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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】液体アプリケーター
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/00 20060101AFI20220613BHJP
【FI】
A61B17/00 400
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019510480
(86)(22)【出願日】2017-05-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 GB2017051260
(87)【国際公開番号】W WO2017191470
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-02-18
(31)【優先権主張番号】1607868.5
(32)【優先日】2016-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518393148
【氏名又は名称】アドバンスト メディカル ソリューションズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミラー ガイ スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ゴパラクリシュナン ニティンクリシュナン
(72)【発明者】
【氏名】パリシュ サイモン マーク
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-289986(JP,A)
【文献】特許第5658544(JP,B2)
【文献】特開平09-000989(JP,A)
【文献】特表2003-519598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00
B05B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性液体接着剤組成物を保持及び吐出する液体アプリケーターであって、
硬化性液体接着剤組成物を保持するレシーバー本体と、長手軸を有するとともに、前記硬化性液体接着剤組成物が吐出される、前記レシーバー本体から遠隔の遠位端部を更に有する吐出チップと、該アプリケーターによって保持されている硬化性液体接着剤組成物を前記チップに移送して、前記組成物を吐出する吐出機構とを備え、
前記チップは、該チップに沿って該チップの遠位端部まで延在する複数の溝形状部を有する出口セクションを備え、
前記複数の溝形状部は、前記チップの前記長手軸に平行であって前記チップの前記長手軸の周りで等角度に離間された長手軸を有し、
前記複数の溝形状部は、前記チップを通って前記チップの遠位端部まで延在するボアの内壁に形成され、
前記複数の溝形状部は、使用の間、前記硬化性液体組成物が前記ボアを通って流れ前記チップから吐出されることで、前記チップの閉塞を防ぐ、液体アプリケーター。
【請求項2】
4つの前記溝形状部が設けられる、請求項に記載のアプリケーター。
【請求項3】
前記ボアは、一定の断面を有する上流セクションと、前記溝形状部が設けられる下流セクションとを備える、請求項1または2に記載のアプリケーター。
【請求項4】
前記溝形状部は、横断面が弧状である、請求項1~のいずれかに記載のアプリケーター。
【請求項5】
前記溝形状部は、横断面が半円状である、請求項に記載のアプリケーター。
【請求項6】
前記溝形状部の上流端部は、前記チップを通る前記硬化性液体接着剤組成物の流れの方向に対して直角の平面に延在する肩部によって画定される、請求項1~のいずれか1項に記載のアプリケーター。
【請求項7】
前記チップは、低表面エネルギー材料を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のアプリケーター。
【請求項8】
前記低表面エネルギー材料は、フッ素化ポリマー、例えば、PTFEである、請求項に記載のアプリケーター。
【請求項9】
前記低表面エネルギー材料は、アセタールプラスチック材料である、請求項に記載のアプリケーター。
【請求項10】
硬化性液体接着剤組成物の連続する液滴を送達するように適合された、請求項1~のいずれか1項に記載のアプリケーター。
【請求項11】
前記液滴は、10μl~20μl、例えば、12μl~15μlの体積を有する、請求項10に記載のアプリケーター。
【請求項12】
25滴~40滴の硬化性液体接着剤組成物を送達するように構成された、請求項10又は11に記載のアプリケーター。
【請求項13】
前記液滴の連続的な吐出を実行するために構成されたトリガー機構を備える、請求項10~12のいずれか1項に記載のアプリケーター。
【請求項14】
前記アプリケーターは、細長いカニューレを備え、該細長いカニューレを通して前記硬化性液体接着剤組成物が吐出され、該細長いカニューレの端部に前記チップが取り付けられる、請求項1~13のいずれか1項に記載のアプリケーター。
【請求項15】
腹腔鏡手術に使用される、請求項1~14のいずれか1項に記載のアプリケーター。
【請求項16】
硬化性液体接着剤組成物が充填される、請求項1~15のいずれか1項に記載のアプリケーター。
【請求項17】
前記硬化性液体接着剤組成物は、シアノアクリレート系接着剤組成物である、請求項16に記載のアプリケーター。
【請求項18】
前記硬化性液体接着剤組成物は、n-ブチルシアノアクリレートを含む、請求項16に記載のアプリケーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性液体組成物を保持及び吐出する液体アプリケーターに関する。本発明は、必ずしも排他的ではないが、特に、硬化性液体組成物の液滴を手術部位に連続的に送達する外科手術用途のために意図されたかかるアプリケーターに関する。本発明は、メッシュ支持材料を修復対象の組織に固定することによってヘルニアを修復する腹腔鏡手術のためのアプリケーターへの特定の(ここでも同様に排他的ではない)応用性を有する。
【背景技術】
【0002】
腹腔鏡手術(例えば、ヘルニア修復術)に使用される、液滴(例えば、12μl/液滴~15μl/液滴)を連続的に送達する機能を果たす液体アプリケーターは、当該技術分野において既知である。かかるアプリケーターの一例は、国際公開第2014/072688号及び国際公開第2014/072689号に開示されている。Advanced Medical Solutions (Plymouth)からLIQUIBAND(商標)FIX8(商標)の商品名で市販されているアプリケーター(上述の2つの国際公開の明細書に開示されている原理に従って動作する)が入手可能であり、このアプリケーターは、硬化性液体シアノアクリレート系接着剤組成物の液滴を送達する。FIX8デバイスは、1回の外科手術に使用されることが意図されており、1回のヘルニアメッシュ固定術に十分な合計約33滴の接着剤を送達するように構成されている。しかしながら、シアノアクリレートは、直接の接触点において自然治癒を妨げることが知られており、したがって体内用途に関して、塗布される接着剤の量を制御するとともに最小限に抑えることが決定的に重要であることが分かっている。このために、体内外科手術用途(例えば、FIX8(商標)デバイス)の液体アプリケーターは、小径のボア(例えば、約0.5mm~2.0mm)を有する出口チップを備える。しかしながら、体内組織の高い水分含有量を原因として、下記2つの理由のうちの一方又は双方により、チップが重合物質で閉塞する重大なリスクが存在する。第1に、重合物質及び組織がチップの外側に堆積して、遠位のオリフィス(すなわち、接着剤組成物が手術部位上に吐出されるオリフィス)を覆う場合がある。第2に、重合物質及び組織が遠位のオリフィスの内側に固まって、栓を生じる場合がある。閉塞が起こると、アプリケーターは、外科処置を遂行する用途にもはや不適となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、上述の不利益を取り除くか又は軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、硬化性液体組成物を保持及び吐出する液体アプリケーターであって、
硬化性液体組成物を保持するレシーバー本体と、長手軸を有するとともに、液体組成物が吐出される、レシーバー本体から遠隔の遠位端部を更に有する吐出チップと、アプリケーターによって保持されている液体組成物をチップに移送して、組成物を吐出する吐出機構とを備え、
チップは、チップに沿ってチップの遠位端部まで延在する少なくとも1つの溝形状部を有する出口セクションを備える、液体アプリケーターが提供される。
【0005】
本発明は、硬化性液体接着剤組成物、例えば、脆い硬化性液体接着剤組成物に収容された硬化性液体接着剤組成物、例えば、吐出に向けて接着剤組成物を放出するために破壊する必要がある脆いアンプルに収容された硬化性液体接着剤組成物が充填される、前段落において規定された液体アプリケーターを更に提供する。
【0006】
液体アプリケーターは、手術器具、例えば、ヘルニアメッシュ固定術に使用される手術器具として構成することができる。
【0007】
チップの出口セクションに、チップに沿ってチップの遠位端部まで延在する少なくとも1つの溝形状部を設けることにより、閉塞に関連する問題が大幅に低減されることを本発明者らは見出した。チップの内側又は外側のいずれかに、チップの長手軸に平行な長手軸を有する単一の溝形状部を設けることができる。しかしながら、複数の内側溝形状部又は外側溝形状部、例えば、4つの内側溝形状部又は外側溝形状部が設けられ、これらの内側溝形状部又は外側溝形状部が、チップの長手軸の周りで等角度に離間された長手軸を有することが好ましい。
【0008】
本発明の特に好ましい実施形態において、チップは、チップを通ってチップの遠位端部まで延在するボアを有し、溝形状部は、ボアの内壁に形成される。チップのボアは、一定の断面(例えば、1.5mm~2mm)を有する上流セクションと、溝形状部が設けられる下流セクションとを備えることができる。溝形状部は、例えば、4mm~6mm(好ましくは、約5mm)の長さにわたって延在することができる。
【0009】
溝形状部の上流端部は、チップを通る液体組成物の流れの方向に対して直角の平面に延在する肩部によって画定されることが特に好ましい。
【0010】
チップのボアの内側に形成される溝形状部は、横断面(すなわち、チップを通る液体組成物の流れの方向に対して直角の平面)において見た場合に弧状(好ましくは、半円状)であることが好ましい。
【0011】
本発明の代替的な実施形態において、チップは、ボアが設けられる上流セクションと、外側に溝形状部が設けられる下流セクション(出口セクションを提供する)とを備える。この実施形態において、溝部は、溝部とボアとの間を連通させる1つの孔とそれぞれ連結される(ボアは、上記孔よりも遠くに延在しない)。孔は、各溝形状部の基部の少なくとも一部に設けることができ、また弧状(横断面で見た場合)であり、各孔が溝部の弧状側壁の途中まで延在することが好ましい。
【0012】
本発明の全ての実施形態に関して、チップは、低表面エネルギー材料を備えることが好ましい。なぜなら、このような材料は、硬化した接着剤組成物及びデブリがチップに付着するのを最低限に抑える役割を果たすからである。チップが作製される低表面エネルギー材料は、例えば、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素化ポリマー(例えば、PTFE)、アセタールプラスチック材料、シリコーン又はセラミック材料を含むことができる。
【0013】
アプリケーターは、例えば、連続的な吐出を実行するために構成されたトリガー機構によって、硬化性液体組成物の連続する液滴を送達するように適合されたアプリケーターであることが好ましい。液滴は、10μl~20μl(例えば、12μl~15μl)の体積を有することができ、デバイスは、25滴~40滴、例えば、30滴~35滴の接着剤を送達するように構成することができる。
【0014】
アプリケーターは、細長いカニューレを備えることができ、細長いカニューレを通して接着剤組成物が吐出され、細長いカニューレの端部にチップが取り付けられる。このために、チップは、上流本体部と、上流本体部よりも小さな断面サイズを有する下流本体部とを備えることができる。したがって、上流本体部は、肩部(上流本体部と下流本体部との接合部に形成されている)がカニューレの端部に当接する状態でカニューレの端部に配置されるスピゴットの形態とすることができる。上流本体部及び下流本体部は、例えば、円形断面を有することができる。本発明の好ましい実施形態において、カニューレは、内側チューブ(例えば、PTFE等のフッ素化ポリマー製)を組み込んでおり、この内側チューブに沿って、接着剤組成物がアプリケーターの本体からチップに供給される。この内側チューブは、チップの中まで延在することが好ましく、チップの出口端部の手前で終端することが好ましい。
【0015】
アプリケーターは、腹腔鏡外科手術用途のために構成されたアプリケーターであることが好ましい。しかしながら、本発明に係るアプリケーターは、観血的手術に使用することができることが理解される。
【0016】
外科手術用途のために構成されたアプリケーターにおいて、チップは、例えば、15mm~25mm(例えば、18mm~24mm)の全長及び/又は3mm~8mm(例えば、4mm~6mm)の最大断面寸法を有することができる。上流本体部と下流本体部とに分割される場合、チップの長さに沿った略中間地点において分割することができる。チップの上流端部からチップの中まで延在する(かつ接着剤組成物を溝形状部に供給する)ボアは、必要に応じて、収束する入口セクション(上述した内側チューブが挿入される)を有するが、それ以外では、溝形状部の上流端部と連通する地点まで一様な断面を有することができる。しかしながら、他の断面を用いることもでき、例えば、ボアの断面は、溝形状部の上流端部に到達する前に、ボアの長さの途中で、収束する段形状部において狭窄してもよい。収束する入口セクションから離れると、ボアは、例えば、1.5mm~3.5mmの最大断面サイズを有することができる。
【0017】
上述した実施形態において、溝形状部は、例えば、4mm~8mmの長さを有することができる。溝形状部が弧状(例えば、半円状)の断面を有する場合、その断面の半径は、例えば、0.3mm~1mm(例えば、0.4mm~0.8mm)とすることができる。チップの横断面で(すなわち、チップの長手軸が直角に交わる平面で)見た場合、弧状断面の中心は、チップの長手軸から0.75mm~1.5mmのところにあることができる。上記又は各溝形状部は、チップの長手軸に平行に延在する長手軸を有することが好ましい。
【0018】
外科手術用途のために意図された本発明に係る液体接着剤アプリケーターは、接着剤がチップの端部に到達する前に接着剤の実質的な重合反応(硬化)が起こらず、接着剤が修復対象の組織の水分と接触したときに硬化が起こるようになっていることが理想的である。したがって、チップの出口端部の上流でチップ上に重合反応開始剤が(硬化性接着剤組成物のアプリケーターの或る特定の他のタイプでは提供されるように)予め堆積されていないことが好ましい。
【0019】
硬化性液体組成物は、シアノアクリレート系接着剤組成物であることが好ましい。
【0020】
アプリケーターに組み込むことができるシアノアクリレート系接着剤組成物の例を以下に挙げる。
【0021】
本発明のアプリケーターによって塗布することができる接着剤流体は、多種多様なシアノアクリレート系接着剤配合物から構成することができる。リザーバーは、接着性が比較的強く、柔軟性が比較的低い、n-ブチルシアノアクリレート等のシアノアクリレート系接着剤組成物を収容することもできるし、オクチル若しくはヘキシル若しくはデシル若しくはシアノアクリレートの他のホモログ等の比較的柔軟な組織接着剤を収容することもできる。
【0022】
使用されるシアノアクリレート組成物は、皮膚表面に液体/ゲルとして塗布することができるシアノアクリレートプレポリマー組成物を含むことが好ましい。必要に応じて、シアノアクリレートプレポリマーは、鎮痛薬、抗炎症薬、抗微生物薬等のような治療薬を含むことができる。
【0023】
重合性シアノアクリレートプレポリマーは、単量体形態において、式I:
【化1】
(式中、
Rは、
1個~10個の炭素原子を含むアルキルと、
2個~10個の炭素原子を含むアルケニルと、
5個~8個の炭素原子を含むシクロアルキル基と、
フェニルと、
2-エトキシエチルと、
3-メトキシブチルと、
式:
【化2】
(式中、
R’は、それぞれ、
水素及びメチル、
からなる群から独立して選択され、
R’’は、
1個~6個の炭素原子を含むアルキルと、
2個~6個の炭素原子を含むアルケニルと、
2個~6個の炭素原子を含むアルキニルと、
3個~8個の炭素原子を含むシクロアルキルと、
ベンジル、メチルベンジル及びフェニルエチルからなる群から選択されるアラルキルと、
フェニル、並びに、ヒドロキシル、クロロ、ブロモ、ニトロ、1個~4個の炭素原子を含むアルキル及び1個~4個の炭素原子を含むアルコキシからなる群から選択される1個~3個の置換基で置換されたフェニルと、
からなる群から選択される)の置換基と、
からなる群から選択される)によって表されるシアノアクリレートエステルを含むことが好ましい。
【0024】
式Iのシアノアクリレートエステルにおいて、Rは、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、イソ-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-ヘプチル、オクチル、ノニル及びデシルを含む、2個~10個の炭素原子を含むアルキル基であることがより好ましい。Berger他の米国特許第5,998,472号によって開示されているように、このような化合物の混合物を使用することもできる。この米国特許は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0025】
「重合性シアノアクリレートエステル」という用語は、シアノアクリレートモノマー又は重合性オリゴマーを含む重合性配合物を指すことが理解され、単量体形態において、上述した式Iによって表される化合物であることが好ましい。
【0026】
本明細書に記載される重合性シアノアクリレートエステルは、水蒸気又は組織タンパク質の存在下で迅速に重合し、n-ブチル-シアノアクリレートは、組織毒性又は細胞毒性を引き起こすことなく、哺乳動物の皮膚組織に結合する。
【0027】
重合性シアノアクリレートエステルは当該技術分野において既知であり、例えば、米国特許第3,527,224号、同第3,591,676号、同第3,667,472号、同第3,995,641号、同第4,035,334号、及び同第4,650,826号(それらの開示はそれぞれ、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)に記載されている。
【0028】
必要に応じて、本アプリケーターによって塗布されるシアノアクリレート組成物は、「生体適合性可塑剤」を含むことができる。本明細書で使用されるとき、「生体適合性可塑剤」は、シアノアクリレート組成物に溶解可能又は分散可能な任意の物質であって、皮膚表面上に結果として得られるポリマー膜コーティングの柔軟性を増大させ、使用量では、中等度から重度の皮膚炎を引き起こさないことから判断されるように皮膚に適合性のある物質を指す。好適な可塑剤は、当該技術分野において既知であり、米国特許第2,784,127号及び同第4,444,933号に開示されている可塑剤を含む。上記米国特許の双方の開示は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。具体的な可塑剤としては、単に例として、アセチルトリ-n-ブチルシトレート(好ましくは、約20重量パーセント以下)、アセチルトリヘキシルシトレート(好ましくは、約20重量パーセント以下)、ブチルベンジルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、n-ブチリルトリ-n-ヘキシルシトレート、ジエチレングリコールジベンゾエート(好ましくは、約20重量パーセント以下)等が挙げられる。使用される特定の生体適合性可塑剤は、決定的に重要なものではなく、好ましい可塑剤としては、ジオクチルフタレート及びC~C-アシルトリ-n-ヘキシルシトレートが挙げられる。
【0029】
また必要に応じて、本アプリケーターによって塗布されるシアノアクリレート組成物は、「抗微生物薬」を含むことができる。本明細書で使用されるとき、「抗微生物薬」という用語は、微生物(すなわち、細菌、真菌、酵母菌及びウイルス)を破壊し、それにより、微生物の発生及び病原性作用を防止する薬剤を指す。
【0030】
また、本発明の実施に有用な好ましいシアノアクリレート組成物は、Greff他の米国特許第5,480,935号によって開示されており、その出願は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。特に好ましい実施形態において、シアノアクリレート系接着剤組成物は、抗微生物的に有効な量の適合性抗微生物薬を更に含む。かかる組成物は、溶液又は懸濁液のいずれかとして、組成物の総重量に対して0.1重量パーセント~約30重量パーセント、好ましくは約0.5重量パーセント~10重量パーセントの適合性抗微生物薬を含むことが好ましい。適合性抗微生物薬は、シアノアクリレート組成物に溶解可能又は懸濁可能であり、シアノアクリレート組成物の尚早な重合を引き起こさず、哺乳動物の皮膚に塗布された場合のシアノアクリレート組成物の重合を妨げず、患者の皮膚との生体適合性を含む、意図された用途との適合性を有する抗微生物薬である。好適なかかる組成物は、シアノアクリレート/ポビドンヨード複合体の組成物を開示している米国特許第6,475,502号と、シアノアクリレートエステル及びフェノールの組成物を開示している米国特許出願公開第2005-0042196号とに開示されている。これらの開示の全ては、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0031】
組成物に適合性抗微生物薬を使用すると、適合性抗微生物薬がポリマー膜から放出するため、フィルムに隣接する微生物の成長が抑えられる。
【0032】
シアノアクリレート組成物との併用に適する他の薬剤としては、米国特許第5,962,010号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)においてGreff他により記載されるような副腎皮質ホルモン剤(corticoid steroids:ステロイド剤)、及びリドカイン等の鎮痛剤化合物が挙げられる。前者が炎症を軽減させるのに対し、後者は痛みを軽減させる。ステロイド剤と鎮痛剤との組合せも包含される。
【0033】
ここで、ほんの一例として添付の図面を参照して本発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】市販されている外科用接着剤アプリケーターを示す図である。
図2図1に示されているアプリケーターとともに供給される従来のアプリケーターチップの図である。
図3】本発明に係る使用のためのアプリケーターチップの第1の実施形態の図である。
図4】本発明に係る使用のためのアプリケーターチップの第2の実施形態の図である。
図5】本発明に係る使用のためのアプリケーターチップの第3の実施形態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1には、ヘルニア修復術中に、特に腹腔鏡下で行われるヘルニア修復術中に、支持メッシュ(通例はポリプロピレン製)を適所に固定するのに使用される、Advanced Medical Solutions (Plymouth) Ltdによって「LIQUIBAND(商標)FIX8(商標)」という商標で販売されている接着剤アプリケーター1が示されている。「LIQUIBAND(商標)FIX8(商標)」デバイスは、メッシュを適所に固定するために硬化性シアノアクリレート系接着剤組成物の複数の液滴が選択的かつ連続的に吐出される1回のヘルニア修復術に使用されることが意図されている。図示のアプリケーター1は、国際公開第2014/072688号及び国際公開第2014/072689号に開示されているタイプのアプリケーターである。これらの国際公開の開示は、引用することにより本明細書の一部をなし、アプリケーター1の構成及び動作の方法に関する全詳細については、これらの国際公開を参照することができる。しかしながら、簡潔に述べると、アプリケーター1は、本体ユニット2と、本体ユニット2から延在するとともに自由遠位端部にアプリケーターチップ4が設けられる細長いカニューレ3とを備え、トリガー機構5が更に設けられる。図1には示されていないが、カニューレ3は、フッ素化ポリマーのライナーチューブを備え、このライナーチューブは、カニューレ3に沿って、本体ユニット2内の近位端部からアプリケーターチップ4のボアに入り、チップ4の自由遠位端部と同じ高さの位置まで延在する。供給時、FIX8(商標)デバイスは、本体ユニット2内に、上述した支持メッシュが接着される患者の組織と接着することで硬化可能な硬化性シアノアクリレート系接着剤組成物を組み込んだ液体接着剤組成物を収容する、脆いアンプル(図示せず)を備える。接着剤を放出するためにアンプルを破壊させ、次に、カニューレ3(又はより詳細にはフッ素ライナーチューブ)の略全長にわたって接着剤が準備されることで、トリガー機構5の作動によって(かかる動作毎に)チップ4から一定体積(約10μl~15μl)の液体接着剤の液滴が吐出されるようにする機構が、本体ユニット2上及び本体ユニット2内に設けられる。FIX8(商標)アプリケーターとともに供給される接着剤の量は、約33滴の接着剤の送達のために十分な量である。
【0036】
ヘルニア修復術中、上述したメッシュが患者の修復対象の体内組織に対して適所に配置され、接着剤の液滴(トリガー機構5の作動によって簡単に上述したように吐出される)がメッシュの接合部に(患者の組織から遠隔側に)塗布され、接着剤が接合部上を流れ、組織と接触して(接着剤「アンカー(anchor:固着部)」を形成して)硬化することができ、それにより、メッシュが組織に結合される。
【0037】
FIX8(商標)デバイスとともに現在供給されているチップ4は、図2に示されており、内方に収束する入口12と出口13とが、収束する入口12の下流端部から出口13までの長さに沿って一定の円形断面を有するボア14によって接続されている、管状の本体11を備えることが見て取れる。内方に収束する入口12を設けることにより、チップ4への上述したフッ素ライナーチューブの挿入が容易になる。
【0038】
本体11には、本体11の長さに沿った略中間地点において、本体11を上流セクション11uと下流セクション11dとのそれぞれに分割する外側環状肩部15が設けられている。上流セクション11uは、カニューレ3の遠位端部の内側に配置され、したがって、環状肩部15は、カニューレ3の遠位端部に当接し、下流端部11dは、カニューレ3の端部を越えて突出する。
【0039】
FIX8(商標)デバイスとともに供給されるチップ4は、以下の表1に示されている寸法を有する。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示されているように、ボア14は、約1.85mmの内径を有する。これにより、少量の接着剤を塗布することが可能であり(トリガー機構5の作動毎に約13μl)、このことは、シアノアクリレートが患者の組織との直接の接触点における自然治癒を妨げることが知られていることから有利である。したがって、体内用途に関して、塗布される接着剤の量を制御するとともに最小限に抑えることが決定的に重要であることが分かっている。しかしながら、ボア14の直径が狭いことに加えて体内組織の水分含有量が高いことを原因として、重合シアノアクリレート材料(及び更にはチップ4の遠位端部の外面の周りの重合シアノアクリレート)でチップの内部が閉塞することに関する問題が生じる。閉塞を解消することができない場合、アプリケーターは、接着剤の更なる塗布のために使用することができない。
【0042】
ここで、図3を参照する。図3は、本発明に係るアプリケーターにおいて使用されるチップ20の一実施形態を示しており、このチップ20は、重合シアノアクリレートによる閉塞に関連する問題を顕著に低減することが分かっている。したがって、例えば、図2を参照しながら記載されたチップ4の代わりに、FIX8(商標)デバイスにおいてチップ20を使用することができる。図示のチップ20は、チップ4といくらかの全体的な類似性を有し、したがって、内方に収束する入口22の下流端部から出口23まで延在するボア24によって接続されている、内方に収束する入口22と出口23とを有する、略管状の本体21を備える。本体21には、本体21を上流セクション21uと下流セクション21dとに事実上分割する外側環状肩部25が設けられ、上流セクション21uは、下流セクション21dよりも小さい外径を有する。上流本体セクション21uは、カニューレ3の遠位端部の中に配置され、肩部25は、カニューレ3の遠位端部に当接して配置される。
【0043】
ボア24の壁には、軸方向に平行かつ等角度に離間された4つの溝部26が形成されており、これらの溝部は、下流本体セクション21dに沿った略中間位置から出口23まで延在する。より具体的には、溝部26は、溝部26がブロック24の壁に成形される結果として形成されるそれぞれの上流端面27から下流方向に(出口23まで)延在する。溝部26は、横断面(すなわち、チップ20の長手軸に対して直角の平面)において見た場合、略半円形であり、それらの形態は、図3の最下の図の切欠き断面図(大きく拡大されている)において最もよく示されている。
【0044】
チップ20は、以下の表2に示されている寸法を有することができる。
【0045】
【表2】
【0046】
図4は、上述した閉塞の問題を軽減するために本発明に係るアプリケーターにおいて使用することができる、チップ30の更なる実施形態を示している。チップ30は、チップ20と全体の構成においていくらかの類似性を有するので、便宜上、チップ20に対応する部分が存在するチップ30の部分は、図3における対応する数字よりも10大きい、末尾が同じ数字の符号で示されている。したがって、例えば、チップ30の本体は、31で示されている(チップ20の本体21を参照)。また、便宜上、同様の部分の説明は繰り返さない。
【0047】
図3に示されているアプリケーターチップ20の実施形態とは異なり、アプリケーターチップ30には、チップ30の長手軸に対して平行に延在するとともにチップ30の長さに沿ってチップ30の外面において開口している外側溝部38が設けられている。各溝部38は、横断面が略弧状であり、チップ30の遠位端部33と溝部38の上流端部におけるそれぞれの壁39との間に延在する。溝部38の長さにわたって、溝部38の上縁部は、遠位端部33から壁39まで進むにつれて僅かに上昇し、それにより、溝部38の深さは、この方向に進むにつれて増大する。上流端部における各溝部38の基部には、ボア34との連通をもたらすそれぞれの孔39が形成されており(溝部の側面の途中まで延在する)、ボア34は、この実施形態において、内方に収束する入口セクション34の下流端部から孔38の下流端部まで延在する。したがって、チップ30がアプリケーター1のカニューレ3の端部内に配置され、アプリケーターに接着剤が準備されると、トリガー機構5の作動により、接着剤がチップ30のボア34に進入した後、孔39を介して溝部38に進入し、チップ30から吐出される。
【0048】
チップ30は、以下の表3に示されている寸法を有することができる。
【0049】
【表3】
【0050】
チップ40の更なる実施形態が、図5に示されており、図4に示されているチップ30と同様に、48で示される外側溝部が設けられているが、この場合は、溝部48は、その長さに沿ってチップ40の遠位端部43から端面49まで進むにつれて一定の深さを有する。チップ40は、上流セクション44uと、溝部48の上流端部を少しの距離越えて延在する、より狭い下流セクション44dとを有するように示されている段付きボアを備える。上流端部の各溝部48の基部には、溝部38とボアの下流セクション44dとの間の連通をもたらすそれぞれの孔39が設けられている。
【0051】
チップ4は、以下の表4に示されている寸法を有することができる。
【0052】
【表4】
【0053】
本発明の有効性を実証するために、上記のそれぞれの表に示されている寸法を有する図2図5に図示されているようなチップのサンプルを、PTFEから作製し、更なるサンプルを、クラスVIアセタールプラスチック材料(Delrin(商標))から作製した。FIX8デバイスの送達特性(デバイスとともに供給される硬化性シアノアクリレート系接着剤組成物の約13μlの液滴の繰返しの送達)を確実に模擬する試験リグを用いて、種々のチップを閉塞特性に関して試験した。全ての試験において、接着剤組成物は、FIX8デバイスにおいて使用されるタイプのフッ素化ポリマーチューブを通してチップに送達された。このチューブは、チップの上流端部に挿入され、チップの吐出端部から5mmの位置まで延在した。
【0054】
試験には、水平線に対して90度(すなわち、チップは鉛直方向下方に向く)、水平線に対して60度(チップは下方に傾斜する)、鉛直線に対して75度(チップは上方に傾斜する)の角度の種々のチップを使用して、ポリプロピレンメッシュ(ヘルニア固定術に使用されるタイプ)を鶏肉組織に接着することが含まれた。
【0055】
各角度での各チップに関して、以下の手順を用いて試験を行った。
(A)メッシュ/鶏肉組織表面に接着アンカー(接着剤の液滴によって提供される)を発現させた。
(B)各アンカーの塗布後に、チップを使用して10秒間メッシュを押すとともに適所に保持した。
(C)20秒の待機後に、次の接着アンカーを配置した。
(D)接着剤の送達速度は、2分以内に少なくとも5個のアンカーが送達される速度であった。
(E)チップは、各接着アンカーの送達後に、デブリの蓄積による閉塞が観察された。
(F)3つ毎の接着アンカーの送達後に、チップを鶏肉組織の湿潤した表面に10秒間曝した。
(G)メッシュ/鶏肉試料上に少なくとも33個のアンカーが発現されるまで又はチップが閉塞するまで(いずれか早い方)、工程(A)~(F)を繰り返した。
【0056】
この試験の結果として、図2に示されているタイプの、PTFE又はアセタールプラスチック材料のいずれかで作製されたチップは、33個のアンカーが発現される前に除去可能でない閉塞を生じやすいことが分かった。
【0057】
図3に示されているアセタールプラスチック材料製のチップは、試験された全てのチップのうちの最良の結果をもたらし、デブリがチップの周りに蓄積したものの、必要な最小限の33個のアンカーのための接着剤組成物を送達することが可能であった。PTFE製の図3のチップの場合、蓄積されたデブリがチップを閉塞したものの、この閉塞は明確に視認可能であり、容易に除去して接着剤の流れを回復することができ、最小限の33個のアンカーの発現を可能にした。
【0058】
(PTFE及びアセタールプラスチックの双方に関して)図4及び図5に示されているチップの場合、接着剤ブリード穴は完全に閉塞しないものの、デブリが4つの外側溝部上に蓄積することが分かった。デブリは容易に除去して、接着剤の連続する流れを可能にすることができたが、チップにおけるデブリの蓄積が原因で、接着剤が標的部位に到達したか否かを検出することには多少の困難が伴うことが観察された。
図1
図2
図3
図4
図5