(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】ボルト及び締結構造
(51)【国際特許分類】
F16B 35/00 20060101AFI20220613BHJP
F16B 25/02 20060101ALI20220613BHJP
F16B 33/02 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
F16B35/00 M
F16B25/02
F16B33/02 Z
(21)【出願番号】P 2018095857
(22)【出願日】2018-05-18
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光希
(72)【発明者】
【氏名】古川 朗洋
(72)【発明者】
【氏名】藤本 孝典
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03351115(US,A)
【文献】特開2014-037893(JP,A)
【文献】登録実用新案第3215000(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第03211252(EP,A1)
【文献】特開2008-095793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 35/00
F16B 25/00
F16B 25/02
F16B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と頭部を備えたボルトであって、
軸部の頭部側に第一のねじ山を備え、
螺合される雌ねじの内面側に付着した付着物を削ることが可能なように第一のねじ山より大径に設けられている
第二のねじ山と、螺合される雌ねじの内面側に付着した付着物を削ることが可能なように第一のねじ山より幅広にかつ第二のねじ山より幅広に設けられている第三のねじ山を、軸部の先端側に備えたボルト。
【請求項2】
第二のねじ山の径は、第三のねじ山の径よりも大径に設けられた請求項1に記載のボルト。
【請求項3】
切り欠きを設けたねじ山を軸部の先端側に備えた請求項1又は2に記載のボルト。
【請求項4】
摩擦係数安定剤を塗布したねじ山を軸部の先端側に備えた請求項1乃至3の何れかに記載のボルト。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載のボルトと雌ねじを螺合させて締結した締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト及び締結構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているようにボルトを締めこむ際に、ナット内の塗膜を剥がすことができる技術が知られている。特許文献1に記載のボルトは、先細りにしつつ、先端側の一部について軸方向に溝が切られている。特許文献1に記載の技術では先細りした先端側のねじ山で塗膜を剥ぐことを意図しているが、このような形態であると、先端側のねじ山と雌ねじに付された塗膜が十分に接触せず、塗膜を十分に剥げない虞があった。この問題を解消するために、特許文献2に記載のタッピンねじのように、太く形成された頭部側の部分で相手部材を削ることも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-340415号公報
【文献】特開2014-37893号公報
【0004】
ところで、通常のボルトにナットを締めこんでいくと、着座したところで急激に締付トルクが上昇するため、作業者は着座を容易に感知できる。しかしながら、頭部側のねじ山で塗膜などを除去しつつ締め付けていく場合は、除去に係る負荷があるため、そうはならない。このため、作業者は着座を容易に感知できない虞があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件の発明者は、この点について鋭意検討することにより、解決を試みた。本発明の課題は、ボルトと雌ねじを螺合させることにより雌ねじの内側面の付着物を削ることができるとともに、作業者が着座を感知しやすいようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、軸部と頭部を備えたボルトであって、軸部の頭部側に第一のねじ山を備え、第一のねじ山より大径に設けられているねじ山と、第一のねじ山より幅広に設けられているねじ山の少なくとも一方を、軸部の先端側に備えたボルトとする。
【0007】
また、第一のねじ山より大径に設けられたねじ山と、第一のねじ山より幅広に設けられたねじ山を軸部の先端側に備えた構成とすることが好ましい。
【0008】
また、切り欠きを設けたねじ山を軸部の先端側に備えた構成とすることが好ましい。
【0009】
また、摩擦係数安定剤を塗布したねじ山を軸部の先端側に備えた構成とすることが好ましい。
【0010】
また、上記ボルトと雌ねじを螺合させて締結した締結構造とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、ボルトと雌ねじを螺合させることにより雌ねじの内側面の付着物を削ることができるとともに、作業者が着座を感知しやすいようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】ボルトの中心軸から径方向に所定の長さ離れた位置における第一のねじ山の幅と第三のねじ山の幅を表した図である。ただし、第一のねじ山の径と第二のねじ山の径も表している。
【
図3】第一のねじ山と雌ねじとの間に生じる隙間と、第二のねじ山と雌ねじとの間に生じる隙間と、第三のねじ山と雌ねじとの間に生じる隙間を表す概念図である。ただし、頭部から軸部の先端側に向けて第一のねじ山と第二のねじ山と第三のねじ山が順に設けられている。
【
図4】頭部から軸部の先端側に向けて第一のねじ山と第三のねじ山と第二のねじ山が順に設けられているボルトに雌ねじが取り付けられた例を示した図である。
【
図5】頭部から軸部の先端側に向けて第一のねじ山と第二のねじ山が順に設けられているボルトに雌ねじが取り付けられた例を示した図である。
【
図6】頭部から軸部の先端側に向けて第一のねじ山と第三のねじ山が順に設けられているボルトに雌ねじが取り付けられた例を示した図である。
【
図7】
図1に示すボルトとナットで部材を締結した状態を表す図である。
【
図8】ボルトの回転角とトルクの関係を表す図である。ただし、実線が本発明のボルトに関するものであり、破線は先端側が小径で頭部側が大径となるボルトに関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に発明を実施するための形態を示す。なお、以下では、締結用の鉄製のボルト1を例にして説明する。
図1及び
図2に示すことから理解されるように、実施形態のボルト1は、軸部2と頭部3を備えており、軸部2の頭部3側に第一のねじ山11を備えている。また、第一のねじ山11より大径に設けられているねじ山と、第一のねじ山11より幅広に設けられているねじ山の少なくとも一方を、軸部2の先端側に備えている。このため、ボルト1と雌ねじ5を螺合させることにより、雌ねじ5の内側面の付着物を削ることができるとともに、作業者が着座を感知しやすいようにすることができる。
【0014】
図1及び
図2に示すボルト1は、軸部2の頭部3側に第一のねじ山11を備えている。また、第一のねじ山11より大径に設けられている第二のねじ山12と、第一のねじ山11より幅広に設けられている第三のねじ山13を備えている。なお、第二のねじ山12の径は第三のねじ山13よりも大径に設けられており、第三のねじ山13は第二のねじ山12よりも幅広に設けられている。第一のねじ山11は通常行われる雌ねじ5との螺合に使用されるものであるのに対して、第二のねじ山12及び第三のねじ山13は主として、雌ねじ5の付着物を剥ぐために用いられる。
【0015】
ここで、第一のねじ山11と第二のねじ山12と第三のねじ山13を比較して説明する。
図2に示すように、第二のねじ山12の半径Lbは、第一のねじ山11の半径Laよりも大きく形成されている。より具体的には、第一のねじ山11の径は、通常、呼び径により規定される値と等しくなるように形成されているが、第二のねじ山12の径は、この第一のねじ山11の径よりも大きくなるように形成されている。第二のねじ山12の半径Lbを第一のねじ山11の半径Laより大きくすることで、雌ねじ5の谷底側の付着物を剥離させやすくなり、第一のねじ山11の径方向先端が付着物と接触することを抑制できる。このため、
図3に示すことから理解されるように、第二のねじ山12に関しては、第一のねじ山11と比べて、雌ねじ5と接する位置を異なるものとし、雄ねじと雌ねじ5との隙間を小さくすることができる。また、第二のねじ山12の半径Lbは、雌ねじ5の谷半径よりも小さく形成されている。ボルト1に設けられたねじ山全ての半径について、雌ねじ5の谷半径よりも小さくすることで、ボルト1の締め付け時の負荷が過大となることを抑制することができる。
【0016】
また、中心軸Cから所定の距離Lcだけ離れた位置において、第三のねじ山13の幅Wbは、第一のねじ山11の幅Waよりも幅広となっている。
図1及び
図2に示す例では、フランク全体について、第三のねじ山13の幅Wbは、第一のねじ山11の幅Waよりも幅広となっている。このため、
図3に示すことから理解されるように、第三のねじ山13に関しては、第一のねじ山11と比べて、雌ねじ5との隙間を小さくすることができる。なお、軸部2の中心軸Cから谷底までの距離だけ離れた位置から、第一のねじ山11の半径Lcの長さだけ離れた位置にわたって、第三のねじ山13の幅Wbが、第一のねじ山11の幅Waよりも長いものとすれば、より効果的に雌ねじ5の内側面の付着物を削ることができる。
【0017】
また、雌ねじ5は金属製の雌ねじ本体に塗装がなされたものであるが、ボルト1の第三のねじ山13の幅Wbは、雌ねじ5を螺合した際に、軸部2の中心軸Cから径方向に所定の長さLcだけ離れた位置において、雌ねじ本体における隣接するねじ山の互いのフランク面の距離より短い長さとなっている。このため、雌ねじ本体が第三のねじ山13に傷つけられるのを抑制しながら塗膜を剥ぐことが可能となる。
【0018】
図1及び
図2に示したボルト1であると、先ず、幅広に設けられたねじ山で雌ねじ5の付着物を剥ぎ、その後、大径のねじ山で付着物を剥ぐことができる。このため、雌ねじ5に付着した付着物を、効果的に取り除きやすくなる。
【0019】
実施形態のボルト1のねじ山のうち大部分を占める第一のねじ山11は、径及び幅が一般的なねじ山と同等となるように形成されている。また、
図1及び
図2に示すボルト1の軸部2の先端側には、第二のねじ山12となる大径のねじ山が2ピッチ、第三のねじ山13となる幅広のねじ山が2ピッチ設けられている。第二のねじ山12や第三のねじ山13のピッチ数は限定されるものではないが、第一のねじ山11のピッチ数よりも小さいものであることが好ましい。
図1に示すボルト1においては、第一のねじ山のピッチが全体のねじ山のピッチの半分以上を占めている。
【0020】
ところで、幅広に設けられた第三のねじ山13を大径に設けられた第二のねじ山12よりも軸部2の先端側に設ける必要は無く、
図4に示すように、大径に設けられた第二のねじ山12を、幅広に設けられた第三のねじ山13よりも軸部2の先端側に設けても良い。また、
図5に示すように、大径に設けられた第二のねじ山12は設けるが、幅広に設けられた第三のねじ山13が設けられていない形態としても良いし、
図6に示すように、幅広に設けられた第三のねじ山13は設けるが、大径に設けられた第二のねじ山12を設けていない形態としても良い。
【0021】
ところで、実施形態のボルト1は、軸部2の先端側に切り欠き19を備えている。この切り欠き19は、雌ねじ5に付着していた付着物を積極的に除去し、除去した付着物をボルト1の先端側から排出するように機能するものである。この切り欠き19は、軸部2の長手方向と同方向に延びるように形成しても良いが、側面視において、切り欠き19の長手方向と中心軸Cとがなす角度θが20~45°の角度をなすようにするのが好ましい(
図1参照)。また、切り欠き19は複数設けることが好ましく、実施形態では周方向に間隔を置くように、3つの切り欠き19を設けている。なお、切り欠き19は、軸部2の周方向に180度ずれた位置に他の切り欠き19が配せられていないようにすることが好ましい。
【0022】
切り欠き19の幅Wcは小さすぎると除去する付着物が切り欠き19に十分に収納しきれなくなり、収納しきれなかった付着物が切り欠き19からはみ出すことにより、雌ねじ5を締め付ける際の抵抗となり得る。また、切り欠き19の幅Wcが大きすぎると、付着物を排出するためのガイドとしての機能が低下する可能性がある。このため、切り欠き19は幅Wcを1~3mm程度とすることが好ましい。なお、切り欠き19の長手方向の長さは、ボルト1の呼び径の50%未満とすることが好ましい。
【0023】
また、実施形態においては、ボルト1の軸部2の先端側に摩擦係数安定剤を塗布している。この摩擦係数安定剤は、ナットなどの雌ねじ5との螺合をスムーズにさせるためのものであり、ワックスなどが例示される。摩擦係数安定剤を塗布することにより、雌ねじ5との隙間が少なくなったことなどによる、締め付け負荷の上昇を抑制することができる。なお、第一のねじ山11に対しては、摩擦係数安定剤を塗布しても良いし、しなくても良い。また、摩擦係数安定剤は、耐食機能など、他の機能を備えたものであっても良い。
【0024】
図7に示すように、付着物を備えたナットを本発明のボルト1に螺合させて複数の部材91を締結すれば、作業者は締結の完了を感知しやすいため、適切に作業を行うことができる。
【0025】
雌ねじ5を本発明のボルト1に螺合させて締結した締結構造7とすれば、第一のねじ山11よりも大径若しくは幅広に形成されたねじ山の存在により、雌ねじ5の移動が抑制されることで、雌ねじ5が脱落することや弛むことなどを抑制することができる。また、塗膜などの付着物を備えた雌ねじ5に対して本発明のボルト1で、付着物を剥いで締結させることにより、ボルト1と雌ねじ5間のメタルタッチが可能となり、導通を確保することができる。
【0026】
ここで、本発明のボルト1と塗装がなされたナットを締結部材として用いる場合における、回転角とトルクの関係について、説明する。本発明のボルト1を回転させると、ナットに付着された塗膜を第一のねじ山11よりも大径に形成された第二のねじ山12若しくは幅広に形成された第三のねじ山13により削りながらナットにねじ込むことになる。この際、第二のねじ山12若しくは第三のねじ山13をナットにねじ込むためのねじ込みトルクが発生するが、ナットがこのようなねじ山を越えると、ねじ込みトルクは解消する(
図8実線参照)。このため、ボルト1若しくはナットを回す際の作業者の負荷が十分に低減する。
【0027】
更にボルト1若しくはナットを回していくと、着座することになり、それ以上の回転が困難となる。本発明のボルト1を用いると、ボルト1若しくはナットを回転させる際の負荷が急激に上昇することにより、作業者は着座をしたことを感知することができる。なお、着座した状態におけるナットは、第二のねじ山12や第三のねじ山13とは接さずに、第一のねじ山11と接していることが好ましいが、多少であれば第二のねじ山12や第三のねじ山13に接していても良い。
【0028】
一方、先端側が小径で頭部側が大径となる比較例のボルトでは、常時、ボルトと雌ねじとの隙間がほぼ無いため、回転角が増すごとに回転に必要な負荷が増えてゆく(
図8破線参照)。このため、着座した状態になっても、作業者は感知しにくい。また、着座に至るまでの締付トルクが大きくなるため、作業者に負担がかかる。更には、締め付け作業にかかる時間は、本発明のボルト1を締め付ける場合より、比較例のボルトを締め付ける場合の方が長くかかった。
【0029】
以上、実施の形態を用いて本発明について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。例えば、ボルトの材質は鉄である必要は無く、その他の材質のものでも構わない。ただし、金属製であることが好ましい。
【0030】
また、ボルトによって剥ぎ取られるものは、塗膜に限られる必要は無く、スパッタやバリなどでも構わない。
【0031】
また、ボルトをねじ込む相手は、ナットである必要は無く、予め雌ねじが設けられている部材であればよい。
【0032】
第二のねじ山や第三のねじ山は、ボルトの最先端側に設けられている必要は無く、例えば、ボルトの軸部の中腹の先端側寄りに設けても良い。
【0033】
第二のねじ山や第三のねじ山のピッチ数は1や2でもよいし3以上でもよいが、これらのねじ山のピッチ数が多くなると、締結状態において雌ねじから飛び出るボルトの先端の長さが長くなり、重量がかさむ。このため、車両などの乗り物に用いる場合には、3以下程度にするのが好ましい。
【符号の説明】
【0034】
1 ボルト
2 軸部
3 頭部
5 雌ねじ
7 締結構造
11 第一のねじ山
12 第二のねじ山
13 第三のねじ山
19 切り欠き