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特許7086517卵殻膜含有粉末を有効成分として含む腸内フローラ改善用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】卵殻膜含有粉末を有効成分として含む腸内フローラ改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20220613BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20220613BHJP
   A61K 9/14 20060101ALN20220613BHJP
   A61K 9/48 20060101ALN20220613BHJP
   A61K 35/57 20150101ALN20220613BHJP
   A61P 1/00 20060101ALN20220613BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20220613BHJP
【FI】
A23L15/00 Z
A23L33/17
A61K9/14
A61K9/48
A61K35/57
A61P1/00
A61P43/00 105
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2016190536
(22)【出願日】2016-09-29
(65)【公開番号】P2018052854
(43)【公開日】2018-04-05
【審査請求日】2019-08-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-21
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501303046
【氏名又は名称】株式会社 アルマード
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 由紀夫
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】森井 隆信
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216652(JP,A)
【文献】国際公開第2016/066718(WO,A1)
【文献】特開2010-46006(JP,A)
【文献】FOOD STYLE 21, 2015, Vol.19 No.4, p.8-11
【文献】長谷部由紀夫著、跡見順子監修、日経BP企画発行、卵のチカラで体の中からキレイになる! -21 世紀の新素材、「卵殻膜」の秘密、2009.6.29、初版第1刷、 p.120-126
【文献】Int J Mol Sci., 2014, Vol.15, p.22728-22742
【文献】月刊フードケミカル, 2003, Vol.19 No.5, p.32-35
【文献】腸内細菌学雑誌,2002年,Vol.16,No.1,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L33/10
A61K35/00
JSTPLUS、JMEDPLUS、JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収されずに腸内に残る成分がある卵殻膜含有粉末を有効成分として含む組成物であって、該組成物が食品添加剤、飲食品、またはサプリメントであることを特徴とする、腸内細菌の多様性増加、かつ、病原性細菌数の減少のための組成物。
【請求項2】
卵殻膜含有粉末が、体積平均粒子径が6μm以下、または体積最大粒子径が20μm以下の卵殻膜含有微粉末である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
さらに加水分解卵殻膜成分を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
加水分解卵殻膜成分が加水分解卵殻膜粉末である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
卵殻膜含有微粉末10~90重量%および加水分解卵殻膜粉末90~10重量%を含んでなる、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
III型コラーゲン生成促進のための組成物でもある、請求項3ないし5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
経口投与される製剤である、請求項1ないし6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
製剤が錠剤である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
卵殻膜含有粉末と加水分解卵殻膜粉末の合計の一日摂取量が10~48,000mgである、請求項3ないし8のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵殻膜含有粉末もしくは微粉末を有効成分として含有する腸内フローラ改善用組成物に関する。さらに、卵殻膜含有粉末もしくは微粉末と加水分解卵殻膜成分を含む、腸内フローラを改善し、III型コラーゲンの生成を促進するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
卵殻膜は、鶏卵などの鳥類の卵の卵殻の内側にある膜で、内外2枚からなり、外卵殻膜は卵殻内面に密着し、内卵殻膜は卵白を包んでおり、抗菌性を有し、発生中の胚を感染から保護している。卵殻膜は、I型、V型およびX型コラーゲン、グルコサミン、デスモシンおよびヒアルロン酸を主成分とした強靭な繊維性のタンパク質等からなる網目状の構造を有し、これらのタンパク質はシステインを含むものが多く、酸、アルカリ、プロテアーゼに対して比較的安定で、水に不溶性である。以前は食品産業の廃棄物として利用されていなかったが、皮膚の再生を促進する効果や、特に胎児性コラーゲンと呼ばれるIII型コラーゲンの生成を促進する効果が発見されてから、化粧品や栄養剤としての開発が進められ、実用化されている。
【0003】
たとえば、卵殻膜成分の消化吸収効率を高めるために、体積平均粒子径が6μm以下または体積最大粒子径が20μm(800メッシュ)以下となるように、卵殻膜粉末をジェットミルを用いて粉砕し微粉末化する(特許文献1)ことが提案された。また、不溶性の卵殻膜を水に可溶性にするため、タンパク質を加水分解した加水分解卵殻膜を、取扱性、保存安定性の向上のために乾燥粉末化すること(特許文献2)、さらに、アルカリ性である加水分解卵殻膜粉末をpH3~6にして、保存安定性、安全性を高めること(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-216652号公報
【文献】特許第5179847号明細書
【文献】特開2016-98206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安全性が高く、食品添加剤、飲食品、サプリメント、医薬品として日常的に簡便な方法で利用することのでき、単一素材で生体を良好な状態に改善または維持できる腸内フローラ改善用組成物を提供することを課題とする。
さらに、腸内フローラの改善機能に加えて、III型コラーゲンの生成促進機能を有し、両機能の相乗効果により生体をさらに良好な状態に改善および/または維持することのできる組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
卵殻膜または加水分解卵殻膜は、美肌化、皮膚再生、育毛発毛促進、脱毛防止などの作用の他に、肩凝りの解消、食欲増進、疲労回復等の日常的な健康増進、健康維持に有効であるとされている。また、卵殻膜含有微粉末(特許文献1)及び加水分解卵殻膜粉末(特許文献2、3)は、体内で消化吸収されると体内のIII型コラーゲンの生成を促進する機能を有することが知られている。
【0007】
本発明者らは、加水分解卵殻膜がほぼ100%消化され、血液中に吸収されるのに対して、卵殻膜含有粉末、微粉末は、約54%が消化吸収されずに腸内に残り、その残った成分が腸内細菌のうちの悪玉菌の増殖を防止し、腸内フローラを改善することを初めて見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
さらに、約46%しか消化吸収されない卵殻膜含有粉末または微粉末より、III型コラーゲンの生成をより促進する機能を有する加水分解卵殻膜成分と卵殻膜含有粉末または微粉末を併用することにより、腸内フローラ改善機能とIII型コラーゲンの生成促進機能とが相乗的に作用して、腸内フローラの改善による免疫機能の向上、癌等の成人病の予防に加えて、III型コラーゲンの生成促進による血管、肺、肝臓、皮膚の組織の強化により、老化防止効果が増強され、健康状態もさらに改善および/または良好に維持できる組成物を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下の技術的事項から構成される。
(1)吸収されずに腸内に残る成分がある卵殻膜含有粉末を有効成分として含む組成物であって、該組成物が食品添加剤、飲食品、またはサプリメントであることを特徴とする、腸内細菌の多様性増加、かつ、病原性細菌数の減少のための組成物。
(2)卵殻膜含有粉末が、体積平均粒子径が6μm以下、または体積最大粒子径が20μm以下の卵殻膜含有微粉末である、(1)に記載の組成物。
(3)さらに加水分解卵殻膜成分を含む、(1)または(2)に記載の組成物。
(4)加水分解卵殻膜成分が加水分解卵殻膜粉末である、(3)に記載の組成物。
(5)卵殻膜含有微粉末10~90重量%および加水分解卵殻膜粉末90~10重量%を含んでなる、(4)に記載の組成物。
(6)III型コラーゲン生成促進のための組成物でもある、(3)ないし(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)経口投与される製剤である、請求項1ないし6のいずれかに記載の組成物。
(8)製剤が錠剤である、(7)に記載の組成物。
(9)卵殻膜含有粉末と加水分解卵殻膜粉末の合計の一日摂取量が10~48,000mgである、(3)ないし(8)のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
ヒトの腸内には、数百種の腸内細菌が約100兆個以上バランスよく生息しており、善玉菌、悪玉菌、および日和見菌が腸内において互いにバランスを保ちながら、一種の生態系(腸内フローラ)を形成している。この腸内フローラのバランスが崩れると、悪玉菌の増加等による腸内に有害な物質が蓄積されて、便秘、下痢症状、免疫機能の低下のみならず、血液中に吸収された有害物質により、心臓、肝臓および腎臓に負担を与え、老化を促進したり、癌の原因にもなることが知られている。
【0011】
卵殻膜含有微粉末は、ラットを用いた実験で約54%が消化吸収されずに腸内に残り、その残った成分が腸内細菌のうちの悪玉菌の増殖を防止し、腸内フローラを改善することが見出された。本発明によれば、食品添加剤、飲食品、サプリメント、可食性美容剤、医薬品等のさまざまな用途で、日常的に簡単に摂取できる腸内フローラ改善用組成物を提供することができる。本発明の腸内フローラ改善用組成物は、刺激性がなく、様々な形態で種々の成分と併用することができ、さらなる全身効果を得るために、栄養、美容成分と併用することもできる。
【0012】
また、卵殻膜含有微粉末は、約46%が消化吸収され、加水分解卵殻膜成分はほぼ100%が消化吸収され、血液中に取り込まれた卵殻膜成分により、皮膚におけるIII型コラーゲンの生成を促進するだけでなく、血管でもIII型コラーゲンの生成を促進して血管全体の弾性を増すことができる。したがって、
卵殻膜含有粉末または微粉末と加水分解卵殻膜成分を併用すれば、卵殻膜含有粉末または微粉末の有する腸内フローラ改善機能およびIII型コラーゲンの生成促進機能と、加水分解卵殻膜成分の有するIII型コラーゲンの生成促進機能とが相乗的に作用して、血管、肺、肝臓、皮膚等におけるIII型コラーゲンの生成の促進と、腸内フローラの改善により美肌効果や老化防止効果が増強され、健康状態を改善および/または良好に維持することができる。この組成物は、食品添加剤、飲食品、サプリメント、可食性美容剤、医薬品として様々な形態で利用することができ、加水分解卵殻膜成分として加水分解卵殻膜粉末を用いれば、錠剤化も簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】DSSで大腸炎を誘発したマウスに、卵殻膜含有微粉末サプリメントを摂取させた後の細菌メタゲノム解析の結果:腸内細菌プロファイル
図2】DSSで大腸炎を誘発したマウスに、卵殻膜含有微粉末サプリメントを摂取させた後の細菌メタゲノム解析の結果:腸内細菌種の豊富さ
図3】DSSで大腸炎を誘発したマウスに、卵殻膜含有微粉末サプリメントを摂取させた後の細菌メタゲノム解析の結果:腸内細菌の存在比
図4】マウスを用いた加水分解卵殻膜粉末サプリメントの経口摂取実験による17日後の結果。リアルタイムPCRによるIII型コラーゲン遺伝子の皮膚における発現量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ヒトの腸内には、数百種の腸内細菌が約100兆個以上バランスよく生息しており、例えば乳酸菌、ビフィズス菌のような有用菌(善玉菌)、例えば大腸菌、クロストリジウム菌のような有害菌(悪玉菌)、および日和見菌が腸内において互いにバランスを保ちながら、一種の生態系(腸内フローラ)を形成している。この腸内フローラのバランスが、老化、ストレス、疾病、環境変化、食生活の変化により崩れると、悪玉菌の増加等により腸内に有害な物質が蓄積されて、便秘、下痢症状、免疫機能の低下のみならず、血液中に吸収された有害物質により、心臓、肝臓および腎臓に負担を与え、老化を促進したり、癌の原因にもなることがあることが知られている。
【0015】
本発明の腸内フローラ改善用組成物は、卵殻膜含有粉末を有効成分とするものであり、ラットを用いた実験では、摂取した卵殻膜含有微粉末の46%が消化吸収され、残りは吸収されずに腸内に残った。この残った成分が腸内細菌の多様性を増加させ、かつ大腸菌のような病原性細菌の数を減少させ、腸内フローラを改善できることを、実施例1で示す。
【0016】
本発明で使用される卵殻膜は、陸生の卵生動物すべての卵、特に鳥類の卵の卵殻の内側にある膜であればいずれも使用できる。特に鶏卵の卵殻膜が、入手の容易性、コストの点から好ましい。
【0017】
本発明で使用される卵殻膜含有粉末は、少なくとも卵殻膜を含む粉末であれば特に制限はなく、粉末とは粒子サイズにかかわらず、あらゆる粉体をいう。剥離された卵殻膜または卵殻に卵殻膜が付着した状態の原料を使用して、公知のいずれの方法で粉末化してもよい。また、市販の卵殻膜含有粉末を用いてもよい。
【0018】
本発明で使用される卵殻膜含有微粉末は、粉末のうち、体積最大粒子径および/または体積平均粒子径が概ね100μmより小さいものをいう。本願明細書において、粉末または微粉末の「体積平均粒子径」、「体積最大粒子径」は、レーザー回折式粒度分布測定機(株式会社セイシン製、LMS-30)を用いて測定した値を意味する。粒子径の測定に際しては、卵殻膜含有微粉末を界面活性剤を用いて水に分散させた測定試料を用いる。また、「体積平均粒子径」とは、粒度分布における小粒径側からの累積値が50%における粒子径を意味する。
【0019】
本発明で使用される卵殻膜含有微粉末として、特に体積平均粒子径が6μm以下、または体積最大粒子径が20μm以下のものが、消化吸収効率の点から好ましい。市販の卵殻膜含有粉末等の卵殻膜含有原料を、ガス中で相互に衝突させるジェットミルを用いる微粉砕工程により製造することが好ましい。
【0020】
本発明で使用される加水分解卵殻膜成分は、卵殻膜あるいは前述した卵殻膜含有粉末を、酸水溶液、アルカリ水溶液、アルカリ性有機溶媒溶液、およびタンパク質分解酵素含有液などのタンパク質の分解作用を有する液中で加水分解することによって得られる。水溶液、エキスとしても使用できるが、取扱性や保存安定性のため、噴霧乾燥、凍結乾燥等の乾燥手段により得られる粉末形態のものが好ましい。加水分解卵殻膜粉末としては、特にpHが3~6である粉末が保存安定性、安全性の点から好ましい。
【0021】
ヒトの皮膚は表面にある上皮層とその下の結合組織性の真皮層からなっており、真皮層を構成するタンパク質は主としてコラーゲンであり、他にエラスチン、アルブミン、グロブリン、ムチンよりなっている。真皮層を構成するコラーゲンは、主としてα1(I)型コラーゲンおよびα1(III)型コラーゲン(以下、「III型コラーゲン」という。)であり、I型コラーゲンは主として皮膚の構造維持、III型コラーゲンは主として皮膚の柔軟性の付与とそれぞれ異なる機能を果たしている。
【0022】
皮膚におけるI型コラーゲンとIII型コラーゲンの割合は、加齢に伴って変化する。III型コラーゲンは胎児性コラーゲンとも呼ばれるように、胎児のときに最も多く、胎児の皮膚ではIII型コラーゲンの方が多いが、10代から減りはじめ、そのまま減少していくので、皮膚におけるIII型コラーゲンの割合を増加することができれば、加齢による皮膚の老化を止め、皮膚をなめらかでしっとりさせることができる。また、III型コラーゲンは皮膚以外にも、血管、肺、肝臓等の結合組織中に含まれている。
【0023】
卵殻膜含有微粉末は約46%が消化吸収され、加水分解卵殻膜成分はほぼ100%が消化吸収され、血液中に取り込まれた卵殻膜成分により、皮膚におけるIII型コラーゲンの生成を促進するだけでなく、血管でもIII型コラーゲンの生成を促進して血管全体の弾性を増すことができ、肝臓でも線維化を抑制することができる。本発明で使用する卵殻膜成分含有粉末と加水分解卵殻膜成分のいずれも消化吸収されると、III型コラーゲンの生成を促進する機能を有するが、ほぼ100%消化吸収される加水分解卵殻膜成分の方がその促進効果が高いことがわかった。
【0024】
そのため、卵殻膜成分含有粉末と加水分解卵殻膜成分を併用すると、III型コラーゲンの生成促進効果がさらに高められるだけでなく、腸内フローラの改善効果と相まって、相乗的に美肌化、老化防止効果が高められ、健康状態を改善および/または良好に維持できる組成物が提供できた。その組成物は、卵殻膜含有微粉末を10~90重量%、加水分解卵殻膜粉末を90~10重量%含有することが好ましい。
【0025】
本発明の組成物は、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤などの経口用組成物とすることができる。刺激性がないために剤型に特に制限はなく、種々の剤型の経口用組成物を製造するための各種成分および製造法は、サプリメント、医薬品等の製造分野で公知な成分から適宜選択することができる。特に、保存、流通に適し、服用時に変形、崩壊が生じず、経口で簡単に服用できる観点から、錠剤に用いることが好ましい。
【0026】
本発明の錠剤に含まれる卵殻膜含有粉末と加水分解卵殻膜粉末の合計(以下、「卵殻膜成分」ともいう。)の含有量は、特に制限されないが、粒子への造粒と打錠が円滑に行え、かつ錠剤を摂取した際の腸内フローラ改善効果とIII型コラーゲン生成促進効果がより増強されるなどの観点から、錠剤の全重量に対して5~45重量%の割合、より好ましくは10~40重量%の割合で含有するのが好ましい。含有量を5重量%以上とすることにより、多量の錠剤を摂取する必要がなくなり、一方、45重量%以下とすることにより造粒および打錠が容易となり、錠剤を製造しやすくなる。
【0027】
本実施形態の錠剤には、錠剤を形成するための各種の添加剤として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、その他の栄養素等を添加することができる。
賦形剤としては、公知の賦形剤が適宜使用できるが、化工澱粉および乳糖の少なくとも1種を、賦形性の観点から卵殻膜成分の重量に対して0.3~3倍用いることが好ましく、1~2.5倍であることがより好ましい。化工澱粉としては、焙焼デキストリンなどのデキストリン、酸化澱粉、低粘性変性澱粉などの1種または2種以上を用いることができる。賦形剤として化工澱粉と乳糖を併用する場合は、使用割合(重量比)が、1:5~5:1であることが好ましい。
結合剤としては、公知の結合剤が適宜使用できるが、たとえば、デンプン糊、アラビアゴム糊、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
崩壊剤としては、公知の崩壊剤が適宜使用できるが、たとえば、セルロース類などを用いることができる。
滑沢剤としては、公知の滑沢剤が適宜使用できるが、たとえば、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ワックス類、タルク、ビタミンCなどが挙げられる。
【0028】
また、本実施形態の錠剤は、錠剤の硬度を高くして、変形や傷つきを防止し、取扱性を向上させるため、硬度向上剤として卵殻カルシウムを含有することが好ましい。卵殻カルシウムは、鶏卵などの鳥類の卵の殻を粉砕・乾燥した微粉末であり、錠剤に含まれる卵殻カルシウムの含有量は、好ましくは0.1~20重量%、より好ましくは0.5~15重量%である。
さらに、本実施形態の錠剤は、錠剤中に含まれる成分の変質や分解を防止し、かつ、錠剤表面の耐傷つき性を向上させるため、コーティング皮膜で覆うことが好ましい。コーティング皮膜は、公知のコーティング皮膜が適宜使用できるが、たとえば、商品名「セラック」(岐阜セラック株式会社製)を用いることができる。本実施形態の錠剤は、糖衣で覆われていてもよく、着色してもよく、着色後に艶出し処理を施してもよい。
【0029】
本実施形態の錠剤の大きさは特に制限されないが、一般には直径が約7~10mm程度の円形や楕円形とするのが、取扱性、服用のし易さから好ましい。錠剤の1個の重さは、約350~600mg程度であり、卵殻膜成分が好ましくは約10~240mg、より好ましは約20~150mg含まれるようにする。卵殻膜成分が約10~240mgの量で含有されるとすれば、成人では当錠剤を1日当たり1~200個(1日当たりの卵殻膜成分で10~48,000mg)摂取することができる。
【0030】
本実施形態の錠剤は、卵殻膜含有微粉末と加水分解卵殻膜粉末とを少なくとも含む打錠用原料を用いて、公知の錠剤製造方法により製造することができる。たとえば、打錠用原料を打錠して裸錠を形成する打錠工程を経て、必要に応じて、造粒工程、保護コーティング工程、糖衣コーティング工程等を行い、さらに着色、艶出しを行ってもよい。
【0031】
また、本発明の腸内フローラ改善用組成物としての医薬品の有効投与量は、治療もしくは予防すべき症状の程度、投与対象の状態(年齢、性別を含む)、剤型などによって異なる。このような医薬品のヒト(体重60kgの成人)に対する経口投与量は、卵殻膜成分に換算して、好ましくは1日当たり1~100,000mgである。たとえば、有効投与量は、1日当たり卵殻膜成分を合計で10~48,000mgとすることができ、好ましくは、20~3,500mgとすることができる。本発明の卵殻膜含有成分は、安全性が高く副作用の心配がないので、他の成分を適切に選択する限りにおいて、摂取量または適用量が上記の範囲を超えても問題はない。
【0032】
さらに、本発明の組成物は、菓子類、飲料、健康食品、保存食品、加工食品などの食品添加剤とすることができる。ここで、「医薬品」および「飲食品」の対象はヒトに限定されるのもではなく、ペットや家畜のような哺乳動物用の医薬品および飼料も包含する。また、「飲食品」の概念には、通常の飲食品の他、経腸栄養食品、栄養機能食品、機能性表示食品、特定保健用食品などが包含される。
【0033】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
[卵殻膜含有微粉末の腸内フローラ改善機能および腸炎改善機能]
(1)卵殻膜含有微粉末の製造
卵殻膜含有粉末サンプルとして、商品名「EMパウダー300」(キユーピー株式会社製)をジェットミルで微粉砕したものを用いた。ジェットミルとしては、シングルトラックジェットミル(株式会社セイシン製、FS-4)を用いて、風量:1.2m/min、動力:11kwにて、体積最大粒子径が800メッシュ(目開きで約20μm)程度となるまで粉砕を実施した。レーザー回折式粒度分布測定機(株式会社セイシン製、LMS-30)を用いて粉砕後の粒径を測定したところ、体積最大粒子径は19.6μm、体積平均粒子径は5.8μm(以下、「800メッシュ微粉末」という。)であった。
【0035】
(2)実験動物
7週齢のオスC57BL6/Jマウスを購入し3日間順応させた後、平均体重が等しくなるように3つの群(n=8)に分けた。7日間、対照AIN-93G基礎常用飼料(DSS群)または8%の卵殻膜800メッシュ微粉末を補強した飼料(D-ESM8群)のどちらかを給餌した。その後9日間、両群に以前と同じ実験用飼料を与えながら、1.5%(W/V)のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)(分子量40KDa;MP Biomedicals,Irvine,CA)を含む飲料水を与えて、大腸炎を誘発させた。通常の対照マウス(CON群)には、実験の全過程において、AIN-93G基礎常用飼料と通常の飲料水を与えた。
8%の卵殻膜800メッシュ微粉末補強飼料は、カロリーとタンパク質バランスを維持するために、コーンスターチとカゼインで調節した。病気活性指数(disease activity index:DAI)は、マウスの体重、便の硬さ、血便の3つのスコアを用いて、DSS水を与えた日以降毎日モニターした。
【0036】
(3)盲腸の細菌メタゲノム解析
メタゲノムDNAを、QIAamp Stool Minキット(Qiagen,Hilden,Germany)を用いて、マウスの盲腸の内容物から抽出した。16S rRNA遺伝子の可変領域3と4を増幅するために、(5’-CCTACGGGNGGCWGCAG-3’)と(5’-CAGGACTACHVGGGTATCTAATCC-3’)のプライマーを用いて増幅した。増幅物の長さが250bp以上で平均qualityスコアが30以上のDNA配列について配列決定した。
代表的な配列をGreengenes OTUデータベースにしたがって、Ribosomal Database Project(RDP)分類を用いて分類した。
セグメント細菌と数種の病原性細菌の変化を検出するために、定量的リアルタイムPCRを行った。
【0037】
(4)細菌メタゲノム解析の結果
細菌門レベルの解析によれば、3つの実験群(D-ESM8、DSS、CON)の間で、最も広く行き渡っている3つの細菌門の相対量が著しく異なっていた。図1に示すように、Bacteriodetesは、CON群での67.0%から、DSS群では34.6%に減少し、D-ESM8群では55.2%に回復した。 Firmicutesは、CON群での26.5%から、DSS群では13.7%に減少し、D-ESM8群では18.6%に回復した。 Proteobacteriaは、CON群での0.9%から、DSS群では40.2%に増加し、D-ESM8群では8.0%に回復した。
次に、α多様性、β多様性の2つの分類を評価した。α多様性解析により、DSS群のマウスは3つの群のうちで細菌種の豊富さが最も低かった(図2)。
ヒトにおける炎症性腸疾患やマウスにおけるDSS誘発大腸炎を含む疾病状態に相関して、腸内の細菌種が減少することから、この結果は予想どおりであったが、意外なことに、卵殻膜摂取により細菌種の豊富さはCON群と同程度にまで回復した。
【0038】
図3の上段に示すように、腸炎のマーカーおよびヒト炎症性腸疾患とマウス大腸炎の酸化ストレスのマーカーである増加したEnterobacteriaceaeは、CON群と比べて炎症性のDSS群(Proteobacteria門が全細菌の39%)で極めて頻繁に検出された。反対に、Enterobacteriaceaeは、D-ESM8群(約6%)では極めてまれに検出された。同様に、DSS投与によりEnterococcaceaeの数が増加したが、卵殻膜微粉末の補給によってほぼ通常レベルまで下げられた。
短鎖脂肪酸(SCFA)のような腸内細菌の代謝産物は大腸細胞の第一エネルギー源であり、宿主の遺伝子発現に直接影響を及ぼすことが考えられるので、SCFA産生菌の存在を評価した(図3の下段)。炎症性腸疾患で減少することが分かっているRuminococcaceae科やPorphyromonadaceae科などのSCFA産生菌がDSS群では減少していたが、卵殻膜摂取により、これらは改善した。
【0039】
(5)まとめ
上記(4)の結果から、卵殻膜成分含有微粉末の摂取により、腸内細菌の多様性を増加させるだけでなく、大腸菌のような病原性細菌の絶対数を減少させ、セグメント化された糸状菌の異常繁殖を抑制することが示された。
このように、卵殻膜含有微粉末の摂取により、腸内菌共生バランス失調症、腸内毒素症を改善し、腸内フローラを改善することが示された。
【実施例2】
【0040】
[卵殻膜含有微粉末および加水分解卵殻膜粉末のIII型コラーゲン生成促進機能]
卵殻膜800メッシュ微粉末と加水分解卵殻膜粉末のそれぞれを、1日1回、17日間マウスに経口摂取させて、サプリメント経口摂取実験を行った。加水分解卵殻膜粉末としてpHが3~6である加水分解卵殻膜粉末(特許文献3)を用いた。
【0041】
8週齢のヘアレスマウスに対して、加水分解卵殻膜粉末をMediGelに混合し、サプリメントとして1日1回、17日間、動物の活動期に自主的に摂取させた。ヒト1日摂取量の1/2、1倍、2倍換算の量を与え(各々n=6)、また、卵殻膜800メッシュ微粉末をヒト1日摂取量の1倍換算の量として同様に摂取させた(n=6)。対照として、サプリメントを与えないヘアレスマウスを用いた。17日後のそれぞれのマウスの皮膚と肝臓におけるIII型コラーゲン遺伝子発現を定量的リアルタイムPCRで調べた。
【0042】
定量的リアルタイムPCR解析は、以下のように行った。
各マウスから背部皮膚および肝臓サンプルを採取し、液体窒素中で粉砕した。全皮膚組織または全肝臓組織のホモジナイス後、総RNAを単離し、商品名「Takara PrimeScript RT reagent kit」を用いてcDNA合成を行った。リアルタイムPCR法は商品名「SYBR Premix Ex TaqTM II(Takara) on Thermal Cycler Dice Real Time System」(Takara)を用いて行った。プライマーとしてCol3a1(III型コラーゲン)をコードする遺伝子の増幅用に設計されたプライマーを用いた。内部標準として、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNAを同様に増幅した。PCRサイクルは、最初の変性を95℃で30秒、40サイクル(95℃で5秒の変性、60℃で1分のアニーリングおよび伸長反応)行った。
【0043】
皮膚におけるIII型コラーゲン遺伝子の発現量を図4に示す。
経口で加水分解卵殻膜粉末を摂取したマウスの背部皮膚において、III型コラーゲンをコードする遺伝子の発現が量依存的に上昇する(p=0.08)ことが示された。経口で卵殻膜800メッシュ微粉末を摂取したマウスよりも効果的に、III型コラーゲンをコードする遺伝子の発現を上昇させた。
【0044】
肝臓における、加水分解卵殻膜粉末を摂取したマウスのIII型コラーゲン遺伝子の発現量については、サプリメントとしてヒトが摂取する1倍換算の量を与えたマウスでは、対照群と変化がなかったが、2倍換算量を与えた場合に、III型コラーゲン遺伝子の発現が有意(p=0.007)に上昇した。肝臓におけるIII型コラーゲン遺伝子の発現の上昇により、肝臓線維化抑制および血管の環境改善効果が期待される。
【実施例3】
【0045】
[錠剤の製造]
実施例2で使用した卵殻膜800メッシュ微粉末と加水分解卵殻膜粉末を、それぞれ20.0重量部、商品名「ワキシa」(日食株式会社製)10.0重量部、商品名「パインファイバー」(松谷化学株式会社製)20.0重量部、乳糖(メグレ社製)25.9重量部、卵殻カルシウム 商品名「カルホープ」(キユーピー株式会社製)10.0重量部、β-カロチン5.0重量部、ビタミンB2 0.05重量部、ビタミンE0.05重量部、およびナイアシン2.0重量部を、V型混合機を用いて混合することにより、原料混合物を調製した。この原料混合物93重量部に対して、エチルアルコール15重量部を混合し、得られた混合物を湿式造粒装置を用いて造粒してから、温度50℃で約16時間乾燥して、打錠用の顆粒を製造した。
【0046】
打錠用の顆粒100重量部に対して、ビタミンCを9重量部およびショ糖脂肪酸エステルを1重量部の割合で混合し、得られた混合物を打錠装置を使用して、1粒が200mgの裸錠を製造した。裸錠の表面に、コーティング装置を使用して商品名「セラック」(岐阜セラック株式会社製)の水溶液を塗布し、温度40℃で2時間乾燥して保護コーティングされた錠剤を得た。十分に乾燥させた保護コーティングされた錠剤の表面に、糖衣被覆装置を使用して、糖衣用ペーストA(グラニュー糖70重量部、アラビアガム3重量部、ゼラチン4重量部、卵殻カルシウム3重量部および水65重量部を混合したペースト)を被覆した後、温度40℃で約4時間乾燥した。その後、糖衣用ペーストAを水で希釈した糖衣用ペーストBを糖衣被覆装置を使用して被覆した後、温度40℃で4時間乾燥し、糖衣コーティング錠を得た。
【0047】
糖衣コーティング錠の表面に、商品名「SRレッドK3」(三栄源社製)を含む着色料を塗布した後、40~50℃で乾燥して、赤色に着色した錠剤を製造し、その表面にカルナウバロウを用いて艶出しを行った。これにより得られた錠剤1個の重量は400mgであり、錠剤1個当たり卵殻膜成分を約80mgの割合で含有していた。艶出し処理を行った錠剤を選別して不良品を除き、製品検査後に計量し、乾燥剤を同封した二重袋で包装した。錠剤は十分な硬度および形状保形性を有しており、選別、検査、包装時に変形したり、崩壊するとはなく、取扱性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、刺激性がなく、様々な形態で種々の成分と併用することができる、卵殻膜含有粉末または微粉末を含む腸内フローラ改善用組成物を提供することができる。
そして、加水分解卵殻膜成分と併用すれば、卵殻膜含有微粉末の有する腸内フローラ改善機能およびIII型コラーゲンの生成促進機能と、加水分解卵殻膜成分の有するIII型コラーゲンの生成促進機能とが相乗的に作用して、血管、肺、肝臓、皮膚等におけるIII型コラーゲンの生成の促進と、腸内フローラの改善が図られ、美肌効果や老化防止効果が増強され、健康状態を改善および/または良好に維持することができる組成物となる。この組成物は、食品添加剤、飲食品、サプリメント、可食性美容剤、医薬品等の様々な用途、形態で利用することができ、日常的に簡単に摂取することができる。
図1
図2
図3
図4