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特許7086450リスク評価装置、リスク評価方法及びプログラム。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】リスク評価装置、リスク評価方法及びプログラム。
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/08 20120101AFI20220613BHJP
【FI】
G06Q40/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021169252
(22)【出願日】2021-10-15
【審査請求日】2021-10-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595140170
【氏名又は名称】東京海上日動火災保険株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 由剛
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 茂雄
【審査官】阿部 潤
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-516308(JP,A)
【文献】特開2015-031993(JP,A)
【文献】特開2004-054954(JP,A)
【文献】特開2017-084312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
G16H 10/00 - 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定期間における年ごとの企業の債務不履行率を格納する第1データベースと、前記企業が倒産した場合に保険会社が受ける損害額を格納する第2データベースと、を記憶する記憶部と、
前記所定期間を1周期とする複数周期の期間に渡って、前記企業が債務不履行になるか否かの予測、及び、債務不履行になると予測された場合に保険会社が受ける損害額を、前記第1データベースに格納される債務不履行率及び前記第2データベースに格納される損害額に基づいて、年ごとに算出し、算出した年ごとの損害額に基づいて、前記保険会社の事業リスクを算出する、算出部と、
を有する、リスク評価装置。
【請求項2】
前記企業は複数の企業を含み、
前記第1データベースは、前記複数の企業の各々の前記債務不履行率を格納し、
前記第2データベースは、前記複数の企業の各々が倒産した場合に前記保険会社が受ける損害額を格納し、
前記算出部は、前記複数周期の期間に渡って、前記複数の企業の各々が債務不履行になるか否か、及び、債務不履行になると予測された場合に保険会社が受ける損害額の企業ごとの合計である損害額を、前記第1データベースに格納される債務不履行率及び前記第2データベースに格納される損害額に基づいて、年ごとに算出し、算出した年ごとの損害額に基づいて、前記保険会社の事業リスクを算出する、
請求項1に記載のリスク評価装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記複数の企業の間の業種相関を示す相関係数を用いて算出される、前記複数の企業の各々に対応する乱数と、前記第1データベースに格納される、前記複数の企業の各々の債務不履行率とを比較することで、前記複数の企業の各々が債務不履行になるか否かを判定する、
請求項2に記載のリスク評価装置。
【請求項4】
前記算出部は、前記複数周期の期間における前記年ごとの損害額のうち、損害額が大きい順に所定数の損害額の平均値を、前記保険会社の事業リスクとして算出する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のリスク評価装置。
【請求項5】
前記第2データベースに格納される損害額は、前記保険会社が支払う保険支払額に損失率を乗算することで決定される、
請求項1~4のいずれか一項に記載のリスク評価装置。
【請求項6】
所定期間における年ごとの企業の債務不履行率を格納する第1データベースと、前記企業が倒産した場合に保険会社が受ける損害額を格納する第2データベースと、を参照し、前記所定期間を1周期とする複数周期の期間に渡って、前記企業が債務不履行になるか否かの予測、及び、債務不履行になると予測された場合に保険会社が受ける損害額を、前記第1データベースに格納される債務不履行率及び前記第2データベースに格納される損害額に基づいて、年ごとに算出するステップと、
算出した年ごとの損害額に基づいて、前記保険会社の事業リスクを算出する、ステップと、
を含む、リスク評価装置が行うリスク評価方法。
【請求項7】
所定期間における年ごとの企業の債務不履行率を格納する第1データベースと、前記企業が倒産した場合に保険会社が受ける損害額を格納する第2データベースと、を参照し、前記所定期間を1周期とする複数周期の期間に渡って、前記企業が債務不履行になるか否かの予測、及び、債務不履行になると予測された場合に保険会社が受ける損害額を、前記第1データベースに格納される債務不履行率及び前記第2データベースに格納される損害額に基づいて、年ごとに算出するステップと
算出した年ごとの損害額に基づいて、前記保険会社の事業リスクを算出する、ステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リスク評価装置、リスク評価方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
企業が将来にわたって存続し得るためには、将来発生し得るリスクを把握し、適切に対応することが必要である。例えば特許文献1には、事業継続の観点から事業リスクを評価するリスク評価システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-114418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、数年から十数年おきに、リーマンショックなどの大規模な経済イベントが生じている。このような状況において、企業が、自らの事業継続性を評価するためには、経済イベントの発生などの景気循環を考慮した事業リスク評価を行うことが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、保険会社が受ける事業リスクをより適切に評価することが可能なリスク評価装置、リスク評価方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るリスク評価装置は、所定期間における年ごとの企業の債務不履行率を格納する第1データベースと、前記企業が倒産した場合に保険会社が受ける損害額を格納する第2データベースと、を記憶する記憶部と、前記所定期間を1周期とする複数周期の期間に渡って、前記企業が債務不履行になるか否かの予測、及び、債務不履行になると予測された場合に保険会社が受ける損害額を、前記第1データベースに格納される債務不履行率及び前記第2データベースに格納される損害額に基づいて、年ごとに算出し、算出した年ごとの損害額に基づいて、前記保険会社の事業リスクを算出する、算出部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、保険会社が受ける事業リスクをより適切に評価することが可能なリスク評価装置、リスク評価方法及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】保険会社が保険金を支払うケース(その1)を説明するための図である。
図2】保険会社が保険金を支払うケース(その2)を説明するための図である。
図3】本実施形態に係るリスク評価装置のハードウェア構成例を示す図である。
図4】リスク評価装置の機能ブロック構成例を示す図である。
図5】倒産確率DBの一例を示す図である。
図6】企業DBの一例を示す図である。
図7】リスク評価装置が、保険会社の事業リスクを算出する際の処理手順(その1)の一例を示すフローチャートである。
図8】損害額の算出例を示す図である。
図9】リスク評価装置が、保険会社の事業リスクを算出する際の処理手順(その2)の一例を示すフローチャートである。
図10】損害額の算出例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0010】
<システム構成>
【0011】
現在、企業に対して、多様なリスクを統合的に管理し、事業全体でリスクをコントロールする統合リスク管理(Enterprise Risk Management)をコアとした経営体制(リスクベース経営)の確立が求められている。このようなリスクベース経営を行うためには、将来生じ得るリスクの大きさを、予め定量的に評価しておくことが必要になる。以下、保険会社の事業リスクを評価することを前提に説明するが、本実施形態に係る評価方法は、保険会社以外の企業にも適用可能である。
【0012】
本実施形態に係るリスク評価装置は、保険会社の事業リスクを評価し、評価結果を出力する。本実施形態に係る「保険会社の事業リスク」とは、保険会社に将来生じ得る金銭的なリスクであり、例えば、今後1年間に発生する損害額(損失額と称してもよい)の99%T-VaRであってもよい。ここで、VaR(Value at Risk)は、予想最大損失額を意味する。例えば、VaRが100万円であるとは、今後1年間に損害を被ったとしても、損害が100万円以内に収まることを意味する。また、99%VaRが100万円であるとは、今後1年間に損害を被ったとしても、99%の確率で損害が100万円以内に収まることを意味する。なお、99%VaRは、1%の確率で損害が100万円を超えることを意味すると言うこともできる。
【0013】
T-VaR(Tail Value at Risk)は、VaRを超える損失額の平均値を意味する。また、99%T-VaRとは、損害額が99%VaRを超える場合(つまり、1%の確率で損害が100万円を超える場合)における損害額の平均値を意味する。
【0014】
図1は、保険会社が保険金を支払うケース(その1)を説明するための図である。図1の例は、取引信用保険について保険金が支払われるケースを示している。取引信用保険とは、取引先の債務不履行により被保険者が損害を被った場合に、保険会社から被保険者に対し保険金を支払う保険である。例えば、図1の例では、保険契約者(保険を契約した者)及び被保険者(保険金を受け取る者)は企業Aであり、企業Aは、企業Bから商品の代金又はサービス提供に係る代金を受け取っているものとする。もし、企業Bが倒産した等の理由で債務不履行になり、企業Aが、企業Bから代金を受け取れず損害を被った場合、保険会社から企業Aに対し保険金が支払われる。
【0015】
図2は、保険会社が保険金を支払うケース(その2)を説明するための図である。図2の例は、履行保証保険について保険金が支払われるケースを示している。履行保証保険とは、保険契約者が、取引先から受注した債務を履行できなかった場合に、保険会社から被保険者に対し保険金を支払うことで、取引先が被る損害を補償する保険である。図2の例では、保険契約者は企業Aであり、被保険者は企業Bである。また、企業Aは、企業Bから、例えば工事等を受注しているものとする。もし、企業Aが倒産した等の理由で債務不履行になり、企業Aに依頼した工事が履行されず企業Bが損害を被った場合、保険会社から、被保険者である企業Bに対し保険金が支払われる。
【0016】
本実施形態に係るリスク評価装置は、倒産により債務不履行が発生すると仮定して「保険会社の事業リスク」をシミュレーションする。より具体的には、リスク評価装置は、東日本大震災のような大規模な自然災害や、リーマンショックのような大規模な経済イベント等を含む所定期間(例えば、景気循環サイクルと称してもよい)における実際の倒産確率データを利用し、更に企業間の業種に相関があることによる連鎖倒産を考慮して、当該所定期間における年ごとの保険金支払による損害額を繰り返しシミュレーションすることで、保険会社が被る損害額の最大額を年ごとにシミュレーションする。
【0017】
コンピュータを用いたシミュレーションによりリスクを定量的に評価する方法(アルゴリズム)は「リスクモデル」と呼ばれる。どのようなパラメータを用いてリスクを評価するのかについてはリスクモデルごとに異なる。従来のリスクモデルでは、企業の倒産確率を固定値としたり、企業の倒産確率を例えば幾何ブラウン運動等を用いてランダムに変化させたりすることが一般的であった。そのため、シミュレーションに使用するパラメータの妥当性について、説得力のある説明をすることが難しいという問題があった。一方、本実施形態のリスクモデルは、過去の一定期間における実際の倒産確率を利用し、業種相関による連鎖倒産を考慮していることから、シミュレーションに使用するパラメータの妥当性について、従来のリスクモデルと比較して容易に説明可能であるという利点がある。
【0018】
以下、説明の便宜上、企業が倒産した場合に債務不履行に陥るものとしてリスク評価方法を説明するが、本実施形態がこれに限定されるものではない。倒産は、債務不履行の一例であってもよい。つまり、以下の説明において、「倒産」は、「債務不履行」に読み替えてもよい。
【0019】
<ハードウェア構成>
【0020】
図3は、本実施形態に係るリスク評価装置10のハードウェア構成例を示す図である。リスク評価装置10は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)等のプロセッサ11、メモリ、HDD(Hard Disk Drive)及び/又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置12、有線又は無線通信を行う通信IF(Interface)13、入力操作を受け付ける入力デバイス14、及び情報の出力を行う出力デバイス15を有する。入力デバイス14は、例えば、キーボード、タッチパネル、マウス及び/又はマイク等である。出力デバイス15は、例えば、ディスプレイ、タッチパネル及び/又はスピーカ等である。リスク評価装置10は、1又は複数の物理的なサーバ等から構成されていてもよいし、ハイパーバイザー(hypervisor)上で動作する仮想的なサーバを用いて構成されていてもよいし、クラウドサーバを用いて構成されていてもよい。
【0021】
<機能ブロック構成>
【0022】
図4は、リスク評価装置10の機能ブロック構成例を示す図である。リスク評価装置10は、記憶部100と、算出部101と、表示制御部102とを含む。記憶部100は、リスク評価装置10が備える記憶装置12を用いて実現することができる。また、算出部101と、表示制御部102とは、リスク評価装置10のプロセッサ11が、記憶装置12に記憶されたプログラムを実行することにより実現することができる。また、当該プログラムは、記憶媒体に格納することができる。当該プログラムを格納した記憶媒体は、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体(Non-transitory computer readable medium)であってもよい。非一時的な記憶媒体は特に限定されないが、例えば、USBメモリ又はCD-ROM等の記憶媒体であってもよい。
【0023】
記憶部100は、所定期間における年ごとの企業の倒産確率を示す倒産確率DB(Data Base)100a、企業に関する各種情報を示す企業DB100b、及び、複数の企業の間の業種相関を示す相関係数DB100cを記憶する。所定期間は、景気循環サイクル1周期の長さと定義されてもよい。つまり、倒産確率DB100aは、1周期の景気循環サイクルにおける各年の倒産確率を示してもよい。しかしながら、所定期間は景気循環サイクルに限定されるものではない。単に、十数年から数十年といった単位の期間であってもよい。
【0024】
図5は、倒産確率DB100aの一例を示す図である。倒産確率DB100aは、第1データベースと呼ばれてもよい。また、倒産確率DB100aは、複数の企業の各々の倒産確率を示すと定義されてもよい。
【0025】
倒産確率DB100aには、企業の評価点数ごとに、所定期間(図5の例では20年分)における年ごとの倒産確率が対応づけて格納されている。例えば、評価点数が64点である企業の1年目の倒産確率は0.14079%であるが、5年目は0.07609%に低下している。その後9年目では0.10270%に上昇し、その後、倒産確率は年々低下している。
【0026】
図5において、1年目は、2001年のデータに対応しており、20年目は2020年のデータに対応しているが、本実施形態がこれに限定されるものではない。また、図5に示す倒産確率DB100aはあくまで一例であり、倒産確率DB100aは必ずしも20年分のデータである必要は無い。20年よりも短くてもよいし長くてもよい。評価点数は、0点から100点まで1点刻みで定義されていてもよいが、必ずしもこれに限定されるものではない。また評価点数は、例えば信用調査会社が提供する評点に対応していてもよいが、必ずしもこれに限定されるものではない。企業の評価や信用度等を示す点数であれば、どのような点数であってもよい。
【0027】
図6は、企業DB100bの一例を示す図である。企業DB100bは、企業に関する各種情報及び保険支払額等を格納する。企業DB100bは、第2データベースと呼ばれてもよい。企業DB100bに格納される企業は、被保険者ではなく、倒産した場合に保険会社が被保険者に対し保険金を支払うことになる企業である。例えば図1に示す取引信用保険の場合、「企業B」が、企業DB100bに格納される企業に対応する。また、図2に示す履行保証保険の場合、「企業A」が、企業DB100bに格納される企業に対応する。
【0028】
企業名は、企業の名称を示す。企業IDは、企業を一意に識別するための識別子である。評価点数は、企業の評価点数(図5に示す評価点数に対応)を示す。保険支払額(EaD : Exposure at Default)は、企業が倒産した場合に、保険会社が被保険者に対して支払う保険金の合計額である。損失率(LGD : Loss Given Default)は、保険支払額に対し、回収金額を除外することで、実際に保険会社に発生する損害の割合を示す。
【0029】
ここで、企業Xが被保険者であり、企業ABCが倒産した場合に1千万円が企業Xに支払われる保険Xと、企業Yが被保険者であり、企業ABCが倒産した場合に2千万円が企業Yに支払われる保険Yとが締結されていると仮定する。この場合、図6における、企業ABCに対応する保険支払額には、保険Xと保険Yの合計である3千万円(1千万円+2千万円)が格納される。
【0030】
なお、企業ABCの債務不履行により3千万円の保険金支払いが生じたとしても、保険会社は、企業ABCの資産の一部を回収できる可能性がある。その場合、3千万円から回収できた金額を除いた額が、保険会社の実際の損害額になる。例えば、図6の例では、企業ABCが債務不履行になった場合、保険支払額e円の90%が、保険会社の実際の損害額になることを示す。このように、保険会社の損害額は、保険支払額に損失率を乗算することで算出されてもよい。保険支払額に損失率を乗算すると保険会社の損害額を算出できることから、企業DB100bは、企業が倒産した場合に保険会社が受ける損害額を示すデータベースと定義されてもよいし、複数の企業の各々が倒産した場合に保険会社が受ける損害額を示すデータベースと定義されてもよい。また、企業DB100bに格納される損害額は、上述の通り、保険会社が支払う保険支払額に損失率を乗算することで決定されてもよい。
【0031】
算出部101は、所定期間を1周期とする複数周期の期間に渡って、企業が倒産するか否か(債務不履行になるか否か)、及び、倒産する(債務不履行になる)と予測された場合に保険会社が受ける損害額を、倒産確率DB100a(第1データベース)に格納される倒産確率(債務不履行率)及び企業DB100b(第2データベース)に格納される損害額(保険支払額×損失率)に基づいて、年ごとに算出し、算出した年ごとの損害額に基づいて、保険会社の事業リスクを算出する。
【0032】
また、算出部101は、所定期間を1周期とする複数周期の期間に渡って、複数の企業の各々が倒産するか否か(債務不履行になるか否か)、及び、倒産する(債務不履行になると)予測された場合に保険会社が受ける損害額の企業ごとの合計である損害額を、倒産確率DB100aに格納される倒産確率(債務不履行率)及び企業DB100b(第2データベース)に格納される損害額に基づいて、年ごとに算出し、算出した年ごとの損害額に基づいて、保険会社の事業リスクを算出するようにしてもよい。
【0033】
また、算出部101は、相関係数DB100cを参照し、複数の企業の間の業種相関を示す相関係数を用いて算出される、複数の企業の各々に対応する乱数と、倒産確率DB100aに格納される、複数の企業の各々の倒産確率(債務不履行率)とを比較することで、複数の企業の各々が倒産する(債務不履行)になるか否かを判定するようにしてもよい。
【0034】
また、算出部101は、複数周期の期間における年ごとの損害額のうち、損害額が大きい順に所定数の損害額の平均値(例えば99%T-VaR)を、保険会社の事業リスクとして算出するようにしてもよい。
【0035】
表示制御部102は、算出部101で算出されたリスク量を、リスク評価装置10が備える画面又はリスク評価装置10に接続される他の端末の画面に表示させる。
【0036】
<評価方法>
【0037】
続いて、リスク評価装置10が、リスクモデルにより、保険会社のリスクを評価する方法を説明する。以下の説明では、企業に債務不履行が生じた場合に保険会社が被保険者に対し保険金を支払うことになる場合の当該企業を、被保険者である企業と区別するために、便宜上「債務者」と言う。
【0038】
(処理手順(その1))
【0039】
図7は、リスク評価装置10が、保険会社の事業リスクを算出する際の処理手順(その1)の一例を示すフローチャートである。処理手順(その1)は、債務者1社の倒産により、保険会社が受ける事業リスクを算出する際の処理手順を示す。なお、後述するように、処理手順(その1)を債務者ごとに実行し、シミュレーションで得られた損害額を、シミュレーション回数ごとに合算することで、複数の債務者の倒産が保険会社の事業リスクを算出することも可能である。
【0040】
定数Gは正の整数であり、リスクを評価する際に用いる、所定期間(景気循環サイクル1周期の長さ)(年)を示す。また、定数Yは正の整数であり、シミュレーションを行う回数を示す。変数mは、最小1、最大Yであり、何回目のシミュレーションを行っているのかを示す。本実施形態では、例えば、Y=100万回であってもよい(ただしこれに限定されない)。例えば、G=20年及びY=100万回とすると、リスク評価装置10は、20年周期で繰り返される所定周期を5万回繰り返した場合に生じ得る最大リスクをシミュレーションすることができる。Yの数を増やすほど多くのシミュレーションを繰り返すことになり、算出される損害額の精度を向上させることが可能になる。なお、定数Yは、何年目のシミュレーションを行っているのかを示すこととしてもよい。例えば、G=20年及びY=100万年とした場合、リスク評価装置10は、20年周期で繰り返される所定周期を5万回繰り返すことで、今後100万年において生じ得る最大リスクをシミュレーションすることを意味してもよい。つまり、以下の説明において、「・・回目」は、「・・年目」と読み替えられてもよい。
【0041】
以下の説明では、G=20年とし、倒産確率DB100a及び企業DB100bには、それぞれ、図5及び図6に示すデータが格納されているものとする。
【0042】
ステップS100で、算出部101は、変数mに1を代入する。
【0043】
ステップS101で、算出部101は、数式1を用いて、m回目のシミュレーションにおいて債務者が倒産するか否かを算出(予測)する。
【数1】
【0044】
r(m)は、0<r(m)<1の一様乱数(0~1の間で偏り無く値が出現する乱数)である。また、d(m(mod G))は、m回目のシミュレーションにおける債務者の倒産確率を示す。なお、m(mod G)は、mをGで割った余りであるから、m(mod G)は、所定期間において何年目なのかを表現している。例えば、m=23の場合、23 mod 20=3であるから、23回目のシミュレーションでは、図5に示す3年目の倒産確率のうち債務者の評価点数に対応する倒産確率を、数式1のdに代入することを意味する。もし、倒産確率が1%であった場合、乱数r(m)が0.01を超えていればX(m)=0(倒産しないを意味する)になり、乱数r(m)が0.01未満であればX(m)=1(倒産するを意味する)になる。
【0045】
ステップS102で、算出部101は、債務者が倒産するか否かの算出結果に基づき、数式2を用いて保険会社の損害額を算出し、m回目のシミュレーションにおける損害額として記録する。
【数2】
【0046】
Aは、債務者が倒産した場合に保険会社が受ける損害額であり、具体的には、図6に示す保険支払額(EaD)×損失率(LGD)に対応する。S(m)は、m回目のシミュレーションにおいて保険会社が受ける損害額を示す。
【0047】
例えば、G=20年として企業ABCを対象にシミュレーションする場合を想定する。図6を参照すると、企業ABCの評価点数は75点である。1回目のシミュレーションでは、d(1 mod 20)=d(1)となるから、図5を参照すると、評価点数75点の債務者の1年目の倒産確率d(1)は0.02774%になる。次に、算出部101は、乱数r(1)を生成する。もし、乱数r(1)が0.0002774より大きい場合、X(1)=0になり、乱数r(1)が0.0002774以下の場合、X(1)=1になる(つまり倒産したことを意味する)。図6を参照すると、企業ABCが倒産した場合に保険会社が受ける損害額Aは、e円×90%である。従って、1回目のシミュレーションにおいて、乱数r(1)が0.0002774より大きい場合、保険会社が受ける損害額S(1)は0円であり、乱数r(1)が0.0002774以下の場合、保険会社が受ける損害額S(1)はe円×90%になる。
【0048】
ステップS103で、算出部101は、変数mに1を加算する。
【0049】
ステップS104で、変数m>YであればステップS105に進み、変数m>Yではない場合はステップS101の処理手順に戻る。つまり、m>Yになるまで、ステップS101~ステップS103の処理手順を繰り返し行う。これにより、図8に示すように、シミュレーション回数ごとの損害額が算出される。
【0050】
図7に戻り、ステップS105で、算出部101は、99%T-VaRを算出する。99%T-VaRは、Y回のシミュレーションにおいて、上位Y×1%の損害額の平均を計算することで算出することができる。例えばY=100万回である場合、算出部101は、損害額が大きい順に1万回の損害額の平均を計算する。
【0051】
なお、算出部101は、図7に示す処理手順を複数の債務者(例えば企業DB100bに格納されている全ての企業)について個別に実行し、シミュレーション回数ごとに各債務者の損害額の合計を、保険会社が支払う損害額として記録するようにしてもよい。例えば、複数の債務者として、企業ABC、企業BCD、及び、企業CDEの3社が存在する場合、算出部101は、ステップS101の処理手順及びステップS102の処理手順において保険会社が受ける損害額を、企業ABC、企業BCD、及び、企業CDEについて個別に実行し、ステップS102の処理手順において、各債務者の損害額の合計を、m回目の損害額として記録するようにしてもよい。これにより、ステップS105の処理手順で算出される99%T-VaRは、複数の債務者についての倒産可能性が考慮されたものになる。
【0052】
(処理手順(その2))
【0053】
図9は、リスク評価装置10が、保険会社の事業リスクを算出する際の処理手順(その2)の一例を示すフローチャートである。処理手順(その2)は、複数の債務者の倒産により、保険会社が受ける事業リスクを算出する際の処理手順を示す。また、処理手順(その2)では、大規模な経済イベントが発生すると、業種が類似する企業は倒産するリスクも類似するという知見を考慮したシミュレーションを行う。
【0054】
定数G、Y及び変数mは、処理手順(その1)と同一であるため説明は省略する。その他特に言及しない点は、処理手順(その1)と同一でよい。定数nは、シミュレーション対象とする債務者の数を示す。変数i及びjは、それぞれ、最小1、最大nであり、債務者を識別するIDを示す。なお、nの数は任意である。本実施形態では、nは数万程度を想定しているが、これに限定されるものではない。
【0055】
以下の説明では、G=20年とし、倒産確率DB100a及び企業DB100bには、それぞれ、図5及び図6に示すデータが格納されているものとする。
【0056】
ステップS200で、算出部101は、変数mに1を代入する。
【0057】
ステップS201で、算出部101は、変数iに1を代入する。
【0058】
ステップS202で、算出部101は、数式3を用いて、m回目のシミュレーションにおいて債務者iが倒産するか否かを算出する。
【数3】
【0059】
pi (m)は、0<pi (m)<1である一様乱数である。また、di (m(mod G))は、m回目のシミュレーションにおける債務者iの倒産確率を示す。なお、m(mod G)は、mをGで割った余りであるから、m(mod G)は、景気循環サイクルにおける年を表現している。例えば、m=23の場合、23 mod 20=3であるから、23回目のシミュレーションでは、図5に示す3年目の倒産確率のうち、債務者iの評価点数に対応する倒産確率を、数式1のdiに代入することを意味する。
【0060】
ここで、pi (m)は、単一の債務者について観測した場合は一様乱数あるが、複数の債務者間で比較すると、債務者間の業種相関に対応する偏りを有する乱数である。例えば、債務者(i=10)と債務者(i=20)に強い相関がある場合、p10 (m)とp20 (m)の2つの乱数を出力すると、これら2つの乱数の値は近い値になるといったように、債務者間の相関が乱数の間にも反映されるような乱数である。例えば、p10 (m)とp20 (m)の2つの乱数を複数回出力すると、(p10 (m), p20 (m)) = (0.1, 0.3), (0.7, 0.6), (0.5, 0.5), (0.9, 0.8), (0.3, 0.4)という値が出力されたとする。この場合、単一の債務者における乱数だけを取り出すと一様乱数であるが(例えばp10 (m)だけを見ると、0.1, 0.7, 0.5, 0.9, 0.3といったように偏り無く値が出現している)、p10 (m)とp20 (m)の値同士を比較すると、0.1と0.3、0.7と0.6というように、近い値が出現していることがわかる。
【0061】
次に、pi (m)の算出方法について説明する。まず、数式4に示す業種相関行列Cが予め相関係数DB100cに格納(設定)されているものとする。Cijは、債務者iと債務者jの間の業種相関係数(0≦Cij≦1)である。
【数4】
【0062】
Cijは(0≦Cij≦1)であることから、業種相関行列Cは、全ての値が正の値である実対象行列である。次に、業種相関行列Cをコレスキー分解することで、数式5に示す下三角行列L及び数式6に示す上三角行列Uに分解する。
【数5】
【数6】
【0063】
続いて、下三角行列Lに、標準正規分布に従う乱数ri(1≦i≦n)を乗じることで、数式7に示す、多変量正規乱数qjを発生させる。
【数7】
【0064】
続いて、多変量正規乱数qj(1≦j≦n)を、一様乱数pi(1≦i≦n)に変換する。多変量正規乱数qj(1≦j≦n)は、各々が乱数であるn個の値(q1~qnまでのn個の値)を有しており、各乱数は標準正規分布に従っている。また、piも、各々が乱数であるn個の成分(p1~pnまでのn個の成分)を有している。従って、多変量正規乱数qjにおける1~nまでの成分の各々の値から、標準正規分布の下側累積確率を算出し、算出した下側累積確率をpiにおける1~nまでの各々の成分とすることで、一様乱数pi(1≦i≦n)を求めることができる。例えば、n=3であり、多変量正規乱数qj(1≦j≦3)は、q1=-0.9、q2=-1、q3=0であったとする。この場合、一様乱数pi(1≦i≦3)は、q1=0.184、q2=0.158、q3=0.5であると計算することができる。
【0065】
ステップS203で、算出部101は、変数iに1を加算する。
【0066】
ステップS204で、算出部101は、変数i>nである場合、ステップS205に進む。変数i>nではない場合、ステップS202に進む。つまり、算出部101は、1~nまでの全での債務者について、数式3に従って倒産するか否かを算出した後、ステップS205の処理手順に進む。
【0067】
ステップS205で、算出部101は、各債務者が倒産するか否かの算出結果に基づき、数式8を用いて保険会社の損害額を算出し、m回目のシミュレーションにおける損害額として記録する。
【数8】
【0068】
Aiは、債務者iが倒産した場合に保険会社が受ける損害額であり、具体的には、図6に示す保険支払額(EaD)×損失率(LGD)に対応する。S(m)は、m回目のシミュレーションにおいて保険会社が受ける損害額を示す。
【0069】
例えば、企業ABCと企業BCDの2社が債務者であり、1回目のシミュレーションでのステップS202の処理手順において、企業ABCは倒産し(X=1)、企業BCDは倒産しない(X=0)との算出結果が得られたとする。また、企業ABCが倒産した場合に保険会社が受ける損害額Aは、ABC円×90%である。同様に、企業BCDが倒産した場合に保険会社が受ける損害額Aは、BCD円×95%である。従って、1回目のシミュレーションにおいて保険会社が受ける損害額S(1)はABC円×90%×1+BCD円×95%×0になる。
【0070】
ステップS206で、算出部101は、変数mに1を加算する。
【0071】
ステップS207で、算出部101は、変数m=YであればステップS105に進み、変数m=Yではない場合はステップS101の処理手順に戻る。つまり、算出部101は、m=Yになるまで、ステップS101~ステップS103の処理手順を繰り返し行う。これにより、図10に示すように、シミュレーション回数ごとの保険会社の損害額が算出される。
【0072】
図9に戻り、ステップS208で、算出部101は、99%T-VaRを算出する。99%T-VaRは、Y回のシミュレーションにおいて、上位(Y×1%)回の損害額の平均を計算することで算出することができる。例えばY=100万回である場合、算出部101は、損害額が大きい順に1万回の損害額の平均を計算する。算出された値(99%T-VaR)は、保険会社の事業リスクを意味する。
【0073】
処理手順(その2)は、処理手順(その1)において複数の債務者を対象に保険会社の損害額を算出した場合と比較して、企業間の業種相関の影響がシミュレーション結果に反映されることから、より実態に即した事業リスクの評価が可能になるというメリットがある。
【0074】
<まとめ>
【0075】
以上説明した実施形態によれば、リスク評価装置10は、例えば、所定期間に対応する長さの過去の期間における経済イベントの発生を考慮して、所定期間を1周期とする複数周期の期間にわたって企業の倒産による損害額をシミュレーションすることで、保険会社の事業リスクを算出するようにした。これにより、保険会社が受ける事業リスクを、従来から知られているリスク評価方法よりも適切に評価することが可能になった。
【0076】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態で説明したフローチャート、シーケンス、実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0077】
10…リスク評価装置、11…プロセッサ、12…記憶装置、13…通信IF、14…入力デバイス、15…出力デバイス、100…記憶部、100a…倒産確率DB、100b…企業DB、100c…相関係数DB、101…算出部、102…表示制御部
【要約】
【課題】保険会社に生じるリスクをより適切に評価することが可能なリスク評価装置を提供すること。
【解決手段】
所定期間における年ごとの企業の債務不履行率を格納する第1データベースと、前記企業が倒産した場合に保険会社が受ける損害額を格納する第2データベースと、を記憶する記憶部と、
前記所定期間を1周期とする複数周期の期間に渡って、前記企業が債務不履行になるか否かの予測、及び、債務不履行になると予測された場合に保険会社が受ける損害額を、前記第1データベースに格納される債務不履行率及び前記第2データベースに格納される損害額に基づいて、年ごとに算出し、算出した年ごとの損害額に基づいて、前記保険会社の事業リスクを算出する、算出部と、
を有する、リスク評価装置。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10