IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 矢崎総業株式会社の特許一覧

特許7086742インサートナット付きケース及びその製造方法
<>
  • 特許-インサートナット付きケース及びその製造方法 図1
  • 特許-インサートナット付きケース及びその製造方法 図2
  • 特許-インサートナット付きケース及びその製造方法 図3
  • 特許-インサートナット付きケース及びその製造方法 図4
  • 特許-インサートナット付きケース及びその製造方法 図5
  • 特許-インサートナット付きケース及びその製造方法 図6
  • 特許-インサートナット付きケース及びその製造方法 図7
  • 特許-インサートナット付きケース及びその製造方法 図8
  • 特許-インサートナット付きケース及びその製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】インサートナット付きケース及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20220613BHJP
   H05K 5/00 20060101ALI20220613BHJP
   B29C 33/12 20060101ALI20220613BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
B29C45/14
H05K5/00 A
B29C33/12
B29C45/26
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018117550
(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公開番号】P2019217707
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】前田 章
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-073289(JP,A)
【文献】特開2006-009853(JP,A)
【文献】特開2006-142513(JP,A)
【文献】特開2007-038441(JP,A)
【文献】特開2012-001105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14
H05K 5/00
B29C 33/12
B29C 45/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型の凹部に金属製のナットが保持された状態で樹脂が充填されることにより、有底筒状のボス部に前記ナットが埋設されてなるインサートナット付きケースであって、
前記ナットは、前記凹部の内側面に圧入可能な複数の突起部を有する樹脂製のホルダ部材と一体に設けられ、該ホルダ部材を介して前記ボス部の開口端部に埋設されていて、
前記各突起部は、前記凹部に対する前記ホルダ部材の挿入方向に延設され、
前記凹部の内側面に接触する前記各突起部の接触面は、前記凹部の内側面の曲率よりも小さい曲率を有する円弧状に形成され、
前記各突起部は、前記凹部内において、前記凹部の内側面に線接触した状態で保持されることを特徴とするインサートナット付きケース。
【請求項2】
前記各突起部は、前記ボス部において、前記各突起部の間を通じて前記凹部の開口側から底部側へ回り込む前記樹脂によって包囲されていることを特徴とする請求項1に記載のインサートナット付きケース。
【請求項3】
前記ホルダ部材は、前記ナットを収容するナット収容部を有し、
前記ナットは、前記ナット収容部に圧入されることをもって、前記ホルダ部材と一体に構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のインサートナット付きケース。
【請求項4】
成形型の凹部に金属製のナットが保持された状態で樹脂が充填されることにより、有底筒状のボス部に前記ナットが埋設されてなるインサートナット付きケースの製造方法であって、
少なくとも前記ナットの一部を、外周側に複数の突起部が突設された樹脂製のホルダ部材によって保持させて、前記ナットと前記ホルダ部材を一体化する第1工程と、
前記第1工程の後、前記ナットと一体化された前記ホルダ部材の前記各突起部の先端面を前記成形型の前記凹部の内側面に圧入する第2工程と、
前記第2工程の後、前記凹部に前記ホルダ部材を介して前記ナットが保持された状態で、前記成形型の内部に樹脂を充填する第3工程と、
を有することを特徴とするインサートナット付きケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に用いる電子制御装置に適用され、樹脂製のケースにナットをインサート成形してなるインサートナット付きケース及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインサートナット付きケースを用いた電子制御装置としては、以下の特許文献に記載されたものが知られている。
【0003】
この電子制御装置100は、図8に示すように、一方が開口する有底角筒状に形成された樹脂製のケース101の各コーナー部に、金属製のナット102がインサート成型されたボス部103を有する。そして、この各ボス部103に埋設されたナット102に螺着される複数のスクリュ104をもって、回路基板105が、ケース101の開口部を閉塞するカバー106と共に、ケース101に共締め固定される。
【0004】
ここで、上記のケース101では、ナット102がインサートされる各ボス部103が、有底角筒状となる、いわゆる袋状に形成されている。このため、ケース101の製造時には、図9に示すように、上型111と下型112からなる成形型110に対し、下型112の底部に段差状に設けられた凹部112aにナット102を嵌合して位置決めした後、成形型110の内部に樹脂材料を充填することにより、ナット102がボス部103にインサート成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-001105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来のケース101では、製造上、凹部112aの内径R0を、ナット102の外径D0の最大公差に合わせて設定する必要がある。このため、ナット102の外径D0がその公差範囲において比較的小さく形成された場合、前記インサート成形時において、充填される樹脂の圧力や、成形型110の振動等によって、ナット102が凹部112aから脱落し、ケース101の品質不良を招来してしまうおそれがあった。
【0007】
本発明は、かかる技術的課題に着目して案出されたものであり、インサート成型時のナットの位置決め不良を抑制してケースの品質不良を防止することができるインサートナット付きケース及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、成形型の凹部に金属製のナットが保持された状態で樹脂が充填されることにより、有底筒状のボス部に前記ナットが埋設されてなるインサートナット付きケースであって、その一態様として、前記ナットは、前記凹部の内側面に圧入可能な複数の突起部を有する樹脂製のホルダ部材と一体に設けられ、該ホルダ部材を介して前記ボス部の開口端部に埋設されている。
【0009】
また、前記インサートナット付きケースの別の態様として、前記各突起部は、前記ボス部において、前記各突起部の間を通じて前記凹部の開口側から底部側へ回り込む前記樹脂によって包囲されていることが望ましい。
【0010】
このように、各突起部が、該各突起部の間を通じて凹部の開口側から底部側へ回り込む樹脂によって包囲されることで、ボス部におけるホルダ部材の抜け止めと回り止めがなされる。これにより、ホルダ部材を介してナットをボス部に強固に保持させることができる。
【0011】
また、前記インサートナット付きケースのさらに別の態様として、前記各突起部は、前記凹部に対する前記ホルダ部材の挿入方向に延設され、前記凹部の内側面に接触する前記各突起部の接触面は、前記凹部の内側面の曲率よりも小さい曲率を有する円弧状に形成され、前記各突起部は、前記凹部内において、前記凹部の内側面に線接触した状態で保持されていることが望ましい。
【0012】
このように、各突起部を成形型の凹部に線接触可能に構成することで、凹部に対するホルダ部材の圧入作業を容易に行えるようになり、ケースの生産性の向上に寄与することができる。
【0013】
また、前記インサートナット付きケースのさらに別の態様として、前記各突起部は、前記凹部に対する圧入方向において、前記凹部に圧入する側の端部から反対側の端部に向かって突出量が漸次増大することが望ましい。
【0014】
このように、ホルダ部材の圧入方向において圧入側の端部から反対側の端部に向かって各突起部の突出量が漸次増大するように構成することで、各突起部の圧入側の端部がテーパ状に形成される。このテーパ部により、凹部に対する各突起部の挿入性が向上し、ケースの生産性がさらに良好なものとなる。
【0015】
さらには、ホルダ部材の圧入方向において圧入側の端部から反対側の端部に向かって各突起部の突出量が漸次増大するように構成することで、ホルダ部材の圧入時に凹部の内側面に摺接する各突起部の長さ(面積)を低減することが可能となる。これにより、ホルダ部材の圧入時における各突起部の摺動抵抗が低減され、ホルダ部材の圧入作業をさらに容易に行うことができる。
【0016】
また、前記インサートナット付きケースのさらに別の態様として、前記ホルダ部材は、前記ナットを収容するナット収容部を有し、前記ナットは、前記ナット収容部に圧入されることをもって、前記ホルダ部材と一体に構成されていることが望ましい。
【0017】
このように、ホルダ部材のナット収容部にナットを圧入することをもって、ナットとホルダ部材とを一体化することにより、簡素な構造をもってナットとホルダ部材とを強固に結合することができる。
【0018】
また、前記インサートナット付きケースのさらに別の態様として、前記ナットは、前記ホルダ部材と一体にインサート成形されることをもって、前記ホルダ部材と一体に構成されていることが望ましい。
【0019】
このように、ホルダ部材を製造する際にナットをインサート成形することをもってナットとホルダ部材とを一体化することにより、ホルダ部材の成形と、ナットとホルダ部材との結合を同時に行うことができ、ケースの生産性の向上に寄与することができる。
【0020】
また、前記インサートナット付きケースのさらに別の態様として、前記ナットの外側面と前記ナット収容部の内側面の一方が係合突部を有し、他方が前記係合突部と係合可能な係合凹部を有することが望ましい。
【0021】
このように、ナットとホルダ部材を、係合突部と係合凹部の係合構造をもって係合させることにより、ホルダ部材に対するナットの抜け止めや、回り止めを行うことができる。
【0022】
また、別の観点から、本発明は、成形型の凹部に金属製のナットが保持された状態で樹脂が充填されることにより、有底筒状のボス部に前記ナットが埋設されてなるインサートナット付きケースの製造方法であって、その一態様として、少なくとも前記ナットの一部を、外周側に複数の突起部が突設された樹脂製のホルダ部材によって保持させて、前記ナットと前記ホルダ部材を一体化する第1工程と、前記第1工程の後、前記ナットと一体化された前記ホルダ部材の前記各突起部の先端面を前記成形型の前記凹部の内側面に圧入する第2工程と、前記第2工程の後、前記凹部に前記ホルダ部材を介して前記ナットが保持された状態で、前記成形型の内部に樹脂を充填する第3工程と、を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ナットを成形型の凹部に直接配置するのではなく、ナットと一体的に設けた樹脂製のホルダ部材が複数の突起部を介して成形型の凹部に圧入された状態で、ナットがインサート成形される。このように、少なくともホルダ部材が凹部に圧入可能に構成されていることにより、ナットの製造誤差にかかわらず、ホルダ部材を介してナットを凹部に適切に保持した状態で樹脂を充填させることができる。これにより、ケース製造時のナットのインサート成形において、ナットの位置決め不良の発生が抑制され、ケースの品質不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るインサートナット付きケースを適用した電子制御装置の分解斜視図である。
図2図1に示すインサートナット付きケースの斜視図である。
図3図2のA-A線断面図である。
図4図3のB-B線断面図である。
図5】(a)はナットとホルダ部材の分解斜視図、(b)はナットとホルダ部材とを一体化した状態を示すナット組立体の斜視図である。
図6】(a)は成形型とナット組立体との関係を表した縦断面図、(b)は同図(a)のC-C線断面図である。
図7図1に示す電子制御装置の製造工程を示し、(a)は成形型(下型)にナット組立体を挿入する工程を示す断面図、(b)は成形型の内部に樹脂を充填する工程を示す断面図、(c)はナットがインサート成形されたケースを成形型から取り出した状態を示す斜視図、(d)はケースのコネクタ部に保持されるコネクタ端子を折り曲げる工程を示すケースの断面図、(e)はコネクタ端子を回路基板のスルーホールに挿通して電気的に接続する工程を示す分解斜視図、(f)は回路基板をケースに固定する工程を示す斜視図、である。
図8】従来のインサートナット付きケースを用いた電子制御装置の縦断面斜視図である。
図9図8に示すナットをインサート成形する際の成形型の内部の状態を表示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係るインサートナット付きケース及びその製造方法の実施形態を、図面に基づいて詳述する。なお、本実施形態では、本発明に係るインサートナット付きケース及びその製造方法を、従来と同様に、自動車に用いる電子制御装置に適用したものを例示して説明する。
【0026】
(インサートナット付きケースの構成)
本実施形態に係る電子制御装置の具体的な構成について、図1図6に基づいて詳述する。
【0027】
本実施形態に係る電子制御装置は、図1に示すように、一方が開口する有底角筒状に一体成形され、ボス部17に金属製のナット2が埋設された樹脂製のインサートナット付きケース(以下、「ケース」と略称する。)1と、該ケース1に収容され、ナット2に螺着される複数のスクリュ4をもってケース1に固定される回路基板3と、ケース1の開口部15を閉塞する図示外のカバーと、を備える。
【0028】
なお、前記ケース1に対する図示外のカバーの固定手段としては、例えば溶着(振動溶着)によってケース1に固定してもよく、従来のように、スクリュ4によってケース1に共締め固定してもよい。換言すれば、図示外のカバーの固定手段については、電子制御装置の仕様に応じて、適宜自由に変更することができる。
【0029】
ケース1は、図2に示すように、所定の樹脂材料によって一体に成形され、矩形状の底壁10と、該底壁10の各辺の端縁に立設された4つの側壁である第1~第4側壁11~14と、を有し、上方が開口形成されている。そして、第1側壁11には、回路基板3に実装される図示外の電子部品との電気接続に供する2つのコネクタ部16が、第1側壁11の幅方向に沿って並列に設けられている。
【0030】
各コネクタ部16は、それぞれ第1側壁11を底壁とする有底角筒状に形成されていて、第1側壁11と一体に設けられた端子保持部161(図7(d)参照)に、ほぼL字状に曲折された複数のコネクタ端子5を挿通保持してなる、雄コネクタとして構成されている。すなわち、各コネクタ端子5の一端側は、端子保持部161に挿通され、コネクタ部16の開口部162へ臨み、該コネクタ部16に接続される図示外の雌コネクタと接続される。一方、各コネクタ端子5の他端側は、上方へ向けて90°折り曲げられ、ケース1の開口部15側から被せられる回路基板3に接続される。
【0031】
また、ケース1には、底壁10の各コーナー部の近傍に、回路基板3の取付に供する4つの基板取付部であるボス部17が立設されている。各ボス部17は、図2図3に示すように、それぞれ上方に向かって開口するほぼ有底円筒状に形成され、開口端部には、金属製のインサートナットであるナット2が埋設されている。なお、これら各ボス部17は、後述するケース1の製造工程において、ナット2をインサートするかたちで、ケース1と一体に成形される。
【0032】
ここで、ナット2は、後述するように、樹脂製のホルダ部材6と一体的に結合され、該ホルダ部材6と共に各ボス部17に埋設されて、該ホルダ部材6を介して各ボス部17に固定される。すなわち、ナット2は、有底円筒状を呈し、内部に、上方へ開口するいわゆる袋状の雌ねじ部20が、軸方向に沿って形成されていて、外部のうち、開口端部側である上端側が外部に露出し、下端側がホルダ部材6に収容保持されている。また、ナット2の外側面には、図3図5に示すように、ホルダ部材6に収容される領域であって、軸方向のほぼ中間部に、径方向外側へ段差状に突出する係合突部21が、周方向に連続する環状に形成されている。さらに、係合突部21には、図5(a)に示すように、周方向において段差状に凹む係合凹部22が、軸方向に沿って溝状に切欠形成されている。
【0033】
ホルダ部材6は、図3図4に示すように、所定の樹脂材料によって一体に成形されたもので、内側にナット2を収容する有底円筒状のホルダ本体60と、該ホルダ本体60の外周側に放射状に突設された複数(本実施形態では3つ)の突起部61と、を有する。本実施形態では、突起部61の数量が3つに設定されていることで、後述する成形型8(下型82)の凹部83内における良好な安定性が得られると共に、凹部83に挿入する際の接触面積が比較的少なく、良好な挿入性が得られるメリットがある。なお、突起部61の数量については、本実施形態に開示した構成に限定されるものではなく、例えばナット2の締結トルクなど、ケース1の仕様等に応じて任意に変更することができる。
【0034】
また、本実施形態では、ホルダ部材6は、ナット2とは別体に形成され、該ナット2に圧入されることによって(図5(a)参照)、ナット組立体7としてナット2と一体化され(図5(b)参照)、ボス部17に埋設(インサート成形)される。なお、ホルダ部材6については、該ホルダ部材6の成形時に、ナット2をインサート成形することで、ナット組立体7として一体成形してもよい。このように、ホルダ部材6の成形に伴いナット2とホルダ部材6を一体に成形することによって、ホルダ部材6の成形と、ナット2とホルダ部材6との結合を同時に行うことができ、ケース1の生産性の向上に寄与することができる。
【0035】
ホルダ本体60の内部には、上方へ向かって開口するナット収容部62が、軸方向に沿って形成されている。そして、このナット収容部62の内側面には、ナット2の係合突部21と係合可能な係合凹部63が、周方向に沿って環状に形成されている。すなわち、ホルダ部材6は、係合凹部63がナット2の係合突部21と係合することによって、ナット2に対する軸方向の相対移動が規制され、ナット2に対する抜け止めが可能となっている。なお、ナット2の係合突部21と、ホルダ部材6の係合凹部63は、凹凸が相互逆に設定されていてもよい。すなわち、ナット2側に、凹となる係合凹部63が設けられ、ホルダ部材6側に、凸となる係合突部21が設けられていてもよい。
【0036】
また、ホルダ部材6の係合凹部63には、図5(a)に示すように、ナット2の係合凹部22と係合可能な係合突部64が、軸方向に沿って直線状に形成されている。すなわち、ホルダ部材6は、係合突部64がナット2の係合凹部22と係合することによって、ナット2に対する周方向の相対移動が規制され、ナット2に対する回り止めが可能となっている。なお、ナット2の係合凹部22と、ホルダ部材6の係合突部64は、凹凸が相互逆に設定されていてもよい。すなわち、ナット2側に、凸となる係合突部64が設けられ、ホルダ部材6側に、凹となる係合凹部22が設けられていてもよい。
【0037】
各突起部61は、図3図4に示すように、それぞれ先端側が丸みを帯びた横断面ほぼ半円形状に形成され、周方向においてほぼ等間隔に配置されている。すなわち、各突起部61は、ホルダ本体60の径方向外側へ向かって放射状に突設され、ほぼ円弧状に形成された外側面を有し、ホルダ本体60の軸方向のほぼ全域にわたって延びる突条として構成されている。また、各突起部61の先端部610の外径D2(図6参照)は、各ボス部17の外径D3とほぼ同じに設定され、各ボス部17におけるホルダ部材6の埋設状態において、各突起部61の先端部610が、各ボス部17の外周面に露出する構成となっている。(図2図4参照)。また、各突起部61は、後述する成形型8(下型82)の凹部83の内側面の曲率よりも小さい曲率に設定されていて、凹部83内において、各突起部61の先端部610が、凹部83の内側面に対して、いわゆる線接触する構成となっている。
【0038】
なお、各突起部61について、図4図5に示すように、本実施形態では、先端側が丸みを帯びた前記横断面ほぼ半円形状を有する態様を例示しているが、当該態様に限定されるものではない。換言すれば、各突起部61の具体的な態様については、上記態様のほか、例えば横断面三角形状に形成するなど、後述する成形型8(下型82)に対するホルダ部材6の挿入性等に応じて適宜変更可能である。
【0039】
また、ホルダ部材6は、図3図5に示すように、後述する成形型8(下型82)の凹部83に対するホルダ部材6の圧入側の端部であるナット収容部62の開口部側の端部に、当該ナット収容部62の開口部側の端部から反対側の端部であるナット収容部62の底部側へ向かって厚さ(突起部61については突出量)が漸次増大するように傾斜する、ほぼ円錐状に形成されたテーパ部65が、ホルダ本体60側から各突起部61側に亘って連続して設けられている。すなわち、かかるテーパ部65により、後述する成形型8(下型82)の凹部83に対するホルダ部材6の圧入が案内(ガイド)されるようになっている。なお、このテーパ部65は、ホルダ部材6の成形に供する、いわゆる抜き勾配としても機能し、ホルダ部材6の成形性の向上にも寄与することができる。
【0040】
他方、各ボス部17は、図3に示すように、上端部に開口形成され、ナット2の雌ねじ部20側の端部を外部へ臨ませるナット露出部171と、該ナット露出部171から下方へ向かっていわゆるアンダーカット状に設けられ、ホルダ部材6を収容保持するホルダ収容部172と、を有する。すなわち、各ボス部17では、ナット露出部171に対してホルダ収容部172が段差状に拡径形成されることで、ホルダ収容部172内に収容されるホルダ部材6は、ナット露出部171との間に形成される段差部173を介して、各ボス部17からの脱落が規制されている。
【0041】
ナット露出部171は、ナット2の外径に相当する内径に設定されていて、ナット2の上端部の外周面全体を包囲するようにナット2を保持する。ホルダ収容部172は、図3図4に示すように、ホルダ部材6のホルダ本体60を収容する本体収容部174と、該本体収容部174の径方向外側にそれぞれ凹設され、ホルダ部材6の各突起部61を収容可能なほぼ溝状に形成された複数(本実施形態では3つ)の突起収容部175と、を有する。本体収容部174は、ナット露出部171の内径よりも大きな内径に設定され、ナット露出部171に対して段差状に拡径形成されていて、軸方向に沿ってホルダ本体60の外径に相当する一定の内径を有する。各突起収容部175は、横断面ほぼ半円形状を呈し、ホルダ部材6の各突起部61に対応する位置に、軸方向に沿って切欠形成されていて、各突起部61のうち先端部610を除く外側面の全体を包囲する。すなわち、各突起収容部175によって各突起部61の周方向端部が保持されることで、ホルダ収容部172におけるホルダ部材6の相対回転が規制されている。
【0042】
回路基板3は、図1に示すように、ガラスエポキシ樹脂に代表されるような非導電性樹脂材料によって矩形状に形成され、表裏の両面にそれぞれ図示外の導体パターンが設けられている。そして、回路基板3には、各コネクタ端子5の他端側が挿通する複数のスルーホール31が貫通形成されていて、これら各スルーホール31に挿通された各コネクタ端子は、図示外の半田を介して前記図示外の導体パターンと電気的に接続される。また、回路基板3の各コーナー部の近傍であって、ケース1の各ボス部17に対応する位置に、スクリュ4が挿通され回路基板3をケース1に固定するための円形の取付孔32が貫通形成されている。
【0043】
(インサートナット付きケースの製造方法)
ケース1の製造方法(製造工程)について説明する前に、該ケース1の製造に用いる成形型8について、図6に基づいて説明する。
【0044】
図6(a)に示すように、ケース1の成形に供する成形型8は、各ボス部17を形成するキャビティCを構成する凹部83が設けられ、上方に開口する下型82と、該下型82の開口部に被せられ、前記キャビティCを閉塞する上型81と、を有する。凹部83は、該凹部83の底壁に凹設され、ナット2の先端部(開口端部)を受容するナット受容部831と、凹部83の側壁に凹設され、ホルダ部材6のほぼ全体を受容するホルダ受容部832と、を有する。
【0045】
ナット受容部831は、ナット2の先端部の外形に対応する横断面ほぼ円形を呈し、凹部83の底壁の中央位置に凹状に形成されている。また、ナット受容部831は、ナット2の外径D1の最大公差よりも僅かに大きい内径R1に設定され、ナット2の製造誤差にかかわらず、ナット2の先端部が嵌合可能に構成されている。
【0046】
ホルダ受容部832は、図6(a)(b)に示すように、ホルダ部材6の各突起部61の頂点(先端部610)を通過してなる横断面円形を呈し、ナット受容部831と同心状に形成されている。また、ホルダ受容部832は、各突起部61の頂点(先端部610)の外径D2の最小公差よりも僅かに小さい内径R2に設定され、ホルダ部材6の製造誤差にかかわらず、ホルダ部材6の各突起部61の頂点(先端部610)が圧入可能に構成されている。ここで、凹部83(ホルダ受容部832)に圧入されたホルダ部材6は、各突起部61の周方向間において、ホルダ受容部832の周壁の内側面とホルダ本体60の外側面との間に、隙間Sが形成される。これにより、ケース1の成形時には、凹部83の開口側から充填される樹脂が隙間Sを介して凹部83の底壁側へと回り込むことによって、各ボス部17の段差部173が形成されることになる。
【0047】
また、ホルダ受容部832の開口縁には、図6(a)中の拡大図に示すように、凹部83の底壁側へ向かって凹部83の内径R2が漸次縮小する、円弧状(アール状)のテーパ部65が形成されている。これにより、ホルダ部材6を凹部83に圧入する際に、各突起部61がテーパ部65によって案内(ガイド)されて、凹部83に対してホルダ部材6を容易に圧入することが可能になる。特に、本実施形態では、ホルダ部材6側に設けられたテーパ部65と相まって、凹部83に対するホルダ部材6の圧入作業がさらに容易なものとなっている。
【0048】
以下、本実施形態に係るケース1の製造方法を、図5図7に基づいて詳述する。
【0049】
まず、図5に示すように、ナット2の底部側をホルダ部材6のナット収容部62に圧入して、ナット2の係合突部21及び係合凹部22をホルダ部材6の係合凹部63及び係合突部64に係合させることで、ナット2とホルダ部材6とを一体化して、ナット組立体7を構成する。その後、図7(a)に示すように、ナット組立体7を成形型8の下型82の凹部83に圧入する。すなわち、ナット組立体7のホルダ部材6を、各突起部61を介して、凹部83のホルダ受容部832に圧入すると共に、ナット組立体7のナット2の先端部を、凹部83のナット受容部831に嵌挿する。その後、図7(b)に示すように、下型82に上型81を被嵌することによって成形型8を閉じ、キャビティCに樹脂Pを充填する。すると、凹部83の開口部側から充填された樹脂Pは、ホルダ受容部832の内側面とホルダ部材6のホルダ本体60との間に形成される隙間S(図6(b)参照)を通じて凹部83の底壁側へ回り込み、段差部173が形成されることにより、各ボス部17にナット組立体7が埋設された状態でケース1が成形される。
【0050】
続いて、図7(c)に示すように、ナット組立体7がインサート成形されたケース1を図示外の成形型から取り出した後、図7(d)に示すように、端子保持部161に挿通された各コネクタ端子5の他端側(ケース1の内部に臨む側)を、それぞれケース1の開口部15側へ向けて90°折り曲げる。その後、図7(e)に示すように、ケース1の開口部15側から回路基板3を挿入し、各コネクタ端子5の他端側をそれぞれ回路基板3の各スルーホール31に挿通することにより、回路基板3をケース1の各ボス部17に載置する。そして、回路基板3の各スルーホール31に挿通した各コネクタ端子5を半田付けすることによって、該各コネクタ端子5と図示外の導体パターンとを電気接続した後、図7(f)に示すように、スクリュ4を、回路基板3の各取付孔32に挿通させて、各ボス部17に埋設されたナット2に螺着することによって、回路基板3が各ボス部17に締結(固定)され、電子制御装置の組立が完了する。
【0051】
(本実施形態の作用効果)
以下、本実施形態に係るケース1の作用効果について具体的に説明する。
【0052】
従来のケース101では、製造上、凹部112aの内径R0をナット102の外径D0の最大公差に合わせて設定する必要があった。このように設定すると、ナット102の外径D0が公差範囲において比較的小さく形成された場合、図9に示すように、ケース101の成形時において、充填される樹脂の圧力や、成形型110の振動等によって、ナット102が凹部112aから脱落して、ケース101の品質不良を招来してしまうおそれがあった。
【0053】
これに対して、本実施形態に係るケース1では、ナット2を成形型8の凹部83に直接配置するのではなく、ナット組立体7としてナット2と一体化した樹脂製のホルダ部材6を、各突起部61を介して成形型8の凹部83に圧入した状態で、インサート成形が行われる。このように、少なくともホルダ部材6が凹部83に圧入可能に構成されていることで、ナット2の製造誤差にかかわらず、凹部83に対するホルダ部材6の圧入によって、ナット2を凹部83に適切に保持した状態で成形型8の内部に樹脂を充填させることができる。これにより、ナット2のインサート成形に際して、ナット2の位置決め不良の発生が抑制され、ケース1の品質不良を防止することができる。
【0054】
また、本実施形態では、ホルダ部材6の各突起部61が、該各突起部61間において、凹部83(ホルダ受容部832)の内側面とホルダ本体60の外側面との間に形成される隙間Sを通じて凹部83の開口部側から底壁側へと回り込む樹脂によって包囲されている。すなわち、ホルダ部材6は、前記隙間Sを介して凹部83の開口部側から底壁側へ回り込む樹脂によって形成される段差部173によって、ボス部17におけるホルダ部材6の抜け止めがなされる。同時に、ホルダ部材6は、前記隙間Sを介して凹部83の開口部側から底壁側へ回り込む樹脂によって各突起部61の周方向端部が保持されることで、ボス部17におけるホルダ部材6の回り止めがなされる。このようにして、本実施形態では、ホルダ部材6を介して、ナット2をボス部17に強固に保持させることができる。
【0055】
また、本実施形態では、成形型8の凹部83(ホルダ受容部832)の内側面に接触する各突起部61の接触面が、凹部83(ホルダ受容部832)の内側面の曲率よりも小さい曲率を有する円弧状に形成されていて、各突起部61が凹部83(ホルダ受容部832)の内側面と線接触可能に構成されている。このため、凹部83(ホルダ受容部832)の内側面に対する各突起部61の接触面積(摺動抵抗)が低減され、凹部83に対するホルダ部材6の圧入作業を容易に行うことができ、ケース1の生産性の向上に寄与することができる。
【0056】
また、本実施形態では、ホルダ部材6の圧入方向において圧入側の端部から反対側の端部に向かって各突起部61の突出量が漸次増大するように構成されている。換言すれば、各突起部61の圧入側の端部には、圧入方向に向かって突出量が漸次減少するテーパ部65が形成されている。かかるテーパ部65によって、成形型8の凹部83(ホルダ受容部832)に対する各突起部61の挿入性が向上し、ケース1の生産性がさらに良好なものとなる。
【0057】
加えて、ホルダ部材6の圧入方向において圧入側の端部から反対側の端部に向かって各突起部61の突出量が漸次増大するように構成することで、ホルダ部材6の圧入時において成形型8の凹部83(ホルダ受容部832)の内側面に摺接する各突起部61の長さ(面積)を低減することが可能となる。これにより、ホルダ部材6の圧入時における各突起部61の摺動抵抗が低減されて、ホルダ部材6の圧入作業をさらに容易に行うことができる。
【0058】
また、本実施形態では、ホルダ部材6のナット収容部62にナット2を圧入することをもって、ナット2とホルダ部材6とを一体化する。これにより、簡素な構造をもってナット2とホルダ部材6とを強固に結合することができる。
【0059】
また、本実施形態では、ナット2をホルダ部材6に圧入することに加えて、ナット2の係合突部21がホルダ部材6の係合凹部63に係合することをもって、ナット2とホルダ部材6とが一体化されている。これにより、ホルダ部材6に対するナット2の軸方向の相対移動、すなわち脱落が規制され、ナット2とホルダ部材6を、より強固に結合することができる。
【0060】
加えて、本実施形態では、ナット2の係合突部21に設けた係合凹部22にホルダ部材6の係合凹部63に設けた係合突部64を係合させたことにより、ホルダ部材6に対するナット2の周方向の相対移動、すなわち相対回転が規制され、ナット2とホルダ部材6を、より一層強固に結合することができる。
【0061】
本発明は、前記実施形態において例示した構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適用対象の仕様等に応じて自由に変更することができる。
【符号の説明】
【0062】
1…ケース(インサートナット付きケース)
17…ボス部
2…ナット
21…係合突部
22…係合凹部
4…スクリュ
6…ホルダ部材
61…突起部
63…係合凹部
64…係合突部
8…成形型
83…凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9