(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-10
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】カーボンブラック及びカーボンブラックの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09C 1/48 20060101AFI20220613BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20220613BHJP
C09C 3/06 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
C09C1/48
C09D17/00
C09C3/06
(21)【出願番号】P 2022503568
(86)(22)【出願日】2021-08-13
(86)【国際出願番号】 JP2021029822
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2021063300
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】榊原 明弘
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雄基
(72)【発明者】
【氏名】長村 佳祐
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-172527(JP,A)
【文献】特開2014-088502(JP,A)
【文献】特開2020-172602(JP,A)
【文献】特開2011-162596(JP,A)
【文献】特開2011-126953(JP,A)
【文献】特開2009-035696(JP,A)
【文献】特開2005-307172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00-3/12
C08K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着比表面積(N
2SA)が、25~60m
2/gであり、
DBP吸収量が、90~180cm
3/100gであり、
窒素吸着比表面積(N
2SA)とヨウ素吸着量(IA)との比(N
2SA/IA)が、1.10×10
3~1.50×10
3m
2/gであって、
ソリッドエコー法により観測されるスピン‐スピン緩和過程の核磁気共鳴シグナルが第1のシグナルと前記第1のシグナルよりも時定数が大きい第2のシグナルとの和で表されるとき、前記第1のシグナルの時間0における単位質量当たりのシグナル強度で表される水素量が、150~250/gであり、
励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm
-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが、260~290cm
-1であ
り、
前記水素量が、東海カーボン(株)製シースト9(商品名)の水素量が114/gとなるように信号強度に影響を与える測定条件を調整した上で求められる値であり、
前記ΔDが、東海カーボン(株)製シーストG-SO(商品名)のΔDが249cm
-1
となるようにΔD値に影響を与える測定条件を調整した上で求められる値である、
カーボンブラック。
【請求項2】
前記DBP吸収量が、90~150cm
3/100gである、請求項1に記載のカーボンブラック。
【請求項3】
前記N
2SA/IAが、1.20×10
3~1.50×10
3m
2/gである、請求項1または2に記載のカーボンブラック。
【請求項4】
ゴム部材のフィラー用である、請求項1~3のいずれか1項に記載のカーボンブラック。
【請求項5】
前記ゴム部材中におけるゴム成分100質量部に対して、10~170質量部の量で添加される、請求項4に記載のカーボンブラック。
【請求項6】
ゴム成分100質量部に対して請求項1乃至5のいずれか一項に記載のカーボンブラックを10~170質量部含むことを特徴とするゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、様々な用途に使用されており、主にゴム部材を補強するためのフィラーとして使用される。このとき、ゴム部材に補強性を十分に付与するためには、カーボンブラックをゴム部材中へ均一に分散させる事が重要であることが知られている。
【0003】
従来、カーボンブラックの分散性を改良しゴム部材の補強性を高める為の技術改良が種々なされて来た。例えば、特許文献1には、ゴム混合物中で、良好な分散性にて、非常に高い補強作用と僅かなヒステリシスとを有するカーボンブラックについて開示されている。特許文献1に記載の発明によれば、CTAB表面積、COAN、OANとCOANとからの合計が所定の数値範囲であるカーボンブラックにより、上記課題が解決できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
近年、ゴム部材が過酷な環境下で使用される場面が増えてきている。その結果、カーボンブラックに対しても、ゴム部材に対する補強性をより向上させることが求められている。
したがって、本発明の課題は、ゴム部材に配合した場合に、ゴム部材をより補強することができるカーボンブラック及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(以下N2SAという。)、DBP吸収量、N2SAとヨウ素吸着量(以下IAという。)との比(以下N2SA/IAという。)、水素量(/g)、及びラマン散乱ピークの半値全幅ΔD(cm-1)のそれぞれの値を特定の範囲内に規制することによって、上記課題が解決できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の事項を含んでいる。
[1]窒素吸着比表面積(N2SA)が、25~60m2/gであり、DBP吸収量が、90~180cm3/100gであり、窒素吸着比表面積(N2SA)とヨウ素吸着量(IA)との比(N2SA/IA)が、1.10×103~1.50×103m2/gであって、ソリッドエコー法により観測されるスピン‐スピン緩和過程の核磁気共鳴シグナルが第1のシグナルと前記第1のシグナルよりも時定数が大きい第2のシグナルとの和で表されるとき、前記第1のシグナルの時間0における単位質量当たりのシグナル強度で表される水素量が、150~250/gであり、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔDが、260~290cm-1であり、前記水素量が、東海カーボン(株)製シースト9(商品名)の水素量が114/gとなるように信号強度に影響を与える測定条件を調整した上で求められる値であり、前記ΔDが、東海カーボン(株)製シーストG-SO(商品名)のΔDが249cm
-1
となるようにΔD値に影響を与える測定条件を調整した上で求められる値である、カーボンブラック。
[2]前記DBP吸収量が、90~150cm3/100gである、[1]に記載のカーボンブラック。
[3]前記N2SA/IAが、1.20×103~1.50×103m2/gである、[1]または[2]に記載のカーボンブラック。
[4]ゴム部材のフィラー用である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のカーボンブラック。
[5]前記ゴム部材中におけるゴム成分100質量部に対して、10~170質量部の量で添加される、[4]に記載のカーボンブラック。
[6]ゴム成分100質量部に対して[1]~[5]のいずれか一項に記載のカーボンブラックを10~170質量部含むことを特徴とするゴム組成物。
【0007】
本発明によれば、ゴム部材に配合した場合に、従来よりもゴムの抗張積を増大させることができる、カーボンブラック及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、水素量の算出方法を説明するための図である。
【
図2】
図2は、水素量の算出方法を説明するための図である。
【
図3】
図3は、ラマン散乱ピークの半値全幅ΔDの算出方法を示す図である。
【
図4】
図4は、カーボンブラックを製造するための処理工程順序を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。
【0010】
本実施形態に係るカーボンブラックは、ゴム部材に添加されるフィラーとして使用されるものである。本実施形態に係るカーボンブラックは、ゴム部材を補強するために使用される。なお、以下においては、ゴム部材を「補強」するとは、ゴム部材の引張強度と引張伸びとの積、すなわちゴム部材の抗張積の値を増大させることをいう。
【0011】
一般に、カーボンブラックのゴム部材への補強性を高めるために、カーボンブラックの表面活性度が高いと、ゴムとの相互作用のし易さが高くなり、ゴム部材の補強性が高くなることが期待できる。しかしながら、実際には、カーボンブラックの表面活性度を高くしようとすると、カーボンブラック同士がホモ凝集しやすくなり、カーボンブラックを均一に分散させることが困難になる。結果的に、カーボンブラックによる補強効果が十分に発揮されない。
そこで、本発明者らは、カーボンブラックの「含有水素量」と「結晶性」に着目した。これらの特性は、ゴムとの相互作用のし易さ、及び、カーボンブラックの凝集性に影響を与える。よって、これらを所定の範囲に規制することで、相互作用のし易さと高い分散性を同時に向上させることができると考えた。
加えて、本発明者らは、分散性に関して、マクロの分散性及びミクロの分散性の双方に着目した。そして、マクロ及びミクロのいずれのスケールにおいても良好な分散性が得られるように、「含有水素量」及び「結晶性」の値を調整した。その結果、高い表面活性度を有しつつも、分散性に優れるカーボンブラックを得ることができ、その結果、ゴム部材をより補強できることを見出した。
【0012】
具体的には、本実施形態に係るカーボンブラックは、以下の事項を有している。
(A)窒素吸着比表面積(N2SA)が、25~60m2/gである。
(B)DBP吸収量が、90~180cm3/100gである。
(C)窒素吸着比表面積(N2SA)とヨウ素吸着量(IA)との比(N2SA/IA)が、1.10×103~1.50×103m2/gである。
(D)ソリッドエコー法により観測されるスピン‐スピン緩和過程の核磁気共鳴シグナルが第1のシグナルと前記第1のシグナルよりも時定数が大きい第2のシグナルとの和で表されるとき、前記第1のシグナルの時間0における単位質量当たりのシグナル強度で表される水素量が、150~250で(/g)ある。
(E)励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅ΔD値が、260~290cm-1である。
【0013】
本実施形態に係るカーボンブラックは、上記の事項を有していることによって、ゴム部材にフィラーとして添加した場合に、ミクロ的にもマクロ的にも良好に分散する。その結果、ゴム部材の抗張積を向上させることができる。
【0014】
以下に、本実施形態に係るカーボンブラックを特定する事項について詳述する。
【0015】
(A)N2SA:25~60m2/g
N2SAは、カーボンブラックの比表面積を、カーボンブラック単位質量当たりの窒素分子の吸着量(m2/g)で表した値である。また、N2SAは、JIS K6217-7:2013「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」に記載の方法によって、求めることができる(参考ASTM D6556-16)。
N2SAは、25~60m2/gであることが好ましい。N2SAが25m2/g以上であることにより、高い補強性を得ることができる。また、N2SAが60m2/g以下であることにより、カーボンブラック同士のホモ凝集を抑制し高い分散性を得ることができる。
N2SAは、補強性及び分散性を獲得する観点から、さらに好ましくは、30m2/g~55m2/gである。
【0016】
(B)DBP吸収量:90~180cm3/100g
DBP吸収量は、カーボンブラックのストラクチャを、カーボンブラック100gに対するDBP(ジブチルフタレート)の吸収量(cm3/100g)で表した値である。
DPB吸収量は、JIS K6217-1997「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」に従って求めることができる。
カーボンブラックのアグリゲート間の空隙率は、カーボンブラックのストラクチャと正の相関がある。したがって、DBP吸収量の値が大きい程、カーボンブラックのストラクチャが発達していることを意味している。
DBP吸収量は、90~180cm3/100gであることが好ましい。DBP吸収量が90cm3/100g以上であることにより、高い分散性を獲得することができる。また、DBP吸収量が180cm3/100g以下であることにより、高い補強性を獲得することができる。
DBP吸収量は、良好な加工性及び高い補強性を獲得する観点から、さらに好ましくは、150cm3/100g以下である。
【0017】
さらに、本願発明が解決しようとする課題を解決するための手段を提供する限りにおいて、次のように、N2SA及びDBP吸収量の数値範囲を所定に規制して本願発明を実施することもできる。
例えば、カーボンブラックのN2SAを上記さらに好ましい範囲の中央よりもやや高く設定することによりカーボンブラックとゴムとの相互作用を増大させ、かつカーボンブラックのDBP吸収量を上記好ましい範囲の中央よりもやや低く設定することによりゴムに添加したときのゴム部材の抗張積を増大させることができ、より高い補強性をゴム部材に付与することができる。この場合、N2SAは、49m2/g以上55m2/g以下、かつDBP吸収量は、115cm3/100g以上135cm3/100g以下の範囲に設定することが好ましい。
また、例えば、カーボンブラックのN2SAを上記さらに好ましい範囲の中央近傍に設定することによりカーボンブラック同士のホモ凝集を抑制し、かつカーボンブラックのDBP吸収量を上記好ましい範囲の中央よりもやや低く設定することによりゴムに添加したときのゴム部材の抗張積を増大させることができ、ゴム中での良好な分散性と高い補強性を両立して獲得することができる。この場合、N2SAは、35m2/g以上47m2/g以下、かつDBP吸収量は、115cm3/100g以上132cm3/100g以下の範囲に設定することが好ましい。
また、例えば、カーボンブラックのN2SAを上記さらに好ましい範囲の中央よりもやや低く設定することによりカーボンブラック同士のホモ凝集を強く抑制し、かつカーボンブラックのDBP吸収量を上記好ましい範囲の中央付近からやや高く設定することによりゴムに添加し混練りをするときに大きなせん断力を得ることができ、ゴム中でのより良好な分散性を獲得することができる。この場合、N2SAは、28m2/g以上34m2/g以下、かつDBP吸収量は、133cm3/100g以上141cm3/100g以下の範囲に設定することが好ましい。
【0018】
(C)N2SA/IA:1.10×103~1.50×103m2/g
IAは、カーボンブラックの比表面積を、液相におけるカーボンブラック単位質量当たりのヨウ素分子の吸着量(mg/g)で表した値である。IAは、N2SAと同様に、カーボンブラックの比表面積を表す指標であるが、IAは、カーボンブラックの表面官能基量にも依存する値である(酸性官能基量が多いほどヨウ素分子が吸着されにくくなり、N2SAよりも若干低い値になる)。
IAは、JIS K6217-1997 「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」に従って、求めることができる。
【0019】
N2SAの値をIAの値で除した値は、カーボンブラックの表面活性度を表す指標である。ここで、N2SA/IAの値は、N2SAの値の単位をm2/gと、IAの単位をmg/gと設定して算出される。このN2SA/IAの値が大きいほど、カーボンブラックの表面官能基量が多いことを意味する。カーボンブラックの表面官能基量が多い場合、カーボンブラックの表面では表面官能基を介して化学反応が起こりやすく、ゴムと相互作用をし易くなる。つまり、カーボンブラックの表面活性度の値とは、カーボンブラックの表面での化学反応の起こりやすさを定量的に示すものである。
【0020】
本実施形態によれば、N2SA/IAが1.10×103m2/g以上であることにより補強性を得ることができる。
また、N2SA/IAが1.50×103m2/g以下であれば、製造も容易である。詳細は後述するが、カーボンブラックは、例えば、原料油を燃焼させてカーボンブラックの原料粒子を得た後、造粒することにより製造される。ここで、燃焼反応の時間を短くすると、N2SA/IAを大きくすることができる。しかし、燃焼反応の時間を短くしすぎると、未燃油分が残存しやすくなり、造粒が行い難くなる。N2SA/IAが1.50×103m2/g以下であれば、製造時に未燃油分が残存しにくい条件で反応を行うことができる。
N2SA/IAは、カーボンブラックとゴムとをより相互作用し易くし、より高い補強性を得る観点から、1.20×103m2/g以上であることが好ましい。
【0021】
(D)水素量:150~250/g
水素量は、NMRにより求めた水素量を示す。この値が大きいほど、カーボンブラックの表面に存在する水素量が多い事を表す。本発明者らは、カーボンブラックの表面に存在する水素量が、ゴムとの相互作用のし易さや、カーボンブラックの凝集性に関与し、その結果、補強性及び分散性に影響を与えると考えた。表面に存在する水素量が多いと、カーボンブラックとゴムとの相互作用のし易さが大きくなり、つまり、カーボンブラックとゴムとの凝集(ヘテロ凝集)が起こりやすくなり、分散性が向上する結果補強性が向上する。一方で、表面に存在する水素量が多過ぎると、カーボンブラック同士の凝集(ホモ凝集)が起こりやすくなり、分散性が低下する結果補強性が低下する。そこで、これらを念頭に、NMR水素量について検討した結果、150~250との範囲に至った。
水素量は、好ましくは、さらに、ゴムとの相互作用のし易さ及び良好な分散性を獲得する観点から、150~240/gである。
【0022】
水素量は、具体的には、以下の方法により求めることができる。
(1)パルス核磁気共鳴装置としてブルカー・バイオスピン(株)Minispec mq20を用い、測定対象となるカーボンブラックを110℃で30分間乾燥した後、ガラス製サンプル管に0.2g充填したものを測定試料とし、以下の測定条件によりスピン-スピン緩和時間(横緩和時間)T2を測定して、T2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)を得る。
<測定条件>
測定核種 :1H
パルスモード :ソリッドエコー法(90°×-τ-90°y)
90°パルス幅:2.7μs
測定時間 :2ms
待ち時間 :500ms
積算回数 :52回
測定温度 :40℃
Gain :90
カーボンブラックの質量は0.2gで一定であり、装置関数も一定(Gainn=90)であるため、得られるT2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)の信号強度は測定対象の1H濃度に比例して増減することになる。
【0023】
(2)得られた自由誘導減衰曲線を、上記パルス核磁気共鳴装置(ブルカー・バイオスピン(株)Minispec mq20)付属のフィッティングソフト(TD-NMR-A for Windows7)を用いた線形最小二乗法によるフィッティングにより、下記式f(t)
f(t)=A(1)exp(-t/T2(1)) + A(2)exp(-t/T2(2))
(ただし、T2(1)は緩和時間の短い成分の緩和時間、T2(2)は緩和時間の長い成分の緩和時間であり、A(1)は緩和時間の短い成分のt=0における信号強度、A(2)は緩和時間の長い成分のt=0における信号強度である)
で表される近似曲線を得る。
(3)上記信号強度A(1)を測定試料の質量w(g)で割る。
図1に示すように、90°パルスにより励起した時間をt=0とすると、y軸方向の磁化(信号強度)が時間とともに減衰するシグナルが得られることが分かる。なお、
図1に示すグラフは、NMR水素量の算出方法を説明するために示したものであり、本実施形態に係るカーボンブラックの測定結果であるわけではないことに注意されたい。
図2は、
図1に示すT2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)を線形最小二乗法によりフィッティングした場合のフィッティング曲線を実線で示すものであり、
図2に示すように、得られたT2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)は、フィッティングにより2つの指数関数の和として表すことができる。
ここで、時定数の違いにより液体と固体とを区別できるので、緩和時間の短い成分に係る指数関数においてt=0(90°パルスによる励起時)における信号強度A(1)はカーボンブラック表面の水素原子(-COOH、-OH、表面の-H、炭素骨格中の-H等)と特定できる。同様に、緩和時間の短い成分に係る指数関数においてt=0(90°パルスによる励起時)における信号強度A(2)はカーボンブラック表面に吸着した水分や液状の多環芳香族炭化水素化合物等と特定できる。
上記信号強度A(1)(a.u.)を測定に供したカーボンブラックの質量w(0.2g)で割ることにより、カーボンブラック単位質量当たりの水素量「A(1)/w」を求めることができる。ここで、この測定において基準とするカーボンブラックは、東海カーボン(株)製シースト9(商品名)であって、その水素量は、114/gである。すなわち、測定対象試料の水素量は、東海カーボン(株)製シースト9(商品名)の水素量が114/gとなるように信号強度に影響を与える測定条件を調整した上で、求められる。
本発明者等の検討によれば、A(1)/wで表される水素量は、従来カーボンブラック表面の水素量を測定する方法として知られていた熱分解法により得られる水素量と高い相関性を示すことが見出されており、このためにカーボンブラック表面の水素量を表す指標として好適に使用することができる。
【0024】
(E)ラマン散乱ピークの半値全幅ΔD:260~290cm-1
ΔDとは、レーザーラマン分光装置を用いて励起波長532nmで測定したときに得られるラマンスペクトルにおいて、1350±10cm-1の範囲にピークトップを有するピークの半値全幅(cm-1)である。
上記ラマンスペクトルにおいて、1350±10cm-1の範囲にピークトップを有するピークは、ラマンスペクトルのDバンドにおけるピークに相当する。
本発明者等の検討によれば、Dバンドのピークの半値全幅は、カーボンブラック表面における結晶構造の乱雑さの程度、すなわち結晶性を表す。ΔDの値が大きいほど、結晶構造が乱雑である(結晶性が低い)ことを意味する。
結晶構造が乱雑である(結晶性が低い)場合には、カーボンブラック表面におけるエッジ、すなわちゴムに対して親和性を示す官能基の形成箇所(活性点)が多数存在するになり、ゴムに対するカーボンブラックの相互作用のし易さが向上する。その結果、カーボンブラックとゴムとがヘテロ凝集しやすくなり、分散性が向上する。一方で、結晶性が低すぎると、カーボンブラック同士のホモ凝集が起こりやすくなり、逆に分散性が損なわれる。そこで、これらを考慮し、最適な結晶性を得られるように検討した結果、260~290のΔDに至った。
すなわち、ΔDの値が260以上であることにより、ヘテロ凝集が起こりやすくなり、高い分散性が得られ、その結果補強性が向上する。また、ΔDの値が290以下であることにより、ホモ凝集が起こりにくくなり、高い分散性が得られ、やはり高い補強性が得られる。
ΔDの値は、ゴムとの相互作用のし易さ及び良好な分散性を獲得する観点から、260~280cm-1であることがさらに好ましい。
【0025】
ΔDは、具体的には、以下の方法により測定することができる。
図3は、ΔDの値の算出方法を示す図である。なお、
図3は、あくまでΔDの算出方法を説明するために示したものであり、本実施形態に係るカーボンブラックの測定結果であるわけではないことに注意されたい。
図3に示すように、カーボンブラックを、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±10cm
-1の範囲にピークトップを有するピークが検出される。
そして、上記ピークトップ位置における測定波長をDmax(cm
-1)とし、得られたΔDスペクトルにおいて、上記Dmaxにおけるピーク強度の半分の検出強度を有する低波長(低ラマンシフト)側の検出位置をD50(cm
-1)としたときに、下記式により算出される値を、ΔD(cm
-1)とする。
ΔD値=(Dmax-D50)×2
ここで、この測定の基準とするカーボンブラックは、東海カーボン(株)製シーストG-SО(商品名)であって、そのΔDの値は249cm
-1である。すなわち、測定対象試料のΔDは、東海カーボン(株)製シースト
G-SО(商品名)のΔDが249cm
-1となるようにΔD値に影響を与える測定条件を調整した上で、求められる。
【0026】
(F)その他の特定事項
本実施形態に係るカーボンブラックは、既述のように、ゴム部材を補強するためのフィラーとして使用される。
ここで、ゴム部材は、特に限定されるものでなく、例えば、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム等の汎用ゴム、またはアクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムなどの特殊ゴム、及びそれらを混合したゴム部材に適用することができる。本実施態様に係るカーボンブラックをフィラーとして使用するゴム部材の用途は、自動車その他の一般産業向け各種ゴム部品(ウェザーストリップ、ホース、ベルト、防振・制振ゴム、ブーツ、シール・パッキング材などが好ましい。自動車では、高性能化が進み、高温、高圧等の過酷な環境下でゴム部材が使用される場面が増えてきている。また、自動車のユニットのコンパクト化によるゴム部品の小型化、また、自動車ユニットの軽量化によるゴム部材の薄肉化も進んでいる。その結果、従来のカーボンブラックでは、ゴム部材に必要とされる補強性を満足に付与し難くなってきている。本実施形態に係るカーボンブラックでは、このような自動車用のゴム部材に対する要求を満たすにあたり、有用である。
また、カーボンブラックは、ゴム成分100質量部に対して例えば10~170質量部、好ましくは20~160質量部の量で配合されることが好ましい。
【0027】
(G)カーボンブラックの製造方法
本実施形態に係るカーボンブラックは、オイルファーネス法等の一般的なカーボンブラックの製造方法に従い、炭化水素原料を不完全燃焼させ、その際の反応条件を適宜調整することにより、得ることができる。以下に、本実施形態に係るカーボンブラックの製造方法の一例について説明する。
【0028】
図4は、本発明の一実施形態であるカーボンブラックを製造するための処理工程順序を示すブロック図である。
図5は、反応炉の一例を示す概略図である。本発明の一実施形態であるカーボンブラックは、
図4に示すように、反応工程S1、造粒工程S2、及び乾燥工程S3を、この順で逐次的に行うことにより製造する事ができる。
まず、反応工程S1において、反応炉10により、カーボンブラック原料が生成される。
図5に示されるように、反応炉10は、筒状であり、燃料燃焼帯域4、原料導入帯域6、及び反応帯域9を備えている。
【0029】
燃料燃焼帯域4は、高温の燃焼ガスを生成する部分である。燃料燃焼帯域4には、酸素含有ガス導入口1、燃焼用バーナ2、及びアルカリ金属塩・水溶液供給ノズル3が設けられている。酸素含有ガス導入口1からは、酸素含有ガス(酸素、空気等)が燃料燃焼帯域4に導入される。また、燃焼用バーナ2からは、燃料(FCC残渣油、水素、一酸化炭素、天然ガス、石油ガス等)が燃料燃焼帯域4に供給される。これにより、高温の燃焼ガスが生成される。アルカリ金属塩・水溶液供給ノズル3からは、アルカリ金属塩・水溶液として、ナトリウム、カリウムなどの炭酸塩、塩化物、水酸化物等が燃料燃焼帯域4に供給される。アルカリ金属塩・水溶液を添加することにより、原料導入帯域6において、カーボンブラックのストラクチャが発達しないように調整することができる。燃料燃焼帯域4で生成した燃焼ガスは、原料導入帯域6に供給される。
【0030】
原料導入帯域6は、原料油が導入される部分である。原料導入帯域6は、燃料燃焼帯域4よりも径が小さくなっている。原料導入帯域6には、原料油導入ノズル5が接続されている。原料油導入ノズル5を介して原料油が原料導入帯域6に導入され、燃焼ガスと混合される。このとき、熱分解によりカーボンブラックの微小な核が生成し、核同士の衝突により所定のストラクチャが形成され、カーボンブラックの原料であるカーボンブラック微粒子が生成する。原料油としては、ナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素、クレオソート油、タール油などの石炭系炭化水素、FCC残渣油、エチレンヘビーエンドオイルなどの石油系重質油、アセチレン系不飽和炭化水素、ヘキサン等の脂肪族炭化水素などの炭化水素などが用いられる。燃焼ガスと原料油との混合物は、反応帯域9に供給される。
【0031】
反応帯域9は、原料導入帯域6で生成したカーボンブラック微粒子を更に十分に気相成長させた後、反応を停止させる部分である。反応帯域9の径は、燃料燃焼帯域4の径よりも大きくなっている。原料導入帯域6で生成したカーボンブラック微粒子の流速は、広口径の反応帯域9において低くなる。このとき、カーボンブラック微粒子の表面に気相中の芳香族炭化水素が炭化積層し成長しカーボンブラック原料が生成する。反応帯域9には、冷媒導入ノズル7、及び反応を停止するための冷却液導入ノズル8が設けられている。冷媒導入ノズル7は、冷却液導入ノズル8よりも上流側に設けられている。冷媒導入ノズル7からは、冷媒が反応帯域9に供給され、反応帯域9の温度が制御される。冷却液導入ノズル8からは、冷却水が反応帯域9に噴霧される。これにより、カーボンブラック原料の生成反応が停止される。
【0032】
反応帯域9で生成したカーボンブラック原料は、図示しない捕集系に移送され、サイクロンやバッグフィルター等の捕集装置により捕集される。
【0033】
次いで、造粒工程S2では、カーボンブラック原料の粒子が所定の大きさになるように、カーボンブラック原料が造粒される。この造粒処理の具体態様は、特に限定されず、公知の造粒方法を適用することができる。公知の造粒方法として、例えば湿式造粒方法が挙げられる。湿式造粒方法の一例は、所定の容器内で、円筒の中心に特殊な棒状ピンを螺旋状に複数配置したシャフトを高速で回転させ、容器内へとカーボンと水とを連続的に供給し、それらを攪拌混合することにより、所定の大きさのペレット形状に造粒する方法である。
【0034】
次いで、乾燥工程S3では、造粒されたカーボンブラック原料から脱水するために、造粒されたカーボンブラック原料が乾燥され、乾燥カーボンブラック原料が得られる。この乾燥処理の具体態様は、特に限定されず、公知の乾燥方法を適用することができる。公知の乾燥方法として、例えば間接加熱式乾燥方法が挙げられる。間接加熱式乾燥方法の一例は、間接加熱式回転乾燥機を利用するものである。間接加熱式回転乾燥機に備えられたロータリーキルン状の2重管構造で外筒と内筒との間の空間に熱ガスを供給し、内筒中に配置された水分を含んだ造粒されたカーボンブラック原料を所定温度で加熱乾燥する方法である。
【0035】
以上説明した工程を経て、カーボンブラックが製造される。
ここで、例えば反応工程S1における反応条件を調整することにより、得られるカーボンブラックの特性を制御することができる。
例えば、反応工程S1において、アルカリ金属塩・水溶液の導入量を増加させることにより、DBP吸収量の値が小さくなる。従って、アルカリ金属塩・水溶液の導入量を調整することにより、所望するDBP吸収量を得ることができる。
また、反応工程S1において、酸素含有ガス導入量を増加させるか、又は原料油の導入量を減少させるとN
2SAの値が増加する。従って、酸素ガス導入量又は原料油の導入量を調整することにより、所望するN
2SAを得ることができる。
また、原料油を導入してから急冷により反応を停止させるまでの反応時間を短くすると、N
2SA/IAの値が大きくなる。従って、この反応時間を調整することにより、所望するN
2SA/IAを得ることができる。
また、NMR水素量、及びΔD(結晶性)は、反応帯域9における反応温度及びそこでの滞留時間に依存する。従って、
図1における原料導入領域6と冷却液導入ノズル8との間の反応帯域9(炉内温度1000℃以上)に、冷媒導入ノズル7により、窒素等の不活性ガス、比重が1.0よりも小さい重油(A重油、B重油、またはC重油)、軽質炭化水素(ガソリン、軽油、または灯油など)、または水蒸気などの冷媒を、反応帯域9における反応温度が800~900℃となるように添加量を調節しながら導入し、さらに、滞留時間(ノズル7~ノズル8間)が20~30msecとなる様にクエンチング(水噴霧による急冷)によって反応を停止させることにより、所望のNMR水素量及びΔDを得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明をより詳細に説明するため、実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されて解釈されるべきものではない。
【0037】
(実施例1~12、比較例1~10)
図4に示した処理工程順序に従って、本発明の一実施形態に係るカーボンブラックを製造した。まず、反応工程S1において、
図5に示した構成を有する反応炉を使用し、反応帯域9への冷媒導入ノズル7による冷媒導入の有無、反応帯域9における反応温度、反応停止までの滞留時間をそれぞれ変化させ、性状の異なるカーボンブラック原料を生成させた。
(実施例1~12)
原料油導入ノズル5と冷却液導入ノズル8の間の反応帯域9に冷媒導入ノズル7より窒素を導入し、反応温度を800~900℃、冷却液導入ノズル8による反応停止までの滞留時間が20~30msecとなるように調節し製造した。
(比較例1)
原料油導入ノズル5と冷却液導入ノズル8の間の反応帯域9に冷媒導入ノズル7より窒素を導入し、反応温度を800~900℃、冷却液導入ノズル8による反応停止までの滞留時間が20msec未満となるように調節し製造した。
(比較例2、3、7~9)
反応帯域9に冷媒導入ノズル7より窒素を導入しないで製造した。
(比較例4)
原料油導入ノズル5と冷却液導入ノズル8の間の反応帯域9に冷媒導入ノズル7より窒素を導入し、反応温度を800℃未満、冷却液導入ノズル8による反応停止までの滞留時間が20~30msecとなるように調節し製造した。
(比較例5)
原料油導入ノズル5と冷却液導入ノズル8の間の反応帯域9に冷媒導入ノズル7より窒素を導入し、反応温度を900℃超とし、冷却液導入ノズル8による反応停止までの滞留時間が20~30msecとなるように調節し製造した。
(比較例6)
原料油導入ノズル5と冷却液導入ノズル8の間の反応帯域9に冷媒導入ノズル7より窒素を導入し、反応温度を800~900℃、冷却液導入ノズル8による反応停止までの滞留時間が30msecを超えるように調節し製造した。
(比較例10)
原料油導入ノズル5と冷却液導入ノズル8の間の反応帯域9に冷媒導入ノズル7より窒素を導入し、反応温度800~900℃、冷却液導入ノズル8による反応停止までの滞留時間が20~30msecとなるように調節し、原料炭化水素の減量調節により窒素吸着比表面積(N
2SA)が60m
2/gを超えるカーボンブラックを製造した。
次いで、反応工程S1で得られた各カーボンブラック原料に対し、造粒工程S2において、一定条件により湿式造粒処理を行った。これにより、実施例1~12及び比較例1~10に係るカーボンブラックを得た。
【0038】
得られた実施例1~12及び比較例1~10のそれぞれについて、冷媒導入ノズル7による窒素導入の有無、冷媒導入ノズル7と冷却水導入ノズル8との中間地点の反応帯域9の温度、冷媒導入ノズル7と冷却水導入ノズル8との中間地点における滞留時間、N2SA、N2SA/IA、DPB吸収量、NMR水素量、及びΔDを測定した。結果を表1-1、表1-2及び表2に示す。
【0039】
続いて、NBRゴム100質量部に対して、各実施例及び比較例に係るカーボンブラックを40質量部添加し、ゴム組成物をそれぞれ調整した。調整したゴム組成物の物性を測定した。測定した物性及び測定方法は、以下のとおりである。
【0040】
(デュロメータ硬さHs)
JIS K6253-3-2012(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方)に従って、タイプAデュロメータを使用し、硬さHsを測定した。
【0041】
(引張強さTB)
JIS K6251-2017(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方)に従って、切断時の引張強さTB(MPa)を測定した。
【0042】
(伸びEB)
JIS K6251-2017(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方)に従って、切断時、伸びEB(%)を測定した。
【0043】
(拡張積TB×EB)
上記に従って求めたTB及びEBに基づいて、拡張積(TB×EB)を算出した。
【0044】
(ペイン効果値)
粘弾性スペクトロメータVR-7110(株式会社上島製作所製)を用い、50Hz、60℃条件下、歪み0.1%の動的弾性率(E’(0.1))を測定した。また、歪み2.0%の動的弾性率(E’(2.0))についても測定した。そして、両者の差(E’(0.1)-E’(2.0))を、ペイン効果値として算出した。カーボンブラックを配合したゴムの動的粘弾性において、低歪み領域における動的弾性率はカーボンブラック同士の凝集性に大きく依存しており、高歪み領域の動的弾性率はゴムの伸長によりカーボンブラック同士は強制的外力で引き離される為にその凝集性の依存度は小さくなり、カーボンブラックを配合していない状態のゴムそのものの動的弾性率の依存度が高くなる。従って、低歪み領域と高歪み領域の動的弾性率の差異(ペイン効果)の値が小さいほど、ゴム中のミクロな領域でのカーボンブラック同士の凝集性が低いこと、換言すれば、ミクロな領域でのカーボンブラックの分散性が高いことを示す。
【0045】
(分散率)
アルファテクノロジーズ社製disperGRADER α view SR を用い、ASTM D7723に準拠して一定視野中における、3μm以上のカーボンブラックの未分散塊の占有面積を測定し、分散率(%)を求めた。この分散率は、ペイン効果の値とは異なり、マクロな領域でのカーボンブラックの分散性を示しており、この値が小さいほどマクロな領域での分散性が高いことを示している。
【0046】
(検討)
結果を表1-1、表1-2及び表2に示す。
【0047】
実施例1~12は、窒素吸着比表面積(N2SA)、N2SA/IA、DBP吸収量、NMR水素量、及びΔDが、上述した特定の範囲内のものである。一方、比較例1~10は、製造条件、及び/又は、上記特性の内の少なくとも1つが、特定の範囲を外れるものである。
実施例1~12は、比較例1~10に比べて、大きな抗張積(TB×EB)を有していた。すなわち、実施例1~12に係るカーボンブラックを配合したゴム部材は、伸びやすく、かつ、高い強度を有していることが判る。
また、実施例1~12は、比較例1~10に比べて、ペイン効果の値が低く、分散率が高かった。このことから、実施例1~12に係るカーボンブラックは、マクロな領域における高い分散性だけでなく、ミクロな領域においても高い分散性を有しており、この結果高い補強性が得られたものと考えられる。
【0048】
以上より、窒素吸着比表面積(N2SA)、DBP吸収量、N2SA/IA、NMR水素量、及びΔDを特定の範囲内にすることで、マクロな領域だけでなくミクロな領域においても分散性に優れたカーボンブラックを得ることができ、その結果、ゴム部材の抗張積を従来よりも大幅に向上させることができることが判った。
【0049】
【符号の説明】
【0050】
1 酸素含有ガス導入口
2 燃焼用バーナ
3 アルカリ金属塩・水溶液供給ノズル
4 燃料燃焼帯域
5 原料油導入ノズル
6 原料導入帯域
7 冷媒導入ノズル
8 冷却液導入ノズル
9 反応帯域
10 反応炉
【要約】
窒素吸着比表面積(N2SA)が、25~60m2/gであり、DBP吸収量が、90~180cm3/100gであり、窒素吸着比表面積(N2SA)とヨウ素吸着量(IA)との比(N2SA/IA)が、1.10×103~1.50×103m2/gであり、NMR水素量が、150~250/gであり、ΔDが、260~290cm-1である、カーボンブラック。