(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】除染方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/20 20060101AFI20220613BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20220613BHJP
A61L 9/04 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
A61L2/20
A61L9/01 M
A61L9/04
(21)【出願番号】P 2021576776
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2021036527
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2020167523
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】茂田 誠
(72)【発明者】
【氏名】池田 卓司
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-508579(JP,A)
【文献】特表2017-509408(JP,A)
【文献】特表2018-517539(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0388574(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00-2/28
A61L 9/00-9/22
A61L 101/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除染対象の内部に存在する微生物及びウイルスの少なくとも一方を除染する除染方法であって、
前記除染対象の内部に、過酢酸を含むミストを放出せず、過酢酸を含む蒸気を放出するステップを含み、
除染中における前記除染対象の内部の平均湿度は、RH82%以上であり、
前記蒸気における過酢酸の濃度を除染開始から除染終了まで1分毎に加算することによって得られる値である過酢酸蒸気負荷量は、2000ppm以上であ
り、
放出される前記蒸気における前記過酢酸の濃度が100ppm以下である、除染方法。
【請求項2】
前記平均湿度は、RH99%以下であり、
前記過酢酸蒸気負荷量は、12000ppm以下である、請求項1に記載の除染方法。
【請求項3】
前記過酢酸蒸気負荷量と、前記平均湿度とは以下の関係を満たす、請求項1又は請求項2に記載の除染方法。
y>-350x+33250
x:前記平均湿度
y:前記過酢酸蒸気負荷量
【請求項4】
除染開始から除染終了までの時間のうち50%以上の時間において前記蒸気を放出する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の除染方法。
【請求項5】
連続して前記蒸気を放出する時間のうち最長の時間は、除染開始から除染終了までの時間の50%以上の時間である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除染方法に関し、特に、除染対象の内部に存在する微生物及びウイルスの少なくとも一方を除染する除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2018-121826号公報(特許文献1)は、無菌製造施設等を除染する除染装置を開示する。この除染装置は、過酢酸を含むドライフォグを用いることによって、除染対象空間の除染(バイオ除染)を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者(ら)は、過酢酸を含むドライフォグ(ミスト)ではなく、過酢酸を含む蒸気によって除染対象の内部を除染することを考えた。上記特許文献1は、過酢酸を含む蒸気によって除染対象の内部の除染を行なう場合に、どのような方法を用いれば除染対象の内部を適切に除染できるかについて一切開示していない。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、過酢酸を含む蒸気を用いて除染対象の内部を適切に除染可能な除染方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従う除染方法は、除染対象の内部に存在する微生物及びウイルスの少なくとも一方を除染する除染方法である。この除染方法は、除染対象の内部に、過酢酸を含むミストを放出せず、過酢酸を含む蒸気を放出するステップを含む。除染中における除染対象の内部の平均湿度は、RH82%以上である。蒸気における過酢酸の濃度を除染開始から除染終了まで1分毎に加算することによって得られる値である過酢酸蒸気負荷量は、2000ppm以上である。
【0007】
本発明者(ら)は、除染中における除染対象の内部の平均湿度がRH82%以上であり、かつ、過酢酸蒸気負荷量が2000ppm以上である場合に、除染対象の内部の除染が成功することを見出した。本発明に従う除染方法においては、除染中における除染対象の内部の平均湿度がRH82%以上であり、かつ、過酢酸蒸気負荷量が2000ppm以上である。したがって、この除染方法によれば、除染対象の内部を適切に除染することができる。
【0008】
上記除染方法において、平均湿度はRH99%以下であり、過酢酸蒸気負荷量は12000ppm以下であってもよい。
【0009】
除染中における除染対象の内部の平均湿度がRH99%を超えると、除染対象の内部で結露が生じる可能性が高い。除染対象の内部における結露は、除染対象の内部における腐食の原因になる。また、過酢酸蒸気負荷量が12000ppmを超えると、除染対象の内部における易腐食性の金属部位などに腐食が生じやすい。さらに、過酢酸濃度が100ppmを超えると除染対象内部の金属部位などに腐食を生じやすい。これらの事実を本発明者(ら)は見出した。本発明に従う除染方法においては、平均湿度はRH99%以下であり、過酢酸蒸気負荷量は12000ppm以下である。したがって、この除染方法によれば、除染装置の内部の腐食を抑制することができる。
【0010】
上記除染方法において、過酢酸蒸気負荷量と、平均湿度とはさらに以下の関係を満たしてもよい。
y>-350x+33250
x:前記平均湿度
y:前記過酢酸蒸気負荷量
本発明者(ら)は、過酢酸蒸気負荷量と平均湿度とが上記関係を満たす場合に、除染が成功することを見出した。本発明に従う除染方法においては、過酢酸蒸気負荷量と平均湿度とが上記関係を満たす。したがって、この除染方法によれば、除染対象の内部を適切に除染することができる。
【0011】
上記除染方法において、除染開始から除染終了までの時間のうち50%以上の時間において上記蒸気を放出してもよい。
【0012】
例えば、過酢酸を含むミストを放出する方式(以下、「ミスト式」とも称する。)の場合、ミストが除染する空間中に浮遊するため、結露が生じやすい。除染対象の内部の結露を防止するために、ミストを発生させる湿度の上限値を設定し、ミストの放出が間欠的に行なわれる。ミストを発生させる湿度の上限値はRH80%からRH92%であることが多い。ミスト式の場合には、ミストが放出される時間は除染開始から終了までの時間のうち、30%より少ないことが多い。
【0013】
一方、過酢酸を含む蒸気を放出する方式(以下、「気化式」とも称する。)の場合、蒸気のみが浮遊し、ミストが浮遊していないため、結露が生じにくい。
【0014】
本発明に従う除染方法においては、除染開始から除染終了までの時間のうち長い時間蒸気を放出することができる。例えば、50%以上の時間において上記蒸気を放出することができる。除染する環境によっては、除染開始から除染終了までの時間のうち、100%の時間において、蒸気を放出することができる。したがって、この除染方法によれば、気化式が採用され、かつ、蒸気の放出が停止されている時間が短いため、除染対象空間中で過酢酸蒸気が分解し、過酢酸濃度が大きく低下することを抑制することができる。
【0015】
上記除染方法において、連続して上記蒸気を放出する時間のうち最長の時間は、除染開始から除染終了までの時間の50%以上の時間であってもよい。
【0016】
この除染方法によれば、気化式が採用され、かつ、連続的に蒸気が放出される時間が長いため、過酢酸濃度が大きく低下することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、過酢酸を含む蒸気を用いて除染対象の内部を適切に除染可能な除染方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】安全キャビネット内の除染手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第1の変形例における、蒸気発生部の概略構成を示す図である。
【
図5】第2の変形例における、蒸気発生部の概略構成を示す図である。
【
図6】BIとして10
4のものを用いた場合の結果を示す図である。
【
図7】BIとして10
6のものを用いた場合の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0020】
[1.除染システムの構成]
図1は、除染システム10の概略構成を示す図である。
図1に示されるように、除染システム10は、ポンプ110と、蒸気発生部120と、安全キャビネット200とを含んでいる。除染システム10においては、管101,102を介してポンプ110が安全キャビネット200に接続されている。蒸気発生部120は、安全キャビネット200の内部に配置されているが、安全キャビネット200の外部、例えば管101,102の経路上に配置されてもよい。蒸気発生部120は、過酢酸を含む蒸気(以下、「過酢酸蒸気」とも称する。)を発生するように構成されている。蒸気発生部120については、後程詳しく説明する。過酢酸蒸気が除染システム10内を循環することによって、例えば、安全キャビネット200の内部に存在する微生物及びウイルスの少なくとも一方が除染される。
【0021】
安全キャビネット200は、バイオハザードを抑制するための箱状の実験設備である。実験者は、ワークエリアWA1に手を挿入し、例えば生物材料を用いた実験を行なう。安全キャビネット200は、ファン205と、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタ210,220と、シャッタ250とを含んでいる。実験時には、ファン205が作動することによって気流が生じ、HEPAフィルタ210を通じて清浄な空気が外部に排出されると共に、HEPAフィルタ220を通じて清浄な空気がワークエリアWA1に供給される。シャッタ250は、開閉可能に構成されている。
【0022】
安全キャビネット200の天井部分には、例えば、連通孔268が形成されている。連通孔268は、開閉可能になっている。
図1の例では、管102がシャッタ250の下方からワークエリアWA1内に挿入され、管101が連通孔268に接続されている。管101,102の各々は、ポンプ110に接続されている。ポンプ110は、管101側から空気を吸引し、管102側に空気を供給するように構成されている。ポンプ110が作動することによって、蒸気発生部120から発生する過酢酸蒸気が除染システム10内を循環する。
【0023】
除染中は、シャッタ250が閉められる。シャッタ250が閉められた状態であっても、安全キャビネット200の内部と外部との間は完全には遮断されず、僅かな隙間が形成される場合がある。除染中において、この隙間は、例えば養生テープによって養生される。
【0024】
また、除染に先立って、HEPAフィルタ210の上方の空間には、BI(Biological Indicator)230が配置される。除染の終了後に、BI230の死滅状況に基づいて、除染効果が確認される。BI230の死滅状況に基づいて除染効果が確認されるのは、BI230が、過酢酸蒸気が導入される部分から最も遠く、かつ、HEPAフィルタ210の下流側であり、最も過酢酸蒸気が届きにくい場所に設置されているからである。最も過酢酸蒸気が届きにくい場所のBIが死滅すると、安全キャビネット200の内部は十分過酢酸蒸気が行き渡ったと考えることができる。なお、BIの菌数は特には限定されないが、例えば、103~106とすることができる。
【0025】
図2は、蒸気発生部120の概略構成を示す図である。
図2に示されるように、蒸気発生部120は、容器121と、ファン122とを含んでいる。
【0026】
容器121は、金属又は樹脂等の除染剤126により腐食しない材質で構成されており、除染剤126を収容するように構成されている。除染剤126は、過酢酸を含む水溶液である。すなわち、除染剤126は、過酢酸製剤である。容器121の上方には、ファン122が設けられている。
【0027】
ファン122は、回転することによって、容器121の外部から内部に向かう気流、及び、容器121の内部から外部に向かう気流を生じさせるように構成されている。ファン122が回転することによって、除染剤126が蒸発して生じた過酢酸蒸気が容器121の外部に放出される。蒸気発生部120においては、除染剤126が蒸発して生じた過酢酸蒸気のみが容器121の外部に放出されるため、過酢酸を含むミストが放出されることはない。
【0028】
このように、除染システム10においては、過酢酸蒸気によって安全キャビネット200の内部が除染される。安全キャビネット200内の除染を通じて、HEPAフィルタ210,220も除染される。除染システム10において、過酢酸を含むミストではなく、過酢酸蒸気によって除染が行なわれる理由について次に説明する。すなわち、ミスト式ではなく、気化式(蒸気)が用いられている理由について説明する。
【0029】
例えば、過酢酸を含むミストによってHEPAフィルタ210,220の除染が行なわれると、ミストがHEPAフィルタ210,220に捕集される。その結果、HEPAフィルタ210,220は、付着したミスト(液滴)により濡れて圧力損失が上昇し得る。
【0030】
過酢酸蒸気は、HEPAフィルタ210,220に捕集されにくい。したがって、上記ミスト式における問題が生じない。このような理由により、除染システム10においては、気化式が採用されている。除染システム10においては、気化式を用いた場合における適切な除染方法が採用されている。
【0031】
次に、過酢酸を含む蒸気の発生方法について説明する。溶液から蒸気を効率よく発生する手段として、溶液を加熱する方法が知られているが、この方法によると、加熱により過酢酸の分解が進み除染効果が低下する問題、及び加熱された蒸気が除染対象空間内の比較的低温部で冷やされ結露を発生する可能性が高くなる問題が生じる。結露の発生は当該部位の腐食や蒸発残渣による汚れの問題を引き起こす。
【0032】
蒸気発生部120によれば、除染剤126が加熱されないため、過酢酸の分解を抑制して効率良く過酢酸蒸気を発生させることができる。また、除染システム10によれば、過酢酸を含む除染剤126の温度が除染対象のHEPAフィルタ210,220が配置された空間内の温度と同程度に維持されるため、該空間内で結露が発生する可能性を抑制することができる。以下、除染システム10において用いられる除染方法について説明する。
【0033】
[2.除染方法]
図3は、安全キャビネット200内の除染手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される各工程は、作業者によって行なわれる。
【0034】
図3を参照して、作業者は、安全キャビネット200内に、BI230を配置する(ステップS100)。作業者は、安全キャビネット200内に蒸気発生部120を配置すると共に、管101,102を用いて安全キャビネット200にポンプ110を接続する(ステップS110)。作業者は、安全キャビネット200における隙間を養生テープ等によって養生する(ステップS120)。作業者は、ポンプ110を作動させ、安全キャビネット200内の除染を開始させる(ステップS130)。
【0035】
作業者は、所定時間が経過したか否かを判断する(ステップS140)。作業者は、所定時間が経過するまで待機する(ステップS140においてNO)。所定時間が経過すると(ステップS140においてYES)、作業者は、BI230の死滅状態に基づいて除染効果を確認する(ステップS150)。BI230の死滅が確認されることによって、安全キャビネット200内の除染が完了する。
【0036】
なお、ステップS140における所定時間は、安全キャビネット200内の湿度がRH82%以上、RH99%以下になり、かつ、過酢酸蒸気負荷量が2000ppm以上、12000ppm以下になるのに要する時間である。所定時間は、予め実験を通じて決定されている。また、過酢酸蒸気負荷量は、過酢酸蒸気における過酢酸の濃度を除染開始から除染終了まで1分毎に加算することによって得られる値である。
【0037】
本発明者(ら)は、除染中における安全キャビネット200内の平均湿度がRH82%以上であり、かつ、過酢酸蒸気負荷量が2000ppm以上である場合に、安全キャビネット200内の除染が成功することを後述の実験を通じて見出した。除染システム10においては、除染中における安全キャビネット200内の平均湿度がRH82%以上であり、かつ、過酢酸蒸気負荷量が2000ppm以上である。したがって、除染システム10によれば、安全キャビネット200の内部を適切に除染することができる。
【0038】
また、除染中における安全キャビネット200内の平均湿度がRH99%を超えると、安全キャビネット200内で結露が生じる可能性が高い。安全キャビネット200内における結露は、安全キャビネット200内における腐食や蒸発残渣による汚れの原因になる。また、過酢酸蒸気負荷量が12000ppmを超えると、安全キャビネット200内において腐食が生じやすい。これらの事実を本発明者(ら)は、見出した。除染システム10においては、安全キャビネット200内における平均湿度はRH99%以下に維持され、過酢酸蒸気負荷量は12000ppm以下である。したがって、除染システム10によれば、安全キャビネット200内の腐食を抑制することができる。なお、安全キャビネット200内の平均湿度はRH95%以下であることがさらに好ましく、過酢酸蒸気負荷量は10000ppm以下であることがさらに好ましい。
【0039】
また、本発明者(ら)は、過酢酸蒸気負荷量と平均湿度とが以下の関係を満たす場合に、安全キャビネット200内の除染が成功することを後述の実験を通じて見出した。例えば、菌数が106以上のBIを使用するような高い除染レベルが求められる除染システム10においては、上述した条件(RH82%以上、過酢酸蒸気負荷量2000ppm以上)に加え、さらに過酢酸蒸気負荷量と平均湿度とが下記関係を満たせばよいことを見出した。したがって、除染システム10によれば、安全キャビネット200内を適切に除染することができる。
【0040】
y>-350x+33250
x:前記平均湿度
y:前記過酢酸蒸気負荷量
また、ステップS130以降において、除染開始から除染終了までの時間のうち50%以上の時間において過酢酸蒸気が放出される。なお、除染開始から除染終了までの時間のうち過酢酸蒸気が放出される時間は、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。また、ステップS130以降において、連続して過酢酸蒸気が放出される時間のうち最長の時間は、除染開始から除染終了までの時間の50%以上の時間である。なお、連続して過酢酸蒸気が放出される時間のうち最長の時間は、除染開始から除染終了までの時間の70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0041】
例えば、ミスト式の場合、安全キャビネット200内の湿度が上がり過ぎないようにするために、ミストの放出が間欠的に行なわれることがある。ミストを発生させる湿度の限界値はRH80%からRH92%であることが多い。ミスト式の場合には、ミストが放出される時間は除染開始から終了までの時間のうち、30%より少ないことが多い。
【0042】
一方、気化式の場合、ミストが浮遊していないため、結露が生じにくい。
【0043】
除染システム10においては、除染開始から除染終了までの時間のうち長い時間蒸気を放出することができる。例えば、50%以上の時間において過酢酸蒸気を放出することができる。除染する環境によっては、除染開始から除染終了までの時間のうち、100%の時間において、蒸気を放出することができる。したがって、除染システム10によれば、気化式が採用され、かつ、過酢酸蒸気の放出が停止されている時間が短いため、除染対象空間中で過酢酸蒸気が分解し、過酢酸濃度が大きく低下することを抑制することができる。
【0044】
また、除染システム10において、連続して過酢酸蒸気を放出する時間のうち最長の時間は、除染開始から除染終了までの時間の50%以上の時間である。したがって、除染システム10によれば、気化式が採用され、かつ、連続的に蒸気が放出される時間が長いため、安全キャビネット200内における過酢酸濃度が大きく低下することを抑制することができる。
【0045】
[3.特徴]
以上のように、除染システム10において用いられている除染方法においては、除染中における安全キャビネット200内の平均湿度がRH82%以上であり、かつ、過酢酸蒸気負荷量が2000ppm以上である。したがって、この除染方法によれば、安全キャビネット200内を適切に除染することができる。
【0046】
[4.変形例]
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下、変形例について説明する。
【0047】
<4-1>
上記実施の形態において、安全キャビネット200内に配置されるエアフィルタは、HEPAフィルタ210,220であった。しかしながら、安全キャビネット200内に配置されるエアフィルタは、これに限定されない。除染対象のエアフィルタは、例えば、中性能フィルタであってもよいし、ULPAフィルタであってもよい。
【0048】
<4-2>
また、上記実施の形態において、除染対象は、安全キャビネット200であった。しかしながら、除染対象はこれに限定されない。例えば、除染対象は、内部の除染が必要な対象であればどのような対象であってもよい。また、除染対象は、密閉されていてもよいし、準密閉状態であってもよい。すなわち、除染対象の密閉度は、過酢酸蒸気の漏洩によって過酢酸蒸気の濃度が極端に低下しない程度であればよい。例えば、除染対象は、アイソレータ装置、培養器、遠心分離機、パスボックス、保管庫、空調機器、クリーンベンチ、ダクト等であってもよい。
【0049】
<4-3>
また、上記実施の形態において、安全キャビネット200内には、蒸気発生部120が配置された。しかしながら、蒸気発生部120の構成はこれに限定されない。例えば、蒸気発生部120において、ファン122は設けられていなくてもよい。さらに、吸水性気化促進部材124Aが備えられていても良い。吸水性気化促進部材124Aは、例えば、織物、編み物、不織布又はフィルム等のシート状のものをひだ折り状、コルゲート状に加工することによって形成されていてもよい。吸水性気化促進部材124Aにおいては、シリカゲル、ゼオライト等の多孔質材料が織物、編み物、不織布又はフィルム等の中に内包されていてもよい。
【0050】
図4は、変形例における、蒸気発生部120Aの概略構成を示す図である。蒸気発生部120の代わりに、蒸気発生部120Aが採用されてもよい。
図4に示されるように、ポンプ110には、管101,102が接続されている。ポンプ110は、管101側から空気を吸引し、管102側に空気を供給するように構成されている。
【0051】
蒸気発生部120Aは、容器121Aと、吸水性気化促進部材124Aと、除染剤126Aとを含んでいる。容器121Aは、例えば筒状の密閉容器である。容器121Aには、吸水性気化促進部材124Aと、除染剤126Aとが収容されている。除染剤126Aは、過酢酸を含む液体状の薬剤である。吸水性気化促進部材124Aは、例えば、多孔質材料によって構成されている。吸水性気化促進部材124Aは、除染剤126Aに浸漬されている。吸水性気化促進部材124Aは、毛細管現象により容器121A内の除染剤126Aを吸い上げる。すなわち、吸水性気化促進部材124Aには、除染剤126Aが染み込んでいる。
【0052】
なお、吸水性気化促進部材124Aは、除染剤126Aにより湿潤し、通風により除染剤126Aを効率良くガス化(気化)できれば、構造や部材は特に限定されない。例えば、吸水性気化促進部材124Aは、織物、編み物、不織布又はフィルム等のシート状のものをひだ折り状、コルゲート状に加工することによって形成されていてもよい。シリカゲル、ゼオライト等の多孔質材料が織物、編み物、不織布又はフィルム等の中に内包されていてもよい。
【0053】
管102を介してポンプ110から空気の供給を受け、吸水性気化促進部材124Aに染み込んでいる除染剤126Aの気化が促進される。これにより、過酢酸蒸気が発生する。過酢酸蒸気は、管116を介して安全キャビネット200の内部に供給される。なお、蒸気発生部120Aにおいて、吸水性気化促進部材124Aは必ずしも含まれていなくてもよい。
【0054】
また、蒸気発生部120の構造は、
図5に示されるようなものであってもよい。すなわち、蒸気発生部120Bにおいては、吸水性気化促進部材124Bが薬液126Bを毛細管現象によって吸い上げる。管102Bを介して蒸気発生部120B内に導入された空気によって、過酢酸蒸気(ガス)が管116B側に流される。過酢酸蒸気は、管116Bを介して安全キャビネット200内に導入される。
【0055】
[5.実験]
<5-1.実験内容>
この実験においては、
図1に示される除染システム10を準備した。安全キャビネット200としては、日立産機システム社製のクラスIIA安全キャビネット SCV-1308EC II A2を用いた。安全キャビネット200内の過酢酸濃度を測定するための過酢酸濃度計としては、ATI社製のF12/D-3-6-1-1 センサーモジュール:00-1705を用いた。安全キャビネット200内の温度及び湿度を測定するための温湿度計としては、日置社製の温湿度ロガーLR5001を用いた。除染剤126(
図2)としては、キャンテル社製のミンケアを用いた。BI230としては、MesaLabs社製のHMV-091 10
6、及び、KCD-404 10
4を用いた。BI230の培養液としては、MesaLabs社製のPM/100を用いた。
【0056】
HEPAフィルタ210の下流側から空気を吸引し、シャッタ250の下方から安全キャビネット200内に空気を供給するように、管101,102を用いてポンプ110と安全キャビネット200とを接続した。安全キャビネット200の養生を行ない、安全キャビネット200内を可能な限り密閉状態とした。ワークエリアWA1内に蒸気発生部120を設置し、過酢酸蒸気を発生させた。なお、除染中において、ファン205は、作動させてもよいが、今回は作動させなかった。ファン205が作動し発熱すると、安全キャビネット200内の空気の温度が上昇し、除染システム10内の比較的低温部で結露発生の原因になるためである。
【0057】
HEPAフィルタ210の下流側にBI230を設置した。除染終了後にBI230を培養した。
【0058】
ミンケア(過酢酸含有率4.5%)を純水で希釈したものを除染剤126として用いた。希釈割合が1~25%の希釈液を使用し、発生させる過酢酸蒸気の濃度に応じて調整した。ファン122としては、羽径が11cmの軸流ファンを用いた。
【0059】
除染中において、安全キャビネット200内の温湿度及び過酢酸蒸気濃度を1分毎に記録した。BI230の培養後に、陰性・陽性を判断した。
【0060】
<5-2.実験結果>
図6は、BI230として10
4のものを用いた場合の結果を示す図である。
図7は、BI230として10
6のものを用いた場合の結果を示す図である。
図6及び
図7の各々において、横軸は安全キャビネット200内の平均湿度(除染開始から除染終了までの1分毎の湿度の平均値)を示し、縦軸は安全キャビネット200における過酢酸蒸気負荷量を示す。また、
図6及び
図7の各々においては、代表的な例について、蒸気発生部120が発生する過酢酸蒸気の過酢酸濃度と、除染時間とが対応付けられている。例えば、18.3ppm(4h)とあるのは、蒸気発生部120が発生する過酢酸蒸気の平均過酢酸濃度が18.3ppmであり、除染開始から除染終了までの時間が4時間であることを示す。
【0061】
図6及び
図7を参照して、除染中における安全キャビネット200内の平均湿度がRH82%以上でなければ、BI230が死滅しなかった(陰性のプロット参照)。また、10
4のBI230の死滅条件は、平均湿度がRH82%以上、かつ、過酢酸蒸気負荷量が2000ppm以上であった。
【0062】
10
6のBI230の死滅条件は、平均湿度がRH82%以上であり、かつ、過酢酸蒸気負荷量と平均湿度とが以下の関係(
図7中の直線が示す関係)を満たすことであった。
【0063】
y>-350x+33250
x:前記平均湿度
y:前記過酢酸蒸気負荷量
また、安全キャビネット200内に銅板を配置した状態で、安全キャビネット200内の除染を行なった。この場合に、過酢酸蒸気負荷量が6000ppmを超えると、銅板にやや錆が生じた。したがって、過酢酸蒸気負荷量は、12000ppm以下であることが好ましく、7000ppm以下であることがさらに好ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0064】
10 除染システム、101,102,116 管、110 ポンプ、120 蒸気発生部、121,121A 容器、122,205 ファン、124A 吸水性気化促進部材、126,126A 除染剤、200 安全キャビネット、268 連通孔、210,220 HEPAフィルタ、230 BI、250 シャッタ、WA1 ワークエリア。
【要約】
除染方法は、除染対象の内部に存在する微生物及びウイルスの少なくとも一方を除染する除染方法である。この除染方法は、除染対象の内部に、過酢酸を含むミストを放出せず、過酢酸を含む蒸気を放出するステップを含む。除染中における除染対象の内部の平均湿度は、RH82%以上である。蒸気における過酢酸の濃度を除染開始から除染終了まで1分毎に加算することによって得られる値である過酢酸蒸気負荷量は、2000ppm以上である。