(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】ステータの製造方法、モータの製造方法、巻線方法、ステータ、及びモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 15/095 20060101AFI20220613BHJP
H02K 3/46 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
H02K15/095
H02K3/46 B
(21)【出願番号】P 2018147981
(22)【出願日】2018-08-06
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2017159091
(32)【優先日】2017-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 佑哉
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-015859(JP,A)
【文献】特開2016-174470(JP,A)
【文献】特開2002-247789(JP,A)
【文献】特開2002-027694(JP,A)
【文献】特開2006-074943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/095
H02K 3/34
H02K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に配列され径方向内側に延出する複数のティースを有するステータコアと、前記複数のティースに装着されたインシュレータに巻回された線材とを備えるステータの製造方法であって、
前記インシュレータは、前記線材が巻回される巻回面において、前記複数のティースの延出方向の先端部に、前記ステータの軸方向に突出する段差部を有し、
前記インシュレータに前記線材を巻回して、前記インシュレータ上に巻回された第1の線材層及び前記第1の線材層上に巻回された第2の線材層を形成する段階
を備え、
前記第1の線材層及び前記第2の線材層を形成する段階は、
(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>D
である場合に、前記段差部の上面上に前記線材を巻回して、前記第1の線材層を形成し、
(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)<D かつ
(L2+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>D
である場合に、前記段差部の上面上に前記線材を巻回せずに前記第1の線材層を形成し、
Aは、B/2+(1+√3/2)Dであり、
Bは、前記軸方向に直交する面における前記インシュレータの幅であり、
Dは、前記線材の直径であり、
θは、前記複数のティースのうち周方向に隣接するティースの中心軸がなす角度であり、
L1は、前記ステータの中心軸から、前記段差部の上面の径方向内側の端部までの距離であり、
L2は、前記ステータの中心軸から前記段差部の上面の径方向外側の端部までの距離である
製造方法。
【請求項2】
前記インシュレータは、前記インシュレータが有する複数の端面のうち、前記軸方向に交差する端面のみに前記段差部を有する
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記段差部の高さをHとすると、D/2≦Hである
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
周方向に配列され径方向内側に延出する複数のティースを有するステータコアと、前記複数のティースに装着されたインシュレータに巻回された線材とを有するステータを備えるモータの製造方法であって、
前記インシュレータは、前記線材が巻回される巻回面において、前記複数のティースの延出方向の先端部に、前記ステータの軸方向に突出する段差部を有し、
前記インシュレータに前記線材を巻回して、前記インシュレータ上に巻回された第1の線材層及び前記第1の線材層上に巻回された第2の線材層を形成する段階
を備え、
前記第1の線材層及び前記第2の線材層を形成する段階は、
(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>D
である場合に、前記段差部の上面上に前記線材を巻回して、前記第1の線材層を形成し、
(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)<D かつ
(L2+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>D
である場合に、前記段差部の上面上に前記線材を巻回せずに前記第1の線材層を形成し、
Aは、B/2+(1+√3/2)Dであり、
Bは、前記軸方向に直交する面における前記インシュレータの幅であり、
Dは、前記線材の直径であり、
θは、前記複数のティースのうち周方向に隣接するティースの中心軸がなす角度であり、
L1は、前記ステータの中心軸から、前記段差部の上面の径方向内側の端部までの距離であり、
L2は、前記ステータの中心軸から前記段差部の上面の径方向外側の端部までの距離である
製造方法。
【請求項5】
周方向に配列され径方向内側に延出する複数のティースを有するステータコアと、前記複数のティースに装着されたインシュレータに巻回された線材とを備えるステータの製造方法であって、
前記インシュレータは、前記線材が巻回される巻回面において、前記複数のティースの延出方向の先端部に、前記ステータの軸方向に突出する段差部を有し、
前記インシュレータに前記線材を巻回して、前記インシュレータ上に巻回された第1の線材層及び前記第1の線材層上に巻回された第2の線材層を形成する段階
を備え、
前記第1の線材層及び前記第2の線材層を形成する段階は、
前記段差部の上面の径方向内側の端部まで巻回された前記第1の線材層上に前記第2の線材層を形成した状態で、前記複数のティースのうち周方向に隣接するティースに装着された前記インシュレータ上の前記第2の線材層間の最短距離の1/2が前記線材の直径より大きい場合に、前記段差部の上面上に前記線材を巻回して、前記第1の線材層を形成し、
前記段差部の上面の径方向内側の端部まで巻回された前記第1の線材層上に前記第2の線材層を形成した状態で、前記複数のティースのうち周方向に隣接するティースに装着された前記インシュレータ上の前記第2の線材層間の最短距離の1/2が前記線材の直径より小さく、かつ、前記段差部の径方向外側の端部の段差面に当接するまで巻回された前記第1の線材層上に前記第2の線材層を形成した状態で、前記複数のティースのうち周方向に隣接するティースに装着された前記インシュレータ上の前記第2の線材層間の最短距離の1/2が前記線材の直径より大きい場合に、前記段差部の上面上に前記線材を巻回せずに前記第1の線材層を形成する
製造方法。
【請求項6】
前記インシュレータは、前記巻回面において、前記ティースの延出方向において前記先端部とは反対側の端部には、前記ステータの軸方向に突出する段差部を有しない
請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
ステータが備えるステータコアのティースに装着されたインシュレータに線材を巻回する巻線方法であって、
前記ティースは、周方向に配列して複数設けられ、径方向内側に延出し、
前記インシュレータは、前記線材が巻回される巻回面において、前記ティースの延出方向の先端部に、前記ステータの軸方向に突出する段差部を有し、
前記段差部の上面上に前記線材を巻回するか否かを判断する段階と、
前記段差部の上面上に前記線材を巻回すると判断された場合に、前記段差部の上面を含む前記巻回面上に前記線材を巻回し、得られた線材層上に前記線材を巻回する段階と、
前記段差部の上面上に前記線材を巻回しないと判断された場合に、前記段差部の上面上に前記線材を巻回することなく、前記巻回面上に前記線材を巻回する段階と
を備え、
前記段差部の上面上に前記線材を巻回するか否かを判断する段階は、
(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>D
である場合に、前記段差部の上面上に前記線材を巻回すると判断し、
(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)<D かつ
(L2+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>D
である場合に、前記段差部の上面上に前記線材を巻回しないと判断し、
Aは、B/2+(1+√3/2)Dであり、
Bは、前記軸方向に直交する面における前記インシュレータの幅であり、
Dは、前記線材の直径であり、
θは、周方向に隣接する前記ティースの中心軸がなす角度であり、
L1は、前記ステータの中心軸から、前記段差部の上面の径方向内側の端部までの距離であり、
L2は、前記ステータの中心軸から前記段差部の上面の径方向外側の端部までの距離である
巻線方法。
【請求項8】
ステータであって、
周方向に配列され径方向内側に延出する複数のティースを有するステータコアと、
前記複数のティースに装着されたインシュレータと、
前記インシュレータに線材が巻回された第1の線材層及び前記第1の線材層上の第2の線材層と
を備え、
前記インシュレータは、前記線材が巻回される巻回面において、前記複数のティースの延出方向の先端部に、前記ステータの軸方向に突出する段差部を有し、
前記第1の線材層は、前記段差部の上面を含む前記巻回面上に前記線材が巻回されて形成され、(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>Dを満たし、
Aは、B/2+(1+√3/2)Dであり、
Bは、前記軸方向に直交する面における前記インシュレータの幅であり、
Dは、前記線材の直径であり、
θは、前記複数のティースのうち周方向に隣接するティースの中心軸がなす角度であり、
L1は、前記ステータの中心軸から、前記段差部の上面の径方向内側の端部までの距離であり、
L2は、前記ステータの中心軸から前記段差部の上面の径方向外側の端部までの距離である
ステータ。
【請求項9】
ステータであって、
周方向に配列され径方向内側に延出する複数のティースを有するステータコアと、
前記複数のティースに装着されたインシュレータと、
前記インシュレータに線材が巻回された第1の線材層及び前記第1の線材層上の第2の線材層と
を備え、
前記インシュレータは、前記線材が巻回される巻回面において、前記複数のティースの延出方向の先端部に、前記ステータの軸方向に突出する段差部を有し、
前記第1の線材層は、前記段差部の上面を除く前記巻回面上に形成され、
(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)<D かつ
(L2+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>D
を満たし、
Aは、B/2+(1+√3/2)Dであり、
Bは、前記軸方向に直交する面における前記インシュレータの幅であり、
Dは、前記線材の直径であり、
θは、前記複数のティースのうち周方向に隣接するティースの中心軸がなす角度であり、
L1は、前記ステータの中心軸から、前記段差部の上面の径方向内側の端部までの距離であり、
L2は、前記ステータの中心軸から前記段差部の上面の径方向外側の端部までの距離である
ステータ。
【請求項10】
前記段差部の高さをHとすると、D/2≦Hである
請求項8又は9に記載のステータ。
【請求項11】
前記インシュレータは、前記巻回面において、前記ティースの延出方向において前記先端部とは反対側の端部には、前記ステータの軸方向に突出する段差部を有しない
請求項8から10のいずれか一項に記載のステータ。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか一項に記載のステータを備えるモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータの製造方法、モータの製造方法、巻回方法、ステータ、及びモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な装置や製品の駆動源としてモータが用いられている。例えば、自動車や、電動アシスト自転車や電動車椅子等の電動車を含めた移動体の動力源の用途でモータが用いられている。このような機器では高出力のモータが要求される場合がある。
【0003】
インナーロータブラシレスモータにおいて、モータの出力を高めるためには、ティースの巻線の巻数を多くすることが望まれる場合がある。巻数を多くすると端子間の抵抗が高まるため、線径が大きい線材を用いることが望ましい。隣接するティースの間隔はティースの先端部で狭くなるので、線径が大きい線材を用いる場合には、隣接するティースの巻線と巻線機のノズルとが干渉することを防ぐため、ティースの羽根先より手前で1層目の巻回を止めて、2層目を巻回する必要が生じる場合がある。線径が大きい線材を用いる場合は高いテンションがかかるため、1層目の線材が羽根先側にずれてしまう場合がある。
【0004】
コイルの巻線の巻き締まりを緩めるために、インシュレータに階段状に設ける技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1 特開2016-174470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、例えば線径が大きい線材を用いる場合に、巻線機のノズルと巻線が干渉することを防ぐことができない場合がある。また、線径が大きい線材を用いる場合、上述したように1層目の線材がずれ易くなるが、線材を係合される溝をインシュレータに設けると、線径毎にインシュレータを作成する必要が生じてしまう。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、異なる線径の線材に対して別個にインシュレータを用意することなく、巻線機のノズルが巻線と干渉することを抑制することが可能なステータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、周方向に配列され径方向内側に延出する複数のティースを有するステータコアと、複数のティースに装着されたインシュレータに巻回された線材とを備えるステータの製造方法であって、インシュレータは、線材が巻回される巻回面において、ティースの延出方向の先端部に、ステータの軸方向に突出する段差部を有し、インシュレータに線材を巻回して、インシュレータ上に巻回された第1の線材層及び第1の線材層上に巻回された第2の線材層を形成する段階を備える。第1の線材層及び第2の線材層を形成する段階は、(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>Dである場合に、段差部の上面上に線材を巻回して、第1の線材層を形成し、(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)<Dかつ(L2+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>Dである場合に、段差部の上面上に線材を巻回せずに第1の線材層を形成する。Aは、B/2+(1+√3/2)Dであり、Bは、軸方向に直交する面におけるインシュレータの幅であり、Dは、線材の直径であり、θは、複数のティースのうち周方向に隣接するティースの中心軸がなす角度であり、L1は、ステータの中心軸から、段差部の上面の径方向内側の端部までの距離であり、L2は、ステータの中心軸から段差部の上面の径方向外側の端部までの距離である。
【0008】
この態様によると、ティースの先端付近で巻線機のノズルと線材層とが干渉する可能性があるか否かを適切に判断することができる。そのため、巻線機のノズルと線材層とが干渉しないよう、段差上に線材を巻回するか否かを線径に応じて適切に判断することができる。例えば、線径が大きい線材を巻回する場合は、段差部上に巻回せずに第2線材層を巻回することで、ノズルと巻線との干渉を抑制することができる。一方、線径が小さい線材を巻回する場合は段差部上に巻回して第1線材層を形成することで、線材占積を維持することができる。また、線材の線径毎にインシュレータを製造する必要がなく、線径が異なる線材に対してインシュレータを共通化することができる。
【0009】
インシュレータは、インシュレータが有する複数の端面のうち、軸方向に交差する端面のみに段差部を有してよい。これにより、線径が小さく段差上に巻回する場合には、線材占積の低下を抑制することができる。
【0010】
段差の高さをHとすると、D/2≦Hであることを更なる条件として、段差部の上面上に線材を巻回せずに第1の線材層を形成してよい。これにより、第1線材層の上に線材を巻回する場合に、第1線材層を形成する線材がずれることを防止することができる。
【0011】
本発明の第2の態様においては、周方向に配列され径方向内側に延出する複数のティースを有するステータコアと、複数のティースに装着されたインシュレータに巻回された線材とを有するステータを備えるモータの製造方法であって、インシュレータは、線材が巻回される巻回面において、ティースの延出方向の先端部に、ステータの軸方向に突出する段差部を有し、インシュレータに線材を巻回して、インシュレータ上に巻回された第1の線材層及び第1の線材層上に巻回された第2の線材層を形成する段階を備える。第1の線材層及び第2の線材層を形成する段階は、(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>Dである場合に、段差部の上面上に線材を巻回して、第1の線材層を形成し、(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)<D かつ(L2+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>Dである場合に、段差部の上面上に線材を巻回せずに第1の線材層を形成する。Aは、B/2+(1+√3/2)Dであり、Bは、軸方向に直交する面におけるインシュレータの幅であり、Dは、線材の直径であり、θは、複数のティースのうち周方向に隣接するティースの中心軸がなす角度であり、L1は、ステータの中心軸から、段差部の上面の径方向内側の端部までの距離であり、L2は、ステータの中心軸から段差部の上面の径方向外側の端部までの距離である。この態様によると、上述したステータの製造方法に関連して説明した効果と同様の効果を持つモータを提供することができる。
【0012】
インシュレータは、巻回面において、ティースの延出方向において先端部とは反対側の端部には、ステータの軸方向に突出する段差部を有しなくてよい。先端部とは反対側の端部には段差部を有しないことで、線材占積率を向上させることができる。
【0013】
本発明の第3の態様においては、ステータが備えるステータコアのティースに装着されたインシュレータに線材を巻回する巻線方法であって、ティースは、周方向に配列して複数設けられ、径方向内側に延出し、インシュレータは、線材が巻回される巻回面において、ティースの延出方向の先端部に、ステータの軸方向に突出する段差部を有し、段差部の上面上に線材を巻回するか否かを判断する段階と、段差部の上面上に線材を巻回すると判断された場合に、段差部の上面を含む巻回面上に線材を巻回し、得られた線材層上に線材を巻回する段階と、段差部の上面上に線材を巻回しないと判断された場合に、段差部の上面上に線材を巻回することなく、巻回面上に線材を巻回する段階とを備える。段差部の上面上に線材を巻回するか否かを判断する段階は、(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>Dである場合に、段差部の上面上に線材を巻回すると判断し、(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)<Dかつ(L2+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>Dである場合に、段差部の上面上に線材を巻回しないと判断する。Aは、B/2+(1+√3/2)Dであり、Bは、軸方向に直交する面におけるインシュレータの幅であり、Dは、線材の直径であり、θは、周方向に隣接するティースの中心軸がなす角度であり、L1は、ステータの中心軸から、段差部の上面の径方向内側の端部までの距離であり、L2は、ステータの中心軸から段差部の上面の径方向外側の端部までの距離である。この態様によっても、上述したステータの製造方法に関連して説明した効果と同様の効果が得られる。
【0014】
本発明の第4の態様においては、ステータは、周方向に配列され径方向内側に延出する複数のティースを有するステータコアと、複数のティースに装着されたインシュレータと、インシュレータに線材が巻回された第1の線材層及び第1の線材層上の第2の線材層とを備え、インシュレータは、線材が巻回される巻回面において、ティースの延出方向の先端部に、ステータの軸方向に突出する段差部を有し、第1の線材層は、段差部の上面を含む巻回面上に線材が巻回されて形成され、(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>Dを満たす。Aは、B/2+(1+√3/2)Dであり、Bは、軸方向に直交する面におけるインシュレータの幅であり、Dは、線材の直径であり、θは、複数のティースのうち周方向に隣接するティースの中心軸がなす角度であり、L1は、ステータの中心軸から、段差部の上面の径方向内側の端部までの距離であり、L2は、ステータの中心軸から段差部の上面の径方向外側の端部までの距離である。この態様によっても、上述したステータの製造方法に関連して説明した効果と同様の効果を持つステータを提供することができる。
【0015】
本発明の第5の態様においては、ステータは、周方向に配列され径方向内側に延出する複数のティースを有するステータコアと、複数のティースに装着されたインシュレータと、インシュレータに線材が巻回された第1の線材層及び第1の線材層上の第2の線材層とを備える。インシュレータは、線材が巻回される巻回面において、ティースの延出方向の先端部に、ステータの軸方向に突出する段差部を有し、第1の線材層は、段差部の上面を除く巻回面上に形成され、(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)<D かつ(L2+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>Dを満たす。Aは、B/2+(1+√3/2)Dであり、Bは、軸方向に直交する面におけるインシュレータの幅であり、Dは、線材の直径であり、θは、複数のティースのうち周方向に隣接するティースの中心軸がなす角度であり、L1は、ステータの中心軸から、段差部の上面の径方向内側の端部までの距離であり、L2は、ステータの中心軸から段差部の上面の径方向外側の端部までの距離である。この態様によっても、上述したステータの製造方法に関連して説明した効果と同様の効果が得られる。
【0016】
上述したステータにおいて、段差部の高さをHとすると、D/2≦Hであってよい。これにより、第1線材層の上に線材を巻回する場合に、第1線材層を形成する線材がずれることを防止することができる。
【0017】
上述したステータにおいて、インシュレータは、巻回面において、前記ティースの延出方向において前記先端部とは反対側の端部には、前記ステータの軸方向に突出する段差部を有しなくてよい。これにより、線材占積を向上させることができる。
【0018】
本発明の第6の態様においては、モータは、上述したステータを備える。この態様によっても、上述したステータの製造方法に関連して説明した効果と同様の効果が得られるモータを提供することができる。
【0019】
本発明の第7の態様においては、周方向に配列され径方向内側に延出する複数のティースを有するステータコアと、複数のティースに装着されたインシュレータに巻回された線材とを備えるステータの製造方法であって、インシュレータは、線材が巻回される巻回面において、複数のティースの延出方向の先端部に、ステータの軸方向に突出する段差部を有し、インシュレータに線材を巻回して、インシュレータ上に巻回された第1の線材層及び第1の線材層上に巻回された第2の線材層を形成する段階を備える。第1の線材層及び第2の線材層を形成する段階は、段差部の上面の径方向内側の端部まで巻回された第1の線材層上に第2の線材層を形成した状態で、複数のティースのうち周方向に隣接するティースに装着されたインシュレータ上の第2の線材層間の最短距離の1/2が線材の直径より大きい場合に、段差部の上面上に線材を巻回して、第1の線材層を形成し、段差部の上面の径方向内側の端部まで巻回された第1の線材層上に第2の線材層を形成した状態で、複数のティースのうち周方向に隣接するティースに装着されたインシュレータ上の第2の線材層間の最短距離の1/2が線材の直径より小さく、かつ、段差部の径方向外側の端部の段差面に当接するまで巻回された第1の線材層上に第2の線材層を形成した状態で、複数のティースのうち周方向に隣接するティースに装着されたインシュレータ上の第2の線材層間の最短距離の1/2が線材の直径より大きい場合に、段差部の上面上に線材を巻回せずに第1の線材層を形成する。
【0020】
この態様によれば、上述したステータの製造方法に関連して説明した効果と同様の効果を持つステータを提供することができる。
【0021】
一般に、隣接ティース上の線材層間の最短距離が線材の直径の2倍より小さい場合、巻線機のノズルと線材層とが干渉する。線材層の径方向内側端の位置を径方向外側方向にずらすことで、ノズルと線材層との干渉を避けることができる。しかし、使用する線材の直径が変えると、ノズルと線材層との干渉を避けるために、隣接ティース上の線材層間の最短距離を変える必要があるため、想定される夫々の線径に適したインシュレータを設計する必要がある。一方、一種類のインシュレータで直径が異なる線材に対応するためには、想定される最大直径の線材を用いた場合でもノズルとの干渉を避けることができるようにインシュレータを設計する必要があるが、最大直径より小さい直径の線材を用いる場合、占積率が低下してしまう。
【0022】
上述した各態様は、異なる直径の線材を用いる場合であっても占積率の低下を抑制することが可能な汎用的なインシュレータを設計し、当該インシュレータを用いて、径方向内側端まで線材を巻回した状態において隣接ティース上の線材層間の最短距離が線材の直径の2倍より小さくなる場合に、当該最短距離が線材の直径の2倍より大きくなるように線材を巻回可能にすることを一つの目的とする。
【0023】
そのために、ティースの径方向内側端まで線材を巻回した状態において隣接ティース上の線材層間の最短距離が線材の線径の2倍より小さくなる場合に、径方向内側端から当該最短距離が線材の直径の2倍より大きくなる位置まで線材を巻回せずに線材層を形成することを可能にする段差部を、インシュレータに設ける。すなわち、巻線機のノズルが線材層と干渉しない程度に線材層の径方向内側端の位置を径方向外側に向かってずらすことができる段差部を、インシュレータに設ける。例えば、径方向における段差部の長さは、想定される最大直径の線材を段差部の径方向外側端の段差面に当接するまで巻回した場合に線材層間の最短距離が線材の直径の2倍より大きくなるように、設計される。一方、当該段差部は、線材層間の最短距離が線材の直径の2倍より大きい場合は、段差部上に線材を巻回することによって径方向内側端まで線材層を形成することを可能とする。これにより、占積率の低下を抑制することができる。
【0024】
上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。これらの特徴群のサブコンビネーションも発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施形態に係るモータが備えるステータ10の一部を示す正面図である。
【
図2】インシュレータが設けられた線材巻回部11の正面図を示す。
【
図4】段差部32の上面302に線材を巻くか否かを判断する判断条件を説明する図である。
【
図5】φ1.2の線材を用いた場合の巻線構成の一例を模式的に示す。
【
図7】φ1.1の線材を用いた場合の巻線構成の一例を模式的に示す。
【
図9】モータの製造方法における工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0027】
図1は、一実施形態に係るモータが備えるステータ10の一部を示す正面図である。本実施形態のモータは、ブラシレスモータである。本実施形態のモータは、具体的には、インナーロータ型ブラシレスモータである。ステータ10は、線材巻回部11及び線材巻回部12を含む複数の線材巻回部と、巻線40とを備える。巻線40は、U相巻線、V相巻線、W相巻線を含む。
【0028】
巻線40は、ステータコアに装着されたインシュレータ30に線材を巻回することにより形成される。インシュレータ30には2層以上の線材層が形成される。具体的には、第1の線材層41は、インシュレータ30上に巻回された層である。すなわち、一層目の層である。第2の線材層42は、第1の線材層41上に巻回された層である。すなわち、二層目の層である。
【0029】
図2は、線材巻回部11の正面図を示す。線材巻回部11は、ステータコアが有するティースと、ティースを覆うインシュレータ30の部分とにより形成される。
図3は、
図2のAA断面の一部を拡大して示す。
図3は特に、インシュレータ30のAA断面を示す。
【0030】
ステータ10は、筒状の部材である。ステータ10の内側には、ロータが配置される。ロータは、モータの出力軸となる回転シャフトを有する。なお、本実施形態の説明において、特に断らない限り、モータの中心軸AXに沿う方向のことを「軸方向」と呼ぶ。軸方向は、スラスト方向と一致する。モータの中心軸は、ステータ10の中心軸と一致する。なお、「周方向」及び「径方向」の中心は、モータの中心軸であるとする。
【0031】
ステータコアは、円環状のヨークと、複数のティースとを有する。ステータコアが含む複数のティースは、ヨークの内周側に設けられ、周方向に配列され、径方向内側に延出する。複数のティースは、それぞれステータ10の中心に向かって延びる。ステータ10の中心の位置はモータの中心軸の位置となる。具体的には、モータにおいて、ロータは、回転シャフトの中心軸がステータ10の中心と一致するように設けられる。
【0032】
図3に示されているように、インシュレータ30は、高さHの段差部32を有する。段差部32は、ティースの延出方向の先端部に、ステータ10の軸方向に突出するよう形成される。段差部32は、段差部32の下面301と、段差部32の上面302と、段差面303とにより形成される。段差部32の下面301及び段差部32の上面302は、インシュレータ30において線材が巻回可能な巻回面である。なお、段差部32は、軸方向に形成される。例えば、段差部32は、軸方向に水平な側面35には設けられない。例えば、隣接する線材巻回部に対向する側面35には、段差部32は設けられない。具体的には、側面35においては、段差部32の下面301と段差部32の上面302とは同じ高さを有する。このように、インシュレータ30は、インシュレータ30が有する複数の端面のうち、軸方向に交差する端面のみに段差部32を有してよい。
【0033】
本実施形態において、予め定められた閾値を超える直径Dを持つ線材を巻回する場合、段差面303まで巻回して一層目の線材層を形成して、折り返して第2相目の線材層を巻回する。これにより、線材巻回部11の径方向内側の先端部において、巻線機のノズルが巻線層に干渉しないようにしつつ、段差面303によって線材がずれないようにすることができる。一方、予め定められた閾値を超えない直径Dを持つ線材を巻回する場合、線材は段差面303を超えて段差部32の上面302上まで巻回されて、折り返して第2相目の線材層を巻回する。
【0034】
インシュレータ30は、巻回面となる下面301において、ティースの延出方向において先端部とは反対側の端部には、ステータ10の軸方向に突出する段差部を有しない。例えば、
図3に示すように、反対側の端部から突出し、下面301に向かって傾斜する傾斜面を有する。なお、段差部を有しなければよいため、傾斜面に限定されず、例えば、反対側の端部を一平面で形成することもできる。すなわち、インシュレータ30は、ティースの延出方向において先端部のみに段差部32を有する。これにより、線材占積率を向上させることができる。
【0035】
図4は、段差部32の上面302に線材を巻くか否かを判断する判断条件を説明する図である。本実施形態において、周方向に隣接する巻線間の距離Δに基づいて、段差部32の上面302に線材を巻くか否かを判断する。例えば、段差部32の上面302に線材を巻回した後に折り返して2層目を巻回した場合の距離Δ1が、巻線機のノズルを挿入するために必要な予め定められた値より長いことを条件として、線材巻回部段差部32の上面302に線材を巻回すると判断する。
【0036】
具体的には、
(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>D (条件式1)
を満たす場合に、段差部32の上面上に線材を巻回して、第1の線材層41を形成する。一方、
(L1+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)<D(条件式2)及び
(L2+D)tan(θ/2)×cos(θ/2)-Acos(θ/2)>D(条件式3)
を満たす場合に、段差部32の上面302上に線材を巻回せずに第1の線材層41を形成する。ここで、Aは、B/2+(1+√3/2)Dである。Bは、軸方向に直交する面におけるインシュレータ30の幅である。Dは、線材の直径である。θは、複数のティースのうち周方向に隣接するティースの中心軸がなす角度である。L1は、ステータの中心軸AXから、段差部32の上面302の径方向内側の端部までの距離である。L2は、ステータの中心軸AXから段差部32の上面302の径方向外側の端部までの距離である。
【0037】
なお、条件式2及び条件式3に加えて、D/2≦Hを更に満たす場合に、段差部32の上面302上に線材を巻回せずに第1の線材層41を形成してよい。D/2≦Hを更に満たす場合、第1の線材層41上に線材を巻回しても、第1の線材層41を形成する線材がずれることを確実に防止できる。
【0038】
図4を参照して、条件式(1)の左辺は、
図4に示すΔ1を示す。これに対し、巻線機のノズルを挿入するためには、巻線間に2D程度の隙間が必要となる。そのため、条件式1を満たせば、段差部32の上面302に線材を巻回して折り返して2層目を形成しても、ノズルが線材層と干渉することを防げると判断することができる。
【0039】
同様に、条件式2及び条件式3を満たす場合には、中心軸AXからL2だけ離れた位置にある段差面303まで線材を巻回して、段差部32の上面302に巻回することなく折り返せば、巻線機のノズルが線材層と干渉することを防ぐことができると判断することができる。
【0040】
図5は、φ1.2の線材を用いた場合の巻線構成の一例を模式的に示す。
図6は、
図5におけるインシュレータ30のAA断面を線材層とともに示す。ここで、L1=21.5mm、L2=22.5mm、θ=30°であるとする。ただし、A=4.7295mmである。ここで、φ1.2の線材の直径Dとして、線材の被膜厚を含めた値1.268mmを用いる。条件式1の左辺は1.1442であるため、条件式1は満たさず、条件式2を満たす。条件式3の左辺は1.40302であるため、条件式3を満たす。よって、段差部32の上面302には線材を巻回しないと判断する。段差部32の上面302に線材を巻回せずに段差面303で折り返すことで、
図5に示されるように、巻線機のノズル1000が巻線に接触することを防ぐことができる。また、1層目の線材層を形成する線材がずれることを抑制することができる。
【0041】
図7は、φ1.1の線材を用いた場合の巻線構成の一例を模式的に示す。
図8は、
図7におけるインシュレータ30のAA断面を線材層ともに示す。ここで、
図5の例と同様に、L1=21.5mm、L2=22.5mm、θ=30°であるとする。ただし、A=4.7295mmであるとする。ここで、φ1.1の線材の直径Dとして、線材の被膜厚を含めた値1.168を用いる。条件式1の左辺は1.29856であるため、条件式1を満たす。よって、段差部32の上面302に線材を巻回すると判断する。φ1.1の線材を用いる場合、段差部32の上面302に線材を巻回して折り返しても、
図7に示されるように、巻線機のノズル1000が巻線に接触することを防ぐことができる。更に、段差部32の上面302に線材を巻回することでターン数を増やすことができるので、段差部32を有するインシュレータ30を用いても、必要なターン数を確保することができる。
【0042】
以上において、段差部32の上面302上に線材を巻回する場合の構成及び段差部32の上面302上に線材を巻回しない場合の構成を具体的に説明した。具体的には、
図4等に示されるように、軸方向に直交する一断面において、第1の線材層41及び第2の線材層42は、インシュレータ30上に線材を最密的に巻回することによって形成されているものとした。具体的には、第1の線材層41は、インシュレータ30の延出方向に沿って線材が当接するように順次に巻回することによって形成される。また、当該当接する線材の谷間に、第2の線材層42を形成する線材を巻回することによって、第2の線材層42が形成される。つまり、第1の線材層41において当接する一対の線材部分のそれぞれの中心、及び、当該一対の線材部分に当接する第2の線材層42の線材の中心が一辺の長さDの正三角形を形成するように線材が巻回されているものとした。このような巻回状態において、条件式1が満たされる場合に段差部32の上面上に線材を巻回して第1の線材層41を形成し、条件式2及び条件式3が満たされる場合に、段差部32の上面302上に線材を巻回せずに第1の線材層41を形成するものとした。
【0043】
より一般には、第1の線材層41及び第2の線材層42を形成する場合に、段差部32の上面302の径方向内側の端部まで巻回された第1の線材層41上に第2の線材層42を形成した状態で、複数のティースのうち周方向に隣接するティースに装着されたインシュレータ30上の第2の線材層42間の最短距離の1/2が線材の直径より大きい場合に、段差部32の上面302上に線材を巻回して、第1の線材層41を形成する。一方、段差部32の上面302の径方向内側の端部まで巻回された第1の線材層41上に第2の線材層42を形成した状態で、複数のティースのうち周方向に隣接するティースに装着されたインシュレータ30上の第2の線材層42間の最短距離の1/2が線材の直径より小さく、かつ、段差部32の径方向外側の端部の段差面303に当接するまで巻回された第1の線材層41上に第2の線材層42を形成した状態で、複数のティースのうち周方向に隣接するティースに装着されたインシュレータ30上の第2の線材層42間の最短距離の1/2が線材の直径より大きい場合には、段差部32の上面302上に線材を巻回せずに第1の線材層41を形成する。
【0044】
なお、段差部32の上面302の径方向内側の端部まで巻回された第1の線材層41上に第2の線材層42を形成した状態で、複数のティースのうち周方向に隣接するティースに装着されたインシュレータ30上の第2の線材層42間の最短距離の1/2が線材の直径より大きいか否かは、少なくとも、軸方向に直交する面におけるインシュレータの幅、線材の直径、複数のティースのうち周方向に隣接するティースの中心軸がなす角度、ステータの中心軸から段差部32の上面302の径方向内側の端部までの距離、及び第1の線材層41及び第2の線材層42の積層態様に基づいて判断されてよい。また、段差部32の上面302の径方向内側の端部まで巻回された第1の線材層41上に第2の線材層42を形成した状態で、複数のティースのうち周方向に隣接するティースに装着されたインシュレータ30上の第2の線材層42間の最短距離の1/2が線材の直径より小さく、かつ、段差部32の径方向外側の端部の段差面303に当接するまで巻回された第1の線材層41上に第2の線材層42を形成した状態で、複数のティースのうち周方向に隣接するティースに装着されたインシュレータ30上の第2の線材層42間の最短距離の1/2が線材の直径より大きいか否かは、少なくとも、軸方向に直交する面におけるインシュレータの幅、線材の直径、複数のティースのうち周方向に隣接するティースの中心軸がなす角度、ステータの中心軸から段差部32の径方向外側の端部の段差面303までの距離、及び第1の線材層41及び第2の線材層42の積層態様に基づいて判断されてよい。
【0045】
図9は、モータの製造方法における工程を示すフローチャートである。
【0046】
S902において、ステータコア、インシュレータ30、及び線材を用意する。S904において、ステータコアにインシュレータ30を装着する。S906において、段差部32の上面302上に線材を巻回するか否かを判断する。S908において、S906の判断に基づいて、巻線機の動作条件を設定する。S910において、インシュレータ30が装着されたステータコアを巻線機にセットして、S908で設定した動作条件に従って線材をインシュレータ30に巻回させて、ステータ10を得る。
【0047】
S912において、モータの構成部品を用意する。モータの構成部品としては、ロータ、ブラケット、リード線等を含む。S914において、S910で製造されたステータ10に、モータの構成部品を組み付けて、モータを得る。
【0048】
以上に説明したように、ステータ10によれば、段差部32をもつインシュレータ30を用い、段差部32上に巻回した場合に巻線機のノズルが巻線と干渉するか否かを線材の線径に応じて適切に判断することができる。そのため、異なる線径の線材に対して別個にステータを用意することなく、巻線機のノズルが巻線と干渉することを抑制することが可能となる。また、線径が小さい線材を用いる場合には、段差部32上に線材を巻回するので、ターン数を維持することができる。
【0049】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0050】
10 ステータ
11、12 線材巻回部
30 インシュレータ
32 段差部
35 側面
40 巻線
41 第1の線材層
42 第2の線材層
301 下面
302 上面
303 段差面
1000 ノズル