(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】IGF-1R抗体および癌の診断のためのその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20220613BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220613BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220613BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
G01N33/53 Y
C07K16/30
(21)【出願番号】P 2017556211
(86)(22)【出願日】2016-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2016059336
(87)【国際公開番号】W WO2016174051
(87)【国際公開日】2016-11-03
【審査請求日】2019-05-07
(32)【優先日】2015-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【微生物の受託番号】CNCM CNCM I-4893
(73)【特許権者】
【識別番号】500033483
【氏名又は名称】ピエール、ファーブル、メディカマン
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドラ、ジュアンオー
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-532027(JP,A)
【文献】特表2010-537985(JP,A)
【文献】国際公開第2008/079849(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2013/0084243(US,A1)
【文献】特表2010-535710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)配列番号1の配列のCDR-H1、配列番号2の配列のCDR-H2および配列番号3の配列のCDR-H3を有する重鎖、並びに
ii)配列番号4の配列のCDR-L1、配列番号5の配列のCDR-L2および配列番号6の配列のCDR-L3を有する軽鎖
を含んでなる、IGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
配列番号7の配列もしくは配列番号7の配列と少なくとも90%の相同性を有する任意の配列の重鎖可変領域、および/または配列番号8の配列もしくは配列番号8の配列と少なくとも90%の相同性を有する任意の配列の軽鎖可変領域を含んでなる、請求項1に記載のIGF-1R抗体。
【請求項3】
番号I-4893で、2014年9月17日にCNCM、パスツール研究所、パリに提出されたハイブリドーマによって分泌された、IGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
IGF-1Rを発現する腫瘍細胞の検出用またはIGF-1Rを発現する腫瘍細胞の発現レベルの判定用の薬剤として使用するための、請求項1~3のいずれか一項に記載のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
IGF-1Rの発現に関連した発癌性疾患のin vitroまたはex vivo診断または予測に使用するための、請求項1~3のいずれか一項に記載のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
発癌性疾患を有する患者が、IGF-1R経路を標的とする阻害剤での治療から利益を受ける見込みがあるか否かの判定に使用するための、請求項1~3のいずれか一項に記載のIGF-1R抗体、またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
前記治療が、IGF-1R抗体でなされるものである、請求項6の使用のためのIGF-1R抗体、またはその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
被験体におけるIGF-1Rを発現する腫瘍細胞の存在および/または位置
のin vitroまたはex vivoで
の検出
を補助する方法であって、
(a)該被験体からの生物学的試料を、請求項1~3のいずれか一項に記載のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントと接触させる工程、および
(b)該IGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントの、該生物学的試料への結合を検出する工程
を含んでなる方法。
【請求項9】
被験体においてIGF-1Rを発現している腫瘍細胞の割合
のin vitroまたはex vivoで
の検出
を補助する方法であって、
(a)該被験体からの生物学的試料を、請求項1~3のいずれか一項に記載のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントと接触させる工程、および
(b)該生物学的試料中のIGF-1Rを発現する細胞の割合を定量化する工程
を含んでなる方法。
【請求項10】
被験体中の腫瘍細胞におけるIGF-1Rの発現レベルをin vitroまたはex vivoで判定する方法であって、
(a)該被験体からの生物学的試料を、請求項1~3のいずれか一項に記載のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントと接触させる工程、および
(b)該IGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントの、該生物学的試料中のIGF-1Rへの結合レベルを定量化する工程
を含んでなる方法。
【請求項11】
被験体中の腫瘍細胞または腫瘍のIGF-1Rスコア化をin vitroまたはex vivoで判定する方法であって、
(a)該被験体からの生物学的試料を、請求項1~3のいずれか一項に記載のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントと接触させる工程、
(b)該生物学的試料中で、該IGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントのIGF-1Rへの結合レベルを、蛍光活性化細胞選別(FACS)または免疫組織化学(IHC)によって定量化する工程、および
(c)工程(b)で得た定量化されたレベルを、陽性細胞の染色の強度および割合の2つのパラメーターに基づく適切な基準と比較することにより腫瘍細胞または腫瘍をスコア化する工程
を含んでなる方法。
【請求項12】
癌性疾患が、IGF-1R経路を標的とする抗体薬物での治療に感受性があるか否か判定する方法であって、
(a)請求項11に記載の方法により、被験体中の腫瘍細胞または腫瘍のIGF-1R状態をin vitroまたはex vivoで判定する工程
であって、
腫瘍細胞または腫瘍がIGF-1Rを発現してる場合、腫瘍細胞または腫瘍のIGF-1R状態がIGF-1R(+)であり、
腫瘍細胞または腫瘍がIGF-1Rを発現してない場合、腫瘍細胞または腫瘍のIGF-1R状態がIGF-1R(-)である、工程、
および
(b)腫瘍細胞または腫瘍のIGF-1R状態が、IGF-1R(+)である場合、発癌性疾患は、IGF-1R経路を標的とする抗体薬物での治療に感受性があると判定する工程
を含んでなる方法。
【請求項13】
IGF-1Rに関連した発癌性疾患を、該疾患に罹患している被験体において緩和するために設計された治療計画の有効性をin vitroまたはex vivoで判定する方法であって、
(a)第一生物学的試料において、請求項10に記載の方法にしたがって第一IGF-1R発現レベルを判定する工程であって、該第一生物学的試料が該治療の第一時点に対応するものである工程、
(b)第二生物学的試料において、請求項10に記載の方法にしたがって第二IGF-1R発現レベルを判定する工程であって、該第二生物学的試料が該治療の
後の、第二時点に対応するものである工程、
(c)工程(a)で得られた該第一発現レベルの、工程(b)で得られた該第二発現レベルに対する比を計算する工程、および
(d)工程(c)の比が1を超える場合に、該治療計画の有効性が高いと判定する工程、または工程(c)の比が1以下の場合に、該治療計画の有効性が低いと判定する工程
を含んでなる方法。
【請求項14】
治療量のIGF-1R経路を標的とする抗体薬物の投与から利益があるか否かが予想される癌患者を選択する方法であって、
(a)請求項10に記載の方法により、IGF-1R発現レベルを判定する工程、
(b)前の工程(a)での発現レベルを、参照発現レベルと比較する工程、および
(c)(a)で得られた発現レベルの参照発現レベルに対する比が1より大きい場合、IGF-1R経路を標的とする抗体薬物での治療から利益があると予測される患者を選択する工程、または
(d)(a)で得られた発現レベルの参照発現レベルに対する比が1以下である場合、IGF-1R経路を標的とする抗体薬物での治療から利益があると予測されない患者を選択する工程
を含んでなる方法。
【請求項15】
患者中のIGF-1Rを発現する腫瘍細胞を検出するためのキットであって、請求項1~3のいずれか一項に記載の少なくともIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントを含んでなる、キット。
【請求項16】
発癌性疾患を有する患者が、IGF-1R経路を標的とする抗体薬剤での治療から利益を受ける見込みがあるか否か判定するためのキットであって、請求項1~3のいずれか一項に記載の少なくともIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントを含んでなる、キット。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、IGF-1Rに結合することができる新規抗体、具体的には、モノクローナル抗体、同様に当該抗体をコードするアミノ酸および核酸配列に関する。
【0002】
IGF-1R(または時にはIGF1R)と呼ばれるインスリン様成長因子I受容体は、チロシンキナーゼ活性を有し、インスリン受容体1Rと70%の相同性を有する受容体である。IGF-1Rは、分子量が約350,000の糖タンパク質である。これは、ヘテロ四量体の受容体であり、その半分はそれぞれジスルフィド架橋によって連結しており、細胞外α-サブユニットおよび膜貫通β-サブユニットからなる。IGF-1Rは、極めて高い親和性(Kd#1nM)でIGF1およびIGF2と結合するが、同様にインスリンとも100分の1~1000分の1の親和性で結合し得る。逆に、IGFは100分の1の親和性でしかインスリン受容体と結合しないが、1Rは極めて高い親和性でインスリンと結合する。α-サブユニット上に存在するシステインに富む領域とβ-サブユニットのC末端部分にそれぞれ相同性の低い区域があるが、IGF-1Rのチロシンキナーゼドメインと1Rのチロシンキナーゼドメインとは極めて高い配列相同性を有している。α-サブユニットに見られる配列の差異はリガンドの結合区域に存在するため、それはIGFとインスリンのそれぞれに対するIGF-1Rと1Rの相対的親和性の基となっている。β-サブユニットのC末端部分における差異は、2つの受容体のシグナル伝達経路における相違をもたらし、IGF-1Rは細胞分裂促進特性、分化作用および抗アポトーシス作用を媒介し、一方、1Rの活性化は主として代謝経路のレベルでの作用に関与する。
【0003】
発癌におけるIGF系の役割は、ここ20年で集中的な研究の対象となってきている。この関心は、IGF-1Rが、その細胞分裂促進性および抗アポトーシス性に加えて、形質転換された発現型の確立と維持に必要であると思われるという事実の知見に従ったものである。実際に、IGF-1Rの過剰発現または構成的活性化が、多様な細胞において、ウシ胎仔血清を含まない培地で補助に依存することなく細胞を成長させ、ヌードマウスにおいて腫瘍を形成さ細胞ということが十分に確認されている。成長因子の多数の受容体を含む、過剰発現した遺伝子の多様な産物が細胞を形質転換し得ることから、このこと自体は固有の特性ではない。しかしながら、IGF-1Rが形質転換において果たす主要な役割を明らかに立証した重要な知見は、IGF-1Rをコードする遺伝子が不活性化されたIGR-1R-細胞が、ウシパピローマウイルスのE5タンパク質などの、通常は細胞を形質転換することができる様々な物質、EGFRまたはPDGFRの過剰発現、SV40のT抗原、活性化したRas、またはこれら最後の2つの因子の組合せなどによる形質転換に全く不応であるということを立証している。
【0004】
このような文脈において、IGF-1Rは、腫瘍学の興味深い対象と長い間考えられてきた。癌の治療用にIGF-1Rアンタゴニストを開発するために、IGF-1R(ヒト化された抗体もしくはヒト抗体、または小さな分子)を標的とする多くのプロジェクトが開始され、70件を超える臨床試験が様々な適応で行なわれてきた。しかしながら、今日においても、これらのプロジェクトのどれも成功しておらず、市場に出ているIGF-1R抗体はない。
【0005】
本発明は、特にIGF-1Rの発現を特徴とするか、または異常なIGF-1R発現によって媒介される発癌性疾患を検出および/またはモニタリングするための診断的または予後的バイオマーカーに使用することができる少なくとも1つの試薬を提供することを目標とする。
【0006】
適切な診断的または予後的ツールとして使用することができる価値のある抗体を開発する従前の試みの報告もあるが、これらのどれも満足のいくものではない。
【0007】
以下の例から明白となるように、本発明者らは、驚くべきことにIGF-1Rを発現している腫瘍のスコア化のための、今日において一般的に使用されている市販の抗体が、偽陽性および/または偽陰性を示すので、関連していないようであることを実証した。この問題は、部分的にIGF-1R抗体での臨床試験の失敗につながり、その理由はIGF-1R抗体の実際の活性ではなく患者の選択による。
【0008】
さらに、市販の抗体を使用して行なわれた最初の研究では、標的とされたADC療法のIGF-1Rスコア化および抗腫瘍活性の間の不一致が示された。
【0009】
本発明は、既存のものに反して染色できる、IGF-1R標的療法の薬理学と相関関係を有する、新規抗体を提供することにより、この問題を改善することを意図する。
【0010】
最初の側面では、本発明の主題は、高い親和性で、IGF-1R、好ましくはヒトIGF-1Rに結合する単離した抗体またはその抗原結合フラグメントであって、従って、IGF-1R発現によって媒介された病理学的過剰増殖性の発癌性疾患を診断する方法に有用となり得る。
【0011】
本発明の実施態様は、配列番号1、2、3、4、5および6の配列の6つのCDRを含んでなる抗体またはその抗原結合フラグメントに関係する。
【0012】
特定の実施態様において、本発明は、IGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントに関し、それは以下を含んでなることを特徴とする:
i)配列番号1の配列のCDR-H1、配列番号2の配列のCDR-H2および配列番号3の配列のCDR-H3を有する重鎖;並びに
ii)配列番号4の配列のCDR-L1、配列番号5の配列のCDR-L2および配列番号6の配列のCDR-L3を有する軽鎖。
【0013】
用語「抗体」(antibody)、「抗体(複数)」(antibodies)、「ab」または「免疫グロブリン」は、最も広い意味で互換的に使用され、モノクローナル抗体、単離された抗体、改変された抗体、化学的に合成された抗体、または組換え抗体(例えば、完全または無傷のモノクローナル抗体)、多クローン性抗体、多価抗体または多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、およびさらに抗体フラグメントを含むが、それらが所望の生物的活性を示すことが条件である。一つの実施態様において、本発明は組換え抗体に関する。
【0014】
本明細書中で使用されるように、「IGF-1R抗体」という表現は、「抗IGF-1R抗体」と同様と解釈するべきであり、IGF-1Rに結合することができる抗体を意味する。
【0015】
抗体の「IGF-1R結合性フラグメント」または「抗原結合フラグメント」とは、抗体のIGF-1R標的物(一般に抗原とも言及される)へ結合する能力を保持する任意のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質を示すことを意図している。一つの実施態様において、そのような「抗原結合フラグメント」は、Fv scFv(scとは単一鎖である)、Fab、Fab、F(ab’)2、Fab’、scFv-Fcのフラグメントまたはダイアボディーまたはポリ(エチレン)グリコール(「ペグ化」)(Fv-PEG、scFv-PEG、Fab-PEG、F(ab’)2-PEGまたはFab’-PEGと呼ばれるペグ化フラグメント)(「PEG」とはポリ(エチレン)グリコール)等のポリ(アルキレン)グリコールの添加またはリポソーム内への組み入れ等の化学的改良によって増加するであろう半減期をもつ任意のフラグメントからなる群から選択され、当該フラグメントは、本発明による少なくとも1つの抗体の特徴的CDRを有する。好ましくは、当該「抗原結合フラグメント」は、それらの由来である可変性重鎖または可変性軽鎖の部分的配列からなるか、またはそれらを含んでなり得、当該部分的配列は、標的に対して、それらの由来である抗原と同一の結合特異性およびそれらの由来である抗原の親和性の、好ましくは少なくとも1/100に等しく、より好ましい様式では少なくとも1/10の十分な親和性を保持するのに十分である。
【0016】
好ましくは、前記「IGF-1R結合性フラグメント」または「抗原結合フラグメント」は、少なくとも以下を含んでなる:
i)配列番号1の配列のCDR-H1、配列番号2の配列のCDR-H2および配列番号3の配列のCDR-H3;および
ii)配列番号4の配列のCDR-L1、配列番号5の配列のCDR-L2および配列番号6の配列のCDR-L3。
【0017】
「結合する」(binding)、「結合する」(binds)などというのは、抗体またはその任意の抗原結合フラグメントが、生理的状態下で比較的安定している抗原と複合体を形成することを意図する。特異的結合は、少なくとも1x10-6M以下の平衡解離定数によって特徴づけることができる。2つの分子が結合するかどうか判定する方法は、当技術において公知であり、例えば、平衡透析法、表面プラズモン共鳴などが含まれる。疑義を生じさせないことを目的として、当該抗体は別の抗原に、低い水準で、結合または介入することができないという意味ではない。しかしながら、実施態様としては、当該抗体は、当該抗原にのみ結合するものとする。
【0018】
CDR領域またはCDR(複数)とは、IMGTによって定義されるような免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の超可変領域を示すことを意図している。
【0019】
IMGT独自ナンバリングは、抗原受容体であれ、鎖型であれ、または種(species)であれ、可変ドメインを比較するために定義されている[Lefranc M.-P., Immunology Today 18, 509 (1997) / Lefranc M.-P., The Immunologist, 7, 132-136 (1999) / Lefranc, M.-P., Pommie, C., Ruiz, M., Giudicelli, V., Foulquier, E., Truong, L., Thouvenin-Contet, V. and Lefranc, Dev. Comp. Immunol., 27, 55-77 (2003)]。IMGT独自ナンバリングでは、保存されているアミノ酸は、常に同じ位置を持ち、例えば、システイン23(1st-CYS)、トリプトファン41(CONSERVED-TRP)、疎水性アミノ酸89、システイン104(2nd-CYS)、フェニルアラニンまたはトリプトファン118(J-PHEまたはJ-TRP)などである。IMGT独自ナンバリングは、フレームワーク領域の標準的な画定(FR1-IMGT:1~26番、FR2-IMGT:39~55番、FR3-IMGT:66~104番およびFR4-IMGT:118~128番)および相補性決定領域の標準的な画定:CDR1-IMGT:27~38番、CDR2-IMGT:56~65番およびCDR3-IMGT:105~117番を提供する。ギャップは占有されていない位置を表すので、CDR-IMGT長(括弧内に示され、ドットで仕切られる、例えば[8.8.13])は重要な情報となる。IMGT独自ナンバリングは、IMGT Colliers de Perles[Ruiz, M. and Lefranc, M.-P., Immunogenetics, 53, 857-883 (2002) / Kaas, Q. and Lefranc, M.-P., Current Bioinformatics, 2, 21-30 (2007)]と呼ばれる2Dグラフ表示、およびIMGT/3Dstructure-DB[Kaas, Q., Ruiz, M. and Lefranc, M.-P., T cell receptor and MHC structural data. Nucl. Acids. Res., 32, D208-D210 (2004)]における3D構造において使用される。
【0020】
本明細書に相反する記載がなければ、相補性決定領域またはCDRは、IMGTナンバリングシステムに従って定義される免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の超可変領域を意味すると理解しなければならない。
【0021】
CDRもやはりKabatナンバリングシステム(Kabat et al., Sequences of proteins of immunological interest, 第5版, U.S. Department of Health and Human Services, NIH, 1991,および後続版)に従って定義することができる。3つの重鎖CDRと3つの軽鎖CDRが存在する。本明細書では、用語「CDR(単数)」または「CDR(複数)」は、場合に応じて、抗体が認識する抗原またはエピトープに対するその抗体の親和性を担うアミノ酸残基の大多数を含むこれらの領域の1以上もしくはさらには全体を示すために使用される。本出願の通読を簡単にするために、KabatによるCDRは定義しない。しかしながら、IMGTによるCDRの定義を用いてKabatによるCDRを定義することは当業者には自明であろう。
【0022】
特定の実施態様において、本発明によるIGF-1R抗体は、配列番号7の配列の重鎖可変領域または配列番号7の配列と少なくとも90%の相同性を有する任意の配列を含んでなることを特徴とする。
【0023】
特定の実施態様において、本発明によるIGF-1R抗体は、配列番号8の配列または配列番号8の配列と少なくとも90%の相同性を有する任意の配列の軽鎖可変領域を含んでなることを特徴とする。
【0024】
さらに別の実施態様によると、810D12と称する抗体は、アミノ酸配列、配列番号7または、配列番号7の配列と最適なアライメント後に、少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%および98%の相同性を有する配列を含んでなる重鎖可変領域配列を含んでなること;および/またはアミノ酸配列、配列番号8または、配列番号8の配列と最適なアライメント後に、少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%および98%の相同性を有する配列を含んでなる軽鎖可変領域配列を含んでなることを特徴とする。
【0025】
本発明における意味では、核酸またはアミノ酸の2配列間の「相同性パーセンテージ」とは、最適なアラインメント後に得られる、比較する2配列間の同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基のパーセンテージを意味し、このパーセンテージは、純粋に統計学的なものであり、2配列間の差異は、それらの長さに沿ってランダムに分配している。2つの核酸またはアミノ酸の配列間の比較は、それらを最適にアラインした後に配列を比較することにより慣例的に行われ、その比較は、セグメントまたは「アラインメント・ウィンドウ」の使用によって行なうことができる。比較のための配列の最適なアラインメントは、手による比較の他、Smith and Waterman (1981)[Ad. App. Math. 2:482]のローカルホモロジーアルゴリズムによるか、Neddleman and Wunsch (1970)[J. Mol. Biol. 48:443]のローカルホモロジーアルゴリズムによるか、Pearson and Lipman (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444]の類似性検索法によるか、またはこれらのアルゴリズムを用いるコンピューターソフトウエア(the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA、または比較ソフトウエアBLAST NRもしくはBLAST Pによる)によって行うことができる。参照アミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%および98%の相同性を示すアミノ酸配列に関して、好ましい例としては、参照配列、特定の改変、特に、少なくとも1つのアミノ酸の欠失、付加もしくは置換、末端切断または延長を含有するものが含まれる。1以上の連続または非連続アミノ酸の置換の場合、置換アミノ酸が「等価な」アミノ酸により置換される置換が好ましい。ここで、「等価なアミノ酸」という表現は、構造アミノ酸の1つに関しておそらく置換されるが、対応する抗体の、また、以下に定義される具体例の、生物活性を変更しない任意のアミノ酸も示すことを意味する。
【0026】
等価なアミノ酸は、それらが置換されるアミノ酸との構造的相同性か、または生成される可能性のある種々の抗原結合性タンパク質間の生物活性の比較試験の結果のいずれかに基づいて決定し得る。
【0027】
限定されない例として、下記表1は、対応する改変抗原結合性タンパク質の生物活性に有意な改変をもたらさずに行えると思われる潜在的置換をまとめたものであり、同じ条件下で逆の置換も当然可能である。
【0028】
【0029】
本発明の特定の側面は、抗体またはその任意の抗原結合フラグメントが、インスリン受容体(1R)に結合しないということである。
【0030】
別の実施態様において、本発明の抗体は、モノクローナル抗体からなる。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「モノクローナル抗体」または「Mab」は、実質的に均質の抗体の集団から得られる抗体を意味し、すなわち、その集団の個々の抗体は、わずかな量で存在し得る潜在的な自然突然変異以外は同一である。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一のエピトープに向けられている。このようなモノクローナル抗体は、B細胞の単一のクローンまたはハイブリドーマにより生産され得る。モノクローナル抗体はまた、組換え型であってもよく、すなわち、タンパク質工学よっても生産され得る。モノクローナル抗体はまた、ファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。加えて、一般に種々の決定基またはエピトープに対する種々の抗体を含むポリクローナル抗体の作製とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原の単一のエピトープに対するものである。本発明は、天然資源から単離したかもしくは得られたか、または遺伝子組換えもしくは化学合成によって得られた抗体に関する。
【0032】
別の実施態様において、本発明の抗体は組換え抗体からなる。用語「組換え抗体」とは、生細胞内の組換えDNAの発現に起因する抗体を指す。本発明の組換え抗体は、生物学的有機体内で見つからないであろうDNA配列を作成する、当業者に周知の、遺伝子組換えの実験室手法を使用することにより得られる。
【0033】
別の実施態様において、本発明の抗体は化学的に合成された抗体からなる。
【0034】
「IGF-1R抗体」には、(反対の記載が無い限り)マウス形態だけでなく、キメラ形態またはヒト化形態の前記IGF-1R抗体が含まれる。
【0035】
より明確にするために、下記表2は、IMGTに従い定義された抗体810D12の配列を説明する。
【0036】
【0037】
一つの実施態様において、本明細書でのモノクローナル抗体には、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体が含まれる。抗体は、微生物培養物の仏国コレクション(CNCM、パスツール研究所、パリ、フランス)に提出されたマウス起源のハイブリドーマに由来し、当該ハイブリドーマは、Balb/C免疫マウス脾細胞/リンパ球と骨髄腫Sp 2/O-Ag 14細胞株の細胞の融合により得られたものである。
【0038】
別の側面によれば、本発明は、本発明によるモノクローナル抗体を分泌することができるマウスのハイブリドーマ、特に番号I-4893で、2014年9月17日にCNCM、パスツール研究所、パリ、フランスに寄託されたマウス起原のハイブリドーマに関する。
【0039】
前記ハイブリドーマI-4893によって分泌された、本明細書では810D12と称されるモノクローナル抗体またはその任意の抗原結合フラグメントが明らかに本発明の部分を形成する。
【0040】
本発明は、番号I-4893で、2014年9月17日にCNCM、パスツール研究所、パリ、フランスに提出されたハイブリドーマによって分泌されたことを特徴とする、IGF-1R抗体、またはその抗原結合フラグメントに関する。
【0041】
また、本発明は、番号I-4893で、2014年9月17日にCNCM、パスツール研究所、パリ、フランスに提出されたマウスのハイブリドーマを記載する。
【0042】
本発明の新規の側面は、単離した核酸に関係し、それは次の核酸から選択されるという特徴をもつ:
a)本発明による抗体をコードする核酸;
b)配列番号9または10の配列から選択された配列、または配列番号9または10の配列との最適なアラインメント後に少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%および98%の相同性を有する配列を含んでなる核酸;および
e)a)またはb)に定義されたような核酸の相補的核酸。
【0043】
下記表3は、本発明の抗体810D12に関する種々のヌクレオチド配列をまとめたものである。
【0044】
【0045】
本明細書において互換的に使用される用語「核酸」、「核配列」、「核酸配列」、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」および「ヌクレオチド配列」は、非天然ヌクレオチドを含有するまたは含有しない核酸のフラグメントまたは領域を定義し、二本鎖DNA、一本鎖DNAまたは当該DNAの転写産物のいずれかである、修飾されたまたは修飾されていないヌクレオチドの厳密な配列を意味する。
【0046】
本明細書において、本発明が自然な染色体の環境(即ち、自然な状態)での核酸配列には関係しないことを含めるべきである。本発明の配列は単離および/または精製されており、すなわち、それらは例えば複製により直接的または間接的にサンプリングされたものであり、それらの環境は少なくとも部分的に改変されている。組換え遺伝学により、例えば宿主細胞の手段により得られた、または化学合成により得られた単離された核酸もまた本明細書において言及されるべきである。
【0047】
また、本発明は、本発明に記載されているような核酸を含んでなるベクターに関する。
【0048】
本発明は、そのようなヌクレオチド配列を含有しているクローンおよび/発現ベクターを特に標的とする。
【0049】
本発明のベクターは好ましくは、所与の宿主細胞においてヌクレオチド配列の発現および/または分泌を可能とするエレメントを含有している。従って、ベクターは、プロモーター、翻訳開始および終結シグナル、同様に好適な転写調節領域を含有していなければならない。ベクターは、宿主細胞内で安定に維持可能でなければならず、場合により、翻訳されたタンパク質の分泌を指定する特異的シグナルを有してもよい。これらの種々のエレメントは、使用する宿主細胞に応じて当業者により選択および最適化される。この目的で、ヌクレオチド配列は、選択された宿主内でまたは自己複製するベクターに挿入できるか、または選択された宿主の組み込みベクターであり得る。
【0050】
このようなベクターは当業者により一般に使用される方法によって作製され、得られたクローンは、リポフェクション、エレクトロポレーション、コンジュゲーション、熱ショックまたは化学法などの標準的方法により好適な宿主に導入することができる。
【0051】
ベクターは、例えば、プラスミドまたはウイルス起源のベクターである。それらは本発明のヌクレオチド配列をクローニングまたは発現するように、宿主細胞を形質転換さ細胞ために使用される。
【0052】
また、本発明は、本発明に記載のベクターにより形質転換されたかそれを含んでなる宿主細胞を含んでなる。
【0053】
宿主細胞は、例えば、細菌細胞などの原核生物系または真核生物系の中からだけでなく、酵母細胞または動物細胞、特に哺乳動物細胞の中から選択することができる。昆虫または植物細胞も使用可能である。
【0054】
また、本発明は、本発明による形質転換した細胞を有する、ヒトを除く動物に関する。
【0055】
本発明の別の側面は、本発明による抗体またはその機能性フラグメントの1つを製造するための方法に関し、当該方法は、以下の工程を含んでなることを特徴とする:
a)本発明による宿主細胞の培地中で、かつその本発明による宿主細胞に好適な培養条件での培養;および
b)このようにして産生された前記抗体またはその機能性フラグメントの1つの、培養培地からまたは前記培養細胞からの回収。
【0056】
本発明による形質転換細胞は、本発明による組換えポリペプチドの製造方法で使用される。組換え型の本発明によるポリペプチドの製造方法であって、本発明によるベクターおよび/またはベクターにより形質転換された細胞を用いることを特徴とする方法もまた、本明細書に含まれてなる。好ましくは、本発明によるベクターにより形質転換された細胞は、前記組換えポリペプチドの発現および当該組換えペプチドの回収を可能とする条件下で培養される。
【0057】
既述のように、宿主細胞は、原核生物系または真核生物系の中から選択することができる。特に、このような原核生物系または真核生物系において分泌を促進する本発明のヌクレオチド配列を特定することができる。よって、このような配列を有する本発明によるベクターは、分泌される組換えタンパク質の製造に有利に使用できる。実際に、目的とするこれらの組換えタンパク質の精製は、それらが宿主細胞内部ではなく細胞培養の上清中に存在するという事実により容易となる。
【0058】
バイオマーカーとしての本発明の抗体の使用も開示されている。方法は、IGF-1Rの発現に関連した種々の過剰増殖性発癌性疾患、典型例として、制限することなく、前立腺癌、骨肉腫、肺癌、乳癌、子宮内膜癌、膠芽腫、結腸癌、胃癌、腎癌、膵癌、頭頚部癌またはIGF-1Rの発現に関連したその他の任意の癌を検出または診断するために使用してもよい。当業者であれば認識するように、特定の疾患に関連した抗体発現のレベルは、既に存在している病態の性質および/または重篤性によって変わるだろう。
【0059】
本発明の抗体を、当業者において公知な任意の従来的方法(例えば、局所的、非経口、筋肉内等)で投与すると、試料中の異型細胞の検出する非常に有用な方法がもたらされ、同様に臨床医がIGF-1Rの発現に関連したかIGF-1Rの発現を媒介した過剰増殖性発癌性疾患の治療を受けている患者の治療計画(therapeutic regiment)をモニタリングすることが可能となる。
【0060】
本発明による抗体またはその抗原結合フラグメントは、IGF-1Rの発現に関連した種々の病状の検出、診断、予後および病期診断を含む種々の医療用途または研究用途における使用が見出されるだろう。
【0061】
本発明の一つの実施態様は、IGF-1Rを発現する腫瘍細胞の検出用の薬剤として使用するための上記のようなIGF-1R抗体、またはその抗原結合フラグメントに関する。
【0062】
本発明の別の実施態様は、IGF-1Rの発現に関連した発癌性疾患のin vitroまたはex vivo診断または予測に使用するための上記のようなIGF-1R抗体、またはその抗原結合フラグメントである。
【0063】
本明細書で使用する、疾患を「診断する」とは、IGF-1Rの発現に関連したかIGF-1Rの発現を媒介した病理学的過剰増殖性発癌性疾患を同定または検出する工程、この疾患の進行をモニタリングする工程、IGF-1Rの発現に関連した疾患の指標となる細胞または試料を同定または検出する工程を指す。
【0064】
本明細書で使用する「予後(prognosis)」とは、疾患からの回復の見込みあるいは疾患の可能性のある進展または転帰の予測を意味する。例えば、被験体からの試料がIGF-1R抗体での染色に対して陰性の場合、その被験体の「予後」は、試料がIGF-1R染色に対して陽性の場合より良好である。試料について、以降により詳細に説明されるように、適切な基準でのIGF-1R発現レベルをスコア化してもよい。
【0065】
IGF-1R抗体は、免疫抱合体または検出可能/定量化可能なシグナルを得るための標識抗体の形で存在することができる。好適な標識または他の適切な検出可能な生体分子もしくは化学薬物と共に使用された場合、IGF-1R抗体は、in vitroまたはex vivo診断および予測用途に特に有用である。
【0066】
免疫アッセイで使用する標識は、当業者に一般に知られており、酵素、放射性同位体ならびに、例えばコロイド金またはラテックスビーズのような有色粒子を含む蛍光性、発光性および発色性の物質が含まれる。好適な免疫アッセイには、酵素免疫吸着測定法(ELISA)が含まれる。標識をIGF-1R抗体へコンジュゲートさ細胞種々の標識および方法は、例えば下記に示されたようなものなど、当業者において公知である。
【0067】
本明細書で使用する、用語「IGF-1Rの発現に関連した発癌性疾患」とは、疾患に罹患している被験体における高いレベルのIGF-1R(異常)の存在が、疾患の病態生理学または疾患の悪化を助長している要因のいずれかに関与していると示されたかまたは関与が疑われる疾患およびその他の疾患を含むことを意図している。あるいは、そのような疾患は、例えば、疾患に罹患している被験体の影響を受けた細胞または組織における細胞表面上のIGF-1Rレベルの増加によって証拠づけられてもよい。IGF-1Rレベルの増加は、IGF-1R抗体を使用して検出されてもよい。
【0068】
特定の実施態様において、IGF-1Rに関係する「増加した発現」とは、対照に対して、発現(RNA発現またはタンパク質発現によって測定される)に統計的に顕著な増加を示すタンパク質または遺伝子の発現レベルを指す。
【0069】
一つの実施態様は、発癌性疾患を有する患者が、IGF-1R経路を標的とする阻害剤での治療から利益を受ける見込みがあるか否かの判定に使用するための、上記のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントであり、好ましくはIGF-1R抗体は単独、組み合わさったものであるかまたはコンジュゲートされたものである。
【0070】
本明細書で使用されるように、「IGF-1R経路を標的とする阻害剤」という表現は、IGF-1Rのチロシンキナーゼ活性を、IGF-1RのリガンドまたはIGFR自体への結合のいずれかによって、減少または阻害さ細胞ことができる任意の化合物を意味する。そのような阻害剤の例は、タンパク質、ペプチド、抗体または抗体-薬物複合体、あるいはIGF-1Rアンタゴニスト、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはIGF-1R遺伝子もしくはIGFRリガンド(複数可)の1つをコードする遺伝子の発現を阻害するsiRNAとしての機能を果たす任意の化学化合物、あるいは当業者に公知のその他の任意の薬物または化合物である。
【0071】
より詳細には、本明細書における意味では、IGF-1R経路を標的とする阻害剤は、IGF-1Rに結合することができ、かつそのリガンドの結合を阻害する任意の化合物または分子も包含することを意図している。
【0072】
さらにより具体的には、本明細書における意味では、IGF-1R経路を標的とする阻害剤は、IGF-1Rに結合する任意のモノクローナル抗体を包含することを意図している。
【0073】
別の好ましい実施態様において、IGF-1R経路を標的とする阻害剤は、抗体-薬物複合体(ADC)からなり、ここで抗体部分がIGF-1Rを標的とし、薬物部分が、細胞毒性薬、細胞増殖抑止剤、毒素等の任意の薬物から選択することができる。例証された一つの実施態様において、薬物部分は、オーリスタチン、アナログまたは誘導体からなることができる。
【0074】
また、被験体におけるIGF-1Rを発現する腫瘍細胞の存在および/または位置をin vitroまたはex vivoで検出する方法であって、以下の工程を含んでなる方法を記載することも本発明の目的である:
(a)前記被験体からの生物学的試料を、上記の本発明による、IGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントと接触させる工程;および
(b)前記IGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントの、前記生物学的試料への結合を検出する工程。
【0075】
また、本発明は、被験体における、好ましくはその細胞の表面での、IGF-1Rの発現を検出および/または定量化および/またはそのレベルを決定するin vitroまたはex vivo方法であって、以下の工程を含んでなる方法にも関する:
(a)前記被験体からの生物学的試料を、上記の本発明による、IGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントと接触させる工程;および
(b)当該IGF-1R抗体またはその原結合性フラグメントの、前記生物学的試料との結合を検出および/または定量化、またはそのレベルを判定する工程。
【0076】
IGF-1R抗体の結合は、当業者に利用可能な種々のアッセイによって検出および/または定量化および/または判定されてもよい。アッセイを実行するための任意の好適な手段は本発明に含まれているものの、特に、蛍光活性化細胞選別(FACS)、ELISA、ウエスタンブロットおよび免疫組織化学(IHC)を言及することができる。好ましい方法にはIHCとFACSが含まれている。
【0077】
また、本発明は、被験体においてIGF-1Rを発現している腫瘍細胞の割合をin vitroまたはex vivoで検出する方法であって、以下の工程を含んでなる方法を記載する:
(a)前記被験体からの生物学的試料を、上記のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントと接触させる工程;および
(b)生物学的試料中のIGF-1Rを発現する細胞の割合を定量化する工程。
【0078】
別の実施態様は、被験体中の腫瘍細胞または腫瘍におけるIGF-1Rの発現レベルをin vitroまたはex vivoで判定する方法であって、以下の工程を含んでなる方法である:
(a)前記被験体からの生物学的試料を、上記のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントと接触させる工程;および
(b)前記IGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントの、前記生物学的試料中のIGF-1Rへの結合レベルを定量化する工程。
【0079】
当業者には明らかであるように、IGF-1R抗体のIGF-1Rへの結合レベルは、当業者に公知の任意の手段によって定量化してもよい。好ましい方法には、ELISAアッセイ等の免疫酵素的方法、免疫蛍光法、IHC、放射性免疫アッセイ(RIA)またはFACSの使用が含まれている。
【0080】
発明の方法によれば、前記IGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントの、IGF-1Rへの結合レベルは、蛍光活性化細胞選別(FACS)または免疫組織化学(IHC)によって定量化される。
【0081】
「生物学的試料」とは、被験体から取り出し得る任意の試料であってよい。そのような試料は、本発明のバイオマーカーの発現レベルの判定を可能にしなければならない。従って試料の性質は、腫瘍の性質に依存するだろう。
【0082】
癌が液状腫瘍である場合、好ましい生物学的試料には、血液試料、血漿試料またはリンパ試料のような試料が含まれる。
【0083】
癌が固形腫瘍である場合、好ましい生物学的試料には、生検試料または外科的切除療法から取り出された試料のような試料が含まれる。
【0084】
好ましくは、生物学的試料は、血清などの体液、全血細胞、組織試料またはヒト由来の生検である。試料は、例えば、IGF-1Rの発現に関連した病理学的発癌性疾患の存在のために簡単に分析することができる生検組織を含み得る。
【0085】
一度、試験された生物学的試料中でIGF-1R発現レベルの判定がなされれば、結果を、IGF-1Rの発現に関係した発癌性疾患を有していない個体からの、試験された生物学的試料と類似の方法で得られた対照試料のものと比較することができる。IGF-1Rのレベルが、試験された生物学的試料中で著しく上昇した場合、それが導き出された被験体が、当該疾患を有しているか当該疾患を発症する見込みが増加していると結論付けられるかもしれない。
【0086】
本発明は、IGF-1Rを発現している腫瘍のin vitroまたはex vivo診断または予測の方法であって、(i)本発明による、そして上記に記載された、被験体中の腫瘍細胞または腫瘍におけるIGF-1Rの発現レベルをin vitroまたはex vivoで判定する方法によりIGF-1Rの発現レベルを判定する工程および(ii)工程(i)の発現レベルを、正常組織またはIGF-1Rを発現していない組織からの参照発現レベルと比較する工程を含んでなる方法に関係する。
【0087】
標的とされた抗腫瘍療法の開発に関して、免疫組織学的な技術での診断は、受容体発現レベルについてのin situ情報をもたらし、従って、そのような治療に必要な受容体の発現レベルに従い治療に感受性である患者を選択することが可能となる。
【0088】
病期判定は、潜在的な予後値を持ち、最適な療法を設計するための基準を提供する。Simpson et al., J. Clin. Oncology 18:2059 (2000)。例えば、固形腫瘍のための治療選択は、通常米国癌共同委員会(AJCC)からの腫瘍/結節/転移(TNM)試験を使用して行なわれる腫瘍病期診断に基づく。この試験および病期システムが、被験体における固形癌が診断されたステージに関して価値のある情報を提供するものの、それが不正確で不十分であることは一般的に認識されている。特に、それは、腫瘍進行の最も初期のステージを同定しない。
【0089】
別の実施態様は、被験体中の腫瘍細胞または腫瘍のIGF-1Rスコア化をin vitroまたはex vivoで判定する方法であって、以下の工程を含んでなる方法からなる:
(a)前記被験体からの生物学的試料を、上記のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントと接触させる工程;および
(b)前記生物学的試料中で、前記IGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントのIGF-1Rへの結合レベルを、蛍光活性化細胞選別(FACS)または免疫組織化学(IHC)によって定量化する工程;および
(c)工程(b)で得た定量化されたレベルを、陽性細胞の染色の強度および割合である2つのパラメーターに基づく適切な基準と比較することにより腫瘍細胞または腫瘍をスコア化する工程。
【0090】
一つの実施態様において、組織試料がホルマリン固定組織、ホルモル置換固定組織、Glyco-fixx固定組織、パラフィン包埋組織および/または冷凍組織の場合、IGF-1R抗体はIGF-1Rを結合さ細胞ことができる。
【0091】
IGF-1Rの予後値を予測するために任意の従来の疾患分析方法を使用してもよい。代表的な分析方法には、打ち切り例の存在下で生存率または時間事象データ(time-to-event)をモデル化するための半パラメーター方法であるコックス回帰分析(Hosmer and Lemeshow, 1999; Cox, 1972)が含まれる。他の生存率分析(例えば、生命表、Kaplan-Meyer)とは対照的に、コックスは、モデルの中で予測因子(共変量)の介在を可能にする。従来的分析方法(例えば、コックス)を使用することで、原発腫瘍から再発疾患(疾患がない生存時間または転移性疾患までの時間)のいずれかの発症までの時間または疾患による死亡までの時間(全体の生存時間)におけるIGF-1R発現状態との関係性に関する仮説を検証することができるかもしれない。コックス回帰分析は、コックス比例疾患分析としても知られている。この方法は、患者の生存時間に対する腫瘍マーカーの予後値を試験するための標準方法である。多変数のモードで使用された場合、いくつかの共変量の影響は、独立した予後値を有する個々の共変量が同定され得るように並行して試験される、即ち最も有用なマーカーである。陰性または陽性の「IGF-1R状態」という用語は、[IGF-1R(-)]または[IGF-1R(+)]として言及することもできる。
【0092】
癌の診断またはモニタリングの間に試料を「スコア化」してもよい。その最も単純な形態では、免疫組織化学による試料の目視点検での判断による分類的に陰性または陽性というものでもよい。より定量的なスコア化は、試料採取した染色(「陽性」)細胞の染色強度および割合である2つのパラメーターを判断することを含む。
【0093】
発明の意味の範囲内で「IGF-1R状態」とは、免疫組織化学(IHC)、蛍光活性化細胞選別FACSまたは当業者に公知の他の方法等の任意の方法によって測定されたIGF-1Rの発現レベルの判定に基づいた、IGF-1R陽性[IGF-1R(+)]またはIGF-1R陰性[IGF-1R(-)]クラスへの腫瘍の分類に関係する。
【0094】
標準化を確保するために、一つの実施態様において、試料は、異なるIGF-1R発現レベルに対して、異なる基準でスコア化してもよく、その大部分は、反応生成物の強度および陽性細胞の割合の評価に基づく(Payne et al., Predictive markers in breast cancer - the present, Histopathology 2008, 52, 82-90)。
【0095】
別の実施態様において、特に本発明の方法の工程(c)における前記スコア化には、陽性細胞の染色の強度および割合に基づく適切な基準を用いることが含まれてなる。
【0096】
第一の例として、エストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体のIHC評価のためのQuick Allredスコア化から類推して、試料について、染色した細胞の反応性の強度および割合に対する0~8個の組合わせスコアからの世界的基準でIGF-1R発現レベルをスコア化してもよい(Harvey JM, Clarck GM, Osborne CK, Allred DC; J. Clin. Oncol. 1999; 17; 1474-1481)。より詳細には、反応性の強度の第一基準は、0~3の基準でスコア化され、0は「反応性なし」に対応し、3は「強い反応性」に対応する。反応性な割合の第二基準は、0~5の基準でスコア化され、0はは「反応性なし」に対応し、5は「割合67~100%反応性」に対応する。次いで、反応性スコアの強度および反応性スコアの割合を合計し、0~8の合計スコアがもたらされる。合計スコア0~2は陰性とみなされる一方、合計スコア3~8は陽性とみなされる。
【0097】
この基準によれば、本明細書において使用される、腫瘍または腫瘍細胞の陰性または陽性「IGF-1R状態」という用語は、Allred基準でそれぞれ0~2または3~8に対応するIGF-1Rの発現のレベルを指す。
【0098】
以下の表4は、Allred方法によるIHC結果を解釈するための指針を説明する。
【0099】
【0100】
発明によれば、方法は、前記適切な基準が、反応性なしを0とスコア化し、かつ反応性割合が67~100%の割合での強い反応性を8とスコア化する、0~8の基準であることを特徴とする。
【0101】
従って、好ましい実施態様において、本発明による被験体中の腫瘍細胞または腫瘍のIGF-1Rスコア化をin vitroまたはex vivoで判定する方法は、工程(c)において、当該適切な基準が、反応性なしを0とスコア化し、かつ反応性割合が67~100%の割合での強い反応性を8とスコア化する、0~8の基準であることを特徴とする。
【0102】
換言すると、被験体からの腫瘍または腫瘍細胞の状態をin vitroまたはex vivoで判定する方法であって、以下の工程を含んでなる方法が記載されかつ請求されている:
(a)Allred基準に従い、被験体からの腫瘍または腫瘍細胞をスコア化する工程;および
(b)-i)腫瘍または腫瘍細胞の状態が、Allredスコア3~8で[IGF-1R(+)]であると判定する工程;または
-ii)腫瘍または腫瘍細胞の状態が、Allredスコア0~2で[IGF-1R(-)]であると判定する工程。
【0103】
本発明の特定の側面において、腫瘍または腫瘍細胞の状態が、Allredスコア3で[IGF-1R(+)]である。
【0104】
本発明の特定の側面において、腫瘍または腫瘍細胞の状態が、Allredスコア4で[IGF-1R(+)]である。
【0105】
本発明の特定の側面において、腫瘍または腫瘍細胞の状態が、Allredスコア5で[IGF-1R(+)]である。
【0106】
本発明の特定の側面において、腫瘍または腫瘍細胞の状態が、Allredスコア6で[IGF-1R(+)]である。
【0107】
本発明の特定の側面において、腫瘍または腫瘍細胞の状態が、Allredスコア7で[IGF-1R(+)]である。
【0108】
本発明の特定の側面において、腫瘍または腫瘍細胞の状態が、Allredスコア8で[IGF-1R(+)]である。
【0109】
本発明の別の特定の側面において、腫瘍または腫瘍細胞の状態が、Allredスコア3~8で[IGF-1R(+)]である。
【0110】
被験体中の腫瘍または腫瘍細胞のIGF-1R状態をin vitroまたはex vivoで判定するための、本明細書に記載された別の特定の方法は、以下の工程を含んでなることを特徴とする:
(a)請求項18の方法に従い、当該被験体からのIGF-1R腫瘍細胞または腫瘍をスコア化する工程;および
(b)腫瘍細胞または腫瘍のIGF-1R状態が、スコア3~8で[IGF-1R(+)]であると判定する工程;または
(c)腫瘍細胞または腫瘍のIGF-1R状態が、スコア0~2で[IGF-1R(-)]であると判定する工程。
【0111】
第二の例として、HER-2受容体のIHC評価のための従来的スコア化から類推して、例えば、試料を、IGF-1R発現レベルについて染色の強度(好ましくは、膜染色)およびに染色を示す細胞の割合を0~3+の組合わせ基準に統合している多少より単純化したスコア化方法でスコア化してもよい。
【0112】
単純化基準と称するこの基準において、0および1+は陰性である一方、2+および3+は陽性染色を表す。しかしながら、スコア1+~3+は、陽性として記録することができ、その理由としては、各陽性スコアは、スコア0(陰性)と比較した場合、再発性および致死性の疾患への危険性が顕著により高いことに関係しているかもしれないが、陽性スコアでの強度の増加はさらに危険性の低減をもたらすかもしれないためである。
【0113】
一般的に言えば、本明細書において使用されている、腫瘍または腫瘍細胞の陰性または陽性「IGF-1R状態」という用語は、単純化基準のスコア0~1+または2+~3+にそれぞれ対応するIGF-1Rの発現のレベルを指す。浸潤性腫瘍の完全な周辺膜質の反応性のみが考慮されるべきであり、しばしば「金網」の外観に似ていた。現在の指針下において、IGF-1Rについて境界線(2+または3+のスコア)としてスコア化された試料は、さらなる評価をする必要がある。非制限的例として、対象が予想通りではない場合、試料がほぼ不自然な結果を含む場合、かつ過剰な抗原回復が示唆される正常乳管(内部制御)が強い膜質陽性をもつ場合、IHC分析を拒絶し、かつFISHまたは他の任意の方法によって、繰り返すか試験するかのいずれかを行うべきである。
【0114】
より明確にするために、下記表5はこれらパラメーターをまとめたものである。
【0115】
【0116】
本発明の方法は、前記の適切な基準が、0~3+の基準であって、腫瘍細胞の膜質反応性なしを0とスコア化し、かつ腫瘍細胞の10%超での強い完全な反応性を3+とスコア化する基準であることを特徴とする。
【0117】
より詳細には、上記のように、当該適切な基準は、0~3の基準であって、腫瘍細胞の膜質反応性なしを0とスコア化し;腫瘍細胞の10%超での弱い認知可能な膜質反応性を1+とスコア化し;腫瘍細胞の10%超での弱い~中程度の完全な膜質反応性を2+とスコア化し;かつ、腫瘍細胞の10%超での強い完全な反応性を3+とスコア化する基準である。
【0118】
換言すると、被験体からの腫瘍または腫瘍細胞の状態をin vitroまたはex vivoで判定するための方法であって、次の工程を含んでなる方法が記載され、かつ請求されている:(a)上記の単純化基準により被験体からの腫瘍または腫瘍細胞をスコア化する工程;および(b)スコア2+または3+で、腫瘍または腫瘍細胞の状態を[IGF-1R(+)]と判定する工程;または(c)スコア0または1+で、腫瘍または腫瘍細胞の状態を[IGF-1R(-)]と判定する工程。
【0119】
本発明の特定の側面において、腫瘍または腫瘍細胞はスコア2+で[IGF-1R(+)]である。
【0120】
本発明の特定の側面において、腫瘍または腫瘍細胞はスコア3+で[IGF-1R(+)]である。
【0121】
本発明の別の特定の側面において、腫瘍または腫瘍細胞はスコア2+または3+で[IGF-1R(+)]である。
【0122】
別の実施態様において、本発明は、被験体中の腫瘍細胞または腫瘍のIGF-1R状態をin vitroまたはex vivoで判定するための方法であって、次の工程を含んでなる方法に関する:
(a)前に記載された本発明の方法により被験体からの前記IGF-1R腫瘍細胞または前記腫瘍をスコア化する工程;および
(b)-i)スコア2+または3+で、腫瘍細胞または腫瘍のIGF-1R状態を[IGF-1R(+)]と判定する工程;または
-ii)スコア0または1+で、腫瘍細胞のIGF-1R状態を[IGF-1R(-)]と判定する工程。
【0123】
一般的に、試験またはアッセイの結果は、種々の形式の中からどれで示してもよい。結果は定性的に示すことができる。例えば、試験結果は、恐らく検出限度の指示と併せて、特定のポリペプチドが検出されたかどうかを単に示すかもしれない。結果は半定量的なものとして、表示されるかもしれない。例えば、様々な範囲が決定するかもしれず、その範囲には、一定の定量的情報を提供するスコア(例えば、使用した基準に依存して、0~3+または0~8)が割り当てられるかもしれない。そのようなスコアは、種々の要因、例えば、IGF-1Rが検出される細胞の数、信号(それは、IGF-1RまたはIGF-1Rを有する細胞の発現レベルを示し得る)の強度等に反映されるかもしれない。結果は、タンパク質濃度等として、定量的方法で(例えば、IGF-1Rが検出された細胞の割合として)表示されるかもしれない。
【0124】
当業者の通常技術により理解されるように、試験によって提供される出力の類型は、試験の技術的限界およびポリペプチドの検出に関連した生物学的意義に依存して変わるだろう。例えば、特定のポリペプチドの場合に、純粋に定性的な出力(例えば、ポリペプチドが一定の検出レベルで検出されたか否か)は、有意義な情報を提供する。他の場合では、より定量的な出力(例えば、試験された試料中のポリペプチドの発現レベル対標準レベルの比)が必要である。
【0125】
別の側面において、被験体中のIGF-1Rの発現に関連した病理学的過剰増殖性の発癌性疾患または病理学的状態への感受性を診断する方法であって、以下の工程を含んでなる方法が記載されている:
(a)本発明によるIGF-1Rを発現する細胞の検出のための方法および/またはIGF-1Rの発現レベルを判定するための方法によって、試料中のIGF-1Rを持つ細胞の存在または不存在を判定する工程、および
(b)当該IGF-1Rを持つ細胞の存在または不存在に基づき、病理学的状態または病理学的状態への感受性を診断する工程。
【0126】
本明細書に記述された方法において、IGF-1Rを発現する細胞の検出またはIGF-1Rのレベルの増加は、一般に、IGF-1Rを媒介した疾患を持つかまたはそれを示す疑いがある患者の指標となる。
【0127】
また、本発明は、個体の癌に罹患する危険性を予測する方法であって、本発明によるIGF-1Rを発現する細胞の検出のための方法および/またはIGF-1Rの発現レベルを判定するための方法によって、組織試料中のIGF-1R発現レベルを検出することを含んでなる方法を提供し、ここで高いIGF-1R発現のレベルが、癌にかかる高い危険性の指標となる。
【0128】
また、本発明は、腫瘍の攻撃性を評価する方法にも関する。
【0129】
本明細書中で使用されるような「腫瘍の攻撃性」とは、早く増殖しかつ急速に広がる傾向がある腫瘍を指す。
【0130】
一つの実施態様において、腫瘍の攻撃性を評価する前記方法は、以下:
(a)本発明によるIGF-1Rを発現する細胞の検出のための方法および/またはIGF-1Rの発現レベルを判定するための方法によって、腫瘍試料中の細胞によって発現されたIGF-1Rのレベルを判定する工程、
(b)本発明によるIGF-1Rを発現する細胞の検出のための方法および/またはIGF-1Rの発現レベルを判定するための方法によって、同一の個体から後の時点で取り出された同等の組織試料中で発現されたIGF-1Rのレベルを判定する工程、および
(c)工程(a)で得られた発現レベルと、工程(b)で得られた比との間の比を判定する工程を含んでなり、
ここで、腫瘍試料中の時間をかけたIGF-1Rの発現の比は、癌進行の危険性についての情報を提供する。
【0131】
好ましい実施態様において、1を超える工程(a)で得られたレベルの工程(b)で得られたレベルに対する比は、攻撃性を示す。別の実施態様において、1以下の比は、非攻撃性を示す。
【0132】
本発明の別の側面は、本発明による発現の検出および/またはIGF-1R発現の定量化および/または発現レベルの判定の方法によるIGF-1R経路を標的とする療法の投与に応じたIGF-1R発現をモニタリングすることである。このようなモニタリングは、前記療法が、IGF-1Rの下方調節および/または分解を引き起こす場合、非常に有用になり得る。
【0133】
また、発癌性疾患が、IGF-1R経路を標的とする抗体薬物での治療に感受性か否か判定する方法であって、以下の工程を含んでなる方法について記載することも本発明の目的である:
(a)上記の本発明のスコア化方法により、被験体中の腫瘍の、腫瘍細胞の、IGF-1R状態をin vitroまたはex vivoで判定する工程、および
(b)腫瘍細胞または腫瘍のIGF-1R状態が、IGF-1R(+)である場合、発癌性疾患は、IGF-1R経路を標的とする抗体薬物での治療に感受性であると判定する工程。
【0134】
具体的には、細胞表面でIGF-1R発現をモニタリングすることは、臨床試験および「個別化された」療法の過程での治療の有効性を評価するための重大なツールとなり得る。
【0135】
従って、その用途は、被験体に適切な治療を判定する方法を提供する。
【0136】
本発明による発現の検出および/または発現レベルの判定の方法により判定できるIGF-1Rレベルの増加または減少は、IGF-1Rに関連した癌の進化の指標となる。従って、IGF-1Rを発現している細胞の数の増加あるいは様々な組織または細胞中にあるIGF-1R濃度の変化を測定することによって、IGF-1Rに関連した悪性腫瘍を改善することを目的とした特定の治療形態が有効であるか否か判定することが可能である。
【0137】
また、本発明の別の目的は、IGF-1Rに関連した発癌性疾患を、当該疾患に罹患している被験体において緩和するために設計された治療計画の有効性をin vitroまたはex vivoで判定する方法であって、以下の工程を含んでなる方法である:
(a)上記の本発明による発現の検出および/または発現レベルの判定の方法により、第一生物学的試料において第一IGF-1R発現レベルを判定する工程であって、当該第一生物学的試料は当該治療の第一時点に対応する;
(b)上記の本発明による発現の検出および/または発現レベルの判定の方法により、第二生物学的試料において第二IGF-1R発現レベルを判定する工程であって、当該第二生物学的試料は当該治療の第二の後の時点に対応する;
(c)工程(a)で得られた前記第一発現レベルの、工程(b)で得られた前記第二発現レベルに対する比を計算する工程;および
(d)工程(c)の比が1を超える場合に、前記治療計画の有効性が高いと判定する工程;または工程(c)の比が1以下の場合に、前記治療計画の有効性が低いと判定する工程。
【0138】
好ましい実施態様において、IGF-1Rに関連した発癌性疾患を、当該疾患に罹患している被験体において緩和するために設計された治療計画には、当該被験体へのIGF-1R経路を標的とする療法の投与が含まれる。
【0139】
また、本発明による発現の検出および/または発現レベルの判定の方法を使用した、IGF-1Rの発現に関連した発癌性疾患を造影するin vivoでの方法を提供することも本発明の目的である。そのような方法は、in vivoで腫瘍細胞を見つけ出すこと、同様に、それらの浸潤性をモニタリングすることに有用である。同様に、方法は、IGF-1Rに媒介された癌の診断を以前に受けた患者における進行および/または治療への応答性をモニタリングすることに有用である。
【0140】
一つの実施態様は、被験体中のIGF-1Rを発現している腫瘍細胞の位置を検出する方法であって、以下の工程を含んでなる方法である:
a)本発明によるIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントを被験体へ投与する工程;および
b)当該IGF-1R抗体の結合を検出する工程であって、この結合が、腫瘍細胞の存在を示す。
【0141】
発現している腫瘍の存在の検出に関しては、当業者に公知の多くの技術を使用することができる。しかしながら、好ましい手段はIHCおよびFACSである。
【0142】
別の側面において、本発明は、in vivo造影試薬を提供し、当該試薬は本発明によるIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントを含んでなり、当該IGF-1R抗体は、好ましくは標識され、より好ましくは放射性標識されたものである。
【0143】
また、本発明は、IGF-1Rに媒介された癌にかかった患者の医用画像における当該試薬の使用を意図している。
【0144】
本発明の方法は、以下の工程を含んでなる:
(a)前記患者に、造影に有効な量の本発明の造影試薬を投与する工程および
(b)当該試薬を検出する工程。
【0145】
好ましい実施態様において、造影剤は、本発明によるIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントおよび活性部分を含んでなる。
【0146】
本明細書に使用される「活性部分」とは、前記造影試薬のin vivo検出を可能にする薬剤である。本発明による活性部分には、テクネチウム-99m(99mTc)、銅-67(Cu-67)、スカンジウム-47(Sc-47)、ルテチウム-77(Lu-177)銅64(Cu-64)、イットリウム-86(Y-86)またはヨウ素-124(I-124)のような特定の放射性元素が含まれる。
【0147】
造影剤は、ヒト等の哺乳動物における診断的使用に有効な量で投与され、その後造影剤の局在性および蓄積が検出される。造影剤の局在性および蓄積は、放射性核種画像診断、放射性シンチグラフィー、核磁気共鳴像法、コンピューター断層撮影法、陽電子放出型断層撮影法、コンピューター軸断層撮影法、X線共鳴磁気画像診断方法または磁気共鳴画像診断方法、蛍光検出および化学発光検出によって検出されるかもしれない。
【0148】
標的抗腫瘍療法の開発に関して、免疫組織学的技術での診断により、受容体発現レベルin situ情報(例えば、腫瘍のサイズおよび/または位置)がもたらされる。従って、診断により、そのような治療に必要とされる受容体の発現レベルに従い、治療に感受性な患者を選択することができる。
【0149】
本発明の特に関心のある側面は、治療量のIGF-1R経路を標的とする抗体薬物の投与から利益があるか否かが予想される癌患者を選択する方法であって、以下を含んでなる方法である:
(a)上記の本発明の方法によりIGF-1R発現レベルを判定する工程;
(b)前の工程(a)での発現レベルを、参照発現レベルと比較する工程;および
(c)(a)で得られた発現レベルの参照発現レベルに対する比が1より大きい場合、IGF-1R経路を標的とする抗体薬物での治療から利益があると予測される患者を選択する工程;または
(d)(a)で得られた発現レベルの参照発現レベルに対する比が1以下である場合、IGF-1R経路を標的とする抗体薬物での治療から利益があると予測されない患者を選択する工程。
【0150】
IGF-1Rの発現レベルは、「参照レベル」または「参照発現レベル」とも称される対照細胞または試料におけるレベルに関して優位に比較または測定される。本明細書において、「参照レベル」、「参照発現レベル」、「対照レベル」および「対照」は、互換的に使用される。「対照レベル」とは、一般に疾患または癌のない匹敵する対照細胞において測定された個別の基線レベルを意味する。当該対照細胞は、同一の個体からのものであってもよく、その理由としては、癌患者においてさえも、腫瘍の部位である組織には依然として非腫瘍正常細胞が含まれてなるからである。またそれは、正常の個体または病気感染した試料か試験試料が得られた疾患と同一の疾患を示さない個体に由来してもよい。本発明の文脈の範囲において、「参照レベル」という用語は、患者の試料に含有している癌細胞中のIGF-1R発現の試験レベルを評価するために使用される、IGF-1Rの発現の「対照レベル」を指す。例えば、患者の生物学的試料中のIGF-1Rのレベルが、IGF-1Rの参照レベルより高い場合、細胞は、IGF-1Rの高いレベルの発現、即ち過剰発現をしていると考えられる。参照レベルは、複数の方法によって決定することができる。従って、発現レベルはIGF-1Rを持つ細胞または代替的にIGF-1Rを発現する細胞の数と無関係のIGF-1Rの発現レベルを定義するかもしれない。従って、各患者の参照レベルは、IGF-1Rの参照比によって規定することができ、この参照比は、本明細書に記載された参照レベルを決定する方法のいずれかによって決定することができる。
【0151】
例えば、対照は種々の形態を取り得る所定値でもよい。それはメジアンまたは平均のように、単一カットオフ値であってよい。「参照レベル」は、すべての患者に個々に等しい単一の数であってもよいし、または、参照レベルは、患者の特定の部分母集団により変化してもよい。従って、例えば、同一癌についてより年齢が高い男性はより年齢が低い男性とは異なる参照レベルを有しているかもしれず、かつ同一癌について女性は男性とは異なる参照レベルを有しているかもしれない。あるいは、「参照レベル」は、試験する新生細胞の組織と同一の組織からの非発癌性癌細胞中でのIGF-1Rの発現レベルを測定することにより決定することができる。同様に、「参照レベル」は、患者の非腫瘍細胞のIGF-1Rレベルに対する同一患者の新生細胞のIGF-1Rの一定の比かもしれない。また、「参照レベル」は、in vitro細胞のIGF-1Rレベルであり得、それは腫瘍細胞をシミュレーションするために操作することができ、または参照レベルを正確に決定する発現レベルを産出する他の任意の方法で操作することができる。他方では、「参照レベル」は、上昇したIGF-1Rレベルがないグループおよび上昇したIGF-1Rレベルがあるグループにおいてなど、比較グループに基づいて設定することができる。比較グループの別の例は、特定の疾患、病態または症状を有するグループ、およびその疾患のないグループとなるだろう。例えば、試験された母集団が等しく(または不平等に)危険性の低いグループ、危険性の中程度のグループおよび危険性の高いグループ等のグループに分割される場合、所定値を取り決めることができる。
【0152】
また、参照レベルも、同一癌に罹患している患者の母集団中のIGF-1Rレベルを比較することによって決定することができる。これは、例えば、ヒストグラム分析によって達成することができ、ここで患者の全コホートはグラフ式に示され、ここで、第一軸は、IGF-1Rレベルに対応し、第二軸は、その癌細胞が所定値でIGF-1Rを発現するコホート内の患者の数を表わす。患者の別個の2つ以上のグループは、同一か類似のIGF-1Rレベルを有するコホートの部分的母集団の同定によって決定することができる。その後、参照レベルの決定は、これらの個別グループを最良に区別するレベルに基づき行うことができる。また、参照レベルは、2つ以上のマーカーのレベルを表すことができ、そのうちの1つはIGF-1Rである。2つ以上のマーカーは、例えば、各マーカーのレベルの値の比によって表わすことができる。
【0153】
同様に、明らかに健康な母集団は、IGF-1Rの発現に関係した病態を有すると知られている母集団が有するものとは異なる「正常な」範囲を持つだろう。このため、選択された所定値では、個体が該当する区分を考慮してもよい。適正な範囲および区分は、当業者の通常のルーチン的実験の域を出ずに選択され得る。「上昇した」「増加した」というと、選択された対照への関係性が高いことを意味する。典型的に、その対照は、適切な年齢層における明らかに健康で正常な個体に基づくだろう。
【0154】
また、本発明による対照は、所定値に加えて、実験材料と並行に試験された材料の試料であってもよいことが理解されよう。例には、同一の被験体から同時に得られた組織または細胞、例えば、被験体からの1つの生検の部位または1つの細胞試料の部位が含まれる。
【0155】
別の実施態様において、本発明は、上記の本発明によるIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントまたは標識されたその抗原結合フラグメントおよび薬学的に許容可能な担体を含んでなる、IGF-1Rの発現に関連した発癌性疾患のin vivo造影のための医薬組成物に関する。
【0156】
別の側面において、患者中のIGF-1Rを発現している腫瘍細胞を検出するためのキットであって、少なくとも上記のIGF-1R抗体または抗原結合フラグメントおよび好ましくは抗体810D12を含んでなることを特徴とするキットが記載されている。
【0157】
診断アッセイ(例えば、キット)を行なうための指示書付きで所定量の試薬の組合わせを含んでなるパッケージ化された材料も本発明の範囲内である。キットには、IGF-1Rのin vitro検出および定量化用のIGF-1R抗体が含まれる(例えば、ELISAにて)。IGF-1R抗体が酵素で標識付けされた場合、キットは基質および酵素によって要求される補助因子(例えば、検出可能な発色団か発蛍光団を提供する基質前駆体)を含む。加えて、他の添加剤、例えば、安定化装置、緩衝剤(例えば、ブロッキングバッファーまたは細胞溶解バッファー)が含まれていてもよい。そのようなキットは、バイアル、チューブ等の1つ以上の容器を受けるために仕切られた入れ物を備えてなっていてもよく、そのような容器は、本発明の個々の要素を保持している。例えば、1つの容器には、不溶性または部分的に可溶性の担体へ結合した第一抗体が含まれていてもよい。第二容器には、凍結乾燥された形態であるかまたは溶液に入った、可溶性の、検出可能に標識された第二抗体が含まれていてもよい。また入れ物には、凍結乾燥された形態であるかまたは溶液に入った、検出可能に標識された第三抗体を保持する第三容器が含まれていてもよい。この性質のキットは、本発明のサンドイッチ分析で使用することができる。ラベルまたは添付文書の表示には、組成物の説明と同様に意図するin vitroまたは診断的使用のための指示が提供されていてもよい。
【0158】
種々の試薬の相対量は、試薬の溶液中でアッセイの感度を本質的に最適化する濃度を提供するために幅広く変化し得る。特に、試薬は、通常凍結乾燥された乾燥粉末として提供されてもよく、溶解することで適切な濃度を有する試薬溶液を提供する賦形剤が含まれる。
【0159】
より一層の側面において、本発明による本明細書に詳述されているIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントは、それらが、前述の抗原を有する細胞を診断または同定するために、例えば、キットとしてパッケージ化されて使用できるように検出可能な部分で標識されて提供される。そのような標識の非制限的な例として、フルオレセインイソチオシアネート等の発蛍光団;発色団、放射性核種、ビオチンまたは酵素が挙げられる。そのような標識されたIGF-1R抗体は、抗原の組織学的局在化、ELISA、細胞選別、同様にIGF-1Rを検出するかまたは定量化するための他の免疫学的手法に使用することができる。
【0160】
また本発明は、本発明によるIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントを含んでなることを特徴とするキットに関する。
【0161】
また本発明は、本発明によるIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントの配列番号1~6の配列を有する6つのCDRから得ることができる、キメラまたはヒト化のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントを含んでなることを特徴とするキットに関する。
【0162】
細胞からのIGF-1Rの精製または免疫沈降のための陽性対照として有用なキットも提供される。IGF-1Rの単離および精製のために、キットは、ビーズ(例えば、セファロースビーズ)に結合した、本発明による本明細書に詳説されたIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントを含有し得る。IGF-1Rのin vitro検出および定量化(例えば、ELISAにて)のための抗体を含有しているキットを提供することができる。キットは容器および容器の上または容器に付いたラベルまたは添付文書を備えてなる。例えば、希釈剤および緩衝剤、対照抗体を含有する追加の容器が含まれていてもよい。ラベルまたは添付文書には、組成物の説明と同様に意図するin vitroまたは診断的使用のための指示が提供されていてもよい。
【0163】
より詳しくは、本発明は、本明細書に記載された方法によって被験体中の腫瘍の腫瘍細胞のIGF-1R状態をin vitroまたはex vitroで判定するためのキットに関係する。好ましい実施態様において、実施例に記載されるように、本発明は、IHCおよび/またはFACS方法によって腫瘍、または腫瘍細胞のIGF-1R状態を判定するためのキットに関する。
【0164】
特別の実施態様において、本発明は、少なくとも上記の本発明のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントを含んでなるキットにあり、当該抗体は標識されている。
【0165】
好ましい実施態様において、本発明によるキットは、さらに前記IGF-1R抗体とIGF-1Rとの間の結合度合いを検出するために有用な試薬を含んでなる。
【0166】
別の好ましい実施態様において、IGF-1Rを発現している腫瘍中のIGF-1R発現レベルをin vitroまたはex vitroで判定するために有用な本発明のキットは、前記標識されたIGF-1R抗体とIGF-1Rとの間の結合レベルを定量化するために有用な試薬をさらに含んでなる。
【0167】
一層別の実施態様において、本発明によるキットは、さらに次のものを含んでなる:i)前記標識されたIGF-1R抗体とIGF-1Rとの間の結合度合いを検出するために有用な試薬;およびii)IGF-1R発現レベルのスコア化に有用な陽性および陰性の対照試料。
【0168】
前記キットは、マウス抗体、またはヒト/ヒト化抗体に特異的な多クローン性抗体を含んでなり、好ましくは、当該マウス、ヒト化またはヒト抗体に特異的な多クローン性抗体は標識されている。
【0169】
本発明の特定の実施態様によれば、IGF-1R経路を標的とする阻害剤の療法的投与から利益を受けるか利益を受けないと予想される癌患者をin vitroで選択するためのキットは、次のものを含んでなり得る:i)前記標IGF-1R抗体とIGF-1Rとの間の結合度合いを検出するために有用な試薬;ii)IGF-1R阻害剤への感受性に相互に関連付けられた対照レベルおよび/またはiii)IGF-1R阻害剤への耐性に相互に関連付けられた対照レベル。
【0170】
また、本発明は、発癌性疾患を有する患者が、IGF-1R経路を標的とする抗体薬物での治療から利益を受ける可能性があるか否か判定するためのキットであって、少なくとも上記の本発明のIGF-1R抗体またはその抗原結合フラグメントを含んでなることを特徴とするキットに関する。
【0171】
別の実施態様において、このようなキットは、さらに以下を含んでなることを特徴とする。
i)腫瘍細胞の表面で前記IGF-1R抗体とIGF-1Rとの間の結合度合いを検出するための試薬;および/または
ii)腫瘍細胞の表面で前記IGF-1R抗体とIGF-1Rとの間の結合レベルを定量化するための試薬。
【0172】
本発明の他の特性および利点は、説明の続きとともにその説明が下記に表わされている実施例および図において示されている。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【
図1】
図1は、rhIGF1R ELISAでの810D12抗体で得たOD値の図式的表示である。データフィッティングおよびEC
50測定はPrism適用を使用して決定される。
【
図2】
図2A~2C:810D12(
図2A)と、G11抗IGF-1R抗体(Roche Ventana)(
図2B)とまたはAF-305(R&D system)抗IGF-1R抗体(
図2C)との、パラフィン包埋腫瘍MCF-7の認識免疫組織化学(IHC)パターンを示す図である。
【
図3】
図3:MCF-7異種移植モデルにおける抗IGF-1R ADCのinvivo活性を示す図である。
【
図4】
図4A~4C:810D12と、G11抗IGF-1R抗体(Roche Ventana)(
図4B)とまたはAF-305(R&D system)抗IGF-1R抗体(
図4C)との、パラフィン包埋腫瘍SBC-5の認識免疫組織化学(IHC)パターンを示す図である。
【
図5】
図5:SBC-5異種移植モデルにおける抗IGF-1R ADCのin vitro活性を示す図である。
【実施例】
【0174】
実施例1:810D12の生成および選択
下記のように、rhIGF-1Rに対して生成されたMabを生産し選択した。
【0175】
雌のBalb/Cマウスを、Freund Adjuvantでの組換え型ヒトIGF-1Rタンパク質(R and D Systems、391-GR)10μgの皮下注射によって免疫付与した。免疫付与は、2週間の間隔で3回繰り返した。4回目の射出をアジュバントの存在下で腹腔内注射によって行った。
【0176】
3日後に脾臓細胞を、PEG50%を有するSP2OAg14骨髄腫細胞と融合した。14日間のHAT代謝選択後、ヒトMCF7乳癌細胞を使用して、FACSによってハイブリドーマ上澄みを試験した。MCF7結合抗体のみが保持された。
【0177】
その後、目的の抗体を限界希釈によってクローニングした。クローニングから8日後に、MCF7細胞を使用して、FACSによって上澄みを再度選択した。各ハイブリドーマに対して、3つの陽性クローンが保持された。分泌された抗体のアイソタイプ化は、Southern Biotechnologies(Cat: 5300-05)からのSBA clonotypingシステムHRPキットを使用して判定した。最後に、1つのクローンを拡張し凍結させた。
【0178】
その後、rhIGF-1RまたはrmIGF-1Rまたはrh1R ELISA等のハイブリドーマ上澄みを使用して810D12抗体のさらなる特徴化を行なった。すべての直接ELISAにおいて、各々のウェルの底で目的のタンパク質(1μg/ml)を不動にした。飽和させた後、ハイブリドーマ上澄みをウェルに添加した。1時間のインキュベーション期間および洗浄工程後に、TMB基質を添加する前に、ヤギ抗マウスIgG-HRP標識多クローン性抗体を検出に用いた。波長450nmでの分光光度計でODを読み取る前に、1M H2SO4溶液で反応を停止させた。データは下記表6に示されている。
【0179】
【0180】
rhIGF-1Rコーティングでの810D12抗体に対する用量応答曲線は、
図1に示されている。EC
50の値は、Prism適用を使用して決定される。
【0181】
データから、810D12抗体が、0.51nMのEC50でrh IGF-1Rのみを認識することが示された。それは、IGF-1Rのマウス形態にもヒトIRにも結合しない。
【0182】
実施例2:本発明の抗体との病期診断の相関関係およびMCF-7異種移植モデル中のIGF-1Rを標的とするADCの活性の評価
腫瘍の悪性度を薬理学と相関づけるために、腫瘍を類別し(2.1項)、その後、吸収されることが知られているIGF-1Rを標的とする抗体部分およびオーリスタチン(2.2項)からなる薬物部分を含んでなるADCで MCF-7異種移植モデルにin vivo実験を行った。
【0183】
2.1:MCF-7異種移植片モデルに対するIGF-1R発現の免疫組織化学検出
MCF-7異種移植片からの組織切片を脱パラフィン化し、再水和し、40分間の98℃での熱によるエピトープ回復のために98℃に事前加熱した沸騰浴中のTarget Retrieval Buffer 1X (Dako S1699)内に置き、次いでさらに20分Target Retrieval Bufferに置いた。Tris Buffer Saline -0.05% tween 20(TBS-T)(Dako S3006)中で3回洗浄した後、内因性ペルオキシダーゼ活性を、Peroxidase Blocking Reagent(Dako K4007)を使用して5分間遮断した。切片をTBS-Tで洗浄し、遮断薬(UltraV block-TA-125UB- LabVision)を5分間インキュベートし、その後、室温で1時間、陰性対照として810D12モノクローナル抗体(5μg/mlで)またはマウスIgG1/カッパ(5μg/ml、X0931、Dako)とインキュベートした。切片をTBS-Tで洗浄し、30分間Envision (Dako)でインキュベートした。ジアミノベンジジンを使用して褐色反応生成物(Dako K3468)を作成した。スライドを2分間ヘマトキシリン中に浸し、逆染色 (Dako S3309)させた。
【0184】
本発明の抗IGF-1Rモノクローナル抗体810D12は、MCF-7の細胞膜の異なった染色を行った。このIHC手順では、褐色反応生成物は細胞膜の陽性染色に相互に関連し、褐色反応生成物の不足は陰性染色および細胞膜の非可視化に相互に関連する。膜質アルゴリズムを使用すると、MCF-7腫瘍細胞の染色に関するスコアは3+(
図2A)であった。G11抗体(Roche Ventana)またはAF-305(R&D system)抗IGF-1R抗体を使用すると、同一腫瘍の切片は2+(それぞれ
図2Bおよび2C)とスコア化された。
【0185】
2.2:MCF-7異種移植片モデル中の抗IGF-1R ADCのin vivo活性
抗IGF-1R ADCを、MCF-7異種移植片モデル中で、in vivo評価した。
【0186】
全ての動物手続きは、科学的目的のために使用される動物の保護に関する指令2010/63/UEの指針に従い行った。試験計画書は、Pierre Fabre Instituteの動物倫理委員会(Animal Ethical Committee)によって承認された。MCF-7細胞5百万個を、7週令スイス/ヌードマウスへ皮下注射した。細胞注射前に、MCF-7腫瘍のin vivo増殖に必要なエストロゲンを放出するために、エストロゲンペレット剤(Innovative Research of America)をマウスの左脇腹に注入した。
【0187】
MCF-7細胞注入から20日後、腫瘍が平均サイズ120~150mm3に達した際に、動物を腫瘍サイズおよび様相によりマウス6個体ずつのグループに分割した。抗IGF-1R ADCを、4日ごとの(Q4d4)6回の注射サイクルで腹腔内注射によって接種した。動物の健康状態を毎日モニタリングした。腫瘍容積を研究終了まで週に二度電子カリパスで測定した。腫瘍容積は次の計算式で計算した:π/6×長さ×幅×高さ。動物の体重に従い、1週間当たり3回毒性を評価した。統計分析をマン=ホイットニー(Mann-Whitney)試験を使用して、測定ごとに行った。
【0188】
抗IGF-1R ADCの注射により、著しい阻害および完全な腫瘍増殖退行(
図3)さえも引き起こされたことは、3+に等級分けされた腫瘍では予想通りであったが、2+に等級分けされた腫瘍では予想通りではなかった。
【0189】
実施例3:本発明の抗体との病期診断の相関関係およびSBC-5異種移植片モデル中のIGF-1Rを標的とするADCの活性の評価
腫瘍の悪性度を薬理学と相互に関連付けるために、腫瘍を類別し(3.1項)、その後、IGF-1Rを標的とする抗体部分およびオーリスタチン(3.2項)からなる薬物部分を含んでなるADCでSBC-5異種移植モデルにin vivo実験を行った。
【0190】
3.1 SBC-5異種移植片モデルに対するIGF-1R発現の免疫組織化学検出
IGF-1Rのレベルは、前の実施例2の2.1項に記載された同一の試験計画書を使用して分析した。
【0191】
IGF-1Rを810D12で検出した際、低レベルが検出された(1+)(
図4A)。IGF-1RをG11抗体(Roche Ventana)またはAF-305(R&Dsystem)抗IGF-1R抗体で検出した際、同一腫瘍からの切片は3+(それぞれ
図4Bおよび4C)とスコア化された。
【0192】
3.2:SBC-5異種移植片モデル中の抗IGF-1R ADCのinvivo活性
抗IGF-1R ADCを、SBC-5異種移植片モデル中で、in vivo評価した。
【0193】
全ての動物手続きは、科学的目的のために使用される動物の保護に関する指令2010/63/UEの指針に従い行った。試験計画書は、Pierre Fabre Instituteの動物倫理委員会(Animal Ethical Committee)によって承認された。SBC-5細胞5百万個を、7週令胸腺欠損マウスへ皮下注射した。細胞注入から12日後、腫瘍が平均サイズ150mm3に達した際に、動物を腫瘍サイズおよび様相によりマウス6個体ずつのグループに分割した。抗IGF-1R ADCを、4日ごとの(Q4d4)6回の注射サイクルで腹腔内注射によって接種した。動物の健康状態を毎日モニタリングした。腫瘍容積を研究終了まで週に二度電子カリパスで測定した。腫瘍容積は次の計算式で計算した:π/6×長さ×幅×高さ。動物の体重に従い、1週間当たり3回毒性を評価した。統計分析をマン=ホイットニー試験を使用して、測定ごとに行った。
【0194】
SBC-5腫瘍細胞の腫瘍進行が抗IGF-1R ADCの注射による影響を受けなかった(
図5)ことは1+に等級分けされた腫瘍では予想通りであったが、3+に等級分けされた腫瘍では予想通りではなかった。
【配列表】