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特許7086391キノイド型π共役系近赤外有機色素化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】キノイド型π共役系近赤外有機色素化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 491/22 20060101AFI20220613BHJP
   C07D 493/06 20060101ALI20220613BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20220613BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20220613BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
C07D491/22 CSP
C07D493/06
H01L31/04 168
H01L31/04 154D
H01L31/04 154C
C09K9/02 A
C09K3/00 105
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018178371
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2019059722
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2017183627
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名:基礎有機化学会、刊行物名:「第29回基礎有機化学討論会プログラム」 掲載年月日:平成30年9月6日から平成30年9月8日 http://www.chemistry.titech.ac.jp/▲~▼poc29/program.html
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第29回基礎有機化学討論会、発表日:平成30年9月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、プログラム・マネージャー(PM)の育成・活躍推進プログラム事業「ロイコ色素の大量合成法の確立」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100121153
【弁理士】
【氏名又は名称】守屋 嘉高
(74)【代理人】
【識別番号】100194892
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 麻美
(72)【発明者】
【氏名】村中 厚哉
(72)【発明者】
【氏名】内山 真伸
(72)【発明者】
【氏名】神野 伸一郎
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038987(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0179222(US,A1)
【文献】特表2009-523870(JP,A)
【文献】国際公開第2007/057367(WO,A2)
【文献】特表2008-541440(JP,A)
【文献】特表2004-532192(JP,A)
【文献】特開平11-184117(JP,A)
【文献】特開昭63-193960(JP,A)
【文献】特開2002-139619(JP,A)
【文献】Journal of the American Chemical Society,2018年12月03日,140,17857-17861
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される化合物。
【化1】
(一般式(1)中、Rは、それぞれ独立に有機基を示すが、複数のRが結合して環を形成してもよい。R1は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、複数のR1が結合して環を形成してもよい。mは0~4の数を示す。nは0~4の数を示す。)
【請求項2】
一般式(1)中のRで示される有機基が、それぞれ独立に、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基又はアルキルアリールアミノ基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
一般式(1-1)で表される請求項1に記載の化合物。
【化2】
(一般式(1-1)中、R1は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、複数のR1が結合して環を形成してもよい。nは0~4の数を示す。)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物を含有する近赤外光吸収材。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物を含有する太陽電池素子。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物を含有する有機半導体素子。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物を含有するエレクトロクロミック材料。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物を含有する膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物、特にキノイド型π共役系近赤外有機色素化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光より長波長領域にある近赤外光は生体透過性が高く、太陽光に多く含まれるため、近赤外光を吸収・発光する有機色素は生体イメージング、光線力学療法及び太陽電池などへの応用が期待されている。
これまでに、フタロシアニンやローダミンなどを母核とする近赤外光を吸収する有機色素が合成されてきた。しかしながら、その種類と数は限られており、またその多くは可視光も吸収するものである(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-116717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近赤外光に加えて可視光も吸収する有機色素は、可視光を吸収する結果有色となり、近赤外吸収フィルムなどの透明度が要求される用途へは適さない。
したがって、近赤外光を吸収し可視光領域の吸収が比較的少ない、新しい骨格を持つ近赤外有機色素の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、下記の化合物が上述した課題を解決できることを見出し、本発明に想到するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、次の発明を提供するものである。
【0007】
<1>
一般式(1)で表される化合物。
【化1】
(一般式(1)中、Rは、それぞれ独立に有機基を示すが、複数のRが結合して環を形成してもよい。R1は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、複数のR1が結合して環を形成してもよい。mは0~4の数を示す。nは0~4の数を示す。)
【0008】
<2>
一般式(1)中のRで示される有機基が、それぞれ独立に、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基又はアルキルアリールアミノ基である、<1>に記載の化合物。
【0009】
<3>
一般式(1-1)で表される<1>に記載の化合物。
【化2】
(一般式(1-1)中、R1は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、複数のR1が結合して環を形成してもよい。nは0~4の数を示す。)
【0010】
<4>
<1>~<3>のいずれか1項に記載の化合物を含有する近赤外光吸収材。
【0011】
<5>
<1>~<3>のいずれか1項に記載の化合物を含有する太陽電池素子。
【0012】
<6>
<1>~<3>のいずれか1項に記載の化合物を含有する有機半導体素子。
【0013】
<7>
<1>~<3>のいずれか1項に記載の化合物を含有するエレクトロクロミック材料。
【0014】
<8>
<1>~<3>のいずれか1項に記載の化合物を含有する膜。
【発明の効果】
【0015】
本発明の化合物は、近赤外光を吸収し可視光領域の吸収が比較的少ないものである。したがって、本発明の化合物は生体イメージング、光線力学療法及び太陽電池などへの応用のみならず、近赤外吸収フィルム等の透明度が要求される用途への応用も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1で得られた化合物B-1の吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを表す図である。
図2】実施例1で得られた化合物B-1のX線構造解析による結晶構造を表す図である。
図3】A:本発明の化合物1の理論吸収スペクトルを表す図である。B:本発明の化合物2の理論吸収スペクトルを表す図である。C:本発明の化合物に類似する構造を有する化合物3の理論吸収スペクトルを表す図である。
図4】実施例1で合成した化合物のジクロロメタン溶液のサイクリックボルタモグラムを表す図である。
図5】実施例1で合成した化合物の中性種、モノカチオンラジカル種及びジカチオン種における各吸収スペクトルを表す図である。
図6A】半導体特性評価に用いたFET素子の概略図である。
図6B】実施例1で合成した化合物の半導体特性評価の結果を表す図である。
図7A】光起電力特性評価に用いた光導電素子の概略図である。
図7B】実施例1で合成した化合物の光起電力特性評価の結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表されるものである。
【0019】
【化3】
【0020】
一般式(1)中、Rは、それぞれ独立に有機基を示すが、複数のRが結合して環を形成してもよい。R1は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、複数のR1が結合して環を形成してもよい。mは1~4の数を示す。nは0~4の数を示す。
【0021】
一般式(1)のRの有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基及びチオール基などが挙げられる。
【0022】
一般式(1)において、Rで表されるアルキル基は、炭素原子数1~20のアルキル基が好ましく、直鎖状でも分岐状でもよく、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基も含まれる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。アルキル基の水素原子はハロゲン原子等で置換されていてもよい。
【0023】
一般式(1)において、Rで表されるアルケニル基は、炭素原子数2~20のアルケニル基が好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。具体的には、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、ヘキセニル基、オクテニル基等が挙げられる。アルケニル基の水素原子はハロゲン原子等で置換されていてもよい。
【0024】
一般式(1)において、Rで表されるアルキニル基は、炭素原子数2~20のアルキニル基が好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。具体的には、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ヘキシニル基、オクチニル基等が挙げられる。アルキニル基の水素原子はハロゲン原子等で置換されていてもよい。
【0025】
一般式(1)において、Rで表されるアリール基は、炭素原子数6~20のアリール基が好ましく、単環式であっても多環式であってもよい。また、ベンゼン環又は縮合環2個以上が単結合又は2価の有機基、例えば、ビニレン基等のアルケニレン基を介して結合した基も含まれる。具体的には、フェニル基、アルキルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、2-ビフェニル基、3-ビフェニル基、4-ビフェニル基等が挙げられる。アリール基の水素原子はハロゲン原子等で置換されていてもよい。
前記アリール基のうち、アルキルフェニル基としては、フェニル基の水素原子が上述したアルキル基で置換されたものが挙げられる。具体的には、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ジメチルフェニル基、プロピルフェニル基、メシチル基、メチルエチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、n-ブチルフェニル基、イソブチルフェニル基、t-ブチルフェニル基等が挙げられる。
【0026】
一般式(1)において、Rで表される複素環基としては、5~6員環の単環又は5~6員環が2~6個縮合してなる縮合環からなるヘテロアリール基、5~6員環の単環又は5~6員環が2~6個縮合してなる縮合環からなるヘテロシクロアルキル基が挙げられ、ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。具体的には、チエニル基等の5員環の単環;ピリジル基、2-ピペリジニル基、2-ピペラジニル基等の6員環の単環;ベンゾチエニル基、カルバゾリル基、キノリニル基等の5~6員環が2~6個縮合してなる縮合環が挙げられる。
【0027】
一般式(1)において、Rで表されるアルキルアミノ基としては、N-メチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N-プロピルアミノ基、N-ブチルアミノ基、N-プロピルアミノ基、N-ヘキシルアミノ基、N-シクロヘキシルアミノ基等が挙げられる。
【0028】
一般式(1)において、Rで表されるアリールアミノ基としては、アニリノ基、2-メチルアニリノ基、2-エチルアニリノ基、2-イソプロピルアニリノ基、2,6-ジメチルアニリノ基、2,4,6-トリメチルアニリノ基、3-メチルアニリノ基、4-メチルアニリノ基等が挙げられる。
【0029】
一般式(1)において、Rで表されるジアルキルアミノ基が有する2つのアルキル基は、上述したアルキル基から選択され、互いに同種であっても異種であってもよい。具体的に、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、N,N-ジプロピルアミノ基、N,N-ジブチルアミノ基、N,N-ジプロピルアミノ基、N,N-ジヘキシルアミノ基等が挙げられる。
【0030】
一般式(1)において、Rで表されるジアリールアミノ基が有する2つのアリール基は、上述したアリール基から選択され、互いに同種であっても異種であってもよい。具体的に、N,N-ジフェニルアミノ基、N,N-ジトリルアミノ基、N-フェニル-N-トリルアミノ基等が挙げられる。
【0031】
一般式(1)において、Rで表されるアルキルアリールアミノ基が有するアルキル基及びアリール基は、上述したアルキル基及びアリール基からそれぞれ選択される。具体的に、N-メチル-N-フェニルアミノ基、N-エチル-N-フェニルアミノ基、N-プロピル-N-フェニルアミノ基、N-ブチル-N-フェニルアミノ基、N-ペンチル-N-フェニルアミノ基、N-ヘキシル-N-フェニルアミノ基、N-メチル-N-トリルアミノ基、N-エチル-N-トリルアミノ基、N-プロピル-N-トリルアミノ基、N-ブチル-N-トリルアミノ基、N-ペンチル-N-トリルアミノ基、N-ヘキシル-N-トリルアミノ基等が挙げられる。
【0032】
一般式(1)において、Rで表されるアルコキシ基は、炭素原子数1~20のアルコキシ基が好ましく、直鎖状でも分岐状でもよく、シクロアルコキシ基、ビシクロアルコキシ基も含まれる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基等が挙げられる。アルコキシ基の水素原子はハロゲン原子等で置換されていてもよい。
【0033】
一般式(1)において、Rで表されるアリールオキシ基は炭素原子数6~20のアリールオキシ基が好ましい。具体的に、フェノキシ基、アルキルフェノキシ基、アルコキシフェノキシ基、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基の水素原子はハロゲン原子等で置換されていてもよい。
前記アリールオキシ基のうち、アルキルフェノキシ基としては、フェノキシ基の水素原子が上述したアルキル基で置換されたものが挙げられる。
前記アリールオキシ基のうち、アルコキシフェノキシ基としては、フェノキシ基の水素原子が上述したアルコキシ基で置換されたものが挙げられる。
【0034】
一般式(1)の複数のRが結合して環を形成する場合、複数のRは窒素原子、酸素原子及び硫黄原子等のヘテロ原子を介して結合してもよい。具体的には、Rが結合する炭素原子が構成するベンゼン環と共に表すと、以下の態様が挙げられる。
【化4】
【0035】
一般式(1)において、Rとしては、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基及びアルキルアリールアミノ基が好ましく、ジアルキルアミノ基及びアルキルアリールアミノ基がより好ましい。
【0036】
一般式(1)において、mが1である場合、Rが結合する炭素原子は、特に限定されないが、Rが結合するベンゼン環の炭素原子に以下の構造式に示す1~4の番号を任意に付した場合、Rが結合する炭素原子は2位の炭素原子が好ましい。また、一般式(1)において、mが1である場合、一般式(1)中に存在する2つのRは互いに同一でも異なっていてもよい。
【化5】
【0037】
また、一般式(1)において、mが2~4の場合、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0038】
一般式(1)のR1のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。また、炭素数1~6のアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基も含まれる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。R1が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0039】
一般式(1)で表される化合物は、一般式(2)で表される化合物を酸の存在下反応させることにより製造することができる。
【化6】
【0040】
一般式(2)中、R、R1、m及びnは一般式(1)におけるR、R1、m及びnとそれぞれ同義である。
【0041】
一般式(2)で表される化合物は、例えば、既報(WO2017/038987)に従い製造することができる。具体的には、一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物とを反応させ一般式(5)で表される化合物を製造し、次に前記一般式(5)で表される化合物とヒドロキノンとを縮合剤の存在下反応することにより、一般式(2)で表される化合物が製造できる。
【化7】
【0042】
一般式(3)~(5)中、R、R1、m及びnは一般式(1)におけるR、R1、m及びnとそれぞれ同義である。
一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物とをほぼ等モル量混合し、両化合物を溶解することができ、これらの化合物と反応しない溶媒下で還流することで、一般式(5)で表される化合物を得ることができる。該溶媒としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン等が挙げられる。また、この反応は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性雰囲気下で行なうことが好ましい。この反応時間は好ましくは5~48時間、より好ましくは5~12時間程であり、反応終了後、反応生成物をシリカゲルクロマトグラフィー等で精製してもよい。
次に、ヒドロキノンと、ヒドロキノンに対して2~3倍当量、好ましくは約2倍当量の上記で得られた一般式(5)で表される化合物とを混合し、縮合剤の存在下反応する。ここで、縮合剤としては特に限定されないが、硫酸、塩酸、リン酸、ポリリン酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、三塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化ホスホリル等が挙げられる。この反応温度は室温~200℃程であり、室温~150℃が好ましい。反応時間は反応温度にもよるが、通常10分~3日間程であり、加熱する場合は特に2~20時間、より好ましくは3~12時間である。反応終了後、反応液を中和し、精製することで、一般式(2)で表される化合物を得ることができる。
【0043】
こうして得られた一般式(2)で表される化合物と、一般式(2)で表される化合物に対して102~106倍当量、好ましくは104~105倍当量の酸とを混合し、80~150℃、好ましくは120~140℃で反応する。ここで、酸としては特に限定されないが、硫酸、ポリリン酸等が挙げられる。この反応時間は2~48時間程が好ましく、3~18時間程がより好ましい。反応終了後、反応液を中和し、常法により精製することで、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0044】
また、一般式(1)で表される化合物の別の製造方法として、一般式(5)で表される化合物とヒドロキノンとを酸の存在下反応する方法も挙げられる。
ヒドロキノンと、ヒドロキノンに対して2~3倍当量、好ましくは約2倍当量の一般式(5)で表される化合物とを混合し、ヒドロキノンに対して102~106倍当量、好ましくは104~105倍当量の酸の存在下反応する。ここで、酸としては特に限定されないが、硫酸、ポリリン酸等が挙げられる。この反応温度は70~170℃が好ましく、80~150℃がより好ましく、120~140℃が更に好ましい。この反応時間は2~100時間が好ましく、2~48時間程がより好ましく、3~18時間程が更に好ましい。このとき、上述した温度範囲において、異なる温度で段階的に反応を行なってもよい。この場合、第1の温度は70℃以上100℃未満、第2の温度は100℃以上150℃未満、第3の温度は150℃以上170℃以下とし、第1の温度から第2の温度、必要に応じて第2の温度から第3の温度と反応温度を段階的に上げることが好ましい。各温度における反応時間は反応の進行状況により適宜決定すればよい。反応終了後、反応液を中和し、常法により精製することで、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
さらに、一般式(1)で表される化合物の別の製造方法として、上記製造方法においてヒドロキノンの代わりに、1,4-ジメトキシベンゼンを用いる方法、すなわち、一般式(5)で表される化合物と1,4-ジメトキシベンゼンとを酸の存在下反応する方法も挙げられる。1,4-ジメトキシベンゼンを用いる方法の反応物の量比及び酸の種類は上述したヒドロキノンを用いる方法と同様である。この反応温度は70~170℃程であり、反応時間は2~100時間程である。このとき、70~170℃の温度範囲において、異なる温度で段階的に反応を行なってもよい。この場合、第1の温度は70℃以上100℃未満、第2の温度は100℃以上150℃未満、第3の温度は150℃以上170℃以下とし、第1の温度から第2の温度、必要に応じて第2の温度から第3の温度と反応温度を段階的に上げることが好ましい。各温度における反応時間は反応の進行状況により適宜決定すればよい。
【0045】
前記一般式(1)で表される化合物は、種々の用途(近赤外吸収材料、有機半導体素子、太陽電池素子、(エレクトロ)クロミック素子等)に用いることができる。また、前記化合物を、種々の媒体(媒体は、有機溶媒等の液体であっても、高分子材料等の固体であってもよい)中に、溶解又は分散した組成物として、種々の用途に供することもできる。また、前記化合物又は前記組成物から、膜を形成し、当該膜を上記用途に供してもよい。
【0046】
前記一般式(1)で表される化合物は、近赤外領域(例えば700~900nm)に極大吸収を有し、近赤外吸収材料として有用である。また、同領域の蛍光特性を示すので、近赤外発光材料としても有用である。
【0047】
前記一般式(1)で表される化合物は、半導体特性(例えばホール輸送能)を有し、有機半導体素子の材料として有用である。また、近赤外領域の光に応答する光電特性を示し、太陽電池素子の材料として有用である。
【0048】
前記一般式(1)で表される化合物(例えば、以下に示す化合物B-1(以下の式中、Rはヘキシル基である。))は、電気的ないし化学的に酸化され、例えば以下の式(X)で表す通り、吸収波長がそれぞれ異なる、モノカチオンラジカル種(式B-1・+)、及びジカチオン種(式B-12+)に2段階に可逆的に変化する(エレクトロ)クロミック素子の材料として有用である。モノカチオンラジカル種(式B-1・+)の近赤外領域の吸収波長は、中性種(B-1)の吸収波長より長波長にシフトするのみならず、さらに長波長領域(例えば、光通信に利用され得る1200nm~1400nm程度の波長領域)にも吸収ピークを示す場合がある。
【化8】
【0049】
前記化合物の化学的酸化には、例えば、酸、酸化剤等を用いることができる。また、前記化合物の電気的酸化は、前記化合物を含む組成物(前記化合物は組成物中で溶解しても分散していてもよく、また媒体は液体であっても固体であってもよい。また媒体中に任意成分として電解質を添加してもよい)に、正の電圧を印加することで実施できる。例えば、式B-1の化合物から式B-1・+の化合物への酸化には、V1(V1>0)を印加し、式B-1・+の化合物から式B-12+への酸化には、V2(V2>V1)を印加する等である。
【実施例
【0050】
以下、実施例を挙げて、本願発明をさらに詳細に説明するが、本願発明は下記の例に制限されるものではない。
【0051】
1H-NMRは、JNM-AL400(日本電子社製)またはJNM-AL300(日本電子社製)用いて測定した。
吸収スペクトルは、JASCO V-670(日本分光社製)を用いて測定した。
蛍光スペクトルは、JASCO FP-6600(日本分光社製)を用いて測定した。
MSスペクトルは、micrOTOF-QIII(Bruker Daltonics社製)またはUltraflex(Bruker Daltonics社製)を用いて測定した。
X線構造解析は、XtaLAB PRO MM007(Rigaku社製)を用いて測定した。
【0052】
[実施例1]
[実施例1-1]
ヘキシル基を有するiso-ABPX(化合物A-1, 0.012 mmol, 文献:WO/2017/038987号公報記載の手法により合成)を濃硫酸(1 mL)に加え、3 時間 140 ℃にて撹拌後、反応溶液を室温まで放冷し、炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。反応混合物をクロロホルムで抽出後、プレパラティブ薄層クロマトグラフィーにて精製を行い、化合物B-1を深緑色固体として得た。収率は 21 % であった。反応式は以下に示す。
【0053】
【化9】
【0054】
化合物B-1のデータ:
400 MHz 1H-NMR(CDCl3/TMS)δ(ppm):8.70(2H, d), 8.43(2H, d), 8.02(2H, d), 7.70(2H, t), 7.65(2H, t), 6.93(2H, d), 6.70(2H, d), 3.40(8H, t), 1.67(8H, m), 1.36(24H, m), 0.93(12H, t).
IR(ATR, cm-1):2954, 2925, 2854, 1619, 1587, 1568, 1474, 1449, 1407, 1366, 1288, 1266, 1211, 1197, 1124, 1013.
UV/vis/NIR:λmax = 835 nm(CHCl3
Fluorescence:λmax = 873 nm(CHCl3)、φF=3.2%.
HRMS(ESI)m/z calcd. for C58H66N2O4([M]+):854.5017, found:854.5030.
【0055】
[実施例1-2]
ヘキシル基を有するiso-ABPX(化合物A-1, 0.231 mmol, 文献:WO/2017/038987号公報記載の手法により合成)を濃硫酸(10 mL)に加え、3 時間 140 ℃ にて撹拌後、反応溶液を室温まで放冷し、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、クロロホルムで抽出した。クロロホルム・メタノールによる再沈殿と中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製を行い、化合物B-1と化合物C-1を深緑色固体として得た。収率はそれぞれ 17 %, 21 % であった。反応式は以下に示す。
【化10】
【0056】
化合物C-1のデータ:
400 MHz 1H-NMR(CDCl3/TMS)δ(ppm):8.70(2H, d), 8.41(2H, m), 8.02(1H, d), 7.96(1H, d), 7.67(4H, m), 6.94(1H, d), 6.90(1H, d), 6.66(1H, d), 6.60(1H, d), 3.41(4H, br), 3.25(2H, br), 1.69(6H, m), 1.43(18H, m), 0.93(9H, t).
IR(ATR, cm-1):3414, 2925, 2854, 1612, 1586, 1566, 1513, 1445, 1403, 1341, 1266, 1206, 1126, 1013.
UV/vis/NIR:λmax = 818 nm(CHCl3).
HRMS(ESI)m/z calcd. for C52H54N2O4([M]+):770.4078, found:770.4092.
【0057】
[実施例1-3]
ヘキシル基を有するiso-ABPX(A, 0.012 mmol, 文献:WO/2017/038987号公報記載の手法により合成)をポリリン酸(1 mL,和光純薬工業株式会社より購入、販売元コード162-03032)に加え、3 時間 140 ℃にて撹拌後、反応溶液を室温まで放冷し、炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。反応混合物をクロロホルムで抽出後、プレパラティブ薄層クロマトグラフィーにて精製を行い、化合物B-1を深緑色固体として得た。収率は 15 % であった。反応式は以下に示す。
【化11】
【0058】
実施例1で得られた化合物B-1をクロロホルムに溶解し、吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定した。各スペクトルを図1に示す。化合物B-1は、約835 nmに主吸収帯を持ち、近赤外光を吸収することがわかった。
また、実施例1で得られた化合物B-1のX線構造解析より得られた結晶構造を図2に示す。なお、化合物B-1の結晶構造において、2分子間の炭素-炭素最短距離は、3.27オングストロームであった。また、後述する化合物B-2の結晶についてもX線構造解析をしたところ、2分子間の炭素-炭素最短距離は同様であった。
濃硫酸又はポリリン酸といった酸を用いてヘキシル基を有するiso-ABPXから近赤外光を吸収する化合物B-1とアルキルアミノ基を有する化合物C-1をそれぞれ合成することができた。
【0059】
[実施例2]
ペンチル基を有するiso-ABPX(化合物A-2, 0.047 mmol, 文献:WO/2017/038987号公報記載の手法により合成)を濃硫酸(3 mL)に加え、18時間 120 ℃ にて撹拌後、反応溶液を室温まで放冷し、2M NaOH水溶液で中和した。反応混合物をクロロホルムで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製を行い、化合物B-2を深緑色固体として得た。収率は 19 % であった。反応式は以下に示す。
【化12】
【0060】
化合物B-2のデータ:
UV/Vis/NIR:λmax = 836 nm(CHCl3).
MS(MALDI)m/z calcd. for C54H58N2O4([M]+):798.4397, found:798.
【0061】
[実施例3]
2-(4-(ジブチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸(化合物D-3, 0.2 mmol)及びヒドロキノン(化合物E-3, 0.1 mmol)の混合物を濃硫酸(0.4 mL)に加え、140 ℃で 3 時間撹拌した。反応液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和し、クロロホルムで抽出した。有機層をシリカゲルカラムクロマトグラフィー、次いでサイズ排除クロマトグラフィーを用いて精製し、化合物B-3を深緑色固体として得た。収率は7 %であった。反応式は以下に示す。
【化13】
【0062】
化合物B-3のデータ:
UV/Vis/NIR:λmax = 835 nm(CHCl3).
MS(MALDI)m/z calcd. for C50H50N2O4([M]+):742.3771, found:742.
【0063】
[実施例4]
窒素原子上にエチル基、安息香酸部位にtert-ブチル基を有するiso-ABPX(化合物A-4, 0.05 mmol, 文献:WO/2017/038987号公報記載の手法により合成)を濃硫酸(3 mL)に加え、18時間 120℃にて撹拌後、反応溶液を室温まで放冷し、2M NaOH水溶液で中和した。反応混合物をクロロホルムで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、次いでサイズ排除カラムクロマトグラフィーにて精製を行い、化合物B-4を深緑色固体として得た。収率は36% であった。反応式は以下に示す。
【化14】
【0064】
化合物B-4のデータ:
UV/Vis/NIR:λmax = 825 nm(CHCl3).
MS(MALDI)m/z calcd. for C50H50N2O4([M]+):742.3771, found:742.
【0065】
[実施例5]
2-(4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸 (化合物 D-5, 0.319 mmol) 及び1,4-ジメトキシベンゼン (化合物 E-5, 0.159 mmol) の混合物を濃硫酸 (5 mL) に加え、75℃で24 時間撹拌した。続いて、100℃に昇温し24時間攪拌したのち、160℃に昇温し6時間攪拌した。反応液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和し、クロロホルムで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒留去し、メタノールを加えて再結晶を行なった。得られた緑色粉末をジクロロメタンに溶解させ、アセトニトリル・トルエン混合溶媒を加えることで化合物B-5を深緑色固体として沈殿、回収した。収率は 31 %であった。反応式は以下に示す。
【0066】
【化15】
【0067】
化合物B-5のデータ:
400 MHz 1H-NMR(CDCl3/TMS)δ(ppm): 8.73 (d, 2H), 8.46 (d, 2H), 8.07 (d, 2H), 7.80-7.60 (m, 4H), 6.98 (d, 2H), 6.90-6.70 (m, 2H), 3.60-3.40 (m, 8H), 1.40-1.20 (m, 12H).
UV/Vis/NIR: λmax = 825 nm (CHCl3).
HRMS (ESI) m/z calc. for C42H34N2O4 ([M]+): 630.2513, found: 630.2500.
【0068】
[実施例6]
2-(4-(ジペンチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸 (化合物 D-2, 0.25 mmol) 及び ヒドロキノン (化合物 E-3, 0.123 mmol)の混合物を濃硫酸 (10 mL) に加え、75℃で72時間撹拌した。続いて、100℃に昇温し24 時間攪拌したのち、160℃に昇温し 2時間攪拌した。氷浴中、反応液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和し、クロロホルムで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒留去し、メタノールを加えて再結晶を行なった。得られた緑色粉末をジクロロメタンに溶解させ、アセトニトリル・トルエン混合溶媒を加えることで化合物 B-2の粗結晶を深緑色固体として得た。B-2の粗結晶をクロロホルムに溶解させ、サイズ排除カラムクロマトグラフィーにて精製し、B-2を 3.9%の収率で得た。反応式は以下に示す。
【0069】
【化16】
【0070】
化合物B-2のデータ:
400 MHz 1H-NMR(CDCl3/TMS)δ(ppm):δ 8.71 (d, 2H), 8.45 (d, 2H), 8.03 (d, 2H), 7.80-7.60 (m, 4H), 6.93 (d, 2H), 6.72 (dd, 2H), 3.42 (t, 8H), 1.80-1.50 (m, 12H), 1.50-1.30 (m, 16H), 1.10-0.80 (m, 12H).
UV/Vis/NIR: λmax = 836 nm (CHCl3).
MS (ESI) m/z calc. for C54H58N2O4 ([M]+): 798.4397, found: 798.
【0071】
[実施例7]
ジュロリジンを有するiso-ABPX(化合物A-7, 0.02mmol, 文献:WO/2017/038987号公報記載の手法により合成)を濃硫酸(1.5 mL)に加え、18時間 120 ℃にて攪拌後、反応溶液を室温まで放冷し、2M NaOH水溶液で中和した。反応混合物をクロロホルムで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製を行い、化合物B-7を緑色固体として得た。収率は5 % であった。反応式は以下に示す。
【0072】
【化17】
【0073】
化合物B-7のデータ:
UV/Vis/NIR:λmax = 862 nm(CHCl3).
MS(MALDI)m/z calcd. for C46H34N2O4([M]+):678.2519, found:678.
【0074】
[実施例8]
[実施例8-1]
3-(ジヘキシルアミノ)フェノール (化合物 F-8, 3.59 mmol) と 4-(tert-ブチル)フタル酸無水物 (化合物 G-8, 10.8 mmol,東京化成工業株式会社より購入、販売元コード B1337) をトルエン (15 mL) に溶解し、120 ℃で終夜攪拌した。室温まで放冷後、減圧して溶媒を留去し、赤紫色の油状の化合物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーとサイズ排除クロマトグラフィーで分離し、化合物D-8を D-8a : D-8b = 0.5:0.5 の位置異性体混合物として得た。収率は59 % であった。反応式は以下に示す。
【0075】
【化18】
【0076】
化合物D-8のデータ:
400 MHz 1H-NMR(CDCl3/TMS)δ(ppm):12.63 (s, 1H for D-8a), 12.62 (s, 1H for D-8b), 8.12 (s, 1H for D-8a), 8.03 (d, J = 8.4 Hz, 1H for D-8b), 7.63 (d, J = 8.0 Hz, 1H for D-8a), 7.54 (d, J = 8.4 Hz, 1H for D-8b), 7.35 (s, 1H for D-8b), 7.30 (d, J = 8.0 Hz, 1H for D-8a), 6.94 (d, J = 8.8 Hz, 1H for D-8a), 6.86 (d, J = 8.8 Hz, 1H for D-8b), 6.16-6.07 (m, 2H for D-8a and D-8b), 6.07-5.96 (m, 2H for D-8a and D-8b), 3.37-3.15 (m, 8H for D-8a and D-8b), 1.68-1.49 (m, 8H for D-8a and D-8b), 1.37 (s, 9H for D-8b), 1.33 (s, 9H for D-8a), 1.32-1.22 (m, 24H for D-8a and D-8b), 0.96-0.81 (m, 12H for D-8a and D-8b).
100 MHz 13C-NMR(CDCl3/TMS)δ(ppm): 198.83, 198.52, 165.49, 156.72, 154.33, 154.30, 152.65, 138.17, 134.77, 134.58, 131.10, 129.61, 128.24, 128.14, 127.56, 126.22, 125.13, 109.92, 103.91, 103.87, 97.15, 51.16, 35.26, 34.91, 31.61, 31.12, 30.99, 27.29, 26.69, 22.64, 14.03.
HRMS (ESI) m/z calcd. for C30H42NO4 ([M-H]-): 480.3108, found: 480.3093.
【0077】
[実施例8-2]
実施例8-1で得られた化合物D-8 (0.76 mmol) を濃硫酸 (0.7 mL) に加熱しながら溶解し、1,4-ジメトキシベンゼン (化合物 E-5, 0.37 mmol) を加え、95℃で 3 日間撹拌した。その後、濃硫酸 (6.3 mL) を加え、130℃まで昇温し 6時間撹拌した。室温まで放冷後、冷やしながら飽和重曹水で溶液を弱塩基性にし、クロロホルム (100 mL) で抽出した。減圧してクロロホルムを留去し、緑色固体を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、緑色固体を得た。最後にメタノールとクロロホルムから再沈殿によって、化合物B-8を B-8a:B-8b:B-8c = 0.25:0.5:0.25 の位置異性体混合物として得た。収率は10 % であった。反応式は以下に示す。
【0078】
【化19】
【0079】
化合物B-8のデータ:
400 MHz 1H-NMR(CDCl3/TMS)δ(ppm):8.79-8.72 (m, 2H for B-8a, 1H for B-8b), 8.69-8.59 (m, 1 H for B-8b, 2H for B-8c), 8.49-8.32 (m, 2H for B-8a, 1H and 1H for B-8b, 2H for B-8c), 8.12-8.02 (m, 2H for B-8a, 1H for B-8b), 8.23-7.92 (m, 1H for B-8b, 2H for B-8c), 7.83-7.75 (m, 2H for B-8a, 1 H for B-8b), 7.75-7.65 (m, 1H for B-8b, 2H for B-8c), 6.99-6.87 (m, 2H for B-8a, B-8b, and B-8c), 6.80-6.60 (m, 2H for B-8a, B-8b, and B-8c), 3.53-3.29 (m, 8H for B-8a, B-8b, and B-8c), 1.79-1.64 (m, 8H for B-8a, B-8b, and B-8c), 1.52-1.44 (m, 18H for B-8a, 9H and 9H for B-8b, 18 H for B-8c), 1.44-1.29 (m, 24H for B-8a, B-8b, and B-8c), 1.00-0.85 (m, 12H for B-8a, B-8b, and B-8c).
UV/Vis/NIR: λmax = 828 nm (CHCl3)、ε>7×104-1cm-1
Fluorescence:λmax = 865 nm(CHCl3)、φF=4.9%.
HRMS (ESI) m/z calc. for C66H82N2O4 (M+): 966.6269, found: 966.6252.
【0080】
[実施例9]
[実施例9-1]
3-(ジヘキシルアミノ)フェノール (化合物 F-8, 3.62 mmol) と 4,5-ジクロロフタル酸無水物 (化合物 G-9, 5.43 mmol,東京化成工業株式会社より購入、販売元コード D2335) を トルエン (10 mL) に溶解し、120℃で 5時間攪拌した。室温まで放冷後、減圧して溶媒を留去し、赤紫色の油状の化合物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し化合物D-9を得た。収率は 91 % であった。反応式は以下に示す。
【0081】
【化20】
【0082】
化合物D-9 のデータ:
400 MHz 1H-NMR(CDCl3/TMS)δ(ppm): 12.29 (s, 1H), 8.18 (s, 1H), 7.46 (s, 1H), 6.84 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 6.10 (s, 1H), 6.05 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 3.28 (t, J = 7.8 Hz, 4H), 1.71-1.50 (m, 4H), 1.40-1.19 (m, 12H), 0.99-0.79 (m, 6H).
100 MHz 13C-NMR(CDCl3/TMS)δ(ppm): 194.73, 168.36, 165.51, 154.67, 140.49, 137.73, 134.22, 133.64, 133.00, 130.16, 127.16, 109.25, 104.33, 97.21, 51.20, 31.58, 27.28, 26.67, 22.64, 14.03.
HRMS (ESI) m/z calc. for C26H32Cl2NO4 ([M-H]-): 492.1703, found: 492.1681.
【0083】
[実施例9-2]
実施例9-1で得られた化合物D-9 (1.24 mmol) を濃硫酸 (1 mL) に加熱しながら溶解し、1,4-ジメトキシベンゼン (化合物 E-5, 0.59 mmol) を加え、95℃で 3日間撹拌した。その後、濃硫酸 (11 mL) を加え、150℃まで昇温し 3時間撹拌した。室温まで放冷後、冷やしながら飽和重曹水で溶液を弱塩基性にし、クロロホルム (150 mL) で抽出した。減圧してクロロホルムを留去し、褐色固体を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、茶褐色固体を得た。最後にメタノールとクロロホルムから再沈殿によって、化合物B-9を得た。収率は 1 % であった。反応式は以下に示す。
【0084】
【化21】
【0085】
化合物B-9のデータ:
400 MHz 1H-NMR(CDCl3/TMS)δ(ppm): 8.66 (s, 2H), 8.43 (s, 2H), 7.80 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 6.76 (s, 2H), 6.68 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 3.54-3.30 (m, 8H), 1.80-1.62 (m, 8H), 1.50-1.32 (m, 24H), 1.04-0.91 (m, 12H).
UV/Vis/NIR: λmax = 874 nm (CHCl3)、ε>7×104-1cm-1
Fluorescence:λmax = 919 nm(CHCl3)、φF=2.0%.HRMS (ESI) m/z calc. for C58H62N2O4Cl4 (M+): 992.3442, found: 992.3410.
【0086】
以上の実施例で得られた各化合物について、クロロホルム中での極大吸収波長を表1にまとめる。
【表1】
【0087】
実施例で得られた各化合物は、RやR1といった置換基の種類によらず、いずれも近赤外光を吸収することがわかった。
そこで、実施例1で得られた化合物B-1のX線構造座標を利用して、TDDFT法(B3LYP/6-31G*)により以下の化合物の理論吸収スペクトル計算を行なった。
【0088】
一般式(1)におけるRがジアルキルアミノ基である化合物として、以下の化合物1の理論吸収スペクトル計算を行なった。ここで、化合物B-1、B-2及びB-3の吸収波長の実測値はいずれも835~836 nmであり、ジアルキルアミノ基のアルキル基の炭素数が吸収波長に及ぼす影響が少ないと考えられるため、炭素数の最も少ないジメチルアミノ基を有する下記化合物1を理論計算に用いた。この化合物1の理論吸収スペクトルを図3(A)に示す。
【化22】
【0089】
また、一般式(1)において、m=0、n=0である以下の化合物2の理論吸収スペクトル計算を行なった。この化合物2の理論吸収スペクトルを図3(B)に示す。
【化23】
【0090】
更に、一般式(1)で表される化合物に類似する構造を有する化合物として、Org.Lett., 2009, 11, pp 1813-1816に記載の、以下の化合物3の理論吸収スペクトル計算を行なった。この化合物3の理論吸収スペクトルを図3(C)に示す。なお、化合物3のジクロロメタン中の極大吸収波長の実測値は578 nmである。
【化24】
【0091】
本発明の新規骨格を有する化合物1は、類似構造を有する化合物3に比べて、主吸収帯がかなり長波長領域に有することが実験結果からわかった。また、理論計算上も、化合物3に比べて、化合物2の主吸収帯は長波長領域に有することから、化合物2の構造で表される本発明の新規骨格自体を有する化合物は近赤外光を吸収することが示唆された。
【0092】
<耐熱性試験>
実施例3で合成した化合物B-3(吸収極大波長λabs=829nm)をジクロロメタンに溶解して、試料溶液を調製した。この溶液を、2つの同一のガラス瓶に2等分してそれぞれ注ぎ、窒素ガスを吹き付けて、ジクロロメタンを蒸発させた。2つのガラス瓶の内部には、化合物B-3が膜状に残存していた。この2つのガラス瓶のうち一方を、250℃で30分間、加熱処理した。その後、加熱処理したガラス瓶、及び加熱処理していないガラス瓶のそれぞれに、ジクロロメタンを等量注ぎ、膜状となっていた化合物B-3を再び溶解し、それぞれ溶液試料とした。加熱処理していない化合物B-3の溶液の吸収極大波長の吸光度I0に対する、加熱処理した化合物B-3の溶液の吸収極大波長の吸光度Iの割合(I/I0×100)を算出したところ、98%であった。このことから、一般式(1)の化合物は耐熱性に優れることが理解できる。
なお、同様に、近赤外に吸収を有する有機系化合物、ナフタロシアニン及びシアニン系色素(IR-813 p-トルエンスルホナート)についても、同様に耐熱性を評価したところ、ナフタロシアニンは、化合物B-3と同様か若干劣る程度の耐熱性を示し、IR-813は耐熱性が顕著に劣っていた。
【0093】
<電気化学的評価>
実施例1で合成した化合物B-1について、サイクリックボルタンメトリーを用いて、電気化学的安定性を評価した。具体的には、以下の通りである。
化合物B-1及び電解質TBAP(過塩素酸テトラブチルアンモニウム)を、ジクロロメタンに溶解して、溶液を調製した。なお、TBAPの濃度は0.1Mとした。この溶液を試料として、電気化学測定システム(北斗電工社製)を用いて、大気雰囲気下電極電位を0V→1V→-0.1Vに掃引して、応答電流を測定した。これを50サイクル行なった。結果を図4に示す。なお、図4中、上側は酸化過程を、下側は還元過程を示し、酸化過程の最初(低電位)のピークは、中性種からモノカチオンラジカル種への酸化、酸化過程の2番目(高電位)のピークは、モノカチオンラジカル種からジカチオン種への酸化にそれぞれ帰属され、還元過程の最初(高電位)のピークは、ジカチオン種からモノカチオンラジカル種への還元、還元過程の2番目(低電位)のピークは、モノカチオンラジカル種から中性種への還元、それぞれに帰属される。
図4に示す結果から、一般式(1)の化合物は、電気化学的安定性が高いことが理解できる。
【0094】
<エレクトロクロミック性能評価>
実施例1で合成した化合物B-1について、以下の方法でエレクトロクロミック性能を評価した。
化合物B-1の0.1M TBAP/ジクロロメタン溶液を調製した。この溶液の吸収スペクトルを図5に示す。次に、この溶液に対して、電気化学測定システム(北斗電工社製)を用いて、第一酸化電位に対応する200mVの正の電圧を印加した後、同様に吸収スペクトルを測定した結果、さらに第二酸化電位に対応する700mVの正の電圧を印加した後、同様に吸収スペクトルを測定した結果を併せて、図5に示す。
図5に示した結果から、一般式(1)の化合物は、近赤外領域において安定的にエレクトロクロミック性を示すことが理解できる。
【0095】
<半導体特性評価>
実施例1で合成した化合物B-1について、以下の方法でFET素子を作製し、半導体特性(ホール輸送性)を評価した。
作製したFET素子の概略図を図6Aに示す。FET素子の基板としてSi/SiO2(厚さ300nm)を用い、該基板に対して2-プロパノール、アセトン及びクロロホルムの各溶媒を用いて順に超音波洗浄を行なったのち、UVオゾン洗浄を行い、基板表面上の有機化合物を除去した。続いて、洗浄後の基板に、終夜OTS溶液を浸潤させ、ヘキサンリンスを行なったのち、空気中120℃で2分間アニーリングし、基板にOTS処理を施した。次に、化合物B-1のクロロホルム溶液(13mg/mL)を調製し、該クロロホルム溶液をクロマトディスク(4N/0.45μm)によりろ過し、ろ液をスピンコート(1000rpm、10sec)によりOTS処理後の基板に塗布し、常温で2時間乾燥させることにより、膜厚106nmの有機薄膜層を形成した。最後に、金電極を蒸着させることにより、トップコンタクト-ボトムゲート型FET素子を作製した。
結果を図6Bに示す。ホール輸送性μhは、1.6×10-3cm2-1-1であった。図6Bの結果から、一般式(1)の化合物は正極性半導体材料として有用であることがわかる。
【0096】
<光起電力特性評価>
実施例1で合成した化合物B-1について、以下の方法で光導電素子を作製し、光起電力特性を評価した。
光導電素子の基板として、パターン化ITO基板を用い、該基板に対して純水、2-プロパノール、アセトン及びクロロホルムの各溶媒を用いて順に超音波洗浄を行なったのち、UVオゾン洗浄を行い、基板表面の有機化合物を除去した。次に、化合物B-1とPVK(ポリ(ビニルカルバゾール))のクロロホルム溶液(2.1mg/4.9mg/0.4mL)を終夜撹拌して調製し、該クロロホルム溶液をクロマトディスク(4N/0.45μm)によりろ過し、ろ液をスピンコート(1000rpm、10sec)により基板に塗布し、50℃で4時間乾燥させることにより、膜厚140nmの有機薄膜層を形成した。最後に、金電極を蒸着させることにより、サンドイッチ型の光導電素子を作製した。
結果を図7に示す。図7の結果から、一般式(1)の化合物は、近赤外領域に応答して起電力を生じることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の化合物は、近赤外光を吸収する化合物として、生体イメージング、光線力学療法、太陽電池、有機半導体、近赤外吸収材及びエレクトロクロミック素子(例えば、スマートウィンドウ、電気的に切り替え可能なサングラス等)等様々な分野に有用な化合物として期待される。
【符号の説明】
【0098】
1 金電極
2 有機薄膜層
3 Si/SiO2基板
4 ITO基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B