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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】細胞培養システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20220613BHJP
【FI】
C12M3/00 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019528106
(86)(22)【出願日】2017-11-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 EP2017080259
(87)【国際公開番号】W WO2018096054
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-09-01
(31)【優先権主張番号】16200451.9
(32)【優先日】2016-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519181685
【氏名又は名称】アルヴェオリクス テクノロジーズ アーゲー
(73)【特許権者】
【識別番号】514232904
【氏名又は名称】ウニヴェルジテート ベルン
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ゲーナ, オリヴィエ ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ストゥーキ, ジャニック ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】アーシュリマン, マーセル
(72)【発明者】
【氏名】ルコー, クリストフ
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/032889(WO,A1)
【文献】Lab Chip, 2010, Vol.10, p.51-58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドッキングステーション(104,105;204,205;704,705)、操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)、培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)及び作動層(120;220;320;420;720;820;920)を備える細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)であって、
培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)は培養ウェルを有し;
操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)は、培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)を取り外し可能に収容するため且つ作動層(120;220;320;420;720;820;920)を収容するための台座(147)と、培養ウェルと連係される作動ボアを有する底部とを有し、底部は作動層(120;220;320;420;720;820;920)によって培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)から分離されており;且つ、
ドッキングステーション(104,105;204,205;704,705)は、操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)を所定の位置で取り外し可能に保持するための連結構造(146)と、作動供給チャネルとを有し、ここで操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)が連結構造(146)によって所定の位置で保持されると、作動供給チャネルの第1の端部が作動ボアに接続され嵌合し、作動供給チャネルの第2の端部はコネクタ(149;734;834)に接続される、細胞培養システム。
【請求項2】
培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)が、頂端培養チャンバ(122;222;322;422;722;822;922)及び基底培養チャンバ(123;223;323;423;723;823;923)内の培養ウェルを分離する培養膜(112;212;312;412;712;812;912)を有する、請求項1に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項3】
操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)の台座(147)が作動層(120;220;320;420;720;820;920)を取り外し可能に収容するために構成されており;且つ、
培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)が台座(147)内に配置されると、作動ボアが培養ウェルに連係され、底部が作動層(120;220;320;420;720;820;920)によって培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)から分離される、請求項1又は2に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項4】
培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)が入口ウェル(125;225;325;425;725;925)と出口ウェルとを有し;
操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)の底部が入口ボアと出口ボアとを有し、ここで培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)が台座(147)内に配置されると、入口ボアは入口ウェル(125;225;325;425;725;925)に連係され、出口ボアは出口ウェルに連係され;且つ、
ドッキングステーション(104,105;204,205;704,705)が入口供給チャネルと出口供給チャネルとを有し、ここで操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)が所定の位置で連結構造(146)によって保持されると、入口供給チャネルの第1の端部は入口ボアに接続され、出口供給チャネルの第1の端部は出口ボアに接続され、入口供給チャネル及び出口供給チャネルの各第2の端部はコネクタに接続される、請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項5】
ポンプ装置を有する圧力制御ユニット(106,107;206,207)と、ポンプ装置に接続された少なくとも1つのポートと、少なくとも1つのポートのそれぞれにおいて圧力が個別に調整可能であるようにポンプ装置を制御するためのプロセッサとを備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項6】
細胞培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)が、培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)の上部に配置されたキャップ(931)を有し、キャップ(931)は、培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)及び操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)を介してドッキングステーション(104,105;204,205;704,705)に、さらに入口ウェル(125;225;325;425;725;925)に接続されたチャネル(930)を含む、請求項4又は5に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項7】
細胞培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)のキャップ(931)が、培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)及び操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)を介してドッキングステーション(104,105;204,205;704,705)に、さらに出口ウェルに接続された第2のチャネルを有する、請求項6に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項8】
細胞培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)が、培養ウェル上に配置された作動膜(637)を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項9】
操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)と培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)との間に位置するチャネル(447)で互いに接続されている、第1の細胞型を含む第1の培養ウェルと第2の細胞型を含む第2の培養ウェルとを細胞培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)が有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項10】
追加の培養ウェルが相互接続される、請求項1から9のいずれか一項に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項11】
培養膜の頂端面又は培養膜の基底面で2つの培養ウェルを接続するチャネルを備える、請求項2から10のいずれか一項に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項12】
培養膜がメッシュ(1690;1691;1692;1693)を含む、請求項2から11のいずれか一項に記載の細胞培養システム。
【請求項13】
バルブ(1360)を有するチャネル(1361)を備え、チャネル(1361)が出口ウェル(1326)と入口ウェル(1325)とを接続する、請求項4から12のいずれか一項に記載の細胞培養システム。
【請求項14】
ドッキングステーション(104,105;204,205;704,705)と同じさらなるドッキングステーション(104,105;204,205;704,705)と、細胞培養フードと、インキュベーションフードとを備え、ドッキングステーション(104,105;204,205;704,705)が培養フード内に配置され、さらなるドッキングステーション(104,105;204,205;704,705)がインキュベーションフード内に配置される、請求項1から13のいずれか一項に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項15】
操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)の底部の作動ボアが作動層(120;220;320;420;720;820;920)に近位のキャビティ部を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項16】
培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)と構造的に同じ少なくとも1つのさらなる培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)を備え、ここで操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)が、さらなる培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)を収容するための少なくとも1つのさらなる台座(147)と、さらなる培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)の培養ウェルに連係されている少なくとも1つのさらなる作動ボアを有する底部とを有し;且つ、ドッキングステーション(104,105;204,205;704,705)はさらなる作動供給チャネルを有し、ここで操作ユニット(102;202;302;402;702;802;902)が連結構造(146)によって所定の位置で保持されると、さらなる作動供給チャネルの第1の端部がさらなる作動ボアに接続され、さらなる作動供給チャネルの第2の端部がコネクタ(149;734;834)に接続される、請求項1から15のいずれか一項に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【請求項17】
少なくとも1つのさらなる作動層(120;220;320;420;720;820;920)を備え、操作ユニットのさらなる台座(147)がさらなる作動層(120;220;320;420;720;820;920)を収容するように構成され、底部がさらなる作動層(120;220;320;420;720;820;920)によってさらなる培養モジュール(101;201;301;401;701;801;901)から分離される、請求項16に記載の細胞培養システム(100;200;300;400;600;700;800;900;1300;1400;1600)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養膜上で細胞を培養するための細胞培養システムに関する。当該システムを使用して、in vivo様組織を機械的に刺激、灌流及び/又は相互連結することができる。それは、単一の臓器を模倣する組織のアレイとして、又は異なる組織を相互に連結する多臓器システムとして、又はこれらの組み合わせとして使用することができる。
【背景技術】
【0002】
in vivoで見出される動的環境及び/又は異なる組織間の相互作用を再現するヒト組織の高度in vitroモデルは通常、構築及び取り扱いが複雑になり、且つ、製薬業界で広く使われている自動ピぺッティングロボットと両立しないような、複雑なシステムである。灌流細胞培養システムを提供することを目的としたいくつかのアプローチが過去10年間にわたって提案されてきたが、それらのほとんどは一体型蠕動ポンプに依存しているか、又は加圧細胞培地リザーバーに基づくシステムに依存している。
【0003】
例えば国際公開第2014/018770号には、細胞培養容器間で流体の流れを輸送するためにアクチュエータと一体化している制御プレートに可逆的に連結された細胞培養容器のアレイを備えるモジュール式装置が記載されている。
【0004】
さらに国際公開第2014/048637号では、同様の手法が、マイクロ流体チップに一体化された蠕動マイクロポンプによって駆動される自給式循環システムを備える多臓器チップデバイスにも用いられている。
【0005】
さらにまた、国際公開第2013/082612号には、加圧システムを使用して並列で細胞培養液を灌流することによって多くのポンプのアレイの一体化を回避するシステムが記載されている。バイオリアクタのアレイを備えたマルチウェルプレートは、その下に位置するリザーバーを加圧するようにきつく調整されたカバーガラスを備えている。このシステムの主な欠点は、ウェルプレートにしっかりと取り付けられたカバーガラスがあるために、灌流中に細胞にアクセスできないことである。さらに、カバーリッドがいくつかの流体管に接続されているため、システムの取り扱いが簡単ではない。
【0006】
しかしながら言及したシステムがモジュール式であり、自動又は半自動プロセスにおいて使用され得るとしても、該システムは、細胞又は細胞担持基材が圧縮及び張力のような機械的な力などによってストレスを受ける実際の状況を模倣することを可能にはしない。
【0007】
したがって、モジュール式自動細胞培養用途を実現し、可能な限りin vivoの状態に近い培養細胞の状況を模倣することができるシステム及び方法に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明によれば、このニーズは、独立請求項1の特徴により定義される細胞培養システムによって解決される。好ましい実施態様は、従属請求項の主題である。
【0009】
特に、ドッキングステーション、操作ユニット、培養モジュール及び作動層を備える細胞培養システムが提案される。このシステムは好ましくは、少なくとも2の構造的に同一の培養モジュールを備える。培養モジュールは、培養ウェルを有する。操作ユニットは、培養モジュール及び作動層を収容するための台座と、培養ウェルと連係されている作動ボアを含む底部とを有し、底部は作動層によって培養モジュールから分離されている。ドッキングステーションは、操作ユニットを所定の位置で取り外し可能に保持するための連結構造と、作動供給チャネル(actuation feeding channel)とを有し、ここで操作ユニットが連結構造によって所定の位置で保持されると、作動供給チャネルの第1の端部が作動ボアに接続され、作動供給チャネルの第2の端部はコネクタに接続される。
【0010】
操作ユニットは好ましくは、マイクロプレート規格に従って寸法決めされている。このような規格は特に、96ウェル、384ウェル又は1536ウェルを有する標準的なマイクロタイタープレートなどのマイクロタイタープレートについて定められた規格である。このような規格は広く普及しており、Society for Biomolecular Screening(SBS)によって開発され、米国規格協会(ANSI)によって承認されている。このような規格は、96、384又は1536ウェルを備える、長さ127.76mm、幅85.48mm及び高さ14.35mmのマイクロタイタープレートを規定している(Society for Biomolecular Screening. ANSI/SBS 1-2004: Microplates - Footprint Dimensions, ANSI/SBS 2-2004: Microplates - Height Dimensions, ANSI/SBS 3-2004: Microplates - Bottom Outside Flange Dimensions 及びANSI/SBS 4-2004: Microplates - Well Positions. http://www.sbsonline.org: Society for Biomolecular Screening, 2004を参照のこと)。このような標準化されたモジュールを使用することは、例えばピペッティングロボットなどの一般的に使用されるツールを用いてシステムを適用することを可能にする。特にそれは、細胞生物学実験室で一般的に使用されている、マルチピペッター及び自動ピペッティングロボットなどの標準的な機器と互換性がある。
【0011】
培養モジュールは、操作ユニットと一体化されていてもよく、又は操作ユニットの台座に固定的に収容されていてもよい。しかしながら好ましくは、操作ユニットの台座は、培養モジュール及び作動層を取り外し可能に収容するように構成され、培養モジュールが台座に配置されると、作動ボアは培養ウェルと連係され、底部は作動層によって培養モジュールから分離される。
【0012】
操作ユニットの台座及びドッキングステーションの連結構造に関連して、「取り外し可能に」という用語は、解除可能な保持又は連結をいう。つまり操作ユニットは、ドッキングステーションに連結され、必要に応じてそこから解除され得る。同様に、培養モジュールは、操作ユニットの台座に保持され、必要に応じてそこから解除され得る。
【0013】
一実施態様では、作動層は、細胞を培養又は成長させるために使用され得る。これにより、システム内の構成要素の数を減らすことができ、比較的単純な構造を提供することができる。しかしながら、培養モジュールは、培養ウェルを頂端培養チャンバと基底培養チャンバとに分離する培養膜を好ましくは有する。
【0014】
細胞培養システムを適用する場合、培養モジュールの培養ウェル内の培養膜又は作動層の片面又は両面に細胞を播種して増殖させることができる。このように、培養ウェルの頂端及び基底外側又は基底チャンバで細胞を増殖させることができる。in vivoで起こるような条件を模倣するために、例えば基底外側チャンパ内の圧力は、ドッキングステーションの作動供給チャネルのコネクタに過圧又は低圧(underpressure)を与えることによって変えることができる。この圧力変化は、作動供給チャネル及び作動ボアを介して、培養モジュールの培養ウェルから作動ボアを分離する作動膜の正又は負の撓み(deflection)、例えば作動ボアから押し出されるか又は作動ボアの中に引き込まれるといった撓みを引き起こす。このように、培養ウェル内(例えばその基底外側チャンバ内など)の圧力は相応に変化し、それは培養膜のそれぞれ正又は負の撓みを引き起こす。このように、細胞が曝される条件をより現実的なものにする、現実又はin vivo条件を模倣することができる。例えば、圧力変化が肺内で起こる場合、当該膜は動かされたり、又はストレスを受け得る。さらに又は或いは、言及した圧力は、培養ウェル内の培地の流れの変化を引き起こし得る。したがって、作動層に加えられる圧力は、培地の流れを制御するために使用され得る。
【0015】
特に効率的な実施態様では、培養モジュールは複数の培養ウェルを有する。それは例えば、1列以上の又はひと続きの培養ウェルを有し得る。それはまた、以下により詳細に記載されるように、複数の入口及び出口ウェルを備え得る。すなわち、複数の入口及び出口ウェルは、1列以上のひと続きの培養ウェルと平行に延在し得る。特に、1列以上のひと続きの培養ウェルを入口ウェルと出口ウェルとの間に配置することができる。
【0016】
細胞培養システムは、様々な機械的ストレス、例えば呼吸の周期的圧力、灌流によって誘発されるせん断応力又は圧縮若しくは伸縮などの他の機械的な力或いはこれらの組み合わせに曝すことができる類似組織のアレイとして設計することができる。操作ユニットの底部にある加圧可能なボアの位置によって、細胞培養モジュール及び操作ユニットが管を完全に含まないようにすることができる。したがって、該システムは、自動ピペッティングロボット又は標準的な顕微鏡システムと互換性があるように設計することも容易に可能である。
【0017】
該システムは、培養膜及びそれに接着した細胞を高度に撓めたり又は応力を加えたりすることができるため、特定の組織の微小環境からの生物物理学的因子の影響を模倣して、ヒト又は動物における化学化合物又は組成物のin vivo応答を予測することができる。それはまた、特定の組織又は組織群に対する化学化合物又は組成物の薬物動態学的挙動を調査することを可能にする。該システムはまた、化学化合物又は組成物の全身反応を評価するためにも使用することができる。該システムの別の用途は、患者自身の細胞を試験して各患者の治療法を調整し最適化することである。
【0018】
システム内にドッキングステーション及び操作ユニットを設けることによって、比較的高いモジュール性及び柔軟性を達成することができる。また、該システムは、例えば培養モジュールなどの単一の構成要素の単純なリアルタイム操作及び/又は交換を可能にすることから、効率も比較的高くなり得る。
【0019】
特に、本発明による細胞培養システムの操作ユニットは、一方では培養モジュール又はその複数と、また他方ではドッキングステーションとも相互作用することを可能にする。操作ユニットは、他を上回って、培養モジュールとドッキングステーションとの間の機能的インターフェイスとして位置づけることができる。それによって、ドッキングステーションの作動供給チャネルと培養モジュールの培養ウェルとが、管などを必要とせずに、操作ユニットの作動ボアを介して互いに機能的に接続されることを可能にする。このようにして、ドッキングステーション及び操作ユニットを介して作動層に効率的に圧力を加えることができる。任意選択的に、培養モジュール及びドッキングステーションの他の構造もまた、操作ユニットに設けられたチャネルなどを介して接続される。例えば、細胞培地などを輸送するために追加のマイクロチャネルを設けることができる。いずれにせよマイクロ流体チャネル構成は、単に操作ユニットと培養モジュールがドッキングされる(docket)か、又はドッキングステーション内に配置されるときに、操作ユニットによって形成され得る。このように操作ユニットは、培養モジュール及びドッキングステーションのチャネル及びウェルをチューブレスで接続することを可能にし、それはシステムの操作をかなり容易にし得る。
【0020】
より具体的には、操作ユニットの底部に作動ボアを備え、それに相応して、作動ボアに嵌合する作動供給チャネルをドッキングステーションに備えることによって、この構造は比較的単純且つ頑丈になり得る。特に、培養モジュール又は操作ユニットに管を取り付けなければならないことを防ぐことができる。むしろ、該システムは、ドッキングステーションを固定して設置し、それを適切な管又はチューブに接続すること、並びに煩雑な設置工程などを必要とせずに操作ユニットと培養モジュールを所望に応じて配置及び再配置することを可能にする。これは特に、産業用途などのより大きな枠組みで適用される場合に、該システムの効率をさらに高めることを可能にする。
【0021】
好ましい実施態様では、細胞培養システムは、該培養モジュールと構造的に同一の少なくとも1つのさらなる培養モジュールを備え、ここで操作ユニットは、このさらなる培養モジュールを収容するための少なくとも1つのさらなる台座と、さらなる培養モジュールの培養ウェルに連係されている少なくとも1つのさらなる作動ボアを有する底部とを有し;且つ、ドッキングステーションはさらなる作動供給チャネルを有し、ここで操作ユニットが連結構造によって所定の位置で保持されると、さらなる作動供給チャネルの第1の端部がさらなる作動ボアに接続され、さらなる作動供給チャネルの第2の端部がコネクタに接続される。したがって、細胞培養システムは好ましくは、少なくとも1つのさらなる作動層をさらに含み、ここで操作ユニットのさらなる台座はさらなる作動層を収容するように構成され、底部はさらなる作動層によってさらなる培養モジュールから分離されている。このような構成では、操作ユニットは、複数の培養モジュールの操作を特に容易にする。このようにして、特に効率的なアッセイ又はシミュレーションを達成することができる。
【0022】
このシステムの1つの特徴は、2つの部分が互いに可逆的に連結されると、1つ又は複数のマイクロ流体チャネルが操作ユニットの底部と操作ユニットとの間に形成されることである。培養モジュールを操作ユニットに連結させた状態を維持するために、培養モジュールと操作ユニットは、圧力を加えたばねによって生じる機械的な力(例えば、はり又はクリップ);磁力、電磁力;又は接着力(例えば両面テープによって生じるもの)のいずれかによって互いに押し付けることができる。
【0023】
本発明並びに上記及び下記のその好ましい実施態様によるモジュール式細胞培養システムは、呼吸運動によって引き起こされる機械的ストレス;血液、尿、糞便又は他の生理的流体流によって生じるせん断応力;及び胃腸バリア(蠕動性)、皮膚又はその他のin vivoバリアに作用する機械的ストレスを模倣することを可能にする。それはまた、他の臓器からの組織を灌流し、特定の組織又は組織群に対する化学化合物又は組成物の薬物動態学的及び薬力学的挙動を研究することを可能にする。それはさらに、培養モジュールの培養ウェル内の培地の流れを都合よく制御することを可能にする。
【0024】
細胞培養システムはさらに、異なる臓器由来の異なる組織又は組織群間の相互作用の複雑さを調査することを可能にする。一つの培養膜を有する代わりに、複数の培養膜又は細胞区画を細胞培養モジュール内に直列又は並列に一体化することができる。これらの各培養チャンバの中の流れは、作動層と細胞培養モジュールとから、又は作動層と操作ユニットとからなるバルブによって調節することができる。作動層は、システム内の圧力及び/又は流れをモニタリングするためにも使用することができる。かくして各組織内の流れを決定して、in vivoせん断応力を再現することができる。すなわち、in vivoで起こる臓器間の相互作用、例えば肺胞バリアと肝臓の間、又は肺胞バリア-肝臓-乳がんの間、又は肺とリンパ系の間の相互作用である各組み合わせを再現することができる。内皮細胞は、全部又は一部のマイクロ流体チャネルの表面を覆って血管を再生することができる。
【0025】
培養膜は、弾性があってもなくてもよい。それは、例えば約0.5マイクロメートル(μm)から約200μm、細孔の有無に関係なく典型的には約0.2μmから約1000μmの厚さを有する、薄い高分子膜であり得る。当該膜は、多層組成物を得るために、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリウレタン(PU)などの弾性材料、又は環状オレフィン共重合体(COC)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)等のハードポリマー(hard polymer)のいずれか、或いはこれらの組み合わせから作製することができる。それは、例えばラミニン、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン又はヒドロゲル等の細胞外マトリックス、フィブリンゲル及び類似のもの、又はこれらの組み合わせでコーティングすることができ、数ミリメートルの厚さに達し得る。細胞は、培養膜の両面で培養することができる。培養膜はまた、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、フィブロネクチン等又はこれらの組み合わせの細胞外マトリックスタンパク質で満たされた大きな細孔を有する支持体/足場を用いて部分的に又は完全に作製することもできる。支持体/足場の細孔は、典型的には約50μmから約1000μmであり得、円形、正方形、長方形、三角形等の形状又はこれらの組み合わせを有し得る。
【0026】
好ましくは培養膜は、メッシュを含む。この特定の実施態様では、培養膜又は支持体/足場はメッシュを備え、その厚さは数マイクロメートル、典型的には約1μmから約100μmであり得る、メッシュは、ポリマー、金属、ガラス、シリコン及びシリコン窒化物、シリコン酸化物等から、又は生分解性材料から作ることができる。細孔又はホールの間の距離は、典型的には約2μmから約200μmであり得る。肺胞を模倣するために、メッシュの細孔/ホールは、in vivo寸法に近い、直径約200μmから約500μmの好ましい寸法を有し得る。したがって、そのような培養膜は、肺胞組織又は同様のものなどのin vivo組織を比較的正確に模倣することを可能にする。
【0027】
本発明では、メッシュを有する培養膜が本発明によるシステムにおいて使用されているとしても、そのような培養膜は他のシステムにおいても使用することができる。特に、そのような培養膜は適切であり、特にin vivo組織上での細胞培養が模倣されるべきである場合に適切なin vivo組織が模倣することになっている任意のシステムにおいて使用されることが意図される。
【0028】
ドッキングステーションは、例えば磁石、電磁石又はばねを使用して操作ユニットをドッキングステーションにしっかりと連結し、その結果これら2つの部分間で空気漏れが生じないようにすること;作動供給チャネルにおいて、また、いくつかの実施態様ではドッキングステーションの上部に位置し、一列で操作ユニットの底部と接続するホールで終わる他のチャネルにおいて、制御ユニットにより生じた圧力を分配することなど、細胞培養システム内の複数の機能を果たすことができる。
【0029】
一実施態様では、ドッキングステーション及び/又は操作ユニットは、組織代謝及び化学化合物又は組成物に対する反応をモニタリングすることを目的とした補助機能を備えることができる。それらは例えば、細胞培養モジュール内又は操作ユニット内で成長した組織の変化をリアルタイムでモニタリングするために、1以上のセンサ及び/又は光学的構成要素(例えはデジタルカメラと連動する光学レンズ又は顕微鏡対物レンズなど)を備えることができる。
【0030】
別の実施態様では、インピーダンス測定(impedimetric)センサ又は光センサをドッキングステーション及び/又は操作ユニットに一体化することができる。これは、作動層及び培養膜の撓みをリアルタイムでモニタリングすることを可能にする。さらに、機械的歪みを制御し、それを変更又は維持するため、及び/又は培養膜の機械的特性の変化を測定するために、そのようなセンサを用いてフィードバックループをシステムに一体化することができる。さらに、光センサを使用して、培養ウェル内の酸素、pH、CO濃度及び他の分析物をモニタリングすることができる。
【0031】
さらに別の実施態様では、流体アクセスホールを操作ユニットの底部及びドッキングステーション内の対応する流体チャネルに追加することができる。このようなチャネル及びアクセスホールは、操作ユニット又は培養モジュール内の細胞培養物に化学化合物又は組成物を送達するために使用され得る。非限定的な例では、このようなチャネルは、細胞培養物から上清を排出するために、又はさらなる分析のために上清を収集するために使用され得る。
【0032】
ドッキングステーションは、シーリング膜又はシール層が間に挟まれている2枚の組み立てられたプレートを含み得る。ドッキングステーションは、無菌することができる材料で作られ得る。典型的な材料はPMMA、ポリオキシメチレン(POM)、PC、PS等を含むが、シーリング膜及び上部シーリング膜の材料は、PU、PDMSなどであり得る。圧力制御ユニット内に生成された圧力を分配するために、作動チャネル及び、いくつかの実施態様ではさらなるチャネルがドッキングステーション内に作られる。貫通ホールのアレイを、シーリング膜と上部シーリング膜に形成することができる。それらは、チャネルを通して輸送される空気圧が作動膜を加圧することを可能にする。ドッキングステーションの上部にある上部シーリング膜は、ドッキングステーションと操作ユニットとの間の気密性を確実にし得る。
【0033】
ドッキングステーションの連結構造は、機械的な力によって操作ユニットを維持するように構成することができる。例えば、ばねを使用して、操作ユニットをドッキングステーションにしっかりと連結した状態に維持することができる。他の可能性は、操作ユニットとドッキングステーションとの間に位置するキャビティ内に真空を適用することによって2つの部分間の気密性を維持することである。これらの2つの部分を連結するために、磁力及び/又は電磁力を追加的又は代替的に利用することができる。例えば、永久磁石を操作ユニットに一体化し、永久磁石又は電磁石をドッキングステーションに一体化することができる。
【0034】
有利な実施態様では、ドッキングステーションは、複数の操作ユニットを連結するように構成されている。別の実施態様では、2つのドッキングステーションが、双方のシステムの機能を有する単一の構成に組み合わされる。
【0035】
別の実施態様では、ドッキングステーションは、コントローラを一体化することができる。
【0036】
連結構造を介して、操作ユニットは、ドッキングステーション及びその加圧作動可能な部(its pressurizable actuation)に、いくつかの実施態様ではさらなるチャネルに取り外し可能に又は可逆的に連結することができる。操作ユニットの底部に位置する作動部及び、いくつかの実施態様ではさらなるボアは、作動部及び、いくつかの実施態様では培養モジュールのさらなるウェルを加圧することと、操作ユニットの底部、すなわち操作ユニットの台座の底部の作動膜を作動させることを目的とする。操作ユニットの主な機能のいくつかは、培養モジュール又はその複数を所定の位置及び方向に配置し、作動部、場合によっては培養モジュールのさらなるウェルを加圧し、操作ユニットの底部に位置する作動層又は膜を作動させ、細胞培養基材として機能することである。
【0037】
操作ユニットの好ましいフォーマットは、上記のように標準的なマルチウェルプレートのフォーマットとすることもできるが、他の寸法も可能である。操作ユニットは、ハードポリマー(典型的にはPS、COC、PP、PMMA、PC等)又はソフトポリマー(例えばPU)から作製することができ、射出成形することも、又は標準的なフライス加工及び穿孔技術で3Dプリント若しくは製作することもできる。操作ユニットは、例えばプラズマ活性化によって不可逆的にそれに接合しているか、操作ユニットの上面に接着しているか又は熱的に接合している作動層と連係されている。
【0038】
操作ユニットは、所望の数の同一又は異なる培養モジュールを可逆的に連結することができるように、単一又は複数の台座を備えることができる。機械的な力及び/又は磁力を用いて培養モジュールと操作ユニットを連結することができる。好ましい設計は、2つの培養モジュールを操作ユニットに連結することを可能にする。
【0039】
一実施態様では、微小電極(Pt、Au、Ag、AgCl、C、Ti、Ta)の層を操作ユニットのすぐ上に、又は操作ユニットと作動層との間に一体化することができる。微小電極は、操作ユニットに接合しているフレキシブルプリント回路基板(PCB)上にスクリーンプリント、3Dプリント、積層又は製作することができる。このような微小電極は、細胞培養物中若しくは上清中の変化を検出すること、又は培養膜の機械的性質の変化を検出することを意図している。これらの微小電極は、灌流細胞培地の流量又は操作ユニット若しくは培養モジュール内の細胞培養の変化をモニタリングすることができる。
【0040】
さらなる実施態様では、操作ユニットの台座の底部の一部を変更することによって、オープンマイクロチャネル若しくはマイクロウェル、又は細胞培養のための多孔質足場などの微細構造を操作ユニット内に作成することができる。これは、操作ユニットの台座の底部を部分的にエッチングすることによって行うことができる。
【0041】
作動層は、例えば多層コンストラクトにおいて、弾性及び生体適合性材料、例えばPDMS、PU、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)エラストマー等又はこれらの組み合わせから作製することができる。作動層は、以下を含む複数の目的を果たすことができる:作動部又は他のボアに陽圧が加えられたときにそれぞれのボアの外側に撓むことによって、また、作動部又は他のボアに陰圧が加えられたときにそれぞれのボア内に撓むことによって操作ユニットの底部のボア又はキャビティの上にある場合は、アクチュエータとして働くこと;シーリングとして働き、細胞培養モジュールを可逆的且つしっかりと連結することを可能にすること;及び細胞培養基材として使用されること。
【0042】
作動層は、非多孔質であり得、約1μmから約200μmの典型的な厚さを有し得る。従来法では、それは約100μmの厚さであり得る。このように厚い作動層の跳ね返りは、補助的な圧力を必要とせずに、作動層がその元の非作動位置を迅速に取ることを可能にする。検出される必要がある培養モジュールに比較的小さな変化が生じたとき、比較的薄い作動層を使用することができる。そのような作動層は、一例として、培養モジュールに一体化された多孔質且つ弾性の薄い培養膜の機械的性質の変化をリアルタイムでモニタリングするために使用することができる。膜の撓みは、そのような変容の際に変化し、検出され得る。しかしながらこのためには、作動層に加えられる圧力は通常、機械的性質が変化した膜によって引き起こされる圧力差の変化と同程度の大きさである必要がある。さらに作動層は、細胞培養用の足場材料、例えばヒドロゲル、フィブリン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン又はその他の足場材料、又はそれらの組み合わせを部分的にコーティングすることができる。
【0043】
細胞培養システムでは、複数の作動層を一体化することができ、それらは様々な厚さ及び様々な材料で作製することができる。作動層はまた、レンズ、センサなどの光学的構成を含んでもよい。
【0044】
細胞培養システムの適用において、作動層は、それと培養モジュールの間に蠕動ポンピングを作り出すために使用され得る。それによって、蠕動運動は、作動層を作動ボア及び/又は他の追加のボアの内又は外に撓ませることによって作り出すことができる。
【0045】
好ましくは培養モジュールは入口ウェルと出口ウェルを有し、操作ユニットの底部は入口ボアと出口ボアを有し、ここで培養モジュールが台座内に配置されると、入口ボアは入口ウェルと連係され、出口ボアは出口ウェルと連係され、ドッキングステーションは入口供給チャネルと出口供給チャネルとを有し、ここで操作ユニットが連結構造によって所定の位置で保持され、入口供給チャネルの第1の端部が入口ボアに接続され、出口供給チャネルの第1の端部が出口ボアに接続され、且つ、入口供給チャネルと出口供給チャネルの各々第2の端部がコネクタに接続される。
【0046】
入口及び出口供給チャネル並びに入口及び出口ボアを介して、培養ウェルに関して上記で説明したのと同様に圧力条件を変えることによって、作動層を正又は負に撓ませることができる。それにより、入口ウェル、培養ウェル及び出口ウェルの間の流路を正確に開閉することができる。入口及び出口ボアは、作動層及び培養モジュールの構造と一体となって、バルブとして機能することができる。このように、培養ウェル内で流れを巧みに生じさせることができる。
【0047】
例えば、操作ユニットの入口及び出口ボア内の圧力を適切に調整することによって、培養ウェルを通して一定の流れを生じさせることができる。このように、血流を模倣するために一定の灌流が誘導され得る。
【0048】
好ましくは、細胞培養システムは、ポンプ装置を有する圧力制御ユニットと、ポンプ装置に接続された少なくとも1つのポートと、ポンプ装置を制御するためのプロセッサ(CPU)とを備え、少なくとも1つのポートの各々において、個別に圧力を調整可能である。そのような圧力制御ユニットによって、作動チャネル内並びに入り口チャネル及び入口チャネル内の圧力も正確に調整することができる。また、そのような制御ユニットは、自動的に適用される可変圧力プロファイルを実施することを可能にし得る。その目的のために、プロセッサは、模倣されるべき条件に適合するようにプログラム可能であり得る。
【0049】
圧力制御ユニットは、有利には、使用可能にすべきコネクタの数に対応するいくつかの個別に調整可能なポートを有する。また、単一の圧力制御装置を複数のドッキングステーションと連係させることができる。
【0050】
さらに、細胞培養システムは、複数のチューブを好ましくは備え、各チューブは制御ユニットのポートの1つをドッキングステーションのコネクタの1つに接続する。
【0051】
圧力制御ユニット又はコントローラは、一体化されているCPUでコンピュータ制御される電空システムであり得る。ポンプ装置は、コントローラに一体化された1つ又は複数のポンプを有し得る。それは、一定、周期的又は傾斜プロファイルのいずれかを用いて、陽圧及び陰圧を生じさせることができる。そのようなプロファイルは、プロセッサ内でプログラムされ、プロセッサによって制御され得る。制御ユニットは、圧力センサをさらに含むことができる。圧力センサによって制御される圧力は、少なくとも1のポートからドッキングステーションの少なくとも1のコネクタに、例えばチューブ又は管を介して伝達され、CPUによって記録され得る。コントローラによって生成された圧力は通常、組織を異なる機械的刺激に曝すための一定、周期的又は傾斜圧力プロファイルを作成するために使用され得る。いくつかの実施態様では、それは、培養膜の基底外側又は基底面で培地の交換又はサンプリングを可能にするバルブを開くためにさらに使用され得る。
【0052】
一実施態様では、制御ユニット又はコントローラは、肺の生理的呼吸運動を模倣する周期的プロファイルを提供する。典型的には、そのような運動は5%から12%の間の線形機械的歪みを含む。それはまた、何人かの患者が換気中に曝されるのと同様の、肺傷害を誘発する可能性がある病態生理学的な周期的且つ機械的歪みレベルを提供することが可能である。そのような運動は、15%超、多くの場合20-30%の間の線形歪みを伴い得る。
【0053】
有利には、制御ユニットは、ドッキングステーションに一体化されたか又は細胞培養モジュールに一体化されたセンサから得られる電気及び/又は光信号を記録及び分析するための追加の電子回路を備える。一例として、電極は、培養膜上で培養された組織又は細胞培養層の経上皮電気抵抗(TEER)をモニタリングするために、ドッキングステーション内、作動層内及び/又は培養モジュール内に一体化されてもよい。光センサをドッキングステーション及び/又は操作ユニットに一体化して、作動膜及び/又は培養膜.の撓みをモニタリングすることができる。さらに、光センサを配置することができるドッキングステーションと操作ユニット及び/又は培養モジュールとの間の相乗効果を得ることもできる。膜のうちの1つの撓みの変化(例えば、培養膜中の生物学的事象に続くもの)は、作動層及び培養膜の一方又は双方の機械的性質の潜在的な変化を示し得る。フィードバックループを作成して、層又は膜内の機械的歪みレベルの減少又は増加を埋め合わせるか又は記録することができる。
【0054】
細胞培養モジュールは好ましくは、培養モジュールの上部に配置されたキャップを有し、このキャップは培養モジュール及び操作ユニットを介してドッキングステーションに、さらに入口ウェルに接続されたチャネルを含む。このようなキャップは、システムの灌流を提供することを可能にし得る。
【0055】
したがって、細胞培養モジュールのキャップは好ましくは、培養モジュール及び操作ユニットを介してドッキングステーション、さらに出口ウェルに接続された第2のチャネルを有する。このように、灌流は、入口と出口によって制御することができる。これは、灌流が膜を撓ませないように可撓性膜を使用するときに重要になり得る。
【0056】
したがって、細胞培養モジュールは好ましくは、培養ウェルの上に配置された作動膜を含む。これにより、細胞への圧迫又は過剰圧力を生じさせることが可能になる。
【0057】
細胞培養モジュールは好ましくは、操作ユニットと培養モジュールの間に位置するチャネルで互いに接続されている、第1の細胞型を含む第1の培養ウェルと第2の細胞型を含む第2の培養ウェルとを有する。このように、二臓器システム(two-organs system)を効率的に提供することができる。
【0058】
好ましくは、追加の培養ウェルが相互接続される。このように、多臓器システムを効率的に提供又は確立することができる。
【0059】
細胞培養システムは好ましくは、培養膜の頂端面又は培養膜の基底面で2つの培養ウェルを接続するチャネルを含む。言い換えれば、2つの培養ウェルを2つの培養ウェルの頂端面の間に位置するチャネルと接続することができ、又は2つの培養ウェルを2つの培養ウェルの基底面の間に位置するチャネルと接続することができる。このように、in vivo状態の模倣を改善することを可能にする、二つの部分間の特定の接続を設けることができる。
【0060】
好ましくは、細胞培養システムは、バルブを有するチャネルを備え、該チャネルは、出口ウェルと入口ウェルとを接続する。例えば、細胞培養モジュールのキャップは、出口と入口を接続するチャネルと、戻り防止バルブと、出口及び入口に突入する2つのチューブとを含む。例えば再循環流れは、バルブが該流れの正確な調整を可能にするチャネルによって生じ得る。そのような構成は、in vivo状態の模倣をさらに改善することを可能にする。
【0061】
好ましくは、細胞培養システムは、ドッキングステーションと同一又は類似のさらなるドッキングステーション、細胞培養フード及びインキュベーションフード(incubation hood)を備え、ドッキングステーションは該培養フード内に配置され、さらなるドッキングステーションはインキュベーションフード内に配置される。
【0062】
すなわち、細胞培養フードは、無菌であるように適合させた内部を有する培養ハウジングを好ましくは含む。また、インキュベーションフードは好ましくは、インキュベーションハウジングと、ハウジングの内部の状態を調整するように適合させたコンディショニング構造とを有する。
【0063】
2つのフードを有する細胞培養システムを提供することは、ドッキングステーション又はその複数を細胞培養フード内に配置し、さらなるドッキングステーション又はその複数をインキュベーションフード内に配置することを可能にする。後者は通常、37℃、約5%CO含有雰囲気で加湿する。それはまた、低酸素チャンバにも高酸素チャンバにも設置できる。このような第1及び第2のドッキングステーションの主な機能は同じであり、これらのドッキングステーションは、それらの使用を容易にし、細胞培地を交換するのに流体管、すなわちチューブを切断及び再接続する必要性を回避するために、全く同じ(duplicated)である。
【0064】
好ましくは、例えば細胞培養モジュールが操作ユニットの台座に配置されているとき、操作ユニットの底部の作動ボアは、作動層に近位又は隣接のキャビティ部を有する。このようなキャビティ部は、作動膜の最大撓みを事前に定義することを可能にする。
【0065】
同じ目的のために、例えば細胞培養モジュールが操作ユニットの台座内に配置されているとき、操作ユニットの底部の入口ボア及び操作ユニットの底部の出口ボアの各々は、作動層に近位のキャビティ部を好ましくは有する。
【0066】
操作ユニットは、好ましくは、操作ユニットの台座に配置された培養モジュールを覆うための蓋を備える。このような蓋は、モジュールを無菌状態で保つことを可能にする。蓋又は覆蓋(coverlid)は、操作ユニットを閉じて、操作ユニット内の環境を無菌に保つことができる。
【0067】
好ましくは、操作ユニットは、液体リザーバーを備える。このような液体若しくはウォーターリザーバー又はそれらの複数は、システム内の細胞培養液の蒸発を回避又は制限することができる。該リザーバーは、数ミリリットルの溶液、好ましくは無菌水又はPBSを収容することができる。
【0068】
好ましくは、細胞培養システムは、操作ユニット又はドッキングステーションに取付られ、且つ、操作ユニットが所定の位置でドッキングステーションの連結構造によって保持されると、ステーションシーリング層が操作ユニットとドッキングステーションの間に配置されるように貫通ホールを備えるステーションシーリング層を含み、ここで作動供給チャネルの第1の端部はシーリング層の貫通ホールを介して作動ボアに接続される。例えばステーションシーリング層又は膜は、ドッキングステーションと操作ユニットの間のしっかりとしたシーリングを保証するために、操作ユニットの底面又はドッキングステーションの上面に不可逆的に接合され得る。
【0069】
また好ましくは、ステーションシーリング層はさらなる貫通ホールを有し、入口供給チャネル及び出口供給チャネルの第1の端部は、シーリング層のさらなる貫通ホールを介して入口ボア及び出口ボアに接続される。
【0070】
好ましくは、培養モジュールは上側プレート及び下側プレートを有し、培養膜は上側プレートと下側プレートの間に配置される。
【0071】
培養モジュール及び特にそのプレートは、典型的にはPS、COC、PMMA、PC、PP等のハードポリマーから作製することができるが、ポリウレタンなどのソフトポリマーからも作製することができる。有利には、それは、射出成形又は反応射出成形することもできるが、標準的なフライス加工及び穿孔技術で3Dプリント又は製作することができる。培養膜は、例えばプラズマ酸素(plasma oxygen)によって下側プレートに接合させることができるが、上側プレートに接合させることもできる。例えば接着剤層、接着剤、熱接合又はプラズマ接合、又はクリップ若しくはリベットなどの機械的構成要素を用いて、培養膜を間に挟んで上下のプレートを可逆的又は不可逆的に接合することができる。細胞培養モジュールの蓋を、任意選択的に培養モジュールの上部に配置して、特定のウェルを加圧することができる。この蓋のデザインは、特定の目的に合うように異なっていてもよい。例えばそれは、例えばウェル内の細胞、細胞培地若しくは薬物の送達iを可能にする開口部又は組織を圧縮することを目的としたシステムなどの三次元構造を含み得る。細胞培養モジュールの蓋は、PS、PP、PC、PMMA等の射出成形ポリマー、又はポリウレタンなどのソフトポリマーから、射出成形又は反応射出成形によって、又は標準的なフライス加工若しくは穿孔によって製作される3Dプリントによって作製することができる。それは、機械的な力、磁力又は接着力によって、培養モジュールの上部に位置することができる。機械的クリップ又は永久磁石は、2つの部分をしっかりと維持して、入口ウェル及び/又は出口ウェル内の空気圧の損失を回避する。細胞モジュールとその蓋との間の気密性を保証するシーリング膜を2つの部分の間に挟むことができる。それは、細胞培養モジュールの蓋又は培養モジュールの上部に可逆的に又は不可逆的に接合することができる。
【0072】
ある実施態様では、細胞培養モジュールの蓋は、マイクロチャネルを用いて構造化することができ、且つ、バルブを一体化することができる。このために、ドッキングステーションに接続されたアクセスホールを介して加圧することができる可撓性膜によって覆われたキャビティを蓋内に構造化することができる。別の実施態様では、この蓋は、ウェル内の溶液又は細胞のサンプリング及び/又は送達が穿孔可能な膜を通して(though)可能である間、入口及び/又は出口ウェルを加圧状態に維持する穿孔可能膜で置き換えることができる。これは、膜を貫通することに抵抗するピペット又は針を使用することによって行うことができる。
【0073】
一実施態様では、培養モジュールは、細胞培養用途のための6つの独立したマイクロ流体システムのアレイを含む。6つのマイクロ流体システムは、それぞれ9mm間隔で、各ウェルが9mmの等間隔の3列のウェルをそれぞれ含み得る。この3列のウェルは、特に、入口ウェル、培養ウェル及び出口ウェルを含み得る。上述の間隔は、96ウェルプレートについてSociety for Laboratory Automation and Screening(SLAS)によって制定された規格に対応しており、且つ、マルチピペッター又はピペッティングロボットにおける2つのピペット間の距離にも対応している。培養モジュールが操作ユニットに連結されると、これらの2つの部分の間の接触面に複数のマイクロ流体チャネル及びマイクロウェルが形成され得る。細胞培地のためのリザーバーとして働く入口ウェルは、作動層の撓み及び培養モジュールの構造によって形成されるバルブを介して基底培養チャンバに通じるマイクロチャネルに接続することができる。第2のマイクロチャネルは、第1のバルブと同様の第2のバルブを介して、基底培養チャンバと出口ウェルとを接続する。第2のバルブは通常、並列で作動し、ノーマルクローズ(NC)又はノーマルオープン(NO)のいずれかである。標準的な構成、すなわちバルブが閉じている場合では、培養ウェル、特にその基底チャンバは閉じた区画であり得る。基底培養チャンバ内に配置され、作動層及びその下のキャビティでできている第3のバルブは、基底培養チャンバ内部の圧力を変更するときに役立ち得る。それは、陽圧で加圧されているか陰圧で加圧されているかによって、2つの方向に撓み得る。
【0074】
基底培養チャンバ内の細胞培地を交換するためには、基底培養(culturing)の入口及び出口に配置された上述の2つのバルブが有利には開かれている。さらに、基底培養チャンバ内の溶液を灌流するために、2つのバルブは開いたままにすることができる。
【0075】
培養モジュールの上に、細胞培養モジュールの蓋を可逆的に接合して、入口及び/又は出口ウェルを閉じることができる。培養モジュールの上部又はその蓋に形成された小さなチャネルは、アクセスホールを介して入口及び/又は出口ウェルをドッキングステーションの加圧システムに接続することができる。これにより、入口ウェル内の溶液を加圧することが可能になり、それによって基底培養チャンバ内に流れが生じ得る。
【0076】
一実施態様では、バイパスチャネルが出口ウェルと入口ウェルとを接続する。この設定により、再循環流路を形成することが可能になる。様々な時間間隔で、出口ウェル内の細胞培地は、基底チャンバの各側のバルブを閉じ、バイパスチャネルのバルブを開き、且つ、出口ウェルを陽圧で加圧することにより入口ウェルに輸送される。典型的には、バイパスチャネルは、操作ユニットと培養モジュールとの間に形成される。
【0077】
さらなる実施態様では、バイパスチャネルは、培養モジュールの蓋に形成される。チャネルの両端の、蓋と一体化された小さな管又は針が、入口ウェル及び出口ウェルに突入する。好ましい設定では、出口の管/針は出口ウェルの底面まで突き出るが、入口ウェルからの管/針はそれよりかなり短い。
【0078】
細胞培養システムは好ましくは、培養モジュールの上側プレートと下側プレートとの間に配置され、貫通ホールを備えるモジュールシーリング層を備え、その結果、入口ウェル、出口ウェル及び培養ウェルがその貫通ホールを通ってモジュールシーリング層まで延在する。
【0079】
上側プレートと下側プレートは、例えば、使用後にわずかな過圧で破損し得るリベットを使用することによって、可逆的に接合さることができる。接着剤層もまた、2つの部分を可逆的に接合するために使用され得る。これは、例えば油対物レンズを使用して、培養膜上で培養された組織又は細胞を近接して高倍率で観察することを可能にする。
【0080】
一実施態様では、2つの隣接する培養チャンバは、互いに接続されて、それらのチャンバの組織間伝達を可能にする。培養膜の下又は上に、又はその組み合わせで、培養モジュール内にチャネルを形成することができる。チャネルは、例えばフィブリン、フィブリノゲン、コラーゲン等のゲルで充填することができ、その場合、アクセスポートは培養モジュールの上部からゲルを導入するために必要とされる。ゲルは、表面張力によってチャンネル内に維持される。チャネルは、ポリスルホン、ポリウレタンなどの多孔質材料で充填することもできる。
【0081】
一実施態様では、操作ユニットと培養モジュールの間に形成されたバルブは、隣接する培養チャンバからの組織間伝達を止めるため、又は基底チャンバ内の流れを調節するために、2つの基底チャンバの間に配置される。基底チャンバ内の流量を制限するために、追加のチャネルにより基底チャンバをバイパスすることも想定される。
【0082】
本開示の別の態様は、培養膜上で細胞を培養する方法(培養法).に関する。この方法は、上記のような細胞培養システムを得る以下の工程:培養モジュールの培養ウェル内の培養膜上に細胞を播種する工程;培養モジュールの培養膜上で細胞をインキュベートする工程;培養モジュールを操作ユニットの台座内に配置する工程;細胞培地を培養モジュールの培養ウェルに塗布する工程;操作ユニットをドッキングステーションに連結する工程;及びドッキングステーションの作動供給チャネル内の圧力を調整する工程を含む。
【0083】
本発明による本方法は、上述の細胞培養システムを効率的に使用することを可能にし、それによってシステム及びその好ましい実施態様に関連して上述の効果及び利益を実現する。
【0084】
作動供給チャネル内の圧力を調整することによって、操作ユニットの底部の作動ボア内の圧力が適切に調整される。このように、作動膜に過大又は不足の圧力が加えられ、それによって作動膜が正又は負に撓む。これにより、培養膜がそれに応じて撓むことになる。
【0085】
圧力を調整するために、コネクタを上述の圧力制御ユニットのポートに、例えばチューブを介して、接続することができる。
【0086】
本方法の一実施態様では、培養モジュールの入口及び/又は出口ウェルは、例えばアクセスホールを介してドッキングステーションの加圧システムによって、加圧される。これにより、入口ウェル内の溶液を加圧することが可能になり、それによって培養モジュールの基底の培養チャンバ内に流れが生じ得る。
【0087】
本方法の別の実施態様では、培養モジュールは弾性の培養膜を備えており、入口ウェル内の陽圧は出口ウェル内の陰圧と同等である。これにより、流動中の培養膜の撓みを回避することが可能になる。この構成では、培養膜上で培養された細胞は、三次元的且つ周期的に圧力を加えられ、灌流され、すなわちせん断応力及び繰返応力に曝される。したがって、本方法又は培養モジュールは、呼吸運動によって誘発される機械的ストレス、血流によって生じるせん断応力、及び胃腸、皮膚又は他の器官に作用する他の機械的ストレスを再現することを可能にし得る。それはまた、特定の組織又は組織群に対する化学化合物又は組成物の薬物動態学的及び薬力学的挙動を研究することを可能にする。
【0088】
好ましくは、本方法は、培養ウェルに向かって入口ウェルを開閉するために入口供給チャネル内の圧力を、また、培養ウェルに向かって出口ウェルを開閉するために出口供給チャネル内の圧力を調整する工程を含む。圧力を調整するために、さらなるコネクタを上述の圧力制御ユニットのポートに、例えばチューブを介して、接続することができる。
【0089】
好ましくは、操作ユニットが細胞培養フード内に配置されたドッキングステーションと連結されると、細胞が培養膜上に播種され、操作ユニットがインキュベーションフード内に配置されたさらなるドッキングステーションに連結されると、細胞は培養膜上で培養される。
【0090】
操作ユニットは、好ましくは、さらなるドッキングステーションに連結する前に蓋によって覆われる。
【0091】
好ましくは、培養モジュールの培養ウェル内の培養膜上の細胞を播種し、インキュべートすることは、培養モジュールの培養ウェル内の培養膜の第1の面上に細胞を播種しインキュベートすることと、培養モジュールを反転させて培養モジュールの培養ウェル内の培養膜の第2の面上に細胞を播種しインキュベートすることとを含む。
【0092】
一実施態様では、本方法は、肺胞の手術を模倣するように細胞培養システムを構成することを含む。肺内皮細胞は、培養膜の基底外側面で培養することができ、肺皮細胞は培養膜の頂端面で培養することができる。肺胞バリア、すなわち培養膜は、生理学的又は病態生理学的レベルで周期的に圧力を受けることがある。さらに現実的には、基底膜に見られる成分、例えばコラーゲン、エラスチンなどでできている培養膜は、肺胞の大きさと同様の寸法(典型的には200μm-300μm)の孔/ホールを有する超薄メッシュを使用することによって製造される。そのような培養膜を作製するために、例えばエラスチン及びコラーゲンの溶液をピぺットでメッシュ上に移すと、溶液はそこで表面張力により均一な薄層に広がる。通常、膜は使用前に乾燥させる。使用前に、それを再び水和させ、細胞を膜上で培養する。基底膜に見られる成分のエレクトロスピニングもまた、培養膜を作製するために用いることができる。作動層によって生成された低圧の存在下で、アレイからの肺胞は三次元で撓む。所与及び既知の陽圧又は陰圧の関数での培養膜の撓みを、時間の関数でモニタリングすることができる。培養膜の頂端若しくは基底面のいずれか又は双方の細胞層の変化は、撓みの変化によって、又は例えばFRETプローブを用いて光学的に検出することができる。
【0093】
培養膜剛性、弾性反跳時の培養膜の過渡応答、培養膜の厚さ又はこれらの組み合わせの変化は、インピーダンス測定又は光センサなどのセンサによって検出することができる。これらの変化は、例えば細胞増殖又は細胞死、創傷(wound injury)、細胞層コンフルエンシー(cell layer confluency)、細胞外マトリックス産生(典型的にはコラーゲンだがこれに限定されない)の後で起こり、それ自体が化学化合物又は組成物曝露により誘発される組織の変容から生じ得る。
【0094】
それによって、これらのパラメータのうちの1つ又はいくつかの変化は、例えば肺線維症、COPD又は肺気腫を患っている患者において、例えば肺活量測定によって得られる臨床パラメータにおいて観察される肺機能の変化と相関し得る。このような相関関係は、細胞又は組織をモジュール式細胞培養システムで試験することができる患者に対する化合物又は組成物の効果を最終的に予測することを可能にするため、非常に重要である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
本発明による細胞培養システム及び本発明による方法は、添付の図面を参照しながら、例示的な実施態様により、本明細書において以下でより詳細に説明される。
図1】標準的な実験室環境における臓器の組織のin vivoモデリングを目的とした、本発明による細胞培養システムの第1の実施態様の全体斜視図である。
図2図1の細胞培養システムの制御ユニット、ドッキングステーション、操作ユニット及び培養モジュールの斜視図である。
図3図1の細胞培養システムのドッキングステーション、操作ユニット及び培養モジュールの斜視図である。
図4図1の細胞培養システムの培養モジュールのうちの1つの、分解状態の斜視図である。
図5図1の細胞培養システムの培養モジュールのうちの1つの、分解立体斜視図である。
図6】1つの独立したマイクロ流体システムを示す、操作ユニットに可逆的に連結された図1の細胞培養システムの培養モジュールの断面図である。
図7】ドッキングステーションに可逆的に連結された図1の細胞培養システムの操作ユニットの斜視図である。
図8図1の細胞培養システムの操作ユニット及びドッキングステーションの分解斜視図である。
図9図1の細胞培養システムの操作ユニット及び2つの作動層の斜視図である。
図10】本発明による細胞培養システムの第2の実施態様の、2つの培養モジュールをそれぞれ有する2つの操作ユニットを備えたドッキングステーションの概略図である。
図11】本発明による細胞培養システムの第3の実施態様の、操作ユニットに連結された灌流培養モジュールの断面図であり、培養モジュール上に穿孔可能膜が接合されている。
図12】本発明による細胞培養システムの第4の実施態様の、操作ユニットに連結された灌流培養モジュールの断面図であり、培養モジュール上に穿孔可能膜が接合されている。
図13】肝臓様組織に接続された肺様組織を示す、本発明による細胞培養システムの第5の実施態様の多臓器システムの断面図である。
図14】覆蓋から加圧された膜によって組織が圧縮されている、本発明による細胞培養システムの第6の実施態様の断面図である。
図15】ドッキングステーションにセンサを一体化した、本発明による細胞培養システムの第7の実施態様の培養モジュールの一部の断面図である。
図16】操作ユニットにセンサを一体化した、本発明による細胞培養システムの第8の実施態様の培養モジュールの一部の断面図である。
図17】出口ウェルと入口ウェルとの間に再循環流れを有する細胞培養システムの原理を示す図である。
図18】細胞培地を出口から入口に輸送するために入口及び出口に突入する2つの管又は針を有する培養モジュールに気密に取り付けられたキャップを有する細胞培養システムを示す。
図19】培養膜を支持するために使用することができる種々のメッシュを示す。
【発明を実施するための形態】
【0096】
以下の説明では、便宜上特定の用語を使用しているのであって、本発明を限定することを意図していない。用語「右」、「左」、「上」(「up」)、「下」(「down」)、「真下」(又は「下方」)(「under」)及び「上」(又は「上方」)(「above」)は、図中の方向を指す。用語は、明示的に言及された用語の他に、それらの派生語及び類似の意味を有する用語も包含する。また、「下」(「beneath」)、「下方」(「below」)、「下部」(又は「下側」)(「lower」)、「上方」(「above」)、「上部」(又は「上側」)(「upper)」、「近位」、「遠位」等の空間的に相対的な用語を使用して、図示されているような、1つの要素又は特徴の別の要素又は特徴に対する関係を説明することができる。これらの空間的に相対的な用語は、図に示されている位置及び方向に加えて、使用又は動作中の装置の異なる位置及び方向を包含することを意図している。例えば、他の要素又は特徴の「下」又は「下方」と説明されている要素は、図中の装置が反転されたら、他の要素又は特徴の「上」又は「上方」になるであろう。したがって、例示的な用語「下」は、上下の位置及び方向の双方を包含し得る。装置は別の方向を向いていてもよく(90度回転、又は他の方向を向いている)、本明細書で使用される空間的に相対的な記述語は、適宜解釈され得る。同様に、様々な軸に沿った動き及び軸の周りの動きの説明は、様々な特別の装置位置及び方向を含む。
【0097】
様々な態様及び例示的な実施態様の図面及び説明の繰り返しを避けるために、多くの特徴は多くの態様及び実施態様に共通していることを理解されたい。図面又は説明から態様を省略することは、その態様が、それが組み込まれる実施態様から欠落していることを意味するものではない。それどころか、その態様は明瞭さゆえに、及び冗長な説明を避けるために省略されているかもしれない。これに関連して、以降の本明細書には以下が適用される。図は、図面をわかりやすくするために明細書の直接関連する部分で説明されていない参照符号を含んでいる場合、明細書の前後の部分が参照される。さらに、明瞭さのために、図面において部品の全ての特徴に参照符号が与えられていない場合、同じ部品を示す他の図面が参照される。2つ以上の図中の同様の番号は、同じか類似の要素を表す。
【0098】
図1は、本発明による細胞培養システムの第1の実施態様である、in vitro細胞培養システム100の概観を示す。細胞培養システム100は、臓器の組織をモデル化することを目的としている。それは、制御ユニットとして、第1のコントローラ106と第2のコントローラ107とを備える。第1のコントローラ106は、細胞培養フード110によって形成された無菌環境内に配置されている。第2のコントローラ107は、インキュベーションフード109であるバイオリアクタの隣に配置されている。コントローラは、チューブである流体管108を介して第1のドッキングステーション104及び第2のドッキングステーション105に接続されたポートを有する。必要に応じて、管108は、電線、光ファイバ又はこれらの組み合わせを含むこともできる。
【0099】
臓器の組織に関連して、細胞培養システム100は、操作ユニット102、覆蓋103及び複数の培養モジュール101からなる消耗部品を有する。消耗部品は、無菌環境(すなわち細胞培養フード110)とバイオリアクタ(すなわちインキュベーションフード109)との間で自由に動かすことができる。細胞培養システム100は、細胞培養フード110に設置された第1のドッキングステーション104と、インキュベーションフード109に設置された第2のドッキングステーション105とを備える。各フード108、109において、組み立てられた消耗品部品は、ドッキングステーション104/105のうちの一方に接続され、管108を介して第1及び第2のコントローラ106、107に接続される。消耗部品は、ドッキングステーション104の上方に配置され、以下に示すようにロック機構によって固定される。これにより、標準的なin vitroシステムと同様に、例えば細胞培養フード110内で細胞播種、培地交換など、及びインキュベーションフード109内側での細胞培養といった細胞操作を行うことが可能になる。インキュベーションフード109においては、細胞を機械的に刺激することができる。
【0100】
図2は、第1及び第2のドッキングステーション104/105の構成を第1及び第2のコントローラ106/107と共により詳細に示す。第1のコントローラ106は、3つのポート1061、電空ポンプ装置、及びポンプ装置を制御するためのプロセッサを備える。ポンプ装置及びプロセッサは、第1のコントローラ106の内部に収容されており、そのため図2では見えない。コントローラは、ポンピング装置を制御するように構成されており、ポート1061の各々において圧力が個々に調整可能である。第2のコントローラ107は、第1のコントローラ106と同様に具現化されており、同じく3つのポート1071、ポンピング装置及びプロセッサを備える。第1及び第2のコントローラ106/107は、管108を介してそれぞれ第1及び第2のドッキングステーション104/105に接続されている。
【0101】
コントローラ106、107は、ストレッチング、培地交換、灌流等の特定の動作を接続部108、ドッキングステーション104及び蓋である覆蓋103を介して定義及び制御するために使用される。
【0102】
図3でわかるように、操作ユニット102は、第1及び第2のドッキングステーション104/105に解除可能に連結され得る。操作ユニット102は、2つの培養モジュール101を解除可能に収容するように具現化されている。
【0103】
ドッキングステーション104/105は、コントローラ106/107及び接続部208から操作ユニット103へ作動を伝えるために使用される。さらに操作ユニット103が培養モジュール101へ作動を伝え、そこで最終動作が行われる。結果として、培養モジュール101内部の動作は、消耗部品がドッキングステーション104/105にロックされた後にのみ行われる。培養モジュール101、操作ユニット102及び覆蓋103は、図3に示すように可逆的に組み立て及び再組み立てすることができる。これは、操作ユニット102はドッキングステーション104に対して、培養モジュール101は操作ユニット102に対して、及び蓋103は操作ユニット102に対して脱着可能であることを意味する。
【0104】
図4は、培養モジュール101のいくつかの部品を示す。左側には、底を下にした向きと底を上にした向きの上側プレート118を示す。上側プレート118は、本質的に長方形の底部形状を有し、上側プレート118の中央に真っ直ぐ一例に配置された、ひと続きの6つの頂端培養チャンバ122を備える。頂端培養チャンバ122と平行に、ひと続きの6つの入口ウェル125及びひと続きの6つの出口ウェル126が配置されている。頂端培養チャンバ122の各々は、入口ウェル125のうちの1つと出口ウェル126の内の1つとの間に配置されている。
【0105】
図4の右側には、底を下にした向きと底を上にした向きの下側プレート119を示す。下側プレート119もまた、上側プレート118の底部形状に対応する、本質的に長方形の底部形状を有する。それは、上側プレート118の頂端培養チャンバ122と同じように配置されている、ひと続きの6つの基底培養チャンバ123を備えている。基底培養チャンバ123、入口ウェル125及び出口ウェル126の各々に隣接して、下側プレート119には貫通ホール138が設けられている。
【0106】
上側プレート118及び下側プレート119は、例えばPS、PP、COC、PMMA等の硬質プラスチック材料でできている。それらはまた、ポリウレタンなどのソフトポリマーから製造することもできる。
【0107】
培養モジュール101を分解斜視図である図5でわかるように、培養モジュール101は、上側プレート118と下側プレート119との間に培養膜112及びモジュールシーリング層121を備える。さらにそれは、下側プレート119の下に配置されたさらなるモジュールシーリング層121を有する。
【0108】
図6は、培養モジュール101が組み立てられて操作ユニット102に連結された場合の断面図である。培養膜112及びモジュールシーリング層121のうちの一方が、上側プレート118と下側プレート119の間に挟まれている。したがって培養膜112は、培養モジュール101の培養ウェルを頂端培養チャンバ122と基底培養チャンバ123とに分けている。下側プレート119と操作ユニット102との間には、もう一つのモジュールシーリング層121と作動層120が挟まれている。操作ユニット102は、操作ユニット102を通って垂直方向に延びる36個のボア114を備える、ボア114は、真っ直ぐ一例の12個の作動ボア1141、真っ直ぐ一例の12個の入口ボア1142及び真っ直ぐ一例の12個の出口ボア1143にグループ分けされている。作動ボア1141の各々は基底培養チャンバ123のうちの1つと、入口ボア1142の各々は入口ウェル125のうちの1つと、及び出口ボア1143の各々は出口ウェル126のうちの1つと連係しており、且つ、隣接している。それらの頂端部に向かって、ボア114は、空洞部としてキャビティ115を有する。
【0109】
入口ウェル125及び出口ウェル126の各々は、マイクロ流体チャネル124によって、その近位の基底培養チャンバ123に接続されている。各マイクロ流体チャネル124の下には、入口ボア1142及び出口ボア1143のキャビティ115のうちの1つが配置されている。これらのキャビティ115は、作動層120と共に、ノーマルクローズ(NC)バルブを形成する。バルブ及びそれぞれのマイクロ流体チャネル124を開くには、作動層120がキャビティ115内に撓むように、それぞれのキャビティ115内に負圧が生成される。このように、マイクロ流体チャネル124は、圧力を調整する第1又は第2のコントローラ106/107のうちの一方によって個別に開閉され得る。
【0110】
細胞培養システム100の使用において、細胞は最初に細胞培養フード110内の培養モジュール101に播種される。細胞が培養膜112の両側で培養される場合、培養モジュール101は、培養膜112の基底外側面を上に向けて180°反転される。細胞は、培養膜112上に播種され、接着するまでインキュベートされる。培養モジュール101は、培養膜112の基底外側面が操作ユニット102の方に向くように180°反転される。その後、培養モジュール101は、操作ユニット102に可逆的に連結される。続いて、基底培養チャンバ123を細胞培地で満たす。これは、操作ユニット102を細胞培養フード110内のドッキングステーション第1のドッキングステーション104に可逆的に連結することによって行われる。その後、細胞を培養膜112の頂端面に播種することができる。その後、操作ユニット102は、インキュベータ109内に位置する第2のドッキングステーション105に可逆的に連結される。
【0111】
通常24時間又は48時間後に細胞培地を交換するために、操作ユニット102を細胞培養フード110内の第1のドッキングステーション104に移動させる。細胞培地は、例えば標準的なウェルプレート内の培養膜112の頂端面で交換される。基底培養チャンバ123内の細胞培地を交換するために、入口ウェル125を培地で満たし、出口ウェル126を空にする。基底培養チャンバ123の入口及び出口に位置する2つのバルブは開いており、培地は静浮力及び表面張力の作用によって交換される。出口ウェル126に集められた培地は、ピペットで取って、分析することができる。
【0112】
この操作が達成されると、操作ユニット102内の環境を無菌に維持するために、操作ユニット102の上に覆蓋103が置かれる。その後、培養モジュール101と覆蓋103とを含む操作ユニット102は、インキュベータ109に移され、そこで別個の第2のドッキングステーション105に可逆的に連結される。その後、細胞を灌流条件下で様々な流量で、機械的圧縮若しくは張力下で、又はこれらの組み合わせで培養することができる。第2のドッキングステーション105に接続された電空の第2のコントローラ107は、灌流若しくは機械的ストレス又はこれらの組み合わせのいずれかを引き起こすのに必要な圧力を生成する。特定の期間(典型的には24時間又は48時間)培養モジュール101を細胞培養フード110に移し、細胞培地を交換するか、又は組織を化学化合物若しくは組成物に曝すか、又は分析のために細胞培地をサンプリングするか、又は培養モジュール101内で培養された組織を試験する。
【0113】
図7は、細胞培養システム100の第1及び第2のドッキングステーション104/105と操作ユニット102の斜視図である。第1の及び第2のドッキングステーション104/105は、上板140及び底板141によって同様に具現化されている。底板141はその縁に、管108を介して第1及び第2のコントローラ106/107の一方に接続されるための複数のコネクタ149を備える。上板140はその上面に、操作ユニット102をしっかりと保持することを可能にする.連結構造146を備えている。
【0114】
図8では、第1及び第2のドッキングステーション104/105が分解図で示されている。これにより、それらが入口供給チャネル、出口供給チャネル及び作動供給チャネルを含む供給チャネルのネットワークを備えていることが分かる。これらの各チャネルは、底板141に設けられた水平部145と、底板141を覆う下側のステーションシーリング層142まで延在する垂直部144と、上板140と、上板140の上面に接合された上部ステーションシーリング層143とを含む。各入口供給チャネル又はその垂直部144は、操作ユニット102の入口ボア1142のうちの1つの下方で、各作動供給チャネルは作動ボア1141のうちの1つの下方で、各出口供給チャネルは、出口ボア1143のうちの1つにおいて終わる。供給チャネルの水平部145は、コネクタ149のうちの1つにおいて終わる。
【0115】
図9は、細胞培養システム100の操作ユニット102をより詳細に示す。それは、互いから分離されている2つの台座147を備え、各台座に培養モジュール101を1つ収容することができる。操作ユニット102は、その横方向及び縦方向の側面にウォーターリザーバー116を備えている。操作ユニット102は、その長手方向側面に培養モジュール101を固定又は保持するためのクリップ113を有する。台座147の底面には、上でより詳細に説明したように、キャビティ115が形成されている。台座147の各々においては、作動層120が台座147の底面に置かれるか接合されるか又は取り付けられている。作動層120は、台座147内に配置されると、キャビティ115を覆う。
【0116】
図10には、本発明による細胞培養システム200の第2の実施態様が示されている。細胞培養システム200は、以下に明示的に述べられていることを除いて、上記の細胞培養システム100と同様に具現化されている。第1のドッキングステーション204及び第2のドッキングステーション205は、それぞれ第1のコントローラ206及び第2のコントローラ207に接続されている。第1又は第2のコントローラ206/207は、3つのポート2061/2071を備える。ドッキングステーション205/206には、2つの操作ユニット202を保持するのに適した連結構造が設けられており、各操作ユニット202は、培養モジュール201を収容するための2つの台座によって具現化されている。したがって、ドッキングステーション204/205は、4つの培養モジュール201の受け入れを許す。
【0117】
図11は、本発明による細胞培養システム900の第3の実施態様の培養モジュール901を組み立てて、操作ユニット902に連結したときの断面図である。培養膜912は、培養モジュール901の上側プレート918と下側プレート919の間に挟まれている。したがって培養膜912は、細胞培養ウェルを頂端培養チャンバ922と基底培養チャンバ923とに分けている。下側プレート919と操作ユニット902との間に、作動層920が挟まれている。入口ウェル925及び出口ウェル926は、マイクロ流体チャネル924によって、それらの近位の基底培養チャンバ923に接続されている。各マイクロ流体チャネル924の下方に、ノーマルオープン(NO)バルブ948が配置されている。
【0118】
操作ユニット902に搭載の培養モジュール901は、覆蓋903で覆われている。連続灌流のために、上述のものに加えて、限定されないが、以下の追加の特徴:操作ユニット902のアクセスホール927、培養モジュール901の垂直チャネル928、ハーメチックアクセスポート936、シーリング層932を保持するキャップ931、及びフィルタ930が含まれる。黒矢印及びQドットで示される連続灌流は、コントローラ、操作ユニット902内のアクセスホール、及び培養モジュール901内のチャネル928によって制御された陽及び陰圧を、それぞれ入口ウェル925及び出口ウェル926に加えることによって作り出される。キャップ931により圧力がシステム内に閉じ込められ、連続的な流れを発生させることができる。フィルタ930は、例えばチャネル928内の細胞培地などの流体の進入を回避するために使用される。したがって、フィルタ930は、作動に使用される空気など、ある流体に対しては透過性であるが、別の流体に対しては不透過性である。その別の流体を最初に培養モジュール901内に充填するには、キャップ931に一体化されたハーメチックアクセスポート936を介して、又は充填後にキャップ931が培養モジュール901の上に配置されるかのいずれかである。同様に、出口ウェル926内の流体は、ハーメチックアクセスポート936を介して、又はキャップ931を取り外した後に、抽出することができる。このように、培養モジュール901は、一体化した連続灌流コンセプトを提供することができる。
【0119】
図12は、本発明による細胞培養システム300の第4の実施態様の培養モジュール301を組み立てて、操作ユニット302に連結したときの断面図を示す。培養膜312は、培養モジュール301の上側プレート318と下側プレート319の間に挟まれている。したがって培養膜312は、作動ウェルを頂端培養チャンバ322と基底培養チャンバ323とに分けている。下側プレート319と操作ユニット302との間に、作動層320が挟まれている。入口ウェル325及び出口ウェル326は、マイクロ流体チャネル324によって、それらの近位の基底培養チャンバ323に接続されている。各マイクロ流体チャネル324の下方に、ノーマルオープン(NO)バルブ348が配置されている。
【0120】
操作ユニット302に搭載の培養モジュール301は、覆蓋303で覆われている。連続灌流のために、上述のものに加えて、限定されないが、以下の追加の特徴:アクセスホール327、垂直チャネル328、穿孔可能層329、及びフィルタ330が含まれる。黒い矢印及びQドットで示される連続灌流は、コントローラ、操作ユニット302内のアクセスホール327、及び培養モジュール301内のチャネル328によって制御された陽圧及び陰圧を、それぞれ入口ウェル325及び出口ウェル326に加えることによって作り出される。穿孔可能層329により、圧力がシステム内に閉じ込められ、連続的な流れを発生させることができる。フィルタ330は、例えばチャネル328内の細胞培地などの流体の進入を回避するために使用される。したがって、フィルタ330は、作動に使用される空気など、ある流体に対しては透過性であるが、別の流体に対しては不透過性である。その別の流体を最初に培養モジュール901内に充填するには、例えば針で穿孔可能層329を穿孔するか、又は層330が充填後に培養モジュール301の上に配置されるかのいずれかである。同様に、出口ウェル326内の流体は、穿孔可能層329を穿孔することによってか、又は層329を取り除いた後に、抽出することができる。このように、培養モジュール901は、一体化した連続灌流コンセプトを提供することができる。
【0121】
図13は、本発明による細胞培養システム400の第5の実施態様を示す。細胞培養システム400は、操作ユニット402上に配置された培養モジュール401を含む。培養モジュール401は、培養モジュール401の上側プレート418と下側プレート419の間に挟まれた培養膜412によって、頂端培養チャンバ422と基底の培養チャンバ423とにそれぞれが分離された2列の平行な細胞培養ウェルを有する。培養モジュール401は、ひと続きの入口ウェル425及び出口ウェル426をさらに有する。各入口ウェル425は、マイクロチャネル424によってその近位の作動チャンパの基底培養チャンバ423に接続されており、その作動チャンバは、マイクロチャネル424によってその近位の作動チャンバの基底培養チャンバ423に接続されており、その作動チャンバはマイクロチャネル424によって出口ウェル426に接続されている。各2つのウェルの間にノーマルオープンバルブ448が配置されている。
【0122】
操作ユニット402に搭載の培養モジュール401は、覆蓋403で覆われている。上記と同様に、連続灌流のために、追加の特徴、すなわち操作ユニット402内のアクセスホール427、培養モジュール401の垂直チャネル428、穿孔可能層429、キャップ931、ハーメチックアクセスポート936、及びフィルタ430が提供される。黒い矢印及びQドットで示される連続灌流は、陽圧及び陰圧をそれぞれ入口ウェル425及び出口ウェル426に加えることによって作り出される。穿孔可能層429により、圧力がシステム内に閉じ込められ、連続的な流れを発生させることができる。フィルタ430は、例えばチャネル428内の細胞培地などの流体の進入を回避するために使用される。さらに培養モジュール401は、入口ウェル425、右側の作動ウェル及び出口ウェル426内のハーメチックアクセスポート936を含むキャップ431によって閉じられる。左側の作動ウェルの頂端培養チャンバ422は開いている。左側の開放作動ウェル内では、例えば肺細胞435が成長し、右側の閉鎖作動ウェルでは、例えば肝臓細胞435が成長する。
【0123】
また、例えば特定の化合物の全身性応答を再現するために、相互に接続された複数のウェルを追加して、追加の組織を模倣することもできる。腎臓、肝臓、脳、胃腸管、皮膚等の様々な臓器様組織は、細胞培養システムを使用して、細胞を培養膜に懸濁して播種するか、又は形成されたスフェロイド、オルガノイド若しくは組織切片を培養ウェルに加えることによって作製することができる。
【0124】
細胞培養システム400,の使用において、培養方法は前述のものと同じであり得る。第1の細胞型由来の細胞を最初に第1の培養ウェルに播種し、その後第2の細胞型由来の細胞を第2の培養ウェルに播種した。したがって、異なる型の細胞を、例えば完全に分化するまで異なる細胞培地で培養することができる。分化すると、培養モジュール401は操作ユニット402へ集められる。
【0125】
図14には、本発明による細胞培養システム600の第6の実施態様が示されている。細胞培養システム600は、上述の細胞培養システム900とかなり同じように具現化されている。このシステムとは対照的に、細胞培養システム600は、作動ウェルの頂端培養チャンバ内に延在する圧力ポスト638を備える。圧力ポスト638は、その上端部が培養モジュール内に具現化された加圧用チャネル628内を通過する中空内部を有する。このチャネルは、その底部を通って操作ユニット内に設けられたアクセスホールに通じる。圧力ポスト638の中空内部の他端は、圧縮膜637によって覆われている。アクセスホールに陽圧を加えることによって、圧縮膜637は頂端培養チャンバ内に撓み、頂端培養チャンバ内部の圧力が高められる。このようにして頂端培養チャンバ内の圧力を調整することができる。
【0126】
図15は、本発明による細胞培養システム700の第7の実施態様を示す。細胞培養システム700は、上側プレート718と下側プレート719とを有する培養モジュール701を含む。これら2つのプレートの間に培養膜712が配置され、それは培養ウェルを基底培養チャンバ723と頂端培養チャンバ722とに分離する。培養モジュール701と操作ユニット702との間に作動層720が挟まれている。細胞培養システム700は、センサ733とセンサコネクタ734とを備えたドッキングステーション704/705をさらに含む。ここで、前述のものに追加の特徴、すなわちセンサ733及びセンサコネクタ734が含まれるがこれらに限定されない。この例示的な実施態様では、センサは、操作ユニット702に一体化されており、培養膜712の撓みをモニタリングするために使用される。データは、センサ733からセンサ接続部734を介して1つ又は複数の制御ユニットに転送される。そこでデータを記録及び分析することができ、ひいてはそのデータを使用して、特定の作用、ここでは培養膜712の撓みを長期間にわたって連続的にモニタリング、制御又は変更することができる。
【0127】
図16には、上述の細胞培養システム700とかなり同じように具現化されている細胞培養システム800が示されている。細胞培養システム800は、上側プレート818と下側プレート819とを有する培養モジュール801、これらのプレートの間に配置されていて培養ウェルを基底培養チャンバ823と頂端培養チャンバ822とに分離する培養膜812と、作動層820とを備える。上記の実施態様とは対照的に、細胞培養システム800は、操作ユニット802に設けられたセンサ833とセンサコネクタ834とをさらに備える。
【0128】
図17は、本発明による細胞培養システム1300の第9の実施態様を示す。細胞培養システム1300は、培養ウェル1322と入口1325と出口1326とを有する培養モジュール1301を備える。操作ユニットの作動層と培養モジュール1364/1365の作動層との間に配置されたバルブは、培養ウェルの両側にある。ここでさらなる特徴は、出口ウェルを入口ウェルに接続するバイパスチャネル1361である。また、操作ユニットの作動層と培養モジュールとの間に作られた追加のバルブ1360が2つのウェルの間に配置されている。
【0129】
この実施態様は、再循環流れを生成することを可能にする。出口ウェル1326内で灌流された細胞培地は、入口ウェル1325内で輸送することができる。これは例えば、細胞によって放出されるサイトカインの濃度を増加させて細胞の検出を容易にすることを可能にし、とりわけパラ分泌、自己分泌及び内分泌シグナル伝達をより巧みに模倣することを可能にする。細胞の老廃物も再循環し、腎臓様組織によって濾過され得る。
【0130】
図18は、本発明による細胞培養システム1400の第10の実施態様を示す。細胞培養システム1400は、ドッキングステーション1402内に据えられた、培養ウェル1422と入口1425と出口1426とを有する培養モジュール1402を備える。培養モジュール1401には、シーリング層1432を有する蓋1431が含まれる。ここでさらなる特徴は、出口ウェルを入口ウェルに接続し、蓋1431内に配置されるバイパスチャネル1461である。2本の針/管1486/1487が、それぞれ出口/入口ウェル1426/1425の底部に向けられている。
【0131】
図19は、本発明による細胞培養システム1600の第11の実施態様を示す。培養膜1612は、細胞培養膜の支持体及び/又は足場として機能する薄いメッシュ1690/1691/1692/1693でできている。このメッシュは、機械的な力によって上板と底板の間の培養モジュールに一体化されているか、接着力(接着した(glued)接着剤層)によって2枚のプレートの間に挟まれているか、或いは熱接合又はプラズマ接合によって底板のいずれかの上面に接着されている。メッシュは、金属(金、チタン、タンタル、クロム、白金、マグネシウム、鉄、亜鉛、ステンレス鋼、及びステントに通常使用される合金又は他の任意の材料)製とすることができ、製織、化学エッチング、レーザー切断、ウォータージェット切断、3Dプリント、スタンピング、スクリーン印刷、プラズマエッチング等によって製造することができる。メッシュはまた、PS、COC、PMMA、PC、ポリイミド、PDMS、PU等のハード又はポリマー製でもよく、射出成形、ホットエンボス加工、スタンピング、レーザー切断、ウォータージェット切断、化学エッチング、プラズマエッチング、3Dプリント、スピンコーティング等によって製造することができる。メッシュはさらに、セルロース又は延伸可能な他の任意の多孔質材料製であってもよい。メッシュは、シリコン、ガラス、ポリマー及び微細作製に用いられる他の典型的な材料を使用する、マイクロエレクトロニクス/MEMS産業の技術を使用して製造することもできる。薄膜技術、特にフォトリソグラフィー、湿式及び/又は乾式エッチングによって製造された窒化ケイ素、二酸化ケイ素など、パリレンメッシュを、例えば足場材料として使用することができる。
【0132】
メッシュは、プルロニック、コラーゲン、ポリ乳酸(PLA)、乳酸グリコール酸共重合体(poly-lactic-co-glycolide)(PLGA)等の吸収性材料から完全に又は部分的に作られることも想定される。それは、3Dプリント、スタンピング、射出成形、浸漬塗布、スクリーン印刷又はその他の技術によって製造することができる。
【0133】
メッシュ材料はまた、空間的勾配を作り出すために、剛性及び弾性率などの異なる機械的性質を有し得る。そのような構成は、細胞の移動、分化と維持及び機能寿命延長を誘導するために使用され得る。例えば、メッシュ結び目/交点がメッシュラインよりも高いヤング率を有することが想定される。
【0134】
特定の培養方法では、I型及びII型肺胞上皮細胞を、コラーゲンとエラスチンとの混合物で作られたメッシュ上で培養する。機械的周期的ストレス(生理学的又は病態生理学的)へ曝されると、I型及びII型肺胞細胞はより大きなストレスを伴う領域に向かって移動するものである一方、II型細胞はより少ないストレスを伴う領域に向かって移動するものであるところ、I型細胞は、よりストレスが高い領域に移動するであろう。肺胞細胞の分化を誘導し、機能性を維持するための重要な要因には、肺胞の大きさ、機械的ストレスの大きさ、播種した細胞の種類、細胞培地、酸素濃度(低レベルの酸素)及び気液界面等、多くの要因がある。
【0135】
このような支持体/足場で作製された培養膜は、心血管系、肺、腸、腎臓、脳、骨髄、骨、歯及び皮膚を含むがこれらに限定されない様々な組織を工学的に操作するのに用いることができる。該装置は、乳酸グリコール酸共重合体(poly-lactic-co-glycolide acid)(PLGA)などの適切な生体適合性及び/又は生分解性材料で作製されているなら、in vivoでの移植に使用されてもよい。さらに、いくつかの細胞型の相互作用を空間的に局在化及び制御する能力は、階層的に工学操作し、より生理学的に正確な組織及び臓器類似体を作製する機会を提供する。限定された配置で複数の細胞型を配置することは、細胞分化、維持及び機能寿命の延長に有益な効果を及ぼす。
【0136】
特定の実施態様では、そのような足場を使用して、皮膚、肺、胃腸管、尿路、及びその他の組織等の臓器類似体をより広い表面上で、典型的には数ミリメートルから数メートルまで培養することができる。そのような足場を互いに重ね合わせて、より厚い組織を作製することできる。
【0137】
さらに、導電性材料製のメッシュを培養膜用の支持体/足場として使用してもよく、また、電極として使用して、メッシュの上又は近位にある組織又は細胞コンストラクトをモニタリングすることもできる。細胞層/バリアの完全性の変化は、頂端又は基底いずれかの培養チャンバ内に配置された他の電極を使用して、そのように検出することができる。このような構成を用いて、経上皮電気抵抗をモニタリングすることができる。
【0138】
さらなる実施態様において、例えば電界紡糸繊維、又はポリスルホン、多孔性ポリウレタン、セラミック等の多孔質材料製の他の三次元足場を細胞培養システムに組み込むことができる。
【0139】
本発明の態様及び実施態様を例示するこの説明及び添付の図面は、保護される発明を定義する特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。言い換えれば、本発明を図面及び前述の説明において詳細に図示及び説明してきたが、そのような図示及び説明は例示的であって、限定的ではないとみなされるべきである。この説明及び特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な機械的、組成的、構造的、電気的、及び操作上の変更を加えることができる。場合によっては、本発明を分かりにくくしないために、よく知られている回路、構造及び技法は詳細には示されていない。したがって、以下の請求項の範囲及び趣旨内で、当業者によって変更及び修正がなされ得ることが理解されよう。本発明は、特に、上記及び下記の異なる実施態様の特徴の任意の組み合わせを有するさらなる実施態様を網羅する。
【0140】
本開示はまた、図示されているさらなる特徴の全てを個別に網羅するが、それらは前述又は後述の説明には記載されていない場合がある。また、図面及び説明に記載されている実施態様の個々の代替的態様及びそれらの個々の代替的特徴は、本発明の主題又は開示されている主題から除外され得る。本開示は、特許請求の範囲又は例示的実施態様に記載の特徴からなる主題及び前記特徴を含む主題を含む。
【0141】
さらに、特許請求の範囲において、「含む」(「comprising」)という語は他の要素又は工程を排除するものではなく、不定冠詞「a」又は「an」は複数を排除するものではない。1つのユニット又は工程で、特許請求の範囲に記載のいくつかの特徴の機能を果たすことができる。特定の手段が、相互に異なる従属請求項に記載されているということだけで、これらの手段の組み合わせを有利に使用することができないことを示すものではない。また、属性又は値に関して「本質的に」、「約」、「およそ」等の用語はそれぞれ、正にその属性又は正にその値を明確に規定する。所与の数値又は範囲の文脈での「約」という用語は、所与の値又は範囲の、例えば20%以内、10%以内、5%以内又は2%以内にある値又は範囲を指す。連結又は接続されていると説明されている構成要素/成分(component)は、電気的又は機械的に直接連結されていてもよく、或いは1つ以上の中間構成要素/成分(intermediate component)を介して間接的に連結されていてもよい。特許請求の範囲におけるいかなる参照符号も、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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