(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】手術で用いる位置合わせ装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/34 20060101AFI20220613BHJP
A61B 17/56 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
A61F2/34
A61B17/56
(21)【出願番号】P 2019546948
(86)(22)【出願日】2017-11-14
(86)【国際出願番号】 AU2017051251
(87)【国際公開番号】W WO2018085900
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-09-23
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】520062672
【氏名又は名称】ヴィヴィッド・サージカル・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・エル・ウォルター
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・マースデン-ジョーンズ
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0249968(US,A1)
【文献】特表2014-516256(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0220318(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/34
A61B 17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって、
医療用インプラントの移植用の骨領域に対して所望の方位に移動可能な医療ツールと、
患者の前記骨領域に対して固定された第1の場所と前記医療ツール上の第2の場所との間で移行可能な電子方位センサと、を含み、
前記第1の場所において、前記電子方位センサは、前記患者の前記骨領域の基準方位を記録するように構成され、前記第2の場所において、前記電子方位センサは、前記基準方位に対する前記医療ツールの方位を決定するように構成され、
前記基準方位を記録することは、
前記電子方位センサに対する重力ベクトルを測定すること
と、
前記重力ベクトルに対する前記患者の方位の変化に基づいて前記患者の長手方向ベクトルを決定することと、
前記決定された重力ベクトルと前記決定された長手方向ベクトルとに基づいて前記患者の横断ベクトルを決定することとを含
み、
前記方位の変化は前記長手方向ベクトルの周りの前記骨領域の回転を含む、装置。
【請求項2】
前記基準方位を記録することはさらに、
前記患者の人体の横断ベクトルを決定することと、
前記決定された重力ベクトルと前記決定された横断ベクトルとに基づいて長手方向ベクトルを決定することと、を含む請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記横断ベクトルは、前記患者の人体上の2つの左右対称点に対する前記電子方位センサの方位に基づいて決定される請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記人体上の前記2つの左右対称点は左及び右の上前腸骨棘である請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記重力ベクトルは、前記患者が仰臥位または腹臥位にある状態で前記電子方位センサに対して測定され、
前記基準方位を記録することはさらに、前記患者が側臥位にある状態で前記電子方位センサに対して前記重力ベクトルを測定することを含み、横断ベクトルは、前記患者が側臥位にある状態での前記電子方位センサに対する前記重力ベクトルの測定値に基づいて推定される請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記横断ベクトルは、前記重力ベクトルに対する前記
電子方位センサの方位の変化に基づいて決定される請求項2に記載の装置。
【請求項7】
前記電子方位センサは、1つ以上の重力場センサ及び/または1つ以上の加速度計及び/または1つ以上の磁界センサ及び/または1つ以上のジャイロスコープを含む請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記医療ツールの前記決定された相対方位及び/または前記記録された基準方位についての情報を臨床医または他のユーザに与えるように構成された出力装置を含む請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記骨領域は前記患者の骨盤領域を含み、前記医療ツールは寛骨臼カップインパクタを含み、前記医療用インプラントは寛骨臼カップを含む請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記第1の場所において、前記電子方位センサはさらに、前記患者の最大後部傾斜と前記患者の最大前方骨盤傾斜との間の差に基づいて患者の骨盤傾斜範囲を測定するように構成された請求項
9に記載の装置。
【請求項11】
前記測定した骨盤傾斜範囲に基づいて前記骨盤領域に対する前記寛骨臼カップの前捻角及び傾斜角を決定するように構成された処理手段をさらに含む請求項
10に記載の装置。
【請求項12】
前記骨領域は前記患者の大腿骨または頸骨を含み、前記医療ツールはガイドワイヤまたは手術用ドリルを含み、前記医療用インプラントはACL移植片を含む請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は手術で用いる位置合わせ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用インプラントを伴う外科的処置では、患者の人体に対するインプラントの方位が、このような処置を成功させるためには重要である可能性がある。
【0003】
たとえば、股関節形成には股関節を人工装具インプラントと置換することを伴う。人工装具インプラントは、寛骨臼(股関節ソケット)内に配置するようにデザインされた寛骨臼カップを含む異なる部分からなる可能性がある。寛骨臼カップは、寛骨臼カップインパクタを用いて所定の位置に配置される。寛骨臼カップインパクタは一般的に、細長いロッドの一端にカップを有する形を取り、寛骨臼内にカップを挿入して配向するために用いられる。寛骨臼カップが正しく機能して、著しく摩耗することも患者に損傷をもたらすこともないことを確実にするためには、カップを寛骨臼内で正しく配向させて位置決めすることが重要である。
【0004】
本明細書に含まれる文献、作用、材料、装置、物品などのどの説明も、これらの事柄の一部または全部が、本出願の各請求項の優先日の前に存在していたために、先行技術基準の一部を形成しているかまたは本開示に関連する分野で良く知られた一般知識であったと認めていると理解してはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の種々の態様によって、外科的処置で用いる装置及び方法であって、患者の人体に対するインプラントの正確な方位がこのような処置の成功にとって重要である外科的処置で用いる装置及び方法が提供される。いくつかの態様は、寛骨臼カップインパクタを用いて寛骨臼カップを患者の骨盤領域の寛骨臼に移植する処置に関する。装置を、寛骨臼カップインパクタ及び/または患者の骨盤領域上にマウントすることができる。この装置は、インパクタ及び骨盤領域の相対的な角変位を検知して、所望の方位への寛骨臼カップインパクタのガイダンスを助けるように構成されている。他の態様は、椎弓根ネジを患者の脊椎骨にねじ込む処置に関する。このような処置にとってネジの傾斜及び前捻は重要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様によれば、本開示によって、装置であって、医療用インプラントの移植用の骨領域に対して所望の方位に移動可能な医療ツールと、患者の骨領域に対して固定された第1の場所と医療ツール上の第2の場所との間で移行可能な電子方位センサと、を含み、第1の場所において、方位センサは、患者の骨領域の基準方位を記録するように構成され、第2の場所において、方位センサは、基準方位に対する医療ツールの方位を決定するように構成され、基準方位を記録することは、方位センサに対する重力ベクトルを測定することを含む装置が提供される。
【0007】
別の態様によれば、本開示によって、寛骨臼カップインパクタを位置決めする方法であって、患者の骨領域に対して固定された第1の場所に電子方位センサを配置することと、第1の場所に配置された電子方位センサを用いて、患者の骨領域の基準方位を記録することを、方位センサに対する重力ベクトルを測定することと、第1の場所から医療ツール上の第2の場所へ電子方位センサを移すことであって、医療ツールは、医療用インプラントの移植用の患者の骨領域に対して所望の方位に移動可能である、移すことと、第2の場所に配置された方位センサを用いて基準方位に対する医療ツールの方位を決定することと、によって行うことと、を含む方法が提供される。
【0008】
さらに別の態様によれば、本開示によって電子方位センサが提供される。センサは、患者の骨盤領域上の第1の場所から寛骨臼カップインパクタ上の第2の場所に移行可能であり、寛骨臼カップインパクタは、寛骨臼カップの移植用の患者の骨盤領域に対して所望の方位に移動可能である。第1の場所において、方位センサは、患者の骨盤領域の基準方位を記録するように構成され、第2の場所において、方位センサは、基準方位に対する寛骨臼カップインパクタの方位を決定するように構成されている。
【0009】
別の態様によれば、本開示によって、寛骨臼カップインパクタの方位を決定する方法であって、骨領域に対して固定された第1の場所に配置された電子方位センサを用いて患者の骨領域の基準方位を記録することを、方位センサに対する重力ベクトルを測定することと、電子方位センサが医療ツール上の第2の場所に配置されることが、第1の場所から第2の場所に移行された後に行われたときに、電子方位センサを用いて基準方位に対する医療ツールの方位を決定することであって、医療ツールは、医療用インプラントの移植用の骨領域に対して所望の方位に移動可能である、決定することと、によって行うことを含む方法が提供される。
【0010】
さらに別の態様によれば、本開示によって、コンピューティング装置にインストールされたときに、コンピューティング装置に直前の態様の方法を実行させるソフトウェアが提供される。
【0011】
別の態様によれば、本開示によって、人体に接続された方位センサの基準方位を決定する方法であって、基準方位は人体に対するものであり、本方法は、方位センサを人体上の2つの左右対称点と交差する横断ベクトルと位置合わせすることと、人体が仰臥位または腹臥位にある状態で重力ベクトルを方位センサによって測定することと、測定した重力ベクトルと横断ベクトルとに基づいて、方位センサに対する人体の長手方向ベクトルを決定することと、を含む方法が提供される。
【0012】
さらに別の態様によれば、本開示によって、人体に接続された方位センサの基準方位を決定する方法であって、基準方位は人体に対するものであり、本方法は、人体が仰臥位または腹臥位にある状態で重力ベクトルを方位センサによって測定することと、人体をその長手軸の周りに回転させながらセンサを用いてセンサの方位を測定することによって、方位センサに対する人体の長手方向ベクトルを決定することと、決定した前後方向及び長手方向ベクトルに基づいて、センサに対する人体の横断ベクトルを決定することと、を含む方法が提供される。
【0013】
別の態様によれば、本開示によって、人体に接続された方位センサの基準方位を決定する方法であって、基準方位は人体に対するものであり、本方法は、人体が仰臥位または腹臥位にある状態で、重力ベクトルを方位センサによって測定することと、人体が側臥位にある状態で、重力ベクトルを方位センサによって測定することと、側臥位で測定した重力ベクトルに基づいて、センサに対する人体の横断ベクトルを決定することと、決定した重力及び横断ベクトルに基づいて、センサに対する人体の長手方向ベクトルを決定することと、を含む方法が提供される。
【0014】
別の態様によれば、本開示によって、人体に接続された方位センサの基準方位を決定する方法であって、基準方位は人体に対するものであり、本方法は、人体上の2つの左右対称点と交差する横断ベクトルと、人体が仰臥位または腹臥位にある状態での重力ベクトルとに対する方位センサの方位を示す位置合わせデータを受け取ることと、測定した重力ベクトルに基づいて方位センサに対する人体の前後方向ベクトルを決定することと、測定した重力ベクトルと横断ベクトルとに基づいて方位センサに対する人体の長手方向ベクトルを決定することと、を含む方法が提供される。
【0015】
別の態様によれば、本開示によって、人体に接続された方位センサの基準方位を決定する方法であって、基準方位は人体に対するものであり、本方法は、人体が仰臥位または腹臥位にある状態での重力ベクトルと、センサに対する人体の長手方向ベクトルとに対する方位センサの方位を示す位置合わせデータを受け取ることと、測定した重力ベクトルに基づいてセンサに対する人体の前後方向ベクトルを決定することと、決定した前後方向及び長手方向ベクトルに基づいて、センサに対する人体の横断ベクトルを決定することと、を含む方法が提供される。
【0016】
別の態様によれば、本開示によって、人体に接続された方位センサの基準方位を決定する方法であって、基準方位は人体に対するものであり、本方法は、人体が仰臥位または腹臥位にある状態での重力ベクトルと、人体が側臥位にある状態での重力ベクトルとに対する方位センサの方位を示す位置合わせデータを受け取ることと、測定した重力ベクトルに基づいてセンサに対する人体の前後方向ベクトルを決定することと、側臥位で測定した重力ベクトルに基づいて、センサに対する人体の横断ベクトルを決定することと、決定した前後方向及び横断ベクトルに基づいてセンサに対する人体の長手方向ベクトルを決定することと、を含む方法が提供される。
【0017】
別の態様によれば、本開示によって、股関節形成装置であって、寛骨臼カップの移植用の患者の骨盤領域に対して所望の方位に移動可能な寛骨臼カップインパクタと、患者の骨盤領域上の第1の場所と寛骨臼カップインパクタ上の第2の場所との間で移行可能な電子方位センサと、患者の骨盤の一部と所定の方位で嵌合するように構成された嵌合部品と、を含み、第1の場所において、方位センサは嵌合部品に結合されているかまたはこれと一体化され、また患者の骨盤領域の基準方位を記録するように構成され、第2の場所において、方位センサは、基準方位に対する寛骨臼カップインパクタの方位を決定するように構成されている、股関節形成装置が提供される。
【0018】
別の態様によれば、本開示によって、寛骨臼カップインパクタを位置決めする方法であって、嵌合部品を患者の骨盤領域上の第1の場所に配置することであって、嵌合部品は第1の場所において患者の骨盤領域の一部と嵌合するように構成され、嵌合部品には電子方位センサが結合されている、配置することと、第1の場所に配置された電子方位センサを用いて患者の骨盤領域の基準方位を記録することと、電子方位センサを第1の場所から寛骨臼カップインパクタ上の第2の場所へ移すことであって、寛骨臼カップインパクタは、寛骨臼カップの移植用の患者の骨盤領域に対して所望の方位に移動可能である、移すことと、第2の場所に配置された方位センサを用いて、基準方位に対する寛骨臼カップインパクタの方位を決定することと、を含む方法が提供される。
【0019】
一実施形態では、方位センサは、取り外し可能な固定手段を介して寛骨臼カップインパクタ上(たとえば、インパクタの柄部の遠位端)にマウントされているかまたはマウントされるように構成されている。装置は、方位センサ及びインパクタの両方を嵌合させて、方位センサ及びインパクタの互いに対する位置を取り外し可能に固定するように構成されたマウントを含んでいてもよい。マウントは、2つのクランプ部分(たとえば、方位センサ及びインパクタにそれぞれクランプするように構成されている)を含んでいてもよい。同様に、方位センサは、取り外し可能な固定手段を介して骨盤領域上にマウントされているかまたはマウントされるように構成されていてもよい。装置は、方位センサ及び骨盤領域の両方を嵌合させて、方位センサ及び骨盤領域の互いに対する位置を取り外し可能に固定するように構成されたマウントを含んでいてもよい。マウントは、2つのクランプ部分(たとえば、方位センサ及び骨盤領域にそれぞれクランプするように構成されている)を含んでいてもよい。全般的に、骨盤領域及びインパクタ上の第1または第2の場所にそれぞれ配置されたときに、方位センサは、骨盤領域またはインパクタに直接接触してもよいしそうでなくてもよい。しかし、方位センサの方位を骨盤領域またはインパクタに対して実質的に固定してもよい。
【0020】
方位センサを、3次元空間における基準方位に対する寛骨臼カップインパクタの方位を決定するように構成してもよい。寛骨臼カップインパクタの柄部及びシャフトの長手軸の相対方位を決定してもよい。相対方位を、座標系の3つの直交軸の周りの相対回転の度合いとして(たとえば、オイラー角または他のものとして)決定してもよい。基準方位をローカルな座標系に対して与えてもよい。
【0021】
方位センサは、方位の変化を、たとえば、重力場、磁界、及び/または加速度に基づいて決定してもよい。方位センサは、指定された基準方位に対するインパクタの方位の計算を、骨盤領域上の第1の場所からインパクタ上の第2の場所に移行するときに、またインパクタの任意の以後の動きの間に動くときに、複数の軸の周りの回転度をモニタすることによって行ってもよい。方位センサは、ジャイロスコープ、磁界センサ、加速度計、角度位置センサ、及び/または回転センサ、及び/または1つ以上の他のタイプの運動または絶対位置もしくは相対位置センサのうちの1つ以上を含んでいてもよい。
【0022】
装置及び/または方位センサは、インパクタの相対方位及び/または臨床医もしくは他のユーザに対して、基準方位についての情報を、たとえば、テキスト、グラフィックス、オーディオ、及び/または触覚フィードバックを介してもたらすように構成された出力装置を含んでいてもよい。出力装置は、たとえば、ディスプレイ、スピーカ、及び/またはバイブレーターを含んでいてもよい。
【0023】
装置及び/または方位センサは、基準方位及び/または基準方位に対するインパクタの相対方位を決定するように構成されたプロセッサを含んでいてもよい。
【0024】
装置及び/または方位センサは、臨床医または他のユーザから入力を受け取るように構成された入力装置を含んでいてもよい。入力装置は、1つ以上のボタン、キーボード、タッチ感応スクリーン、音声検出器、または他のものを含んでいてもよい。入力装置は、ユーザからインパクタの所望の方位(たとえば、所望の前捻角及び/または傾斜角)及び/または測定した方位データ(たとえば、測定した前捻角及び/または傾斜角)についての入力を受け取ってもよい。入力装置は、方位センサが骨盤領域上に配置されたときを示す入力をユーザから受け取ってもよい。方位センサが骨盤領域上に配置されたときを示す入力を与えることによって、方位センサによる基準方位の記録をトリガしてもよい。
【0025】
インパクタの所望の方位は、寛骨臼カップの最適な移植方位に対応してもよい。最適な方位を、たとえば、傾斜(外転)及び/または前捻角によって規定してもよい。所望の方位は、所望の前捻角もしくは所望の傾斜角または前捻角及び傾斜角の所望の組み合わせであってもよい。前捻角及び傾斜角は、解剖学的基準系を用いるか、X線画像基準系を用いるか、または動作基準系を用いるかに応じて別々に規定することができる。本明細書における説明では、別段の指定がない限り、所望の及び測定した前捻角及び傾斜角を解剖学的基準系について規定する。しかしながら、説明した技術は、この基準系に対して規定した角度のみを用いることには限定されない。
【0026】
インパクタの所望の方位は、患者の生体構造及び外科医の選好を含む手術の状況に依存してもよい。通常の所望の前捻角は約20°であり、通常の所望の傾斜角は約45°である。しかしながら、所望の前捻は、たとえば-35°~60°または0°~40°のどこでもよく、所望の傾斜は、たとえば25°~60°または35°~50のどこでもよい。
【0027】
一実施形態では、方位センサ、プロセッサ、入力装置、及び出力装置のいずれか1つ以上が、単一の電子装置(たとえば、スマートフォン、タブレットコンピュータ、または同様のもの)に含まれていてもよい。電子装置は、これらの要素のうちの1つ以上を制御するように構成されたソフトウェアプログラムまたはソフトウェア「アプリ」を実行してもよい。
【0028】
前述したように、電子方位センサを用いて寛骨臼カップインパクタの方位を決定することができるが、電子方位センサを用いて手術中の骨盤領域における方位の変化をモニタしてもよい。
【0029】
詳細には、一態様によれば、本開示によって、患者の骨盤領域上に配置可能な電子方位センサを含む股関節形成装置であって、方位センサは、患者の骨盤領域の基準方位を記録して、その後に基準方位に対する骨盤領域の方位の変化をモニタするように構成されている股関節形成装置が提供される。
【0030】
別の態様によれば、本開示によって、手術中の骨盤領域の方位の変化をモニタする方法であって、患者の骨盤領域上に電子方位センサを配置して、電子方位センサを用いて患者の骨盤領域の基準方位を記録することと、方位センサを用いて、基準方位に対する骨盤領域の方位の変化をモニタすることと、を含む方法が提供される。
【0031】
さらに別の態様によれば、本開示によって電子方位センサが提供される。センサは患者の骨盤領域上に配置可能であり、そこではセンサは患者の骨盤領域の基準方位を記録して基準方位に対する骨盤領域の方位の変化をモニタするように構成される。
【0032】
別の態様によれば、本開示によって、手術中の骨盤領域の方位の変化をモニタする方法であって、患者の骨盤領域上に配置された電子方位センサを用いて患者の骨盤領域の基準方位を記録することと、基準方位に対する骨盤領域の方位の変化をモニタすることと、を含む方法が提供される。
【0033】
さらに別の態様によれば、本開示によって、コンピューティング装置にインストールされたときに、コンピューティング装置に直前の態様の方法を実行させるソフトウェアが提供される。
【0034】
方位センサを、以前の態様に対して前述したように構成してもよい。装置及び/または方位センサは、以前の態様に対して前述したように、出力装置及び/または入力装置を含んでいてもよい。
【0035】
骨盤領域の方位の変化のモニタリングを、以前の態様に対して記載したような寛骨臼カップインパクタの方位を決定することとは独立に、またはそれとともに用いてもよい。
【0036】
全般的に、骨盤領域は手術の間に動く可能性があり、これによって、骨盤領域の基準方位に対して寛骨臼カップインパクタの方位を決定する処置に誤差が持ち込まれる可能性がある。実際には、骨盤領域が動くと、記録した基準方位が不正確となる可能性がある。骨盤領域の方位の変化をモニタすることによって、補正を適用することができる。一実施形態では、方位センサを骨盤領域上に配置して、別の方位センサを、骨盤領域の基準方位を記録した後に、寛骨臼カップインパクタ上に配置する。骨盤領域上に配置された方位センサは、寛骨臼カップインパクタ上に配置された方位センサと、たとえば無線でまたは他の方法で通信して、骨盤領域の方位の変化についての情報をもたらして、記録した基準方位を補正することができるように構成されている。補正は実質的に「リアルタイム」で行ってもよい。
【0037】
また本開示の他の種々の態様によって、股関節形成で用いる装置及び方法であって、寛骨臼カップインパクタを用いて患者の骨盤領域の寛骨臼に寛骨臼カップを移植する装置及び方法が提供される。画像取込装置を、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の一方にマウントすることができる。画像取込装置は、寛骨臼カップインパクタ及び骨盤領域の他方の画像を取り込むように構成されている。画像はディスプレイ上に示すことができ、また1つ以上の印(たとえば、マーカー)を含むことができる。画像内の1つ以上の印の観察を通して、寛骨臼カップインパクタを所望の方位にガイドすることができる。
【0038】
一態様によれば、本開示によって、股関節形成装置であって、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の一方にマウントされるように構成された画像取込装置であって、寛骨臼カップインパクタは、寛骨臼カップの移植用の患者の骨盤領域に対して所望の方位に移動可能であり、画像取込装置は、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の他方の画像、たとえば寛骨臼カップインパクタ及び骨盤領域のその他方に位置する1つ以上の第1のマーカー、を取り込むように構成されている、画像取込装置と、画像取込装置に接続されたディスプレイ装置であって、画像取込装置から取り込まれた画像を表示するように構成されたディスプレイ装置と、プロセッサであって、ディスプレイ装置が表示する画像内に1つ以上の第2のマーカーの重ね合わせを生じさせて、表示画像内に示された第1のマーカーのうちの1つ以上が、表示画像内で重ね合わされた第2のマーカーのうちの1つ以上と実質的に位置合わせされたときに、寛骨臼カップインパクタが所望の方位に配向されるように構成されたプロセッサと、を含む股関節形成装置が提供される。
【0039】
別の態様によれば、本開示によって、寛骨臼カップインパクタを位置決めする方法であって、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の一方に画像取込装置をマウントすることであって、寛骨臼カップインパクタは、寛骨臼カップの移植用の患者の骨盤領域に対して所望の方位に移動可能である、マウントすることと、画像取込装置を用いて、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の他方の画像(寛骨臼カップインパクタ及び骨盤領域のその他方に位置する1つ以上の第1のマーカーを含む)を取り込むことと、画像取込装置から取り込まれた画像を、画像取込装置に接続されたディスプレイ装置上に表示することと、ディスプレイ装置が表示する画像内で1つ以上の第2のマーカーを重ね合わせて、表示画像内に示された第1のマーカーのうちの1つ以上が、表示画像内で重ね合わされた第2のマーカーのうちの1つ以上と実質的に位置合わせされたときに、寛骨臼カップインパクタが所望の方位に配向されるようにすることと、を含む方法が提供される。
【0040】
一実施形態では、画像取込装置は、寛骨臼カップインパクタ上にマウントされているかまたはマウントされるように構成され、また画像取込装置は、患者の骨盤領域の画像(たとえば、患者の骨盤領域に位置する1つ以上の第1のマーカー)を取り込むように構成されている。装置は、画像取込装置及びインパクタの両方を嵌合させて、画像取込装置及びインパクタの互いに対する位置を取り外し可能に固定するように構成されたマウントを含んでいてもよい。マウントは、たとえば、画像取込装置及びインパクタにそれぞれクランプするように構成された2つのクランプ部分を含んでいてもよい。
【0041】
この実施形態では、1つ以上の第1のマーカーは1つ以上の解剖学的ランドマークを含んでいてもよい。たとえば、1つ以上の解剖学的ランドマークは上前腸骨棘の一方または両方を含んでいてもよい。一実施形態では、1つ以上の第1のマーカーは、上前腸骨棘間を延びるベクトル線を含んでいる。ベクトル線は上前腸骨棘間の想像線であってもよいし、または患者の骨盤領域上に引かれたラインであってもよい。代替的に、ベクトル線は、骨盤に接続されるかまたは隣接して位置するマーカー要素(たとえば、ロッド、バール、または他の装置)の縁部、チャネル、または視覚的特徴上に引かれるかまたはそれらによって与えられるラインであってもよい。
【0042】
装置は傾斜センサを含んでいてもよい。傾斜センサを、寛骨臼カップインパクタ及び/または画像取込装置に対して固定してもよい。インパクタ及び/または画像取込装置の傾斜を、画像取込装置が動いたときに、たとえば、寛骨臼カップインパクタを動かした結果として、決定することができる。傾斜を、たとえば、水平面に対して測定してもよい。
【0043】
ディスプレイ装置、プロセッサ、及び傾斜センサのいずれか1つ以上に加えて、画像取込装置を、単一の電子装置(たとえばスマートフォン、タブレットコンピュータ、または同様のもの)に含めてもよい。電子装置は、本開示の装置及び方法によりディスプレイ装置、プロセッサ及び/または傾斜センサを制御するように構成されたソフトウェアプログラムまたはソフトウェア「アプリ」を実行してもよい。
【0044】
装置のマウントを、電子装置及びインパクタの両方を嵌合させて、電子装置及びインパクタの互いに対する位置を取り外し可能に固定するように構成してもよい。マウントは、2つのクランプ部分(たとえば、電子装置及びインパクタにそれぞれクランプするように構成されている)を含んでいてもよい。
【0045】
インパクタの所望の方位は、寛骨臼カップの最適な移植方位に対応してもよい。最適な方位を、たとえば、傾斜角(外転)及び/または前捻によって規定することができる。所望の方位は、所望の前捻角もしくは所望の傾斜角または前捻角及び傾斜角の所望の組み合わせであってもよい。
【0046】
プロセッサは、インパクタに関する方位データを受け取るように構成してもよい。方位データは、インパクタの所望の方位(たとえば、所望の前捻角及び/または傾斜角)、及び/または測定した方位データ(たとえば、測定した前捻角及び/または傾斜角)を含んでいてもよい。受け取った方位データに基づいて、プロセッサは、画像内に表示された1つ以上の第2のマーカーに対する適切な位置及び/または方位を決定してもよい。通常の所望の前捻角は約20°であり、通常の所望の傾斜角は約45°である。しかしながら、患者の生体構造及び外科医の選好を含む状況に応じて、所望の前捻は0°~40°または-35°~60°のどこでもよく、所望の傾斜は35°~50または25°~60°のどこでもよい。
【0047】
一態様によれば、本開示によって、股関節形成処置における寛骨臼カップインパクタの位置決めをガイドする方法であって、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の一方にマウントされるように構成された画像取込装置であって、寛骨臼カップインパクタは、寛骨臼カップの移植用の患者の骨盤領域に対して所望の方位に移動可能であり、画像取込装置は、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の他方の画像、たとえば寛骨臼カップインパクタ及び骨盤領域のその他方に位置する1つ以上の第1のマーカー、を取り込むように構成されている、画像取込装置と、画像取込装置に接続されたディスプレイ装置であって、画像取込装置から取り込まれた画像を表示するように構成されたディスプレイ装置と、プロセッサであって、ディスプレイ装置が表示する画像内に1つ以上の第2のマーカーの重ね合わせを生じさせて、表示画像内に示された第1のマーカーのうちの1つ以上が、表示画像内で重ね合わされた第2のマーカーのうちの1つ以上と実質的に位置合わせされたときに、寛骨臼カップインパクタが所望の方位に配向されるように構成されたプロセッサと、を含む股関節形成装置とともに用いることに適応され、本方法は、寛骨臼カップインパクタの所望の方位角度と寛骨臼カップインパクタの測定した方位角度とのデータを含む受け取った方位データに基づいて、ディスプレイ装置が表示する画像内で重ね合わせるべき1つ以上の第2のマーカーに対する位置及び方位を決定すること、を含む方法が提供される。
【0048】
一実施形態では、受け取った方位データは、寛骨臼カップインパクタの所望の前捻角とインパクタの測定した傾斜角とを含んでいる。別の実施形態では、受け取った方位データは、寛骨臼カップインパクタの所望の傾斜角とインパクタの測定した前捻角とを含んでいる。別の実施形態では、受け取った方位データは、寛骨臼カップインパクタの所望の前捻角及び傾斜角と、インパクタの測定した前捻角及び傾斜角とを含んでいる。
【0049】
一実施形態では、測定した角度のうちの1つ以上を、少なくとも部分的に特徴認識プロセスを通して取得してもよい。たとえば、画像内の第1のマーカーのうちの1つ以上の位置決めを決定することによって、寛骨臼カップインパクタの前捻角及び傾斜角の1つ以上を測定してもよい。
【0050】
それに加えてまたはその代わりに、測定した方位角度を少なくとも部分的に傾斜センサによって取得することを、特に傾斜センサがインパクタに対する所定の位置に固定されたときに行ってもよい。傾斜センサは重力場を参照して傾斜を決定し得るため、傾斜センサがインパクタに対して測定した前捻角を与えるかまたは測定した傾斜角を与えるかは、手術中の患者の方位(たとえば、仰臥位または横方向横臥位にあるか否か)に依存する可能性がある。
【0051】
一実施形態では、傾斜センサは前捻角及び傾斜角のうちの一方の測定値を与えてもよい。測定値をディスプレイ上(または異なるディスプレイ上)に示して継続的に更新することができる。このことから、第2のマーカーを用いて、前捻角及び傾斜角のうちの他方に対するインパクタの配向のみをガイドしてもよい。したがって、外科医はインパクタの配向を、単純に傾斜センサからの表示測定値の変化を観察してそれに応じてインパクタを動かすことによって所望の前捻角及び所望の傾斜角のうちの一方を有するように行ってもよいし、また外科医はインパクタの配向を、表示画像内に示された第1のマーカーのうちの1つ以上を、表示画像内で重ね合わされた第2のマーカーのうちの1つ以上と位置合わせすることによって、所望の前捻角及び所望の傾斜角の他方を有するように行ってもよい。
【0052】
1つ以上の第2のマーカーに対する位置及び/または方位を決定するステップを、プロセッサが行ってもよい。
【0053】
一態様では、本開示によって、先行する態様の方法をプロセッサに実行させるソフトウェアが提供される。ソフトウェアは、プロセッサを含む電子装置上にインストールされたときに、先行する態様の方法をプロセッサに実行させてもよい。
【0054】
示したように、プロセッサを電子装置(たとえば、スマートフォン、タブレットコンピュータ、ラップトップコンピュータ、パーソナルコンピュータ、または他のもの)に含めてもよい。電子装置は、前述した装置の他の特徴(たとえば画像取込装置、表示装置、及び/または傾斜センサ)を含んでいてもよい。ソフトウェアは、アプリケーションソフトウェア(たとえば、「アプリ」)という形を取ってもよい。アプリケーションソフトウェアは、メディアライブラリ(たとえば、iTunes(登録商標)またはAndroid(登録商標)メディアライブラリ、または他のもの)からダウンロード可能であってもよい。
【0055】
それにもかかわらず、より全般的に、本明細書で開示したプロセッサまたは処理装置は、装置の1つ以上のコンポーネントを制御するための多くの制御または処理モジュールを含んでいてもよく、また所望の角度データ、測定した角度データ、方位データ、及び/または患者データなどを記憶するための1つ以上の記憶要素を含んでいてもよいことが理解される。モジュール及び記憶要素は1つ以上の処理装置及び1つ以上のデータ記憶装置を用いて実施することができる。モジュール及び/または記憶装置は、1つの場所にあってもよいし、または複数の場所に渡って分散して1つ以上の通信リンクによって相互接続してもよい。処理装置としては、タブレット、スマートフォン、ラップトップコンピュータ、パーソナルコンピュータ、携帯情報端末、及び他のタイプの電子装置(たとえば、本開示による方法を行うために特に製造されたシステム)を挙げてもよい。
【0056】
さらに、処理モジュールを、コンピュータプログラム、またはプログラム命令を含むプログラムコードによって実施することができる。コンピュータプログラム命令は、説明したステップをプロセッサに実行させるように動作可能であるソースコード、オブジェクトコード、マシンコード、または任意の他の記憶データを含むことができる。コンピュータプログラムは、任意の形態のプログラミング言語(たとえば、コンパイルまたはインタープリットされた言語)で書き込むことができ、また任意の形態で(たとえば、スタンドアロンプログラムとして、またはモジュール、コンポーネント、サブルーチン、もしくは他のユニットであってコンピューティング環境で用いるのに適したものとして)実施することができる。データ記憶装置(複数可)としては、好適なコンピュータ可読媒体、たとえば揮発性(たとえば、RAM)及び/または不揮発性(たとえば、ROM、ディスク)メモリ、または他のものを挙げてもよい。
【0057】
プロセッサを、受け取った方位データに応じて、ディスプレイ装置が表示する画像内で重ね合わされた1つ以上の第2のマーカーの方位を調整するように構成してもよい。たとえば、プロセッサを、測定した方位データに応じて、ディスプレイ装置が表示する画像内で重ね合わされた1つ以上の第2のマーカーの方位を継続的に調整するように構成してもよい。1つ以上の第2のマーカーはラインを含んでいてもよく、ラインの方位(表示画像の全部または一部に渡ってラインが延びる角度)を調整してもよい。代替的な実施形態において、1つ以上の第2のマーカーは、ドット、形状、段階的なシェーディング及び/または着色などを含んでいてもよい。
【0058】
ディスプレイ装置が表示する画像内で重ね合わされる1つ以上の第2のマーカーの方位は、少なくとも部分的に、それらが重ね合わされる画像内の位置に依存してもよい。たとえば、第2のマーカーのうちの1つを、画像の下部領域(下部領域は、画像取込装置の視野の下方部分または角度に対して生成された画像部分に対応する)の方に重ね合わせる場合、その第2のマーカーの配向を、第2のマーカーのうちの1つを画像の上部領域(上部領域は、画像取込装置の視野の上方部分または角度に対して生成された画像部分に対応する)の方に重ね合わせるときの方位とは異なるものとするように、プロセッサを構成することができる。プロセッサを、画像の異なる位置(たとえば、画像取込装置の視野の中心(0°)軸から異なる距離にある)に対して、その位置で重ね合わせるべき第2のマーカーに対する適切な方位を、所望の及び測定した前捻角及び/または傾斜角に応じて、継続的に決定するように構成してもよい。全般的に、このアプローチでは次のことを認めている。すなわち、画像取込装置の視野は、画像取込装置が取り込んだ画像内に見られる物品の角度範囲(したがって方位)を必然的にカバーし、画像取込装置がマウントされるインパクタに対して、カメラの視野内でこれらの物品が配置される場所に部分的に依存する。プロセッサは、第2のマーカーを重ね合わせるべき画像内の複数の位置に対して複数の異なる第2のマーカー方位角度を決定するように構成してもよく、またプロセッサを、それに応じて画像内で複数の第2のマーカーを重ね合わせるように構成してもよい。
【0059】
一実施形態では、患者は仰臥位にある。画像取込装置及び傾斜センサをインパクタ上にマウントする。傾斜センサは、インパクタの前捻角を測定して、測定した前捻角をプロセッサに継続的に与えるように構成されている。またプロセッサは、インパクタの所望の傾斜角に関して、データ入力を受け取るように構成されているかまたは予めプログラムされている。継続的に測定した前捻角及び所望の傾斜角に部分的に基づいて、プロセッサは、画像上に重ね合わせるべき複数の第2のマーカーの各1つの適切な方位を、画像内の異なる位置(たとえば、画像取込装置の視野の中心軸からの画像内の異なる距離)に対して継続的に決定するように構成され、またプロセッサは、それに応じて画像内で第2のマーカーを重ね合わせるように構成されている。第2のマーカーに対する適切な方位はインパクタの傾斜(測定した前捻)に応じて変化するため、画像内の第2のマーカーの方位は、外科医がインパクタを動かすときに実質的に「リアルタイム」で変化してもよい。一方で、プロセッサは、測定した前捻角をディスプレイ上に示し、測定した前捻角が変化したときにディスプレイを継続的に更新するように構成されている。
【0060】
この実施形態では、画像内で可視の少なくとも1つの第1のマーカーが、その最も近い第2のマーカーまたは第2のマーカー(複数)と実質的に位置合わせされたときに、インパクタは実質的に所望の傾斜角で配向される。同時に、所望の前捻角を、ディスプレイ上に示された測定した前捻角を観察し、それに応じてインパクタを動かすことによって実現することができる。
【0061】
代替的な実施形態では、患者は横方向横臥位にある。画像取込装置及び傾斜センサはインパクタにマウント/固定されている。したがって、先行する実施形態とは対照的に、傾斜センサは、インパクタの傾斜角を測定して、測定した傾斜角をプロセッサに継続的に与えるように構成されている。またプロセッサは、インパクタの所望の前捻角に関して、データ入力を受け取るように構成されているかまたは予めプログラムされている。継続的に測定した傾斜角及び所望の前捻角に部分的に基づいて、プロセッサは、画像上に重ね合わせるべき複数の第2のマーカーの各1つの適切な方位を、画像内の異なる位置(たとえば、画像取込装置の視野の中心軸からの画像内の異なる距離)に対して継続的に決定するように構成され、またプロセッサは、それに応じて画像内で第2のマーカーを重ね合わせるように構成されている。第2のマーカーに対する適切な方位は、インパクタの傾斜(測定した傾斜)に応じて変化するため、画像内の第2のマーカーの方位は、外科医がインパクタを動かすときに実質的に「リアルタイム」で変化してもよい。一方で、プロセッサは、測定した傾斜角をディスプレイ上に示し、測定した傾斜角が変化するときにディスプレイを継続的に更新するように構成されている。
【0062】
この実施形態では、画像内で可視の少なくとも1つの第1のマーカーが、その最も近い第2のマーカーまたは第2のマーカー(複数)と実質的に位置合わせされたときに、インパクタは実質的に所望の前捻角で配向される。同時に、所望の傾斜角を、ディスプレイ上に示された測定した傾斜角を観察し、それに応じてインパクタを動かすことによって実現することができる。
【0063】
代替的な実施形態では、画像取込装置は、骨盤領域(たとえば、骨盤骨)上にマウントされているかまたはマウントされるように構成されており、また画像取込装置は、寛骨臼カップインパクタの画像(たとえば、寛骨臼カップインパクタ上に位置する1つ以上の第1のマーカー)を取り込むように構成されている。装置は、画像取込装置及び骨盤領域の両方を嵌合させて、画像取込装置及び骨盤領域の位置を取り外し可能に固定するように構成されたマウントを含んでいてもよい。マウントは、2つのクランプ部分(画像取込装置及び骨盤領域にそれぞれクランプするように構成されている)を含んでいてもよい。
【0064】
この実施形態では、1つ以上の第1のマーカーは、寛骨臼カップインパクタの1つ以上の特徴部及び/または寛骨臼カップインパクタに取り付けられた1つ以上のナビゲーション要素を含んでいてもよい。たとえば、インパクタは概ね細長くてもよく、長手軸を規定してもよい。1つ以上の第1のマーカーは、長手軸に沿って延びるベクトル線を含んでいてもよい。ベクトル線は想像線、インパクタ上に引かれたライン、または縁部によって与えられるライン、インパクタのチャネルもしくは他の視覚的特徴であってもよい。それに加えてまたはその代わりに、他のタイプのマーカーを用いてもよい。たとえば、1つ以上の円、部分円、楕円、部分楕円、球体、または他の形状を、インパクタに対する固定位置に与えてもよい。複数の第1のマーカーを与える場合、たとえば、インパクタの長手軸に沿った異なる距離にマーカーを位置決めしてもよい。
【0065】
この実施形態は、前捻角及び傾斜角の一方を継続的に決定するために傾斜センサを利用してもよいという点で、前述した実施形態のうちの1つ以上と異なっていてもよい。特に、画像取込装置及び傾斜センサが一体化されて単一装置になっているとき、画像取込装置は骨盤領域(インパクタを動かすときに重力場に対して実質的に静止したままである)にマウントされているため、傾斜センサはインパクタの前捻または傾斜の変化のモニタリングには利用できない場合がある。それにもかかわらず、手術の前、最中、及び/または後に骨盤の方位を決定するために、位置合わせツールとして傾斜センサを用いてもよい。
【0066】
校正手順を用いて、表示画像上に重ね合わせるべき1または第2のマーカーに対する適切な位置を決定して、表示画像内に示された第1のマーカーのうちの1つ以上が、表示画像内で重ね合わされた第2のマーカーのうちの1つ以上と実質的に位置合わせされたときに、寛骨臼カップインパクタが所望の方位に配向されるようにしてもよい。校正手順を行って、画像取込装置に対するインパクタの旋回点、インパクタの長さ、及び/またはインパクタ上での1つ以上のマーカーの位置を概ね決定してもよい。これらの詳細に基づいて、プロセッサは、インパクタを所望の方位に位置決めすることをガイドするために、1つ以上の第2のマーカーを画像内のどこに重ね合わせるべきかを決定してもよい。
【0067】
校正手順を、インパクタ及び寛骨臼カップが骨盤領域の股関節ソケット内で嵌合された状態で行ってもよく、及び/または骨盤領域から遠くで行ってもよい。
【0068】
校正手順の間、プロセッサは、画像上に1つ以上の第3のマーカーを重ね合わせてもよい。第3のマーカーは、校正手順の間に第1のマーカーのうちの1つ以上を配置すべき1つ以上の位置を示す。それに応じて位置決めするとき、プロセッサにさらなる情報を与えるようにユーザ行為が必要であってもよい。たとえば、第1のマーカーのうちの1つが第3のマーカーのうちの1つと位置合わせされたときに、ユーザは、ディスプレイ上で、第1のマーカーのうちの異なる1つの場所及び/またはインパクタのシャフトの場所を特定する必要があってもよい。特定は、ディスプレイにタッチすることによって(タッチスクリーンディスプレイを用いている場合)または画像内で可視カーソルを動かして「クリックする」ことによって、行ってもよい。この第3のマーカーとの位置合わせプロセスと以後の場所の特定とを複数回(たとえば、2回、3回、4回、またはそれ以上の回数)繰り返してもよいが、1つ以上の第3のマーカーを各場合の画像内で別々に配置する。
【0069】
いくつかの実施形態では、第2のマーカーを画像上に重ね合わせなくてもよく、他のタイプの印を用いてもよい。インパクタの前捻角及び傾斜角の両方を表す印を、ディスプレイ上で実質的に「リアルタイム」で移動させて、たとえば、表示角度に対する変化の観測に基づいて、外科医がインパクタを所望の方位に動かすことができてもよい。
【0070】
このことから、一態様によれば、本開示によって、股関節形成装置であって、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の一方にマウントされるように構成された画像取込装置であって、寛骨臼カップインパクタは、寛骨臼カップの移植用の患者の骨盤領域に対して所望の方位に移動可能であり、画像取込装置は、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の他方の画像、たとえば寛骨臼カップインパクタ及び骨盤領域のその他方に位置する1つ以上の第1のマーカー、を取り込むように構成されている、画像取込装置と、画像取込装置に接続されたディスプレイ装置であって、画像取込装置から取り込まれた画像を表示するように構成されたディスプレイ装置と、寛骨臼カップインパクタを所望の方位にガイドするために、ディスプレイ装置が表示する画像内に1つ以上の印を与えるように構成されたプロセッサと、を含む股関節形成装置が提供される。
【0071】
別の態様によれば、本開示によって、寛骨臼カップインパクタを位置決めする方法であって、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の一方に画像取込装置をマウントすることであって、寛骨臼カップインパクタは、寛骨臼カップの移植用の患者の骨盤領域に対して所望の方位に移動可能である、マウントすることと、画像取込装置を用いて、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の他方の画像(寛骨臼カップインパクタ及び骨盤領域のその他方に位置する1つ以上の第1のマーカーを含む)を取り込むことと、画像取込装置から取り込まれた画像を画像取込装置に接続されたディスプレイ装置上に表示することと、ディスプレイ装置が表示する画像内に1つ以上の印を与えて、寛骨臼カップインパクタを所望の方位にガイドすることと、を含む方法が提供される。
【0072】
さらに別の態様によれば、本開示によって、股関節形成処置における寛骨臼カップインパクタの位置決めをガイドする方法であって、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の一方にマウントされるように構成された画像取込装置であって、寛骨臼カップインパクタは、寛骨臼カップの移植用の患者の骨盤領域に対して所望の方位に移動可能であり、画像取込装置は、寛骨臼カップインパクタ及び患者の骨盤領域の他方の画像、たとえば寛骨臼カップインパクタ及び骨盤領域のその他方に位置する1つ以上の第1のマーカー、を取り込むように構成されている、画像取込装置と、画像取込装置に接続されたディスプレイ装置であって、画像取込装置から取り込まれた画像を表示するように構成されたディスプレイ装置と、寛骨臼カップインパクタを所望の方位にガイドするために、ディスプレイ装置が表示する画像内に1つ以上の印を与えるように構成されたプロセッサと、を含む股関節形成装置とともに用いることに適応され、本方法は、少なくとも画像内の1つ以上の第1のマーカーの位置決めに基づいて、寛骨臼カップインパクタの方位データを決定することと、決定した方位に基づいて、ディスプレイ装置が表示する画像内に1つ以上の印を与えて、寛骨臼カップインパクタを所望の方位にガイドすることと、を含む方法が提供される。
【0073】
さらに別の態様によれば、本開示によって、股関節形成装置であって、寛骨臼カップの移植用の患者の骨盤領域に対して所望の方位に移動可能な寛骨臼カップインパクタと、患者の骨盤領域上の第1の場所と寛骨臼カップインパクタ上の第2の場所との間で移行可能な電子方位センサと、患者の骨盤の一部と所定の方位で嵌合するように構成された嵌合部品と、を含み、第1の場所において、方位センサは嵌合部品に結合されているかまたは一体化され、また患者の骨盤領域の基準方位を記録するように構成され、第2の場所において、方位センサは、基準方位に対する寛骨臼カップインパクタの方位を決定するように構成されている、股関節形成装置が提供される。
【0074】
さらに別の態様によれば、本開示によって、寛骨臼カップインパクタを位置決めする方法であって、嵌合部品を患者の骨盤領域上の第1の場所に配置することであって、嵌合部品は、第1の場所において患者の骨盤領域の一部と嵌合するように構成され、嵌合部品には電子方位センサが結合されている、配置することと、第1の場所に配置された電子方位センサを用いて患者の骨盤領域の基準方位を記録することと、電子方位センサを第1の場所から寛骨臼カップインパクタ上の第2の場所へ移すことであって、寛骨臼カップインパクタは、寛骨臼カップの移植用の患者の骨盤領域に対して所望の方位に移動可能である、移すことと、第2の場所に配置された方位センサを用いて、基準方位に対する寛骨臼カップインパクタの方位を決定することと、を含む方法が提供される。
【0075】
本明細書の全体にわたって、「含む(comprise)」、または変形たとえば「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」という用語には、記載した要素、完全体、もしくはステップ、または要素、完全体、もしくはステップのグループを含むが、任意の他の要素、整数、もしくはステップ、または要素、完全体、もしくはステップのグループを排除しないという意味が含まれるものと理解される。
【0076】
単に一例として、次に添付図面を参照して実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】電子装置が第1の場所にある本開示の実施形態による装置を示す図である。
【
図2】電子装置が第2の場所にある
図1の装置を示す図である。
【
図3】
図1の電子装置の要素の概略図を示す図である。
【
図4】
図1の電子装置からの骨盤校正表示スクリーンを示す図である。
【
図5】患者の骨盤にマウントされた
図1の電子装置を示す図である。
【
図6】寛骨臼の内部と一致するように成形された一時的なインプラントに結合された電子装置を示す図である。
【
図7a】
図5に示す骨盤が患者の長手軸の周りに回転する様子を示す図である。
【
図7b】
図5に示す骨盤が患者の長手軸の周りに回転する様子を示す図である。
【
図7c】
図5に示す骨盤が患者の長手軸の周りに回転する様子を示す図である。
【
図8a】仰臥位にある
図5の骨盤及び電子装置を示す図である。
【
図8b】側臥位にある
図5の骨盤及び電子装置を示す図である。
【
図9】
図1の電子装置からのインパクタ方位表示スクリーンを示す図である。
【
図10】本開示の別の実施形態で用いる電子装置からのディスプレイスクリーンを示す図である。
【
図11】本開示の別の実施形態による装置を示す図である。
【
図12】本開示の別の実施形態による装置を示す図である。
【
図13】
図12の装置のカメラによって取り込まれた骨盤領域の画像を示す図である。
【
図14】
図12の装置で用いる電子装置の要素の概略図を示す図である。
【
図15】
図13の画像によって覆われた領域のアウトラインを示す図であり、領域内の異なる場所にガイドラインが位置し、ガイドラインはカメラの視野内の10°間隔に対応する領域内の位置を示す図である。
【
図16】複数のマーカーラインであって、各マーカーラインは
図15のガイドラインのうちの1つを参照して位置し、マーカーラインは
図12の装置の寛骨臼カップインパクタの位置決めをガイドするためのものである複数のマーカーラインを示す図である。
【
図17】
図10の画像上に
図16の複数のマーカーラインが重ね合わされた様子を示す図であり、寛骨臼カップインパクタが骨盤領域に対する第1の位置にある図である。
【
図18】
図10の画像上に
図16の複数のマーカーラインが重ね合わされた様子を示す図であり、寛骨臼カップインパクタが骨盤領域に対する第2の位置にある図である。
【
図19】本開示の別の実施形態による装置を示す図である。
【
図20】
図19の装置のカメラによって取り込まれた寛骨臼カップインパクタの画像を示す図である。
【
図21】
図19の装置で用いる電子装置の要素の概略図を示す図である。
【
図22a】
図19の装置のカメラによって取り込まれた画像上に重ね合わされた校正マーカーを示す図である。
【
図22b】
図19の装置のカメラによって取り込まれた画像上に重ね合わされた校正マーカーを示す図である。
【
図22c】
図19の装置のカメラによって取り込まれた画像上に重ね合わされた校正マーカーを示す図である。
【
図22d】
図19の装置のカメラによって取り込まれた画像上に重ね合わされた校正マーカーを示す図である。
【
図23】
図19の装置のカメラによって取り込まれた画像上に重ね合わされた位置合わせマーカーを示す図である。
【
図24】本開示の別の実施形態による装置を示す図である。
【
図25】
図24の装置のカメラによって取り込まれた寛骨臼カップインパクタの画像を示す図である。
【
図26a】
図24の装置のカメラによって取り込まれた画像上に重ね合わされた校正マーカーを示す図である。
【
図26b】
図24の装置のカメラによって取り込まれた画像上に重ね合わされた校正マーカーを示す図である。
【
図26c】
図24の装置のカメラによって取り込まれた画像上に重ね合わされた校正マーカーを示す図である。
【
図26d】
図24の装置のカメラによって取り込まれた画像上に重ね合わされた校正マーカーを示す図である。
【
図27】
図24の装置のカメラによって取り込まれた画像上に重ね合わされた位置合わせマーカーを示す図である。
【
図28a】脊椎骨に結合された
図1の電子装置を示す図である。
【
図28b】脊椎骨に結合された
図1の電子装置を示す図である。
【
図29】医療用インプラントのための脊椎骨内のパイロット孔に穿孔するために用いられる手術用ドリルに結合された
図1の電子装置を示す図である。
【
図30a】前十字靭帯(ACL)再構築のための穿孔角度を例示するX線画像である。
【
図30b】前十字靭帯(ACL)再構築のための穿孔角度を例示するX線画像である。
【
図31a】前十字靭帯(ACL)再構築のための穿孔角度を例示する関節鏡画像である。
【
図31b】前十字靭帯(ACL)再構築に対する穿孔角度を例示するX線画像である。
【
図31c】前十字靭帯(ACL)再構築に対する穿孔角度を例示するX線画像である。
【
図32a】ACL再構築手術の間に大腿骨孔を位置合わせするために
図1の電子装置を用いる様子を例示する図である。
【
図32b】ACL再構築手術の間に大腿骨孔を位置合わせするために
図1の電子装置を用いる様子を例示する図である。
【
図32c】ACL再構築手術の間に大腿骨孔を位置合わせするために
図1の電子装置を用いる様子を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
図1及び2に本開示の実施形態による装置を示す。装置は、寛骨臼カップインパクタ1(寛骨臼カップ11を駆動して患者の骨盤骨12の寛骨臼の位置に移植するように構成されている)と、電子装置2とを含んでいる。電子装置2は、骨盤領域上の第1の場所(
図1を参照)に配置され、その後に寛骨臼カップインパクタ1上の第2の場所(
図2を参照)に配置されるように構成されている。
【0079】
また
図3を参照して、電子装置2は、プロセッサ24に接続されたジャイロスコープ21、磁界センサ22、及び加速度計23を含むことによって、少なくとも部分的に方位センサとして働く。代替的な実施形態では、これらのセンサのうちの1つ以上を除外してもよい。たとえば、加速度計23を除外してもよいしそうでなくてもよい。電子装置2はさらに、プロセッサ24に接続された入力装置を含む。入力装置はタッチスクリーンディスプレイ25の形態である。またタッチスクリーンディスプレイ25はスピーカ26とともに出力装置にもなる。メモリ27がデータ記憶及び取り出しのために設けられている。この実施形態では電子装置2はスマートフォン(たとえば、iPhone(登録商標))であるが、種々の異なる電子装置を用いてもよい。さらに、センサ、プロセッサ、入力及び出力装置を一体化して単一装置にする必要はない。たとえば、一実施形態では、ディスプレイ及びスピーカは、骨盤領域及びインパクタから離れた場所に保持してもよく、プロセッサ24と有線または無線で通信してもよい。
【0080】
寛骨臼カップインパクタ1は、寛骨臼カップ/骨盤領域から遠位に延びるシャフト13と、シャフトの遠位端にある柄部14とを含んでいる。この実施形態では、
図2に示す第2の場所において、電子装置2は柄部14の遠位端に取り外し可能に固定されて、電子装置の平坦な面(ディスプレイ25を含む)は、インパクタシャフト13と実質的に直交する方位に固定される。マウント(図示せず)が、柄部14に電子装置2をクランプするように構成されている。電子装置2をプラスチック被覆で覆ってもよい。プラスチック被覆は電子装置2を密封してもよい。
【0081】
電子装置のジャイロスコープ21、磁界センサ22、及び加速度計23は、プロセッサ24と組み合わさって方位センサを形成する。方位センサは、電子装置2の方位(したがって、マウントされると寛骨臼カップインパクタ1の方位)を追跡することができる。周囲の重力場及び磁界内での電子装置2の動き、及び任意的に装置2の加速及び減速も検知することによって、座標系の3つの直交軸の周りの方位の変化をモニタすることができる。
【0082】
使用時、校正プロセスの一部として、
図1に示すように人体の骨盤領域上の第1の場所に電子装置2をマウントする。詳細には、患者が仰臥位にあるこの実施形態では、電子装置は、その底部エッジが実質的に骨盤骨12の右及び左の上前腸骨棘(ASIS)間を延びるベクトル線(本明細書では、骨盤の「横断ベクトル」とも言う)と並ぶようにマウントされる。それに加えてまたはその代わりに、装置2の異なる縁部及び/または他の特徴部(たとえば、延長部材202)を横断ベクトルTと位置合わせすることができる。同様に、縁部が横断ベクトルに対して異なる角度(たとえば、45度の角度)となるように、電子装置をマウントしてもよい。いずれの場合でも、位置合わせを外科医が視覚的に行ってもよく、及び/または患者の左及び右のASIS1201間を部分的にまたは全体的に延び得るガイド(図示せず)に対して装置2を位置決めすることによって行ってもよい。骨盤に対して特定の方位に電子装置2をマウントすることによって、装置2は解剖学的基準系に対するその方位を決定することができ、その結果、装置2の方位及び動きの以後の変化(たとえば、第2の位置へ)を決定することができる。解剖学的基準系には以下が含まれていてもよい。(i)横断軸(全般的に骨盤の横断ベクトルと平行に延びる)、(ii)長手軸(患者は横たわっていると想定して、全般的に患者の上位-下位方向に延びる)、及び(ii)前後方向軸(全般的に患者の前側及び後側の間を延びる)。横断、長手、及び前後方向軸は互いに垂直である。
【0083】
図1及び以後の図では、簡単にするために、患者の骨盤骨を任意の他の人体部分または体内組織とは独立に表す。実際には、他の人体部分及び体内組織が当然のことながら存在している。
【0084】
電子装置2が第1の場所にあるとき、
図4に表すようにディスプレイ25は骨盤校正スクリーン3を表示するように構成されている。3つのタッチスクリーンボタンがスクリーン3上に設けられている。1つのボタン31によって患者の股関節サイドの入力が可能になる結果、特に、股関節置換が左の股関節に対して行われているのか右の股関節に対して行われているのかを、臨床医または他のユーザが示すことができる。別のボタン33によって患者の位置決めの入力が可能になる結果、特に、患者が仰臥方位にあるのか側臥方位にあるのかを、臨床医または他のユーザが示すことができる。しかし、いくつかの実施形態では、電子装置2は磁界センサ22から得た重力測定値を用いて、患者が仰向けなのかまたは側臥位なのかを検出する。最後に、ゼロボタン32が設けられている。ゼロボタン32は、患者及び股関節サイドの位置決めが入力されたら、及び電子装置2が第1の場所に(すなわち、適切な校正位置に)しっかりと位置決めされたら、押圧すべきものである。ゼロボタン32が押圧されると、電子装置2がその方位(したがって、骨盤領域の方位)を記録して、これを、電子装置2の方位の以後のすべての変化を比較する基準方位として用いる。
【0085】
前述の実施形態では、装置2は横断(ASIS)ベクトルに対して位置合わせされているため、横断(ASIS)ベクトルに対するその方位は分かっている。次に前後方向軸を、装置2の磁界センサ22を用いて重力ベクトルgを測定することによって決定することができる。骨盤が仰臥方位にあるとき(
図5に示すように)、磁界センサ22が測定する重力ベクトルgは、左及び右のASIS1201間の横断ベクトルTと実質的に垂直であり、患者が横たわっている面が重力ベクトルと実質的に垂直ならば患者の前後方向軸を表す。このような場合には、重力ベクトルg及び横断ベクトルTを電子装置2が記録して、電子装置が用いて長手方向ベクトルを決定してもよい。長手方向ベクトルは、必然的に横断及び重力ベクトルT、gの両方に垂直に延びる。ある場合には、骨盤骨における非対称に起因して、横断(ASIS)ベクトルは、磁界センサ22が測定した重力ベクトルに正確に垂直ではない場合がある。このような状況では、2つのベクトル間の角度(またはその角度と90°との間の差)を記憶して、及び/またはこれらの骨盤非対称性を補正するために用いてもよい。いずれの場合でも、校正時の装置2の「ゼロ」方位を患者の長手軸ならびに横断軸に対して計算することができ、寛骨臼カップを配向するときの精度の向上につながる。
【0086】
横断(ASIS)ベクトル及び重力ベクトルの測定角度の前述の不一致を補正するために、両ベクトルに垂直なベクトルを、重力ベクトル及びASISベクトルのクロス積を計算することによって決定してもよい。この計算したベクトルは、患者の長手軸(長手方向ベクトル)に平行である。そして、計算した長手方向ベクトルと重力ベクトルとのクロス積が「補正されたASISベクトル」となる。
【0087】
前述の位置合わせプロセスの変形を
図6に示す。この実施形態では、装置2は、寛骨臼の内部と一致するように成形された一時的なインプラント35に結合されているかまたはそれと一体化されている。インプラント35を寛骨臼内に挿入してもよく、インプラント35に対する装置2の方位は分かっているため、骨盤に対する装置2の方位も分かっている。したがって、装置2によって測定した方位データから基準系を計算することができる。インプラント35を寛骨臼に挿入した状態で、装置のゼロ(または基準)方位を測定することができる。次に電子装置2の方位の以後のすべての変化をこの基準方位と比べてもよい。
【0088】
当然のことながら、寛骨臼を調製(リーマ仕上げ)して、寛骨臼人工装具(カップ)にフィットするようにさらなる動作ステップを行う前に、インプラント35を寛骨臼から取り外さなければならない。骨盤に対する基準系(装置2によって測定する)を維持するために、装置2においてゼロ方位を記録した後で、何らかのさらなる動作ステップを取る前に、装置2を寛骨臼から取り外して、寛骨臼の邪魔にならないような骨盤の異なる領域(たとえば、骨盤のASIS)に固定してもよい。寛骨臼からASIS(または他の骨盤領域)への装置2の方位変換を記録することによって、3次元基準系を維持することができる。装置2がインプラント35と一体化している場合、前述のプロセスではユニット全体(インプラント35及び装置2)を動かしてもよい。そうでない場合には、装置2を動かしてインプラント35を廃棄してもよい。
【0089】
前述したように、インプラント35は寛骨臼の内部と一致するように製造されている。いくつかの実施形態では、インプラント35を特定の患者の寛骨臼の生体構造と正確にマッチするように製造してもよい。そうするために、患者の骨盤領域の3次元(3D)スキャンを行ってもよく、患者の寛骨臼のスキャンに基づいてインプラント35を製造してもよい。インプラント35は付加製造技術(たとえば、3Dプリンティング)などを用いて製造してもよい。
【0090】
前述の実施形態では、インプラント35は寛骨臼と嵌合するように構成されている。他の実施形態では、インプラント35を骨盤の生体構造の別の一部と一致するように製造してもよい。選択した骨盤領域が外科領域の邪魔にならないならば、調製及び移植のステップを行う前のインプラントを取り出すステップは必要でない場合がある。このような状況では、装置2によって測定した基準方位が、寛骨臼カップ方位に対する骨盤の基準系の基礎を形成する。
【0091】
前述した実施形態において、骨盤12の右及び左のASIS1201間のベクトル線に対して電子装置2を正確に位置決めすることが、電子装置がインパクタ1の端部の第2の位置に配置されたときの寛骨臼カップインパクタ1の方位の以後の測定の精度を確実にするために必要である。しかし、骨盤に対する電子装置の位置決めが不正確だと、カップインパクタ1の端部の第2の位置に移すときの装置2の位置の推定が不正確になる場合がある。以下の技術では、骨盤上に装置2を不正確にマウントすることの校正に対する影響を減らす。
【0092】
図7a~7cを参照して、装置2は、図示では、患者の骨盤12に取り付けられている。装置は、骨盤12に対する方位が未知または非正確である。
図7aに示すように患者が平坦面上の仰臥(または腹臥)位にあるときに、重力ベクトルgを磁界センサ22によって測定してもよい。重力ベクトルは骨盤の前後方向軸に対応する。次に患者を
図7bに示すようにその右側の方に回転させ、
図7cに示すようにその左側の方に回転させる(特別な順序なしに)。このような回転を好ましくは、患者が横たわっている手術台を長手方向に回転させることによって行って、患者を背部サポートなしで回転させたら生じるであろうわずかな矢状骨盤傾斜も阻止する。患者が回転するときに、電子装置2は重力ベクトルに対するその方位を測定及び記録する。次に収集データを用いて患者の骨盤の回転軸(長手方向ベクトル)を計算することができる。骨盤の長手方向ベクトル及び重力ベクトル(したがって、骨盤の前後方向軸)が分かっていれば、横断(ASIS)ベクトルを計算することができる。ベクトルは必然的に、長手方向及び前後方向軸の両方に垂直に延びる。したがって、患者(特に患者の骨盤)の解剖学的基準系(基準系には患者の前後方向軸、長手軸、ならびに横断軸が含まれる)を、再び決定することができる。
【0093】
前述した例において、患者は2つの方向(たとえば、その左側及びその右側上)に回転させられるが、これは長手方向ベクトルを決定するために必要ではないことが分かる。長手方向ベクトルを決定するために、患者をただ一方向に(すなわち、開始位置と回転位置との間で)回転させればよい。しかし当然のことながら、患者を回転させる角度が大きいほど、長手方向ベクトルの決定を正確に行なうことができる。
【0094】
前述の変形において、テーブルの回転を頭を下にして(トレンデレンブルグ)及び頭を上にして(逆トレンデレンブルグ)行って、横断軸及びそれに応じて計算される長手軸を規定することができる。
【0095】
状況によっては、測定した長手方向ベクトルは、測定した重力ベクトルに正確に垂直ではない場合がある。たとえば、患者を位置決めする面が重力ベクトルに正確に垂直ではない場合がある。この場合、重力ベクトルと長手方向ベクトルとの間の角度(またはその角度と90°との間の差)を記憶して、これらの骨盤非対称性を補正するための将来の計算において用いてもよい。たとえば、与えられた横断ベクトルに対して、重力ベクトルと長手方向ベクトルとのクロス積を計算することができる。横断ベクトルと重力ベクトルとのクロス積によって、補正された長手方向ベクトルが得られる。代替的に、横断ベクトルと長手方向ベクトルとのクロス積を計算して、補正された前後方向ベクトルを得ることができる。
【0096】
次に、電子装置2に対する3次元基準系を決定するためのさらなる技術について、
図8a及び8bを参照して説明する。患者が仰臥位にあって、
図8aに示すように骨盤に電子装置2が取り付けられている間に、装置に対する重力ベクトルを測定及び記録する。患者が仰臥位にあるときに、患者が横たわっている面が重力ベクトルに垂直ならば、重力ベクトルは骨盤の前後方向軸に対応する。患者を次に、
図8bに示すように90°回転させて側臥位にして、電子装置に対する重力ベクトルを再び測定及び記録する。患者の骨盤が側臥方位にあるとき、患者が横たわっている面が重力ベクトルと実質的に垂直ならば、重力ベクトルは患者の横断ベクトルに直接対応する。したがって、患者が側臥方位にある間に記録した重力ベクトルが骨盤の横断ベクトルに平行であると想定すると、仰臥位及び側臥位の両方における骨盤の長手軸を装置2に対して決定することができる。こうして、3次元での装置の相対方位を決定することができる。
【0097】
当然のことながら、患者の矢状骨盤傾斜は骨盤の仰臥及び側臥方位の間で変動する場合があり、その結果、誤差(詳細には、仰臥位及び側臥位で測定した長手方向ベクトルの不一致)が導入される場合がある。したがって、
図8a及び8bを参照して前述した技術の精度をさらに向上させることが、患者の真下にX線プレートを置いて垂直ビームを用いて側臥位で骨盤のX線を取ることによって可能である。側臥位における矢状骨盤傾斜の決定をX線画像から行ってもよい。たとえば、左及び右のASISが画像内で位置合わせされない場合に、骨盤の横断ベクトルと重力ベクトルとの間の不一致をX線画像から決定してもよい。次に矢状骨盤傾斜及びASIS位置合わせの両方に関するX線画像から得られる情報を用いて、基準軸を補正または調整することができる。補正は臨床医が手動で行ってもよいしまたは自動的に行ってもよい。
【0098】
患者の矢状骨盤傾斜の範囲を用いて、寛骨臼カップの移植の前捻及び傾斜を決定してもよい。矢状骨盤の柔軟性が比較的高い(最大の前及び後骨盤傾斜間の関節可動域が高い)患者の場合、寛骨臼カップの移植は好ましくは、矢状骨盤の柔軟性が比較的低い(最大の前及び後骨盤傾斜間の関節可動域が低いかまたはゼロ)患者の場合よりも大きい前捻かつ小さい傾斜で行う。したがって、いくつかの実施形態では、電子装置2を第1の位置から再配置する前だが、装置2において3次元基準方位を決定した後に、医師が装置2を用いて患者の矢状骨盤の柔軟性を記録してもよい。これを、胴体を静止状態に保ちながら患者の脚部を手動で曲げて真っ直ぐにすることによって行ってもよい。次に患者に対する矢状傾斜範囲の値を装置2上に表示及び/または記憶してもよい。以下に詳細に説明するように、矢状傾斜範囲値を用いて、ユーザに表示された出力傾斜/前捻を校正してもよい。
【0099】
電子装置2を解剖学的基準系に対して校正(「ゼロイング」)した後で、電子装置2を骨盤領域上の第1の場所からインパクタ1上の第2の場所(詳細には、
図2に示すような柄部14の遠位端)へ移す。そこでは、
図9に表すようなインパクタ方位スクリーン4が表示される。校正位置から移るときに、電子装置2は基準方位に対するその方位の変化を継続的にモニタして、柄部14上にマウントされたときに基準方位に対するその方位(したがって、インパクタシャフト13の方位)を即座に知る。したがって、電子装置2はスクリーン4上に、基準方位に対するインパクタシャフト13の方位(この実施形態では前捻角41及び傾斜角42の点で)を表示することができ、またその後にインパクタ1とともに動いたときにスクリーン上で方位をモニタして更新することができる。したがって、臨床医または他のユーザは、前捻角及び傾斜角をディスプレイ上で「リアルタイム」で観察することができ、自分で寛骨臼カップインパクタ1を所望の方位に動かすことができる。所望の方位は、前捻が20°及び傾斜が45°または他の角度であってもよい。完了したら、または基準方位の再校正が望ましいものであった場合には、ボタン43を押圧して処置を再開することができる。
【0100】
この実施形態または他の実施形態で用いてもよい計算例を以下に述べる:
RI=X線画像の傾斜骨盤基準系
RA=X線画像の前捻骨盤基準系
AI=解剖学的傾斜骨盤基準系
AA=解剖学的前捻骨盤基準系
ri=X線画像の傾斜重力基準系
ra=X線画像の前捻重力基準系
ai=解剖学的傾斜重力基準系
aa=解剖学的前捻重力基準系
y’-y=ヨー
r=ロール
P=骨盤ロール
骨盤ロールがないことを想定して、
ヨーはX線画像の傾斜(RI)を与える
ロールはX線画像の前捻(RA)を与える
Murray(D.W.Murray:The definition and measurement of acetabular orientation.J Bone Joint Surg[Br]1993;75-B:228-32)によって解剖学的前捻(AA)及び解剖学的傾斜(AI)に変換するために:
Tan(AA)=Tan(RA)/sin(RI)
Cos(AI)=Cos(RI)*Cos(RA)
したがって
解剖学的前捻=arctan(tan(r)/sin(y’-y))
解剖学的傾斜=arcos(cos(y’-y)*cos(r))
骨盤ロールがある場合、回転させた垂直軸の周りに「ヨー」を計算し、同じ軸に対してロールを計算する。
右の股関節における右に骨盤ロールを伴う仰臥位、
AA-P=aa
AA=aa+P
AI=ai
ra=r
ri=y’y
Cos(AI)=cos(ai)
=Cos(ri)*Cos(ra)
AI=arccos(cos(y’-y)*cos(r))
AA=arctan(tan(r)/sin(y’-y))+P
及び左の股関節に対して、
AI=arccos(cos(y-y’)*cos(r))
AA=arctan(tan(r)/sin(y-y’))-P
【0101】
本開示の別の実施形態では、
図1~4を参照して前述した装置は、手術の間の骨盤領域の方位の変化を追跡する際に用いるのに適合されている。電子装置を骨盤に、たとえば
図1に表すようにマウントする。しかし、
図4を参照して説明したように校正プロセスを行った後で、電子装置2を骨盤領域上の所定の位置に維持して、骨盤領域の動きを少なくとも2つの回転軸(ピッチ(傾斜)及びロール)または好ましくは3つの回転軸(ピッチ、ロール、及びヨー)において追跡するために用いる。装置2は、
図10に示した骨盤追跡スクリーン5を表示するように構成されている。骨盤追跡スクリーン5は、外科的処置の間に骨盤の現在の方位を実質的に「リアルタイム」で示す。電子装置2は、外科的処置の全体にわたって骨盤の動きをメモリ27に記録するように構成されている。一実施形態では、骨盤の動きの度合いに対する所定の限界を臨床医が電子装置2に入力し、これらの限界を超えたら、スピーカ26または他のタイプのアラームを用いた音響信号を警告として与える。
【0102】
さらに他の実施形態では、2つの先行する実施形態に関して説明したアプローチを、2つの電子装置2a、2bを設けることによって組み合わせる。
図11を参照して、1番目である電子装置2aを前述したように用いて、第2の場所へ移す前に骨盤領域の基準方位を記録する。第2の場所では、基準方位に対するインパクタ1の方位を決定する。さらに、2番目である電子装置2bを前述したように用いて骨盤領域の基準方位を記録した後で、骨盤領域上に保持して手術の間の骨盤領域の方位の変化を追跡する。第2の電子装置2bは、第1の電子装置2aと無線で通信して骨盤領域の方位の変化に関する情報を与えて、第1の電子装置2aが記録した基準方位を補正することが実質的に「リアルタイム」でできるように構成されている。
【0103】
2つの電子装置2a、2b用いる前述のアプローチの変形では、基準方位を記録するために、第1及び第2の電子装置2a、2bのうちの一方のみを最初に骨盤領域と位置合わせする必要がある。たとえば、第2の電子装置2bを前述したように用いて骨盤領域の基準方位を記録してもよい。第1の装置2aを次に、第2の装置2bに対する固定場所に位置付けてもよく、たとえば、第1の装置、骨盤領域、患者の別の部分、または患者が横たわり得る手術台に取り付けてもよい。患者、第1の装置2a、及び第2の装置2bの位置を固定した状態で、3つすべてを次に、重力ベクトルに平行でない任意の軸の周りに回転させることが、軸が分かっている限りは可能である。第1及び第2の装置2a、2bが同じ軸または軸(複数)の周りに回転しているため、また両方の装置2a、2bとも重力ベクトルを測定することができるため、第1の装置2aを第2の装置2bのそれと同じ座標系に対して校正してもよく、逆もまた同様である。したがって、前述のアプローチでは、2つの装置及び骨盤領域に対する共通の基準方位を記録する簡単な方法を提案している。2つの装置2a、2bを位置合わせした後で、手術の間にいずれかの装置を骨盤領域に取り付けたままにして前述のように骨盤領域の方位の変化を記録してもよい。次に装置の他方を、前述したようなカップインパクタ1上の位置に動かしてもよい。
【0104】
前述したことを考慮して、第2の電子装置2bを骨盤領域と位置合わせすることを、第1の装置2aを位置合わせする前に行う必要はないことが分かる。言い換えれば、装置の共通の基準方位の記録を装置2a、2bの単一の同期された回転によって同時に行ってもよい。
【0105】
図12に本開示の実施形態による装置を示す。装置は、寛骨臼カップインパクタ10(寛骨臼カップ110を駆動して、患者の骨盤骨120の寛骨臼の位置に移植するように構成されている)と、電子装置20とを含んでいる。電子装置20はインパクタ10上にマウントされている。また
図14を参照して、電子装置20は、ビデオカメラ210の形態の画像取込装置、デジタルディスプレイ220、傾斜センサ230、プロセッサ240、タッチキーパッド250、及びデータ記憶及び取り出しのためのメモリ260を含んでいる。この実施形態では、電子装置20はスマートフォン(たとえば、iPhone(登録商標))であるが、種々の異なる電子装置を用いてもよい。カメラ210、ディスプレイ220、傾斜センサ230、及びプロセッサ240を一体化して単一装置20にする必要も、インパクタ10上にマウントする必要もない。たとえば、一実施形態では、ディスプレイ及び/またはプロセッサをインパクタ10から遠くに配置してもよい。
【0106】
電子装置20は、電子装置のカメラが骨盤骨120(より全般的には、患者の骨盤領域)に面するように、マウント30を介してインパクタ10のシャフト130に取り外し可能に固定されている。マウント30は、少なくとも部分的にインパクタシャフト130の周りに延びるスリーブ部分310を設けることによって、インパクタ10のシャフト130にクランプするように構成されている。またマウント30は、1つ以上のアーム320を設けることによって電子装置20にクランプするように構成されている。アーム320は、スリーブ部分310から突き出て、電子装置20の対向する側面または縁部に当接する。電子装置20をプラスチック被覆で覆ってもよい。プラスチック被覆は電子装置20を密封してもよい。
【0107】
電子装置20のカメラ210は、患者の骨盤領域の複数の画像を連続して取り込む(すなわち、患者の骨盤領域をビデオ録画する)ように構成され、画像はディスプレイ220上に実質的に「リアルタイム」で示される。骨盤120上には第1のマーカー140(より詳細には、右及び左の上前腸骨棘(ASIS)121間を延びるベクトル線140)が含まれる。第1のマーカー140は、ASIS121間の骨及び/または組織上に画像化または描画される。
図13を参照して、ディスプレイ220上に示される画像例(フレーム)270が示されているが、ASISベクトル線140が画像270内に示されている。
図12及び以後の図において、簡単にするために、患者の骨盤骨120を任意の他の人体部分または体内組織とは独立に表す。実際には、他の人体部分及び体内組織が当然のことながら存在している。
【0108】
電子装置10のプロセッサ240は、インパクタ10(及び寛骨臼カップ110)に関する方位データを受け取るように構成されている。この実施形態では、患者は仰臥位で置かれ、プロセッサ240が受け取る方位データには、インパクタに対する所望の傾斜角とインパクタに対する測定した前捻角とが含まれる。所望の傾斜角(この例では45°)を、タッチスクリーンキーパッド250を用いて電子装置20に入力する。前捻角を電子装置20の傾斜センサを用いて継続的に測定する。
【0109】
受け取った方位データに基づいて、また
図14及び15を参照して、プロセッサ240は、ディスプレイ装置220が表示する画像270a、270b内で1つ以上の第2のマーカー(より詳細には、位置合わせライン271a~e)を重ね合わせて、ASISベクトル線140が、画像内に見られるように、位置合わせライン271a~271eの1つ以上と実質的に位置合わせされたときに、寛骨臼カップインパクタ10が所望の傾斜角で配向されるように構成されている。
【0110】
傾斜角に対するこのガイダンスを提供するために、プロセッサ240は、複数の位置合わせライン271a~eが画像270内の対応する位置に重ね合わされたときの、それらに対する適切な方位を決定するように構成されている。画像内で重ね合わされたときの位置合わせライン271a~eの適切な方位は、カメラの視野の角度範囲に起因して、それらを重ね合わせるべき画像内の位置に部分的に依存している。これは、画像内に見られる物品(たとえば、ASISベクトル線140)の方位が、インパクタ10に対するそれらの実際の方位だけでなく、カメラの視野内でこれらの物品が位置する場所にも依存することを意味する。
【0111】
この実施形態では、プロセッサ240は、カメラ210の視野の垂直軸に沿って等間隔に配置された角距離に従って画像270a、270b内で5つの位置合わせライン271a~eを重ね合わせるように構成されている。この実施形態では、カメラ210の視野は約50°~60°であり、位置合わせラインは配置されて、それらの方位は、カメラの視野の中心水平軸から、垂直軸における角距離-20°、-10°、0°、+10°、及び+20°について決定される。これらの角距離は、
図15のガイドライン272a~eによって表される。
図15では、
図13の画像270によって覆われる領域のアウトライン273を示している。
【0112】
等式1を用いて、プロセッサ240は、カメラの視野内の中心水平線からの各角距離(d)に対して、また測定した前捻角(x)及び所望の傾斜角(y)に対して、ディスプレイ上に示された画像内で重ね合わせるべき位置合わせライン271a~eを配向する角度(g)を決定するように構成されている。
tan g = tan(y)・sin(x+d)…………………… 等式1
【0113】
角距離(d)のそれぞれに対して等式1を用いて求めた位置合わせライン271a~eに対する方位例を
図16に示す。各位置合わせライン271a~eは、対応するガイドライン272a~272eの隣に重ね合わされている。測定した前捻角(x)が前述のように変化する結果、方位角度(g)が継続的に変化する可能性があり、したがって、インパクタ1が動くと位置合わせライン271a~eがスクリーン内で回転するのを見ることができる。
【0114】
図16に示すのは、プロセッサ240によって位置合わせライン271a~271eが重ね合わされたときに外科医がディスプレイ上に見る第1の画像270aである。画像270aの隅に、測定した前捻角274が示され、インパクタ10が動くと継続的に更新される。
【0115】
インパクタ10の所望の傾斜角は、ASISベクトル線140が、最も近い位置合わせラインまたはライン271a~eと実質的に位置合わせされたときに実現される。
図16では、画像270a内で、一番上の2つの位置合わせライン271a、271bの最も近くに位置決めされたベクトル線140を見ることができる。ベクトル線140は、これらの位置合わせライン271a、271bとの位置合わせが実質的にずれている。これはインパクタ10が所望の傾斜角ではないことを示している。さらに、ディスプレイ上に示された前捻角274は所望の角度の20°ではなくて23°である。
【0116】
しかし、インパクタ10の動き及びディスプレイ220の観察を通して、外科医はインパクタ10を
図17の画像270b内に示した位置まで動かすことができる。この画像270bでは、ベクトル線140は最も近い位置合わせライン271a、271bに実質的に位置合わせされており(すなわち、実質的に平行であり)、ディスプレイ上に示される前捻角274は所望の角度20°である。この時点で、インパクタ10の所望の方位(したがって、インパクタ10に接続された寛骨臼カップ110)が実現されている。
【0117】
示したように、この実施形態では患者が仰臥位にある。しかし、前述したアプローチは、患者が横方向横臥位である場合にも、必要な変更を加えて行うことができる。この変形では、傾斜センサによってインパクタの傾斜角が得られ、位置合わせラインを代わりに用いて所望の前捻角に達する。より詳細には、画像内に見られるASISベクトル線が位置合わせラインのうちの1つ以上と実質的に位置合わせされたときに、寛骨臼カップインパクタが所望の前捻角に配向される。
【0118】
等式1の代わりに等式2を利用することができる。詳細には、等式2を用いて、プロセッサは、カメラの視野内の中心水平線からの各角距離(d)に対して、また測定した傾斜角(y)及び所望の前捻角(x)に対して、ディスプレイ上に示された画像内で重ね合わせるべき位置合わせラインを配向する角度(g)を決定するように構成されている。
tan g = tan(x)・sin(y+d)……………………… 等式2
【0119】
図19は本開示の別の実施形態による装置を示す図である。装置は、寛骨臼カップインパクタ10(寛骨臼カップ110を駆動して、患者の骨盤骨120の寛骨臼の位置に移植するように構成されている)と、電子装置200とを含んでいる。電子装置200は骨盤領域(たとえば、骨盤骨120上)にマウントされている。また
図21を参照して、電子装置200は、ビデオカメラ201の形態の画像取込装置、デジタルディスプレイ202、プロセッサ203、タッチキーパッド204、及びデータ記憶及び取り出しのためのメモリ205を含んでいる。また傾斜センサを含めてもよい。この実施形態では、電子装置200はタブレット(たとえば、iPad(登録商標))であるが、種々の異なる電子装置を用いてもよい。カメラ201、ディスプレイ202、及びプロセッサ203を一体化して単一装置200にする必要も、すべてを骨盤領域上にマウントする必要もない。たとえば、一実施形態では、ディスプレイ及び/またはプロセッサを骨盤領域から遠くに配置してもよい。
【0120】
電子装置200のカメラ201がインパクタ10に面するように、電子装置200はマウント(図示せず)を介して骨盤骨120または骨盤領域に取り外し可能に固定されている。電子装置200をプラスチック被覆で覆ってもよい。プラスチック被覆は電子装置200を密封してもよい。
【0121】
電子装置200のカメラ201はインパクタ10の複数の画像を連続して取り込むように構成され、画像はディスプレイ202上に実質的に「リアルタイム」で示される。
【0122】
2つの円形ディスク410、420(スペーサ430によって互いに接続されている)の形態のナビゲーション要素40は、インパクタ10の遠位端に取り外し可能にマウントされている。2つのディスク410、420は同心であり、ディスク410、420の中心はインパクタ10の長手軸と位置合わせされている。インパクタ10に最も近いディスク410の直径はインパクタ10から最も遠いディスク420よりも小さい。ディスクの縁部401、402によって、2つの第1のマーカーを与える円が規定されている。
図20を参照して、ディスプレイ202上に示される画像例(フレーム)206を示す。2つの第1のマーカー401、402が画像206内に見える。
【0123】
電子装置200のプロセッサ203は、インパクタ10(及び寛骨臼カップ110)に関する方位データを受け取るように構成されている。この実施形態では、患者は仰臥位で置かれ、プロセッサが受け取る方位データにはインパクタに対する所望の傾斜角及び所望の前捻角が含まれる。所望の傾斜角及び前捻角(それぞれ45°と20°)は、この例では、タッチスクリーンキーパッド204を用いて電子装置200に入力される。
【0124】
この実施形態では、校正手順を行って、カメラ201に対するインパクタ10の旋回点とインパクタの長手軸に沿った第1のマーカーの位置10とを決定する。
図22aを参照して、校正手順の間に、プロセッサ203は、ディスプレイ装置202が表示する画像206a内の第1の位置において第3のマーカー208を重ね合わせるように構成されている。インパクタ10を次に、外科医が、概ね矢印209で示す方向に動かして、ディスクのうちの1つ(この実施形態では特に大きい方のディスク402)を第3のマーカー208と位置合わせする。位置合わせしたら、ユーザは、他のディスク(この実施形態では特に小さい方のディスク401)が配置される画像内の位置で、スクリーンにタッチするかまたはスクリーン上でカーソルを「クリックする」必要がある。
図22b~22dの画像206b~206d内に示すように、このプロセスを第3のマーカー208のいくつかの異なる位置(たとえば、第2~第4の位置)に対して繰り返す。これによって、画像206a~206dにおける2つの第1のマーカー401、402の正確な位置及び相対位置を決定することができ、また三角関数を適用することによって、カメラに対するインパクタの旋回位置を含む校正データと、インパクタの長手軸に沿った第1のマーカーの位置も決定することができる。
【0125】
校正データ及び受け取った方位データ(すなわち、所望の傾斜角及び前捻角)に基づいて、プロセッサ203は、所望の傾斜角及び前捻角を有するようにインパクタをガイドするために第2のマーカー211を配置すべき表示画像内の場所を決定するように構成されている。この実施形態では、
図23を参照して、プロセッサ203は、ディスプレイ装置202が表示した画像206e内で第2のマーカー211を重ね合わせて、画像内に見られるようにより大きいディスク402が第2のマーカー211と実質的に位置合わせされたときに、寛骨臼カップインパクタ10が所望の方位に配向されるように構成されている。
【0126】
この実施形態の変形では、プロセッサは、特徴検出を用いて画像206内の第1のマーカー401、402の位置及び形状を決定するように構成されている。ユーザが第1のマーカー401のうちの1つの位置上でタッチまたは「クリック」してそのマーカーの位置を特定する必要がある代わりに、特徴検出を用いてもよい。代替的に、特徴検出を用いて校正手順に対する必要性を完全に取り除いてもよい。
【0127】
より詳細には、カメラ201の中心とインパクタ10の長手軸との位置合わせがずれている限り、画像206内で第1のマーカー401、402は楕円に見える。楕円の形状(たとえば、短軸対長軸比)及び相対位置決めは、インパクタ10を配置する角度に依存している。このことから、特徴検出を用いてインパクタ10に対する傾斜角及び前捻角を決定することができ、またこれらの角度をプロセッサ203によって実質的に「リアルタイム」で画像206上に(たとえば、
図20に示すように画像206内のボックス2011a、2011b内に)示すことができる。これによって、外科医がインパクタ10を所望の方位に動かすことが、表示角度に対する変化を観察することに基づいて可能になる。その代わりにまたはそれに加えて、特徴検出と所望の傾斜角及び前捻角のユーザ入力とに基づいて、第2のマーカーを画像上で重ね合わせてインパクタ10の動きを所望の方位にガイドすることができる。
【0128】
図24を参照して、代替的な実施形態では、
図19に示す装置と実質的に同一だが、異なるタイプのナビゲーション要素(詳細には、インパクタ10の遠位端に取り外し可能にマウントされた球体400の形状のナビゲーション要素)を用いる装置が提供される。球体400は第1のマーカーを与える。
図25を参照して、ディスプレイ上に示される画像例(フレーム)212を示す。第1のマーカー400が画像212内に見える。
【0129】
再び、この実施形態では、校正手順を行って、カメラ201に対するインパクタの旋回点とインパクタ10の長手軸に沿った第1のマーカー400の位置とを決定する。
図26aを参照して、校正手順の間に、プロセッサ203は、ディスプレイ装置が表示する画像212a内の第1の位置において第3のマーカー213を重ね合わせるように構成されている。インパクタ10を次に、外科医が、概ね矢印214で示すように動かして、第1のマーカー400を第3のマーカー213と位置合わせする。位置合わせしたら、ユーザは、スクリーンにタッチするか、またはスクリーン上に重ね合わされた複数のガイドライン215a~215eのうちの1つを「クリックする」必要がある。画像212a内に見られるように、ガイドライン215a~215eはシャフト130の延長部分の角度に最も近い角度関係を有する。
図26b~26dの画像212b~212d内に示すように、このプロセスを第3のマーカー213のいくつかの異なる位置(たとえば、第2~第4の位置)に対して繰り返す。これによって、第1のマーカー400の位置決めと画像内のインパクタ10のシャフト130の延長部分の角度とを決定することができ、また三角関数を適用することによって、カメラに対するインパクタの旋回位置を含む校正データと、インパクタの長手軸に沿った第1のマーカーの位置も決定することができる。
【0130】
校正データ及び受け取った方位データ(すなわち、所望の傾斜角及び前捻角)に基づいて、プロセッサ203は、所望の傾斜角及び前捻角を有するようにインパクタ10をガイドするために第2のマーカー216を配置すべき画像内の場所を決定するように構成されている。この実施形態では、
図24を参照して、プロセッサ203は、ディスプレイ装置220が表示した画像212e内で第2のマーカー216を重ね合わせて、画像内に見られるような球体400が第2のマーカー216と実質的に位置合わせされたときに、寛骨臼カップインパクタ10が所望の方位に配向されるように構成されている。
【0131】
画像取込装置が骨盤領域にマウントされている場合に、ナビゲーション要素、特徴検出、及び校正ステップなどを用いることについて、
図19~27とともに説明しているが、画像取込装置がインパクタ10上にマウントされたときには(たとえば、
図12に示すように)、実質的に同じナビゲーション要素、特徴検出、及び校正ステップなどを、必要な変更を加えて用いてもよい。この変形では、たとえば、
図17~24に説明したものと同様のナビゲーション要素を骨盤領域上にマウントしてもよい。
【0132】
前述した実施形態では、電子装置2の校正を、股関節形成処置のための骨盤の3次元基準系を決定する目的で、患者の骨盤に対して装置2を固定することによって行う。しかし、本開示の態様は、股関節に対する処置に限定されることも関節形成処置に限定されることもない。たとえば、いくつかの実施形態では、装置2を患者の骨盤に固定する代わりに、装置2を患者の他の骨領域(たとえば、脊椎骨、頭蓋骨、仙骨、肩甲骨、または膝(大腿骨または頸骨))に固定してもよい。いくつかの実施形態では、装置2を患者に直接固定しなくてもよく、その代わりに患者に対して固定してもよい。たとえば、患者が校正の間に手術台または椅子に対して安定して保持されるならば、装置を手術台または椅子に固定してもよい。
【0133】
それに加えてまたはその代わりに、装置2を校正したら(「ゼロにしたら」)、いくつかの実施形態では、装置2をインパクタ1以外の装置に移してもよい。いくつかの実施形態では、装置2を用いて、寛骨臼カップインパクタ以外の医療ツール(たとえば、手術用ドリル、外科千枚通し、またはガイドワイヤ)を位置合わせしてもよい。このような状況では、装置2をこれらの装置のうちの1つに、インパクタ1に関して前述したものと同様の方法で結合する。
【0134】
図28a及び28bに示すのは、装置2を用いて股関節形成以外に適用する実施形態である。詳細には、
図28a及び28bに示すのは、人体の脊椎骨284の棘突起282に結合された装置2である。装置2を脊椎骨284に固定した状態で、
図4~8を参照して前述した校正プロセスを行って、脊椎骨284に対する装置2に対する基準系を取得してもよい。
【0135】
電子装置2を脊椎骨284に対して校正したら、装置2を次に、
図29に示すように、棘突起282上の固定場所から手術用ドリル292上の固定場所に移してもよい。次に、棘突起282に対するドリルの傾斜角及び前捻角を、
図9~14を参照してカップインパクタ1に対して前述したものと同様の方法でモニタしてもよい。ドリル292に結合された装置2を用いて、外科医は、脊椎骨内にドリルするときに、ドリルビット294(または椎弓根ネジ)の軌跡の角度を正確に決定することができる。
【0136】
本発明の実施形態は前十字靭帯(ACL)再構築手術において応用される。ACL再構築手術の間、ACL移植片が取り付けられる頸骨及び大腿骨に孔が穿孔される。ACL移植片は、本来の損傷を受けたACLの機能を再現するために設ける。ACL移植片を取り付ける脛骨孔及び大腿骨孔の位置及び角度を正確に制御して、膝の顆間窩及び後十字靱帯上でACL移植片の衝突が生じることを阻止することが重要である。患者ごとに膝関節の伸展が異なるので、必要な孔角度及び位置も異なる。
【0137】
これを
図30a及び30bに例示する。図では、異なる膝伸展及び蓋角度を有する2つの異なる膝のX線画像を示す。
図30aのX線画像に示す膝は過伸展しておらず、X線画像上に重ね合わせた黒線が示すように比較的水平な顆間窩(ほぼ43°)を有する。この解剖学的組み合わせを伴う膝にACL移植片を配置した場合、脛骨孔が前方に現れるが蓋衝突は生じない。対照的に、
図30bのX線画像内に示した膝は過伸展しており、比較的垂直の顆間窩(ほぼ30°)を有する。この解剖学的組み合わせを伴う膝にACL移植片を配置した場合、蓋衝突を回避するために脛骨孔をより後部に配置する必要がある。
【0138】
図31a、31b、及び31cは、ACL再構築の間に脛骨孔を穿孔するための従来の方法の関節鏡及びX線画像である。脛骨孔ガイドワイヤ312が、外科医によって、膝における切開部を通して孔ノッチ314内にガイドされる(
図31a)。チェックポイントは、後十字靱帯(PCL)の下半分と交差することなく、ノッチの横半分の頂点と底辺との間の中間でガイドワイヤを中心に位置決めすることである。
図31bに示すように、ガイドワイヤ312はまた、頸骨内側関節線に対して約63°(範囲60°~65°)の角度を形成すべきである。
図31cにさらなるチェックポイントを、顆間窩に対して4~5mm後部で平行であるガイドワイヤ312と、最大伸展にある膝との位置合わせとして示す。
【0139】
前述したことを考慮して、装置2を用いて、膝の部分(たとえば、大腿骨または頸骨)に対するガイドワイヤ312の相対角度及びずれを正確に決定してもよいことが分かる。
図32aは、人体の大腿骨322に接続された装置2の概略図である。
【0140】
装置2を大腿骨322に固定した状態で、
図4~8を参照して前述した校正プロセスを行って、大腿骨322に対する装置2に対する基準系を取得してもよい。
【0141】
それに加えてまたはその代わりに、股関節に対する脚部の動きを用いて、大腿骨322に対する装置2に対する基準系を得てもよい。たとえば、先の
図7aに示すように患者が平坦面上で仰臥(または腹臥)位にあるときに、大腿骨に取り付けた装置2を用いて、重力ベクトルgを磁界センサ22によって測定してもよい。重力ベクトルは骨盤の前後方向軸に対応する。次に脚部(したがって、大腿骨322)を、股関節の周りに動かしても(揺らすかまたは回転させても)よい。脚部を股関節の周りに動かしている間、装置2はその方位の測定及び記録する。次に収集データを用いて装置2の回転/振動の中心を計算することができる。仰臥位にある患者に対するその当初の位置に大腿骨322を再び置いて、装置2と回転/振動の計算した中心との間のベクトルに基づいて、大腿骨322の長手方向ベクトルを推定してもよい。大腿骨の長手方向ベクトル及び重力ベクトル(したがって、大腿骨の前後方向軸)が分かっていれば、横断ベクトル(大腿骨に渡る)を計算することができる。ベクトルは必然的に、長手方向及び前後方向軸の両方に垂直に延びる。したがって、患者(特に患者の大腿骨)の解剖学的基準系(基準系には前後方向軸、患者の長手軸、ならびに横断軸が含まれる)を決定することができる。
【0142】
電子装置2を大腿骨322に対して校正したら、装置2を次に、
図32b及び32cに示すように、大腿骨322上の固定場所から手術用ドリル324または他の器具上の固定場所に移してもよい。次に、大腿骨322に対するガイドワイヤ312の角度を、
図9~14及び28a~29を参照してカップインパクタ1及び棘突起282に対して前述したものと同様の方法でモニタしてもよい。ドリル324に結合された装置2を用いて、外科医は、大腿骨322に大腿骨孔を穿孔するときに、ガイドワイヤ312の軌跡の角度を正確に決定することができる。
【0143】
当業者であれば分かるように、本開示の広い一般的な範囲から逸脱することなく、前述した実施形態に対して多くの変形及び/または変更を行ってもよい。したがって、本実施形態をすべての点において例示的であり限定的ではないと考えるべきである。
【符号の説明】
【0144】
1 寛骨臼カップインパクタ
2 電子装置
2a 第1の電子装置
2b 第2の電子装置
3 骨盤校正スクリーン
4 インパクタ方位スクリーン
5 骨盤追跡スクリーン
10 寛骨臼カップインパクタ
11 寛骨臼カップ
12 骨盤骨
13 インパクタシャフト
14 柄部
20 電子装置
21 ジャイロスコープ
22 磁界センサ
23 加速度計
24 プロセッサ
25 タッチスクリーンディスプレイ
26 スピーカ
27 メモリ
30 マウント
31 ボタン
32 ゼロボタン
33 ボタン
35 インプラント
40 ナビゲーション要素
41 前捻角
42 傾斜角
43 ボタン
60 範囲
110 寛骨臼カップ
120 骨盤骨
130 インパクタシャフト
140 ASISベクトル線/第1のマーカー
200 電子装置
201 ビデオカメラ
202 ディスプレイ装置
203 プロセッサ
204 タッチスクリーンキーパッド205 メモリ
206 画像例(フレーム)
206a 画像
206b 画像
206c 画像
206d 画像
206e 画像
208 第3のマーカー
209 矢印
210 ビデオカメラ
211 第2のマーカー
212 画像例(フレーム)
212a 画像
212b 画像
212c 画像
212d 画像
212e 画像
213 第3のマーカー
214 矢印
215a ガイドライン
215b ガイドライン
215c ガイドライン
215d ガイドライン
215e ガイドライン
216 第2のマーカー
220 ディスプレイ装置
230 傾斜センサ
240 プロセッサ
250 タッチスクリーンキーパッド
260 メモリ
270 画像例(フレーム)
270a 第1の画像
270b 画像
271a ライン
271b ライン
271c ライン
271d ライン
271e ライン
272a ガイドライン
272b ガイドライン
272c ガイドライン
272d ガイドライン
272e ガイドライン
273 アウトライン
274 前捻角
282 棘突起
284 脊椎骨
292 手術用ドリル
294 ドリルビット
310 スリーブ部分
312 脛骨孔ガイドワイヤ
314 孔ノッチ
320 アーム
322 大腿骨
324 手術用ドリル
400 第1のマーカー/球体
401 第1のマーカー/ディスク
402 第1のマーカー/ディスク
410 円形ディスク
420 円形ディスク
430 スペーサ
2011a ボックス
2011b ボックス