(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ウイルス殺菌装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20220614BHJP
G01V 3/12 20060101ALI20220614BHJP
G01S 13/32 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
A61L2/10
G01V3/12 A
G01S13/32
(21)【出願番号】P 2021159938
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2021-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2020203066
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515052604
【氏名又は名称】株式会社CQ-Sネット
(74)【代理人】
【識別番号】100090158
【氏名又は名称】藤巻 正憲
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 光正
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真輝
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 純輝
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 純子
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-031640(JP,A)
【文献】特開2013-080689(JP,A)
【文献】特開2014-217453(JP,A)
【文献】特開2017-029293(JP,A)
【文献】特許第6490318(JP,B2)
【文献】特表2019-536492(JP,A)
【文献】特表2017-528258(JP,A)
【文献】特表2016-503342(JP,A)
【文献】特開2011-098156(JP,A)
【文献】中国実用新案第208107741(CN,U)
【文献】国際公開第2018/016629(WO,A1)
【文献】特開2017-003287(JP,A)
【文献】特開2016-156751(JP,A)
【文献】特開2019-120539(JP,A)
【文献】特開2016-138796(JP,A)
【文献】特開2000-003478(JP,A)
【文献】特開2022-14438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/10、9/20
G01V 3/12
G01S 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定在波レーダーによる距離検出装置と、
距離検出装置からのデータに基づき部屋内の人の存否を検知する人検知装置と、
この人検知装置が、前記部屋内に人がいないと判定したときに紫外光を発光し、前記部屋内に人が
存在すると判定したときに紫外光
を発光
しないように制御されたLED紫外光発光素子と、
を有し、
前記距離検出装置は、
周波数掃引された電波を外部に送信し、その反射波の受信波を送信波長に基づく一定距離だけ離隔した2点にて検出し、送信波及び受信波から合成される定在波を検知する定在波検知部と、
前記定在波検知部が検知した合成波の周波数の強度分布から、その直流成分を除去し、フーリエ変換して、距離スペクトルを求め
、反射部位までの距離を求める距離スペクトル演算部と、
を有し、
前記人検知装置は、
前記距離スペクトル演算部のフーリエ変換後のデータから、人が存在しないときに得られたデータの検出範囲を除いた範囲を、人検知に使用するデータの検出範囲として設定する検出距離設定部を有することを特徴とするウイルス殺菌装置。
【請求項2】
定在波レーダーによる距離検出装置と、
距離検出装置からのデータに基づき部屋内の人の存否を検知する人検知装置と、
この人検知装置が、前記部屋内に人がいないと判定したときに紫外光を発光し、前記部屋内に人が
存在すると判定したときに紫外光
を発光
しないように制御されたLED紫外光発光素子と、
を有し、
前記距離検出装置は、
周波数掃引された電波を外部に送信し、その反射波の受信波を送信波長に基づく一定距離だけ離隔した2点にて検出し、送信波及び受信波から合成される定在波を検知する定在波検知部と、
前記定在波検知部が検知した合成波の周波数の強度分布から、その直流成分を除去し、フーリエ変換して、距離スペクトルを求め
、反射部位までの距離を求める距離スペクトル演算部と、
を有し、
前記人検知装置は、
採取されフーリエ変換された距離スペクトルデータが入力され、このデータから推論ソフトウエアにより人の存否を推論して、人の存否を判定するマイコンと、
前記マイコンから送信された距離スペクトルデータと人の存否の判定結果とが入力され、初期段階で、これらを教師データとしてニューラルネットワークによる学習処理を行う学習処理部を有し、
その学習済みモデルを、前記距離スペクトル演算部のフーリエ変換後のデータのうち、人が存在しないときに得られたデータの検出範囲を除いて、人検知に使用するデータの検出範囲として、設定することを特徴とするウイルス殺菌装置。
【請求項3】
定在波レーダーによる距離検出装置と、
距離検出装置からのデータに基づき部屋内の人の存否を検知する人検知装置と、
この人検知装置が、前記部屋内に人がいないと判定したときに紫外光を発光し、前記部屋内に人が
存在すると判定したときに紫外光
を発光
しないように制御されたLED紫外光発光素子と、
を有し、
前記距離検出装置は、
周波数掃引された電波を外部に送信し、その反射波の受信波を送信波長に基づく一定距離だけ離隔した2点にて検出し、送信波及び受信波から合成される定在波を検知する定在波検知部と、
前記定在波検知部が検知した合成波の周波数の強度分布から、その直流成分を除去し、フーリエ変換して、距離スペクトルを求め
、反射部位までの距離を求める距離スペクトル演算部と、
を有し、
前記人検知装置は、
採取されフーリエ変換された距離スペクトルデータが入力され、このデータから推論ソフトウエアにより人の存否を推論して、人の存否を判定するマイコンと、
前記マイコンから送信された距離スペクトルデータと人の存否の判定結果とが入力され、初期段階で、これらを教師データとしてニューラルネットワークによる学習処理を行う学習処理部を有し、この学習済みモデルを前記マイコンに転送して推論のソフトウエアに組み込み、定常段階で、前記マイコンから送信されてくる距離スペクトルデータと人の存否の判定結果を入力し前記データからニューラルネットワークによる再学習処理を行う再学習処理部を有し、この再学習処理部の判定結果が前記マイコンの判定結果と異なる場合に、前記再学習処理部が生成した新しい学習済みモデルを前記マイコンの推論ソフトウエアに組み込んでこれを更新するクラウドサーバと、
を有し、
前記距離検出装置、前記マイコン及び前記LED紫外光発光素子は、ウイルス殺菌対象の各部屋に設置され、前記クラウドサーバはインターネットを介して前記マイコンと接続されており、
前記学習済みモデルを、前記距離スペクトル演算部のフーリエ変換後のデータのうち、人が存在しないときに得られたデータの検出範囲を除いて、人検知に使用するデータの検出範囲として、設定することを特徴とするウイルス殺菌装置。
【請求項4】
前記マイコンは、
前記距離検出装置からのデータが入力する入力部と。
前記入力部から入力したデータを基に人の検知を判定するためのソフトウエアが設定された推論部と、
この推論部の推論結果により人の存否を判定する判定部と、
を有することを特徴とする請求項2又は3に記載のウイルス殺菌装置。
【請求項5】
前記クラウドサーバは、
前記マイコンから転送された距離検出装置の距離データ及び前記判定部の人の存否の判定結果が入力される入力部と、
初期段階で、距離データと人の存否を教師データとしてニューラルネットワークによる学習処理を行う学習処理部と、
この学習処理部が作成した学習済モデルを前記マイコンの前記推論部に転送し、前記学習済モデルを前記推論部のソフトウエアに組み込み、人の存否の判断に使用する転送部と、
定常段階で、前記マイコンから送信されてくる距離スペクトルデータと人の存否の判定結果を基に前記ニューラルネットワークによる再学習処理を行う再学習処理部と、
を有し、前記転送部は、
この再学習処理部の判定結果が前記マイコンの判定結果と異なる場合に、前記再学習処理部が生成した新しい学習済みモデルを前記マイコンの推論ソフトウエアに組み込んでこれを更新することを特徴とする請求項3に記載のウイルス殺菌装置。
【請求項6】
前記距離検出装置、前記マイコン及び前記LED紫外光発光素子は、一体的に設けられていることを特徴とする請求項
2乃至5のいずれか1項に記載のウイルス殺菌装置。
【請求項7】
前記LED紫外光発光素子から照射される殺菌光は、波長が240~280nmのUVC光であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のウイルス殺菌装置。
【請求項8】
前記人検出装置は、前記距離検出装置により得られた人との間の距離が、前記人が前記部屋の外にいると判断されるものであっても、前記人を検知することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のウイルス殺菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定在波レーダーを使用して人体の位置又は人体までの距離を測定し、無人であると判断された所定領域のウイルス殺菌を行うウイルス殺菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス(COVID-19:以下、ウイルス)感染症は、インフルエンザ感染症と異なり、感染したが無症状の状態であっても、他人に感染させるおそれがある。つまり、症状がある者のみを隔離していても、ウイルス感染者の蔓延を防止することができない。このため、ウイルス感染が生じないようにする行動を、社会的に常態として実施する必要がある。
【0003】
このようなウイルス感染の態様としては、飛沫感染と接触感染とがある。飛沫感染は、感染者から出た飛沫に含まれるウイルスが、他人の体内に直接入り込んでしまうことに起因する。また、接触感染は、感染者から出た飛沫が、床及びテーブル等の施設に付着し、その施設に接触した人が手などを介してウイルスを体内に取り込んでしまうことに起因する。飛沫感染防止対策としては、マスクの着用及び人同士の間隔が狭くならないようにすること(所謂、密の防止又はソーシャルディスタンスの確保)が主要な手段であるが、接触感染防止対策としては、ウイルスが付着した床及びテーブル等に接触した人の手指の消毒と、床及びテーブル等の施設自体の消毒がある。
【0004】
なお、新型コロナウイルス対策として、プラズマでウイルスを殺菌する空気清浄装置が公知である(特許文献1)。また、定在波レーダーにより人の位置を検知する装置も公知である(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-189172号公報
【文献】特許第6187995号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ショッピングセンター又はスーパーマーケット等において、店内に来客が増え、来客同士の間隔が短くなって、所謂ソーシャルディスタンスを確保しにくくなった場合に、店が客に対して人との間の距離を確保するように指示することは、客に対する依頼又は要請であるため難しいという事情がある。
【0007】
また、床又はテーブル等に付着したウイルスは、一定の時間にわたり、活性状態が継続している。SARSウイルスと同様に、コロナウイルスは、例えば、エアロゾルでは3時間、銅では4~8時間、段ボールでは24時間後でもウイルスの残存が確認された。また、感染力は低下するものの、ステンレス鋼では48時間、プラスチックでは72時間経過してもウイルスが残存していた。
【0008】
このウイルスを殺菌するためには、アルコールを含む布で、テーブルを拭く等の手段があるが、このような手拭きの作業は極めて煩雑であり、作業をする人にとっては、極めて大きな負担である。
【0009】
そこで、殺菌作用を有する紫外線を照射することにより、床及びテーブル等に付着したウイルスを殺菌する方法が考えられる。この紫外線によるウイルスの殺菌方法としては、波長が260nmの紫外線を利用することが効率的である。
図17(a)はウイルスのDNAの吸収特性であり、
図17(b)は殺菌作用の分光特性を示す。細菌はその細胞の中に核を持ち、遺伝情報を有するDNA(デオキシリボ核酸)がその中に存在している。このDNAの光吸収スペクトルは、
図17(a)に示すように、波長が260nmの紫外線に対する吸収係数が極大となるものである。一方、
図17(b)に示すように、紫外線の菌類への殺菌効果の波長特性は、上述のDNAの吸収特性と類似している。これは紫外線を細菌に照射すれば、細菌の細胞内のDNAに作用して、水和現象、ダイマー形状、分解等の光化学反応を生じさせ、その結果、菌類が死滅するからであると考えられる。即ち、DNAの吸収特性が極大になる波長において、極大の殺菌作用を示し、その波長は260nm近辺の紫外光、例えば、波長が240~280nmのUVCである。
【0010】
光は波長が長い方から700nmまでの赤外領域、700~400nmの可視光領域、400nm以下の紫外領域に分類される。そして、紫外領域は、波長が400~315nmのUVA領域、315~280nmのUVB領域、280~100nmのUVC領域に分かれる。このUVC領域の紫外線が、ウイルス及び細菌の殺菌には有効である。
【0011】
しかしながら、地上に到達する紫外線は殆どがUVA領域であり、人体は太陽光線を利用し適合するようにつくられていることから、過剰な暴露・体質的な不適合を除けば、通常、あまり障害を受けることはない。しかし、低圧水銀ランプ等の人工的な紫外線発光源は、UVB及びUVC等の波長域の紫外線を含む。しかも、これらのUVB及びUVC等の波長域の紫外線は、人体に悪影響がある。即ち、波長が320nmの短波長域の紫外線は、人の目の障害(眼痛、充血、角膜の炎症等)、紅斑又は皮膚のDNA損傷による癌の誘発といった人体に対する悪影響がある。このため、殺菌効果が優れたUVC光をウイルス殺菌に利用すると人体に悪影響があり、無防備で人体を紫外光光源に曝すことはできない。
【0012】
なお、特許文献1に記載の空気清浄装置は、空気中に浮遊するウイルスを殺菌するものであり、接触感染を直接防止するものではない。また、特許文献2においては、ウイルスの殺菌については言及されていない。
【0013】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、距離スペクトルにより人体の位置を検出し、距離データをニューラルネットワークにより機械学習することにより、部屋内への人の進入及び退出を高精度で検出することができ、人が不在であるときに、人体に無害な状態で紫外光を照射して部屋内を殺菌処理することができ、人の出入りが激しい場合にも、その合間をぬって効率的に殺菌処理することができ、接触感染及び飛沫感染を防止することができるウイルス殺菌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るウイルス殺菌装置は、
定在波レーダーによる距離検出装置と、
距離検出装置からのデータに基づき部屋内の人の存否を検知する人検知装置と、
この人検知装置が、前記部屋内に人がいないと判定したときに紫外光を発光し、前記部屋内に人が存在すると判定したときに紫外光を発光しないように制御されたLED紫外光発光素子と、
を有し、
前記距離検出装置は、
周波数掃引された電波を外部に送信し、その反射波の受信波を送信波長に基づく一定距離だけ離隔した2点にて検出し、送信波及び受信波から合成される定在波を検知する定在波検知部と、
前記定在波検知部が検知した合成波の周波数の強度分布から、その直流成分を除去し、フーリエ変換して、距離スペクトルを求め、反射部位までの距離を求める距離スペクトル演算部と、
を有し、
前記人検知装置は、
前記距離スペクトル演算部のフーリエ変換後のデータから、人が存在しないときに得られたデータの検出範囲を除いた範囲を、人検知に使用するデータの検出範囲として設定する検出距離設定部を有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る他のウイルス殺菌装置は、
定在波レーダーによる距離検出装置と、
距離検出装置からのデータに基づき部屋内の人の存否を検知する人検知装置と、
この人検知装置が、前記部屋内に人がいないと判定したときに紫外光を発光し、前記部屋内に人が存在すると判定したときに紫外光を発光しないように制御されたLED紫外光発光素子と、
を有し、
前記距離検出装置は、
周波数掃引された電波を外部に送信し、その反射波の受信波を送信波長に基づく一定距離だけ離隔した2点にて検出し、送信波及び受信波から合成される定在波を検知する定在波検知部と、
前記定在波検知部が検知した合成波の周波数の強度分布から、その直流成分を除去し、フーリエ変換して、距離スペクトルを求め、反射部位までの距離を求める距離スペクトル演算部と、
を有し、
前記人検知装置は、
採取されフーリエ変換された距離スペクトルデータが入力され、このデータから推論ソフトウエアにより人の存否を推論して、人の存否を判定するマイコンと、
前記マイコンから送信された距離スペクトルデータと人の存否の判定結果とが入力され、初期段階で、これらを教師データとしてニューラルネットワークによる学習処理を行う学習処理部を有し、
その学習済みモデルを、前記距離スペクトル演算部のフーリエ変換後のデータのうち、人が存在しないときに得られたデータの検出範囲を除いて、人検知に使用するデータの検出範囲として、設定することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る更に他のウイルス殺菌装置は、
定在波レーダーによる距離検出装置と、
距離検出装置からのデータに基づき部屋内の人の存否を検知する人検知装置と、
この人検知装置が、前記部屋内に人がいないと判定したときに紫外光を発光し、前記部屋内に人が存在すると判定したときに紫外光を発光しないように制御されたLED紫外光発光素子と、
を有し、
前記距離検出装置は、
周波数掃引された電波を外部に送信し、その反射波の受信波を送信波長に基づく一定距離だけ離隔した2点にて検出し、送信波及び受信波から合成される定在波を検知する定在波検知部と、
前記定在波検知部が検知した合成波の周波数の強度分布から、その直流成分を除去し、フーリエ変換して、距離スペクトルを求め、反射部位までの距離を求める距離スペクトル演算部と、
を有し、
前記人検知装置は、
採取されフーリエ変換された距離スペクトルデータが入力され、このデータから推論ソフトウエアにより人の存否を推論して、人の存否を判定するマイコンと、
前記マイコンから送信された距離スペクトルデータと人の存否の判定結果とが入力され、初期段階で、これらを教師データとしてニューラルネットワークによる学習処理を行う学習処理部を有し、この学習済みモデルを前記マイコンに転送して推論のソフトウエアに組み込み、定常段階で、前記マイコンから送信されてくる距離スペクトルデータと人の存否の判定結果を入力し前記データからニューラルネットワークによる再学習処理を行う再学習処理部を有し、この再学習処理部の判定結果が前記マイコンの判定結果と異なる場合に、前記再学習処理部が生成した新しい学習済みモデルを前記マイコンの推論ソフトウエアに組み込んでこれを更新するクラウドサーバと、
を有し、
前記距離検出装置、前記マイコン及び前記LED紫外光発光素子は、ウイルス殺菌対象の各部屋に設置され、前記クラウドサーバはインターネットを介して前記マイコンと接続されており、
前記学習済みモデルを、前記距離スペクトル演算部のフーリエ変換後のデータのうち、人が存在しないときに得られたデータの検出範囲を除いて、人検知に使用するデータの検出範囲として、設定することを特徴とする。
これらのウイルス殺菌装置において、例えば、
前記人検出装置は、前記距離検出装置により得られた人との間の距離が、前記人が前記部屋の外にいると判断されるものであっても、前記人を検知するように構成することができる。
【0017】
このウイルス殺菌装置において、
例えば、
前記マイコンは、
前記距離検出装置からのデータが入力する入力部と。
前記入力部から入力したデータを基に人の検知を判定するためのソフトウエアが設定された推論部と、
この推論部の推論結果により人の存否を判定する判定部と、
を有する。
【0018】
また、
前記クラウドサーバは、
前記マイコンから転送された距離検出装置の距離データ及び前記判定部の人の存否の判定結果が入力される入力部と、
初期段階で、距離データと人の存否を教師データとしてニューラルネットワークによる学習処理を行う学習処理部と、
この学習処理部が作成した学習済モデルを前記マイコンの前記推論部に転送し、前記学習済モデルを前記推論部のソフトウエアに組み込み、人の存否の判断に使用する転送部と、
定常段階で、前記マイコンから送信されてくる距離スペクトルデータと人の存否の判定結果を基に前記ニューラルネットワークによる再学習処理を行う再学習処理部と、
を有し、前記転送部は、
この再学習処理部の判定結果が前記マイコンの判定結果と異なる場合に、前記再学習処理部が生成した新しい学習済みモデルを前記マイコンの推論ソフトウエアに組み込んでこれを更新するように構成することができる。
【0019】
更に、例えば、
前記距離検出装置、前記マイコン及び前記LED紫外光発光素子は、一体的に設けられており、例えば、
前記LED紫外光発光素子から照射される殺菌光は、波長が240~280nmのUVC光である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、人の存在を検知して、人が存在する場合には、殺菌光を照射せず、人体の安全を担保すると共に、人が存在しない場合には、部屋の空間全体に殺菌光を照射して、一気にかつ迅速にウイルスを殺菌することができるので、多大な労力を必要とする人的負荷を解消することができる。また、不特定多数の人が利用する駅、デパート等の公共トイレのように、人の入れ替わりが激しい設備においても、その利用の合間を縫って、紫外光照射による殺菌処理を行うことができる。よって、人体に悪影響を与えることなく、また、人的労力をかけずに、ウイルスを殺菌処理することができるので、人が入れ替わる部屋のウイルス空気感染及びウイルス接触感染を有効に防止することができる。しかも、本発明は、各部屋に設置するのは、マイコンのように小型且つ安価の機器であり、ディープラーニングによる学習処理を行うのはクラウドサーバであるので、低コストでウイルス殺菌装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態における人検知装置を示すブロック図である。
【
図2】トイレにセンサを設置した様子を示す模式図である。
【
図3】距離演算装置により得られた距離スペクトルを示す図である。
【
図4】1個の距離スペクトルのデータを示す図である。
【
図5】ニューラルネットワークの構成を示す図である。
【
図6】本発明の第1実施形態の定在波レーダーによる状態検知装置を示す図である。
【
図7】本発明の第2実施形態の定在波レーダーによる状態検知装置を示す図である。
【
図13】複数個のターゲットに対する定在波レーダーの基本構成を示す図である。
【
図14】目的の成分pa(fd、0)を示すスペクトル図である。
【
図15】ターゲットが2個の場合の距離スペクトルを示す図である。
【
図16】合成波のスペクトルの真数部分と虚数部分を示す図である。
【
図17】紫外光(UVC光)の吸収特性及び殺菌効果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。本発明の実施形態に係るウイルス殺菌装置は、定在波レーダーを利用した距離検出装置と、この定在波レーダー距離検出装置により検出された距離に基づき人の存在を検知する距離範囲を設定し、この距離範囲で人の存在を検知する人検知装置とを有する。
図6は、本実施形態の定在波レーダーによる距離検出装置4を示す。検出距離設定部75は、人検知装置において人の存在を検知する距離範囲を決める。
図2は距離検出装置4により室内の物体又は人体までの距離を検出する態様を示す図である。トイレ等の部屋50内の例えば、天井に距離検出装置4のレーダーセンサ30が設置されており、定在波レーダーにより、人体又は物体までの距離を計測している。レーダーセンサ30には、LED製の紫外光発光素子も組み込まれている。
【0023】
次に、距離検出装置4について説明する。レーダーセンサ30は、定在波レーダーモジュールとして構成され、この定在波レーダーモジュールには、24GHz高周波送受信部64が設けられている。この24GHz高周波送受信部64は、24GHz帯VCO(電圧制御発振器)と平面アンテナ63とが一体化されたモジュールである。そして、この送受信部64は、VCOにより平面アンテナ63から電波5を発信し、測定対象としての被反射体からの反射波をアンテナ63にて検出する。送受信部64には2個の検波器65a、65bが内蔵されており、検波器65a、65bは送信波及び受信波を検波する。
【0024】
アンテナ63から電波5を送信すると、反射物体がある場合は、アンテナ63に反射波が戻ってきて、周波数が同じで進行方向が異なる波が重なり、合成波である定在波が発生する。VCOとアンテナ63とを接続する線路上及びアンテナ給電部には、送信信号(進行波)と受信信号(反射波)が混在し、それらの合成で定在波が発生する。この場合に、VCOに供給するスイープ電圧を、少なくとも発信電波が被反射体に反射して戻ってくるまでの時間は一定に保持する必要があるため、前記スイープ電圧は、ステップ状に変化させる必要がある。そして、VCOを制御して周波数を順次切り替えることにより、複数の周波数に対する混合波の信号レベルが検波器65a、65bにより検出される。検波器65a、65bでは、送信波の電力と、反射波の電力と、定在波によって生じた成分とが検出される。得られた検波信号は、オペアンプ66a、66bで400kHz以下の必要な帯域が増幅されて、信号処理部68に入力される。
【0025】
レーダー制御モジュール基板として構成された信号処理部68は、変調信号生成部70にてFM変調された周波数制御電圧を生成する。この周波数制御電圧はDA変換部69にてアナログ信号に変換され、更に、この周波数制御信号がオペアンプ67を介して増幅された後、24GHz高周波送受信部64のVCOの制御入力に入力される。この周波数制御信号により、VCOは発信電波の周波数をスイープさせる。
【0026】
信号処理部68においては、オペアンプ66a、66bで増幅された検波信号がAD変換部71に入力された後、距離スペクトル演算部72に入力される。この距離スペクトル演算部72は、レーダーセンサ30の送受信部64が検知した合成波の周波数の強度分布から、その直流成分を除去し、フーリエ変換して、距離スペクトルを求める。この距離スペクトルは、差分検出部73に入力される。差分検出部73は、前記距離スペクトルから、基準時の距離スペクトルを減算して、距離スペクトルの差分を演算し、この差分距離スペクトルを経時的に求める。この差分距離スペクトルは、距離演算部74に入力される。そして、距離演算部74は、前記差分距離スペクトルの距離成分により測定対象までの距離を求める。
【0027】
信号処理部68においては、検波信号が、AD変換部71によりデジタル信号に変換された後、距離スペクトル演算部72に入力される。距離スペクトル演算部72においては、入力される信号は周期関数で、その周期は被反射体からの距離に逆比例しているので、これをフーリエ変換することにより、周期の逆数である周波数を求めることによって、この周波数から被反射体までの距離を求めることができる。また、得られた波形の位相を基に、被反射体の微小変位情報を検出することができる。例えば、24GHzの場合は、微小変位は光速を4πfで除算した値となり、約±3.125mmの範囲の変位を検出することができる。このように、検波器65a、65bから検出された信号を信号処理することにより、被反射体からの距離、被反射体の速度及び変位を演算し、その経時変化を計測することにより、被反射体までの距離、被反射体の位置又は状態を検出することができる。
【0028】
次に、信号処理部68の構成について更に詳細に説明する。定在波は、
図8に示すように、信号源であるVCOから生成した送信波VTと、各ターゲットからの反射波VR1,VR2,VR3、・・・VRnとの干渉によって生じる。定在波レーダーは、この定在波を利用することによって、各測定対象までの距離d1,d2,d3・・・dnを測定する。
【0029】
送信波(進行波)は、信号源の振幅をA、周波数をf(t)、光速をc(3×10
8m/s)とすると、下記数式1で表される。但し、周波数f(t)は、
図9に示すように、f
0とf
dで表される。
【0030】
【0031】
k番目のターゲットの距離をdk、x軸上の任意の点における送信波に対する反射波の大きさの比をγk(反射係数の大きさ)、位相差をφk(反射係数の位相)とすれば、そのターゲットからの反射波は下記数式2にて表すことができる。
【0032】
【0033】
アンテナから検出される検波出力は、合成波になるので、振幅Vcは下記数式3で表され、パワーは振幅の2乗であるので、合成波のパワーは、下記数式4で表される。
【0034】
【0035】
【0036】
送信波の大きさは、反射波の大きさより桁違いに大きいので、γkは1より極めて小さい。そこで、数式4に数式1及び数式2を代入して近似値をとると、下記数式5が得られる。
【0037】
【0038】
この数式5において、{}内の第1項は、送信波のパワーを示し、第2項は、反射波のパワーを示し、第3項は、定在波によるパワーの変化分を示す。従来のレーダーは、第2項の反射波を受信して、信号処理を行うが、本発明においては、第3項の信号を信号処理する。このため、第1項目と第2項目を削除するため、合成波パワーp(fd、xs)をfdで微分して、この第1項目及び第2項目を除去する。
【0039】
ここで、ターゲット(被反射体)の数が1であるとすると、n=1を数式5に代入して、下記数式6が得られる。この数式6をグラフ化すると、
図10のようになる。即ち、合成波のパワーは、固定値1+γ
2と、周期関数との和となる。この
図10において、周期関数の周波数(周期の逆数)はc/2dとなり、距離dの成分が入る。このため、周期から周波数を求めれば、距離dが求まることになる。数式6から、直流成分1+γ
2を除去して、フーリエ変換すると、
図11に示すように、距離スペクトルP(x)が求まる。
【0040】
【0041】
先ず、下記数式7に示すフーリエ変換公式に対し、変数の置き換えをし、更に、観測位置を原点として、フーリエ変換すると、下記数式8に示す距離スペクトルが得られる。但し、Sa(z)=sin(z)/zとする。なお、数式8では、直流分がカットされていない。周期のある関数をフーリエ展開すると、その関数に含まれる直流成分と、振動成分(sin、cos)に分解されてしまう。距離スペクトルは、その公式上、下記数式8のように表示される。
【0042】
【0043】
【0044】
なお、数式8のA2fw(1+Σγk
2)Sa(2πfw/c)x)は、直流成分であるが、この直流成分は、実際の回路において、コンデンサにより除去される。
【0045】
この数式8の最後の式で表される距離スペクトルP(x)をグラフ図でみると、
図12に示すようになる。そして、数式8の{}内の第1項目の直流分を除去し、第3項目をcos成分を複素正弦波(解析信号)に変換して除去し、定在波成分である第2項目の成分を抽出することができる。しかし、
図12に破線にて示すように、数式8の{}内の第2項目の成分には、虚数側の信号が漏れ込んでしまう。つまり、この部分の定在波成分には、虚数側の信号が漏れ込んだ値になってしまう。
【0046】
このような問題点を解消するためには、例えば、
図13に示すように、送信波とその反射波を合成した信号を検出する際に、送信波の波長をλとして、λ/8だけ離隔した2点にて、信号レベルを検出するように構成することができる。つまり、レーダーの進行方向をx軸にとった場合に、被反射体であるn個(nは自然数、図示は2個のみ)のターゲットからの反射波をアンテナが受信し、これを送信波と共に、x軸方向にλ/8だけ離隔した2個のパワーディテクタで検出し、これを信号処理する。このとき、この2個のディテクタが検出したパワーレベルをp(f
d,x
1)、p(f
d,x
2)とすると、x
1=0の位置に置かれたディテクタの出力は、検出パワーを示す数式5に、x
1=x
s=0を代入して、下記数式9に示すp(f
d、0)として求まり、x
1=-λ/8の位置に置かれたディテクタの出力は、検出パワーを示す数式5に、x
2=x
s=-λ/8を代入して、下記数式9に示すp(f
d、-λ/8)として求まる。この数式9に示すように、λ/8だけ離隔した2点で定在波を検出することにより、各位置(0,-λ/8)に置かれたディテクタの出力の定在波成分に、cosとsinの直交成分が得られ、これにより、虚像信号を消去することができ、虚像側から漏れ込む信号の影響を解消することができる。即ち、cosとsinの直交成分(X軸成分とY軸成分)から合成されるベクトルが求める解析信号である。通常、虚軸側の信号は測定できないのであるが、-λ/8の位置に、虚軸側の信号が計測できることになり、ベクトル合成信号を形成できる。このベクトルの回転速度が周波数になるので、本実施形態では、この周波数と位相を解析することになる。
【0047】
【0048】
この数式9におけるxs=0の位置のディテクタの出力のうちの定在波成分をa、xs=-λ/8の位置のディテクタの出力のうちの定在波成分をbとすると、a、bは下記数式10にて表される。そして、数式8の3項からなる最後の式を下記数式11に基づいて置き換えをすると、下記数式12及び数式13が得られる。即ち、数式10が求めるX軸、Y軸(実信号、虚軸信号)を実信号に変換された形に置き換えることが可能になる。数式13は、まさに、時間方向の信号と、回転軸での信号を表現しているが、結局、この数式13により、回転する解析信号を計算できることがわかる。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
数式12の右辺のP
DCは直流成分であり、m(f
d)cos(θ(f
d)-4π(f
0+f
d)/c・x
s)は周期的に変化する定在波成分である。この定在波成分は、前述のごとく、x
s=0の位置の成分aと、x
s=-λ/8の位置の成分bとの合成成分a+jbは、sinとcosとの直交成分となり、aとbとから解析信号を合成することにより、不要の信号(
図12に示す虚数側から漏れ込んだ信号)による影響が除去される。よって、この値(数式13の信号)を解析することにより、
図14に示す目的の成分p
a(f
d,0)が得られる。
【0054】
なお、測定対象が2個の場合の距離スペクトルは、
図15に示すように、x
s=0のパワーp(f
d、0)とx
s=-λ/8のパワーp(f
d,-λ/8)との合成波から直流分を除去して、フーリエ変換することにより、距離に対応する周波数が得られ、距離d
1,d
2が求まる。
【0055】
図16は合成波の真数のスペクトルと、虚数のスペクトルを示す図である。電波の速度cは、約30万km/秒である。発信波の周波数のスイープを、75MHz幅(fw)で行った場合、この75MHzの波長は、c/fw=4mである。しかし、波形を標本化するためのスイープは、往復で4mのため、行きはその半分の2mとなる。この2mを1周期と呼ぶ。そこで、スイープ幅75MHzで20mを計測した場合、10周期を計測することになる。スイープ時間が256μsであるとすると、観測する波形の周波数は、10/256μs=39kHzとなる。同様に、200mを計測した場合、100周期であるので、100/256μs=390kHzとなる。そして、
図16に示す検出されたスペクトルの周波数のレベルは反射の強さを示し、周波数は距離に置き換えられる。よって、
図15に示すように、フーリエ変換して39kHzのところにピークが現れると、それは、距離d
1=10mの位置からの反射波であることがわかり、390kHzのところにピークが現れると、それは、距離d
2=100mの位置からの反射波であることがわかる。このようにして、ディテクタの合成波の検出パワーpa(fd)を微分して直流成分を除去し、フーリエ変換すると、測定対象までの距離を求めることができる。
【0056】
スイープ幅が200MHzの場合、1周期が0.75mになるので、10mの計測は10/0.75=13.3周期を観測することになり、スイープ時間が256μsである場合は、13.3/256=51.9kHzとなる。つまり、スイープ幅が200MHzの場合は、51.9kHzにピークが現れた場合に、被反射体までの距離が10mと観測される。従って、スイープ幅を調整し、スイープ時間を調整することにより、検波出力の周波数を調整することができ、電波法の規制により帯域幅が制限されているので、一般的には、スイープ時間を可変とすることにより、被反射体までの距離を測定する。
【0057】
次に、微小変位計測について説明する。数式8において、位相に着目すると、k番目のターゲットに対する位相Ψkは、下記数式15の第1式のsinの角度として求まり、φkは初期位相であるから変化分では消えるので、距離dkの変化分をΔdk、位相の変化分をΔΨkとすると、数式14の第2式が得られ、これを変形して、下記数式16が得られる。
【0058】
【0059】
【0060】
この数式16から、距離dの微小変位が求まる。周波数が24GHzの場合は、±3.125mmの変位を検知することが可能となる。
【0061】
以上のように、被反射体からの反射波を送信波に合成した定在波の分析により、被反射体の距離及び微小変位を計測することができる。この計測結果を経時的に把握すれば、被反射体の距離、速度及び変位を計測することができ、結局、被反射体の動きを計測できる。従来のレーダーであると、1~2m以下は距離の測定が困難であったのに対し、本発明により、0mに近い至近距離から、200mの遠距離迄、距離の測定が可能である。また、本発明の場合は、微小変位の検知が可能であり、相対変位分解能は0.01mmにも及ぶ。
【0062】
なお、この測定部が多数となり、しかも、各測定部の相互間の間隔が短いと、例えば,
図15に示す複数個(図示例は2個)の距離スペクトルが相互に重なりあい、各距離スペクトルを分離できなくなる可能性がある。この場合、各測定対象について、上述の微小変位の測定に必要な位相差を求めることができなくなる。このような場合は、2個の距離スペクトルに対し、帯域通過フィルタをかけて、分離することができる。
【0063】
図7は、この場合の実施形態(第2実施形態)を示すブロック図である。差分検出部73から出力された差分距離スペクトルは、この帯域通過フィルタ76に入力される。この帯域通過フィルタ76は、差分検出部73の差分距離スペクトルからその複数のピーク位置に対応する中心周波数の中間の周波数にて最小ゲインとなる信号を出力するノッチ型の帯域通過フィルタである。この帯域通過フィルタ76から出力された差分距離スペクトルは、ピーク位置間で分離された複数個の差分距離スペクトルとなる。これら各差分距離スペクトルは、距離演算部74に入力され、位相差から、微小変位を求めることが可能となる。
【0064】
この場合に、レーダーセンサ30の送受信部64により、送信波と受信波との合成波である定在波が検知される。この定在波の検出信号は、AD変換部71を介して、距離スペクトル演算部72に入力され、距離スペクトルが演算される。そして、この距離スペクトルから、差分検出部73にて、差分距離スペクトルが求められる。距離演算部74は、この差分距離スペクトルから、前述の如くして、センサと測定対象との間の距離を演算する。その結果、この差分距離スペクトルのピーク位置は、センサと、測定対象との間の距離(例えば、2.5m)であることがわかる。
【0065】
測定対象が距離d1及び距離d2にある場合、これらの測定対象に対し、センサからレーダー波が照射され、センサにて、測定対象(d1,d2)からの反射波が検出される。そして、差分検出部73は、距離d1の距離スペクトルに対し、ある特定の時点の距離スペクトルを基準時の距離スペクトルとし、一定のサンプリング時点毎に、得られた距離スペクトルから、基準時の距離スペクトルを減算し、差分距離スペクトルを演算する。その結果、基準時の距離スペクトルP0(x)からの変化がなければ、サンプリング時点毎に得られた差分距離スペクトルは0となる。そして、距離スペクトルP(x)が得られる。その結果、差分距離スペクトルP(x)-P0(x)には、サンプリング時点毎に変化した距離スペクトルのみが出現する。従って、差分距離スペクトルが0になった時点を基準時点として、測定対象の位置を、個別に検知することができる。この定在波レーダーによる対象物の検出は、定在波が部屋の壁等を透過するので、部屋の外にいる人も検出することができる。
【0066】
次に、上述の定在波レーダーセンサ30により得られた距離スペクトルから、人を検知するときの検出距離範囲について説明する。定在波レーダーセンサ30により反射部位を検出することにより、
図11及び
図14に示す反射部位を示す距離スペクトルが得られる。この距離スペクトルは、
図4に示すように、本質的に、離散的なデータをなめらかに結んだ線分である。即ち、定在波の反射波をFFT変換したときに、離散的なデータとなる。例えば、距離の測定範囲を8.0mとしたときに、0.2m毎に反射波のレベルを得た場合には、40個の離散的なデータが得られる。
【0067】
図2に示すように、トイレ等の部屋50の天井にレーダーセンサ30を設置し、下方に向けた定在波で距離スペクトルを求めて、FFT演算したとき、
図2に示すように、トイレ等の部屋50の下部には便器40等の設備が設置されているので、
図3に示すように、これらの静止物体から多数の距離スペクトルが検出される。レーダーセンサ30から遠い領域であるBエリア(部屋50の下半部のエリア)からは、部屋50内の便器40等の設備等から多数の距離スペクトルが得られる。一方、部屋50の天井側の領域であるAエリア(部屋50の上半部のエリア)からは、部屋50内に人が存在しない場合は、距離スペクトルは得られない。なお、天井近辺に静止物体からの若干の反射波の距離スペクトルがみられる場合がある。部屋50内が無人の場合に、エリアB内の比較的レベルが小さい多数の反射波による距離スペクトルが得られるが、この部屋50内に人が進入してくると、エリアA及びエリアBの双方にまたがって、比較的レベルが高い反射波による距離スペクトルが得られる。
【0068】
定在波レーダーにより部屋50内の人を検知しようとする場合、
図3に示すように、人からの反射波以外に、床上又は部屋側面に設置された設備からの反射波による距離スペクトルが検出される。本願発明者らは、このような状態で、人の距離スペクトルをもって、人の存在を検知しようとすると、高精度に人の存在を検知することができず、その理由が、エリアBに存在する距離スペクトルの影響であることを見いだした。即ち、
図3に示すように、人からの反射波に起因するスペクトルは、部屋50内の定置物からの反射波よりも大きいのであるが、この人の検出スペクトルがエリアAだけではなくエリアB内にも及ぶため、エリアBからのノイズにより人の検出精度が低下する。よって、本発明においては、人の存在を検知するための距離スペクトルの範囲を、エリアAに設定するものである。エリアAにおいては、ノイズとなる固定物体からの反射波が存在せず、人からの反射波による距離スペクトルのみが検出される。
【0069】
上述の知見から、本発明においては、
図6及び
図7に示すように、距離演算部74により得られた距離スペクトルを、検出距離設定部75に出力し、検出距離設定部75は、エリアBからの距離スペクトルデータを廃棄し、エリアA内の距離スペクトルデータのみを出力する。本発明においては、この検出距離設定部75の出力として、距離スペクトルデータが得られたときに、これを人が部屋50内に進入してきたとして人の存在を検知する。
【0070】
次に、上述のごとく構成された本実施形態のウイルス殺菌装置の動作について説明する。先ず、部屋50の天井に設置されたレーダーセンサー30から照射された電波とその反射波から形成される定在波を検出し、距離検出装置4が、定在波のFFT演算により距離スペクトルを求める。
【0071】
電波を照射し、反射信号との定在波をFFT処理すると、サンプリングされた距離に対応した反射レベルが算出される。このFFT処理は、アナログ信号を時間領域から周波数領域に変換する処理である。例えば、
図4に示す処理においては、周波数軸上で0.2m刻みのデータが収集され、サンプリングされた距離が8mであるとすると、8/0.2=40個のデータが得られる。反射がない場所の値は0である。そこで、人が存在しない状態で距離スペクトルのデータを収集し、
図3に示すように、部屋50内の設備(便器40)からの反射波に起因するスペクトルが検出されるエリアBを、人の検出範囲から除外し、人が存在しない場合に、スペクトルが検出されないエリアAを、人の検出範囲に設定する。即ち、例えば、
図3に示すように、多数のスペクトルが検出される場合、人が不在のときに、部屋下部のエリアBから比較的小さな多数のスペクトルが検出され、センサ30近傍から小数の小さなスペクトルが検出された場合、検出距離設定部75は、これらのスペクトルが存在しない距離範囲であるエリアAを、人検知のためのスペクトルデータの検出範囲とする。即ち、エリアB及びセンサ近傍のエリアAでない距離範囲から得られたデータは人の検知のために使用しない。これにより、
図3に示すように、この検出距離設定部75から出力されたスペクトルデータは、人を検知したときのスペクトルのみとなり、人検知にとってノイズとなる部分を含まないので、高精度で人を検知することができる。
【0072】
そして、検出距離設定部75が人の不存在を検知したときに、センサ30内に格納されているLED赤外光発光素子から赤外光を部屋50の内面の全域に向けて照射し、部屋50内を殺菌処理する。また、検出距離設定部75が人の部屋内進入を検知すると、赤外光の照射を停止し、人の安全を図る。
【0073】
なお、人が部屋50の中で、倒れてしまった場合又は人がうずくまった場合、人検知のための距離範囲が
図3のエリアAであるので、倒れて便器40等の設備と同程度のレベルにいる人については、その距離スペクトルはエリアBの中に入って検知範囲から除外されている。このため、本実施形態のように、人検知範囲をエリアAに設定している場合は、人が倒れたときに距離だけでは人を検知できない。このため、人が存在するにも拘わらず、赤外光を照射してしまう虞がある。しかし、本実施形態のように、定常波の検出レベルを演算処理することにより、距離スペクトルを求める場合には、距離の他に、反射対象物の微小変位も検出することができる。これは、0.2m刻みで距離スペクトルのデータを演算した場合、この距離位置のスペクトルレベルの他に、その距離位置における位相も求めることができる。即ち、本実施形態の距離演算装置4により微小変位を求める場合、数式16に示す位相Ψkも求めていることになる。よって、距離演算装置4からは、距離スペクトルの他に、反射対象からの反射波の位相も求められており、この位相が検出されたということは、微小変位が検出されたということであり、人の心臓の鼓動又は体表面の微小な変動が検出されたことを意味している。一方、便器40のような静止物体からは微小振動は生じず、位相も検知されない。よって、人からの反射波が、人が倒れたこと等によりエリアBに入ってしまったとしても、この微小変位を監視しておくこと、即ち、位相を監視しておくことにより、人の存在を検知することができる。例えば、
図3に示す0~8mの距離のうち、エリアAにおいて、ノイズが無い距離スペクトルから、人の存在を検知し、エリアAとエリアBにおいて、微小変位(位相)を監視することにより、倒れた人の存在も検知することができ、確実に人が不存在の場合にのみ、紫外光を部屋50内に照射することができる。
【0074】
次に、細菌又はウイルスを不活化するために必要な紫外光のエネルギ量について説明する。紫外光のような殺菌灯をあてて、すぐに殺菌できるわけではなく、ある程度のエネルギの照射が必要となる。瞬時の光の照射量のことを放射照度といい、これをW(mW/cm2)で表し、ある程度光の照射が継続する時間を暴露時間(照射時間)といい、これをS(sec)で表す。そうすると、紫外光の照射エネルギは、これらのWとSとを掛け合わしたWSにより求まる。W(ワット)とJ(ジュール)との換算式は、W=J/secであるから、紫外光の照射エネルギWSは、E(mJ/cm2)として表される。このとき、細菌又はウイルスを99.9%殺菌するために必要な光エネルギ(波長254nm)は、大腸菌の場合は9.8(mJ/cm2)、インフルエンザウイルスの場合は6.6(mJ/cm2)であり(照明学会編:”照明ハンドブック第3版”)、新型コロナウイルスについては、3(mJ/cm2)で99.9%以上のウイルス不活化効果があるといわれている。照射エネルギが6(mJ/cm2)の場合、許容殺菌線照度が60(W/m2)であると、照射時間が1secで上記照射エネルギを得ることができる。そして、60(W/m2)は、6(mJ/cm2)であるから、上述の6(mJ/cm2)の照射エネルギを得るためには、照射時間が1秒ですむ。許容殺菌線照度が1(W/m2)の場合は、照射時間は1分である。
【0075】
従来、紫外光の照射手段として、多用されてきたのは、高圧水銀ランプ又はメタルハライドランプ等の紫外線ランプである。これらの紫外線ランプは、ヒータのフィラメントを加熱することにより紫外線を放出させるという発光原理をもつため、紫外光の発光開始時に、加熱のための時間が必要であり、直ちに紫外光を発光することができないという問題点がある。また、紫外光の発光を停止する際には、ヒータの残熱があり、瞬時には照射は止まらないという問題点もある。一般的に、紫外線ランプの応答特性は、数十秒~数分である。これでは、駅、デパート、オフィスビル等のトイレにおいて、入れ替わり不特定多数の人が立ち入る場合に、その合間をぬって紫外光を照射するという用途には適用することができない。
【0076】
これに対し、LED発光素子の場合は、その紫外線の応答特性は、マイクロ秒以下である。例えば、Blue-LEDの場合の応答遅延及び残光は、10nsec程度と極めて短い。一方、人検知装置1及び距離測定装置4における人の検知の演算を1μsec程度で行うことは一般的な演算速度のレベルであるので、この1μsecに比べて10nsecは十分に短く、人の検知と共に、十分に安全な時間内に、赤外光の照射を停止することができる。よって、紫外光発光LEDを使用することにより、上述の公共施設において入れ替わり不特定多数の人が立ち入るトイレ等においても、ウイルス殺菌のために本実施形態の紫外光殺菌装置を設置して、人の不在の極めて短い期間に紫外光照射によりトイレ等をウイルス殺菌処理することが可能となる。
【0077】
前述のごとく、ウイルス又は細菌を殺菌できるかどうかは、照射する紫外光の放射エネルギE(=WS)が殺菌しようとするウイルス等の種類により決まる必要エネルギを超えているかどうかによる。この場合に、LED発光素子に対し、一定の定格電流を印加して弱い一定照度のLED光を時間をかけて照射することにより、低い放射照度でも長時間照射することにより、ウイルスを不活化することができる。一方、パルス放射照度(パルスハイレベル)が高いパルスを繰り返し照射することによっても、その多数のパルスの放射エネルギの積算量として得られるエネルギE=WSが不活化エネルギ以上となった場合に、同様に、ウイルス又は細菌を不活化することができる。この場合は、ストロボ光のように瞬間的に強いパルス光を多数照射することにより、その積算量として全体で不活化エネルギを得ることができる。
【0078】
LED発光素子の場合、パルス幅を狭くして、閃光(ストロボ光のような瞬間的な強い光)を照射することにより、これが最大定格を超えるような大電流であっても、LEDを熱損傷させることなく、駆動させることができる。例えば、カタログ又は仕様書に記載の定格電流に対して、パルスハイレベルが10倍から100倍のパルス駆動の電流を流すことができ、これにより、強い紫外光を発光して、全体の照射エネルギEを高くすることにより、細菌又はウイルスを短時間に死滅させることができる。このため、パルス状の紫外光を使用すると、トイレのように、人の出入りが激しい施設において、その空室の時間に、短時間の強いパルス光を照射することにより、迅速且つ効率的に、ウイルス等を不活化することができる。一方、夜間の場合は、低い一定電流でLEDを駆動しても、紫外光を照射し続けることができるため、全体で不活化エネルギを超えるエネルギE(=WS)を確保することができ、ウイルス又は細菌を不活化することができる。このようにして、LED発光素子を使用することにより、人の入室又は退室という時間レベルでみれば、瞬時にして紫外光の照射及び停止を制御することができ、人の健康に安全な状態で、人の入室及び退室のわずかな隙間をぬって、部屋内を紫外光により殺菌処理することができる。
【0079】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。本実施形態はAIにより人の検知範囲を決めるものであり、
図1はこのAI人検知装置1を示す図である。本実施形態は、人を検知すべき距離範囲(エリアA)を、AIの機械学習を利用したディープラーニングにより、決めるようにしたものである。本実施形態においては、距離検出装置4によりセンサ30と人との間の距離を演算し、その演算結果をもとに、人検知装置1が部屋50内に人が存在するか否かを検知する。そして、本実施形態は、検出距離設定部75の代わりに、人検知装置1が設けられており、人検知装置1が人検知範囲(エリアAの範囲)を決めると共に,そのエリアA内で人の不在を検知すると、センサ30内に組み込まれた紫外光発光素子が紫外光を部屋内に照射する。一方、人検知装置1が距離検出装置4の検出結果に基づいて人の部屋50への進入を検出すると、紫外光発光素子は紫外光の発光を停止する。これにより、人体に対して安全に部屋50内を殺菌することができ、この部屋50を利用する人のウイルス感染を防止することができる。
【0080】
図1に示すように、人検知装置1は、ウイルス殺菌対象の個別の部屋50毎に設置されるマイコン3と、このマイコン3の信号がインターネットを介して入力されるクラウドサーバ2とから構成されている。マイコン3(マイクロコントローラ)は、単一の電子部品の機能を有する。即ち、マイコン3は、レーダーセンサ30により採取されたデータが入力部11に入力され、この採取データは推論部12のソフトウエアにより処理され、判定部13にて部屋50内の人の有無が判定される。この判定部13の判定結果は、採取されたデータと共に、インターネットを介してクラウドサーバ2の入力部14に転送される。このクラウドサーバ2はPC(パーソナルコンピュータ)により構成されている。収集された計測データと判定部の判定結果が、入力部14から教師データ15の格納部又は再学習処理部17に送られる。学習処理部19は、教師データ15を基に、ニューラルネットワークの学習済みモデル18を生成する。この学習済みモデル18はマイコン3の推論部12に転送されて、推論ソフトウエアとして組み込まれる。推論部12のソフトウエアはこの学習済モデル18を使用して、レーダーセンサ30で採取されたデータについて、人の有無を判定する。再学習処理部17は、適時、入力部14から入力される収集計測データと、マイコン3の推論部12及び判定部13で判定された人の検知データとを入力し、ニューラルネットワークのパラメータを調整し、修正して再学習を行い、学習済みモデル12を修正する。この学習済モデル18はマイコン3の推論部12に転送され、推論部12の推論ソフトウエアを修正後の最新の学習済みモデルで更新する。
【0081】
図5はニューラルネットワークの構造を示す。距離検出装置4により採取した距離データを、ニュウラルネットワークの入力層に入力する。距離検出装置4において、電波を照射し、反射信号をFFT処理すると、サンプリングされた距離に対応した反射レベルが算出される。このFFT処理は、アナログ信号を時間領域から周波数領域に変換する処理であり、例えば、
図4に示す例においては、周波数軸上で20cm刻みのデータが収集される。距離スペクトラムの距離が8mであるとすると、この8mまでのデータ数は、8m÷0.2m=40個である。即ち、1回の定在波レーダーによる距離検出で、40個のデータが得られる。そのうち、
図5に示す例においては、3.2mの距離における反射レベルが10(任意レベル)、3.4mが16、3.6mが32、3,8mが17、4.0mが8であり、他の距離における反射レベルは0である。この40個のデータをAIのニューラルネットワークに入力する。本実施形態は、教師データを使用するディープラーニングによって、人の存在を検知すべき範囲(エリアA)を決定する。
【0082】
先ず、初期段階においては、部屋50内に人が存在しない状態で、距離検出装置4により得られた距離スペクトルのデータをマイコン3に入力し、この収集されたデータをクラウドサーバ2の教師データ1に格納する。また、部屋50内に人が存在する状態で、距離検出装置4により得られた距離スペクトルのデータをマイコン3に入力し、この収集されたデータをクラウドサーバ2の教師データ1に格納する。学習処理部19は、ニューラルネットワークを使用したディープラーニングにより、これらの教師データ1を使用して、学習モデル18を作成する。即ち、
図5に示すニューラルネットワークの入力層に採取データを入力し、隠れ層(中間層)にて演算処理して、出力層に人の有無を示す判定結果を出力させる。このとき、部屋50に人が存在しない場合のデータをニューラルネットワークに入力したときの出力が人不在を検知し、部屋50に人が存在する場合のデータをニューラルネットワークに入力したときの出力が人存在を検知した場合を正解率100%とし、この正解率100%に近づくように(誤差との差が0%に近づくように)、伝達関数に重み付けをする。ディープラーニングでは、このニューロンのパラメータ(重み及びバイアス)を教師データにより調整してニューラルネットワークをチューニングすることにより、精度が高い学習モデルを生成することができる。得られた学習済モデル18は、マイコン3の推論部12に転送されて、実際のデータから人の存在・不存在を推論するソフトウエアに組み込まれる。このようにして、初期段階において、人が在室である場合と人が不在である場合に得られた距離スペクトルデータを教師データ15としてディープラーニングにより機械学習し、ニューラルネットワークを適正に調整し、学習済みモデルを生成する。この学習済みモデルにおいては、実際に採取された多数のデータを基に、人を高精度で検知できるエリアAの最適な範囲が決まる。よって、判定部13で判定される人の検知処理は、高精度で人の在室を検知し、高精度で人の不在を検知することができる。
【0083】
次に、人の検知が進んだ定常状態においては、距離計測データは、マイコン3の入力部11に入力されると共に、適時、インターネットを介してクラウドサーバ2の入力部14に入力され、再学習処理部17に入力される。この距離データは、再学習処理部17で、ニューラルネットワークの入力層に入力され、人の存在・不存在の判定結果が出力層に出力される。再学習処理が行われる。これは、時間の経過と共に、静止物体からの反射波による距離スペクトルの出現位置が変動することがあり、これらのノイズとなる距離スペクトルが存在しないエリアAの範囲も変動してしまい、エリアAがより狭くなることがある。そこで、この新しい学習済モデルをマイコン3の推論部12に転送し、この最新の判定アルゴリズムを、マイコン3の推論部12のソフトウエアに組み込み、この推論部12の推論ソフトウエアを更新する。
【0084】
これにより、マイコン3の推論部12に組み込まれた人の存否を判断する学習モデルが判定処理が進行するにしたがって、高精度になり、判定精度が向上していく。この場合に、機械学習のディープラーニングは、PC等により構成されて十分な計算容量をもつクラウドサーバ2にて実施される。そして、このクラウドサーバ2にてディープラーニングにより得られた学習済モデル18を、殺菌対象の各部屋50に設置したマイコン3に推論部ソフトウエア12として組み込み、人の存否を判断させるから、各部屋50に設置するのは、計算容量が小さいマイコンで足りる。このため、人の存否のディープラーニングによる検知を、トイレ等の小規模な部屋でも実行することができる。
【0085】
本実施形態においては、学習処理部19が、ディープラーニングの学習処理の初期段階において、判定結果がわかっている教師データと、その判定結果を基に、判定結果が正解の教師データ判定結果に近づくように、重みを調整する。即ち、出力層の出力と、正解ラベルとの誤差を計算し、出力が正解ラベルに近づくように、重みを調整する。この作業は機械学習の学習処理といわれているものであり、計算処理は市販のソフトウエアを使用して行うことができる。処理方式は一般的なレーベンバーグ・マーカート法を使用したソフトウエアと、シグモイド関数等で最適化の処理を行う。レーベンバーグ・マーカート法は、非線形関数の二乗の和の形で表された関数の極小を求める反復法の一種であり、最急降下法・ニュートン法を組み合わせた方法とされており、非線形最小二乗問題(非線形な関数の二乗和の最小値を求める問題)を解く標準的な方法である。
【0086】
定常段階においては、再学習処理部17が、距離スペクトルのデータを入力して学習処理を繰り返し、正解率を高め誤判定を小さくしていく。これにより、定常状態におけるディープラーニング判定の結果、本実施形態の装置を使い込み、人の存否の判定を継続すればするほど、正確な存否判定をすることができるようになる。
【0087】
本実施形態においては、
図5に示すように、反射信号をFFT処理して得た例えば40個のデータが、ニューラルネットワークの入力層に入力され、出力層から人の存否についての判定結果が出力される。このとき、このニューラルネットワークのディープラーニングによって、人が存在しないときに得られた距離スペクトルの距離範囲については、無視して判定結果を出すようになる。即ち、
図5の数値例でいえば、3.2m~3.8mにて現れたデータは、部屋の下部に設置された固定物からの反射波に基づくものであり、この範囲を避けて、0.2m~3.0mの範囲(エリアA)からのデータをもとに人の存否の判断をするようになる。
【0088】
実際に、上記例の8mにわたって40個のデータを採取し、ディープラーニングによる人の存否判定をした結果、当初の誤判定は数十%程度であったものの、ディープラーニングによる機械学習の結果、ある時期を過ぎると、誤判定が0の状態になった。この原因を調査した結果、無人の状態を判別する重み付け処理において、入力された40カ所のデータのうち、8カ所程度のデータのみで判定を行い、その他のデータは、信号が現れていても、無視していることが判明した。従って、AI機械学習においては、入力された距離別のデータから、正しい判別結果を出せる場所がどこであるかを絞り込んでいる。この点、その手法は、
図2及び
図3にて示したように、部屋50の下方(エリアB)には種々の反射物体が存在するので、人からの反射波による影響を受ける可能性が高くてこのエリアBを人の存否の判定に使用することは好ましくなく、人以外の物体からの反射波の影響を受けるおそれがない上方のエリアAについて、反射波の監視をすることが、高精度で人の存否を検知するために必要であるという知見と一致する。即ち、AIのディープラーニングにより、それ自体が高精度で人を検知できる距離スペクトルの範囲を見つけ出し、その結果に基づいてノイズがない距離スペクトルの範囲から人の存否を検知する。このようにディープラーニングが人の検知を行う最適な距離範囲を探す方法は、高精度で人を検知するために極めて有効な方法である。
【0089】
本実施形態においても、センサ30には、紫外線のLED発光素子が設置されており、人検知装置1の判定部13が人を検知した場合には、紫外光発光素子は紫外光の発光を停止し、部屋50内に人がいないことを検知した場合には、紫外光発光素子は紫外光を部屋50の全体又は特定の領域に照射する。これにより、部屋50の内部が殺菌処理される。
【0090】
上述のごとく構成された本実施形態のウイルス殺菌装置においては、家庭内は勿論のこと、駅デパート等の公共施設等においても、人が入れ替わり使用する部屋50を、紫外光の照射による殺菌処理により、ウイルス及び細菌等を不活化することができる。
【0091】
本実施形態においては、人検知装置1において、各部屋50内に設置されるのは、推論ソフトウエアを組み込んだマイコン3のみであり、ディープラーニングの学習処理を行うのは、クラウドサーバ1である。このクラウドサーバ1では、大容量のコンピュータリソースを備えるPCにより構成することができるので、ディープラーニングを大量のデータを使用しても高速で実行することができる。即ち、大型の装置は、クラウドサーバ1として構成するので、各部屋に設置するのは、マイコン3という家庭の電気製品にも組み込まれる小型の装置として構成することができる。このため、公共の施設の大量の部屋への設置が必要な人検知装置1を低コストで用意することができる。
【0092】
しかしながら、AIによる機械学習によって、人を検知すべき距離範囲(エリアA)を設定するのは、ニューラルネットワークのディープラーニングにより学習処理部19が初期段階で生成した学習済みモデル18だけでも良い。即ち、インターネットによりクラウドサーバ2を接続しなくても、マイコン3のみで人を検知すべき距離範囲を設定することができる。この場合は、部屋50内にセンサ30を設置し、その初期設定において、ニューラルネットワークによる機械学習ソフトウエアを組み込んだPCを使用して、距離検出装置4が採取した距離スペクトルから、学習済みモデルを生成し、これをマイコン3に組み込むこととすればよい。この実施形態においては、学習済みモデルの自動的な更新はできないが、設置当初に、AIによって最適な人検知範囲を設定するので、高精度で人の存否を検知することはできる。
【0093】
なお、定在波レーダは、部屋の壁は透過するので、人が今まさに進入しようとしていることを、その人が部屋の外にいる段階で、検出することができる。このため、定在波レーダによる距離検出(位置検出)は、高精度で位置を検出できると共に、人検出の態様を広げ、紫外線照射の制御態様を広げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、定在波レーダーによる距離検出装置によって、距離スペクトルを求め、静止物からの反射波によるノイズとなる距離スペクトルは人検知データとして取り込まず、上記ノイズが存在しない距離範囲からのデータを基に人を検知しているから、高精度で人を検知することができる。また、AIのディープラーニングによる機械学習を利用して、距離スペクトルから人に基づくスペクトルを分離し、絞り込んで、人の存否を検知する場合は、より高精度で人の存否を検知することができる。そして、LED紫外光発光素子を使用して、紫外光の発光停止制御を行うので、トイレのような人の入れ替わりが激しい設備においても、その合間を縫って、紫外光照射による殺菌処理を行うことができる。よって、人体に悪影響を与えることなく、また、人的労力をかけずに、ウイルスを殺菌処理することができるので、人が入れ替わる部屋のウイルス空気感染及びウイルス接触感染を有効に防止することができる。よって、本発明は、感染症が蔓延している社会において、その予防に極めて有益である。
【符号の説明】
【0095】
1:人検知装置
2:クラウドサーバ
3:マイコン
4:距離検出装置
11,14:入力部
12:推論部(ソフトウエア)
13:判定部
15:教師データ格納部
17:再学習処理部
18:学習済モデル
19:学習処理部
30:センサ
50:部屋
【要約】
【課題】距離スペクトルデータから人検知のための適切なデータを採取することにより、部屋内への人の進入及び退出を高精度で検出することができ、人が不在であるときに紫外光を照射して部屋内を殺菌処理することができ、接触感染及び飛沫感染を防止することができるウイルス殺菌装置を提供する。
【解決手段】距離スペクトルをFFT変換して離散的なデータを得、人検知のための適切な距離範囲を求める。又は前記データからニューラルネットワークのディープラーニングにより人の検知に使用する最適な距離範囲を求める。この距離範囲内に人が存在しないことを検知したときに、部屋にLED紫外光発光素子を使用して紫外光を照射し、部屋全体を殺菌処理する。この紫外光の瞬時のオンオフにより、公共施設のトイレ等の人の出入りが激しい施設においても、その合間をぬって、部屋を殺菌処理することができる。
【選択図】
図1