(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】Cu-W系合金及びその製造方法並びに放電加工用電極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/05 20060101AFI20220613BHJP
【FI】
C22C1/05 E
(21)【出願番号】P 2022073643
(22)【出願日】2022-04-27
【審査請求日】2022-04-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000238016
【氏名又は名称】冨士ダイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】藤井 卓
(72)【発明者】
【氏名】畑山 達郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 充
(72)【発明者】
【氏名】和田 光平
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-158843(JP,A)
【文献】特開2020-012196(JP,A)
【文献】特開2006-002188(JP,A)
【文献】特開平08-127837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/04- 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒度が10μm以下であり、最大径が20μm以上80μm以下の粒子を含むBaWO
4粉末を用いて、合金組織中にBaWO
4粒子が分散し、表面をSEM又は光学顕微鏡で観察したときに、合金組織中に存在するBaWO
4粒子の最大径が20μmより大きな粒子が、0.1 mm
2の面積の中に2個未満であるCu-W系合金を製造する方法であって、
前記Cu-W系合金が体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO
4を0.1%以上5%未満含有し、残部がWであり、
前記BaWO
4粉末とW粉末及びCu粉末とを混合し、得られた混合粉末を粉砕し又は粉砕しないで原料粉末を調製する工程と、
前記原料粉末を成形して成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼結する工程とを有することを特徴とするCu-W系合金の製造方法。
【請求項2】
平均粒度が10μm以下であり、最大径が20μm以上80μm以下の粒子を含むBaWO
4粉末を用いて、合金組織中にBaWO
4粒子が分散し、表面をSEM又は光学顕微鏡で観察したときに、合金組織中に存在するBaWO
4粒子の最大径が20μmより大きな粒子が、0.1 mm
2の面積の中に2個未満であるCu-W系合金を製造する方法であって、
前記Cu-W系合金が体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO
4を0.1%以上11%以下含有し、残部がWであり、
前記BaWO
4粉末をBaWO
4粒子の最大径が20μm未満となるように予備粉砕する工程と、
予備粉砕されたBaWO
4粉末とW粉末及びCu粉末とを混合し、得られた混合粉末を粉砕し又は粉砕しないで原料粉末を調製する工程と、
前記原料粉末を成形して成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼結する工程とを有することを特徴とするCu-W系合金の製造方法。
【請求項3】
前記BaWO
4粉末は最大径が20μm以上80μm以下の粒子を5~80体積%含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のCu-W系合金の製造方法。
【請求項4】
前記Cu-W系合金のCuの体積比で4%以下がNi、Fe及びCoからなる群から選ばれた少なくとも1種で代替されていることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のCu-W系合金の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2のいずれかに記載の方法で製造されたCu-W系合金を用いて製造することを特徴とする放電加工用電極の製造方法。
【請求項6】
合金組織中にBaWO
4粒子が分散したCu-W系合金であって、
体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO
4を0.1%以上5%未満含有し、残部がWであり、
表面をSEM又は光学顕微鏡で観察したときに、合金組織中に存在するBaWO
4粒子の最大径が20μmより大きな粒子が、0.1 mm
2の面積の中に2個未満であることを特徴とするCu-W系合金。
【請求項7】
平均粒度が10μm以下であり最大径が20μm以上80μm以下の粒子を含むBaWO
4粉末と、W粉末及びCu粉末とを混合し、得られた混合粉末を粉砕し又は粉砕しないで原料粉末を調製し、前記原料粉末を成形して成形体を形成し、前記成形体を焼結してなることを特徴とする請求項6に記載のCu-W系合金。
【請求項8】
合金組織中にBaWO
4粒子が分散したCu-W系合金であって、
体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO
4を0.1%以上11%以下含有し、残部がWであり、
平均粒度が10μm以下であり、最大径が20μm以上80μm以下の粒子を含むBaWO
4粉末をBaWO
4粒子の最大径が20μm未満となるように予備粉砕し、W粉末,Cu粉末及び予備粉砕されたBaWO
4粉末を混合し、得られた混合粉末を粉砕し又は粉砕しないで原料粉末を調製し、前記原料粉末を成形して成形体を形成し、前記成形体を焼結してなり、
表面をSEM又は光学顕微鏡で観察したときに、合金組織中に存在するBaWO
4粒子の最大径が20μmより大きな粒子が、0.1 mm
2の面積の中に2個未満であることを特徴とするCu-W系合金。
【請求項9】
前記W粉末の平均粒度が1.0~5.0μmであり、前記Cu粉末の平均粒度が30~50μmであることを特徴とする請求項7又は8に記載のCu-W系合金。
【請求項10】
前記BaWO
4粉末は最大径が20μm以上80μm以下の粒子を5~80体積%含むことを特徴とする請求項7又は8に記載のCu-W系合金。
【請求項11】
体積比でCuの4%以下がNi、Fe及びCoからなる群から選ばれた少なくとも1種で代替されていることを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載のCu-W系合金。
【請求項12】
請求項6~8のいずれかに記載のCu-W系合金を用いて作製されたことを特徴とする放電加工用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu-W系合金及びその製造方法、及びCu-W系合金を用いて製造された放電加工用電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工とは、電極材料と被加工材との間にパルス状のアーク放電を起こし、発生する高熱と衝撃波でお互いを溶融・除去することを繰り返し行うことにより、被加工材の加工を行う方法である。
【0003】
放電加工に適した電極材料としては、電極材料自体の消耗が抑えられ、更に加工速度が速い材料が適当だと考えられている。一般的な電極材料としては、炭素が用いられることが多いが、超硬合金や高速度鋼等の硬い材料には、より熱伝導率や電気伝導率が高い銀や銅と融点が高いタングステンとを組み合わせた銀―タングステン系合金や銅―タングステン系合金が用いられている。一般的には高価な銀―タングステンではなく、銅―タングステンが用いられている。
【0004】
特公昭35-8046号公報(特許文献1)は、銅―タングステン合金に仕事関数の低いアルカリ土類金属またはその酸化物(例えばBaO等)を0.5%~10%添加することで、電極自体の仕事関数を低くし、集中放電を抑え、加工速度を高め、電極消耗率を減らしている。
【0005】
特許第2620055号(特許文献2)は、BaOが高価で吸水性があることから、BaOの代わりに、比較的安価で吸水性の無いBaWO4(平均粒度1~5μm)を銅―タングステンに0.1~11体積%添加することで、電極消耗率を減らしている。
【0006】
特許第3763006号(特許文献3)は、銅が5~30%の銅―タングステンに、Pを0.002~0.04%、もしくはPとCo,Ni及びFeの1種類以上とを0.1~0.5%添加することにより、焼結性を向上させている。PがW粒子に対するCuの濡れ性を下げる効果を有することが特徴である。
【0007】
特許第5318401号(特許文献4)は、Cu-W系合金に0.01~5.00質量%のBiまたはBi2O3を添加することにより、電極消耗率は変化させず、被削性、合金強度を向上させている。一部BaWO4の添加もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公昭35-8046号公報
【文献】特許第2620055号
【文献】特許第3763006号
【文献】特許第5318401号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2や特許文献4では、Cu-W系合金に平均粒度1~5μmのBaWO4を0.1~11体積%添加することで、銅-タングステン材料の放電加工性能の一つである電極消耗率を向上させている。現在入手可能な原料を用いて合金を作成した場合、BaWO4の添加量が多くなると、放電加工性能の一つである加工速度が低下する場合があった。加工速度が低下すると、加工時間が延び、工業的に不利であるため、改善が必要であった。
【0010】
まず、原料粉末を観察した結果、BaWO4の原料の平均粒度は4.1μmであったが、最大径が50μm程度の粗大な針状の粒子が存在した。
【0011】
さらに加工速度が低下したCu-W系合金の合金組織を確認した結果、合金組織中に存在するBaWO4が粗大となり、例えば、合金組織を走査型顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡で確認した結果、0.1 mm2の面積の中に最大径が20μmより大きな粒子が2個以上存在していた。そこで、BaWO4の粒子の最大径が20μm以下に細かく分散している合金を得るために、BaWO4の添加量を検討する必要があった。
【0012】
従って、本発明の目的は、現在容易に入手可能な原料粉末を用いても製造可能であって、放電加工用電極として用いた場合に、超硬合金や高速度鋼等の硬い被加工材に対しても、優れた電極消耗率及び加工速度を発揮し得るCu-W系合金及びその製造方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、上記のCu-W系合金を用いた、優れた電極消耗率及び加工速度を有する放電加工用電極及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
平均粒度が4.1μm及び最大径が50μmの市販のBaWO4粉末を用い、BaWO4粉末の最適な添加量を検討した結果、BaWO4粉末の添加量が0.1体積%以上5体積%未満の合金であれば、Cu-W系合金中のBaWO4の粒子の最大径が20μmより大きな粒子が、0.1 mm2の面積の中に2個未満であった。一方で、BaWO4が5体積%以上の添加量の合金では、BaWO4粒子が粗大化しており、最大径が20μmより大きなBaWO4粒子が0.1 mm2の面積の中に2個以上存在した。更にこの粗大なBaWO4粒子があることにより放電加工時の加工速度が低下することが分かった。これは、銅やタングステンよりも電気伝導率がかなり低い酸化物であるBaWO4の粒子が粗大に存在するために起こると考えられる。
【0015】
次に平均粒度4.1μm、最大径が50μmの市販のBaWO4をボールミル処理し、BaWO4粒子を最大径で5μm以下となるように予備粉砕した。本予備粉砕粉末を用いて、5体積%BaWO4が添加されたCu-W系合金を作製した結果、合金中のBaWO4の粒子のうち最大径が20μmよりも大きな粒子が0.1 mm2の面積の中に2個未満であり、加工速度も優れた。したがって、BaWO4の最大径が20μm未満であることが最も重要だと考えられる。また、本予備粉砕により、11体積%までのBaWO4を添加しても、合金中のBaWO4の粒子のうち最大径が20μmよりも大きな粒子が0.1 mm2の面積の中に2個未満であり、加工速度も優れた。一方で、市販で安価に入手可能なBaWO4粉末の最大径は50μm程度であり、この粉末をボールミル等で予備粉砕処理して使用するのは、コストが上がり工業的に良くない。
【0016】
以上から、放電加工性能に優れた、特に加工速度を低下させないCu-W系合金を得るためには、最大径が20μmより大きなBaWO4粒子を合金組織中に存在しない様にする必要があり、そのためにはBaWO4の添加量が0.1体積%以上5体積%未満であるのが最適であることが分かった。
【0017】
すなわち、本発明の第一の実施態様によるCu-W系合金は、合金組織中にBaWO4粒子が分散したCu-W系合金であって、体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO4を0.1%以上5%未満含有し、残部がWであり、表面をSEM又は光学顕微鏡で観察したときに、合金組織中に存在するBaWO4粒子の最大径が20μmより大きな粒子が、0.1 mm2の面積の中に2個未満であることを特徴とする。
【0018】
本実施態様のCu-W系合金は、平均粒度が10μm以下であり最大径が20μm以上80μm以下の粒子を含むBaWO4粉末と、W粉末及びCu粉末とを混合し、得られた混合粉末を粉砕し又は粉砕しないで原料粉末を調製し、前記原料粉末を成形して成形体を形成し、前記成形体を焼結してなるのが好ましい。
【0019】
前記原料粉末は粉末冶金法では、体積比でCu粉末を20%以上60%以下、BaWO4粉末を0.1%以上5%未満含有し、残部がW粉末であるのが好ましい。また体積比でCu粉末の4%以下がNi粉末,Fe粉末及びCo粉末からなる群から選ばれた少なくとも1種で代替されているのが好ましい。また前記原料粉末は溶浸法では、Cu粉末を体積比で5%以上25%以下、BaWO4粉末を0.15%以上17%未満含有し、残部がW粉末であるのが好ましい。また、体積比でCu粉末の6%以下がNi粉末,Fe粉末及びCo粉末からなる群から選ばれた少なくとも1種で代替されているのが好ましい。
【0020】
本発明の第二の実施態様によるCu-W系合金は、合金組織中にBaWO4粒子が分散したCu-W系合金であって、体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO4を0.1%以上11%以下含有し、残部がWであり、平均粒度が10μm以下であり最大径が20μm以上80μm以下の粒子を含むBaWO4粉末をBaWO4粒子の最大径が20μm未満となるように予備粉砕し、W粉末,Cu粉末及び予備粉砕されたBaWO4粉末を混合し、得られた混合粉末を粉砕し又は粉砕しないで原料粉末を調製し、前記原料粉末を成形して成形体を形成し、前記成形体を焼結してなり、表面をSEM又は光学顕微鏡で観察したときに、合金組織中に存在するBaWO4粒子の最大径が20μmより大きな粒子が、0.1 mm2の面積の中に2個未満であることを特徴とする。
【0021】
前記W粉末の平均粒度が1.0~5.0μmであり、前記Cu粉末の平均粒度が30~50μmであるのが好ましい。
【0022】
用いるBaWO4粉末は、最大径が20μm以上80μm以下の粒子を5~80体積%含むのが好ましい。
【0023】
体積比でCuの4%以下がNi、Fe及びCoからなる群から選ばれた少なくとも1種で代替されているのが好ましい。
【0024】
本発明の一実施態様による放電加工用電極は、上述のCu-W系合金を用いて作製されたことを特徴とする。
【0025】
本発明の第一の実施態様によるCu-W系合金の製造方法は、平均粒度が10μm以下であり最大径が20μm以上80μm以下の粒子を含むBaWO4粉末を用いて、合金組織中にBaWO4粒子が分散し、表面をSEM又は光学顕微鏡で観察したときに、合金組織中に存在するBaWO4粒子の最大径が20μmより大きな粒子が、0.1 mm2の面積の中に2個未満であるCu-W系合金を製造する方法であって、前記Cu-W系合金が体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO4を0.1%以上5%未満含有し、残部がWであり、前記BaWO4粉末とW粉末及びCu粉末とを混合し、得られた混合粉末を粉砕し又は粉砕しないで原料粉末を調製する工程と、前記原料粉末を成形して成形体を形成する工程と、前記成形体を焼結する工程とを有することを特徴とする。
【0026】
本発明の第二の実施態様によるCu-W系合金の製造方法は、平均粒度が10μm以下であり最大径が20μm以上80μm以下の粒子を含むBaWO4粉末を用いて、合金組織中にBaWO4粒子が分散し、表面をSEM又は光学顕微鏡で観察したとき最大径が20μmより大きなBaWO4粒子が、0.1 mm2の面積の中に2個未満であるCu-W系合金を製造する方法であって、前記Cu-W系合金が体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO4を0.1%以上11%以下含有し、残部がWであり、前記BaWO4粉末をBaWO4粒子の最大径が20μm未満となるように予備粉砕する工程と、予備粉砕されたBaWO4粉末とW粉末及びCu粉末とを混合し、得られた混合粉末を粉砕し又は粉砕しないで原料粉末を調製する工程と、前記原料粉末を成形して成形体を形成する工程と、前記成形体を焼結する工程とを有することを特徴とする。
【0027】
前記焼結工程を粉末冶金法又は溶浸法により行うのが好ましい。
【0028】
前記原料粉末は粉末冶金法では、体積比でCu粉末を20%以上60%以下、BaWO4粉末を0.1%以上11%以下含有し、残部がW粉末であるのが好ましい。また体積比でCu粉末の4%以下がNi粉末,Fe粉末及びCo粉末からなる群から選ばれた少なくとも1種で代替されているのが好ましい。また溶浸法の場合、BaWO4粉末及びW粉末を含む混合粉末を成形して成形体を形成し、Cuを加熱溶融させて成形体に浸透させた後、焼結する。原料粉末は溶浸法では、Cu粉末を体積比で5%以上25%以下、BaWO4粉末を0.15%以上17%未満含有し、残部がW粉末であるのが好ましい。また、体積比でCu粉末の6%以下がNi粉末,Fe粉末及びCo粉末からなる群から選ばれた少なくとも1種で代替されているのが好ましい。
【0029】
本発明の一実施態様による放電加工用電極の製造方法は、上述の方法で製造されたCu-W系合金を用いて作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、合金組織中において最大径が20μmより大きなBaWO4粒子が0.1 mm2の面積の中に2個未満とすることにより、放電加工用電極として用いた場合に、超硬合金や高速度鋼等の硬い被加工材に対しても、優れた電極消耗率及び加工速度を有するCu-W系合金を得ることができる。かかるCu-W系合金は放電加工用電極の製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】発明品13及び比較品7の合金組織を示すSEM写真である。
【
図2】発明品24~28の合金組織を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[1] Cu-W系合金
本発明の一実施態様によるCu-W系合金は、合金組織中にBaWO4粒子が分散したCu-W系合金であって、体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO4を0.1%以上5%未満含有し、残部がWであり、表面をSEM又は光学顕微鏡で観察したときに、合金組織中に存在するBaWO4粒子の最大径が20μmより大きな粒子が、0.1 mm2の面積の中に2個未満であることを特徴とする。
【0033】
本発明のCu-W系合金では、複合酸化物であるBaWO4粒子がCu-W合金からなる母材内に分散しており、かつ最大径が20μmより大きな粗大なBaWO4粒子の数を一定の範囲内に抑えることにより、放電加工用電極として使用すると、仕事関数を低くしつつ、高い電気伝導率及び融点を維持することできる。そのため、本発明のCu-W系合金を放電加工用電極として用いたときに、異常放電の発生を抑制するとともに分散放電が促され、もって電極消耗率及び加工速度の両方の放電加工性能を向上させることができる。
【0034】
合金組織中のBaWO4粒子の大きさの評価は、走査顕微鏡(SEM)又は光学顕微鏡を用いて、500倍から5,000倍の倍率での観察により行う。ここで、BaWO4粒子の「最大径」とは、BaWO4粒子の端と端を結ぶ直線が最大になる長さを意味しており、BaWO4粒子が針状の粒子である場合は、針状の粒子の長軸方向の両端を結ぶ直線の長さである。さらに、任意の4 mm×8 mmの面積における最大径が20μmよりも大きな粒子の数を求め、0.1 mm2の面積における平均値を算出し、0.1 mm2の面積の中の最大径が20μmよりも大きな粒子の数とする。
【0035】
本発明のCu-W系合金は、体積比で銅(Cu)を20%以上60%以下、BaWO4を0.1%以上5%未満含有し、残部がタングステン(W)である。Cu-W系合金におけるBaWO4の含有量を0.1体積%以上5体積%未満にすることにより、安価に手に入る粗大粒子を含むBaWO4を用いても、合金組織中の最大径が20μmより大きなBaWO4粒子の数を所定の範囲内に抑えることができる。またCu-W系合金におけるCuの含有量が20%未満であると、焼結性が低下し、Cu-W系合金におけるCuの含有量が60%超であると、放電加工性能が低下する。
【0036】
WとCuの濡れ性を向上させ、焼結性を向上させるために、Cuの一部をNi、Fe及びCoからなる群から選ばれた少なくとも1種に置換しても良い。Ni、Fe及びCoに置換されるCu量は体積比で4%以下であるのが好ましい。Cu量を4%超置換すると、放電加工性能が低下する。
【0037】
[2] Cu-W系合金の製造方法
(1) 第一の実施態様
本発明の第一の実施態様によるCu-W系合金の製造方法は、平均粒度が10μm以下であり最大径が20μm以上80μm以下の粒子を含むBaWO4粉末を用いて、合金組織中にBaWO4粒子が分散し、表面をSEM又は光学顕微鏡で観察したとき合金組織中に存在するBaWO4粒子の最大径が20μmより大きな粒子が、0.1 mm2の面積の中に2個未満であるCu-W系合金を製造する方法であって、前記Cu-W系合金が体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO4を0.1%以上5%未満含有し、残部がWであり、前記BaWO4粉末とW粉末及びCu粉末とを混合し、得られた混合粉末を粉砕し又は粉砕しないで原料粉末を調製する工程と、前記原料粉末を成形して成形体を形成する工程と、前記成形体を焼結する工程とを有することを特徴とする。
【0038】
体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO4を0.1%以上5%未満含有し、残部がWとなるようにBaWO4粉末、W粉末及びCu粉末を調整する。現在安価に入手可能なBaWO4粉末は、平均粒度は10μm以下であるが、最大径が20μm以上80μm以下の針状のBaWO4粗大粒子が多数存在している。
【0039】
そのような粗大なBaWO4粒子が存在していると、焼結後のCu-W系合金に最大径が20μmよりも大きなBaWO4粒子が増大してしまうため、望ましくない。さらにCu-W系合金の合金組織中に最大径が20μm超のBaWO4相が発生する理由は、(1) 原料粉末として使用するBaWO4粉末の中に最大径が20μm超のBaWO4粒子が含まれることに加えて、(2) 最大径が20μm以下のBaWO4粒子が液相焼結中の粒成長により最大径が20μm超となる場合がある。すなわち、液相焼結時に、最大径の小さいBaWO4粒子の液相への溶解と相対的に最大径が大きい粒子への析出による粒成長が起きる溶解析出現象が生じると考えられる。本発明のCu-W系合金の製造方法によれば、Cu-W系合金におけるBaWO4の含有量を体積比で0.1%以上5%未満にすることにより、BaWO4粗大粒子の溶解により最大径が20μm超のBaWO4粒子が減少するとともに、析出による粒成長によって最大径が20μm超のBaWO4粒子が生成するのを抑え、安価に入手可能なBaWO4を用いても、合金組織中に存在する、最大径が20μmより大きなBaWO4粒子の数を所定の範囲内に抑えることができる。BaWO4粉末の平均粒度は5μm以下であるのが好ましい。また最大径が20μm以上80μm以下のBaWO4粗大粒子がBaWO4粒子全体に対して含まれる量は2~80体積%であるのが好ましく、5~40体積%であるのがより好ましい。
【0040】
使用するW粉末の粒子径は0.5μm超30μm未満であるのが適当である。W粉末の粒子径が0.5μm以下だと粉末が酸化しやすく扱いにくく、粉末冶金法で製作した場合は焼結体の形状を保ちにくい。またW粉末の粒子径が30μm以上であると、焼結性が低下する。また溶浸法で製作した場合は、W粉末の粒子径がこの範囲を超えるとCu量のコントロールが難しい。W粉末の粒子径は1.0~10μmであるのがより好ましく、1.0~5.0μmであるのがさらに好ましい。
【0041】
使用するCu粉末の粒子径は0.1μm以上100μm以下が好ましい。Cu粉末の粒子径が0.1μm未満の場合、酸化しやすく扱いにくい。またCu粉末の粒子径が100μm超であると、焼結性が低下する。Cu粉末の粒子径は1.0~80μmであるのがより好ましく、10~70μmであるのがさらに好ましく、30~50μmであるのが特に好ましい。
【0042】
BaWO4粉末、W粉末及びCu粉末を混合し、混合粉末を得る。原料粉末の混合は、湿式及び乾式のいずれで行ってもよい。スチールボール等の媒体とともに撹拌すると原料粉末をより均一に混合することができる。湿式の場合は、分散媒にアルコール等を用いるのが好ましく、原料粉末の分散性を高める目的で公知の分散剤を用いてもよい。
【0043】
混合粉末を粉砕し又は粉砕しないで原料粉末を調製する。粉砕工程は、混合粉末を微細に粉砕することを目的としておらず、原料粉末粒子の凝集をほぐして各粒子を均一に混合し、さらにCu粉末粒子にひずみを加えることを目的とする。そのため、各粉末が受ける粉砕のエネルギーは比較的弱めであり、W粉末及びCu粉末の平均粒度は、粉砕工程の前後でほとんど変わらなくても良く、粉砕後の平均粒度/粉砕前の平均粒度が80%以上であっても良い。粉砕工程は湿式及び乾式のいずれで行っても良く、回転式ボールミル、アトライタ、振動ボールミル等を用いても良い。
【0044】
本発明は、W粉末及びCu粉末の少なくとも一方の粉砕後の最大径が20μm超である場合でも好適に用いることができる。その場合、W粉末及びCu粉末の少なくとも一方の、粉砕後の最大径が20μm超の粒子の含有量が、原料粉末全体に対して30体積%以上60体積%以下であるのが好ましい。30体積%未満では焼結体でのCuの分布にムラがでる場合があり、60体積%より多いとき成形体強度がやや低く不具合を生じる場合があり、また焼結体に巣孔が発生することがある。
【0045】
粉砕工程において、焼結性を向上させるために、Cu粉末粒子にひずみエネルギーを加えることができる。すなわち、主に媒体の衝突による衝撃により、Cu粉末粒子が塑性変形により扁平に変形し、大きなひずみエネルギーを有するCu粉末粒子が多数生成する。またその際、Cu粉末粒子が一部表面粉砕されても良い。粉砕後のCu粉末の最大径が20μm超であっても良い。
【0046】
BaWO4粉末についても、同様に凝集をほぐして各粒子を均一に混合することを目的としているが、BaWO4は脆性材料であるため、BaWO4粒子が若干粉砕されるが、最大径が20μm以上80μm以下のBaWO4粗大粒子は残存するものと考えられる。本発明の特徴は、上記粗大粒子が残存していても、体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO4を0.1%以上5%未満含有し、残部がWとなるように調整することにより、合金組織中の最大径が20μmより大きなBaWO4粒子の数を所定の範囲内に抑えることができる点にある。従って、BaWO4粉末の微粉砕を行わなくても良く、上記の粉砕工程を省略しても良い。また粉砕工程後の分級を行う必要がないため、製造工程を短縮できる。
【0047】
WとCuの濡れ性を向上させ、焼結性を向上させるために、Cu粉末の一部をNi粉末,Fe粉末及びCo粉末からなる群から選ばれた少なくとも1種に置換しても良い。Ni粉末,Fe粉末及びCo粉末に置換されるCu粉末の量は4体積%以下であるのが好ましい。Cu粉末の置換量が4体積%超であると、得られるCu-W系合金の放電加工性能が低下する。
【0048】
原料粉末を成形する工程は、特に限定されないが、圧粉成形等の公知の成形方法を用いることができる。また成形体を焼結する工程は、特に限定されないが、粉末冶金法や溶浸法等の公知の合金製造方法を用いることができる。
【0049】
(2) 第二の実施態様
本発明の第二の実施態様によるCu-W系合金の製造方法は、平均粒子径が10μm以下であり最大径が20μm以上80μm以下の粒子を含むBaWO4粉末を用いて、合金組織中にBaWO4粒子が分散し、表面をSEM又は光学顕微鏡で観察したとき合金組織中に存在するBaWO4粒子の最大径が20μmより大きな粒子が、0.1 mm2の面積の中に2個未満であるCu-W系合金を製造する方法であって、前記Cu-W系合金が体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO4を0.1%以上11%以下含有し、残部がWであり、前記BaWO4粉末をBaWO4粒子の最大径が20μm未満となるように予備粉砕する工程と、予備粉砕されたBaWO4粉末とW粉末及びCu粉末とを混合し、得られた混合粉末を粉砕し又は粉砕しないで原料粉末を調製する工程と、前記原料粉末を成形して成形体を形成する工程と、前記成形体を焼結する工程とを有することを特徴とする。
【0050】
本実施態様では、原料粉末のうちBaWO4粉末のみをBaWO4粒子の最大径が20μm未満となるように予備粉砕している。BaWO4粉末のみを予備粉砕することにより、BaWO4粉末におけるBaWO4粒子の最大径を効率良くより確実に20μm未満とすることができる。予備粉砕工程は湿式及び乾式のいずれで行っても良く、回転式ボールミル、アトライタ、振動ボールミル等を用いても良い。
【0051】
予備粉砕工程としては、BaWO4粉末を予備粉砕した後に、BaWO4粒子の最大径が20μm未満となるように分級処理を行っても良い。具体的には、BaWO4粒子の最大径が20μm未満程度になるように予備粉砕処理を行った後、目開きが20μm以下の篩を用いて分級しても良い。ここで、予備粉砕処理や分級処理によっても最大径が20μm以上のBaWO4粒子は若干残るため、「BaWO4粒子の最大径が20μm未満」とは、最大径が20μm以上のBaWO4粒子が微量(10体積%以内)含まれている場合も含まれるものとする。
【0052】
BaWO4添加量が体積比で5~11%のとき、BaWO4添加量が体積比で0.1%以上5%未満の第一の実施態様の場合と比べて、原料粉末中に含まれる最大径が20μm以上のBaWO4大粒子の頻度は高まる。同時に、液相焼結時の最大径の小さいBaWO4小粒子の溶解も発生し、その溶解総量が第一の実施態様よりも増加してCu液相中のBaやO量は増加する。その結果、第一の実施態様よりも溶解析出機構が発生しやすく、第一の実施態様のときは溶解しやすかったであろう最大径が20μm以上のBaWO4粒子は、BaWO4添加量が体積比で5~11%のときでは逆に粒成長しやすくなり、20μm超の粒子が発生する頻度が高まる。従って、第二の実施態様では、原料粉末のうちBaWO4粉末を予備粉砕して最大径が20μm以上のBaWO4粒子の頻度を低減させることにより、最大径が20μm以上80μm以下の針状のBaWO4粒子が多数存在している現在安価に入手可能なBaWO4粉末が出発原料に0.1%以上11%以下含まれる場合であっても、Cu-W系合金に含まれる最大径が20μmより大きなBaWO4粒子の数を抑制し、放電加工用電極として用いたときに優れた電極消耗率及び加工速度を有するCu-W系合金を得ることができる。
【0053】
予備粉砕されたBaWO4粉末をW粉末及びCu粉末と混合して原料粉末を調製する。BaWO4粉末の予備粉砕を行っているので、原料粉末の粉砕工程は省略しても良いが、使用するW粉末及びCu粉末に応じて混合粉末を適宜粉砕して原料粉末としても良い。成形工程及び焼結工程は、第一の実施態様と同様の方法により行うことができる。
【0054】
[3] 放電加工用電極
本発明の放電加工用電極は、上述のCu-W系合金を用いて製造することを特徴とする。Cu-W系合金に含まれる最大径が20μmより大きなBaWO4粒子の数を抑制しているので、超硬合金や高速度鋼等の硬い被加工材に対しても、優れた電極消耗率及び加工速度を有するCu-W系合金を得ることができる。本発明の放電加工用電極は、ワイヤ放電加工用のカットワイヤ電極にも適用できるが、主として型彫り放電加工に用いられる型彫り放電加工用電極として好適に用いることができる。
【実施例】
【0055】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0056】
実施例1
原料として、平均粒度が1.5μmのW粉末、平均粒度が45μmのCu粉末、平均粒度が5μmのNi粉末,Co粉末及びFe粉末、平均粒度が4.4μmであり、最大径が50μmの粒子を含むBaWO4粉末を準備した。これらの粉末を合金にした時に表1に示す組成になるように計量した。尚、粉末冶金法で作製した合金は粉末調製組成が合金の組成となるが、発明品20~22、比較品9は溶浸法で製作しており、製造過程でCuが溶浸により追加されることを考慮して粉末計量を行った。計量した粉末は、ボールミルを用いて、IPA中で48時間湿式混合粉砕した。粉砕混合後の粉末は真空乾燥器を用いて、乾燥させた。尚、混合粉砕後のBaWO4粉末は一部20μm以上の粒子が存在した。この粉末を98 Nの荷重でφ20×20 H(mm)の円柱に圧粉成形した後、1300℃から1500℃の焼結温度で粉末冶金法又は溶浸法で焼結し、発明品1~22及び比較品1~9を作製した。表1に示すように、発明品18の原料粉末にはFe粉末が含まれており、発明品19の原料粉末にはCo粉末が含まれている。
【0057】
【0058】
発明品1~22及び比較品1~9の相対密度を、完全に緻密な場合の密度に対する作製した試料の体積と質量から求めた密度の比として求めた。また発明品1~22及び比較品1~9の焼結後の円柱をφ10×20 H (mm)に加工した後、放電加工試験を行った。放電加工試験は、被加工材としてNM-50の超硬合金を用い、荒加工条件にて、装置の深さのオフセットで1mm加工するまで実施した。加工時間,電極の消耗量及び被加工材の加工深さを測定し、比較を行うために、被加工材の加工深さを加工時間で割り算した値を加工速度とし、電極の消耗量を被加工材の加工深さで割り算した値を電極消耗率とした。発明品1~22及び比較品1~9の加工速度及び電極消耗率を表2に示す。また発明品1~22及び比較品1~9における最大径が20μmより大きなBaWO4粗大粒子の有無について、走査顕微鏡を用いて、500倍から5,000倍の倍率で、最大径が20μmより大きなBaWO4粗大粒子が0.1 mm2の面積の中に2個未満であるかどうかで評価を行い、2個未満の試料には最大径が20μmより大きなBaWO4粗大粒子が「無」とし、2個以上あった場合は「有」とした。
【0059】
【0060】
発明品1~22はいずれも最大径が20μmより大きなBaWO4粗大粒子が電極表面積0.1mm2当たり2個未満であり、加工速度が1.4 mm/h以上、かつ電極消耗率が0.15μm/mm以下という優れた結果が得られた。比較品1~4はBaWO4が添加されていないため、電極消耗率が高かった。また比較品5~9はBaWO4が5体積%以上添加されているため、合金組織中に最大径が20μmより大きなBaWO4粗大粒子が0.1 mm2の面積の中に2個以上存在しており、加工速度が低下していた。
【0061】
また走査型顕微鏡を用いて、倍率2,500倍にて観察した発明品13及び比較品7の合金組織のSEM写真を
図1に示す。最も濃い色の部分がCuを表し、最も薄い色の部分がWを表し、中間色の部分がBaWO
4を表している。
図1に示すように、発明品13ではBaWO
4粒子が細かく分散しているが、比較品7では最大径が20μmより大きなBaWO
4粗大粒子が2個以上存在していることが分かる。
【0062】
実施例2
Wの粒子径の影響を調査するため、原料として、平均粒度が0.5μm,1.0μm,1.5μm,4μm,20μm及び30μmのW粉末、平均粒度が45μmのCu粉末、5μmのNi粉末、及び平均粒度が4.4μm及び最大径が50μmのBaWO4粉末を準備した。これらの粉末を発明品8と同じ組成W-48.58vol%Cu-0.31vol%Ni-1.39vol%BaWO4となるように、表3に示す割合のW比率で計量した。
【0063】
【0064】
計量した粉末を用いて、実施例1と同様の方法により粉砕,成形及び焼結を行い、発明品23~29及び比較品10~12を作製した。各発明品及び各比較品の焼結方法は表4に示す方法を用いた。各発明品及び各比較品について、実施例1と同様に、相対密度、加工速度、電極消耗率及び最大径が20μmより大きなBaWO4粗大粒子の有無を求めた。得られた結果を表4に示す。
【0065】
【0066】
放電加工性能によるW粒子径の影響はあまり大きくなかった。また、粗細混粒にしても性能は変わらなかった。一方で、平均粒度が0.5μmのW粒子を用いた場合、比較品10のように粉末冶金法で焼結すると形状が保持されず、比較品11のように溶浸法で焼結すると銅の割合が多くなった。また、比較品12は平均粒度が30μmのW粉末を用いたため焼結性が悪くなり、相対密度が89%と開気孔-閉気孔の境界である93%よりも低く、緻密体が得られなかった。以上のことから、Wの原料粉末は粒子径が0.5μm超30μm未満であるのが適当であることが分かった。
【0067】
また走査型顕微鏡を用いて、倍率5,000倍にて観察した発明品24~28の合金組織のSEM写真を
図2に示す。
図1と同様に、最も濃い色の部分がCuを表し、最も薄い色の部分がWを表し、中間色の部分がBaWO
4を表している。
図2に示すように、発明品24~28ではBaWO
4粒子が細かく分散しており、最大径が20μmより大きなBaWO
4粗大粒子が無いのが分かる。
【0068】
実施例3
原料として、平均粒度が1.5μmのW粉末、平均粒度が45μmのCu粉末、平均粒度が5μmのNi粉末、及び平均粒度が4.4μm及び最大径が50μmのBaWO4粉末を準備した。BaWO4粉末はボールミルを用いて最大径が5μm以下程度になるまで細かく湿式粉砕して、目開き5μmの篩で分級し、予備粉砕工程を行った。予備粉砕されたBaWO4粉末を真空乾燥させた後、予備粉砕されたBaWO4粉末とそれ以外の粉末を比較品7と同じ組で発明品30としてW-39.99vol%Cu-0.26vol%Ni-5.00vol%BaWO4、また発明品31としてW-39.99vol%Cu-0.26vol%Ni-11.00vol%BaWO4となるように計量し、計量された原料粉末をボールミルを用いてIPA中で48時間湿式混合粉砕した。
【0069】
粉砕混合後の原料粉末を用いて、実施例1と同様の方法により成形及び粉末冶金法による焼結を行い、発明品30及び31を作製した。発明品30及び31について、実施例1と同様に、相対密度、加工速度、電極消耗率及び最大径が20μmより大きなBaWO4粗大粒子の有無を求めた。得られた結果を表5に示す。実施例2と同様に走査型顕微鏡を用いて発明品30のBaWO4粒子の大きさを評価した結果、予備粉砕していないBaWO4粉末を用いた比較品7の場合は最大径が20μmより大きなBaWO4粗大粒子が0.1 mm2の面積の中に3個存在し、加工速度の低下がみられたが、予備粉砕したBaWO4を用いた発明品30及び31の場合、最大径が20μmより大きなBaWO4粗大粒子が無く、加工速度の低下は見られなかった。
【0070】
【要約】
【課題】 現在容易に入手可能な原料粉末を用いても製造可能であって、放電加工用電極として用いた場合に、超硬合金や高速度鋼等の硬い被加工材に対しても、優れた電極消耗率及び加工速度を有するCu-W系合金及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 平均粒度が10μm以下であり、最大径が20μm以上80μm以下の粒子を含むBaWO
4粉末を用いて、合金組織中にBaWO
4粒子が分散し、表面をSEM又は光学顕微鏡で観察したときに、合金組織中に存在するBaWO
4粒子の最大径が20μmより大きな粒子が、0.1 mm
2の面積の中に2個未満であるCu-W系合金の製造方法であって、Cu-W系合金が体積比でCuを20%以上60%以下、BaWO
4を0.1%以上5%未満含有し、残部がWであり、BaWO
4粉末とW粉末及びCu粉末とを混合し、得られた混合粉末を粉砕し又は粉砕しないで原料粉末を調製する工程と、原料粉末を成形して成形体を形成する工程と、成形体を焼結する工程とを有するCu-W系合金の製造方法。
【選択図】
図1