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特許7087125アパタイトカラムを使用したウイルスの精製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】アパタイトカラムを使用したウイルスの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/02 20060101AFI20220613BHJP
【FI】
C12N7/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021009952
(22)【出願日】2021-01-26
(62)【分割の表示】P 2020549831の分割
【原出願日】2020-06-16
(65)【公開番号】P2021193997
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2021-01-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 PROS ONE 14(9):e0222199に掲載(掲載日2019年9月19日)
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501046420
【氏名又は名称】HOYA Technosurgical株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166637
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 圭
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 八重
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-195600(JP,A)
【文献】特開2019-110904(JP,A)
【文献】特表2018-513672(JP,A)
【文献】国際公開第2018/197533(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/123242(WO,A1)
【文献】特開2011-097918(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0105456(US,A1)
【文献】特開2007-238479(JP,A)
【文献】特開平03-254834(JP,A)
【文献】KUROSAWA,Yae et al.,Sequential two-step chromatographic purification of infectious poliovirus using ceramic fluoroapatit,PLOS ONE,2019年09月19日,14(9),e0222199,p.1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00-7/08
G01N 30/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス粒子と不純物とを含む組成物から該不純物を除去する精製方法であって、前記精製方法は、
ウイルス粒子と不純物とを含む組成物を準備するステップと、
リン酸カルシウム系化合物で構成された吸着剤に前記組成物を接触させることにより、該吸着剤に前記ウイルス粒子を吸着させる吸着ステップと、
pH値を第1のpH値から第2のpH値に亘って直線的に変化させた溶液を前記吸着剤に注入することによって前記吸着剤から前記ウイルス粒子を溶出させて溶出液を得るpH勾配溶出工程を含み、
前記第1のpH値が6.0以下であり、前記第2のpH値が7.5以上であり、
前記リン酸カルシウム系化合物は、フルオロアパタイトを主成分とし、酸性条件下でも使用可能なものであり、
前記ウイルス粒子は、前記第1のpH値から前記第2のpH値に亘るpH値の変化に応じて前記吸着剤に対する吸着性が低下するものである精製方法。
【請求項2】
ウイルス粒子と不純物とを含む組成物から該不純物を除去する精製方法であって、前記精製方法は、
ウイルス粒子と不純物とを含む組成物を準備するステップと、
リン酸カルシウム系化合物で構成された吸着剤に前記組成物を接触させることにより、該吸着剤に前記ウイルス粒子を吸着させる吸着ステップと、
pH値を第1のpH値から第2のpH値に亘って変化させた溶液を前記吸着剤に注入することによって前記吸着剤から前記ウイルス粒子を溶出させて溶出液を得るpH勾配溶出工程を含み、
前記第1のpH値が6.0以下であり、前記第2のpH値が7.5以上であり、
前記リン酸カルシウム系化合物は、酸性条件下でも使用可能なものであり、
前記ウイルス粒子は、前記第1のpH値から前記第2のpH値に亘るpH値の変化に応じて前記吸着剤に対する吸着性が低下するものである精製方法。
【請求項3】
ウイルス粒子と不純物とを含む組成物を準備するステップと、
請求項1または2に記載の精製方法によって該組成物中の不純物を除去するステップとを含む、ウイルス粒子の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックアパタイトカラムを使用したウイルスの精製方法に関する。
【0002】
より詳しくは、本発明は、セラミックフルオロアパタイトカラムおよびセラミックハイドロキシアパタイトカラムを使用した感染性ポリオウイルスの連続した2段階クロマトグラフィー精製に関する。
【0003】
本発明の精製方法の背景及び概要は以下の通りである。感染性ウイルスの精製技術は、ワクチン開発と遺伝子治療の用途にとって重要である。しかし、セラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)を使用した標準化された1段階精製技術は、ポリオウイルスには適さないことがわかっている。したがって、我々は、細胞培養上清から、ポリオウイルスの感染性セービン2型ワクチン株を精製するための連続した2段階クロマトグラフィー法を設計した。第1のステップにおいて、我々は、セラミックフルオロアパタイトカラムにおけるpH勾配溶出によって、セービン2型ウイルス画分からタンパク不純物を除去した。第2のステップにおいて、我々は、そのウイルス画分を希釈し、CHApカラムに直接それをロードし、1M塩化ナトリウム存在下でリン酸塩勾配を使用して精製することにより、宿主細胞に由来する2本鎖DNAを除去した。このプロセスは、タンパクと2本鎖DNAに対して、それぞれ、99.95%、99.99%以上の除去率を達成することができ、また、このプロセスは、高度に再現可能であり、スケールアップが容易であった。更に、これは他のウイルス種にも適用可能である。
【背景技術】
【0004】
より安全なワクチンの開発は、副作用が少なくなることを要求する。そのため、食品医薬品局(FDA)のような監督機関は、生産工程および精製工程を改善することを開発業者と製造業者の双方に要求する。超遠心分離、液体クロマトグラフィー(LC)、電気泳動、沈殿および分子篩を含む様々な手順が、ワクチン精製のために開発されてきた。特に、塩化セシウム勾配、スクロース勾配又はイオジキサノール勾配を使用した超遠心分離は、製薬用途のいくつかのウイルス製剤を処理するために使用されてきた。しかし、これらの手順は、ウイルスの感染力を低下させ、宿主細胞DNA等のウイルス粒子に似た物理的特性を有する粒子混入物をウイルス画分から分離することができない。さらに、密度勾配分離は、時間がかかり、スケールアップ性と経済効率が低い。
【0005】
最近の1つの傾向は、液体クロマトグラフィーをウイルス製剤の精製に使用することである。従来の遠心分離と異なり、初期の捕捉ステージから最終の精製段階までにおいて使用するのが簡単であり、直接的なスケールアップを提供するからである。更に、最近は、イオン交換、サイズ排除、疎水的相互作用、金属固定化アフィニティおよびハイドロキシアパタイトクロマトグラフィを含むいくつかのアプローチを用いて、大規模精製(>1013個のウィルス粒子)に液体クロマトグラフィーが使用されている。
【0006】
生物学的安全性の理由により、ハイドロキシアパタイトは、バイオマテリアルエンジニアリング及び再生医療のみならず、医薬品の精製においても一般的に使用されている。最近、我々のチームは、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーの手順を標準化し、ウイルスに感染したC6/36細胞の培養上清とマウス脳ホモジェネートから、1段階ハイドロキシアパタイト液体クロマトグラフィーを使用してデングウィルス2型および日本脳炎ウイルスをそれぞれ精製することに成功した。走査電子顕微鏡分析は、クロマトグラフィーのプロセスによって、ウイルス粒子がハイドロキシアパタイトの表面に吸着し、表面から放出されたことを確認し、ハイドロキシアパタイトのリン酸塩依存的な吸着/脱着メカニズムを明確に示した。したがって、我々は、アパタイトをベースとした材料が、疾病用のワクチンや遺伝子治療用のベクターの精製に適しており、アパタイトをベースとした材料の有効性を高め、コストを低減させると考えた。
【0007】
現在のところ、ソーク(Salk)ワクチンとセービン(Sabin)ワクチンの2種類のポリオワクチンが利用可能である。ソークワクチンは、ホルマリンで不活性化されたポリオウイルス強毒株で注射可能なワクチンであり、セービンワクチンは、経口弱毒生ワクチンである。セ―ビン経口ワクチンは、ワクチンに由来するポリオウイルスが影響することによって、ワクチンに関連した麻痺性急性灰白髄炎を発症させることがある。従って、無感染性の予防接種方法を開発することが優先事項になっている。そのため、最近は、より安全な株から、注射可能なセービンワクチンが開発されており、最近は小さな会社がより小さい設備投資によってこのワクチンを製造することができようになっている。これは、セービン株が、他の野生株より感染性は低く、高いバイオセーフティレベルを要求しないからである。ポリオウイルスは、酸に安定なピコルナウイルス科に属し、pH3以下でも感染力を保持する。球状ウイルス粒子は、脂質エンベロープを含んでおらず、直径が約30nmであり、VP1、VP2、VP3及びVP4の4つの構造タンパクからなる。
【0008】
ポリオウイルスに特化した精製方法としては、例えば、特許文献1に、陽イオン交換クロマトグラフィー又はサイズ排除クロマトグラフィーを用いた方法が開示されている。しかし、この技術は、イオン交換クロマトグラフィーを使用することに起因して、ウイルスを変性させてしまうおそれがあった。また、この精製方法は、サイズ排除クロマトグラフィによってサンプルが希釈されてしまい、希釈されたサンプルを濃縮する工程が必要になるため、生産効率が低いという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2016/012445号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、不純物タンパク質をより効果的に除去することができるウイルスの精製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記に記載の本発明により達成することができる。
[A]
ウイルス粒子と不純物とを含む組成物から該不純物を除去する精製方法であって、前記精製方法は、
ウイルス粒子と不純物とを含む組成物を準備するステップと、
リン酸カルシウム系化合物で構成された吸着剤に前記組成物を接触させることにより、該吸着剤に前記ウイルス粒子を吸着させる吸着ステップと、
pH値を第1のpH値から第2のpH値に亘って直線的に変化させた溶液を前記吸着剤に注入することによって前記吸着剤から前記ウイルス粒子を溶出させて溶出液を得るpH勾配溶出工程を含む、精製方法。
[B]
ウイルス粒子と不純物とを含む組成物から該不純物を除去する精製方法であって、前記精製方法は、
ウイルス粒子と不純物とを含む組成物を準備するステップと、
リン酸カルシウム系化合物で構成された吸着剤に前記組成物を接触させることにより、該吸着剤に前記ウイルス粒子を吸着させる吸着ステップと、
pH値を第1のpH値から第2のpH値に亘って変化させた溶液を前記吸着剤に注入することによって前記吸着剤から前記ウイルス粒子を溶出させて溶出液を得るpH勾配溶出工程を含み、
前記第1のpH値が6.0以下であり、前記第2のpH値が7.5以上である精製方法。
[C]
ウイルス粒子と不純物とを含む組成物を準備するステップと、
請求項1に記載の精製方法によって該組成物中の不純物を除去するステップとを含む、ウイルス粒子の生産方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の精製方法によれば、不純物タンパク質をより効果的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】標準化された2段階精製手順を示す。
図2A】セラミックフルオロアパタイト(CFAp)カラムにおけるpH勾配溶出によるセービン2型ウイルスの精製を示す。
図2B】SDS-PAGEを使用した画分の分析を示す。
図3A】1.0M NaClの存在下でセービン2型ウイルスを含む細胞培養上清を精製した際のクロマトグラムを示す。
図3B】1.5M NaClの存在下でセービン2型ウイルスを含む細胞培養上清を精製した際のクロマトグラムを示す。
図4A】pH勾配溶出によるセービン2型ウイルス精製(ステップ1)を示す。
図4B】塩濃度勾配溶出によるセービン2型ウイルス精製(ステップ2)を示す。
図4C】SDS-PAGEを使用した2段階精製により得た画分の分析を示す。
図5】本発明の一実施形態における精製方法を適用したタンデムカラムシステムを示す。
図6A】pH6.4においてセラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムで分離したセービン2型ウイルスを含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。
図6B】pH7.2においてセラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムで分離したセービン2型ウイルスを含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。
図6C】pH8.2においてセラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムで分離したセービン2型ウイルスを含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。
図7A】pH6.4においてセラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムにより分離されたデングウイルス1型を含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。
図7B】pH6.4においてセラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムにより分離されたデングウイルス1型を含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。
図7C】異なるpH値においてセラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムにより分離されたデングウイルス1型を含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。図7CはpH8.2の場合を示す。
図8A】pH6.5においてセラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムにより分離したインフルエンザウイルスNYMC X-181を含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。
図8B】pH6.8においてセラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムにより分離したインフルエンザウイルスNYMC X-181を含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。
図8C】pH7.5においてセラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムにより分離したインフルエンザウイルスNYMC X-181を含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。
図9A】NaClの非存在下(0M)での、インフルエンザウイルスNYMC X-181を含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。
図9B】NaClの存在下での、インフルエンザウイルスNYMC X-181を含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。図9Bは0.14Mの場合を示す。
図9C】NaClの存在下での、インフルエンザウイルスNYMC X-181を含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。図9Cは0.5Mの場合を示す。
図9D】NaClの存在下での、インフルエンザウイルスNYMC X-181を含む細胞培養上清のクロマトグラムを示す。図9Dは1Mの場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態における好ましい態様について以下に説明する。
【0015】
上記pH勾配溶出において用いられる吸着剤は、酸性条件下でも使用可能なものであることが好ましい。酸性条件下でも使用可能であるとは、カラムにロードされる溶液のpH値が7.0より小さくても、当該吸着剤が実質的に溶解又は分解されず、当該吸着剤が有する分離機能を発揮することを意味する。
【0016】
上記pH勾配溶出において用いられる吸着剤は、式:(CA)10(PO(F)で表されるフルオロアパタイトを主成分とすることが好ましい。フルオロアパタイトは、球状粒子であることが好ましい。球状粒子であるフルオロアパタイトとしては、例えば、Biorad社のCFT(セラミックフルオロアパタイト)を用いることができる。
【0017】
上記pH勾配は、第1のpH値から第2のpH値に亘ってpH値を変化させるものであり、第1のpH値が酸性であり、前記第2のpH値が中性又はアルカリ性である。
【0018】
上記第1のpHは、ウイルスの保持容量を増加させる観点等から、3.0ないし7.0であることが好ましく、3.5ないし6.5であることがより好ましく、4.0ないし6.0であることがさらに好ましく、4.5ないし5.5であることが最も好ましい。
【0019】
上記第2のpHは、7.4ないし9.0であることが好ましく、7.6ないし8.8であることがより好ましく、7.8ないし8.6であることがさらに好ましく、8.0ないし8.4であることが最も好ましい。
【0020】
上記塩濃度勾配による溶出に用いられる吸着剤は、式:Ca10(PO(OH)で表されるハイドロキシアパタイト、を主成分とすることが好ましい。ハイドロキシアパタイトは、球状粒子であることが好ましい。球状粒子であるハイドロキシアパタイトとしては、例えば、Biorad社のCHT TYPE1およびCHT TYPE2を用いることができる。
【0021】
上記塩濃度勾配において、ウイルスを溶出させるために濃度を勾配させて用いられる塩は、リン酸緩衝剤であることが好ましい。つまり、ウイルスを溶出するための溶出液として、リン酸系緩衝液を用いることが好ましい。このリン酸系緩衝液としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウムおよびリン酸アンモニウム等のリン酸塩を含む水溶液が挙げられる。また、緩衝液は、MES(2-モルホリノエタンスルホン酸)緩衝液、硫酸ナトリウム等の硫酸塩であってもよい。
【0022】
上記塩濃度勾配は、溶出のために用いられる溶液中の塩濃度を第1の濃度から第2の濃度に亘って増大させるものであることが好ましい。
【0023】
上記第1の濃度は、1mMないし50mMであることが好ましい。
【0024】
上記第2の濃度は、80mMないし270mMであることが好ましい。
【0025】
リン酸系緩衝液を用いる場合、このリン酸系緩衝液には、さらに、リン酸塩とは異なる他の塩が含まれていてもよい。上記他の塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩であってもよい。上記他の塩は、NaCl、KCl、NHCl、MgClであってもよい。上記他の塩はNaClであることが好ましい。
【0026】
上記他の塩の濃度は、0.1M以上4.0M以下であってもよい。上記他の塩の濃度は、0.2M以上2.5M以下であるのが好ましい。上記他の塩の濃度は、0.5M以上2.0M以下であるのがより好ましく、0.75M以上1.75M以下であるのがより好ましく、1.0M以上1.5M以下であるのが最も好ましい。かかる濃度で他の塩を含有するリン酸系緩衝液を用いることにより、ウイルスをより高純度に分離することができる。
【0027】
上記塩濃度勾配において用いられる溶出液のpHは、ハイドロキシアパタイトを溶解させない観点で、7.0ないし9.0であることが好ましい。より好ましくは7.05ないし8.0であり、さらに好ましくは7.1ないし7.5である。
【0028】
本発明の精製方法によって除去されるdsDNA(2本鎖DNA)の除去率は、これらのステップを行う前のサンプルに含まれるdsDNAの全質量を100質量%としたとき、97%以上であることが好ましい。この除去率は、98%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましく、99.9%以上であることが最も好ましい。
【0029】
上記ステップ1およびステップ2における溶出工程におけるバッファーの流速は、分離操作に要する時間を短くし、目的物をより確実に分離する観点から、0.1mL/分以上10mL/分以下程度であるのが好ましく、0.2mL/分以上5mL/分以下であるのがより好ましい。
【0030】
上記pH勾配溶出と上記塩濃度勾配溶出は、どちらを先に実施してもよい。これらの両方を行うことによって、タンパク質の不純物とDNA不純物の両方を除去することができる。pH勾配溶出を行い、その後に上記塩濃度勾配溶出を行うことが好ましい。塩濃度勾配において用いられる塩化ナトリウム等の上記他の塩の存在下では、サンプル中の不純物DNAが吸着剤により多く吸着してしまうため、pH溶出を経て不純物DNAの濃度が低められたサンプルを塩濃度勾配に供することにより、塩濃度勾配において吸着剤に吸着してウイルスと分離することが難しくなる不純物DNAの量を少なくし、結果として得られるウイルスの純度を高めることができるためである。また、先に行った溶出で得た溶出液を希釈して次の溶出に供してもよい。
【0031】
本発明の精製方法は、正又は負に帯電した部分を有する化合物に好ましく使用される。本発明の精製方法は、正又は負に帯電したタンパク質を対象とすることが好ましい。ポリオウイルス、カリシウイルス、インフルエンザウイルス等のRNAウイルス又はアデノウイルス等のDNAウイルスを対象とすることがより好ましく、ポリオウイルス等の酸性条件下でも実質的に失活しないウイルスを対象とすることがさらに好ましい。
【0032】
本明細書において、「実質的に失活しない」とは、あるウイルスを含む試料の感染価が、酸性条件下等の条件におかれても実質的に低下しないことを意味する。一実施形態において、この「実質的に失活」していない感染価は、元の試料が有する感染価の70%以上あることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが最も好ましい。
【0033】
本明細書において、組成物Aが化合物Bを「主成分とする」とは、組成物Aの全質量を100質量%としたとき、化合物Bの質量が50%以上であることを意味する。一実施形態において、この割合は、70%以上あることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが最も好ましい。
【0034】
実施例
ここで、我々は、ポリオウイルスのセービン2型株を精製するための、セラミックフルオロアパタイト(CFAp)とCHApを用いた連続した液体クロマトグラフィー手順の設計および試験バリデーションについて報告する。
【0035】
材料と方法
セービン2型ウイルスを含む細胞培養上清の調製
Vero細胞(the American Type Culture Collection、マナッサス、バージニア、アメリカ)を、10%ウシ胎児血清(FBS、サーモフィッシャ・サイエンティフィック社)およびL-グルタミン(2mM、サーモフィッシャ・サイエンティフィック社)を含むミニマム・エッセンシャル・メディウム(MEM、サーモフィッシャ・サイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ、アメリカ)で、225cmフラスコ(住友ベークライト社、東京、日本)において、5%CO、37℃で3日間培養した。その後、この培地を2%FBSおよび2mM L-グルタミンを含むMEMに変更し、その細胞をさらに1日間培養した。その培地をFBSを含まないMEM(63mL)に変更した後、セービン2型ウイルスをMOI0.01で細胞単層上に接種し、37℃で2日間培養した。その後、細胞培養上清を回収し、細胞デブリを除去するために0.45μmフィルター(ポリエーテルスルフォン細胞膜、サーモフィッシャサイエンティフィック社)を通し、使用時まで-80℃で安定化剤なしで保管した。このウイルスは、この条件下で高度に安定しており、4か月の保管期間に亘ってTCID50値の変化を示さなかった(データ省略)。
【0036】
CHApとCFApのカラム
CHT、セラミック・ハイドロキシアパタイト、タイプII(CHAp;粒径40μm)およびCFT、セラミック・フルオロアパタイト・タイプII(CFAp;粒径40μm)をバイオ・ラッド・ラボラトリーズ社(ヘルクレス、カリフォルニア、アメリカ)から購入した。これらは、厳密な仕様を有するセラミック・タイプの材料であり、その粒子を、自社で乾燥法を用いて、空のステンレス鋼カラム(4.6mmi.d×35mm、杉山商事、神奈川、日本)に詰めた。
【0037】
クロマトグラフィー手順
クロマトグラフィーは、10mL又は20mLの試料ループを用いて、1.0mL/分の流速で、BioLogic DuoFlow(商標)システム(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ社)を使用して行った。このサンプルを、CHAp/CFApカラムにロードし、10mMから600mMのリン酸ナトリウムバッファー(NaPB)の直線的濃度勾配を使用して溶出させた。260nm、280nmの紫外線(UV)吸収度および電気伝導度について、得られた溶出液を測定した。回収した画分を4℃に維持し、直ちに下記の評価のために使用した。使用前にバッファーをフィルター(0.22μm)に通した。フラクションコレクターを生物学的安全キャビネットの中に設置し、チューブをオートクレーブ滅菌した。さらに、使用前にポンプ、カラム及びラインの内部を消毒用エタノール(甘糟化学産業株式会社、東京、日本)で滅菌し、オートクレーブ滅菌された超純水と、その後の600mM NaPBで洗浄し、10mM NaPBで平衡化した。試験後、このカラムとシステムを、10カラム容積の0.5M NaOHで殺菌し、アルカリ性溶液を除去するためにオートクレーブ滅菌した超純水で洗浄した。
【0038】
ウイルス画分の感染価の測定
セービン2型ウイルスの力価は、96ウェルマイクロプレートの中のVero細胞のコンフルエント単層を使用して50%組織培養感染量(TCID50)により得られた。コンフルエント単層を準備するために、Vero細胞(100μL、1×10細胞/mL)を、10%FBSを含むMEMの中で37℃で1日培養した。液体クロマトグラフィー分離によって得られた画分を、10%FBSを含むMEMでそれぞれ10倍に階段希釈した。得られた希釈液(50μL)を、各ウェル(n=3)の中に接種し、1週間培養した。その後、細胞変性が生じたかどうか判定するために、そのマイクロプレートの各ウェルを、光学顕微鏡CKX31(オリンパス株式会社、東京、日本)で観察した。力価はReed Muench方法を使用して計算した。
【0039】
その他の評価
Quant-iT(商標)PicoGreen dsDNA Assay Kit(サーモフィッシャ・サイエンティフィック社)及びMicro BCA; Protein Assay Kit(サーモフィッシャ・サイエンティフィック社)を使用して、キット付属の手順書に従い二本鎖DNA(dsDNA)およびタンパクの濃度を測定した。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS―PAGE)のために、液体クロマトグラフィー画分を、限外ろ過(Ultracel YM-10、 Millipore社、ビルリカ、マサチューセッツ、アメリカ)で濃縮し、15%ポリアクリルアミドゲル(c-PAGEL、ATTO社、東京、日本)にアプライした。各タンパクバンドは銀染色法によって視覚化した。分子量は、Gel Doc(商標)EZ Imager(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ社)によって算出した。
【0040】
結果
セービン2型ウイルスの精製のための2ステップ手順
最初に、我々は、弱毒化セービン2型ウイルスを精製するために、ワンステップのCHApクロマトグラフィー法を使用した。しかし、この方法を使用してウイルス画分からタンパクおよびDNA不純物の双方を分離することはできなかった。そのため、我々は、CHApクロマトグラフィーを実行する前の第1のステップとして、CFApクロマトグラフィーによる分離を導入することを試みた。この2段階クロマトグラフィー手順の概要を図1に示す。ステップ1において、pH勾配溶出を使用したCFApクロマトグラフィーによって、感染細胞の様々なタンパク混合物を含む細胞培養上清から、ウイルス粒子を直接分離した。ステップ2において、高濃度の塩化ナトリウム(NaCl)を含むNaPB濃度勾配溶出法を使用したCHApクロマトグラフィーによって、得られたウイルス画分を分離して、その画分から混入dsDNAを除去した。我々は、ウイルスを分離するために、以下に述べられるように各ステップを最適化した。
【0041】
図1 標準化された2段階精製手順
CFAp(セラミックフルオロアパタイト)
CHAp(セラミックハイドロキシアパタイト)
NaPB(リン酸ナトリウム・バッファー)
【0042】
ステップ1:CFApカラムからのセービン2型ウイルスのpH勾配溶出
我々は、異なるpH値で、NaPBの同様の濃度勾配を用いた溶出により、CHApカラムで、3種のウイルス[ポリオウイルスセービン2型;デングウイルス タイプ1(Hawaii) (ウイルス学分野, 熱帯医学研究所、長崎大学、日本);及び、インフルエンザウイルス NYMC X-181(National Institute for Biological Standards and Control, Hertfordshire, 英国)]を分離した(図6Aないし図8C)。我々は、ウイルスの物理化学的性質に拘わらず、バッファーのpHが低下するにつれて、これらのウイルスの保持容量が増加することを発見した。しかし、pH6.4において、セービン2型ウイルス画分は、タンパク不純物を含んでいた(図6A~図6C)が、デングウイルス画分は、タンパク画分から分離されたと考えられた(図7A~図7C)。そのため、我々は、CFApクロマトグラフィーを適用することを試みた。CFApクロマトグラフィーは、CHApと同様の分離を示すが、CHAp(適用可能なpH領域は6.5ないし14)と比較して、酸性に高い耐性(適用可能なpH領域は5~14)がありバッファーのpHを下げることが出来る。我々は、pH勾配の使用によって、低いpHとウイルスとの間の接触時間を減少させ、300mM NaPB pH5.0から8.2までの直線的なpH勾配を使用したCFApカラムにより、細胞培養上清からセービン2型ウイルスを分離した(図2A)。ウイルスの平均保持容量は、9.6±0.44mL(11回の独立した測定値、平均±標準偏差)であるとわかった。このことは分離の高い再現性を示している。得られた画分(図2Aの「Fr.A」)は、TCID50において94.1%±42.2%の平均回収率(11回の独立した測定値)と、91.87%の平均タンパク質除去率(2回の独立した測定値)を示した。SDS-PAGEを使用した画分の分析では、約37、32および30kDaの3本のバンド(図2B)が示された。これは、セービン2型ウイルスのカプシドタンパクVP1、VP2及びVP3の以前に報告されている分離パターンに適合していた。このことは、ウイルスがタンパク夾雑物から分離されたことを示している。しかし、この画分は、除去する必要がある宿主細胞に由来するdsDNAを依然として含んでいた(平均除去率88.15%、2回の独立した測定値)。
【0043】
図2における試験の内容を下記に説明する。
図2 セラミックフルオロアパタイト(CFAp)カラムにおけるpH勾配溶出によるセービン2型ウイルスの精製
(A)以下の条件下で得られたクロマトグラム:
カラム、CFAp;
サンプル(量)、セービン2型ウイルスを含む細胞培養上清(5mL);
カラム洗浄、10mMリン酸ナトリウムバッファ(NaPB;pH6.4、10mL)および300mM NaPB(pH6.4、20mL);
平衡化(300mM NaPB(pH5、15 mL));
溶出、10mLに対してpH5からpH8.2までの300mM NaPBの直線的pH勾配);
分離後の洗浄、300mM NaPB(pH8.2、5mL)および600mM NaPB(pH8.2、10mL);
青線、280nmの紫外線(UV)吸収度;
黒破線、電気伝導度;
赤線(50%組織培養感染量(TCID50)における感染力);
紫線、二本鎖DNA(dsDNA)の量。
「Fr.A」を評価のためにプールした。
(B)ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)分析
分子量分画10000の限外濾過によって、細胞培養上清及びプールされたFr. Aをそれぞれ10倍、30倍に濃縮した。マーカータンパクの分子量はkDaで与えられる。
【0044】
ステップ2:2本鎖DNAからのCHApによるセービン2型ウイルスの分離
移動相へのNaCl添加の影響
ハイドロキシアパタイトのリン酸サイト表面の過剰なナトリウムイオンがリン酸サイトとDNAとの間のクーロン反発力を減少させて、その結果として、DNAに対するカルシウムサイトの相対的親和性を高めるという知識に基づいて、次に、我々は、ステップ2の移動相中の高濃度のNaClによってウイルス画分から2本鎖DNAを除去することが可能になるかどうかを調べた。これを評価するために、我々は、0ないし1.5M NaCl存在下で、2種のウイルス(インフルエンザウイルスNYMC X-181及びネコカリシウイルス)を分離した。我々は、バッファー中のNaCl濃度が増加するにつれて2本鎖DNAの保持容量が増加し、ウイルス粒子の保持容量が減少したことを発見した(図)。したがって、移動相中の高濃度のNaClは、ウイルス画分から2本鎖DNAを除去するのに有効であることがわかった。我々は、細胞培養上清中の2本鎖DNAからセービン2型ウイルスを分離するために、移動相の中で1Mおよび1.5MのNaClを使用した(図3)。両方の分離において、ウイルス粒子と比較して2本鎖DNAの保持量が増加し、1M NaClの添加がウイルスピークから2本鎖DNAを除去するのに充分であったことを示していた(除去率97.32%)。更に、この分離の再現性は高く、濃度勾配溶出開始後のウイルス保持容量は、5.0±0.5mLであった(3回の独立した測定値)。
【0045】
図3における試験の内容を下記に説明する。
図3 NaClの存在下におけるセービン2型ウイルスを含む細胞培養上清のクロマトグラム
分離は、以下に記載の条件下で、(A)1M NaCl、(B)1.5M NaClが存在する状態で行った。条件:
カラム、セラミックハイドロキシアパタイト(CHAp);
サンプル(量)、セービン2型ウイルス(5mL)を含む細胞培養上清;
バッファーpH、7.2;
カラム洗浄、10mMリン酸ナトリウムバッファー(NaPB;9mL);
平衡化、NaClを含む10mM NaPB(14mL);
溶出、30mLに対してNaClを含む10mMから600mMのNaPBの直線的濃度勾配;
分離後の洗浄、600mM NaPB(10mL)。
線は図2と同様である。
TCID50、50%組織培養感染量
【0046】
セービン2型ウイルスの連続した2段階クロマトグラフィー精製
我々は、細胞培養上清からセービン2型ウイルスを分離するために、2ステップの連続した手順(上述されているステップ1および2)を行った。代表的なケースを、図4に示す。
【0047】
CFApカラムにおけるpH勾配溶出によってウイルス粒子を分離した(図4A)。前述で得られた平均保持容量に基づいて、得られたウイルス画分「Fr.B」をプールした。その後、0.9%NaClでFr.Bを6.7倍に希釈し、CHApカラムにロードし、1M NaClを含むNaPB(pH 7.2)の直線的濃度勾配によって溶出させた(図4B)。ピークTCID50は、3ないし7 mL(Fr.C)の保持容量で検出され、高度に精製されたカプシドタンパクを含んでいた(図4B及び図4C)。
【0048】
図4における試験の内容を下記に説明する。
図4 セービン2型ウイルスの連続した―2段階精製
(A)セラミックフルオロアパタイト(CFAp)カラムにおけるpH勾配溶出によるセービン2型ウイルスの精製(ステップ1)。
カラム、CFAp;
サンプル(量)、セービン2型ウイルスを含む細胞培養上清(10mL);
洗浄、10mMリン酸ナトリウムバッファー(NaPB)(pH6.4、9mL)及び300mM NaPB(pH6.4、20mL);
平衡化、300mM NaPB(pH5、15mL);
溶出、10mLに対して300mM NaPBのpH5からpH8.2までの直線的pH勾配;
洗浄後の分離、300mM NaPB(pH8.2、5mL)及び600mM NaPB(pH8.2、10 mL)。
線は図2と同様である。Fr.Bをプールし、ステップ2でさらに精製した。

(B)セラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムにおける1M NaClを含むNaPB溶出による、Fr.Bからの2本鎖DNA(dsDNA)の除去(ステップ2)
カラム、CHAp;
サンプル(量)、(A)において得られたFr.Bを、0.9%NaClで6.7倍に希釈したもの(17mL);
バッファー、pH7.2;
カラム洗浄、10mM NaPB(13mL);
平衡化、1M NaClを含む10mM NaPB(14mL);
溶出、10mLに対して、1M NaClを含む10mMから187mMまでのNaPBの直線的濃度勾配;
洗浄、600 mM NaPB(10mL)。
さらなる評価のために、Fr.Cをプールした。

(C)2ステップ精製により得られたプール画分のドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)分析

上記(B)でプールしたFr.C及び細胞培養上清を、分子量分画10000の限外濾過により、それぞれ100倍、10倍に濃縮した。サイズは左側のkDaで与えられる。矢印は、画分Cの中の主なタンパクを示している。TCID5050%組織培養感染量
【0049】
ディスカッション
臨床試験、前臨床試験、又は、商業的製剤において使用されるワクチンを製造する場合、その目標は、精製時に、不純物を最小化し、ワクチンの回収率を最大化することである。不純物は、典型的には、宿主細胞に由来するDNAとタンパク、細胞培養培地の成分、及び/又は、精製工程で放出されるいくつかのリガンドである。この研究において、我々は、濃縮やバッファー交換をせずに、細胞培養上清から直接、セービン2型ウイルスの精製に成功した。TCID50における58.7%±30.0%の平均回収率を達成し、タンパク、2本鎖DNAの平均除去率は、それぞれ、99.95±0.006%、99.99%±0.003%を達成した(3回の独立した試験)。
【0050】
ステップ1において、細胞培養上清を、CFApカラムに直接ロードし、pH勾配で溶出させた。ステップ2において、得られたウイルス画分を0.9%NaClで希釈し、CHApカラムにロードし、高濃度のNaClの存在下でNaPB勾配により溶出させた。
ステップ1および2のいずれもが再現性が高いので、検出工程の必要もなくウイルス画分を得ることができた。この保持容量に依存した分離は、ワクチンを作るのに必要な時間およびコストを低減するはずである。更に、この手順は、現在のところ多段階精製工程およびオフライン精製工程を含んでいるが、今後すべての精製ステップを自動化することは可能となるだろう。さらに、この2ステップのクロマトグラフィーの精製は、スケールアップ可能なプロセスを使用して構築されているので、他の現行の方法よりもスケールアップがより簡単である(図5)。
【0051】
図5の略語は下記を示す。
図5 タンデムカラムシステム
CFAp、セラミックフルオロアパタイト;
CHAp、セラミックハイドロキシアパタイト;
NaPB、リン酸ナトリウムバッファー;
PV、ポリオウイルス。
【0052】
2ステップのクロマトグラフィー精製は、ソーク、セービン1型および3型のような他のポリオウイルスのみならず、A型肝炎ウイルス、ノロウイルス及びネコカリシウイルスを含む、他の非エンベロープウイルスを精製するのにも役立つであろう。しかし、ステップ1がいくつかのウイルスを破壊する低pHを使用するので、このプロセスは、いくつかの方法論の限定をしている。従って、このプロセスは、酸性pH値において不安定なフラビウイルスの精製には適用可能ではないかもしれない。ワクチン生産におけるそれらの役割に加えて、感染性ウイルス精製技術は、遺伝子治療の分野においても重要な役割を果たす。特に、アデノウイルスが遺伝子形質導入に最もふさわしいプラットフォームの1つと考えられるので、アデノウイルスの大規模精製には緊急の臨床的必要性がある。また、他のいくつかの遺伝子治療は、臨床的に適切な遺伝子を発現するウイルスベクターで良好な結果が出ている。例えば、腫瘍溶解性アデノウイルスは、抗腫瘍薬剤として最近注目を集めており、そのウイルスを使用した多数の研究が、世界中で行われている臨床試験データベースであるClinicalTrials.Gov(https://clinicaltrials.gov/)に登録されている。この新しい精製方法は、酸性の精製条件に耐性があるアデノウイルスに適しているに違いない。
【0053】
サポート情報
6A~図6C
異なるpH値でのセラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムで分離したセービン2型ウイルスを含む細胞培養上清のクロマトグラム
分離は、(A)pH6.4、(B)pH7.2、及び、(C)pH8.2のバッファーpHで行った。
カラム、CHAp(40μm);
サンプル(量)、セービン2型ウイルスを含む細胞培養上清(5mL);
カラム洗浄および平衡化、10mMリン酸ナトリウムバッファー(NaPB;11mL);
溶出、20mLに対して10mMから300mMまでのNaPB直線的濃度勾配;
分離後の洗浄、600mM NaPB(8mL)。
青線、280nm紫外線(UV)吸収度;
黒破線、電気伝導度;
赤線、50%組織培養感染量(TCID50)における感染価;
紫線、2本鎖DNA(dsDNA)量。
【0054】
7A~図7C
異なるpH値においてセラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムにより分離されたデングウイルス1型を含む細胞培養上清のクロマトグラム
分離は、(A)pH6.4、(B)pH7.2および(C)pH8.2のバッファーpHで行った。
カラム、CHAp(40μm);
サンプル(量)、デングウイルス1型を含む細胞培養上清(10mL);
カラム洗浄および平衡化、10mMリン酸ナトリウム・バッファー(NaPB;10mL);
溶出、30mLに対して10mMから300mMまでのNaPB、及び、8mLに対して300mMから600mMまでの直線的濃度勾配;
洗浄後の分離、600mM NaPB(5mL)。
線は、赤線を除いて図6A~図6Cと同様である。赤線は、赤血球凝集(HA)アッセイにおけるウイルス活性を示す。
【0055】
8A~図8C
異なるpH値においてセラミックハイドロキシアパタイト(CHAp)カラムによって分離したインフルエンザウイルスNYMC X-181を含む細胞培養上清のクロマトグラム
分離は、(A)6.5、(B)6.8および(C)7.5のバッファーpH値で行った。
カラム、CHAp(40μm);
サンプル(量)、インフルエンザウイルスNYMC X-181を含む細胞培養上清(5mL);
カラム洗浄および平衡化、10mMリン酸ナトリウムバッファー(NaPB;15mL);
溶出、30mLに対して10mMから600mMまでのNaPBの直線的濃度勾配;
洗浄、600mM NaPB(5mL)。
線は、赤線を除いて図6A~図6Cと同様である。赤線は、赤血球凝集(HA)アッセイにおけるウイルス活性を示す。
【0056】
9A~図9D
NaClの存在下での、インフルエンザウイルスNYMC X-181を含む細胞培養上清のクロマトグラム
バッファーは、(A)0M、(B)0.14M、(C)0.5M、及び、(D)1MのNaClを含んでいた。
カラム、セラミックハイドロキシアパタイト(CHAp);
サンプル(量)、インフルエンザウイルスNYMC X-181を含む細胞培養上清(5mL);
バッファーpH、7.5;
カラム洗浄および平衡、NaClを含む5mMリン酸ナトリウムバッファー(NaPB(15mL);
溶出、30mLに対して、NaClを含む5mMから600のmMまでのNaPBの直線的濃度勾配;
分離後の洗浄、600mM NaPB(5mL)。
線は、赤線を除いて図6A~図6Cと同様である。赤線は、赤血球凝集(HA)アッセイにおけるウイルス活性を示す。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D