(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】スポーツボールの発射を最適化するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A63B 69/00 20060101AFI20220613BHJP
【FI】
A63B69/00 509
A63B69/00 508
(21)【出願番号】P 2021502876
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 IB2019056088
(87)【国際公開番号】W WO2020016790
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-02-04
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507002457
【氏名又は名称】トラックマン・アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】TRACKMAN A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】ニコライ ピーター ハーマンセン
(72)【発明者】
【氏名】フレドリク トゥクセン
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/085894(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0312010(US,A1)
【文献】特開平04-347181(JP,A)
【文献】特開2014-193346(JP,A)
【文献】特開2005-181037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法において、
キックされたボールの軌道データをプロセッサで受け取ることであって、前記軌道データは、複数の測定時間であってそれぞれにボールの3次元位置が対応している測定時間を含むことと、
前記軌道データから、
複数の発射パラメータを含む、前記キックされたボールに対する複数のキックパラメータを特定することと
、
特定されたキックパラメータと空気力学モデルとを組み合わせたものを用いて、一連のボール軌道シミュレーションを生成することであって、シミュレートされる軌道のそれぞれでは、特定された発射パラメータのうちの第1の発射パラメータの値が、シミュレートされる軌道の他のものに使用された複数の以前の値のそれぞれとは異なる第1の新しい値に調整されることと、
前記シミュレートされた軌道のそれぞれについて、目標領域に対する前記ボールのシミュレートされた位置と、前記目標領域に対する前記ボールのシミュレートされた位置に到達するまでの飛行時間とを決定することと、
前記シミュレートされた軌道のそれぞれについて、発射位置と
前記目標領域の間の障害物
に基づく前記目標領域
のブロック部分を
計算することであって、前記目標領域のブロック部分は、前記目標領域に対する前記ボールのシミュレートされた位置に到達するまでの飛行時間に基づいて計算されることと、
前記第1の
発射パラメータの最適化された値
であって、当該最適化された値を用いて計算された前記シミュレートされた軌道が、前記目標領域の非ブロック部分に入るような値を決定し、前記目標領域の非ブロック部分は前記目標領域のブロック部分が前記目標領域から差し引かれたときに残る領域であることと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
第1のシミュレートされた軌道に基づく前記目標領域の前記非ブロック部分の大きさは、
第2のシミュレートされた軌道に基づく前記目標領域の前記非ブロック部分の大きさとは異なっており、
前記第1の
発射パラメータの最適化値は、前記目標領域の前記非ブロック部分の大きさをより大きくする結果となる値であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
特定されたキックパラメータと空気力学モデルとを組み合わせたものを用いて、一連のボール軌道シミュレーションを更に生成することであって、更にシミュレートされる軌道のそれぞれでは、特定された発射パラメータのうちの第2の発射パラメータの値が、前記第1の新しい値のそれぞれと異なる第2の新しい値に調整されることと、
更にシミュレートされた軌道のそれぞれについて、前記目標領域に対する前記ボールのシミュレートされた位置を決定することと、
前記更にシミュレートされた軌道のそれぞれについて、前記障害物
に基づく前記目標領域
のブロック部分を
計算することと、
前記目標領域の前記非ブロック部分の大きさをより大きくする結果をもたらす前記第1
の発射パラメータ及び
前記第2の
発射パラメータの値として、前記第1
の発射パラメータ及び
前記第2の
発射パラメータの最適化された値を決定することと、
を更に含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の方法であって、
前記
発射パラメータは、インパクトスピードと、垂直発射角度と、水平発射方向と、発射時のスピンレートと、発射時のスピン軸と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記第1の
発射パラメータは、前記垂直発射角度及び前記水平発射方向の何れかであることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法であって、
前記第1の発射パラメータは前記インパクトスピード
を含み、前記第2の発射パラメータは発射時のスピンレート
又は発射時のスピン軸の何れか
を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、
前記目標領域はシミュレートされたゴールであり、
前記障害物はシミュレートされた防御壁及びシミュレートされたゴールキーパーの何れかであり、
前記キックされたボールはサッカーボールであることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記シミュレートされたゴールキーパーがシミュレートされた軌道に対する
前記飛行時間に基づき、前記キックされたボールのシミュレートされた軌道が目標領域に入るのを防ぐことが予測される、ゴールキーパーエリアを決定し、前記ゴールキーパーエリアは前記目標領域のブロック部分の少なくとも一部であることを更に含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
前記ゴールキーパーエリアは、更に、発射時における前記ゴールキーパーの初期位置と、前記飛行時間内における前記ゴールキーパーの予想到達範囲と、に基づくことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法であって、
シミュレートされた壁が、前記キックされたボールのシミュレートされた軌道が目標領域に入るのをブロックすると予測される壁エリアを決定し、前記目標領域の前記ブロック部分は、前記壁エリアを備え、前記目標領域の非ブロック部分は前記シミュレートされたゴールキーパー、及び前記シミュレートされた壁が前記シミュレートされた軌道をブロックすることが見込まれないゴールエリアであることを更に含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項7に記載の方法であって、
データベースに、第1のキッカーに対する第1の複数のキックパラメータと、第2のキッカーに対する第2の複数のキックパラメータと、を記憶することと、
前記発射位置、前記障害物の位置
、前記第1
の複数のキックパラメータ
及び前記第2の複数のキックパラメータに基づいて、前記第1
のキッカー又は前記第2のキッカーのうち、どちらがゴールを決める可能性が高いかを決定することと、
を更に含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項7に記載の方法であって、
サッカーの試合における実際のゴールキーパーと実際の防御壁の位置データとを選手追跡システムから受け取ることと、
前記位置データに基づいて、シミュレートされたゴールキーパーとシミュレートされた防御壁の位置とをシミュレートすること
を更に含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
複数の測定時間であってそれぞれにボールの3次元位置が対応している測定時間を含む、キックに関する軌道データを記憶するデータベースと、
前記軌道データから、
複数の発射パラメータを含む、前記キックされたボールに対する複数のキックパラメータを特定するプロセッサ
であって、(a)特定されたキックパラメータと空気力学モデルとを組み合わせたものを用いて、一連のボール軌道シミュレーションを生成することであって、シミュレートされる軌道のそれぞれでは、特定された発射パラメータのうちの第1の発射パラメータの値が、シミュレートされる軌道の他のものに使用された複数の以前の値のそれぞれとは異なる第1の新しい値に調整し、(b)前記シミュレートされた軌道のそれぞれについて、目標領域に対する前記ボールのシミュレートされた位置と、前記目標領域に対する前記ボールのシミュレートされた位置に到達するまでの飛行時間とを決定し、(c)前記シミュレートされた軌道のそれぞれについて、発射位置と目標領域の間の障害物に基づく前記目標領域のブロック部分を計算することであって、前記目標領域のブロック部分は、前記目標領域に対する前記ボールのシミュレートされた位置に到達するまでの飛行時間に基づいて計算し、(d)前記第1の発射パラメータの最適化された値であって、当該最適化された値を用いて計算された前記シミュレートされた軌道が、前記目標領域のブロック部分が前記目標領域から差し引かれたときに残る領域である、前記目標領域の非ブロック部分に入る値を決定するプロセッサと、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項14】
方法において、
キックされたボールの軌道データをプロセッサで受け取ることであって、前記軌道データは、複数の測定時間であってそれぞれにボール3次元位置が対応している測定時間を含むことと、
前記軌道データから、複数の発射パラメータを含む、前記キックされたボールに対する複数のキックパラメータを特定することと、
特定されたキックパラメータと空気力学モデルとを組み合わせたものを用いて、第1の複数のキックをシミュレートすることであって、それぞれの第1のシミュレートされたキックについて、特定された発射パラメータのうちの第1のものの値が新しい値に調整されることと、
前記第1のシミュレートされたキックのそれぞれについて、目標領域に対する前記ボールのシミュレートされた位置と、前記目標領域に対する前記ボールのシミュレートされた位置に到達するための飛行時間とを決定することと、
前記第1のシミュレートされたキックのそれぞれについて、発射位置と前記目標領域との間の第1の障害物により、前記第1のシミュレートされたキックによって到達できない、前記目標領域の第1のブロック部分を計算することと、
前記第1のシミュレートされたキックのそれぞれについて、移動する第2の障害物により、前記第1のシミュレートされたキックによって到達できない、前記目標領域の第2のブロック部分を計算することであって、前記目標領域の第2のブロック部分は、前記目標領域に対してシミュレートされた位置に前記ボールが到達するまでの飛行時間に基づいて計算されることと、
前記目標領域の第1の非ブロック部分の表示をユーザに提供し、前記目標領域の第1の非ブロック部分は、前記目標領域の前記第1のブロック部分及び前記第2のブロック部分に含まれない前記目標領域の部分を含むことと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、
前記第2の障害物はゴールテンダーであり、前記目標領域の第2のブロック部分は、前記目標領域に対して前記ボールがシミュレートされた位置に到達するための修正された飛行時間に基づいて前記第1のシミュレートされたキックのそれぞれについて計算され、前記修正された飛行時間は、前記ゴールテンダーの視界からの前記第1のシミュレートされたキックの軌道の初期部分の前記第1の障害物による遮りに基づくことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2018年7月17日に出願された米国特許出願62/699,449に基づく優先権を主張する。前記出願の明細書は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、スポーツボールの発射を最適化するシステム及び方法に関する。特に、本開示は、キッカーのキック技術を定量化し、与えられたキック状況におけるキッカーの期待されるパフォーマンスを評価し、スポーツボールの軌道を最適化し、キッカーのキック技術を考慮して、ゴールを獲得する可能性を最大化するように、キック状況におけるスポーツボール(例えば、フットボール、サッカーボールなど)を追跡することに関連している。
【背景技術】
【0003】
スポーツボールの発射を成功させるためには(例えば、フットボール(サッカー)においてフリーキックを成功させる(即ち、得点する)ためには)、選手はボールを目標に向けて(ゴールに向けて)、他の選手(チームメイト、相手選手、障害物など)に阻まれず、相手(ゴールキーパーなど)がボールに到達できないように、相手のスピード、能力、初期位置を考慮して、十分な速さ/強さでボールを打ち出さなければならない。フットボール(サッカー)では、直接フリーキックの際の主な防御戦略として、相手選手は一般的に「壁」を形成する。キッカーは、一般的には、ボールが目標を維持するように、スピン軸の向きを制御し、ボールにスピンを加えて、ボールの上部又は周囲を蹴ることで、壁を回避することができる。キッカーがスピン軸を制御しスピードとスピンを生み出す能力は、得点の可能性を最大限に高めるための鍵となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ボールをより高速で蹴ることで飛行時間は短縮されるかもしれないが、スピンの効果はボールを目標上に維持するのに十分でないかもしれない。そのため、ボールが壁を回避し、目標を維持し、ゴールキーパーを回避するのに十分なスピードを維持するようなバランスでボールを打つ必要がある。
【0005】
ヨーロッパのトップ5リーグにおける直接フリーキックのコンバージョン率の公式リーグ統計によると、5年間で、数名のトップパフォーマーは他のすべてのフリーキッカーを一貫して上回っており、コンバージョン率は25%を超えている。チームの平均のコンバージョン率はわずか9%であり、これは大多数のフリーキッカーにとって大幅な改善が一般的に可能であること、更に、トップパフォーマーにおいても更に改善できる可能性があることを示している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態は、スポーツボールの発射を最適化するための方法及びシステムに関する。特に、方法に関する本実施形態の1つは、プロセッサで実行されるものであり、キックの軌道データから、キックされたボールに対する複数のキックパラメータを特定することと、前記キックパラメータのうちの第1の1つの値を第1の新しい値に調整して、第1の前記キックパラメータの値を第2の新しい値に調整して、目標領域に関して第2のシミュレートされた軌道を計算することを組み合わせて、目標領域に関する第1のシミュレートされた軌道を計算することと、前記第1のシミュレートされた軌道と、発射位置と目標領域との間の障害物と、に基づいて、目標領域の第1のブロック部分、及び、前記第2のシミュレートされた軌道と前記障害物とに基づいて、前記目標領域の第2のブロック部分を計算することと、を含む方法に関する。前記方法は、前記の最適化された値を用いて計算された、キックされたボールのシミュレートされた軌道が前記目標領域の非ブロック部分に入る前記第1のキックパラメータの最適化された値を決定すること、を更に含む。前記目標領域の非ブロック部分は前記目標領域からブロック部分を除いた領域である。
【0007】
本実施形態は、以下を備える装置にも関する。この装置は、キックのための軌道データを記憶するデータベースと、前記軌道データから、キックされたボールの複数のキックパラメータを特定するプロセッサと、を備える。前記プロセッサは、キックパラメータのうちの第1の1つの値を第1の新しい値に調整して、目標領域に関する第1のシミュレートされた軌道を計算する。前記プロセッサは、第1の前記キックパラメータの値を第2の新しい値に調整して、目標領域に関し第2のシミュレートされた軌道を計算する。前記プロセッサは、前記第1のシミュレートされた軌道と、発射位置と前記目標領域との間の障害物と、に基づく前記目標領域の第1のブロック部分、及び、前記第2のシミュレートされた軌道と前記障害物とに基づく前記目標領域の第2のブロック部分を計算する。前記プロセッサは、最適化された値を用いて計算された、キックされたボールのシミュレートされた軌道が、前記目標領域の非ブロック部分に入る前記第1のキックパラメータの最適化された値を決定する。前記目標領域の非ブロック部分は、前記目標領域から前記目標領域のブロック部分を除いたエリアである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の様々な例示的な実施形態に従って、キックデータを生成し、最適化されたキックパラメータを決定するためのトラッキングシステムを示す図。
【
図2】サッカー場に実装された
図1のトラッキングシステムを示す図。
【
図3】キックデータの所定のセットからキック性能を計算するための例示的なフローチャート。
【
図4】所定の速度で移動するサッカーボールのスピンレートに対する抗力係数と揚力係数との関係を示す図。
【
図5】直接フリーキックのキックの軌道を示す側面図。
【
図6】サッカーボールの垂直発射角度と様々な発射パラメータとの相関関係を示す図。
【
図7】発射パラメータを反復的に変化させたフリーキックと壁モデルの軌道シミュレーションを示す図。
【
図9】ボールの飛行時間を、ゴールキーパーのセーブ時間を定義する構成要素に分解して示す図。
【
図10】任意の所与のゴールクロス位置でボールをセーブするためにゴールキーパーが必要とするセーブ時間を例示的に示す図。
【
図11】ゴールキーパーがゴールの片側を完全に覆うように配置された場合のゴールキーパー領域を示す図。
【
図12】キッカーとゴールとの間に配置された例示的な壁を示す図。
【
図14】発射パラメータを反復的に変化させたフリーキックと、壁モデルとゴールキーパーモデルとの両方と、についての軌道シミュレーションを示す図。
【
図15】キッカーのキックデータに基づく例示的なキック性能を示す図。
【
図16】サッカーボールのボール速度と様々な発射パラメータとの相関関係を示す図。
【
図17】キッカーのゴールエリアを最大化するための最適化処理を示す図。
【
図18】試合中にフリーキックを指示するための例示的な判定評価を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
例示的な実施形態は、以下の説明及び関連する添付の図面を参照して更に理解することができ、同様の要素は同じ参照符号が与えられる。例示的な実施形態は、スポールボールの発射を最適化するためのシステム及び方法に関する。例示的な実施形態のいくつかは、キックデータを分析し、ゴールを成功させる可能性を最大化するためにフリーキックの状況を最適化することに関する。フリーキックの成功に影響を与えるパラメータには、キッカーの能力、ピッチ上の選手の位置(特に相手チームの「壁」の位置)、相手ゴールに対するキック位置、ゴールキーパーの位置及び能力、キックブーツのボールへの衝撃特性、ボールの空気力学的特性などが含まれる。これらのパラメータは、例えば、ある特定のキッカーからの1つ又は複数のキックを追跡し、キッカーの能力を推定するためにその特性を決定することによって経験的にモデル化されてもよいし、例えば、ゴールキーパーの特定の最初の位置及び反応時間、又は壁の理想的な配置を仮定することによって、理論的にモデル化されてもよい。取得されたキックデータは、事前に定義されたルールを考慮に入れて処理され、例えば、キッカーが達成可能なキックをシミュレートし、与えられたキック状況で得点のチャンスを最大化する軌道を決定する。例えば、フリーキックで得点するチャンスを最大化する、発射時のキック速度及び/又はボールのスピンがキッカーに提示されてもよい。別の実施形態では、キッカーは、キックデータに記憶された複数のシュートタイプを有し、所与のキック状況に好ましいシュートタイプ及び最適化されたパラメータがユーザに提示されてもよい。更に別の実施形態では、オプティマイザは、キッカーが特定のシュートタイプを習得するのを補助するため、理論的に最適化されたシュートをキッカーに提示するために使用されてもよい。
【0010】
用語「壁」は、直接フリーキックからゴールの一部を守るための、サッカーゲームにおける防御戦略に関連する。この戦略は、フリーキックの位置からフリーキックの位置とゴールとの間に、選手を設定された距離に配置することを含む。設定された距離は、ルールによって定められてもよく、例えば、ボールから最低10ヤードの距離である。壁は一人の選手のみで構成されてもよいが、一般的には、互いに結合した複数の選手を含む。壁に使われる選手の数は、ゴールに対するボールの位置や他の理由に基づいて変化してもよい。実際には、練習目的で壁のシミュレーションに任意のタイプのブロック材を使用してもよい。例えば、壁は、練習用具や長方形の構造物などで作られてもよく、その大きさは、サッカーの試合で、相手選手が占めるであろう領域を表す。
【0011】
例示的な実施形態は、フットボール(サッカー)における直接フリーキックの状況について説明されるが、例示的な実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、例示的な実施形態は、ペナルティキック、コーナーキック、ゴールキーパーキックなどや、ボールが最初に静止していないキックなどの他のキック状況に適応されてもよい。更に、例示的な実施形態の一部として、ボールが壁を避けて曲がらなくてもよい(即ちボールが壁上にのみ投影されていてもよい)と仮定してもよいが、記載された原理は、ボールが壁を避けて曲がる状況を含むように修正されてもよい。更に、本明細書に記載の原理は、キッカーの能力がチーム又はキッカーの戦略を制限する可能性がある、例えばアメリカンフットボールのような他のスポーツに適応されてもよい。
【0012】
[システム図]
図1は、本開示の様々な例示的な実施形態に従って、キックデータを生成し、最適化されたキックパラメータを決定するための追跡システム100を示す。追跡システム100は、発射されたボール118の軌道データを生成する追跡装置102を有する。追跡装置102は、キッカー116によって蹴られたボール118の発射位置120から着地位置122までの軌道124を特定して追跡するための操作可能な任意のセンサ又は複数のセンサであってもよい。例えば、追跡装置102は、カメラ、レーダ、LiDAR(Light Detection and Ranging:ライダー)、超音波、微小電気機械センサ、又はそれらの任意の数若しくは組み合わせで構成されてもよい。追跡装置102のための好ましいセンサは、連続波ドップラーレーダである。追跡装置102は、前記装置102によって捕捉された生のデータを生成及び/又は精製するためのいくつかの処理及びデータ格納機能を含んでいてもよいが、本明細書に記載される計算の大部分は、別個の処理ユニット106によって実行されてもよい。
【0013】
追跡システム100は、例えば追跡及び最適化計算を実行するためのプロセッサ106と、例えば追跡データ及び/又はゴールキーパーデータと記憶されたデータを処理するための所定のルールを記憶するデータベース108と、を備えるコンピュータ104を含む。コンピュータ104は更に、例えば最適化されたキックパラメータをユーザに提示するためのディスプレイ110と、例えば現在のキック状況(位置など)を入力するためのユーザインタフェース112とを含む。コンピュータ104の様々な要素によって実行される様々な機能は、本開示全体を通して更に詳細に記載される。
【0014】
追跡装置102は、発射位置120、好ましくは着地位置122を含む領域をカバーする視野(Field Of View:FOV)114を有するが、着地位置は、打撃されたボール118の軌道に基づいてキック間で変化するであろう。
図2は、FOV114が発射位置120、目標位置128(例えば、ゴール)、及びその間で予想される軌道位置を含む、フットボールピッチ126に実装されたシステム100を示す。しかしながら、例示的な実施形態は、任意の場所で実施されてもよく、フットボールピッチ126に限定されない。同様に、目標位置128は、任意のサイズであってもよく、標準的なフットボールゴールの寸法に限定されない。壁130は、目標位置128と発射位置120との間に実装されてもよい。
【0015】
[キックデータ]
キックデータ(即ち、キック軌道データ及び発射パラメータ)の生成のため、キッカー116は、まず、発射位置120から着地位置122に向けて軌道124に沿ってボール118を打つ。システム100がフットボールピッチ126に設置されている場合、着地位置122は、目標位置128の境界内であってもよいし、他の任意の位置であってもよい。追跡装置102は、好ましくは、軌道124の全体、又はプレーフィールド内に残る軌道部分の全体のデータを捕捉するが、軌道124の一部は、必要に応じて、例えば、人又は物体が追跡装置102の視点からのボール118の眺めを妨げる場合には、推定されてもよい。測定された軌道データは、ボール118の飛行全体にわたるボール118の対応する位置(x,y,z)との最小測定回数(t)とを含む。このデータに含まれるのは、好ましくは、衝突時間(t=0)に対応する位置、即ち発射位置120であり、衝突時間及び対応する位置は、そうでなければ他の手段によって決定される必要があるためである。軌道サンプリングの時間ステップは、飛行中の任意の所与の位置での正確な評価を可能にすることが望ましい(好ましい時間ステップは、100ミリ秒よりも大きくない)。
【0016】
軌道測定に加えて、好ましい実施形態では、打球118に対して発射パラメータが測定/決定され、キックデータの一部とみなされる。発射パラメータは、衝突速度(即ち、発射時の速度)、垂直発射角度、水平発射方向、発射時のスピンレート、及び発射時のスピン軸を含む。原則として、スピンレート以外の発射パラメータは、標準的で周知の方法を用いて、軌道データから導出されてもよい。スピンレート(発射時)は、ボールの空気力学に関するいくつかの後天的情報を適用することによって推定されてもよく、これもまた一般的に適切な最適化プロセスを含む既知のアプローチを用いて行われる。例えば、米国特許第8845442号では、フットボール(サッカーボール)を含む球状物体の発射時のスピンレートを導出するための方法が記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。ボールの空気力学に関する同様のタイプの後天的情報を利用することにより、以下で更に詳細に記載されるように、上述の発射パラメータのいくつかだけが所与のキックについて測定された場合であっても、時間の関数としてボールの軌道を推定することが可能である。このアプローチは、結果の精度を低下させる可能性があるが、それでも価値ある結果をもたらすであろう。しかしながら、好ましい実施形態では、上述の発射パラメータとともに、時間の関数としての軌道データの両方が測定され、利用可能であることが想定される。
【0017】
キックデータは、一度決定されると、データベース108に記憶され、キッカー116に関連付けられる。キックデータの収集中、キッカー116は、その能力を最大限に発揮して、彼らの一般的なキック技術の代表的なキック動作でボール118を打つべきである。キッカー116のキック技術は、発射されたボール118のスピード、スピン、及びスピン軸の方位を生成するキッカーの能力の向上に繋がる。スピンレート及びスピン軸の方位は、特に、キッカー116にとって調整が難しいかもしれないが、一方で、ボールのインパクト位置及び発射時の水平方向などのパラメータは、キック技術とそれほど密接に相関していないが、より容易に調整可能である。速度は、一般的には、キッカー116の達成可能な最大速度から下方に調整されてもよいが、上方に調整することは容易ではないだろう。
【0018】
キックデータは、1回のキックに基づいている場合もあれば、複数回のキックの平均値に基づいている場合もある。キックデータに基づくキックは、キッカー116が一般的なゲームプレイでするであろうキッカーの好ましいキック動作及び速度を反映したものであるべきである。このデータから、プロセッサ106は、発射パラメータのうち1つ以上が変化したときに、キッカー116が達成可能な、可能性のあるキック軌道をシミュレートしてもよい。例えば、オプティマイザは、スピン及びスピンパラメータを同じに保ちながら、垂直発射角度及び水平発射方向を調整してもよい。キックデータの様々な用途については、以下で更に詳細に説明する。
【0019】
[ボールの空気力学]
キックデータは、キックデータの収集中に使用されるボール118の空気力学を更に含んでもよいが、この情報は任意である。飛行中のボールの空気力学に影響を与える要因には、ボールの寸法、表面粗さ、ボールの構造、重量分布、パネルの形状などのボールの特性が含まれる。更に、ボールの空気力学は、空気密度、風向、風速、降水量などの気象条件によって影響を受ける。ボールの空気力学は、好ましくは、制御された条件の下で実行される一連の高度な軌道測定によって実証的に決定される。このような制御された調査では、ボール速度やスピンレートなどのパラメータが、いくつかの与えられた気象条件の下で変化し、データベース108に記憶される。例えば、
図4は、既知のボール速度及び特定のボールに対して変化させたスピンレートについての揚力係数(“cl”)及び抗力係数(“cd”)について示した例示的なグラフである。ボールの空気力学は、シミュレートされるボールが、例えば、使用により激しく摩耗している、不適切に膨らませられている、又は他の種類の不完全性を有している場合を除いて、所定の大量生産型のボールタイプについて決定されてもよく、また、そのタイプのすべてのボールに一般的に適用されてもよい。一般的に、抗力と揚力の両方は、スピンレートを増加させると、その大きさが大きくなる。従って、スピンレートを増加させると、一般的に、与えられた飛行距離に対する飛行時間は増加する。これらの要因は、飛行時間(発射からゴールの平面を横切るまでの間)を決定する際に考慮されるが、以下で更に詳細に説明される。
【0020】
ボールの空気力学が実証的解析から得られない場合、スピンレートを調整することによる空気力学的影響は、パラメータの最適化において考慮されなくてもよい。モデル係数を使用する代わりに、測定されたキックデータに対する実際の抗力係数及び揚力係数を計算してもよいが、このような限られたデータからは、異なるスピン条件に対して係数がどのように変化するかを示す正確なモデルが生成されない可能性がある。従って、こういった状況では、スピンレートの結果は空気力学データには考慮されないので、測定装置がスピンレートを測定する必要はないだろう。このような劣化した状況は、有用性はあるものの、好ましくない。従って、好ましい実施形態では、キック測定/シミュレーション実行の前に、ボールタイプ及びその空気力学パラメータが(気象条件の観点から)既知であり、データベース108に記憶されている。天候は、別個の測定装置又はシステム100と統合された測候所から取得されてもよい。
【0021】
[フローチャート]
図3は、キックデータの所定のセットからキック性能を計算するための例示的なフローチャート300を示す。フローチャート300に示された各データフロー又は処理ステップは、以下で簡潔に一般化され、本明細書を通してより詳細に説明される。
【0022】
キックデータ305は、少なくとも1つのキックに基づき、少なくとも一人のキッカー116に対して、システム100によって取得され、データベース108に記憶される。上述のように、キックデータ305は、軌道データ、発射パラメータ、及び、少なくとも1つのキックに使用されるボール118に対する任意の空気力学パラメータを含み、後述する更なる情報を含んでいてもよい。キックデータ305は、単一又は複数の位置からの、単一又は複数のキックに基づいていてもよい。
【0023】
ボール飛行モデル310は、発射パラメータとボール118の空気力学特性に基づいて、ボール118のシミュレートされた飛行モデルを示し、以下に詳細に説明する。
【0024】
キック状況データ315は、フットボールピッチ126上の実際の又は理論的なキック状況を示し、ゴール128に対するボール118の位置、ピッチ126上の選手の配置(壁の形成を含む)、及びゴールキーパーの初期位置を含む。キック状況データ315の導出については、以下に詳細に説明する。
【0025】
インパクトモデル320は、キッカーのブーツとボール118との間のインパクトをモデル化するための複数の選択肢のうちの1つを指す。インパクトモデル320は、2つの個体間のインパクトの詳細な特徴付けであってもよいし、発射パラメータがどのように相関しているかが決定される複数のキックの分析に基づくモデルであってもよいし、特定のパラメータとの間に相関がないと仮定される簡略化されたモデルであってもよい。インパクトモデル320については、以下に詳細に説明する。
【0026】
325では、キックデータ305は、変化する気象条件におけるボール118の軌道データ、発射パラメータ、及び任意の空気力学パラメータを含んでおり、ボール飛行モデル310、キック状況データ315、及びインパクトモデル320と組み合わせて処理され、1つ又は複数の変更された発射パラメータを有するボールの軌道をシミュレートする。325の結果は、特定のキッカーの発射パラメータ(垂直発射角度及び水平発射方向)が小刻みに変更された軌道シミュレーションのグリッドであり、以下で更に詳細に説明する。
【0027】
ゴールキーパーモデル330は、ゴールキーパーの位置に関するいくつかの初期データと、例えば、彼又は彼女の身体寸法、反応時間、速度などを含む、ゴールキーパーの予想される行動を示すいくつかのパラメータとを考慮して、キックをブロックする際のゴールキーパーの予想されるパフォーマンスをシミュレートするものであり、以下に更に詳細に説明される。
【0028】
335では、予測されるゴールキーパーセーブエリア351が、シミュレートされたボール飛行時間とゴールキーパーモデル330とに基づいて計算される。ゴールキーパーセーブエリア351は、一般に、ゴールキーパーがキックをセーブすることが予想されるゴール128の平面内のエリアであり、従って、キッカー116が直接フリーキックにおいて回避するべきエリアを指す。
【0029】
340では、壁エリア352はシミュレートされたボール飛行と基本の壁モデルとに基づいて計算される。壁エリアは、一般に、キッカーのキック技術と壁のブロック機能に基づいて、キッカー116がアクセスできないゴール128の平面内のエリアを指す。
【0030】
345では、ゴールキーパーエリア351と壁エリア352を差し引いた後に、実質的にゴールに残るエリアであるゴールエリア353が計算される。ゴールエリアは、一般に、キッカー116が得点すると予想されるゴール128の平面内のエリアを指す。
【0031】
前述の計算結果は、キック技術とキック状況の点から見たキッカー116の「キック性能」350であり、後に詳述される。
【0032】
[ボール飛行方程式]
ボール飛行モデル310について、抗力及び揚力の方程式を組み合わせてニュートンの運動法則を用いてボール118の飛行をシミュレートするために、標準的な空気力学モデルを用いてもよい。キックデータと、天候やボールデータを含む空力データとを用いて、実際のボールの軌道をシミュレートするために、ボール飛行モデル310に以下の式を適用してもよい。
【0033】
ニュートンの第二法則では、飛行中のボールの加速度a^
ballを式(1)で定義する(訳注;aの上にサーカムフレックスを付した文字を、a^で表記する。)。
式(1):
【数1】
ここで、m
ballはボールの質量であり、F
Gravityは重力からの力であり(m
ball*gによって定義され、gは重力加速度を指す)、F
Liftはボールが回転することで誘起される力(揚力)であり、F
Dragは空気抵抗による力(抗力)である。揚力の大きさは、一般的には式(2)で定義される:
式(2):
【数2】
ここで、clは揚力係数であり、Aはボールの断面積であり、ρは空気密度であり、vは風に対するボールの速度である。ボールに作用する抗力の大きさは、一般的には式(3)で定義される:
式(3):
【数3】
ここで、cdは抗力係数である。抗力はボールの方向とは反対方向であり、揚力はスピン軸とボールの方向との直積の方向に向けられている。そして、重力は地面に向けられる。運動方程式の数値的な実装が軌道の計算に適用される。
式(4):
【数4】
式(5):
【数5】
ここで、x→
0はキック位置であり、v→
0はボールの初速とボールの方向(キックデータにおける発射速度、垂直発射角、及び発射方向から得られる)である(訳注;x又はvの上に矢印を付した文字を、x→又はv→で表記する。)。任意の時点でのボールの加速度が、式(2)及び式(3)で得られたF
Drag及びF
Liftとともに、揚力係数cl及び抗力係数cdを算出する実証的に得られた空気力学データを用いて、式(1)から取得される。
【0034】
[キックの状況]
315について、選手のキックデータを考慮して、所与の状況での“キック性能”は、キック状況を設定し、キック状況を与えられたキッカーのパフォーマンスをシミュレートすることによって評価されてもよい。“キック状況データ”はキック状況を示すものであり、(i)ピッチ上のキックの位置(ゴールまでの距離を含む)、(ii)ピッチ上の選手の位置(壁を含む)、(iii)ゴールキーパーの位置を、含む。
【0035】
キック状況データは、架空のキック状況が生成される理論的なものであってもよいし、直接測定される実際のものであってもよい。例えば、サッカーの試合中に選手追跡システムが使用されてもよい。この種のシステムは、一般的にGPSベース又はカメラベースであり、ピッチ上の全選手の位置を連続的に決定することができる。
【0036】
所与の直接フリーキック状況を分析する場合、データベース108は実際のフリーキック位置からのキッカーに対するキックデータを有することが好ましい。従って、キックデータ生成中、複数の位置からキックを追跡することは、様々な潜在的なキック位置をより良く表すようにキックデータを補強する。
【0037】
キック状況データは、所与の状況に対して一般化されてもよい。例えば、
図2を参照して、直接フリーキックの状況の間、防御壁130は、キック位置から最小距離(例えば10ヤード)離れていなければならず、一般的には前述の距離で形成される。更に、ゴールキーパーは、ゴール内の最適な位置を取るための時間を有し、キッカーはフィールド上の選手の配置に基づき、状況を分析し、戦略を調整してもよい。更に、キッカー側のチームは、ゴールキーパーの視界を遮るために、防御壁130への延長線上に攻撃型の選手を配置してもよい。この状況は、シミュレートされたゴールキーパーパフォーマンスとともに、更に議論される。一般化された直接フリーキック状況は防御壁130を形成している選手及びゴールキーパーを除いてピッチ上の選手を考慮しない。
【0038】
[インパクトモデルの確立]
320について、キックデータに基づいて調整された発射/インパクトパラメータの下でボール118の発射をシミュレートするために、少なくとも3つの選択肢がある。第1の選択肢では、変化する発射条件下で一連のキックが収集され、異なる発射パラメータ間の相関関係が観測され、モデル化される。第2の選択肢では、キッカーの足とボールの衝突を示すインパクトモデルが用いられる。この第2のアプローチでは、足とボールの衝突が、2つの個体間の衝突として力学的観点から詳細に測定され、特徴付けられる必要がある。こういった状況では、インパクト変数間の力学的関係を正確に説明することができる。例えば、最適化分析の一部として分離されたパラメータとしてボール上のインパクト位置が変更された場合(インパクトの力学に関する他のすべてが同じままである一方で)、結果として生じる発射パラメータは、インパクトモデルによって示される何らかの相関関係のある方法で変化するであろう。衝突は、例えば、足とボールがいくつかの物質パラメータによって示される有限要素シミュレーションなどを用いてモデル化されてもよい。
【0039】
第3の最も単純な選択肢では、発射パラメータを互いに独立して変化させてもよいと仮定する。具体的には、発射されたボールの垂直発射角度は、他の発射パラメータ(スピン、スピン軸の向き、ボールの速度)とは独立して変化させてもよいということが、熟練した(プロの)フリーキッカーとの数回のキックセッションで収集されたデータを検証することにより、実証的に確認されている。
図5は、同じ選手が発射角度を変化させながら同じキックを何度も再現する一連の直接フリーキックのキック軌道を示す側面図である。それぞれのキックが追跡され、発射パラメータを含むキックデータが決定された。
図6A~6Cは、垂直発射角度対それぞれの前述の発射パラメータを示す図である。確認できるように、垂直発射角度と発射パラメータとの間には殆ど、又は全く相関関係がなく、キッカーのボールのインパクトの潜在的な変化をシミュレートすることが、他の発射パラメータと独立して単純に垂直発射角度を調整することによって行われてもよいことを示す。この仮定は、キック技術は選手によって異なり、また、観測された発射パラメータの独立性がすべての選手に一般的に適用されるわけではないことが認められているが、他のフリーキッカーにも適用されることがわかっている。従って、上述のように、より高度なインパクトモデルによって、飛行データのより良いシミュレーションが提供されてもよい。
【0040】
水平発射方向もまた、他の発射パラメータに影響を与えることなく変化させてもよい。全く同じキックが行われるように、全体のキック状況をローテーションさせるだけであるが、ボールはゴールに対して異なる方向で発射される。水平発射方向を調整することは、壁やゴール交差位置だけでなく、ゴールラインを越えるまでの飛行時間に影響を与える可能性がある。ただし、発射パラメータには一切影響しない。
【0041】
要するに、垂直発射角度のみを変化させることは、基本的にその他にキック技術を変えることなく、キッカーが足のスイングを少し遅らせたり早めたりして、また、より強く又はやさしくキックすることなく(これらもまたキック技術を変えることなく行うことができ)、ボールにインパクトを与えることを表しているとみなされ、一方、水平発射方向を変化させることは、キック技術を変えることなく、キッカーが異なる方向からボールにアプローチすることを表していると考えられる。このアプローチを用いることで、キッカーの現在のキック技術に応じて、キッカーが持つであろうキックの選択肢、即ち“キックレパートリー”をすべて調べることが可能である。
【0042】
[調整されたボール発射のシミュレーション]
325について、垂直発射角度及び水平発射方向が他の発射パラメータと独立して変化してもよいという仮定を考慮すると、プロセッサ106は、これらのパラメータを段階的に調整してボールの軌道シミュレーションを実行する。小さいステップサイズ(好ましくは、1ステップあたり0.05度より大きくない)が、垂直発射角度及び水平発射方向を調整するために用いられ、上述のボール飛行モデル310を使用して、軌道シミュレーショの細かいグリッドを生成する。シミュレーションは、シミュレートされた軌道でゴールエリア353に到達したときに、軌道(及び発射条件)が選手のキックレパートリーの一部として記憶されるように実行される。ボールが特定の寸法を有することを考慮すると、キックレパートリーの一部となるためには、ボールがゴールに入るスペース(具体的には、ゴールポストを完全にクリアするために、ボールの中心から直径の半分のスペースが必要であるが、ゴールへの跳ね返りを考慮するとわずかに少ない)が必要であることに留意されたい。
【0043】
上述のように、好ましい実施形態では、データベース108は、ボール飛行シミュレーションを可能な限り正確なものにするために、ボールの空気力学データを記憶している。この実証的に決定された空気力学データは、いくつかの理由(ボールの不完全性、モデルを確立する際に行われた単純化/仮定、適切に説明されていない気象条件、ボール圧の違いなど)によってモデルに対して変化する可能性がある、実際に計測されたボール飛行から導出された空気力学データと一致するように、シミュレーションプロセスの一部として調整又は補足されてもよい。このアプローチは、空気力学データが使用されているボールに関し十分に特定されていない場合や、説明する必要があるボール間のばらつきが大きくある場合に好ましいだろう。そして、このような補足の結果は、上述のように、データベース108に記憶される。ボール発射の変動(現在のところ、垂直発射角度及び水平発射方向の変動に縮小している)及び対応するシミュレーションの原理は、
図7に示されており、実際のゴールに寸法よりもわずかに多くをカバーするゴールの交差領域が、評価されたシミュレーションステップによってカバーされている。また、超微細なグリッドでの評価も原則として可能であるが、処理速度を上げるために、結果間の補間を代わりに適用できる。
【0044】
[ゴールキーパーモデル]
330では、それぞれのシミュレートされたキックは、キックがゴール128の平面を交差するのに要する時間、即ち“飛行時間”に関連する時間の量を有する。関連して、ゴールの平面内の各ゴール交差位置において、ゴールキーパーは“セーブ時間”、即ち、初期のゴールキーパー位置を考慮し、ゴールキーパーが反応、移動し、ゴール平面を交差するボールをブロックするのに要する時間の量を有する。シミュレートされたキックにおいて、セーブ時間内に、ボールがゴール平面を横切る時間(飛行時間に基づいて決定される)よりも前に、ゴールキーパーが、ボールがゴール平面を横切るポイントに到達できない場合、シミュレートされた直接フリーキックは成功となる。
【0045】
シミュレートされたキック軌道のうち、どの軌道をゴールキーパーがセーブできるかを評価するため、時間t=0の時点、即ちボールが蹴られたときのゴールキーパーの初期位置を設定する。一般化されたアプローチとしては、いくつかの基準、例えば、詳細は後述されるが、“セーブエリア”(ゴールキーパーエリア351)が最大化される位置や、ゴールの中心、又は他の基準に基づいて、ゴールキーパーが最適な位置に位置すると仮定することである。しかしながら、別の「非理想的な」位置が計算に使用されてもよい。例えば、歴史的な観点から、ゴールキーパーは、一般的には、ゴール内で、彼又は彼女がファーポストに最も近い領域、即ち、キック位置から最も遠いゴールポストをカバーすることが期待される位置を取る。ゴールキーパーがキッカーのキックレパートリーに関する詳細な知識を有していない限り、ゴールキーパーが統計的に最も最適化された位置を選択することは考えられない。このように、シミュレートされる状況やユーザの好みに応じて、初期のゴールキーパー位置について、多くの異なる仮定がなされ得る。しかしながら、以下に説明する方法で決定されるように、最適化されたゴールキーパー位置を使用することは、一般的に、キッカーの観点から、ベースラインの最悪のシナリオ(即ち、潜在的なゴール得点領域を最小化すること)を与えるだろう。
【0046】
ゴール上のシュートに対する防御に関して、ゴールキーパーの期待されるパフォーマンスをシミュレートするために、ゴールキーパーモデル330がデータベース108に実装され、記憶されている。ゴールキーパーモデル330は、キッカーのキックレパートリー内の異なるキックの飛行時間を考慮し、ゴールキーパーから期待され得るものをシミュレートする。ゴールキーパーモデルは、平均的なパフォーマンス、あまり熟練していないパフォーマンス、又は優れたパフォーマンスを反映してもよい。それは、異なるプレーレベル、年齢グループ、性別などに合わせてもよい。本明細書に提示されたモデルは基本モデルであるが、ゴールキーパーの動作に関するより複雑な詳細を含むように容易に開発され得る。
【0047】
ここで紹介するゴールキーパーモデルは、最高レベル(ヨーロッパのトップ5リーグ)で撮られたいくつかの直接フリーキックのビデオ分析に基づいたパラメータを利用する。使用可能なセーブ時間に対してのゴールキーパーのパフォーマンスをモデル化しようとする研究は、これまで行われたことがないようである。しかしながら、ゴールキーパーがまずボール飛行を分析し、反応する時間のない(至近距離では、これは直接フリーキックの状況にもあてはまる)、ペナルティキック状況下でのゴールキーパーの統計的パフォーマンスについては、多くの研究が行われている。このような状況では、ゴールキーパーはインパクト時すぐに、或いは殆どの場合はインパクトの少し前に、行動する必要があるが、選手が調整してゴールキーパーのダイブとは反対方向にボールを蹴る時間があるほど、早くはない。Ken BrayとDavid Kerwinとによる2006年の研究(Kerwin D.G./Bray K.(2006)Measuring and Modelling the Goalkeeper‘s Diving Envelope in a Penalty Kick、Moritz E.F./Haake S.編『The Engineering of Sport 6』スプリンガー、ニューヨーク)では、男性の優れたレベルのペナルティキック状況(ゴールキーパーがジャンプの前に動く時間が殆どない場合)におけるゴールキーパーのセーブエリアを調査し、ゴールキーパーのジャンプ能力に基づいて、ペナルティキッカーが目指すべきエリアとなる、ゴール上の“セーブ不可ゾーン”の特定を試みた。この研究に基づき、ゴールキーパーがカバーすると期待される領域を、ゴールキーパーの“ダイビング・エンベロープ(diving envelope)”と表し、このダイビング・エンベロープの原理を以下に述べるモデルに利用し、ゴールキーパーがある所定の位置からジャンプできる最大距離を定義する。
【0048】
最高プロレベルにおける男性のための基本モデルは、以下の変数を含み、ここで各変数名の横に記載された値は、上記で説明したビデオ分析から決定された平均値に対応する。
腕全長半径:0.9m
脚全長半径:1.2m
脚の高さ:0.9m
肩の高さ:1.5m
反応時間:350ms
ジャンプ速度:5m/秒
移動速度:3.5m/秒
目から肩までの距離:0.2m
ダイビング・エンベロープ半径:2.85m
ボールが見えるまでの時間:この数字は軌道に依存しており、後述するように、評価される実際の軌道と組み合わせて、所与の壁の高さを用いて決定する必要がある。
図8は、ゴールキーパーモデルの原理を示す。
【0049】
335について、ゴールキーパーモデルは、ゴールキーパーの所与の位置からゴール交差位置にあるボールをゴールキーパーがセーブするのにどれくらい時間がかかるかを評価する。腕全長でカバーし得る範囲は、ゴールキーパーの両肩の間に中心がある真円であると仮定する。足についても同様の原理が適用されるが、“反応時間”とされる時間内にどの程度の高さまで足を持ち上げられるかについては、ある程度の上限角度がある。モデルでは、この角度は、脚が垂直になったときから測定して、各側に対して50度に設定されている。しかし、この脚全長半径は、ボールが直接ゴールキーパーに向かって蹴られた場合にのみ関係がある。そうでなければ、ゴールキーパーは手を使ってボールをセーブすることになる。従って、直接フリーキックの場合には、脚全長でカバーし得る範囲を含めることは一般的に重要ではない。
【0050】
所与のゴール交差位置(例えば、
図8の810や820)でボールをセーブするためには、ゴールキーパーはまず反応時間と呼ばれる時間内にボールを観察する必要がある(即ち、ゴールキーパーはボールへの視線があるまでボールの観察を開始することができない)。次に、ゴールキーパーは、ボールがダイビング・エンベロープの領域内に来るまでに、
図8の「移動」で示される距離を自身の「移動速度」で横方向に移動し、そこで、そしてゴールキーパーは、ボールのゴール交差位置に到達するまでに、
図8の「ジャンプ」で示される距離を自身の「ジャンプ速度」で移動する必要がある。ゴールキーパーの移動は、
図8に示すように、肩の高さの位置、つまり「腕全長半径」の円の中心から始まるようモデル化されている。ボールが腕全長半径又は脚全長半径の示された領域内にある場合、ゴールキーパーはボールをセーブすると仮定する。形式的に、ゴールキーパーの位置とゴール交差位置がともに既知であると仮定して、
図8のボール810又は820をセーブするためにゴールキーパーが必要とする時間は、次の式(6)のように計算される。
式(6):
【数6】
ここで、t
blockedは、ボールがゴールキーパーから見えるようになるまでの時間である(直接フリーキックの状況では、ゴールキーパーからボールへ視線があるという意味では、ボールが壁を越えるまでの時間である)。ここで重要なことは、ゴールキーパーは通常、自分の視界を遮るような壁を設置しないが、相手チームは視界を遮るために追加の選手を設置することでメリットがあるということである。このような状況は、一般的に得点の可能性を高めるため、好ましくは考慮されるべきである。変数t
reactionは、ゴールキーパーがボールを観察してから、ゴール交差位置を推定して、その方向を決定するまでの時間である。変数t
moving=d
moving/v
movingは、ゴールキーパーが横方向に距離d
movingを、v
movingの速度で移動するのにかかる時間である。ゴールキーパーは、ボールの予想されるゴール交差位置が、ジャンプして到達できる領域のちょうど端になるまで移動するものとしてモデル化されている(ダイビング・エンベロープで定義されている)。最後にt
jumping=d
jumping/v
jumpingは、ゴールキーパーが、距離d
jumpingを、v
jumpingの速度で跳ぶのにかかる時間である。ゴールキーパーは一般的に自身の移動速度より早くジャンプするので(上記の例示的な変数における“ジャンプ速度”と“移動速度”に示されているように)できるだけ早くジャンプすることが有益である。ここでは、移動速度及びジャンプ速度は一定であると仮定している。移動速度及びジャンプ速度は、実際には一定ではないかもしれないが、上述のように、必要に応じてモデルをより複雑にしてもよい。ボールの飛行時間を、ゴールキーパーに必要なセーブ時間(t
save)を定義する構成要素に分解したものを
図9に示す。
【0051】
ゴールキーパーに対する所与のゴール交差位置に対するセーブ時間の評価は、基本的なゴールキーパーモデルを用いて算出することができる。この評価は、
図10の等高線図によって示されるマトリクスに至り、これは任意の所与のゴール交差位置でボールをセーブするためにゴールキーパーが必要とする例示的なセーブ時間を示す。例えば、ゴールキーパーが一方のゴールポストに位置し、他方のゴールポストで交差するボールをセーブしようとする場合、ゴールキーパーは、ゴール幅の全距離を移動する必要がある。その距離に対応するセーブ時間は、
図10に示す最大のセーブ時間となる。ゴールキーパーは、ゴールのどちら側をカバーしても同じセーブ時間を有すると仮定すると、
図10のマトリクスから、ゴール内のどのゴール交差位置に対するセーブ時間でも決定することができる。
【0052】
ファーポストが完全にカバーされるように、最適なゴールキーパー位置が決定されると仮定すると、ゴールキーパーエリア351は、
図11に示されるものと同様になるだろう。
図7に示されるように、キックレパートリーに記憶されているボール飛行軌道のそれぞれの飛行時間を、任意の所与のゴール交差位置に対するセーブ時間とともに(各軌道には、ゴールキーパーがボールに対する視線を持たない一定の時間があることを考慮にいれつつ)用いて、ゴールキーパーエリアは、ゴール内の任意の所与のゴールキーパーの位置に対し評価されてもよい。壁の高さもまた、以下で更に詳細に説明されるように、最初の視線を決定するために適用される。一般的には、そのような高さは、壁内の選手がジャンプしていると仮定して、男性の場合は、1.8~2.4mの間である。キック位置から最も遠いゴールポストからゴールキーパーを更に遠くに「移動」させることで、この評価を反復的に繰り返すことができる。理想的なゴールキーパー位置は、ゴールキーパーがファーポストの付近でボールがゴールに入らないようにしつつ、ボールの軌道がゴールに入ることを最小限にする位置である。所与のゴール交差位置とゴールキーパー位置について、ゴールキーパーがボールをセーブするためには、単純に次の条件を満たすことが必要だろう。
【数7】
結果として、ゴールキーパーの理想的な位置となる。
【0053】
キック性能の評価に加えて、ゴールキーパーモデルは、ゴール内での配置、反応時間、動きの速さなどに関連したゴールキーパーの性能を評価するために使用することもできる。セーブ状況においてゴールキーパーがとる一般的な望ましくない行動は、ボールが最終的にゴールラインを横切る方向に対して誤った方向に一歩を踏み出すことである。このような行動は、ゴールキーパーのセーブ能力から貴重な時間を奪い、潜在的にボールをセーブできなくさせたり、ボールをうまく扱うことができなくさせたりするだろう。これが、相手選手がゴールキーパーの視線を遮ろうとしたり、更にはゴールキーパーにこういった望ましくない行動をとらせようとする主な理由の1つである。このような状況もゴールキーパーのパフォーマンス評価の一部として、モデル化したり、評価したりすることが可能である。最後に、野球でナックルボールと呼ばれるボール飛行のタイプは、ボールが飛行中に不規則な動きをする場合、サッカーでも、ボールが突然飛行方向を変える可能性がある状況の一つである。これは、ゴールキーパーが方向を変更する必要を生じさせて、ゴールキーパーにとっては致命的な時間のロスとなり、移動してボールをセーブする時間をより少なくする。このような状況は特殊であり、一般に文献では十分に記載及び理解されておらず、それが直接評価され得る前に、いくつかのより高度な空気力学的研究を必要とするだろう。しかしながら、本発明の原理は、このボール飛行行動を如何なる方法でも排除するものではない。
【0054】
[壁エリア]
340について、壁の配置の計算はそれほど複雑ではない。一般的に、ゴールキーパーが既にカバーしている領域をブロックするように、壁の中に選手を配置する必要はない。プロサッカーリーグのルールでは、壁はキック位置から少なくとも10ヤード離れた位置に配置されなければならない。しかし、この数字は環境によって異なる場合がある。キッカーのキックレパートリーからそれぞれのボール軌道の位置を評価することによって、壁内の第1の選手は、如何なるボールも、壁の側面を直線経路で通過しゴールポスト付近を通過してゴールに入ることができないように、配置されてもよい(少なくとも、キック性能評価の前提となる、所定の軌道形状に対してはそうではない)。この原理を
図12に示す。ゴール幅のうちゴールキーパーがカバーしていない部分が完全にカバーされるまで、壁に追加の選手を加えてもよい。選手の横幅は、一般的に男性の場合、0.6mであると仮定している。サッカーにおける一般的な経験則は、壁の第1の人を、最も近いゴールポストとキック位置との間の直線に対して、実際にはゴールの外側である領域をカバーするように、配置することである。この原則は、
図13の破線で示されており、少なくとも直線に移動するキックを考慮した場合には、一人の選手がゴールの外側をブロックするように配置されている。
【0055】
壁エリア352は、壁に阻まれていなければゴールラインを越えていたであろう、キックレパートリーの軌道から計算される(ここでも、ある程度の壁の高さを仮定するが、この場合は2.2mの高さが適用される)。この原理は
図14に示されており、ゴールキーパーエリア351も表示されている。
【0056】
[ゴールエリア]
345について、ゴールエリア353はゴールの残りの部分であり、これは、キックレパートリーからの軌道がゴールキーパー又は壁として立っている選手のどちらにもブロックされないであろう領域である。一般的に、ゴールエリア353が大きいほど得点の可能性がより高くなると言えるが、より大きなゴールエリア353をもたらすいくつかのキックタイプは、再現性(又は一貫性)を低下させるため、実行がより困難であるけれども、一般的にはそうかもしれず、これは1つのパラメータでもある。これは、トップスピンキックの場合であり、一般的に他のキックタイプと比較するとゴールエリア353を増大させるが、サイドスピンキックと比較すると、一貫性が一般的に低下する(何がサイドスピン、トップスピン、バックスピン又はナックルボールキックとみなされるかについての標準的な定義が存在しないことに留意されたいが、一般に、飛行の挙動は、発射パラメータの組み合わせによって定義され、全ての考えられるキックタイプを説明できる)。
【0057】
350について、キック性能350は、
図15に示すように、ゴールキーパーエリア351、壁エリア352、ゴールエリア353の3つのエリアから構成される。プロセッサ106によって計算されると、キック性能350はディスプレイ110に表示される。
【0058】
[キックの最適化]
キック性能がキッカーに対し十分に分析されると、実際の又は理論的なキック状況を考慮して、キックを最適化してもよい。この時点までに、コンピュータ104は、キッカーの観点から、垂直発射角度及び水平発射方向の増分分散、即ち容易に変更可能な変数を用いて、利用可能なキックデータについて現在の状況を分析する。この情報を基に、“キック最適化”プロセスは、所与のキックデータに対してゴールエリアのサイズを最大化するために、その他のキックインパクトパラメータのうち1つ以上を最適化する。
【0059】
最適化には一般に2つの対象があり、それらは独立して適用されてもよいし、組み合わせて適用されてもよい。その目的は、ゴールエリアが最大化されるようにキックスピード及び/又はキック技術を最適化することである。キックスピードの変更は、キッカーの視点からは一般的に簡単であり、短期的又は即時的な変更とみなされ得る。もちろん、選手のキック技術によってボールをどの程度強く蹴ることができるかには上限があるが、ある一定のキック距離までは、殆どの選手が最適化されたスピードでボールを蹴るようにキックを調整することができる。
【0060】
しかしながら、キック技術を変更することは、より困難である。選手のキック技術の変更には、選手の脚のスイング、ボールへの助走、支える脚の位置取り、選手の足におけるインパクト位置などの調整が必要となる場合がある。キック技術の調整は、通常、スピン軸の向きを調整することでトップスピン量を増加させて実行される。この技術的能力をどの程度変更できるかには限界があるように思われる。従って、キック技術の最適化は、選手に練習を要するものであり、長期的変化、或いは選手の成長の問題と考えられる。
【0061】
選手のキックスピードの調整をシミュレートするには、少なくとも2つの選択肢がある。第1の選択肢では、上述のインパクトモデルが、発射パラメータ間の相関関係の決定に関して、発射パラメータ間の依存関係を決定し、補足するために使用される。しかし、インパクトモデルが利用できない場合、発射パラメータ間に相関関係がないと仮定する第2の選択肢が実施されてもよい。
【0062】
図6に示すように、垂直発射角度と残りの発射パラメータとの相関関係を確認するために上記で使用された同様のキック集合データを、発射速度と残りの発射パラメータとの相関関係を確認するために用いてもよい。
図16A~Cは、スピンレート、垂直発射角度、スピン軸のパラメータ対ボール速度をそれぞれグラフに示している。垂直発射角度の分析と同様に、ボール速度はスピンレートや垂直発射角度に殆ど影響を及ぼさないのに対し、スピン軸に関してはわずかな相関が見られることがわかる。しかし、本最適化の目的において、ボール速度の変化が比較的小さい限り、ボール速度とスピン軸間のパラメータ間の依存性を無視することが有効である。例えば、ボール速度の変化が毎秒5m以下であれば、最適な速度に到達するのに十分である。
【0063】
図17は、キッカーのゴールエリアを最大化するための最適化プロセス1700を示す。本実施例では、最適化された発射パラメータはボール速度であるが、本プロセスは、他の発射パラメータにも同様に適用することができる。1705では、キッカーに対するキックデータが、
図3のフローチャートに従ってキック性能を計算するために処理される。
【0064】
1710では、同じキックデータが、調整された発射パラメータで処理される。パラメータはキック性能の対応する変化を評価するために、小さなステップで半部区的に調整される。1715では、調整されたキック性能は、最大ゴールエリアが見つかったかどうかを判定するため、相対的に評価される。
【0065】
最大ゴールエリアが特定されると、対応するキックデータとキック性能が最適化された結果として出力される。この結果は、ディスプレイ110に出力されてもよいし、その他の適当な出力であってもよい。
【0066】
[試合状況]
上述の最適化プロセスは、フリーキックを行うキッカーの選択と、フリーキックを実行するために選ばれたキッカーの戦略を導くために、実際の試合状況で使用されてもよい。例示的な実施形態は、ここまで単一のキッカーの文脈で説明されてきた。しかし、データベース108は、複数の選手のキックデータを記憶してもよい。例えば、チーム内の全ての選手が、記憶された彼又は彼女のキックデータを有していてもよく、そしてチームは、現在のフリーキック位置における比較キックデータに基づいて、好ましいキッカーを特定し、選択してもよい。
【0067】
各キッカーのデータは、選手のキック能力を示すだけでなく、パフォーマンス測定1810の結果(即ち、前述のキックデータ及びキック性能)だけでなく、より多くの情報を含んでもよい。例えば、データは、選手の健康又は身体測定値に関する追加的な選手情報1820を含んでもよく、また、他の試合状況からの彼又は彼女のパフォーマンス履歴の統計1830を含んでもよい。このような選手データは、例えば、コーチングの観点から、選手育成の観点から、又は異なる選手のキック能力が比較されている場合など、多くの状況において有用であろう。ゲームの状況では、有効なキッカーのパフォーマンス評価を必要とする特定のイベント1840が手元にあってもよい。このイベントは、残り時間、イベントタイプ、スコア、ボールの特性などに関する情報を更に含み得るゲーム状況1860の一部とみなされる、キック状況によってのみ示されるものではない。イベント1840は、環境1850(地理的位置、天候)又は対戦相手情報1870(特定のゴールキーパー情報、選手の位置など)に関する情報を更に含んでもよい。選手データを手元のイベントと組み合わせることは、手元にある特定のイベントに対する所与の選手の推薦を得るように、決定オプティマイザ1880を介した推薦評価に繋がり得る。これはまた、選手間で、例えば手元にあるすべての要因を考慮して、所与のフリーキック位置からキックするには誰が理想的な選手であるか、また、どのようなキック技術とスピードを適用すべきかなどといった、特定の選手の推薦1890に繋がる可能性もある。このような決定評価の一般化された構造を
図18に示す。
【0068】
[その他の用途]
上述の原理は、攻撃的目的に適しているが、守備的状況にも適用することができる。例えば、敵側のキックデータを収集している守備側チームは、直接フリーキックに対する守備の防御策を策定できる。このような状況では、相手選手のキック技術に関する詳細な知識を有する守備側チームは、直接のフリーキックからのゴールを防ぐチャンスを最適化するよう、異なる方法で壁を構成したり、ゴールキーパーを異なる位置に配置したりすることができるだろう。
【0069】
上述の原理は、結果として生じるある種類のボール軌道が、ある種の測定された発射パラメータに基づいて測定及び/又は評価される、他のスポーツにも一般化されてもよい。そのようなスポーツの例としては、ゴルフ、テニス、野球、クリケット、アメリカンフットボール、ラグビー、バドミントン、卓球、ヨーロッパのハンドボール、バレーボール、バスケットボール、フィールドホッケーなどが挙げられ、このようなスポーツでは、軌道へ繋がる一連の所定データが、所与の状況におけるパフォーマンスを決定するために評価され得る。そのデータは、選手が所与の状況の潜在的な結果を究極的に改善するよう、彼/彼女のパフォーマンスを改善するのを助けるオプティマイザを介し最適化され得る。一般的に、本発明は、選手が状況を分析し、それに応じて実行する時間のある状況に特に適している。サッカーでは、それは一般的には、フリーキック、ペナルティキック、スローイン、ゴールキーパーの配置、コーナーキックなどのようなセットプレーの状況であろう。他のスポーツでは、テニス、卓球、バトミントン及びバレーボールのサーブ、アメリカンフットボールのフィールドゴール、パント、及びキックオフ、オリンピックの投擲競技でのスローイング、といった状況であろう。練習の状況でも一般的に、選手がアクションの合間に状況分析し、何度も何度もパフォーマンスを繰り返すことに時間を費やせ、この状況自体が分析するための多くの時間を残していない可能性があるが、それでも原理が適用できることを示す。これは、オープンプレイでのシュート、ロングパス、ロングスロー、ゴールキーパーの配置、コーナーキックなどの状況に当てはまる。
【0070】
一例として、例示的な原理は、テニスに適用されてもよい。テニスボールは、サッカーボールと同様で、垂直発射角度、水平発射方向、発射速度、スピンレート、スピン軸を含む発射パラメータを有する。センサは、追跡システム100と同様の方法で実装されてもよく、テニス選手は、捕捉されたスイングデータを有してもよい。システムは、例えば、ネットとダブルスでチームメイトによって覆われている部分とを避けながら、テニスコートの適切な部分(即ち、目標とするサーブコート)にボールを位置させるためのサーブパラメータの最適化に対して調整されてもよい。更に、適切なサービスコートの一部分は、例えば、容易にリターン可能な領域として、あまり好ましくないものとして指定されてもよい。上述のサッカーゴールキーパーの説明と同様の方法で、あまり望ましくないと指定された領域は、対戦相手の履歴データ、対戦相手の現在の位置、ファーストサーブ対セカンドサーブの状態、対戦相手のスピード及び技術レベルなどに基づいて特定されてもよい。システムは、選手が領域内にサーブを着地させたとき、相手がサーブをうまく、又は効果的に返すことが期待できないであろうコートの領域を最大化するように、パラメータのうち1つ以上を調整することで、発射パラメータを最適化してもよい。別の実施形態では、プロセッサは、ボールを出すエリアの等級を決定してもよく、例えば、相手がボールをうまく返すことができる、十分に返すことができる、十分に返すことができない、全く返せないことが期待されるエリアなどである。前記システムは、選手が打つことができるコートの領域を推定する際に、テニスボールの発射前パラメータ、即ち、サーブのトス、相手選手によって打たれて入ってくるボールの速度、方向、スピンなどを更に考慮してもよい。
【0071】
テニスのためのこのようなシステムはまた、上述したものと同様の学習機能を有していてもよい。テニス選手は、スイングを調整して、例えば、サーブのためにより多くトップスピンを生成したり、ドロップショットのためにより多くバック/サイドスピンを生成したりすることができる。異なるタイプのショットをマスターする利点を図示して、選手はそれに応じてゲームを調整することができる。
【0072】
最後に、本発明は用具の最適化を含む処理にも非常に適している。これは、材料/形状などをテストして評価することができる、用具メーカーの観点からであってもよいが、例えばゴルフにおけるクラブのシャフトの長さ/剛性、クラブヘッドの重量/寸法/重量分布/形状など、サッカーにおけるブーツの重量/形状/寸法/材料、ラケットスポーツにおけるストリングパターン、張力、素材、ラケットの寸法などといった、スポーツ用具を選手のパフォーマンスに適合するようにカスタマイズしフィットさせる処理においてでもよい。