(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】間接的歯科修復物を作製するためのミリングブランク、対応する使用および方法
(51)【国際特許分類】
A61C 5/70 20170101AFI20220613BHJP
A61C 13/003 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
A61C5/70
A61C13/003
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018050643
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】10 2017 105 841.9
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514104944
【氏名又は名称】ヴォコ・ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】VOCO GMBH
【住所又は居所原語表記】ANTON‐FLETTNER‐STR. 1‐3, 27472 CUXHAVEN, BUNDESREPUBLIK DEUTSCHLAND
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】ラインハルト マレッツ
(72)【発明者】
【氏名】ニルス フォンテイン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル オルデンブルガー
(72)【発明者】
【氏名】マンフレート トマス プラウマン
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-134307(JP,A)
【文献】特表2013-544823(JP,A)
【文献】国際公開第2010/049522(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2010/0311862(US,A1)
【文献】国際公開第2013/012931(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/130441(WO,A1)
【文献】特開2012-246290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/70
A61C 13/003
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水収着率Wspの少なくとも25%の量で水を含有する、樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成される、間接的歯科修復物を作製するためのミリングブランク。
【請求項2】
水収着率Wspの少なくとも50%の量で水を含有する、請求項1に記載のミリングブランク。
【請求項3】
少なくとも10GPa
の、ADA規格No.27-1993に従って決定されたEモジュラスを有する、請求項1または2に記載のミリングブランク。
【請求項4】
多くても40μg/mm
3
の水収着率Wspを有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載のミリングブランク。
【請求項5】
水収着率WspおよびADA規格NO.27-1993に従って決定されたEモジュラスの商が、1.35μg/(GPa×mm
3)未満
である、請求項1から4までのいずれか1項に記載のミリングブランク。
【請求項6】
a)ミリングブランクの全質量に基づいて少なくとも70質量%
の無機フィラー、
および
b)樹脂マトリックス
を含む、樹脂ベースコンポジットから構成される、請求項1から5までのいずれか1項に記載のミリングブランク。
【請求項7】
無機フィラーa)が、
a1)ガラス組成物、および
a2)80nm以下の平均粒子サイズを有する非凝集および非凝塊シリカを含む、請求項6に記載のミリングブランク。
【請求項8】
ガラス組成物a1)が、
0.4~1.0μmの範囲
のD50値を有する第1のガラス組成物a1a)、
および
1.2~5.0μmの範囲
のD50値を有する第2のガラス組成物a1b)
を含み、
a1a)とa1b)との質量比は、1:1.5~1:8
であり、
a2)とa1a)およびa1b)の合計との質量比は、1:3~1:6であり、
第1のガラス組成物a1a)のD50値と第2のガラス組成物a1b)のD50値との比は、1:1.5~1:10
の範囲であり、かつ
第1のガラス組成物a1a)のD75値は、第2のガラス組成物a1b)のD25値よりも小さい、請求項7に記載のミリングブランク。
【請求項9】
樹脂マトリックスb)が、二官能性(メタ)アクリレートを含有するモノマーのポリマーであり、1分子当たり2~4個のエトキシ基の平均エトキシ化度を有するエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートの質量パーセントは、モノマーの全質量に基づいて40質量%超および50質量%未満である、請求項6から8までのいずれか1項に記載のミリングブランク。
【請求項10】
ミリングブランクの水収着率Wspと含水量との差が、10μg/mm
3未満
である、請求項1から9までのいずれか1項に記載のミリングブランク。
【請求項11】
その寸法が、
- 10mm
の辺長の立方体、
および/または
- 10mm
の辺長の正方形底面、および20mmの高さを有する直方体が、ミリングブランクからミリングされ得るように選択される、請求項1から10までのいずれか1項に記載のミリングブランク。
【請求項12】
ミリングブランクが、耐水方式でシーリングされ、または密閉される
、請求項1から11までのいずれか1項に記載のミリングブランク。
【請求項13】
間接的歯科修復物としての使用のための成形部品
を作製するための、請求項1から12までのいずれか1項に記載のミリングブランクの使用。
【請求項14】
請求項1から12までのいずれか1項に記載のミリングブランク、または間接的歯科修復物としての使用のためのそれから作製される成形部品を作製するための方法であって、
以下のステップ:
(i)
水収着率Wspの25%未満の量で水を含有するミリングブランクを作製または準備するステップと、
(ii)ステップ(i)で準備または作製されたミリングブランクが
水を収着する条件を調整し、
ミリングブランクが水収着率Wspの少なくとも25%の量で水を含有するまでこれらの条件を維持するステップと
を含む方法。
【請求項15】
間接的歯科修復物としての使用のための成形部品を作製するための、請求項14に記載の方法であって、以下の追加のステップ:
(iii)
ステップ(ii)で作製されたミリングブランクから成形部品をミリング
するステップ
を含む方法。
【請求項16】
間接的歯科修復物を作製するためのキットであって、
- 異なる色の請求項1から12までのいずれか1項に記載の2種以上のミリングブラ
ンク
および
-
ミリングブランクの1つからミリングされた成形部品を口腔内の歯対象にボンディングするための1種または複数の歯科用組成物、
を含むキット。
【請求項17】
治療または美容上の使用のための間接的歯科修復物の製造における、請求項1から12までのいずれか1項に記載のミリングブランクの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間接的歯科修復物を作製するためのミリングブランク、このようなミリングブランクを作製するための方法または間接的歯科修復物としての使用のためのそれから作製される成形部品、水分収着方法の使用、間接的歯科修復物を作製するためのキット、および間接的歯科修復のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間接的歯科修復物(間接的補綴修復物とも称される)は、歯および歯の一部を置き換えるために使用され、特にインレー、アンレー、部分クラウン、クラウン、ベニヤおよびブリッジから構成される群から選択される成形ピースを含む。本発明は、一時的および永久的修復物の両方、すなわち、一時的および永久的な間接的歯科修復物の両方に関する。
用語「ミリングブランク」(代替の同等用語:「歯科用ミリングブランク」、「歯科用ミリングブロック」)は、本文において、樹脂(したがって、フィラーを含まない)から構成されるミリングブランクと樹脂ベースコンポジット(「歯科用コンポジット」とも称される)から構成されるミリングブランクの両方を意味する。「樹脂ベースコンポジット」(すなわち、「歯科用コンポジット材料」)は、少なくとも1種の硬化性液体または硬化固体樹脂相、およびそれらの中に分散された1つの固相を含有する硬化性または硬化歯科用組成物であると当業者により理解されており、ここで、固相は、異なる種類および量のフィラーを含有し得、硬化性歯科用組成物は、1種または複数の重合開始剤を含有し得、および硬化性または硬化歯科用組成物は、一般的な添加剤、例えば、抑制剤、染料、安定剤などを任意選択で含有し得る。
【0003】
まだ硬化されていない(硬化性)樹脂またはまだ硬化されていない(硬化性)樹脂ベースコンポジットは、化学的および/または熱的および/または放射線によって光化学的に、のいずれかで重合され得る。樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成される間接的歯科修復物を作製するためのミリングブランクは、従来技術から公知である。それらは、CAD/CAM方法による歯科補綴物の作製に特に適し、そのために提供されている。
コンピューター制御機械の技術的進歩に伴って、最短可能時間かつ最小尽力で高精度の補綴修復物(すなわち、間接的歯科修復物)を作製することができるミリング機械が開発されてきた。こうした状況を背景に、いわゆる「デジタル歯科技術(degital dentistry)」が開発された。これは、現在歯科技術で卓越した、常に重要性を増している分野である。
当初、セラミック材料または金属材料のみがミリングされたが、天然歯科エナメルおよび樹脂ベースコンポジットにますますよく適合した樹脂の開発とともに、ミリングブランクとしての使用のための対応する物質も重要になってきた。
【0004】
現代歯科医術のデジタル化の過程とともに、セラミックおよび樹脂をベースとした間接的CAD/CAM作製修復物が、ますます重要になってきている。このようなセラミックベース修復物は既に臨床的に確立されてきているが(以下の文書[1-7」参照)、樹脂ベースコンポジットも最近より重要になってきている。使用されるセラミック材料の例には、長石セラミック、白りゅう石セラミックおよび二ケイ酸リチウムセラミックが含まれるが;しかしながら、このようなセラミック材料は、脆性の欠点を有し、破砕およびチッピングももたらすことが見出された(文書[3-4、7-9]参照)。樹脂および樹脂ベースコンポジット、特にCAD/CAM方法での使用のための樹脂ベースコンポジットは、それらの高い弾性のためにセラミック材料を上回る利点を示す。樹脂ベース材料(純樹脂または樹脂ベースコンポジット)も、それらが容易に修理可能であるためにセラミック材料を上回る利点を示す。
セラミック材料および樹脂ベース材料(純樹脂または樹脂ベースコンポジット)から構成されるCAD/CAM作製クラウンの初期の比較インビトロ試験は、同等の機械的特性が両方の製品クラスによって達成され得ることを示す(文書[8-12})。しかしながら、2010年まで、CAD/CAM作製樹脂ベースクラウン(樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成される)または他の樹脂ベース間接的歯科修復物の保持率に関して利用可能なデータは事実上なかった。対応する概説(2010年の文書[13]参照)には、「コンポジットまたは繊維強化コンポジットクラウンを調査した研究はなかった」と述べられている。その間に、樹脂ベースCAD/CAM材料の増大する重要性とともに、いくつかの大学作業グループは、CAD/CAM作製修復物の保持率に対する種々のパラメーターの効果を調査した(文書[17-21]参照)。例えば、表面前処理、ボンディング材料、およびCAD/CAM材料の効果が調査された。保持率を決定するために、せん断接着ボンディング試験、(ミクロ)引張りボンディング試験、およびクラウンプルオフ試験を行い、後者は臨床状況に最も良く似ていた。
【0005】
セラミック材料および樹脂ベースCAD/CAM材料(間接的歯科修復物を作製するための材料)を比較するインビトロ研究で、セラミック材料は、全体としてより良好な保持率を示すことが見出された:
B.Stawarczykは、ボンディング系およびボンディングコンポジットに応じて、接着ボンディングされた樹脂ベースクラウンの引張り強度を調査した(文書[22]参照)。保持率は、同じ試験設計を使用して試験したセラミッククラウンに対するものよりも不良であることがわかった。「種々の前処理方法および樹脂コンポジットセメントと組み合わされた調査CAD/CAMナノコンポジットは、ジルコニアクラウン[・・・]またはガラス-セラミック材料と比較して象牙質アバットメントでの同じ実験室試験アッセイによって試験されたより低い引張りボンディング強度を示した」。
【0006】
T.Baslerは、前処理およびボンディング材料に応じて、接着ボンディングされたCAD/CAM作製樹脂ベースクラウンの引張りボンディング強度を調査した(文書[23]参照)。ガラスセラミッククラウンを対照群として採用した。この試験において、セラミッククラウンは、樹脂ベースクラウンよりも相当により高いボンディング値を示した:「接着合着された(adhesively luted)ガラスセラミッククラウン[・・・]は、機械的熱サイクル負荷の前後で他の試験群すべてと比較して最大の引張り強度を示した」および「要約すると、CAD/CAM樹脂クラウンは、対照群よりもかなりより低い引張り強度を示した」。
【0007】
R.Frankenbergerは、ミクロ引張りボンディング強度に対する種々の前処理および種々のボンディングコンポジットの効果を調査した(文書[24]参照)。この研究で、コンポジット、二ケイ酸リチウムセラミック、ジルコニア強化ケイ酸リチウムセラミックおよびポリマー含侵セラミックから構成されるCAD/CAM材料を比較した。セラミックCAD/CAM材料は、最大のボンディング値を有することがわかった。
これらの結果は、初期の臨床研究により確認されている。したがって、R.Shetty(文書[25])は、「最近の研究は、樹脂ナノセラミックが、特にインプラントシングルクラウンの場合に使用される合着性セメント-クラウン界面で剥離する傾向があると結論した。樹脂マトリックスセラミックはレジリエントあるので、弾性変形がクラウン内で生じ、この応力集中は、接着層に移され、剥離問題をもたらす。この材料は、クラウン適応とはもはやみなされない」と書いている。
【0008】
3年の臨床研究で、S.Vanoorbeek(文書[26]参照)は、樹脂ベースクラウン(87.9%および55.6%)と比較してセラミッククラウン(97.2%および81.2%)のより良好な残存率を認めた。
樹脂ベースクラウンに対するさらなる臨床研究(文書[27]参照)で、樹脂ナノコンポジットクラウン(RNC)を、2つの異なる種類の酸化ジルコニウムアバットメントにボンディングさせた。1年後、わずか14%の残存率が認められただけであった。不良は、樹脂ベースクラウンに起因した。「この理由について、著者らは、著者らの研究におけるRNCクラウンの臨床的剥離が、使用されたセメントとよりもむしろRNC材料と関係があり得ると仮定する」。結果として、残りの樹脂ベースクラウンをセラミッククラウンに取り替えることが決定された。
【発明の概要】
【0009】
したがって、特に好都合な保持率、好ましくは従来技術のものを上回って改善されている保持率を特徴とする樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成される間接的歯科修復物に対する相当な要求がある。同様に、このような間接的歯科修復物を作製するための対応するミリングブランクに対する相当な要求がある。
このようなミリングブランクを作製するための有利な方法、または間接的歯科修復物としての使用のためのそれから作製される成形部品であって、ミリングによって、好ましくはCAD/CAM方法によってミリングブランクから作製される成形部品に対する対応する要求がある。
【0010】
さらに、間接的歯科修復のための改善された方法に対する対応する要求がある。
本発明の主たる目的は、改善された保持率を示す間接的歯科修復物を作製するためのミリングブランクを提供することであった。本発明のさらなる態様によれば、別の目的は、対応する間接的歯科修復物、このようなミリングブランクを作製するための対応する方法、このようなミリングブランクの対応する使用、間接的歯科修復物を作製するための対応するキット、および間接的歯科修復のための対応する方法を提供することであり、その目的は、常に改善された保持率であった。
改善された保持率は、対応して設計された試験で対応して水中保存後の適切なボンディング値に基づいて実験室試験で評価することができる。このような試験は、以下に例で例証される。本発明の具体的な目的は、このような試験で、水中保存後でさえも、特に納得のいく接着特性を示すミリングブランクなどを提供することであった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、本発明者ら自身の試験に基づき、これらの試験は、DE102017103084.0に記載されている。間接的修復物の線形膨潤(LS)は、材料の水収着率(W
sp)に比例し、弾性モジュラス(E)に反比例することがこれらの試験で最初に見出された(
図1参照)。したがって、以下の等式が適用される:
【0013】
【数1】
膨潤は、クラウンを膨張させ、したがって、修復物全体が膨潤により拡大されるので、その外径および内径を増大させる。この場合、相対的線形膨潤(パーセント単位)は、相対的体積膨潤(パーセント単位)のおよそ3分の1である。内径におけるこの増大は、引張り力をもたらし、これは、ボンディングクラウンの接着ボンディングに及ぼされる。引張り力が局所接着力よりも大きい場合、ボンディング材料は引きはがされ、これらの部位に周辺部の隙間が形成する。したがって、これらの部位は、細菌コロニー化および二次的う蝕の形成のリスクが高い状態にある。膨潤が十分に大きいか、または欠陥部位での一定負荷が十分に高い場合、これは、修復物の全保持率損失をもたらす。
安定な保持率を示し、かつ周辺部隙間がない補綴修復物(間接的歯科修復物)を得るために、したがって、-DE102017103084.0に基づく-本発明の具体的な目的は、水中保存時に、または口腔内で行き渡っているものなどの状況下で可能な限り膨潤のない樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成されるミリングブランクを提供することである。DE102017103084.0の技術的教示、特にその中に提示された歯科用ミリングブランクおよび材料に基づいて、本発明の具体的な目的は、ミリングブランク、およびその膨潤能力がなおさらに低下されている、すなわち、実質的に膨潤を示さない、それらから作製された間接的歯科修復物を提供することである。
【0014】
DE102017103084.0の技術的教示に基づいて、本発明の文脈における第1の検討事項は、その水収着率がなおさらに減少されているか、またはその弾性モジュラスが特に高い材料に向けられた。具体的には、上に示された比例式に従って、このような手段は、したがって、線形膨潤、恐らくは保持率損失のリスク、を減少させることを可能にする。
しかしながら、次いで、上述の技術的目的は、意外にも完全に異なる仕方で達成された。
より具体的には、意外なことに、間接的歯科修復物(特に、CAD/CAM方法によってミリングブランクからミリングされたクラウン)の保持率は、樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成されるミリングブランク、好ましくはそれ自体低い水収着能力を有するものが、そこでミリングブランクが水を収着する目標プレコンディショニング下に置かれる場合、相当に改善され得ることが本発明者らの実験でわかった。
【0015】
以前には、焦点および目的が、可能な限り少ない水を樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成されるミリングブランク中に浸透させることであった一方で(再度上述の比例式を参照されたい)、本発明の文脈においては、したがって、DE102017103084.0による教示に対するまったく正反対のことにおいては、相当量の水を既に含有するミリングブランクが意図的に作製される。この場合、水の収着のそれ自体わずかに最小限に能力がある、すなわち、低い水収着率Wsp(本発明の文脈における決定方法については以下を参照されたい)を示すミリングブランクが、好ましくは使用され、上述のプレコンディショニング下に置かれる。意外なことに、この仕方でプレコンディショニングされたミリングブランク、すなわち、含侵され、水で富化されたミリングブランクは、乾燥ミリングブランク、例えば、EN ISO4049:2009(D)に従う試験方法で使用され、恒量まで乾燥することによって作製されたものよりも、さらにより相当に低下した膨潤能力を有する。
【0016】
したがって、プレコンディショニングの追加的ステップによって、樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成されるミリングブランクの膨潤能力をなおさらに低下させ、そのようにして、セラミックミリングブランクの特性を引き出すことが可能である。さらに、プレコンディショニングの追加的ステップは、材料に基づく理由のために、高い水収着率Wsp、したがって、乾燥状態において高い膨潤能力を示し、したがって、間接的歯科修復物用の材料として適さない物質(樹脂または樹脂ベースコンポジット)を、卓越した保持特性および接着特性を有する間接的歯科修復物を作製するためのミリングブランク用の材料として利用可能にさせることを可能にする。
【0017】
したがって、樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成される、プレコンディショニングされ、すなわち、処理され、水で含侵されているミリングブランクは、対応する乾燥ミリングブランクに比べて定性的により価値があり、これはまた、間接的歯科修復物の作製によく適合しているミリングブランクタイプの数をかなり増加させる。意外なことに、樹脂または樹脂ベースコンポジット材料から構成される、プレコンディショニングされ、すなわち、水で含侵されているミリングブランクは、セラミックブロックの欠点、例えば、破砕への傾向およびチッピングのないセラミックブロックの臨床的保持強度を与える。さらに、樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成されるミリングブランクおよびそれから作製された間接的歯科修復物は、セラミックミリングブランクまたはそれから作製された間接的歯科修復物と対照的に、必要に応じて、容易かつ迅速に修復することができる。
樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成される、水でプレコンディショニングされたミリングブランクは、従来技術で知られていない。
【0018】
DE69922413T2(欧州特許明細書欧州特許第1143915号;3M Innovative Properties Co.の翻訳)には、(a)ポリマー樹脂、(b)特定の、最終的に砕かれたフィラー材料を含む歯科用ミリングブランクが開示されており、ここで、そのブランクは、実質的に亀裂がなく、ブランクがこの文書中により詳述されて具体化されたとおりの熱ショック試験に合格するように二次加工されている。この文書は、ある特定の場合に、硬化ブランクは特定の熱処理下に置かれること、および熱処理を完了後に、ブランクは、室温の水中への含侵、または周囲温度によってゆっくりと冷却することのいずれかによって、室温に平衡化させることを教示している。水中への含侵は、文書で具体化されていないが、それは温度平衡化に役立つものとなる場合、それは、単に短期間で行われるに過ぎず;したがって、上で述べられた検討事項の意味でのプレコンディショニングは、物理的理由のために、行われない。既にここで、ミリングブランク中への水収着は、特に遅いプロセスであることが演繹され得る、本文の表16~表18が参照される。37℃(すなわち、室温を相当に超える温度)でさえも、25%のコンディショニング度が到達される前に、数週間を要する。室温で、水収着に必要な移送過程は、さらには相当によりゆっくりと進行し、その結果、室温で温度平衡化に必要な期間において、有意な水収着はまったく起こり得ないことが理解されなければならない。対応する理由として、ミリングブランクと水との他の短時間接触においても(例えば、ミリング中)、含水量の有意な変化はまったくない。
【0019】
本発明は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
第1の態様によれば、本発明は、樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成され、かつ少なくとも25%の水収着率Wspの量で水を含有する、間接的歯科修復物を作製するためのミリングブランクに関する。
ここで、水収着率Wspは、実際の含水量とは無関係である、ミリングブランクの特性である。本文の枠組みにおいて、および本発明に関連して、以下に記載される決定方法が、水収着率Wspを決定するために使用され、これは、EN ISO4049:2009(D)に従う方法に極めて密接に基づいている。特に断りのない限り、水収着率Wspについての与えられたデータのすべて、特に実験的に決定された値は、以下に示される決定方法を意味する。
【0020】
説明として:この決定方法(およびこれは、EN ISO4049:2009(D)に従う方法に類似的に適用される)において、試験片は、決定方法の第1ステップで恒量に乾燥される。次いで、この乾燥試験片は、特定の条件下に水で飽和され、最後に再び乾燥される。水収着率Wsp-いくらか簡単な方式で表現される-は、(i)水で飽和された試験片の質量とその後に乾燥された試験片の質量との差および(ii)試験片の体積に基づいて計算される。この方法に基づくと、試験片の水収着率は、最初の乾燥前に実際の含水量がどれくらい低いかまたは高いかとは無関係である。本質的に、「水収着率Wsp」は、乾燥試験片の質量に対する、試験片中に含まれる水の最大理論量に関係する値である。
本発明によるミリングブランクは、樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成される。ここで、用語「樹脂から構成されるミリングブランク」は、フィラーを含有しないミリングブランクを意味する一方で、用語「樹脂ベースミリングブランク」は、対照的に樹脂マトリックス(すなわち、プラスチックマトリックス)およびその中に分散されたフィラー、好ましくは無機フィラーを含むコンポジットから構成されるミリングブランクを意味する。
本発明によるミリングブランクは、少なくとも25%の水収着率Wspの量で水を含有する。水収着率Wspの決定に関しては、上の説明に言及され、決定方法は以下に示される。
【0021】
以下に与えられる他の条件下での恒量までの乾燥において、単位体積当たり(例えば、1ミリリットル当たり)質量が、水で前もって保存された比較ミリングブランクの恒量までの乾燥後に失われた単位体積当たり少なくとも25%の質量に相当して失われる場合に少なくとも、初期に未知の含水量を有する所与のミリングブランクは、少なくとも25%の水収着率Wspの量で水を含有する。
上で定義されたとおりの、および添付の特許請求の範囲における本発明によるミリングブランクは、少なくとも25%の水収着率Wspの量で水を含有する(上記所見および決定方法に関する以下の説明を参照されたい)。しかしながら、少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、特に好ましくは少なくとも90%の水収着率Wspの量で水を含有する本発明によるミリングブランクが好ましい。本発明者らの試験で、ミリングブランクの含水量の増加とともに、その保持特性および接着挙動に対して増加するプラス効果があることがわかった。当業者は、個別の場合に必要とされるその中に含有される水の量に関して本発明によるミリングブランクを調整する。非常に特有の間接的歯科修復物、例えば、インレー、アンレー、部分クラウン、クラウン、ベニヤまたはブリッジがミリングブランクからミリングされる場合、保持率および接着力に関して個別の場合に様々な要件があり、これらは、当業者によって考慮される。保持率および接着力に対する特に厳しい要件の場合、当業者は通常、少なくとも90%の水収着率Wspの量で水を含有する本発明によるミリングブランクを好む。
【0022】
接着特性の態様に関して、間接的歯科修復物が、長期間後でさえも口腔内に行き渡っている状況下で好適な接着力を継続して示すことが決定的に重要である。以下の例で、このような状況は、理想化されたクラウンが理想化されたアバットメントにボンディングされており、次いで、得られた総体が、37℃で8週間保存される試験によって模擬される。本発明によるミリングブランクは、有意に25%未満の水収着率Wspの量で水を含有する比較ミリングブランクのものに対してこのような接着力試験で常に相当に優れた結果を示す。最良の結果は、少なくとも90%の水収着率Wspの量で水を含有する本発明によるミリングブランクで得られる。
本発明によるミリングブランクは、はっきりと25%未満の水収着率Wspの量で水を含有するミリングブランクとのそれぞれの比較で相当に改善された特性(より特には、ボンディングおよび水中での保存後に改善された保持率および改善された接着力)を示すけれども、特に有利な絶対値を達成するために、文書DE102017103084.0に関連している考察に基づいて本発明によるミリングブランクの他の物理的パラメーターを調整することも有用である。
【0023】
したがって、ADA規格No.27-1993に従って決定された、少なくとも10GPa、好ましくは少なくとも13GPa、特に好ましくは少なくとも15GPaのEモジュラスとともに、少なくとも90%の水収着率Wspの量で水を含有する、好ましくは好ましいと上に記載されたタイプの、本発明によるミリングブランクが好ましい。当業者は通常、使用されるフィラーおよびモノマーのタイプおよび量、ならびに任意選択で、選択される硬化方法などを選択することによって、本発明によるミリングブランクの所望のEモジュラスを設定する。
これに関して、本発明者ら自身の試験は、ミリングブランクのEモジュラスがその中に含有される水の量に相当な程度には依存しないことを示したことが考慮されるべきである。上で検討されたとおりに、本発明者ら自身の試験によれば、間接的歯科修復物の線形膨潤(LS)は、Eモジュラスにおおよそ逆比例している過程をたどる。保持特性および接着特性はしばしば線形膨潤に直接依存するので、高いEモジュラス(上で検討されたとおりの)を有する本発明によるミリングブランクは、特に有利である。
【0024】
本発明によるミリングブランク、好ましくは好ましいと上に記載されたとおりの本発明によるミリングブランク、より特には少なくとも90%の水収着率Wspの量で水を含有し、および/または少なくとも10GPa、好ましくは少なくとも15GPaのEモジュラスを有する本発明によるミリングブランクは好ましくは、多くても40μg/mm3、好ましくは多くても30μg/mm3、特に好ましくは多くても20μg/mm3の水収着率Wspを有する。
上で検討されたとおりに、線形膨潤は、水収着率Wsp(上で定義されたとおりの;決定方法については以下参照)におおよそ比例する。したがって、多くても40μg/mm3、好ましくは多くても30μg/mm3、特には多くても20μg/mm3の水収着率Wspを有する本発明によるミリングブランクは、特に卓越した保持特性および接着特性(特にボンディングおよび水中または口腔内に保存後に)を示す。
少なくとも13GPa(好ましくは少なくとも15GPa)のEモジュラスおよび多くても20μg/mm3の水収着率を有して、少なくとも90%の水収着率Wspの量で水を含有する間接的歯科修復物(樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成される)を作製するための本発明によるミリングブランクが、特に好ましい。
【0025】
線形膨潤と、水収着率WspおよびEモジュラスの商との間の、本発明者ら自身の試験で決定された相関を考慮すると、水収着率Wsp(上で定義されたとおりの;決定方法については以下参照)およびADA規格No.27-1993に従って決定されたEモジュラスの商が、1.35μg/(GPa×mm3)未満、好ましくは1.00μg/(GPa×mm3)である本発明によるミリングブランクが、特に好ましい。
その要約が以下に提示される、本発明者ら自身の試験により、特に卓越した結果は、特にボンディングおよび水中保存後の接着力について、本発明による好ましいミリングブランク(好ましいEモジュラス値、水収着率ならびに水収着率WspおよびEモジュラスの商を有する)で得られることが確認される。
【0026】
少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、特に好ましくは少なくとも90%の水収着率Wspの量で水を含有し、および/または少なくとも10GPa、好ましくは少なくとも13GPa、特に好ましくは15GPaのADA規格No.27-1993に従って決定されたEモジュラス、および/または多くても40μg/mm3、好ましくは多くても30μg/mm3、特に好ましくは多くても20μg/mm3の水収着率Wspを有し、および/またはここで、水収着率WspおよびADA規格No.27-1993に従って決定されたEモジュラスの商は、1.35μg/(GPa×mm3)未満、好ましくは1.00μg/(GPa×mm3)未満である、樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成される間接的歯科修復物を作製するための本発明によるミリングブランクが、特に好ましく;ここで、接続詞「および(and)」は、好ましくはそれぞれの場合に適用される。さらに、最も厳格な(最も狭い)定義の2つ以上は、好ましくは互いに組み合わせられる(90%水収着率Wsp;少なくとも15GPaのEモジュラス;多くても20μg/mm3の水収着率Wsp;好ましくは1.00μg/(GPa×mm3)未満の商)。これらの最も厳格な(最も狭い)定義のすべては、好ましくは互いに組み合わされる。対応するミリングブランクは、それらの非常に卓越した保持特性および接着特性のために、特に好ましい。
【0027】
ミリングブランクの水収着率Wspと含水量(以下に特定される条件下での乾燥、差別的秤量および体積決定によって決定された)との間の差が、10μg/mm3未満、好ましくは8μg/mm3未満、特に好ましくは4μg/mm3である、上で定義されたとおりの本発明によるミリングブランク(好ましくは、好ましいまたは特に好ましいと上に記載されたとおりの本発明によるミリングブランク)が、最も特に好ましい。
前記差は、プレコンディショニングされた本発明によるミリングブランクのプレコンディショニング後に残存する水収着能力に相当する。差が10μg/mm3未満であると決定されるミリングブランクのみが、37℃の最低温度でミリングブランク1mm3当たり10μg未満の水を含有することができる。したがって、このような本発明による好ましいミリングブランクは、残存する膨潤能力を実質的に有しない。このようなミリングブランクから作製されたクラウンは、アバットメントへのボンディング後、さらには水中長期保存後に対応する試験で卓越した接着力値を示す。
本発明の特定の利点は、ミリングブランク1mm3当たり10μg以下(好ましくは8μg/mm3未満、好ましくは4μg/mm3未満)の水を(追加的に)収着し得る(プレコンディショニングされた)ミリングブランクの提供である。このようなミリングブランクは、従来技術から知られていない。
【0028】
所与のミリングブランクの水収着率Wspが高い場合、前記差が10μg/mm3未満(好ましくは8μg/mm3未満、より好ましくは4μg/mm3未満)であるように、相当な量の水がこのようなミリングブランクに加えられなければならない。対照的に、所与のミリングブランクの水収着率Wspが、既に非常に低い場合(例えば、12μg/mm3、この例に関しては以下の例4参照)、このミリングブランクは、単に比較的に少量の水を収着しなければならず、この結果、ミリングブランクの水収着率Wspと含水量との間の差は、10μg/mm3未満、好ましくは8μg/mm3未満、最も好ましくは4μg/mm3未満である。
【0029】
特に好ましいものは、
a)ミリングブランクの全質量に基づいて、少なくとも70質量%、好ましくは少なくとも80質量%の量の無機フィラー、および
b)樹脂マトリックス(プラスチックマトリックス)
を含む、樹脂ベースコンポジットから構成される本発明によるミリングブランクである。
無機フィラーおよび樹脂マトリックスに加えて、このような好ましい本発明によるミリングブランクはまた、硬化のための微量の開始剤および他の添加剤を含んでもよい。上述の好ましい量での無機フィラー、および樹脂マトリックスを含む、樹脂ベースコンポジットから構成される本発明によるミリングブランクは有利には、含有される水の量、Eモジュラス、水収着率Wspならびに/または水収着率WspおよびEモジュラスの商に関して好ましいと上に記載されたように構成される。
【0030】
好ましくは、本発明による好ましいミリングブランクは、無機フィラーa)が、
a1)ガラス組成物、および
a2)80nm以下の平均粒子サイズを有する非凝集および非凝塊シリカ(測定方法については以下参照)
を含むように構成された、上述の量での無機フィラー、および樹脂マトリックスを含む、樹脂ベースコンポジットから構成される。
【0031】
したがって、特に有利なものは、ガラス組成物a1)が、
0.4~1.0μmの範囲、好ましくは0.5~0.9μmの範囲のD50値を有する第1のガラス組成物a1a)、および
1.2~5.0μmの範囲、好ましくは1.5~4.0μmの範囲のD50値を有する第2のガラス組成物a1b)
を含み、ここで、
a1a)とa1b)との質量比は、1:1.5~1:8、好ましくは1:2~1:5であり、
a2)とa1a)およびa1b)の合計との質量比は、1:3~1:6であり、
第1のガラス組成物a1a)のD50値と第2のガラス組成物a1b)のD50値との比は、1:1.5~1:10、好ましくは1:2~1:5の範囲であり、かつ
第1のガラス組成物a1a)のD75値は、第2のガラス組成物a1b)のD25値よりも少ない、本発明によるミリングブランクである。
【0032】
無機フィラーa)および樹脂マトリックスb)を含む樹脂ベースコンポジットから構成される本発明によるミリングブランクにおいて、樹脂マトリックスは、ミリングブランクの全質量に基づいて最大で30質量%までを占め得る。しかしながら、しばしば、無機フィラーa)および樹脂マトリックスb)の成分に加えて、無機フィラーまたは樹脂マトリックスのいずれにも割り当てることができない1種または複数のさらなる成分、例えば、硬化のための開始剤の残留物、および恐らくは有機フィラーを含めて、他の添加剤も与えられる。
【0033】
本発明による好ましいミリングブランクは、樹脂ベースコンポジットから構成され、
a)ミリングブランクの全質量に基づいて、少なくとも70質量%、好ましくは少なくとも80質量%の量の無機フィラー、
および
b)樹脂マトリックス
を含み、ここで、無機フィラーa)は、
a1)ガラス組成物、ならびに
a2)80nm以下の平均粒子サイズを有する非凝集および非凝塊シリカ
を含み、
ここで、ガラス組成物a1)は、
0.4~1.0μmの範囲、好ましくは0.5~0.9μmの範囲のD50値を有する第1のガラス組成物a1a)、および
1.2~5.0μmの範囲、好ましくは1.5~4.0μmの範囲のD50値を有する第2のガラス組成物a1b)
を含み、ここで、
a1a)とa1b)との質量比は、1:1.5~1:8、好ましくは1:2~1:5であり、
a2)とa1a)およびa1b)の合計との質量比は、1:3~1:6であり、
第1のガラス組成物a1a)のD50値と第2のガラス組成物a1b)のD50値との比は、1:1.5~1:10、好ましくは1:2~1:5の範囲であり、かつ
第1のガラス組成物a1a)のD75値は、第2のガラス組成物a1b)のD25値よりも少ない。
【0034】
この場合特に好ましいものは、最も厳格な(最も狭い)定義、すなわち、少なくとも80質量%の無機フィラー;第1のガラス組成物a1a)のD50値が、0.5~0.9μmの範囲である;第2のガラス組成物a1b)のD50値が、1.5~4.0μmの範囲である;a1a)とa1b)との質量比が、1:2~1:5である;および第1のガラス組成物a1a)のD50値と第2のガラス組成物a1b)のD50値との比が、1:2~1:5の範囲である、のいくつかまたはすべてが互いに組み合わされている構成である。当然に、これらの好ましい構成は、含水量(好ましくは少なくとも90%の水収着率Wsp)、Eモジュラス値(好ましくは少なくとも15GPa)、水収着率Wsp(好ましくは多くても20μg/mm3)ならびに/または水収着率WspおよびEモジュラスの商(好ましくは1.00μg/GPa×mm3)に関して好ましい仕方で調整または選択もされる。
【0035】
好ましいものは、a)ミリングブランクの全質量に基づいて、少なくとも70質量%、好ましくは少なくとも80質量%の量での無機フィラーと、b)樹脂マトリックスb)が、二官能(メタ)アクリレートを含有するモノマーのポリマーであり、かつ1分子当たり2~4個のエトキシ基の平均エトキシ化度を有するエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートの質量パーセントが、モノマーの全質量に基づいて、40質量%超かつ50質量%未満である、樹脂マトリックスとを含む本発明によるミリングブランクである。
このようなミリングブランクは、モノマー混合物中1分子当たり2~4個のエトキシ基の平均エトキシ化度を有するエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートの質量パーセントが、モノマーの全質量に基づいて、40質量%超かつ50質量%未満である二官能(メタ)アクリレートを含有するモノマー混合物を使用して作製される。モノマー混合物、硬化のための1種または複数の開始剤、および任意選択で存在する添加剤と必要量の無機フィラーとの混合後、モノマー混合物の硬化は、通常の仕方、例えば、放射線硬化(光化学的に)および/もしくは化学硬化(レドックス反応)によって、および/または熱的に、樹脂マトリックスb)への重合によって行われる。
【0036】
示された量での1分子当たり2~4個のエトキシ基の平均エトキシ化度を有するエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートの使用は、対応する間接的歯科修復物の接着力試験で特に好適な結果、および実際に、特に好適な保持率をもたらす。使用されるエトキシ化ビスフェノールAの量のエトキシ化度に応じての本発明によるミリングブランクの特性の比較に関しては、例9~例12ならびにそれに関する表6および表7が言及される。
【0037】
本発明によるミリングブランクは、間接的歯科修復物の作製に適しており、そのために提供される。好ましくは、本発明によるミリングブランクの寸法は、
- 10mm、好ましくは14mmの辺長の立方体、
および/または
- 10mm、好ましくは14mmの辺長の正方形底面および20mmの高さを有する直方体
が、ミリングブランクからミリングされ得るように選択される。
【0038】
工業的実施において、水収着率などに関するいずれの実験室分析または実験も、ミリングブランクではなく、有意により小さい寸法を有する試験片、例えば、薄片でルーチンに行われたことに留意しなければならない。このような試験片は、通常はまたは典型的には、本発明の意味の範囲内のミリングブランクでまったくなく、その理由は、それらが、間接的歯科修復物を作製するために適さず、それらが、上で述べられたとおりの好ましい寸法を有しないからである。
本発明による対応して寸法化されたミリングブランクは、インレー、アンレー、部分クラウン、クラウン、ベニヤまたはブリッジの作製における使用に適する。
以下において、本発明によるミリングブランクまたは硬化性混合物の好ましい成分が示され、それらから本発明によるミリングブランクを作製することができる。
【0039】
a)無機フィラー:
本発明によるミリングブランクは、無機フィラーを、ミリングブランクの全質量に基づいて、少なくとも70質量%、好ましくは少なくとも80質量%の量で含有し、したがって、本発明によるミリングブランクを作製するための硬化性混合物は、無機フィラーを、混合物の全組成に基づいて、少なくとも70質量%、好ましくは少なくとも80質量%の量で含有する。無機フィラーは、好ましくは様々なフィラー部分の混合物として使用され;製品特性を最適化するために、無機フィラーは、種々の粒子サイズで配合物に含まれ、ここで、それらは、好ましくは多峰性分布、特に好ましくは二峰性分布を示す。
個別の場合の要件に応じて、緻密なガラス(compact glass)の形態ならびに/または種々のサイズおよび状態(単分散、多分散)の様々なシリカの形態の無機フィラーが、本発明によるミリングブランクおよび対応する予備混合物の成分として好ましい。
【0040】
適当な無機成分の例は、SiO2、ZrO2および/またはTiO2の混合酸化物に基づく非晶質材料、ならびにフィラー、例えば、石英ガラスセラミックまたはガラス粉末、ケイ酸バリウムガラス、フルオロケイ酸バリウムガラス、ケイ酸ストロンチウムガラス、ホウケイ酸ストロンチウムガラス、Li/Alケイ酸塩ガラス、バリウムガラス、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムナトリウム、ケイ酸フルオロアルミニウムガラス、アルミニウムまたはケイ素の酸化物、ゼオライト、アパタイト、ケイ酸ジルコニウム、難溶性金属塩、例えば、硫酸バリウムもまたはフッ化カルシウム、ならびにX線不透過性フィラー、例えば、フッ化イッテルビウムである。
本発明によるミリングブランクは、好ましくはフィラー成分a)の成分としてホウケイ酸アルミニウムバリウムガラスを含む。
樹脂マトリックス(プラスチックマトリックス;ポリマーマトリックス)中への組み込みを改善するために、上述の材料を有機的に表面改質することができ;これは、多くの場合に好ましい。一例として、シランによる無機フィラーの表面処理を挙げることができる。メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランは、カップリング剤として特に適している。
本発明によるミリングブランクは好ましくは、表面処理されたホウケイ酸アルミニウムバリウムガラス、好ましくシラン化されたホウケイ酸アルミニウムバリウムガラス、最も好ましくはメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランで処理されたホウケイ酸アルミニウムバリウムガラスを含有する。
【0041】
好ましくは、そして個別の場合の要件に応じて、種々のシリカが、本発明によるミリングブランクで使用される。
成分a2)に関連して上で述べられたとおりに、本発明によるミリングブランクは、好ましくはナノスケールケイ酸、すなわち、80nm以下の平均粒子サイズを有するケイ酸粒子を含有する。これらのシリカは、好ましくは非凝集または非凝塊である。ナノスケールシリカの生成は、公知の仕方、例えば、火炎加水分解、プラズマ方法、気相凝縮、コロイド技術、沈殿方法、ゾル-ゲル方法などによって行われる。
【0042】
ナノスケールシリカが、非凝集または非凝塊形態である場合、それらは、好ましくは単分散形態であるべきである。これは特に好ましい。本発明によるミリングブランクを作製するためにラジカル硬化性歯科用組成物の樹脂マトリックス(ポリマーマトリックス;プラスチックマトリックス)中へのナノ粒子(80nm以下の平均粒子サイズを有する粒子)の好適な組み込みを可能にするためにナノスケールシリカの表面は、好ましくは有機的に表面処理され、すなわち、それらの表面は、有機構造要素を示す。一例として、シランによるフィラーの表面処理を再度挙げることができる。メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランは、前記ナノ粒子のためのカップリング剤としても特によく適している。
本発明によるミリングブランクは特に好ましくは、80nm以下の平均粒子サイズを有する表面処理されたナノスケール非凝集および非凝塊シリカ粒子、好ましくはシラン化された80nm以下の平均粒子サイズを有するナノスケール非凝集または非凝塊粒子、最も好ましくはメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランで処理された80nm以下の平均粒子サイズを有するナノスケール非凝集および非凝塊シリカ粒子を含有する。
【0043】
好ましくは本発明によるミリングブランクを作製する際に使用され得る市販のナノスケール非凝集および非凝塊シリカゾルには、「NALCO COLLOIDAL SILICAS」(Nalco Chemical Co.)、「Ludox コロイドシリカ」(Grace)または「Highlink OG」(Clariant)と市場で呼ばれているものが含まれる。
本発明によるミリングブランクのフィラー部分は、a2)80nm以下の平均粒子サイズを有する非凝集および非凝塊シリカと、0.4μm~5μmの範囲の平均粒子サイズを有するミクロ粒子の形態の第2のフィラーとの混合物を含有する。この第2のフィラーは、好ましくは成分a1)と上で定義された本発明によるミリングブランクのガラス組成物である。ナノ粒子、すなわち、80nm以下の平均粒子サイズを有する非凝集および非凝塊シリカと、ミクロ粒子(好ましくはガラス組成物のミクロ粒子、上記a1)参照)とを組み合わせることによって、本発明によるミリングブランクの特に完全で均一な体積充填が達成される。
【0044】
本発明による対応するミリングブランクの範囲内で、ミクロ粒子は、体積の非常に均一な充填を生じさせ、ここで、ミクロ粒子間の残りの空き空間は、上記ナノ粒子(成分a2)で少なくとも部分的に充填される。本発明の文脈において、用語ナノ粒子は、400nm~5μmの平均粒子サイズを有する粒子を意味すると理解される。ミクロ粒子としてのガラス組成物の使用が好ましい。
ミクロ粒子(好ましくはガラス組成物a1)のミクロ粒子)が本発明による好ましいミリングブランクの無機フィラーa)に含まれる場合、これらのミクロ粒子は、好ましくは二峰性粒子サイズ分布を示す。二峰性粒子サイズ分布を有するミクロ粒子は、単峰性粒子サイズ分布を有するミクロ粒子の使用におけるよりも、より完全な体積充填がこれらの粒子で達成され得るので、好ましい。二峰性粒子サイズ分布の場合に、より大きな粒子サイズを有する部分の粒子は、体積の粗い充填をもたらす一方で、より小さい粒子サイズを有する部分の粒子は、可能な程度まで、より大きな粒子サイズを有する部分の粒子間の空間を充填する。次いで、いずれの残りの空き空間も、上に記載されたとおりのナノ粒子により充填される。
【0045】
2種のミクロ粒子部分の混合物の使用が好ましく、ここで、第1のミクロ粒子部分は、0.4~1.0μmの範囲、好ましくは0.5~0.9μmの範囲のD50値を有する。これは、好ましくは第1のガラス組成物a1a)である(好ましい構成については上記参照)。第2のミクロ粒子部分は、1.2μm~5.0μmの範囲、好ましくは1.5μm~4.0μmの範囲のD50値を有する。これは、好ましくは上で定義されたとおりの第2のガラス組成物a1b)である(好ましい構成については上記参照)。
【0046】
このような第1のミクロ粒子部分の全質量と、このような第2のミクロ粒子部分の全質量との比は好ましくは、1:1.5~1:8の範囲、好ましくは1:2~1:5の範囲である。これは、特に第1のミクロ粒子部分が第1のガラス組成物a1a)であり、第2のミクロ粒子部分が第2のガラス組成物a1b)である場合に適用される。
b)樹脂マトリックス(プラスチックマトリックス、ポリマーマトリックス)およびこのような樹脂マトリックスを生成させるためのモノマー:
間接的歯科修復物を作製するための本発明によるミリングブランクは、樹脂または樹脂ベースコンポジットから構成される。硬化樹脂または樹脂マトリックス(樹脂ベースコンポジットの樹脂成分を構成する、プラスチックマトリックス;ポリマーマトリックス)を作製するために、ラジカル重合性モノマーが、成分a)の無機フィラーおよび任意選択で、さらなる成分を追加的に含有するラジカル硬化性組成物の成分として使用される。本発明によるミリングブランク中のラジカル重合性モノマーのポリマーの割合は、無機フィラーが好ましくは少なくとも70質量%の量で存在するので(上記参照)、好ましくは30質量%以下である。同じことがラジカル硬化性組成物に適用され、ここで、ラジカル重合性モノマーは、フィラーに加えて使用される。
【0047】
ラジカル重合性モノマーは、好ましくはコンポジット材料における歯科化学で一般的に使用される(メタ)アクリレートモノマーである。この場合、対応するポリマーは、対応するポリ(メタ)アクリレートを含む。
多数の化合物が特許文献(例えば、文書独国特許出願公開第3941629号)で挙げられており、これらのすべては、アクリル酸またはメタクリル酸のジエステルであり、本発明によるミリングブランクに含まれるような樹脂または樹脂ベースコンポジットの樹脂マトリックスを生成させるために適する。
【0048】
本発明によるミリングブランクの好ましい実施形態において、ミリングブランクは、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(DEDMA)、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート(DODMA)、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(ここで、ビスフェノールは、2~4molのエチレンオキシドと反応され、次いで、その中間体生成物は、2molのメタクリル酸で飽和される)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、7,7,9-トリメチル-4,13-ジオキソ-3,14-ジオキサ-5,12-ジアザヘキサデカン-1,16-ジオキシジメタクリレート(UDMA)、ブタンジオールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートおよびビスフェノールA-グリシジル-メタクリレート(ビス-GMA)から構成される群から選択される1種または複数のモノマーの重合によって生成される樹脂マトリックスを含む。
【0049】
具体的には、好ましいものは、文書DE1816823、DE2419887、DE2406557、DE2931926、DE3522005、DE3522006、DE3703120、DE102005021332、DE102005053775、DE1020060609983、DE69935794およびDE102007034457に記載されたとおりの、ジヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンの対応するジメタクリレートまたはジアクリレートである。
【0050】
c)開始剤:
本発明による好ましいミリングブランクは、対応する組成物の放射線硬化(光化学による)および/または化学硬化(レドックス反応)および/または熱硬化によって作製することができ、ここで、組成物は、作製されるミリングブランクおよび/もしくは使用される組成物の全質量に基づいて、成分a)として無機フィラーを少なくとも70質量%、好ましくは少なくとも80質量%の量で含有するか、または樹脂から構成されるミリングブランクを作製するためのフィラー不含組成物である。ミリングブランクを作製するための本発明による好ましいものは、対応する組成物の熱硬化であり、ここで、熱硬化は、例えば、過酸化物分解によって行われる。
適当な光増感剤の例は、α-ジケトン、ベンゾインアルキルエーテル、チオキサトン、ベンゾフェノン、アシルホスフィンオキシド、アシルゲルマニウム化合物、アセトフェノン、ケタール、チタノセン、増感色素などである。増感剤は、単独または組み合わせで使用されてもよい。これらの様々なクラスの物質の具体例は、例えばDE10206019092A1またはDE3941629C2に見られる。
【0051】
増感剤と一緒に使用される促進剤の例は、第3級アミン、第2級アミン、バルビツール酸、スズ化合物、アルデヒドおよび硫黄化合物である。これらの様々なクラスの物質の具体例は、DE102006019092A1またはDE3941629C2に見られる。
さらなる適当な開始剤および開始剤の組み合わせは、DE60116142に記載されている。
適当な光開始剤は、それらが、ラジカル硬化性歯科用組成物の硬化を誘発し得る1種または複数の共開始剤と任意選択で組み合わせて、300nm~700nm、好ましくは350nm~600nm、特に好ましくは380nm~500nmの波長範囲で光を吸収することによってラジカル硬化性歯科用組成物の硬化を生じさせ得ることで特徴付けられる。
カンファーキノン(CQ)の吸収最大は、およそ470nmであり、したがって、青色の範囲である。カンファーキノン(CQ)は、PI2開始剤の1つであり、一般に共開始剤と組み合わせて使用される。
適当な触媒系は、α-ジケトンおよび芳香族第3級アミンの組み合わせであり、カンファーキノン(CQ)およびエチル-p-N,N-ジメチルアミノベンゾエート(DABE)との組み合わせが好ましい。
【0052】
また好ましいものは、「α-ジケトン/芳香族第3級アミン」とホスフィンオキシド、特にフェニル-ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドおよび/または2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドの系のさらなる組み合わせである。適当なホスフィンオキシドの構造に関しては、文書DE3801511C2、DE102006050153A1、欧州特許第0184095号、DE4231579C2、欧州特許第0366977号、米国特許第7,081,485号、DE3236026A1、米国特許出願公開第2007/0027229号、欧州特許第0262629号、欧州特許第0073413号、米国特許第7,148,382号、米国特許第5,761,169号、DE19708294A1、欧州特許第0057474号、欧州特許出願公開第0047902号、欧州特許第0007508号、DE60029481T2、欧州特許第0980682号、欧州特許第0948955号、欧州特許第1236459号および欧州特許出願公開第0173567号に言及される。
これらの文書で述べられたホスフィンオキシドは、特に単独または光重合開始剤系としての系「α-ジケトン/アミン」と組み合わせて適当である。
【0053】
さらなる適当な光開始剤は、J.-P.Fouassier, Photoinitiation, Photopolymerization and Photocuring, Hanser Publishers, Munich, Vienna, New York 1995およびJ.F.Rabek(Eds.), Radiation Curing in Polymer Science and Technology, Vol.II, Elsevier Applied Science, London, New York 1993に記載されている。
化学硬化のための様々な開始剤は、当業者に公知である。この文脈で、例として欧州特許第1720506号に言及される。化学硬化のための開始剤は、上述の文書DE102006019092A1およびDE39411629にも記載されている。
【0054】
化学硬化のための好ましい開始剤は、過酸化ベンゾイルおよび過酸化ジラウロイル、特にアミン、例えば、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジンおよび構造的に関連したアミンと組み合わせた過酸化ジベンゾイルである。
デュアル硬化系は、光開始剤と化学硬化のための開始剤との組み合わせを含む。
酸化活性有機過酸化物化合物に加えて、バルビツール酸またはバルビツール酸誘導体、およびマロニルスルファミドも、レドックス系として使用され得る。
これらのバルビツール酸系の中で、いわゆる「ブレデレック系」は非常に重要である。適当な「ブレデレック系」の例および関連特許文献への言及は、欧州特許第1839640号、およびDE1495520号、国際公開第02/092021号または国際公開第02/092023号に見出すことができる。
【0055】
バルビツール酸の代わりに、その塩も使用され得る。その例は、以下の文書:欧州特許第1872767号、欧州特許第2070506号、欧州特許第1881010号、DE102007050763号、米国特許第6,288,138号、DE112006001049号、米国特許第7,214,726号および欧州特許第2070935号に見出される。
適当なマロニルスルファミドは、欧州特許第0059451号に記載されている。この関連で好ましい化合物は、2,6-ジメチル-4-イソブチルマロニルスルファミド、2,6-ジイソブチル-4-プロピルマロニルスルファミド、2,6-ジブチル-4-プロピルマロニルスルファミド、2,6-ジメチル-4-エチルマロニルスルファミドおよび2,6-ジオクチル-4-イソブチルマロニルスルファミドである。
【0056】
さらに、+2または+4の酸化状態を有する硫黄化合物、例えば、ベンゼンスルフィン酸ナトリウムまたはp-トルエンスルフィン酸ナトリウムが使用され得る。
硬化を促進するために、重金属、例えば、Ce、Fe、Cu、Mn、Co、SnまたはZnの化合物の存在下で重合を行うことができ、ここで、銅化合物が特に好ましい。重金属化合物は、好ましくは可溶性有機化合物の形態で使用される。この関連で、好ましい銅化合物は、安息香酸銅、酢酸銅、エチルヘキサン酸銅、ジ(メタクリル酸)銅、アセチルアセトン酸銅およびナフテン酸銅である。
【0057】
過酸化物が加熱されるときに、それらは分解し、フリーラジカルを形成し、これは、重合を開始することができる。熱重合のための最も普及した系は、過酸化ジベンゾイルの使用である。さらなる熱開始剤は、ケトン過酸化物、ペルオキシケタール、ヒドロペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステルおよびペルオキシジカーボネート、例えば、ジクミルペルオキシド、過酸化クロロベンゾイル、過安息香酸tert-ブチル、過酸化ジラウロイル、クメンヒドロペルオキシド、3,5,5-トリメチルヘイサン酸-tert-ブチルペルオキシエステル、およびアゾ化合物、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス-1-シクロヘキサンカルボニトリルまたはジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレートである。ナトリウムまたはカリウムの加硫酸塩などの物質も、熱的に分解し、この関連で適当な化合物である。これらの物質は、個別にまたは互いとの混合物で使用され得る。この目的のために、ラジカル硬化性歯科用組成物は、製造者によって示されるそれぞれの過酸化物の分解温度に加熱されることが必要なだけである。ラジカル硬化性組成物は、有利には分解温度を超える温度に加熱され、ポリマーが緩和に必要な時間を有するようにある時間前記温度で維持される。当業者は、ポリマーがその重要な測定パラメーター、例えば、曲げ強度、Eモジュラスおよび水収着率でなんらの実質的な改善をもはや示さない点まで硬化のための温度を連続的に増加させることによって最適温度を決定する。
【0058】
好ましくは、熱硬化は、ラジカル硬化性組成物がブロック金型中に移され、その中で80℃~150℃の温度および100~300barの圧力で硬化されるように行われる。
d)添加剤
多くの場合、本発明によるミリングブランクは、1種または複数のさらなる添加剤を含む。
これらの添加剤は、様々な機能を有し得る。歯科用材料に使用される一般的な添加剤は、当業者に公知であり、当業者は望まれる機能に応じて適当な添加剤を選択する。以下において、典型的な添加剤およびそれらの機能が例として記載される。
例えば、それらの共役二重結合系および芳香族環のためにUV線を吸収することができる、UV吸収剤は、多くの場合、本発明によるミリングブランクの成分である。UV吸収剤の例は、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、サリチル酸フェニルエステル、3-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールおよびジエチル-2,5-ジヒドロキシテレフタレートである。ポリマーは、色安定性を確保するためにこれらの添加剤を含有する。
【0059】
間接的歯科修復物の目的は、可能な限り自然に近いように歯を修復することであるので、様々な色調の本発明によるミリングブランクを提供することが必要である。この目的のために、原則として、本発明によるミリングブランクは、好ましくは上述の目的に対しては十分であるが、最小である量で、無機および/または有機顔料を含有する。
さらなる任意選択の添加剤は、歯科用医薬品および殺微生物剤、好ましくは殺細菌剤または蛍光剤であり、これらは、歯の自然な外観を模擬するためにも使用される。
本発明によるミリングブランクは、並外れて高い量の水を含有し、これは通常、対応するプレコンディショニングによってミリングブランク中に組み込まれる。本発明によるミリングブランクの保存において、水のこの量は、好ましくは有意に低下すべきでなく、ミリングブランクが望ましくない仕方で水を失うことを防止する手段を取ることが好ましい。したがって、水と接触状態での保存、および例えば、モノマーの浸潤および硬化による、本発明によるミリングブランクの表面シーリングから、ミリングブランクの耐水外箱に及ぶ、当業者に利用可能ないくつかの手段がある。
【0060】
好ましいものは、耐水方式でシーリングされ、または密閉される、好ましくは耐水容器、好ましくはブリスター、ならびに/または耐水ラッカーおよび/もしくは耐水ワックスシースにより耐水方式で密閉される、本発明によるミリングブランク(上で定義されたとおりの、好ましくは好ましいまたは特に好ましいと上で言及されたとおりの)である。
本文において、用語「耐水の」は、30%の相対湿度を有して25℃の保存温度および1013hPaの周囲圧力で「耐水」方式でシーリングされ、または密閉される本発明によるミリングブランクが、少なくとも25%の水収着率Wspの量でなお水を含有する、すなわち、1年間保存後でさえも、本発明になお従っていることを意味する。
【0061】
本発明による好ましいミリングブランク(対応して高い含水量を有する)は、好ましくはさらに、示された保存条件下で1年後でさえも、少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、特に好ましくは少なくとも90%の水収着率Wspの量で水をなお含有するような程度に耐水方式でシーリングし、または密閉することができる。
本発明はまた、間接的歯科修復物としての使用のための成形部品、好ましくはインレー、アンレー、部分クラウン、クラウン、ベニヤおよびブリッジから構成される群から選択される成形部品を作製するための、本発明によるミリングブランクの使用に関する。上で検討されたとおりに、成形部品は、好ましくは本発明によるミリングブランクからミリングすることによって作製される。
【0062】
本発明はまた、以下のステップ:
(i)25%未満、好ましくは15%未満、特に好ましくは10%未満の水収着率Wspの量で水を含有するミリングブランクを作製または準備するステップと、
(ii)ステップ(i)で準備または作製されるミリングブランクが、水を収着する条件を調整し、ミリングブランクが少なくとも25%の水収着率Wspの量で水を含有するまでこれらの条件を維持し、好ましくは作製されたミリングブランクを耐水シーリングし、または密閉するステップと
を含む、本発明によるミリングブランクを作製するための方法、または間接的歯科修復物としての使用のためのそれから作製される成形部品に関する。
間接的歯科修復物としての使用のための本発明による成形部品を作製する方法は、好ましくは以下の追加のステップ:
(iii)好ましくはCAD/CAMミリング装置によって、ステップ(ii)で作製されたミリングブランクから成形部品をミリングし、好ましくは成形部品を磨き仕上げするステップ
を含む。
【0063】
本発明によるミリングブランクを作製するための方法は、好ましくは、ミリングブランクが耐水方式で、シーリングされ、または密閉される、好ましくは耐水容器、好ましくは耐水ブリスター、ならびに/または耐水ラッカーおよび/もしくは耐水ワックスシースによって耐水方式で密閉される追加のステップを含む。上記の用語「耐水性の」の説明および対応する好ましい構成は、対応して適用される。
間接的歯科修復物、例えば、クラウンが、本発明によるミリングブランクからCAD/CAM方法によってミリングされ、歯の残根が調製された後、歯科医は、通常は調製された間接的歯科修復物、例えば、クラウンの内側面をサンドブラスティングによって粗くし、次いで、それを清浄にし、プライマー処理する。次いで、ボンディングがコアに適用され、硬化され、ボンディングセメントが間接的歯科修復物に最終的に適用され(例えば、クラウン中に充填され)、次いで、間接的歯科修復物は、歯の残根にボンディングされる(例えば、クラウンは、歯の残根の上に置かれる)。
本発明はまた、間接的歯科修復物としての使用のための歯科用成形部品を作製するために、ミリング前のミリングブランクの膨潤度を調整するための、水収着方法の使用に関する。
【0064】
ミリング前に水収着によってミリングブランクを特定の膨潤度(およびさらなる膨潤のための対応する容量)を選択的に調整し、このようにして、間接的歯科修復物として特に好適に使用され得る対応する歯科用成形部品へのミリングを行う方法は、従来技術からは知られていない。このような方法が、有利には得られた歯科用成形部品に特に高い保持度を与えることは従来技術から知られていない。本発明による使用の好ましい構成に関して、上記説明のすべてに言及され、これらは変更すべきことは変更して適用される。
【0065】
本発明はまた、
- 異なる色の2種以上のミリングブランク
および
- 好ましくはプライマー、接着剤およびボンディングセメントから構成される群から選択される、ミリングブランクの1つからミリングされた成形部品を口腔内の歯対象にボンディングするための1種または複数の歯科用組成物、
ならびに好ましくは
- さらなる付属品、例えば、歯ブラシ、磨き仕上げ剤および混合チップ
を含む、間接的歯科修復物を作製するためのキットに関する。
【0066】
本発明はまた、以下のステップ:
i)好ましくは本発明によって(上でおよび特許請求の範囲に定義されたとおりに、より特には上で好ましいと言及されたとおりに)、25%未満、好ましくは15%未満、特に好ましくは10%未満の水収着率Wspの量で水を含有するミリングブランクを作製または準備するステップと、
ii)ステップ(i)で準備または作製されたミリングブランクが水を収着する条件を調整し、ミリングブランクが、少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、特に好ましくは少なくとも90%の水収着率Wspの量で水を含有するまでこれらの条件を維持し、任意選択で、作製された(好ましくは本発明によって)ミリングブランクを耐水シーリングし、または密閉するステップであって、
条件は、好ましくは、ミリングブランクの水収着率Wspと含水量との差が、10μg/mm3未満、好ましくは8μg/mm3未満、好ましくは4μg/mm3未満になるまで維持される、ステップと、
iii)ステップ(ii)で作製されたミリングブランクから間接的歯科修復物としての使用のための成形部品をミリングし、任意選択で、成形部品を磨き仕上げするステップであって、
ミリングは、修復物の3次元幾何学的データに基づいてCAD/CAMミリング装置によって行われる、ステップと、
iv)ステップ(iii)で作製された成形部品を口腔内の歯対象にボンディングするステップと
を含む、間接的歯科修復のための治療方法または美容方法に関する。
【0067】
【実施例】
【0068】
略語:
Bis-EMA2,6:平均2.6のエチレンオキシド単位を有するエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート
Bis-EMA4:平均4のエチレンオキシド単位を有するエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート
Bis-EMA6:平均6のエチレンオキシド単位を有するエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート
Bis-EMA10:平均10のエチレンオキシド単位を有するエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート
TCDDMA:ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン
UDMA:7,7,9-トリメチル-4,13-ジオキソ-3,14-ジオキサ-5,12-ジアザヘキサデカン-1,16-ジオキシジメタクリレート
TEGDMA:トリメチレングリコールメタクリレート
HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート
DOMA:1,12-ドデカンジオールジメタクリレート
デンタルガラス1:ホウケイ酸アルミニウムバリウムガラス(D50 0.8μm/D25 0.5μm/D75 1.0μm)、シラン化
デンタルガラス2:ホウケイ酸アルミニウムバリウムガラス(D50 2.7μm/D25 1.4μm/D75 6.1μm)、シラン化
デンタルガラス3:ホウケイ酸アルミニウムバリウムガラス(D50 1.1μm/D25 0.7μm/D75 1.4μm)、シラン化
デンタルガラス4:ホウケイ酸アルミニウムバリウムガラス(D50 1.4μm/D25 1.1μm/D75 2.1μm)、シラン化
デンタルガラス5:ホウケイ酸アルミニウムバリウムガラス(D50 1.4μm/D25 0.8μm/D75 2.9μm)、シラン化
Nano-SiO2:非凝塊、非凝集シリカ(D50 40nm)、シラン化
BPO:過酸化ジベンゾイル
【0069】
コンポジットペーストの作製:
個別の成分を表2~表14に示される割合で秤量し、実験室ニーダ(PC Laboratory System、magden CH)で50rpmで30分間ホモジナイズし、次いで、実験室ニーダで50rpmおよび-0.85barで15分間脱気した。
コンポジットブロックの作製:
コンポジットブロックの作製のために、個別のペーストを金型(15mm×15mm×20mm)に注ぎ入れた。硬化を、以下の温度プログラム(20℃-2℃/分-120℃(30分)-5℃/分-20℃)を用いて250barで平衡に行った。
2軸曲げ強度(BFS):2軸曲げ強度は、DIN EN ISO 6872:2009(7.3.3)に類似的に決定した。このために、最初に5軸ミリング機械(250i、imes-icore GmbH)でコンポジットブロックから直径14mmの円柱をミリングした。高速ソー(IsoMet 4000、Buehler)を使用して、次いで、これらの円柱から厚さ1.2mmのプレートを作製し、バリ取りし、研磨し、磨き仕上げした。試料に、1mm/分の横方向速度で破損まで荷重をかけ、7.3.3.4の下で示される式に従って2軸曲げ強度を計算した。0.25の値をポアソン比として使用した。
【0070】
3点曲げ強度(3PFS):曲げ強度は、スパン距離12mmおよび接触ロール直径2mmでDIN EN ISO 6872:2009(7.3.2)に類似的に決定した。このために、幅4mm、厚さ1.2mmおよび長さ18mmの試料片を、高速ソー(IsoMet 4000、Buehler)を使用してコンポジットブロックから作製し、バリ取りし、研磨し、磨き仕上げした。試料に、1mm/分の横方向速度で破損まで荷重をかけ、7.3.2.4.1の下で示される式に従って3点曲げ強度を計算した。
弾性モジュラス(E):弾性モジュラスは、線形弾性範囲での3点曲げ強度測定(上記参照)の応力-歪み曲線の勾配としてADA 規格No.27-1993(7.8.4.2)の計算に類似的に決定した。
【0071】
【数2】
L:スパン距離
b:試料幅
h:試料厚さ
Δd: 線形弾性範囲における変形
ΔF:変形Δdに対する力の変化
【0072】
水収着率(Wsp):水収着率は、EN ISO 4049:2009(D)(7.12)に類似的に決定し;次いで、決定方法を組み合わせ、EN ISO 4049:2009(D)に従う方法からの偏差(特に試料幾何形状に関しての)を示した。
【0073】
作製されたコンポジットブロックから、長さ14.7mm、幅14.7mmおよび厚さ0.5mmの試料片を、高速ソー(IsoMet 4000、Bruder)を用いて作製し、バリ取りし、研磨し、磨き仕上げした。試料片(7.12.3.1に類似的)をデシケータ中37℃で恒量まで乾燥させ、質量(m1)を0.01mgまで精密に決定し、(7.12.3.2に類似的)長さ、幅および厚さを0.01mmまで精密に決定し、体積(V)(mm3単位)をこれから決定した。この後、試験片(7.12.3.3に類似的)を、水中37℃で7日間保存した。7日後、試験片を取り出し、水ですすぎ洗いし、水気を取り、空気中15秒間前後に動かし、水からの取り出し1分後に0.1mgまで精密に秤量した(m2)。この秤量(7.12.3.4に類似的)後、試験片をデシケータ中37℃で恒量まで乾燥させ、質量(m3)を0.1mgまで決定した。水収着率は、7.12.4.1の下で示される等式(2)に従って計算した。
【0074】
コンポジットブロックの水処理/コンディショニングおよびコンディショニング度の決定:作製したコンポジットブロックをデシケータ中37℃で恒量まで乾燥させ、このように乾燥させたコンポジットブロックの質量(m0)を0.1mgまで精密に決定し、長さ、幅および厚さを0.01mmまで精密に決定し;体積V(mm3単位)をこれから決定した。この後、コンポジットブロックを水中60℃で1週間保存した。1週間後、コンポジットブロックを取り出し、水ですすぎ洗いし、水気を取り、空気中で15秒間前後に動かし、水からの取り出し1分後に0.1mgまで精密に秤量した(m1週間)。次いで、コンポジットブロックを再度水中60℃で保存した。1週間間隔で、コンポジットブロックを再度取り出し、水ですすぎ洗いし、水気を取り、空気中で15秒間前後に動かし、水からの取り出し1分後に0.1mgまで精密に秤量した(m2週間、m3週間など)。コンディショニング度は、以下の式に従って同じ組成の0.5mm厚プレートで決定した収着率(Wsp)との関連でそれぞれの時間について決定した。
【0075】
【数3】
同様に、コンディショニング度は、37℃の保存温度でも決定した。(注記:それらの寸法のために、コンポジットブロックは、水収着率の決定に使用した0.5mm厚プレートよりもゆっくりと、それらの完全な水飽和度に到達する。)
線形膨潤(LS):5軸ミリング機械(250i、imes-icore GmbH)で、試料片として理想化クラウンをコンポジットブロックから作製した。これらの理想化クラウンは、一方の側で閉じられた中空円柱である(
図2参照)。
【0076】
高さは11mm、外径は12mmおよび内径は9mmである。これは、厚さ1.5mmの壁に相当する。カバープレートの厚さは2mmである。この後、理想化クラウンをバリ取りし、研磨し、磨き仕上げした。得られた試料片をデシケータ中37℃で恒量まで乾燥させ、互いに直交する2つの場所で円柱底面における乾燥試料片の内径を、0.001mmまで精密に決定した(L1およびL2)。この後、試験片を水中37℃で7日間(1週間)保存した。7日後、試験片を取り出し、水ですすぎ洗いし、水気を取り、空気中で15秒間前後に動かし;水からの取り出し1分後に、前と同じ2つの場所で円柱底面における内径を0.001mmまで精密に決定した(L3およびL4)。測定後、試験片を水中37℃でさらに7日間(1週間)保存した(合計:2週間)。この後、試験片を取り出し、上に記載したとおりに乾燥させ、同じ場所での内径を再度0.001mmまで精密に決定した(L5およびL6)。測定後、試験片を水中37℃でさらに14日間(2週間)保存した(合計:4週間)。次いで、試験片を取り出し、上に記載したとおりに乾燥させ、同じ場所での内径を再度0.001mmまで精密に決定した(L7およびL8)。測定後、試験片を水中37℃でさらに28日間(4週間)保存した(合計:8週間)。次いで、試験片を取り出し、上に記載されたとおりに乾燥させ、同じ場所での内径を再度0.001mmまで精密に決定した(L9およびL10)。それぞれの測定時間での線形膨潤(%単位)は、以下の式に従って決定することができる。
【0077】
【数4】
強熱残分:強熱残分を決定するために、坩堝を150℃に10時間加熱し、デシケータ中室温に冷却させ、次いで、0.1mgまで精密に秤量した(m
1)。およそ1gのそれぞれのコンポジットブロックを破砕し、摩砕し、坩堝中0.1mgまで精密に秤量した(m
2)。加熱は、マッフル炉で575℃に3時間行い、次いで、坩堝をデシケータ中室温に冷却させ、次いで、質量(残分と一緒の坩堝)を0.1mgまで精密に決定した(m
3)。強熱残分は、以下の式に従って計算した。
【0078】
【数5】
接着力:二酸化ジルコニウムアバットメントを理想化円錐として作製した。二酸化ジルコニウムアバットメントは、両端面で直径10.0mm、5°の角度および15mmの高さを有する円錐台として構成した。5軸ミリング機械(250i、imes-icore GmbH)で、試料片としてキャップの形状でコンポジットブロックから理想化クラウンを作製した(コンディショニング度については以下参照)。クラウンの内面は、二酸化ジルコニウムアバットメントの外面に一致し、70μmの隙間(ボンディング剤の収着のための)を計算に含めた。したがって、端面での内径は、10.14mmであった。角度は対応してやはり5°であり、内側高さは6.55mmであった。全体の壁厚さは1.5mmであった。同じ寸法を有するセラミッククラウン(IPS e.maxCAD、Ivoclar Vivadent)を比較として作製した。
【0079】
クラウン内側面を二酸化アルミニウム(50μm)でサンドブラストした(1.5bar)。この後、ボンディング剤(Ceramic Bond、VOCO GmbH)を、二酸化ジルコニウムアバットメントおよびクラウン内側面に塗布し、60秒間乾燥させた。次いで、クラウンを、コンポジットベースボンディング系(Bifix QM、VOCO GmbH)を使用してアバットメントにボンディングした。硬化を37℃で24時間行った。次いで、以下の4群において1mm/分の試験速度で万能試験機で接着力試験をプルオフ試験として行った。
a)クラウンを未コンディショニングブロックから作製し、接着力試験を硬化後直ちに行った。
b)クラウンを未コンディショニングブロックから作製し、接着力試験を、硬化および水中37℃で8週間保存後に行った。
c)クラウンをコンディショニングブロック(少なくとも90%のコンディショニング度が1週間1回の試験で到達されるまで水中60℃で保存)から作製し、接着力試験を硬化後直ちに行った。
d)クラウンをコンディショニングブロック(少なくとも90%のコンディショニング度が1週間1回の試験で到達されるまで水中60℃で保存)から作製し、接着力試験を、硬化および水中37℃で8週間保存後に行った。
【0080】
粒子サイズ決定:
Nano-SiO2ナノ粒子の粒子サイズ決定は、2-ブタノン中0.5質量%でZetasizer Nano ZS(Malvern)を用いて動的光散乱(DLS)によって行った(体積重み付け)。
ミクロ粒子(デンタルガラス)の粒子サイズ決定は、Beckmann Coulter LS 13320を使用してレーザー回折によって行った。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【表15】
以下において、記載したとおりの例1に従うコンポジットブロックのコンディショニング度は、37℃および60℃で時間に依存して決定した。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
補足試験:
例1、例25および例26に従う試験に基づいて、コンディショニング度に関する選択パラメーターの特定の測定結果の依存性を決定するために補足試験を行った。さらなる試験の結果は、以下の表19、表20および表21に示す。それらの表は、表3(例1について)または表15(例25または例26について)に既に見られる見出し「未コンディショニング」を有するそれぞれの列および見出し「91%」または「90%」を有するそれぞれの右側の列に値を有する。列「未コンディショニング」に関しては、したがって、「3点曲げ強度」から「接着力(群b)」までの行に関して対応がある。列「91%」または「90%」に関しては、行「接着力(群c)」および「接着力(群d)」に関して対応がある。
表19から表21までのさらなる項目はすべて、補足試験についての結果を示す。
補足試験について、コンポジットブロックは、(少なくとも)25%、50%、75%または90%のそれぞれのコンディショニング度が1週間1回の試験で到達されるまで水中60℃で保存した(コンポジットブロックの水処理/コンディショニングおよびコンディショニング度の決定に関する上記説明を参照のこと)。次いで、調整されたコンディショニング度を有する対応するコンポジットブロックを、それぞれの測定にかけた。
表19から表21までは、3点曲げ強度およびEモジュラスがそれぞれ、コンディショニング度に有意に依存しないことを示す。
【0100】
測定方法に従って、各試料片が最初に恒量まで乾燥され、次いで、水収着率がこの乾燥基準状態に関係するので、水収着率(「Wsp」(EN ISO 4049:2009(D)(7.12))に類似的に決定した)は、コンポジットブロックの実際の含水量またはコンディショニング度と無関係な特性である。この理由のために、表19から表21までの「Wsp」のそれぞれの値は、同じままである(しかし、当然に例1、例25および例26の中で変わる)。
【0101】
表19から表21までは、それぞれ、パラメーター「LS(8週間)」についての測定結果も含む。試験は、プレコンディショニングコンポジットブロック(25%、65%、76%または91%)で行ったことを条件とし、それぞれの(プレコンディショニング)試料片の上記一般的決定方法と対照的に、デシケータ中恒量までの乾燥は行わず、試験片は直接水中で保存した。
【0102】
表19から表21までの結果により、プレコンディショニングコンポジットブロックは、未コンディショニングコンポジットブロックほどもはや線形膨潤しないことが確認される。したがって、膨潤挙動は、プレコンディショニング度に無関係ではないが、プレコンディショニングの増加とともに低下する。
以下は、接着力試験に関して留意されるべきである:
【0103】
群a)と群b)との比較はそれぞれ、未コンディショニングブロックが水中保存後に接着の性質を失うことを示す(例1による組成物は、例25および例26による組成物ほど感受性でない)。すなわち、群a)から群c)への移行に対し、プレコンディショニング(25%、65%、76%または91%のコンディショニング度への)は、達成された接着力値に対する有意な効果を有さず、これは、プレコンディショニングコンポジットブロックが、未コンディショニングコンポジットブロックのものに等しく好適である直接接着力を示すことを意味する。
【0104】
群b)および群d)による未コンディショニングまたはプレコンディショニングブロックが使用され、それらから作製された理想化クラウンが、アバットメントへのボンディング後、水中37℃で8週間保存される場合、未コンディショニングブロックの接着力値は、群a)および群c)と比較して水中保存により急激に減少される(例えば、例1について表19によれば、530N(群a、水保存なし)から411N(群b、水中保存あり))一方で、プレコンディショニングブロックの使用におけるこのような水中保存は、はるかに有害でない。それぞれの場合に、接着特性を最も良く保持するコンポジットブロックは、90または91%のコンディショニング度にプレコンディショニングされたものであり、例1についての表19:526Nの接着力値(クラウンのボンディング後の水中保存なし)、対照的に501Nのなお優れた値(クラウンのボンディング後の水中保存8週間後に決定された)を参照されたい。したがって、表により、プレコンディショニングが、ボンディング後かつ水中保存8週間後の対応するクラウンを、非プレコンディショニングコンポジットブロックからのクラウンよりも対応するアバットメントに相当により良く接着させることが強く印象的に示される。
【0105】
【0106】
【0107】