵した歯科用ハンドピース本体の前端に取付けて使用され、歯科用工具を保持するためのホルダー(特には、押ボタン式ホルダー)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、
図11に示すような歯科用の押ボタン式ホルダー80が知られている(例えば、特許文献1の
図1~
図3参照)。ここで、
図11(a)は、押ボタン式ホルダー80と、把持部87a及び刃部87bから構成される歯科用工具87とを上側から観察した斜視図であり、
図11(b)は、押ボタン式ホルダー80の右側面図であり、そして、
図11(c)は、
図11(b)に示す押ボタン式ホルダーのA-A’線の断面図である。
この押ボタン式ホルダー80は、
図11(c)に示すように、ホルダー本体81と、ホルダー本体81の軸方向(すなわち、
図11(c)の矢印B)に対して操作方向が垂直(すなわち、
図11(c)の矢印C)となるように配置された押ボタン82と、その押ボタン82がホルダー本体81から飛び出す方向に付勢するためのバネ83と、バネ83の付勢力によって押ボタン82がホルダー本体81から飛び出さないようにするための押ボタン用固定具84とを備えており、そして、ホルダー本体81及び押ボタン82には、それぞれ、歯科用工具87の把持部87aを挿通するための貫通孔85が設けられている。
図11に示す押ボタン式ホルダー80の場合には、その押ボタン式ホルダー80への歯科用工具87の取り付け作業又は取り外し作業は、ホルダー本体81の軸方向に対して垂直方向に押ボタン82を押すことによって行われている。
【0003】
上記の歯科用の押ボタン式ホルダー80以外にも、例えば、特許文献2に記載の保持手段90も知られている。この保持手段90の内部構造の主要部分を模式的に示した図を
図12に示す。ここで、
図12(a)は、軸部98aと刃部98bとから構成される歯科用工具98を保持手段90に取り付ける前の状態における、保持手段90の右側面断面図及び歯科用工具98の右側面図であり、そして、
図12(b)は、歯科用工具98を保持手段90に取り付けた状態における、保持手段90及び歯科用工具98の右側面断面図である。
この保持手段90は、振動部91と、振動部91の外周面に設けられた可動部材(スリーブ)92と、歯科用工具98の軸部98aの挿入先端側に設けられた球状体98eと可動部材92とを一体化させるための円錐状の凹部93と、振動部91の工具用差込孔94を挟むように設けられた2個のロッキング部95と、そのロッキング部95を工具用差込孔94の軸方向に向かって(すなわち、
図12(a)の矢印Dの方向に)付勢するための2個のばね96とを備えている。更に、歯科用工具98を保持手段90に取り付け又は取り外すことを可能にするために、歯科用工具98の軸部98aには、環状溝98cと凹部98dとその凹部98dに収納された球状体98eが設けられている。更に、歯科用工具98の内部には、
図12(b)に示すように、媒体用(冷却液用)通路98fが設けられている。
図12に示す保持手段90の場合には、振動部91への歯科用工具98の取り付けは、振動部91の工具用差込孔94に歯科用工具98を単に差し込むことによって行われ、そして、振動部91からの歯科用工具98の取り外しは、可動部材92を振動部91の軸方向(すなわち、
図12(b)の矢印E)に対して平行に移動(スライド)させることによって行われる。なお、この取り外し作業では、保持手段90の可動部材92と、保持手段90の円錐状の凹部93と、歯科用工具98の球状体98eとが主に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-344983号公報
【文献】特開平11-221233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図11に示す歯科用の押ボタン式ホルダーでは、狭い口腔内での歯科用ハンドピースの操作性を向上させるためにホルダーを更に小型化する要求が依然として存在し、更に、施術者の作業負担を軽減するためにホルダーへの歯科用工具の取り付け作業及び取り外し作業を簡易化する要求も依然として存在する。
【0006】
図12に示す保持手段では、保持手段及び歯科用工具の構造が複雑となってしまう欠点がある。具体的には、上述したように、保持手段には、少なくとも、2個のロッキング部と2個のばねと可動部材に設けられた凹部とが必要となり、更に、歯科用工具には、環状溝、凹部、球状体、及び媒体用通路が必要となる。
更に、
図12に示す保持手段では、保持手段に設けられたロッキング部と歯科用工具に設けられた環状溝とを係合させると伴に、歯科用工具に設けられた球状体と保持手段に設けられた可動部材92とを円錐状の凹部を介して一体化させる必要があるので、歯科用工具は、保持手段における一定の場所に常に保持されることになる。すなわち、歯科用工具の配置位置を微調整することができないという欠点がある。
【0007】
本発明者は、従来のホルダーよりも小型であり、取り付け作業又は取り外し作業が簡易であり、そして内部構造が複雑ではなく、更に歯科用工具の配置位置を微調整することが可能であるホルダーを鋭意検討していたところ、そのような要求を全て満たすホルダーを開発することに成功した。更に、本発明のホルダーに取り付けられる歯科用工具には、
図12に示す保持手段とは異なり、環状溝、凹部、及び媒体用通路を設ける必要が無い。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題は、本発明による、ホルダー本体と押ボタンと付勢手段とを含むホルダーであって、
(A)前記ホルダー本体が、
(1)ヘッド部と、
(2)そのヘッド部の前方端部から後方側に向かって設けられた収容部と、
(3)歯科用工具の把持部を挿通するために、前記ヘッド部の上側外表面から前記収容部の収容面にわたって設けられた上側貫通孔と、
(4)歯科用工具の把持部を挿通するために、前記ヘッド部の下側外表面から前記収容部の収容面にわたって設けられた下側貫通孔と
を含むこと;
(B)前記押ボタンが、
(1)歯科用工具の把持部を挿通するために、前記押ボタンの本体部の上側外表面から下側外表面にわたって設けられた内側貫通孔を含むこと、及び
(2)前記ヘッド部の収容部に収容され、そして、前記ヘッド部の軸方向に沿って移動可能であること;
(C)前記付勢手段が、
(1)前記ヘッド部の収容部に収容され、前記ホルダー本体のヘッド部の前方端部に向かって前記押ボタンを付勢すること;
(D)前記押ボタンに対して外力が加えられていない状態では、歯科用工具の把持部の半径方向の断面形状が、前記上側貫通孔、前記内側貫通孔、及び前記下側貫通孔同士を連絡させることによって形成される連絡路の半径方向の断面形状よりも小さくなり、これによって歯科用工具の把持部が前記連絡路に挿通されないこと;
(E)前記付勢手段に逆らって押ボタンを押し込むことによって、前記連絡路の半径方向の断面形状が、歯科用工具の把持部の半径方向の断面形状と同一であるか又は大きくなり、これによって歯科用工具の把持部が前記連絡路に挿通可能となること;及び
(F)前記歯科用工具を前記連絡路に挿通させた状態で前記押ボタンに対する外力を解除することによって、前記上側貫通孔の内周面と前記内側貫通孔の内周面とによって歯科用工具の把持部の一方の側を固定し、更に前記下側貫通孔の内周面と前記内側貫通孔の内周面とによって歯科用工具の把持部の他方の側を固定できること;
を特徴とする、前記ホルダーによって解決することができる。
【0009】
本発明によるホルダーの好ましい態様によれば、前記ホルダーを歯科用ハンドピース本体に取り付けた状態において、前記ハンドピース本体の中心軸と押ボタンの中心軸とで形成される角度が、15°~25°、特には略20°である。
【0010】
本発明によるホルダーの別の好ましい態様によれば、前記ホルダー本体のヘッド部にストッパーが着脱可能に設けられている。
【0011】
本発明によるホルダーの別の好ましい態様によれば、固定具を更に含み、その固定具を使用して前記ストッパーが着脱可能に設けられ、更に、前記固定具の先端が、前記押ボタンに設けられた固定具用収納部に収納されている。
【0012】
本明細書において、位置関係を示す用語(例えば、前方端部、前方側、後方端部、後方側、上側、下側、及び下方)は、特に断らない限り、ハンドピースを通常の方法で使用している状態での位置関係について用いるものとする。具体的には、歯科用ハンドピース本体に本発明によるホルダーを取り付けて、更にそのホルダーに歯科用工具を取り付けた状態において、ホルダーが存在する方向が前方であり、歯科用ハンドピース本体が存在する方向が後方であり、そして、歯科用工具が存在する方向が下方である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるホルダーは、従来のホルダーよりも小型であり、従来のホルダーよりも取り付け作業又は取り外し作業が簡易であり、内部構造が複雑ではなく、そして歯科用工具の配置位置を微調整することが可能である。更に、本発明のホルダーに取り付けられる歯科用工具には、歯科用工具の把持部に環状溝を取り付けたり、歯科用工具全体に媒体用通路を設けたりする必要が無い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明によるホルダー、歯科用ハンドピース本体、及び工具を上側から観察した斜視図である。
【
図3】ストッパーをホルダー本体のヘッド部に取り付ける工程を示す斜視図である。
【
図4】
図2に示す各部品の一部切欠き側面断面図である。
【
図5】外力を加えない状態での一部切欠き側面断面図である。
【
図6】
図5に示すホルダーのA-A’線断面図である。
【
図7】押ボタンを最大限押し込んだ状態での一部切欠き側面断面図である。
【
図8】上側貫通孔、内側貫通孔、及び下側貫通孔によって形成される連絡路の説明図である。
【
図9】連絡路によって歯科用工具を保持する方法の説明図である。
【
図10】本発明によるホルダーと従来の押ボタン式ホルダーとを比較するための説明図である。
【
図11】従来の押ボタン式ホルダーの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明によるホルダーを添付図面に沿って説明するが、本発明はこの添付図面に示す態様に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明によるホルダー10、歯科用ハンドピース本体50、及び歯科用工具52を上側から観察した斜視図であり、
図2は、本発明によるホルダー10の分解斜視図であり、そして、
図3は、ストッパー40をホルダー本体10のヘッド部25に取り付ける工程を示す斜視図である。
図4は、
図2に示す各部品の一部切欠き側面断面図である。
【0017】
本発明によるホルダー10は、
図1に示すように、振動発生装置を内蔵した歯科用ハンドピース本体50の前方端部に取付けて使用され、把持部53と刃部54とを含む歯科用工具52を保持するためのものである。歯科用ハンドピース本体50で発生させた振動は、本発明のホルダー10を介して、歯科用工具52に伝達される。
【0018】
本発明のホルダー10は、
図2に示すように、主に、ホルダー本体1と、押ボタン3と、付勢手段4(例えば、コイル状バネ)と、固定具42(例えば、雄ネジ)とを含む。
根尖穿孔などの事故を防止する必要がある場合には、略U字状のストッパー40をホルダー本体1に更に取り付けることもできる。
なお、これらの部品は、公知の材料を使用して形成することができる。
ホルダー本体1は、ネック部26と、そのネック部26の前方端部に設けられたヘッド部25と、そのネック部26の後方端部に設けられた連結部27とを含む。なお、連結部27は、
図1に示す歯科用ハンドピース本体50の前方端部に取付けるためのものである。
押ボタン3は、略円柱状の押ボタン本体部30と、押ボタン本体部30の前方端部に設けられた円盤状の押込操作部32とを含む。押ボタン3及び付勢手段4は、収容面が略円柱状である押ボタン用収容部13に収容される。なお、この押ボタン用収容部13は、ホルダー本体1のヘッド部25の前方端部から後方側に向かって設けられている。
【0019】
ストッパー40をホルダー本体1に取り付ける必要がある場合には、押ボタン3及び付勢手段4をヘッド部25の押ボタン用収容部13に収容した後に、
図3に示すように、ホルダー本体1のヘッド部25の下方部にストッパー40を取り付ける。具体的には、ストッパー40のアーム部同士41,41の間に存在する空間に固定具42の挿入部43(例えば、ネジ部)を差し込み、次に、ヘッド部25の下方部と固定具42のヘッド部44とによってストッパー40のアーム部41,41を挟み込むことによって、ストッパー40をヘッド部25に取り付けることができる。固定具42を緩めたり締めたりすることによって、ストッパー40を簡易に着脱することができる。
【0020】
ホルダー本体1のヘッド部25には、
図4に示すように、押ボタン3を収容するための押ボタン用収容部13が設けられている。押ボタン用収容部13は、具体的には、前方側から連続して順に、押ボタン3の押込操作部32を収容するための押込操作部用収容部13aと、押ボタン3の押ボタン本体部30を収容するための押ボタン本体部用収容部13bと、付勢手段4を収容するための付勢手段用収容部13cとを含んでいる。
押込操作部用収容部13aの形状(すなわち、収容面の円周形状)は、押ボタン3の押込操作部32の外周形状と略同一であることが好ましい。押込操作部用収容部13aの軸方向の長さ(
図4の矢印Aの距離)を、押ボタン3を押し込む程度を調節するために、押込操作部32の軸方向の長さ(
図4の矢印Bの距離)よりも長くしたり、短くしたりすることもできる。
押ボタン本体部用収容部13bの形状(すなわち、収容面の円周形状)は、押ボタン3の押ボタン本体部30の外周形状と略同一であることが好ましい。押ボタン本体部用収容部13bの軸方向の長さ(
図4の矢印Cの距離)を、押ボタン3を押し込む程度を調整するために、押ボタン本体部30の軸方向の長さ(
図4の矢印Dの距離)よりも長くしたり、短くしたりすることもできる。
付勢手段用収容部13cの形状(すなわち、収容面の円周形状)は、(外力を加えない状態での)付勢手段4の外周形状と略同一であることが好ましい。付勢手段用収容部13cの軸方向(
図4の矢印Eの距離)の長さを、押ボタン3を押し込む程度を調整するために、付勢手段4の軸方向の長さ(
図4の矢印Fの距離)よりも長くしたり、短くしたりすることもできる。
【0021】
ホルダー本体1のヘッド部25には、その上側外表面25aから押ボタン本体部用収容部13bの収容面14にわたって、歯科用工具52の把持部53を挿通するための上側貫通孔15が設けられている。この上側貫通孔15の半径方向の断面形状(
図4の矢印G)は、略真円形状又は略楕円形状であることが好ましく、歯科用工具52の把持部53の半径方向の断面形状に合わせて適宜変更することができる。
更に、ホルダー本体1のヘッド部25には、その下側外表面25bから押ボタン本体部用収容部13bの収容面14にわたって、歯科用工具52の把持部53を挿通するための下側貫通孔17が設けられている。この下側貫通孔17の半径方向の断面形状(
図4の矢印H)は、略真円形状又は略楕円形状であることが好ましく、歯科用工具52の把持部53の半径方向の断面形状に合わせて適宜変更することができる。
上側貫通孔15及び下側貫通孔17の深さ方向(すなわち、半径方向に対して垂直方向)の長さは、歯科用工具52の把持部53の軸方向の長さに応じて、適宜変更することができる。
【0022】
下側貫通孔17の前方側において、ヘッド部25の下側外表面25bから押ボタン本体部用収容部13bの収容面14にわたって、固定具42を取り付けたり取り外したりすることのできる固定具用挿通孔19が設けられている。この固定具用挿通孔19の収容面の形状は、固定具42を固定具用挿通孔19に締結させるために、固定具42のヘッド部44と挿入部43の(ヘッド部44側の)一部との形状と略同一であることが好ましい。
【0023】
ホルダー本体1のヘッド部25の外観形状は、押込操作部用収容部13aと、押ボタン本体部用収容部13bと、付勢手段用収容部13cと、上側貫通孔15と、下側貫通孔17と、固定具用挿通孔19とを主に設けることができることが可能であれば、その形状は限定されないが、略角柱状(例えば、略四角柱状、略六角柱状)又は略円柱状(例えば、略真円柱状、略楕円柱状)の形状が好ましい。
【0024】
ホルダー本体1のネック部26の内部には、前方側から後方側にかけて水通路21が設けられており、更に、水通路21の前方先端部には略円柱状の水パイプ23が設けられている。この水パイプ23は、水通路21から流れてきた水をホルダー本体1の外部に放出するためのものである。
【0025】
ネック部26の外観形状は、水通路21を主に設けることができることが可能であれば、その形状は限定されないが、略角柱状(例えば、略三角柱状、略四角柱状、略六角柱状)又は略円柱状(例えば、略真円柱状、略楕円柱状)の形状が好ましい。
【0026】
押ボタン3の押ボタン本体部30には、その軸方向の後方側において、押ボタン本体部30の上側外表面30aから下側外表面30bにわたって、歯科用工具52の把持部53を挿通するための内側貫通孔34が設けられている。この内側貫通孔34の半径方向の断面形状(
図4の矢印I)は、略真円形状又は略楕円形状であることが好ましい。また、歯科用工具52の把持部53の半径方向の断面形状に合わせて適宜変更することができる。
更に、押ボタン本体部30の下側外表面30bには、内側貫通孔34の前方側において、固定具42の挿入部先端43aと挿入部43の(挿入部先端43a側の)一部とを収納するための挿入部先端用収納部36が設けられている。
内側貫通孔34の深さ方向(すなわち、半径方向に対して垂直方向)の長さは、歯科用工具52の把持部53の軸方向の長さに応じて、適宜変更することができる。
押ボタン3と付勢手段4とを容易に一体化するために、押ボタン3の後端部に突起部38を設けることが好ましい。
【0027】
図5は、外力を加えない状態での一部切欠き側面断面図であり、
図6は、
図5に示すホルダー10のA-A’線断面図である。更に、
図7は、押ボタン3を最大限押し込んだ状態での一部切欠き側面断面図である。
押ボタン3及び付勢手段4は、
図5に示すように、ホルダー本体1のヘッド部25に設けられた押ボタン用収容部13(
図2及び
図4参照)に収容されており、更に、押ボタン3は、ホルダー本体1のヘッド部25の前方端部に向かって(すなわち、
図5の矢印Jの方向に)付勢手段4によって付勢されている。
押ボタン3及び付勢手段4のそれぞれの中心軸は、ホルダー本体1のヘッド部25の中心軸(
図5の一点鎖線K)に対して平行に配置されている。したがって、押ボタン3の操作方向は、ホルダー本体1のヘッド部25の中心軸に対して平行となる。すなわち、押ボタン3は、ヘッド部25の軸方向に沿って移動させることができる。なお、
図5に示す実施態様では、ヘッド部25、押ボタン3及び付勢手段4は、全ての中心軸が一致している。
【0028】
固定具42の挿入部先端43aを収納する挿入部先端用収納部36は、
図7に示すように、ヘッド部25の中心軸の方向の長さ(
図7の矢印Lの距離)を挿入部先端43aの半径方向の長さ(
図7の矢印Mの距離)よりも長くしているので、押ボタン3は、ヘッド部25の軸方向に沿って押ボタン用収容部13を移動可能となる。更に、
図5に示すように、押ボタン3がヘッド部25の前方端部に向かって移動すると、固定具の挿入部先端43aと押ボタン3の挿入部先端用収納部36とが接触するので、押ボタン3は、付勢手段4の付勢力によってホルダー本体1から飛び出すことはない。
固定具42は、
図5に示すように、主として、押ボタン3がホルダー本体1から飛び出すことを防止する機能と、
図3に示すようにストッパー40をホルダー本体1に取り付ける機能とを有している。また、固定具42は、略円柱状の押ボタン本体部30が略円柱状の押ボタン用収容部13内において時計周り及び/又は反時計周りに空回りするのを防止する機能も有している。
固定具42の差込み方向は、ヘッド部25の軸方向に対して垂直方向となる。
固定具42を複数(例えば、2個)用意して、一方の固定具は、押ボタン3がホルダー本体1から飛び出すことを防止するために使用して、もう一方の固定具は、ストッパー40をホルダー本体1に取り付けるために使用することもできる。
【0029】
上側貫通孔15の深さ方向の中心軸(
図5の一点鎖線N)、内側貫通孔34の深さ方向の中心軸(
図5の一点鎖線O)、及び下側貫通孔17の深さ方向の中心軸(
図5の一点鎖線P)は、それぞれ、ホルダー本体1のヘッド部25の中心軸(
図5の一点鎖線K)に対して略垂直方向であることが好ましい。
上側貫通孔15、内側貫通孔34、及び下側貫通孔17の半径方向の長さについては、全ての貫通孔の半径方向の長さを略同一にしたり、或いは内側貫通孔34の半径方向の長さを上側貫通孔15及び下側貫通孔17の各半径方向の長さよりも長くしたりすることができる。貫通孔に対する歯科用工具52の把持部53の挿通性を考慮すると、内側貫通孔34の半径方向の長さを上側貫通孔15及び下側貫通孔17の半径方向の各長さよりも長くすることが好ましい。
歯科用工具52の把持部53の形状に合わせて、上側貫通孔15、内側貫通孔34、及び下側貫通孔17の半径方向の形状及び/又は深さ方向の長さを種々変更することができる。
【0030】
押ボタン3の押し込み易さを考慮すると、押込操作部32の半径方向の長さ(
図5の矢印Q)は、押ボタン本体部30の半径方向の長さ(
図5の矢印R)よりも長くすることが好ましい。もちろん、押込操作部32の半径方向の長さを、押ボタン本体部30の半径方向の長さと略同一にしたり、短くしたりすることもできる。
【0031】
水パイプ23は、歯科用工具52をホルダー本体1に取り付けたり取り外したりする作業を妨害しない位置に設けられている。水パイプ23は、ホルダー本体1のヘッド部25の中心軸(
図5の一点鎖線K)に対して斜め前方下側の方向に配置されている。このような配置によって、ホルダー本体1に取り付けた歯科用工具52の刃部54に対して、水パイプ23を介して水通路21からの水を掛けたり添わせたりすることが可能となる。
歯科用工具52がホルダー本体1に取り付けられた場合において、歯科用工具52の付近にストッパー40が配置されることとなる。すなわち、ストッパー40と歯科用工具52との距離が短いので、歯科用ハンドピースの振動に異常である場合には、歯科用工具52とストッパー40とが接触するので、歯科用ハンドピースの振動の異常に直ぐに気付くことが可能となる。
【0032】
図8は、上側貫通孔15、内側貫通孔34、及び下側貫通孔17によって形成される(歯科用工具を挿通するための)連絡路47の説明図であり、そして、
図9は、その連絡路47による歯科用工具52の保持方法の説明図である。特に、
図8は、本発明の原理を説明する目的の模式図であり、各部分間や各部品間の相対的な寸法比は、正確なものではなく、誇張して示している。
図8における(A-1)は、押ボタン3に対して外力を加えない状態での上側貫通孔15、内側貫通孔34、及び下側貫通孔17によって形成される連絡路47(点線で示す部分)を示している。(A-2)は、(A-1)に示す状態において、ホルダー10を上側から観察した外観斜視図である。
図8における(B-1)及び(B-2)は、付勢手段4に逆らって押ボタン3を或る程度押し込んだ状態であって、上側貫通孔15、内側貫通孔34、及び下側貫通孔17の深さ方向の全ての中心軸が一致している状態の連絡路47の説明図である。そして、
図8における(C-1)及び(C-2)は、押ボタン3を最大限押し込んだ状態での連絡路47の説明図である。
なお、
図8に示す実施態様では、上側貫通孔15、内側貫通孔34、及び下側貫通孔17の半径方向の断面形状は、それぞれ、略同一の真円形状であり、更に、歯科用工具52の把持部53の半径方向の外周形状と同一である。また、上側貫通孔15、内側貫通孔34、及び下側貫通孔17から形成される連絡路47の半径方向の断面形状は、歯科用工具52の把持部53が挿通可能なように、把持部53の半径方向の断面形状と同一であるか又は大きい。
【0033】
図8における(A-1)及び(A-2)に示す状態では、ホルダー10を上側から観察すると、(A-2)に示すように、上側貫通孔15の真円の内側に押ボタン本体部30の上側外表面30aの一部が入り込んでいる。すなわち、連絡路47の半径方向の断面形状は、歯科用工具52の把持部53の半径方向の断面形状53aよりも小さくなっている。このため、歯科用工具52の把持部53を連絡路47に挿通させることはできない。
図8における(B-1)及び(B-2)に示す状態では、上側貫通孔15、内側貫通孔34、及び下側貫通孔17がそのまま連絡路47を形成しており、連絡路47の半径方向の断面形状は、歯科用工具52の把持部53の半径方向の断面形状53aと同一であるか又は大きい。このため、歯科用工具52の把持部53を挿通させることができる。
図8における(C-1)及び(C-2)に示す状態では、
図8における(A-1)及び(A-2)と同様に、歯科用工具52の把持部53を連絡路47に挿通させることはできない。
図8における(B-1)及び(B-2)に示す状態を、押ボタン3を最大限押し込んだ状態にすることもできる。
【0034】
図8における(B-1)及び(B-2)に示す状態で歯科用工具52の把持部53を挿通した後に、押ボタンに対する外力を解除した状態を、
図9に示す。
歯科用把持部の挿入側端部53bは、上側貫通孔15の内周面15aと内側貫通孔34の内周面34aとによって固定されている。具体的には、挿入側端部53bは、付勢手段4の付勢力(
図9の矢印S)によって押ボタン3の内周面34aから伝達される力(
図9の矢印T)と、(その力に抵抗して発生する)上側貫通孔15の内周面15aから伝達される力(
図9の矢印U)とによって固定される。
歯科用工具52の刃部保持側端部53cは、下側貫通孔17の内周面17aと内側貫通孔34の内周面34aとによって固定されている。具体的には、保持側端部53cは、付勢手段4の付勢力(
図9の矢印S)によって押ボタン3の内周面34aから伝達される力Tと、(その力に抵抗して発生する)下側貫通孔17の内周面17aから伝達される力(
図9の矢印V)とによって固定される。
【0035】
歯科用工具52の把持部53は、上側貫通孔15の内周面15aと内側貫通孔34の内周面34aと下側貫通孔17の内周面17aとによって固定させているので、
図9において点線で表されている歯科用工具52に示すように、歯科用工具52の把持部53を上側貫通孔15から外部に突き出して配置することができる。すなわち、歯科用工具52の配置位置を微調整することができる。
【0036】
このような固定方法を採用しているので、歯科用工具52の把持部53に溝を設けるような細工をする必要が無い。つまり、市販の歯科用工具を簡易に取り付けることが可能である。
【0037】
図10は、本発明によるホルダー10と従来の押ボタン式ホルダーとを比較するための説明図である。
本発明によるホルダー10への歯科用工具52の着脱作業は、
図10の(A-1)に示すように、一方の手の手のひらと4本の指とでハンドピース本体50を握り、残った親指で押ボタン3を押し込むことによって簡易に行うことができる。すなわち、もう一方の手で、歯科用工具52を持つことができる。
ハンドピース本体50を手のひらと4本の指とで握っているので残った親指に力が入りやすくなり、この結果、強い力で押ボタン3を押し込むことが可能となる。
ハンドピース本体50の中心軸(
図10の一点鎖線W)と押ボタン3の中心軸(
図10の一点鎖線X)とで形成される角度(
図10の矢印Y)が、0°~45°、好ましくは15°~25°、特には略20°である。15°~25°である場合には、親指で押ボタン3を非常に力強く押し込むことが可能となる。特に、略20°である場合には、親指で押ボタン3を非常に極めて力強く押し込むことが可能となる。この理由としては、親指の自然な動きの方向(
図10の矢印Z)と、押ボタン3の中心軸(
図10の一点鎖線X)とが略一致することが挙げられる。
歯科用工具52をホルダー10に強固に固定するために付勢手段4の付勢力を高くした場合であっても、親指で押ボタン3を力強く押し込むことができるので、ホルダー10への歯科用工具52の着脱作業を簡易に行うことができる。すなわち、付勢手段4の付勢力は、歯科用工具52の着脱作業を考慮しないで、適宜変更することができる。
【0038】
これに対して、従来の押ボタン式ホルダー80の場合には、
図10の(B-1)に示すように、一方の手の親指と人差し指とでホルダー本体81を挟むようにして、かつ手のひらを空中に浮かせた状態で押ボタン82を押す必要があるので、場合により、押ボタン82に指の力を十分に伝達させることができない可能性がある。更に、場合により、
図10の(B-1)に示すように、ハンドピース本体をもう一方の手で保持する必要が生じてしまい、歯科用工具を持つことができなくなる恐れがある。
【0039】
本発明によるホルダー10は、
図10の(A-2)に示すように、ホルダー本体1のヘッド部25の中心軸に対して、押ボタン3及び付勢手段4の中心軸が平行になるように配置しているので、ホルダー10の半径方向の長さ(
図10の矢印aの距離)を短くすることができる。
これに対して、従来の押ボタン式ホルダー80の場合には、
図10の(B-2)に示すように、ホルダー本体81の軸方向に対して垂直に、押ボタン82及びバネ83が配置されているので、ホルダー本体81の半径方向の長さ(
図10の矢印bの距離)が長くなってしまう。
【符号の説明】
【0040】
1・・・ホルダー本体;3・・・押ボタン;4・・・付勢手段;10・・・ホルダー;
13・・・押ボタン用収容部;13a・・・押込操作部用収容部;
13b・・・押ボタン本体部用収容部;13c・・・付勢手段用収容部;
14・・・押ボタン本体部用収容部の収容面;15・・・上側貫通孔;
15a・・・上側貫通孔の内周面;17・・・下側貫通孔;
17a・・・下側貫通孔の内周面;19・・・固定具用挿通孔;21・・・水通路;
23・・・水パイプ;25・・・ヘッド部;25a・・・上側外表面;
25b・・・下側外表面;26・・・ネック部;27・・・連結部;
30・・・押ボタンの本体部;30a・・・押ボタン本体部の上側外表面;
30b・・・押ボタン本体部の下側外表面;32・・・押込操作部;
34・・・内側貫通孔;34a・・・内側貫通孔の内周面;
36・・・挿入部先端用収納部;38・・・突起部;40・・・ストッパー;
41・・・アーム部;42・・・固定具;43・・・挿入部;
43a・・・挿入部の先端;44・・・ヘッド部;47・・・連絡路;
50・・・歯科用ハンドピース本体;52・・・歯科用工具;53・・・把持部;
53a・・・把持部の半径方向の形状;53b・・・把持部の挿入側端部;
53c・・・把持部の刃部保持側端部;54・・・刃部;
80・・・従来の押ボタン式ホルダー;81・・・ホルダー本体;82・・・押ボタン;
83・・・バネ;84・・・押ボタン用固定具;85・・・貫通孔;
87・・・歯科用工具;87a・・・把持部;87b・・・刃部;
90・・・保持手段;91・・・振動部;92・・・可動部材;
93・・・円錐状の凹部;94・・・歯科用工具用差込孔;95・・・ロッキング部;
96・・・ばね;98・・・歯科用工具;98a・・・軸部;98b・・・刃部;
98c・・・環状溝;98d・・・凹部;98e・・・球状体;
98f・・・媒体用通路;