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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】アルミノ珪酸塩ガラス及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/097 20060101AFI20220613BHJP
   C03B 23/037 20060101ALI20220613BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
C03C3/097
C03B23/037
G02F1/1333 500
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020552082
(86)(22)【出願日】2018-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 CN2018115460
(87)【国際公開番号】W WO2019114486
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】201711330222.X
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520207701
【氏名又は名称】東旭科技集団有限公司
【氏名又は名称原語表記】TUNGHSU TECHNOLOGY GROUP CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】1112,Floor 11,101,Floor 1 to Floor 17,Building 4,Yard 2,Sihezhuang Road,Fengtai District,Beijing 100070, China
(73)【特許権者】
【識別番号】520207712
【氏名又は名称】東旭集団有限公司
【氏名又は名称原語表記】TUNGHSU GROUP CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.369,Zhujiang Road,New & Hi-Tech Industrial Development Zone,Shijiazhuang,Hebei 201203, China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 青
(72)【発明者】
【氏名】張 広涛
(72)【発明者】
【氏名】王 俊峰
(72)【発明者】
【氏名】王 肖▲イ▼
(72)【発明者】
【氏名】▲閻▼ 冬成
(72)【発明者】
【氏名】王 麗紅
(72)【発明者】
【氏名】鄭 権
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-036626(JP,A)
【文献】特開平04-292435(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101092280(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
C03B 23/037
G02F 1/1333
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、SiO2、B2O3、P2O5、GeO2及びTeO2の総含有量が60~85mol%であり、Al2O3及びGa2O3の総含有量が3~20mol%であり、ZnO及びY2O3の総含有量が0.1~5mol%であり、アルカリ土類金属酸化物の総含有量が4~30mol%であり、
前記アルカリ土類金属酸化物が、MgO、CaO、SrO及びBaOの中から選ばれるいずれか1つ又は複数種類であり、
モル含有量で、B2O3及びP2O5の含有量の和が0よりも大きく、且つB2O3及びP2O5の含有量の和と、B2O3、P2O5、GeO2及びTeO2の含有量の和との比が、0.6~1であり、
モル含有量で、Al2O3の含有量と、Al2O3及びGa2O3の含有量の和との比が、0.7~1であり、
モル含有量で、MgO及びBaOの含有量の和と、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量の和との比が、0.5よりも大きく、
モル含有量で、B2O3及びP2O5の含有量の和と、B2O3、P2O5、GeO2及びTeO2の含有量の和との比が、0.68~0.92であり、
モル%で、SiO2の含有量が40mol%以上であり、
モル%で、B2O3の含有量が0~20mol%であり、
モル%で、P2O5の含有量が0~17mol%であり、
モル%で、GeO2の含有量が0~4mol%であり、
モル%で、TeO2の含有量が0~5mol%であり、
モル%で、Al2O3の含有量が3~18mol%であり、
モル%で、Ga2O3の含有量が0~4mol%であり、
モル%で、ZnOの含有量が0~2.5mol%であり、
モル%で、Y2O3の含有量が0~3mol%である、ガラス用組成物を材料として、
厚みが0.05mmであり、曲率半径が3.5cm未満であるアルミノ珪酸塩ガラスであって、スマートフォン又はタブレットのディスプレイに用いられる、アルミノ珪酸塩ガラス。
【請求項2】
前記ガラス用組成物は、
モル%で、SiO2の含有量が44mol%以上72mol%未満であり、
モル%で、B2O3の含有量が2~20mol%であり、
モル%で、P2O5の含有量が0~14mol%であり、
モル%で、GeO2の含有量が0.1~4mol%であり、
モル%で、TeO2の含有量が0.1~1mol%であり、
モル%で、Al2O3の含有量が3~14mol%であり、
モル%で、Ga2O3の含有量が0~3mol%であり、
モル%で、ZnOの含有量が0.5~1.4mol%であり、
モル%で、Y2O3の含有量が0.4~3mol%である、ことを特徴とする請求項1に記載のアルミノ珪酸塩ガラス。
【請求項3】
前記ガラス用組成物は、モル%で、Al2O3及びGa2O3の総含有量が5~17mol%である、請求項1又は2に記載のアルミノ珪酸塩ガラス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載するアルミノ珪酸塩ガラスの製造方法において、
前記ガラス用組成物に対して、溶融、成形、焼鈍及び機械加工処理を順に行うことを含む、ことを特徴とするアルミノ珪酸塩ガラスの製造方法。
【請求項5】
機械加工処理で得た生成物に対して、二次溶融薄化処理を行うことをさらに含み、二次溶融薄化処理の条件により、調製されたガラスの厚みが0.1mm未満になり、900~1200℃において、延伸成形領域の粘度が105.5~107ポアズである、ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス製造領域に関し、具体的には、ガラス組成物、アルミノ珪酸塩ガラス、及びその調製方法と応用に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンとタブレットパソコンの普及に伴い、モバイルインテリジェンスの時代が始まった。現在、スマートフォンとタブレットパソコンを含む知能設備の性能は、既にノートパソコンと近いので、人間は無線通信の利便性を介して、いつでも高いレベルのビジネス及び娯楽活動を実行し楽しんでいる。そのようなトレンドには、ディスプレイの性能に対する要求も高まっており、特にモバイルインテリジェンスデバイスの画面質量、屋外での可視性能に対する要求も高まっており、同時に、ハンドヘルド設備の使用負担を軽減させるために、製品の重量を軽くし、厚さを薄くすることは、一般的なトレンドになっています。そのような発展傾向により、表示パネルが軽薄化、超高精細度表示の方向へ発展しており、パネルの製造工程がより高い処理温度へ発展しており、同時に、モノリシックガラスは、工程処理を経て、厚みが0.25mm、0.2mm、0.1mmに達し、さらにより薄くなる。しかし、ガラス基板の厚みが大幅に減少するに伴い、ケースに組み込まれた後の表示パネルは、機械強度が大幅に低減し、耐落下衝撃性能が厳しく要求され、パネルの製造プロセスにおいて、曲げ試験が無効になった問題が発生する場合がある。そのため、基板ガラス材料の破壊靭性を向上させ、ガラス材料の脆性を低減させることは、材料調合の研究過程における重要な課題の1つである。
【0003】
一方、フレキシブル表示デバイスの基板サブストレート材料は、ガラス、有機重合体、金属等の材料により製造されることができ、従来材料の性能はそれぞれ優劣があり、現在までは、高強度と高靭性を両立できる材料が得られていない。有機重合体フレキシブルサブストレートは、コストが低く、製造しやすい等のメリットがあるが、耐熱性の面で大きな不足があり、例えば、最適化されたポリイミド(Polyimide、PIと称する)は、400℃超えの高温耐久性を有するが、低温多結晶シリコン(LTPS)工程における600℃の高温製造プロセスの要求を満たすことができない。重合体と金属箔のようなフレキシブル材料と比べて、厚み<0.1mmの超薄ガラスは、相性が良く最適化されたガラス材料であり、その水蒸気と酸素に対する遮断性能が優れ、良い耐化学性と機械性能を有し、低い熱膨脹性と高い熱安定性をさらに有する。それは、コーティング技術の成熟性と両立性を最大のメリットとする。現在の主流なアクティブマトリクス液晶ディスプレイ(AMLCD)、アクティブマトリクス有機発光ダイオードパネル(AMOLED)は、いずれもガラス基板において薄膜トランジスタ(TFT)が作製されたものであり、関連する技術、設備及び産業チェーンが非常に成熟であり、両立性が非常に理想的であり、生産コストが大きく低減するはずであり、フレキシブルガラス基板は折り畳むことができない問題があるが、全ての応用シーンがいずれもデバイスを折り畳む必要があるわけではない。非折り畳みのフレキシブル光電デバイスについては、依然として大量の応用需要がある。
【0004】
なお、超薄ガラスは脆性材料であり、その脆性を低減させ、その優勢を広めることは、依然として材料調合の面で突破する必要がある問題である。一方、耐熱性の高いフレキシブルガラス基板を提供することにより、LTPS等の技術の順調的な実施に有利であり、例えば、歪点が600℃、640℃を超え、ひいては680℃を超える。フレキシブルパッケージング蓋板材料について、低脆性超薄のフレキシブルな無アルカリガラス蓋板は、強度、気密性等の面で重合体材料に勝るが、同様に、ガラス材料の回避できない脆性の問題があるので、材料調合の面で、脆性を低減させ、柔靭性を向上させることは、解決する必要がある重要な課題の1つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルミノ珪酸塩ガラスを調製するための組成物、アルミノ珪酸塩ガラス、及びその調製方法と応用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するために、本開示の第1の態様では、モル%で、SiO2、B2O3、P2O5、GeO2及びTeO2の総含有量が60~85mol%であり、Al2O3及びGa2O3の総含有量が3~20mol%であり、ZnO及びY2O3の総含有量が0.1~5mol%であり、アルカリ土類金属酸化物の総含有量が4~30mol%である、ガラス用組成物を提供する。
【0007】
或いは、前記アルカリ土類金属酸化物が、MgO、CaO、Sr及びBaOの中から選ばれるいずれか1種又は複数種類である。
【0008】
或いは、モル含有量で、B2O3及びP2O5の含有量の和が0よりも大きく、且つB2O3及びP2O5の含有量の和と、B2O3、P2O5、GeO2及びTeO2の含有量の和との比が、0.6~1であり、
モル含有量で、Al2O3の含有量と、Al2O3及びGa2O3の含有量の和との比が、0.7~1であり、
モル含有量で、MgO及びBaOの含有量の和と、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量の和との比が、0.5よりも大きい。
【0009】
或いは、モル含有量で、B2O3及びP2O5の含有量の和と、B2O3、P2O5、GeO2及びTeO2の含有量の和との比が、0.68~0.92である。
【0010】
或いは、モル%で、SiO2の含有量が40mol%以上であり、
好ましくは、モル%で、B2O3の含有量が0~20mol%であり、
好ましくは、モル%で、P2O5の含有量が0~17mol%であり、
好ましくは、モル%で、GeO2の含有量が0~4mol%であり、
好ましくは、モル%で、TeO2の含有量が0~5mol%であり、
好ましくは、モル%で、Al2O3の含有量が3~18mol%であり、
好ましくは、モル%で、Ga2O3の含有量が0~4mol%であり、
好ましくは、モル%で、ZnOの含有量が0~2.5mol%であり、
好ましくは、モル%で、Y2O3の含有量が0~3mol%である。
或いは、モル%で、Al2O3及びGa2O3の総含有量が5~17mol%である。
【0011】
或いは、モル%で、式(I)により算出して得た脆性因子D値が-5~40であり、
式(I):D=P1×(B2O3+P2O5+0.5×GeO2+0.5×TeO 2 )+P2×(1.5×Y2O3+ZnO)+P3×(MgO+BaO)+P4×(1.5×CaO+SrO)+P5×(Al2O3+Ga2O3)+P6×SiO2
ただし、式(I)中、P1の値が-2~0であり、P2の値が-5~-2であり、P3の値が-2~-1であり、P4の値が0~1.5であり、P5の値が1.5~3であり、P6の値が0~0.5であり、
そのうち、SiO2、B2O3、P2O5、GeO2TeO 2 、Al2O3、Ga2O3、ZnO、Y2O3、MgO、CaO、SrO、BaOは、いずれも組成物における当該成分のモル%を表し、
好ましくは、Dの値が-2.1~32であり、さらに好ましくは、Dの値が2~19である。
【0012】
本開示の第2の態様では、本開示の第1の態様に記載のガラス用組成物に対して、溶融、成形、焼鈍及び機械加工処理を順に行うことを含むアルミノ珪酸塩ガラスを調製する方法を提供している。
【0013】
或いは、前記方法は、機械加工処理で得た生成物に対して、二次溶融薄化処理を行うことをさらに含み、二次溶融薄化処理の条件により、調製されたガラスの厚みが0.1mm未満になり、好ましくは、900~1200℃において、延伸成形領域の粘度が105.5~107ポアズである。
【0014】
本開示の第3の態様では、上記方法により調製されたアルミノ珪酸塩ガラスを提供している。
【0015】
好ましくは、前記アルミノ珪酸塩ガラスは、50~350℃の範囲内の熱膨張係数が40×10-7/℃未満であり、歪点温度が700℃よりも高く、粘度が200ポアズである場合に対応する溶融温度Tmが1550℃よりも低く、成形温度T4と液相線温度Tlとの間の差が90℃よりも大きく、ヤング率が80GPa未満である。
【0016】
或いは、前記アルミノ珪酸塩ガラスの破壊靭性KICが1.0MPa・m1/2よりも大きく、より好ましくは、KICが2.8MPa・m1/2よりも大きい。
【0017】
或いは、前記アルミノ珪酸塩ガラスの厚みが0.05mmであり、曲率半径が3.5cm未満である。
【0018】
本開示の第4の態様では、本開示に記載のガラス用組成物又は本開示に記載のアルミノ珪酸塩ガラスの、表示デバイス及び/又は太陽電池の調製における応用を提供し、
好ましくは、フラットパネル表示製品のサブストレートガラス基板材料及び/又はスクリーン表面保護用ガラスフィルム層材料、フレキシブル表示製品のサブストレートガラス基板材料及び/又は表面パッケージガラス材料及び/又はスクリーン表面保護用ガラスフィルム層材料、フレキシブル太陽電池のサブストレートガラス基板材料の調製における応用を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本開示のガラス用組成物は、良い破壊靭性を有するガラス材料調合であり、アルミノ珪酸塩ガラス系に属し、フロート法、オーバーフロー法、カレンダー法、ダウンドロー法等の各種の一般的なガラス製造方法で厚み>0.1mmのフラットガラス又は厚み<0.1mmのフレキシブルガラス(即ち一次成形法で得た厚み<0.1mmのフレキシブルガラス)を製造することに適用し、又は二次溶融薄化方法で厚み<0.1mmのフレキシブルガラスを製造することに適用する。本開示により調製されたガラスは、高い歪点、低い溶融温度、高い熱膨張係数を有し、同時に良い靭性を兼ね備え、大規模な工業生産に適するものである。
【0020】
本開示の1つの好ましい実施形態によれば、ガラス組成物において、モル%で、SiO2の含有量が40mol%以上であり、ガラス用組成物は、特定の含有量を有するSiO2、B2O3、P2O5、GeO2、TeO2、Al2O3、Ga2O3、ZnO、Y2O3及びアルカリ土類金属酸化物を含有し、このガラス用組成物により調製されたガラスは、破壊靭性KICが1.0MPa・m1/2よりも大きく、50~350℃の範囲内の熱膨張係数が40×10-7/℃よりも低く、歪点温度が700℃よりも高く、粘度が200ポアズである場合に対応する溶融温度Tmが1550℃よりも低く、成形温度T4と液相線温度Tlとの間の差が90℃よりも大きく、ヤング率が80GPa未満である。製品は、脆性が低く、柔靭性が強いものである。作られた製品は、厚みが0.05mmであるフレキシブルガラスであってもよく、曲率半径が3.5cm未満である。
【0021】
本開示のガラス用組成物又はアルミノ珪酸塩ガラスは、表示デバイス及び/又は太陽電池の調製に用いることができ、特にフラットパネル表示製品のサブストレートガラス基板材料及び/又はスクリーン表面保護用ガラスフィルム層材料、フレキシブル表示製品のサブストレートガラス基板材料及び/又は表面パッケージガラス材料及び/又はスクリーン表面保護用ガラスフィルム層材料、フレキシブル太陽電池のサブストレートガラス基板材料に用い、また、他の低脆性、高柔靭性のガラス材料が必要な応用領域に用いる。
【0022】
本開示の他の特徴とメリットは、後述する発明を実施するための形態の部分において詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の発明を実施するための形態について詳細に説明する。ここで説明する発明を実施するための形態が、単に本開示を説明し解釈するためのものであり、本開示を限定するためのものではないということを理解すべきである。
【0024】
本開示の第1の態様では、モル%で、SiO2、B2O3、P2O5、GeO2及びTeO2の総含有量が60~85mol%であり、Al2O3及びGa2O3の総含有量が3~20mol%であり、ZnO及びY2O3の総含有量が0.1~5mol%であり、アルカリ土類金属酸化物の総含有量が4~30mol%である、ガラス用組成物を提供する。
【0025】
本開示のガラス用組成物において、ネットワーク構造を構成する基質として、SiO2の添加によって、ガラスの耐熱性と化学的耐久性を高めることができ、ガラスが失透し難く、ガラス化過程に寄与する。しかし、過多のSiO2によって、溶融温度が高くなり、脆性が増加するので、生産工程に対して要求が高すぎる。
【0026】
本開示のガラス用組成物において、アルミノ珪酸塩ガラスを構成する基質として、B2O3、P2O5、GeO2、TeO2は、単独でガラスを生成することができ、その添加によって、ガラスの脆性を低減させることができ、同時に、B2O3、P2O5、GeO2、TeO2も良い助溶剤であり、ガラスの溶解温度を大幅に下げることができ、ガラス化過程に寄与する。しかし、過多のGeO2、TeO2によって、ガラス低温粘度が低下するので、好ましくは、モル含有量で、B2O3及びP2O5の含有量の和>0であり、且つB2O3及びP2O5の含有量の和と、B2O3、P2O5、GeO2、及びTeO2の含有量の和との比が、0.6~1であり、特に好ましくは、比が0.68~0.92である。
【0027】
本開示の発明者は、研究において、モル%で、SiO2の含有量が40mol%以上である場合、調製されたガラスの機械性能、耐化学的腐食性能をさらに向上させることができることをさらに発見した。そのため、調製されたガラスの総合性能をさらに向上させ、脆性を低減させるために、好ましくは、モル%で、SiO2の含有量が40mol%以上であり、SiO2、B2O3、P2O5、GeO2及びTeO2の総含有量が60~85mol%である。特に好ましくは、SiO2の含有量が44mol%以上72mol%未満である。
【0028】
本発明のガラス用組成物において、Al2O3の添加により、イオン交換の進み具合及び深度を加速することができ、しかしながら、Al2O3は遊離酸素を獲得する能力が強く、Al2O3を大量に導入すると、ガラス構造の開放程度が低下し、ガラスが剛性となる傾向があり、ガラスの脆性が増加し、同時に、ガラスが失透しやすくなり、熱膨張係数が小さくなり、周辺材料と整合し難くなり、高温表面張力及び高温粘度が過大になり、ガラス生産工程の難度が増加する等を招く。Ga2O3は、Al2O3の部分と作用が類似し、化学強化過程におけるイオン交換速度を大幅に向上させることができ、ガラス歪点を効果的に高め、溶解温度を低速で上昇させることができると同時に、ガラスの耐衝撃強度と靱性を効果的に改良することができる。しかし、半径比効果のため、過多のGa2O3によって、そのネットワーク形成体としての割合が低くなり、ネットワーク外体としての割合が高くなり、上記メリットを弱めると同時に、液相線温度が上昇し過ぎる。故に、Al2O3とGa2O3の添加含有量及び添加割合は、特別に限定されている。総合的に考慮し、モル%で、Al2O及びGa2O3の総含有量が3~20mol%の範囲内にあり、好ましくは、5~17mol%であり、さらに好ましくは、モル%で、Al2O3の含有量と、Al2O3及びGa2O3の含有量の和との比が、0.7~1である。
【0029】
本発明のガラス用組成物において、MgO、CaO、SrO、BaOはいずれもアルカリ土類金属酸化物に属し、それらの添加によって、ガラスの高温粘度を効果的に低減させ、ガラスの溶融性及び成形性を向上させることができ、ガラスの歪点を向上させることができ、且つMgO、BaOは、ガラスの脆性を低減させるという特徴を有する。その含有量が多すぎると、密度が増加し、クラック、失透、分相の発生率がいずれも高まる。そのため、総合的に考慮し、各成分の総モル数を基準として、4~30mol%の、MgO、CaO、SrO、及びBaOの中から選ばれるいずれか1つ又は複数種類のアルカリ土類金属酸化物を含有する。好ましくは、モル含有量で、MgO及びBaOの含有量の和と、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量の和との比が、0.5よりも大きい。
【0030】
本発明のガラス用組成物は、希土酸化物Y2O3が、ガラスのある性能を向上させる面で独特な能力を有し、例えば、ガラスの抗折強度、歪点等の性能は、希土酸化物の添加とともに大幅に向上し、ガラスの脆性の低減、破壊靭性の大幅増加を促し、且つ高温粘度を低減させることができ、ガラス大型工業製造に巨大な利便を与える。ZnOは、ガラスの晶析上限温度を効果的に下げることができ、軟化点以下には、強度、硬度を向上させ、ガラスの耐化学性を増加させ、脆性値を低下させ、ガラス熱膨張係数を低下させる作用を有する。しかし、過多のY2O3によって、非架橋酸素の減少を促し、上記優勢を弱める。過多のZnOの含有量によって、ガラスの歪点が大幅に低下する。そのため、複数種類の要因を総合的に考慮し、組成物のモル含有量を基準として、ZnO及びY2O3の含有量の和が0.1~5mol%の範囲内にある。
【0031】
本発明のガラス用組成物において、ガラス調製工程の違いによって、組成物は、ガラス溶融時の清澄剤をさらに含有してもよく、前記清澄剤は、硫酸塩、硝酸塩、酸化スズ、酸化第一スズの中の少なくとも1種であることが好ましく、各成分の総モル数を基準として、清澄剤の含有量が1mol%以下である。清澄剤の具体的な選択については、特に限定されず、本分野に汎用された各種類の選択であり、例えば、硫酸塩が硫酸バリウムであってもよく、硝酸塩が硝酸バリウムであってもよい。
【0032】
前記ガラス組成物には、清澄剤として、硫酸バリウム及び/又は硝酸バリウム及び/又は硝酸ストロンチウムが含有されている場合、硫酸バリウム、硝酸バリウムの含有量を酸化バリウムの含有量に換算し、硝酸ストロンチウム含有量を酸化ストロンチウムに換算する。このとき、前記ROの含有量は、清澄剤における酸化バリウムの含有量、及び/又は酸化ストロンチウム含有量換算での硫酸バリウム、硝酸バリウム及び硝酸ストロンチウムをさらに含む。
好ましくは、モル%で、B2O3の含有量が0~20mol%であり、
好ましくは、モル%で、P2O5の含有量が0~17mol%であり、
好ましくは、モル%で、GeO2の含有量が0~4mol%であり、
好ましくは、モル%で、TeO2の含有量が0~5mol%であり、
好ましくは、モル%で、Al2O3の含有量が3~18mol%であり、
好ましくは、モル%で、Ga2O3の含有量が0~4mol%であり、
好ましくは、モル%で、ZnOの含有量が0~2.5mol%であり、
好ましくは、モル%で、Y2O3の含有量が0~3mol%である。
【0033】
本開示のさらに好ましい実施形態において、
好ましくは、モル%で、B2O3の含有量が2~20mol%であり、
好ましくは、モル%で、P2O5の含有量が0~14mol%であり、
好ましくは、モル%で、GeO2の含有量が0.1~4mol%であり、
好ましくは、モル%で、TeO2の含有量が0.1~1mol%であり、
好ましくは、モル%で、Al2O3の含有量が3~14mol%であり、
好ましくは、モル%で、Ga2O3の含有量が0~3mol%であり、
好ましくは、モル%で、ZnOの含有量が0.5~1.4mol%であり、
好ましくは、モル%で、Y2O3の含有量が0.4~3mol%である。
【0034】
本開示の1つの好ましい実施形態において、モル%で、式(I)により算出して得たD値が-5~40であり、
式(I):D=P1×(B2O3+P2O5+0.5×GeO2+0.5×TeO 2 )+P2×(1.5×Y2O3+ZnO)+P3×(MgO+BaO)+P4×(1.5×CaO+SrO)+P5×(Al2O3+Ga2O3)+P6×SiO2
ただし、式(I)中、P1の値が-2~0であり、P2の値が-5~-2であり、P3の値が-2~-1であり、P4の値が0~1.5であり、P5の値が1.5~3であり、P6の値が0~0.5であり、
そのうち、SiO2、B2O3、P2O5、GeO2TeO 2 、Al2O3、Ga2O3、ZnO、Y2O3、MgO、CaO、SrO、BaOは、いずれも組成物における当該成分のモル%を表し、
好ましくは、Dの値が-2.1~32であり、さらに好ましくは、Dの値が2~19である。よりさらに好ましくは、P1が-0.5であり、P2が-3であり、P3が-1.5であり、P4が1であり、P5が2であり、P6が0.25である。
【0035】
本発明のガラス用組成物について、それを用いてアルミノ珪酸塩ガラスを調製する時、ガラスに前記優れた総合性能を備えさせることができたのは、主に、組成物における各成分の間の互いの配合、特に、SiO2、B2O3、P2O5、GeO2、TeO2、Al2O3、Ga2O3、ZnO、Y2O3、MgO、CaO、SrO、BaOの間の配合作用、さらに、特定の含有量を有する各成分の間の互いの配合に原因する。
【0036】
本開示の第2の態様では、本開示に記載のガラス用組成物に対して、溶融、成形、焼鈍及び機械加工処理を順に行うことを含むアルミノ珪酸塩ガラスを調製する方法を提供している。
【0037】
本開示の方法において、好ましくは、溶融処理の条件は、温度が1550℃未満であり、時間が1hよりも長いことを含む。当業者は、必要に応じて、具体的な溶融温度と溶融時間を確定することができる。
【0038】
本開示に記載の方法において、好ましくは、焼鈍処理の条件は、温度が750℃よりも高く、時間が0.1hよりも長いことを含む。当業者は、必要に応じて、具体的な焼鈍温度と焼鈍時間を確定することができる。当業者にとって、それは熟知されている。
【0039】
本開示の方法は、機械加工処理の方式について、特に限定されず、本分野の一般的な各種類の機械加工方式であってもよく、例えば、焼鈍処理で得た生成物に対して、切断、研磨、ポリッシング等を行う方式であってもよい。
【0040】
本発明の方法において、フロート法、オーバーフロー法、ダウンドロー法等の各種の一般的なガラス製造方法により、厚みが0.1mmよりも大きいフラットガラス又は厚みが0.1mmよりも小さいフレキシブルガラス(即ち一次成形法で得た厚み<0.1mmのフレキシブルガラス)を生産することができ、又は二次溶融薄化方法により、厚みが0.1mmよりも小さいフレキシブルガラスを生産することもできる。そのため、当該方法は、機械加工処理で得た生成物に対して、二次溶融薄化処理を行い、厚みが0.1mmよりも小さいフレキシブルガラスを調製して得ることをさらに含むことができる。二次溶融薄化処理の具体的な方法については、特に限定されず、本分野に汎用された各種類の方法であってもよく、例えば、二次溶融薄化処理の方法は、フロート法、オーバーフロー法、ダウンドロー法等のガラス製造方法により、厚みが0.1mmよりも小さいフラットガラスを生産し、フラットガラスを、二次延伸成形装置の材料供給口に搬送し、適当な速度V0mm/minで延伸成形炉内に送り込み、延伸成形領域の粘度を105.5~107ポアズの範囲に制御し、延伸機及びドラムにより、適宜な速度V1mm/minでロールツーロール巻き付けを行うことにより、厚みが0.1mmよりも小さい超薄フレキシブルガラス板材を得、前記曳引速度V1がV0よりも大きい。
【0041】
本開示の第3の態様では、上記方法により調製されたアルミノ珪酸塩ガラスを提供する。
【0042】
好ましくは、本発明のアルミノ珪酸塩ガラスは、破壊靭性KICが1.0MPa・m1/2よりも大きく、50~350℃の範囲内の熱膨張係数が40×10-7/℃未満であり、歪点温度が700℃よりも高く、粘度が200ポアズである場合に対応する溶融温度Tmが1550℃よりも低く、成形温度T4と液相線温度Tlとの間の差が90℃よりも大きく、ヤング率が80GPa未満である。
【0043】
前述したように、異なる工程によって、異なる厚みのガラスを製造することができ、フロート法、オーバーフロー法、ダウンドロー法等の各種の一般的なガラス製造方法により、厚みが0.1mmよりも大きいフラットガラス又は厚みが0.1mmよりも小さいフレキシブルガラスを生産することができ、さらに、二次溶融薄化方法により、厚みが0.1mmよりも小さいフレキシブルガラスを生産することもできる。そのうち、厚みが0.05mmのアルミノ珪酸塩ガラスは、曲率半径が3.5cmよりも小さい。
【0044】
本開示の第4の態様では、本発明に記載のガラス用組成物又はアルミノ珪酸塩ガラスの、表示デバイス及び/又は太陽電池の調製における応用、好ましくは、フラットパネル表示製品のサブストレートガラス基板材料及び/又はスクリーン表面保護用ガラスフィルム層材料、フレキシブル表示製品のサブストレートガラス基板材料及び/又は表面パッケージガラス材料及び/又はスクリーン表面保護用ガラスフィルム層材料、フレキシブル太陽電池のサブストレートガラス基板材料の調製における応用、及び他の低脆性、高耐熱性が必要なガラス材料の応用領域における応用を提供している。
【0045】
実施例
以下、実施例により、本発明について詳述する。以下の実施例は、特に断りがない限り、用いられた各材料は、いずれも市販で得られたものであり、特に断りがない限り、用いられた方法は、本分野の一般的な方法である。
【0046】
ASTM E-228を参照して横型膨張計で50~350℃のガラス熱膨張係数を測定し、単位が10-7/℃である。
ASTM C-623を参照してガラスのヤング率を測定し、単位がGPaである。
ASTM E-1820を参照してガラス破壊靭性KICを測定し、単位がMPa・m1/2である。
ASTM C-336を参照して焼鈍温度、歪点テスタでガラス歪点を測定し、単位が℃である。
ASTM C-829を参照して温度勾配炉法でガラス晶析上限温度を測定し、そのうち、液相線温度Tlの単位が℃である。
ASTM C-965を参照して回転高温粘度計でガラス高温での粘度温度曲線を測定し、そのうち、200P粘度に対応する溶解温度Tmの単位が℃であり、40000P粘度に対応する成形温度T4の単位が℃である。
【0047】
式(I)により算出し、脆性因子Dの値を得た場合、P1が-0.5であり、P2が-3であり、P3が-1.5であり、P4が1であり、P5が2であり、P6が0.25である。
【0048】
実施例1~32
表1に示す使用量に従って、各成分を秤量し、均一に混合し、白金坩堝に混合物を入れてから、1530℃の電気抵抗炉で4h加熱し、気泡を排出するように白金ロッドで撹拌した。ステンレス鋼鋳鉄金型内に溶融されたガラス液を鋳込して、所定のブロック状のガラス製品を成形してから、ガラス製品を760℃の焼鈍炉で2h焼鈍し、電源をオフし、25℃まで炉内冷却した。ガラス製品に対して、切断、研磨、ポリッシングを行ってから、脱イオン水で洗浄し、乾燥させ、厚みが0.5mmのガラス製品を製造し得た。各ガラス製品の各種の性能を測定し、その結果については、表1~3を参照する。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
比較例1~7
実施例1~32の方法に従ってガラス製品を調製し、実施例1~32と異なる混合料の成分を表4に示し、得られた製品の性能測定結果を表5に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表1~3と表4におけるデータを比較して分かるように、本開示に提供された方法により調製されたガラス製品は、顕著に低い脆性と、顕著に高い破壊靭性を有する。本発明のガラス用組成物又はアルミノ珪酸塩ガラスは、表示デバイス及び/又は太陽電池の調製に用いることができ、特にフラットパネル表示製品のサブストレートガラス基板材料及び/又はスクリーン表面保護用ガラスフィルム層材料、フレキシブル表示製品のサブストレートガラス基板材料及び/又は表面パッケージガラス材料及び/又はスクリーン表面保護用ガラスフィルム層材料、フレキシブル太陽電池のサブストレートガラス基板材料に用い、また、他の低脆性が必要なガラス材料の応用領域に用いる。
【0055】
一部の実施例及び比較例の方法に従ってガラスを調製してから、二次溶融薄化処理を行い、そのうち、二次溶融薄化処理方法は、切断、研磨、ポリッシングで得た厚みが0.7mmで、幅が50mmであるフラットガラスを、二次延伸成形装置の材料供給口に搬送し、V0mm/minの速度で延伸成形炉内に送り込み、延伸成形領域の粘度Pを制御し、延伸機及びドラムにより、速度V1mm/minでロールツーロール巻き付けを行い、厚みがd1で、幅がd2であるフレキシブルガラスを得た。曲率半径テスタで各ガラスの仕上がり品の最小曲率半径を測定し、一部の実施例の条件及び対応する最小曲率半径は、表5に示されている。
【0056】
【表5】
表5の結果からわかるように、本発明の方法により、厚みが0.05mmであるアルミノ珪酸塩ガラスを調製することができ、その曲率半径が3.5cm未満である。
【0057】
以上、本開示の好ましい実施形態を詳述したが、本開示は、上記実施例形態における具体的な詳細に限らず、本開示の技術思想範囲内において、本開示の技術案に対して複数種類の簡単な変形を行うことができ、それらの簡単な変形は、いずれも本開示の特許請求する範囲に属する。
【0058】
なお、上記発明を実施するための形態に記載の各々の具体的な構成要件は、矛盾が生じない場合、任意の適宜な方式で組み合わせることができ、不要な重複を避けるために、本開示は、各種類の可能な組合せ方式について、別途に説明しない。
また、本開示の様々な異なる実施形態の間も任意に組み合わせてもよく、本開示の思想を逸脱しない限り、同様に本開示に開示された内容と見なされるべきである。