(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】B細胞悪性腫瘍及び他のがんの治療に有用な自己T細胞を産生する方法、並びにその組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20220613BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220613BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20220613BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220613BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220613BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220613BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220613BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20220613BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20220613BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20220613BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N15/867 Z
C12N15/12
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61P35/02
C07K14/725
C07K19/00
C07K16/30
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020007980
(22)【出願日】2020-01-22
(62)【分割の表示】P 2016567484の分割
【原出願日】2015-02-04
【審査請求日】2020-02-19
(32)【優先日】2014-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514266932
【氏名又は名称】カイト ファーマ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Kite Pharma, Inc
(73)【特許権者】
【識別番号】508285606
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ, アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー, デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベター マーク
(72)【発明者】
【氏名】フェルドマン スティーブン エー.
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンバーグ スティーブン エー.
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/119793(WO,A1)
【文献】Cancer Gene Therapy,2002年,Vol.9,p.613-623
【文献】Cytotherapy,2013年,Vol.15,p.1406-1415
【文献】Cytotherapy,2008年,Vol.10, No.4,p.406-416
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的細胞の表面の特異的抗原部分を認識する細胞表面受容体を発現する操作されたT細胞含むT細胞集団を製造する方法であって、
(A)
(a)ドナー被験体から得られたリンパ球の集団を富化すること、
(b)活性化T細胞の集団を生産するために、1又は複数のT細胞刺激剤で前記リンパ球の集団を刺激することであって、前記刺激が血清不含培養培地を使用して閉鎖
バッグ系で行われること、
(c)形質導入されたT細胞の集団を生産するために、単一サイクルの形質導入を使用して、
スピノキュレーションを行わずに、前記細胞表面受容体をコードする核酸分子を含むウイルスベクターによって前記活性化T細胞の集団に形質導入すること(ここで、前記形質導入は血清不含培養培地を使用して閉鎖バッグ系で行われ、前記バッグは組換えヒトフィブロネクチンタンパク質またはそのフラグメントで覆われている)、及び
(d)
回収される操作されたT細胞の集団を生産するために、所定の時間に亘って前記形質導入されたT細胞の集団を拡大すること(ここで、前記拡大が血清不含培養培地を使用して閉鎖
バッグ系で行われ
、(a)から細胞を回収するまでの時間は10日未満である)、或いは
(B)
(a)活性化T細胞の集団を生産するために、1又は複数のT細胞刺激剤でドナー被験体から得られたリンパ球の集団を刺激することであって、前記刺激が血清不含培養培地を使用して閉鎖
バッグ系で行われること、
(b)形質導入されたT細胞の集団を生産するために、単一サイクルの形質導入を使用して、
スピノキュレーションを行わずに、細胞表面受容体をコードする核酸分子を含むウイルスベクターによって活性化T細胞の集団に形質導入すること(ここで、前記形質導入は血清不含培養培地を使用して閉鎖バッグ系で行われ、前記バッグは組換えヒトフィブロネクチンタンパク質またはそのフラグメントで覆われている)、
(c)
回収される操作されたT細胞の集団を生産するために、形質導入されたT細胞の集団を拡大すること(ここで、前記拡大は血清不含培養培地を使用して閉鎖バッグ系で行われ
、(a)から細胞を回収するまでの時間は10日未満である)、
を含む、方法。
【請求項2】
前記細胞表面受容体がT細胞受容体(TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(A)の標的細胞ががん細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記がん細胞がB細胞悪性腫瘍である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞表面受容体が抗CD19 CARである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記1又は複数のT細胞刺激剤が抗CD3抗体及びIL-2である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ウイルスベクターがレトロウイルスベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記レトロウイルスベクターがMSGV1ガンマレトロウイルスベクターである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記形質導入されたT細胞の集団を拡大するための(A)の前記所定の時間が3日である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記(A)のリンパ球の集団の
刺激から前記操作されたT細胞の産生までの時間が6日である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記操作されたT細胞ががん患者の治療における使用のためのものであり、
前記がん患者と前記ドナー被験体と
が同一の個体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記バッグが、形質導入工程の間HSAでブロックされていない、請求項
1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞の集団がナイーブT細胞を含み、
操作されたT細胞の集団
の35%~43%、少なくと
も35%、又は少なくと
も43%がナイーブT細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす、2014年2月4日付で出願された米国仮特許出願番号第61/935,833号の利益を主張する。
【0002】
[合衆国政府の利益に関する陳述]
本発明は、保健社会福祉省の一機関である国立癌研究所(NCI)との共同研究及び開発協定の成果において創造された。合衆国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
がんの治療における使用のため操作された自己T細胞を産生するプロセスは、長時間を要し(10日~24日)、2サイクルのレトロウイルス形質導入を含み、市販用途にあまり適していない(非特許文献1及び2を参照されたい)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Kochenderfer et al., Blood. 2012 119: 2709-2720
【文献】Johnson, et al., Blood. 2009; 114(3):535-546
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、これらの制限を克服するためT細胞製造プロセスに対する改良を行うことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載されるある特定の実施の形態によれば、標的細胞の表面の特定抗原部分を認識する細胞表面受容体を発現するT細胞を製造する方法が提供される。本明細書において、ある特定の実施の形態では、標的細胞の表面の特異的抗原部分を認識する細胞表面受容体を発現するT細胞を製造する方法であって、ドナー被験体から得られたリンパ球の集団を富化することと、活性化T細胞の集団を産生するために1又は複数のT細胞刺激剤で上記リンパ球の集団を刺激することであって、上記刺激が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、形質導入されたT細胞の集団を産生するために単一サイクルの形質導入を使用して細胞表面受容体をコードする核酸分子を含むウイルスベクターによって上記活性化T細胞の集団に形質導入することであって、上記形質導入が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、操作されたT細胞の集団を産生するために所定の時間に亘って上記形質導入されたT細胞の集団を拡大することであって、上記拡大が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることとを含む、方法が提供される。ある特定の実施の形態では、細胞表面受容体はT細胞受容体(TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)であってもよい。ある特定の実施の形態では、標的細胞はがん細胞であってもよい。ある特定の実施の形態では、がん細胞はB細胞悪性腫瘍であってもよい。ある特定の実施の形態では、細胞表面受容体は抗CD19 CARであってもよい。ある特定の実施の形態では、抗CD19 CARはFMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBz CARであってもよい。ある特定の実施の形態では、1又は複数のT細胞刺激剤は抗CD3抗体及びIL-2であってもよい。ある特定の実施の形態では、ウイルスベクターはレトロウイルスベクターであってもよい。ある特定の実施の形態では、レトロウイルスベクターはMSGV1ガンマレトロウイルスベクターであってもよい。ある特定の実
施の形態では、MSGV1ガンマレトロウイルスベクターは、MSGV-FMC63-28Z又はMSGV-FMC63-CD828BBzガンマレトロウイルスベクターであってもよい。ある特定の実施の形態では、形質導入されたT細胞の集団を拡大する所定の時間は3日であってもよい。ある特定の実施の形態では、リンパ球の集団の富化から操作されたT細胞の産生までの時間が6日であってもよい。ある特定の実施の形態では、操作されたT細胞をがん患者の治療に使用してもよい。ある特定の実施の形態では、がん患者とドナー被験体とは同一の個体であってもよい。ある特定の実施の形態では、閉鎖系は閉鎖バッグ系であってもよい。ある特定の実施の形態では、細胞の集団はナイーブT細胞を含んでもよい。ある特定の実施の形態では、操作されたT細胞の集団の約35%~43%がナイーブT細胞を含んでもよい。ある特定の実施の形態では、操作されたT細胞の集団の少なくとも約35%がナイーブT細胞を含んでもよい。ある特定の実施の形態では、操作されたT細胞の集団の少なくとも約43%がナイーブT細胞を含んでもよい。
【0007】
本明細書に記載される実施の形態によれば、本明細書に開示される方法によって産生された標的細胞の表面の特異的抗原部分を認識する細胞表面受容体を発現する操作されたT細胞の集団が提供される。本明細書において、ある特定の実施の形態では、ドナー被験体から得られたリンパ球の集団を富化することと、活性化T細胞の集団を産生するために1又は複数のT細胞刺激剤で上記リンパ球の集団を刺激することであって、上記刺激が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、形質導入されたT細胞の集団を産生するために単一サイクルの形質導入を使用して細胞表面受容体をコードする核酸分子を含むウイルスベクターによって上記活性化T細胞の集団に形質導入することであって、上記形質導入が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、操作されたT細胞の集団を産生するために所定の時間に亘って上記形質導入されたT細胞の集団を拡大することであって、上記拡大が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることとを含む方法が提供される。ある特定の実施の形態では、操作されたT細胞の集団は本明細書に記載されるもののいずれであってもよい。
【0008】
本明細書に記載されるある特定の実施の形態によれば、操作されたT細胞の集団を含む医薬組成物が提供される。本明細書において、特定の実施態様では本明細書に記載される操作されたT細胞の集団を含む医薬組成物が提供される。ある特定の実施の形態では、医薬組成物は治療的有効用量の操作されたT細胞を含んでもよい。ある特定の実施の形態では、細胞表面受容体は、T細胞受容体(TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)であってもよい。ある特定の実施の形態では、CARはFMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARであってもよい。ある特定の実施の形態では、治療的有効用量は、体重1キログラム当たり約100万より多く、かつ約300万未満の操作されたT細胞(細胞/kg)であってもよい。ある特定の実施の形態では、治療的有効用量は約200万の操作されたT細胞/kgであってもよい。
【0009】
本明細書に記載されるある特定の実施の形態によれば、T細胞を製造する方法が提供される。本明細書では、リンパ球の集団を得ることと、活性化T細胞の集団を産生するために1又は複数の刺激剤によって上記リンパ球の集団を刺激することであって、上記刺激が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、形質導入されたT細胞の集団を産生するために少なくとも1サイクルの形質導入を使用して細胞表面受容体をコードする核酸分子を含むウイルスベクターによって上記活性化T細胞の集団に形質導入することであって、上記形質導入が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、操作されたT細胞の集団を産生するために上記形質導入されたT細胞の集団を拡大することであって、上記拡大が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることとを含む、T細胞を製造する方法が提供される。ある特定の実施の形態では、操作されたT細胞の集団は本明細書に記載されるもののいずれであってもよい。
項1
標的細胞の表面の特異的抗原部分を認識する細胞表面受容体を発現するT細胞を製造する方法であって、
ドナー被験体から得られたリンパ球の集団を富化することと、
活性化T細胞の集団を産生するために、1又は複数のT細胞刺激剤で前記リンパ球の集団を刺激することであって、前記刺激が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、
形質導入されたT細胞の集団を産生するために、単一サイクルの形質導入を使用して前記細胞表面受容体をコードする核酸分子を含むウイルスベクターによって前記活性化T細胞の集団に形質導入することであって、前記形質導入が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、
操作されたT細胞の集団を産生するために、所定の時間に亘って前記形質導入されたT細胞の集団を拡大することであって、前記拡大が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、
を含む、方法。
項2
前記細胞表面受容体がT細胞受容体(TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)である、項1に記載の方法。
項3
前記標的細胞ががん細胞である、項1に記載の方法。
項4
前記がん細胞がB細胞悪性腫瘍である、項3に記載の方法。
項5
前記細胞表面受容体が抗CD19 CARである、項3に記載の方法。
項6
前記1又は複数のT細胞刺激剤が抗CD3抗体及びIL-2である、項1に記載の方法。
項7
前記ウイルスベクターがレトロウイルスベクターである、項1に記載の方法。
項8
前記レトロウイルスベクターがMSGV1ガンマレトロウイルスベクターである、項7に記載の方法。
項9
前記形質導入されたT細胞の集団を拡大する前記所定の時間が3日である、項1に記載の方法。
項10
前記リンパ球の集団の富化から前記操作されたT細胞の産生までの時間が6日である、項1に記載の方法。
項11
前記操作されたT細胞をがん患者の治療に使用する、項10に記載の方法。
項12
前記がん患者と前記ドナー被験体とが同一の個体である、項11に記載の方法。
項13
前記閉鎖系が閉鎖バッグ系である、項1に記載の方法。
項14
前記細胞の集団がナイーブT細胞を含む、項1に記載の方法。
項15
前記操作されたT細胞の集団の約35%~43%がナイーブT細胞を含む、項14に記載の方法。
項16
前記操作されたT細胞の集団の少なくとも約35%がナイーブT細胞を含む、項14に記載の方法。
項17
前記操作されたT細胞の集団の少なくとも約43%がナイーブT細胞を含む、項14に記載の方法。
項18
標的細胞の表面の特異的抗原部分を認識する細胞表面受容体を発現する操作されたT細胞の集団であって、
ドナー被験体から得られたリンパ球の集団を富化することと、
活性化T細胞の集団を産生するために、1又は複数のT細胞刺激剤で前記リンパ球の集団を刺激することであって、前記刺激が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、
形質導入されたT細胞の集団を産生するために、単一サイクルの形質導入を使用して前記細胞表面受容体をコードする核酸分子を含むウイルスベクターによって前記活性化T細胞の集団に形質導入することであって、前記形質導入が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、
操作されたT細胞の集団を産生するために、所定の時間に亘って前記形質導入されたT細胞の集団を拡大することであって、前記拡大が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、
を含む方法によって産生される、集団。
項19
前記細胞表面受容体がT細胞受容体(TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)である、項18に記載の集団。
項20
前記標的細胞ががん細胞である、項18に記載の集団。
項21
前記がん細胞がB細胞悪性腫瘍である、項20に記載の集団。
項22
前記細胞表面受容体が抗CD19 CARである、項18に記載の集団。
項23
前記1又は複数のT細胞刺激剤が抗CD3抗体及びIL-2である、項18に記載の集団。
項24
前記ウイルスベクターがレトロウイルスベクターである、項18に記載の集団。
項25
前記レトロウイルスベクターがMSGV1ガンマレトロウイルスベクターである、項24に記載の集団。
項26
前記形質導入されたT細胞の集団を拡大する所定の時間が3日である、項18に記載の集団。
項27
前記リンパ球の集団の富化から前記操作されたT細胞の産生までの時間が6日である、項18に記載の集団。
項28
前記操作されたT細胞をがん患者の治療に使用する、項27に記載の集団。
項29
前記がん患者と前記ドナー被験体とが同じ個体である、項28に記載の集団。
項30
前記閉鎖系が閉鎖バッグ系である、項18に記載の集団。
項31
前記操作されたT細胞の集団がナイーブT細胞を含む、項18に記載の集団。
項32
前記操作されたT細胞の集団の約35%~43%がナイーブT細胞を含む、項31に記載の集団。
項33
前記操作されたT細胞の集団の少なくとも約35%がナイーブT細胞を含む、項31に記載の集団。
項34
前記操作されたT細胞の集団の少なくとも約43%がナイーブT細胞を含む、項31に記載の集団。
項35
項18~34のいずれか一項に記載の前記操作されたT細胞の集団を含む医薬組成物。
項36
治療的有効用量の前記操作されたT細胞を含む、項35に記載の医薬組成物。
項37
前記細胞表面受容体がT細胞受容体(TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)である、項36に記載の医薬組成物。
項38
前記CARがFMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARである、項37に記載の医薬組成物。
項39
前記治療的有効用量が体重1kg当たり約100万超~約300万未満の操作されたT細胞である、項38に記載の医薬組成物。
項40
前記治療的有効用量が約200万の操作されたT細胞/kgである、項39に記載の医薬組成物。
項41
T細胞を製造する方法であって、
(a)リンパ球の集団を得ることと、
(b)活性化T細胞の集団を産生するために、1又は複数の刺激剤によって前記リンパ球の集団を刺激することであって、前記刺激が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、
(c)形質導入されたT細胞の集団を産生するために、少なくとも1サイクルの形質導入を使用して前記細胞表面受容体をコードする核酸分子を含むウイルスベクターによって前記活性化T細胞の集団に形質導入することであって、前記形質導入が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、
(d)操作されたT細胞の集団を産生するために、前記形質導入されたT細胞の集団を拡大することであって、前記拡大が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、
を含む、方法。
項42
前記細胞表面受容体がT細胞受容体(TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)である、項41に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本明細書に記載されるある特定の実施形態によるT細胞製造プロセス(「改良された」プロセス)を説明する図である。T細胞の倍加時間は被験体ごとにわずかに変化し得るため、目的の標的用量を送達するのに総細胞数が不十分である場合にはバッグ内での72時間を超える(すなわち3日~6日)追加の増殖時間を考慮する(*を参照されたい)。
【
図2】1つの実施形態による従来使用されていたプロセス(「従来の」プロセス)と比較した改良されたプロセスを説明する図である。
【
図3】1つの実施形態による従来のプロセスと比較した改良されたプロセスにおける培養拡大を説明する棒グラフである。y軸は5試行(x軸)の各々の細胞の拡大倍数を示す。培養拡大倍数は大規模操作の試行において従来のプロセスと改良されたプロセスとで同様である。
【
図4】1つの実施形態による、CD3+細胞表現型(
図4A)及びCD3+細胞活性化(
図4B)において、従来のプロセス及び改良されたプロセスにおける6日目及び10日目のT細胞表現型を図に示されるマーカーにより説明する一連のグラフを示す図である。T細胞表現型は従来のプロセスと改良されたプロセスとで同等であるが、6日目の細胞はより未分化である。Teff=エフェクターT細胞、Tem=エフェクターメモリーT細胞、Tcm=セントラルメモリーT細胞。
【
図5】1つの実施形態による、従来のプロセス及び改良されたプロセスにおける6日目の細胞表現型を説明する一連のグラフを示す図である。
【
図6】1つの実施形態による、改良されたプロセスの刺激相、形質導入相、及び拡大相の間の毎日の細胞数を示す概略図である。
【
図7】1つの実施形態による、MSGV1ガンマレトロウイルス骨格(配列番号4)の核酸配列を示す図である。
【
図8】1つの実施形態による、バッグを被覆するため使用したRetroNectin(登録商標)濃度の関数として形質導入効率を示す図である。RN=μg/mL単位のRetroNectin(登録商標)濃度。2名のドナーからのPL07バッグにおける形質導入から6日後に結果を測定した。
【
図9】1つの実施形態による、洗浄工程を含む及び洗浄工程を含まない形質導入効率を示す図である。Origen PermaLife(商標)バッグ内での形質導入から6日後に結果を測定した。
【
図10】1つの実施形態による、OpTmizer(商標)培地における形質導入効率に対するRetroNectin(登録商標)濃度の影響を示す図である。RN=μg/mL単位のRetroNectin(登録商標)濃度。「開放」は、形質導入がAIM V(登録商標)+5%ヒト血清中、プレートにおいて実施された条件を示す。
【
図11】1つの実施形態による、FACSによって評価される、CD19+Nalm6細胞と4時間に亘ってコインキュベーションした後のCD107a発現及びIFN-ガンマ発現によって測定される、形質導入されたT細胞の活性を示す図である。「開放」は、形質導入がAIM V(登録商標)+5%ヒト血清中、プレートにおいて実施された条件を示す。対照Tは、凍結されたCAR陽性の形質導入されたPBMCの参照試料を示す。
【
図12】最適化プロファイルのための速度制御冷凍チャンバーの温度プロファイル(下の線)及び製品温度(上の線)を示す図である。表示されるプロファイルは、重要な領域のみを示すため短縮されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に記載される実施形態によれば、病理学的な疾患又は状態を有する患者の治療に有用な可能性のあるT細胞調製剤を製造する方法又はプロセスが提供される。T細胞産物に対する既知の生産方法とは対照的に、本明細書に記載される方法及びプロセスは、およそ6日間という著しく短い時間で完了されることにより、細胞を臨床へと至らせる重要
な時間的利益を提供する。また、本明細書において、本明細書に記載される方法を使用して産生された、操作されたT細胞の集団、及びその医薬組成物が提供される。
【0012】
ある特定の実施形態では、標的細胞の表面の特異的抗原部分を認識する細胞表面受容体を発現するT細胞を製造するため、記載される方法を使用してもよい。該細胞表面受容体は、野生型又は組換えのT細胞受容体(TCR)、キメラ抗原受容体(CAR)、又は標的細胞と関連する抗原部分を認識することができる任意の他の表面受容体であってもよい。CAR及びTCRによって認識される抗原部分の形態はわずかに異なる。CARは、単鎖タンパク質としてCARを発現することを可能とする、単鎖可変フラグメント(scFv)を標的結合ドメインとして有する。このことから、CARが標的細胞表面の無傷のタンパク質の一部である天然のがん抗原を認識することが可能となる。TCRは、ある特定の細胞の表面のMHCタンパク質によって提示される特異的ペプチドと結合するように設計される2つのタンパク質鎖を有する。TCRは標的細胞表面に発現されるMHC分子との関連でペプチドを認識することから、TCRはがん細胞の表面に直接提示されるがん抗原のみならず、腫瘍、炎症性の及び感染した微小環境、並びに二次リンパ器官において抗原提示細胞によって提示されるがん抗原をも認識する潜在的な能力を有する。抗原提示細胞は、免疫応答の増幅を担う天然の免疫系細胞である。
【0013】
したがって、本明細書に記載される実施形態によれば、細胞表面受容体を発現する製造されたT細胞を、限定されないが、感染した細胞、損傷した細胞、又は機能不全の細胞を含む任意の標的細胞を標的化し、死滅させるため使用してもよい。かかる標的細胞の例として、がん細胞、ウイルス感染細胞、細菌感染細胞、機能不全の活性化された炎症性細胞(例えば、炎症性内皮細胞)、及び機能不全免疫反応に関与する細胞(例えば、自己免疫疾患に関与する細胞)が挙げられる。
【0014】
幾つかの態様では、抗原部分はがん又はがん細胞と関連する。このような抗原部分は、707-AP(707アラニンプロリン)、AFP(α(a)-フェトプロテイン)、ART-4(T4細胞により認識される腺癌抗原)、BAGE(B抗原;b-カテニン/m、b-カテニン/変異型)、BCMA(B細胞成熟抗原)、Bcr-abl(ブレイクポイントクラスター領域-アベルソン)、CAIX(炭酸脱水酵素IX)、CD19(分化抗原群19)、CD20(分化抗原群20)、CD22(分化抗原群22)、CD30(分化抗原群30)、CD33(分化抗原群33)、CD44v7/8(分化抗原群44、エクソン7/8)、CAMEL(メラノーマ上のCTL認識抗原)、CAP-1(がん胎児抗原ペプチド-1)、CASP-8(カスパーゼ-8)、CDC27m(細胞分裂周期タンパク質27変異型)、CDK4/m(サイクリン依存性キナーゼ4変異型)、CEA(がん胎児性抗原)、CT(がん/精巣(抗原))、Cyp-B(シクロフィリンB)、DAM(分化抗原メラノーマ)、EGFR(上皮成長因子受容体)、EGFRvIII(上皮成長因子受容体、バリアントIII)、EGP-2(上皮糖タンパク質2)、EGP-40(上皮糖タンパク質40)、Erbb2、3、4(赤芽球性白血病ウイルスがん遺伝子ホモログ-2、-3、-4)、ELF2M(伸長因子2変異型)、ETV6-AML1(Etsバリアント遺伝子6/急性骨髄性白血病1遺伝子ETS)、FBP(葉酸結合タンパク質)、fAchR(胎児性アセチルコリン受容体)、G250(糖タンパク質250)、GAGE(G抗原)、GD2(ジシアロガングリオシド2)、GD3(ジシアロガングリオシド3)、GnT-V(N-アセチルグルコサミン転移酵素V)、Gp100(糖タンパク質100kD)、HAGE(ヘリカーゼ抗原)、HER-2/neu(ヒト上皮成長因子受容体-2/神経系;EGFR2としても知られる)、HLA-A(ヒト白血球型抗原-A)、HPV(ヒトパピローマウイルス)、HSP70-2M(熱ショックタンパク質70-2変異型)、HST-2(ヒト印環腫瘍-2)、hTERT若しくはhTRT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)、iCE(腸管カルボキシルエステラーゼ)、IL-13R-a2(インターロイキン-13受容体サブユニットα-2)、KIAA02
05、KDR(キナーゼ挿入ドメイン受容体)、κ-軽鎖、LAGE(L抗原)、LDLR/FUT(低比重脂質受容体/GDP-L-フコース:b-D-ガラクトシダーゼ2-a-Lフコシルトランスフェラーゼ)、LeY(ルイスY抗体)、L1CAM(L1細胞接着分子)、MAGE(メラノーマ抗原)、MAGE-A1(メラノーマ関連抗原1)、メソテリン、マウスCMV感染細胞、MART-1/Melan-A(T細胞1により認識されるメラノーマ抗原/メラノーマ抗原A)、MC1R(メラノコルチン1受容体)、ミオシン/m(ミオシン変異型)、MUC1(ムチン1)、MUM-1、-2、-3(メラノーマ遍在変異型1、2、3)、NA88-A(患者M88のNA cDNAクローン)、NKG2D(ナチュラルキラー群2、メンバーD)リガンド、NY-BR-1(ニューヨーク乳房分化抗原1)、NY-ESO-1(ニューヨーク食道扁平上皮細胞がん-1)、がん胎児抗原(h5T4)、P15(タンパク質15)、p190 minor bcr-abl(190KDのbcr-ablのタンパク質)、Pml/RARa(前骨髄球性白血病/レチノイン酸受容体a)、PRAME(メラノーマの優先的発現抗原)、PSA(前立腺特異的抗原)、PSCA(前立腺幹細胞抗原)、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、RAGE(腎臓抗原)、RU1若しくはRU2(腎臓遍在型1又は2)、SAGE(肉腫抗原)、SART-1若しくはSART-3(腫瘍拒絶扁平上皮抗原1又は3)、SSX1、-2、-3、-4(滑膜肉腫X1、-2、-3、-4)、TAA(腫瘍関連抗原)、TAG-72(腫瘍関連糖タンパク質72)、TEL/AML1(トランスローケーションEtsファミリー白血病/急性骨髄性白血病1)、TPI/m(トリオースリン酸イソメラーゼ変異型)、TRP-1(チロシナーゼ関連タンパク質1、又はgp75)、TRP-2(チロシナーゼ関連タンパク質2)、TRP-2/INT2(TRP-2/イントロン2)、VEGF-R2(血管内皮細胞増殖因子受容体2)、又はWT1(ウイルムス腫瘍遺伝子)を含み得るが、それらに限定されない。
【0015】
幾つかの態様において、細胞表面受容体は、抗707-AP TCR、抗AFP TCR、抗ART-4 TCR、抗BAGE TCR、抗Bcr-abl TCR、抗CAMEL TCR、抗CAP-1 TCR、抗CASP-8 TCR、抗CDC27m TCR、抗CDK4/m TCR、抗CEA TCR、抗CT TCR、抗Cyp-B TCR、抗DAM TCR、抗TCR、抗EGFRvIII TCR、抗ELF2M TCR、抗ETV6-AML1 TCR、抗G250 TCR、GAGE TCR、抗GnT-V TCR、抗Gp100 TCR、抗HAGE TCR、抗HER-2/neu TCR、抗HLA-A TCR、抗HPV TCR、抗HSP70-2M TCR、抗HST-2 TCR、抗hTERT TCR若しくは抗hTRT TCR、抗iCE TCR、抗KIAA0205、抗LAGE(L抗原)、抗LDLR/FUT TCR、抗MAGE
TCR、抗MART-1/Melan-A TCR、抗MC1R TCR、抗ミオシン/m TCR、抗MUC1 TCR、抗MUM-1、-2、-3 TCR、抗NA88-A TCR、抗NY-ESO-1 TCR、抗P15 TCR、抗p190 minor
bcr-abl TCR、抗Pml/RARa TCR、抗PRAME TCR、抗PSA TCR、抗PSMA TCR、抗RAGE TCR、抗RU1 TCR若しくは抗RU2 TCR、抗SAGE TCR、抗SART-1 TCR若しくは抗SART-3
TCR、抗SSX1、-2、-3、-4 TCR、抗TEL/AML1 TCR、抗TPI/m TCR、抗TRP-1 TCR、抗TRP-2 TCR、抗TRP-2/INT2 TCR、又は抗WT1 TCRを含むが、それらに限定されない、がん細胞上の特異的抗原部分を認識する任意のTCRである。
【0016】
他の態様では、細胞表面受容体は、T細胞によって発現され得る、がん細胞上の特異的抗原部分を認識する任意のCARである。ある特定のCARは、抗原結合ドメイン(例えば、scFv)及びシグナル伝達ドメイン(例えば、CD3ゼータ鎖)を含む。他のCARは、抗原結合ドメイン(例えば、scFv)、シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3ゼータ鎖)、及び共刺激ドメイン(例えば、CD28)を含む。さらに、他のCARは、
抗原結合ドメイン(例えば、scFv)、シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3ゼータ鎖)、及び2つの共刺激ドメイン(例えば、CD28及び4-1BB)を含む。本明細書に記載される方法に従って作製されるT細胞によって発現され得る表面受容体CARの例として、限定されないが、抗BCMA CAR、抗CAIX CAR、抗CD19 CAR、抗CD20 CAR、抗CD22 CAR、抗CD30 CAR、抗CD33 CAR、抗CD44v7/8 CAR、抗CEA CAR、抗EGFRvIII、抗EGP-2、抗EGP-40 CAR、抗Erbb2、3、4 CAR、抗FBP CAR、抗fAchR CAR、抗GD2 CAR、抗GD3 CAR、抗HER2/neu CAR、抗IL-13R-a2 CAR、抗KDR CAR、抗κ-軽鎖CAR、抗LeY CAR、抗L1CAM CAR、抗MAGE-A1 CAR、抗メソテリンCAR、抗マウスCMV感染細胞に対するCAR、抗MUC1 CAR、抗NKG2DリガンドCAR、抗NY-BR-1 CAR、抗h5T4 CAR、抗PSCA CAR、抗PSMA CAR、抗TAA CAR、抗TAG-72 CAR、又は抗VEGF-R2 CARが挙げられる。1つの態様では、細胞表面受容体は任意の抗CD19 CARである。1つの態様では、抗CD19 CARとして、細胞外scFvドメイン、CD28分子の細胞内部分及び/又は膜貫通部分、CD28分子の任意の細胞外部分、及び細胞内CD3ゼータドメインが挙げられる。また、抗CD19 CARは、CD8細胞外及び/又は膜貫通領域、細胞外免疫グロブリンFcドメイン(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、又は41BB、OX40、CD2、CD16、CD27、CD30、CD40、PD-1、ICOS、LFA-1、IL-2の受容体、Fcガンマ受容体等の1若しくは複数の追加のシグナル伝達ドメイン、又は免疫受容体チロシン系活性化モチーフを含む他の共刺激ドメイン等の追加のドメインが挙げられる。
【0017】
ある特定の実施形態では、細胞表面受容体は、Kochenderfer et al., J Immunother. 2009 September; 32(7): 689-702「Construction and Pre-clinical Evaluation of an Anti-CD19 Chimeric Antigen Receptor」に記載される、FMC63-28Z CAR又は
FMC63-CD828BBZ CAR等の抗CD19 CAR等であり、その主題は、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現するT細胞を産生するため使用されるベクターを構築する方法を提供する目的で、引用することにより本明細書の一部をなす。
【0018】
他の実施形態では、抗原部分はウイルス感染細胞(すなわち、ウイルス抗原部分)と関連する。このような抗原部分は、エプスタイン-バールウイルス(EBV)抗原(例えば、EBNA-1、EBNA-2、EBNA-3、LMP-1、LMP-2)、A型肝炎ウイルス抗原(例えば、VP1、VP2、VP3)、B型肝炎ウイルス抗原(例えば、HBsAg、HBcAg、HBeAg)、C型肝炎ウイルス抗原(例えば、エンベロープ糖タンパク質E1及びE2)、単純ヘルペス1型、2型、若しくは8型(HSV1、HSV2、又はHSV8)ウイルス抗原(例えば、糖タンパク質gB、gC、gC、gE、gG、gH、gI、gJ、gK、gL、gM、UL20、UL32、US43、UL45、UL49A)、サイトメガロウイルス(CMV)のウイルス抗原(例えば、糖タンパク質gB、gC、gC、gE、gG、gH、gI、gJ、gK、gL、gM、又は他のエンベロープタンパク質)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のウイルス抗原(糖タンパク質gp120、gp41、又はp24)、インフルエンザウイルス抗原(例えば、ヘマグルチニン(HA)又はノイラミダーゼ(NA))、麻疹又は流行性耳下腺炎のウイルス抗原、ヒトパピローマウイルス(HPV)のウイルス抗原(例えば、L1、L2)、パラインフルエンザウイルスのウイルス抗原、風疹ウイルスのウイルス抗原、呼吸器抱合体ウイルス(RSV)のウイルス抗原、又は水痘帯状疱疹ウイルスのウイルス抗原を含み得るが、それらに限定されない。かかる実施形態では、細胞表面受容体は任意のTCR、又は標的ウイルス感染細胞上の上述のウイルス抗原のいずれかを認識する任意のCARであってもよい。
【0019】
他の実施形態では、抗原部分は免疫又は炎症の機能不全を有する細胞と関連する。かかる抗原部分として、限定されないが、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、がん胎児性抗原(CEA)、プロインスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD65、GAD67)、熱ショックタンパク質(HSP)、又は病原性の自己免疫プロセスに関与する若しくはそれと関連する任意の他の組織特異的抗原が挙げられ得る。
【0020】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される方法は、ドナー被験体から得られたリンパ球の集団を富化する工程を含んでもよい。該ドナー被験体は、本明細書に記載される方法によって作製される細胞の集団で治療されるがん患者(すなわち、自家ドナー)であってもよく、又は本明細書に記載される方法によって作製される細胞集団の作製によって、異なる個体若しくはがん患者の治療に使用されるリンパ球試料を提供する個体(すなわち、同種異系ドナー)であってもよい。リンパ球の集団は、当該技術分野で使用される任意の好適な方法によってドナー被験体から得られてもよい。例えば、リンパ球の集団は、任意の好適な体外の方法、静脈穿刺、又は血液及び/又はリンパ球の試料が得られる他の採血方法によって得られてもよい。1つの実施形態では、リンパ球の集団はアフェレーシスによって得られる。
【0021】
リンパ球の集団の富化は、限定されないが、分離培地(例えば、Ficoll-Paque(登録商標)、RosetteSep(登録商標)HLA Total Lymphocyte enrichment cocktail、リンパ球分離培地(LSA)(MP Biomedical、品番0850494X)等)の使用、細胞の大きさ、濾過若しくはエルトリエーションによる形状若しくは密度の分離、免疫磁気分離法(例えば、磁気活性化セルソーティングシステム、MACS)、蛍光分離法(例えば、蛍光活性化セルソーティングシステム、FACS)、又はビーズに基づくカラム分離法を含む任意の好適な分離方法によって達成されてもよい。
【0022】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される方法は、活性化T細胞の集団を産生するための1又は複数のT細胞刺激剤によりリンパ球の集団を刺激する工程を含んでもよい。活性化T細胞の集団を産生するため使用され得る1又は複数の好適なT細胞刺激剤の任意の組合せとして、限定されないが、T細胞の刺激分子若しくは共刺激分子を標的とする抗体若しくはその機能性フラグメント(例えば、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD28抗体、又はその機能性フラグメント)、T細胞サイトカイン(例えば、インターロイキン1(IL-1)、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン7(IL-7)、インターロイキン15(IL-15)、腫瘍壊死因子α(TNFα))、又は任意の他の好適なマイトジェン(例えば、テトラデカノイルホルボールアセテート(TPA)、フィトヘマグルチニン(PHA)、コンカナバリンA(conA)、リポ多糖(LPS)、ポークウィードマイトジェン(PWM))、又はT細胞刺激性若しくは共刺激性の分子に対する天然リガンドが挙げられる。
【0023】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるリンパ球の集団を刺激する工程は、所定の温度で、所定の時間に亘って、及び/又は所定レベルのCO2の存在下で1又は複数のT細胞刺激剤によりリンパ球の集団を刺激することを含んでもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定の温度は、約34℃、約35℃、約36℃、約37℃、約38℃、又は約39度であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定の温度は約34℃~39℃であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定の温度は約35℃~37℃であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する好ましい所定の温度は約36℃~38℃であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定の温度は約36℃~37℃、又はより好ましくは約37℃であってもよい。ある特定の実施
形態では、リンパ球の集団を刺激する工程は、所定の時間に亘って1又は複数のT細胞刺激剤でリンパ球の集団を刺激することを含む。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定の時間は約24時間~72時間であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定の時間は約24時間~36時間、約30時間~42時間、約36時間~48時間、約40時間~52時間、約42時間~54時間、約44時間~56時間、約46時間~58時間、約48時間~60時間、約54時間~66時間、又は約60時間~72時間であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定の時間は約48時間又は少なくとも約48時間であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定の時間は、約44時間~52時間であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定の時間は約40時間~44時間、約40時間~48時間、約40時間~52時間、又は約40時間~56時間であってもよい。ある特定の実施形態では、リンパ球の集団を刺激する工程は、所定レベルのCO2の存在下で1又は複数のT細胞刺激剤でリンパ球の集団を刺激することを含んでもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定レベルのCO2は約1.0%~10%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定のレベルのCO2は約1.0%、約2.0%、約3.0%、約4.0%、約5.0%、約6.0%、約7.0%、約8.0%、約9.0%、又は約10.0%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定レベルのCO2は約3%~7%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定レベルのCO2は約4%~6%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定レベルのCO2は約4.5%~5.5%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、刺激に対する所定レベルのCO2は約5%のCO2であってもよい。幾つかの実施形態では、リンパ球の集団を刺激する工程は、任意の組合せの所定の温度で、所定の時間に亘って、及び/又は所定レベルのCO2の存在下で1又は複数のT細胞刺激剤でリンパ球の集団を刺激することを含んでもよい。例えば、1つの実施形態では、リンパ球の集団を刺激する工程は、約36℃~38℃の所定の温度で、約44時間~52時間の所定の時間に亘って、約4.5%~5.5%のCO2という所定レベルのCO2の存在下で1又は複数のT細胞刺激剤でリンパ球の集団を刺激することを含んでもよい。
【0024】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載されるリンパ球の集団を刺激する工程に使用されるリンパ球の集団は、所定の濃度のリンパ球であってもよい。ある特定の実施形態において、リンパ球の所定の濃度は約0.1~10.0×106細胞/mLであってもよい。ある特定の実施形態において、リンパ球の所定の濃度は約0.1~1.0×106細胞/mL、1.0~2.0×106細胞/mL、約1.0~3.0×106細胞/mL、約1.0~4.0×106細胞/mL、約1.0~5.0×106細胞/mL、約1.0~6.0×106細胞/mL、約1.0~7.0×106細胞/mL、約1.0~8.0×106細胞/mL、1.0~9.0×106細胞/mL、又は約1.0~10.0×106細胞/mLであってもよい。ある特定の実施形態において、リンパ球の所定の濃度は約1.0~2.0×106細胞/mLであってもよい。ある特定の実施形態において、リンパ球の所定の濃度は約1.0~1.2×106細胞/mL、約1.0~1.4×106細胞/mL、約1.0~1.6×106細胞/mL、約1.0~1.8×106細胞/mL、又は約1.0~2.0×106細胞/mLであってもよい。ある特定の実施形態において、リンパ球の所定の濃度は、少なくとも約0.1×106細胞/mL、少なくとも約1.0×106細胞/mL、少なくとも約1.1×106細胞/mL、少なくとも約1.2×106細胞/mL、少なくとも約1.3×106細胞/mL、少なくとも約1.4×106細胞/mL、少なくとも約1.5×106細胞/mL、少なくとも約1.6×106細胞/mL、少なくとも約1.7×106細胞/mL、少なくとも約1.8×106細胞/mL、少なくとも約1.9×106細胞/mL、少なくとも約2.0×106細胞/mL、少なくとも約4.0×106細胞/mL、少なくとも約6.0×106細胞/mL、少なくとも約8.0×106細胞/mL、又は少なくとも約10.0×106細胞/mLであってもよい。
【0025】
幾つかの実施形態では、リンパ球の集団を刺激する工程に従って、抗CD3抗体(又はその機能性フラグメント)、抗CD28抗体(又はその機能性フラグメント)、又は抗CD3抗体及び抗CD28抗体の組合せを使用してもよい。任意の可溶性又は固定化された抗CD2、抗CD3、及び/又は抗CD28の抗体又はそれらの機能性フラグメントを使用してもよい(例えば、クローンOKT3(抗CD3)、クローン145-2C11(抗CD3)、クローンUCHT1(抗CD3)、クローンL293(抗CD28)、クローン15E8(抗CD28))。幾つかの態様では、上記抗体を、限定されないがMiltenyi Biotec、BD Biosciences(例えば、MACS GMP CD3 pure 1mg/mL、Part No. 170-076-116)及びeBioscience, Inc.を含む当該技術分野で既知の供給元から商業的に購入してもよい。さらに、当業者は、どのようにして標準的な方法によって抗CD3及び/又は抗CD28の抗体を産生するかを理解する。本明細書に記載される方法で使用される任意の抗体は、バイオ医薬品に関する関連機関のガイドラインを順守するように優良医薬品製造基準(GMP)のもと製造されなければならない。幾つかの実施形態では、リンパ球の集団を刺激する工程に従って使用され得る1又は複数のT細胞刺激剤は、T細胞サイトカインの存在下でT細胞刺激性又は共刺激性の分子を標的とする抗体又はその機能性フラグメントを含む。1つの態様では、1又は複数のT細胞刺激剤は抗CD3抗体及びIL-2を含む。ある特定の実施形態では、T細胞刺激剤は、約20ng/mL~100ng/mLの濃度の抗CD3抗体を含んでもよい。ある特定の実施形態では、抗CD3抗体の濃度は、約20ng/mL、約30ng/mL、約40ng/mL、約50ng/mL、約60ng/mL、約70ng/mL、約80ng/mL、約90ng/mL、又は約100ng/mLであってもよい。ある特定の実施形態では、抗CD3抗体の濃度は約50ng/mLであってもよい。代替的な実施形態では、T細胞活性化は必要ではない。かかる実施形態では、活性化T細胞の集団を産生するためリンパ球の集団を刺激する工程は上記方法から省略され、Tリンパ球に対して富化され得るリンパ球の集団を以下の工程に従って形質導入する。
【0026】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される方法は、形質導入されたT細胞の集団を産生するため単一サイクルの形質導入を使用して、細胞表面受容体をコードする核酸分子を含むウイルスベクターによって活性化T細胞の集団に形質導入する工程を含んでもよい。幾つかの組換えウイルスは、細胞に遺伝子材料を送達するウイルスベクターとして使用されている。形質導入工程と関連して使用され得るウイルスベクターは、限定されないが、組換えレトロウイルスベクター、組換えレンチウイルスベクター、組換えアデノウイルスベクター、及び組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む、任意の同種指向性ウイルスベクター又は両種指向性ウイルスベクターであってもよい。1つの態様では、活性化T細胞の集団に形質導入するため使用されるウイルスベクターは、MSGV1ガンマレトロウイルスベクターである。1つの態様では、かかるMSGV1ガンマレトロウイルスベクターは、
図6(配列番号4)に示される骨格核酸配列を含んでもよく、ここで、細胞表面受容体(例えば、CAR又はTCR)の配列を含む核酸フラグメントは、MSGV1ガンマレトロウイルスベクターの配列を含む核酸フラグメントと連結される。ある特定の実施形態では、活性化T細胞の集団に形質導入するため使用されるウイルスベクターは、Kochenderfer et al., J Immunother. 2009 September; 32(7): 689‐702に記載されるMSGV-FMC63-28Zレトロウイルスベクター又はMSGV-FMC63-CD828BBZレトロウイルスベクターであってもよく、その主題は、該出版物の「Materials and Methods」の欄の「Construction of the MSGV-FMC63-28Z and MSGV-FMC63-CD828BBZ Recombinant Retroviral Vectors」に提示されるレトロウイルスベクターを構築する方法を提供する目的で引用することにより本明細書の一部をなす。この実施形態の1つの態様によれば、ウイルスベクターを、ウイルスベクター製造に特異的な培地中の培養において増殖させる。本明細書に記載される方法に従って、ウイルスベクター接種材料にお
いて任意の好適な増殖培地及び/又はウイルスベクターを増殖させるサプリメントを使用してもよい。幾つかの態様によれば、その後、形質導入工程の間にウイルスベクターを以下に記載される血清不含培地に添加してもよい。
【0027】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される活性化T細胞の集団に形質導入する工程は、所定の時間に亘って、所定の温度で、及び/又は所定レベルのCO2の存在下で行われてもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定の温度は、約34℃、約35℃、約36℃、約37℃、約38℃、又は約39℃であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定の温度は、約34℃~39℃であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定の温度は約35℃~37℃であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する好ましい所定の温度は約36℃~38℃であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定の温度は約36℃~37℃、又はより好ましくは約37℃であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定の時間は約12時間~36時間であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定の時間は、約12時間~16時間、約12時間~20時間、約12時間~24時間、約12時間~28時間、又は約12時間~32時間であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定の時間は約20時間又は少なくとも約20時間であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定の時間は約16時間~24時間であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定の時間は少なくとも約14時間、少なくとも約16時間、少なくとも約18時間、少なくとも約20時間、少なくとも約22時間、少なくとも約24時間、又は少なくとも約26時間であってもよい。幾つかの実施形態では、活性化T細胞の集団に形質導入する工程は、所定レベルのCO2でウイルスベクターによって活性化T細胞の集団を形質導入することを含んでもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定レベルのCO2は約1.0%~10%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定レベルのCO2は約1.0%、約2.0%、約3.0%、約4.0%、約5.0%、約6.0%、約7.0%、約8.0%、約9.0%、又は約10.0%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定レベルのCO2は約3%~7%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定レベルのCO2は約4%~6%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定レベルのCO2は約4.5%~5.5%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、形質導入に対する所定レベルのCO2は約5%のCO2であってもよい。幾つかの実施形態では、本明細書に記載される活性化T細胞の集団に形質導入する工程は、任意の組合せの所定の時間に亘り、所定の温度で、及び/又は所定レベルのCO2の存在下で行われてもよい。例えば、1つの態様では、活性化T細胞の集団に形質導入する工程は、約36℃~38℃の所定の温度、約16時間~約24時間の所定時間、及び約4.5%~約5.5%のCO2という所定レベルのCO2の存在下であることを含んでもよい。
【0028】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される方法は、所定時間に亘って形質導入されたT細胞の集団を拡大して、操作されたT細胞の集団を産生する工程を含んでもよい。拡大のための所定の時間は、(i)患者に投与するための少なくとも1回用量に対して操作されたT細胞の集団中の十分な数の細胞、(ii)典型的なより長いプロセスと比較して有利な割合の幼若な細胞を含む操作されたT細胞の集団、又は(iii)(i)及び(ii)の両方の産生を可能とする任意の好適な時間であってもよい。この時間は、T細胞によって発現される細胞表面受容体、使用されるベクター、治療的効果を有するため必要とされる用量、及び他の変数に依存する。したがって、幾つかの実施形態では、拡大のための所定の時間は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、又は21日超であってもよい。幾つかの態様では、拡大のための所定の時間は、当該技術で既知の拡大方法よりも短縮される。例えば、拡大のための所定の時間は、少なく
とも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%短縮されてもよく、又は75%超短縮されてもよい。1つの態様では、拡大のための所定の時間は約3日である。この態様では、リンパ球の集団の富化から操作されたT細胞の産生までの時間は約6日である。ある特定の実施形態では、形質導入されたT細胞の集団を拡大する工程は、所定の温度で及び/又は所定レベルのCO2の存在下で行われてもよい。ある特定の実施形態では、上記所定の温度は約34℃、約35℃、約36℃、約37℃、約38℃、又は約39℃であってもよい。ある特定の実施形態では、上記所定の温度は約34℃~39℃であってもよい。ある特定の実施形態では、所定の温度は約35℃~37℃であってもよい。ある特定の実施形態では、好ましい所定の温度は約36℃~38℃であってもよい。ある特定の実施形態では、上記所定の温度は約36℃~37℃、又はより好ましくは約37℃であってもよい。幾つかの実施形態では、形質導入されたT細胞の集団を拡大する工程は、所定レベルのCO2の存在下で形質導入されたT細胞の集団を拡大することを含む。ある特定の実施形態では、所定レベルのCO2は1.0%~10%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、所定レベルのCO2は、約1.0%、約2.0%、約3.0%、約4.0%、約5.0%、約6.0%、約7.0%、約8.0%、約9.0%、又は約10.0%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、所定レベルのCO2は約4.5%~5.5%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、所定レベルのCO2は約5%のCO2であってもよい。ある特定の実施形態では、所定レベルのCO2は約3.5%、約4.0%、約4.5%、約5.0%、約5.5%、又は約6.5%のCO2であってもよい。幾つかの実施形態では、形質導入されたT細胞の集団を拡大する工程は、任意の組合せの所定の温度で及び/又は所定レベルのCO2の存在下で行われてもよい。例えば、1つの実施形態では、形質導入されたT細胞の集団を拡大する工程は、約36℃~38℃の所定の温度、及び約4.5%~5.5%のCO2という所定レベルのCO2の存在下であることを含んでもよい。
【0029】
幾つかの態様では、本明細書に記載の方法の各工程を閉鎖系で行う。ある特定の実施形態では、該閉鎖系は、任意の好適な細胞培養バッグ(例えば、ミルテニーバイオテクのMACS(登録商標)GMP細胞分化バッグ、Origen BiomedicalのPermaLife(登録商標)細胞培養バッグ)を使用する閉鎖バッグ培養系である。幾つかの実施形態では、上記閉鎖バッグ培養系で使用される細胞培養バッグは、形質導入工程の間、組換えヒトフィブロネクチンタンパク質で被覆される。ある特定の実施形態では、上記閉鎖バッグ培養系で使用される細胞培養バッグは、形質導入工程の間、組換えヒトフィブロネクチンタンパク質フラグメントで被覆される。該組換えヒトフィブロネクチンフラグメントは、3つの機能性ドメイン、すなわち中央細胞結合ドメイン、ヘパリン結合ドメインII、及びCS1配列を含んでもよい。組換えヒトフィブロネクチンタンパク質又はそのフラグメントを、標的細胞及びウイルスベクターの共局在を補助することによって免疫細胞のレトロウイルス形質導入の遺伝子効率を上げるため使用してもよい。ある特定の実施形態では、上記組換えヒトフィブロネクチンフラグメントはRetroNectin(登録商標)(タカラバイオ株式会社;日本)である。ある特定の実施形態では、上記細胞培養バッグは、約1μg/mL~60μg/mL、好ましくは約1μg/mL~40μg/mLの濃度で組換えヒトフィブロネクチンフラグメントで被覆されてもよい。ある特定の実施形態では、上記細胞培養バッグは、約1μg/mL~20μg/mL、20μg/mL~40μg/mL、又は約40μg/mL~60μg/mLの濃度の組換えヒトフィブロネクチンフラグメントで被覆されてもよい。ある特定の実施形態において、細胞培養バッグは、約1μg/mL、約2μg/mL、約3μg/mL、約4μg/mL、約5μg/mL、約6μg/mL、約7μg/mL、約8μg/mL、約9μg/mL、約10μg/mL、約11μg/mL、約12μg/mL、約13μg/mL、約14μg/mL、約15μg/mL、約16μg/mL、約17μg/mL、約18μg/mL、
約19μg/mL、又は約20μg/mLの組換えヒトフィブロネクチンフラグメントで被覆されてもよい。ある特定の実施形態において、細胞培養バッグは、約2μg/mL~5μg/mL、約2μg/mL~10μg/mL、約2μg/mL~20μg/mL、約2μg/mL~25μg/mL、約2μg/mL~30μg/mL、約2μg/mL~35μg/mL、約2μg/mL~40μg/mL、約2μg/mL~50μg/mL、又は約2μg/mL~60μg/mLの組換えヒトフィブロネクチンフラグメントで被覆されてもよい。ある特定の実施形態において、細胞培養バッグは、少なくとも約2μg/mL、少なくとも約5μg/mL、少なくとも約10μg/mL、少なくとも約15μg/mL、少なくとも約20μg/mL、少なくとも約25μg/mL、少なくとも約30μg/mL、少なくとも約40μg/mL、少なくとも約50μg/mL、又は少なくとも約60μg/mLの組換えヒトフィブロネクチンフラグメントで被覆されてもよい。ある特定の実施形態において、細胞培養バッグは、少なくとも約10μg/mLの組換えヒトフィブロネクチンフラグメントで被覆されてもよい。ある特定の実施形態では、上記閉鎖バッグ培養系で使用される細胞培養バッグは、形質導入工程の間、ヒトアルブミン血清(HSA)でブロックされてもよい。代替的な実施形態では、上記細胞培養バッグは、形質導入工程の間、HSAでブロックされない。他の態様では、血清が添加されていない血清不含培養培地を使用して、(a)リンパ球の集団を刺激する工程、(b)活性化T細胞の集団に形質導入する工程、及び(c)形質導入されたT細胞の集団を拡大する工程のうちの1又は複数を行う。別の態様では、(a)リンパ球の集団を刺激する工程、(b)活性化T細胞の集団に形質導入する工程、及び(c)形質導入されたT細胞の集団を拡大する工程は、血清不含培養培地を使用して各々行われる。本明細書で言及される「血清不含培地」又は「血清不含培養培地」の用語は、使用される増殖培地が血清(例えば、ヒト血清又はウシ血清)で補足されていないことを意味する。言い換えれば、培養培地に培養細胞の生存率、活性化及び増殖を支持する目的で別々に個別の異なる成分として血清を添加しない。本明細書に記載される方法に従って、任意の好適な培養培地としてT細胞増殖培地を浮遊状態の細胞の培養に使用してもよい。例えば、T細胞増殖培地として、限定されないが、適量の緩衝液、マグネシウム、カルシウム、ピルビン酸ナトリウム、及び重炭酸ナトリウムを含む無菌の低グルコース溶液が挙げられ得る。1つの態様では、T細胞増殖培地はOpTmizer(商標)(Life Technologies)であるが、当業者はどのようにして同様の培地を作製するかを理解する。操作されたT細胞を産生する典型的な方法とは対照的に、本明細書に記載される方法は、血清(例えば、ヒト又はウシ)で補足されていない培養培地を使用する。
【0030】
本明細書に記載される実施形態によれば、標的細胞表面の特異的抗原部分を認識する細胞表面受容体を発現するT細胞を製造する方法は、(1)ドナー被験体から得られたリンパ球の集団を富化することと、(2)活性化T細胞の集団を産生するために1又は複数のT細胞刺激剤で該リンパ球の集団を刺激することであって、該刺激が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、(3)形質導入されたT細胞の集団を産生するために単一サイクルの形質導入を使用して細胞表面受容体をコードする核酸分子を含むウイルスベクターによって該活性化T細胞の集団に形質導入することであって、該形質導入が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、(4)操作されたT細胞の集団を産生するために所定の時間に亘って該形質導入されたT細胞の集団を拡大することであって、該拡大が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることとを含んでもよい。
【0031】
別の実施形態では、標的細胞表面の特異的抗原部分を認識する細胞表面受容体を発現するT細胞を製造する方法は、(1)ドナー被験体から得られたリンパ球の集団を富化することと、(2)形質導入されたT細胞の集団を産生するために単一サイクルの形質導入を使用して細胞表面受容体をコードする核酸分子を含むウイルスベクターでリンパ球の集団に形質導入することであって、該形質導入が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることと、(3)操作されたT細胞の集団を産生するために所定の時間に亘って該形質導
入されたT細胞の集団を拡大することであって、該拡大が血清不含培養培地を使用して閉鎖系で行われることとを含んでもよい。
【0032】
1つの実施形態では、上記プロセス又は方法は、限定されないが、(1)患者からのアフェレーシス産物の回収、及び閉鎖系での単核細胞の分離、(2)閉鎖系でT細胞の細胞増殖を刺激するためのIL2の存在下でのCD3に対する抗体による単核細胞集団の刺激、(3)閉鎖系でガンマレトロウイルスベクターを使用する、T細胞にがん標的細胞の表面の特異的抗原部分を認識させることを可能とする新たな細胞表面受容体遺伝子の導入又は形質導入、(4)閉鎖系における形質導入されたT細胞の拡大、並びに(5)がん患者に再投与するため閉鎖系において拡大された自己T細胞の洗浄及び調製を含んでもよい。幾つかの態様では、上記拡大工程は3日であり、1週間未満で全製造プロセスが完了することを可能とする。T細胞が活発に増殖しているプロセス工程2~4は、ヒト血清を含有しない規定の細胞培養培地(すなわち、血清不含培地)中で行われる。このプロセスによって産生されるT細胞は生体活性を示し、がん細胞表面の標的抗原によって活性化された状態になり、それに反応してガンマインターフェロンを産生する。本明細書に記載される方法の幾つかの態様として、
このプロセスは、T細胞製造中の汚染可能性が最小である閉鎖系で行う、
上記プロセスは、臨床用途のT細胞の産生に適している、
ヒト血清を含有しない細胞培養培地で細胞を増殖させる、
閉鎖バッグ系において受容体遺伝子をT細胞に導入する、
細胞をわずか6日で臨床用途用に作製することができる、及び、
細胞はin vivo生物学的活性の指標となる生物学的活性を示す、
が挙げられる。
【0033】
これらの態様は、以下の通り現在当該技術分野で使用されている方法に対して幾つかの違い及び/又は改良を提供する。ヒト血清不含細胞培養培地の使用は、プロセスにおいて原材料に由来するヒト病原体の導入機会を最小化し、将来容易に入手することができなくなる可能性のある原材料の使用を回避する。さらに、種々の血清ロットが再現性及びプロセスの信頼性を保証するために重要な培養検査及びリリースを必要とすることから、かかる使用はGMPコンプライアンスを支持する。血清不含培地中でのT細胞の増殖は、以前に報告されているが(Carstens et al., ISCT meeting in San Diego, 2012; Zuliani, 2011)、以前はがんを治療するための臨床用途のT細胞を産生するプロセスに組み込まれ
ておらず、先の研究は、血清不含培地におけるT細胞活性化、形質導入、及び拡大がロバストであることを示していない。本明細書に記載される研究において検討される改良されたプロセスにおいて、抗CD3モノクローナル抗体及びIL2の使用をT細胞集団の刺激のため維持した。さらに、閉鎖系バッグにおける細胞培養は、細胞培養中の汚染の可能性を予防する顕著な利点を提供し、cGMP製造及び産物の商品化に適した簡略化され、短縮されたプロセスを提供し得る。この実用化の重要性は、T細胞増殖に関する文献に記載される多くのプロセスが幅広い商業用途に適していないことから、意義深いものである。
【0034】
以前は、ガンマレトロウイルスベクターによるウイルス形質導入が効率的ではなく、ウイルスと細胞とをRetroNectin(登録商標)で被覆したウェルの底に遠心分離する、「スピノキュレーション(spinocculation)」と呼ばれる開放プロセスがマイクロタイタープレートで行われていた。このプロセスは、通常、形質導入効率を最大化するため連日2回繰り返される。形質導入が、(プレートではなく)RetroNectin(登録商標)で被覆されたバッグを使用して閉鎖バッグ系において行われ、該プロセスが2回ではなく1回で実施されるように、本明細書に記載される方法の幾つかの実施形態に従って、この形質導入工程を修正した。また、本明細書に記載される方法は、当該技術分野で昔から使用されてきた開放系フラスコではなく閉鎖系細胞培養バッグでの細胞の増殖を含んでもよい。幾つかの文献(Lamers et al, Cytotherapy 2008, 10: 406-416、Tumanin
i et al, Cytotherapy 2013, 11, 1406-1415)がバッグ系における形質導入の報告を含むものの、これらの場合、本明細書に記載される方法とは異なり、血清を含有する細胞培養培地において完了された少なくとも2回の形質導入、及び少なくとも9日間の拡大時間を含む。本明細書に記載される実施形態における開発研究は、血清不含培地中でのバッグにおける形質導入が実行可能であるばかりでなく、形質導入水準が単一の形質導入及びわずか3日間の拡大後の更なる臨床開発に許容可能であることを実証する。
【0035】
幾つかの実施形態では、上に記載の方法によって産生される操作されたT細胞の集団は、後日細胞を使用してもよいように、任意に凍結保存されてもよい。したがって、操作されたT細胞の集団の凍結保存方法が本明細書において提供される。かかる方法は、希釈溶媒を用いて操作されたT細胞の集団を洗浄及び濃縮する工程を含んでもよい。幾つかの態様では、希釈溶媒は、生理食塩水、0.9%生理食塩水、PlasmaLyte A(PL)、5%デキストロース/0.45%NaCl生理食塩水溶液(D5)、ヒト血清アルブミン(HSA)、又はそれらの組合せである。幾つかの態様では、細胞の生存率及び解凍後の細胞の回復の改善のため、洗浄し、濃縮した細胞にHSAを添加してもよい。別の態様では、洗浄溶液は、生理食塩水であり、洗浄し、濃縮した細胞をHSA(5%)により補足する。また、上記方法は、凍結保存混合物を作製する工程を含んでもよく、ここで、該凍結保存混合物は希釈溶液中に希釈された細胞の集団及び好適な凍結保存溶液を含む。幾つかの態様では、凍結保存溶液は、限定されないがCryoStor10(BioLife Solutions)を含む任意の好適な凍結保存溶液であってもよく、操作されたT細胞の希釈
溶液と1:1又は2:1の比率で混合されてもよい。ある特定の実施形態では、上記凍結保存混合物に最終濃度約1.0%~10%のHSAを与えるため、HSAを添加してもよい。ある特定の実施形態では、上記凍結保存混合物に最終濃度約1.0%、約2.0%、約3.0%、約4.0%、約5.0%、約6.0%、約7.0%、約8.0%、約9.0%、又は約10.0%のHSAを与えるためHSAを添加してもよい。ある特定の実施形態では、上記凍結保存混合物に最終濃度約1%~3%のHSA、約1%~4%のHSA、約1%~5%のHSA、約1%~7%のHSA、約2%~4%のHSA、約2%~5%のHSA、約2%~6%のHSA、又は約2%~7%のHSAを与えるためHSAを添加してもよい。ある特定の実施形態では、上記凍結保存混合物中に最終濃度約2.5%のHSAを与えるためHSAを添加してもよい。例えば、ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団の凍結保存は、0.9%の生理食塩水で細胞を洗浄することと、洗浄した細胞に最終濃度5%のHSAを添加することと、該細胞をCryoStor(商標)CS10で1:1(最終凍結保存混合物中、最終濃度2.5%のHSAのため)に希釈することとを含んでもよい。また、幾つかの実施形態では、上記方法は凍結保存混合物を凍結する工程を含む。1つの態様では、凍結保存混合物1mL当たり約1×106~約1.5×107の細胞濃度で規定の凍結サイクルを使用して速度制御型冷凍庫において上記凍結保存混合物を凍結する。また、上記方法は、気相の液体窒素中で上記凍結保存混合物を保存する工程を含んでもよい。
【0036】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される方法によって産生される操作されたT細胞の集団を所定の用量で凍結保存してもよい。ある特定の実施形態では、所定の用量は治療的有効用量であってもよく、以下に提示される任意の治療的有効用量であってもよい。操作されたT細胞の所定の用量は、T細胞によって発現される細胞表面受容体(例えば、細胞に発現される細胞表面受容体の親和性及び密度)、標的細胞の種類、治療される疾患若しくは病態の特徴、又は両方の組合せに依存し得る。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞によって発現される細胞表面受容体は、Kochenderfer et al., J Immunother. 2009 September; 32(7): 689-702に記載されるFMC63-28Z CAR又はFM
C63-CD828BBZ CAR等の抗CD19 CARであってもよく、その主題は、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現するT細胞を産生するため使用されるベクターを構築する方法を提供する目的で引用することに
より本明細書の一部をなす。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の所定の用量は、約100万より多く、かつ約300万未満の形質導入された操作されたT細胞/kgであってもよい。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の所定の用量は、体重1キログラム当たり約100万より多く、かつ約200万までの形質導入された操作されたT細胞(細胞/kg)であってもよい。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の所定の用量は、体重1キログラム当たり100万より多く、かつ約200万までの形質導入された操作されたT細胞(細胞/kg)であってもよい。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の所定の用量は、少なくとも約200万~約300万未満の形質導入された操作されたT細胞/kgであってもよい。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の好ましい所定の用量は、約200万の形質導入された操作されたT細胞/kgであってもよい。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の所定の用量は、少なくとも約200万の形質導入された操作されたT細胞/kgであってもよい。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の所定の用量は、約200万、約210万、約220万、約230万、約240万、約250万、約260万、約270万、約280万、又は約290万の形質導入された操作されたT細胞/kgであってもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団は、体重1キログラム当たり約100万の操作されたT細胞(細胞/kg)の所定の用量で凍結保存されてもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団は、約50万~約100万の操作されたT細胞/kgの所定の用量で凍結保存されてもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団は、少なくとも約100万、少なくとも約200万、少なくとも約300万、少なくとも約400万、少なくとも約500万、少なくとも約600万、少なくとも約700万、少なくとも約800万、少なくとも約900万、少なくとも約1000万の操作されたT細胞/kgの所定の用量で凍結保存されてもよい。他の態様では、操作されたT細胞の集団は、100万細胞/kg未満、100万細胞/kg、200万細胞/kg、300万細胞/kg、400万細胞/kg、500万細胞/kg、600万細胞/kg、700万細胞/kg、800万細胞/kg、900万細胞/kg、1000万細胞/kg、1000万細胞/kgより多く、2000万細胞/kgより多く、3000万細胞/kgより多く、4000万細胞/kgより多く、5000万細胞/kgより多く、6000万細胞/kgより多く、7000万細胞/kgより多く、8000万細胞/kgより多く、9000万細胞/kgより多く、又は1億細胞/kgより多い所定の用量で凍結保存されてもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団は、約100万~約200万の操作されたT細胞/kgの所定の用量で凍結保存されてもよい。他の実施形態では、操作されたT細胞の集団は、約100万細胞/kg~約200万細胞/kg、約100万細胞/kg~約300万細胞/kg、約100万細胞/kg~約400万細胞/kg、約100万細胞/kg~約500万細胞/kg、約100万細胞/kg~約600万細胞/kg、約100万細胞/kg~約700万細胞/kg、約100万細胞/kg~約800万細胞/kg、約100万細胞/kg~約900万細胞/kg、約100万細胞/kg~約1000万細胞/kgの所定の用量で凍結保存されてもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団の所定の用量は、被験体の体重に基づいて計算されてもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団は、約0.5mL~200mLの凍結保存培地中に凍結保存されてもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団は、約0.5mL、約1.0mL、約5.0mL、約10.0mL、約20mL、約30mL、約40mL、約50mL、約60mL、約70mL、約80mL、約90mL、又は約100mLの凍結保存培地中に凍結保存されてもよい。ある特定の実施
形態では、操作されたT細胞の集団は、約10mL~30mL、約10mL~50mL、約10mL~70mL、約10mL~90mL、約50mL~70mL、約50mL~90mL、約50mL~110mL、約50mL~150mL、又は約100mL~200mLの凍結保存培地中に凍結保存されてもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団は、好ましくは約50mL~70mLの凍結保存培地中に凍結保存されてもよい。
【0037】
疾患又は病態を有する被験体において、該被験体に治療的有効量又は治療的有効用量の操作されたT細胞を投与することによって疾患又は病態を治療するために使用され得る操作されたT細胞の集団を産生するため、本明細書に記載される方法を使用する。そのようにして、標的細胞表面の特異的抗原部分を認識する細胞表面受容体を発現する操作されたT細胞の集団は、本明細書で提供される方法によって産生される。本明細書に記載される方法によって産生される操作されたT細胞で治療され得る病態として、限定されないが、がん、ウイルス感染症、急性若しくは慢性の炎症、自己免疫疾患、又は任意の他の免疫機能不全が挙げられる。操作されたT細胞の投薬により患者を治療する方法の例は、Kochenderfer, et al., J Clin Oncol. 2014 Aug 25. pii: JCO.2014.56.2025 (「Chemotherapy-Refractory Diffuse Large B-Cell Lymphoma and Indolent B-Cell Malignancies Can Be Effectively Treated With Autologous T Cells Expressing an Anti-CD19 Chimeric Antigen Receptor」と題される)、及びKochenderfer et al. Blood. 2012 Mar 22;119(12):2709-20 (「B-cell depletion and remissions of malignancy along with cytokine-associated toxicity in a clinical trial of anti-CD19 chimeric-antigen-receptor-transduced T cells」と題される)に見られ、それらの主題は、操作されたT細胞の投薬で患者を治療する標準的な作業に関する詳細を提供する目的で、本明細書に完全に記載されるかのように、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0038】
幾つかの実施形態によれば、上に記載される方法によって産生される操作されたT細胞の集団は、1又は複数の細胞の亜集団を含んでもよい。ある特定の実施形態では、1又は複数の細胞の亜集団として、限定されないが、ナイーブT細胞、エフェクターT細胞、エフェクターメモリーT細胞、及び/又はセントラルメモリーT細胞が挙げられ得る。以下の実施例2に提示されるように、本明細書に記載される方法を使用することが、10日以上から6日に培養期間を単に減少することに加えて、ナイーブT細胞の存在(representation)を増大し、分化したエフェクターT細胞の存在を減少しながら、より幼若なT細胞の分布をもたらすことは予想外であった。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団は、ナイーブT細胞の亜集団を含んでもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団の約34%~43%はナイーブT細胞の亜集団を含んでもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団の少なくとも約35%はナイーブT細胞の亜集団を含んでもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団の少なくとも約40%はナイーブT細胞の亜集団を含んでもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団の少なくとも約34%、少なくとも約35%、少なくとも約36%、少なくとも約37%、少なくとも約38%、少なくとも約39%、少なくとも約40%、少なくとも約41%、少なくとも約42%、少なくとも約43%、又は少なくとも約44%はナイーブT細胞の亜集団を含んでもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団は、セントラルメモリーT細胞の亜集団を含んでもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団の約15%以下はセントラルメモリーT細胞の亜集団を含んでもよい。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞の集団の約15%以下、約14%以下、約13%以下、約12%以下、約11%以下はセントラルメモリーT細胞の亜集団を含んでもよい。
【0039】
本明細書において言及される場合、「がん」は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、腺様嚢胞がん、副腎皮質がん、AIDS関連がん、肛門が
ん、虫垂がん、星細胞腫、非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍、中枢神経系、B細胞白血病、リンパ腫若しくは他のB細胞悪性腫瘍、基底細胞がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、骨肉腫及び悪性線維性組織球腫、脳幹グリオーマ、脳腫瘍、乳がん、気管支腫瘍、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍、中枢神経系がん、子宮頚部がん、脊索腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄増多症、結腸がん、結直腸がん、頭蓋咽頭腫、皮膚T細胞リンパ腫、胚芽腫、中枢神経系、子宮内膜がん、上衣芽腫、上衣腫、食道がん、鼻腔神経芽細胞腫、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管がん、目がん、骨の線維性組織球腫、悪性及び骨肉腫、胆嚢がん、胃(腹部の)がん、胃腸カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、軟部組織肉腫、胚細胞腫瘍、妊娠性絨毛腫瘍、グリオーマ、有毛細胞性白血病、頭頚部がん、心臓がん、肝細胞(肝)がん、組織球症、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、眼内メラノーマ、膵島細胞腫瘍(膵臓内分泌腺)、カポジ肉腫、腎がん、ランゲルハンス細胞組織球症、喉頭がん、白血病、口唇及び口腔がん、肝がん(原発性)、非浸潤性小葉がん(LCIS)、肺がん、リンパ腫、マクログロブリン血症、男性乳がん、骨の悪性線維性組織球腫及び骨肉腫、髄芽腫、髄上皮腫、メラノーマ、メルケル細胞がん、中皮腫、NUT遺伝子が関与する原発性不明縦隔腫瘍を伴う転移性扁平上皮性頸部がん、口腔がん(mouth cancer)、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍、菌状息肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、骨髄腫、多発性骨髄増多症、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん、口腔がん(oral cancer)、口腔がん(oral cavity cancer)、口腔咽頭がん、骨肉腫及び骨の悪性線維性組織球腫、卵巣がん、
膵がん、乳頭腫症、パラガングリオーマ、副鼻腔及び鼻腔がん、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭がん、褐色細胞腫、中分化型松果体腫瘍、松果体芽腫及びテント上原始神経外胚葉腫瘍、下垂体腫瘍、形質細胞腫瘍/多発性骨髄腫、胸膜肺芽腫、妊娠期乳がん、原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫、前立腺がん、直腸がん、腎細胞(腎)がん、腎盂尿管移行上皮がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、セザリー症候群、小細胞肺がん、小腸がん、軟部組織肉腫、扁平上皮がん、頸部扁平上皮がん、腹部の(胃)がん、テント上原始神経外胚葉腫瘍、T細胞リンパ腫、皮膚、精巣がん、咽喉がん、胸腺腫及び胸腺がん、甲状腺がん、腎盂尿管の移行上皮がん、絨毛性腫瘍、尿管及び腎盂がん、尿道がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ヴァルデンストレムマクログロブリン血症、ウィルムス腫瘍を含むが、それらに限定されない表面抗原又はがんマーカーと関連する任意のがんであってもよい。
【0040】
幾つかの態様において、がんはB細胞悪性腫瘍である。B細胞悪性腫瘍の例として、非ホジキンリンパ腫(NHL)、びまん性大細胞B細胞リンパ腫(DLBCL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL/CLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、節外性(MALTリンパ腫)、節性(単球様B細胞リンパ腫)、脾臓びまん性大細胞リンパ腫、B細胞慢性リンパ性白血病/リンパ腫、バーキットリンパ腫、及びリンパ芽球性リンパ腫を含むが、それらに限定されない。
【0041】
本明細書で言及される「ウイルス感染」は、宿主の疾患又は病態を引き起こす任意のウイルスによってもたらされる感染症であってもよい。本明細書に記載される方法によって産生される操作されたT細胞で治療され得るウイルス感染症の例として、限定されないが、エプスタインバーウイルス(EBV)によって引き起こされるウイルス感染症、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、若しくはC型肝炎ウイルスによって引き起こされるウイルス感染症、単純ヘルペス1型ウイルス、単純ヘルペス2型ウイルス、若しくは単純ヘルペス8型ウイルスによって引き起こされるウイルス感染症、サイトメガロウイルス(CMV)によって引き起こされるウイルス感染症、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって引き起こされるウイルス感染症、インフルエンザウイルスによって引き起こされるウイルス感染症、麻疹若しくは流行性耳下腺炎のウイルスによって引き起こされるウイルス感染
症、ヒトパピローマウイルス(HPV)によって引き起こされるウイルス感染症、パラインフルエンザウイルスによって引き起こされるウイルス感染症、風疹ウイルスによって引き起こされるウイルス感染症、呼吸器抱合体ウイルス(RSV)によって引き起こされるウイルス感染症、又は水痘帯状疱疹ウイルスによって引き起こされるウイルス感染症が挙げられる。幾つかの態様では、ウイルス感染症は、ウイルス感染症を有する被験体におけるがんの発症を導く又は結果として生じる可能性がある(例えば、HPV感染症は子宮頸、外陰部、膣、陰茎、肛門、口腔咽頭のがんを含む幾つかのがんの発症を引き起こすか、又はそれらと関連する可能性があり、HIV感染症はカポジ肉腫の発症を引き起こす可能性がある)。
【0042】
本明細書に記載される方法によって産生される操作されたT細胞で治療され得る慢性炎症性疾患、自己免疫疾患又は任意の他の免疫機能不全の例として、限定されないが、多発性硬化症、狼瘡及び乾癬が挙げられる。
【0043】
本明細書で状態又は疾患に関して使用される「治療する」、「治療すること」、又は「治療」の用語は、状態若しくは疾患の予防、状態若しくは疾患の発症の開始若しくは速度の減速、状態若しくは疾患の発症リスクの減少、状態若しくは疾患と関連する症状の発症の予防若しくは遅延、状態若しくは疾患と関連する症状の減少若しくは終了、状態若しくは疾患の完全な若しくは部分的な退行の発生、又はそれらの何らかの組合せを指す場合がある。
【0044】
「治療的有効量」又は「治療的有効用量」は、標的細胞を死滅させることによる標的の状態を予防する若しくは治療する、又は該状態と関連する症状を緩和する等の被験体において所望の治療的効果を生み出す操作されたT細胞の量である。所与の被験体における治療の有効性に関して最も有効な結果は、限定されないが、操作されたT細胞の特性(寿命、活性、薬物動態、薬効及びバイオアベイラビリティを含む)、被験体の生理学的状態(年齢、性別、疾患の種類及びステージ、全身状態、与えられる投薬量に対する反応性、及び医薬の種類を含む)、使用される任意の組成物中の任意の薬学的に許容可能な担体(単数又は複数)の特徴、及び投与経路を含む様々な要因に応じて変化する。また、操作されたT細胞の治療的有効用量は、T細胞によって発現される細胞表面受容体(例えば、細胞上に発現される細胞表面受容体の親和性及び密度)、標的細胞の種類、治療される疾患若しくは病態の特徴、又はそれらの組合せに依存する。したがって、幾つかの態様では、形質導入された操作されたT細胞の治療的有効用量は、体重1キログラム当たり約100万~約200万の形質導入された操作されたT細胞(細胞/kg)である。したがって、幾つかの態様では、形質導入された操作されたT細胞の治療的有効用量は、約100万~約300万の形質導入された操作されたT細胞/kgである。ある特定の実施形態では、上記治療的有効用量は、約200万の形質導入された操作されたT細胞/kgである。ある特定の実施形態では、上記治療的有効用量は、少なくとも約200万の形質導入された操作されたT細胞/kgである。ある特定の実施形態では、上記治療的有効用量は、少なくとも約100万、少なくとも約200万、少なくとも約300万、少なくとも約400万、少なくとも約500万、少なくとも約600万、少なくとも約700万、少なくとも約800万、少なくとも約900万、少なくとも約1000万の操作されたT細胞/kgである。他の態様において、治療的有効用量は、100万細胞/kg未満、100万細胞/kg、200万細胞/kg、300万細胞/kg、400万細胞/kg、500万細胞/kg、600万細胞/kg、700万細胞/kg、800万細胞/kg、900万細胞/kg、1000万細胞/kg、1000万細胞/kgより多く、2000万細胞/kgより多く、3000万細胞/kgより多く、4000万細胞/kgより多く、5000万細胞/kgより多く、6000万細胞/kgより多く、7000万細胞/kgより多く、8000万細胞/kgより多く、9000万細胞/kgより多く、又は1億細胞/kgより多くてもよい。他の実施形態において、治療的有効用量は、約100万細胞/kg~約2
00万細胞/kg、約100万細胞/kg~約300万細胞/kg、約100万細胞/kg~約400万細胞/kg、約100万細胞/kg~約500万細胞/kg、約100万細胞/kg~約600万細胞/kg、約100万細胞/kg~約700万細胞/kg、約100万細胞/kg~約800万細胞/kg、約100万細胞/kg~約900万細胞/kg、約100万細胞/kg~約1000万細胞/kgであってもよい。ある特定の実施形態では、治療的有効用量の合計(患者一人当たりの形質導入された細胞)は、約1×106の形質導入された細胞、約1×106~約1×107の形質導入された細胞、1×107~約1×108の形質導入された細胞、1×108~約1×109の形質導入された細胞、約1×109~約1×1010の形質導入された細胞、約1×1010~約1×1011の形質導入された細胞、約1×1011の形質導入された細胞、又は約1×1011を超えるの形質導入された細胞に達する数であってもよい。1つの態様では、上記治療的有効用量は、約1×108~約2×108の形質導入された細胞であってもよい。臨床及び薬理学の分野の当業者は、通例の実験を通して、すなわち、化合物の投与に対する被験体の応答をモニターし、それに従って投薬量を調整することにより、治療的有効量を決定することができる。ある特定の実施形態では、操作されたT細胞によって発現される細胞表面受容体は、抗CD19 CARである。ある特定の実施形態では、抗CD19 CARはKochenderfer et al., J Immunother. 2009 September ; 32(7): 689-702に記載されるようにFMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARであってもよく、その主題は、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現するT細胞を産生するため使用されるベクターを構築する方法を提供する目的で引用することにより本明細書の一部をなす。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の治療的有効用量は、体重1キログラム当たり約100万より多く、かつ約300万未満の形質導入された操作されたT細胞(細胞/kg)であってもよい。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の治療的有効用量は、体重1キログラム当たり約100万より多く、かつ約200万未満の形質導入された操作されたT細胞(細胞/kg)であってもよい。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の治療的有効用量は、約200万~約300万未満の形質導入された操作されたT細胞/kgである。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の治療的有効用量は、約200万、約210万、約220万、約230万、約240万、約250万、約260万、約270万、約280万、又は約290万の形質導入された操作されたT細胞/kgである。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の好ましい治療的有効用量は、約200万の形質導入された操作されたT細胞/kgである。ある特定の実施形態では、FMC63-28Z CAR又はFMC63-CD828BBZ CARを発現する操作されたT細胞の治療的有効用量は少なくとも約200万の形質導入された操作されたT細胞/kgである。
【0045】
幾つかの実施形態では、医薬組成物は、本明細書に記載される方法で産生される操作されたT細胞の集団を含んでもよい。また、ある特定の実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体を含んでもよい。薬学的に許容可能な担体は、1つの組織、器官又は身体の一部から別の組織、器官又は身体の一部への目的の細胞の運搬又は輸送に関与する、薬学的に許容可能な材料、組成物、又はビヒクルであってもよい。例えば、上記担体は、液体又は固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、若しくはカプセル化材料、又はそれらの幾つかの組合せであってもよい。担体の各成分は、製剤の他の原料と適合性でなくてはならないという点で「薬学的に許容可能」でなくてはならない。また、担体の各成分は、上記担体が接触し得る任意の組織、器官、又は身体の一部との接触に適していなければならず、すなわち、毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、又はその治療上の利益を過剰
に上回る任意の他の合併症のリスクを伴ってはならないことを意味する。
【0046】
本明細書で使用される「約」の用語は、提示される値の範囲又は値の範囲の5%又は10%以内を意味する。
【0047】
以下の実施例は、本発明の様々な実施形態を説明することを意図する。したがって、考察される具体的な実施形態は、本発明の範囲に対する制限と解釈されない。例えば、以下の実施例は抗CD19キメラ抗原受容体(CAR)で形質導入されたT細胞に関し、当業者は、本明細書に記載される方法が任意のCARで形質導入されたT細胞に適用され得ることを理解するであろう。本発明の範囲から逸脱することなく、様々な等価物、変更及び修飾を行い得ることが当業者に明らかであり、かかる等価物の実施形態が本明細書に包含されることが理解される。さらに、本開示において引用される全ての参考文献は、本明細書に完全に記述されるかのようにそれらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【実施例】
【0048】
実施例1:ex vivo遺伝子改変自己細胞の作製
1つの実施形態による、例示的なT細胞製造プロセス(「改良された」プロセス)の概観を
図1に提示する。この改良されたプロセスは、T細胞産物の特性を維持しながら、従来使用されるT細胞を製造するプロセス(「従来の」プロセス)に対する改良を含む(これらの改良を説明する
図2を参照されたい)。具体的には、予想外なことに、改良されたプロセスは血清の使用を排除することができる閉鎖プロセスである。さらに、この改良されたプロセスは、単一サイクルの形質導入を使用して形質導入されたT細胞の集団を産生する。さらに、このプロセスを使用して合計6日間の拡大を経た細胞は、10日間の拡大を経た細胞と比較して、より幼若な免疫表現型プロファイルを呈する。このプロセスは、キメラ抗原受容体(CAR)を、例えばCD19に対して発現する標的数の形質転換されたT細胞を含む製品を再現性よく製造することができるが、これらの方法を任意のCARによって形質導入されたT細胞に応用する。
【0049】
具体的には、上記プロセスは、標準的なアフェレーシスの機器及び手順を使用して回収されたアフェレーシス産物に適合するように設計され、リンパ球に対して被験体のアフェレーシスを富化し、組換えIL-2及び抗CD3抗体の存在下での規定の培養期間の間に被験体のT細胞を活性化し、T細胞が選択的に生存して増殖するex vivo培養環境を提供し、一貫した範囲の形質移入効率の範囲内でCD19キメラ抗原受容体を発現するように操作されたレトロウイルスベクターを使用して被験体のT細胞に形質移入を行い、産物に関連する不純物を一貫したレベルまで減少し(産物関連不純物として、被験体に由来する開始材料中の非T細胞が挙げられる)、プロセス関連不純物を一貫したレベルまで減少する(プロセス関連不純物として増殖培地、サイトカイン、及び他のプロセス試薬が挙げられる)。
【0050】
アフェレーシス回収。Cobe(登録商標)Spectra、Spectra Optia(登録商標)、Fenwal(商標)Amicus(登録商標)等の標準的なアフェレーシス機器又は等価物を使用して白血球を回収した(白血球アフェレーシス)。白血球アフェレーシスプロセスは、通常およそ200mL~400mLの患者に由来するアフェレーシス産物を生じる。該アフェレーシス産物を、その場での製造プロセスに供してもよく、又は任意に異なる場所での製造プロセスを経るための施設へと1℃~10℃で輸送してもよい。
図1に概説されるように、更なるプロセス工程をISO7細胞培養プロセス区域(又は類似のクリーンルームタイプの環境)において行ってもよい。
【0051】
減容。適切な場合、改良されたプロセスの減容工程を、Sepax(登録商標)2の実
験機器(テキサス州ヒューストンのBiosafe SA)等の細胞処理器具又は等価物を使用して行い、標準的な無菌チュービングキットを使用して実施した。各被験体に由来する細胞の数及び入ってくる供給材料の容量(およそ200mL~400mL)におけるばらつきを考慮すると、減容工程はおよそ120mLまで細胞の容量を標準化するように設計される。アフェレーシスの容量が120mL未満である場合、減容工程を行う必要はなく、細胞はリンパ球富化工程へと直接運ばれる。減容工程は、各被験体から受ける細胞の容量を標準化し、単核細胞を保持し、一貫した細胞収率及び高い細胞生存率を達成し、閉鎖系を維持して汚染リスクを最小化するように設計される。
【0052】
リンパ球富化。減容工程に続き、器具の製造業者によって開発され推奨される分離プロトコル(NeatCell Program)を使用し、標準的な無菌チュービングキットを使用して、Sepax(登録商標)2等の細胞処理器具又は等価物において、細胞をフィコールを基本とする分離に供した。リンパ球富化工程は、RBC及び顆粒球等の産物関連不純物を減少し、単核細胞を富化及び濃縮し、フィコール等のプロセス関連残留物を洗浄及び減少し、細胞活性化用の調製物に増殖培地中の細胞を配合し、また同様に一貫した細胞収率及び高い細胞生存率を達成する。閉鎖系は、環境汚染を最小化する。
【0053】
上記プロセスは、周囲温度においてISO7エリアで行われてもよく、全ての接続は、無菌チュービング溶接機を使用して行われるか、又はISO5ラミナーフローフードにおいて行われてもよい。
【0054】
T細胞活性化。T細胞活性化工程は、リンパ球富化により新たに調製された細胞、又は先に凍結保存された細胞のいずれかを用いて行われ得る。凍結保存細胞を使用する場合、開発されたプロトコルを用いて使用前に細胞を解凍してもよい。
【0055】
T細胞活性化工程は、T細胞を選択的に活性化してレトロウイルスベクター形質導入に対して受容性とし、全ての他の細胞型の生存可能な集団を減少し、一貫した細胞収率及び高いT細胞生存率を達成し、閉鎖系を維持して汚染リスクを最小化する。
【0056】
洗浄1。T細胞活性化工程の後、製造業者により開発されたプロトコルを使用し、標準的な無菌キット中の新鮮な培養培地によりSepax(登録商標)2等の細胞処理器具又は等価物を使用して細胞を洗浄した。任意には、レトロウイルスベクターによる形質導入のため調製物中におよそ100mLの最終容量まで細胞を濃縮した。洗浄1の工程は、抗CD3抗体、使用済みの増殖培地及び細胞残屑等のプロセス関連残留物を減少し、一貫した細胞収率及び高いT細胞生存率を達成し、閉鎖系を維持して汚染リスクを最小化し、形質導入を開始するのに適した低容量で十分な数の生存可能なT細胞を濃縮及び送達する。
【0057】
レトロウイルス形質導入。最初にバッグをRetroNectin(登録商標)(日本のタカラバイオ株式会社)等の組換えフィブロネクチン又はそのフラグメントで被覆し、その後活性化細胞の形質導入に先立って規定の手順に従ってレトロウイルスベクターとインキュベートすることによって予め調製された、細胞培養バッグ(Origen BiomedicalのPL240又は同等物)に新しい細胞増殖培地中の洗浄1の工程による活性化細胞を移した。RetroNectin(商標)による被覆(10μg/mL)を2℃~8℃の温度で20時間±4時間行い、希釈緩衝液で洗浄し、その後、37℃±1℃、5%±0.5%のCO2でおよそ180分間~210分間、解凍したレトロウイルスベクターとインキュベートした。上記バッグに細胞を添加した後、37℃±1℃、5%±0.5%のCO2で20時間±4時間形質導入を行った。レトロウイルス形質導入工程は、効率的な形質導入が行われ得るように制御された条件下でレトロウイルスベクターの存在下、活性化T細胞を培養し、一貫した細胞収率及び高い細胞生存率を達し、閉鎖系を維持して、汚染リスクを最小化する。
【0058】
洗浄2。レトロウイルス形質導入工程に続いて、製造業者によって開発されたプロトコルを使用し、標準的な無菌キットにおいて、Sepax(登録商標)2等の細胞処理器具又は等価物を使用して新しい増殖培地で細胞を洗浄し、該細胞を拡大工程用の調製物中およそ100mLの最終容量まで濃縮した。洗浄2の工程は、レトロウイルスベクター粒子、ベクター製造のプロセス残留物、使用済み増殖培地、及び細胞残屑等のプロセス関連残留物を減少し、一貫した細胞収率及び高い細胞生存率を達成し、閉鎖系を維持して汚染リスクを最小化し、使用済み増殖培地を拡大工程の開始に適した規定の容量中に標的数の細胞を含む新しい培地に交換するように設計される。
【0059】
T細胞拡大。洗浄2の工程からの細胞を培養バッグ(Origen BiomedicalのPL325又は等価物)に無菌的に移し、新しい細胞増殖培地で希釈して、37℃±1℃、5%±0.5%のCO2でおよそ72時間培養した。細胞密度を5日目から毎日測定した。T細胞の倍化時間は被験体ごとにわずかに変化し得ることから、総細胞数が標的用量のCAR陽性T細胞/被験体の体重kgを送達するのに不十分である場合には、72時間を超える(すなわち、3日~6日)の追加の増殖時間が必要な場合がある。T細胞拡大工程は、有効な用量の供給のために十分な数の形質導入された細胞を産生するため制御された条件下で細胞を培養し、閉鎖系を維持して汚染リスクを最小化し、一貫した細胞収率及び高い細胞生存率を達成するように設計される。1つのかかる有効な用量又は標的用量として、それぞれMSGV-FMC63-28Zレトロウイルスベクター又はMSGV-FMC63-CD828BBZレトロウイルスベクターのいずれかによる形質導入を介して産生された2×106のFMC63-28Z CAR陽性又はFMC63-CD828BBZ CAR陽性のT細胞/被験体の体重kg(±20%)が挙げられ、いずれもKochenderfer et al., J Immunother. 2009 September; 32(7): 689-702に詳述され、そ
の主題は、完全に本明細書に記述されるかのように、その全体が参照によって本明細書に援用される。
【0060】
洗浄3及び濃縮。T細胞拡大工程に続き、製造業者によって開発されたプロトコルを使用して標準的な無菌キットにおいてSepax(商標)2等の細胞処理器具又は等価物を使用し、0.9%の生理食塩水で細胞を洗浄し、該細胞を配合及び凍結保存のため調製物中およそ35mLの最終容量まで濃縮した。洗浄3の工程は、レトロウイルス産生プロセス残留物、使用済み増殖培地、及び細胞残屑等のプロセス関連残留物を減少し、一貫した細胞収率及び高い細胞生存率を達成し、閉鎖系を維持して汚染リスクを最小化するように設計される。
【0061】
一旦細胞を濃縮し、0.9%生理食塩水で洗浄すれば、適切な細胞用量を最終凍結保存製品の作製用に配合してもよい。細胞を凍結保存用に調製し、下記実施例4に提示される方法に従って凍結保存した。
【0062】
実施例2:細胞培養バッグで拡大されたT細胞の増殖成績
本明細書に記載される実施形態は、6日間操作された自己T細胞療法の効率的な産生を提供する。従来技術に対する以下の改良、すなわち、従来使用されていた24日間、14日間又は10日間のいずれかに代えて6日間の短縮されたプロセス(これは製品リリースに必要な検査の数を減らす(RCR検査を含む))、効力及び有効性を増すためより高い割合の幼若T細胞を含む、改良されたT細胞製品、より短い製造時間を相殺するためのより多数の細胞で開始され得る培養、本明細書に記載される方法の工程を行うための閉鎖系、T細胞の増殖を支持するヒト血清不含培養条件の特定、バッグ内での単一サイクルのレトロウイルス形質導入、フラスコではなくバッグ内で行われる細胞培養物の活性化及び拡大、並びに凍結製品の提供が達成された。複数のがんの適応症の治療のための新規な操作された末梢血自己T細胞療法(eACT)の開発及び商品化にこれらの改良を使用した。
開発プログラムから得られた細胞は、従来の方法によって増殖された細胞と同じ表現型及び活性プロファイルを維持した。
【0063】
操作されたT細胞の作製。
図2は、改良されたプロセスにおける本明細書に記載される改良を含むT細胞製造プロセスの概観を示す。簡潔には、末梢血単核細胞(PBMC)から、B細胞悪性腫瘍を有する被験体からアフェリシス、スプリット(split)により得て
、従来技法及び本明細書に記載される改良された技法を使用し並行して操作した。5つの研究は、最終洗浄及び凍結保存操作を除いて、6日目の増殖を通して全てのプロセス工程を評価した。2つの追加研究では、ここでもリンパ腫患者に由来するアフェレーシス産物を使用して、アフェレーシス材料の最初のプロセスから最終的な配合及び凍結工程で改良されたプロセスを行った。
【0064】
閉鎖Sepax 2プロセスによってPBMCのフィコール分離によりリンパ球に対してアフェレーシス産物(すなわち「試料」)を富化した。その後、開発中のプロトタイプサプリメント(Life TechnologiesのT細胞SR培地サプリメント)によって補足された
血清不含培地(Life TechnologiesのOpTmizer(商標))中、閉鎖培養バッグに
おいてリンパ球を増殖させ、抗CD3抗体及びrIL-2(組換えIL-2)を用いてT細胞活性化のため48時間に亘って(0日目~2日目)刺激した。その後、活性化T細胞を閉鎖Sepax 2プロセスを使用して洗浄した。
【0065】
製造プロセスの2日目~3日目、ガンマレトロウイルスベクターを使用して、活性化T細胞に抗CD19 CARを形質導入した。以下の通り、閉鎖系において形質導入を完了した。閉鎖細胞培養バッグ(すなわち、Origen PermaLife(商標)のPL240バッグ)を2μg/mL~10μg/mLのRetroNectin(登録商標)で被覆した後、RetroNectin(登録商標)を除去し、該バッグを緩衝食塩水で洗浄した。その後、ガンマレトロウイルスを閉鎖系バッグに導入し、続いてインキュベーション期間に供した。その後、レトロウイルスベクターを含むバッグに活性化T細胞を直接添加し、37℃で一晩インキュベートした。RetroNectin(登録商標)被覆培養バッグに由来する材料を取り出し、細胞拡大のため別々の細胞培養バッグに入れた。任意の洗浄工程を細胞拡大の前に追加してもよい。抗生物質を含まない閉鎖バッグ系において形質導入されたT細胞を3日間(3日目から6日目まで)拡大した。その後、得られた操作されたT細胞を回収し、凍結保存した(凍結保存は任意の工程である。)
【0066】
操作されたT細胞表現型。(i)CAR遺伝子発現の確認、(ii)T細胞集団純度の確認、及び(iii)T細胞サブセットマーカーCCR7、CD45RA、CD62L、並びに機能的競合マーカーCD27及びCD28の細胞表面発現を使用して操作されたT細胞の集団に存在する細胞表現型の特定、のため、操作されたT細胞を蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって解析した。
【0067】
操作されたT細胞の活性。また、抗原(Ag)陽性(すなわち、CD19+)標的細胞との共培養後の操作されたT細胞によるインターフェロンガンマ(IFNγ)の産生を測定するため、操作されたT細胞をin vitro共培養バイオアッセイを使用して解析した。また、FACSによって、操作されたT細胞によるインターフェロンγ(IFNγ)の細胞内産生、及びAg陽性標的細胞との共培養後のCD107aの発現について操作されたT細胞を解析した。
【0068】
増殖研究。細胞の増殖が安定であり、従来の研究のものと一致し同様(又はより良好)であったことを確認するため、T細胞の増殖及び生存率を各実験において評価した。
【0069】
凍結保存。6日目に細胞を生理食塩水で洗浄した後、5%までHSAを添加し、該細胞
をCryoStor(商標)10(BioLife Solutions(商標))と1:1で混合した。
その後、規定の凍結サイクルを使用して速度制御型冷凍庫で細胞を凍結した後、気相の液体窒素中に保存した。このプロセスによって1mL当たり約1×106~1.5×107の細胞の凍結保存及び解凍に成功し得たことを示した。HSAを含む生理食塩水は良好又は試験した他の溶液(例えば、PL/D5)より良好であり、HSAにより凍結-解凍の回復が改善された。
【0070】
トリパンブルー排除、また同様にFACS(Annexin Vまた同様に7AADに対するFACSに基づく染色)によって解凍時の生存率について細胞を評価した。細胞は、解凍後、IFN-ガンマによって測定される表現型及び生物学的機能を保持した。
【0071】
結果
培地増殖サプリメントと合わせた血清不含培地中で増殖研究を行った。これらの研究では、成績は変化しやすく、5%ヒト血清を含有する培地(AIMV)と同様の表現型をもたらした培地として成功を定義した。上に記載される方法に使用した血清不含培地は、優れたT細胞増殖、及びAIMVにおける増殖に類似する表現型をもたらした。1つの予想外の観察は、優れた増殖及び生存率を達成するため、細胞密度がおよそ1.5×106/mLに達した場合に細胞を継代しなければならないことであった。この細胞濃度で細胞を継代しない場合、生存率が低下する場合があった。しかしながら、およそ0.4×106/mL~1.5×106/mLの範囲では、フラスコ又は閉鎖バッグ系のいずれかで、細胞は37℃の培養において24時間以下の倍加時間で良好に増殖した。
【0072】
新たな受容体遺伝子がガンマレトロウイルスベクターを使用してT細胞に導入される、操作されたT細胞を作製するプロセスは、形質導入が成功し得るように細胞が活発に増殖していることを必要とする。ここではT細胞を抗CD19 CARを形質導入したが、本明細書に記載されるプロセスを任意のCAR又はTCRに使用してもよい。開放Tフラスコ又は閉鎖細胞培養バッグ系のいずれかにおいて、ヒトT細胞増殖が抗CD3抗体及びIL2を使用してOpTmizer(商標)培地中で刺激され得ることを実証した。FACSを使用して、CFSEで染色された細胞がこの刺激の間、OpTmizer(商標)培地又は5%ヒト血清を含むAIMVにおいて等しく良好に増殖したことを実証した。T細胞の増殖が他のインキュベーション時間で見られたが、抗CD3抗体及びIL2との2日間のインキュベーションがOpTmizer(商標)培地で活発に増殖する細胞を得るために最適であることが実証された。
【0073】
閉鎖バッグ系におけるOpTmizer(商標)培地中での形質導入を見るため様々な条件を評価した。本発明の1つの新規な態様は、閉鎖バッグ系におけるOpTmizer(商標)培地中での形質導入を達成するため開発された特定の順番の工程である。記載されるプロセスは、操作が単純であるが、従来使用される条件と同様の形質導入頻度を提供するという利点を有する。形質導入プロトコルに先に含まれる工程(例えば、HSA等のタンパク質による被覆表面のブロッキング)は必要ではないことがわかった。形質導入頻度は、RetroNectin(商標)被覆細胞培養バッグからの除去後の細胞の洗浄によって影響を受けない。
【0074】
刺激プロセス開始後6日目又は10日目のいずれかの細胞の表現型解析は、OpTmizer(商標)培地では、該細胞が同様のバッグ又は一般的に使用されるプレート系においてAIMV培地中で増殖させた細胞とほとんど同じであることを明らかにした(
図4及び
図5を参照されたい)。同様に、OpTmizer(商標)培地中、単純な閉鎖プロセスバッグ系で産生された細胞は、in vitro共培養アッセイにおいてAg陽性標的細胞に応答してIFNガンマを産生可能であり、この向上したプロセスによって製造されたT細胞は生物学的に活性であることを実証する。
【0075】
下記表1は、本明細書に記載される改良されたプロセスを使用する6日目のIFNガンマ産生(pg/ml)を示す。
【0076】
【0077】
別の予想外の観察は、10日以上から本発明の6日へと培養期間を単純に減少することによって、ナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞の存在の増大、及び分化したエフェクターT細胞の出現の減少と共に、より幼若なT細胞の分布をもたらしたことである(
図4及び
図5を参照されたい)。これは、製品の効力及び他の特性に有利な影響を有する。具体的には、3日間のみの培養の後に拡大した産物から十分な細胞を回収することができる。拡大し、形質導入された細胞の回収のための刺激の開始からの合計時間は6日であり、およそ1×10
8~2×10
8のCAR陽性細胞の用量を維持する(
図6)。より多数の細胞が必要な場合、バッグ内で確実に細胞を増殖させ続け、10日以上で細胞培養物を回収することができる。代替的には、開始集団中により多くの細胞を使用して、6日の期間内により大きな細胞集団を作製することができる。
【0078】
さらに、6日目の細胞を0.9%生理食塩水で更に洗浄し、最終製品の配合物に配合し、凍結保存した、リンパ腫の患者由来のアフェレーシスを用いるフルスケールでの2つの研究を行った。6日目の細胞産物を多くのパラメーターについて解凍前及び解凍後に評価した。凍結前の水準と比較して解凍から3日目のCAR陽性T細胞の割合に顕著な差はなく、凍結保存プロトコルがCAR発現に支障がないことを示唆した。さらに、CAR陽性細胞はCD19陽性標的との共培養後、引き続きIFN-ガンマ放出によって測定されるようにCD19特異的抗原を認識することを示した。解凍時の該細胞の生存率は、2つの試験した産物についてそれぞれ90%及び79%であった。
【0079】
実施例3:閉鎖系における形質導入条件の開発
以前に、PBMCの形質導入を6ウェルプレートにおいて処理された非組織培養において行った。10μg/mLのRetroNectin(登録商標)を用い、2℃~8℃で一晩、又は室温で2時間、プレートを被覆した。インキュベーションの後、RetroNectin(登録商標)を除去し、プレートを2.5%HSAで30分間ブロックした後、HBSS+5mM HEPESで洗浄した。プレートを基板とするプロセスにおいて、被覆したウェルにレトロウイルスベクターをアプライし、遠心分離機にて回転させた後、およそ75%のウイルス上清を除去し、その後、スピノキュレーションにより形質導入のための細胞を添加した。
【0080】
本明細書に提示されるように、閉鎖細胞培養バッグ内でのPBMCへの形質導入に対するRetroNectin(商標)の濃度を最適化するため、及びHSA洗浄及びウイルス上清の除去が形質導入に影響を及ぼすかどうかを特定するため、3つの研究を完了した。細胞活性化、形質導入、及び拡大をAIM V(商標)培地+5%ヒト血清で行う、O
rigen PermaLife(商標)のPL07バッグにおいて第1の実験を行った。RetroNectin(商標)の濃度範囲2μg/mL~40μg/mLを3名の別々のドナーに由来するPBMCにおいて評価した。10μg/mL及び40μg/mLのRetroNectin(商標)の濃度におけるプレートでの形質導入とバッグでの形質導入、又は95%信頼水準でHSAブロッキングをせずに行われた形質導入とに顕著な差はなかった。しかしながら、同じ信頼水準において、RetroNectin(商標)濃度の2μg/mLまでの低下、又は形質導入前のバッグからのレトロウイルスベクターの除去は、下記表2に示されるように形質導入効率の中程度の減少を明らかにした。
【0081】
【0082】
2名の別々のドナーに由来するPBMCを使用するOrigen PermaLife(商標)のPL07バッグにおけるAIM V(登録商標)培地+5%ヒト血清における第2の研究は、第1の研究による結果を確認し、バッグ内の最大形質導入効率は1μg/mL~20μg/mLのRetroNectin(登録商標)の範囲で起こることを実証した(
図8を参照されたい)。さらに、HSAブロック工程は、上記プロセスを増強せず、又は形質導入効率を上げない(
図9を参照されたい)。さらに、上記研究は、形質導入された細胞の表現型(CD45RA/CCR7)はHSAブロック工程の排除によって影響を受けないことを示した。
【0083】
第3の研究では、2名のドナーに由来するPBMCをOrigen PermaLife(商標)のPL70バッグにおいてOpTmizer(商標)+2.5%サプリメント、又はAIM V(商標)+5%HSAのいずれかで2日間刺激した。2日目、細胞を洗浄し、PL30又は6ウェルプレートにおいてレトロウイルスベクターで形質導入を行った。形質導入中の細胞濃度は0.5×10
6/mLであった。3日目、形質導入された細胞をT175フラスコ(対照として)又はPL30バッグのいずれかに移した。6日目又は7日目、効力については共培養アッセイで、またCAR発現及び表現型についてはFACSにより細胞を
評価した。
図10は、形質導入頻度に対するRetroNectin(商標)濃度の影響を示し、ここで、5μg/mLを上回るRetroNectin(商標)がバッグ内での形質導入頻度に影響を有しなかった。
図11は、標的細胞上でのCD19抗原認識に応答する細胞活性化(CD107a発現及びIFN-ガンマ産生)の基準を評価した場合、これらの条件で試験した細胞の活性は同様であったことを示す。この場合、形質導入された細胞をCD19陽性Nalm6細胞と共に4時間インキュベートした後、CD107aについての細胞表面発現、及び細胞内IFN-ガンマ産生について染色した。
【0084】
したがって、本明細書で提供される方法によれば、バッグが10μg/mLのRetroNectin(商標)で被覆され、OpTmizer(商標)培地+2.5%サプリメントを使用してバッグ内で形質導入を行い、HSAによるブロッキング工程が形質導入効率に対する影響、又は細胞の効力若しくは表現型に対する影響を何ら有さず、バッグ内での形質導入がプレートにおける形質導入と同様の表現型を有するT細胞産物を生じ、形質導入中の該バッグへの細胞の添加に先立つレトロウイルスベクターの除去が全体的な形質導入頻度を上げず、わずかに減少し得るプロセスを支持する。
【0085】
実施例4:製造された抗CD19 CAR+ T細胞に対する凍結保存工程の開発
製造された抗CD19 CAR T細胞の凍結保存に最適な条件を決定するため、一連の開発研究を行った。研究は、解凍時の高い生存率に対する条件、凍結産物の配合、最適化された凍結プロトコルを確立するため、及び細胞表現型及び効力に対する凍結解凍の影響を特定するため設計された。以下の解析手段、すなわち解凍前及び後のトリパンブルー排除による細胞計数、解凍後のFACSによるアネキシン染色、CAR+ T細胞及び表現型(CCR7、CD45RA)を特定するためのFACS染色、解凍後の凍結保存細胞の培養における増殖、及びCD19+細胞との共培養後のIFN-ガンマ産生による効力を採用して成績を評価した。
【0086】
レトロウイルスベクターによって形質導入されたPBMCを使用して、上述の成績基準を評価した。開発研究では、最終凍結保存容量20mL中3×106/mL~12×106/mLの濃度範囲の凍結保存された細胞を使用した。実際の臨床製品の細胞密度は、被験体の体重及びCAR形質導入頻度に基づいてこの範囲内に含まれると考えられる。顕著な差のないOriGenのCS50バッグ又はAFCのKryoSure(商標)20-Fバッグのいずれかにおいて研究を行った。
【0087】
形質導入された細胞を洗浄し、ヒト血清アルブミン(HSA)を含む又は含まない、0.9%生理食塩水、又はPLASMA-LYTE(登録商標)A及びD5 1/2生理食塩水(5%デキストロース/0.45% NaCl)の1:1混合物のいずれかを含有する溶液に再懸濁した。その後、細胞を1:1又は1:2の比率でCryoStor(登録商標)CS10と混合した。様々な研究において、細胞を速度制御型冷凍庫(CRF)で凍結保存し、気相LN2で2日を超えて保存した後、解凍して生存率、CAR発現、表現型及び活性について評価した。幾つかの実験では、対照として細胞を80%ヒトAB血清+20% DMSOと1:1で混合した。
【0088】
解凍時の細胞回復は、2.5%の最終濃度のHSAが凍結保存産物に含まれた場合に増強された(表3)。さらに、HSAと共に凍結された細胞は、より高い生存率を維持し、培養に戻した場合により速く増殖を開始し、より迅速に高い細胞生存率を取り戻した(表4)。
【0089】
【0090】
【0091】
0.9%生理食塩水とPLASMA-LYTE(登録商標)A/D5 1/2生理食塩水とを比較する研究は、解凍時の回復、解凍後の培養における細胞の増殖成績又は表現型に顕著な差はなかったことを示した(表5)。また、細胞をCryoStor(商標)CS10により1:2に希釈した場合とCryoStor(商標)CS10により1:1に希釈した場合とで、これらのパラメーターにおける改善はなかった。凍結保存産物におけるHSAの最終濃度2.5%によるT細胞希釈物中での5%ヒト血清を用いた実験の大半で、成績は80%ヒトAB血清/20%DMSOによる1:1中で凍結した細胞のものと
等しいかそれを上回った。したがって、細胞を0.9%生理食塩水で洗浄し、HSAを5%まで添加した後、細胞をCryoStor(商標)CS10で1:1に希釈する、最終凍結保存産物を選択することを決定した。
【0092】
【0093】
0.45%生理食塩水、2.5%HSA及び50%のCryoStor(商標)CS10の選択した配合、及びOrigen(商標)のCS250バッグ中の最終産物容量およそ50mL~60mLに対して凍結サイクルの開発を行った。各試行に対し、単一の培地配合及び容量を使用して全ての試行を個別に行った。バッグから空気をパージし、バッグの外側表面に熱電対を取り付けることによって産物の温度をモニターした。Custom
BioGenic Systems(商標)、Part Number ZC021等のCS250バッグを収容するように設計された凍結カセットに個別のバッグを入れ、速度制御型冷凍庫の凍結ラックの中段に置いた。
【0094】
どこで温度スパイク(temperature spike)が開始するのかを決定するのを補助するた
め、一連の凍結サイクルを評価して、0.45%生理食塩水、2.5%HSA及び50%CryoStor(商標)CS10が自然に核形成した点を特定した。各試行の後、満足のいく試料温度プロファイルが作製されるまで凍結プロトコルに対する修正を行った。満足のいく試料の作製のための基準は、冷スパイク(cold spike)が融解熱を可能な最大の
程度まで相殺すること、及び上記試料が1℃/分の冷却速度を実行することであった。速度制御型冷凍庫(CRF)において50mLのバッグに対して最適化されたプロトコルを表6に示し、該チャンバー及び産物の対応する温度プロファイルを
図12に示す。
【0095】
【配列表】