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特許7086935血管から閉塞性血栓を除去するための血栓回収システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】血管から閉塞性血栓を除去するための血栓回収システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/22 20060101AFI20220613BHJP
【FI】
A61B17/22
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019508917
(86)(22)【出願日】2017-08-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2017069668
(87)【国際公開番号】W WO2018033401
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-07-15
(31)【優先権主張番号】62/376,264
(32)【優先日】2016-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16186028.3
(32)【優先日】2016-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515248931
【氏名又は名称】ニューラヴィ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ベイル・デビッド
(72)【発明者】
【氏名】ケーシー・ブレンダン
(72)【発明者】
【氏名】ファイー・ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】マッカードル・ケビン
(72)【発明者】
【氏名】ブレディー・エイモン
(72)【発明者】
【氏名】アムスタッツ・ジル
(72)【発明者】
【氏名】ホリアン・メーブ
(72)【発明者】
【氏名】キング・ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ギルバリー・マイケル
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-087971(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0299374(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0359547(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00 - 90/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位端と、遠位端と、前記遠位端における膨張可能な拡張部材とを有する細長管状シャフトを備えた血栓捕捉カテーテルであって、前記拡張部材は折り畳まれた送達形態から拡張形態へと膨張させることが可能であり、前記拡張形態において前記拡張部材は少なくとも前記細長管状シャフトの最遠位先端部にまで延び、前記細長管状シャフトの前記最遠位先端部において前記細長管状シャフトから径方向外側に延びて開口部を画定し、
前記拡張部材の拡張によって前記細長管状シャフトの前記最遠位先端部に張力がかかり、前記細長管状シャフトの前記最遠位先端部が漏斗形状になる、血栓捕捉カテーテル。
【請求項2】
前記拡張部材がバルーンを含む、請求項1記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項3】
前記バルーンは前記細長管状シャフトの前記最遠位先端部と一体である、請求項2に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項4】
前記拡張部材は、前記バルーンと前記細長管状シャフトとの遠位接合部が前記バルーンの内部に位置するように反転されたポリマーチューブで形成されている、請求項3に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項5】
前記バルーンが互いに異なる性質を有する複数の領域を有する、請求項2か4のいずれか一項に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項6】
前記細長管状シャフトは、主内側管腔と、前記拡張部材を膨張させるための膨張管腔とを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項7】
前記膨張管腔は、前記細長管状シャフトの壁の内部に延びる、請求項6に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項8】
前記膨張管腔と前記主内側管腔とが偏心配置にある、請求項6又7に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項9】
前記膨張管腔と前記主内側管腔とが同心配置にある、請求項6又7に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項10】
前記膨張可能な拡張部材が非晶質エラストマー性ポリマーを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項11】
前記非晶質エラストマー性ポリマーが熱可塑性ポリウレタンエラストマーである、請求項10に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項12】
前記細長管状シャフトの一部が前記膨張可能な拡張部材を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項13】
前記細長管状シャフトの遠位領域が非晶質エラストマー性ポリマーを含む、請求項11又12に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項14】
前記細長管状シャフトの前記遠位領域の前記非晶質エラストマー性ポリマーは熱可塑性ポリウレタンエラストマーである、請求項13に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項15】
前記細長管状シャフトの遠位領域は第1の非晶質エラストマー性ポリマーを含み、前記膨張可能な拡張部材は、前記第1の非晶質エラストマー性ポリマーとは異なる第2の非晶質エラストマー性ポリマーを含む、請求項11か14のいずれか一項に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項16】
前記拡張部材が近位接合領域において前記細長管状シャフトに接合され、前記細長管状シャフトは、外側スリーブ、中間層、内側ライナ、及び補強編組又はコイルを含む複数の層を有する、請求項1から15のいずれか一項に記載の血栓捕捉カテーテル。
【請求項17】
近位端と、遠位端と、前記遠位端における膨張可能な拡張部材とを有する細長管状シャフトを備えた血栓捕捉カテーテルであって、前記拡張部材は折り畳まれた送達形態から拡張形態へと膨張させることが可能であり、前記拡張形態において前記拡張部材は少なくとも前記細長管状シャフトの最遠位先端部にまで延び、前記細長管状シャフトの前記最遠位先端部において前記細長管状シャフトから径方向外側に延びて開口部を画定し、
前記細長管状シャフトは、外側スリーブ、中間層、内側ライナ、及び補強編組又はコイルを含む複数の層を有し、
前記拡張部材の近位端は近位接合領域において前記細長管状シャフトに接合され、前記拡張部材の他端は、前記拡張部材を形成するほぼ管状のポリマー部材の中央部分が前記細長管状シャフトの前記遠位端に配置されるように反転されて接合部において前記中間層に接合され、前記ほぼ管状のポリマー部材の、前記接合部と前記中央部分との間に位置する部分は、前記細長管状シャフトの前記最遠位先端部に接合されている、血栓捕捉カテーテル。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の血栓捕捉カテーテル、血栓係合装置、及び該血栓係合装置用のマイクロカテーテルを含む、キット。
【請求項19】
前記血栓係合装置はステントリトリーバ装置である、請求項18に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管から急性閉塞物を除去することを伴う手技での使用を目的とした装置に関する。急性閉塞物としては、血栓、誤配置された装置、移動した装置、大きな塞栓などが挙げられ得る。血栓塞栓症は、血栓の一部又はすべてが血管壁から剥離したときに発生する。この血塊(以降、塞栓と呼ぶ)はその後、血流の方向に運ばれる。慮血性発作は、脳の血管系内に血塊が留まった場合に結果として生じ得る。肺塞栓症は、血塊が静脈系で又は心臓の右側で発生し、肺動脈又はその支脈内に留まると、結果として生じ得る。血塊はまた、解放されずに塞栓の形状で発達し、血管を局所的に遮断し得る。この機序は、冠状動脈の遮断物の形成において一般的である。本発明は、急性虚血性脳卒中(AIS)を患う患者の大脳動脈、心筋梗塞(MI)を患う患者の天然又は移植冠状血管、肺塞栓症(PE)を患う患者の肺動脈、及び、血塊が閉塞を引き起こしている他の末梢動脈及び静脈からの血塊の除去を伴う症例における使用に特に適している。
【背景技術】
【0002】
近年の臨床研究により、機械的血栓除去術は、急性虚血性脳卒中を最近患った患者に対して虚血組織への血流を回復するための極めて効果的な方法であることが示されている。この手順は典型的には、血栓除去装置(ステントリトリーバ及び/又は吸引カテーテルであり得る)を閉塞性血栓にまで進め、血栓と係合させ、局所吸引カテーテル、又はより近位に配置されたガイド若しくはシースの安全な範囲内に引き込むことを伴う。後者の場合ではバルーンカテーテルがしばしば用いられる。かかるカテーテルではバルーンを膨張させることによってカテーテルよりも先の血流を制限することができ、これにより捕捉した血栓をカテーテルマウス内により安全に回収することが容易となる。典型的には、バルーンガイドカテーテルを通じた吸引を用いて、遠位の血管構造内の血流を逆転させ、捕捉された血栓のカテーテルマウス内への通過を促す。
【0003】
しかしながら、バルーンガイドによって与えられる利点にもかかわらず、現在用いられている装置には大きな制約がある。
【0004】
これらの制約の1つは、カテーテル上のバルーンの位置によるものである。従来のバルーンガイドカテーテルは、バルーンの遠位ネックのカテーテルシャフトへの取り付け方のため、また、遠位カテーテル先端部の存在のために、バルーンの遠位に「デッドスペース」を有している。このデッドスペースは、血栓をそこから容易に吸引又は吸入することができない領域であり、そのため血栓の破片がこの領域に滞留した場合、バルーンが萎まされる際(患者からカテーテルを抜去する前に行わなければならない)に血栓の破片が遠位に脱出し、血管の閉塞及び患者に深刻な害をもたらすおそれがある。
【0005】
従来のバルーンガイドカテーテルの第2の制約は、血栓がカテーテル内に引き込まれる際に血栓内に誘導される剪断応力の大きさである。この応力は、血栓及びカテーテルの管腔の相対的なサイズ、並びにカテーテルに対する血栓の摩擦係数などの多くの因子の影響を受ける。カテーテルに入る血栓がカテーテル内に入るためには、カテーテルの内径に一致するようにその形状が急激に変化しなければならない。この急激な変化によって、血栓とカテーテル先端部との間の界面に高い剪断応力が生じ、これにより血栓が剪断若しくは破断されて、血栓の破片が放出されて上記に述べたデッドスペース中に引っかかり得るか、又は血栓の大部分若しくは全体が、それをバルーンガイドカテーテルにまで引き込んだステントリトリーバ又は吸引カテーテルから外れる可能性がある。これらの血栓の一部又は破片がバルーンガイドカテーテル内に完全に吸引されない場合、これらは遠位に移動して傷害又は死につながる恐れがある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記に述べた、血栓の剪断及びバルーンガイドカテーテルの遠位先端部の「デッドスペース」内に引っかかる血栓破片の問題を解決するものである。本発明の主題は、拡張可能な遠位先端部分を備えた細長管状シャフトを有する、機械的血栓除去術で使用されるように構成されたカテーテルである。
【0007】
細長シャフトは、他のカテーテル又は構成部品を通すことができ、更に血栓を吸引することができる第1の内側管腔と、カテーテルの近位のハブからシャフトの遠位端の膨張可能な部材にまで延びる、シャフトの壁の内部の第2の内側管腔とを有する。この第2の内側管腔は円形の断面を有してもよく、又は長円形であってもよく、複数の管腔で構成されてもよい。
【0008】
拡張可能な遠位先端部分の一実施形態は漏斗状のバルーンで構成され、折り畳まれた状態と拡張された状態とを有する。折り畳まれた状態ではバルーンは萎んでおり、導入シースに通して、また、患者の血管構造を通して進められるよう、その断面を最小とするために折り畳むか、かつ/又はプリーツを付けることができる。拡張された状態では、バルーンは膨らまされている。バルーンの膨張はいくつかの役割を果たす。すなわち、
1)バルーンは、血管壁とバルーンとが接触するような直径にまで膨らませることができ、これによりバルーンを通過する血流を部分的又は完全に遮断する。これにより、血栓除去術において血栓の一部又は全部がカテーテル内に回収される確率を低くする助けとなり得る。また、これにより、カテーテルを通じた吸引が促され、この吸引によって遠位の血管内に逆方向の流れが生じることを確実にする。
2)バルーンの膨張は、血管内でのカテーテルの安定化を助けることができ、想定外のカテーテルの動き及びその結果生じる血管の損傷が防止される。
3)本発明のバルーンの膨張はカテーテル先端部の形状をも変化させ、これによりカテーテル先端部とその中に引き込まれるあらゆる物質又は装置との間の界面の幾何形状が最適化される。詳細には、このような形状の変化は、血栓物質がカテーテル内に引き込まれる際に血栓物質に作用する剪断力を低減し、血栓が引っかかる可能性のある「デッドスペース」又はポケットを最小限に抑えるか又は排除する。
【0009】
本発明の一実施形態では、漏斗状バルーンは遠位のカテーテル先端部分と一体とされ、バルーンとカテーテルとの間の遠位接合部がバルーン自体の下(及び内部)に位置するように反転された一定の長さのポリマーチューブで形成される。
【0010】
バルーンの壁厚は、バルーンを選択的にある領域で他の領域よりもより大きく拡張させるような外形とするか、テーパさせることができ、これにより、膨張時に漏斗状の外形を実現することが可能となる。一実施形態では、バルーンの近位部分及び遠位部分の壁厚は、中間部分よりの壁厚よりも大きい。別の実施形態では、バルーンの近位部分の壁厚は、中間部分及び遠位部分の壁厚よりも大きい。
【0011】
別の実施形態では、バルーンの近位部分は膨張時のその拡張を制限するために補強され、これにより、バルーンの遠位部分の選択的な拡張がもたらされ、遠位端において球根状の漏斗形状が形成される。この補強は、バルーンに沿って軸方向若しくは径方向に延び得るリブの形態とすることができ、かつ/又は、バルーン自体と同じ若しくは異なる材質で形成することもできる。
【0012】
反転されたバルーンはカテーテル先端部から突き出るように配置することができ、その場合、多くの従来の柔軟性バルーンと異なり、非拡張状態ではバルーン材料に軸方向の張力が一切かからない。この軸方向の張力がないことと、突き出た部分の大きさ(理想的には0.5mmよりも大きく、3.5mmよりも小さい)との組み合わせが、バルーンが漏斗状の形状に膨らむことができることを確実にするために重要である。
【0013】
バルーンは、カテーテルシャフトへの組み付けに先立って漏斗状の形状に予め形成することができるが、その場合、低い外形への効率的な折り畳みを促すためにプリーツ又は優先的な折り目をバルーンに設けることも効果的であり得る。
【0014】
一連の実施形態においては、複数のバルーンがカテーテルシャフト上に用いられる。これは、個々のバルーンの特性を特定のタスクに合わせて調整できるという利点がある。例えば、血流の停止を行うために血管壁に対して封止するように低圧で柔軟なバルーンを設計することができる一方で、別のバルーンを遠位のカテーテル先端部において漏斗状の形状となるように設計することで血栓に作用する剪断力を最小とし、カテーテル開口部内への大きくかつ/又は堅い血栓の容易な取り込みを促すことができる。場合により、より圧力が高く、柔軟性の低いバルーンを用いることで、カテーテル先端部が血管壁に近づきすぎて血栓の回収を妨げることを防止することができる。
【0015】
このカテーテルの構成に使用される材料は慎重に選択する必要がある。高圧のバルーンでは、PET又はポリアミドのような比較的高い弾性率を有する材料が好ましい選択肢であるが、本発明のカテーテルの特定の膨張可能な部分では、より軟らかく、より柔軟な材料が望ましい。この膨張可能な部分は好ましくは非晶質エラストマー性ポリマーで構成されるため、膨張圧力によって非膨張状態の直径の少なくとも2倍、最大で5倍程度にまで延伸する/張り詰めることができ、収縮時にはその非膨張状態の形状の大部分又は全体を回復することができる。このため、材料は、少なくとも200%、理想的には500%以上の弾性歪みに耐え、塑性変形が最小レベルに抑えられることが求められる。かかる高いレベルの回復可能な歪みはポリマー鎖の架橋によって大幅に高められることから、シリコーンゴムのような熱硬化性材料が柔軟なバルーンでは好ましい選択肢であり得る。しかしながら、シリコーンは、容易に溶融されず、例えば強くて薄い溶接接合部を形成するために別の材料と混和することができないことから、第2の材料と容易に接合できる材料ではない。このため、ポリウレタンエラストマーが本発明のバルーンで好ましい材料である。詳細には、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは溶接又は接合プロセスの一環として溶融することができ、あるいは溶媒接着又は接着剤により接着できることから理想的な材料となる。更に、このようなポリウレタンを適合性のある材料のファミリーと接合することで、ポリウレタンのみに限定した場合に可能な剛性の勾配よりも大きな剛性の勾配をカテーテルの長さに沿って形成することができる。例えば、非常に軟らかいポリウレタンをバルーン及びカテーテルの最遠位部分に使用することができる。そして、1種以上のPebax材料(ポリエーテルブロックアミドコポリマー)材料をカテーテルの中間部分に使用することができ、ポリアミド材料(単数又は複数)をカテーテルシャフトの近位部分に使用することができる。この一連の材料によって徐々に高くなるデュロ硬度及び弾性率(又は剛性)が与えられるために、極めて柔軟な遠位側のシャフト領域からより堅い近位側の領域へと滑らかに移行させることができる。ポリウレタンとポリエチレンとは互いに容易に接合されないが、ポリエーテルブロックアミド材料は、ポリウレタン及びポリアミドの両方に接合可能であるという利点を有している。
【0016】
一態様において、本発明は、近位端と、遠位端と、遠位端における膨張可能な拡張部材とを有する細長管状シャフトを備えた血栓捕捉カテーテルであって、拡張部材は折り畳まれた送達形態から拡張形態へと膨張させることが可能であり、拡張形態において拡張部材はシャフトの少なくとも最遠位先端部にまで延び、シャフトの最遠位先端部においてシャフトから径方向外側に延びて開口部を画定する、血栓捕捉カテーテルを提供する。
【0017】
一態様において、本発明は、近位端と、遠位端と、遠位端における膨張可能な拡張部材とを有する細長管状シャフトを備えた血栓捕捉カテーテルであって、拡張部材は折り畳まれた送達形態から拡張形態へと膨張させることが可能であり、拡張形態において拡張部材はカテーテルの最遠位先端部において径方向外側に延びて拡大された遠位血栓入口開口部を有する漏斗状の外形を画定する、血栓捕捉カテーテルを提供する。
【0018】
一実施形態では、拡張形態において、拡張部材によって画定されるカテーテルの最遠位部分の直径は、カテーテルの遠位領域のほぼ円筒状の内側管腔の直径よりも大きい。
【0019】
一例では、拡張形態において、拡張部材はシャフトの最遠位先端部を超えて遠位方向に延びる。
【0020】
一実施形態では、拡張部材はバルーンを含む。バルーンは、拡張形態において、拡大された遠位入口開口部とより細い近位端とを有する漏斗形状となり得る。
【0021】
一例では、バルーンはカテーテルシャフトの遠位先端部と一体である。
【0022】
拡張部材は、バルーンとカテーテルシャフトとの遠位接合部がバルーンの内部に位置するように反転されたポリマーチューブで形成することができる。
【0023】
一実施形態では、バルーンが互いに異なる性質を有する複数の領域を有する。
【0024】
バルーンは、近位領域と、遠位領域と、近位領域と遠位領域との間の中間領域とを有することができ、拡張形態において遠位領域は近位領域よりも大きな程度まで拡張する。
【0025】
一例では、少なくとも1つの領域が少なくとも1つの他の領域と異なる壁厚を有する。
【0026】
一例では、近位及び遠位領域の壁厚が中間領域の壁厚よりも大きい。
【0027】
一実施形態では、近位領域の壁厚が、中間領域及び遠位領域の壁厚よりも大きい。
【0028】
一例では、拡張部材が近位ネックと遠位ネックとを有し、近位ネックは第1の厚さを有するとともにカテーテルの遠位端の近位側においてカテーテルシャフトに接続され、拡張部材の近位部分は第2の厚さを有し、拡張部材の遠位部分は第3の厚さを有し、反転されてカテーテルシャフトの遠位端に接合された遠位ネックは第4の厚さを有する。
【0029】
一実施形態では、拡張部材の中間部分は、第2の厚さから第3の厚さへとテーパする可変厚さを有する。
【0030】
一例では、第1の厚さは第2の厚さよりも大きく、第2の厚さは第3の厚さよりも大きい。
【0031】
一実施形態では、第4の厚さは第3の厚さよりも大きい。
【0032】
一例では、第4の厚さは第1の厚さよりも大きい。
【0033】
一実施形態では、収縮状態では第1の厚さは第2の厚さとほぼ等しいが、膨張状態では第2の厚さよりも大きい。
【0034】
一例では、拡張部材の近位領域と遠位領域との間に帯が設けられ、帯が近位及び/又は遠位領域の壁厚よりも大きい壁厚を有することで比較的拡張しにくい領域が形成され、これにより、拡張部材は帯の近位側と遠位側とで選択的に膨張して漏斗状の外形を与える。
【0035】
一例では、領域の少なくとも1つが補強されることでその領域の拡張が制限されている。
【0036】
一実施形態では、近位領域が補強要素を含む。
【0037】
一例では、補強要素はリブを含む。
【0038】
リブは、近位領域の少なくとも一部に沿って軸方向及び/又は径方向に延びることができる。
【0039】
一実施形態では、リブは、バルーンの材料と同じか又は異なる材料のものである。
【0040】
一例では、折り畳まれた形態の拡張部材は、カテーテルシャフトの遠位先端部を超えて延びる。
【0041】
拡張部材はカテーテルシャフトの遠位先端部を超えて0.5mm~3.5mmの距離だけ延びることができる。
【0042】
一実施形態では、カテーテルシャフトは、主内側管腔と、拡張部材を膨張させるための膨張管腔とを有する。
【0043】
膨張管腔は、カテーテルシャフトの壁の内部に延びることができる。
【0044】
一例では、膨張管腔とカテーテル管腔とが偏心配置にある。
【0045】
更なる一例では、膨張管腔とカテーテル管腔とが同心配置にある。
【0046】
一例では、膨張可能な拡張部材は非晶質エラストマー性ポリマーを含む。
【0047】
エラストマー性ポリマーは熱可塑性ポリウレタンエラストマーであってよい。
【0048】
一実施形態では、カテーテルのシャフトの一部が膨張可能な拡張部材を含む。
【0049】
一実施形態では、カテーテルシャフトの遠位領域が非晶質エラストマー性ポリマーを含む。
【0050】
一実施形態では、カテーテルの遠位領域の非晶質エラストマー性ポリマーは熱可塑性ポリウレタンエラストマーである。
【0051】
一例では、シャフトの遠位部分は第1の非晶質エラストマー性ポリマーを含み、膨張可能な拡張部材は、第1の非晶質エラストマー性ポリマーとは異なる第2の非晶質エラストマー性ポリマーを含む。
【0052】
一実施形態では、カテーテルシャフトは、近位領域と、遠位領域と、近位領域と遠位領域との間の中間領域とを有し、シャフトの近位領域、中間領域、及び遠位領域が、異なる剛性を有する材料を含む。
【0053】
一例では、カテーテルシャフトの近位領域はポリアミドを含み、遠位領域は熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含み、中間領域はポリエーテルブロックアミドコポリマーを含む。
【0054】
一例では、カテーテルは、拡張部材に、又はこれに隣接して拡張可能なマーカーバンドを更に有する。
【0055】
一実施形態では、遠位のマーカーバンドは拡張部材の下に配置されている。
【0056】
一例では、放射線不透過性の遠位のマーカーは、マーカーの拡張を促すように構成された軸方向に延びるスロットを有するほぼ管状の形状のものである。
【0057】
一実施形態では、血栓捕捉カテーテルは2個以上の拡張部材を有する。
【0058】
更なる一実施形態では、拡張部材の少なくともいくつかが、異なるコンプライアンスを有する。
【0059】
一例では、血栓捕捉カテーテルは、カテーテルの遠位部分に取り付けられた膨張可能なバルーン部材を有し、バルーン部材は外側バルーン内に配置された内側バルーン部材を含む。
【0060】
一実施形態では、各バルーン部材の弾性コンプライアンスが異なる。
【0061】
一例では、内側バルーンのみが膨張管腔と連通して拡張を促す。
【0062】
一実施形態では、内側バルーンは、拡張時に外側バルーンと接触するように構成されている。
【0063】
一例では、拡張形態において、拡張部材の最遠位部分の有効直径がカテーテルシャフトの遠位端における内側管腔の直径よりも少なくとも20%大きい。
【0064】
別の例では、有効直径は、カテーテルシャフトの遠位端における内側管腔の直径よりも少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも100%大きい。
【0065】
一実施形態では、拡張部材の遠位先端部領域は、ある開口角度でカテーテルシャフト管腔から外側に広がっている。
【0066】
一例では、開口角度は、10~60°、又は15~45°である。
【0067】
一実施形態では、拡張部材は、遠位先端部領域の広がりを助ける起伏及び/又は折り目などの機構を有する。
【0068】
一例では、膨張可能な部材は反転されて近位接合領域においてカテーテルシャフトに接合され、シャフトは、外側スリーブ、中間層、内側ライナ、及び補強編組又はコイルを含む複数の層を有する。
【0069】
一実施形態では、膨張可能な部材の近位端は近位接合領域において細長シャフトに接合され、膨張可能な部材の他端は、拡張部材を形成するほぼ管状のポリマー部材の中央部分がカテーテルの遠位端に配置されるように反転されて接合部において中間層に接合され、管状のポリマー部材の、接合部と中央部分との間に位置する部分は、カテーテルシャフトの遠位部分に接合されている。
【0070】
一例では、材料のストリップが拡張部材を覆って取り付けられてカテーテル本体に近位側が接合され、材料のストリップの遠位端は非外傷性の遠位カテーテル先端部に接着される。
【0071】
一実施形態では、複数の材料のストリップがバルーンの周囲に放射状に配置されている。
【0072】
一例では、材料のストリップは、PETなどの低弾性コンプライアンスポリマーを含む。
【0073】
一実施形態では、拡張部材は、弾性拡張材料の部分が点在する半剛性リブを含む複合構造のものである。
【0074】
一例では、リブはカテーテルの軸に平行に延びる。リブは螺旋形態に延びることができる。
【0075】
一実施形態では、カテーテルは、放射線不透過性流体で満たされるように構成された、封止された膨張チャンバを有する。
【0076】
一例では、血栓捕捉カテーテルは、拡張部材を膨張させ、かつ拡張部材を収縮させるためのプランジャを有する。
【0077】
別の例では、血栓捕捉カテーテルは、プランジャを動かして拡張部材の膨張及び収縮を制御するための制御部を有する。
【0078】
制御部は手動ノブを含むことができる。
【0079】
一実施形態では、プランジャは波形本体によって画定されている。
【0080】
一例では、血栓捕捉カテーテルは、波形本体の運動を付勢するばねを有する。
【0081】
一実施形態では、拡張形態における拡張部材の遠位先端部の外形が、不均一な形状のものである。
【0082】
一例では、外形は楕円を含む。
【0083】
一実施形態では、キットは、血栓捕捉カテーテル、血栓係合装置、及び血栓係合装置用のマイクロカテーテルを含む。
【0084】
血栓係合装置はステントリトリーバ装置である。
【0085】
別の態様において、本発明は、血栓捕捉手技であって、-
血栓捕捉カテーテルを提供することであって、カテーテルの最遠位先端部に膨張可能な部材を有する、血栓捕捉カテーテルを提供することと、
膨張可能な部材が折り畳まれた形態にある状態で、血栓捕捉カテーテルを血栓に向かって進めることと、
膨張可能な部材がカテーテルの最遠位先端部から血管壁にまで外側に延びるようにカテーテルの遠位先端部の膨張可能な部材を膨張させることと、血栓をカテーテル内に引き込むことと、
膨張可能な部材を収縮させることと、
カテーテルを引き抜くことと、を含む、手技を提供する。
【0086】
一実施形態では、本方法は、吸引を行って、血栓をカテーテル内に引き込むことを含む。代替的に又は追加的に、本方法は、血栓にステントリトリーバなどの機械的装置を係合させて血栓をカテーテル内に引き込むことを含む。
【0087】
一実施形態では、血栓捕捉手技は、マイクロカテーテルを提供することと、血栓捕捉カテーテルを通じてマイクロカテーテルを進めることと、カテーテルから血栓係合装置を展開することと、を含む。
【0088】
別の態様において、本発明は、血栓を捕捉するための方法であって、-
カテーテルを、脈管構造を通じて血管内の標的血栓の近位側の位置にまで進めることと、
マイクロカテーテルを血栓に横断させることと、
マイクロカテーテルを通じて血栓捕捉装置を血栓の部位にまで進めることと、
マイクロカテーテルを引っ込めて血栓の下に少なくとも部分的に血栓捕捉装置を展開することと、
カテーテルの拡張部材を膨張させて血管内の流れを遅くするか又は停止することと、血栓捕捉装置をカテーテルに向かって近位方向に引っ込めることと、
注射器又はポンプをカテーテルの近位端に接続し、吸引を行って血管内の血流を逆流させることと、
血栓捕捉装置及び捕捉された血栓を吸引しながらカテーテルの開口部内に引っ込めることと、
吸引しながら血栓捕捉装置を、カテーテルを通じてカテーテルの外部へと引き続き引っ込めることと、
吸引を停止し、拡張部材を収縮させて血管への血流を回復させることと、を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0089】
本発明は、例示のみを目的として与えられた、そのいくつかの実施形態の以下の説明から、添付の図面を参照して、より明確に理解されるであろう。
図1】本発明の血栓回収カテーテルの等角図である。
図2a】本発明の血栓回収カテーテルのシャフトの断面図である。
図2b】本発明の血栓回収カテーテルのシャフトの断面図である。
図2c】本発明の血栓回収カテーテルのシャフトの断面図である。
図2d】本発明の血栓回収カテーテルのシャフトの断面図である。
図3a】本発明の血栓回収カテーテルのシャフト及びシャフトの一部分の断面図である。
図3b】本発明の血栓回収カテーテルのシャフト及びシャフトの一部分の断面図である。
図3c】本発明の血栓回収カテーテルのシャフト及びシャフトの一部分の断面図である。
図3d】本発明の血栓回収カテーテルのシャフト及びシャフトの一部分の断面図である。
図3e】本発明の血栓回収カテーテルのシャフト及びシャフトの一部分の断面図である。
図4】カテーテルシャフトの一製造方法を示す側面図である。
図5】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図6a】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図6b】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図7a】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図7b】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図7c】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図8a】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図8b】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図8c】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図9a】従来技術に基づく血栓除去術を示す図である。
図9b】従来技術に基づく血栓除去術を示す図である。
図9c】従来技術に基づく血栓除去術を示す図である。
図9d】従来技術に基づく血栓除去術を示す図である。
図10a】本発明の血栓回収カテーテルを用いた血栓除去術を示す図である。
図10b】本発明の血栓回収カテーテルを用いた血栓除去術を示す図である。
図10c】本発明の血栓回収カテーテルを用いた血栓除去術を示す図である。
図10d】本発明の血栓回収カテーテルを用いた血栓除去術を示す図である。
図11】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図12】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図13】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図14】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図15】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図16a】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図16b】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図16c】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図16d】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の側面図である。
図16e】本発明の1つの拡張マーカーバンドを示す図である。
図16f】本発明の1つの拡張マーカーバンドを示す図である。
図16h】本発明の別の拡張マーカーバンドを示す図である。
図16i】本発明の別の拡張マーカーバンドを示す図である。
図17a】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図17b】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図17c図17a及び図17bのカテーテルの遠位端の等角図である。
図18a】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の簡略図である。
図18b図18aの線A-Aに沿った断面図である。
図18c】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図18d】本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の断面図である。
図19a】本発明の血栓回収カテーテルの近位ハブを示す図である。
図19b】本発明の血栓回収カテーテルの近位ハブを示す図である。
図20a】本発明の血栓回収カテーテルの遠位端の等角図である。
図20b】本発明の血栓回収カテーテルの遠位端の等角図である。
図20c】使用時の本発明の血栓回収カテーテルの簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0090】
ここでは、本発明の具体的な実施形態が図面を参照して詳細に説明され、同一参照番号は、同一又は機能的に類似した要素を示す。「遠位」又は「近位」という用語は、以下の記載において、治療する医師に対する位置又は方向に関して使用される。「遠位」又は「遠位に」とは、医師から離れた位置又は医師から離れる方向である。「近位」又は「近位に」とは、医師に近い位置又は医師に向かう方向である。
【0091】
大脳、冠状動脈、及び肺の血管にアクセスすることは、複数の市販の製品及び従来の手続工程を使用することを含む。ガイドワイヤ、診断用カテーテル及びマイクロカテーテルなどのアクセス製品は、他の場所に記載され、カテーテル処置室の手技に日常的に使用されるものである。以下の記述において、これらの製品及び方法は、本発明の装置及び方法と併せて用いられることが想定され、そのことを詳細に説明する必要はない。
【0092】
以下の詳細な記述は、単に例示的なものでしかなく、本発明又は本発明の適用及び使用を制限することを意図するものではない。本発明の記述は、多くの場合は頭蓋内動脈の処置との関連におけるものであるが、本発明はまた、前述のように他の身体通路においても使用され得る。
【0093】
図1において、参照符号100は本発明の血栓捕捉カテーテルを示しており、遠位シャフト102に取り付けられた遠位の膨張可能な部分101を有し、遠位シャフトはシャフトの中間部分103に取り付けられ、シャフトの中間部分は、シャフトの近位部分104に取り付けられている。近位ハブ105がカテーテルシャフトの近位端に接続されており、ルアーアタッチメント106及びサイドポート107を備えている。サイドポート107は、ハブから膨張可能な部分101までのカテーテルシャフトの壁を通じて延びる膨張管腔へのアクセスを与えるものである。この膨張管腔は、図2に示すシャフトの断面図に示されている。
【0094】
遠位先端部の膨張可能な部分101は、好ましくは非晶質エラストマー性ポリマーからなるため、膨張圧力下にて非膨張状態の直径の少なくとも2倍、最大で5倍程度にまで延伸する/張り詰めることができ、収縮時にはその非膨張状態の形状の大部分又は全体を回復することができる。このため、材料は、少なくとも200%、理想的には500%以上の弾性歪みに耐え、理想的には塑性変形又はヒステリシスが最小レベルに抑えられることが求められる。かかる高いレベルの回復可能な歪みはポリマー鎖の架橋によって大幅に高められることから、シリコーンゴムのような熱硬化性材料が好ましい選択肢である。しかしながら、シリコーンは、容易に溶融されず、例えば強くて薄い溶接接合部を形成するために別の材料と混和することができないことから、第2の材料と容易に接合できる材料ではない。このため、ポリウレタンエラストマーもまた、本発明のバルーンに適した材料である。具体的には、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは溶接若しくは接合プロセスの一環として溶融することができ、又は溶媒接着若しくは接着剤により接着できることから、理想的な材料となる。
【0095】
図2a~図2dは、図1の切断線108で示される、図1のカテーテルのシャフトの様々な実施形態のいくつかの可能な断面図である。図2aは、内側管腔152及び単一の膨張管腔151を有するシャフト150を示している。図2bは、内側管腔162及び3つの膨張管腔161を有するシャフト160を示している。図2cは、内側管腔172及び単一の横長の三日月形の膨張管腔171を有するシャフト170を示している。図2dは、外側シャフト壁184、内側シャフト壁183、及び内部管腔182を有するシャフト180を示している。内側シャフト壁と外側シャフト壁との間の空間が膨張管腔181を形成している。これらのシャフトの変形例のすべてにおいて、シャフト構造は内側管腔壁上に低摩擦コーティング又はライナー(PTFE)を有してもよい。補強編組及び/又はコイルワイヤ若しくは繊維を用いて、フープ強度(内側管腔を通じた吸引に潰れずに耐えるための)及び耐ねじれ性を与えることができる。シャフトの主壁は1種以上の材料で構成することができ、ポリウレタン、Pebax及びポリアミドなどの熱可塑性ポリマーが好ましい選択肢の例である。好ましいシャフト材料の構成の1つの例では、1つ以上のグレードのポリウレタンがバルーン及びカテーテルの最遠位部分に使用され、1種以上のPebax材料(ポリエーテルブロックアミドコポリマー)材料がカテーテルの中間部分に使用され、1種以上のポリアミド材料がカテーテルシャフトの近位部分に使用される。この一連の材料によってますます高くなるデュロ硬度及び弾性率(又は剛性)が与えられるために、極めて柔軟な遠位側のシャフト領域からより堅い近位側の領域へと滑らかに移行させることができる。ポリウレタンとポリエチレンとは互いに容易に接合されないが、ポリエーテルブロックアミド材料は、ポリウレタン及びポリアミドの両方に接合可能であるという利点を有している。
【0096】
膨張管腔は後述するようないくつかの異なる方法で形成することができ、膨張管腔の形成及びそのプロセスで使用される形成マンドレルのその後の抜去を容易とするために、シャフトの主壁よりも高い融点又は軟化点を有する1種又は複数の材料(例えば、PTFE、FEP、PET、又はポリイミド)でライニングすることができる。シャフトは、図2a~図2cに示すように偏心した設計とすることで、カテーテルの全体の直径を過剰に大きくすることなく、膨張管腔を形成する上で充分な壁厚を与えることができる。また、図2dに示すもののような同心状の設計を用いることもできる。
【0097】
図3a~図3eは、本発明の血栓回収カテーテルのシャフトの各部分の一連の断面図であり、膨張管腔の一実施形態の形成方法を示している。この実施形態では、図3aの細長チューブ200に3本のマンドレルワイヤ201を嵌め込み、そのことで図3bに示すような長円形の形状にチューブが変形する。次いで、チューブ200及びワイヤ201のアセンブリを細長シャフト203の上に置き、図3cに示すように、これらの両方に外側ジャケット202を被せる。次いで、線204で示すように、熱と圧力を加えて(任意選択的に図示しない別の外側ジャケット又は熱収縮チューブを用いて)アセンブリ全体を一体にラミネートする。このプロセスによって外側ジャケット202は内側の細長シャフト203と融着され、図3dに示すように膨張管腔チューブ200をその内部のマンドレルワイヤ201ごと包囲する。マンドレルは、この形成プロセスの間に膨張管腔が潰れることを防止し、その所望の形状を維持する役割を有する。形成プロセスが完了するとマンドレルは抜き取られ、図3eに示すように膨張管腔206は複合シャフト205を通って開放した、閉塞されていない状態となる。この設計及びプロセスには多くの変形例が可能である。例えば、膨張チューブをPTFEなどの低摩擦材料で形成することができ、その場合、マンドレルワイヤの抜去時に膨張管腔をその場に残してもよく、又は膨張チューブ自体をマンドレルワイヤとともに、又はその後で抜き取ってもよい。別の実施形態では、膨張チューブは溶媒キャスト法によって形成され、0.001インチ以下の壁厚で製造することができ、それでもなお高い構造的一体性を保つことができるポリイミド又は他の比較的弾性率の高い材料で構成される。材料の選択肢としてのポリイミドの別の利点は、カテーテルの形成/融着プロセスにおいて溶融しないため、最後にカテーテルを抜き取る際の困難が最小となることである。マンドレル自体は金属製とするか、又は超高張力ポリマーで形成することができ、PTFE又はパリレンのような低摩擦材料でコーティングされることが理想的である。
【0098】
図4は、本発明のカテーテルシャフトの好ましい一製造方法を示したものである。デュロ硬度及び/又は弾性率の異なる2本のポリマーチューブ(251と252)の間の界面が、外側熱収縮チューブ252及び熱源253を用いた熱及び圧力形成プロセスによってシャフトの長さに沿った点において互いに接合されている様子が示されている。カテーテルシャフトは、堅くて押すことができる近位端から非常に柔軟で非外傷性の遠位端へと滑らかに移行するように、その長さの大部分に沿った堅さ勾配を有することが望ましい。この堅さ勾配が急激であると、2つのシャフト材料間の接合部に問題が生じ得るために望ましくない。領域254に示すように、接合するチューブの端を毛羽立たせることで、第1の材料250から第2の材料251へのより緩やかな堅さの移行が与えられる。これにより、シャフトの特定の断面における各材料の割合(%)は、単純な突き合わせ継手においてみられるような最小量の材料の混合により可能となる長さよりも、より大きな長さにわたって変化し得る。図に示す構成では、重複領域254が必要であれば10mmよりも長い範囲に延びることができるが、1mm~5mmの重複長さが好ましい。
【0099】
図5は、図1に示すカテーテル100と同様の血栓回収カテーテル300の遠位端の側断面図を示す。カテーテルは、膨張可能な遠位バルーン301が取り付けられたほぼ円筒状の細長管状シャフト302を有している。遠位バルーン301は、拡張時に漏斗状の外形を有するように構成されている。この漏斗状の外形は、バルーンを形成する拡張可能な膜の位置及び壁厚の外形によって実現するか、かつ/又は本明細書の別の箇所で更に詳しく説明するように、カテーテル先端部を広げるための更なる要素の使用によって実現することができる。線303は、カテーテルの先端部領域の中心線を示している。線305及び306は、カテーテルの最遠位面の開口部の直径311を示す、中心線303に平行な線である。点309及び310は、線305及び306が遠位面304と交差する点を示し、カテーテルの遠位端の開口部直径の大きさを示している。線307及び308は、血栓をカテーテルに完全に通して除去するために最終的に血栓が押し込まれなければならないカテーテルの内側管腔の直径312を示す、中心線303に平行な線である。
【0100】
この外形の重要な特徴は、カテーテルの最遠位部分の有効直径311が、カテーテルの遠位領域のほぼ円筒状の内側管腔の直径312よりも大幅に大きい点である。従来の血栓捕捉カテーテルは、引き込みを極力小さくするためにその遠位先端部のある程度の丸みづけ又は面取りを有する場合があるが、これの血栓に対する剪断応力を低減させて破片の損失を予防する効果は小さい。開示される発明は、プルワイヤ又は他の堅くて嵩張る機械的作動を必要とすることなく真の漏斗形状を形成するものである。形成される漏斗は、直径311が直径312よりも理想的には少なくとも20%大きく、好ましくは直径312よりも50%又は100%大きいようなものである。したがって、このタイプの典型的なカテーテルにみられるように直径312が0.084インチである場合、直径311は少なくとも0.101インチであり、理想的には0.126インチ又は0.168インチ以上である。
【0101】
膨張部材301の壁厚外形は、図7bの膨張可能な部材400とよく似たものであり、そこで示される説明を参照することができる。
【0102】
図6a及び図6bは、それぞれ膨張状態及び非膨張状態にある、本発明の血栓回収カテーテルの遠位領域の簡略化された断面図を示す。カテーテルは、内側ライナ323、遠位先端部分326、及び膨張可能な部分328を有する、細長シャフト320を有している。膨張可能な部分328は、膨張時に所望の形状及び効果が得られるように異なる領域で異なる壁厚を有している。低壁厚領域321は膨張時に歪みが最も大きくなり、その結果、最も拡張し、カテーテルを通る血流を制限又は阻止することができるバルーン状の形状となる。高壁厚領域322では同じ応力(及び圧力)の大きさで生じる歪みが大幅に小さいため、低壁厚領域と同じ直径にまでは拡張できないが、膨張部材内部の圧力による軸方向の張力下に置かれ、この張力が先端部分326を引っ張り、開口角度330にまで広げる。開口角度330は、好ましくは10~60°であり、最も好ましくは15~45°である。薄い壁厚領域327は、先端部の広がりに対する抵抗を小さくするためのヒンジとして機能する。先端部の広がりを助けるための折り目、又は起伏などの更なる機構もこの領域に与えることができ、その一例を図16に示す。領域329に更なる薄い壁のヒンジ(図には示さず)を設けることで、先端部領域の漏斗状形状への広がりを助けることもできる。マーカーバンド324が膨張部分の下に示されているが、これは、カテーテル先端部のX線透視下での視認性を与えることと、更にカテーテルシャフトに膨張圧力による変形を防止するためのフープ強度を与えることの二重の役割を果たす。
【0103】
図7a~図7cは、本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の簡略化された断面図を示し、カテーテルの膨張部分の壁厚外形を変えることが膨張後のバルーンの形状にどのように影響し得るかを示している。
【0104】
図7aでは、膨張可能な部材354の近位ネック351は第1の厚さを有しており、カテーテルの遠位端の近位側においてカテーテルシャフト350に接続されている。膨張可能な部材の近位部分352は第2の厚さを有する一方で、遠位部分353は第3の厚さを有し、反転されてカテーテルシャフト350の遠位端に接合されている遠位ネック355は第4の厚さを有している。膨張可能な部材354の中間部分356は、第2の厚さ352から第3の厚さ353へとテーパする可変厚さを有している。一実施形態では、第1の厚さは第2の厚さよりも大きく、第2の厚さは第3の厚さよりも大きい。一実施形態では、第4の厚さは第3の厚さよりも大きい。一実施形態では、第4の厚さは第1の厚さよりも大きい。一実施形態では、収縮状態では第1の厚さは第2の厚さにほぼ等しいが、膨張状態では第2の厚さよりも大きい。膨張可能な部材の遠位部分のこのような薄い外形のため、この部分が選択的に膨張して遠位方向に拡張し、所望の漏斗状の断面を与える。しかしながら、かかる外形の過剰な膨張によって遠位部分356がカテーテルの管腔に衝突する可能性があるが、これは図7b及び本明細書の他の箇所に示される外形によって解決される問題である。
【0105】
図7bは、わずかに異なる壁厚外形を有する、本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の別の実施形態を示す。この場合、膨張可能な部材400の近位部分401及び遠位部分403の壁厚は、中間部分402の壁厚よりも大きくなっている。膨張可能な部材の中間部分のこのような薄い外形のため、この部分が選択的に径方向に膨張し、近位部分及び遠位部分に軸方向の歪みが生じる。この軸方向の歪みが遠位部分403を持ち上げて広げることで、所望の漏斗状の外形が与えられる。
【0106】
図7cは、わずかに異なる壁厚外形を有する、本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分の別の実施形態を示す。この場合、より大きな壁厚の帯451がバルーン450の近位領域と遠位領域との間に設けられることで、比較的拡張しにくい領域451が形成され、それによってバルーンはその帯の近位側と遠位側とで強制的に選択的に膨張され、遠位の「膨らみ」452、ひいては所望の漏斗状の外形が与えられる。
【0107】
これらの実施形態のそれぞれにおいて、薄い壁の部分の壁厚は膨張時に厚い壁の部分よりも大きな割合(%)で減少するが、これにより、膨張されない壁厚を利用して膨張可能な部材の膨張後の形状を制御することが可能となる。
【0108】
図8a~図8cは、本発明の血栓回収カテーテルの遠位部分を通る中心線502の周囲の部分断面図を示し、反転された部材(管状又は他の)を利用してカテーテルの膨張可能な部材を形成する方法の例を示す。
【0109】
図8aは、細長シャフト501と近位接合領域507において接合された膨張可能な部材500を示す。シャフト501は、外側スリーブ510、中間層503、内側ライナ505、及び補強編組又はコイル504を含む複数の層で構成されている。シャフト501はまた、別の箇所に述べられるような内部膨張管腔も有している(図には示さず)。膨張可能な部材500、カテーテル外側スリーブ510、及びカテーテル中間層503は、熱と圧力での、又は溶媒接着プロセスによって互いに接合できるようにいずれも同じ部類の材料(例えばポリウレタンなど)で形成されるか、又は相溶性を有する成分を含む材料で少なくとも形成されることが好ましい。膨張可能な部材500の近位端が細長シャフト501と近位接合領域507において接合されているのに対して、膨張可能部材500の他端は反転されて接合部508において中間層503と接合されている。このため、膨張可能な部材500を形成するほぼ管状のポリマー部材511の中央部分はカテーテルの遠位端に位置し、管状ポリマー部材511の、接合部508と中央部分との間に位置する部分509がカテーテルシャフトの遠位部分(内側ライナ及び補強編組又はコイルを有する)上にラミネートされている。
【0110】
図8bは、この場合、膨張可能な部材550がより短い反転長さを有し、シャフト501の中間層503がカテーテルライナ及び編組線の遠位端にまでほぼ延びている点を除いて、図8aに示されるものとよく似た構成を示している。このため、膨張可能な部材550の反転部分とシャフトとの接合部分508をカテーテルの遠位端により近くすることができる。
【0111】
図8cは、この場合、膨張可能な部材600がシャフト501の中間層503の延長された反転部分で形成されている点を除いて、図8aに示されるものとよく似た構成を示している。
【0112】
図9a~図9d(従来技術)は、血栓回収手術において患者に深刻な害をもたらし得る、従来のバルーンガイドカテーテル技術の大きな問題点の1つを示したものである。
【0113】
図9aは、血管700を通じて血塊又は血栓702をバルーンガイドカテーテル703の遠位開口部705内へと回収する、ステントリトリーバ701のような血栓回収装置を示す。バルーンガイドカテーテル703は、その遠位先端部分710のすぐ近位側に配置されたバルーン704を有している。ステントリトリーバを用いた一般的な血栓除去術では、
・従来の血管内アクセス法を用いて、バルーンガイドカテーテル703(又は同様のガイド若しくはシース)を、脈管構造を通じて標的血栓の近位側の位置にまで進め、
・通常はガイドワイヤの助けにより、マイクロカテーテルを血栓に横断させ、
・このマイクロカテーテルを通じてステントリトリーバを血栓の部位にまで進め、
・マイクロカテーテルを引っ込めて血栓の下の少なくとも一部にステントリトリーバを展開し、
・バルーンガイドカテーテル703のバルーン704を膨張させて血管700内の血流を遅くするか又は停止させ、
・ステントリトリーバをバルーンガイドカテーテルに向かって近位方向に引っ込め、
・注射器又はポンプをバルーンガイドカテーテル703の近位端に接続して吸引を行い、血管700内の血流を逆流させ、
・ステントリトリーバ及び捕捉された血栓を吸引しながらバルーンガイドカテーテル703の開口部705内に引っ込め、
・吸引しながらステントリトリーバを、バルーンガイドカテーテル703を通じて外部へと引き続き引っ込め、
・吸引を停止し、バルーン704を萎ませて血管700への血流を回復させる。
【0114】
図9aは、ステントリトリーバ701及び血栓702がバルーンガイドカテーテル703の開口部710内に引き込まれようとしているこの手術の段階を示している。バルーン704は膨張させられ、血管700内の血流を逆流させ、血栓をカテーテルの開口部710内に安全に引き込む助けとするために、操作者はバルーンガイドカテーテル703を通じて吸引を開始している。しかしながら、先端部710がバルーン704の遠位端の遠位側に延びているために、バルーン704のすぐ遠位側の遠位先端部710の周囲にデッドスペース706が存在する。このデッドスペース内では、血栓又は血栓の破片をカテーテル開口部内に引き込む逆方向の流れはほとんど、又はまったく存在しない。
【0115】
図9bは、ステントリトリーバ701及び血栓702がバルーンガイドカテーテル703の開口部710内に引き込まれつつある上記の手術の段階を示している。血栓がカテーテル内に引き込まれるにしたがって、血栓はカテーテルの管腔内に収まるようにその形状が変形しなければならない。必要な変形の程度は、血栓とカテーテル管腔の相対的なサイズに応じて、また、ステントリトリーバがカテーテルに対して血栓を押しつける程度に応じて決まる。より大きな変形の程度によって血栓に対してより大きな剪断応力が生じるが、血栓はカテーテルの先端部において急激な形状変化を生じることから、この剪断応力はしばしばカテーテルの先端部に集中する。これにより、特に血栓が高度に組織化されたフィブリン構造を有していない場合、及び/又はtPaなどの溶解剤が患者に投与されている場合、血栓が破断して破片を放出する恐れがある。この場合、血栓破片707及び708が血栓から放出されてデッドスペース706内に位置しており、血栓に作用する剪断応力が、張り出した領域709を誘発し、この領域がカテーテルの遠位開口部705の近位側に押されて血栓の本体から破断して遊離する危険がある。
【0116】
図9cは、上記に述べた高い剪断力とデッドスペース706との組み合わせによってもたらされる結果を示したものである。図9bに示した血栓破片707及び708に第3の破片709が加わっており、吸引によって誘発される血管からカテーテル内への逆方向の流れは、これらの破片をデッドスペースから引き出してカテーテル開口部内に引き込むことができていない。
【0117】
図9dは、ステントリトリーバ701及び捕捉されたすべての血栓がカテーテル703の内部から引き抜かれた後の手術のより後の段階を示している。この段階では、カテーテルを通じた吸引は停止され、バルーン704は萎まされている。この結果、カテーテルの遠位側の血管700への血流が回復し、その結果、血栓破片707、708及び709が放出されて下流に流れ、そこで1つ以上の血管を閉塞して患者に深刻な害、更には死をもたらす可能性がある。
【0118】
いずれの適当な血栓捕捉装置を、本明細書に述べられるキット及び手術の一部として使用することができる。血栓捕捉装置はステントリトリーバ型のものとすることができる。血栓捕捉装置は、本発明者らによる国際公開第2012/120490(A)号、同第2014/139845(A)号、同第2016/083472(A)号、及び/又は同第2017/089424(A)号のいずれかに記載のものとすることができる。
【0119】
図10a~図10dは、図9a~図9dに示されるものと同様の血栓除去術を示したものであるが、この場合では本発明の血栓回収カテーテル803を使用している。上記に述べたものと同じ手術の工程が行われているが、カテーテル803は、1)バルーンの遠位側にデッドスペースがほとんど又はまったく存在しないこと、及び、2)血栓に対する剪断応力を最小に抑えるための広がった遠位開口部、の二重の利点を有していることから、この場合では、血栓はカテーテル内に完全に回収され、バルーンを萎ませる際に血栓の破片が失われない。
【0120】
図10aは、血管800を通じて血塊又は血栓802を血栓回収カテーテル803の遠位開口部805内へと回収する、ステントリトリーバ801のような血栓回収装置を示す。血栓回収カテーテル803は、その遠位端にバルーン804を有している。上記の図9a~図9dに関連して述べたように、血管800内の血流を制限するためにバルーン804が膨らまされており、カテーテル803を通じた吸引を用いて血管800内の血流を逆流させることにより、カテーテル開口部805内への血栓の入り込みを更に助けることができる。
【0121】
図10bは、ステントリトリーバ801及び血栓802がカテーテル803の開口部805内に引き込まれつつある上記の手術の段階を示している。カテーテル803の漏斗状の外形806のために、血栓がカテーテル内に引き込まれる際に血栓内に誘発される剪断応力が最小に抑えられており、形成されるか又は他の形で存在するいずれかの破片(例えば図の破片807)がその中に捕捉される、バルーンと先端部との間のデッドスペースがほとんど又はまったく存在していない。
【0122】
図10cは、このようにデッドスペースが存在しない利点を示しており、カテーテルを通じた吸引及び血流の逆転によって、破片807がステントリトリーバ801及び血栓802に追従して安全にカテーテル管腔内に引き込まれている。
【0123】
図10dは、ステントリトリーバ801及び捕捉された血栓802がカテーテル803の内部から引き抜かれた後の手術のより後の段階を示している。この段階では、カテーテルを通じた吸引は停止され、バルーン804は萎まされている。この結果、カテーテルの遠位側の血管800への血流が回復し、有害な血栓の破片を放出することなく遠位の血管への酸素化された血液の流れが安全に回復される。
【0124】
図11は、血栓捕捉カテーテルの遠位端の部分断面を示す本発明の一実施形態900を示す。2個の膨張可能なバルーン部材902及び906がカテーテル905の遠位部分に取り付けられており、一方のバルーン部材906は外側バルーン902内に配置されている。流体をバルーンに注入してバルーンを拡張させることができるように、一方又は両方の拡張可能なバルーン部材を膨張管腔と連通させることができる。2個の拡張部材の弾性コンプライアンスは変化させることができ、バルーン902のコンプライアンスをバルーン906のコンプライアンスよりも低くするか、又はその逆とすることができる。1つの例では、バルーン906のみが拡張を促す膨張管腔と連通する。このバルーン906が拡張すると、バルーンがその内部で展開された動脈又は血管を閉塞してカテーテル内への吸引及び血栓引き込みの効率を高める。更にバルーン906が拡張すると、バルーン906はバルーン902と接触してこれを拡張させて直径を増大させる。バルーン902のコンプライアンスのために、直径が増大するにしたがってバルーンの長さが短くなり、これによりカテーテル904の遠位先端部が、血栓の回収を促進する漏斗状の形状に引っ張られる。バルーン902と遠位先端部904との接着部903は、漏斗形状の形成を促すためにカテーテルの遠位先端部又はその近くに配置されている。これらのバルーンの一方又は両方のコンプライアンスは、周方向からカテーテル軸に平行な長手方向に異なっていてもよい。これにより、膨張管腔を通じて流体が加圧下で注入される際に一方向への選択的な拡張が促される。
【0125】
図12は、カテーテルに取り付けられた複数の拡張バルーンを有する発明の別の実施形態920を示す。この図は部分断面図でもあり、この実施形態では拡張部材922がカテーテル924の遠位先端部に取り付けられている。遠位拡張部材922は、カテーテル内への血栓の引き込みを促すための引き込み形状921を形成している。複数のバルーン又は拡張部材をカテーテルに取り付けることにより、拡張バルーンの各機能を分離することができ、異なる性能属性を異なる拡張要素によって満たすことができる。例えばこの場合、遠位バルーン922は血栓の回収を促し、カテーテル先端部を血管の中心に位置決めすることができるのに対して、バルーン923は血管を閉塞して血流を停止させる。したがって、遠位バルーン922は、その中でカテーテルが展開される血管よりも小さい直径を有してよく、「非柔軟性」又は低柔軟性のバルーンとすることができるのに対して、より近位側に配置された遠位バルーン923は非外傷性の血管の閉塞を行うために血管よりも大きな直径を有する、軟らかく、柔軟なバルーンとすることができる。カテーテルの軸に沿ったバルーン間の距離は、2mm~150mm、好ましい実施形態では2cm~10cmで異なり得る。遠位バルーンは血管よりも小さい直径を有しているため、血管に拡張性の歪みを生じることなく、より高い圧力にまで膨張させることができる。このより高い圧力は、カテーテル先端部を血管の中心に部分的に位置決めする効果を与えることができる。カテーテル先端部の近位側に血流を停止させるバルーン923を配置することで、このバルーンが遠位先端部の位置よりも血管のより適当な部分(例えば骨による、又は外部の支持がより大きい血管の部分)に配置されるようなカテーテルを設計することが容易となる。また、近位バルーンを内頚動脈、又は更には総頚動脈内の近位部分に配置することもできる。
【0126】
図13は、複数のバルーンを有するカテーテルの別の部分断面図を示す。この実施形態940では、バルーン942はバルーン943内に配置されている。両方のバルーンを膨張管腔に連通させることができ、操作者の必要に応じて同時に、又は個別に膨張させることができる。バルーン942は、カテーテル先端を血管の中心に部分的に自己配置させるのに適した直径を有する低コンプライアンスのバルーンである。より高いコンプライアンスを有するより軟らかい外側バルーン943は血管を非外傷的に閉塞し、血栓の吸引又は回収に先立って血流を停止させる。この血管の閉塞は同じ圧力で両方の血管で行うか、又は手術の段階に応じてバルーンの一方に高い圧力を加えることができる。
【0127】
図14は、遠位先端部に拡張バルーン963が取り付けられた血栓回収カテーテル960の部分断面図である。図8及び図9は、遠位先端部とバルーンとの間に「デッドスペース」が存在せず、その後、血栓がカテーテル内に回収される際の血栓の剪断のリスクが低下するように、カテーテルの遠位先端部にバルーンを取り付けることによる効果を示している。図14は、バルーン963を、先端部961に最適に配置されるようにバルーンのネック962を反転させることによってカテーテル964に取り付けられ得る方法を示している。組み立ての1つの方法は、バルーン962のネックをカテーテル961の先端部に接着又は溶着し、次いでバルーンを反転させてバルーンの近位ネック965をカテーテル964に接合することである。このようにしてバルーンをカテーテルに接合することで、血栓の剪断が低減されるだけでなく、カテーテル961の非外傷性先端部が広がって血栓の回収時に血栓の引き込み部として機能することができる。
【0128】
図15は、図14に示されるものと同様のバルーンカテーテルの構成を示している。しかしながら、この実施形態980では、バルーン983の遠位ネック982はカテーテル先端部981の内側表面に取り付けられている。この設計では、カテーテルの内側でバルーンのネックを反転させることによって、近位のネックの接着の前又は後で遠位ネック982の接着を完了することができる。
【0129】
図16aは、カテーテルシャフト1004に取り付けられた拡張部材1001の概略を示す本発明1000の遠位端の部分断面図である。拡張要素1001は、近位側の1005及びカテーテルの遠位先端部1003でカテーテルに接合されている。拡張要素1002のネックは先端部1003との接合部で反転されているため、要素1001が先端部1003にまで完全に拡張して、本特許の別の箇所で述べたように血栓の剪断のリスクが低減される。更に、要素1001が拡張する際、カテーテル先端部1003に張力を作用させる。この実施形態では、遠位先端部分1006はカテーテル部分1004よりも低い曲げ剛性を有しているため、先端部1003が張力により広がって漏斗形状に拡張できることで血栓回収性能が向上する。
【0130】
図16bは、図16aの概略図に示される装置と同様の遠位カテーテルの構成の切欠図を示す。この実施形態の拡張要素は、バルーン1022の近位端においてカテーテル1026に接合されたバルーン1020である。バルーンの遠位端は、反転されてカテーテル1027に溶着されて、遠位先端部1023を形成している。カテーテル1026は、材料1027がカテーテル補強編組1025の遠位に突出し、かつ膨張管腔1021の下となるように構成されている。膨張管腔1021は、流体をバルーン1020に導入して拡張させるための通路を与える。バルーンが拡張されると、バルーン1020内の張力によって先端部1023(編組1025の遠位)が漏斗形状に引っ張られることで、血栓除去の効率が向上する。X線透視下で遠位先端部の位置を示すために、遠位放射線不透過性マーカー1024がカテーテルに組み込まれている。放射線不透過性マーカー1024は、カテーテル先端部1023の拡張を制限しないように容易に拡張できる形状に形成されている。
【0131】
図16cは、本発明の別のカテーテルの遠位端の部分断面図である。遠位端は拡張後の形態で示されており、この場合、バルーンネック1040は、ライナ1042及び編組を覆って突出するカテーテル材料1041に接着されている。遠位カテーテル先端部による漏斗又は引き込み形状1026の形成を促すために、放射線不透過性マーカー1043が拡張された状態で示されている。
【0132】
図16dは、先端部1063が非拡張形態にあるカテーテル1060の遠位の図を示す。図は、遠位先端部の材料を、バルーンが拡張される際の漏斗形状への拡張を助けるプリーツ1062に形成し得る方法を示している。放射線不透過性マーカー1061はプリーツ1062の周囲に形成されているが、依然、拡張性を有している。
【0133】
図16e~図16gは、血栓捕捉カテーテルに組み込むための代替的な放射線不透過性マーカー1080の等角図、側面図、及び端面図をそれぞれ示す。このマーカーは、マーカーが拡張することを可能とする溝状切込み1081を有する管状の金、タングステン、又は白金などの高い放射線不透過性を有する材料で形成される。あるいは、バルーンが萎まされた後、その元の形状に回復できるように金コーティングされたニチノールマーカーを使用することもできる。このようなマーカーの形状の利点は、カテーテル先端部がカテーテルの中心線に向かって内側に潰れて、バルーンが拡張される際の吸引管腔が細くなることを防止できることである。
【0134】
図16h及び図16iは、カテーテル先端部の材料との組み付けを向上させるために大きなスロット幅1091を有する同様の拡張放射線不透過性マーカー1090の側面図及び端面図をそれぞれ示す。このマーカーもまた、拡張可能でありながら、外部からの圧力が作用する際に直径の減少を制限する。バルーンが膨らまされている際の内径の減少を防止するための放射線不透過性マーカー又は他の補強要素の使用は、より軟らかいカテーテル先端部材料の使用を可能とするものである。
【0135】
図17aは、本発明の別の実施形態の断面図である。この図は、拡張要素1107が拡張される前の、その導入後の形態にある血栓回収カテーテル1100の遠位端を示している。カテーテルは、拡張要素又はバルーン1107がカテーテルの本体部分1109に取り付けられた構成を有する。バルーンは、それぞれ1105及び1104で近位端及び遠位端に接着されており、拡張を促すための膨張管腔(図に示さず)と連通している。材料のストリップ1108がバルーンを覆って取り付けられ、カテーテル本体1109と近位1106に接合されている。材料ストリップ1108の遠位端は、非外傷性の遠位カテーテル先端部1102に接着されている。この構成では、ストリップ1108の遠位端は、カテーテル先端部1102に接合される前に反転(1103)される。いくつかの材料ストリップ1108がバルーン1107の周囲に放射状に配置されている。
【0136】
図17bは、その展開又は拡張された形態の装置1100を示している。バルーン1134に流体を注入してバルーンを拡張させ、血管を閉塞して血流を停止させることで、血栓回収の効率が向上する。この実施形態では、材料ストリップ1133はPETなどの薄い壁を有する低弾性の柔軟性ポリマーから製造される。これらの材料ストリップ1133にはバルーン1134が拡張する際に張力が作用し、この張力によってカテーテル1132の非外傷性先端部が変形し、遠位縁部が拡張して漏斗形状1132が形成される。ストリップ1133の端部1131をカテーテル先端部への接合に先立って反転させることにより、先端部に作用する張力が遠位縁部において作用し、直径のより大きな漏斗形状を形成する。
【0137】
図17cは、図17bに示されるものと同様の装置の等角図である。この場合、材料ストリップ1163はバルーン1160の周囲に放射状に配置されており、バルーンの近位側の1164においてカテーテルに接合されている。ストリップ1163の遠位端は、反転(1161)されてカテーテル先端部1162に接着されている。バルーン1160が拡張されると材料ストリップ1163が押し出され、カテーテル先端部1162に張力が作用することで漏斗形状が形成される。
【0138】
図18aは、本発明の別の実施形態の概略断面図である。カテーテルの遠位端1200は、カテーテルシャフト1203に取り付けられた遠位バルーン1201で構成されている。上記と同様、バルーン1201が拡張されると、バルーンは血流を閉塞することによって血流停止機能を与える。更に、バルーンの拡張によってカテーテル先端部1202に張力が作用して先端部に漏斗形状を形成させることで、血栓の引き込み性が向上し、血栓の剪断力が低減し、吸引及びステントリトリーバによる血栓の回収の効率が向上する。
【0139】
図18bは、図18aの断面図A-Aであり、弾性拡張材料1221の部分が点在する半剛性リブ1222で構成された複合バルーン構造を示している。流体が膨張管腔(図には示さず)からバルーン内に導入されると、圧力が増大して柔軟部分1221の直径が拡大し、血管内の血流を閉塞する。拡張部分1221とは異なるデュロ硬度を有してよいリブ1222は、遠位先端部に張力を伝達する上でより効率的であり、バルーンが先端部を拡張して漏斗形状を形成する性能を向上させる。リブ1222はバルーン材料とともに共押出ししてもよく、又はワイヤ若しくは他の材料をバルーン押出しに組み込むことによって形成してもよい。リブは、カテーテルの軸に平行に延びてよく、又は螺旋状の形態に形成することで、バルーンの血流停止機能を向上させることもできる。
【0140】
図18cは、非拡張形態の断面A-Aを示したものであり、リブ1242及び拡張部分1241は標的位置へのカテーテルの導入時に同心状に配される。
【0141】
図18dは、非拡張形態にある代替的なバルーンの断面図を示す。この実施形態では、バルーン1260は1回の異形押出しによって形成され、外周に沿って変化する壁厚を有する。壁厚の小さい領域1261が、圧力が作用すると拡張して血管内の血流を停止させるのに対して、壁厚の大きい部分1262は非外傷性のカテーテル先端部に張力をかけて先端部を拡張させるリブとして機能する。
【0142】
図19aは、予め膨張領域を準備する必要も洗い流す必要もなくバルーン1301の膨張及び収縮を行うことができる、本発明の血栓回収カテーテル1300の一実施形態のハンドル又は近位領域の模式図を示す。これは、膨張管腔及び膨張領域のすべての空気を抜いてから滅菌された放射線不透過性溶液で満たした密封システムによって可能となる。これにより、バルーン1301を所望の直径にまで膨らませるのに、操作者はねじ付きノブ又はアクチュエータ1307を単純に回すだけでよい。カテーテル1300は、膨張可能なバルーン1301をその遠位端に、近位ハブアセンブリ1302をその近位端に備えた細長シャフト1308を有している。シャフト及びバルーンは、本明細書で上記に開示されたいずれのものにしたがって構成することができる。近位ハブアセンブリは、膨張制御部1306、サイドポート1303(任意)、準備ポート1311、及び近位コネクタ1305で構成されている。近位コネクタ1305は回転式止血バルブとしてもよく、又は単純にルアー若しくはコネクタとしてもよく、これにバルブ若しくは他のルアー、コネクタ又はフィッティングを取り付けるか、かつ/又はこれを通じて他のカテーテル若しくは装置を前進又は後退させることができる。膨張制御部1306の内部のチャンバ1314内に入れられた滅菌放射線不透過性溶液は、ヨード液などの造影媒体を含むことができる。
【0143】
図19bは、図19aのカテーテル1300の近位ハブアセンブリ1302の部分断面図である。ねじ付きノブ1307を時計回りに回転させると、ねじ付きノブ1307の端部1315が波形部材1310を圧縮する。これにより、波形部材1310内部のチャンバ1314の体積が減少して、流体(滅菌造影剤とすることができる)をチャンバから、膨張制御部から細長シャフト1308を通って遠位膨張バルーン1301へと延びる膨張管腔1313内へと強制的に押し出す。これによりバルーンは膨張するが、膨張の程度は膨張制御部内にノブをねじ込む深さを調節することによって制御することができる。透明な膨張制御部本体1306を使用することで、これを通して濃い色/不透明なノブを視認することができ、操作者がノブ1315の端を制御部本体の適当なマーキングに合わせることができる。ノブ1307を反時計回りに回転させると波形チャンバ1310は拡張するが、この拡張をコイルばね1309で補助することができる。この拡張により、流体が膨張ポートを通じてバルーンから戻る方向に引かれ、バルーンが萎む。
【0144】
準備ポート1311及び封止キャップ1312は、使用前にユニットを脱気、充填及び封止するために用いられる。好ましい一実施形態では、これらの工程は製造者によって行われ、ユニットは直ちに使用可能な状態で顧客に提供される。
【0145】
代替的な一実施形態では、これらの脱気、準備、及び封止の工程は、第2の操作者(カテーテル検査室の看護師若しくは技師、又は同僚医師)によって、第1の操作者による装置の使用前に行うことができる。
【0146】
図20aは、バルーン1402がカテーテルシャフト1401に取り付けられた、本発明の異なる実施形態の遠位端を示したものである。バルーン1402は拡張形態で示されており、遠位先端部1403が不均一な形状を形成している。先端部1403はまだ、回収時の血栓の引き込み部を与え、効率を高めて血管の剪断を低減する。遠位先端部の形状は対称的でカテーテルシャフトの屈曲要素と整列したものとすることができる。
【0147】
図20bは、非外傷性の遠位先端部1423が導入時に偏心形状を形成し、血栓に対する偏心状引き込み部又は漏斗を形成するようにやはり拡張させることができる代替的な一実施形態を示す。
【0148】
図20cは、バルーン1440が血流を停止させ、偏心先端部1443が血栓回収用の引き込み部を与えるように図20bのカテーテルと同様のカテーテルを神経血管構造1441内に配置し得る方法を示したものである。かかるシステムの一実施形態では、カテーテルシャフト1442は、偏心状のバルーン先端部を血管構造へと適切に方向付けるのを補助するために、非拘束状態の湾曲した形状によって偏倚されている。一実施形態では、この湾曲部は、図に示されるようにバルーン1440のすぐ近位側に位置する湾曲部からなる。別の実施形態では、湾曲部は、患者の大動脈弓内に配置されるように設計された、より近位側の湾曲部からなる。更に別の実施形態では、カテーテルはこれらの湾曲部を両方とも有する。更に別の実施形態では、カテーテルは複数の湾曲部を有する。更に別の実施形態では、カテーテルは、血管構造を通じてカテーテルを標的部位にまで進める間、又はその後で、カテーテルに選択的に湾曲部を適用することができる方向転換要素を有する。
【0149】
以上、本発明の具体的な実施形態を図示及び説明したが、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく様々な改変を行うことが可能である点は上記の説明より明らかであろう。例えば、本明細書に記載された実施形態は特定の機構を参照するが、本発明は、異なる機構の組み合わせを有する実施形態を含む。本発明は、記載されている特定の機構をすべては含んでいない実施形態も含む。
【0150】
本発明は本明細書においてこれまで述べてきた、構成体及び詳細が変化することのある、実施形態に限定されない。
【0151】
〔実施の態様〕
(1) 近位端と、遠位端と、前記遠位端における膨張可能な拡張部材とを有する細長管状シャフトを備えた血栓捕捉カテーテルであって、前記拡張部材は折り畳まれた送達形態から拡張形態へと膨張させることが可能であり、前記拡張形態において前記拡張部材は少なくとも前記シャフトの最遠位先端部にまで延び、前記シャフトの前記最遠位先端部において前記シャフトから径方向外側に延びて開口部を画定する、血栓捕捉カテーテル。
(2) 前記拡張形態において、前記拡張部材は前記シャフトの前記最遠位先端部を超えて遠位方向に延びる、実施態様1に記載の血栓捕捉カテーテル。
(3) 前記拡張部材がバルーンを含む、実施態様1又は2に記載の血栓捕捉カテーテル。
(4) 前記バルーンが、前記拡張形態において、拡大された遠位入口開口部とより細い近位端とを有する漏斗形状である、実施態様3に記載の血栓捕捉カテーテル。
(5) 前記バルーンは前記カテーテルシャフトの前記遠位先端部と一体である、実施態様3又は4に記載の血栓捕捉カテーテル。
【0152】
(6) 前記拡張部材は、前記バルーンと前記カテーテルシャフトとの遠位接合部が前記バルーンの内部に位置するように反転されたポリマーチューブで形成されている、実施態様5に記載の血栓捕捉カテーテル。
(7) 前記バルーンが互いに異なる性質を有する複数の領域を有する、実施態様3から6のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(8) 前記バルーンは、近位領域と、遠位領域と、前記近位領域と前記遠位領域との間の中間領域とを有し、前記拡張形態において前記遠位領域は前記近位領域よりも大きな程度まで拡張する、実施態様7に記載の血栓捕捉カテーテル。
(9) 少なくとも1つの領域が少なくとも1つの他の領域と異なる壁厚を有する、実施態様7又は8に記載の血栓捕捉カテーテル。
(10) 前記近位及び遠位領域の壁厚が前記中間領域の壁厚よりも大きい、実施態様9に記載の血栓捕捉カテーテル。
【0153】
(11) 前記近位領域の壁厚が、前記中間領域及び前記遠位領域の壁厚よりも大きい、実施態様9に記載の血栓捕捉カテーテル。
(12) 前記拡張部材が近位ネックと遠位ネックとを有し、前記近位ネックは第1の厚さを有するとともに前記カテーテルの前記遠位端の近位側において前記カテーテルシャフトに接続され、前記拡張部材の近位部分は第2の厚さを有し、前記拡張部材の遠位部分は第3の厚さを有し、反転されて前記カテーテルシャフトの前記遠位端に接合された前記遠位ネックは第4の厚さを有する、実施態様7に記載の血栓捕捉カテーテル。
(13) 前記拡張部材の中間部分が、前記第2の厚さから前記第3の厚さへとテーパする可変厚さを有する、実施態様12に記載の血栓捕捉カテーテル。
(14) 前記第1の厚さは前記第2の厚さよりも大きく、前記第2の厚さは前記第3の厚さよりも大きい、実施態様12又は13に記載の血栓捕捉カテーテル。
(15) 前記第4の厚さは前記第3の厚さよりも大きい、実施態様12から14のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
【0154】
(16) 前記第4の厚さは前記第1の厚さよりも大きい、実施態様12から15のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(17) 前記収縮状態では、前記第1の厚さは前記第2の厚さにほぼ等しいが、前記膨張状態では前記第2の厚さよりも大きい、実施態様12から16のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(18) 前記拡張部材の前記近位領域と前記遠位領域との間に帯が設けられ、該帯が前記近位及び/又は遠位領域の前記壁厚よりも大きい壁厚を有することで比較的拡張しにくい領域が形成され、これにより、前記拡張部材は前記帯の近位側と遠位側とで選択的に膨張して漏斗状の外形を与える、実施態様8から17のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(19) 前記領域の少なくとも1つが補強されることで、その領域の拡張が制限されている、実施態様7から18のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(20) 前記近位領域が補強要素を含む、実施態様19に記載の血栓捕捉カテーテル。
【0155】
(21) 前記補強要素がリブを含む、実施態様20に記載の血栓捕捉カテーテル。
(22) 前記リブは、前記近位領域の少なくとも一部に沿って軸方向及び/又は径方向に延びている、実施態様21に記載の血栓捕捉カテーテル。
(23) 前記リブは、前記バルーンの材料と同じか又は異なる材料のものである、実施態様21又は22に記載の血栓捕捉カテーテル。
(24) 前記折り畳まれた形態の前記拡張部材は、前記カテーテルシャフトの前記遠位先端部を超えて延びる、実施態様1から23のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(25) 前記拡張部材は前記カテーテルシャフトの前記遠位先端部を超えて0.5mm~3.5mmの距離だけ延びる、実施態様24に記載の血栓捕捉カテーテル。
【0156】
(26) 前記カテーテルシャフトは、主内側管腔と、前記拡張部材を膨張させるための膨張管腔とを有する、実施態様1から25のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(27) 前記膨張管腔は、前記カテーテルシャフトの壁の内部に延びる、実施態様26に記載の血栓捕捉カテーテル。
(28) 前記膨張管腔と前記カテーテル管腔とが偏心配置にある、実施態様26又は27に記載の血栓捕捉カテーテル。
(29) 前記膨張管腔と前記カテーテル管腔とが同心配置にある、実施態様26又は27に記載の血栓捕捉カテーテル。
(30) 前記膨張可能な拡張部材が非晶質エラストマー性ポリマーを含む、実施態様1から29のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
【0157】
(31) 前記エラストマー性ポリマーが熱可塑性ポリウレタンエラストマーである、実施態様30に記載の血栓捕捉カテーテル。
(32) 前記カテーテルの前記シャフトの一部が前記膨張可能な拡張部材を含む、実施態様1から31のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(33) 前記カテーテルシャフトの遠位領域が非晶質エラストマー性ポリマーを含む、実施態様31又は32に記載の血栓捕捉カテーテル。
(34) 前記カテーテルの前記遠位領域の前記非晶質エラストマー性ポリマーは熱可塑性ポリウレタンエラストマーである、実施態様33に記載の血栓捕捉カテーテル。
(35) 前記シャフトの遠位部分は第1の非晶質エラストマー性ポリマーを含み、前記膨張可能な拡張部材は、前記第1の非晶質エラストマー性ポリマーとは異なる第2の非晶質エラストマー性ポリマーを含む、実施態様31から34のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
【0158】
(36) 前記カテーテルシャフトは、近位領域と、遠位領域と、前記近位領域と前記遠位領域との間の中間領域とを有し、前記シャフトの前記近位領域、前記中間領域、及び前記遠位領域が、異なる剛性を有する材料を含む、実施態様1から35のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(37) 前記カテーテルシャフトの前記近位領域はポリアミドを含み、前記遠位領域は熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含み、前記中間領域はポリエーテルブロックアミドコポリマーを含む、実施態様36に記載の血栓捕捉カテーテル。
(38) 前記拡張部材に、又はこれに隣接して、拡張可能なマーカーバンドを更に有する、実施態様1から37のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(39) 遠位の前記マーカーバンドは前記拡張部材の下に配置されている、実施態様38に記載の血栓捕捉カテーテル。
(40) 放射線不透過性の前記遠位のマーカーは、該マーカーの拡張を促すように構成された軸方向に延びるスロットを有するほぼ管状の形状のものである、実施態様38又は39に記載の血栓捕捉カテーテル。
【0159】
(41) 2個以上の拡張部材を有する、実施態様1から40のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(42) 前記拡張部材の少なくともいくつかが、異なるコンプライアンスを有する、実施態様41に記載の血栓捕捉カテーテル。
(43) 前記カテーテルの前記遠位部分に取り付けられた膨張可能なバルーン部材を有し、該バルーン部材は外側バルーン内に配置された内側バルーン部材を含む、実施態様1から42のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(44) 前記バルーン部材の弾性コンプライアンスが異なる、実施態様43に記載の血栓捕捉カテーテル。
(45) 前記内側バルーンのみが膨張管腔と連通して拡張を促す、実施態様43又は44に記載の血栓捕捉カテーテル。
【0160】
(46) 前記内側バルーンは、拡張時に前記外側バルーンと接触するように構成されている、実施態様45に記載の血栓捕捉カテーテル。
(47) 前記拡張形態において、前記拡張部材の前記最遠位部分の有効直径が前記カテーテルシャフトの前記遠位端における前記内側管腔の直径よりも少なくとも20%大きい、実施態様1から46のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(48) 前記有効直径が、前記カテーテルシャフトの前記遠位端における前記内側管腔の直径よりも少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも100%大きい、実施態様47に記載の血栓捕捉カテーテル。
(49) 前記拡張部材の前記遠位先端部領域は、ある開口角度で前記カテーテルシャフト管腔から外側に広がっている、実施態様1から48のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(50) 前記開口角度が、10~60°、又は15~45°である、実施態様49に記載の血栓捕捉カテーテル。
【0161】
(51) 前記拡張部材は、前記遠位先端部領域の広がりを助ける起伏及び/又は折り目などの機構を有する、実施態様49又は50に記載の血栓捕捉カテーテル。
(52) 前記膨張可能な部材が反転されて近位接合領域において前記カテーテルシャフトに接合され、前記シャフトは、外側スリーブ、中間層、内側ライナ、及び補強編組又はコイルを含む複数の層を有する、実施態様1から51のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(53) 前記膨張可能な部材の前記近位端は近位接合領域において前記細長シャフトに接合され、前記膨張可能な部材の他端は、前記拡張部材を形成するほぼ管状のポリマー部材の中央部分が前記カテーテルの前記遠位端に配置されるように反転されて接合部において前記中間層に接合され、前記管状のポリマー部材の、前記接合部と前記中央部分との間に位置する部分は、前記カテーテルシャフトの前記遠位部分に接合されている、実施態様52に記載の血栓捕捉カテーテル。
(54) 材料のストリップが前記拡張部材を覆って取り付けられて前記カテーテル本体に近位側が接合され、前記材料のストリップの遠位端は非外傷性の遠位カテーテル先端部に接着されている、実施態様1から53のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(55) 複数の材料のストリップが前記バルーンの周囲に放射状に配置されている、実施態様54に記載の血栓捕捉カテーテル。
【0162】
(56) 前記材料のストリップは、PETなどの低弾性コンプライアンスポリマーを含む、実施態様54又は55に記載の血栓捕捉カテーテル。
(57) 前記拡張部材は、弾性拡張材料の部分が点在する半剛性リブを含む複合構造のものである、実施態様1から56のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(58) 前記リブは前記カテーテルの軸に平行に延びる、実施態様57に記載の血栓捕捉カテーテル。
(59) 前記リブは螺旋形態に延びる、実施態様57に記載の血栓捕捉カテーテル。
(60) 前記カテーテルは、放射線不透過性流体で満たされるように構成された、封止された膨張チャンバを有する、実施態様1から59のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
【0163】
(61) 前記拡張部材を膨張させ、かつ前記拡張部材を収縮させるためのプランジャを有する、実施態様60に記載の血栓捕捉カテーテル。
(62) 前記プランジャを動かして前記拡張部材の前記膨張及び前記収縮を制御するための制御部を有する、実施態様61に記載の血栓捕捉カテーテル。
(63) 前記制御部が手動ノブを含む、実施態様62に記載の血栓捕捉カテーテル。
(64) 前記プランジャが波形本体によって画定されている、実施態様62又は63に記載の血栓捕捉カテーテル。
(65) 前記波形本体の運動を付勢するばねを有する、実施態様64に記載の血栓捕捉カテーテル。
【0164】
(66) 前記拡張形態における前記拡張部材の前記遠位先端部の外形が、不均一な形状のものである、実施態様1から65のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル。
(67) 前記外形は楕円を含む、実施態様66に記載の血栓捕捉カテーテル。
(68) 実施態様1から67のいずれかに記載の血栓捕捉カテーテル、血栓係合装置、及び該血栓係合装置用のマイクロカテーテルを含む、キット。
(69) 前記血栓係合装置はステントリトリーバ装置である、実施態様58に記載のキット。
(70) 血栓捕捉手技であって、
血栓捕捉カテーテルを提供することであって、該カテーテルの最遠位先端部に膨張可能な部材を有する、血栓捕捉カテーテルを提供することと、
前記膨張可能な部材が折り畳まれた形態にある状態で、前記血栓捕捉カテーテルを血栓に向かって進めることと、
前記膨張可能な部材が前記カテーテルの前記最遠位先端部から血管壁にまで外側に延びるように前記カテーテルの前記遠位先端部の前記膨張可能な部材を膨張させることと、
前記血栓を前記カテーテル内に引き込むことと、
前記膨張可能な部材を収縮させることと、
前記カテーテルを引き抜くことと、を含む、手技。
【0165】
(71) 前記カテーテルを通じて吸引を行って、前記血栓を前記カテーテル内に引き込むことを含む、実施態様70に記載の血栓捕捉手技。
(72) 前記血栓にステントリトリーバなどの機械的装置を係合させて前記血栓を前記カテーテル内に引き込むことを含む、実施態様70又は71に記載の血栓捕捉手技。
(73) マイクロカテーテルを提供することと、前記血栓捕捉カテーテルを通じて前記マイクロカテーテルを進めることと、前記カテーテルから前記血栓係合装置を展開することと、を含む、実施態様72に記載の血栓捕捉手技。
(74) 血栓を捕捉するための方法であって、
実施態様1から67のいずれかに記載のカテーテルを、脈管構造を通じて血管内の標的血栓の近位側の位置にまで進めることと、
マイクロカテーテルを前記血栓に横断させることと、
前記マイクロカテーテルを通じて血栓捕捉装置を前記血栓の部位にまで進めることと、
前記マイクロカテーテルを引っ込めて前記血栓の下に少なくとも部分的に前記血栓捕捉装置を展開することと、
前記カテーテルの前記拡張部材を膨張させて前記血管内の流れを遅くするか又は停止することと、
前記血栓捕捉装置を前記カテーテルに向かって近位方向に引っ込めることと、
注射器又はポンプを前記カテーテルの近位端に接続し、吸引を行って前記血管内の血流を逆流させることと、
前記血栓捕捉装置及び捕捉された血栓を吸引しながら前記カテーテルの前記開口部内に引っ込めることと、
吸引しながら前記血栓捕捉装置を、前記カテーテルを通じて前記カテーテルの外部へと引き続き引っ込めることと、
吸引を停止し、前記拡張部材を収縮させて前記血管への血流を回復させることと、を含む、方法。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a-3e】
図4
図5
図6a
図6b
図7a
図7b
図7c
図8a
図8b
図8c
図9a
図9b
図9c
図9d
図10a
図10b
図10c
図10d
図11
図12
図13
図14
図15
図16a
図16b
図16c
図16d
図16e
図16f
図16g
図16h
図16i
図17a
図17b
図17c
図18a
図18b
図18c
図18d
図19a
図19b
図20a
図20b
図20c