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7087045高純度β-ブロモエチルベンゼン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】高純度β-ブロモエチルベンゼン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/08 20060101AFI20220613BHJP
   C07C 22/04 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
C07C17/08
C07C22/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020193964
(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公開番号】P2021130650
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2020026544
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】前寺 智志
(72)【発明者】
【氏名】重田 優輔
(72)【発明者】
【氏名】尾添 真治
【審査官】池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-040591(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第00825476(GB,A)
【文献】特開2004-189655(JP,A)
【文献】特公昭38-001623(JP,B1)
【文献】ZHANG, Tian-yong; XU, Dan; CHAI, Yi; ZHANG, You-lan,Synthesis of β-bromoethyl benzene from styrene under ultraviolet light irradiation,Huaxue Shiji,2006年,vol.28, no.6,pp.326-328
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 22/04
C07C 17/08
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンと臭化水素が導入された反応器内に電磁波を照射して、ラジカル付加反応によりβ-ブロモエチルベンゼンを製造する方法であって、
前記β-ブロモエチルベンゼン中の(a)α-ブロモエチルベンゼン、(b)スチレン、(c)フェニルエタノール、(d)ジブロモエチルベンゼン及び(e)ブロモジフェニルブタンのガスクロマトグラフィーで求めた各々のピーク面積比が、(a)≦2.00%、(b)≦0.10%、(c)≦0.10%、(d)≦0.10%、及び(e)≦0.10%(但し、β-ブロモエチルベンゼンと(a)~(e)のピーク面積の総和は100)であり、
照射される電磁波は、ピーク波長が320nm以上450nm以下の範囲にある、高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
【請求項2】
さらにβ-ブロモエチルベンゼンのAPHA値≦100である、請求項1に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法
【請求項3】
照射される電磁波は、二つ以上のピーク波長が320nm以上450nm以下の範囲にある、請求項又は請求項に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
【請求項4】
電磁波が透過する液深Lと、液深Lに入射する光照度Eの比E/Lが、0.5mW/(cm・mm)以上となる、請求項1~3のいずれか一項に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
【請求項5】
電磁波の照射が、紫外線LED、可視光LED、有機EL、無機EL、水銀灯および無水銀灯からなる群から選ばれる少なくとも1種の光源を用いて行なう、請求項のいずれか一項に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
【請求項6】
スチレンと臭化水素が導入された反応器内に電磁波を照射する、請求項のいずれか一項に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
【請求項7】
有機溶媒、スチレン及び臭化水素が導入された反応器内に電磁波を照射する、請求項のいずれか一項に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
【請求項8】
有機溶媒が、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼン及び1,2-ジクロロエタンからなる群より選ばれる1種又は2種以上の組合せとなる、請求項に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
【請求項9】
スチレンと有機溶媒の混合溶液中のスチレン含量が50重量%以上100重量%未満となる混合溶液と臭化水素が導入された反応器内に電磁波を照射する、請求項又は請求項に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬及び機能性モノマーの合成中間体として有用な高純度β-ブロモエチルベンゼン及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
β-ブロモエチルベンゼンは、例えば、ヒストン脱メチル化酵素の阻害剤(例えば、特許文献1の段落0091)、抗ガン活性を有するアミン化合物(例えば、特許文献2の段落0520)、眼障害の治療薬(例えば、特許文献3の段落0385)などの医薬中間体、パラスチレンスルホン酸ナトリウム(例えば、特許文献4)などの機能性モノマーの合成中間体として産業上極めて有用な化合物である。
【0003】
β-ブロモエチルベンゼンの製法としては、有機溶媒中、ラジカル存在下、スチレンに臭化水素を付加する方法が一般的である。ラジカル源としては、酸素、アゾ化合物、過酸化物、又は紫外線が挙げられるが、副生物の生成が少ないなどの理由から、工業的には高圧水銀ランプの紫外線がラジカル源として使用されている(例えば、特許文献5、6)。
【0004】
特許文献5には、高圧水銀ランプの紫外線に、さらに空気を併用することにより、α-ブロモエチルベンゼンなどの位置異性体の副生を抑制できる旨記載されている。しかしながら、従来の方法では、α-ブロモエチルベンゼンやブロモフェニルベンゼンなどの副生を十分に抑制できない他、着色を十分に抑制することができなかった。
【0005】
さらに特許文献5の従来の技術の記述によれば、紫外線をラジカル源とした場合、高濃度の原料スチレンを用いてβ-ブロモエチルベンゼンを製造すると、沸点が類似し蒸留による分離が極めて困難なα-ブロモエチルベンゼンが副生するという課題があるとされている。これに対し特許文献5では、スチレンと臭化水素からβ-ブロモエチルベンゼンを製造する方法において、紫外線照射下、臭化水素に対し0.3~3.0vol%の空気を供給して反応を行うことにより、蒸留による分離が困難なα-ブロモエチルベンゼンの副生量を低減でき、高品質のβ-ブロモエチルベンゼンを提供することができる。さらに、従来の紫外線照射のみ又は空気添加のみによる方法に比べ、高濃度下での反応又は反応槽内の滞留時間の短縮が可能であり、生産効率が向上する旨の記載がある(請求項1および段落0031)。
なお特許文献5の実施例の記述において、副生物としてα-ブロモエチルベンゼン、アセトフェノンの他、CCOCHBr(α-ブロモアセトフェノン)およびCCHBrCHBr((1,2-ジブロモエチル)ベンゼン)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-199696号公報
【文献】特開2019-070002号公報
【文献】特開2019-142953号公報
【文献】特開昭55-31059号公報
【文献】特開平9-040591号公報
【文献】英国特許出願公開第825476号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは上記した特許文献5等の従来技術において開示される製造方法により得られるβ-ブロモエチルベンゼンの品質をさらに向上させる方法を鋭意検討した。
検討の結果、β-ブロモエチルベンゼンの製造の過程において、従来は十分には把握されていなかったブロモジフェニルブタンが副生することが分かった。さらに副生するブロモジフェニルブタンと直接あるいは間接的に関係するかは不明ではあるものの、得られるβ-ブロモエチルベンゼンの色相が優れないことがあり、その改善が望まれていた。
【0008】
そこで本発明者らは前述の従来技術を鑑み、特定の不純物が少なく、着色が十分に抑制された高純度β-ブロモエチルベンゼン及びその効率的な製造方法を提供することを本発明の目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、スチレンに臭化水素をラジカル付加する際に、ラジカル源として紫外線LED等から放射されるピーク波長が320nm以上450nm以下の範囲にある電磁波をラジカル付加反応において使用することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、次の発明に係る。
[1] β-ブロモエチルベンゼン中の(a)α-ブロモエチルベンゼン、(b)スチレン、(c)フェニルエタノール、(d)ジブロモエチルベンゼン及び(e)ブロモジフェニルブタンのガスクロマトグラフィーで求めた各々のピーク面積比が、(a)≦2.00%、(b)≦0.10%、(c)≦0.10%、(d)≦0.10%、及び(e)≦0.10%(但し、β-ブロモエチルベンゼンと(a)~(e)のピーク面積の総和は100)である高純度β-ブロモエチルベンゼン。
[2] さらにβ-ブロモエチルベンゼンのAPHA値≦100である、[1]に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼン。
[3] スチレンと臭化水素が導入された反応器内に電磁波を照射して、ラジカル付加反応によりβ-ブロモエチルベンゼンを製造する方法であって、
照射される電磁波は、ピーク波長が320nm以上450nm以下の範囲にある、[1]又は[2]に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
[4] 照射される電磁波は、二つ以上のピーク波長が320nm以上450nm以下の範囲にある、[3]に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
[5] 電磁波が透過する液深Lと、液深Lに入射する光照度Eの比E/Lが、0.5mW/(cm・mm)以上となる、[3]又は[4]に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
[6] 電磁波の照射が、紫外線LED、可視光LED、有機EL、無機EL、水銀灯および無水銀灯からなる群から選ばれる少なくとも1種の光源を用いて行なう、[3]~[5]のいずれかに記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
[7] スチレンと臭化水素が導入された反応器内に電磁波を照射する、[3]~[6]のいずれかに記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
[8] 有機溶媒、スチレン及び臭化水素が導入された反応器内に電磁波を照射する、[3]~[7]のいずれかに記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
[9] 有機溶媒が、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼン及び1,2-ジクロロエタンからなる群より選ばれる1種又は2種以上の組合せとなる、[8]に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
[10] スチレンと有機溶媒の混合溶液中のスチレン含量が50重量%以上100重量%未満となる混合溶液と臭化水素が導入された反応器内に電磁波を照射する、[8]又は[9]に記載の高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のβ-ブロモエチルベンゼンは、α-ブロモエチルベンゼンやブロモジフェニルブタンなどの不純物が少なく、着色が少ないため、医農薬及び機能性モノマーの合成中間体として産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例4で使用した光源(高圧水銀ランプに365nmバンドパスフィルターを装着した光源)の分光分布(スペクトル)を示す図であり、横軸(X軸)は波長(nm)、縦軸(Y軸)は規格化照度(最大強度を示す波長での強度を1とする、相対的な光強度)を示す。
図2】比較例2で使用した光源(高圧水銀ランプに313nmバンドパスフィルターを装着した光源)の分光分布(スペクトル)を示す図であり、横軸(X軸)は波長(nm)、縦軸(Y軸)は規格化照度(最大強度を示す波長での強度を1とする、相対的な光強度)を示す。
図3】実施例1~9及び比較例1、2における反応終了後のブロモジフェニルブタンの選択率を棒グラフでまとめた一覧図であり、横軸(X軸)は実施例および比較例番号、縦軸(Y軸)はブロモジフェニルブタンの選択率(ガスクロマトグラフィー測定における面積%)を示す。
図4】実施例1~9及び比較例1、2における反応終了後の反応液のAPHA値を棒グラフでまとめた一覧図であり、横軸(X軸)は実施例および比較例番号、縦軸(Y軸)は反応液のAPHA値を示す。
図5】実施例10におけるオーバーフロー後の反応液組成の経時変化を纏めた一覧図であり、横軸(X軸)はフィード時間(単位はmin(分))、縦軸(Y軸)はガスクロマトグラフィー(GC)による各測定対象物質の測定における面積%を示し、縦軸左側表示数値がβ-BEB(〇で表示)、縦軸右側表示数値がスチレン(Styrene)(△で表示)、α-BEB(□で表示)を示す。
図6】実施例10~14で使用した面照射LEDの分光分布(スペクトル)を示す図であり、横軸(X軸)は波長(nm)、縦軸(Y軸)は相対照度(最大強度を示す波長での強度を1とする、相対的な光強度)を示す。
図7】比較例3、4で使用した水銀灯の分光分布(スペクトル)を示す図であり、横軸(X軸)は波長(nm)、縦軸(Y軸)は相対照度(最大強度を示す波長での強度を1とする、相対的な光強度)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0014】
本発明は、スチレンに臭化水素をラジカル付加してβ-ブロモエチルベンゼンを製造する際に、ラジカル源として紫外線LED、可視光LED、有機EL、無機EL、水銀灯、無水銀灯などから放射されるピーク波長が320nm以上450nm以下の紫外線を用いるβ-ブロモエチルベンゼンの製造方法に係る。即ち、ラジカル源として特定波長の電磁波を用いることによって、β-ブロモエチルベンゼンに含まれることがある不純物や着色を低減できることを見出し、本発明に至った。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
スチレンに臭化水素をラジカル付加してβ-ブロモエチルベンゼンを製造する際、工業的には、ラジカル源として高圧水銀ランプから放射される紫外線が使用されている。高圧水銀ランプから放射される光は、200nmから700nmの幅広い範囲の波長を含む。高圧水銀ランプから放射される光は、254nm、313nm、365nm、405nm及び436nmに強い線スペクトルを示すが、通常用いられる厚さ5ミリを超えるホウ珪酸ガラスを反応器に使用すれば、250nm以下の短波長光はガラスにより遮蔽される。しかし、250nmを超える波長の光はガラスの組成や厚みに応じた割合で透過し、反応に関与する。
【0016】
本発明者らは、スチレンへの臭化水素のラジカル付加反応について、電磁波の波長の影響を詳細に調べた結果、特定波長及び強度の電磁波を用いることにより、α-ブロモエチルベンゼンなどの副生物の生成や着色が抑制できることを見出した。
【0017】
例えば、放射光の強度を一定に保ち、ピーク波長を313nmから435nmへ長波長側の光を放射して反応を行なうと、α-ブロモエチルベンゼンの副生量が増えること、即ち、β-ブロモエチルベンゼンの選択率が低下する。一方、ピーク波長が313nmなどの比較的に短波長側の光を放射して反応を行なうと、ブロモジフェニルブタンの副生量が増え、且つ目的物であるβ-ブロモエチルベンゼンの着色が促進されることを見出した。
【0018】
以上から、本発明のβ-ブロモエチルベンゼンの製造方法において放射される光は、ピーク波長が320nm以上450nm以下とすることが好ましい。さらに具体的に放射光のピーク波長としては、ブロモジフェニルブタンの副生量を抑制する観点や、APHA値といった製品の色相の観点から、360nm以上430nm以下とすることが好ましく、特に入手性の観点から、ピーク波長を365nm程度、385nm程度、435nm程度とすることが好ましい。
【0019】
また光源としては、320nm~450nmのピーク波長を一つ又は二つ以上有する光を放射できれば特に制限はなく、さらに照射される電磁波は、二つ以上のピーク波長が320nm以上450nm以下の範囲にあるとよい。
光源の具体例としては、例えば紫外線LED、可視光LED、有機EL、無機EL、水銀灯、無水銀灯などを使用することができる。ここで無水銀灯は、メタルハライドランプでの一種であり、水銀の代替として発光金属に亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル等の金属を用いた光源である。
この内、有機EL、無機EL、水銀灯や無水銀灯を用いる場合にはバンドパスフィルター等の所定波長の光を除去できる装置を装着して、所望のピーク波長を放射し、本発明の製造方法に係る反応において照射することが好ましい。
一方、LEDを使用する場合は波長分布が狭くてバンドパスフィルター等の装置の装着が不要となることもあり、また長寿命であることから、好ましく用いられる。
【0020】
上記の光源を用い、光を放射して本発明に係る反応を行なう際、光を放射する条件としては、電磁波が透過する液深Lと、液深Lに入射する光照度Eの比E/Lが、0.50mW/(cm・mm)以上、さらに1.0mW/(cm・mm)以上、特に5.0mW/(cm・mm)以上、となるようにするとよい。
320nm~450nmの波長領域において、本反応系におけるE/L比の上限はなく、例えば光照度Eが著しく高い場合でも副反応等は発生しない。但し、例えば水銀灯のような320nm未満の波長を有する光源の場合、光源全体の光照度Eを上げると副反応を引き起こす320nm未満の波長強度(水銀灯の場合、中心波長313nmなど)も増加するため、バンドパスフィルターなどを用いて波長領域を制限すればよい。
【0021】
本反応系は、光照射に起因するラジカル生成量が多いほど反応効率が高いため、反応面において光照度は高いほうが良いが、消費電力に基づく経済性、光源装置の制約等を総合的に考慮して、E/L比を設定すればよい。
E/L比を向上させるには、光照度Eを上げるか、液深Lを下げれば良い。
光照度Eを上げる場合、光源の装置設計の許容範囲内において上限なく設定すればよい。工業的に入手可能な光源は、例えばLEDの場合、照射サイズや照射距離にもよるが、中心波長365nmにおいて、光照度1,600mW/cm~13,000mW/cmの装置が開発されている(例えば、光技術情報誌ライトエッジNo.34((2020年11月19日検索)https://www.ushio.co.jp/jp/technology/lightedge/201103/)や岩崎電気(株)ホームページ((2020年11月19日検索)https://www.iwasaki.co.jp/lighting/led/)参照)。
また、液深Lを下げる場合、マイクロフローリアクター(以下、チューブリアクターと言うこともある)のような液深Lが短い反応系を持ちいることもできる。マイクロリアクターの場合、微細な反応流路を有していることから、液深Lは1mm以下となることも多いが、例えば液深Lが1mm、照度Eが1,600mW/cmであった場合、E/Lは1,600mW/(cm・mm)として反応を実施することが出来る。
【0022】
ここで、後記する実施例に記載の通り、液深Lと光照度Eの内容及び、液深Lの光照度Eに対する比E/Lが算出される。
すなわち、反応条件における光の強度の基準として、光源から水平方向の反応器を通過する際の直径方向の距離、言いかえれば光が当たる反応器の側面とその反対側面までの水平距離である液深に対する光の照度を下記式で規定することができる。
例えば、液深をL、その単位をmmとし、光の照度をE、その単位をmW/cmとしたとき、液深に対する光強度の比E/L(単位は、mW/(cm・mm))を測定することで、光を放射する条件を定めることができる。
測定にあたっては、例えば照度計としてUVPad(Opsytec社製)などを使用し、光源から所定の方向、例えば水平方向に当該光線を検出する光検出部を設置し、照度(単位は通常、mW/cm)を測定する。但し、試料をPYREX(登録商標)ガラスを介して測定する場合は300nm以下の波長はPYREX(登録商標)ガラス吸収されるため検出されないことに留意を要する。
反応器の形状によっては、反応器形状に起因する光散乱や測定機検出器の形状が原因となり、反応器内に入射した直後の光を直接測定することが困難であるため、上記に記載のように反応器内に入射する直前の電磁波を検出すればよい。実際に反応器内に入射する有効光強度は、反応器直前で測定した光強度と比較し、反応器材質や厚みによる減衰が考えられるが、PYREX(登録商標)ガラスのような透過性の高い材質を用いた場合、その影響は無視できるため光強度の基準の一つとすればよい。 また水銀灯の場合は複数のメイン波長(例えば313、365、405、435nm)が存在することがあり、光照度の測定範囲(例えば200nm~440nm)における合計照度を水銀灯の照度とすることができる。
【0023】
本発明の光ラジカル臭素化反応は、溶媒及び臭化水素、あるいは溶媒なしで臭化水素を連続的に供給しながら行う連続あるいは半連続的な反応が可能である。例えば、反応器に、必要に応じて任意の溶媒を仕込み、反応器にLED等から放射される電磁波を反応器に対し照射しながら、スチレンと任意溶媒を混合した溶液と臭化水素ガスを2点同時に供給しながら反応を行えばよい。
【0024】
本発明のβ-ブロモエチルベンゼンの製造方法を連続的に反応させる場合は、LEDを反応器へ挿入し、電磁波照射して行うことができる。また、連続反応を行う場合、フローリアクターやマイクロリアクターを用いることもできる。本発明記載のフローリアクターやマイクロリアクターは、気相と液相の界面において、化学反応を起こし、反応生成物を製造する製造容器を示す。例えば、化学反応を進行させる反応流路と試料を供給するための導入口と反応流路から反応した生成物を排出するための排出口とが形成されたモジュール(基盤)やコイルチューブに対し、LEDを反応装置の外部に設置し、電磁波照射して行うことができる。このとき、各リアクターは、石英ガラスやPYREX(登録商標)ガラスのような、320nm~450nmのピーク波長を有する電磁波を吸収しない材質を用いるのが好ましい。
【0025】
電磁波を放射する際に、酸素、アゾ化合物、過酸化物などのラジカル源を補助的に併用してもよい。本発明において、電磁波以外のラジカル源を併用する場合には、酸素、紫外線以外のラジカル源としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、過酸化水素などのパーオキサイド系化合物、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルメタン)、4,4’-ジアゼンジイルビス(4-シアノペンタン酸)・α-ヒドロ-ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)重縮合物などのアゾ化合物等が挙げられる。
これらラジカル源の量としては、酸素の場合は、酸素と臭化水素の混合ガス中の酸素量が0.2体積%~10.0体積%であり、その他のラジカル源に関しては、スチレン100重量部に対し、0.01重量部~10重量部である。
【0026】
本発明の光ラジカル臭素化反応は、スチレンと臭化水素が導入された反応器内に電磁波を照射する、高純度β-ブロモエチルベンゼンの製造方法に係る。反応させるにあたり、必要に応じて任意の溶媒を用いることができるが、溶媒を用いずに反応させることもできる。
【0027】
溶媒を用いない場合、反応系に十分なラジカル源を供給することが重要となる。ラジカル源となる光強度に関し、前記したような光照度Eと液深Lの比であるE/Lを1.0mW/(cm・mm)以上、特に5.0mW/(cm・mm)以上となるようにすればよい。
臭化水素は、反応条件によってはスチレンに対する溶解度が十分ではない場合があるため、スチレンに対する臭化水素(ガス)の量は、溶解度および選択性の観点から1.0当量~1.5当量がとすることが好ましい。また、本系においてガスの溶解度を増加させることは、反応転化率ならびに選択率向上につながるため、反応系に圧力をかけたり、気液の接触面積を増加させればよい。
【0028】
圧力は、スチレンの重質化抑制の観点から、常圧(0.1MPa)~1.5MPaが好ましく、設備上の制約が少ないことから、さらに好ましくは常圧(0.1MPa)~0.5MPaである。気液の接触面積を増加させるには、完全混合系とするために撹拌翼による十分な撹拌を実施したり、臭化水素をマイクロバブル化させたり、反応温度を低下させたりすればよい。反応温度を下げると、臭化水素の溶解度は増加するが、転化率および選択率は低下するため、0℃から90℃が好ましく、高温でのスチレンの重質化及びβ-ブロモエチルベンゼンの選択率の観点から20℃から70℃がさらに好ましく、特に好ましくは25℃から65℃である。
【0029】
反応溶媒を用いる場合、反応溶媒は次のi)~iii)の条件を満たせば特に制限はなく、必要に応じて溶媒の組成を変化させて良い。
i)スチレン、臭化水素及び主生成物のβ-ブロモエチルベンゼンが溶解できる溶媒であること
ii)スチレン、臭化水素及び主生成物のβ-ブロモエチルベンゼンが反応溶媒とは反応しないこと、かつ
iii)反応溶媒が光源の波長光を吸収しないこと。
反応溶媒を具体的に例示すれば、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、メチルシクロヘキサン等の直鎖状脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素類、あるいはその混合物を挙げることができる。
【0030】
また、反応を阻害しない範囲ではあるが、反応系中への臭化水素の溶解量を促進する目的で、上記に例示した主溶媒に追加で有機溶媒を添加しても良い。これらを追加溶媒と定義した場合、追加溶媒としては例えば、酢酸やプロピオン酸のような脂肪酸類、アセトニトリル、プロピオニトリルのような脂肪族ニトリル類、ニトロメタンのような脂肪族ニトロ化合物類が挙げられる。副生成物抑制の観点および精製効率の観点から、その添加量は主溶媒に対し、30体積%未満となることが望ましく、さらに望ましくは10体積%以下である。
【0031】
本発明の光ラジカル臭素化反応において有機溶媒を用いる場合、スチレンと有機溶媒の混合溶液を用いるが、スチレンと有機溶媒の混合溶液中のスチレン含量が50重量%以上100重量%未満となる混合溶液と臭化水素が導入された反応器内に電磁波を照射するとよい。
【0032】
これらの溶媒について、反応に用いられる光源より放射される光の波長領域である320nm~450nmに溶媒自体の吸収がある場合、十分なラジカル源が確保できず、反応効率が低下してしまうことがある。このため、光吸収の観点から、ヘプタン、オクタンなどの直鎖状脂肪族炭化水素系または四塩化炭素、1-ブロモプロパン等の脂肪族ハロゲン化合物類が好ましく、環境面からヘプタン、オクタンなどの直鎖状脂肪族炭化水素系がなお好ましい。
反応溶媒の使用量は、スチレン100重量部に対し、通常、150重量部~5,000重量部とすることが好ましい。さらに、生成するβ-ブロモエチルベンゼンが、反応に用いられる光源より放射される光の波長領域である320nm~450nmに吸収を持つ。このため、反応効率面から、スチレン100重量部に対し、200重量部~300重量部とすることが好ましい。
【0033】
本発明のβ-ブロモエチルベンゼンの製造方法に用いられる臭化水素は、臭化水素ガスの状態で反応系内に直接吹き込んでも良いし、事前に反応溶媒に混和させた臭化水素ガス/有機溶媒混合溶液や市販の臭化水素有機溶媒溶液を反応系内にフィードしても良い。
スチレンに対する臭化水素(ガス)の量は、0.5当量~3.0当量が好ましいが、選択性の観点から1.0当量~1.5当量が特に好ましい。
【0034】
反応温度は0℃から90℃が好ましく、高温でのスチレンの重質化及びβ-ブロモエチルベンゼンの選択率の観点から20℃から70℃が好ましく、さらに好ましくは25℃から50℃である。
その他反応条件に関しては反応の選択率の観点から、反応に用いられる光源より放射される光の強度はスチレンの流量1ml/minに対して5mW/cm以上、水分は300ppm未満、鉄分は1ppm未満であることが好ましい。
【0035】
本発明においては、β-ブロモエチルベンゼンを製造する際に、スチレンへの臭化水素のラジカル付加反応を行なうために、ラジカル源としてピーク波長320nm~波長450nmの電磁波が用いられる。発生あるいは放射される電磁波の種類あるいは波長にもよるが、例えば320nm未満や450nmを超える波長を有するような、広波長域の電磁波を放射する従来の高圧水銀ランプあるいは無水銀ランプを用いる場合には、ピーク波長が320nm以上450nm以下の波長光となるように、フィルターあるいはこれと同等の機能を有する装置により、所望の波長範囲を超える波長の光を除去して用いることができる。
すなわち、従来の高圧水銀ランプや無水銀ランプの放射光に含まれている、ピーク波長が450nmを超える波長の光を除去することにより、α-ブロモエチルベンゼンの副生を抑制することができる。また、ピーク波長が320nm未満の短波長光を除去することにより、ブロモジフェニルブタンの副生と着色を抑制することができる。
【0036】
スチレンへの臭化水素のラジカル付加反応において、ラジカル源に従来の高圧水銀ランプを用いた場合に、目的物であるβ-ブロモエチルベンゼンに混在する不純物の除去あるいはβ-ブロモエチルベンゼンにおいて、カラムクロマトグラフィーによる分離操作や蒸留操作など、通常の精製操作が適用困難である場合がある。例えば、副生するα-ブロモエチルベンゼンはβ-ブロモエチルベンゼンとの沸点差がないため、蒸留による分離が困難であり、医薬の合成中間体のような高純度が求められる分野では困難となることがある(上記した特許文献1~3を参照のこと)。
スチレンへの臭化水素のラジカル付加反応により得られるβ-ブロモエチルベンゼンの着色に関しても、カラムクロマトグラフィーや活性炭への吸着などの一般的に行われる脱色精製操作を行なうと、反応粗生成物の洗浄、各種精製操作、濃縮操作など工程が煩雑になる。さらにこのような工程では大量の溶媒やエネルギーを必要とするため、実用面では改善が求められる課題となっており、本発明の製造方法によりβ-ブロモエチルベンゼンの着色を抑制することは意義がある。
【実施例
【0037】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0038】
A.以下に記載の実施例1~9、比較例1~2における生成物の評価は、以下の装置及び手法で実施した。
【0039】
<ガスクロマトグラフィー(GC)測定>
生成物の定量には、GC-2014 (株式会社島津製作所製)を用い、以下の条件で行った。
カラム NB-5(30m × 0.32mm、df = 0.40μm)
カラム温度 100℃ → 250℃ 昇温速度 5℃/min
INJ 220℃ DET 250℃
注入量 反応液0.2μl
注入量 100μl
【0040】
GCによる分析では、生成物をGCにより分離分析し、得られたピークデータを、目的物の(f)β-ブロモエチルベンゼンおよび、以下、不純物となる(a)α-ブロモエチルベンゼン、(b)スチレン、(c)フェニルエタノール、(d)ジブロモエチルベンゼン、(e)ブロモジフェニルブタンの各々に帰属させた上でそれらのピーク面積を求める。求められたピーク面積の総和を100とし、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)のピーク面積比を求める。溶媒由来のピーク(ヘプタンなど)に関しては、ピークを除外(ピークカット)し、(a)~(f)の面積比計算には含めない。
なお、(e)ブロモジフェニルブタンは、後述するガスクロマトグラフィー質量分析にて分子量289.2に帰属される化合物であり、2-ブロモ-1,4-ジフェニルブタンまたは1-ブロモ-1,4-ジフェニルブタンと推定される。
【0041】
<ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定>
重合物の有無の確認は、HLC-8320GPC(東ソー株式会社製)を用いて、以下の条件で行った。
カラム TSK guard columm TSK gel G4000Hxl/TSKgel G3000Hxl/TSKgel G2500/TSKgel G2000Hxl/HX-L
溶離液 THF(安定剤含有)
カラム温度 40℃
流量 1.0ml/min
サンプル濃度 1.0wt% (溶離液にて希釈)
【0042】
<ガスクロマトグラフィー質量分析測定>
生成物に含まれる物質の質量測定並びに構造予想に、GCMS-QP2010(株式会社島津製作所製)を用いて、以下の条件で行った。
カラム NB-5 (30m × 0.32mm、df = 0.40μm)
カラム温度 100℃ ⇒ 250℃ 昇温速度 8℃/min
INJ 220℃ DET 250℃
注入量 反応液 0.2μl
【0043】
<APHA値の測定>
生成物のAPHA値は色差計(日本電色工業株式会社製、OME2000)を用いて以下の手法で測定した。
装置の電源を入れ、10分間暖機させたのち、角セル(10mm×20mm×55mm)に純水を入れて標準校正を行った。その後、生成物を角セルに入れて、APHA値を測定した。
【0044】
<反応光源>
光源として、水銀灯とLEDの2種を使用した。水銀灯は高圧水銀ランプ1(セン特殊光源(株)社製、HB100CH-4)を水銀灯保護用水冷ジャケット(PYREX(登録商標)ガラス製)に挿入して使用した。
LED光源装置として、スポット照射器(ケイエルブイ株式会社製、ALE/1.1)を使用した。用いたピーク波長365nm、385nm、435nmの光は、ピーク強度の50%の波長幅となる半値幅は+/-5nm程度であった。
【0045】
<光源装置>
光源として、水銀灯(高圧水銀ランプ セン特殊光源株式会社製 HB100CH-4)を使用した。暗箱(5cm×5cmの窓付き)の中に、水銀灯保護用水冷ジャケットを取り付け、窓中央からおよそ1cmに水銀灯中央が位置するよう設置した。窓に特定波長光のみを選択的に透過することができるバンドパスフィルターを装着し、波長313nmの光源、波長365nmの光源とした。
(朝日分光社製 5cm×5cm)
【0046】
<照度計>
照度計として、UVPad(Opsytec社製)を使用した。
光源から水平方向に光検出部を設置し、照度を測定した。
【0047】
<反応器>
反応器は、水銀灯保護用水冷ジャケットと、中央部にジャケット装着口、その外側に小型の4つ口を有する5つ口円筒型反応器(PYREX(登録商標)ガラス製)の2つを使用し、溶液は光源を覆うように反応器中で撹拌された。
スポット照射器は外付けの冷却が必要無い点光源であり、反応器は500mlの4つ口フラスコ(PYREX(登録商標)ガラス製)を使用し、外部から反応器に光を照射した。
【0048】
<使用試薬>
実施例に記載の化合物は下記を使用したが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
スチレン 富士フイルム和光純薬株式会社製 特級
ヘプタン 富士フイルム和光純薬株式会社製 特級
臭化水素ガス 東ソー・ファインケム株式会社製
【0049】
実施例1
(波長365nmのLEDを光源としたブロモエチルベンゼンの製造法、精製したブロモエチルベンゼンの評価)
<光臭素化反応>
冷却管、温度挿入管、PTFE製チューブアダプターを2つ取り付けた500ml4つ口フラスコに、窒素雰囲気下でヘプタン30.0gを仕込んだ。臭化水素ガスと別途調整した原料混合溶液(スチレン60.0g ヘプタン126.0g混合溶液)を供給するチューブ(PTFE製、内径3.17mm)をアダプターにそれぞれ取り付けた。臭化水素ガスを供給するチューブは、先端が反応液中に浸漬するように設置し、原料溶液を供給するチューブは反応器内に滴下するように設置した。
反応器側面に当たる光強度が300mW/cm(スチレンのみのフィード流量1ml/minに対して543.6mW/cm)になる位置にスポット照射器を設置し、光照射を開始した。また、光照射開始と同時に、臭化水素ガスと原料溶液の供給を開始した。それぞれの流量は、臭化水素ガス140.0ml/min、原料溶液2.1ml/minであった。
フィード開始から2時間後に臭化水素ガスと原料溶液の供給を停止し、30分間光照射を継続し、残存したスチレンを反応させた。その後、反応溶液に窒素を流量500ml/minで1時間吹き込むことで、バブリング操作を行い、反応溶液中の臭化水素ガスを取り除いた。
バブリング操作後の反応溶液に水60mlを添加し、分液した後、有機層を加熱濃縮し、ヘプタンを留去した。(80℃、2kPa、1時間)
留去後の試料を以下の分析に用いた。
【0050】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量(ピーク面積比)は、(a)α-ブロモエチルベンゼンが0.076%、(b)スチレンが検出せず(本明細書においては、0.001%を検出限界とし、0.001%未満をn.d.とする。以下も同じ。)、(c)フェニルエタノールが0.030%、(d)ジブロモエチルベンゼンが0.026%、(e)ブロモジフェニルブタンが0.017%、(f)β-ブロモエチルベンゼンが99.851%であった。以下、(a)~(f)の記号は同じ生成物を意味する。また色差計でのAPHA値は43であった。これらの結果を、表1に各実施例及び比較例の反応成績として示す。GPC測定においても重質物の生成は確認されなかった。
上記の結果より、後述する比較例1の結果と比べて(a)~(e)の不純物(すなわち、副生成物)量、特に(e)ブロモジフェニルブタンの量が少ないこと、(f)β-ブロモエチルベンゼンが99.851%となり、高選択的にβ―ブロモエチルベンゼンを得られること、さらにAPHA値は43であることから得られた生成物に着色がないことが明らかとなった。
【0051】
実施例2
(波長385nmのLEDを光源としたブロモエチルベンゼンの製造法、精製したブロモエチルベンゼンの評価)
<光臭素化反応>
実施例1の光臭素化反応を、LEDの波長を385nmにして、同様の手法で行った。
【0052】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量は、(a)0.0248%、(b)n.d.(c)0.021%、(d)0.067%、(e)0.067%、(f)β-ブロモエチルベンゼンが99.597%であった。また、色差計でのAPHA値は43であった。GPC測定においても、重質物の生成は確認されなかった。
上記の結果より、後述する比較例1の結果と比べて(a)~(e)の不純物(すなわち、副生成物)量、特に(e)ブロモジフェニルブタンの量が少ないこと、APHA値は43であることから得られた生成物に着色がないことが明らかとなった。
【0053】
実施例3
(波長435nmのLEDを光源としたブロモエチルベンゼンの製造法、精製したブロモエチルベンゼンの評価)
<光臭素化反応>
実施例1の光臭素化反応を、LEDの波長を435nmにして、同様の手法で行った。
【0054】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量は、(a)1.278%、(b)n.d.(c)0.016%、(d)0.021%、(e)0.010%、(f)β-ブロモエチルベンゼンが98.675%であった。また、色差計でのAPHA値は48だった。GPC測定においても、重質物の生成は確認されなかった。
上記の結果より、後述する比較例1の結果と比べて(a)~(e)の不純物(すなわち、副生成物)量、特に(e)ブロモジフェニルブタンの量が少ないこと、APHA値は48であることから得られた生成物に着色がないことが明らかとなった。
【0055】
実施例4
(水銀灯中の波長365nmの光を光源としたブロモエチルベンゼンの製造法、精製したブロモエチルベンゼンの評価)
<光臭素化反応>
冷却管、温度挿入管、PTFE製チューブアダプターを2つ取り付けた500mlの4つ口フラスコに、窒素雰囲気下でヘプタン25.0gを仕込んだ。臭化水素ガスと別途調整した原料混合溶液(スチレン50.0g ヘプタン105.0g)を供給するチューブ(PTFE製、内径3.17mm)をアダプターにそれぞれ取り付けた。臭化水素ガスを供給するチューブは反応液中に浸けた状態でフィードし、原料混合溶液を供給するチューブは反応器内に滴下するように設置した。
反応器側面に当たる光強度が2mW/cm(スチレンのみのフィード流量1ml/minに対して10.9mW/cm)となる位置に光源装置(365nmバンドパスフィルター装着)を設置し、光照射を開始した。
その後、臭化水素ガスを47ml/min、原料混合溶液を0.7ml/minの流量で供給を開始した。フィード開始から5時間後に供給を停止し、30分間光照射を継続し、残存したスチレンを反応させた。照射停止後、反応溶液に窒素を流量100ml/minで1時間吹き込むことでバブリングを行い、反応溶液中の臭化水素ガスを取り除いた。バブリング操作後の反応溶液に純水60mlを添加し、分液した後、有機層を加熱濃縮し、ヘプタンを留去した。(80℃、2kPa、1時間)
留去後の試料を以下の分析に用いた。
【0056】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量は、a)1.850%、(b)n.d.(c)0.004%、(d)0.034%、(e)0.032%、(f)β-ブロモエチルベンゼンが98.080%であった。また、色差計でのAPHA値は44であった。GPC測定においても、重質物の生成は確認されなかった。
上記の結果より、同光強度で波長が異なる比較例2(後述)の結果と比べて、特に(e)ブロモジフェニルブタンの量が少ないこと、APHA値は44であることから得られた生成物に着色がないことが明らかとなった。
【0057】
実施例5
(水銀灯中の波長365nmの光を光源、臭化水素ガス供給量をスチレンに対し1.5当量としたブロモエチルベンゼンの製造法、精製したブロモエチルベンゼンの評価)
<光臭素化反応>
実施例4の臭化水素ガスの流量を59.0ml/minにして、同様の手法で行った。
【0058】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量は、a)1.274%、(b)n.d.(c)0.049%、(d)0.020%、(e)0.007%、(f)β-ブロモエチルベンゼンが98.650%であった。また、色差計でのAPHA値は50であった。GPC測定においても、重質物の生成は確認されなかった。
上記の結果より、比較例2(後述)の結果と比べて、特に(e)ブロモジフェニルブタンの量が少ないこと、APHA値は50であることから得られた生成物に着色がないことが明らかとなった。
また、スチレンに対し、過剰量(1.5当量)の臭化水素ガスを用いても、副生成物の生成を抑制することが可能であることが明らかであり、これは光源の波長領域を制限した効果によるものと考えられる。
【0059】
実施例6
実施例1において、ヘプタンをヘキサンに変更する以外は同様の手法によって、光臭素化反応を行った。
【0060】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量は、(a)0.080%、(b)0.007%、(c)0.041%、(d)0.005%、(e)0.023%、(f)β-ブロモエチルベンゼン99.844%であった。また、色差計でのAPHA値は64であった。加えて、GPC測定を行ったが、重質物の生成は確認されなかった。
【0061】
実施例7
実施例1において、ヘプタンをトルエンに変更する以外は同様の手法によって、光臭素化反応を行った。
【0062】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量は、(a)0.160%、(b)0.008%、(c)0.040%、(d)0.005%、(e)0.056%、(f)β-ブロモエチルベンゼン99.731%であった。また、色差計でのAPHA値は85であった。加えて、GPC測定を行ったが、重質物の生成は確認されなかった。
【0063】
実施例8
実施例1において、ヘプタンを四塩化炭素に変更する以外は同様の手法によって、光臭素化反応を行った。
【0064】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量は、(a)0.181%、(b)0.091%、(c)0.023%、(d)0.093%、(e)0.088%、(f)β-ブロモエチルベンゼン99.524%であった。また、色差計でのAPHA値は60であった。加えて、GPC測定を行ったが、重質物の生成は確認されなかった。
【0065】
実施例9
実施例1において、ヘプタンをクロロベンゼンに変更する以外は同様の手法によって、光臭素化反応を行った。
【0066】
<分析結果>
GC測定の結果、(a)1.315%、(b)0.044%、(c)0.067%、(d)0.090%、(e)0.089%、(f)β-ブロモエチルベンゼン98.405%であった。また、色差計でのAPHA値は86であった。加えて、GPC測定を行ったが、重質物の生成は確認されなかった。
【0067】
比較例1
(水銀灯を光源としたブロモエチルベンゼンの製造法、精製したブロモエチルベンゼンの評価)
<光臭素化反応>
水銀灯保護用水冷ジャケット、還流冷却管、温度計挿入管、PTFEチューブアダプター2つを取り付けた5つ口円筒型反応に、窒素雰囲気下でヘプタン60.0gを仕込んだ。臭化水素ガスと別途調整した原料混合溶液(スチレン120.0g ヘプタン256.4g混合溶液)を供給するチューブ(PTFE製、内径3.17mm)をアダプターにそれぞれ取り付けた。臭化水素ガスを供給するチューブは、先端が反応液中に浸漬するように設置し、原料溶液を供給するチューブは反応器内に滴下するように設置した。
水銀灯をジャケットに挿入し、光照射を開始した。このとき、ジャケット外側から測定した光強度は90mW/cm(スチレンのみのフィード流量1ml/minに対して81.5mW/cm)であった。
光照射開始と同時に、臭化水素ガスと原料溶液の供給を開始した。それぞれの流量は、臭化水素ガス279.6ml/min、原料溶液4.3ml/minであった。フィード開始から2時間後、臭化水素ガスと原料溶液の供給を停止し、30分間水銀灯照射を継続し、残存したスチレンを反応させた。その後、反応溶液に窒素を流量500ml/minで1時間吹き込むことで、バブリング操作を行い、反応溶液中の臭化水素ガスを取り除いた。バブリング操作後の反応溶液に水60mlを添加し、分液した後、有機層を加熱濃縮し、ヘプタンを留去した。(80℃、2kPa、1時間)
留去後の試料を以下の分析に用いた。
【0068】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量は、(a)0.054%、(b)n.d.(c)0.034%、(d)0.054%、(e)0.187%、(f)β-ブロモエチルベンゼンが99.596%であった。また、色差計でのAPHA値は347であった。GPC測定においても、重質物の生成は確認されなかった。
上記の結果より、光源が異なる実施例1の結果と比べて(a)~(e)の副生成物に関し、不純物(すなわち、副生成物)量、特に(e)ブロモジフェニルブタンの量が多いこと、APHA値は347であることから得られた生成物に着色が顕著に見られることが明らかとなった。
水銀灯の光源スペクトル中に含まれる、主に313nm付近の低波長領域の光が、各化合物の励起状態を変化させ、副反応や着色を引き起こしたと考えられる。
【0069】
比較例2
(水銀灯中の波長313nmの光を光源としたブロモエチルベンゼンの製造法、精製したブロモエチルベンゼンの評価)
<光臭素化反応>
実施例4の光臭素化を、光源装置(313nmバンドパスフィルター装着)を用い、反応器側面に当たる光強度を同様に2mW/cm(スチレンのみのフィード流量1ml/minに対して10.9mW/cm)になる位置に光源装置を設置し、同様の手法で行った。
【0070】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量は、a)0.944%、(b)n.d.(c)0.004%、(d)0.034%、(e)0.106%、(f)β-ブロモエチルベンゼンが98.892%であった。APHA値は、131であった。加えて、GPC測定を行ったが、重質物の生成は確認されなかった。
上記の結果より、同光強度で波長が異なる実施例4の結果と比べて、特に(e)ブロモジフェニルブタンの量が多いこと、APHA値は131であることから得られた生成物に着色が顕著に見られることが明らかとなった。
本結果は、同光強度においても低波長の光と用いることで、反応系内での各化合物の励起状態が変化し、副反応や着色を引き起こしたことに起因すると考えられる。
【0071】
<波長依存性に関する比較>
実施例1~9と比較例1~2の結果を表1に、(e)ジブロモジフェニルブタンの収率とAPHA値を図3に纏めた。表1及び図3より、実施例1~9から得られたβ―ブロモエチルベンゼンは、(a)~(e)の副生成物に対し、高純度かつ着色がないことは明らかである。
LEDを用いることで波長の領域を限定した実施例1~3と、広範囲に波長領域をもつ水銀灯を使用した比較例1を比べると、比較例1の場合、光臭素化反応によって得られるβ―ブロモエチルベンゼンは、ブロモジフェニルブタンの副生量が多くなり、かつ、着色が激しくなることが明白であった。
また実施例4と比較例2から、水銀灯に含まれる波長313nmの光が、ジブロモフェニルブタンの副生量の増加、着色を引き起こす可能性が高いことは明らかである。
【0072】
【表1】
(a;α―ブロモエチルベンゼン、b;スチレン、c;フェニルエタノール、d;ジブロモエチルベンゼン、e;ブロモジフェニルブタン、f;β―ブロモエチルベンゼン、n.d.:検出せず)
なお、表1中、「n.d.」は0.001面積%を検出限界として示した。
【0073】
B.以下に記載の実施例10~17、比較例3~4における生成物の評価は、以下の装置及び手法で実施した。
なお、ガスクロマトグラフィー(GC)測定、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定、APHA値の測定、及び使用試薬は、前記したA.実施例1~9、比較例1~2と同じである。
【0074】
<光照度>
照度計として、UVPad(Opsytec社製)を使用した。光源から水平方向に光検出部を設置し、照度(mW/cm)を測定した。図6および図7に面照射LEDと水銀灯の相対照度を示すが、これは、反応器材質と同様のPYREX(登録商標)ガラスを介した測定結果であり、300nm以下の波長はPYREX(登録商標)ガラスに吸収されているため、検出されていない。
水銀灯に関しては、複数のメイン波長(313、365、405、435nm)が存在するが、測定範囲(200nm~440nm)における合計照度を水銀灯の照度として採用した。
反応条件における光の強度の基準として、液深(光源から水平方向の反応器直径)に対する光の強度を下記式で規定した。
(液深に対する光強度:mW/(cm・mm)= E/L
E:照度(mW/cm
L:光源から水平方向の反応器直径(mm)
【0075】
<反応装置>
反応装置は、反応光源、反応器、送液装置、送ガス装置を組み合わせて使用し、それぞれ以下の条件にて使用した。
【0076】
<反応光源>
光源として、水銀灯1種とLED2種を使用した。
〔水銀灯〕
水銀灯は、以下の組み合わせの光源を反応装置内に挿入し検討を実施した。
ランプモデル HB100CH-4(セン特殊光源(株)社製、高圧水銀灯)
保護管 水銀灯保護用水冷ジャケット(PYREX(登録商標)ガラス製)
〔面照射LED〕
メイン波長365nmのLEDに関しては、以下の組み合わせの面照射タイプの光源を使用し、反応装置外部(側面)から照射し検討を実施した。
ランプモデル HLDL-200U6-1UCLKPSC(シーシーエス株式会社製)
ピーク波長 365nm(ピーク強度の50%の波長幅となる半値幅は+/-5nm程度)
放射面サイズ 200mm×200mm正方面
冷却方式 強制FAN空冷
電源 PSCC-60048(A)(シーシーエス株式会社製)
〔スポット照射LED〕
365nm以外の波長のLED光源装置として、LEDスポット照射器(ケイエルブイ株式会社製、ALE/1.1)を使用した。用いたピーク波長は、385nm、435nmであり、ピーク強度の50%の波長幅となる半値幅は+/-5nm程度であり、波長の裾野の幅とすると45nn(この場合は345nm~390nm)程度であった。
【0077】
<反応器>
光源の形状および反応条件に合わせて4種の反応器を用いた。
〔水銀灯を用いる場合(バッチ反応)〕
5つ口共通摺合接続部(中央部ジャケット装着口×1、対角線上にその他取り付け口×4)を有した800ml円筒型反応器(PYREX(登録商標)ガラス製)に対し、中央部には光源ユニット〔水冷ジャケット付き保護管に高圧水銀灯を挿入したもの〕を挿入し、残る四つ口には、温度計挿入管、ガス導入管、原料導入管、ジムロート冷却管を取り付けた。
〔水銀灯を用いる場合(連続反応)〕
反応器側面に抜出口と、5つ口共通摺合接続部(中央部ジャケット装着口×1、対角線上にその他取り付け口×4)を有した200ml円筒型反応器(PYREX(登録商標)ガラス製)を用いて反応を実施した。反応器側面の抜出口は、共通摺合接続部を有したガラス管であり(反応器側面に対し、下向き75°の角度となるように設置)、反応液の容積が154mlを超えるとオーバーフローが発生する位置に取り付けた。中央部には光源ユニット〔水冷ジャケット付き保護管に高圧水銀灯を挿入したもの〕を挿入し、残る四つ口には、温度計挿入管、ガス導入管、原料導入管、ジムロート冷却管を取り付けた。
また、連続的に供給した原料および反応液がオーバーフローした混合溶液の受器として、反応器側面の抜出口に接続した200ml四つ口フラスコを設置した。
〔LEDを用いる場合(バッチ反応)〕
四つ口共通摺合接続部を有した500mlフラスコ(PYREX(登録商標)ガラス製)に、温度計挿入管、ガス導入管、原料導入管、ジムロート冷却管を取り付け、LED光源は反応器側面から水平方向に照射されるように設置した。
〔LEDを用いる場合(連続反応)〕
反応器側面に抜出口を有した1000ml円筒型セパラブルフラスコ(PYREX(登録商標)ガラス製)を用いて反応を実施した。反応器側面の抜出口は、共通摺合接続部を有したガラス管であり(反応器側面に対し、下向き75°の角度となるように設置)、反応液の容積が600mlを超えるとオーバーフローが発生する位置に取り付けた。また、セパラブルフラスコ外周部には熱媒が通液可能なジャケット(PYREX(登録商標)ガラス製)をフラスコと一体型となるように設置した。
セパラブルカバー(反応器上部)は、5つ口共通摺合接続部を有したものを使用し、温度計挿入管、ガス導入管、原料導入管、ジムロート冷却管、活栓を取り付けた。セパラブルフラスコとカバーはセパラブルフラスコ用のクランプで固定し、LED光源は反応器側面から水平方向に照射されるように設置した。また、連続的に供給した原料および反応液がオーバーフローした混合溶液の受器として、反応器側面の抜出口に接続した2000ml四つ口フラスコを設置した。
【0078】
<送液装置>
液体原料に関しては、定量ポンプ(FEM1.02FT.18S、ケーエヌエフ社製)を用いた。耐腐食性の観点から、ポンプヘッド及び送液チューブはPTFE製とした。
【0079】
<送ガス装置>
ガス原料に関しては、3Lガスボンベに腐食性ガス用減圧弁 ML-1VR-3X7G-P2N1 (日酸TANAKA(株)製)とデジタルマスフローコントローラ SEC-Z500X(堀場製作所製)、送ガス末端にはPTFE製チューブ取り付けて使用した。
【0080】
実施例10
(滞留時間100分、スチレン濃度100%条件でのブロモエチルベンゼンの連続製造法)
<反応>
反応器側面に抜出口を有した1000ml円筒型セパラブルフラスコ(PYREX(登録商標)ガラス製)に、ジムロート冷却管、温度計挿入管、PTFE製チューブアダプターを2つ取り付けたセパラブルカバーを取り付けてクランプで固定し、反応器側面の抜出口には、オーバーフローした混合溶液の受器として、反応器側面の抜出口に接続した2000ml四つ口フラスコ(以下、「オーバーフロー槽」ともいう。)を設置した。この反応容器に、窒素雰囲気下、スチレン(815.4g/7829.1mmol)と臭化水素ガス(760.2g/9394.9mmol、スチレンに対し1.2倍モル量)を供給するチューブ(PTFE製、内径3.17mm)をアダプターにそれぞれ取り付けた。臭化水素ガスを供給するチューブは、先端が反応液中に浸漬するように設置し、原料溶液を供給するチューブは反応器内に滴下するように設置した。このとき、反応の液深となる反応器直径(光が当たる側面とその反対側面までの水平距離)は、80mmであった。
光源側の水平方向反応器側面に当たる光強度が111mW/cm(液深に対する光強度は、1.39mW/(cm・mm))になる位置にLED面照射器を設置し、光照射を開始した。また、光照射開始と同時に、臭化水素ガスと原料溶液の供給を開始した。それぞれの流量は、臭化水素ガス1532ml/min、スチレン6ml/minであった。
フィード開始から100分後にオーバーフローが始まり、フィード開始から合計で150分間後に、原料のフィードを終了した。オーバーフローしてきた反応液を10分毎に6mlバイアル管に1mlサンプリングし、各反応液は水1mlで分液水洗したのち、有機層を分析した。
【0081】
<分析結果>
オーバーフロー後の反応液組成の経時変化は図5のようになった。図5の結果より、反応を終了した140分後には反応組成が安定していることが分かる。また、反応終了時(150分後)のサンプリング品をGC測定した結果、各生成物の生成量(ピーク面積比)は、(a)α-ブロモエチルベンゼンが0.190%、(b)スチレンがn.d.(本明細書においては、0.001%を検出限界とし、0.001%未満をn.d.とする。以下も同じ。)、(c)フェニルエタノールがn.d.、(d)ジブロモエチルベンゼンがn.d.、(e)ブロモジフェニルブタンがn.d.、(f)β-ブロモエチルベンゼンが99.810%であった。以下、(a)~(f)の記号は同じ生成物を意味する。色差計でのAPHA値は62であった。これらの結果を、表2及び表3に各実施例及び比較例の反応成績として示す。GPC測定においても重質物の生成は確認されなかった。
【0082】
なお、表2に記載の滞留時間は、オーバーフローが始まる時間を意味する。オーバーフローの容量は、反応器側面の抜出口に液面が達したときの容量である。滞留時間の算出は次の式による。
滞留時間(min)=(オーバーフロー容量(ml))÷(原料溶液のフィード速度(ml/min))
その他の実施例、比較例においても同様に算出した。
【0083】
上記の結果より、後述する比較例3の結果と比べて(a)~(e)の不純物(すなわち、副生成物)量が少ない、高純度な(f)β-ブロモエチルベンゼンが得られること、かつAPHA値は62であることから得られた生成物に着色がないことが明らかとなった。本手法では、LEDの光強度(液浸に対する光強度)を一定以上とすることで、先行技術で使用するような反応溶媒を用いずとも連続的に高品質なブロモエチルベンゼンを得ることができることが明らかである。
【0084】
実施例11
(滞留時間160分、スチレン濃度100%条件でのブロモエチルベンゼンの連続製造法)
<反応>
オーバーフローが始まる時間が160分となる(フィード流量:臭化水素ガス958ml/min、スチレン3.8ml/min)ようにすること以外は、実施例1と同様の方法で反応を実施し、フィード開始から合計で220分間後に、原料のフィードを終了した。オーバーフローしてきた反応液を10分毎に6mlバイアル管に1mlサンプリングし、各反応液は水1mlで分液水洗したのち、有機層を分析した。実施例10と同様の手法であるため、液深に対する光強度は、1.39mW/(cm・mm)であった。
【0085】
<分析結果>
オーバーフロー後の反応液組成の経時変化を追跡した結果、反応を開始した180分後には反応組成が安定していることが分かった。反応終了時(220分後)のサンプリング品をGC測定した結果、各生成物の生成量(ピーク面積比)は、(a)α-ブロモエチルベンゼンが0.771%、(b)スチレンが0.081%、(c)フェニルエタノールがn.d.、(d)ジブロモエチルベンゼンがn.d.、(e)ブロモジフェニルブタンがn.d.、(f)β-ブロモエチルベンゼンが99.148%であった。以下、(a)~(f)の記号は同じ生成物を意味する。また色差計でのAPHA値は55であった。これらの結果を、表2及び表3に各実施例及び比較例の反応成績として示す。GPC測定においても重質物の生成は確認されなかった。
【0086】
実施例10および実施例11の結果より、滞留時間(オーバーフローまでに要する時間)が長くなり、長時間の紫外線(365nm)に晒されても副反応や品質劣化は起こらないことが分かる。すなわち、長時間紫外線に露光しても品質に影響はなく、プロセス上の範囲幅を広く設定しても高品質なブロモエチルベンゼンが得られることが分かる。
【0087】
実施例12
(滞留時間130分、スチレン濃度80重量%条件でのブロモエチルベンゼンの連続製造法)
<反応>
反応器側面に抜出口を有した1000ml円筒型セパラブルフラスコ(PYREX(登録商標)ガラス製)に、ジムロート冷却管、温度計挿入管、PTFE製チューブアダプターを2つ取り付けたセパラブルカバーを取り付けてクランプで固定し、反応器側面の抜出口には、オーバーフローした混合溶液の受器として、反応器側面の抜出口に接続した2000ml四つ口フラスコ(以下、オーバーフロー槽ともいう)を設置した。この反応容器に、窒素雰囲気下、原料混合溶液〔スチレンとヘプタンの混合溶液のうち、スチレン濃度が80重量%とした溶液〕と臭化水素ガス(スチレンに対し1.2倍モル量)を供給するチューブ(PTFE製、内径3.17mm)をアダプターにそれぞれ取り付けた。臭化水素ガスを供給するチューブは、先端が反応液中に浸漬するように設置し、原料溶液を供給するチューブは反応器内に滴下するように設置した。この時、反応の液深となる反応器直径(光が当たる側面とその反対側面までの水平距離)は、80mmであった。
光源側の水平方向反応器側面に当たる光強度が111mW/cm(液深に対する光強度は、1.39mW/(cm・mm))になる位置にLED面照射器を設置し、光照射を開始した。また、光照射開始と同時に、臭化水素ガスと原料溶液の供給を開始した。それぞれの流量は、臭化水素ガス943ml/min、原料混合溶液4.6ml/minであった。
フィード開始から130分後にオーバーフローが始まり、フィード開始から合計で190分間後に、原料のフィードを終了した。オーバーフローしてきた反応液を10分毎に6mlバイアル管に1mlサンプリングし、各反応液は水1mlで分液水洗したのち、有機層を分析した。
【0088】
<分析結果>
オーバーフロー後の反応液組成の経時変化を追跡した結果、反応を開始した150分後には反応組成が安定していることが分かった。反応終了時(190分後)のサンプリング品をGC測定した結果、各生成物の生成量(ピーク面積比)は、(a)α-ブロモエチルベンゼンが0.166%、(b)スチレンがn.d.、(c)フェニルエタノールがn.d.、(d)ジブロモエチルベンゼンがn.d.、(e)ブロモジフェニルブタンがn.d.、(f)β-ブロモエチルベンゼンが99.834%であった。以下、(a)~(f)の記号は同じ生成物を意味する。また、別途水洗操作を行った反応終了時(190分後)のサンプリング品(反応液10mlに対し、水10mlで分液水洗した有機層)をエバポレーターにてヘプタン留去(80℃、2kPa、1時間)した溶液を色差計にて分析した結果、APHA値は62であった。これらの結果を、表2及び表3に各実施例及び比較例の反応成績として示す。GPC測定においても重質物の生成は確認されなかった。
【0089】
実施例10および実施例12の結果より、有機溶媒を含んだ混合原料(スチレン濃度80%)においても高品質なブロモエチルベンゼンが得られることが分かる。有機溶媒を用いることで実施例1のような無溶媒の条件と比較し生産性は落ちるが、反応除熱面や安全面、前工程からの連続生産などで優位点があり、実施例2と同様にプロセス上の範囲幅を広く設定することが可能であると言える。
【0090】
実施例13
(滞留時間80分、スチレン濃度50重量%条件でのブロモエチルベンゼンの連続製造法)
<反応>
原料混合溶液のスチレン濃度が50重量%となるようにすること以外は、実施例12と同様の方法で反応を実施し、フィード開始から合計で140分間後に、原料のフィードを終了した。オーバーフローしてきた反応液を10分毎に6mlバイアル管に1mlサンプリングし、各反応液は水1mlで分液水洗したのち、有機層を分析した。実施例12と同様の手法であるため、液深に対する光強度は、1.39mW/(cm・mm)であった。
【0091】
<分析結果>
オーバーフロー後の反応液組成の経時変化を追跡した結果、反応を開始した130分後には反応組成が安定していることが分かった。反応終了時(140分後)のサンプリング品をGC測定した結果、各生成物の生成量(ピーク面積比)は、(a)α-ブロモエチルベンゼンが%、(b)スチレンが0.990%、(c)フェニルエタノールがn.d.、(d)ジブロモエチルベンゼンがn.d.、(e)ブロモジフェニルブタンがn.d.、(f)β-ブロモエチルベンゼンが99.010%であった。以下、(a)~(f)の記号は同じ生成物を意味する。また、別途水洗操作を行った反応終了時(140分後)のサンプリング品(反応液10mlに対し、水10mlで分液水洗した有機層)をエバポレーターにてヘプタン留去(80℃、2kPa、1時間)した溶液を色差計にて分析した結果、APHA値は65であった。これらの結果を、表2及び表3に各実施例及び比較例の反応成績として示す。GPC測定においても重質物の生成は確認されなかった。
【0092】
実施例10、12、13の結果より、有機溶媒を含んだ混合原料(スチレン濃度50%)においても高品質なブロモエチルベンゼンが得られることが分かることから、実施例11、12と同様にプロセス上の範囲幅を広く設定することが可能であると言える。
【0093】
実施例14
(波長365nmのLEDを光源としたブロモエチルベンゼンのバッチ式製造法)
<反応>
ジムロート冷却管、温度計挿入管、PTFE製チューブアダプターを2つ取り付けた500ml4つ口フラスコに、窒素雰囲気下、スチレン(180.0g/1728.3mmol)と臭化水素ガス(167.8g/2073.9mmol、スチレンに対し1.2倍モル量)を供給するチューブ(PTFE製、内径3.17mm)をアダプターにそれぞれ取り付けた。臭化水素ガスを供給するチューブは、先端が反応液中に浸漬するように設置し、原料溶液を供給するチューブは反応器内に滴下するように設置した。この時、反応の液深となる反応器直径(光が当たる側面とその反対側面までの距離)は、10mmであった。
光源側の水平方向反応器側面に当たる光強度が50mW/cm(液深に対する光強度は、5.0mW/(cm・mm))になる位置にLED面照射器を設置し、光照射を開始した。また、光照射開始と同時に、臭化水素ガスと原料溶液の供給を開始した。それぞれの流量は、臭化水素ガス423.0ml/min、スチレン1.7ml/minであった。
フィード開始から120分後に臭化水素ガスと原料溶液の供給を停止し、30分間光照射を継続し、残存したスチレンを反応させた。その後、反応溶液に窒素を流量500ml/minで1時間吹き込むことで、バブリング操作を行い、反応溶液中の臭化水素ガスを取り除いた。
バブリング操作後の反応溶液に水180mlを添加し、分液した後、有機層の分析をしたところ以下のような結果になった。
【0094】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量(ピーク面積比)は、(a)α-ブロモエチルベンゼンが0.110%、(b)スチレンが0.030%、(c)フェニルエタノールがn.d.、(d)ジブロモエチルベンゼンがn.d.、(e)ブロモジフェニルブタンがn.d.、(f)β-ブロモエチルベンゼンが99.860%であった。以下、(a)~(f)の記号は同じ生成物を意味する。また色差計でのAPHA値は50であった。これらの結果を、表2及び表3に各実施例及び比較例の反応成績として示す。GPC測定においても重質物の生成は確認されなかった。
【0095】
上記の結果より、後述する比較例3の結果と比べて(a)~(e)の不純物(すなわち、副生成物)量が少ない、高純度な(f)β-ブロモエチルベンゼンが得られること、かつAPHA値は50であることから得られた生成物に着色がないことが明らかとなった。本結果より、連続式でなくバッチ型の反応においても本手法が有効であることが明らかである。
【0096】
実施例15
(波長385nmのLEDを光源としたブロモエチルベンゼンのバッチ式製造法)
<反応>
ジムロート冷却管、温度計挿入管、PTFE製チューブアダプターを2つ取り付けた500ml4つ口フラスコに、窒素雰囲気下、スチレン(180.0g/1728.3mmol)と臭化水素ガス(167.8g/2073.9mmol、スチレンに対し1.2倍モル量)を供給するチューブ(PTFE製、内径3.17mm)をアダプターにそれぞれ取り付けた。臭化水素ガスを供給するチューブは、先端が反応液中に浸漬するように設置し、原料溶液を供給するチューブは反応器内に滴下するように設置した。この時、反応の液深となる反応器直径(光が当たる側面とその反対側面までの距離)は、10mmであった。
光源側の水平方向反応器側面に当たる光強度が300mW/cm(液深に対する光強度は、30.0mW/(cm・mm))になる位置にLEDスポット照射器(メイン波長385nm)を設置し、光照射を開始した。また、光照射開始と同時に、臭化水素ガスと原料溶液の供給を開始した。それぞれの流量は、臭化水素ガス423.0ml/min、スチレン1.7ml/minであった。
フィード開始から120分後に臭化水素ガスと原料溶液の供給を停止し、30分間光照射を継続し、残存したスチレンを反応させた。その後、反応溶液に窒素を流量500ml/minで1時間吹き込むことで、バブリング操作を行い、反応溶液中の臭化水素ガスを取り除いた。
バブリング操作後の反応溶液に水180mlを添加し、分液した後、有機層の分析をしたところ以下のような結果になった。
【0097】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量(ピーク面積比)は、(a)α-ブロモエチルベンゼンが0.248%、(b)スチレンが0.078%、(c)フェニルエタノールがn.d.、(d)ジブロモエチルベンゼンがn.d.、(e)ブロモジフェニルブタンがn.d.、(f)β-ブロモエチルベンゼンが99.674%であった。以下、(a)~(f)の記号は同じ生成物を意味する。また色差計でのAPHA値は55であった。これらの結果を、表2及び表3に各実施例及び比較例の反応成績として示す。GPC測定においても重質物の生成は確認されなかった。
【0098】
実施例16
(波長435nmのLEDを光源としたブロモエチルベンゼンのバッチ式製造法)
<反応>
メイン波長を435nm(LEDスポット照射器)とすること以外は、実施例15と同様の方法で反応を実施した。実施例15と同様の手法であるため、液深に対する光強度は、30.0mW/(cm・mm)であった。フィード開始から120分後に臭化水素ガスと原料溶液の供給を停止し、30分間光照射を継続し、残存したスチレンを反応させた。その後、反応溶液に窒素を流量500ml/minで1時間吹き込むことで、バブリング操作を行い、反応溶液中の臭化水素ガスを取り除いた。バブリング操作後の反応溶液に水180mlを添加し、分液した後、有機層の分析をしたところ以下のような結果になった。
【0099】
<分析結果>
GC測定の結果、各生成物の生成量(ピーク面積比)は、(a)α-ブロモエチルベンゼンが0.540%、(b)スチレンが0.098%、(c)フェニルエタノールがn.d.、(d)ジブロモエチルベンゼンがn.d.、(e)ブロモジフェニルブタンがn.d.、(f)β-ブロモエチルベンゼンが99.362%であった。以下、(a)~(f)の記号は同じ生成物を意味する。また色差計でのAPHA値は45であった。これらの結果を、表2及び表3に各実施例及び比較例の反応成績として示す。GPC測定においても重質物の生成は確認されなかった。
【0100】
実施例14~16の結果より、液深に対する光強度が十分であれば本手法における波長依存性はなく、いずれの波長領域においても高純度のブロモエチルベンゼンが得られるということは明らかである。
【0101】
実施例17
(滞留時間160分、スチレン濃度50重量%条件でのブロモエチルベンゼンの連続製造法)
<反応>
光源側の水平方向反応器側面に当たる光強度が40mW/cm(液深に対する光強度は、0.50mW/(cm・mm))になる位置にLED面照射器を設置すること、オーバーフローが始まる時間が160分となる(フィード流量:臭化水素ガス479ml/min、スチレン3.8ml/min)以外は、実施例3と同様の方法で反応を実施し、フィード開始から合計で220分間後に、原料のフィードを終了した。オーバーフローしてきた反応液を10分毎に6mlバイアル管に1mlサンプリングし、各反応液は水1mlで分液水洗したのち、有機層を分析した。
【0102】
<分析結果>
オーバーフロー後の反応液組成の経時変化を追跡した結果、反応を開始した220分後には反応組成が安定していることが分かった。反応終了時(220分後)のサンプリング品をGC測定した結果、各生成物の生成量(ピーク面積比)は、(a)α-ブロモエチルベンゼンが0.490%、(b)スチレンが0.045%、(c)フェニルエタノールがn.d.、(d)ジブロモエチルベンゼンがn.d.、(e)ブロモジフェニルブタンがn.d.、(f)β-ブロモエチルベンゼンが99.010%であった。以下、(a)~(f)の記号は同じ生成物を意味する。また、別途水洗操作を行った反応終了時(220分後)のサンプリング品(反応液10mlに対し、水10mlで分液水洗した有機層)をエバポレーターにてヘプタン留去(80℃、2kPa、1時間)した溶液を色差計にて分析した結果、APHA値は64であった。これらの結果を、表2及び表3に各実施例及び比較例の反応成績として示す。GPC測定においても重質物の生成は確認されなかった。
【0103】
実施例3および実施例15の結果より、液深に対する光強度を0.50mW/(cm・mm)まで下げても高純度なブロモエチルベンゼンが得られることは明らかである。
【0104】
比較例3
(水銀灯を光源とした滞留時間53分、スチレン濃度80%条件におけるブロモエチルベンゼンの連続製造法)
<反応>
反応器側面に抜出口を有した200ml円筒型反応器(PYREX(登録商標)ガラス製)に、水銀灯保護用水冷ジャケット、ジムロート冷却管、温度計挿入管、PTFE製チューブアダプターを2つ取り付け、反応器側面の抜出口には、オーバーフローした混合溶液の受器として、反応器側面の抜出口に接続した1000ml四つ口フラスコ(以下、オーバーフロー槽ともいう)を設置した。この反応容器に、窒素雰囲気下、原料混合溶液(スチレン濃度が80重量%となるようにスチレンとヘプタンを混合した溶液)と臭化水素ガス(スチレンに対し1.2倍モル量)を供給するチューブ(PTFE製、内径3.17mm)をアダプターにそれぞれ取り付けた。臭化水素ガスを供給するチューブは、先端が反応液中に浸漬するように設置し、原料溶液を供給するチューブは反応器内に滴下するように設置した。この時、反応の液深となる反応器直径(光が当たる側面とその反対側面までの距離)は、7.5mmであり、中央光源から水平方向反応器側面に当たる光強度は40mW/cm(液深に対する光強度は、5.33mW/(cm・mm))であった。水銀灯点灯と同時に水銀灯保護管内に水冷用の水道水の通液を開始し、水銀灯の光強度安定化のため、点灯後、15分間経過したのちに、臭化水素ガスと原料溶液の供給を開始した。それぞれの流量は、臭化水素ガス593.1ml/min、原料混合溶液2.9ml/minであった。
フィード開始から53分後にオーバーフローが始まり、フィード開始から合計で120分間後に、原料のフィードを終了した。オーバーフローしてきた反応液を6mlバイアル管に1mlサンプリングし、各反応液は水1mlで分液水洗したのち、有機層を分析した。
【0105】
<分析結果>
オーバーフロー後の反応液組成の経時変化を追跡した結果、反応を終了した100分後には反応組成が安定していることが分かった。反応終了時(120分後)のサンプリング品をGC測定した結果、各生成物の生成量(ピーク面積比)は、(a)α-ブロモエチルベンゼンが4.300%、(b)スチレンが0.198%、(c)フェニルエタノールがn.d.、(d)ジブロモエチルベンゼンが0.050%、(e)ブロモジフェニルブタンが0.050、(f)β-ブロモエチルベンゼンが95.402%であった。以下、(a)~(f)の記号は同じ生成物を意味する。また、別途水洗操作を行った反応終了時(120分後)のサンプリング品(反応液10mlに対し、水10mlで分液水洗した有機層)をエバポレーターにてヘプタン留去(80℃、2kPa、1時間)した溶液を色差計にて分析した結果、APHA値は145であった。これらの結果を、表2及び表3に各実施例及び比較例の反応成績として示す。GPC測定においても重質物の生成は確認されなかった。
【0106】
比較例4
(水銀灯を光源とした滞留時間53分、スチレン濃度60%条件におけるブロモエチルベンゼンの連続製造法)
<反応>
原料混合溶液のスチレン濃度が50重量%となること以外は、比較例1と同様の方法で反応を実施し、フィード開始から合計で120分間後に、原料のフィードを終了した(液深に対する光強度は、5.33mW/(cm・mm))。オーバーフローしてきた反応液を6mlバイアル管に1mlサンプリングし、各反応液は水1mlで分液水洗したのち、有機層を分析した。
【0107】
<分析結果>
オーバーフロー後の反応液組成の経時変化を追跡した結果、反応を終了した120分後には反応組成が安定していることが分かった。反応終了時(120分後)のサンプリング品をGC測定した結果、各生成物の生成量(ピーク面積比)は、(a)α-ブロモエチルベンゼンが1.414%、(b)スチレンが0.192%、(c)フェニルエタノールがn.d.、(d)ジブロモエチルベンゼンが0.048%、(e)ブロモジフェニルブタンが0.051、(f)β-ブロモエチルベンゼンが98.295%であった。以下、(a)~(f)の記号は同じ生成物を意味する。また、別途水洗操作を行った反応終了時(120分後)のサンプリング品(反応液10mlに対し、水10mlで分液水洗した有機層)をエバポレーターにてヘプタン留去(80℃、2kPa、1時間)した溶液を色差計にて分析した結果、APHA値は155であった。これらの結果を、表2及び表3に各実施例及び比較例の反応成績として示す。GPC測定においても重質物の生成は確認されなかった。
【0108】
比較例3、4の結果より、スチレン濃度が上昇するにつれてβ-ブロモエチルベンゼンの選択性が低下していることが分かる。また、比較例3、4の結果より、水銀灯を用いた反応を高濃度で実施する場合、液深に対する光強度を5.33mW/(cm・mm)と十分な量としても、高純度なブロモエチルベンゼンが得られないことが分かる。比較例3、4の反応終了後のスチレンGC面積%は、いずれも0.200%以下となっており、転化率(原料の消費量)は比較的高いことが分かる一方、(f)β-ブロモエチルベンゼンの選択率は低下している。また、着色を引き起こすと考えられる313nmを含んだ反応系であることから、着色(APHA値)も増加傾向にある。 このことから、水銀灯全体の光強度を上げると、副反応の原因となる313nmの波長も相対的に大きくなるため、着色を抑制した高純度なβ-ブロモエチルベンゼンが得られなかったと考えられる。
【0109】
実施例10~13および比較例3、4の結果から、光をラジカル開始源とするスチレンの光臭素化反応において、高濃度化あるいは無溶媒化が可能であるという観点から、LEDを用いることは極めて有用である。
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
(a;α―ブロモエチルベンゼン、b;スチレン、c;フェニルエタノール、d;ジブロモエチルベンゼン、e;ブロモジフェニルブタン、f;β―ブロモエチルベンゼン)
表3中、「n.d.」は検出せずの意であり、0.001面積%を検出限界として示した。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のβ-ブロモエチルベンゼン及びその製造方法は、高純度のβ-ブロモエチルベンゼンを効率的に得ることができ、産業上極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7