(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】プレウロムチリンの精製
(51)【国際特許分類】
C07C 67/52 20060101AFI20220613BHJP
C07C 69/675 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
C07C67/52
C07C69/675
(21)【出願番号】P 2019543084
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(86)【国際出願番号】 EP2018053314
(87)【国際公開番号】W WO2018146264
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-05
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517439904
【氏名又は名称】ナブリヴァ セラピュティクス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【氏名又は名称】藤田 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100145791
【氏名又は名称】加藤 志麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ヘイルメイヤー,ヴァーナー
(72)【発明者】
【氏名】スペンス,リー
(72)【発明者】
【氏名】ヒンスマン,ペーター
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-528162(JP,A)
【文献】特表2008-531636(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102351698(CN,A)
【文献】中国特許第101838199(CN,B)
【文献】特表2005-535324(JP,A)
【文献】特表2007-504231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/00
C07C 69/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレウロムチリン
【化1】
を、酢酸i-プロピルの存在下での結晶化および/または再結晶化によって精製する方法。
【請求項2】
結晶化および/または再結晶化を有機貧溶媒の存在下で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記貧溶媒が、ヘプタン、ヘキサン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
結晶化および/または再結晶化が、
ヘプタンの存在下での酢酸i-プロピル、
ヘキサンの存在下での酢酸i-プロピル、および
それらの混合物
からなる群から選択される酢酸i-プロピルと貧溶媒との組合せの存在下で行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
酢酸i-プロピル対貧溶媒の比が、8~0.2
5である、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
酢酸i-プロピル対貧溶媒の前記比が、2~0.4である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
種結晶を使用して、結晶化および/または再結晶化を開始するステップを含む、請求項
1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬活性化合物の調製において出発原料として使用されるプレウロムチリンの精製方法に関する。詳細には、記載した方法は、プレウロムチリン中の決定的な不純物であることが本発明者らによって発見された2,3-プレウロムチリンエポキシドを減少させ、材料の全体的な純度を向上させる。
【背景技術】
【0002】
次式
【0003】
【化1】
の化合物であるプレウロムチリンは、例えば担子菌プレウロータス・ムチルス(Pleurotus mutilus)およびP.パッセケリアヌス(P. passeckerianus)によって産生される、天然に存在する抗生物質であり、例えば、The Merck Index, 12th edition, item 7694を参照されたい。プレウロムチリンは、発酵プロセスによって製造され、発酵ブロスから抽出され、最終的には結晶性固体化合物として単離される。プレウロムチリンは、承認済みの獣医用製品チアムリンおよびバルネムリンにおける出発原料として使用されている。
【0004】
プレウロムチリン由来の医薬活性化合物(半合成化合物)は、細菌におけるリボソームタンパク質合成の阻害剤である。ヒトでの使用に承認されている半合成プレウロムチリン類の唯一の代表例は、レタパムリン(AltargoP(登録商標)、AltabaxP(登録商標))であり、これは、膿痂疹および感染性小裂傷、擦過傷または縫合創傷の短期治療用に承認された局所薬剤である。2種の他の半合成プレウロムチリン誘導体であるチアムリン(Denagard(登録商標))およびバルネムリン(Econor(登録商標))が、獣医学において長年全身的に使用されてきた。
【0005】
【0006】
ますます増加する抗生物質耐性率は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)および多剤耐性肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)のような非常に病原性の高い病原体の出現と相まって、耐性菌によって引き起こされる深刻な細菌感染への対抗に適する新規な抗菌剤を緊急に必要としている。罹患率および死亡率へのそれらの重大な影響を考慮すると、多剤耐性微生物は、国立学術機関、米国感染症学会、疾病管理センター、および世界保健機関を含むタスクフォースによって公衆衛生にとって重大な脅威と考えられている。
【0007】
プレウロムチリン由来の半合成化合物は、肺炎連鎖球菌、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、クラミドフィラ・ニューモニエ(Chlamydophila pneumoniae)、およびマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)をとりわけ含む耐性菌に対して優れた活性を示している。
【0008】
半合成プレウロムチリン類の2種の主要なクラス:スルファニルアセチル-ムチリン類およびカルバモイルオキシ-ムチリン類が公知である。違いは、三環式ムチリン核からR側へのリンカー部分が異なることである。
【0009】
【0010】
スルファニルアセチル-ムチリン類は、とりわけ、国際公開第2005023257号パンフレット、国際公開第1999021855号パンフレット、国際公開第01/09095号パンフレット、国際公開第02/04414号パンフレット、国際公開第02/22580号パンフレット、国際公開第03/082260号パンフレット、国際公開第03/090740号パンフレット、国際公開第2004011431号パンフレット、国際公開第2007/000001号パンフレット、国際公開第2007000004号パンフレット、国際公開第2007014409号パンフレット、国際公開第2007/079515号パンフレット、国際公開第/2008/040043号パンフレット、国際公開第2008/113089号パンフレット、国際公開第2009/009812号パンフレット、国際公開第2009/009813号パンフレット、国際公開第2010/025482号パンフレット、国際公開第2011/146953号パンフレット、国際公開第2011/146954号パンフレット、国際公開第2012/031307号パンフレット、国際公開第2015/110481号パンフレットに開示されており、カルバモイルオキシ-ムチリン類は、とりわけ、国際公開第1997025309号パンフレット、国際公開第1998005659号パンフレット、国際公開第2006063801号パンフレット、国際公開第2006099196号パンフレット、国際公開第07062333号パンフレット、国際公開第07062335号パンフレットに開示されている。スルファニルアセチル-ムチリン類およびカルバモイルオキシ-ムチリン類はいずれも出発原料としてプレウロムチリンを使用している。
【0011】
プレウロムチリンの基本環構造を有しかつ第一級ヒドロキシ基で置換されているいくつかのさらなるプレウロムチリン類が、例えば抗菌剤として開発されている。国際公開第2008/113089号パンフレットに開示されているようなプレウロムチリン誘導体の1つの群であるアミノ-ヒドロキシ置換シクロヘキシルスルファニルアセチルムチリン類は、それらの顕著な抗菌活性のために特に興味深いことが分かっている。国際公開第2008/113089号パンフレットに記載されているように、14-O-{[(4-アミノ-2-ヒドロキシ-シクロヘキシル)-スルファニル]-アセチル}-ムチリン類は、特に気道および皮膚および皮膚構造の感染症において、グラム陽性およびグラム陰性の病原体に対する活性のために特に有用な化合物である。特に、14-O-{[(1R,2R,4R)-4-アミノ-2-ヒドロキシ-シクロヘキシルスルファニル]-アセチル}-ムチリン(以下、「BC-3781」または「レファムリン」と称する)は、ヒトの重度感染症を治療するために全身的使用に向けて開発された。BC-3781は、とりわけ、R. Novak, Are pleuromutilin antibiotics finally fit for human use?, Ann. N.Y. Acad. Sci. 1241 (2011) 71-81およびW. T. Prince et al, Phase II Clinical Study of BC-3781, a Pleuromutilin Antibiotic, in Treatment of Patients with Acute Bacterial Skin and Skin Structure Infections, Antimicrobial Agents and Chemotherapy Vol 57, No 5 (2013), 2087-2094に記載されている。後者の刊行物は、全身投与によってヒトの重度感染症を治療するプレウロムチリン誘導体の最初の概念実証を例示している。また、BC-3781の合成において、プレウロムチリンが出発原料として使用されている。
【0012】
従来技術において、プレウロムチリンの結晶化/精製に関して以下の方法が記載されている。
【0013】
【0014】
さらに、プレウロムチリンの抽出およびそれに続く精製のための方法が、米国特許第4,092,424号明細書、米国特許第4,129,721号明細書、米国特許第4,247,542号明細書、英国特許第1,197,942号明細書に開示されており、Antibiotic Substances from Basidiomycetes VIII, F. Kavanagh et al., Proc. N.A.S., 1951, 570-574などの論文に発表されている。これらの方法は、ろ過したブロスを、水非混和性溶媒、例えば、トルエン、酢酸エチル、クロロホルムを用いて抽出することを含む。培養菌糸体からのプレウロムチリン類を、水混和性溶媒、例えばアセトンを用いて抽出し、続いて、水非混和性溶媒、例えば酢酸エチルを用いて抽出することも記載されている。
【0015】
しかし、従来技術文献のいずれにも、2,3-プレウロムチリンエポキシド不純物の低減は記載されていない。本発明の発明者らは、2,3-プレウロムチリンが、市販のプレウロムチリンの重大な不純物であることを見出した。2,3-プレウロムチリンエポキシドは、担子菌類クリトピルス・クンマー(Clitopilus Kummer)の液内培養によって産生された場合のプレウロムチリン中に存在し得る主要な代謝産物のうちの1つとして、N.PalmaらによりEur. Congr. Biotechnol., 3rd, Volume 1, 1984, p 533 - 542において言及されている。
【0016】
プレウロムチリンの別の重大な不純物は14-アセチルムチリンであるが、これはさらに下流の化学現象においてそれほど決定的ではない。例えば、半合成プレウロムチリン誘導体を合成するためにプレウロムチリンの第一級ヒドロキシ基の活性化にしばしば使用されるトシル化反応を行うことにより(例えば、国際公開第2008/040043号パンフレット、国際公開第2008/113089号パンフレット、国際公開第2009/009812号パンフレット、国際公開第2009/009813号パンフレット、国際公開第2010/025482号パンフレット、国際公開第2011/146953号パンフレット、国際公開第2011/146954号パンフレット、国際公開第2012/031307号パンフレット、国際公開第2015/110481号パンフレットに記載)、14-アセチルムチリンは市販のバッチから完全に除去される。14-アセチルムチリンがトシル化反応を受けることはなく、母液中と同様に枯渇している。
【0017】
【0018】
しかし、2,3-プレウロムチリンエポキシドは、トシル化反応を受け、単離したトシル酸プレウロムチリン中に残っている。
【0019】
【0020】
さらに精製することなく、以下に示す純度プロフィルを有する市販プレウロムチリンバッチでトシル化反応を行い、結晶性トシル酸プレウロムチリンを単離すると、以下の結果がもたらされる。
【0021】
【0022】
単離した結晶性トシル酸プレウロムチリンの純度は、プレウロムチリンにおいて86.17面積%から98.55面積%に向上し、14-アセチルムチリンは検出されなかった。しかし、2,3-プレウロムチリンエポキシドは、トシル酸2,3-エポキシプレウロムチリンに転換され、有意な不純物としてトシル酸プレウロムチリン中に残っている。トシル酸2,3-エポキシプレウロムチリンのRRFは、トシル酸プレウロムチリンと比較すると、HPLC分析法で使用する波長では約1であり、不純物は約1.32w/w%に変換される。これらのデータから、市販プレウロムチリンバッチにおける0.96w/w%という2,3-プレウロムチリンエポキシドの投入レベルを考慮すると、トシル酸2,3-エポキシプレウロムチリンが枯渇していないことが確認される。
【発明の概要】
【0023】
したがって、2,3-プレウロムチリンエポキシドを有意に減少させかつ最終の医薬有
効成分(API)中に不純物が生じる可能性を最小にするプレウロムチリン精製方法を利
用できるようにしておくことが非常に望ましい。
本開示は以下の[1]から[6]を含む。
[1]プレウロムチリン
【化1】
を、酢酸i-プロピルの存在下での結晶化および/または再結晶化によって精製する方法。
[2]結晶化および/または再結晶化を有機貧溶媒の存在下で行う、上記[1]に記載の方法。
[3]上記貧溶媒が、ヘプタン、ヘキサン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、上記[2]に記載の方法。
[4]結晶化および/または再結晶化が、ヘプタンの存在下での酢酸i-プロピル、ヘキサンの存在下での酢酸i-プロピル、およびそれらの混合物からなる群から選択される酢酸i-プロピルと貧溶媒との組合せの存在下で行われる、上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]酢酸i-プロピル対貧溶媒の比が、8~0.25、好ましくは2~0.4である、上記[2]から[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]種結晶を使用して、結晶化および/または再結晶化を開始するステップを含む、上記[1]から[5]のいずれか一項に記載の方法。
【0024】
本発明者らは、チアムリンに関して公表されているデータによって、2,3-プレウロムチリンエポキシドがAPI不純物を生じる可能性があるということを認識した。EUROPEAN PHARMACOPOEIA 8.0 (page 3416 to 3418)に、以下:
【0025】
【0026】
チアムリンはフマル酸水素塩として示される。不純物の2-フマル酸2,3-ジヒドロキシチアムリンは、2,3-エポキシチアムリン不純物とフマル酸との反応から生じる可能性が最も高いと考えられる。
【0027】
【0028】
本発明の根底にある課題は、プレウロムチリン
【0029】
【化8】
を、酢酸i-プロピルの存在下での結晶化および/または再結晶化によって精製する方法で解決される。
【0030】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に定義されている。
【0031】
驚くべきことに、特に、プレウロムチリンを酢酸i-プロピルで結晶化および/または再結晶化することによって、プレウロムチリン中の不純物2,3-プレウロムチリンエポキシドの量を効率的に減少させることができることを見出した。
【0032】
用語「結晶化および/または再結晶化」は、以下の選択肢を含む。
【0033】
プレウロムチリンが結晶化によってのみ精製されるプロセス。この場合、酢酸i-プロピルは存在する。
【0034】
プレウロムチリンが結晶化および再結晶化によって精製されるプロセス。この場合、少なくとも2つのステップのうちの1つのステップにおいて、好ましくは両ステップにおいて、酢酸i-プロピルは存在する。
【0035】
本発明の好ましい一実施形態では、方法は再結晶化によって行われる、すなわち、酢酸i-プロピルは再結晶化ステップにおいてのみ使用される。
【0036】
用語「酢酸i-プロピルの存在下で」は、他の薬剤、およびまた、他の溶媒が、結晶化および/または再結晶化プロセス中に存在してよいことを意味する。しかし、好ましくは、結晶化および/または再結晶化プロセスにおいて使用する溶媒は、本質的に酢酸i-プロピルからなる、すなわち、他の溶媒は存在しない。
【0037】
本発明の好ましい一実施形態では、結晶化および/または再結晶化を有機貧溶媒の存在下で行う。
【0038】
貧溶媒結晶化の概念は、それ自体周知であり、化合物の析出が促進されるように、化合物を結晶化溶媒中に含む溶液に、精製すべき化合物が溶解しないまたはわずかしか溶解しない液体(すなわち「貧溶媒」)を添加することを意味する。
【0039】
結晶化および再結晶化ステップの両方を含む本発明の方法では、酢酸i-プロピルが存在する方法の1つまたは複数のステップにおいて貧溶媒が少なくとも存在すべきである。
【0040】
当業者には、本発明の方法による溶液、すなわち、プレウロムチリンを酢酸i-プロピル中に含む溶液に適する貧溶媒をどのように決定するか周知である。
【0041】
好ましくは、貧溶媒は、ヘプタン、ヘキサン、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0042】
諸請求項のいずれか一項に記載の好ましい方法では、結晶化および/または再結晶化は、
ヘプタンの存在下での酢酸i-プロピル、
ヘキサンの存在下での酢酸i-プロピル、および
それらの混合物
からなる群から選択される酢酸i-プロピルと貧溶媒との組合せの存在下で行われる。
【0043】
酢酸i-プロピル対貧溶媒の比は、好ましくは8~0.25、特に好ましくは2~0.4である。
【0044】
本発明の方法は、好ましくは、種結晶を使用して、結晶化および/または再結晶化を開始するステップを含む。
【0045】
本出願はさらに、酢酸i-プロピルの存在下または酢酸i-プロピルおよび貧溶媒の存在下での結晶化および/または再結晶化によってプレウロムチリンを精製して、得られたプレウロムチリンの総純度を95%以上、特に97%以上にする方法を開示している。
【0046】
好ましくは、この方法では、2,3-プレウロムチリンエポキシドのレベルは、結晶化および/または再結晶化ステップの前にプレウロムチリンに含有されるレベルと比較して、25%以上、より好ましくは35%以上減少する。
【0047】
特に、この方法では、2,3-プレウロムチリンエポキシド不純物の含有量は、得られたプレウロムチリンにおいて約1.0w/w%~0.70w/w%、さらにはそれ以下に減少する。
【発明を実施するための形態】
【0048】
慣用名ムチリンは、IUPAC系統名(1S,2R,3S,4S,6R,7R,8R,14R)-3,6-ジヒドロキシ-2,4,7,14-テトラメチル-4-ビニル-トリシクロ[5.4.3.01,8]テトラデカン-9-オンを指す。
【0049】
【0050】
以下の記述では、H.Berner(Berner, H.; Schulz, G.; Schneider H. Tetrahedron 1980, 36, 1807-1811)によって記載されたムチリン番号付け方式を使用する。
【0051】
【0052】
本発明は、プレウロムチリンの(再)結晶化による効率的な精製プロセス/方法に関する。
【0053】
本発明は、プレウロムチリンの精製を可能にし、生成物を発酵ブロスから抽出した後の初期単離/結晶化で使用することができる。あるいは、プレウロムチリンを単離した後、上述したような溶媒および溶媒系を使用して、再結晶化を行うことができる。
【0054】
発酵から単離した後のプレウロムチリンは、約85~95%の間で変動し得る適度な高純度を有する。しかし、動物またはヒト治療用の半合成APIを製造するための出発原料としてプレウロムチリンを使用する場合、懸念されるかなりの量の不純物が存在している。特に、2,3-プレウロムチリンエポキシドの存在が非常に懸念される。
【0055】
以下の表に、市販(粗製)プレウロムチリンおよび精製プレウロムチリンの純度を示す。
【0056】
【0057】
【0058】
貧溶媒としてヘキサン、例えば、酢酸i-プロピル/ヘキサンを使用すると、匹敵する精製結果がもたらされる。
【0059】
上記の表から分かるように、施したすべての精製方法において有意な精製が達成されている。
【0060】
精製後、3種の不純物のみが残り、そのうちの2種は既知の不純物、すなわち、14-アセチルムチリンおよび2,3-プレウロムチリンエポキシドである。2,3-プレウロムチリンエポキシドの構造は、粗製プレウロムチリンから材料を単離し、NMRおよびMSのような分析操作にかけることによって解明した。
【0061】
【0062】
プレウロムチリンバッチを分析するためのHPLC法は以下の通りである。
【0063】
【0064】
プレウロムチリン中の不純物の重量含有量を決定するために、面積%値を不純物の相対応答係数(RRF)値で補正しなければならない。応答係数補正を適用すると、2種の既知の不純物に関して以下のような結果が得られる。
【0065】
【0066】
驚くべきことに、2種の既知の不純物の減少は、市販プレウロムチリンバッチを精製するために、場合によっては貧溶媒の存在下で、使用した一連の酢酸エステル溶媒に関して同じではない。最も驚くべきことに、結晶化溶媒としてi-PrOAcまたはi-PrOAc/ヘプタンの組合せを使用した場合、決定的な2,3-プレウロムチリンエポキシドの減少が著しく促進される。
【0067】
特に、2,3-プレウロムチリンエポキシドの減少が、n-PrOAcと比較して、貧溶媒(ヘプタン)と組み合わせたi-ProAcによってさらに促進されることは驚くべきことである。これが驚くべきことである理由は、貧溶媒を使用すると、プロセスの収率は増加するが、精製効率が低下する傾向があることが知られているからである。
【0068】
上記の非常に驚くべき効果は、半合成プレウロムチリン誘導体のさらなる合成において非常に有益である。14-アセチルムチリンの減少は、より多くの量がプレウロムチリン中に残っているt-BuOAcの場合を除いて、ほとんど同じである。しかし、上述のように、不純物14-アセチルムチリンは、2,3-プレウロムチリンエポキシドほど重大/決定的ではない。
【0069】
ヒトにおいて使用されるAPIの不純物閾値は非常に厳格である。ヒト市場向けの原薬は、対応するICHガイドライン(医薬品規制調和国際会議(International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use))で定義されている規制要件を満たさなければならない。新原薬の不純物に関するICHガイドライン(Q3A(R2))には、以下の閾値が含まれる。
【0070】
【0071】
上記のICH閾値からから分かるように、すべての個々の未知の不純物が0.10面積%未満であり、構造が解明された不純物がそれぞれ0.15%未満であることが望ましい。本発明に従って提供するプレウロムチリン精製プロセス/方法は、所望の規格値内の、ICH要件を満たすAPI(医薬有効成分)の製造を支持するものである。
【0072】
本発明による(再)結晶化方法は、高い回収率(大抵の場合、50%超)で大規模に使用可能であることが分かった。
【0073】
もちろん、本発明による(再)結晶化方法は、所望の精製度合いに達するまで繰り返すことができる。
【0074】
略語
API 医薬有効成分
EP ヨーロッパ薬局方
g グラム
kg キログラム
l リットル
M モル濃度
mmol ミリモル
min 分
ml ミリリットル
RRF 相対応答係数
w/v 重量/容量
w/w 重量/重量
【0075】
実験の部-プレウロムチリン精製方法:
A)溶媒:酢酸メチル
プレウロムチリン(10.02g、26.5mmol)および酢酸メチル(20ml)をフラスコに装入し、65℃に加熱した。バッチをこの温度で30分間撹拌して確実に溶解させ、次いで、4時間かけて0~5℃に冷却し、この温度で1時間撹拌した。次いで、バッチをろ過し、固体を冷酢酸メチル(10ml)で洗浄し、真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。
収量:6.70g
【0076】
B)溶媒:酢酸エチル
プレウロムチリン(10.07g、26.6mmol)および酢酸エチル(20ml)をフラスコに装入し、80℃に加熱した。バッチをこの温度で30分間撹拌して確実に溶解させ、次いで、4時間かけて0~5℃に冷却し、この温度で1時間撹拌した。次いで、バッチをろ過し、固体を冷酢酸エチル(10ml)で洗浄し、真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。
収量:7.06g
【0077】
C)溶媒:酢酸イソプロピル-本発明による
プレウロムチリン(10.04g、26.5mmol)および酢酸イソプロピル(20ml)をフラスコに装入し、90℃に加熱した。バッチをこの温度で30分間撹拌して確実に溶解させ、次いで、4時間かけて0~5℃に冷却し、この温度で1時間撹拌した。次いで、バッチをろ過し、固体を冷酢酸イソプロピル(10ml)で洗浄し、真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。
収量:5.83g
【0078】
D) 溶媒:酢酸n-プロピル
プレウロムチリン(10.01g、26.4mmol)および酢酸n-プロピル(20ml)をフラスコに装入し、90℃に加熱した。バッチをこの温度で30分間撹拌して確実に溶解させ、次いで、4時間かけて0~5℃に冷却し、この温度で1時間撹拌した。次いで、バッチをろ過し、固体を冷酢酸n-プロピル(10ml)で洗浄し、真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。
収量:4.64g
【0079】
E)溶媒:酢酸イソブチル
プレウロムチリン(10.00g、26.4mmol)および酢酸イソブチル(20ml)をフラスコに装入し、90℃に加熱した。バッチをこの温度で30分間撹拌して確実に溶解させ、次いで、4時間かけて0~5℃に冷却し、この温度で1時間撹拌した。次いで、バッチをろ過し、固体を冷酢酸イソブチル(10ml)で洗浄し、真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。
収量:6.43g
【0080】
F)溶媒:酢酸tert-ブチル
プレウロムチリン(10.00g、26.4mmol)および酢酸tert-ブチル(20ml)をフラスコに装入し、90℃に加熱した。バッチをこの温度で30分間撹拌したが、完全には溶解しなかった。バッチを4時間かけて0~5℃に冷却し、この温度で1時間撹拌し、ろ過し、固体を冷酢酸tert-ブチル(10ml)で洗浄した。次いで、固体生成物を真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。
収量:7.44g
【0081】
G)溶媒/貧溶媒:酢酸イソプロピル/ヘプタン-方法1-本発明による
プレウロムチリン(10.01g、26.4mmol)および酢酸イソプロピル(20ml)をフラスコに装入し、加熱還流して確実に溶解させた。次いで、バッチを2時間かけて40~45℃に冷却した。次いで、ヘプタン(40ml)を約1時間かけて滴下添加し、温度を40~45℃で維持した。次いで、バッチを40~45℃で1時間撹拌し、1時間かけて室温に冷却し、この温度で1時間撹拌した。次いで、バッチをろ過し、固体を冷酢酸イソプロピル-ヘプタン(1:1、2×10ml)で洗浄した。得られた固体を真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。
収量:7.69g
【0082】
H)溶媒/貧溶媒:酢酸イソプロピル/ヘプタン-方法2-本発明による
プレウロムチリン(10.01g、26.4mmol)および酢酸イソプロピル(20ml)をフラスコに装入し、加熱還流して確実に溶解させた。次いで、バッチを2時間かけて40~45℃に冷却した。次いで、ヘプタン(40ml)を約1時間かけて滴下添加し、温度を40~45℃で維持した。次いで、バッチを40~45℃で1時間撹拌し、1時間かけて室温に冷却し、この温度で1時間撹拌した。次いで、バッチを1時間かけて0~5℃に冷却し、この温度でさらに1時間撹拌した。次いで、バッチをろ過し、固体を冷酢酸イソプロピル-ヘプタン(1:1、2×10ml)で洗浄した。得られた固体を真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。
収量:8.01g
【0083】
I)プレウロムチリンのトシル化
プレウロムチリン(10.03g、26.5mmol)およびアセトニトリル(40ml)をフラスコに装入し、水酸化ナトリウム(1.62g、40.5mmol)の水(13.3ml)溶液、続いて、ラインリンスとしてのアセトニトリル(5ml)を添加した。次いで、バッチを17℃に冷却し、塩化p-トルエンスルホニル(5.12g、26.9mmol)、続いて、ラインリンスとしてのアセトニトリル(5ml)を添加した。次いで、HPLCによって反応の完了が確認されるまで、バッチを室温で1.5時間撹拌した。メチルtert-ブチルエーテル(50ml)および水(50ml)を装入し、撹拌し、沈降させた。下層の水層を除去した。次いで、バッチを5%の塩化ナトリウム水溶液(2×50ml)で洗浄した。分離および研磨ろ過の後、バッチを約6容量に濃縮し、MTBE(100ml)を添加し、再び6容量に濃縮した。MTBE(35ml)をさらに添加し、バッチを6容量に濃縮した。次いで、ジイソプロピルエーテル(24ml)とヘプタン(35ml)との混合物を添加し、バッチを6容量に濃縮した。次いで、さらなるジイソプロピルエーテル(24ml)とヘプタン(35ml)との混合物を添加し、バッチを30分間撹拌した。次いで、バッチを57℃に加熱し、2時間撹拌し、一晩かけて室温に冷却し、その後、ろ過し、ジイソプロピルエーテル-ヘプタン(2:3、2×20ml)で洗浄した。得られた固体を真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。
収量:12.46g
【0084】
J)溶媒:酢酸イソプロピル、シーディング法を用いる-方法1-本発明による
プレウロムチリン(200g、0.528mol)および酢酸イソプロピル(400ml)をフラスコに装入し、加熱還流した。溶液を還流下で30分間撹拌した。次いで、バッチを2時間かけて53℃に冷却し、プレウロムチリン種結晶(200mg)を55℃で添加した。バッチを53℃で2時間撹拌し、2時間かけて20℃に冷却し、この温度で2時間撹拌した。次いで、バッチを1時間かけて1℃にさらに冷却し、この温度でさらに13時間撹拌した。次いで、バッチをろ過し、固体を冷酢酸イソプロピル(2×200ml)で洗浄し、真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。
収量:124.04g
【0085】
K)溶媒:酢酸イソプロピル、シーディング法を用いる-方法2-本発明による
プレウロムチリン(200g、0.528mol)および酢酸イソプロピル(400ml)をフラスコに装入し、加熱還流した。バッチを還流下で30分間撹拌して確実に溶解させ、次いで、4時間かけて18℃に冷却し、プレウロムチリン種結晶(200mg)を55℃で添加した。バッチを18℃で2時間撹拌し、ろ過し、固体を冷酢酸イソプロピル(2×200ml)で洗浄し、真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。
収量:106.59g
【0086】
L)溶媒/貧溶媒:酢酸イソプロピル/ヘキサン、シーディング法を用いる-本発明による
プレウロムチリン(200g、0.528mol)および酢酸イソプロピル(400ml)をフラスコに装入し、加熱還流して確実に溶解させた。次いで、バッチを3時間かけて45℃に冷却し、2時間後にプレウロムチリン種結晶(60mg)を添加した。次いで、バッチを45℃で1時間撹拌し、2時間かけて17℃に冷却し、この温度で12時間撹拌した。次いで、バッチを1時間かけて5℃に冷却し、この温度でさらに2時間撹拌した。次いで、ヘキサン(794ml)を約4時間かけて滴下添加し、温度を5℃で維持した。次いで、バッチを5℃で2時間撹拌し、ろ過し、固体を冷酢酸イソプロピル(132ml)、続いて、さらなる冷酢酸イソプロピル(66ml)、次いで、冷ヘキサン(200ml)で洗浄した。得られた固体を真空オーブンにおいて40℃で乾燥させた。
収量:167.89g
【0087】
M)2,3-プレウロムチリンエポキシド
2,3-プレウロムチリンエポキシドをプレウロムチリンから一連の分取HPLC分離によって単離する。初期精製を行い、続いて、第2の分取HPLC分離を行ってさらに精製した。最後に、第3の精製をSFC(超臨界流体クロマトグラフィ)で行って、最終2,3-プレウロムチリンエポキシドを得た。
【0088】
純度90%超のバルク(粗製)プレウロムチリン約5kgから2,3-プレウロムチリンエポキシドを合計で約7g単離した。
1H-NMR (200 MHz, DMSO-d6) δ 6.13 (dd, Jcis=10.8Hz, Jtrans=18.0Hz, 1H, H-19), 5.58 (d, J=8.8Hz, H-14), 5.25 (t, 1H, 22-OH), 5.05 (d, Jcis=13.2, 1H, H-20a), 5.01 (d, Jtrans=9.2Hz, 1H, H-20b), 4.46 (d, J=6.0Hh, 1H, 11-OH), 3.88 (AB, 2H, H-22), 3.60 (d, J=3.2Hz, 1H, H-3), 3.32 (d, J=3.2Hz,, 1H, H-2), 3.23 (dd, 1H, H-11), 2.28-1.15 (11H, 一連の多重線は以下のものに関する: H1, H4, H6, H7, H8, H10およびH13), 1.18 (s, 3H H-15), 1.05 (s, 3 H, H-18), 0.74 (d, J=7.2Hz, 3H, H-17), 0.63 (d, J=6.8Hz, 3H, H-16)
【0089】
質量分析:
m/z=396.3[M+H2O];m/z=423.5[M+HCOO-]