(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/30 20060101AFI20220613BHJP
H02K 37/14 20060101ALI20220613BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
H02K1/30 Z
H02K37/14 K
H02K1/22 Z
(21)【出願番号】P 2018114447
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 哲也
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-061279(JP,A)
【文献】特開2007-151355(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0108686(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106685112(CN,A)
【文献】特開2014-091568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/30
H02K 37/14
H02K 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の永久磁石と、
前記永久磁石と一体成形され、前記永久磁石をその内面側から支持する支持体と、を有するロータを備え、
前記ロータの軸線方向に沿う方向を上下方向、前記ロータの回転方向に沿う方向を周方向としたときに、
前記永久磁石の内周面および前記支持体の外周面のいずれか一方には凸部である第1凸部が、他方には、該第1凸部に対応する凹部である第1凹部が形成されており、これら第1凸部および第1凹部は、互いに上下方向および周方向に係合する抜け止め部を構成して
おり、
前記抜け止め部は、前記永久磁石の内周面および前記支持体の外周面において、その上下方向における形成位置を変えながら全周にわたって連続して形成され、
前記抜け止め部は、前記永久磁石の内周面における上下方向の中心を基準位置としたときに、基準位置よりも上側に偏った位置と、基準位置よりも下側に偏った位置と、を交互に対称的に蛇行しながら延びていることを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記抜け止め部は、前記永久磁石の内周面に形成された前記第1凸部と、前記支持体の外周面に形成された前記第1凹部と、により構成されることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記第1凸部は、前記ロータの径方向中心から径方向外側に見たときの形状、または前記ロータの径方向外側から径方向中心側に見たときの形状が台形であるリブが複数組み合わされて形成されており、
前記第1凸部は、長い方の底辺が基準位置に重ねられ、短い方の底辺が上側に向けられた前記リブと、長い方の底辺が基準位置に重ねられ、短い方の底辺が下側に向けられた前記リブと、が周方向に沿って交互に配置され、前記各リブの周方向の端部がその隣接する前記リブと周方向に重ねられることで、蛇行するように連続した一本のリブとして形成されていることを特徴とする
請求項1に記載のモータ。
【請求項4】
前記第1凸部の上下方向の端面を該第1凸部の側面としたときに、前記第1凸部の片方または両方の側面には周方向に延びる溝部が形成されていることを特徴とする請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載のモータ。
【請求項5】
前記永久磁石は射出成形により製造されることを特徴とする請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載のモータ。
【請求項6】
前記抜け止め部に加えて、前記永久磁石の上面および/または下面には複数の凹部である第2凹部が形成されており、前記支持体には、前記各第2凹部に嵌まる複数の凸部である第2凸部が形成されていることを特徴とする請求項1から
請求項5のいずれか一項に記載のモータ。
【請求項7】
前記抜け止め部に加えて、前記永久磁石の内周面には複数の凸部である第3凸部が形成されており、前記支持体の外周面には、前記各第3凸部が嵌まる複数の凹部である第3凹部が形成されていることを特徴とする請求項1から
請求項6のいずれか一項に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータに関し、特に、ロータに永久磁石が用いられたモータに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、円筒状マグネット20の端面に凸部24または凹部26が設けられ、円筒状マグネット20をその内面側から支持する樹脂製の支持体(樹脂部分30)をこれら凸部24または凹部26に食い込ませることで、円筒状マグネット20の空転を阻止するモータ1が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロータ側に永久磁石が配置されるモータでは、永久磁石がこれを支持する軸体から剥離することを防ぐ必要がある。特許文献1のように、円筒状マグネット20の端面に形成された凹凸に樹脂部分30を食い込ませる構造では、円筒状マグネット20および円樹脂部分30に高い成形精度が求められるという課題がある。例えば、樹脂部分30の熱収縮や、円筒状マグネット20に反りが生じた場合、これらの凹凸部の食い込みが浅くなることで円筒状マグネット20の脱落や空転が生じやすくなる。
【0005】
上記問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、ロータに永久磁石が配置されるモータにおいて、永久磁石の脱落や空転を高い信頼性で防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のモータは、円筒形状の永久磁石と、前記永久磁石と一体成形され、前記永久磁石をその内面側から支持する支持体と、を有するロータを備え、前記ロータの軸線方向に沿う方向を上下方向、前記ロータの回転方向に沿う方向を周方向としたときに、前記永久磁石の内周面および前記支持体の外周面のいずれか一方には凸部である第1凸部が、他方には、該第1凸部に対応する凹部である第1凹部が形成されており、これら第1凸部および第1凹部は、互いに上下方向および周方向に係合する抜け止め部を構成しており、前記抜け止め部は、前記永久磁石の内周面および前記支持体の外周面において、その上下方向における形成位置を変えながら全周にわたって連続して形成され、前記抜け止め部は、前記永久磁石の内周面における上下方向の中心を基準位置としたときに、基準位置よりも上側に偏った位置と、基準位置よりも下側に偏った位置と、を交互に対称的に蛇行しながら延びていることを特徴とする。
【0007】
円筒形状の永久磁石の内周面とその支持体の外周面に、これら永久磁石と支持体とを上下方向および周方向に係合させる抜け止め部(第1凸部および第1凹部)を形成することにより、永久磁石の脱落や空転を簡易な構造で防止することが可能となる。そして、本発明の抜け止め部は永久磁石およびその支持体の周面に設けられているため、抜け止め部が端面に設けられる構造に比べ、永久磁石やその支持体の成形誤差の影響を受けにくい。また、抜け止め部を永久磁石の全周にわたって連続して形成することにより、永久磁石の周方向における磁力のむらを軽減することができる。また、これを上下方向における位置を変えながら形成することにより、連続した抜け止め部を周方向にも係合させることができる。また、第1凸部が永久磁石側に形成されている場合には、永久磁石にクラックが生じた場合でも、そのクラックの伝播を第1凸部で遮断することができる。そして、永久磁石の上下方向の中心を基準位置として、抜け止め部を上下に対称的に蛇行させるように形成することで、抜け止め部が周方向に係合することで生じる応力を全周に均等に分散することができる。また、永久磁石の磁力の偏りも軽減することができる。
【0008】
また、前記抜け止め部は、前記永久磁石の内周面に形成された前記第1凸部と、前記支持体の外周面に形成された前記第1凹部と、により構成されることが好ましい。
【0009】
抜け止め部を構成する第1凸部を永久磁石側に設けることにより、永久磁石の部分的な磁力の低下や耐久性の低下を避けることができる。
【0014】
また、このとき、前記第1凸部は、前記ロータの径方向中心から径方向外側に見たときの形状、または前記ロータの径方向外側から径方向中心側に見たときの形状が台形であるリブが複数組み合わされて形成されており、前記第1凸部は、長い方の底辺が基準位置に重ねられ、短い方の底辺が上側に向けられた前記リブと、長い方の底辺が基準位置に重ねられ、短い方の底辺が下側に向けられた前記リブと、が周方向に沿って交互に配置され、前記各リブの周方向の端部がその隣接する前記リブと周方向に重ねられることで、蛇行するように連続した一本のリブとして形成されている構成としてもよい。
【0016】
また、本発明のモータは、前記第1凸部の上下方向の端面を該第1凸部の側面としたときに、前記第1凸部の片方または両方の側面に周方向に延びる溝部が形成されていることが好ましい。
【0017】
第1凸部の側面に溝部が形成されることにより、第1凹部側には、その溝部の形状に対応する爪状の部分が成形される。これら溝部とそこに嵌まる爪状の部分により、第1凸部と第1凹部とをロータの径方向に係合させることができ、永久磁石の浮きや剥がれを抑えることができる。
【0018】
また、本発明のモータは、前記永久磁石が射出成形により製造されることが好ましい。
【0019】
永久磁石を射出成形で製造することにより、粉末プレス成形を採用する場合よりも永久磁石の形状の自由度を高めることができる。
【0020】
また、本発明のモータは、前記抜け止め部に加えて、前記永久磁石の上面および/または下面に複数の凹部である第2凹部が形成されており、前記支持体には、前記各第2凹部に嵌まる複数の凸部である第2凸部が形成されている構成としてもよい。
【0021】
抜け止め部に加え、第2凸部および第2凹部を設けることにより、永久磁石の脱落や空転をより確実に防止することが可能となる。
【0022】
また、本発明のモータは、前記抜け止め部に加えて、前記永久磁石の内周面に複数の凸部である第3凸部が形成され、前記支持体の外周面に、前記各第3凸部が嵌まる複数の凹部である第3凹部が形成されている構成としてもよい。
【0023】
抜け止め部に加え、第3凸部および第3凹部を設けることにより、永久磁石の脱落や空転をより確実に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
このように、本発明にかかるモータによれば、ロータに永久磁石が配置される場合でも、永久磁石の脱落や空転を高い信頼性で防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】ギヤードモータの構成を示す分解斜視図である。
【
図2】ギヤードモータの動力伝達構造を示す平面図である。
【
図3】モータの外観斜視図および側面視断面図である。
【
図4】ロータマグネットの形状を示す側面視断面図および斜視図である。
【
図6】FPCが外部接続端子とモータ端子とを接続した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一形態であるギヤードモータ90を例として、本発明の実施形態について説明する。以下の説明における「上」および「下」、並びに「垂直」とは、
図1に描かれた座標軸表示のZ軸に平行な方向であり、Z1側を「上」、Z2側を「下」とする。同様に、「前」および「後ろ」とは同座標軸表示のX軸に平行な方向であり、X1側を「前」、X2側を「後ろ」とする。「右」および「左」とは同座標軸表示のY軸に平行な方向であり、Y1側を「左」、Y2側を「右」とする。また、「水平」とは、同座標軸表示のX-Y平面方向を意味している。
【0027】
<構成概要>
図1はギヤードモータ90の構成を示す分解斜視図である。なお、本実施形態(以下、「本例」ともいう。)のギヤードモータ90は給湯器の流量を調節する開閉弁を駆動する装置であるが、本発明の用途はこれには限られない。
【0028】
ギヤードモータ90は、主に、駆動源であるモータ10、上述の開閉弁を駆動する歯車部材である出力部材432、モータ10のピニオンギヤ151の回転を減速して出力部材432に伝達する減速歯車列(第1歯車41,第2歯車42)、出力部材432の回転角度を検知するエンコーダ部72、およびこれらを収容するケース体(上ケース81,下ケース82)により構成されている。なお、本例の各図では、各歯車部材の歯部の記載を省略している。
【0029】
ギヤードモータ90は、その外部接続端子91と、モータ10の端子であるモータ端子18とが、柔軟なプリント基板であるFPC20(Flexible Printed Circuits:フレキシブル基板)により電気的に接続されている。さらに、FPC20にはセンサ部品であるホールIC721が実装されており、出力部材43には永久磁石722が埋め込まれている。本例のエンコーダ部72は、これらホールIC721および永久磁石722により構成され、出力部材43の配置角度が原点位置にある/ないことを検知する。
【0030】
図2はギヤードモータ90の動力伝達構造を示す平面図である。
図2は、上ケース81を取り外した状態でギヤードモータ90の内部機構を平面視した図であり、太線の矢印はモータ10の動力伝達経路を示している。
【0031】
ギヤードモータ90の減速歯車列を構成する第1歯車41および第2歯車42は、ピッチ円径の異なる平歯車が軸線方向に一体化された複合歯車部材である。同様に、出力部材43は、上ケース81に設けられたスリーブ状の開口部811(
図1参照)からケース外に露出する円筒形状の出力軸432と、平歯車である歯車部431とが一体化された複合歯車部材である。
【0032】
モータ10のエンドプレート17の中央には、上方にブリッジ状に張り出した軸受部171が形成されており、モータ10のピニオンギヤ151は、軸受部171に設けられた穴である窓部171からその一部が外部に露出している。ピニオンギヤ151は第1歯車41の大径歯車部411と噛合しており、第1歯車41の小径歯車部412は第2歯車42の大径歯車部421と噛合している。同様に、第2歯車42の小径歯車部422は出力部材43の歯車部431と噛合している。これによりピニオンギヤ151の回転は、第1歯車41、第2歯車42、および出力部材43の歯車部により減速され、出力軸432に伝達される。
【0033】
<モータ>
(全体構造)
図3は、モータ10の外観斜視図(a)、および側面視断面図(b)である。以下、
図3を参照して、本例のモータ10の全体構造について説明する。
【0034】
モータ10は、A相およびB相からなる2相のステッピングモータであり、ロータ11と、ロータ11の周りに配置されたステータとを有している。モータ10のロータ11は、円筒形状の永久磁石であるロータマグネット111と、ロータマグネット111をその内面側から支持する支持体であるロータサポート112と、により構成されている。ロータマグネット111およびロータサポート112はどちらも樹脂製の部材であり、これらはインサート成形により一体的に成形されている。
【0035】
本例のモータ10は、上部および周面の一部が開口した略カップ形状のケース体であるモータケース16を有している。モータケース16には、上述のロータ11、ロータ11を回転可能に支持する軸体である固定軸15、A相およびB相からなる2相の駆動コイル12、駆動コイル12が巻回されたコイルボビン131、および駆動コイル12のステータコア14(ヨーク)が収められている。モータケース16上部の開口には、平板部材であるエンドプレート17が圧入固定されている。エンドプレート17の上面には、第1歯車41および第2歯車42を回転可能に支持する軸体であるギヤシャフト19が設けられている。コイルボビン131はその一部に、モータ端子18を支持する肉厚部である端子支持部131を有しており、端子支持部131は、モータケース16の周面の一部に設けられた開口から外部に露出している。
【0036】
(抜け止め部)
図4は、ロータ11を構成するロータマグネット111の形状を示す側面視断面図(a)、ロータマグネット111を上方から見た斜視図(b)、ロータマグネット111を下方から見た斜視図(c)である。以下、
図4を参照して、ロータマグネット111の脱落・空転防止構造について説明する。なお以下の説明において、「周方向」とは、ロータ11の回転方向に沿う方向を意味している。
【0037】
ロータ11は、ロータマグネット111の脱落および空転を防止する抜け止め部50を有している。本例の抜け止め部50は、ロータマグネット111の内周面111aに設けられた凸部である第1凸部51と、ロータサポート112の外周面112aに設けられた凹部である第1凹部52とにより構成されている。第1凸部51および第1凹部52は互いに上下方向および周方向に係合し、これによりロータマグネット111の脱落および空転を防止する。また、ロータマグネット111の脱落や空転を従来に比べて高い信頼性で防止することが可能になる。
【0038】
以下、
図4を参照して第1凸部51の具体的な形状について説明する。なお、本例のロータ11では、先に成形されたロータマグネット111をインサート部品として、ロータマグネット111の筒内に樹脂を充填してロータサポート112を成形する。そのためロータサポート112の外周面には、第1凸部51の形状に対応する凹部(第1凹部52)が必然的に形成される。以下の説明では、主に第1凸部51の形状について説明するが、ロータサポート112側にはその第1凸部51の形状に対応する第1凹部52が形成されている。
【0039】
第1凸部51は、ロータマグネット111の内周面111aにおける上下方向の中心を基準位置Lとしたときに、基準位置Lよりも上側に偏った位置と、基準位置Lよりも下側に偏った位置とを交互に対称的に蛇行しながら、ロータマグネット111の内周面111aの全周にわたって連続して形成されている。
【0040】
このように本例の抜け止め部50は、第1凸部51がロータマグネット111の周方向に沿って蛇行しながら、すなわち第1凸部51の上下方向における位置が変えられながら形成されている。このことにより、ロータ11の全周にわたって連続した抜け止め部50であっても、これを上下方向だけでなく周方向にも係合させることが可能とされている。
【0041】
本例の第1凸部51は、ロータマグネット111の径方向中心から径方向外側に見たときの形状が台形であるリブ511が複数組み合わされて形成されている。第1凸部51は、長い方の底辺511bが基準位置Lに重ねられ、短い方の底辺511aが上側に向けられたリブ511と、長い方の底辺511bが基準位置Lに重ねられ、短い方の底辺511aが下側に向けられたリブ511と、がロータマグネット111の周方向に沿って交互に配置され、各リブ511の周方向の端部がその隣接するリブ511と周方向に重ねられることで、蛇行するように連続した一本のリブとして形成されている。
【0042】
本例のロータ11では、第1凸部51がロータマグネット111の全周にわたって連続して形成されていることにより、第1凸部51(抜け止め部50)が不連続に形成されている形態に比べて、ロータマグネット111の磁力のむらが軽減されている。そして、抜け止め部50が上下に対称的に蛇行していることで、抜け止め部50が周方向に係合することにより生じる応力がロータマグネット111の全周に均等に分散される。また、第1凸部51が上下の一方に偏って形成されている形態に比べて、ロータマグネット111の磁力の偏りが軽減されている。また、本例の抜け止め部50はロータマグネット111およびロータサポート112の周面に設けられている。かかる構造は、抜け止め部50がロータマグネット111やロータサポート112の端面に設けられる構造に比べ、これら部材の成形誤差の影響が抜け止め部50の係合力に及びにくいという点で優れている。
【0043】
ここで、抜け止め部50は、ロータマグネット111の周方向における磁力のむらが問題とならないときには、不連続な形状であってもよい。例えば、ロータマグネット111の内周面111aおよびロータサポート112の外周面112aの全周にわたって等間隔に配置された複数組の凸部および凹部で抜け止め部50を構成することも可能である。
【0044】
なお、抜け止め部50は、ロータマグネット111側に第1凹部52を設け、ロータサポート112側に第1凸部51を設けて構成することも可能である。一方、本例ではロータマグネット111側に第1凸部51を設けることにより、ロータマグネット111の部分的な磁力の低下や耐久性の低下が避けられている。さらに、ロータマグネット111にクラックが生じた場合でも、そのクラックの伝播を第1凸部51で遮断することができるという利点もある。
【0045】
また、本例の抜け止め部50は、第1凸部51の上下の端面を第1凸部51の側面51aとしたときに、第1凸部51の両方の側面51aに周方向に延びる溝部59が形成されている。第1凸部51の側面51aに溝部59が形成されることにより、第1凹部52側には、その溝部59の形状に対応する爪状の部分が形成される。これら溝部59とそこに嵌まる爪状の部分により、第1凸部51と第1凹部52とがロータ11の径方向に係合し、ロータマグネット111の浮きや剥がれが抑えられる。なお、溝部59は第1凸部51の一方の側面51aにのみ形成されていてもよい。
【0046】
そして、本例のロータマグネット111は、射出成形により製造されたフェライト系・ネオジウム系等のプラスチック磁石である。そのため焼結や粉末プレス成形によりロータマグネット111を製造する場合に比べ、抜け止め部50の形状の自由度が高められている。これにより第1凸部51のような複雑な形状であっても容易に成形することが可能とされている。
【0047】
(その他の抜け止め構造)
さらに、本例のロータ11は、上述の抜け止め部50に加え、2種類の補助的な抜け止め構造を有している。
【0048】
本例のロータマグネット111の上面には、複数の凹部である第2凹部54が形成されている。第2凹部54は、ロータマグネット111の内周面111aにおける上側の端部が、平面視半円形に窪むことで形成されている。本例の第2凹部54は、ロータマグネット111の周方向に沿って等間隔に3つ形成されている。ロータサポート112側には、第2凹部54に嵌まる図示しない複数の凸部である第2凸部53が形成される。なお、第2凸部53および第2凹部54はロータマグネット111の上面だけでなく下面側にも設けてもよい。
【0049】
また、本例のロータマグネット111の内周面111aには、各第2凹部54の直下に、平面視半円形に張り出した凸部である第3凸部55が形成されている。そして、ロータサポート112側には、第3凸部55が嵌まる図示しない複数の凹部である第3凹部56が形成される。
【0050】
このように、本例のロータ11では、抜け止め部50に加え、第2凸部53・第2凹部54および第3凸部55・第3凹部56が形成されていることにより、ロータマグネット111の脱落および空転がより確実に防止される。なお、これら第2凸部53・第2凹部54および第3凸部55・第3凹部56は補助的な構成であり、抜け止め部50により十分な脱落・空転防止効果が得られる場合には省略してもよい。
【0051】
<エンコーダ部およびFPC>
(エンコーダ部)
図5は、ギヤードモータ90が備えるエンコーダ部72の構成を示す斜視図である。上でも述べたように本例のエンコーダ部72はホールセンサを用いた位置検出センサである。エンコーダ部72は、出力部材43の歯車部431の端面に埋め込まれた永久磁石722と、永久磁石722の周回軌道における原点位置の直下に配置されたホールIC721と、により構成されており、これによりエンコーダ部72は出力部材43の配置角度が原点位置にある/ないことを検知する。ホールIC721は、例えば駆動部のグリスが付着した場合の検出精度への影響が小さく、また安価に入手可能であるとともに機構の複雑化を抑えることができる。なお、ホールIC721に代えてホール素子を用いることもよい。そして、本例のホールIC721は、ギヤードモータ90の外部接続端子91とモータ端子81とを電気的に接続するFPC20上に実装されている。
【0052】
(FPC)
図6は、FPC20が外部接続端子91とモータ端子81とを接続した状態を示す平面図である。
図7は、FPC20の固定構造を示す分解斜視図である。以下、
図6および
図7を参照してギヤードモータ90の配線とホールIC721の位置決め構造について説明する。
【0053】
FPC20は、ギヤードモータ90の外部からモータ10およびホールIC721に電力を供給し、また、ホールIC721の出力を図示しない上位装置の制御部に送信するための基板である。本例の外部接続端子91の各端子は、
図6の左端の端子から右に向かって、順に、モータ10のA+相コイル端子、A-相コイル端子、コモン端子、B+相コイル端子、B-相コイル端子に接続される。そしてその右側の端子は、順に、ホールIC721のVcc端子、出力端子、GND端子に接続される。
【0054】
本例のFPC20は、主に、外部接続端子91が接合される部位である外部端子接合部20a、モータ端子18が接合される部位であるモータ端子接合部20b、ホールIC721が実装される部位であるセンサ実装部20c、および、センサ実装部20cの周辺部であるセンサ周辺部20dを有している。
【0055】
ここで、「センサ周辺部」とは、センサ実装部20cから連続するセンサ実装部20c近傍の部位という程度の意味であり、特に、センサ実装部20cの位置精度を直接的に左右する範囲をいう。センサ周辺部20dの範囲は画一的には線引きできないが、例えば、モータ端子接合部20bほどセンサ実装部20cから離れた部位はセンサ周辺部20dには含まれず、外部端子接合部20a程度であれば含まれていてもよい。
【0056】
本例のFPC20は、外部端子接合部20aとモータ端子接合部20bとが、ケース(上ケース81,下ケース82)内において異なる空間平面上に配置されている。具体的には、外部端子接合部20aは水平に配置され、モータ端子接合部20bは垂直に配置されている。また、ケース内の外部接続端子91の延出方向に平行な直線と、各モータ端子18の延出方向に平行な直線とは、ねじれの位置関係にある。
【0057】
本例のギヤードモータ90のように、外部接続端子91とモータ端子18とが同一平面上に配列されていない場合、フラットなリジッド基板でこれら端子を接続することは困難である。本例のギヤードモータ90では、モータ10の配線にFPC20を用いることにより、これら同一平面上にない端子91,18を柔軟に接続することが可能とされている。
【0058】
(FPCの固定構造)
FPC20のセンサ実装部20cおよびセンサ周辺部20dは、下ケース82の固定面である支持面82aに支持されている。より具体的には、
図7に示すように、下ケース82の支持面82aには十字形に張り出したリブである支持台83が形成されており、センサ実装部20cおよびホールIC721はその交点部分に配置される。
【0059】
支持台83の4つの端部のうちの3箇所には、凸部である位置決めボス84が形成されている。なお、残りの1つの端部は出力部材43の軸受86の外周面につながっている。そして、FPC20のセンサ周辺部20dには、これら位置決めボス84が挿通される貫通孔であるボス穴21が形成されている。FPC20のボス穴21に位置決めボス84が挿通されることにより、支持面82a上におけるセンサ周辺部20dの位置と向きが一定に固定される。
【0060】
ここで、センサ周辺部20dは、そのどこか2箇所に位置決めボス84が挿通されれば、その支持面82a上の位置や向きは固定される。本例では、センサ周辺部20dの3箇所が位置決めボス84で固定されることにより、FPC20が曲げられて組み付けられるときのセンサ周辺部20dの歪みやたわみが軽減されている。
【0061】
また、本例のギヤードモータ90では、支持面82aに載置されたFPC20のセンサ周辺部20dに、樹脂製の平板部材であるカバー部材30が被せられる。カバー部材30は、センサ実装部20cの範囲に設けられた穴であるセンサ窓33を有しており、これによりホールIC721はカバー部材30に覆われることなく、カバー部材30の外部に露出する。また、カバー部材30には、FPC20のセンサ周辺部20dを貫通した位置決めボス84が挿通される3つの逃がし穴31が形成されている。
【0062】
このように、本例のギヤードモータ90では、FPC20に実装されたホールIC721の支持面82a上の位置を位置決めボス84で固定し、さらに、FPC20のセンサ周辺部20dにカバー部材30を被せてホールIC721の浮き上がりを阻止することにより、ケース内におけるホールIC721の前後・左右・上下方向の位置を固定している。これにより、外部接続端子91とモータ端子18とのFPC20による柔軟な接続と、ホールIC721の安定した検出精度との両立が図られている。なお、カバー部材30の逃がし穴31は、位置決めボス84が嵌合される凹部であってもよい。
【0063】
ここで、支持面82a上には、上述の位置決めボス84のほかに、カバー部材30の位置決め専用の凸部である樹脂製の位置決めボス85も形成されている。そして、カバー部材30にはこれら位置決めボス85が挿通される貫通孔であるボス穴32を有している。さらに、位置決めボス85は、カバー部材30に挿通された後でカバー部材30に溶着される。位置決めボス85の溶着により、位置決めボス85とカバー部材30との間のクリアランスが除去され、カバー部材30が支持面82aに対して移動不能に固定される。これによりカバー部材30のガタツキが封じられ、ホールIC721の位置精度・検出精度がさらに高められる。なお、FPC20を固定するための位置決めボス84と、カバー部材30を固定するための位置決めボス85とは常に別体である必要はなく、例えば位置決めボス84をカバー部材30に溶着することも可能である。
【0064】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0065】
90:ギヤードモータ,91:外部接続端子,10:モータ,12:駆動コイル,13:コイルボビン,131:端子支持部,14:ヨーク,15:固定軸,151:ピニオンギヤ,16:モータケース,17:エンドプレート,171:窓部,18:モータ端子,19:ギヤシャフト,11:ロータ,111:ロータマグネット,111a:ロータマグネットの内周面,L:基準位置,112:ロータサポート,112a:ロータサポートの外周面,20:FPC(フレキシブル基板),20a:FPCの外部端子接合部,20b:FPCのモータ端子接合部,20c:FPCのセンサ実装部,20d:FPCのセンサ周辺部,21:ボス穴,30:カバー部材,31:逃がし穴,32:ボス穴,33:センサ窓,41:第1歯車,411:第1歯車の大径歯車,412:第1歯車の小径歯車,42:第2歯車,421:第2歯車の大径歯車,422:第2歯車の小径歯車,43:出力部材,432:出力軸,431:出力部材の歯車部,50:抜け止め部,51:第1凸部,511:台形リブ,511a:台形リブの長い方の底辺,511b:台形リブの短い方の底辺,51a:第1凸部の側面,519:溝部,52:第1凹部,53:第2凸部(不図示),54:第2凹部,55:第3凸部,56:第3凹部(不図示),72:エンコーダ部,721:ホールIC,722:永久磁石,81:上ケース,811:開口部,82:下ケース,82a:支持面,83:支持台,84,85:位置決めボス,86:軸受,87:モータ収容部