(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】リグノセルロース系材料の部分的脱リグニン化及び充填方法、並びに当該方法により得られる複合材料構造体
(51)【国際特許分類】
B27K 5/00 20060101AFI20220613BHJP
E04B 1/26 20060101ALI20220613BHJP
A47B 55/00 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
B27K5/00 G
B27K5/00 A
E04B1/26 Z
A47B55/00
(21)【出願番号】P 2018548290
(86)(22)【出願日】2016-12-07
(86)【国際出願番号】 FR2016053247
(87)【国際公開番号】W WO2017098149
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-12-04
(32)【優先日】2015-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520299382
【氏名又は名称】ソシエテ パ アクシオンス シンプリフィエ ウードゥー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ティモテ ボワトゥゼ
(72)【発明者】
【氏名】バンジャマン ドロゲ
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-077740(JP,A)
【文献】米国特許第04992308(US,A)
【文献】国際公開第2014/002674(WO,A3)
【文献】特開2011-225847(JP,A)
【文献】特開2015-020307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 - 9/00
E04B 1/26
A47B 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系材料の構造体を処理するための処理方法であって、前記リグノセルロース系材料は好ましくは木材であり、以下の工程
:
(1)少なくとも1種の流体によりリグノセルロース系材料の前記構造体をソーキングして、前記材料中に存在するリグニンを部分的に溶解させる少なくとも1つの工程;
(2)部分的脱リグニン化構造体を生じさせるために、ソーキング工程(1)からもたらされた溶解リグニンを排出するように、工程(1)からもたらされた構造体を少なくとも1種の有機流体により洗浄する少なくとも1つの工程;
(3)充填された部分的脱リグニン化構造体を生じさせるために、洗浄工程(2)からもたらされた部分的脱リグニン化構造体に少なくとも1種の充填化合物を充填する少なくとも1つの工程;及び
(4)セルロースとリグニンのネットワークに組み込まれた変換された充填化合物の三次元ネットワークから形成された複合材料構造体を得るために、充填工程(3)からもたらされた充填された部分的脱リグニン化構造体を仕上げる少なくとも1つの工程
;
を含み、
ソーキング工程(1)の流体が、以下から選択される、処理方法:
- 酢酸と過酸化水素の混合物を含む水溶液、あるいは、HBr、H
2
SO
4
又はH
3
PO
4
を含む酸性溶液;
- 場合によっては少なくとも1種のイオン性液体の存在下又は少なくとも1種のイオン性液体と少なくとも1種の補助溶媒の存在下で、少なくとも1種の酵素を含む流体;
- 純粋なイオン性液体;
- 溶液中に1又は2種以上の酵素を含むイオン性液体;
- イオン性液体と混和性の少なくとも1種の溶媒との混合物でイオン性液体;
- 溶液中に1又は2種以上の酵素を含む少なくとも1種の混和性溶媒との混合物でイオン性液体;
- 相の一方が、純粋な又は少なくとも1種の混和性溶媒と混合されたイオン性液体によって構成され、他の相が、超臨界流体によって構成される二相系;
- 相の一方が、純粋な又は少なくとも1種の混和性溶媒との混合物でイオン性液体によって構成され、他の相が超臨界流体によって構成される二相系であって、さらに、イオン性液体を含む相中に1又は2種以上の酵素を溶液で含む二相系;
- 少なくとも1種の酵素を含む、純粋な化合物又は化合物の混合物の任意の溶液;及び
それらの混合物。
【請求項2】
工程(1)において、前記材料中に存在するリグニンの少なくとも40質量%かつ最大で85質量%が溶解される、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
リグノセルロース系材料の前記構造体がトリミング部材、仕上げ部材又は構造部材である、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記ソーキング工程の前に、前処理工程があり、前記前処理工程は、リグノセルロース系材料の構造体を少なくとも1種の
流体によりプレソーキングする少なくとも1つのサブ工程と、それに続く、プレソーキングのサブ工程からもたらされた溶解した化合物を排出するように、プレソーキングのサブ工程からもたらされた構造体を少なくとも1種の有機流体によりプレ洗浄する少なくとも1つのサブ工程とを含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項5】
前記洗浄工程(2)の前記有機流体が、エタノール、ヘキサン、イソプロパノール、ヘプタン及びこれらの混合物からなる群から選択される液体である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項6】
前記充填工程(3)の前記充填化合物が、前記充填工程(3)の圧力及び温度の条件下で液体状態であり、前記部分的に脱リグニンされた構造体を液体のコポリマー又はポリマー中でソーキングすることによって充填工程(3)を実施する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項7】
前記充填工程(3)の前記充填化合物が、前記充填工程(3)の圧力及び温度の条件下でモノマー溶液中に存在する重合性モノマーであり、前記モノマー溶液はさらに少なくとも1種の触媒を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記充填工程(3)の前記モノマー溶液が、以下から選択される少なくとも1種のモノマーを含む、請求項
7に記載の処理方法:
- 石油から製造されるモノマー、かかるモノマーには、メタクリレート、フタレート;ニトリル;スチレン及びスチレン誘導体;ビニル化合物;エチレン性化合物;ブタジエン;イソプレンがある;及び
- バイオソースモノマー、かかるモノマーには、テルペン;エピクロロヒドリン、プロパンジオールの異性体及びグリコール酸の異性体のうちの少なくとも1種との反応後に得られるグリセロール及びグリセロール誘導体;糖の誘導体;フルフラール誘導体;乳酸及びギ酸誘導体;ヒマシ油から製造されるモノマー;ヒドロキシアルカン酸;バイオエチレン;バイオエチレングリコール;バイオプロピレン;バイオ-1,4-ブタンジオール;リグニン誘導体;並びにこれらの混合物。
【請求項9】
前記洗浄工程(2)の前記有機流体から回収された溶解リグニンが、建設材料、もしくは航空機に使用される材料、もしくは包装材料、もしくはバイオ燃料、もしくは医薬化合物、又は化合物の製造のために、リグニンを利用するプロセスにおいて使用される、請求項1~
8のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項10】
前記リグノセルロース系材料が軟材であり、前記構造体中に存在するリグニンの50~85質量%、好ましくは50~75質量%が前記ソーキング工程(1)の間に溶解される、請求項1~
9のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項11】
前記リグノセルロース系材料が硬材であり、前記構造体中に存在するリグニンの40~60質量%、好ましくは45~55質量%が前記ソーキング工程(1)の間に溶解される、請求項1~
9のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項12】
リグニン、ヘミセルロース、セルロース及び少なくとも1種の充填化合物を含む複合材料構造体(62)であって、前記構造体が、請求項1~
11のいずれか一項に記載の処理方法の実施によって得られ、前記複合材料構造体がセルロース及びリグニンの構造(44’、45,47,46)に組み込まれた変換された充填化合物の三次元ネットワーク(59)を形成している、複合材料構造体(62)。
【請求項13】
前記構造体が実質的に半透明である、請求項
12に記載の材料構造体。
【請求項14】
前記構造体がトリミング部材、仕上げ部材又は構造部材である、請求項
12又は
13に記載の材料構造体。
【請求項15】
請求項
12~
14のいずれか一項に記載の少なくとも1つの複合材料構造体(62)を含む製品であって、前記製品は、家具のアイテム又は家具のアイテムの一部、建築物のコンポーネント、自動車部品又は航空部品である製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系材料を改質するための処理と、この処理により得られる、天然の構造(architecture)が実質的に及び有利に保たれた任意の改質リグノセルロース系材料(「複合材料(composite)」として適する)とに関する。特に、本発明は、リグノセルロース系材料の構造体(structure)の部分的脱リグニン化及び充填方法と、この方法により得られる構造体とに関する。リグノセルロース系材料は好ましくは木材である。
【背景技術】
【0002】
木材のある種の機械的特性、例えば圧縮抵抗性及び曲げ抵抗性などは、木材に少なくとも1種のモノマー及び/又はポリマーを含浸することによって変えることができることが知られている。モノマー及び/又はポリマーが含浸されたかかる木材は、一般的に、木材複合材料と呼ばれる。それは、一般的に、表面含浸された、すなわち概して表面から小さな厚さまで含浸された無垢の木材である。
【0003】
木材複合材料を製造する既知の方法は、モノマー及び/又はポリマーが溶解した水溶液などの流体中で処理するための木材の浸漬と、流体を加圧して、モノマー及び/又はポリマーを木材の中に組み込むための流体の加圧を含む。しかしながら、かかる方法は、冗長であり、深部まで木材に含浸させるために高圧を必要とする。
【0004】
従って、例えば部分真空を使用することにより、この方法の改善が求められている。しかしながら、このように想定される技術は全て、深部まで木材の孔に含浸させることが困難であることを主な理由としてそれらの長い時間のために不利であり、満足のいく解決策は見出されていない。
【0005】
また、木材にメチルメタクリレート(MMA)を含浸させ、次に、そのように含浸されたモノマーを重合させることも知られている。重合は、例えばレーザービーム又はガンマ線などの高エネルギー放射線を使用して実施することができる。この方法は時間がかかり、高エネルギー放射線の使用は特に費用がかかることが判明している。
【0006】
さらに、超臨界流体(超臨界状態の流体)の使用によって、酸性又は塩基性(アルカリ性)媒体中のモノマーによる木材の含浸を行うことが国際公開第90/02612号に提案されている。この超臨界流体は、モノマー又はポリマーの多孔質木材への含浸を促進する。
【0007】
国際公開第90/02612号に提案されている第1の実施形態は、超臨界状態に維持された第1の流体の存在下で木材にアルカリ性又は酸性媒体を含浸すること、及び、この媒体により含浸された木材を、超臨界状態に維持された第2の流体の存在下で消化して木材から抽出可能な物質及びリグニンを抽出することを含み、これにより、一般的に離散して得られる繊維がもたらされ、当該繊維は、超臨界流体から及び抽出生成物から分離される。このようにして得られた木材は回収され、紙に変換される。
【0008】
この第1の実施形態は、リグニンの全部ではないにしても非常に大きな割合が木材から抽出され、木材の内部構造の破壊をもたらすようであるため、もっぱら木材チップ用である。従って、国際公開第90/02612号の実施例では、抽出可能な物質及びリグニンが抽出されると、これらのチップはパルプの状態になる。離散繊維がペースト状に凝集した状態にある、このようにして得られたパルプは、従来技術と比較して機械的特性の点でより高い品質の木質ボード(ファイバーボードのタイプ)を形成することを可能にする。
【0009】
国際公開第90/02612号に提案された第2の実施形態は、セルロースを含有する材料から抽出可能な物質(リグニンではない)を抽出するために、超臨界状態の第1の流体によって、セルロースを含有する材料を処理すること;抽出可能な物質がより少ない材料を得るために、材料から抽出可能な物質を含む超臨界溶媒を分離すること;材料中へのモノマーの含浸を可能にするのに十分な条件下で、セルロースを含有し、抽出可能な物質がより少ない材料を、重合性モノマーを含む第2の超臨界流体と接触させること;セルロース内にモノマーを析出させること;及び、セルロースを含有する材料を生成させるために、析出したモノマーを現場で重合させることを含む。この材料は、改善された特性を示すようである。
【0010】
この第2の実施形態は、特定のサイズの木片のために特別に準備されたものである。従って、実施例では、大きなブロック又は丸太がMMA又はスチレンにより処理された。
【0011】
しかしながら、国際公開第90/02612号に記載されている2つの実施形態は、充填材料がリグニンと十分に置き換わることを可能にしながら、木材の微細構造を保持することを可能にしない。実際、この文献に従う処理は、実質的に完全な脱リグニン化を生じてパルプが得られるか、もしくは非常にわずかな脱リグニン化を生じるか、又は脱リグニン化をまったく全く生じない。
【0012】
より最近、国際公開第2010/089604号に、酸性pHで無水酢酸をベースとする配合物を材料に含浸させ、次に、その材料に水性の有機製品ベースの配合物を含浸させた後、加圧して上記2種の溶液を材料中に含浸させ、次に加熱して含浸されたリグノセルロース系材料中に存在する有機材料を架橋させることによって製造される、リグノセルロース系材料の部材を得ることが記載された。これにより、1個の硬化したリグノセルロース複合材料を製造することが可能になる。しかしながら、有機製品による材料片の充填は、部分的又は表面的(すなわち、表面からの小さな厚さ)にしかできない。これは、1個の比較的厚い片の処理が、改善された機械的強度特性の特性を与えることができないことを意味する。
【0013】
特に、アクリル樹脂(トリシクロデカンジメチルジメタクリレート、TCDDMA)のモノマー化合物の使用による、100μm未満の厚さの「紙」の透明シートの製造も記載されている(Advanced Materials, 2009, 21, 1595-1598,“Optically transparent nanofiber paper”, Nogi et al., 2009)。この製造方法は、完全な脱リグニン化を含み、組織化されていない離散繊維が得られる。次いで、これらの繊維は、圧縮前に樹脂で処理され、次に架橋される。
【0014】
従って、より強靭な材料を作製するための木材の含浸又は他のリグノセルロース系材料の含浸について知られている方法は、実施するのに複雑で比較的コストがかかる方法であり、その実施は、木材から複合材料を工業的に生産するには現実的に想定できないほど非常に時間がかかりすぎる。
【0015】
従って、木材の構造を保持し、処理前のリグノセルロース系材料と比較して改善された機械的特性、特に曲げ抵抗性及び圧縮抵抗性を有する材料によって構成された構造体を得るために、リグノセルロース系材料の構造体、好ましくは木材を処理するための方法が、今日、依然として必要とされている。「リグノセルロース系材料の構造体を処理する」とは、本明細書において、その材料を構成する物質の処理を意味する。
【0016】
本発明の主な目的の1つは、先行技術の方法の上記の欠点を軽減することであり、特に、実施が簡単であり、木材の構造を保持し、機械的、化学的及び/又は光学的特性が改善された材料を得ることを可能にする、リグノセルロース系材料の処理方法を提供することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、第1の態様によれば、本発明は、リグノセルロース系材料の構造体を処理するための処理方法に向けられており、リグノセルロース系材料は好ましくは木材であり、当該方法は以下の工程を含む:
(1)少なくとも1種の有機流体によりリグノセルロース系材料の構造体をソーキングして、当該材料中に存在するリグニンの少なくとも40質量%かつ最大で85質量%を溶解させる少なくとも1つの工程;
(2)部分的脱リグニン化構造体を生じさせるために、ソーキング工程(1)からもたらされた溶解リグニンを排出するように、工程(1)からもたらされた構造体を少なくとも1種の有機流体により洗浄する少なくとも1つの工程;
(3)充填された部分的脱リグニン化構造体を生じさせるために、洗浄工程(2)からもたらされた部分的脱リグニン化構造体に少なくとも1種の充填化合物を充填する少なくとも1つの工程;及び
(4)セルロースとリグニンのネットワークに組み込まれた変換された充填化合物の三次元ネットワークから形成された複合材料構造体を得るために、充填工程(3)からもたらされた充填された部分的脱リグニン化構造体を仕上げる少なくとも1つの工程。
【0018】
第2の態様によれば、本発明は、リグニン、ヘミセルロース、セルロース及び少なくとも1種の充填化合物を含む複合材料構造体であって、前記構造体が本発明の第1の態様の処理方法の実施によって得ることができるものであり、複合材料が、セルロースとリグニンの構造体中に組み込まれた変換された充填化合物の三次元ネットワークを形成している複合材料構造体にも向けられている。
【0019】
一実施形態によれば、この第2の態様において、本発明は、特に、リグニン、ヘミセルロース、セルロース及び少なくとも1種の充填化合物を含む複合材料構造体であって、前記構造体は、本発明の第1の態様に従う処理方法の実施によって得ることができ、複合材料は、セルロースとリグニンの構造体中に組み込まれた変換された充填化合物の三次元ネットワークを形成している複合材料構造体に関する。
【0020】
最後に、第3の態様によれば、本発明は、本発明に従う少なくとも1つの複合材料構造体を含む製品であって、前記製品は、家具のアイテムもしくは家具のアイテムの一部、建築物のコンポーネント、自動車部品又は航空部品である、製品に関する。
【0021】
本発明に従うリグノセルロース系材料の構造体を処理する方法は、当該構造体の部分的脱リグニン化と、その後の、そのようにリグニン化された構造体中に安定化される化合物により充填との新規かつ革新的な組合せを含む。この組み合わせは、有利なことに、材料の構造を実質的に保持し、2つの相互貫入ネットワークによって形成された複合材料を得ることを可能にする。この複合材料において、リグノセルロース系材料の構造はナノスコピックスケールで変わるが、マイクロスコピック及びマクロスコピックスケールでは実質的に保たれる。従って、本発明に従う処理によって複合材料に変換されたリグノセルロース系材料の特性は、機械的、化学的及び/又は光学的であるかどうかにかかわらず、処理前の材料と比較して著しく改善される。
【0022】
いかなる理論にも束縛されるわけではないが、出願人は、これは、複合材料が、天然(又は自然)の状態のリグノセルロース系材料中に存在するものよりも強い、特に変換された充填化合物を介する、リグノセルロース系材料の繊維間の分子結合を含むという事実によるものと考える。従って、複合材料は、リグノセルロース系材料の高密度化された構造体から構成され、その中で、変換された充填化合物が、接触点の追加によって、及び、ミクロポロシティ及びナノポロシティの体積を充填することによって、ナノリグノセルロース系繊維をまとめる連続的な化学バインダーの役割を果たすために、複合材料は、有利なことに、リグノセルロース系材料の特性と、変換された充填化合物(架橋されるか否かにかかわらず、多くの場合、ポリマータイプのもの)の特性とを合わせ持つ。これは、セルロースの束をナノスコピックスケールで無秩序に結合する天然のリグニンネットワークよりも効果的である。しのため、これは化学的又は物理化学的な固定と呼ばれる。
【0023】
出願人は、高密度化された構造が、天然のリグノセルロース構造(リグニンが一般的に非晶質である)と比較して、リグノセルロース系構造のより良好な組織化(従って、コンパクトさの向上)及びリグノセルロース系構造の結晶性の増加からも生じると考えている。
【0024】
従って、最終的に、当該複合材料は、天然状態よりもはるかに高い機械的強度のリグノセルロース系材料を含む。当該複合材料は、「硬化した」ものとしてみなすことができる。これは、複合材料の高品質、及び天然のリグノセルロース系材料に対して改善されたその機械的、化学的及び/又は光学的特性を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
定義
リグノセルロース系材料の「構造(architecture)」とは、階層化集団(hierarchized ensemble)であって、当該集団に機械的な固さ(mechanical solidity)を提供するマルチスケール組織、すなわちマクロスコピック、マイクロスコピック又はナノスコピックスケールの階層化集団を意味する。本発明に従うリグノセルロース系材料の構造体の全部又は一部は、木材の構造から生じ、そのうちのいくつかの成分を以下で簡単に概説する。
【0026】
原子スケールでは、木材は約50%の炭素原子、6%の水素原子及び40%の酸素原子、ならびに痕跡量の無機化合物及び有機金属錯体を含む。より具体的には、木材は、セルロース及びヘミセルロースの形態の60~75%の炭水化物、ならびに18~35%のリグニンから構成される。ヘミセルロースは、ヘミセルロースとの横方向の物理的及び化学的結合により、セルロース束上の周辺含有物(peripheral inclusions)であり、リグニンは、ヘミセルロースとのその横断的な物理的及び化学的な結合によって、それらの束間での横断的結合として無秩序に機能し、その結果、当該構造のブレーシング(bracing)として機能する。マクロスコピックスケールでは、木材において、暗い色の心材(赤身材)と辺材の2つの部分が特に区別される。これらの2つの部分は成長輪を有し、春からの材と夏からのより色の濃い材とは区別される。
【0027】
腔(cavity)、内腔(lumen)、壁(wall)及びピット(pits)と呼ばれる樹液の輸送のための細胞内チャネル(intercellular channels)によって構成される植物細胞は、マイクロスコピックスケールの構成単位である。生存状態では、樹木の樹皮の近くにある木材の細胞の腔は、樹木の根から先端への樹液の輸送を提供し、壁は機械的強度の機能を提供する。細胞は樹木の成長とともに徐々に死んでいき、以後は樹木のブレーシングを提供するだけである。細胞壁は、特定の物理化学的性質を有する3つの別個の層(中葉(middle lamella)、一次壁(primary wall)及び二次壁(secondary wall))の積み重ねによって構成される。これらの細胞層の各々は、主に、リグニン、セルロース及びヘミセルロースの3種のポリマーにより構成される。主に植物細胞壁の中葉に存在するリグニンは、セルロースフィブリル同士を結合しており、木材の構造体のための支え(support)を提供する。木材のマルチスケール構造は異方的である。これは、リグノセルロース系材料集団の機械的な固さ及び不透明度を提供する。構成要素の構造及びマイクロスコピック及びナノスコピック構造は、考慮される木材に依存する。
【0028】
リグニン、セルロース及びヘミセルロースの各量は、考慮される木材、樹木及び樹木の部分によって変わる。セルロースは部分的に半結晶質であるが、リグニンは非晶質である。リグニンは濃茶色であるのに対し、セルロース及びヘミセルロースは白色である。これらの3種のポリマーは、材料がナノスコピックポロシティを有する程度に絡み合っており、その中に抽出成分(extractives)と呼ばれる物質が存在する。材料中に固定(主に物理化学的結合により)されているが、これらの物質はリグノセルロース系材料によって構成されるネットワークから独立している。
【0029】
「抽出成分」は、可視光を強く吸収する物質である。ポロシティ内部にそれらが存在することは、多数の界面が存在することを意味し、これにより、材料内の光放射の拡散及び伝播が生じる。「抽出成分」という用語は、リグノセルロース系材料の成長中に合成された二次代謝産物に由来する多くの物質を総称する。それらは、リグノセルロース系材料の性質に関連して、混合物の形態、時には複合体で、比較的少量(5~10質量%)で存在し、非常に可変的である。これらの物質の可変性(量及び品質)は大きい。考慮されるリグノセルロース系材料の成長位置の土壌の組成及び気候は、この材料の抽出成分の化学的素性(chemical identity)を含むこの材料の化学的素性に大きく影響する。
【0030】
抽出成分は、極性又は非極性、親水性又は疎水性、線状、モノ芳香族又はポリ芳香族であり得る、非常に多様な構造、官能性及び特性を有する物質を総称する。抽出成分のなかで、ワックス及び脂肪、テルペン(モノテルペン、ジテルペン、トリテルペン、セスキテルペン、ジテルペン酸)及びフェノール系化合物(フェノール類、リグナン類、スチルベン類、フラボノイド類、ビフラボノイド類、縮合タンニン類、加水分解性タンニン類の誘導体)を挙げることができる。
【0031】
抽出成分は、木材のためのさらなる化学的保護を提供する。実際、それらは、しばしば、真菌、酵素、キシロファージ昆虫、微生物などの外的攻撃に対するリグノセルロース系材料の防御機構に関与している。抽出成分は、また、臭い、部分的には色、そしてリグノセルロース系材料に固有の寿命の起源でもある。
【0032】
リグノセルロース系材料の構造は、観察レベルでの組織のスケールがどのようなものであっても、その材料が、いかなる処理にもかけられなかったリグノセルロース系材料で遭遇するものと同様の特性を有する場合、「天然」(又は「自然」)のままのものとして分類される。
【0033】
用語「化学的固定」は、2つの化合物間の分子結合に関し、用語「物理化学的固定」は、2つの化合物間の水素結合型、ファンデルワールス型、イオン型又は金属型の結合に関する。
【0034】
以下でより単純に「空間」又は「体積」(物質の実質的な欠如に相当する)とも呼ぶ用語「木材の構造空間(architectural space)」は、生細胞では樹液で満たされる木材のマイクロスコピックな腔及びそれらを繋げるピットだけでなく、細胞壁に含まれるポリマーの絡み合った鎖の間のナノスケール空間にも関する。
【0035】
「リグノセルロース系材料の構造体」とは、本発明によれば、リグノセルロース系材料から構成された、少なくとも約2cm3の特定の体積(三次元)を有する三次元の物体を意味する。リグノセルロース系材料の構造体は、天然のリグノセルロース系材料の構造を実質的に維持したマクロスコピックな物体である。従って、好ましくは、リグノセルロース系材料の構造体は、少なくとも5mmで最大40cmの少なくとも1つの寸法を含む。リグノセルロース系材料が木材である場合、構造体は、典型的には、木材の切断部分(横方向切断、長手方向切断、ラジアル切断)であり、例えば厚さ5~7mm又は15mmを有するものであることができる。
より具体的には、リグノセルロース系材料の構造体は、トリミング部材、仕上げ部材又は構造部材であることができる。
【0036】
「トリミング部材」とは、本発明によれば、3つの寸法のうちの1つ、一般的に厚さが、その他の2つの寸法よりもずっと小さく、典型的には少なくとも約0.5mm、好ましくは少なくとも約1mm、さらにより好ましくは少なくとも約2mm、さらにより好ましくは少なくとも約5mmである3次元の物体を意味する。
【0037】
この物体は、一般的に木材ラミナ、象嵌要素、被覆材、ベニヤ、厚ベニヤ及び木材積層体(layers of wood)、好ましくはベニヤ及び厚ベニヤから成る群から選択される。それは、実質的に用語「ベニヤ」、好ましくは「厚ベニヤ」に対応する。
【0038】
本発明によれば、「仕上げ部材」とは、3つの寸法のうちの1つ、一般的に厚さが、その他の2つの寸法よりもずっと小さく、典型的には少なくとも約1cm、好ましくは少なくとも1.5cm、さらにより好ましくは少なくとも約2cmである3次元の物体を意味する。この物体は、典型的には、建築物における仕上げ加工物に対応しており、すなわち、それは、クラッディング(cladding)、バッテン(battens)、スラット(slats)、幅木(skirting boards)、パーケット(parquets)、仕切り(partitions)、パネル(panels)、屋根葺き材(roof coverings)及び建具類(joinery work)から成る群から選択される。これは実質的に用語「製材(timber)」に相当する。
【0039】
「構造部材(structure member)」とは、本発明によれば、典型的には建設部材(construction member)であり、3つの寸法のうちの最小寸法が典型的には少なくとも約10cmである3次元の物体を意味する。この物体は、建物における構造体(又は架設物)に対応しており、すなわち、それは、柱(posts)、梁(beams)、ラチス構造体(lattice structure)及び枠組み(frameworks)から成る群から選択される。これは実質的に用語「製材(lumber)」に相当する。この物体は、また、交差プライで、換言すれば、互いに垂直に、互いに上下に結合され配置された少なくとも3つの単層シートによって構成されたボードであるクロス・ラミネイティド・ティンバー(CLT)を含む。一般的に、CLTボードは、3~7層の木材で構成されている、それらの層の繊維の配向は交差している。これらの異なる木材層は厚さが2cm~8cmの間で変動し、ボードは、最も薄い場合の6cmから最も厚い場合の28cmまでで変わる全厚に達する。
【0040】
「建築部材(building member)」とは、本発明によれば、建築技術分野の部材、すなわち、トリミング部材、仕上げ部材又は構造部材のいずれかである建設部材を意味する。
【0041】
「流体」とは、本発明によれば、液体又は気体を意味する。「有機」とは、本発明によれば、主に、炭素、水素と、酸素及び窒素を含むことを意味する。
【0042】
「ソーキング(soaking)」とは、本発明によれば、構造体が、その外面の主要部分、好ましくは実質的に全体で有機流体と接触して配置されることを意味する。そのため、ソーキングは必ずしも浸漬を意味せず、それは単に有機流体と部分的又は全体的に接触するものであればよい。ソーキングは、以下の力のうちの少なくとも1つの作用によって、有機流体による部分的又は全体的な含浸を生じ得る:拡散力、毛細管力、重力、ソーキングを受ける化合物の外部の撹拌力、又は流体の移動能力に作用する他の力。同一の又は反対の効果をもたらすために、これらの力のうちのいくつかを一緒に作用させることは排除されない。
【0043】
「生木材(green wood)」とは、例えば伐採されたばかりの木材などの、遊離している又は細胞ネットワークに結び付いた水分子を依然として含む木材を意味する。従って、伐採されたばかりの木材は、一般的に100%の相対含水率を含む木材であるのに対して、「湿潤木材(damp wood)」は、定義上、細胞ネットワークの腔内の水分子を含むだけで、すなわち約30%の相対含水率である。木材の含水率の測定は、その木材が含む水の重量とその無水重量との比として、木材開発の全国委員会(National Committee for the Development of Wood)(フランス語の頭文字はCNDB)によって定義されている。次の式で表される。
含水率(%)=[(湿潤重量-無水重量)×100]/無水重量。
伐採時には、木材は木質物質よりも多くの水を含んでいる可能性があり、ある種のポプラでは時には2倍以上になる。そのため、相対含水率は100%より大きい。CNDBによれば、その下では収縮及び膨潤が起こる木質繊維の飽和点は、すべての種類で30%程度である。
【0044】
「乾燥木材」とは、細胞壁内に保持された水の百分率を減少させるために処理された木材を意味し、その水分含有率は一般的に0~30%に位置する。
【0045】
「A及び/又はB」は、A、もしくはB、又はA及びBを意味する。
【0046】
「質量%」は、質量百分率を意味する。特に明記しない限り、本明細書に示されている百分率は質量百分率である。
【0047】
リグノセルロース系材料
特に好ましくは、リグノセルロース系材料は木材である。この木材は、本発明によれば、生木材、湿潤木材又は乾燥木材であることができる。例えば、この木材は、より長い又はより短い期間(数日から数年)の可能な貯蔵の後に使用される木材であることができる。この木材は、伐採後に変換されたもの、すなわち、切り分けられ、所定長さに切断され、かんながけされ、その樹皮を取り除かれ、その辺材を取り除かれ又はその心材を取り除かれたものであるか、あるいは、エンジニアード・ウッド(engineered wood)であることができる。本発明によれば、生木材又は湿潤木材を処理できることは、木材の乾燥工程前の無視できない節約が可能となるため、特に有利である。
【0048】
木材は、老朽化した木材、すなわち、例えば既に建設木材として役に立った木材でもよい。従って、本発明の方法は、有利なことに、建設木材をリサイクルすることを可能にし、建設木材に価値を付加することを可能にする。
【0049】
リグニン含有量が15~35質量%、好ましくは18~32質量%、さらにより好ましくは20~30質量%である実質的にすべての種類の木材(木質系とも呼ばれる)は、それらが被子植物の科に属するか又は裸子植物の科に属するかにかかわらず、それらがオークもしくはアッシュタイプの高価値木材であるか、又は、例えばファニシングもしくは建築分野(建設)で一般的に使用されている木材、例えばアッシュなどのファニシング木材や、パイン、ブナもしくはダグラスファーなどの建設用木材、又はポプラもしくはある種のバルサなどの、木質部材の旋削や模型作製に使用されるより柔軟な木材であるかにかかわらず、本発明に従う方法により処理できる。
【0050】
そのため、軟材としては、裸子植物、好ましくはモミ、パイン、ダグラスファーの軟材を挙げることができ、また、ティリア、ポプラ、ロビニアシュードアカシア、アルダー又はヤナギなどの硬材が挙げられる。より一般的には、軟材は、ノルウェーパイン、パイン、トウヒ、イチイ、カラマツ、モミ、ヨーロッパハイマツ(arolla pine)、ダグラスファー、モンキーパズル(monkey puzzle)、ジュニパー、シダー、セコイア、ツヤ(thuya)及びイトスギから成る群から選択される。
【0051】
硬材は、被子植物、好ましくはアルダー、バーチ、バルサ、ブナ、アッシュ、ユーカリ、コットンウッド、ヘベア、ポプラ、アスペン、ヤナギ、ロビニアシュードアカシア(robinia pseudoacacia)、オーク、マホガニー、グアタンブ(guatambu)、コリーナ(korina)、メランチ(meranti)、ティリア(tilia)、チェスナット、メープル、ホースチェスナット、エルム、ヘーゼル、ウォルナット、オサジオレンジ(osage orange)、プレーンツリー、シカモア、リンゴ、モモ、レモン及びユリノキから成る群から選択され、より好ましくは、アルダー、バーチ、バルサ、ブナ、アッシュ、ユーカリ、コットンウッド、ヘベア、ロビニアシュードアカシア、オーク、マホガニー、ティリア、チェスナット、メープル、ホースチェスナット、エルム、ヘーゼル、ウォルナット、オサジオレンジ及びプレーンツリーから成る群から選択される。
【0052】
このように引用した各種類は、非常に多くの種を含むことがある。例えば、パインの種類は、例えば、マリティム・パイン(maritime pine)やスコッツパイン(Scots pine)などの100以上の種をカバーしており、オークの種類は、レッドオーク(アメリカンオークとして知られている)又はペダンキュレートオーク(ヨーロッパオークとして知られている)などの多くの亜種をカバーしている。
【0053】
各種類の木材は、それに特有の構造及び化学的素性(すなわち、リグニン及びヘミセルロースの各量、セルロース繊維の長さ、並びに抽出成分)を有する。同じ木の中で、木材の異なる部分(例えば、辺材又は心材)は、考慮される種類に応じて異なる物理化学的性質を有することがある。
【0054】
しかし、リグノセルロース系材料は、セルロースの三次元ネットワークとリグニンによって形成される任意の材料、例えばわら、天然繊維(リネン及びヘンプ)、竹、高収率パルプ、紙、厚紙及び綿を含む全森林バイオマスであってもよく、ただし、材料は、ある特定の機械的強度を有する構造体の形態にあり、リグニンを部分的に置き換える充填化合物による強化に適したマイクロ構造である。この材料は、一般的に、少なくとも1種の多糖も含む。かかるリストは、例えばヘンプ又はリネンなどの繊維成分(すなわち、天然状態の繊維を含む)だけでなく、繊維化成分(すなわち、繊維の添加を含む変換生成物)及び一年生の草も含む。
【0055】
任意の前処理工程
本発明によれば、ソーキング工程(1)の前に、一般的に抽出成分を部分的に抽出するための前処理工程があってもよく、この前処理工程は、一般的に材料中に存在する抽出成分の一部を溶解させるために、リグノセルロース系材料の構造体を少なくとも1種の有機流体によりプレソーキングする少なくとも1つのサブ工程と、それに続く、プレソーキングのサブ工程からもたらされた溶解した化合物を排出するように、プレソーキングのサブ工程からもたらされた構造体を少なくとも1種の有機流体によりプレ洗浄する少なくとも1つのサブ工程とを含む。前処理工程から生じるリグノセルロース系材料の構造体は、本発明の第1の態様に従う処理工程によって処理される構造体である。
【0056】
これらのプレソーキングサブ及びプレ洗浄のサブ工程の各々は、最終サブ工程がプレ洗浄サブ工程であれば、その他の工程とは独立して、必要に応じて1回又は複数回繰り返すことができる。
【0057】
この先行する工程は、有利なことに、アンカー結合(anchorage links)、特に物理的なアンカー結合の解放によって、抽出成分を溶解させることを可能にし、次いで、それらを抽出することを可能にする。
この前工程は、有利なことに、本発明に従うソーキング(1)及び洗浄(2)の後の工程の間の部分的脱リグニン化を促進することを可能にする。
【0058】
プレソーキングのサブ工程は、リグノセルロース系材料中に存在する抽出成分の制御された及び部分的な抽出を可能にする。抽出は、特に、このサブ工程の操作条件及びリグノセルロース系材料の性質に従って、リグノセルロース系材料内で均一に行われないことが可能である。例えば、好ましいリグノセルロース系材料である木材の場合、春からの材は、しばしば、夏からの材よりも、プレソーキングサブ工程に対してより敏感である。
【0059】
このサブ工程は、有利なことに、リグノセルロース系材料の構造を保つためにリグノセルロース系材料内に十分な抽出成分を留めることを可能にするだけでなく、リグノセルロース系材料の構造を化学的に弱めて、ソーキング工程(1)での有機流体の作用を促進する、すなわち後の部分的脱リグニン化を容易にする。従って、原子スケールでは、ブレーシングポリマーと抽出成分との間の水素結合又はファンデルワールス型の弱い相互作用が壊され、構造体がナノスコピックスケールでの後の改変のためによりアクセスしやすくなる。同様に、マイクロスコピックスケールでは、ある程度のピットが広げられ、有機流体の後の浸透が促進される。
【0060】
上記のプレソーキングサブ工程は、一般的に、リグノセルロース系材料の構造体からの抽出成分の所望の部分抽出を可能にする条件下で、下記のソーキング工程(1)と同様の操作条件で実施される。
【0061】
しかしながら、好ましい実施形態は、接触して置かれた2種の混和性有機流体間の浸透圧の使用によって行われる浸透圧プロセスの使用である。そのような場合、第1のプレソーキング有機流体は、第1の相でリグノセルロース系材料の構造体を飽和させ、次に、第2の相で、このように飽和したこの構造体を第2のプレソーキング有機流体と接触させる。2種の流体間の浸透圧は、2種の流体の混合による平衡への復帰のために、2種の流体の互いに自発的な運動を生じさせる。これにより、2種の有機流体の運動が引き起こされ、抽出成分の一部が構造体の外側に駆動され、最終的には、この構造体は、一般的に体積で50%-50%の割合で2種の流体から構成される混合物中の溶液に存在することになる。
【0062】
浸透圧プロセスの場合、リグノセルロース系材料の構造体をプレソーキングサブ工程の第1の流体と接触させる前に、リグノセルロース系材料の構造体を乾燥(すなわち、相対含水率0~30%)させることが好ましく、この接触は、真空下で加熱しながら行うことが好ましい。このように飽和した構造体も、真空下で加熱しながら、プレソーキングサブ工程の第2の流体と接触させることが好ましい。
【0063】
プレソーキングサブ工程の第1及び第2の流体は、それらの混和性を増進するために、両方とも水性であるか、又は両方とも非水性あるのが有利である。これらの2種の流体間の特性の大きな差異、例えば溶媒、pH、塩度、及び/又は有機流体中の溶液中に配置された1種又は複数の可能な化合物の差などは、一般的に、平衡へのより速い復帰を達成することを可能にする。
【0064】
例えば、第1のプレソーキング溶液をエタノールで構成し、そこにリグノセルロース系材料の試料を、真空下、周囲温度で8時間浸漬した。次いで、試料を、pH=12の苛性ソーダを含む第2のプレソーキング水溶液と、真空下、70℃の一定温度で1時間接触させた。得られた試料を透明な洗浄水が得られるまで、40~50℃の温水で3~4回及びpH=12の苛性ソーダ水溶液で洗浄した。
【0065】
当業者に明らかであるように、このプレソーキングサブ工程において溶解される抽出成分の量及び性質は、リグノセルロース系材料の性質に依存するが、このサブ工程の2種の有機流体の性質にも依存する。
【0066】
しかしながら、このプレソーキングサブ工程は、特定の抽出成分を特異的にターゲットとすることができ、その場合、ある種の溶媒が好ましい場合がある。例えば、水溶性又は脂溶性化合物を選択的に抽出することが望ましい場合がある。より具体的には、脂肪などの脂溶性化合物を部分的に抽出するという事実は、リグノセルロース系材料の構造体内の親水性を高めることができ、従って、もしこれらが水性有機流体により実施される場合には、その後の工程(1)及び(2)を促進する。同様に、例えばワックス又は糖などの水溶性化合物を部分的に抽出するという事実は、リグノセルロース系材料の構造体内の疎水性を高めることができ、従って、もしこれらが非水性有機流体により実施される場合には、その後の工程(1)及び(2)を促進する。
【0067】
プレ洗浄サブ工程は、リグノセルロース系材料中に存在する溶解した抽出成分の抽出をさらにプレソーキングサブ工程で可能にする。このサブ工程は、特に、構造体内の溶解した抽出成分の存在による有機流体の作用の制限、ひいてはソーキング工程中の脱リグニン化の制限を回避するのに役立つ。
【0068】
プレ洗浄サブ工程は、後述する洗浄工程(2)と同様の条件で実施することができる。従って、プレ洗浄サブ工程の流体は、後述する洗浄工程(2)の間に使用される任意の有機流体であることができる。
【0069】
例えば、プレ洗浄サブ工程は、pH=12の苛性ソーダ水溶液と交互に水溶液を用いて、真空中、周囲温度で実施することができ、交替を15分毎に実施し、このサブ工程は合計で1時間かかる。
【0070】
本発明の前処理工程によってリグノセルロース系材料の構造体から溶解され、次いで抽出された例えばテルペンなどの抽出成分は、本発明の方法の文脈において、溶解した分子の各系統群に特有の利用工程で有利に利用することができる。典型的には、工業的観点から、例えば医薬品又は化粧品産業における化合物の製造のために使用される。これらの利用のいくつかについては、抽出された化合物は、分画及び/又は精製などの後処理工程を経なければならない。
【0071】
ソーキング工程(1)
ソーキング工程(1)は、材料中に存在するリグニンの一部の部分的かつ制御された溶解、すなわち部分的脱リグニン化を可能にする。
【0072】
脱リグニン化は、特に工程(1)及び(2)の操作条件及びリグノセルロース系材料の性質に従って、リグノセルロース系材料内で均一に行われないことが可能である。
【0073】
本発明に従う部分的脱リグニン化は、リグノセルロース系材料繊維のパルプを得ることを排除する。
【0074】
ソーキング工程(1)は、天然のリグノセルロース系材料の構造を保つために、この材料内に十分なリグニン(天然形態又はリグニンの分解の際に形成されたラジカルの再結合後に再生される形態)を留めることと、工程(3)の充填化合物が挿入されるリグノセルロース系材料の構造内の空間を解放するために有機流体により十分なリグニンを抽出することの両方を可能にする。従って、構造体内の残留リグニンの存在は、充填工程中に充填化合物による、既存のマイクロスコピック又はナノスコピック空間の充填も、工程(1)及び(2)で新たに形成された空間の充填も制限しない。かかる制限は、重合触媒によって生成されたラジカルをブロックするヒドロキシル基(OH)の作用によるポリマー鎖の伝播を強く阻害しうる。
【0075】
工程(1)及び(2)で実施される部分的脱リグニン化は、これがその主要な目的ではないが、抽出成分などのリグノセルロース系材料の他の成分が前の任意の工程中に抽出されなかった場合、それらを抽出するように働くことができる。
【0076】
ソーキング工程(1)は、周囲温度で、又は、熱源の存在下で、大気圧下、真空下もしくは加圧下で、あるいは、当業者に知られているようにこれらの異なる条件の交互使用により、実施することができる。一般的に、圧力及び熱を加えることによって、ソーキング流体の作用を増進し、さらに、リグニンの加水分解プロセスを加速させることを可能にし、これは特に工業的実施に有利である。
【0077】
ソーキングは、一般的に、以下の力のタイプのうちの少なくとも1つの作用によって、有機流体(液体及び/又は気体であり得る)による部分的又は全体的な含浸を生じ得る:拡散力、毛細管力、重力、構造体の外部の撹拌力、又は流体の移動能力に作用する他の力。有機流体は、当業者に知られているように、その性質に応じて、亜臨界又は超臨界状態にすることができる。
【0078】
ソーキング工程(1)は1又は2回以上行うことができ、すなわち有機流体と接触させることを1又は2回以上行うことができる。交互に又は同時にいくつかの異なる有機流体を使用することができる。
【0079】
リグノセルロース系材料から抽出されるリグニンの量は、例えばリグノセルロース系材料が軟材、硬材又は一年草であるかどうかに応じて、当該材料に依存する。
【0080】
従って、リグノセルロース系材料が軟材である場合、ソーキング工程(1)の間に溶解するのは、構造体中に存在するリグニンの一般的には50~85質量%、好ましくは50~75質量%である。一方、リグノセルロース系材料が硬材である場合、ソーキング工程(1)の間に溶解するのは、構造体中に存在するリグニンの40~60質量%、好ましくは45~55質量%である。当業者は、関連するリグノセルロース系材料の構造体に従って工程(1)及び(2)の実施を適合可能である。
【0081】
ソーキング工程(1)は、構造体中に所望の量のリグニンが留まり、リグノセルロース系材料のミクロ構造に著しく悪影響を与えないようにしなければならない。
【0082】
有機流体は、脱リグニン化を可能にする任意の溶媒又は有機溶媒の混合物であることができる。好都合なことに、有機流体の全て又は一部は、使用後にリサイクルすることができる。
【0083】
一実施形態によれば、有機流体は、一次(primary)又は主(main)溶媒と呼ばれる過半数の溶媒と、共溶媒(cosolvent)と呼ばれる少なくとも1種の副(minor)溶媒から構成される「複合系(complex system)」である。共溶媒は、少量で添加される液体化合物であり、一次溶媒としばしば混和性である。共溶媒は、一般的に、溶解すべき化学種に関連して一次溶媒の溶媒和力を高めるのに役立つ。
【0084】
一次溶媒のパラメータ(すなわち、pH、誘電率、イオン力、酸性度、塩基性度、酸化特性又は還元特性)は、特定の溶媒和特性を可能にする少なくとも1種の化合物の添加によって適合させることができる。酸、塩基、酸化剤、還元剤及び/又は例えば塩も、それらの物理化学的状態に従って、それらに溶質又は共溶媒の機能を付与する割合で有機流体に添加されてもよい。
【0085】
主溶媒が水である場合、複合系は、水と、少なくとも1種の溶質とを含む水溶液(溶液とも呼ばれる)であり、少なくとも1種の溶質は、共溶媒及び/又は溶解した固体成分、例えば塩などであってもよい。
【0086】
複合系は、混和性、ミセル又は二相であり、それら自体が混合物で及び/又は順番に使用され得る系であることができる。
【0087】
一実施形態によれば、有機流体は、
- (i)水性又は非水性であることができる酸性又は塩基性溶液;
- (ii)水性又は非水性であることができる酸性又は塩基性の酸化性溶液;
- (iii)純粋なイオン性液体;
- (iv)共溶媒との混合物でイオン性液体;
- (iv)1又は2種以上の酵素を含むイオン性液体;
- (iv)1又は2種以上の酵素を含む共溶媒との混合物でイオン性液体;
- (iv)共溶媒及び流体との混合物でイオン性液体;
- (iv)共溶媒及び流体との混合物でイオン性液体、1又は2種以上の酵素を含有するもの;
- (v)細菌、微生物又は真菌などの少なくとも1種の生物を含む流体;及び
- (vi)成分(i)~(vi)の任意の組み合わせ;
であることができる。
【0088】
リストの各成分(i)~(vi)の引用した第1の化合物は、一般的に大部分、すなわち少なくとも50質量%存在する。
【0089】
一実施形態によれば、ソーキング工程(1)の有機流体は、任意のpHを有し得る有機溶液である。好ましくは、有機溶液は酸性であり、一般的にpHは6.5未満、さらにより好ましくは4.5未満であるか、又は、7.5を超えるpH、さらにより好ましくは9.5を超えるpHの塩基性である。
【0090】
水に加えて、洗浄工程(2)の有機流体は、化学的に溶媒として従来から使用されている任意の液体を含むことができる。好ましい共溶媒及び純粋な溶媒は、一般的に、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセトン、酢酸、クエン酸、ギ酸、硝酸、シュウ酸、メタン酸、無水酢酸、ブタノール、ブタノン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ジクロロエタン、ジクロロメタン、ジオキサン、水、ターペンタイン、エタノール、グリコールエーテル、石油エーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ヘプタン、イソプロパノール、メタノール、モノエタノールアミン、ペンタン、プロパノール、プロポキシプロパン、ピリジン、トルエン、キシレン;及びそれらの混合物から成る群から選択される。非水性溶媒は、好ましくは、アセトン、エタノール、ヘキサン、イソプロパノール、ヘプタン及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0091】
「酸」とは、液体状態又は溶解した固体塩の形態で、プロトンを放出することができる、単独の又は混合物中の、任意の化合物、例えば鉱酸又は有機酸などを意味する。従って、カルボン酸、カルボン酸から誘導された塩及び酸無水物、例えば非フェノール系有機酸、例えば、酢酸、アスコルビン酸、安息香酸、ホウ酸、炭酸、クエン酸、シアン酸、ジクロロ酢酸、ギ酸、アジ化水素酸、ビトリオール、乳酸、硝酸、シュウ酸、過塩素酸、プロピオン酸、シアン化水素;フェノール系有機酸:安息香酸、カフェイン酸、クロロゲン酸、フェルラ酸、没食子酸、ゲンチジン酸、パラオキシ安息香酸、パラクマリン酸、プロトカテキン酸、バニリン酸、サリチル酸、シナピン酸、シリング酸、フェノール酸、レゾルシノール;鉱酸:塩化水素酸、クロロ酢酸、臭化水素酸、ブロモ酢酸、塩化水素酸、フッ化水素酸、次亜臭素酸、次亜塩素酸、次亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、ヨード酢酸、リン酸、亜リン酸、セレン酸、亜硫酸、硫酸、テルル酸、トリブロモ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、硝酸など;並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0092】
「塩基」とは、液体状態で又は溶液中に置かれた無機塩の形態で、プロトンを受け入れることができる、単独の又は混合物中の任意の化合物を意味する。従って、アミン、アミド、アルカリ塩、例えば、酢酸ナトリウム、ナトリウムアミド、3-アミノ-3-メチルペンタン、アンモニア、アニリン、アゼチジン、ブロモピリジン、ブチルリチウム、カダベリン、2-クロロフェノール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール、コリン、シクロヘキシルアミン、リチウムジエチルアミド、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジメチルアミン、2,4-ジメチルイミダゾール、1,2-ジメチルアミノエタン、1,2-ジメチルピロリジン、エチルアミン、エタンジアミン、エタノールアミン、ナトリウムエタノエート、カリウムエタノエート、ヘキサメチレンジアミン、ヘキシルアミン、ヒドラジン、水素化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化鉄、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン、メチルアミン、2-メチル-2-ブタンアミン、3-メチル-1-ブタンアミン、メチルグリシン、1-メチルピペリジン、モノエタノールアミン、n-ブチルアミン、ニトロフェノール、N-メチルピロリジン、N-メチルピリジンアミン、3-ペンタナミン、ペンチルアミン、ピペリジン、プロピルアミン、1,3-プロパンジアミン、4-ピリジンアミン、ピリジン、ピロリジン、sec-ブチルアミン及びtert-ブチルアミン、トリエチルアミンなど;並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0093】
「酸化性化合物(oxidizing compound)」とは、酸化作用を有する、すなわち1つ以上の電子を捕捉することができる、単独の又は混合物中の化合物を意味する。この酸化性化合物は、塩素化合物の誘導体、例えば、亜塩素酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩素分子、漂白剤、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素など、任意の過酸化化合物、例えば過酸化水素、あるいは、例えば、過酸化水素のような過酸化物と酸との反応から生じるペルオキシ酸のような別の分子に対する過酸化物化合物の先の作用から誘導された任意の化合物であることができる。過酸化物化合物は、一般式ROOR’の化合物であり、R及びR’の各々は、アルキル、アルキロイル、アルキルオキシカルボニル、アリール、アリールオキシ又はアリールオキシカルボニル及びそれらの混合物などの炭化水素鎖であり、これらの炭化水素鎖は置換されていてもいなくてもよい。炭化水素鎖の例は、アルキル鎖の場合:メチル、エチル、プロピル、ブチル、t-ブチル及びペンチル;アルキロイル鎖の場合:エチロイル、プロピオイル、ブチロイル及びペントイル;アルキルオキシカルボニル鎖の場合:カーボネートエステル、例えばエチル、プロピル、ブチル及びペンチルカーボネート;アリール鎖の場合:フェニル、ベンジル、クロロベンジル、ナフチル、チエニル、インドリル;アリーロイル鎖の場合:フェニロイル及びナフチロイル;アリールオキシカルボニル鎖の場合:例えばフェニル又はナフちるカーボネートなどのカーボネートエステルである。
【0094】
かかる酸化性化合物は、本発明に従う酸化性酸性溶液又は酸化性塩基性溶液を生成させるために上述の酸又は塩基に添加することができる。酸及び塩基は、ある場合には、それ自体が酸化特性を示すことがあるが、この特性を強化するために酸化性化合物を添加することが可能である。本発明によれば、酸性又は塩基性化合物に添加される酸化性化合物は、独立に反応するか、又は新たな反応性物質を形成することができる。従って、例えば過酸化物はカルボン酸と会合して、過酸、例えば過ギ酸、過酢酸又は過硫酸などを形成することができる。
【0095】
「還元剤」とは、還元作用を有する単独又は混合物の化合物を意味する。従って、アルデヒド、亜ジチオン酸ナトリウム、ヒドロキノン、水素化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムを挙げることができる。アルデヒド類は、特に、エタナール、プロパナール、ブタナール、ペンタナール、フルフラール、及びこれらの混合物が挙げられる。
かかる還元剤は、上記の酸又は塩基に添加することができる。
【0096】
好ましくは、ソーキング工程(1)の有機流体は、
- 酢酸溶液、又は/及び、酸化剤、例えば過酸化水素などの混合物を含む酸化性酸性水溶液、又は、臭化水素、硫酸又はリン酸を含む酸性水溶液;
- 塩基性溶液、例えば水酸化ナトリウム、モノエタノールアミンを含む水性液体、又は、水酸化カリウムなどと、酸化剤、例えば亜塩素酸ナトリウムなどとの混合物を含む酸化性水溶液、
から選択することができる。
有機流体は、イオン性液体及び/又は酵素、細菌、微生物又は菌類のような「生物有機体(biological organism)」であってもよい。
【0097】
「イオン性液体」とは、本発明によれば、融点が100℃未満であり、周囲温度で一般的に液体であり、低い蒸気圧を有し、すなわち200℃~400℃の沸点を有する、有機塩の任意の溶液を意味する。
【0098】
単独又は混合物で使用される本発明に従う好ましいイオン性液体は、好ましくは、アミノカチオン、例えば、コリニウム、イミダゾリウム、N-メチル-2-ピロリジニウム、ピリジニウム及びピロリジニウムといったカチオン並びにこれらの混合物、好ましくはイミダゾリウムを有するイオン性液体から選択される。対イオンは、好ましくは、アニオンアセススルファメート、アセテート、ブロミド、クロリド、ホルメートといったアニオン、及びそれらの混合物から選択され、好ましくは、アセスルファメート、アセテート、ブロミド、ホルメートといったアニオン、及びそれらの混合物から選択される。特に好ましくは、カチオンは1-アルキル-3-アルキルイミダゾリウムのタイプのもの(ここで、アルキルは互いに独立して1分子当たり1~6個の炭素原子を含む)、例えば1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム又は1-エチル-3-メチルイミダゾリウムなどである。
【0099】
従って、本発明に従うイオン性液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセススルファメート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-エチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、コリニウムグリシン、コリニウムリシン、N-メチル-2-ピロリジニウムアセテート、ギ酸ピリジニウム、酢酸ピロリジニウム、ギ酸ピロリジニウム及びこれらの混合物から選択することができる。本発明に従うさらに好ましいイオン性液体は、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-エチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、及びそれらの混合物である。
【0100】
イオン性液体は、例えばコリニウムグリシン又はコリニウムリシンなどのアミノ酸から生成されたイオン性液体であってもよい。かかる化合物は、環境に対する影響がより小さいという利点を有する。
【0101】
イオン性液体は、本発明に従う処理方法の工程のうちの1つ、特にソーキング工程(1)から得られる分子から合成することもできる。これは、有利なことに、前記プロセスの間に生成された副産物を最適化することを可能にする。従って、特に求核窒素原子を導入するために化学的に修飾されたバニリン、p-アニスアルデヒド及びフルフラールなどの、リグニン又はヘミセルロースから生成された芳香族アルデヒドから合成されたイオン性液体を挙げることができる。
【0102】
イオン性液体を使用する利点は、本発明に従う処理プロセス内でのそのような生成物の使用の容易さに加えて、それを洗浄工程(2)で抽出し、リグニン、他の洗浄用有機流体を含む他の生成物などの溶解した成分をなくしたら、再使用できることである。
【0103】
材料中でのリグニンの分解を容易にし、その結果、この材料の部分的脱リグニン化をもたらす、任意の酵素、「酵素カクテル」と呼ばれる任意の酵素混合物、任意の生物有機体、例えば任意の細菌、微生物又は菌類も、本発明の文脈において使用できる。
【0104】
酵素、細菌、微生物又は菌類は、一般的に、流体により輸送され、この流体は、液体であることが多く、より一般的には溶液である。このキャリア流体は、異なる特性を有する別の流体によって輸送されてもよく、そのようにして形成される集団は、しばしば、混和性、ミセル又は二相の複合系を形成する。
【0105】
酵素は、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼ、リグナナーゼ又はATPアーゼであることができる。ATPアーゼのうち、「銅輸送性P型ATPアーゼA」(copA)を挙げることができる。ペルオキシダーゼのうち、B型(Dyp-B型)、P型(Dyp-P型)、及び2型(Dyp-2型)のものを含む「色素脱色ペルオキシダーゼ」を挙げることができる。それらは、単独であるか、又は酵素の混合物の形態である。
【0106】
かかる酵素は、「白色腐朽菌」などの、培養中の菌類によって分泌され得る。酵素の役割は二元的であることがある。より具体的には、酵素作用が洗浄用有機流体のものである場合、部分的脱リグニン化は「補助」される。リグノセルロース系材料のリグニンから生成した溶解した溶媒和成分をより低分子量の成分に還元することによって、酵素作用が洗浄用有機流体の作用に付随する場合、それは「補完」される。
【0107】
少なくとも1種の菌類を使用することができる。この場合、菌類の細菌は時間が経っても活性があり、植物細胞内で菌糸体のフィラメントが発生することに留意されたい。
【0108】
ソーキング工程(1)の別の好ましい実施形態は、少なくとも1種の超臨界流体の、ほとんどの場合、混合物での使用に関する。
【0109】
「超臨界流体」とは、超臨界状態にある流体を意味する。超臨界状態とは、化合物が基質を完全に濡らすことを意味する、化合物と基質との接触角がゼロに等しい状態であり、これにより、超臨界流体は、複合系を形成するソーキング工程(2)のその他の1種又は複数の化合物によりリグノセルロース系材料が充填されることを助けることができる。
【0110】
超臨界流体は、二酸化炭素、水、低分子量(すなわち、少なくとも1で、厳密には5未満の炭素原子数)を有するアルケン、例えばエチレン又はプロピレンなど;低分子量(すなわち、少なくとも1で、厳密には5未満の炭素原子数)を有するアルカン、例えばメタン、エタン、プロパン及びそれらの混合物など;低分子量(すなわち、少なくとも1で、厳密には5未満の炭素原子数)を有するアルコール、例えばメタノール、エタノール、アセトン、アンモニア、クロロホルム、クロロトリフルオロメタン、亜酸化窒素、トリクロロフルオロメタン及びそれらの混合物などから選択することができる。
【0111】
しかしながら、水又は二酸化炭素などの、炭素フットプリントが最低である流体の使用が好ましい。二酸化炭素の超臨界状態は、比較的穏やかな条件、すなわち31℃及び7.4MPa(74バール)超で達成することができる。超臨界条件は、水のほうが、達成することがより困難である(374.3℃及び22.1MPa、すなわち221バール超)。亜臨界とも呼ばれる超臨界状態に近い、よりアクセスしやすい状態で、水を使用することもでき、同様に好ましい。
【0112】
ソーキング工程(1)の有機流体は、
- 塩化ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物を含む水溶液、もしくは、モノエタノールアミンを含む水性液体、又は、KOHを含む塩基性溶液(アルカリ性脱リグニン化用);
- 酢酸と過酸化水素の混合物を含む水溶液、あるいは、HBr、H2SO4又はH3PO4を含む酸性溶液(酸性脱リグニン化用);
- 場合によっては少なくとも1種のイオン性液体の存在下又は少なくとも1種のイオン性液体と少なくとも1種の補助溶媒の存在下で、少なくとも1種の酵素を含む流体(酵素的脱リグニン化用);
- 植物材料から製造された純粋なイオン性液体(純粋なイオン性液体による脱リグニン化用);
- 溶液中に1又は2種以上の酵素を含むイオン性液体(酵素作用によって補助/補完されるイオン性液体による脱リグニン化用);
- イオン性液体と混和性の例えばエタノールなどの少なくとも1種の溶媒との混合物でイオン性液体(イオン性液体によって補助されるオルガノソルブ型の脱リグニン化用;この場合、イオン性液体はこの混合物の他の1種又は複数の混和性溶媒に対して少量であることができる);
- 溶液中に1又は2種以上の酵素を含む少なくとも1種の混和性溶媒との混合物でイオン性液体;
- 相の一方が、純粋な又は例えばエタノールなどの少なくとも1種の混和性溶媒と混合されたイオン性液体によって構成され、他の相が、例えばCO2などの超臨界流体によって構成される二相系(混合物の又は純粋なイオン性液体によって補助される超臨界流体による脱リグニン化);
- 相の一方が、純粋な又は少なくとも1種の混和性溶媒との混合物でイオン性液体によって構成され、他の相が超臨界流体によって構成される二相系であって、さらに、イオン性液体を含む相中に1又は2種以上の酵素を溶液で含む二相系(混合物の又は純粋なイオン性液体によって補助され、酵素作用により補助/補完される、超臨界流体による脱リグニン化用);
- 少なくとも1種の酵素を含む、純粋な化合物又は化合物の混合物の任意の溶液;及び
それらの混合物;
から選択してもよい。
【0113】
上記リストの各成分の第1の化合物は、一般的に、大部分、すなわち少なくとも50質量%で存在する。引用した、少量で存在する他のいかなる化合物も、この第1の化合物とは異なる。
【0114】
特に好ましい実施形態によれば、ソーキング工程(1)の有機流体は脱リグニン化液体であり、これは、さらに、エタノール、エチレングリコール、メチルエーテル、N-メチルピロリドン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ピリジン、n-ブチルアミン、ピペリジン、モルホリン、4-ピコリン、2-ピコリン、ジエチルアミン、アニリン、アセトン、メタノール及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の分極剤(polarizing agent)や、場合によっては、カチオン性、アニオン性及び両性イオン界面活性剤などのイオン性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤、並びにそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1種の界面活性剤を含む。
【0115】
そのような分極剤の存在は、有利なことに、その後の充填工程(3)の間、材料のリグニンとセルロースの構造体内での充填化合物のより良好な浸透を可能にする。
【0116】
特に好ましい実施形態によれば、ソーキング工程(1)の有機流体は、少なくとも1種の界面活性剤をさらに含む。
界面活性剤は、一般的に、アニオン性界面活性剤、例えば、スルフェート、スルホネート、カルボキシレート又はホスフェートエステルに基づくものなど;カチオン性界面活性剤、例えば第四級アンモニウム塩など;非イオン性界面活性剤、例えばポリエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドに基づく界面活性剤、例えば市販の製品Pluronic(登録商標)及びTween(登録商標)の群など、又は、脂肪酸鎖に基づくもの、例えば市販の製品Span(登録商標)の群や糖;両性イオン界面活性剤、例えばアミンオキシド、例えばラウラミンオキシド、ベタイン、アルキルアミドベタイン、スルホベタイン及びイミダゾリンの誘導体など;及びこれらの混合物から選択される。リグニンから誘導された界面活性剤、例えばリグニンのスルホン化によって得られる界面活性剤も使用できる。
【0117】
最後に、ソーキング流体は、N-オキシル型の少なくとも1種の触媒、例えば過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウム(TPAP)、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)、又は2-アザアダマンタンN-オキシル(AZADO)及びそれらの誘導体などを含むことができる。
例えば、ソーキング工程(1)は、例えば、5~10%の塩化ナトリウム及び0.01~0.5%の水酸化ナトリウムを含む水性有機溶液を使用して、真空下で、50~90℃の温度で、2時間から10時間、例えば70℃で5時間実施することができる。
【0118】
洗浄工程(2)
洗浄工程(2)は、ソーキング工程(1)に続いて、さらに、リグノセルロース系材料中に存在するリグニン及び他の可能な溶解した化合物を抽出することを可能にする。リグニンは、工程(2)の終わりに、ほとんどの場合、断片の形態でソーキング有機流体中に存在するであろう。リグニンの分解から生じる分子に加えて、セルロースの非晶質部分の分解から生じた分子、周辺のヘミセルロースから生成された単純な糖、又はある種の抽出成分などの、リグノセルロース系材料の他の成分の分解生成物が、洗浄工程(2)の有機流体中に存在しうる。上記のように、この工程(2)は、特に、構造体内の溶解した化合物の存在によって、天然状態で存在する空間及びソーキング工程(1)の間に形成される空間の、ソーキング工程(3)中の充填化合物による充填の制限を回避するのに役立つ。この工程は、ソーキング工程(1)での溶解リグニンの量に対して満足のいく又は完全な抽出が達成されるまで、1又は2回以上、すなわちいくつかの工程で実施することができる。
【0119】
例えば、抽出が液体有機流体による洗浄の連続的な複数のサブ工程によって行われる場合、抽出は、リグニン及び他の溶解した化合物を実質的に含まない洗浄有機流体が得られるまで行われる。使用される有機流体の物理化学的パラメータ、例えば温度及び/又はpHは、1つの洗浄サブ工程から別のサブ工程までで調整することができる。同様に、洗浄工程(2)の有機流体が化合物の混合物である場合、これらの化合物のそれぞれの量は、1つの洗浄サブ工程から別の洗浄サブ工程までで調整することができる。
【0120】
ソーキング工程(2)中、脱リグニン化からの残留物は、洗浄工程(2)の有機流体を撹拌することにより、あるいは、機械的又は波動的作用、例えば音波作用などによって、木材の細孔からより容易に抽出される。
【0121】
リグノセルロース系材料の構造体から抽出される溶解リグニンは、本発明の方法の文脈において本質的な役割を果たす。上で説明したように、ソーキング工程(1)及び洗浄工程(2)中に、リグノセルロース系材料から他の化合物を溶解及び抽出することができ、又は単に抽出することさえできる。
【0122】
洗浄工程(2)の有機流体は、好ましくは有機流体であり、この有機流体は、工程(1)で上に引用した任意の流体であることができる。
【0123】
しかしながら、好ましい有機流体は、アセトン、水、エタノール、ヘキサン、ヘプタン、イソプロパノール及びトルエン並びにそれらの混合物からなる群から選択される液体であり、さらに好ましくは、エタノール、ヘキサン、イソプロパノール、ヘプタン及びそれらの混合物から成る群から選択される液体である。
【0124】
エタノールは、セルロースを保護することを可能にして、後の工程(3)及び(4)でセルロースが保存されため、特に好ましい。
【0125】
例えば、60℃のエタノール浴を用いて4時間、真空下で洗浄工程(2)を実施することができる。洗浄工程(2)は、エタノールの次にヘキサンを用いる数回の連続的な浴によって行うことができる。
【0126】
好都合なことに、有機流体は、洗浄工程(2)中、その使用後にリサイクルすることができる。
【0127】
本発明の方法によれば、洗浄工程(2)の有機流体から回収された溶解リグニンは、好ましくは、建設材料、もしくは航空機に使用される材料、もしくは包装材料、もしくはバイオ燃料、もしくは医薬化合物、又は化合物の製造のために、一般的には工業的な、リグニンを利用するプロセスにおいて使用される。そのため、このリグニンは、炭素繊維(芳香族の組み合わせによる)、繊維状コンクリート、包装、バイオ燃料(メタン化による)、医薬品、化合物(特にフェルラ酸)、及び香料(バニリン)での利用に用いることができ、さらに、様々な分野の化学(ポリマー、前駆体の合成など)における基礎構築ブロックとしての芳香族分子の抽出などの高付加価値用途での利用に適している。このリグニンは、包装分野において異なるパルプ(クラフト、紙パルプ、アルカリパルプ、亜硫酸パルプなど)を介して使用することもできる。これは、本発明に従う方法に、「エコロジカル」又は「グリーン」プロセスの特性を与え、リサイクル不可能な廃棄物の生成をできるだけ避ける。
【0128】
従って、本発明の下では、洗浄工程(2)の有機流体から抽出されたリグニンを、文献で想到されているような、以下のような様々な分野で使用することが可能である:
- バイオリファイナリー(燃焼生成物、合成ガス、バイオエタノール);
- 生物化学特殊製品(芳香族誘導体、例えばバニリン、ベンゼン、キシレン、DMBQ(2,6-ジメトキシ-1,4ベンゾキノン)、シリンガアルデヒド、シリンゴール、バニリン酸、シナピン酸、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、3-エチルフェノール、2-メチルフェノール、フェルラ酸など;ガス、例えば、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン又はメタノールなど);
- 特殊な化合物(例えば航空宇宙、自動車、オートバイ、航空機、風車翼、ブレーキ、釣り竿などの低品質炭素繊維又は中品質のもの;アスファルト用添加剤、セメント用添加剤;及び乳化剤);並びに
- 多種多様な材料(プラスチック製品、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、リグニン-ポリウレタンフォームなど;ゴム製品、例えばリグニン-ポリウレタンエラストマーコーティングなど;接着製品;繊維板タイプの木材ボード用の製品;動物栄養製品、例えばタブレット又はバインダーなど;可燃性製品、例えばバーベキュー用のマッチ又は液体など)。
【0129】
同様に、リグニン以外の抽出された化合物は、好ましくは、一般的に工業的に、糖もしくは芳香族又は機能性物質を開発するための開発プロセスにおいて使用される。これらの用途のいくつかでは、これらの抽出された化合物は、精製及び/又は分画などの後処理工程を経なければならない。
【0130】
充填工程(3)
充填工程(3)は、充填化合物による部分的脱リグニン化構造体の充填(すなわち、部分的脱リグニン化構造体への浸透作用)を行う工程である。この充填工程は1回以上実施することができる。充填化合物は、ほとんどの場合、化学的又は物理化学的な固定によって構造体中に依然として存在するリグノセルロース系材料の繊維に結合する特性を有していなければならない。
【0131】
当業者に知られているように、この充填のために、様々な技術が可能である。一般的に、これらの技術は、真空下の反応器もしくはオートクレーブもしくはオーブン、又は当業者がこの工程を実施できる任意の他の装置で、真空下又は加圧下で、含浸による、注入(RTM型又はRTM Light型の真空による、RTMは「樹脂トランスファー成(Resin Transfer Molding)」を意味する)による、インフュージョン(RIFT、「フレキシブルツーリング下の樹脂インフュージョン」を意味する)による、連続型のものである(一連の繰り返しの数回の連続含浸の間に1工程毎に流体を別の流体に交換、充填化合物中の各流体の濃度は漸増、例えば指数関数的に増加)。
【0132】
充填条件の設定は、当業者の能力の範囲内である。
【0133】
オートクレーブを使用する本発明に従う好ましい場合においては、真空下の段階と加圧下の段階を交互に繰り返してリグノセルロース系材料を適切に含浸させることが推奨される。実際に、このように交互に行うことによって、その結果生じる圧力差のために、充填化合物を材料に浸透させることが有利になる。
【0134】
例示的な実施形態において、充填工程(3)は、充填化合物を含む溶液による部分的脱リグニン化構造体の加圧下での含浸工程を含む。この圧力は、一般的に0.1~2.5MPaである。
【0135】
充填工程(3)は、真空下又は窒素分子の存在下、酸素を含まない雰囲気下で、数分~24時間の時間で実施することもでき、例えば、及び、好ましくは、500mLの体積の充填化合物当たり20~24であり、この体積は、リグノセルロース系材料の腔中に存在する酸素の除去と、真空及び/又は加熱下に置く場合の充填化合物の可能な処方とを考慮に入れて、構造体の充填を確実にするように適合される。
【0136】
本発明に従う処理方法の充填工程(3)は、実質的に2つの実施形態に従って実施することができる。これらの2つの実施形態は、使用されるリグノセルロース系材料に従って適合させることができる。
第1の実施形態では、充填化合物は、配合されているか否かにかかわらず、ポリマー又はコポリマーである。
【0137】
この場合、ポリマー又はコポリマーは、一般的に、充填工程(3)の圧力及び温度の条件下で液体状態にあり、部分的に脱リグニンされた構造体を液体のポリマー又はポリマー中でソーキングすることによって充填工程(3)を実施する。
【0138】
好ましくは、ポリマー又はコポリマーは熱可塑性であり、充填工程(3)の温度はそのガラス転移温度より高い。この場合、仕上げ工程(4)は、ポリマー又はコポリマーのガラス転移温度未満の温度で静置することからなる。これは、ポリマー又はコポリマーが、一般的に、後の温度又は使用よりも高い、典型的には約25℃(周囲温度)を超えるガラス転移温度を有することを前提とする。
【0139】
好ましくは、ポリマー又はコポリマーは、ポリアクリレート、ポリアミド(例えばDuPont製のNylon(登録商標)など)、ポリエステル、フルオロポリマー(DuPont製のTeflon(登録商標)など)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアリールエーテルケトン;並びに、上に列挙されていない、以下で列挙する第2の実施態様のモノマーから得られるポリマー及びコポリマーから成る群から選択される。
【0140】
配合されているか否かにかかわらず、セルロース、デンプン、ポリペプチド、タンパク質、並びにこれらの化合物から誘導されたポリマー、例えば酢酸セルロース、酢酸デンプンは、この使用態様において使用することができる。
【0141】
第2の実施形態では、充填工程(3)の充填化合物は、充填工程(3)の圧力及び温度の条件下で、モノマー溶液又はモノマー配合物中に存在する重合性モノマーである。好ましくは、充填工程(3)の充填化合物は、充填工程(3)の圧力及び温度条件下でモノマー溶液中に存在する重合性モノマーであり、モノマー溶液は、さらに、少なくとも1種の触媒を含む。かかる重合性モノマーは、一般的に、熱可塑性(ポリマー)又は熱硬化性(ポリマー)を得ることをもたらす。
【0142】
充填化合物は、モノマー溶液又はモノマー配合物の形態のモノマーを含んでいてもよい。モノマー配合物及び溶液は、当業者に公知の市販の製品であってもよい。
【0143】
一般的に言えば、揮発性であるか又は複合材料の構造体に結合していない副生成物を生成する関連するリスクを有する充填化合物の使用を避けることが推奨される。
【0144】
「モノマー溶液」とは、1又は2種以上のモノマーの混合物であって、それらのモノマーの重合を活性化する薬剤の有無にかかわらず、1又は2種以上のモノマーの混合物を意味する。
【0145】
「モノマー配合物」とは、少なくとも1種のさらなる化合物を含むモノマー溶液を意味する。かかるさらなる化合物は、一般的に、熱可塑性プラスチックに関しては、オリゴマー、ポリマー、コポリマーから選択され、あるいは、熱硬化性プラスチックの場合、少なくとも1種の硬化剤が添加されたプレポリマー及びプレコポリマーから選択される。このさらなる化合物は、重合を可能にする少なくとも1種の薬剤、例えば、開始剤(例えば、エピクロロヒドリン、カルボン酸、アミン及びそれらの混合物などの生物源由来のバイオソース開始剤(bio-sourced initiator))、触媒、好ましくは熱開始されることができる又は放射線により分解可能なもの、充填剤、界面活性剤、重合抑制剤もしくは遅延剤、又は連鎖移動剤、あるいは、これらの化合物の混合物であってもよい。
【0146】
ほとんどの場合、充填剤は有機又は無機物である。無機充填剤は、一般的に、アルミナ、クレイ、炭素粉末、ガラスビーズ、ダイヤモンド、石膏、炭酸カルシウム、雲母、パーライト、石英、砂、タルク、シリカ、チタン及びこれらの混合物から成る群から選択され、好ましくは、クレイ、ダイヤモンド、ガラスビーズ、石膏、炭酸カルシウム、雲母、パーライト、石英、砂、タルク及びこれらの混合物から成る群から選択される。無機充填剤は、モノマーの充填用配合物中でのその分散性及びその安定性を高めるために官能化されていてもよい。この目的のために、少なくとも1種の界面活性剤を添加することもできる。
【0147】
触媒は、好ましくはラジカル重合反応を触媒するように選択される。当業者に知られているように、この選択は、一般的に、モノマーに加えて、重合及びその制御の様式に依存する。
【0148】
触媒は、好ましくは、式R-N=N-R’(式中、R及びR’は、場合によっては少なくとも1個のさらなる官能基を含むアルキル基である)のアゾ型の化合物、例えばアゾイソブチロニトリル、過酸化物、アルキル(一般的に1分子当たり1~6個の炭素原子を含む)ハロゲン化(すなわち、塩素、臭素、ヨウ素又はフッ素であるハロゲン原子を含む)化合物、ニトロキシド、チオカルボニルチオ化合物から成る群から選択される。しかしながら、ケトンパーオキサイド、過酸化水素、ペルオキシセタール、ヒドロペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネート、例えばベンゾイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過硫酸カリウム、tert-ブチルペルオキシネオデカノエート、tert-ブチルペルオキシピバレート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルペルオキシイソブチレート、1,1-ビス-tert-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、tert-ブチルペルオキシラウレート、tert-ブチルペルオキシイソフタレート、tert-ブチルペルオキシアセテート、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、ジクミルペルオキシド及びジ-t-ブチルペルオキシド並びにそれらの混合物などの、当業者に知られている他の触媒も想定される。
【0149】
一実施形態によれば、充填工程(3)のモノマー溶液又はモノマー配合物は、さらに、充填化合物の粘度を低下させて材料のリグノセルロース構造体内での充填化合物のより良好な浸透を可能にすることを目的として、任意の溶剤、任意のオリゴマー、任意の充填剤であることができる少なくとも1種の可塑剤を含むことができる。
【0150】
可塑剤が溶媒である場合、これは一般的に複合材料構造体の寿命の間に有機化合物の放出を制限するように、大部分が周囲温度で蒸発するように選択される。より具体的には、リグノセルロース系材料の構造体内への溶媒の含浸は複合材料構造体中に拘束されず徐々に放出されうるグラフト化されていない分子の生成をもたらしうる点で、低揮発性の溶媒を含むモノマー溶液又はモノマー配合物の使用は本発明の文脈において好ましくない。可塑剤がオリゴマーである場合には、可塑剤は、その後の放出を回避するように、構造体によって持続的に固定されるように選択される。
【0151】
最終的な複合材料の構造体を維持するための少なくとも1種の薬剤、例えば紫外線吸収剤を、モノマー充填配合物に添加してもよい。これは、構造体における後者の堅牢性を改善することを可能にする。そのような薬剤は、発色団化合物、例えば、アントラキノン、ベンゾフェノンもしくはベンゾトリアゾール単位に基づく化合物、ジフェニルアクリレート単位に基づく化合物、あるいは、ソーキング工程(1)又は洗浄工程(2)のうちの1つの間に抽出された化合物のすべて又はいくつか、及びそれらの混合物の中から選択することができる。
【0152】
難燃剤、殺菌剤、殺微生物剤又は殺虫剤である少なくとも1種の化合物を加えて、最終的な複合材料構造体の特性を強化することもできる。難燃剤化合物は、アルミニウム三水和物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン及び有機リン化合物、ソーキング(1)又は洗浄(2)の段階の間に抽出された化合物のすべて又はいくつか、並びにそれらの混合物を含む。
【0153】
一実施形態によれば、モノマー充填配合物は、さらに、エタノール、エチレングリコール、メチルエーテル、N-メチルピロリドン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ピリジン、n-ブチルアミン、ピぺリジン、モルホリン、4-ピコリン、2-ピコリン、ジエチルアミン、アニリン、アセトン及びメタノールから成る群から選択された少なくとも1種の分極剤を含む。
【0154】
そのような分極剤の存在は、有利なことに、リグノセルロース構造体内での充填化合物のより良好な浸透を可能にする。
【0155】
モノマーは、好ましくは、石油から製造された(いわゆる石油由来の)モノマーから選択され、かかるモノマーには、メタクリレート、例えばメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、シクロヘキシルメタクリレートなど;アクリレート、例えばエチルアクリレートなど;フタレート、例えばアルキルが例えば1~6個の炭素原子を含むジアルキルフタレートなど;ニトリル、例えばアクリロニトリルなど;スチレン及びスチレン誘導体、例えばα-メチルスチレン、クロロスチレン、スチレン、t-ブチルスチレン、ビニルトルエンなど;ビニル化合物、例えば酢酸ビニル、塩化ビニル、プロピオン酸ビニルなど;カルボキシル基を含有する不飽和化合物、例えばアクリル酸、フマル酸、マレイン酸、メタクリル酸など;エチレン化合物、例えばエチレングリコール、エチレンオキシドなど;ブタジエン;イソプレン;窒素原子を含有する不飽和モノマー、例えばアクリルアミド、アクリロニトリル、N-ブトキシジメチルアクリルアミド、ビニルピリジンなど;並びにそれらの混合物がある。これらのモノマーは、一般的に、熱可塑性ポリマーの形成をもたらす。
【0156】
また、例えば石油由来の化合物などの熱硬化性ポリマーの形成をもたらすモノマーも挙げることができ、かかるモノマーには、熱硬化性樹脂の前駆体、例えばエポキシ樹脂の前駆体など、例えばビスフェノールのプレポリマーエポキシド誘導体など、例えばビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBA)など、又は任意のビスフェノールエポキシド、及びアリルグリシジルエーテルのグリシジルメタクリレート、オキセタン樹脂の前駆体、フェノール樹脂の前駆体、尿素樹脂の前駆体、アクリル樹脂の前駆体など;並びにこれらの混合物がある。この場合、充填化合物中に少なくとも1種の硬化剤が一般的に存在する。硬化剤は、当業者に知られている熱硬化性樹脂の任意の硬化剤、例えばイソホロンジアミンのような脂肪族アミン、又は環状アミン、カルボン酸、酸無水物、又はイオン性液体であることができる。
【0157】
石油から製造されたモノマーと同一の又は異なる、熱可塑性又は熱硬化性ポリマーの形成をもたらすバイオソースモノマーも挙げることができ、かかるモノマーには、タンニン、例えばフラバン-3-オール(アフゼレクチン、ガロカテキン、カテキン)及びテルペン;レスベラトロール;レゾルシノール;グリセロール及びグリセロール誘導体、例えばエピクロロヒドリンなど、プロパンジオール及びグリコール酸の異性体;糖誘導体(イソソルビド、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トレハロース、D-グリセルアルデヒド、D-トレオース、D-エリトロース、D-アラビノース、D-リボース、D-マンノース、D-グルコース);フルフラール誘導体(一般的にヘミセルロースの酸性解重合から生じる);マレイン酸又はフマル酸の誘導体;乳酸及び蟻酸誘導体;植物油脂(カシューナッツ油、ベニバナ油、ナタネ油、亜麻仁油、オリーブ油、大豆油、ヒマシ油)から製造されるモノマー、例えばセバシン酸(ヒマシ)、カルダノール(カシューナッツ)、リノール酸(亜麻仁から製造)、ベルノニア酸(ベルノニア種子から製造)など;ヒドロキシアルカン酸、例えばギ酸、乳酸及びセバシン酸から誘導されたもの;バイオエチレン(又はバイオロジカルエチレン);バイオエチレングリコール(又はバイオロジカルエチレングリコール);バイオプロピレン(又はバイオロジカルプロピレン);バイオ-1,4-ブタンジオール(バイオロジカル1,4-ブタンジオール);リグニンの誘導体、例えばテレフタル酸、没食子酸、バニリンなど;バニリンの誘導体、例えばバニリルアミン、ジグリシジルエーテルメトキシヒドロキノン、バニリルアミントリグリシジルエーテルなど;並びにそれらの混合物、例えば、糖の誘導体と脂肪の誘導体の組み合わせから生じるモノマーがある。
【0158】
「バイオソース(bio-sourced)」とは、構成原子の全部又は一部がバイオマスに由来する資源から生成され、化石資源の人類変換の結果ではない物質を意味することを意図する。
【0159】
最後に、バイオソースモノマーと同一の熱可塑性又は熱硬化性ポリマーの形成をもたらすハイブリッドバイオソースモノマー(hybrid bi-sourced monomers)を挙げることができる。「ハイブリッドバイオソース」化合物とは、その構造の一部が、分子を構成する原子がバイオマスから生成された資源に由来するものでない分子と反応したものであるバイオソースの化合物を意味する。
【0160】
「Xの誘導体」とは、本発明によれば、例えば、官能基の付加もしくは炭素鎖長の増加(すなわち、炭素鎖の付加)、又は酸化もしくは還元、あるいは求核置換もしくは開環などの、化合物Xの同一性(すなわち、主な化学構造)を実質的に維持する化学反応の短いシーケンスによって化合物Xから合成された化合物を意味する。
【0161】
さらにより好ましくは、モノマー溶液又はモノマー配合物、好ましくは、モノマー溶液は、好ましくは、以下から選択される少なくとも1種のモノマーを含む:
- 石油から製造されるモノマー、かかるモノマーには、メタクリレート、例えば、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸トリ-n-ブチル錫など;フタレート、例えばジアルキルフタレートなど;ニトリル、例えばアクリロニトリルなど;スチレン及びスチレン誘導体、例えばt-ブチルスチレン及びクロロスチレンなど;ビニル化合物、例えば酢酸ビニル、塩化ビニル、及びプロピオン酸ビニルなど;エチレン性化合物、例えばエチレングリコール又はエチレンオキシドなど;ブタジエン;イソプレンがある;及び
- バイオソースモノマー、かかるモノマーには、テルペン;エピクロロヒドリン、プロパンジオールの異性体及びグリコール酸の異性体のうちの少なくとも1種との反応後に得られるグリセロール及びグリセロール誘導体;糖の誘導体;フルフラール誘導体(一般的に、ヘミセルロースの酸性解重合から生じる);乳酸及びギ酸誘導体;ヒマシ油から製造されるモノマー、例えばセバシン酸など;ヒドロキシアルカン酸、例えばギ酸、乳酸及びセバシン酸から製造されたものなど;バイオエチレン(又はバイオロジカルエチレン);バイオエチレングリコール(又はバイオロジカルエチレングリコール);バイオプロピレン(又はバイオロジカルプロピレン);バイオ-1,4-ブタンジオール(又はバイオロジカル-1,4-ブタンジオール);リグニン誘導体、例えばテレフタル酸など;並びにこれらの混合物がある。
【0162】
前述の化合物の任意の混合物も、本発明によれば好ましい。
【0163】
バイオソースモノマーを使用する利点は、寿命の末期に複合材料をリサイクルする際、後でそれらを回収することができるか、又は寿命の末期に複合材料の破壊を容易にすることができることである。従って、これは、本発明に従う方法に、持続可能な、又は「環境に優しい(ecological)」もしくは「自然保護の(green)」プロセスの特性を与える、部分的又は全体的にリサイクル可能な複合材を得ることが可能になる。
【0164】
一実施形態によれば、充填化合物は、重合及び架橋を構成する仕上げ工程(4)において熱硬化性ポリマーの製造をもたらす2種のモノマーによって構成される。
【0165】
第2の実施形態の一例は、充填工程(3)が拡散工程を含み、当該拡散工程は、
部分的に脱リグニン化された構造体を50%のモノマー溶液と50%の溶媒、例えばエタノールとの混合物中に浸漬する第1のサブ工程と、
次いで第1のサブ工程から得られた構造体を75%のモノマー溶液と25%の溶剤、例えばエタノールとの混合物中に浸漬する第2のサブ工程と、
次いで第2のサブ工程から得られた構造体を100%のモノマー溶液の混合物中に浸漬する第3のサブ工程と、
次いで第3のサブ工程から得られた構造体を100%のモノマー溶液と触媒との混合物中に浸漬する第4のサブ工程と、
を含み、
各浸漬サブ工程が周囲温度で数分間から24時間、例えば24時間実施される。
【0166】
一実施形態によれば、充填工程3)は、有利には、加圧下の中性ガス(neutral gas)、例えば窒素又はアルゴンなどの存在下、又は超臨界化合物(すなわち超臨界状態)の存在下で実施することができる。
【0167】
触媒は上記の通りである。
【0168】
中性ガスは、有利には、充填工程(3)及び仕上げ工程(4)の間に充填化合物の蒸発を回避すると共に、前記化合物の周囲空気、特に空気の酸素との接触を回避することを可能にする。
【0169】
一実施形態によれば、モノマーは、重合したら、実質的にセルロースと同じ光学密度を有するようなものである。このようにして得られたポリマーの屈折率は、典型的には、1.35~1.70、より具体的には1.44~1.65、さらにより具体的には1.52~1.60の範囲内に含まれ、しばしば、およそ1.47、1.53、1.56又は1.59の値をとり、これらの値周りの可能な変動は10%程度である。異なる実施形態では、ポリマーの屈折率は、典型的には1.40~1.60の範囲内、例えば約1.47であることができる。
【0170】
仕上げ工程(4)
仕上げ工程(4)は、充填工程(3)からもたらされた充填された部分的脱リグニン化構造体の充填化合物を当該構造体中に固定する工程であり、これにより、セルロースとリグニンの網目構造中に組み込まれた、変換された充填化合物の三次元網目構造から複合材料構造体を得ることが可能となる。「変換された充填化合物」は、仕上げ工程(4)の結果として得られる化合物である。
【0171】
この工程は、特に充填工程(3)の実施形態に従って、異なる方法で実施される。この工程は1又は2回以上実施することができる。この工程は、定常状態又は段階的に行うことができる。
【0172】
従って、この仕上げ工程(4)は、充填化合物が、しばしば充填溶液又は配合物の形態で存在する少なくとも1種のモノマーを含む場合、好ましくは重合及び/又は架橋によって、充填化合物を固定する工程である。この重合及び/又は架橋は、特に、リグノセルロース系材料の繊維が、仕上げ工程(4)の完了後に、化学的、物理的又は物理化学的な定着(anchorage)によって、変換された充填化合物に結合されるように行われる。
【0173】
先に説明したように、用語「定着」は、分子結合の生成に関する。リグノセルロース系材料の構造内のポリマー鎖の構造化は、共有結合によるか、又は、水素結合もしくはファンデルワールス型の弱い結合によるか、あるいは、2つのタイプの結合の組み合わせにより生じ、共有結合による場合、化学的に架橋された網目構造が得られ、弱い結合による場合、物理的網目構造が得られる。
【0174】
従って、充填化合物は、熱可塑性ポリマー又は熱硬化性ポリマーの群に属するポリマーを形成する。このようなポリマーは、アクリル樹脂、アミノプラスト樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、例えばSpurrエポキシ樹脂(例えば、Sigma-Aldrich社によって市販されている製品EM300など)、メラミン樹脂、メタクリル樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族及び脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族及び脂肪族ポリエステル、ポリフッ素化樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、芳香族及び脂肪族ポリオレフィン樹脂、ポリスルホン化樹脂、スチレン樹脂、及びポリウレタン、並びに無機又は有機ゾルゲル材料、オルモシル(Ormosil)ポリマー(「有機変性シリカ」又は「有機変性シリケート」の略語)などのすなわち有機的に変性されたシリケート又はシリカ)、シリコーン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0175】
充填化合物の固定は、特に充填工程(3)の実施形態に従って、異なる方法で行われる。
【0176】
例えば、充填工程(3)が第1の実施形態に従って行われる場合、すなわち、充填化合物が好ましくは熱可塑性であるポリマー又はコポリマーである場合、仕上げ工程(4)は、後の使用のために構造体内のポリマー又はコポリマーの、できる限りの固定(fixation)(又は固定化(fixing))からなる。換言すれば、仕上げ工程(4)は、前記ポリマー又はコポリマーを、考慮した温度及び圧力の条件下で、構造体を実質的に残すことができない物理的状態に置くことからなる。温度及び圧力のこれらの条件は、複合材料構造体を利用する後の使用、すなわち典型的には外部配置(この場合、使用場所の気候を考慮する必要がある)又は内部配置であるかどうかに依存する。一般的に、これは、ポリマー又はコポリマーのガラス転移温度よりも低い温度に置くことになる。
【0177】
例えば、充填工程(3)が第2の実施態様に従って行われる場合、すなわち充填化合物がモノマー溶液中に存在する重合性モノマーである場合、仕上げ工程(4)は、触媒の存在下でモノマーを重合させることからなる。これは、一般的に、例えば熱ルート、UVルート、又はプラズマルートなどの、考えられる重合技術によって行われる。技術的選択は、当業者に知られているように、重合触媒の性質に実質的に依存する。
【0178】
例えば、モノマー溶液は、3部のスチレンに対して1部のブチルメタクリレートの割合で、ブチルメタクリレート及びスチレンを含み、仕上げ工程(4)で存在する触媒は0.05部の比でアゾイソブチロニトリルである。この場合、仕上げ工程(4)は、真空下又は無酸素雰囲気下、例えば無酸素フリー雰囲気下で、15~80℃、例えば40℃の温度で20時間~50時間、例えば約24時間加熱することにより行うことができる。
【0179】
得られるポリマー又はコポリマーが熱硬化性ポリマー又はコポリマーである場合、充填工程(3)は、架橋が達成される温度の範囲よりも高い温度で、液体状態で実施され、ポリマー又はコポリマーは硬化し始める。例えば、仕上げ工程(4)は、ポリマー又はコポリマーの前記温度範囲未満の温度で、熱硬化性ポリマーの原料モノマーの重合及び架橋からなる。
【0180】
例えば、リグノセルロース系材料の充填(3)を行い、その中の充填化合物の誘導析出(4)を実質的に同時に開始することが可能である。
【0181】
任意の後処理工程(5)及び/又は(6)
本発明によれば、処理方法は、仕上げ工程(4)から製造された構造体を加圧下に置く工程(5)をさらに含んでもよい。この加圧下に置く工程(5)は、典型的には、0.1~2.0MPaの圧力下、80~250℃の温度で5~30分間行われる。
【0182】
加圧下に置くこの工程(5)の後に、加圧下に置く工程(5)から生じる構造体の表面仕上げ(又は表面処理)工程が続いてもよい。表面仕上げ工程(6)は、典型的には、例えば酢酸エチルを用いた化学的ルート、又はプレス下に置くことを伴う熱ルートによって行うことができ、この場合、圧力下に置く工程(5)及び表面仕上げ(6)が同時に行われる。これにより、構造の表面の凹凸を平坦にすることができるという利点がある。
【0183】
表面仕上げ工程(6)は、工程(5)を実施せずに実施することもできる。この場合、表面仕上げ工程(6)は、アセトン又は塩化メチレンによる蒸気処理に基づいて実施することができる。
【0184】
構造体
本発明の第2の態様に従う複合材料構造体は、一般的に、有利なことに、処理前のリグノセルロース系材料に対して増加した良好な耐火性(単位体積当たりのその重量増加と、その高密度化された細胞構造に空気、ひいては酸素が存在しないため)、耐腐敗性(その高密度化された細胞構造中に空気が存在せず、そのために周囲の湿気と相互作用することができないため)、処理前のリグノセルロース系材料と比較して改善された耐久性を有し、処理前の天然のリグノセルロース系材料と比べて改善された圧縮及び曲げに対する抵抗性といった機械的特性を有する。とりわけ、これらの特性は、充填化合物の性質及び天然のリグノセルロース系材料に依存する。
【0185】
好ましい実施形態によれば、複合材料構造体は、天然のリグノセルロース系材料の性質に従って、実質的に均一な又は周期的な屈折率を、大部分で、又はその全体で有する。一実施形態によれば、リグノセルロース系材料の複合構造体は実質的に透明である。しかし、それは不透明であってもよい。好ましくは、リグノセルロース系材料の複合構造体は、実質的に半透明である。
【0186】
「透明」とは、入射光の少なくとも90%が透過することを可能にする視覚的に均一な物体の能力を意味する。この測定は、周囲照明の値(ルクス(lux)単位)と構造体内を通過後に得られる透過光束の値(ルクス単位)とを比較することによって、考慮した周囲照明について直接光の透過に対して行われる。
【0187】
「半透明」とは、入射光の5%~90%を通過させる物体の能力を意味する。半透明体が均一に見えない可能性がある。本発明の文脈において、リグノセルロース系材料の一部の脱リグニン化の程度が低い領域は、天然のリグノセルロース系材料の構造によって入射光線を吸収することができ、一方、最も脱リグニン化された領域は、より明るく見える傾向があり、脱リグニン化の程度がより低い領域よりも容易に光が通過させる傾向がある。
【0188】
「不透明」とは、構造体内の光の吸収又は拡散によって光線を通過させない物体の能力を意味する。天然のリグノセルロース系材料の構造体は、一般的に、その通常使用されるサイズで不透明材料である。この構造体の厚さが500μm未満まで小さくなると、天然のリグノセルロース系材料はその脆弱な柔軟なシート状であり、処理されていないにもかかわらず入射放射線を通過させて、半透明であることがあるが、最終的な複合材料の他の特性を有しない。
【0189】
材料を通過する光線は、逸れても逸れなくてもよく、構造体を通過した後の初期伝搬の方向を維持してもしなくてもよい。この光学的特性は、好都合なことに、変換された充填化合物の光学指数と、充填工程(3)と仕上げ工程(4)における材料の連続体の生成によって決まったリグノセルロース系材料の構造体中のセルロース(特にアルファ-セルロース)の光学指数(optical index)とを均一化することによって得られる。入射放射線の全て又は一部が光学密度の均一化によってこの複合材料構造を透過することができるので、これは構造体にさらなる光学的品質をもたらす。
【0190】
光学指数の連続性は、一般的に、ある体積を超えるリグノセルロース構造体では完全ではない。正確には、天然のリグノセルロース系材料及び脱リグニン化の程度に応じて、リグノセルロース系材料からのリグニンの抽出は、その表面及び深さに依存して一様でなく、そのため、脱リグニン化、従って、光学的レンディション(optical rendition)は均一には見えない。例えば、木材処理の場合、木材の種類に応じて、夏材と春材のゾーンは同じ性質を有していなくても、識別されなくてもよい。特定の種類の木材の場合の辺材と心材にも同じことが適用される。従って、特定の木材の場合、特に年成長輪(夏材と春材の交互配列)を有するものでは、それらの部分のうちの1つ、しばしば夏材が、ソーキング工程(1)と洗浄工程(2)の処理を受けにくいことがあり、工程(3)及び(4)の処理後に、半透明性又は透明性がより高いか又はより低い、あるいは、不透明であるゾーンが残る。反対に、一般的に化学的に均質な、より壊れやすい種類の木材に関しては、工程(1)及び(2)に直面した構造体の反応性は実質的に均一であり、材料を実質的に均一に半透明又は透明にする。光学的特性は、一般的に、複合材料構造体で観測される。
【0191】
典型的には、複合材料構造体は、少なくとも2mmで最大40cmの少なくとも1つの寸法を含む。これらの40cmは、CLTボードの全厚さに対応する。これは、本発明の方法に従う処理前の構造の寸法に厳密に対応するものでないことがある。正確には、工程(1)及び(2)中のリグノセルロース系材料の構造の変化、優位な変形軸があってもなくても、例えば処理前のリグノセルロース系材料に対する複合材料の変形(わずかな捻れ)又はサイズの減少によって、当該方法により寸法変化が起こりうる。
【0192】
複合材料の構造体は、しばしば、天然リグノセルロース系材料の密度よりも高い密度、例えば5%~1000%又は10~200%大きい密度を有する。この値は、特に、リグノセルロース系材料、脱リグニン化の程度及び充填化合物の性質に依存する。
【0193】
本発明の方法に従って得られる複合材料構造体は、好ましくは、トリミング部材、仕上げ部材又は構造部材である。
【0194】
木材の切断には3つのタイプがあることを思い出してほしい:
- LRC(長手方向ラジアル切断(longitudinal radial cut))
- TC(横方向切断(transverse cut))
- TLC(タンジェンシャル長手方向切断(tangential longitudinal cut))。
【0195】
以下の例は試料における切断TC及びLRCにのみ関するが、出願人は全ての可能な切断タイプを扱った。
本発明によれば、好ましい切断である横方向及び長手方向の切断は、一般的に、プロセスと同様に反応することに留意されたい。
【0196】
当業者であれば、本発明に従う処理のために好ましい切断を決定することができる:例えば、改善された機械的特性を利用する構造的用途の場合には、LRCが好ましいが、新しい光学的特性を利用する用途の場合には、TCが好ましいであろう。
【0197】
製品
本発明の第3の態様に従う製品(part)は、様々な屋外用途に使用することができ、この場合、製品は、一般的に、ソフィット(soffits)、窓枠、ドア及びドアフレーム、ベランダ、縁取り厚板、ガーデンシェッド、テラス(外構デッキや外構舗装など)、ウッドパネル(ウッドクラッディング)を有する建築物、都市開発などから選択される。あるいは、製品は、様々な室内用途で使用することができ、この場合に、製品は、贅沢品用のパッケージングコンポーネント、成形(又はデザイン)コンポーネント、ファニシングコンポーネント(家具及び建具製品、あるいは食品容器、例えばフードボールなど)、自動車内装コンポーネント、ヨット及びジェット機用の内装コンポーネント、船舶コンポーネント、スポーツコンポーネント(例えばスキー板)、大衆向け商品(サングラス又は電話機カバーなど)、航空機コンポーネント、及び建設セクター用のコンポーネントから選択される。
【0198】
本発明は、添付図面に参照することによって、より理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【
図1】
図1は、本発明に従う処理方法の原理を図式的に表している。
【
図2】
図2は、本発明に従う方法の処理工程の部分的な実施の例を図式的に表しており、前記工程は液体中にリグノセルロース系材料の構造体を浸漬することを含む。
【
図3】
図3は、本発明に従う方法の圧力下に置く工程の実施の例を図式的に表している。
【
図4】
図4は、本発明に従う方法の充填工程(3)及び仕上げ工程(4)の完全な実施の例を図式的に表しており、これらの工程が、
図2に従って液体中にリグノセルロース系材料の構造体を浸漬することを含む場合について示している。
【
図5】
図5は、自然状態の木材の長手方向の切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した像を図式的に表す。
【
図6】
図6は、本発明に従う処理前の、自然(又は天然)状態の木材構造体の3次元のマクロスコピックな像を図式的に表している。
【
図7】
図7は、本発明の処理前の、天然(又は天然)状態の
図6の木材構造体の3次元のマイクロスコピックな像を図式的に表している。
【
図8】
図8は、本発明に従うソーキング工程(1)及び洗浄工程(2)の後の
図9及び
図10の木材構造体の中間スケールでの像を図式的に示す。
【
図9】
図9は、本発明に従うソーキング工程(1)及び洗浄工程(2)の後の
図6及び
図7の木材構造体の3次元のマクロスコピックな像を図式的に表している。
【
図10】
図10は、
図9の木材構造体の3次元のマイクロスコピックな像を図式的に表している。
【
図11】
図11は、充填化合物(3)による充填工程の後の
図9及び
図10の木材構造体の3次元のマクロスコピックな像を図式的に表している。
【
図12】
図12は、
図11の木材構造体の3次元のマイクロスコピックな像を図式的に表している。
【
図13】
図13は、仕上げ工程(4)の後の
図11及び
図12の木材構造体、すなわち本発明に従う処理方法によって得られた複合木材の構造体の3次元のマクロスコピックな像を図式的に表している。
【
図14】
図14は、
図13の複合木材の切断面の3次元のマクロスコピックな像を図式的に表している。
【
図15】
図15は、本発明に従う処理方法の異なる工程でのモミ構造体の一部の半マイクロスコピックスケールで走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した3つの写真を複写したものである。すなわち、3つの写真は、左側から右側に向かって、それぞれ、脱リグニン化処理の前、脱リグニン化後でモノマー化合物による含浸前、及びそのように含浸されたモノマー化合物の重合後の写真である。
【
図16】
図16は、
図15のモミ構造体の一部の部分拡大後の、走査電子顕微鏡(SEM)による2つの写真を複写したものである。すなわち、2つの写真は、左側から右側に向かって、それぞれ、処理前、及び含浸されたモノマー化合物の重合後の、マイクロスコピックスケールでの写真である。
【
図17】
図17は、本発明に従う方法によって処理された木材の構造体の曲げを測定する原理の図を表す。
【
図18】処理前と処理後のモミ構造体の曲げを測定した結果を示す図である。
【
図19】
図19は、本発明に従う方法によって処理された木材の構造体の軸方向圧縮を測定する原理を示す図である。
【
図20】
図20は、処理の前後のモミ構造体の軸方向圧縮を測定した結果を示す。
【
図21】
図21は、本発明に従う方法によって処理された木材の構造体の軸方向牽引力を測定する原理を示す図である。
【
図22】
図22は、処理の前後のモミ構造体の軸方向牽引力を測定した結果を示す。そして
【
図23】
図23は、6種類の木材を処理した後のZeiss LSM710 Uplight顕微鏡により撮影した10個の写真を複写したものである。
【発明を実施するための形態】
【0200】
図1は、本発明に従う処理方法を、一連のサブ工程によって図式的に表しており、各サブ工程はボックスにより表されている。ボックスの各々は、本発明に従う方法の同じ参照番号を有する工程に対応し、参照番号(5)及び(6)は、ボックス4、5及び6を結ぶ点線の矢印によって示されているように、任意の工程であることが理解される。
【0201】
順番通りに、リグノセルロース系材料の構造体のソーキング工程である第1の工程(1)を区別することができる。工程(1)は、当該構造体のリグニンの部分抽出を行う。その後、工程(1)で得られた構造体を洗浄して、工程(1)からもたらされた溶解リグニンを排出する工程である第2の工程(2)が行われる。この洗浄工程(2)の後に、洗浄工程(2)からもたらされた部分的脱リグニン化構造体に少なくとも1種の充填化合物を充填する第3の工程(3)が行われる。最後の及び第4の工程(4)は、充填工程(3)からもたらされた構造体中に充填化合物を固定(fixation)する工程である。これは、セルロースとリグニンの網目構造に組み込まれた変換された充填化合物の三次元網目構造により形成された複合材料構造体を得ることを可能にする。この第4の工程の後には、仕上げ工程(4)からもたらされた構造体を圧力下に置く第5の工程を行うことができ、場合により、その後、工程(5)からもたらされた構造体(10)を表面仕上げする第6の工程(6)を行う。
【0202】
図2は、本発明に従う方法の処理工程の部分的な実施の例を図式的に表しており、前記工程は液体中にリグノセルロース系材料の構造体(10)を浸漬することを含む。図示したリグノセルロース系材料の構造体は木材構造体、例えば、モミである。木材構造体は、処理溶液(11)中に浸漬される。処理溶液(11)は、ソーキング工程(1)の有機溶液であるか、洗浄工程(2)の有機溶液であるか、又は充填工程(3)の少なくとも1種の充填化合物を含む溶液であることができる。このアセンブリは、例えばテフロン(登録商標)製のマウント(15)上に載置され、テフロン自体は、例えばステンレス鋼製のタンク(12)に固定される。
【0203】
図3は、本発明に従う方法の、圧力下に置く任意の工程(5)の実施の例を図式的に表している。この場合、構造体(10’)を挟み込んだまま互いに接近することができる2つの対称なジョー(13)及び(14)から構成される圧縮装置(13,14)において複合材料構造体(10’)が圧縮される。要素(13)と要素(14)のそれぞれには、一方の要素(2つの要素は矢印で表されている)に加えられた力とは反対の軸方向の力が加えられ、それらの要素を互いに近づける。
【0204】
図4は、本発明に従う方法の充填工程(3)及び仕上げ工程(4)の完全な実施の例を図式的に表しており、これらの工程が、
図2に従って液体中にリグノセルロース系材料の構造体を浸漬することを含む場合について示している。
【0205】
この図では、
図2に示すアセンブリはチャンバ(25)の内部に配置されている。より具体的には、タンク(12)は、金属マウント(16)によってチャンバ(25)内に固定されている。チャンバ(25)は、その内部の圧力及び温度の条件を制御することが可能なものである。これらの条件は、主に、充填化合物の性質に依存する。チャンバ(25)は、真空オーブン又はオートクレーブであることができる。
【0206】
管(22a)と管(22b)に分かれる管(22)は、それぞれの弁(17)及び(18)によって、真空を生成するか、又は窒素N2をチャンバ(25)内に導入する。
【0207】
管(23a)、管(23b)、管(23c)及び管(23d)に分かれる管(23)は、それぞれの弁(19)、(20)、(21)及び(26)によって、それぞれの溶液(24a)、(24b)、(24c)及び(24d)を排出するか、又はチャンバ内に導入する。純粋な溶液(24a)、(24b)、(24c)又は(24d)、あるいは、場合によっては、これらの溶液(24a)、(24b)、(24c)及び(24d)のうちの少なくとも2種の混合物は、従って、処理溶液(11)(これは、考慮されるプロセスの工程又はサブ工程に従って変化し得る)を構成し、これに木材構造体(10)を浸す。
充填工程(3)を実施すると、これにより木材構造体(10)の一連の処理を行うことができ、各シリーズは、例えば溶液の使用順序で連続的に浸漬することを含む。処理工程(3)は、通常、いくつかの系列、典型的には2~6シリーズ、例えば4シリーズを含む。
【0208】
変形例として、必要に応じて多くの有機処理溶液を含む別の装置を
図4に示す装置に備えることが可能であり、各処理溶液は、上に弁が存在し、チャンバ(25)と直接関係している管(23)に結合されている管と関連付けられている。
【0209】
図5は、自然状態の木材構造体、例えば、ウォルナットの長手方向切断の走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した像を図式的に表している。そこに、この木材のミクロ構造を確認できる。このスケールでは、セルロース繊維によって形成された壁(27)によって画定されたセルロースの腔(又は「内腔」)(28)と、細胞の腔間に細孔又はチャネル(29)形成している横方向の穿孔とを区別することが可能である。これらの腔は、軟材の場合、30~60μmの横方向寸法を有し、硬材の場合、70~350μmの横方向寸法を有する。横方向穿孔(29)は、軟材用の縁取りピット又は硬材用の実質的に円形のオリフィスを表し、その横断寸法は約6~約30μmであり、平均で約15μmである。
図5は、
図6に概略的に示された構造の長手方向の切断に実質的に対応する。
【0210】
図6及び
図7は、自然(又は天然)状態、すなわち本発明に従う処理前の木材構造体の、それぞれマクロスコピック及びマイクロスコピックである3次元の2つの眺めを図式的に表している。そこには、木材の腔(28)があり、腔の横方向の平均サイズは約75μmであるが、木材の性質に応じたばらつきがあり、すなわち軟材の場合には約30~約60μm、及び硬材の場合には約70~約350μmである。
【0211】
これらの腔(28)は、硬材及び軟材の場合に、平均厚さ約2~約10μmの細胞壁によって区切られている。
【0212】
図7から分かるように、自然状態で機械的強度を生じる木材のマイクロ構造は、管又はマイクロフィブリル(45)によって構成された細胞壁(28)の壁の集合体に由来し、束又はマクロフィブリルによって形成される(47)。マクロフィブリル(47)は、横方向ブレーシングのヘミセルセルロース構造に化学的結合により結合されており、縦方向ブレーシングのリグニン構造に横方向化学結合により結合されており、この集合体(46,44)は、セルロースマクロフィブリル(47)のためのブレーシングとして作用する。
【0213】
図8、9及び10は、本発明に従うソーキング工程(1)及び洗浄工程(2)の後の木材の構造体のマクロスコピックとマイクロスコピックの間の中間スケールでの3次元の三つの像をそれぞれ図式的に表している。
【0214】
細胞壁(49)を識別でき、これは、
図6及び
図7に示されているものに比べて薄くなっている。細胞壁(49)の厚さは、約2~約10μmであり、平均で約6μmである。ミクロフィブリル(45)、ヘミセルロース(46)及びマクロフィブリル(47)は、
図6及び7に対して実質的に変化していない。リグニン(44’)はまだ存在するが、「減量されており」、すなわち、
図6及び
図7に示されているリグニン(44)と比べて比較的量が少ない。
【0215】
図8は、壁接合部における細胞壁49の詳細を示す(
図9参照)。セルロース細胞壁(49)は、約0.2~約1μmの厚さの中葉(61)と、厚さ約0.1μmの一次壁(55)と、二次壁(60)の2つの壁を含み、二次壁(60)は、それ自体、腔(28)から外側に向かう方向にそれぞれ(52)、(53)及び(54)の3つの副層により構成され、第1の副層(52)は約0.1~約0.2μmの厚さであり、第2の副層(53)は約1~約5μmの厚さであり、第3の副層(54)は約0.1~約0.2μmの厚さである。横方向穿孔(29)も識別でき、これは約6~30μmの平均寸法の穿孔(51)によって取り囲まれた約0.02~4μmの平均寸法の実際のオリフィス(50)によって構成されている。
【0216】
洗浄工程(2)と関連してソーキング工程(1)によって行われる部分的脱リグニン化の時点で、一次壁(65)と、隣接する二次壁(60)の第3の副層(54)とが最も脱リグニン化される。それら自体は最もリグニンが充填されている層又は副層であり、第3の副層(52)自体はリグニンがほとんど充填されていないので、実施的には脱リグニン化されない。これは、本発明に従う部分的脱リグニン化で生じるリグノセルロース系材料の構造体での寸法変化の差異を説明する。
【0217】
上記の寸法を適合させることによって、
図8は、本発明に従う方法のソーキング工程(1)及び洗浄工程(2)である処理工程中の処理前の材料を等しくよく説明することができることに留意されたい。正確には、これらの工程の間、確認された唯一の変更は、上述したようないくつかの層及び副層の厚さから生じ、これは処理によって徐々に減少する。
【0218】
図11及び
図12は、充填化合物による充填工程(3)の後の、
図9及び
図10の木材構造体の、それぞれマクロスコピック及びマイクロスコピックな3次元の2つの像を図式的に表している。その中に、ミクロフィブリル(45)、リグニン(44’)、ヘミセルロース構造(46)、マクロフィブリル(47)、及び腔(57)の壁(49)の減量された構造が見られる。これらのキャビティ(57)を充填化合物で充填すると、3次元充填ネットワーク(58)が形成される。実際には、これは、マクロフィブリル及びそれらの間隙をこの充填化合物で充填すること、及び場合によっては充填化合物を材料に浸透させる度合いに応じてミクロフィブリルに充填化合物を充填する。
【0219】
図13及び
図14は、充填工程(4)(一般的には重合からなる)後の
図11及び
図12の木材構造体(一般的に重合からなる)のそれぞれマクロスコピック及びマイクロスコピックな3次元の2つの像を図式的に表している。従って、それらは、本発明に従う処理方法によって得られた複合木材構造体を図式的に示す。そこには、ミクロフィブリル(45)と、リグニンの減量構造(44’)、ヘミセルロース構造(46)、マクロフィブリル(47)、及び充填のための三次元網目構造の壁(49)が見られる。
【0220】
【0221】
本発明は、添付の図面を参照して、以下の例示的な実施形態を考慮してよりよく理解されるであろう。
【実施例】
【0222】
以下の実施例は本発明を説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0223】
実施例1:モミの構造体を処理するための本発明に従う方法
寸法0.5cm×4cm×8.5cm(b×l×h)のモミの平行六面体の試料を本発明に従う処理方法にかけた。これにより、実験室実験の文脈において、寸法0.45cm×3.6cm×8.2cm(b×l×h)の複合試料を得ることを可能にした、
使用したチャンバは真空オーブン(25)であった。
【0224】
こうして、各サブ工程が、真空下で、70℃の一定温度で、6%塩化ナトリウムと0.05%水酸化ナトリウムの溶液に試料を5時間浸漬することからなる3つの同じ連続するサブ工程による第1のソーキング工程(1)の間に試料を処理した。
【0225】
次に、各サブ工程が、前の工程又はサブ工程からもたらされた試料を、真空下で、60℃の一定温度で、99%エタノールの溶液中に4時間浸漬することからなる4つの同じ連続したサブ工程と、それに続く、各サブ工程が、前のサブ工程からもたらされた試料を、真空下で、50℃の一定温度で、99%ヘキサンの溶液中に3時間浸漬することからなる3つの第2の同じ連続したサブ工程とによる、前のソーキング工程(1)からもたらされた試料の浸漬によって、試料の洗浄工程(2)を実施した。
【0226】
洗浄工程(2)からもたらされた試料を、次に静置して、木材試料中にまだ存在するヘキサンを2時間蒸発させた。
【0227】
このようにして得られた試料の充填(3)及び仕上げ(4)は、
図4に示す装置により行った。
【0228】
充填工程(3)は、真空下での含浸によって、第2の実施形態に従って実施した。そのため、珪藻土から製造された濾過パウダーを用いてブチルメタクリレート及びスチレンを精製した後、1部のブチルメタクリレート及び3部のスチレンからなる「一次」モノマー溶液を調製した。この一次モノマー溶液は、第1シリーズの場合、50%エタノールに対して50体積%の比で混合した。一次モノマー溶液は、第2シリーズの場合、25%エタノールに対して75%の比で混合した。一次モノマー溶液(100%で)は、第3シリーズの溶液を構成した。0.05部の触媒(アゾイソブチロニトリル)に添加された一次モノマー溶液(95%)は第4シリーズの溶液を構成した。
【0229】
そのため、充填工程(3)は、4つのシリーズから構成され、各シリーズは、4つの連続するサブ工程を含み、第4シリーズの溶液(モノマー溶液+触媒)(24a)、エタノール(24b)、ヘキサン(24c)及びモノマー溶液(24d)から調製された以下の溶液によって、構造体(10)を操作せずに、空気と接触させずに、連続的に行った。この工程(3)の処理は、真空下及び周囲温度で、1シリーズ当たり24時間の時間で行った。
【0230】
充填工程(3)の終わりに、真空(17)を解放することにより溶液(11)を排出し、そして窒素(18)を吹き込むことによってチャンバ(25)の容積を飽和させ、構造体(10)中に存在するモノマーの蒸発を有利に妨げた。
【0231】
その後の仕上げ工程(4)は、充填工程(3)からもたらされた試料を充填しているブチルメタクリレート及びスチレンモノマーを重合する工程であった。スチレン-ブチルメタクリレートコポリマーの形成をもたらすこの重合は、500mLのモノマー溶液(11)に対して20~24時間真空下で実施し、最初の2時間は80℃の温度であり、当該工程のその後の部分では50℃であった。
【0232】
この仕上げ工程(4)の後に、加圧下に置く工程(5)を行った。この工程は
図3の装置で行った。仕上げ工程(4)からもたらされた試料をそれぞれ厚さ0.7mmのラテックス製の2枚のシートの間に包み、2枚のシートで試料を完全に覆って、4つエッジを重ね合わせた。こうして、それらは2枚のシートは、試料に適合するポケットを形成した。次いで、このポケットを、弁を用いて真空下に置き、容器-内容物アセンブリが構造体(10’)を形成した。この混合物を温度40℃のオーブンに24時間入れた。
【0233】
加圧下に置く工程(5)の後に、得られた木材複合構造体をポケットから取り出し、次いで酢酸エチルのライトジェットを用いて、表面仕上げ工程(6)中に表面仕上げする工程を行った。
このようにして得られた複合体の試料は半透明であった。
【0234】
チャンバ(25)がオートクレーブ(25)である変形例を提供することもできる。この場合、充填工程(3)を行なうのに十分な単一のシリーズであってもよく、仕上げ工程(4)は、浴中への浸漬により行われ、加圧下に置く工程(5)及び表面仕上げ工程(6)は必要でない。
【0235】
以下の実施例2で説明するように、破壊的機械的試験及び非破壊的光学試験で評価したいくつかの複合モミ試料を得るために、実施例1を数回実施した。
【0236】
実施例2:本発明に従う処理プロセスからもたらされ、実施例1で得られた複合モミ構造体の評価
実施例1で得られた複合モミ構造体を形成するモミ試料を、その機械的強度の特性だけでなくその光学特性についても評価した。
【0237】
図17~
図22に示されている機械的試験
図17及び
図18に示されている曲げ測定
この測定は、直径3cmの3つの同じプーリー(39)を備え、出願人が開発した方法に従って、0.7cm×2.5cm×10cm(b×l×h)のサイズのモミの試料に対して実施した。これらの3つの滑車(39)は、3.5cmの間隔をあけて配置され、最も遠い2つの滑車(39)の間の距離は7cmであった。
【0238】
図17は、本発明に従う複合モミ構造体(38)を形成するモミ試料の曲げを測定する原理の図を表している。
図17に見られるように、力Fを試料に加え、その値が増加し、主平面に対して垂直になり、破断直前の最大応力(矢印f)を測定した。
【0239】
図18は、処理前(曲線A)及び処理後(曲線B)のモミ試料の曲げ測定の結果を示す。
自然(又は天然)のモミの試料(曲線A)については、175kgf/cm
2で破断時最大応力が測定され、曲げたわみは0.53cmであった。
【0240】
対照的に、本発明に従う半透明複合材の試料(曲線B)では、350kgf/cm2で破断時最大応力が測定され、曲げたわみは0.65cmであった。
【0241】
このように、本発明に従う処理によるモミの細胞高密度化は、曲げ力に対する耐性が200%増加することを可能にした。さらに、天然のモミとは対照的に、本発明に従う複合モミの場合には、破断は、より革新的である。従って、本発明に従う処理によって、材料は延性を獲得した。発明者は、いかなる理論によっても限定されることを望まないが、これは恐らく繊維とポリマーマトリックスとの間の高い接着性に起因すると考えている。
【0242】
図19及び
図20により示される軸方向圧縮測定
この測定は、本出願人によって開発された方法に従って、寸法1cm×3.5cm×10cm(b×l×h)のモミの試料について実施した。
【0243】
図19は、本発明に従う複合モミ構造体(41)を形成するモミ試料の軸方向圧縮を測定する原理を示す図である。
【0244】
図19からわかるように、7cm直径の破砕板(40)により、その主軸に平行に、強度を増加させて、試料に圧縮力Fを印加し、破断直前の最大応力(距離d
a)を測定した。
【0245】
図20は、処理前(曲線A)及び処理後(曲線B)のモミ試料のこの軸方向圧縮測定の結果を示す。
天然(又は自然)のモミの試料(曲線A)の場合、254kgf/cm
2で破断時最大応力が測定され、破断直前の変形は0.959cmであった。
【0246】
対照的に、本発明に従う半透明複合体試料(曲線B)については、430kgf/cm2で破断時最大応力が測定され、破断直前の変形は0.978cmであった。
【0247】
このように、本発明に従う処理によってモミの細胞高密度化は、軸方向圧縮力に対する耐性の170%の増加を可能にした。さらに、天然のモミとは対照的に、本発明に従う複合モミの場合には、破断はより漸進的である。発明者は、いかなる理論によっても制限されることを望むものではないが、これは、おそらく、複合モミの性質によるものであり、マトリックス中の亀裂の発生が、ポリマーによって強化された木材の繊維によって阻止されることにつながると考えている。
【0248】
図21及び
図22に示されている軸方向牽引力測定
この測定は、本出願人によって開発された方法に従って、寸法0.2cm×3cm×7.5cm(b×l×h)のモミの試料について実施した。
【0249】
図21は、本発明に従う複合モミ構造体(43)を形成する全試料の軸方向牽引力を測定する原理の図を示す。
【0250】
図21から分かるように、反対方向の2つの同一の牽引力Fが、主軸に平行になる2つの同一のグリップ(42)を介して試料に加え、破断前の最大応力を測定した。各グリップ(42)の寸法は、1.5cm×2.5cm×1cm(b×l×h)であった。
【0251】
図22は、処理前(曲線A)及び処理後(曲線B)の、モミの試料についてのこの軸方向牽引力測定の結果を示す。
天然(又は自然)モミの試料(曲線A)については、125kgf/cm
2で破断時最大応力が測定され、破断直前の伸びは0.7cmであった。
【0252】
対照的に、本発明に従う半透明複合体の試料(曲線B)については、165kgf/cm2で破断時の最大応力が測定された、破断直前の伸びは0.7cmであった。
【0253】
従って、記録された塑性変形は、破断前に約6%であった。従って、本発明に従う材料の軸方向牽引に関する挙動は、処理前の材料の挙動と実質的に同一である。本発明に従う方法の使用によるこの値の低下は観察されなかった。
【0254】
図15、
図16及び
図23に示す光学テスト
実施例1で得られた複合モミ構造体は半透明であった。
図15及び
図16は、本発明に従う処理プロセスの異なる工程で、実施例1で処理したモミ構造体の一部の走査電子顕微鏡(SEM)による写真を2つの異なるスケールで複写したものである。
【0255】
図15は、本発明に従う処理方法の異なる工程でのモミ構造体の一部の走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した3つの写真を複写したものである。すなわち、3つの写真は、左側から右側に向かって、それぞれ、脱リグニン化処理の前、脱リグニン化後でモノマー化合物による含浸前、及びそのように含浸されたモノマー化合物の重合後の写真である。
図16は、
図6のモミ構造体の一部の部分拡大後の、走査電子顕微鏡(SEM)による2つの写真を複写したものである。すなわち、2つの写真は、左側から右側に向かって、それぞれ、処理前(天然又は自然の木材)、及び含浸されたモノマー化合物の重合後の写真である。
【0256】
充填化合物による含浸後に充填される明るい色の部分は、含浸を行うと変わり、特により白くかつより広い(
図15の部分30と部分31の比較と、
図16の部分36と部分34の比較参照)。
【0257】
暗い部分(
図15の2番目の写真の場合は32、
図15の3番目の写真の場合は33、
図16の最初の写真の場合は37、
図16の2番目の写真の場合は35)は、空気に対応しており、その後のプロセスの最適化により顕著に減らすことができる。これらの写真は、細胞の腔を識別できない脱リグニン化前の木材の無秩序な状態と、細胞の腔をはっきりと識別することができる脱リグニン化後の木材のより秩序化した状態と、本発明に従う処理後の、ポリマーにより部分的に充填された木材の腔の状態を示している。そのため、本発明に従う処理方法の後に得られた複合木材は、木材の元の微細構造に従って高度に構造化されており、主にセルロースで構成された細胞の壁には、ポリマーのボールが挿入され、ポリマーが細胞の腔を少なくとも部分的に満たすことが分かる。
【0258】
図23は、長手方向ラジアル切断(LRC)と横方向切断(TC)の合成モミ構造体の、20倍のレンズを備えたZeiss LSM710 Uplight顕微鏡によって撮影された2つの写真を複写したものである。
周囲光は257ルクスである。
【0259】
最初の写真は、考慮した周囲光(すなわち5.5%の光透過率)の場合に14ルクスの直接光透過で得られた長手方向のラジアル切断(LRC)面におけるものであり、この試料の2番目の写真は、考慮した周囲光(すなわち11%の光透過率)の場合に27ルクスの直接光透過で得られた横方向切断(TC)面におけるものである。
【0260】
これらの2つの写真は、複合木材が3次元の構造であること、すなわち、切断面が何であれ、複合毛皮の半透明性が現れることを示している。
【0261】
実施例3:実施例1のようにして得られた本発明に従う処理方法で得られたホワイトパイン、ペダンキュレートオーク、マホガニー、ティリア及びアッシュの複合構造材の光学的評価
実施例1の処理方法を、他の種類の木材で再現した。すなわち、ホワイトパイン、ペダンキュレートオーク、マホガニー、ティリア及びアッシュの5種類の木材の複合構造体を形成する試料を再現した。これらの5種の異なる種類の木材の試料の光透過率の光学特性を評価した。
【0262】
図23は、これらの5種類の木材から製造された複合木構造の倍率20倍のレンズを備えたZeiss LSM710 Uplight顕微鏡によって撮影された8つの写真を複写したものである。
【0263】
ホワイトパインの試料の最初の写真は、考慮した周囲光(すなわち8%の光透過率)の場合に20ルクスの直接光透過で得られた長手方向ラジアル切断(LRC)の面におけるものであり、この試料の2番目の写真は、考慮した周囲光(すなわち25%の光透過率)の場合に65ルクスの直接光透過で得られた横方向切断(TC)の面におけるものである。ペダンキュレートオークの試料の唯一の写真は、考慮した周囲光(すなわち9%の光透過率)の場合に22ルクスの直接光透過で得られた横方向切断(TC)である。
【0264】
マホガニーの試料の唯一の写真は、考慮した周囲光(すなわち13%の光透過率)の場合に33ルクスの直接光透過で得られた横方向切断(TC)である。
【0265】
ティリアの試料の最初の写真は、考慮した環境光(すなわち12%の光透過率)の場合に30ルクスの直接光透過で得られた長手方向ラジアル切断(LRC)の面におけるものであり、この試料の2番目の写真は考慮した周囲光(すなわち30%の光透過率)の場合に70ルクスの直接光透過で得られた横方向切断(TC)の面におけるものである。
【0266】
アッシュの試料の最初の写真は、考慮した周囲光(すなわち4.3%の光透過率)の場合に11ルクスの直接光透過で得られた長手方向ラジアル切断(LRC)の面におけるものであり、この試料の2番目の写真は考慮した周囲光(すなわち13%の光透過率)の場合に33ルクスの直接光透過で得られた横方向切断(TC)の面におけるものである。
【0267】
いずれの場合も、これらの写真は、複合木材が3次元の構造であること、すなわち、どのような切断面であっても複合木材の半透明性が現れることを示している。
【0268】
特に、脱リグニン化の制御、飽和/充填の深さ、及び充填化合物の性質に関して、当業者による当該方法の改善によって、複合木材の光透過性を顕著に改善することができるであろう。なかでも、いったん変換された屈折率は、複合リグノセルロース系物質の屈折率と実質的に均一でなくてはならない。
本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に示す。
[態様1]
リグノセルロース系材料の構造体を処理するための処理方法であって、前記リグノセルロース系材料は好ましくは木材であり、以下の工程を含む前記方法:
(1)少なくとも1種の有機流体によりリグノセルロース系材料の前記構造体をソーキングして、前記材料中に存在するリグニンの少なくとも40質量%かつ最大で85質量%を溶解させる少なくとも1つの工程;
(2)部分的脱リグニン化構造体を生じさせるために、ソーキング工程(1)からもたらされた溶解リグニンを排出するように、工程(1)からもたらされた構造体を少なくとも1種の有機流体により洗浄する少なくとも1つの工程;
(3)充填された部分的脱リグニン化構造体を生じさせるために、洗浄工程(2)からもたらされた部分的脱リグニン化構造体に少なくとも1種の充填化合物を充填する少なくとも1つの工程;及び
(4)セルロースとリグニンのネットワークに組み込まれた変換された充填化合物の三次元ネットワークから形成された複合材料構造体を得るために、充填工程(3)からもたらされた充填された部分的脱リグニン化構造体を仕上げる少なくとも1つの工程。
[態様2]
リグノセルロース系材料の前記構造体がトリミング部材、仕上げ部材又は構造部材である、態様1に記載の処理方法。
[態様3]
ソーキング工程(1)の有機流体が、以下から選択される、態様1又は2に記載の処理方法:
- 塩化ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物を含む水溶液、もしくは、モノエタノールアミンを含む水性液体、又は、KOHを含む塩基性溶液;
- 酢酸と過酸化水素の混合物を含む水溶液、あるいは、HBr、H
2
SO
4
又はH
3
PO
4
を含む酸性溶液;
- 場合によっては少なくとも1種のイオン性液体の存在下又は少なくとも1種のイオン性液体と少なくとも1種の補助溶媒の存在下で、少なくとも1種の酵素を含む流体;
- 純粋なイオン性液体;
- 溶液中に1又は2種以上の酵素を含むイオン性液体;
- イオン性液体と混和性の少なくとも1種の溶媒との混合物でイオン性液体;
- 溶液中に1又は2種以上の酵素を含む少なくとも1種の混和性溶媒との混合物でイオン性液体;
- 相の一方が、純粋な又は少なくとも1種の混和性溶媒と混合されたイオン性液体によって構成され、他の相が、超臨界流体によって構成される二相系;
- 相の一方が、純粋な又は少なくとも1種の混和性溶媒との混合物でイオン性液体によって構成され、他の相が超臨界流体によって構成される二相系であって、さらに、イオン性液体を含む相中に1又は2種以上の酵素を溶液で含む二相系;
- 少なくとも1種の酵素を含む、純粋な化合物又は化合物の混合物の任意の溶液;及び
それらの混合物。
[態様4]
前記ソーキング工程の前に、前処理工程があり、前記前処理工程は、リグノセルロース系材料の構造体を少なくとも1種の有機流体によりプレソーキングする少なくとも1つのサブ工程と、それに続く、プレソーキングのサブ工程からもたらされた溶解した化合物を排出するように、プレソーキングのサブ工程からもたらされた構造体を少なくとも1種の有機流体によりプレ洗浄する少なくとも1つのサブ工程とを含む、態様1~3のいずれか一つに記載の処理方法。
[態様5]
前記洗浄工程(2)の前記有機流体が、エタノール、ヘキサン、イソプロパノール、ヘプタン及びこれらの混合物からなる群から選択される液体である、態様1~4のいずれか一つに記載の処理方法。
[態様6]
前記充填工程(3)の前記充填化合物が、前記充填工程(3)の圧力及び温度の条件下で液体状態であり、前記部分的に脱リグニンされた構造体を液体のポリマー又はポリマー中でソーキングすることによって充填工程(3)を実施する、態様1~5のいずれか一つに記載の処理方法。
[態様7]
前記充填工程(3)の前記充填化合物が、前記充填工程(3)の圧力及び温度の条件下でモノマー溶液中に存在する重合性モノマーであり、前記モノマー溶液はさらに少なくとも1種の触媒を含む、態様1~7のいずれか一つに記載の処理方法。
[態様8]
前記充填工程(3)の前記モノマー溶液が、以下から選択される少なくとも1種のモノマーを含む、態様7に記載の処理方法:
- 石油から製造されるモノマー、かかるモノマーには、メタクリレート、フタレート;ニトリル;スチレン及びスチレン誘導体;ビニル化合物;エチレン性化合物;ブタジエン;イソプレンがある;及び
- バイオソースモノマー、かかるモノマーには、テルペン;エピクロロヒドリン、プロパンジオールの異性体及びグリコール酸の異性体のうちの少なくとも1種との反応後に得られるグリセロール及びグリセロール誘導体;糖の誘導体;フルフラール誘導体;乳酸及びギ酸誘導体;ヒマシ油から製造されるモノマー;ヒドロキシアルカン酸;バイオエチレン;バイオエチレングリコール;バイオプロピレン;バイオ-1,4-ブタンジオール;リグニン誘導体;並びにこれらの混合物。
[態様9]
前記洗浄工程(2)の前記有機流体から回収された溶解リグニンが、建設材料、もしくは航空機に使用される材料、もしくは包装材料、もしくはバイオ燃料、もしくは医薬化合物、又は化合物の製造のために、リグニンを利用するプロセスにおいて使用される、態様1~8のいずれか1項に記載の処理方法。
[態様10]
前記リグノセルロース系材料が軟材であり、前記構造体中に存在するリグニンの50~85質量%、好ましくは50~75質量%が前記ソーキング工程(1)の間に溶解される、態様1~9のいずれか一つに記載の処理方法。
[態様11]
前記リグノセルロース系材料が硬材であり、前記構造体中に存在するリグニンの40~60質量%、好ましくは45~55質量%が前記ソーキング工程(1)の間に溶解される、態様1~9のいずれか一つに記載の処理方法。
[態様12]
リグニン、ヘミセルロース、セルロース及び少なくとも1種の充填化合物を含む複合材料構造体(62)であって、前記構造体が、態様1~11のいずれか一つに記載の処理方法の実施によって得られ、前記複合材料構造体がセルロース及びリグニンの構造(44’、45,47,46)に組み込まれた変換された充填化合物の三次元ネットワーク(59)を形成している、複合材料構造体(62)。
[態様13]
前記構造体が実質的に半透明である、態様12に記載の材料構造体。
[態様14]
前記構造体がトリミング部材、仕上げ部材又は構造部材である、態様12及び13のいずれか一つに記載の材料構造体。
[態様15]
態様12~15のいずれか一つに記載の少なくとも1つの複合材料構造体(62)を含む製品であって、前記製品は、家具のアイテム又は家具のアイテムの一部、建築物のコンポーネント、自動車部品又は航空部品である製品。