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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】建築物の壁面検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20220613BHJP
   G01N 29/265 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/265
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018034502
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019148547
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】518057413
【氏名又は名称】住商産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】内田 正寛
【審査官】後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-034367(JP,U)
【文献】実開平01-050356(JP,U)
【文献】実開平04-001446(JP,U)
【文献】特開昭63-279166(JP,A)
【文献】特開2001-249117(JP,A)
【文献】米国特許第05343979(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に矩形開口部を有し、上下枠及び左右枠により四角形に形成された枠本体と、
前記枠本体の下枠に設けられた壁面を打診又は摺動する打診部と、
前記枠本体の上枠左右両端にそれぞれ設けられた本体吊下部と、
前記枠本体の上枠の中央部に設けられた集音マイクと、
前記枠本体の上枠左右両端に多段階で水平方向に伸縮自在に設けられた錘吊下部と、
前記枠本体の前記左右枠の上下それぞれに回動自在に設けられた車輪と、
を備えた建築物の壁面検査装置であって、
前記本体吊下部にワイヤロープの一端を締結し、ワイヤロープの他端を巻き上げ機により巻き上げ又は巻き下げることで、前記枠本体を建造物の壁面の上下方向に移動可能とするとともに、前記錘吊下部に錘を吊下げることで前記打診部を建造物の壁面に押圧した状態で、前記打診部と壁面との打診音又は摺動音を前記集音マイクで集音し、集音した打診音又は摺動音により建造物の壁面の状態を診断することを特徴とする建築物の壁面検査装置。
【請求項2】
前記打診部は、壁面を打診する複数の打診棒を備え、各打診棒を水平方向に時間差で変位させることで発生する前記打診棒の先端と壁面との打診音により、建造物の壁面の状態を診断することを特徴とする請求項1に記載の建築物の壁面検査装置。
【請求項3】
前記打診棒の壁面側の先端を壁面に押圧した状態で、前記枠本体を上下方向に移動させることで発生する摺動音により、建造物の壁面の状態を診断することを特徴とする請求項2に記載の建築物の壁面検査装置。
【請求項4】
作業者が乗車することを可能とした乗車部と前記枠本体を吊下げる吊下部を有する作業ボックスを備えたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の建築物の壁面検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の壁面検査装置に関し、詳しくは、タイル張りの壁面のタイルの貼付状態を打診検査して異常を検出する建築物の壁面検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物のタイル張りの壁面においては、自然災害(台風、竜巻、地震等)の影響で、壁面に亀裂やタイルの剥がれ等が生じる場合がある。この亀裂やタイルの剥がれは外観から人が見た眼で判断可能であり、損傷個所を修復すればよい。しかしながら、特に地震発生時には、外観には変化はないが、タイルとタイルが貼付された壁面との間に外観からでは見えない剥がれ等が生じる場合がある。
【0003】
このような外観上では損傷が判らない壁面の検査方法として、検査棒4を左右に移動させ、擦る又は叩くの2工程の動作を任意に切換えて壁面音を発生させ、巻取ウインチ2の上昇を連続作動でジグザグ状に、又は検査棒4の左右移動と交互作動により矩形波状に壁面を検査する建造物壁面の検査方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、診断装置を壁面と一定間隔を保ってスムーズに昇降させることができるとともに、予め診断壁面の状態に合わせて必要数の診断装置をセットして一度の上昇あるいは下降において広い範囲の診断が可能であり、さらに構成が簡単且つ安価な壁面診断装置が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-331511号公報
【文献】特開2004-264171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の建造物壁面の検査方法では、壁面検査機本体の一本の検査棒で、振り子状に壁面を擦る又は叩くを任意に切換えて壁面を検査する方法のため、壁面の検査時に検査棒を一定の範囲で左右に移動させる必要があり検査効率が悪いという問題がある。また、検査棒の先端を壁面に押圧する機構等は何ら開示されておらず、使用する場所の気象(主に、風)による本体の揺動で、検査棒の先端が正確に壁面に沿って移動できない恐れがある。
【0007】
また、特許文献2の壁面診断装置では、壁面に矩形枠体を押圧するための機構(両側縦枠にガイド輪の車軸より壁面から離してそれぞれガイドプーリを設け、該それぞれのガイドプーリにガイドワイヤロープが掛け渡され、該それぞれのガイドワイヤロープの上下端が前記壁面方向に押圧される機構)が必要であり、これでは、構成が簡単な壁面診断装置とはいえない。
【0008】
この発明では、かかる課題を解消すべく、安価で簡単な構造で、気象に関わらず、建築物の壁面を検査することができる壁面検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、中央に矩形開口部を有し、上下枠及び左右枠により四角形に形成された枠本体と、前記枠本体の下枠に設けられた壁面を打診又は摺動する打診部と、前記枠本体の上枠左右両端にそれぞれ設けられた本体吊下部と、前記枠本体の上枠の中央部に設けられた集音マイクと、前記枠本体の上枠左右両端に多段階で水平方向に伸縮自在に設けられた錘吊下部と、前記枠本体の前記左右枠の上下それぞれに回動自在に設けられた車輪と、を備えた建築物の壁面検査装置であって、前記本体吊下部にワイヤロープの一端を締結し、ワイヤロープの他端を巻き上げ機により巻き上げ又は巻き下げることで、前記枠本体を建造物の壁面の上下方向に移動可能とするとともに、前記錘吊下部に錘を吊下げることで前記打診部を建造物の壁面に押圧した状態で、前記打診部と壁面との打診音又は摺動音を前記集音マイクで集音し、集音した打診音又は摺動音により建造物の壁面の状態を診断することを特徴とする建築物の壁面検査装置とした。
【0010】
また、前記打診部は、壁面を打診する複数の打診棒を備え、各打診棒を水平方向に時間差で変位させることで発生する前記打診棒の先端と壁面との打診音により、建造物の壁面の状態を診断することを特徴とする。
【0011】
また、前記打診棒の壁面側の先端を壁面に押圧した状態で、前記枠本体を上下方向に移動させることで発生する摺動音により、建造物の壁面の状態を診断することを特徴とする。
【0012】
また、作業者が乗車することを可能とした乗車部と前記枠本体を吊下げる吊下部を有する作業ボックスを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、中央に矩形開口部を有し、上下枠及び左右枠により四角形に形成された枠本体と、枠本体の下枠に設けられた壁面を打診又は摺動する打診部と、枠本体の上枠左右両端にそれぞれ設けられた本体吊下部と、枠本体の上枠の中央部に設けられた集音マイクと、枠本体の上枠左右両端に多段階で水平方向に伸縮自在に設けられた錘吊下部と、枠本体の左右枠の上下それぞれに回動自在に設けられた車輪と、を備えた建築物の壁面検査装置であって、本体吊下部にワイヤロープの一端を締結し、ワイヤロープの他端を巻き上げ機により巻き上げ又は巻き下げることで、枠本体を建造物の壁面の上下方向に移動可能とするとともに、錘吊下部に錘を吊下げることで打診部を建造物の壁面に押圧した状態で、打診部と壁面との打診音又は摺動音を集音マイクで集音し、集音した打診音又は摺動音により建造物の壁面の状態を診断する。これにより、壁面の検査時の気象(主に風力)に応じて、多段階(例えば、3段階)に伸長する錘吊下部の長さを調整して、錘を吊下げることができるため、簡単な構造で打診部と建造物の壁面との押圧力を調整することが可能となり、安定した壁面検査を行うことが可能となる。
【0014】
また、錘吊下部に吊下げる錘も重量の異なる複数の錘を予め用意して、錘吊下部に吊下げフック等で簡易に装着できるように構成することで、打診部と建造物の壁面との押圧力を簡易に微調整することができ、さらに、安定した壁面と打診部による打診音又は摺動音による壁面検査を行うことができる。
【0015】
ここで、本実施形態における壁面検査における壁面と打診部による打診音又は摺動音(以下、壁面検査データともいう。)の診断は、例えば、上枠の中央部に設けられた集音マイクからの壁面検査データを専用の解析ソフトがインストールされたパソコン(パーソナルコンピュータ)に入力して診断してもよいし、熟練の作業者が、集音マイクからの壁面検査データを直接聴音することで、壁面の異常を診断する方法でもよい。
【0016】
また、打診部は、壁面を打診する複数の打診棒を備え、各打診棒を水平方向に時間差で変位させることで発生する打診棒の先端と壁面との打診音により、建造物の壁面の状態を診断する。これにより、各打診棒の打診音が重複することがなく、壁面の診断箇所の正確な打診音を検出することができ、壁面の異常個所を正確に検出することができる。
【0017】
また、打診棒の壁面側の先端を壁面に押圧した状態で、枠本体を上下方向に移動させることで発生する摺動音により、建造物の壁面の状態を診断する。これにより、上述したように、気象に合わせて、錘吊下部の長さを調整するとともに吊下げる錘も調整することで、安定した各打診棒と壁面との摺動音を検出することができ、壁面の異常個所を正確に検出することができる。
【0018】
また、作業者が乗車することを可能とした乗車部と枠本体を吊下げる吊下部を有する作業ボックスを備えたため、作業ボックスに作業者が乗車した状態で打診部と壁面との打診音又は摺動音を作業者が直接聴音可能となる。このため、熟練の作業者等による壁面の異常検出を速やかに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る壁面検査装置の構成を示す斜視図である。
図2】本実施形態に係る壁面検査装置の構成を示す正面図である。
図3】本実施形態に係る壁面検査装置の構成を示す底面図である。
図4】本実施形態に係る壁面検査装置の打診部の動作を示す側面図である。
図5】本実施形態に係る壁面検査装置の使用例を示す側面図である。
図6】本実施形態に係る壁面検査装置の検査対象を含めた使用例を示す側面図である。
図7】本実施形態に係る作業者の乗車部と壁面検査装置とを備えた作業ボックスを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の要旨は、中央に矩形開口部を有し、上下枠及び左右枠により四角形に形成された枠本体と、枠本体の下枠に設けられた壁面を打診又は摺動する打診部と、枠本体の上枠左右両端にそれぞれ設けられた本体吊下部と、枠本体の上枠の中央部に設けられた集音マイクと、枠本体の上枠左右両端に多段階で水平方向に伸縮自在に設けられた錘吊下部と、枠本体の左右枠の上下それぞれに回動自在に設けられた車輪と、を備えた建築物の壁面検査装置であって、本体吊下部にワイヤロープの一端を締結し、ワイヤロープの他端を巻き上げ機により巻き上げ又は巻き下げることで、枠本体を建造物の壁面の上下方向に移動可能とするとともに、錘吊下部に錘を吊下げることで打診部を建造物の壁面に押圧した状態で、打診部と壁面との打診音又は摺動音を集音マイクで集音し、集音した打診音又は摺動音により建造物の壁面の状態を診断するところにある。
【0021】
以下、本実施形態に係る壁面検査装置について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る壁面検査装置の構成を示す斜視図である。図2は、本実施形態に係る壁面検査装置の打診部の構成を示す正面図である。図3は、本実施形態に係る壁面検査装置の打診部の構成を示す底面図である。図4は、本実施形態に係る壁面検査装置の打診部の動作を示す側面図である。図5は、本実施形態に係る壁面検査装置の使用例を示す側面図である。図6は、本実施形態に係る壁面検査装置の検査対象を含めた使用例を示す側面図である。図7は、本実施形態に係る作業者の乗車部と壁面検査装置とを備えた作業ボックスを示す側面図である。
【0022】
図1及び図2に示すように、壁面検査装置は、上枠11、下枠12及び左右枠13、13により矩形(四角形)に形成され、中央に矩形開口部を有する枠本体10と、枠本体10の下枠12に設けられた壁面Hを打診又は摺動する打診部20と、枠本体10の上枠11の左右両端にそれぞれ設けられた本体吊下部14、14と、枠本体10の上枠11の中央部に設けられた集音マイク16と、枠本体10の上枠11の左右両端に多段階で水平方向に伸縮自在に設けられた錘吊下部17、17と、枠本体10の左右枠13、13の側面上下にそれぞれに回動自在に設けられた4個の車輪15により構成される。上枠11、下枠12及び左右枠13、13の素材としては、耐久性のある鋼板等が好適に用いられる。
【0023】
枠本体10の下枠12に設けられた打診部20は、詳細は後述するが、複数(本実施形態では9個)の打診棒21の壁面H側先端に設けた打診球21aを検査する壁面Hに打診及び摺動させることで壁面検査データ(打診音又は摺動音)を発生させることができる機構を有している。
【0024】
枠本体10の上枠11の左右両端上部にそれぞれ設けられた本体吊下部14、14は、ワイヤロープRの一端を締結可能なようにリング状に形成されている。そして、図6に示すように、本体吊下部14、14にワイヤロープRの一端を締結し、建築物の屋上に設置された巻き上げ機30により、ワイヤロープRの他端を巻き上げ又は巻き下げることで、枠本体10を建造物の壁面Hの垂直方向に移動可能としている。
【0025】
枠本体10の左右枠13、13の側面上下に回動自在に設けた4個の車輪15は、枠本体10が壁面Hを上下動する際に気象(主に、風)によって煽られたとしても枠本体10と壁面Hが直に接触することを規制して壁面Hおよび枠本体10が破損することを防止している。なお、左右枠13、13の下部左右に設けられた2個の車輪15は、後述する打診部20を構成する打診棒21の先端の打診球21aの方が該車輪15の外周部よりも壁面H側に突出している。従って、枠本体10の下方において、打診球21aと壁面Hとの接触を維持することが可能となる。
【0026】
枠本体10の上枠11の中央部に設けられた集音マイク16は、打診棒21の壁面H側先端の打診球21aを検査する壁面Hに打診したり摺動したりした場合に発生する音(つまり、打診球21aによる壁面Hの打診音又は摺動音からなる壁面検査データ)を集音するためのものである。本実施形態における壁面検査時の壁面検査データの診断は、例えば、この集音マイク16からの壁面検査データを専用の解析ソフトがインストールされたパソコン(パーソナルコンピュータ)に入力して診断することができる。また、熟練の作業者が、集音マイク16からの壁面検査データを直接聴音することで、壁面Hの異常を診断することもできる。このように、上枠11の中央部に集音マイク16に設けることで、複数(本実施形態では9個)の打診棒21の先端の打診球21aを、検査する壁面Hに打診したり摺動したりして得られる壁面検査データ(打診音又は摺動音)を、枠本体10の中央に形成された矩形開口部を介して、遮られることなく効率よく集音できる構成としている。
【0027】
図1及び図5に示すように、枠本体10の上枠11の左右両端側面にそれぞれ設けられた錘吊下部17、17は、基端を壁面Hと反対側の上枠11の左右両端側面に固設し、先端の錘吊下端17aを水平方向に多段階(例えば、3段階)で伸縮自在としている。錘吊下端17aはリング状に形成されており所定重量の錘Wが吊下げられる。錘Wの上部にはワイヤロープRの一端が締結され、他端には錘Wを錘吊下端17aに係止するためのフックFが設けられている。そして、このフックFを錘吊下部17の錘吊下端17aに引っかけることで錘Wが吊下げられる構成としている。本実施形態においては、錘吊下部17の錘吊下端17aに吊下げる錘Wも重量の異なる複数の錘Wが予め用意されているため、錘吊下部17の錘吊下端17aにフックFで簡易に着脱できるようにしている。なお、フックFとしては、例えば、リング状の錘吊下端17aに着脱容易ではあるが、係止状態をロック可能な外れ止め金具を備えたフック等が好適に用いられる。
【0028】
このように錘吊下部17の錘吊下端17aに錘Wを吊下げられる構成とすることで、図5(a)に示すように、錘Wが吊下げられていない状態では、壁面Hと所定間隔を置いて枠本体10は、本体吊下部14、14により垂直に吊下げられた状態となる。これに対して、図5(b)に示すように、錘吊下部17の錘吊下端17aに錘Wが吊下げられると、枠本体10に錘Wの荷重(図中黒矢印)がかかり、本体吊下部14、14を中心として上枠11は壁面Hから離れる方向に傾動する。一方、下枠12は壁面Hに近づく方向に傾動し、下枠12に設けられた打診部20の複数(本実施形態では9個)の打診棒21の壁面H側の先端の打診球21aは、所定の圧力で壁面Hに押圧(図中白矢印)されることになる。
【0029】
このように、本実施形態においては、検査現場の気象(主に風力)の変化に対応して、錘吊下部17の水平方向の長さや、錘吊下部17の錘吊下端17aに吊下げる錘Wの重量を変更することで、打診部20(打診棒21の壁面H側の先端の打診球21a)と建造物の壁面Hとの押圧力を容易に調整可能としている。具体的には、壁面Hの周囲に強風が吹いている場合は、錘吊下部17の錘吊下端17aを最長に伸長し、錘吊下端17aに最重量の錘Wを吊下することで、打診部20(打診棒21の壁面H側の先端の打診球21a)と建造物の壁面Hとの押圧力を高め、強風により打診部20が煽られて壁面Hから離反するような状況を防止することができ、壁面Hの検査を確実に行うことができる。
【0030】
以下、図3~5を参照して、本実施形態における打診部20の構成及び動作を説明する。打診部20は、枠本体10の下枠12の壁面側に配設されており、複数(本実施形態では9個)の打診棒21が、取り付けフレーム25に等間隔に設置されている。打診棒21は、壁面H側先端の球状の打診球21aと、後端のワッシャ21bと、取り付けフレーム25に打診棒21を固定する固定部21dと、打診球21aと固定部21dとの間に配設されたコイルスプリング21cとにより構成される。打診棒21の素材としてはSUS(ステンレス鋼)が好適に用いられ、打診球21aの直径は20mm程度が望ましい。
【0031】
打診部20の駆動部は、モータMと、このモータMにより回動自在に連結されたアルミロッド22とにより構成される。アルミロッド22には、所定の等間隔で円盤型のセットカラー23が固設されており、このセットカラー23の外周には、セットカラー23の中心から放射状に引っかけピン24が延設されており、この引っかけピン24の先端は樹脂製の保護カバー24aで覆われている。
【0032】
上記構成により、モータMの回転に応じてアルミロッド22が回転し、アルミロッド22に所定の等間隔で固設されたセットカラー23が回転する。これにより、図4に示すように、セットカラー23の外周に設けられた引っかけピン24の先端(保護カバー24a)が、打診棒21の後端に設けられたワッシャ21bと接触し、水平に壁面Hから離れる方向に打診棒21を移動させる。これにより、打診棒21の打診球21aと固定部21dとの間に配設されたコイルスプリング21cが圧縮(図4(b))される。
【0033】
さらに、回転するセットカラー23の外周に設けられた引っかけピン24の保護カバー24aと、打診棒21の後端に設けられたワッシャ21bとの接触が進行すると、保護カバー24aとワッシャ21bとが略30度の角度で接触し、水平に壁面Hから最も離れる位置に打診棒21を移動させる。これにより、打診棒21の打診球21aと固定部21dとの間に配設されたコイルスプリング21cが最大に圧縮(図4(c))される。
【0034】
さらに、セットカラー23が回転すると、保護カバー24aとワッシャ21bとの接触が外れることで、打診棒21の壁面H側先端の打診球21aは、コイルスプリング21cの圧縮が解放されて壁面H側に突出し、打診球21aと壁面Hとが衝突することで打診音が発生する。
【0035】
なお、アルミロッド22に固設された円盤型のセットカラー23の外周に設けられた引っかけピン24は、各セットカラー23の外周に回転方向に異なる位相(略30度)となるように、セットカラー23の外周にそれぞれ延設されている。つまり、上述した、セットカラー23の回転による引っかけピン24の先端の保護カバー24aと打診棒21の後端のワッシャ21bとの接触及び接触の解除は、それぞれ9個の打診棒21毎にタイミングをずらす構成としている。これにより、9個の打診棒21の打診球21aと壁面Hとが異なるタイミングで衝突することで発生する打診音が重複することなく集音マイク16で集音することを可能としている。
【0036】
また、打診棒21の打診球21aと壁面Hとの摺動音を集音する場合は、全てのセットカラー23の回転による引っかけピン24の先端の保護カバー24aと、打診棒21を構成するワッシャ21bとが接触しない位置で、モータMの回転を停止した状態で行う。これにより、9個の打診棒21の打診球21aと壁面Hとが確実に接触した状態で、打診棒21の打診球21aと壁面Hとの摺動音を集音することができる。
【0037】
また、本壁面検査装置は図7に示すように作業者Sが乗車する乗車部Eを備えた装置とすることもできる。具体的に乗車部Eは、作業者Sを収容するための壁面H側側面と左右側面を開口部とした作業ボックス40と、該作業ボックス40内に固定された作業者の落下防止用の安全柵50と、該作業ボックス40の壁面H側の左右下端部にそれぞれ設けた2個の回動自在の車輪44と、該作業ボックス40の下板43の下面四隅近傍に形成した4個の車輪45で形成されている。
【0038】
作業ボックス40は図7に示すように、壁面H側の前面及び左右側面を開放して、略板状の上板41、背板42及び下板43によりその内部に作業者Sが乗車する乗車部Eのスペースを確保して側面視略コ字状に形成されている。
【0039】
上板41の壁面H側上面の左右両端部近傍には、リング状の作業ボックス吊下部46がそれぞれ配設されている。作業ボックス吊下部46は図7に示すようにワイヤロープRの一端部を締結し、他端部を建物屋上に設置した巻き上げ機30(図6参照)に連結しており、この巻き上げ機30によるワイヤロープRの巻き取り、巻き下げ作動によって作業ボックス40を上昇させたり下降させたりする。
【0040】
上板41の壁面H側の下面左右両端部近傍には、枠本体10を吊下げるリング状の吊下部47、47がそれぞれ配設されている。吊下部47、47はワイヤロープRの一端部が締結され、他端部を枠本体10の本体吊下部14、14に締結し、吊下部47、47の下方に、枠本体10を吊下げる構成としている。なお、枠本体10の錘吊下部17の錘吊下端17aに錘Wを吊下げることで、打診部20に設けた打診球21aを所定の圧力で壁面Hに押圧して、気象(主に、風)による枠本体10の揺動を低減しつつ安定して壁面検査をすることができる。
【0041】
背板42は壁面Hから最も離れた位置、すなわち、検査中の作業者Sの背面をガードする位置に設けられている。そのため、作業者Sが不意な突風などによりバランスを崩した際に最も対処しにくい背面側を保護し、作業者Sが乗車部Eから転落することを防止して、壁面検査時の作業者Sの安全を図っている。
【0042】
下板43は壁面H側の左右側面部には、それぞれ回動自在の車輪44、44が設けられている。車輪44、44の外周部は上板41及び下板43の壁面H側端部よりも壁面H側に突出しており、作業ボックス40が所定の作業位置まで下降、もしくは上昇する最中に気象(主に、風)で煽られたとしても、作業ボックス40と壁面Hが接触することを規制して壁面H及び作業ボックス40が破損することを防止している。
【0043】
下板43の下面部四隅近傍には、それぞれ4個の車輪45が配設されている。車輪45は回動自在であり、作業準備中及び作業終了後の作業ボックス40を移動させる場合の移動手段である。
【0044】
また、図7に示すように、作業ボックス40の下板43の両サイドの上面には安全柵50を備えている。この安全柵50は、作業ボックス40の検査中の作業者Sの左右側面をガードする位置に設けられている。安全柵50は、略パイプ状の上桟51、横桟52、下桟53、前桟54を組み合わせることで下板43の両サイドの上面にそれぞれ垂直に立設されている。このように、作業ボックス40の検査中の作業者Sの左右側面をガードする位置に設け、乗車部Eを形成して作業者Sを収容することで、作業ボックス40の左右側面の開口部から作業者Sが落下することを防止し、壁面検査時の作業者Sの安全を確保することができる。
【0045】
安全柵50を形成する前桟54は人が乗降するための乗降口としての開口部(図示せず)を設けることができる。その開口部(図示せず)には乗降時以外には開閉できないようにロック機構(図示せず)を設けることが望ましく、壁面検査時の作業者Sの安全性を確保する。
【0046】
このように作業ボックス40の背板42及び安全柵50により乗車部Eを形成することで、壁面検査時の作業者Sの安全を確保しつつ検査音(打診音又は摺動音)を直接もしくは集音マイク16を通じて聴音できる。その結果、作業者Sは補修が必要な箇所を検出するのと同時に印をつけることができる。そのため、壁面の状態検査における診断と補修箇所の可視化を同時に実行でき作業効率を向上させることができる。
【0047】
最後に、上述した実施形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施形態に限定されることはない。このため、上述した実施形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
10 枠本体
11 上枠
12 下枠
13 左右枠
14 本体吊下部
15 車輪
16 集音マイク
17 錘吊下部
20 打診部
21 打診棒
30 巻き上げ機
40 作業ボックス
50 安全柵
E 乗車部
H 壁面
M モータ
W 錘
R ワイヤロープ
S 作業者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7