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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】X線診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20220613BHJP
   H05G 1/34 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
A61B6/00 300B
A61B6/00 320Z
H05G1/34 H
H05G1/34 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018001871
(22)【出願日】2018-01-10
(65)【公開番号】P2019118699
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】福原 学
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-203095(JP,A)
【文献】特開2016-054045(JP,A)
【文献】特開昭61-027100(JP,A)
【文献】特表2012-526345(JP,A)
【文献】米国特許第05708694(US,A)
【文献】国際公開第2014/013881(WO,A1)
【文献】特開2015-73725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
H05G 1/00-2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットを有する陽極と、フィラメントを有する陰極と、前記フィラメントからの電子を制限するグリッド電極とを備え、X線を発生するX線管と、
前記グリッド電極にグリッドバイアスを印加するグリッドバイアス電源回路と、
前記フィラメントにフィラメント電流を供給することによって、前記フィラメントを加熱するフィラメント加熱回路と、
診断時の使用状況に連動して、前記ターゲットに形成される焦点の焦点サイズの変更を示す焦点サイズ変更信号を切り替える信号切替部と、
前記診断時の使用状況に対応付けられた焦点サイズの目標値およびグリッドバイアスの目標値を持ったテーブルを記憶する記憶部と、
前記焦点サイズ変更信号の切り替えに応じて、前記テーブルから読み出した前記焦点サイズの目標値となるように、前記グリッドバイアスを変化させることによって、前記焦点サイズを変更する焦点サイズ変更部と、
前記焦点サイズ変更信号の切り替え時に、前記テーブルから読み出した前記グリッドバイアスの目標値に対応する前記フィラメント電流を設定するフィラメント電流設定部と、
を具備する、X線診断装置。
【請求項2】
前記使用状況は、視野の拡大に関する操作を含み、
前記信号切替部は、前記視野の拡大に関する操作に連動して、前記焦点サイズを小さくするように前記焦点サイズ変更信号を切り替え、
前記焦点サイズ変更部は、前記グリッドバイアスを大きくすることによって、前記焦点サイズを小さくする、請求項1に記載のX線診断装置。
【請求項3】
前記使用状況は、高精細検出器の使用に関する操作を含み、
前記信号切替部は、前記高精細検出器の使用に関する操作に連動して、前記焦点サイズを小さくするように前記焦点サイズ変更信号を切り替え、
前記焦点サイズ変更部は、前記グリッドバイアスを大きくすることによって、前記焦点サイズを小さくする、請求項1に記載のX線診断装置。
【請求項4】
前記使用状況は、高線量率制御透視に関する操作を含み、
前記信号切替部は、前記高線量率制御透視に関する操作に連動して、前記焦点サイズを大きくするように前記焦点サイズ変更信号を切り替え、
前記焦点サイズ変更部は、前記グリッドバイアスを小さくすることによって、前記焦点サイズを大きくする、請求項1に記載のX線診断装置。
【請求項5】
前記フィラメント電流設定部は、前記グリッドバイアスの目標値に対応する前記フィラメント電流を、前記X線管に供給する管電流の値が一定となるように設定する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のX線診断装置。
【請求項6】
前記焦点サイズ変更部は、前記グリッドバイアスの値を前記フィラメントの熱慣性に対応するように段階的に変化させることによって、前記焦点サイズを変更する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のX線診断装置。
【請求項7】
前記X線管に供給する管電流の時間積が一定となるように、前記X線管に印加される高電圧パルスのパルス幅を制御するパルス幅制御部を更に具備する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のX線診断装置。
【請求項8】
前記焦点サイズ変更部は、前記グリッドバイアスのパルス幅を前記高電圧パルスのパルス幅に応じて段階的に変化させることによって、前記焦点サイズを変更する、請求項7に記載のX線診断装置。
【請求項9】
前記焦点サイズの変更による前記焦点の使用限界の通知を指示する使用限界指示部を更に具備する、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のX線診断装置。
【請求項10】
前記使用限界指示部は、前記焦点サイズが小さい状態において前記焦点の使用限界の通知を指示した場合に、前記焦点サイズ変更部に対して前記焦点サイズを大きくする指示をする、請求項9に記載のX線診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線診断装置には、X線管にグリッド電極を備え、X線の照射前に焦点サイズを設定し、当該焦点サイズに対応するグリッドバイアスをグリッド電極に印加することによって、焦点サイズを変更するものがある。この種のX線診断装置は、焦点サイズを細かく設定することが可能である。また、この種のX線診断装置は、複数のフィラメントを切り替える必要がないため、フィラメントの熱慣性に依存せずに高速に焦点サイズを変更することが可能である。
【0003】
ところで、X線管への入力(管電圧および管電流)が同じ場合、焦点サイズが小さいほど、X線画像の画質(鮮鋭度)が向上する。但し、焦点サイズが小さいほど、X線管のターゲット上の焦点の温度が高くなるため、ターゲットが溶解しない範囲に、X線管への入力は制限される。
【0004】
通常、使用する焦点サイズは、検査に応じて予め決定される。具体的には、検査に必要な線量を確保できる管電流が決定されると、その管電流を流すことができる焦点サイズが決定される。仮に検査中に線量が不足すると、診断に適したX線画像を生成できなくなるため、焦点サイズは線量を優先して大きめに設定される。
【0005】
しかしながら、検査中において、検査部位の変化による被写体厚みの変化や、要求される画質の変更がある場合、検査前に設定した焦点サイズは適切な値にならない可能性がある。なお、焦点サイズが適切な値にならない場合、検査に必要な線量を確保できず、画質が劣化してしまう場合と、焦点サイズが大きすぎることによって鮮鋭度が劣化してしまう場合とのどちらかが発生する。これに対し、検査に必要な線量を確保しつつ画質劣化を最小限に留めるように焦点サイズを変更したい場合には、陽極蓄積熱量と過負荷保護との関係を鑑みながら検査途中に焦点サイズを含むX線管への入力条件を設定し直す必要があるため、操作者の操作が煩雑になる可能性がある。換言すると、検査中に焦点サイズを変更したい場合に、操作者の操作によって適切に設定をし直す必要があり、焦点サイズの変更に関するX線診断装置の取扱いが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-218100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、焦点サイズの変更に関するX線診断装置の取扱いを容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、X線診断装置は、X線管と、グリッドバイアス電源回路と、フィラメント加熱回路と、信号切替部と、焦点サイズ変更部と、フィラメント電流設定部とを備える。X線管は、ターゲットを有する陽極と、フィラメントを有する陰極と、フィラメントからの電子を制限するグリッド電極とを備え、X線を発生する。グリッドバイアス電源回路は、グリッド電極にグリッドバイアスを印加する。フィラメント加熱回路は、フィラメントにフィラメント電流を供給することによって、フィラメントを加熱する。信号切替部は、診断時の使用状況に連動して、ターゲットに形成される焦点の焦点サイズの変更を示す焦点サイズ変更信号を切り替える。焦点サイズ変更部は、焦点サイズ変更信号の切り替えに応じて、グリッドバイアスを変化させることによって、焦点サイズを変更する。フィラメント電流設定部は、焦点サイズ変更信号の切り替え時に、グリッドバイアスの所望の目標値に対応するフィラメント電流を設定する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1の実施形態に係るX線診断装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、同実施形態におけるX線高電圧発生器およびX線管の構成を示す模式図である。
図3図3は、同実施形態における動作を説明するためのフローチャートである。
図4図4は、同実施形態における動作を説明するためのタイミングチャートである。
図5図5は、第2の実施形態に係るX線診断装置の構成を示す模式図である。
図6図6は、同実施形態における動作を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら各実施形態について説明する。各実施形態では、解説済みの要素と同一または類似の要素には同一または類似の符号を付して重複する説明を省略し、主に未解説の要素について述べる。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るX線診断装置1の構成例を示すブロック図である。X線診断装置1は、X線高電圧発生器10と、X線発生器20、X線検出器30、サポートフレーム31、および天板32を有する寝台と、画像発生回路41と、ディスプレイ42と、入力インタフェース43と、制御回路44と、記憶回路45と、通信インタフェース46とを備える。また、X線発生器20は、X線管21と、X線可動絞り22とを備える。
【0012】
X線高電圧発生器10は、X線管21に印加する直流高電圧を発生し、当該直流高電圧の大きさ、印加時間、および流れる電流量などを制御する。具体的には、X線高電圧発生器10は、図2に例示するように、X線制御回路11と、高電圧発生回路12と、グリッドバイアス電源回路13と、第1フィラメント加熱回路14と、第2フィラメント加熱回路15とを備える。また、X線管21は、第1フィラメント21a、第2フィラメント21b、およびグリッド電極21cを有する陰極と、ターゲット21dを有する陽極とを備える。尚、X線管21は、少なくとも一つのフィラメントを備えればよい。
【0013】
X線制御回路11は、高電圧発生回路12、グリッドバイアス電源回路13、第1フィラメント加熱回路14、および第2フィラメント加熱回路15を制御するプロセッサである。X線制御回路11は、制御回路44からX線条件(管電圧の値、管電流の値、照射時間、および焦点サイズなど)を受け取る。X線制御回路11は、X線条件に基づいて、高電圧発生回路12、グリッドバイアス電源回路13、第1フィラメント加熱回路14、および第2フィラメント加熱回路15を制御する。
【0014】
高電圧発生回路12は、X線制御回路11の制御のもとで、X線撮影およびX線透視にそれぞれ適した高電圧(管電圧)をX線管21に印加する。管電圧がX線管21に印加されると、第1フィラメント21aまたは第2フィラメント21bの加熱状態に応じた管電流がX線管21に供給される。
【0015】
グリッドバイアス電源回路13は、X線制御回路11の制御のもとで、グリッド電極21cにグリッドバイアスを印加する。グリッドバイアスとして、例えば第1フィラメント21aと第2フィラメント21bとの片側を共通とした陰極端子に対してマイナスの電圧が用いられる。グリッド電極21cにグリッドバイアスとしてマイナスの電圧を印加することにより、フィラメントから放出する電子(管電流)を制限またはカットオフすることができる。本明細書では、特に記載の無い限り、グリッドバイアスとしてマイナスの電圧を印加することとする。
【0016】
第1フィラメント加熱回路14は、X線制御回路11の制御のもとで、第1フィラメント21aにフィラメント電流を供給することによって、第1フィラメント21aを加熱する。X線撮影およびX線透視にそれぞれ適した管電流を得るために、第1フィラメント21aの加熱量が制御される。
【0017】
第2フィラメント加熱回路15は、X線制御回路11の制御のもとで、第2フィラメント21bにフィラメント電流を供給することによって、第2フィラメント21bを加熱する。X線撮影およびX線透視にそれぞれ適した管電流を得るために、第2フィラメント21bの加熱量が制御される。
【0018】
X線管21は、高電圧発生回路12により印加された管電圧と、高電圧発生回路12から供給された管電流とに基づいてX線を発生する。X線管21から発生されたX線は、被検体Pに照射される。なお、X線管21は、パルス透視などX線照射中に焦点サイズを変更可能な機構を有する。
【0019】
第1フィラメント21aは、例えば、焦点サイズが小さいフィラメント(小焦点フィラメント)である。第1フィラメント21aは、第1フィラメント加熱回路14から供給されたフィラメント電流によって加熱される。第1フィラメント21aは、加熱されることによって管電圧が印加されたときに電子を放出する。
【0020】
第2フィラメント21bは、例えば、焦点サイズが大きいフィラメント(大焦点フィラメント)である。第2フィラメント21bは、第2フィラメント加熱回路15から供給されたフィラメント電流によって加熱される。第2フィラメント21bは、加熱されることによって管電圧が印加されたときに電子を放出する。
【0021】
第1フィラメント21a(或いは、第2フィラメント21b)から放出された電子は、ターゲット21dで焦点を形成する。
【0022】
グリッド電極21cは、グリッドバイアス電源回路13により印加されたグリッドバイアスによって、第1フィラメント21a(或いは、第2フィラメント21b)から放出される電子を制限する。具体的には、グリッド電極21cは、マイナスの電圧を印加することによって、第1フィラメント21a(或いは、第2フィラメント21b)から放出されようとする電子を押さえ込み、ターゲット21dに衝突する電子の量を減らすことができる。
【0023】
また、グリッド電極21cは、第1フィラメント21a(或いは、第2フィラメント21b)から放出される電子の方向(電子流の方向)を制限する構造を有する。フィラメントから放出される電子は、電界のレンズ作用によって収束され、ターゲット21dでX線発生点である焦点を形成する。
【0024】
即ち、グリッド電極21cは、フィラメントから放出される電子の方向をグリッドバイアスにより制限することによって、焦点サイズを制御することができる。
【0025】
ターゲット21dは、第1フィラメント21a(或いは、第2フィラメント21b)から放出された電子が衝突することによって、X線を発生させる。
【0026】
X線可動絞り器22は、X線管21によって発生されたX線の照射野を限定する。X線可動絞り器22は、X線の照射野を限定することによって、操作者の所望する撮影部位(或いは、撮影範囲)にだけX線を照射することができる。即ち、X線可動絞り器22は、撮影部位(或いは、撮影範囲)とは異なる部位(或いは、範囲)に対して、不要な被曝をさせないようにすることができる。また、X線可動絞り器22は、散乱X線の低減および焦点外X線の除去ができる。
【0027】
X線検出器30は、X線管21から発生され、被検体Pを透過したX線を検出する。X線検出器30は、例えば、X線を検出することができるフラットパネルディテクタ(Flat Panel Detector:FPD)を備える。FPDは、複数の半導体検出素子を有する。半導体検出素子には、間接変換形と直接変換形とがある。間接変換形とは、入射X線を蛍光体などのシンチレータによって光に変換し、変換された光を電気信号に変換する形式である。直接変換形とは、入射X線を直接的に電気信号に変換する形式である。
【0028】
X線の入射に伴って複数の半導体検出素子で発生された電気信号は、図示しないアナログディジタル変換器(Analog to Digital converter:A/D変換器)に出力される。A/D変換器は、電気信号をディジタルデータに変換する。A/D変換器は、ディジタルデータを、画像発生回路41に出力する。
【0029】
サポートフレーム31は、互いに対向配置されたX線発生器20およびX線検出器30を移動可能に支持する。具体的には、サポートフレーム31は、天板32の面に対して上方にX線発生器20が設置されるオーバーチューブ方式のフレームに相当する。尚、サポートフレーム31は、天板32の面に対して下方にX線発生器20が設置されるアンダーチューブ方式のフレームが用いられてもよい。また、サポートフレーム31は、CアームおよびΩアームによる構造が用いられてもよい。さらに、サポートフレーム31は、X線発生器20およびX線検出器30をそれぞれ独立に支持する2つのアーム(例えばロボットアームなど)による構造が用いられてもよい。
【0030】
図示しない寝台は、被検体Pが載置される天板32(臥位テーブルとも言う)を有する。天板32には、被検体Pが載置される。
【0031】
図示しない駆動装置は、例えば、制御回路44の制御によって、サポートフレーム31と寝台とをそれぞれ駆動する。X線透視時およびX線撮影時においては、X線発生器20とX線検出器30との間に、天板32に載置された被検体Pが配置される。また、駆動装置は、例えば、制御回路44の制御によって、X線可動絞り器22を駆動する。尚、駆動装置は、制御回路44の制御のもとで、X線発生器20に対してX線検出器30を回転させてもよい。
【0032】
画像発生回路41は、X線検出器30からA/D変換器を介して出力されたディジタルデータに基づいてX線画像を発生する。画像発生回路41は、発生したX線画像を記憶回路45および外部記憶装置(図示せず)などに出力する。
【0033】
ディスプレイ42は、画像発生回路41によって発生されたX線画像(或いは、透視画像)を表示する。ディスプレイは、ディスプレイの全面または一部を、X線画像(或いは、透視画像)を表示するための表示ウィンドウとしてもよいし、全面または一部を切り替えられるようにしてもよい。尚、ディスプレイは、透視・撮影位置、X線照射条件などの入力に関する入力画面を表示してもよい。
【0034】
入力インタフェース43は、操作者が所望するX線撮影の撮影条件およびX線透視の透視条件などのX線条件、透視・撮影位置、照射野、およびX線画像における関心領域(Region of Interest:ROI)などを、操作者の指示により入力する。入力インタフェース43は、操作者からの各種指示、命令、情報、選択、および設定を、X線診断装置1に取り込む。
【0035】
入力インタフェース43は、関心領域の設定などを行うためのジョイスティック、トラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチパネルディスプレイ、撮影用のフットスイッチ、および音声認識用のマイクなどにより実現される。入力インタフェース43は、制御回路44に接続されており、操作者から受け取った入力操作を電気信号へ変換し制御回路44へと出力する。
【0036】
本明細書において、入力インタフェース43は、前述したマウスおよびキーボードなどの物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を制御回路44へ出力する電気信号の処理回路も入力インタフェース43の例に含まれる。
【0037】
制御回路44は、X線診断装置1における各回路および駆動装置などを制御するプロセッサである。制御回路44は、入力インタフェース43から入力された操作者の指示などの情報(例えば、X線条件)を、図示しないメモリに一時的に記憶する。制御回路44は、メモリに記憶された操作者の指示などに従って、X線撮影およびX線透視を実行するために、X線高電圧発生器10、X線管21、および駆動装置などを制御する。また、制御回路44は、画像発生回路41におけるX線画像発生処理などを制御する。
【0038】
さらに、制御回路44は、メモリに記憶された操作者の指示などに従って、線量を一定にしつつ焦点サイズを変更する制御に関する各機能を実行する。上記各機能は、例えば、信号切替機能44a(信号切替部)、焦点サイズ変更機能44b(焦点サイズ変更部)、フィラメント電流設定機能44c(フィラメント電流設定部)、および使用限界指示機能44d(使用限界指示部)などがある。
【0039】
信号切替機能44aは、診断時の使用状況に連動して、ターゲット21dに形成される焦点の焦点サイズの変更を示す焦点サイズ変更信号を切り替える。焦点サイズ変更信号の切り替えは、使用状況に応じて任意に設定される。例えば、信号切替機能44aは、焦点サイズ変更信号がオンになった場合に、焦点サイズを小さくするような焦点サイズ変更信号の切り替えをしてもよいし、或いは焦点サイズを大きくするような焦点サイズ変更信号の切り替えをしてもよい。
【0040】
使用状況とは、例えば、操作者による、視野の拡大に関する操作、高精細検出器の使用に関する操作、および高線量率制御(High Level Control:HLC)透視に関する操作などである。上記の操作は、例えば、操作者によって、入力インタフェース43を介して行われる操作や、操作者が何らかの装置(例えば、高精細検出器)を動かす操作などが含まれる。尚、使用状況には、上記の操作を終了させて、操作前の状態に戻すことも含まれる。
【0041】
視野の拡大に関する操作は、例えば、操作者によって、X線画像を拡大して観察したい場合に行われる。視野の拡大を行った場合は、例えば、X線画像の鮮鋭さを優先するために焦点サイズを小さくする必要がある。
【0042】
高精細検出器は、例えば、マイクロアンギオ検出器に相当する。高精細検出器は、通常のFPDよりも画素サイズを小さくすることにより、微細な部分を確認することができる検出器である。高精細検出器には、通常のFPDとは別体となっているものや、通常のFPDの一部に埋め込まれた(一体化した)ものなどがある。そのため、高精細検出器の使用に関する操作は、通常のFPDと高精細検出器との切り替えに関する操作と読み替えてもよい。高精細検出器の使用中には、例えば、X線画像の鮮鋭さを優先するために焦点サイズを小さくする必要がある。
【0043】
高線量率制御透視とは、通常のX線透視よりも多くの線量を必要とするX線透視の方法である。高線量率制御透視中は、例えば、線量を優先するために焦点サイズを大きくする必要がある。
【0044】
より具体的には、信号切替機能44aは、視野の拡大に関する操作に連動して、焦点サイズを小さくするように焦点サイズ変更信号を切り替える。また、信号切替機能44aは、高精細検出器の使用に関する操作に連動して、焦点サイズを小さくするように焦点サイズ変更信号を切り替える。また、信号切替機能44aは、高線量率制御透視に関する操作に連動して、焦点サイズを大きくするように焦点サイズ変更信号を切り替える。
【0045】
なお、信号切替機能44aは、予め決められた撮影プロトコルと、支持器(サポートフレーム31など)の角度などの機構部のジオメトリー変化とに連動して、ターゲット21dに形成される焦点の焦点サイズの変更を示す焦点サイズ変更信号を切り替えてもよい。例えば、信号切替機能44aは、撮影プロトコルに含まれる撮影部位が固定されたままで、Cアーム角度が変わった場合に、X線撮影する断面の厚みに対応するように焦点サイズ変更信号を切り替えるようにしてよい。
【0046】
焦点サイズ変更機能44bは、焦点サイズ変更信号の切り替えに応じてグリッドバイアスの値またはバイアスパルスの時間幅を所望の目標値に向けて段階的に変化させることによって、焦点サイズを変更する。焦点サイズ変更機能44bは、例えば、グリッドバイアスのバイアスパルスの時間幅を一定にして、グリッドバイアスの値を段階的に変化させてもよい。また、焦点サイズ変更機能44bは、例えば、グリッドバイアスの値を瞬時に変更してから一定にして、グリッドバイアスのバイアスパルスの時間幅を段階的に変化させてもよい。所望の目標値とは、焦点サイズの目標値に対応するグリッドバイアスの値および高電圧の印加時間に対応するグリッドバイアスのバイアスパルス時間幅である。ここで、焦点サイズの目標値は、前述の使用状況に応じて事前に設定される。
【0047】
また、焦点サイズ変更機能44bは、グリッドバイアス(或いは、グリッドバイアスの値)を所望の目標値に向けて第1フィラメント21a(或いは、第2フィラメント21b)の熱慣性に対応するように段階的に変化させることによって、焦点サイズを変更してもよい。ここで熱慣性とは、フィラメント電流の増減に対するフィラメント温度の応答の度合いを意味する。フィラメント温度の応答は、例えば、フィラメント電流をある値に設定した場合に、フィラメント温度が当該ある値に対応する温度になるまでにかかる時間であり、通常、数百ms程度の時間がかかる。
【0048】
より具体的には、焦点サイズ変更機能44bは、グリッド電極21cに印加するグリッドバイアスを所望の目標値に向けて大きくすることによって、焦点サイズを小さくする。ここで「グリッドバイアスを所望の目標値に向けて大きくする」とは、「マイナスの電圧を所望の目標値に向けて大きくする」ことと同義である。よって、フィラメントから放出する電子を減少させることができる。
【0049】
また、焦点サイズ変更機能44bは、グリッド電極21cに印加するグリッドバイアスを所望の目標値に向けて小さくすることによって、焦点サイズを大きくしてもよい(或いは、焦点サイズをもとの大きさに戻してもよい)。ここで「グリッドバイアスを所望の目標値に向けて小さくする」とは、「マイナスの電圧を所望の目標値に向けて小さく(或いは、ゼロに)する」ことと同義である。
【0050】
なお、通常よりも焦点サイズを大きくしたい場合には、グリッドバイアスとしてプラスの電圧を用いることが考えられる。グリッド電極21cにグリッドバイアスとしてプラスの電圧を印加することにより、フィラメントから放出する電子を増大させることができる。但し、グリッドバイアスのプラスの電圧は、管電圧よりも低い値である。
【0051】
フィラメント電流設定機能44cは、焦点サイズ変更信号の切り替え時に、グリッドバイアスの所望の目標値に対応するフィラメント電流を設定する。また、フィラメント電流設定機能44cは、グリッドバイアスの所望の目標値に対応するフィラメント電流を、X線管21に供給する管電流の値が一定となるように設定してもよい。
【0052】
例えば、焦点サイズを小さくするために、グリッドバイアスを大きくすると、フィラメントからの電子の放出が制限される。グリッドバイアスを大きくしているにもかかわらずフィラメント電流が一定の場合には、フィラメントからの電子の放出が制限されるため、管電流が低下する。管電流が低下することによって、線量が低下し、所望のX線画像を生成することができなくなる恐れがある。よって、フィラメント電流設定機能44cは、線量の低下を防ぐために、グリッドバイアスを大きくした場合には、フィラメント電流も大きくする必要がある。
【0053】
使用限界指示機能44dは、焦点サイズの変更によるX線管21の焦点の使用限界の通知を指示する。また、使用限界指示機能44dは、焦点サイズが小さい状態において当該焦点の使用限界の通知を指示した場合に、焦点サイズ変更機能44bに対して焦点サイズを大きくする指示をしてもよい。使用限界は、例えば、X線管の使用条件に基づいて決定されてもよいし、X線管の陽極への入力を計算することによって決定されてもよい。尚、通知の指示については、使用限界に達する前に、ディスプレイ42に警告表示を表示してもよいし、スピーカー(図示せず)からアラームを鳴らしてもよい。
【0054】
記憶回路45は、HDD(Hard Disk Drive)などの電気的情報を記録するメモリと、それらメモリに付随するメモリコントローラやメモリインタフェースなどの周辺回路から構成される。メモリとしては、HDDに限らず、SSD(ソリッドステートドライブ)、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD、DVD、Blu-ray(登録商標)など)、および半導体メモリなどが適宜、使用可能となっている。
【0055】
また、記憶回路45は、画像発生回路41で発生された種々のX線画像、X線診断装置1のシステム制御プログラム、制御回路44において実行される診断プロトコル、入力インタフェース43から送られてくる操作者の指示、X線撮影に関する撮影条件およびX線透視に関する透視条件などの各種データ群、エラー情報、およびネットワークを介して送られてくる種々のデータなどを記憶する。また、記憶回路45は、診断時の使用状況に対応付けられた焦点サイズの目標値およびグリッドバイアスの目標値を持ったテーブルや、X線管の使用限界を示す各値を持ったテーブルを記憶してもよい。
【0056】
通信インタフェース46は、例えば、ネットワークおよび図示しない外部記憶装置に関する回路を有する。X線診断装置1によって得られたX線画像などは、通信インタフェース46およびネットワークを介して他の装置に転送可能である。
【0057】
次に、以上のように構成されたX線診断装置1の動作について、図3のフローチャートおよび図4のタイミングチャートなどを用いて説明する。以下の説明は、主に、制御回路44による制御について述べ、特に、線量を一定にしつつ焦点サイズを変更する制御について詳しく述べる。
【0058】
なお、図4(a)はX線透視の切り替えを示す透視信号の波形、図4(b)はX線管21への高電圧パルスの出力を示す高電圧出力のオン/オフを示す波形、図4(c)は焦点サイズ変更信号の波形、図4(d)は焦点サイズの大きさをプロットした図、図4(e)はフィラメント電流の設定値を示す波形、図4(f)はフィラメントの温度(フィラメント温度)の推定値を示す図、図4(g)はグリッドバイアスの値を示す波形、図4(h)はX線管21に供給する管電流の波形、図4(i)はX線管21に印加する管電圧の波形である。
【0059】
始めに、寝台の天板32の上に被検体Pが載置される。X線診断装置1では、操作者の操作により、X線条件が設定される。本実施形態では、X線診断装置1は、例えば、X線透視を行うように設定される。そして、X線透視を行う前(時刻t0より前)のスタンバイ状態において、フィラメントには、予備加熱電流50が供給されている。予備加熱電流50は、例えば、管電圧を印加してもフィラメントから電子が放出しない程度の値に設定される。
【0060】
(ステップS1)
時刻t0において、操作者の指示により透視信号がオンに切り替えられる。透視信号がオンになったことを契機に、フィラメント電流の値が第1透視加熱電流51に設定され、グリッドバイアスがカットオフのバイアス状態になり、X線照射の準備がなされる。
【0061】
(ステップS2)
時刻t1にてフィラメント温度が適した値に達したことを契機に、高電圧発生回路12による高電圧出力を開始し、X線管21に高電圧パルスが印加される。高電圧パルスが印加されている期間において、X線管21はパルス状のX線を出力する。
【0062】
(ステップS3)
パルス状のX線が出力される瞬間において、グリッドバイアスの値は、ゼロに設定される。また、グリッドバイアスの値は、管電流を流すことができる値でもよい。即ち、グリッドバイアスの値は、所望の線量を確保できる管電流の値が維持可能であればよい。尚、グリッドバイアスの値は、焦点サイズ変更信号がオンになっている期間は、これに限らない。
【0063】
(ステップS4)
時刻t2において、診断時の使用状況により、焦点サイズを変更する(例えば、焦点サイズを小さくする)要求が発生する。信号切替機能44aは、診断時の使用状況に連動して、ターゲット21dに形成される焦点の焦点サイズの変更を示す焦点サイズ変更信号を切り替える。焦点サイズ変更信号の切り替えと同時に、制御回路44は、診断時の使用状況に対応付けられた焦点サイズの目標値(焦点サイズ52)およびグリッドバイアスの目標値(グリッドバイアス53)を記憶回路45に記憶したテーブルから読み出す。
【0064】
(ステップS5)
時刻t2から、フィラメント温度が適した値に達する時刻t3までの間において、焦点サイズ変更機能44bは、現在のグリッドバイアスの値から、グリッドバイアス53にかけて段階的に変化させることによって、焦点サイズを変更する。具体的には、焦点サイズ変更機能44bは、グリッドバイアス53にかけて第1フィラメント21a(或いは、第2フィラメント21b)の熱慣性に対応するように段階的に変化させることによって、焦点サイズを変更する。
【0065】
換言すると、焦点サイズ変更機能44bは、グリッドバイアスを、0Vから、焦点サイズ52に対応するグリッドバイアス53まで、フィラメント温度の上昇期間に合わせて段階的に変化させる。
【0066】
(ステップS6)
フィラメント電流設定機能44cは、時刻t2において(即ち、焦点サイズ変更信号の切り替え時に)、グリッドバイアスの所望の目標値に対応するフィラメント電流を設定する。図4においては、焦点サイズ変更信号がオンになったことを契機に、フィラメント電流の値が第2透視加熱電流54に設定される。
【0067】
(ステップS7)
時刻t4において、診断時の使用状況により、焦点サイズを変更する(例えば、焦点サイズを大きくする)要求が発生する。信号切替機能44aは、診断時の使用状況に連動して、焦点サイズ変更信号を切り替える。焦点サイズ変更信号の切り替えと同時に、制御回路44は、焦点サイズ変更前(例えば、時刻t1時点)における、焦点サイズの目標値(焦点サイズ55)およびグリッドバイアスの目標値(グリッドバイアス56)を記憶回路45から読み出す。
【0068】
(ステップS8)
時刻t4から、フィラメント温度が適した値に達する時刻t5までの間において、焦点サイズ変更機能44bは、グリッドバイアス56にかけて段階的に変化させることによって、焦点サイズを変更する。具体的には、焦点サイズ変更機能44bは、グリッドバイアス56にかけて第1フィラメント21a(或いは、第2フィラメント21b)の熱慣性に対応するように段階的に変化させることによって、焦点サイズを変更する。
【0069】
換言すると、焦点サイズ変更機能44bは、グリッドバイアスを、グリッドバイアス53から、焦点サイズ55に対応するグリッドバイアス56まで、フィラメント温度の下降期間に合わせて変化させる。
【0070】
(ステップS9)
フィラメント電流設定機能44cは、時刻t4において(即ち、焦点サイズ変更信号の切り替え時に)、グリッドバイアスの所望の目標値に対応するフィラメント電流を設定する。図4においては、焦点サイズ変更信号がオフになったことを契機に、フィラメント電流の値が第1透視加熱電流57に設定される。
【0071】
(ステップS10)
時刻t6において、操作者の指示により透視信号がオフに切り替えられる。透視信号がオフになったことを契機に、フィラメント電流の値が予備加熱電流58に設定される。また、透視信号がオフになったことを契機に、高電圧発生回路12による高電圧出力を終了する。
【0072】
(ステップS11)
時刻t6から、管電圧の残留電圧がゼロになる時刻t7までの間において、グリッドバイアスの値は、カットオフに設定される。グリッドバイアスをカットオフに設定することによって、電子の放出を抑え、不要なX線を発生させないようにする。
【0073】
(ステップS12)
時刻t7において、管電圧の残留電圧がゼロになったことを契機に、グリッドバイアスをゼロに設定する。
【0074】
上述したように第1の実施形態によれば、X線診断装置は、診断時の使用状況に連動して、ターゲットに形成される焦点の焦点サイズの変更を示す焦点サイズ変更信号を切り替え、焦点サイズ変更信号の切り替えに応じて、グリッドバイアスを変化させることによって、焦点サイズを変更し、焦点サイズ変更信号の切り替え時に、所望の目標値に対応するフィラメント電流を設定する。このように、診断時の使用状況に連動して焦点サイズ変更信号を切り替えることにより、焦点サイズを変更するので、焦点サイズの変更に関する操作者の操作を必要としない。また、グリッドバイアスを変化させることによって、焦点サイズを変更するので、焦点サイズを適切な値にすることができる。従って、このX線診断装置は、焦点サイズの変更に関する取扱いを容易にすることができる。
【0075】
また、使用状況が視野の拡大に関する操作である場合には、X線診断装置は、視野の拡大に関する操作に連動して、焦点サイズを小さくするように焦点サイズ変更信号を切り替え、グリッドバイアスを大きくすることによって、焦点サイズを小さくする。従って、X線診断装置は、視野の拡大に関する操作を行うだけで、自動的に、検査に必要な線量を確保しつつ画質劣化を最小限に留めるように焦点サイズを変更することができる。
【0076】
また、使用状況が高精細検出器の使用に関する操作である場合には、X線診断装置は、高精細検出器の使用に関する操作に連動して、焦点サイズを小さくするように焦点サイズ
変更信号を切り替え、グリッドバイアスを大きくすることによって、焦点サイズを小さくする。従って、X線診断装置は、高精細検出器の使用に関する操作を行うだけで、自動的に、検査に必要な線量を確保しつつ画質劣化を最小限に留めるように焦点サイズを変更することができる。
【0077】
また、使用状況が高線量率制御透視に関する操作である場合には、X線診断装置は、高線量率制御透視に関する操作に連動して、焦点サイズを大きくするように焦点サイズ変更信号を切り替え、グリッドバイアスを小さくすることによって、焦点サイズを大きくする。従って、X線診断装置は、高線量率制御透視に関する操作を行うだけで、自動的に、検査に必要な線量を確保しつつ画質劣化を最小限に留めるように焦点サイズを変更することができる。
【0078】
また、X線診断装置は、所望の目標値に対応するフィラメント電流を、X線管に供給する管電流の値が一定となるように設定する。従って、X線診断装置は、グリッドバイアスの印加に起因する管電流の変化を低減させることができる。
【0079】
また、X線診断装置は、グリッドバイアスの値をフィラメントの熱慣性に対応するように段階的に変化させることによって、焦点サイズを変更する。従って、X線診断装置は、グリッドバイアスの印加に起因する管電流の変化をより低減させることができる。
【0080】
また、X線診断装置は、焦点サイズの変更による焦点の使用限界を通知することができる。従って、X線診断装置は、焦点の使用限界で使用し続けることを防ぐことができる。
【0081】
また、X線診断装置は、焦点サイズが小さい状態において焦点の使用限界を通知した場合に、焦点サイズを大きくする指示をすることができる。従って、X線診断装置は、焦点の使用限界で使用し続けることを防ぐことができる。
【0082】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、グリッドバイアスの値を段階的に変化させることによって、管電流を一定にしたまま焦点サイズを変更する場合について述べた。第2の実施形態では、グリッドバイアスの値を変更する際に、X線の1パルスあたりの線量を一定にする場合について述べる。
【0083】
図5は、第2の実施形態に係るX線診断装置1の構成例を示すブロック図である。図5のX線診断装置1は、制御回路44にパルス幅制御機能44e(パルス幅制御部)を備える点において、第1の実施形態に係るX線診断装置1と異なる。
【0084】
パルス幅制御機能44eは、X線管21に供給する管電流の時間積(管電流時間積)が一定となるように、X線管21に印加する高電圧パルス(高電圧出力)のパルス幅を制御する。管電流時間積とは、管電流の値(mA)とパルス幅(s)との積である。尚、X線管21への高電圧パルスのパルス幅が制御される場合において、フィラメント電流設定機能44cは、グリッドバイアスの所望の目標値に対応するフィラメント電流を設定する。
【0085】
次に、第2の実施形態に係るX線診断装置1の動作について、図3のフローチャートおよび図6のタイミングチャートを用いて説明する。以下の説明は、主に、制御回路44による制御について述べ、特に、線量を一定にしつつ焦点サイズを変更する制御について詳しく述べる。
【0086】
なお、図6(a)はX線透視の切り替えを示す透視信号の波形、図6(b)はX線管21への高電圧パルスの出力を示す高電圧出力のオン/オフを示す波形、図6(c)は焦点サイズ変更信号の波形、図6(d)は焦点サイズの大きさをプロットした図、図6(e)はフィラメント電流の設定値を示す波形、図6(f)はフィラメントの温度(フィラメント温度)の推定値を示す図、図6(g)はグリッドバイアスの値を示す波形、図6(h)はX線管21に供給する管電流の波形、図6(i)はX線管21に印加する管電圧の波形である。
【0087】
始めに、寝台の天板32の上に被検体Pが載置される。X線診断装置1では、操作者の操作により、X線条件が設定される。本実施形態では、X線診断装置1は、例えば、X線透視を行うように設定される。そして、X線透視を行う前(時刻t10より前)のスタンバイ状態において、フィラメントには、予備加熱電流60が供給されている。予備加熱電流60は、例えば、管電圧を印加してもフィラメントから電子が放出しない程度の値に設定される。
【0088】
(ステップS1)
時刻t10において、操作者の指示により透視信号がオンに切り替えられる。透視信号がオンになったことを契機に、フィラメント電流の値が第1透視加熱電流61に設定され、グリッドバイアスがカットオフのバイアス状態になり、X線照射の準備がなされる。
【0089】
(ステップS2)
時刻t11にてフィラメント温度が適した値に達したことを契機に、高電圧発生回路12による高電圧出力を開始し、X線管21に高電圧パルスが印加される。高電圧パルスが印加されている期間において、X線管21はパルス状のX線を出力する。
【0090】
(ステップS3)
パルス状のX線が出力される瞬間において、グリッドバイアスの値は、ゼロに設定される。また、グリッドバイアスの値は、管電流を流すことができる値でもよい。即ち、グリッドバイアスの値は、所望の線量を確保できる管電流の値が維持可能であればよい。尚、グリッドバイアスの値は、焦点サイズ変更信号がオンになっている期間は、これに限らない。
【0091】
(ステップS4)
時刻t12において、診断時の使用状況により、焦点サイズを変更する(例えば、焦点サイズを小さくする)要求が発生する。信号切替機能44aは、診断時の使用状況に連動して、ターゲット21dに形成される焦点の焦点サイズの変更を示す焦点サイズ変更信号を切り替える。焦点サイズ変更信号の切り替えと同時に、制御回路44は、診断時の使用状況に対応付けられた焦点サイズの目標値(焦点サイズ62)およびグリッドバイアスの目標値(グリッドバイアス63)を記憶回路45に記憶したテーブルから読み出す。
【0092】
(ステップS5)
時刻t12から、フィラメント温度が適した値に達する時刻t13までの間において、焦点サイズ変更機能44bは、現在のグリッドバイアスの値をグリッドバイアス63の値に瞬時に切り替える(変化させる)ことによって、焦点サイズを変更する。また、パルス幅制御機能44eは、X線管21に供給する管電流の時間積が一定となるように、X線管21への高電圧出力のパルス幅を制御する。焦点サイズ変更機能44bは、グリッドバイアスのパルス幅を当該高電圧出力のパルス幅に応じて段階的に変化させる。
【0093】
本実施形態では、焦点サイズ(或いは、グリッドバイアス)を瞬時に変化させ、管電流が追随して変化することによりパルスあたりの線量が変化することを低減するために、管電流時間積が一定になるようにX線管21への高電圧パルスを制御する方法が用いられる。このような制御方法を行うことで、所望の線量を確保することができ、X線画像の画質を一定にすることができる。換言すると、パルス幅制御機能44eは、X線管21に供給する管電流の時間積が一定となるように、X線管21への高電圧出力のパルス幅を制御する。
【0094】
しかし、上述の制御方法は、焦点サイズを瞬時に変更できるものの、X線管21への高電圧出力のパルス幅が広がる可能性がある。X線管21への高電圧出力のパルス幅が広がると、時間分解能が悪くなるため、上述の制御方法は、被検体の動きの少ない部位に適用することが望ましい。
【0095】
(ステップS6)
フィラメント電流設定機能44cは、時刻t12において(即ち、焦点サイズ変更信号の切り替え時に)、グリッドバイアスの所望の目標値に対応するフィラメント電流を設定する。具体的には、フィラメント電流設定機能44cは、グリッドバイアスの所望の目標値に対応するフィラメント電流を設定する。図6においては、焦点サイズ変更信号がオンになったことを契機に、フィラメント電流の値が第2透視加熱電流64に設定される。
【0096】
(ステップS7)
時刻t14において、診断時の使用状況により、焦点サイズを変更する(例えば、焦点サイズを大きくする)要求が発生する。信号切替機能44aは、診断時の使用状況に連動して、焦点サイズ変更信号を切り替える。焦点サイズ変更信号の切り替えと同時に、制御回路44は、焦点サイズ変更前(例えば、時刻t11時点)における、焦点サイズの目標値(焦点サイズ65)およびグリッドバイアスの目標値(グリッドバイアス66)を記憶回路45から読み出す。
【0097】
(ステップS8)
時刻t14から、フィラメント温度が適した値に達する時刻t15までの間において、焦点サイズ変更機能44bは、現在のグリッドバイアスの値をグリッドバイアス66の値に瞬時に切り替える(変化させる)ことによって、焦点サイズを変更する。また、パルス幅制御機能44eは、X線管21に供給する管電流の時間積が一定となるように、X線管21への高電圧出力のパルス幅を制御する。
【0098】
(ステップS9)
フィラメント電流設定機能44cは、時刻t14において(即ち、焦点サイズ変更信号の切り替え時に)、グリッドバイアスの所望の目標値に対応するフィラメント電流を設定する。図6においては、焦点サイズ変更信号がオフになったことを契機に、フィラメント電流の値が第1透視加熱電流67に設定される。
【0099】
(ステップS10)
時刻t16において、操作者の指示により透視信号がオフに切り替えられる。透視信号がオフになったことを契機に、フィラメント電流の値が予備加熱電流68に設定される。また、透視信号がオフになったことを契機に、高電圧発生回路12によるX線管21への高電圧出力を終了する。
【0100】
(ステップS11)
時刻t16から、管電圧の残留電圧がゼロになる時刻t17までの間において、グリッドバイアスの値は、カットオフに設定される。グリッドバイアスをカットオフに設定することによって、電子の放出を抑え、不要なX線を発生させないようにする。
【0101】
(ステップS12)
時刻t17において、管電圧の残留電圧がゼロになったことを契機に、グリッドバイアスをゼロに設定する。
【0102】
上述したように第2の実施形態によれば、X線診断装置は、第1の実施形態に係るX線診断装置と同様の効果を得ることができる。
【0103】
これに加え、X線診断装置は、X線管に供給する管電流の時間積が一定となるように、X線管に印加される高電圧パルスのパルス幅を制御する。従って、このX線診断装置は、グリッドバイアスの値を段階的に変更する必要がないため、焦点サイズを瞬時に変更することが可能である。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0105】
1…X線診断装置、10…X線高電圧発生器、11…X線制御回路、12…高電圧発生回路、13…グリッドバイアス電源回路、14…第1フィラメント加熱回路、15…第2フィラメント加熱回路、20…X線発生器、21…X線管、21a…第1フィラメント、21b…第2フィラメント、21c…グリッド電極、21d…ターゲット、22…X線可動絞り器、30…X線検出器、31…サポートフレーム、32…天板、41…画像発生回路、42…ディスプレイ、43…入力インタフェース、44…制御回路、44a…信号切替機能、44b…焦点サイズ変更機能、44c…フィラメント電流設定機能、44d…使用限界指示機能、44e…パルス幅制御機能、45…記憶回路、46…通信インタフェース、50,58,60,68…予備加熱電流、51,57,61,67…第1透視加熱電流、52,55,62,65…焦点サイズ、53,56,63,66…グリッドバイアス、54,64…第2透視加熱電流、P…被検体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6