(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】難燃性スチレン系樹脂組成物、その製造方法およびそれからなる成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 25/04 20060101AFI20220613BHJP
C08L 71/10 20060101ALI20220613BHJP
C08K 5/06 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
C08L25/04
C08L71/10
C08K5/06
(21)【出願番号】P 2018046565
(22)【出願日】2018-03-14
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】399051593
【氏名又は名称】東洋スチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 圭太
(72)【発明者】
【氏名】岡田 宝晃
(72)【発明者】
【氏名】蔵田 利春
(72)【発明者】
【氏名】井上 修治
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-525153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スチレン系樹脂と、下記一般式(1)で表される(B)臭素化ポリフェニレンエーテルとを含有し、(A)スチレン系樹脂を100質量部とした時、(B)臭素化ポリフェニレンエーテルの配合量が27~40質量部であり、厚み2.0mmの成形体にて測定した全光透過率70%以上かつ曇り度10.0%以下であり、かつASTM D7309 Method Aに基づいて測定した総発熱量が30.0kJ/g以下である難燃性スチレン系樹脂組成物。
【化1】
(ここで、nは整数1~10の重合度を表す。また、X
1およびX
3はそれぞれ独立に整数1~5の臭素原子であり、X
2は整数0~4の臭素原子を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物の製造方法であって、溶融混練時の樹脂温度が265℃以上である難燃性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性と難燃性に優れる難燃性スチレン系樹脂組成物、その製造方法およびそれからなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は優れた成形性を生かし、食品包装容器、雑貨、建築材料、自動車材料、OA機器、電子部品及び家電筐体など多くの製品に使用されている。
【0003】
一方、スチレン系樹脂は燃え易く、製品としての安全性に不安があった。そこで、この燃え易さを解消するため、従来からスチレン系樹脂への難燃性付与を目的として種々の難燃剤を用いた難燃化検討が行われてきた。
【0004】
しかしながら、難燃化されたスチレン系樹脂には透明性が著しく損なわれるという問題があった。
【0005】
そこで、スチレン系樹脂の透明性を保持しつつ、難燃性を付与する技術が過去検討されてきた(特許文献1~3)。しかし、十分な透明性と難燃性を有するスチレン系樹脂組成物は現在まで報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-097328号公報
【文献】特開2002-003688号公報
【文献】特開2001-316543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、透明性と難燃性に優れる難燃性スチレン系樹脂組成物、その製造方法およびそれからなる成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1).(A)スチレン系樹脂と、下記一般式(1)で表される(B)臭素化ポリフェニレンエーテルとを含有し、(A)スチレン系樹脂を100質量部とした時、(B)臭素化ポリフェニレンエーテルの配合量が27~40質量部であり、厚み2.0mmの成形体にて測定した全光透過率70%以上かつ曇り度10.0%以下であり、かつASTM D7309 Method Aに基づいて測定した総発熱量が30.0kJ/g以下である難燃性スチレン系樹脂組成物。
【化1】
(ここで、nは整数1~10の重合度を表す。また、X
1およびX
3はそれぞれ独立に整数1~5の臭素原子であり、X
2は整数0~4の臭素原子を表す。)
(2).(1)に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物の製造方法であって、溶融混練時の樹脂温度が265℃以上である難燃性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
(3).(1)に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、(B)臭素化ポリフェニレンエーテルの配合量、厚み2.0mmの成形体にて測定した全光線透過率と曇り度およびマイクロスケール燃焼熱量計を用いて測定される総発熱量とを規定することにより、透明性と難燃性のいずれもが優れた難燃性スチレン系樹脂組成物が得られる。よって、本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物を用いることによって、透明性と難燃性に優れた一般雑貨、照明装置のハウジング等の成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に使用する(A)スチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクリレート-スチレン共重合体(MS樹脂)、メタクリル酸-スチレン共重合体等が挙げられる。中でも好適なのは、ポリスチレン樹脂である。
【0011】
本発明に使用する(B)臭素化ポリフェニレンエーテルは、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【0012】
【化1】
上式中、nは整数1~10の重合度を表す。また、X
1およびX
3はそれぞれ独立に整数1~5の臭素原子であり、X
2は整数0~4の臭素原子を表す。
【0013】
具体的には、ケムチュラ社製Emerald Innovation 1000が挙げられる。
【0014】
本発明において、(B)臭素化ポリフェニレンエーテルの配合量は、(A)スチレン系樹脂を100質量部とした時、27~40質量部である。この配合量の場合、難燃性と透明性に優れた難燃性スチレン系樹脂組成物が得られる。
【0015】
本発明において、難燃性スチレン系樹脂組成物の混合方法は、公知の混合技術を適用することができる。例えばミキサー型混合機、V型ブレンダー、及びタンブラー型混合機等の混合装置で予め混合しておいた混合物を、更に溶融混練することで均一な難燃性樹脂組成物とすることができる。溶融混練にも特に制限はなく公知の溶融技術を適用できる。好適な溶融混練装置として、バンバリー型ミキサー、ニーダー、ロール、単軸押出機、特殊単軸押出機、及び二軸押出機等がある。更に押出機等の溶融混練装置の途中から各種添加剤を別途に添加する方法がある。
【0016】
本発明において、難燃性スチレン系樹脂組成物の溶融混練時の温度は、樹脂温度で265℃以上である。
【0017】
本発明の成形体の成形方法は、公知の技術を適用することができる。例えば射出成形、プレス成形、押出成形、ブロー成形等の方法がある。
【0018】
本発明の目的を損なわない範囲で他の添加剤を添加する事ができる。例えば、酸化防止剤のフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等、滑剤の脂肪酸系滑剤、脂肪族アマイド系滑剤、金属石鹸系滑剤等、着色剤の顔料、染料等、帯電防止剤の非イオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等である。
【実施例】
【0019】
以下に例を挙げて具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0020】
(A)スチレン系樹脂は、還元粘度1.25dl/gである(A-1)ポリスチレン樹脂を使用した。ここで言う還元粘度は以下の方法で測定した。
【0021】
[還元粘度(ηsp/C)の測定]
スチレン系樹脂1gにメチルエチルケトン17.5mlとアセトン17.5mlの混合溶媒を加え、温度25℃で2時間振とう溶解した後、遠心分離で不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を取り出し、250mlのメタノールを加えて樹脂分を析出させ、不溶分を濾過乾燥する。同操作で得られた樹脂分をトルエンに溶解してポリマー濃度0.4%(質量/体積)の試料溶液を作成した。この試料溶液、及び純トルエンを30℃の恒温でウベローデ型粘度計により溶液流下秒数を測定して、下式にて算出した。
ηsp/C=(t1/t0-1)/C
t0:純トルエン流下秒数
t1:試料溶液流下秒数
C :ポリマー濃度
【0022】
(B)臭素化ポリフェニレンエーテルには、(B-1)臭素化ポリフェニレンエーテル(ケムチュラ社製 Emerald Innovation 1000)を使用した。
【0023】
また(B)臭素化ポリフェニレンエーテルの代わりに、(B-2)デカブロモジフェニルエタン(アルベマール社製 Saytex 8010)を使用した。
【0024】
[難燃性スチレン系樹脂組成物の調製]
上記(A)スチレン系樹脂、(B)化合物を表1に示す割合にて配合し、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業社製「FM20B」)にて予備混合した。予備混合した原料を二軸押出機(東芝機械社製「TEM26SS」)に供給してストランドとし、水冷後ペレタイザーへ導きペレット化した。この際、樹脂温度は下記表に示す温度、供給量30kg/時間とした。
【0025】
[透明性]
本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物の透明性は曇り度と全光透過率で評価した。得られたペレットをプレス成形機(株式会社東洋精機製作所製「MP-2F」)を用いて、長さ30mm×幅30mm×厚さ2.0mmの試験片を成形した。この際、プレス成形機の熱盤温度は表に示す温度、予備加熱時間は3分、成形時間は2分、成形圧力は10MPaとした。該試験片を曇り度計(日本電色工業社製、NDH5000)を用いて、JIS K 7136、JIS K 7361に基づき、曇り度、全光透過率を測定した。全光透過率70%以上かつ曇り度10.0%以下のものを合格とした。
【0026】
[総発熱量]
得られたペレットをMCC(DEATAK製「MCC-3」)を用い、ASTM D7309 Method Aに基づいて、総発熱量[kJ/g]を測定した。
【0027】
[難燃性]
射出成形機(日本製鋼所株式会社製「J100E-P」)を用いて、長さ127mm×幅12.7mm×厚さ1.5mmの燃焼用試験片を成形した。この際、射出成形機のシリンダー温度は220℃、金型温度は45℃とした。該試験片を用いて、UL94の垂直燃焼試験方法に準拠し、難燃性を評価した。この試験方法でV-1に満たなかった場合は不合格とした。
【0028】
結果を表1および表2に示す。
【0029】
【0030】
【0031】
表1より本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物からなる成形体は透明性を保持したまま高度な難燃性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物は透明性と難燃性に優れているため、一般雑貨、照明装置のハウジング等に有用である。