(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】キャスティング評価装置及びキャスティング評価プログラム
(51)【国際特許分類】
A01K 89/01 20060101AFI20220613BHJP
A01K 97/00 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
A01K89/01 Z
A01K97/00 Z
(21)【出願番号】P 2018206778
(22)【出願日】2018-11-01
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】池袋 哲史
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-139(JP,A)
【文献】特開平9-294513(JP,A)
【文献】特開2017-29051(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0066367(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 83/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚釣用リールのスプールから釣糸が放出されることに応じて発生する振動または音を検出するセンサの出力に基づき、前記振動または音の周波数を導出する周波数導出部と、
前記周波数導出部により導出された周波数に基づいて、キャスティングに関する所定の評価項目についての評価を行うキャスティング評価部と
を備えるキャスティング評価装置。
【請求項2】
前記キャスティング評価部による評価結果に関する報知を行う報知部をさらに備える
請求項1に記載のキャスティング評価装置。
【請求項3】
前記キャスティング評価部は、
前記スプールからの釣糸の放出が開始されたタイミングに応じて前記周波数導出部により導出された周波数と、前記スプールの径とに基づいて、前記釣糸の放出が開始されたタイミングでの釣糸の放出速度を算出し、算出された放出速度を評価結果として出力する
請求項1または2に記載のキャスティング評価装置。
【請求項4】
前記キャスティング評価部は、
前記スプールからの釣糸の放出が開始されてから前記釣糸の放出が終了されるまでにおける放出期間において前記周波数導出部により導出された周波数と、前記スプールの径とに基づいて、前記放出期間において放出された前記釣糸の長さを算出し、算出された釣糸の長さを評価結果として出力する
請求項1から3のいずれか一項に記載のキャスティング評価装置。
【請求項5】
キャスティング評価装置としてのコンピュータを、
魚釣用リールのスプールから釣糸が放出されることに応じて発生する振動または音を検出するセンサの出力に基づき、前記振動または音の周波数を導出する周波数導出部、
前記周波数導出部により導出された周波数に基づいて、キャスティングに関する所定の評価項目についての評価を行うキャスティング評価部
として機能させるためのキャスティング評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャスティング評価装置及びキャスティング評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
スピニングリールのスプールからの釣糸の放出量やスプールへの釣糸の巻き取り量を検出する糸検出装置として以下の技術が知られている。つまり、釣竿に赤外線センサーを設けるともに、スピニングリールのスプールに反射体を設け、赤外線センサーから放射された赤外線が反射体にて反射されて赤外線センサーに戻るようにする。糸検出装置は、赤外線センサーの出力に基づいて釣糸が赤外線を遮断した回数を検出し、検出された回数に基づいて、スプールからの釣糸の放出量やスプールへの釣糸の巻き取り量を検出する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばスプールから釣糸が放出される周期の検出結果を利用してキャスティングの評価を行うようにすることが考えられる。この場合、特許文献1の技術では、釣糸を巻き取る場合のように釣糸が赤外線を遮断する周期が長い場合には、釣糸の放出量もしくは巻き取り量を正確に演算することが可能である。一方、キャスティング時のように、釣糸が赤外線を遮断する周期が短い場合には、釣糸の放出量もしくは巻き取り量の演算精度が著しく低くなる。このため、特許文献1の技術をキャスティングの評価を適用しても、評価結果について実用に足る精度を得ることは難しい。特許文献1の技術のもとで、高い演算精度を維持するには、例えば高感度の赤外線センサーや高性能な演算機能が要求される。
【0005】
本発明は、スプールから釣糸が放出される周期の検出結果を利用してキャスティングの評価を行うにあたり、簡易な構成でありながら、評価結果について実用に足る精度が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するための本発明の一態様は、魚釣用リールのスプールから釣糸が放出されることに応じて発生する振動または音を検出するセンサの出力に基づき、前記振動または音の周波数を導出する周波数導出部と、前記周波数導出部により導出された周波数に基づいて、キャスティングに関する所定の評価項目についての評価を行うキャスティング評価部とを備えるキャスティング評価装置である。
上記構成によれば、スプールから釣糸が放出されることに応じて発生する振動または音を検出するセンサを魚釣用リールに設けるという簡易な構成のもとで、実用に十分な精度でキャスティングに関する評価を行うことが可能になる。
【0007】
また、本発明の一態様は、上記のキャスティング評価装置であって、前記キャスティング評価部による評価結果に関する報知を行う報知部をさらに備える。
上記構成によれば、キャスティングに関する評価結果をユーザが把握できる。
【0008】
また、本発明の一態様は、上記のキャスティング評価装置であって、前記キャスティング評価部は、前記スプールからの釣糸の放出が開始されたタイミングに応じて前記周波数導出部により導出された周波数と、前記スプールの径とに基づいて、前記釣糸の放出が開始されたタイミングでの釣糸の放出速度を算出し、算出された放出速度を評価結果として出力する。
上記構成によれば、キャスティングにより仕掛けが放出されたときの初速度を評価することができる。
【0009】
また、本発明の一態様は、上記のキャスティング評価装置であって、前記キャスティング評価部は、前記スプールからの釣糸の放出が開始されてから前記釣糸の放出が終了されるまでにおける放出期間において前記周波数導出部により導出された周波数と、前記スプールの径とに基づいて、前記放出期間において放出された前記釣糸の長さを算出し、算出された釣糸の長さを評価結果として出力する。
上記構成によれば、キャスティングにより飛ばされた仕掛けの飛距離を評価することが可能になる。
【0010】
また、本発明の一態様は、キャスティング評価装置としてのコンピュータを、魚釣用リールのスプールから釣糸が放出されることに応じて発生する振動または音を検出するセンサの出力に基づき、前記振動または音の周波数を導出する周波数導出部、前記周波数導出部により導出された周波数に基づいて、キャスティングに関する所定の評価項目についての評価を行うキャスティング評価部として機能させるためのキャスティング評価プログラムである。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、スプールから釣糸が放出される周期の検出結果を利用してキャスティングの評価を行うにあたり、簡易な構成でありながら、評価結果について実用に足る精度が得られるようになるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態におけるキャスティング評価システムの全体的な構成例を示す図である。
【
図2】第1実施形態におけるセンサユニットとユーザ端末装置の構成例を示す図である。
【
図3】第1実施形態における総振動数の算出手法例を説明する図である。
【
図4】第1実施形態におけるユーザ端末装置が実行する処理手順例を示すフローチャートである。
【
図5】第2実施形態におけるキャスティング評価システムの全体的な構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態のキャスティング評価システムの全体的な構成例を示している。同図においては、魚釣用リールとしてスピニングリールが使用される場合を例に挙げている。
【0014】
同図においては、釣竿400の竿本体部401に設けられたリール取付台座(リールシート)402に対してスピニングリール300が取り付けられた状態が示されている。
【0015】
センサユニット100は、スプール301から釣糸が放出されることに応じて発生する振動を検出可能なように所定位置に設けられる。同図では、センサユニット100がスプール301におけるドラグノブの位置に取り付けられた例を示している。
【0016】
キャスティングが行われたことによりスプール301から釣糸が放出されることに応じて発生する振動は、スプール301から釣り糸が引き出される1周ごとに対応して周期的に生じる。このため、センサユニット100が検出する振動は、スプール301から釣糸が引き出される速度に応じた周期(周波数)を有するものとなる。
【0017】
センサユニット100は、スピニングリール300の所定位置に対して後付けで取り付けが可能な態様であってもよい。あるいは、センサユニット100は、スピニングリール300としての製品における一部品として、スピニングリール300に予め設けられていてもよい。
【0018】
センサユニット100は、振動についての検出結果を示す検出信号をユーザ端末装置200(キャスティング評価装置の一例)に送信する。同図では、センサユニット100とユーザ端末装置200との通信が無線で行われる例を示している。センサユニット100とユーザ端末装置200との間での無線通信の方式は、特に限定されないが、例えばBluetooth(登録商標)等を挙げることができる。
センサユニット100とユーザ端末装置200との通信は、ケーブルを経由した有線であってもよい。
【0019】
ユーザ端末装置200は、ユーザが所持する端末装置である。同図において、ユーザ端末装置200は、例えばスマートフォン等の携帯型の端末装置である例を示している。このようなスマートフォン等としてのユーザ端末装置200には、本実施形態のキャスティング評価システムに対応するアプリケーションソフトウェア(キャスティング評価アプリケーション)がインストールされる。
なお、ユーザ端末装置200は、例えば本実施形態のキャスティング評価に特化された専用の端末であってもよい。
【0020】
図2は、センサユニット100とユーザ端末装置200の構成例を示している。
同図のセンサユニット100は、センサ101と通信部102とを備える。
センサ101は、振動を検出する。センサ101は、例えば加速度センサや圧電素子を備えることにより振動を検出可能に構成されてよい。
通信部102は、ユーザ端末装置200と無線による通信を実行する。
【0021】
ユーザ端末装置200は、通信部201、制御部202、表示部203、操作部204、及び記憶部205を備える。
通信部201は、センサユニット100の通信部102と無線による通信を実行する。
【0022】
制御部202は、本実施形態のキャスティング評価に関する制御を実行する。制御部202としての機能は、ユーザ端末装置200において備えられるCPU(Central Processing Unit)が、例えばインストールされたリール制動調整アプリケーションソフトウェアとしてのプログラムをインストールすることによって実現される。
同図の制御部202は、周波数導出部221、キャスティング評価部222、及び報知部223を備える。
【0023】
周波数導出部221は、スプール301から釣糸が放出されることに応じて発生する振動を検出するセンサ101の出力に基づき、振動の周波数を導出する。つまり、センサユニット100のセンサ101は、振動の検出に応じた検出信号を通信部102に出力する。通信部102は、入力された検出信号をユーザ端末装置200に送信する。ユーザ端末装置200の通信部201は、送信された検出信号を受信する。周波数導出部221は、受信された検出信号を取得する。周波数導出部221は、取得した検出信号が示す振動の周波数を導出する。
【0024】
キャスティング評価部222は、周波数導出部221により導出された周波数に基づいて、キャスティングに関する所定の評価項目についての評価を行う。具体的に、本実施形態におけるキャスティングに関する評価項目としては、キャスティング初速度と、飛距離となる。
キャスティング初速度は、ユーザがキャスティングを行ったことでスプールから釣糸の放出が開始された際の釣糸の放出速度(即ち、釣糸に連結された仕掛けの飛行速度の初速度)である。
飛距離は、ユーザがキャスティングを行ったことにより放出された釣糸の長さである。本実施形態において、放出された釣糸の長さは、釣糸に連結された仕掛けの飛距離として扱われる。
キャスティング評価部222は、キャスティング初速度と飛距離とを算出し、算出したキャスティング初速度と飛距離の情報をキャスティング評価の結果として出力する。
【0025】
キャスティング評価部222は、キャスティング初速度については以下のように算出してよい。
つまり、キャスティング評価部222は、周波数導出部221は、キャスティングが行われたことに応じて釣糸の放出が開始されたタイミングに対応する検出信号に基づいて導出された周波数(放出開始時周波数)を入力する。周波数導出部221は、放出開始時周波数をFs(Hz)、スプール301の糸が巻かれた状態の直径(スプール径)の代表値(スプール径代表値)をS1(mm)として、以下の式1によりキャスティング初速度Vst(km/h)を算出する。
Vst=Fs×S1π×3600/1000000・・・(式1)
なお、この場合のスプール径代表値S1は、例えばスプール301に所定長の釣糸が巻かれている状態におけるスプール301の糸巻部分の半径の値であってよい。
一具体例として、ユーザは、メーカーが定めた標準糸巻量に従ってスプール301に釣糸を巻いていることが多い。この場合、釣糸放出期間の開始時においては、スプール301にはほぼ標準糸巻量に対応する釣糸が巻かれている状態であることになる。そこで、キャスティング初速度の算出に用いるスプール径代表値S1としては、標準糸巻量に対応する釣糸が巻かれた状態のスプール301の糸巻部分の半径(スプール径)を適用してよい。
【0026】
キャスティング評価部222は、式1によりキャスティング初速度Vstを算出するにあたり、スプール径代表値S1については記憶部205から取得してよい。
この場合、ユーザは、ユーザ端末装置200にキャスティング評価を行わせるのに先立って、キャスティング評価アプリケーションに対してスプール径代表値S1を設定しておくようにする。例えば、ユーザは、自分でスプール径代表値S1に対応する数値を入力する操作を行うことで、スプール径代表値S1を設定することができる。このように設定されたスプール径代表値S1が記憶部205に記憶される。
スプール径代表値S1をユーザが入力するにあたっては、例えば、上記のように標準糸巻量に対応するスプール径を入力するようにしてよい。標準糸巻量に対応するスプール径は、例えばスピニングリール300のメーカーが公開している値であってもよいし、ユーザが自分で計測した値であってもよい。
あるいは、キャスティング評価アプリケーション上で、スピニングリールの機種のリストのうちから自分が使用するスピニングリールを選択する操作をユーザが行うことに応じて、選択されたスピニングリールに対応するスプール径代表値S1が設定されるようにしてもよい。
また、例えば、スピニングリール300がセンサユニット100をはじめから部品の1つとして備える製品とされている場合には、センサユニット100にスプール径代表値S1を記憶させおくようにしてよい。そのうえで、センサユニット100が、ユーザ端末装置200との通信が可能となったことに応じてユーザ端末装置200にスプール径代表値S1を送信することで、ユーザ端末装置200にてスプール径代表値S1が設定されるようにしてもよい。
【0027】
また、キャスティング評価部222は、飛距離については以下のように算出してよい。キャスティング評価部222は、まず、キャスティングに対応して釣糸が放出される期間(釣糸放出期間)における総振動数Nを算出する。
このために、キャスティング評価部222は、釣糸放出期間の時間長Tr(sec)と、釣糸放出開始時の周波数(放出開始時周波数)Fsと、釣糸の放出が終了される直前のタイミングにおける周波数(放出終了時周波数)Feとを取得する。
図3(A)は、釣糸放出期間に対応する、時間長Tr、周波数Fs、周波数Feの関係を示している。
キャスティング評価部222は、釣糸放出期間に応じて、検出信号の波形パターンが振動に応じた有意な状態が開始されてから終了するまでの時間を計測することにより釣糸放出期間の時間長Trを取得してよい。
また、キャスティング評価部222は、周波数導出部221が釣糸放出期間に対応して導出した周波数のうち、最初に導出された周波数と、最後に導出された周波数とを取得することにより、放出開始時周波数Fsと放出終了時周波数Feとを取得してよい。
釣糸放出期間において、周波数は、釣糸放出開始時を最大として徐々に低くなっていき、釣糸の放出が終了される直前のタイミングで最小となるように変化する。従って、キャスティング評価部222は、釣糸放出期間における総振動数Nは、以下の式2により算出することができる。
N=(Fs+Fe)/2×Tr・・・(式2)
【0028】
上記式2により算出される総振動数Nは、
図3(A)に例示したように、釣糸放出期間の時間経過における単位時間ごとの周波数の減少量がほぼ等しいような場合には、一定以上の精度を得ることができる。投げ釣りなどでのキャスティングの場合には、このように時間経過における単位時間ごとの周波数の減少量がほぼ等しくなる傾向にある。
【0029】
しかしながら、
図3(B)に例示するように、釣糸放出期間の初期段階で大きく減衰するようにして周波数が変化する場合がある。例えば仕掛けに空気抵抗の大きいルアーを用いるような釣りでのキャスティングの場合にこのような周波数の変化となる傾向がある。
図3(B)のような周波数の変化が顕著であるほど、式2による演算では、算出される総振動数Nの誤差が大きくなる。
そこで、総振動数Nについては、釣糸放出期間の開始時点から一定時間dtの経過ごとに応じて区分される区分期間P
kごとの区分振動数をN
k(1≦k≦n)、区分期間P
kの開始時と終了時に対応する周波数をそれぞれF
k、F
k+1として、以下の式3、4により算出するようにされてよい。
N=N
1+N
2+・・+N
n-1+N
n・・・(式3)
N
k=(F
k+F
k+1)/2×dt・・・(式4)
この場合において、一定時間dtについては、最終的に算出される飛距離の誤差が要求される水準以内に収まるようにすることを考慮して設定されてよい。
式3、4を採用した演算のほうが算出される総振動数Nの精度が高いことから、本実施形態のキャスティング評価部222としては、式3、4を採用して総振動数Nの算出を行うようにしてよい。しかしながら、例えば、簡易的に飛距離を求めればよいような場合には、式2を採用して総振動数Nの算出を行うようにしてよい。式2を採用した場合には演算の処理負荷の軽減を図ることが可能になる。
【0030】
そのうえで、キャスティング評価部222は、式2、または式3、4により算出された総振動数Nと、スプール径代表値S2とを利用して、以下の式5により飛距離D(m)を算出する。
D=N×S2π/1000・・・(式5)
【0031】
飛距離Dの算出に利用するスプール径代表値S2については、以下のように、スプール径代表値S1と異なる値が設定されてよい。
実際のスプール径は、キャスティングにより釣糸が放出されていくことに応じて小さくなっていく。このため、スプール径代表値S2については、標準糸巻量に対応するスプール径よりも小さい所定の値を適用したほうが高い精度を期待できる。そこで、スプール径代表値S2については、標準糸巻量と、標準糸巻量よりも少ない所定の糸巻量との中間値(例えば平均値)としてもよい。
このようなスプール径代表値S2も、例えば、メーカーから提供される数値をユーザが入力する操作を行うことで設定されるようにしてもよい。
あるいは、キャスティング評価アプリケーション上で、スピニングリールの機種のリストのうちから自分が使用するスピニングリールを選択する操作をユーザが行うことに応じて、選択されたスピニングリールに対応するスプール径代表値S2が設定されるようにしてもよい。
また、例えばスピニングリール300がセンサユニット100をはじめから部品の1つとして備える製品とされている場合には、センサユニット100に記憶されたスプール径代表値S2をユーザ端末装置200が受信したうえで設定するようにしてよい。
【0032】
キャスティング評価部222は、上記のように算出されたキャスティング初速度Vstと飛距離Dとを評価結果として出力することができる。
なお、上記のように算出されるキャスティング初速度Vstと飛距離Dは、例えばスプール径に代表値を用いたりしているため、実際のキャスティング初速度、飛距離に対してある程度の誤差は生じ得る。しかしながら、本願の発明者により、上記のようにキャスティング評価部222が算出するキャスティング初速度Vst、飛距離Dと、実際のキャスティング初速度、飛距離との誤差は、実用上問題がない程度であることが確認されている。具体的に、飛距離に関しては、170m前後の実際の飛距離に対して、算出された飛距離Dの誤差が数メートル程度であった。
【0033】
報知部223は、キャスティング評価部222により得られたキャスティングに関する評価結果を報知する。具体的に、キャスティング評価部222は、算出されたキャスティング初速度Vstと飛距離Dとについて、所定の態様で表示部203にて表示させる。
なお、例えば、ユーザの操作により、キャスティング初速度、飛距離の目標値を設定可能なようにされてよい。そのうえで、報知部223は、算出されたキャスティング初速度Vst、飛距離Dの目標値に対する乖離の度合いを所定の態様で表したり、乖離の度合いに応じたメッセージ等をユーザに提示するような表示を行ってもよい。
【0034】
表示部203は、制御部202の制御に応じて表示を行う。
操作部204は、ユーザ端末装置200が備えるボタン等の操作子や、ユーザ端末装置200が備える操作デバイス、ユーザ端末装置200に接続される操作デバイス等を、一括して示す。例えば、表示部203がタッチパネルとして構成される場合、操作部204には、タッチパネルを構成するタッチパッド等のデバイスが含まれる。
記憶部205は、ユーザ端末装置200に対応する各種の情報を記憶する。本実施形態において、記憶部205は、設定されたスプール径代表値S1、S2を記憶する。また、記憶部205は、センサユニット100から送信された検出信号を記憶する。
【0035】
図4のフローチャートを参照して、ユーザ端末装置200が実行する処理手順例について説明する。
ステップS101:センサユニット100からは、例えばセンサ101の検出信号が継続的にユーザ端末装置200に対して送信される。ユーザ端末装置200においては、通信部201にて受信される検出信号が周波数導出部221に対して入力される。周波数導出部221は、入力される検出信号を監視する。
周波数導出部221に入力される検出信号は、スプール301から釣糸が放出されない状態においては周期的に変化する波形パターンを示さないが、キャスティングに応じてスプール301から釣糸が放出されることにより、周期的に変化する波形パターンを示す。検出信号の周期的に変化する波形パターンは、周波数の導出に対応する有意な波形パターンである。
そこで、周波数導出部221は、監視している検出信号の波形パターンについて、有意でない状態から有意な状態に変化するのを待機する。
【0036】
ステップS102:検出信号の波形パターンが有意な状態に変化したことに応じて、周波数導出部221は、記憶部205への検出信号の記憶を開始させる。
【0037】
ステップS103:ステップS102の処理の後、周波数導出部221は、検出信号の有意な波形パターンが終了するのを待機する。検出信号の有意な波形パターンの終了は、キャスティングにより飛行した仕掛けが着水または着底などしたことに応じて、スプール301からの釣糸の放出が停止された状態に対応する。
ステップS104:検出信号の有意な波形パターンが終了したことに応じて、周波数導出部221は、ステップS102にて開始させた検出信号の記憶を終了させる。このようにして、記憶部205には1回のキャスティングに応じてスプール301から釣糸が放出された釣糸放出期間に対応する検出信号が記憶される。
【0038】
ステップS105:周波数導出部221は、記憶部205に記憶された検出信号を利用して、釣糸放出期間の時系列における周波数を導出する。
【0039】
ステップS106:キャスティング評価部222は、ステップS105により導出された釣糸放出期間の時系列における周波数のうち、釣糸放出期間の開始タイミングに対応する周波数(Fs)を利用して、例えば前述の式1を用いた演算によりキャスティング初速度を算出する。
【0040】
ステップS107:また、キャスティング評価部222は、ステップS105により導出された釣糸放出期間の時系列における周波数(Fs、Fe)を利用して、前述の式1、式2を用いた演算により飛距離を算出する。
【0041】
ステップS108:報知部223は、ステップS106により算出されたキャスティング初速度とステップS107により算出された飛距離が反映されたキャスティング評価情報を表示部203に表示させる。
【0042】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態としてのキャスティング評価システムの全体的な構成例を示している。同図において、
図1と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
本変形例では、センサユニット100は、釣竿400に対して設けられる。同図では、センサユニット100は取付具150を介して釣竿400に取り付けられた例が示されている。
キャスティングに応じてスプール301に巻回された釣糸が放出されることにより生じる振動は、スピニングリール300が取り付けられた釣竿400にも伝達する。従って、本変形例においても、センサユニット100は、スプール301に巻回された釣糸が放出されることにより生じる振動を検出することができる。
【0043】
本実施形態においても、センサユニット100は、釣竿400の所定位置に対して後付けで取り付けが可能な態様であってもよいし、釣竿400としての製品における一部品として、釣竿400に予め設けられていてもよい。また、センサユニット100が設けられる釣竿400の部位については、例えば竿尻の部分等をはじめ、特に限定されない。
【0044】
<変形例>
以下、本実施形態の変形例について説明する。
なお、上記実施形態の説明では、スプール径代表値S1、S2についてそれぞれ異なる値を設定する場合について説明したが、スプール径代表値S1、S2については、キャスティング初速度Vstと飛距離Dとの演算の精度について必要な水準を維持できるのであれば、同じ値を適用してよい。この場合、スプール径代表値を共通に利用できるので、キャスティング初速度Vstと飛距離Dとの演算に関する処理をさらに簡易化できる。
【0045】
なお、キャスティング評価部222は、飛距離Dの算出にあたり、釣糸放出期間の時間の進行に応じて式3に適用するスプール径代表値S2を変更してよい。このようにスプール径代表値S2を変更する場合には、スプール301に巻回された釣糸の太さをユーザ端末装置200に設定する。例えばキャスティング評価アプリケーション上で、釣糸の種類(ナイロン、PE等)、号数あるいはポンド数等の釣糸の仕様を入力することにより、入力された仕様に応じた釣糸の太さが設定されるようにしてよい。
キャスティング評価部222は、例えば釣糸放出期間を一定の振動数ごとに対応する区間に区分し、区間ごとの釣糸の放出長と釣糸の太さとに基づいて、区間ごとに対応するスプール径の減少量を算出する。キャスティング評価部222は、算出されたスプール径の減少量に基づいて区間ごとのスプール径代表値S2を算出してよい。
【0046】
なお、上記実施形態においては、キャスティング初速度と飛距離とのいずれの評価項目についても反映されたキャスティング評価画面を表示するようにされているが、キャスティング初速度と飛距離とのいずれか一方の評価項目が反映されたキャスティング評価画面が表示されるようにしてもよい。この場合、キャスティング評価部222は、キャスティング評価画面に反映されない評価項目については、算出する処理を実行しなくともよい。
【0047】
なお、本実施形態のセンサユニット100におけるセンサ101は、キャスティングによりスプール301から釣糸が放出されることにより発生する音を検出するようにしてよい。この場合、センサユニット100は、センサ101により音を検出し、例えば検出した音の信号(オーディオ信号)を検出信号として通信部102から送信するように構成されてよい。この場合、ユーザ端末装置200の周波数導出部221は、入力されたオーディオ信号の周波数を導出する。あるいは、センサユニット100は、センサ101により音を検出したうえで、検出した音を振動に変換し、変換後の振動を示す信号を検出信号として通信部102から送信するように構成されてよい。
【0048】
なお、本実施形態のキャスティング評価システムにおける魚釣用リールは、スプールから釣糸が放出されることに応じて周期的に振動が生じるようなものであれば、特に限定されない。
【0049】
なお、上述のセンサユニット100やユーザ端末装置200等としての機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより上述のセンサユニット100やユーザ端末装置200等としての処理を行ってもよい。ここで、「記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行する」とは、コンピュータシステムにプログラムをインストールすることを含む。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、インターネットやWAN、LAN、専用回線等の通信回線を含むネットワークを介して接続された複数のコンピュータ装置を含んでもよい。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。このように、プログラムを記憶した記録媒体は、CD-ROM等の非一過性の記録媒体であってもよい。また、記録媒体には、当該プログラムを配信するために配信サーバからアクセス可能な内部または外部に設けられた記録媒体も含まれる。配信サーバの記録媒体に記憶されるプログラムのコードは、端末装置で実行可能な形式のプログラムのコードと異なるものでもよい。すなわち、配信サーバからダウンロードされて端末装置で実行可能な形でインストールができるものであれば、配信サーバで記憶される形式は問わない。なお、プログラムを複数に分割し、それぞれ異なるタイミングでダウンロードした後に端末装置で合体される構成や、分割されたプログラムのそれぞれを配信する配信サーバが異なっていてもよい。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、ネットワークを介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
100 センサユニット、101 センサ、102 通信部、150 取付具、200 ユーザ端末装置、201 通信部、202 制御部、203 表示部、204 操作部、205 記憶部、221 周波数導出部、222 キャスティング評価部、223 報知部、300 スピニングリール、301 スプール、400 釣竿、401 竿本体部、402 リール取付台座