(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】防曇層、及びその利用
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20220613BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20220613BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20220613BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D133/00
C09K3/18
B32B27/20 Z
(21)【出願番号】P 2021126606
(22)【出願日】2021-08-02
【審査請求日】2021-10-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】光本 政敬
(72)【発明者】
【氏名】森井 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】大黒 整二
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208735(WO,A1)
【文献】特開2019-142196(JP,A)
【文献】国際公開第2020/031885(WO,A1)
【文献】特開2001-262132(JP,A)
【文献】特開平10-025468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機微粒子(A)
、硬化剤(B)、及び樹脂(C)を含む、組成物から形成されてなる防曇層であって、
前記防曇層は、固形分換算として、前記有機微粒子(A)の含有量が、58質量%以上、99質量%以下であり、
前記防曇層は、80℃の加熱環境下に静置する前における光沢値(60°)と、前記加熱環境下に240時間静置した後、23℃、50%RHの環境下に1時間静置した後における前記防曇層の光沢値(60°)との変化率が、-5%以上+5%以下である、防曇層。
【請求項2】
表面粗さRaが、5nm以上、200nm以下を有する、請求項1に記載の防曇層。
【請求項3】
前記防曇層は、前記加熱環境下に静置する前における光沢値(60°)が、150以上200以下である、請求項1又は2に防曇層。
【請求項4】
前記有機微粒子(A)は、粒子径D50が、5nm以上、200nm以下を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の防曇層。
【請求項5】
前記有機微粒子(A)は、ガラス転移温度が60℃以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の防曇層。
【請求項6】
固形分換算として、前記有機微粒子(A)がアクリレート共重合体の粒子であり、ホモポリマーのガラス転移温度が-40℃以下である単量体に由来する構成単位の含有量が、前記アクリレート共重合体の100質量%に対して、40質量%以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の防曇層。
【請求項7】
基板層(a)と、
防曇層(b)とを備え、
前記防曇層(b)は、請求項1~
6のいずれか1項に記載の防曇層であり、前記基板層(a)上に配置される、
基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇層、及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属アルコキシド系化合物と平衡水蒸気圧が低い酸化物微粒子及び光触媒活性なアナタ-ゼ結晶形のチタニア微粒子を分散した溶液から成膜してなる防曇性薄膜が記載されている。
【0003】
特許文献2には、透過すべき光の波長λより小さい微細凹凸構造を表面に有する吸水性防曇部材が記載されている。
【0004】
特許文献3には、特定の構造単位を含む共重合体及び加水分解物を含む防曇層形成用組成物が記載されている。
【0005】
特許文献4には、金属酸化物と重合体粒子とを含み、十点平均粗さが、5nm以上300nm以下である、塗膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-101374号公報
【文献】特開2004-45671号公報
【文献】特開2018-2865号公報
【文献】特許第6483822号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
VOCの発生は大気汚染の原因となる。そのため、2004年には、日本において改正大気汚染防止法が交付され、VOCの発生量の削減が求められている。塗料及びインキ業界では、コーティング作業時の粘度低下を目的として大量の有機溶剤を使用している。さらに、日本におけるVOC発生量の70万トンの内、塗料業界が約40%、インキ業界が約5%のVOC発生量を占める。このように塗料業界及びインキ業界ではVOC対策が課題である。
【0008】
塗料のコーティング作業においては、有機溶剤の使用量を減らすため様々な対策が行われている。例えば、有機溶剤系塗料から水系塗料への転換である。
【0009】
ヘッドランプ向けの防曇塗料について、現在は溶剤系の塗料が使用されている。しかし、有機溶剤の使用量を減らすためには水系塗料への転換が必要である。しかし、ヘッドランプ向けの防曇塗料には、耐熱性が求められる。これまで水系の防曇塗料で耐熱性の規格をクリアできるものは無かった。
【0010】
また、特許文献1のように、金属アルコキシド系化合物を含む組成物を成膜して防曇性薄膜を作る方法では、ガラス基板上に塗布後、約650℃での焼成が必要である。そのため、当該方法は、プラスチック用途には使えない。
【0011】
特許文献2には、前述のように微細凹凸構造を表面に有する防曇部材が記載されてはいるが、吸水性の防曇膜で凹凸構造を表面に作製することは実際には困難である。
【0012】
特許文献3に記載の防曇層形成用組成物は、耐熱試験後に防曇性を維持することが困難である。さらに防曇層中の共重合体の製造において有機溶剤を必要とするため、有機溶剤をなくして水系塗料を用いることも難しい。
【0013】
特許文献4に記載の塗膜は、耐熱試験後に防曇性を維持するのは難しい。
【0014】
また、防曇層は、基板上に形成された後において、直射日光や光源等に由来する熱に曝さられることがある。しかしながら、特許文献1~4には、防曇層の光沢が熱により低下することを防止するための知見を何ら開示していない。本発明の一態様は、このような事情に鑑みてなされたものであり、水系溶媒を用いて形成でき、かつ、高温に曝されたときおいても、光沢値の変化が少ない、防曇層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る防曇層は、有機微粒子(A)を含む、防曇層であって、前記防曇層は、80℃の加熱環境下に静置する前における光沢値(60°)と、前記加熱環境下に240時間静置した後、23℃、50%RHの環境下に1時間静置した後における前記防曇層の光沢値(60°)との変化率が、-5%以上+5%以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、水系溶媒を用いて作製でき、かつ、高温に曝されたときにおいても、光沢値の変化が少ない、防曇層を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例37の防曇層のAFM(Atomic Force Microscopy:原子間力顕微鏡)図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0019】
本明細書中において「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の何れか一方又は両方を意味し、「(メタ)アクリレート共重合体」とは、「(メタ)アクリル酸、及びその誘導体を主たる構成単位として含む樹脂」のことを意味する。ここで、「(メタ)アクリル酸」及び「(メタ)アクリル酸の誘導体」は、「(メタ)アクリル系単量体」として総称され、「(メタ)アクリル酸の誘導体」には、(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸エステル)及び(メタ)アクリルアミドが例示される。
【0020】
<防曇層>
本発明の一実施形態に係る防曇層は、有機微粒子(A)を含む、防曇層であって、前記防曇層は、80℃の加熱環境下に静置する前における光沢値(60°)と、前記加熱環境下に240時間静置した後、23℃、50%RHの環境下に1時間静置した後における前記防曇層の光沢値(60°)との変化率が、-5%以上+5%以下である。
【0021】
80℃の加熱環境下に240時間に静置する前後に光沢値(60°)の変化率を-5%以上+5%以下の範囲内にすることができることで、防曇層は直射日光や光源等に由来する熱に曝さられることで防曇層の外観が変化することを防止できる。また、防曇層に含まれる有機微粒子(A)による表面粗さRaが変化することを防止できるため、当該防曇層の防曇性能を維持することができる。
【0022】
また、防曇層は、80℃の加熱環境下に静置する前における光沢値が、150以上、200以下の範囲内であることが好ましい。防曇層は、高い防曇性を備えつつ、光沢のある外観を有している。
【0023】
加熱前のテストピースの光沢値は、23℃、湿度50%に空調された恒温庫内に1時間静置した後に測定する。テストピースの加熱は、熱風乾燥機により行なう。当該乾燥機により、240時間加熱したテストピースは、速やかに23℃、湿度50%に空調された恒温庫内に移し、1時間静置した後に光沢値の評価を行う。
【0024】
光沢値は、3角度表面光沢計を用い、入射角60°の条件で測定する。光沢値は、厚さ1μmの防曇層を作製した厚さ2mmポリカーボネート製テストピースを準備し、A4コピー用紙(白色度92%)を10枚重ねた上に、防曇層を作製したポリカーボネート製テストピースを置き評価する。防曇層の光沢値の変化率は、加熱前の光沢値に対する、加熱前の光沢値との加熱後の光沢値との差の百分率として算出される。
【0025】
(防曇層のガラス転移温度)
本発明の一態様に係る防曇層は、ガラス転移温度(Tg)が、60℃以上であり得、80℃以上であるとよりよく、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましく、120℃以上であることが最も好ましい。これにより、防曇層の耐熱性を高めることができる。また、熱に由来する防曇層の光沢値の変化を好適に防止することができる。
【0026】
防曇層のガラス転移温度(Tg)を高めるには、後述する有機微粒子(A)を選択すること、硬化剤(B)及び/又は樹脂(C)に対して有機微粒子(A)を防曇層に多く含有させることが好ましい。防曇層のガラス転移温度の評価方法は、示差走査熱量(DSC分析法)により評価され、後述する有機微粒子(A)のガラス転移温度の測定方法に準じている。
【0027】
(対水接触角)
本発明の一態様に係る防曇層の対水接触角は、10°以下であることが好ましく、5°以下であることがより好ましい。防曇層の対水接触角が10°以下であることにより、当該防曇層は高い防曇性を備え得る。防曇層の対水接触角は、室温23℃、相対湿度50%に静置した試験片を用いて評価すればよい。
【0028】
(表面粗さRa)
本発明の一態様に係る防曇層は、表面粗さRaが5nm以上、200nm以下の範囲内である。防曇層は、有機微粒子(A)を含み、硬化剤(B)及び樹脂(C)を含んでいることが好ましく、その他の成分を含んでいてもよい。本発明の一態様によれば、水を用いて、防曇性に優れる防曇層を作製することができるので、有機溶剤の使用量を減らすことができる。その結果、大気汚染の原因とVOCの発生を抑制することができる。従って、本発明の一態様によれば、大気環境に対する悪影響を軽減することができるので、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標11「住み続けられるまちづくりを」に貢献することが可能となる。
【0029】
防曇層の表面粗さRaは5nm以上であり、また、10nm以上であることがより好ましい。防曇層の表面粗さRaは、5nm以上においてより粗いことによって、防曇層表面の比表面積を大きくすることができ、これにより防曇層の防曇性を高めることができる。言い換えれば、防曇層の表面粗さRaが5nm未満である場合、防曇層の表面に形成される凹凸形状が小さくなり、その結果、微細凹凸に起因した表面積が小さくなることで防曇層へ浸透する水分量が少なくなる。このため、防曇層の防曇性が低下する。また、防曇層の表面粗さRaは200nm以下であり得、また、150nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがよりに好ましく、70nm以下であることがさらに好ましく、50nm以下であることが最も好ましい。防曇層の表面粗さRaは、200nm以下においてより細かいことにより、防曇層表面に存在する凹凸における可視光線の散乱に起因して、当該防曇層の光透過性が低下することを防止できる。このため、防曇層の光透過性を高めることができる。また、光透過性が低下することを防止できるため、防曇層が高い光沢値を有し得る。すなわち、防曇層は、表面粗さRaが、5nm以上、200nm以下であることにより、高い防曇性と、高い光透過性と、高い光沢値とを兼ね備え得る。
【0030】
防曇層の「表面粗さRa」には、JIS-B-0601:2013で定義される「算術平均粗さRa」が採用されている。表面粗さ測定器[株式会社小坂研究所製、型名Surfcorer SE500]が使用され、走査範囲4mm、走査速度0.2mm/sの条件において表面粗さRaが求められた。
【0031】
防曇層は、防曇層を作製するための組成物に含まれる材料及びその反応物を含んでなる固形分を主たる成分とする。「固形分」は、有機微粒子(A)、硬化剤(B)を含み、樹脂(C)を含んでいることが好ましい。防曇層において固形分である有機微粒子(A)及び樹脂(C)と硬化剤(B)とは互いに反応し、防曇層内において反応物を生成し得る。また、防曇層は、固形分として、有機微粒子(A)、硬化剤(B)、樹脂(C)の他に、本発明の効果が損なわれない範囲で無機粒子、吸収剤及び後述するその他の成分を含み得る。
【0032】
(有機微粒子(A))
有機微粒子(A)は極性基を備える樹脂の微粒子であり、ガラス転移温度が60℃以上であり、80℃以上であるとよりよく、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましく、120℃以上であることが最も好ましい。有機微粒子(A)は、粒子の形状を維持した状態にて防曇層に含まれ、ガラス転移温度が60℃以上であることにより、当該防曇層が加熱されたときにおいても、粒子の形状を維持した状態にて防曇層に含まれ得る。これにより、例えば、80℃の熱に長時間曝されたとしても、防曇層が有する所望の表面粗さRaを維持することができる。有機微粒子(A)を構成する樹脂は、限定されるものではないがガラス転移温度が250℃以下であればよい。防曇層における有機微粒子(A)の含有量は、防曇層における固形分の総量を100質量%として、58質量%以上であり得、65質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。防曇層における有機微粒子(A)の含有量が、58~99質量%の範囲内においてより多いことにより、当該防曇層の表面粗さRaをより大きくすることができ、これにより、防曇性を高めることができる。また、ガラス転移温度が60℃以上である有機微粒子(A)を、58~99質量%の範囲内においてより多く含有することで、防曇層の耐熱性をより高めることができ、防曇層の光沢値が、熱により変化することを防止できる。また、防曇層における有機微粒子(A)の含有量が、99質量%の範囲内においてより少ないことにより、防曇層の被膜強度をより高めることができる。よって、99質量%以下においてより少ないことにより、有機微粒子(A)同士を結合する成分を多くでき、防曇層を好適に形成できる。なお、防曇層における有機微粒子(A)の含有量は実質的に分散媒を含まない固形分としての含有量を意味している。
【0033】
有機微粒子(A)は、ガラス転移温度(Tg)、その粒子径D50、及び、有機微粒子(A)の樹脂に構成単位として含まれる単量体のSP値の平均値に基づき、選択するとよい。
【0034】
有機微粒子(A)のガラス転移温度は、示差走査熱量(DSC)分析法により、JIS-K-7122:2012に従って評価したDSC曲線から求めることができる。DSC曲線を求めるための温度の走査範囲、及び温度の走査速度等の評価条件は、実施例に詳細に記載されているので参照されたい。
【0035】
また、有機微粒子(A)のガラス転移温度は、有機微粒子(A)に構成単位として含まれる各単量体のホモポリマーのガラス転移温度の平均値として概算してもよい。有機微粒子(A)のガラス転移温度は、単量体ごとに、当該単量体のホモポリマーのガラス転移温度と、各単量体が構成単位として樹脂に含まれる質量割合(質量%)を乗じて得られる値の総和として概算される。ここで、ホモポリマーのガラス転移温度は、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience 1989)]に記載のFoxの式で計算した値を参照してもよく、例えば、数平均分子量が5000~100000程度であるホモポリマーのガラス転移温度を、上述の有機微粒子(A)のガラス転移温度の測定方法と同じく、JIS-K-7122:2012に従って、DSC曲線から求めてもよい。有機微粒子(A)は、ホモポリマーのガラス転移温度がより高い単量体を構成単位として多く含むことにより、当該有機微粒子(A)のガラス転移温度を高めることができ、これにより、防曇層の耐熱性を高めることができる。有機微粒子(A)は、ガラス転移温度を高めるという観点から、有機微粒子(A)に構成単位として含まれる単量体のホモポリマーにおけるガラス転移温度は、60℃以上であり得、80℃以上であるとよりよく、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましく、120℃以上であることが最も好ましい。また、限定されるものではいなが、有機微粒子(A)に構成単位として含まれる単量体のホモポリマーにおけるガラス転移温度は、250℃以下であってもよい。ホモポリマーのガラス転移温度が高い(メタ)アクリルアミド系単量体としては、アクリルアミド(ホモポリマーのTg:153℃)、アクリロイルモルホリン(ホモポリマーのTg:145℃)等が挙げられる。有機微粒子(A)のガラス転移温度を高めるという観点から、有機微粒子(A)は、ホモポリマーにおけるガラス転移温度が60℃以上である単量体に由来する構成単位を、有機微粒子(A)を構成する共重合体を100質量%として、60質量%以上含んでいることが好ましく、80質量%以上含んでいることがより好ましい。また、限定されるものではないが、有機微粒子(A)は、ホモポリマーにおけるガラス転移温度が高く、80℃以上である単量体に由来する構成単位を60質量%以上含み、ホモポリマーにおけるガラス転移温度が80℃よりも低い単量体に由来する構成単位を、有機微粒子(A)を構成する共重合体を100質量%として、40質量%以下にすることで有機微粒子(A)のガラス転移温度を高めてもよい。例えば、有機微粒子(A)は、有機微粒子(A)自身の水系における分散安定性を高めるという観点から、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート等が有するポリエチレングリコール鎖を有する単量体に由来する構成単位として含んでいることが好ましい。ただし、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート等の単量体に由来する構成単位は、ホモポリマーのガラス転移温度が低い。このため、有機微粒子(A)の耐熱性を低くすることにも寄与することがあり、その結果、熱に曝された後における防曇性を低くする傾向がある。有機微粒子(A)は、防曇性の熱による低下を防止するという観点から、ホモポリマーのガラス転移温度が低い構成単位は、有機微粒子(A)に含まれる構成単位の全量を100質量%として、40質量%以下であることが好ましい。ガラス転移温度が低いホモポリマーの構成単位の当該ガラス転移温度は、-40℃以下であり得、0℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがさらに好ましく、80℃よりも低いことが最も好ましい。
【0036】
(粒子径(D50))
有機微粒子(A)は、その粒子径により、防曇層の表面粗さRaを調整することができる。ここで、有機微粒子(A)の粒子径D50は、体積基準における累積50%相当の粒子径であり、粒子径D50は、中位粒子径、メディアン径と称されることもある。体積基準の粒子径D50は、動的光散乱式粒子径分布測定装置等を用いるレーザー回折法によって求めるとよい。
【0037】
有機微粒子(A)の粒子径D50は、5nm以上、200nm以下の範囲内であることが好ましく、10nm以上、150nm以下の範囲内であることがより好ましく、15nm以上、100nm以下の範囲内であることがさらに好ましい。粒子径D50が、5nm以上200nmの範囲内においてより大きい有機微粒子(A)によってもたらされる凹凸により、防曇層の表面粗さRaをより大きくすることができる。すなわち、有機微粒子(A)によって、防曇層の表面粗さRaを5nm以上、200nm以下の範囲内にすることができる。すなわち、有機微粒子(A)によって、防曇層の5nm以上、200nm以下という表面粗さRaはもたらされ得る。よって、防曇層の防曇性を高めることができる。また、粒子径D50が、5nm以上200nm以下の範囲内においてより小さい有機微粒子(A)を用いることにより、防曇層の光透過性をより高めることができる。
【0038】
(SP値)
有機微粒子(A)を構成する樹脂に構成単位として含まれる単量体のSP値の平均値は、単量体のSP値ごとに、各単量体が構成単位として樹脂に含まれる質量割合(質量%)を乗じて得られる値の総和として求められる。各単量体のSP値は、Fedorsの算出法(「Polymer Engineering and Science」、第14巻、第2号(1974)、148~154頁を参照する)に基づき、下記数式(1)で求めることができる。
【数1】
数式(1)中、δは溶解度パラメータ(SP値)であり、Σ
iΔeiは、単量体が有するモル蒸発エネルギー(cal/mol)であり、Σ
iΔviは単量体のモル体積(cm
3/mol)である。なお、上記数式(1)から求められる溶解度パラメータの単位は(cal/cm
3)
1/2であり、本明細書では、2.0455×(cal/cm
3)
1/2=(J/cm
3)
1/2=MPa
1/2であるとして、SP値の単位にMPa
1/2を採用する。有機微粒子(A)が有する親水性は、有機微粒子(A)に構成単位として含まれる単量体のSP値の平均値を指標として確認するとよい。
【0039】
有機微粒子(A)に構成単位として含まれる各単量体のSP値の平均値は、21MPa1/2以上であり得、24MPa1/2以上であることが好ましく、26MPa1/2以上であることが好ましく、27MPa1/2以上であることがより好ましい。また、有機微粒子(A)は、SP値が32MPa1/2以下であるとよい。有機微粒子(A)の親水性を高めるべく、水のSP値(47.9)により近づけるという観点から、単量体のSP値の平均値(SP平均値と称することがある)は、21MPa1/2を下限値としてより高い方が好ましい。また、数式(1)から求められる単量体のSP値は、水のSP値(47.9MPa1/2)に近ければ限定されるものではないが、32MPa1/2以下であり得る。
【0040】
樹脂に構成単位として含まれる単量体は、(メタ)アクリル系単量体であり得、(メタ)アクリル系単量体には、例えば、(メタ)アクリルアミド系単量体、(メタ)アクリレート系単量体、(メタ)アクリル酸系単量体が挙げられ、後述するその他の単量体を含んでいてもよい。(メタ)アクリルアミド系単量体、(メタ)アクリレート系単量体等を始めとする(メタ)アクリル系単量体は、架橋性官能基を有していてもよく、架橋性官能基とは、単量体が、有機微粒子(A)を構成する樹脂の構成単位として含まれるために寄与するビニル基、(メタ)アクリロイル基等の不飽和二重結合基以外の架橋性官能基のことを意味する。
【0041】
(メタ)アクリルアミド系単量体は、SP値が高い単量体として好ましい単量体である。すなわち、(メタ)アクリレート共重合体が(メタ)アクリルアミド系単量体に由来する構成単位を含むことにより、当該樹脂のSP値を高めることができ、有機微粒子(A)の親水性を高めることができる。(メタ)アクリルアミド系単量体には、例えば、アクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、メタクリルアミド、並びに、ジメチルアクリルアミド等のジアルキル(メタ)アクリルアミド、及びイソプロピルアクリルアミド等のモノアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド系単量体に由来する構成単位は、有機微粒子(A)の親水性を高めるという観点から、(メタ)アクリレート共重合体に含まれる単量体に由来する構成単位の合計を100質量%として、5~100質量%含まれていることが好ましく、50~95質量%含まれていることがより好ましい。(メタ)アクリルアミド系単量体は、後述する(メタ)アクリレート系単量体と同じく、架橋性官能基を有していてもよい。
【0042】
(メタ)アクリルアミド系単量体が有する架橋性官能基には、例えば、N-メチロール基、N-アルコキシメチロール基、N-メチロールエーテル基等が挙げられ、このような架橋性官能基を有する(メタ)アクリルアミド系単量体には、例えば、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等が挙げられる。
【0043】
(メタ)アクリレート系単量体には、架橋性官能基を有していない(メタ)アクリレート系単量体、および、架橋性官能基を有している(メタ)アクリレート系単量体が挙げられる。架橋性官能基を有していない(メタ)アクリレート系単量体には、例えば、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル等のアルキル(メタ)アクリレート;、ジメチルアミノエチルアクリレート等のジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリレート;、メトキシエチルアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールに由来する構造を有する(メタ)アクリレート系単量体が挙げられる。微粒子の樹脂において架橋性官能基を有していない(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位は、例えば、上記単量体のSP値の平均値が21MPa1/2以上となる範囲内にて含まれていればよい。
【0044】
(メタ)アクリレート系単量体が有する架橋性官能基には、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、メルカプト基、フェノール基、アミノ基、シラノール基、アルコキシシリル基等の架橋性官能基が挙げられ、これら架橋性官能基を有する(メタ)アクリレート系単量体として、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
これらビニル基、(メタ)アクリロイル基等の不飽和二重結合基以外に架橋性官能基を有している(メタ)アクリレート系単量体は、(メタ)アクリレート共重合体に構成単位として含まれたとき、当該架橋性官能基が、例えば、後述する硬化剤(B)、または無機粒子等と反応し得る。また、N-メチロール基、N-アルコキシメチロール基、N-メチロールエーテル基を有する(メタ)アクリルアミド系単量体に由来する構成単位については脱水縮合反応、脱アルコール縮合反応によって有機微粒子(A)内で架橋し、有機微粒子(A)の形状が安定することにより、防曇層の表面粗さRaが維持されやすくなると予想されるため、好ましい。架橋性官能基を有している(メタ)アクリル系単量体は、限定されるものではないが、(メタ)アクリレート共重合体に含まれる単量体に由来する構成単位の合計を100質量%として、1~100質量%含まれていることが好ましく、5~90質量%含まれていることがより好ましい。
【0046】
(メタ)アクリル酸系単量体には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、及びマレイン等が挙げられる。(メタ)アクリル酸系単量体は、好ましくは、アクリル酸、又はメタクリル酸であり得る。これら(メタ)アクリル酸系単量体も、架橋性官能基としてカルボキシル基を有している点において、例えば、後述する硬化剤(B)等と反応し得る単量体であり得る。
【0047】
その他の単量体には、アクリロニトリル、及びメタクリロニトリル等の単量体、並びに、酢酸ビニル、スチレン、N-ビニルピロリドン、及びビニルメチルオキサゾリジノン等のビニル系単量体が挙げられ、例えば、ビニルメチルオキサゾリジノンは、オキサゾリジノン基を架橋性官能基として有する単量体であり得る。
【0048】
有機微粒子(A)は、典型的には、主たる構成単位として、上述のような(メタ)アクリルアミド系単量体、(メタ)アクリレート系単量体、(メタ)アクリル酸系単量体に由来する構成単位を含む(メタ)アクリレート共重合体の微粒子であり得る。(メタ)アクリレート共重合体は、高いSP値を有する単量体に由来する構成単位を含むことにより、有機微粒子(A)に好適に親水性を付与することができる。
【0049】
有機微粒子(A)は、例えば、粉体、又は分散液として、高松油脂株式会社から入手することができる。
【0050】
以下の表1に、有機微粒子(A)の樹脂に構成単位として含まれ得る、代表的な単量体と、そのホモポリマーのガラス転移温度、及びSP値を例示する。表1に例示される単量体のホモポリマーのガラス転移温度及びSP値から、(メタ)アクリルアミド系単量体が高いガラス転移温度及び高いSP値を有する点において好ましいことが確認できる。
【0051】
【0052】
(硬化剤(B))
防曇層は、硬化剤(B)を含んでいることが好ましい。これにより、層内において有機微粒子(A)を構成する個々の粒子を、硬化剤(B)を介して互いに固定してなる防曇層が得ることができる。硬化剤(B)は、少なくとも1つの架橋性官能基を有する化合物を含んでいるとよい。防曇層は、硬化剤(B)に含まれる架橋性官能基を有する化合物と、有機微粒子(A)との架橋反応物により形成された層でもあり得る。硬化剤(B)はそれ自身が架橋重合反応する化合物であってもよいが、有機微粒子(A)の構成単位である(メタ)アクリレート系単量体が有する架橋性官能基と架橋反応することができる官能基を有する化合物であることが好ましい。硬化剤(B)に含まれる化合物は、少なくとも1つ、好ましくは、2つ以上の架橋性官能基を、その化学構造に備えていることが好ましい。硬化剤(B)は、少なくとも1つ以上の架橋性官能基を備えていれば、その化合物は、単量体化合物、オリゴマー、及びポリマーの何れであってもよい。
【0053】
防曇層は、防曇層の固形分の合計を100質量%として、固形分換算で、1質量%以上、30質量%以下の範囲内であることが好ましい。当該範囲内において、硬化剤(B)の含有量が多い程、防曇層の被膜強度を高めることができる。また、1質量%以上、30質量%以下の範囲内において、より少ない程、防曇層により高い防曇性を付与できる。
【0054】
硬化剤(B)に含まれる化合物が有する、上述の有機微粒子(A)が有する架橋性官能基と架橋反応することができる官能基とは、互いに架橋する官能基である故に架橋性官能基と同義である。硬化剤(B)が有する架橋性官能基には、例えば、カルボジイミド基、エポキシ基、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、オキサゾリン基、ヒドラジド基、及びアジリジン基等が挙げられる。これら架橋性官能基は、上述の(メタ)アクリレート系単量体が有し得る、N-メチロール基、N-アルコキシメチロール基、N-メチロールエーテル基、及びヒドロキシル基、シラノール基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、メルカプト基、フェノール基、アミノ基等の架橋性官能基と好適に反応し得る。
【0055】
このような架橋性官能基を有する化合物は、限定されるものではないが、水系に溶解する水溶性化合物、又は水系に分散する水分散性を有する化合物であることが好ましい。すなわち、硬化剤(B)は、水溶液、水分散液、又はエマルションとして入手され、防曇層を形成するための組成物に含まれ得る。硬化剤(B)は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、有機溶剤を含んでいてもよい。
【0056】
硬化剤(B)には、例えば、カルボジイミド基を有する硬化剤として、例えば、カルボジライト(登録商標)(日清紡ケミカル株式会社製)、カルボジスタ(登録商標)(帝人株式会社製)、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(東京化成工業株式会社から入手可能)、N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド(富士フイルム和光純薬株式会社から入手可能)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(富士フイルム和光純薬株式会社から入手可能)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(富士フイルム和光純薬株式会社から入手可能)、ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド(川口化学工業株式会社から入手可能)等が挙げられる。エポキシ基を有する硬化剤には、例えば、デナコール(登録商標)(ナガセケムテックス株式会社製)、水系エポキシ樹脂jER(登録商標)シリーズ(三菱ケミカル株式会社製)、アデカレジン(登録商標)EMシリーズ(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。ブロックイソシアネート基を有する硬化剤には、例えば、デュラネート(登録商標)(旭化成株式会社製)、コロネート(登録商標)シリーズ(東ソー株式会社製)等が挙げられる。オキサゾリン基を有する硬化剤には、例えば、エポクロス(登録商標)(株式会社日本触媒製)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(富士フイルム和光純薬株式会社から入手可能)等が挙げられる。また、ヒドラジド基を有する硬化剤としては、アジピン酸ジヒドラジド(東京化成株式会社から入手可能)、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド(いずれも大塚化学株式会社から入手可能)等が挙げられる。アジリジン基を有する硬化剤として、ケミタイト(登録商標)(株式会社日本触媒製)、トリメチロールプロパントリス[3-(2-メチルアジリジン-1-イル)プロピオナート](日本大慶エネルギー株式会社から入手可能)等が挙げられる。
【0057】
(樹脂(C))
防曇層は、上述の有機微粒子(A)、硬化剤(B)の他に、樹脂(C)を含んでいることが好ましい。防曇層は、樹脂(C)を含んでいることにより、樹脂(C)と硬化剤(B)とを反応させ、より強固な被膜を形成することができる。また、樹脂(C)を含んでいることにより、基板への密着性を高めることができる。
【0058】
すなわち、樹脂(C)は、少なくとも硬化剤(B)と反応するべく、架橋性官能基を有しているとよい。なかでも、樹脂(C)自身の水溶性、又は水分散性を高めることができるという観点から、架橋性官能基は、例えば、カルボキシル基等の酸基、ヒドロキシル基、フェノール基、アミノ基等であることがより好ましい。樹脂(C)には、例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、エポキシエステル樹脂、アルキド樹脂、水溶性フェノール樹脂等が例示され、樹脂(C)は、水溶性樹脂、水分散性樹脂、又は樹脂エマルションであり得る。防曇層は、樹脂(C)を含むことによって、水性コーティング剤として好適に調製し得る。
【0059】
樹脂(C)がカルボキシル基等の酸基を有している場合、樹脂(C)の酸価は、1~200mgKOH/gの範囲内であることが好ましく、2~60mgKOH/gであることが好ましい。これにより、当該酸価の範囲内において、酸価がより高い程、樹脂(C)の水溶性を高めることができ、防曇層の耐熱性を高めることができる。また、酸価がより高い程、後述する組成物を水溶媒系組成物とすることができる。また、酸価がより低い程、樹脂(C)を含む、防曇層の耐水性を高めることができる。
【0060】
樹脂(C)が水酸基を有している場合、樹脂(C)の水酸基価は、1~200mgKOH/gの範囲内であることが好ましく、2~120mgKOH/gであることが好ましい。これにより、当該水酸基価の範囲内において、水酸基価がより高い程、樹脂(C)の水溶性を高めることができ、防曇層の耐熱性を高めることができる。また、水酸基価がより高い程、後述する組成物を水溶媒系組成物とすることができる。また、水酸基価がより低い程、樹脂(C)を含む、防曇層の耐水性を高めることができる。
【0061】
その他、樹脂(C)がフェノール基、又はアミノ基を有する樹脂である場合、カルボキシル基及び水酸基を有する樹脂(C)と同じく、樹脂(C)の水溶性、作製される防曇層の耐熱性、及び防曇層の耐水性を考慮し、樹脂(C)のフェノール基又はアミノ基の量を設計すればよい。
【0062】
樹脂(C)は、ガラス転移温度が、20℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。これにより、防曇層の耐熱性をより高めることができる。
【0063】
硬化剤(B)及び樹脂(C)の配合比は、硬化剤(B)及び樹脂(C)の硬化物のガラス転移温度が高くなるように、硬化剤(B)及び樹脂(C)の種類に応じ、例えば、酸価、及び/又は水酸基価から適切な配合比を決定すればよい。
【0064】
防曇層は、硬化剤(B)及び樹脂(C)の総量が、防曇層に含まれる固形分換算で、2質量%以上、43質量%以下であるように防曇層に含まれていることが好ましく、当該範囲内においてより少ない方が、防曇層の耐熱性を高めることができる。また、防曇層における硬化剤(B)及び樹脂(C)の総量の含有量は、固形分換算として、43質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。また、防曇層における硬化剤(B)及び樹脂(C)の総量の含有量が、2質量%以上であることにより、防曇層の被膜強度を高めることができる。
【0065】
樹脂(C)は、例えば、樹脂(C)は、水溶液、水分散液、又はエマルションとして入手され、後述する組成物に含まれ得る。
【0066】
樹脂(C)には、例えば、ポリエステル樹脂として、ペスレジンシリーズ(高松油脂株式会社製)、及びアロンメルト(登録商標)PES-1000、2000シリーズ(東亜合成株式会社製)等が挙げられる。また、水性フェノール樹脂として、フェノライト(登録商標)TD-4304(DIC株式会社製)等が挙げられる。ポリカーボネート系ウレタン樹脂として、ハイドラン(登録商標)(DIC株式会社製)、エポキシエステル樹脂、及び、アルキド樹脂としてウォーターゾール(登録商標)(DIC株式会社製)等が挙げられる。
【0067】
(無機粒子)
防曇層は、その他の成分として、無機粒子を含んでいてもよい。防曇層に含まれる無機粒子は、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、その他の金属酸化物微粒子、カーボン等が好ましく、アルミナゾル、コロイダルシリカ、シリカゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物微粒子のゾル等といったコロイド粒子として入手し得る。コロイド粒子は、酸性ゾル、アルカリ性ゾル、又は中性域で安定化したゾルであり得る。無機粒子は、上述の硬化剤(B)及び/又は樹脂(C)と架橋し得、無機粒子同士も架橋し得る。
【0068】
無機粒子は、体積基準の粒子径D50が、2nm以上であり得、3nm以上であることが好ましい。これにより、防曇層の表面粗さが損なわれることを防止できる。また、無機粒子は、粒子径D50が、200nm以下であることが、高い光透過性を防曇層に付与するという観点から好ましい。
【0069】
無機粒子の含有量は、防曇層に含まれる固形分の総量を100質量%とし、0.1質量%以上、10.0質量%以下の範囲内で含まれていることが好ましい。無機粒子の含有量が、10.0質量%以下であることにより、無機粒子に起因する防曇性の低下を好適に防止することができる。また、無機粒子の含有量は、0.1質量%以上とすることで、防曇層により高い光透過性としての耐熱性を付与できるという効果を奏する。
【0070】
無機粒子は、粉体、分散液、又はゾルとして入手すればよく、本発明の効果を阻害しない範囲で、アルコール等の有機溶剤が含まれていてもよい。このような、無機粒子は、例えば、アルミナゾル10A(川研ファインケミカル社製)、コロイダルシリカとしてスノーテック(登録商標)シリーズ(日産化学株式会社製)等が挙げられる。
【0071】
(その他の成分)
防曇層は、その他の成分として、吸収剤、増膜助剤、凍結防止剤を含んでいてもよい。
【0072】
吸収剤には、例えば、混合層粘土等が挙げられる。混合層粘土は、好ましくは、工業的に合成された合成粘土であり得、例えば、スメクタイト、ベントナイト、モンモリロナイト等が挙げられる。吸収剤を添加することによって防曇層に吸水して水を保持する機能を追加することができ、防曇性能を高めることができる。これら、混合層粘土は、吸収剤として以外に、沈降防止剤、及び/又は粘度調整剤として、後述する組成物に含まれ得る。
【0073】
混合層粘土は、限定されるものではないが、例えば、長径における粒子径D50が、200nm以下のものを用いることが好ましい。混合層粘土の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲において適宜設計すればよく、例えば、防曇層に含まれる固形分の総計を100質量%として、0.1質量%以上5.0質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0074】
混合層粘度鉱物には、例えば、スメクタイトとしてスメクトン(登録商標)、クニピア(登録商標)(ともにクニミネ工業株式会社製)等が挙げられる。
【0075】
増膜助剤には、沸点が水より高く、かつ水溶性の有機溶剤が挙げられ、例えば、ブチルセロソルブ(エチレングリコール-モノブチルエーテル)、テキサノール(2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオールモノイソブチラート)等の有機溶剤が挙げられる。また、凍結防止剤は、典型的には、エチレングリコールである。水溶性の有機溶剤とは、室温(23℃)の水に、少なくとも4.0質量%の濃度にて溶解する有機溶剤のことを指す。増膜助剤及び凍結防止剤は、有機溶剤でもあり、防曇層における増膜助剤の含有量は4.0質量%以下であり得、2.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。また、4.0質量%以下にすることにより、防曇層の耐熱性が損なわれることを防止でき、光沢値の変化率を小さくすることができる。4.0質量%よりも少なくすることで有機微粒子(A)自身が有機溶剤によって溶解しやすくなることを防止でき、防曇層の表面粗さRaを維持することができる。これにより、表面粗さによりもたらされる防曇性低下することを防止できると予想される。
【0076】
防曇層は、その他の成分として、レベリング剤、消泡剤、分散剤、及び乳化剤等に例示される界面活性剤、並びに、粘度調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、防腐剤、防カビ剤及び耐水化剤等に例示される添加剤が含まれていてもよい。これら、界面活性剤、及び添加剤は、その一部が、防曇層を作製するための組成物に固形分として含まれ得る。防曇層は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、基板に美観を付与するため、着色顔料、染料等の着色剤を含んでいてもよい。防曇層は、当該防曇層を作製するための組成物に由来して、例えば、pH調整剤、pH緩衝剤等が含まれていてもよい。
【0077】
〔基板〕
本発明の一態様に係る基板は、基板層(a)と、防曇層(b)とを備え、前記防曇層(b)は、前記基板層(a)上に配置される。防曇層(b)は前述の本発明の一態様に係る防曇層である。防曇層(b)の説明は本発明の一態様に係る防曇層の説明に準じ、同じ説明は繰り返さない。
【0078】
基板層(a)は、防曇層(b)をその上に配置するための層である。基板層(a)の材質は、基板の用途等に応じて適宜選択され得る。例えば、基板層(a)として、ガラス、樹脂材料、金属、セラミックス等が挙げられ、これらの複合材料であってもよい。中でも、光透過性を有するプラスチックであることがより好ましい。光透過性を有するプラスチックとしては、例えば、成形用のポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートコポリエステル樹脂(トライタン(登録商標):イーストマン ケミカル カンパニー社製)等が挙げられる。
【0079】
本発明の一態様に係る基板は、防曇層(b)を備えていれば、基板層(a)の形状は限定されない。すなわち、本発明の一態様に係る基板は用途に応じて、所望の形状に成形されてなる基板であり得る。基板は、例えば、乗用車を始めとする車両、並びに船舶、及び航空機等におけるヘッドランプ、テールランプ等の照明装置、並びに眼鏡レンズ等の一部を構成する光透過性を有する基板であり得る。
【0080】
基板層(a)上に防曇層(b)を配置する方法は、特に制限されない。例えば、防曇層(b)を作製するための組成物を基板層(a)上に塗布した後、当該組成物を硬化させればよい。当該組成物を硬化させる方法は、組成物の成分等に応じて適宜選択すればよく、例えば、加熱等を行なうことで乾燥させることによって、硬化させてもよい。
【0081】
例えば、基板層(a)は、防曇層(b)が作製される表面に、例えば、防曇層(b)の濡れ性、及び/又は密着性を高めるための表面処理が行われていてもよい。表面処理には、例えば、コロナ放電処理、化成処理、プラズマ処理、酸やアルカリ液処理等の表面処理が挙げられる。また、基板層(a)における防曇層(b)が作製される表面には、例えば、プライマー及びカップリング剤等の表面処理剤が塗布されていてもよい。
【0082】
本発明の一態様に係る組成物の塗布方法には、公知の方法を採用することができ、例えば、塗布方法には、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、及びバーコーター法等が挙げられる。
【0083】
また、本発明の一態様に係る組成物を塗布した後における乾燥、硬化は、硬化剤(B)又は樹脂(C)の種類に応じて、適宜設計すればよく、限定されるものではないが、60℃以上であればよく、100℃以上であることが好ましい。本発明の一態様に係る組成物は、当該組成物に含まれる有機微粒子(A)のガラス転移温度が高いことにより、十分に水溶剤を乾燥させ、かつ十分に硬化剤(B)の架橋反応を促進させることができながら、防曇層を加熱することによる防曇性の低下を防止できることも利点の一つである。
【0084】
防曇層の作製において、本発明の一態様に係る組成物の塗布及び乾燥と、加熱とは、1度で行ってもよく、所望の膜厚になるように複数回繰り返してもよい。また、本発明の一態様に係る組成物の塗布及び乾燥までを複数回繰り返し、1度加熱することで防曇層を作製してもよい。
【0085】
本発明の一態様に係る組成物における塗布乾燥後の膜厚、つまり防曇層の膜厚は基板の表面において、例えば、20nm~10000nmであることが好ましい。防曇層の膜厚は、20nm以上であることによって、防曇層によって被覆される基板に好適な防曇性を付与できる。また、防曇層の膜厚は、10000nm以下であることによって、防曇層に高い光透過性を付与できる。
【0086】
〔組成物〕
本発明の一態様に係る防曇層を作製するための組成物(以下、単に「本発明の一態様に係る組成物」という。)は、有機微粒子(A)と、水と、を含み、前記有機微粒子(A)のガラス転移温度は60℃以上であることが好ましい。すなわち、組成物は、有機微粒子(A)は、水系組成物であり得る。本発明の一態様に係る組成物の構成に関する説明(後述する成分に関する説明を含む)は、本発明の一態様に係る防曇層に関する説明に準じ、同じ説明は繰り返さない。本発明の一態様に係る組成物を用いれば、本発明の一態様に係る防曇層を好適に作製することができる。
【0087】
本発明の一態様に係る組成物は、硬化剤(B)を含むことがより好ましい。また、硬化剤(B)の含有量は、固形分換算で、1質量%以上、30質量%以下であることがより好ましい。硬化剤(B)の含有量を1質量%以上とすることにより、耐熱性の良い防曇層が得られ、硬化剤(B)の含有量を30質量%以下とすることにより、十分な強度の防曇層を得ることができる。
【0088】
本発明の一態様に係る組成物は、硬化剤(B)、及び、樹脂(C)をさらに含むことが良い好ましい。また、硬化剤(B)及び樹脂(C)の総量が、固形分換算で、2質量%以上、43質量%以下であることがより好ましい。硬化剤(B)及び樹脂(C)の総量を2質量%以上とすることにより、基材に対する防曇層の密着性が得られ、硬化剤(B)及び樹脂(C)の総量を43質量%以下とすることにより、防曇層において防曇性を高めるための表面粗さが得られる。
【0089】
また、本発明の一態様に係る組成物では、有機微粒子(A)の含有量が、固形分換算で、58質量%以上、99質量%以下であることがより好ましい。好適に本発明の一態様に係る防曇層を作製するためである。
【0090】
また、本発明の一態様に係る組成物では、有機溶剤の含有量が、固形分に対して4質量%未満であることがより好ましい。本発明の一態様に係る組成物によれば、水を用いて、防曇性に優れる防曇層を作製することができるので、有機溶剤の使用量を減らすことができる。なお、有機溶剤は、上述の増膜助剤、又は凍結剤として用いられる、沸点が水よりも高い、水溶性の有機溶剤が挙げられる。
【0091】
本発明の一態様に係る組成物は、防曇層を作製するための組成物として、固形分の総量を100質量部として、溶剤としての水を30~50000質量部含んでいるとよい。これにより、有機微粒子(A)による防曇性を好適に発現することができる、防曇層を作製するための組成物(コーティング剤)を得ることができる。溶剤としての水は、例えば、脱イオン水、蒸留水、水道水、及び工業用水等であり得る。なお、本明細書中、「固形分」とは、組成物から蒸発する水、揮発性溶剤と区別され、本発明の一態様に係る組成物を用いて作製した防曇層に組成として含まれる成分であれば、必ずしも「固体」でなくてもよい。
【0092】
また、本発明の一態様に係る組成物を、塗装し、硬化させることによって、有機微粒子(A)を含み、表面粗さRaが5nm以上、200nm以下を有する、防曇層を作製する、防曇層の製造方法も本発明の範疇である。このように、本発明の一態様に係る組成物を用いれば、本発明の一態様に係る防曇層を好適に作製することができる。なお、組成物を塗布する対象の基材は、防曇層の目的に応じて適宜選択すればよい。
【0093】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0094】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0095】
実施例1~37のコーティング剤、及び比較例1~3のコーティング剤を調製し、これらコーティング剤から作製された防曇層の評価を行なった。
【0096】
各コーティング剤を調製するために用いた材料は以下の通りである。
【0097】
〔材料〕
(有機微粒子)
20質量%の(メタ)アクリレート共重合体微粒子の水分散液(高松油脂株式会社製)として入手した。以下の表2及び表3に、実施例及び比較例に使用した(メタ)アクリレート共重合体を構成する各モノマーを示す。
【0098】
(無機粒子)
アルミナゾル:アルミナゾル10A(固形分10質量%、川研ファインケミカル株式会社製)
コロイダルシリカ:スノーテックス(登録商標)OXS(固形分10質量%、日産化学株式会社製)
(有機微粒子:樹脂(C))
ポリエステル樹脂:
ペスレジンA-640;高松油脂株式会社製,固形分25%品
ペスレジンA-645GH;高松油脂株式会社製,固形分30%品
ポリカーボネート系ウレタン樹脂:
ハイドラン(登録商標)WLS-210;DIC株式会社製,固形分35%品
エポキシエステル樹脂:
ウォーターゾール(登録商標)EFD-5560;DIC株式会社製,固形分40%品
アルキド樹脂:
ウォーターゾール(登録商標)BCD-3100;DIC株式会社製,固形分43%品
水溶性フェノール樹脂:
水溶性レゾールPE-602,DIC株式会社製,固形分42%品
(吸収剤)
合成スメクタイト:スメクトン(登録商標)SA(クニミネ工業株式会社)
(硬化剤)
カルボジイミド:カルボジライト(登録商標)E-02(日清紡ケミカル株式会社製)
アジリジン:ケミタイト(登録商標)DZ-22E(株式会社日本触媒)
アジピン酸ジヒドラジド(東京化成工業株式会社製)
エポキシ化合物:デナコール(登録商標)EX-810
(ナガセケムテックス株式会社製)
ブロックイソシアネート:デュラネート(登録商標)WM44-L70G
(旭化成株式会社製)
オキサゾリン化合物:エポクロス(登録商標)WS-700(株式会社日本触媒製)
(造膜助剤)
ブチルセロソルブ:(東京化成工業株式会社製)
【0099】
〔調製〕
実施例1のコーティング剤を次の手順で調製した。まず、(メタ)アクリレート共重合体微粒子の水分散液を500g準備し、当該水分散液に20gのポリエステル樹脂の水分散液を添加した。次いで、10gのアルミナゾルの水分散液と、硬化剤として固形分換算で10gのカルボジイミドとを、当該(メタ)アクリレート共重合体微粒子の水分散液に添加した。その後、当該水分散液を撹拌し、アンモニア水(1mol/L)を添加することでpH8.0に調整し、実施例1のコーティング剤を得た。以下の表2及び表3に示す組成に従い、実施例1のコーティング剤と同じ手順で、実施例2~37、及び比較例1~3のコーティング剤を調製した。
【0100】
〔防曇層の作製〕
バーコーター#2を用い、ポリカーボネート製テストピース(厚み2mm)に実施例1のコーティング剤を塗装した。ついで、温度90℃、20分間の条件にてコーティング剤を塗装したテストピースを加熱することで、コーティング剤の乾燥、及び硬化を行なった。これにより、1μm程度の膜厚を有する防曇層を備えたテストピースを作製した。実施例1のコーティング剤による防曇層の作製と同じ手順したがって、実施例2~37、及び比較例1~3の防曇層を備えたテストピースを作製した。
【0101】
〔各評価〕
実施例1~37、比較例1~3の防曇層を備えたテストピースを用い、以下の評価を行なった。評価結果を表4及び表5に示す。
【0102】
(粒子径)
有機微粒子の粒子径(単位:nm)を、体積基準における累積50%相当の粒子径として評価した。有機微粒子の粒子径は、動的光散乱式粒子径分布測定装置(装置名:Nanotrac Wave II UT151、マイクロトラック・ベル社製)にて測定した。Nanotracは同社の登録商標である。
【0103】
(有機微粒子のガラス転移温度(Tg))
有機微粒子のガラス転移温度(Tg)を、DSC(示差走査熱量分析、装置名:EXSTAR DSC6200、セイコーインスツルメンツ社製)を用いて測定した。有機微粒子のガラス転移温度(Tg)は、JIS-K-7122:2012に従って、DSC曲線を測定し、当該DSC曲線から求めた。DSC測定に用いたサンプルの質量は5mgであった。1回目の走査で、-10℃から300℃までの温度範囲を20℃/分の速度で昇温し、次いで液体窒素を用いてサンプルを冷却した後、2回目の走査で、-10℃から300℃までの温度範囲を20℃/分の速度で昇温し、2回目の走査で得られたDSC曲線から、有機微粒子のガラス転移温度を導き出した。
【0104】
(表面粗さRa)
防曇層の表面粗さRaを、JIS-B-0601-2013に沿って、表面粗さ測定器[株式会社小坂研究所製、型名Surfcorer SE500]を使用し、走査範囲4mm、走査速度0.2mm/sの条件において求めた。
【0105】
(原子間力顕微鏡観察)
AFM(原子間力顕微鏡、装置名:Dimension3100、Veeco社製)を用い、実施例37のコーティング剤から作製された防曇層を原子間力顕微鏡により観察した。結果を
図1に示す。
【0106】
(防曇層のガラス転移温度(Tg))
防曇層のガラス転移温度Tgを、DSC(示差走査熱量分析、装置名:EXSTAR DSC6200、セイコーインスツルメンツ社製)で測定した。防曇層のサンプル質量は5mgであり、DSC曲線を求めるための、温度範囲、昇温速度、走査回数は、有機微粒子のガラス転移温度(Tg)のDSC曲線を求めるための条件と同じであったため、説明を省略する。
【0107】
(対水接触角)
防曇層の対水接触角を、接触角計(装置名:CV-DT・A型、協和界面科学社製)を用いて測定した。
【0108】
(塗膜透明性)
防曇層を備えたテストピースの塗膜透明性(光透過性)をヘイズメーター(「HAZE METER NDH5000」、日本電色工業社製)を用いて測定した。HAZE値は、JIS-K7361-1:1997に従って、光源が白色LED、光束が14mmの条件にて測定し、以下に示す基準において、△以上であれば問題なしであると評価し、〇であればより好ましいと評価した。なお、厚さ2mmのポリカーボネート製テストピース自身のHAZE値は0.30であった。
〇:HAZE値が0.30以上、0.40未満であった。
△:HAZE値が0.40以上、0.50未満であった。
×:HAZE値が0.50以上であった。
【0109】
(防曇性)
温度23℃、湿度50%の条件に空調した室内において、テストピースに作製された防曇層に、5秒間呼気を吹き付け、以下に示す基準にて、防曇性の評価を行なった。
〇:全く曇らない。
△:僅かに曇るがすぐ元に戻る。
×:曇る。
【0110】
(耐熱性)
各テストピースを、80℃、100℃、110℃のそれぞれの温度条件別に、240時間静置した後、温度23℃、湿度50%に空調された恒温庫内に1時間静置した。その後、防曇性及び光透過性を評価した。
【0111】
(光沢値)
光沢値を、3角度表面光沢計(装置名:マイクロトリグロス、BYK社製)を用い、入射角60°の条件で光沢値を測定した。光沢値の測定は、A4コピー用紙(伊藤忠紙パルプ社製、白色度92%)を10枚重ねて置き、その上に各実施例及び比較例の防曇層を作製したテストピースをセットすることで測定した。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0112】
表4及び5に示すように、本発明の一態様に係る防曇層によれば、防曇層のTgが60℃以上であることによって、耐熱性試験前後における光沢値の変化率が小さく、±5%の範囲内であることが示された。
【要約】
【課題】水系溶媒を用いて作製でき、かつ、高温に曝されたときおける光沢値の変化が少ない、防曇層を提供する。
【解決手段】防曇層は、有機微粒子(A)を含み、80℃の加熱環境下に静置する前における光沢値(60°)と、前記加熱環境下に240時間静置した後、23℃、50%RHの環境下に1時間静置した後における前記防曇層の光沢値(60°)との変化率が、-5%以上+5%以下である。
【選択図】
図1