(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】エレベータの異常状態検出装置、および異常状態検出方法
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20220613BHJP
B66B 7/06 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
B66B5/02 C
B66B5/02 Q
B66B7/06 J
(21)【出願番号】P 2018079497
(22)【出願日】2018-04-18
【審査請求日】2021-04-07
(32)【優先日】2017-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591020353
【氏名又は名称】オーチス エレベータ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Otis Elevator Company
【住所又は居所原語表記】One Carrier Place,Farmington,Connecticut,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】宮島 弘光
(72)【発明者】
【氏名】山田 敦
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/120373(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/117479(WO,A1)
【文献】特開2009-166939(JP,A)
【文献】国際公開第2016/151694(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープ揺れに関するエレベータの異常状態検出装置であって、前記エレベータが、ガバナーシーブ及びテンションシーブの周囲に巻かれたガバナーロープを有する調速機を含み、
それぞれ昇降路内の異なる高さに配置されるとともに、各高さにおける前記ガバナーロープのロープ揺れを監視し、かつ前記ガバナーロープの画像データ及び距離データを含む画像をキャプチャするように構成された複数のTOFカメラと、
前記ガバナーロープのロープ揺れを検出して、エレベータコントローラに異常状態検出信号を送信するように、前記TOFカメラに接続されたロープ揺れ検出器と、
を備え、
前記ロープ揺れ検出器は
、前記ガバナーロープの振動モード、及び
前記複数のTOFカメラの各高さにおける前記ガバナーロープの振幅に基づいて前記ガバナーロープの最大振幅を推定することにより、前記ガバナーロープの異常状態を検出するように構成され、前記ガバナーロープの前記振動モードは、前記TOFカメラの各高さにおける前記ガバナーロープの時系列の振幅変化から計算される、異常状態検出装置。
【請求項2】
前記TOFカメラの各高さにおける前記ガバナーロープの前記振幅変化は、前記TOFカメラの各高さにおける時系列の前記ガバナーロープの実際の位置と通常の位置との間の差に基づき計算される、請求項1に記載の異常状態検出装置。
【請求項3】
前記ガバナーロープの前記実際の位置は、前記ガバナーロープの各TOFカメラに関して横方向のロープ揺れ、及び各TOFカメラと前記ガバナーロープとの間の距離に基づき決定される、請求項2に記載の異常状態検出装置。
【請求項4】
前記ガバナーロープは、前記ガバナーシーブと前記テンションシーブとの間をループ状に第一経路及び第二経路に沿って延在し、前記ガバナーロープは、前記エレベータかごに隣接する前記第二経路において前記エレベータかごへ取り付けられ、前記TOFカメラは、前記エレベータかごに取り付けられていない前記ガバナーロープの前記第一経路に隣接して配置される、請求項1に記載の異常状態検出装置。
【請求項5】
各TOFカメラは、前記第一経路沿いの前記ガバナーロープのロープ揺れを監視する、請求項4に記載の異常状態検出装置。
【請求項6】
前記エレベータコントローラは、前記ガバナーロープの前記最大振幅に基づき前記エレベータかごの動作を制御するように構成される、請求項1に記載の異常状態検出装置。
【請求項7】
前記ロープ揺れ検出器は、前記最大振幅が閾値を超える場合に前記異常状態を検出するように構成される、請求項1に記載の異常状態検出装置。
【請求項8】
前記ロープ揺れ検出器は、前記最大振幅が第一閾値を超える場合に前記エレベータかごを直ちに停止させる信号を前記エレベータコントローラへ送信する、請求項7に記載の異常状態検出装置。
【請求項9】
前記ロープ揺れ検出器は、前記最大振幅が前記第一閾値より小さい第二閾値を超える場合に最寄りの階に前記エレベータかごを停止させる信号を前記エレベータコントローラへ送信する、請求項8に記載の異常状態検出装置。
【請求項10】
前記ロープ揺れ検出器は、前記最大振幅が前記第二閾値より小さい第三閾値を超える場合にエレベータかごの速度を減速させる信号を前記エレベータコントローラへ送信する、請求項9に記載の異常状態検出装置。
【請求項11】
前記ガバナーロープは、前記エレベータかごに取り付けられていない前記ガバナーロープの前記第一経路を収容するように、前記昇降路の前記垂直方向に沿って配置された複数のガバナーロープガードをさらに備える、請求項4に記載の異常状態検出装置。
【請求項12】
ロープ揺れに関するエレベータの異常状態検出方法であって、
昇降路内の異なる高さにそれぞれ配置された複数のTOFカメラを使用してガバナーロープのロープ揺れを監視するステップと、
各TOFカメラによって撮像された、前記ガバナーロープの画像データ及び距離データを含む前記ガバナーロープの画像を、ロープ揺れ検出器へ送信するステップと、
前記ガバナーロープの1つの振動面上での前記TOFカメラの各高さにおける前記ガバナーロープの時系列の振幅変化に基づき前記ガバナーロープの振動モードを計算するステップと、
前記ガバナーロープの前記振動モード、及び
前記TOFカメラの各高さにおける前記ガバナーロープの振幅に基づき前記ガバナーロープの最大振幅を推定するステップと、
前記最大振幅が閾値を超える場合に前記エレベータの異常状態を検出するステップと、
を備える、異常状態検出方法。
【請求項13】
前記ガバナーロープの各TOFカメラに関して横方向のロープ揺れ、及び各TOFカメラと前記ガバナーロープとの間の距離に基づき、前記TOFカメラの各高さにおける前記昇降路の水平面内の前記ガバナーロープの通常の位置に関する前記ガバナーロープの実際の位置を時系列に計算するステップ、
をさらに備える、請求項12に記載の異常状態検出方法。
【請求項14】
前記ガバナーロープの前記実際の位置と、前記通常の位置との間の差に基づき、前記TOFカメラの各高さにおける前記ガバナーロープの振動方向及び振幅を時系列に計算するステップ、
をさらに備える、請求項13に記載の異常状態検出方法。
【請求項15】
前記異常状態を検出するステップは、前記最大振幅が第一閾値を超える場合にエレベータコントローラへ前記エレベータかごを直ちに停止させる信号を送信することをさらに備える、請求項12に記載の異常状態検出方法。
【請求項16】
前記異常状態を検出するステップは、前記最大振幅が前記第一閾値より小さい第二閾値を超える場合に前記エレベータコントローラへ前記最寄りの階に前記エレベータかごを停止させる信号を送信することをさらに備える、請求項15に記載の異常状態検出方法。
【請求項17】
前記異常状態を検出するステップは、前記最大振幅が前記第二閾値より小さい第三閾値を超える場合に前記エレベータコントローラへエレベータかごの速度を減速させる信号を送信することをさらに備える、請求項16に記載の異常状態検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にエレベータシステムの異常状態を検出する装置に関する。特に、本発明は、ロープ揺れに関するエレベータシステムの異常状態検出装置、及びロープ揺れに関するエレベータの異常状態を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高層建物に設置されるエレベータにおいて、建物揺れまたは振動が地震または強風により発生するときに、エレベータロープ及びケーブルは共振して、振動の大きさは増し、それにより、ロープ及びケーブルが昇降路の壁に衝突すること、または昇降路内に設置されるエレベータ機器に捕捉されることを引き起こす。
【0003】
このような場合、ロープ及びケーブルを損傷するだけでなく、エレベータの動作を妨害する場合がある。これらの理由のために、建物揺れに関連する異常を検出するためにさまざまな努力がなされている。
【0004】
たとえば、特許文献1は、昇降路の頂部付近の昇降路の水平面上に設置される少なくとも2台のカメラを使用してロープ揺れの異常を検出するエレベータシステムを開示し、この異常検出は、同一の水平面上の2つの異なる角度からエレベータロープの画像を撮り、エレベータロープの現在の位置と元の位置との間の差を計算することにより実行される。
【0005】
しかしながら、このような構成において、特に、エレベータを超高層建物内に設置するときの事例において、複数のエレベータロープの振動モードを正確に推定することは困難であるだけでなく、昇降路内に数百メートル延在する非常に長いエレベータロープが同時に揺れ、建物揺れにより相互に接触するようになるときに個々のロープの異常状態を正確に検出することは不可能である。
【0006】
特許文献2は、昇降路の垂直方向に関して昇降路の中間部にカメラを設置すること、及びこの垂直方向に関して斜めにロープの画像をキャプチャすることにより、より少ないカメラでエレベータロープの異常を検出する方法を開示する。
【0007】
しかしながら、エレベータを超高層建物に設置する場合、中間部に設置されたカメラから数百メートル離れ得る昇降路の両端へとその全長にわたって複数のエレベータロープの挙動を監視することは不可能である。超高層建物の暗い昇降路内のロープ揺れを検出することは、特に困難である。
【0008】
加えてまた、エレベータロープの張力がエレベータかご内の乗員数により変わる場合に、これらのすべての要因に対処することが可能なエレベータ異常検出システムを構築することは、ロープ揺れ検出装置またはプログラムの複雑化を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-166939号公報
【文献】特開2015-113182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、超高層建物内においてさえ、建物揺れに関する異常状態をさほど複雑でない構造で検出することが可能であり、かつ、ロープまたはケーブルの推定された振幅により正確なエレベータ制御を実行することが可能な、エレベータシステムを提供する必要性が当該技術分野において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様によれば、ロープ揺れに関するエレベータの異常状態検出装置を開示する。エレベータは、ガバナーシーブ及びテンションシーブ周囲に巻かれたガバナーロープを含む調速機を備える。異常状態検出装置は、昇降路内にそれぞれ異なる高さで配置されるとともに、各高さにおけるガバナーロープのロープ揺れを監視し、ガバナーロープの画像をキャプチャするように構成された、複数のTOFカメラを含む。画像は、ガバナーロープの画像データ及び距離データを含む。異常状態検出装置は、ガバナーロープのロープ揺れを検出し、エレベータコントローラに異常状態検出信号を送信するためにTOFカメラに接続されたロープ揺れ検出器をさらに備える。
【0012】
ロープ揺れ検出器は、TOFカメラの各高さにおける、ガバナーロープの振動モード、及びガバナーロープの振幅に基づきガバナーロープの最大振幅を推定することによりガバナーロープの異常状態を検出するように構成され、ガバナーロープの振動モードは、時系列にTOFカメラの各高さでのガバナーロープの振幅変化から計算される。
【0013】
いくつかの実施形態において、TOFカメラの各高さでのガバナーロープの振幅変化は、時系列にTOFカメラの各高さにおけるガバナーロープの実際の位置と、通常の位置との間の差に基づき計算される。
【0014】
いくつかの実施形態において、ガバナーロープの実際の位置は、各TOFカメラに関して横方向のガバナーロープのロープ揺れ、及び各TOFカメラとガバナーロープとの間の距離に基づき計算される。
【0015】
いくつかの実施形態において、ガバナーロープは、ガバナーシーブとテンションシーブとの間をループ状に第一経路及び第二経路に沿って延在する。ガバナーロープは、エレベータかごに隣接する第二経路においてエレベータかごに取り付けられ、TOFカメラは、エレベータかごに取り付けられないガバナーロープの第一経路に隣接して配置される。
【0016】
いくつかの実施形態において、各TOFカメラは、第一経路沿いにガバナーロープのロープ揺れを監視する。
【0017】
いくつかの実施形態において、エレベータコントローラは、ガバナーロープの最大振幅に基づきエレベータかごの動作を制御するように構成される。
【0018】
いくつかの実施形態において、ロープ揺れ検出器は、最大振幅が閾値を超える場合に異常状態を検出するように構成される。
【0019】
いくつかの実施形態において、ロープ揺れ検出器は、最大振幅が第一閾値を超える場合にエレベータかごを直ちに停止させる信号をエレベータコントローラへ送信する。
【0020】
いくつかの実施形態において、ロープ揺れ検出器は、最大振幅が第一閾値より小さい第二閾値を超える場合に最寄りの階にエレベータかごを停止させる信号をエレベータコントローラへ送信する。
【0021】
いくつかの実施形態において、ロープ揺れ検出器は、最大振幅が第二閾値より小さい第三閾値を超える場合にエレベータかごの速度を減速させる信号をエレベータコントローラへ送信する。
【0022】
いくつかの実施形態において、ガバナーロープは、エレベータかごに取り付けられないガバナーロープの第一経路を収容できるように昇降路の垂直方向に沿って配置される複数のガバナーロープガードをさらに備える。
【0023】
本発明の別の態様により、ロープ揺れに関するエレベータの異常状態を検出する方法を開示する。この方法は、昇降路内の異なる高さにそれぞれ配置される複数のTOFカメラを使用してガバナーロープのロープ揺れを監視するステップと、ロープ揺れ検出器に各TOFカメラによって撮像されたガバナーロープの画像を送信するステップであって、ガバナーロープの画像データ及び距離データを含む画像を送信するステップと、時系列にガバナーロープの1つの振動面上でのTOFカメラの各高さにおけるガバナーロープの振幅変化に基づきガバナーロープの振動モードを計算するステップと、TOFカメラの各高さでのガバナーロープの振動モード、及びガバナーロープの振幅に基づきガバナーロープの最大振幅を推定するステップと、最大振幅が閾値を超える場合にエレベータの異常状態を検出するステップとを備える。
【0024】
いくつかの実施形態において、方法は、各TOFカメラに関連する横方向のガバナーロープのロープ揺れ、及び各TOFカメラとガバナーロープとの間の距離に基づき、時系列にTOFカメラの各高さでの昇降路の水平面内のガバナーロープの通常の位置に関するガバナーロープの実際の位置を計算するステップをさらに備える。
【0025】
いくつかの実施形態において、方法は、ガバナーロープの実際の位置と通常の位置との間の差に基づき、時系列にTOFカメラの各高さでのガバナーロープの振動方向及び振幅を計算するステップをさらに備える。
【0026】
いくつかの実施形態において、異常状態を検出することは、最大振幅が第一閾値を超える場合にエレベータコントローラへエレベータかごを直ちに停止させる信号を送信することをさらに備える。
【0027】
いくつかの実施形態において、異常状態を検出することは、最大振幅が第一閾値より小さい第二閾値を超える場合にエレベータコントローラへ最寄りの階にエレベータかごを停止させる信号を送信することをさらに備える。
【0028】
いくつかの実施形態において、異常状態を検出することは、最大振幅が第二閾値より小さい第三閾値を超える場合にエレベータコントローラへエレベータかごの速度を減速させる信号を送信することをさらに備える。
【0029】
本開示のこれらの、及び他の態様は、以下の説明、及び以下のように簡潔に記述されることが可能である、添付の図面からより容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】
図1に示されるエレベータシステムの昇降路の部分概略平面図である。
【
図3】本発明による、異常状態検出装置の1つの可能な配置を示す図である。
【
図4】昇降路に沿って配置されたガバナーロープの、建物揺れの大きさに応じた振動を示す図である。
【
図5A】ある瞬間にTOFカメラにより取得されたガバナーロープの画像を示す図である。
【
図5B】昇降路の水平面内のベース位置に対する
図5Aのガバナーロープの実際の位置を示す図である。
【
図6】本発明による、TOFカメラの実時間画像に基づきエレベータシステムを制御する流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、本発明の実施形態に従う、エレベータシステム1の概略図を示す。
図2は、
図1内のAにより示される昇降路の平面図(水平面)を示す。エレベータシステム1は、昇降路内で上方向及び下方向に垂直に移動するように構成されるエレベータかご2を含む。またエレベータシステム1は、複数のシーブ4を介してエレベータかご2に動作可能に接続される釣合いおもり3を含む。釣合いおもり3は、エレベータかご2の動きに対して一般的に逆方向に移動する。さらに、
図1に示されるように、エレベータかご2及び釣合いおもり3の下側で、エレベータかご2及び釣合いおもり3は、コンペンセーションシーブ4’周囲に巻かれるとともに、複数のメインロープ6の重量を相殺するために使用される、昇降路の底部から延在する複数の釣合いロープ5により相互に接続される。
【0032】
さらに、エレベータかご2の速度を制限する調速機7は、昇降路内に設置される。
図1に示されるように、調速機7は、昇降路の頂部の機械室内に一般的に設置されるガバナーシーブ8、昇降路の底部に設置されるテンションシーブ9、ならびにガバナーシーブ8及びテンションシーブ9の周囲に巻かれるガバナーロープ10を含む。ガバナーロープ10は、ガバナーシーブ8とテンションシーブ9との間をループ状に第一経路10a及び第二経路10bに沿って延在する。ガバナーロープ10は、エレベータかご2に隣接する第二経路10bで安全装置11を介してエレベータかご2へ取り付けられる。
【0033】
図1に示されるように、調速機7は、エレベータかご2に取り付けられていないガバナーロープの第一経路10aを収容し、それにより地震または強風による建物揺れによって引き起こされるガバナーロープ10aの揺れを制限するように、昇降路の垂直方向に沿って(すなわち、エレベータかご2の移動方向に沿って)配置された複数のガバナーロープガード12をさらに備える。シーブ4、4’、及びガバナーロープガード12の構成、配置及び/または数が本発明の実施形態に限定されず、したがって、さまざまな構成、配置及び数の構成要素が使用されてもよいことを理解されたい。
【0034】
つぎに、本発明に従うTime-of-Flight(TOF)カメラを含むロープ揺れ検出器の配置が、
図1及び
図2を参照して記述される。
図1に示されるように、本発明の1つの実施形態に従うロープ揺れ検出器13は、ロープ揺れ検出器(RSD,rope sway detector)コントローラ14、及び昇降路内の異なる高さにそれぞれ配置された1台より多いTOFカメラ15を含む。たとえば、3台のTOFカメラ15は、昇降路内のガバナーシーブ8から第一経路10aの長さの四分の一(1/4)、二分の一(1/2)、及び四分の三(3/4)の位置に設置される。RSDコントローラ14は、建物の最上階より上の機械室内に一般的に提供される、または建物のいずれかの特定の位置に配置される操作制御パネル(図示せず)内に提供される。
【0035】
図1及び
図2に示されるように、各TOFカメラ15は、エレベータかご2に取り付けられないガバナーロープの第一経路10aに近接して配置され、ガバナーロープ10aのロープ揺れを監視するためにガバナーロープの第一経路10aに水平方向に向けられる。各TOFカメラ15は、限定されないが、イーサネット(登録商標)を含む、既知の配線16を介してRSDコントローラ14に接続される。各ガバナーロープガード12は、TOFカメラ15がガバナーロープ10の画像を撮っているときにカメラのレンジ外にあり、地震などの間の建物揺れの発生時にTOFカメラ15にガバナーロープ10が衝突するのを防止することが可能な、任意の位置に配置されうる。
【0036】
従来のカメラの代わりにTOFカメラを取り入れる利点の一つは、それが完全な暗闇の中でガバナーロープ10の振動を確実に検出することを可能にするだけでなく、単一のTOFカメラ15で、同時に2つの異なるベクトル方向、すなわち、カメラの視界に関して横方向(左右方向)、及び前後方向(TOFカメラ15に向かう、及びこれから離れる方向)のロープ揺れを検出することが可能であるため、単一のカメラにより水平面(X-Y平面)内のあらゆる方向におけるガバナーロープ10の振動を容易に検出することが可能となることである。
【0037】
さらに、本発明において、建物揺れに関するエレベータシステムの異常状態を検出するために単一のガバナーロープ10を利用することは、従来の建物揺れ検出システムにあるような複数のメインロープ6を監視する必要性をなくすことができ、これは、エレベータシステム内の異常検出精度を改善する。特に、ガバナーロープ10は昇降路の全長にわたりガバナーシーブ8、及びテンションシーブ9により緊締されるため、したがって、ガバナーロープ10の張力は、理論的に一定であり、ガバナーロープ10の固有振動モードは、メインロープ6より正確に取得されることが可能である。
【0038】
さらに、エレベータかご2とシーブ4との間のメインロープ6の長さは、エレベータかご2が昇降路内で移動する場合に変わる。エレベータかご2とシーブ4との間のメインロープ6の長さが変わる場合に、メインロープ6の振幅及び振動モードもよく変わる。しかしながら、本発明に従うRSDコントローラ14が昇降路の全長沿いに延在するガバナーロープの第一経路10aの監視データを利用するため、エレベータかご2が昇降路内で移動するときにエレベータかご2とシーブ4との間のメインロープ6の長さの変化に応答して、メインロープ6の振幅での変化、及び振動モードでの変化を考慮する必要がない。
【0039】
つぎに、本発明に従うRSDコントローラ14の構成は、
図3を参照して記述される。
【0040】
RSDコントローラ14は、リスク分析部17、及び電力線通信/電源(PLC/PSR)部18を含む。RSDコントローラ14は、建物の最上階より上の機械室(図示せず)に一般に配置される、または建物内のいずれかの特定の位置に配置される操作制御パネル(図示せず)に配置される。
【0041】
リスク分析部17は、限定されないが、後に記述されるようなガバナーロープ10の振動の大きさに基づきエレベータかご2の動作を制御するために、コントローラエリアネットワーク(CAN)を含む、ネットワーク20経由でエレベータコントローラ19に接続される。エレベータコントローラ19は、エレベータ群制御、エレベータセキュリティ、エレベータ速度などを含む、エレベータシステムの動作を制御することを一般的に担当する。
【0042】
またリスク分析部17は、上記に説明されるように配置されるそれぞれのTOFカメラ15と関連する複数のカメラコントローラ21へPLC/PSR部18を介して接続され、実時間に各TOFカメラ15から得られるガバナーロープ10の画像を受信するように構成される。
【0043】
エレベータシステム1は、交流(AC)電源(たとえば、AC100V)を含み、AC電力は、PLC/PSR部18に提供される。PLC/PSR部18は、リスク分析部17へ配線23を介して直流(DC)電力(たとえば、DC24V)を供給するためのDC電力へAC電力を変換するように構成される。PLC/PSR部18は、限定されないがイーサネットを含むローカルエリアネットワーク22経由でリスク分析部17と相互接続され、限定されないが電力線通信(たとえば、AC100V)を含む通信線16を介してそれぞれのTOFカメラ15と関連する複数のカメラコントローラ21とも相互接続される。
【0044】
3台のTOFカメラ15は、
図1を参照して詳細に記述されるように、ガバナーロープ10の第一経路10aに関して等間隔で昇降路内の異なる高さに設置され、TOFカメラの各高さでガバナーロープ10のロープ揺れを監視するように、及びカメラコントローラ21を介してRSDコントローラ14へガバナーロープ10の実時間画像を送信するように構成される。各TOFカメラ15は、イーサネットのようなローカルエリアネットワーク24経由で対応するカメラコントローラ21と相互接続され、配線25を介して電力を受給する。本発明に従う建物揺れに関する異常検出システムが昇降路内に配置される4台以上のTOFカメラ15を含んでもよいことを理解するであろう。
【0045】
本発明に従うRSDコントローラ14は、エレベータコントローラ19から独立するコントローラとして記述されるが、それは、動作制御部の一部としてエレベータコントローラ19に実装されてもよい。
【0046】
つぎに、本発明に従うRSDコントローラ14を使用してガバナーロープ10の最大振幅を推定する方法を記述する。
【0047】
図4に示されるように、たとえば、第一経路10aの長さの四分の一(1/4)、二分の一(1/2)、及び四分の三(3/4)の位置において、昇降路内の異なる高さに配置される3台のTOFカメラ15は、エレベータかご2に取り付けられない第一経路10a沿いにガバナーロープのロープ揺れを監視している。実時間画像は、RSDコントローラ14へカメラコントローラ21及び電力通信線16を介して送信される。RSDコントローラ14内に組み込まれるリスク分析部17は、実時間で各TOFカメラ15から画像を受信する。
【0048】
図4(a)に示されるように、建物揺れが発生しない場合に、メインロープ6の振動と同様にガバナーロープ10の振動は、その結果発生しないため、ガバナーロープ10は、通常の位置(ベース位置)にある。
【0049】
他方で、建物が強風または地震を受けるときに建物揺れが発生した場合に、ガバナーロープ10が振動の大きさにより
図4(b)から(d)に示されるように、ベース位置(破線により示される)に関して振動し、揺れることがわかる。
【0050】
この事例において、各TOFカメラ15は、通常の位置(ベース位置)に関して左右に揺れるガバナーロープ10の実時間画像をキャプチャする。たとえば、
図5Aは、特定のモーメントでのガバナーロープ10の画像を図示する。ガバナーロープ10がベース位置から右側に揺れることがわかる。しかしながら、従来のカメラと異なり、TOFカメラ15が横断方向(左右方向)にガバナーロープ10aの振動を識別するのと同時にカメラからガバナーロープ10への距離を識別することが可能であるために、TOFカメラ15は、単一のカメラにより通常の位置(ベース位置)に関して昇降路の水平面内の任意の方向のガバナーロープ10の振動を追跡することが可能である。
【0051】
RSDコントローラ14のリスク分析部17は、各TOFカメラ15により昇降路の水平方向内で撮られるガバナーロープ10の実時間画像を受信する。この画像は、ガバナーロープ10についての画像データ及び距離データの両方を含む。
図5Bに示されるように、つぎに分析部17は、昇降路の水平面(X-Y平面)のベース位置(X
0,Y
0)に関してある時間におけるガバナーロープ10の実際の位置(±X
1,±Y
1)を計算し、これはベース位置に関する横方向(左右方向)のガバナーロープ10のロープ揺れ(すなわち、角度)と、TOFカメラ15およびガバナーロープ10の間の距離と、から決定することが可能である。つぎに、リスク分析部17は、ガバナーロープ10の実際の位置(±X
1,±Y
1)とベース位置(X
0,Y
0)との間の差に基づきある時間におけるTOFカメラ15の3つの高さでのガバナーロープ10の振動方向及び振幅を計算する。このプロセスを繰り返し、計算されたデータを時系列で監視する。
【0052】
その後、リスク分析部17は、時系列にガバナーロープ10の1つの振動面上でのTOFカメラ15の各高さにおける振幅変化からガバナーロープ10の振動モードを計算する。ガバナーロープ10が昇降路の全長にわたりガバナーシーブ8及びテンションシーブ9により緊締されるため、したがって、ガバナーロープ10の張力は、理論的に一定であり、ガバナーロープ10の振動モードは、エレベータのメインロープ6より正確に取得することが可能である。さらに、本発明に従うRSDコントローラ14は、建物揺れと関連するエレベータシステム1の異常を検出するためにエレベータかご2に取り付けられない第一経路10a沿いのガバナーロープの監視データを利用するため、エレベータかご2が昇降路内で移動するときにエレベータかご2とシーブ4との間のロープ6の長さ変化に応答する、エレベータロープ6の振幅変化及び振動モード変化を考慮する必要がない。
【0053】
つぎにリスク分析部17は、TOFカメラ15の各高さでのガバナーロープ10の計算された振動モード及び振幅に基づきガバナーロープ10の最大振幅を推定する。たとえば、ガバナーロープ10が
図4(b)に示されるようにモード1で振動しているときに、最大振幅は、振動のピークがガバナーロープ10の中間位置に形成されるために、昇降路の中間部に配置されるTOFカメラ15により直接に測定されることが可能である。他方で、ガバナーロープ10が
図4(c)に示されるようにモード2で振動している、または
図4(d)に示されるようにモードn(n>2)で振動しているときに、ガバナーロープ10の最大振幅は、振動ピーク(たとえば、
図4(c)内のP
2、及び
図4(d)内のP
n)がTOFカメラ15の視野外の領域に形成されるために、直接に測定されることが不可能である。しかしながら、本発明において、ガバナーロープ10の振動モードが時系列にガバナーロープ10の1つの振動面上でのTOFカメラ15の3つの異なる高さにおける振幅変化に基づき推定されるため、本発明に従うRSDコントローラ14は、振動ピークの位置にかかわらずガバナーロープ10の最大振幅を推定することが可能である。本発明に従うシステムを適用することにより、ガバナーロープ10のロープ揺れ検出、したがって建物揺れに関するエレベータシステムの異常状態検出は、従来技術のロープ揺れ検出システムより少ない台数のカメラにより正確に実行することが可能である。本発明に従うRSDコントローラ14を超高層建物内に設置するときに特に有利である。
【0054】
図6は、本発明に従うRSDコントローラ14により推定されるガバナーロープ10の最大振幅に基づくエレベータシステムの制御方法を図示する。ステップ601において、
図3を参照して上記に説明されるようにガバナーロープの第一経路10a沿いに等間隔で昇降路内の異なる高さに配置されるTOFカメラ15は、第一経路10a沿いにガバナーロープ10のロープ揺れを監視している。ガバナーロープ10の画像データ及び距離データを含む実時間画像は、ステップ602においてRSDコントローラ14のリスク分析部17へ送信される。
【0055】
つぎにRSDコントローラ14は、上記に説明されるようにTOFカメラ15の各高さでのガバナーロープ10の計算された振動モード及び振幅に基づきガバナーロープ10の最大振幅を推定し、エレベータシステム1の動作を制御するために最大振幅を3つの閾値と比較するステップ603に進行する。これらの閾値は、ガバナーロープ10の長さ、線密度、及び張力、建物の高さなどを考慮に入れることにより設定され得る、所定の最大振幅値である。
【0056】
ステップ604において、ガバナーロープ10の最大振幅は、第一閾値と比較される。最大振幅が第一閾値を超える場合に、つぎにRSDコントローラ14のリスク分析部17は、エレベータシステムが異常状態にあり、エレベータコントローラ19へエレベータかご2を停止させる信号を直ちに送信することを決定する(ステップ607)。ステップ607において非常停止状態を検出すると、エレベータコントローラ19は、点検のためのエレベータサービス会社へ警告を追加で発生させ得る。一旦異常状態が解消されると、エレベータコントローラ19は、RSDコントローラ14が動作を再開することを可能にし、アルゴリズムは、ステップ601へ戻り、プロセスを繰り返す。最大振幅が第一閾値より小さい場合、つぎにアルゴリズムは、ステップ605へ進行し、最大振幅は、第一閾値より小さい第二閾値と比較される。
【0057】
ステップ605において、最大振幅が第二閾値を超える場合、つぎにリスク分析部17は、ガバナーロープ10と同様にメインロープ6が振動してエレベータ機器に衝突するリスクが高いと判定し、リスク分析部17は、乗員が降りるのを可能にするように最寄りの階にエレベータかご2を停止させる信号をエレベータコントローラ19へ送信する(ステップ608)。一旦異常状態が解消されると、RSDコントローラ14は、既知の方式において手動で、または自動でのいずれか一方で再開されてもよく、アルゴリズムは、ステップ601へ戻り、プロセスを繰り返す。最大振幅が第二閾値より小さい場合に、つぎにアルゴリズムは、ステップ606へ進行し、最大振幅は、第二閾値より小さい第三閾値とさらに比較される。
【0058】
ステップ606において、最大振幅が第三閾値を超える場合に、つぎにリスク分析部17は、ガバナーロープ10と同様にメインロープ6が振動してエレベータ機器に衝突するリスクが相対的に低いと判定し、リスク分析部17は、ステップ609においてかごの速度を減速させる信号をエレベータコントローラ19へ送信し、ステップ601へ戻り、プロセスを繰り返す。最大振幅が第三閾値より小さい場合に、つぎにRSDコントローラ14のリスク分析部17は、エレベータシステム1が通常の状態にあると判定する(ステップ610)。ステップ610の実行に続き、アルゴリズムは、ステップ601へ戻り、プロセスを繰り返す。
【0059】
特定の実施形態は、エレベータかご2についてのガバナーロープ10のロープ揺れ検出に関して記述されているが、本発明によるロープ揺れ検出システムは、釣合いおもりについてのガバナーロープへ適用されてもよい。
【0060】
本発明は、図面に示されるような例示的な実施形態を参照して特に示され、記述されているが、さまざまな修正形態が添付の特許請求の範囲に開示される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく行われてもよいことを当業者は認識するであろう。
【符号の説明】
【0061】
1…エレベータシステム
2…エレベータかご
3…釣合いおもり
4…シーブ
4’…コンペンセーションシーブ
5…釣合いロープ
6…メインロープ
7…調速機
8…ガバナーシーブ
9…テンションシーブ
10…ガバナーロープ
11…安全装置
12…ガバナーロープガード
13…ロープ揺れ検出器
14…ロープ揺れ検出器コントローラ
15…TOFカメラ
16…通信線