(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】中空型波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20220613BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2020525132
(86)(22)【出願日】2018-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2018023364
(87)【国際公開番号】W WO2019244258
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 豊
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 登
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-206265(JP,A)
【文献】国際公開第2015/001582(WO,A1)
【文献】実開平3-2945(JP,U)
【文献】特開平8-312731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に同軸に配置され、前記内歯歯車の内歯にかみ合い可能な外歯が形成されている可撓性の円筒部を備えた外歯歯車と、
前記外歯歯車の前記円筒部の内側に同軸に配置され、前記円筒部を楕円状に撓めて前記内歯歯車の内歯に対して円周方向の2か所の位置で部分的にかみ合わせ、回転駆動されると、前記内歯に対する前記外歯のかみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
前記波動発生器を、同軸状態で貫通して延びている中空回転軸と、
を有しており、
前記波動発生器は、
楕円状外周面を備えた波動発生器プラグと、
前記波動発生器プラグの剛性を高めるために配置したプラグ補強部と、
前記楕円状外周面と前記外歯歯車の前記円筒部の内周面との間に装着された波動発生器ベアリングと、
を有しており、
前記中空回転軸には、前記波動発生器プラグを規定する軸部分と、前記プラグ補強部を規定する軸部分とが、一体形成されており、
前記プラグ補強部は、前記中空回転軸において、前記波動発生器プラグに対して前記中空回転軸の中心軸線の方向に隣接した位置に形成されており、
前記プラグ補強部の半径方向の肉厚は、前記波動発生器プラグの半径方向の肉厚よりも厚
く、
前記波動発生器プラグおよび前記プラグ補強部の内周面は、前記中心軸線の方向の各位置において、同一径の円形内周面であり、
前記プラグ補強部の外周面は、前記中心軸線の方向の各位置において、前記波動発生器プラグの前記楕円状外周面を規定する楕円形状の長径よりも大きな外径を備えており、
更に、前記プラグ補強部の外周面は、前記波動発生器プラグの前記楕円状外周面に対して、前記中心軸線を中心として、90度の位相差のある楕円状外周面である中空型波動歯車装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記外歯歯車はカップ形状あるいはシルクハット形状の外歯歯車であり、
前記外歯歯車は、前記円筒部の一方の第1の端から半径方向に延びるダイヤフラム、および、前記ダイヤフラムの外周縁あるいは内周縁に形成した剛性の環状のボスを備え、前記円筒部の他方の第2の端の側の部分に前記外歯が形成されており、
前記波動発生器プラグは、前記円筒部の内部において、前記外歯に対応する位置に配置され、
前記プラグ補強部は、前記円筒部の内部において、前記波動発生器プラグに対して前記第1の端の側に隣接した位置に配置されている中空型波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波動歯車装置に関し、特に、中心部分を軸線方向に貫通して延びる中空部を備えた中空型波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中空型波動歯車装置は、例えば、特許文献1(国際公開第2015/001582号公報)に記載されている。特許文献1に記載の中空型波動歯車装置は、剛性の内歯歯車の内側に同軸に可撓性のシルクハット形状の外歯歯車が配置され、外歯歯車の内側に同軸に波動発生器が配置され、波動発生器の中心部分には、中空回転軸が同軸状態で貫通している。波動発生器は、楕円状外周面を備えた波動発生器プラグと、楕円状外周面と外歯歯車の内周面との間に装着された波動発生器ベアリングとを有している。波動発生器プラグは、入力軸である中空回転軸に一体形成されている。すなわち、中空回転軸の円形外周面の一部に楕円状外周面が形成されており、楕円状外周面が形成されている軸部分が、波動発生器プラグとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中空型波動歯車装置では、装置外径を増加させることなく、その中空部の大径化が要求される場合がある。また、装置の軽量化のために波動発生器プラグの薄肉化が要求される場合がある。このような要求を満たすために、波動発生器プラグが一体形成されている中空部の大径化、中空回転軸あるいは波動発生器プラグの薄肉化を図ると、波動発生器の剛性の低下に起因してトルク性能も低下してしまう。
【0005】
本発明の目的は、中空部の大径化等のために中空回転軸あるいは波動発生器プラグを薄肉化した場合に、トルク性能の低下を防止あるいは抑制可能な中空型波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に同軸に配置され、前記内歯歯車の内歯にかみ合い可能な外歯が形成されている可撓性の円筒部を備えた外歯歯車と、
前記外歯歯車の前記円筒部の内側に同軸に配置され、前記円筒部を楕円状に撓めて前記内歯歯車の内歯に対して円周方向の2か所の位置でかみ合わせ、回転駆動されると、前記内歯に対する前記外歯のかみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
前記波動発生器を、同軸状態で貫通して延びている中空回転軸と、
を有しており、
前記波動発生器は、
楕円状外周面を備えた波動発生器プラグと、
前記波動発生器プラグの剛性を高めるために配置したプラグ補強部と、
前記楕円状外周面と前記外歯歯車の前記円筒部の内周面との間に装着された波動発生器ベアリングと、
を有しており、
前記中空回転軸には、前記波動発生器プラグを規定する軸部分と、前記プラグ補強部を規定する軸部分とが、一体形成されており、
前記プラグ補強部は、前記中空回転軸において、前記波動発生器プラグに対して前記中空回転軸の中心軸線の方向に隣接した位置に形成されており、
前記プラグ補強部の半径方向の肉厚は、前記波動発生器プラグの半径方向の肉厚よりも厚いことを特徴としている。
【0007】
本発明の中空型波動歯車装置では、中空回転軸における波動発生器プラグに隣接して、この波動発生器プラグよりも厚い肉厚のプラグ補強部が形成されている。波動発生器プラグに隣接してスポット的に形成した剛性の高いプラグ補強部によって、波動発生器プラグが補強される。中空回転軸の中空部を大きくするために中空回転軸が薄い肉厚になっても、波動発生器プラグの剛性の低下を防止あるいは抑制でき、トルク性能(ラチェッティング)の低下を抑制できる。また、厚い肉厚のプラグ補強部は、中空回転軸において、波動発生器プラグの隣接位置に部分的に形成されるだけなので、中空回転軸の重量増加、イナーシャの増加を最小限に抑えることができる。
【0008】
ここで、中空回転軸における波動発生器プラグおよびプラグ補強部の内周面は、前記中心軸線の方向の各位置において、同一径の円形内周面とされる。この場合、プラグ補強部の外周面は、中心軸線の方向の各位置において、波動発生器プラグの楕円状外周面を規定する楕円形状の長径よりも大きな外径とされる。中空回転軸の外周面の側に肉盛りをして、厚い肉厚のプラグ補強部を形成するので、中空部の径を確保できる。
【0009】
また、中空回転軸において、波動発生器プラグに隣接してスポット的に形成した厚い肉厚のプラグ補強部を、波動発生器プラグのカウンタウエイトとして利用している。すなわち、プラグ補強部の外周面を、波動発生器プラグの楕円状外周面に対して、中心軸線を中心として、90度の位相差のある楕円状外周面としている。
【0010】
さらに、カップ型あるいはシルクハット型の波動歯車装置の場合には、カップ形状あるいはシルクハット形状の外歯歯車の円筒部の内周面と中空回転軸の外周面との間に、デッドスペースができる。このデッドスペースを利用して、厚い肉厚のプラグ補強部を配置すれば、波動歯車装置の他の部分の設計変更などが不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用した中空型波動歯車装置を示す概略縦断面図、概略横断面図、および各部の輪郭形状を示す説明図である。
【
図2】プラグ補強部を備えた中空型波動歯車装置の例を示す概略縦断面図および概略横断面図である。
【
図3】プラグ補強部を備えた中空型波動歯車装置の別の例を示す概略縦断面図である。
【
図4】プラグ補強部を備えたカップ型波動歯車装置の例を示す概略縦断面図および概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る中空型波動歯車装置の実施の形態を説明する。
【0013】
図1(a)は実施の形態に係る中空型波動歯車装置を示す概略縦断面図であり、
図1(b)はその概略横断面図である。中空型波動歯車装置1は、円環形状をした剛性の内歯歯車2を備えている。内歯歯車2の内側には、同軸状態で、シルクハット形状をした可撓性の外歯歯車3が配置されている。外歯歯車3の外歯3aは、内歯歯車2の内歯2aにかみ合い可能である。内歯歯車2と外歯歯車3は、軸受、本例ではクロスローラベアリング4によって、相対回転自在の状態に保持されている。外歯歯車3の内側には、同軸状態で、波動発生器5が配置されている。波動発生器5の中心部分には、中空回転軸6(中空入力軸)が、同軸状態で貫通している。中空回転軸6の中空部は、中心軸線1aの方向に貫通して延びる装置中空部7である。
【0014】
中空型波動歯車装置1において、波動発生器5によって、外歯歯車3は楕円状に撓められ、その長軸L1の両端において内歯歯車2にかみ合っている。中空回転軸6を介して伝達される回転力によって、波動発生器5が回転すると、両歯車2、3のかみ合い位置が円周方向に移動し、両歯車2、3の歯数差に応じた相対回転が両歯車2、3の間に生じる。内歯歯車2を固定しておくと、外歯歯車3から減速回転が出力される。
【0015】
以下に、各部の構造を説明する。内歯歯車2は、クロスローラベアリング4の内輪4aの端面に、不図示のボルトによって同軸に締結固定されている。外歯歯車3は、半径方向に撓み可能な円筒部3bと、円筒部3bの一方の端から半径方向の外方に延びるダイヤフラム3cと、ダイヤフラム3cの外周縁に一体形成された円環形状をした剛性のボス3dとを備えている。円筒部3bにおける他方の端の外周面部分に、外歯3aが形成されている。クロスローラベアリング4は、ボス3dと内歯歯車2との間に配置されている。外歯歯車3のボス3dは、クロスローラベアリング4の外輪4bに、不図示のボルトによって同軸に締結固定されている。
【0016】
波動発生器5は、剛性の波動発生器プラグ5aと、波動発生器ベアリング5bとを備えている。波動発生器プラグ5aの外周面は楕円状外周面5cとなっている。波動発生器ベアリング5bは、楕円状外周面5cと外歯歯車3の円筒部3bの内周面との間に装着されている。また、波動発生器5には、波動発生器プラグ5aの剛性を高めるために、プラグ補強部5dが備わっている。
【0017】
中空回転軸6は、波動発生器5の中心部分を貫通して中心軸線1aの方向の両側に延びている。中空回転軸6の一方の軸端部6aには、モータ回転軸などの不図示の回転軸が同軸に連結固定される。本例では、中空回転軸6には、波動発生器プラグ5aを規定するプラグ軸部分と、プラグ補強部5dを規定するプラグ補強軸部分とが、一体形成されている。
【0018】
中空回転軸6は、その入力側の軸端部6aから反対側の軸端部6dまで、実質的に同一の内径の円形内周面6eを備えており、円形内周面6eによって装置中空部7が規定されている。中空回転軸6は、その入力側の軸端部6aの側から反対側の軸端部6dに向かう途中の軸部分に、波動発生器プラグ5aとプラグ補強部5dとが一体形成されている。中空回転軸6における波動発生器プラグ5aおよびプラグ補強部5dが形成されている軸部分以外の軸部分は、実質的に同一の外径の円形外周面6gとなっている。
【0019】
中空回転軸6において、波動発生器プラグ5aに対して中心軸線1aの方向に隣接した位置に、プラグ補強部5dが形成されている。プラグ補強部5dは、半径方向の肉厚が波動発生器プラグ5aの半径方向の肉厚よりも厚い。
図1(c)には、プラグ補強部5d、波動発生器プラグ5a、およびこれらの部分以外の中空回転軸6の輪郭形状を示してある。この図に示すように、本例では、プラグ補強部5dは円形外周面6fを備えており、この円形外周面6fの外径は、波動発生器プラグ5aの楕円状外周面5cを規定する楕円形状の長径よりも大きい。また、波動発生器プラグ5aは、外歯歯車3の円筒部3bの内部において、外歯3aに対応する位置に配置され、プラグ補強部5dは、円筒部3bの内部に位置するように、波動発生器プラグ5aに対して軸端部6dの側に隣接した位置に形成されている。
【0020】
中空型波動歯車装置1では、中空回転軸6における波動発生器プラグ5aに隣接して、この波動発生器プラグ5aよりも厚い肉厚のプラグ補強部5dが形成されている。波動発生器プラグ5aに隣接してスポット的に形成した剛性の高いプラグ補強部5dによって、波動発生器プラグ5aが補強される。装置中空部7を大径化するために、中空回転軸6を薄い肉厚にしても、プラグ補強部5dによって波動発生器プラグ5aの剛性の低下を防止あるいは抑制できる。また、波動発生器プラグ5aの隣接位置にスポット的に厚い肉厚のプラグ補強部5dが形成されるので、波動発生器プラグ5aに、必要とされる剛性を付与できると共に、中空回転軸6の重量増加、イナーシャの増加を最小限に抑えることができる。よって、中空型波動歯車装置1のラチェッティングトルクの低下を抑制できる。
【0021】
また、本例では、プラグ補強部5dは、中空回転軸6の外周面においてスポット的に肉盛りした部分であり、中空回転軸6の内周面は、中心軸線1aの方向の各位置において、同一径の円形内周面6eとされる。中空回転軸6の円形外周面の側に肉盛りをして、厚い肉厚のプラグ補強部5dを形成しているので、中空回転軸6の装置中空部7を大きな内径にできる。
【0022】
さらに、シルクハット形状の外歯歯車3の円筒部3bの内周面と中空回転軸6の外周面との間に形成されるデッドスペースを利用して、厚い肉厚のプラグ補強部5dが形成されている。中空型波動歯車装置1の他の部分の形状等の設計変更が不要である。
【0023】
ここで、中空回転軸6において、波動発生器プラグ5aに隣接してスポット的に形成した厚い肉厚のプラグ補強部5dを、波動発生器プラグ5aのカウンタウエイトとして利用できる。この場合には、例えば、プラグ補強部5dの円形外周面6fを、波動発生器プラグ5aの楕円状外周面5cに対して、中心軸線1aを中心として、90度の位相差のある楕円状外周面にする等して、波動発生器プラグ5aとプラグ補強部5dとの間で、中空回転軸6の回転時の重量バランスを取ればよい。
【0024】
(プラグ補強部を備えた中空型波動歯車装置の例)
図2(a)はプラグ補強部を備えた中空型波動歯車装置の別の例を示す概略縦断面図であり、
図2(b)はその概略横断面図である。中空型波動歯車装置21の基本構成は、上記の実施の形態の中空型波動歯車装置1と同一であるので、対応する部位には同一の符号を使用し、それらの説明は省略する。以下に、相違する部分について説明する。
【0025】
中空型波動歯車装置21においても、波動発生器25は、剛性の波動発生器プラグ25aと、波動発生器ベアリング25bとを備えている。波動発生器プラグ25aの外周面は楕円状外周面25cとなっている。波動発生器ベアリング25bは、楕円状外周面25cと外歯歯車3の円筒部3bの内周面との間に装着されている。また、波動発生器25には、波動発生器プラグ25aの剛性を高めるために、プラグ補強部25dが備わっている。
【0026】
波動発生器プラグ25aは、中空回転軸26の外周面側の部分に一体形成されている。すなわち、中空回転軸26の円形外周面26fの一部が、半径方向の外方に一定幅で突出して、楕円状外周面25cが形成されている。プラグ補強部25dは、中空回転軸26の内周面側の部分に一体形成されている。すなわち、中空回転軸26における波動発生器プラグ25aが一体形成されている軸部分において、その円形内周面26eが、全周に亘って一定幅で半径方向の内方に突出して、内周面肉盛り部分であるプラグ補強部25dが形成されている。プラグ補強部25dは、中心軸線21aの方向の幅が、波動発生器プラグ25aが形成されている部分を包含する寸法に設定されている。
【0027】
中空型波動歯車装置21では、中空回転軸26における波動発生器プラグ25aが形成されている軸部分には、内周面肉盛り部分によって規定されるプラグ補強部25dが形成されている。中空回転軸26の内周面にスポット的に形成した内周面肉盛り部分からなるプラグ補強部25dによって、波動発生器プラグ25aが補強される。中空回転軸26を全体として薄肉にしてその軽量化を図る場合に、プラグ補強部25dによって、薄い肉厚となった波動発生器プラグ25aの剛性の低下を、防止あるいは抑制できる。また、プラグ補強部25dを中空回転軸26の一部に設けているので、中空回転軸26の重量増加、イナーシャの増加を最小限に抑えることができる。よって、波動発生器プラグ25aが一体成形されている中空回転軸26を薄肉にして軽量化を図る場合における、中空型波動歯車装置21のラチェッティングトルクの低下を抑制できる。
【0028】
(プラグ補強部を備えた中空型波動歯車装置の別の例)
図3は、プラグ補強部を備えた中空型波動歯車装置の別の例を示す縦断面図である。中空型波動歯車装置31の基本構成は、前述の実施の形態の中空型波動歯車装置1の場合と同一であるので、対応する部分には同一の符号を使用し、それらの説明は省略する。以下に、相違する部分について説明する。
【0029】
中空型波動歯車装置31において、波動発生器35は、波動発生器プラグ35aと、波動発生器ベアリング35bとを備えている。波動発生器プラグ35aは、中空回転軸36の一部に一体形成されている。波動発生器プラグ35aの外周面には楕円状外周面35cが形成されている。波動発生器ベアリング35bは、楕円状外周面35cと外歯歯車3の円筒部3bの内周面との間に装着されている。また、中空回転軸36には、波動発生器プラグ35aの剛性を高めるためのプラグ補強部35dが一体形成されている。
【0030】
詳しく説明すると、本例の中空回転軸36は、小径の円筒形状をした波動発生器プラグ35a(プラグ円筒部)と、この波動発生器プラグ35aにおける一方の側に同軸状態で繋がっている大径の円筒形状をしたプラグ補強部35dとから形成されている。波動発生器プラグ35aの円形外周面35eに、外方に突出した一定幅の楕円状外周面35cが形成されている。
【0031】
波動発生器プラグ35aの端に繋がっているプラグ補強部35dは、外歯歯車3の円筒部3bから中心軸線31aに沿って外側に突出しており、波動発生器ベアリング35bに対して中心軸線31aの方向に隣接した位置にある。プラグ補強部35dは、波動発生器プラグ35aの肉厚よりも厚い肉厚を備えており、その円形内周面35fは、波動発生器プラグ35aの外径とほぼ同一の内径となっている。この円形内周面35fの端には、波動発生器プラグ35aの円環状端面35gが位置している。プラグ補強部35dは、モータ回転軸等の回転軸を挿入固定するための軸孔部分となっており、挿入される回転軸(図示せず)は、円環状端面35gに当接して、その軸線方向の位置決めが行われる。
【0032】
波動発生器プラグ35aが一体形成されている中空回転軸36の中空部の内径を大きくし、また、その軽量化、イナーシャの低減化を図るために、中空回転軸36の肉厚を薄くする場合がある。中空回転軸36を薄い肉厚にすると、波動発生器プラグ35aも薄い肉厚となり、その剛性が低下し、外歯歯車3を楕円状に撓めて内歯歯車2に確実にかみ合わせるために必要な剛性を確保できない場合がある。
【0033】
本例では、中空回転軸36には、波動発生器プラグ35aを補強するためのプラグ補強部35dが形成されている。このプラグ補強部35dによって、装置中空部7の内径を大きくでき、また、波動発生器プラグ35aに、必要とされる剛性が付与される。波動発生器プラグ35aが形成されている中空回転軸36の軽量化を図ることができ、同時に、その剛性を確保して、ラチェッティングトルクの低下を防止あるいは抑制できる。
【0034】
(プラグ補強部を備えたカップ型波動歯車装置の例)
図4(a)は、プラグ補強部を備えたカップ型波動歯車装置を示す概略縦断面図であり、
図4(b)はその概略横断面図である。カップ型波動歯車装置41は、剛性の内歯歯車42の内側に同軸に配置されたカップ形状の可撓性の外歯歯車43を備えている。外歯歯車43は、内歯歯車42の内歯42aにかみ合い可能な外歯43aが形成されている可撓性の円筒部43bを備えている。外歯歯車43の円筒部43bの内側には、同軸に、波動発生器44が配置されている。波動発生器44は、外歯歯車43の円筒部43bを楕円状に撓めて内歯歯車42の内歯42aに対して、楕円の長軸両端の2か所の位置で部分的にかみ合わせる。波動発生器44が回転すると、内歯42aに対する外歯43aのかみ合い位置を円周方向に移動し、両歯車42、43の間に、両歯車42、43の歯数差に応じた相対回転が発生する。
【0035】
外歯歯車43は、円筒部43bの一方の第1の端から半径方向に延びるダイヤフラム43c、および、ダイヤフラム43cの内周縁に形成した剛性の環状のボス43dを備えている。円筒部43bの他方の第2の端の側の部分に外歯43aが形成されている。
【0036】
波動発生器44は、楕円状外周面45aを備えた波動発生器プラグ45と、波動発生器プラグ45の剛性を高めるために配置したプラグ補強部46と、楕円状外周面45aと外歯歯車43の円筒部43bの内周面との間に装着された波動発生器ベアリング47とを有している。
【0037】
波動発生器プラグ45は、楕円状外周面45aが形成されているプラグ円筒部45bと、プラグ円筒部45bの内周面から半径方向の内側に延びる円盤状のリブ45cと、リブ45cの中心部分に同軸に形成した内側円筒部45dとを備えている。この内側円筒部45dには、ここを貫通して延びる軸孔45eが形成されている。
【0038】
プラグ補強部46は、プラグ円筒部45bにおける外歯歯車43のダイヤフラム43cの側の端に連続して形成した環状部分である。このプラグ補強部46の半径方向の肉厚は、プラグ円筒部45bの肉厚よりも厚い。本例では、プラグ補強部46は、プラグ円筒部45bと同一径の円形内周面46aを備えている。また、プラグ補強部46は、プラグ円筒部45bの楕円状外周面45aを規定している楕円形状の長軸よりも大きな外径の円形外周面46bを備えている。
【0039】
なお、プラグ補強部46を、波動発生器プラグ45のカウンタウエイトとして利用できる。この場合には、例えば、プラグ補強部46の外周面を、円形外周面ではなく、波動発生器プラグ45の楕円状外周面45aに対して、中心軸線41aを中心として、90度の位相差のある楕円状外周面にする。
【0040】
波動発生器プラグ45の軽量化、イナーシャの低減化のために、その構成部分であるプラグ円筒部45b、リブ45c等の肉厚を薄くする場合がある。これらの部分を薄い肉厚にすると、波動発生器プラグ45の剛性が低下し、外歯歯車43を楕円状に撓めて内歯歯車42に確実にかみ合わせるために必要な剛性を確保できない場合がある。本例では、波動発生器プラグ45を補強するために、そのプラグ円筒部45bの端を中心軸線41aの方向に延長させ、延長させた部分を、厚い肉厚のプラグ補強部46としてある。プラグ補強部46によって、波動発生器プラグ45に、必要とされる剛性が付与される。プラグ補強部46による重量増加、イナーシャの増加を最小限にすることで、波動発生器プラグ45の軽量化を図ることができ、同時に、その剛性を確保して、ラチェッティングトルクの低下を防止あるいは抑制できる。