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特許7087352電解コンデンサモジュール、フィルタ回路および電力変換器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】電解コンデンサモジュール、フィルタ回路および電力変換器
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/048 20060101AFI20220614BHJP
   H02M 1/14 20060101ALI20220614BHJP
   H01G 9/28 20060101ALI20220614BHJP
   H01G 4/40 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
H01G9/048 G
H02M1/14
H01G9/28
H01G4/40 321A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017224889
(22)【出願日】2017-11-22
(65)【公開番号】P2019096737
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083725
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100140349
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 継立
(74)【代理人】
【識別番号】100153305
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 卓弥
(74)【代理人】
【識別番号】100206933
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 正樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 敦
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/014143(WO,A1)
【文献】特開2004-080773(JP,A)
【文献】特開2005-217129(JP,A)
【文献】特開2006-169571(JP,A)
【文献】特開2007-115949(JP,A)
【文献】特開昭57-048221(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0233605(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/04
H02M 1/14
H01G 9/28
H01G 4/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチングピット長を異ならせた少なくとも二種類の電解コンデンサが並列に接続され
少なくとも二種類の前記電解コンデンサがそれぞれ、電解液のみからなる電解質を含み、
第1の種類の前記電解コンデンサは、エッチングピット長を27〔μm〕以下とした電解コンデンサであり、
第2の種類の前記電解コンデンサは、エッチングピット長を27〔μm〕超とした電解コンデンサである電解コンデンサモジュール。
【請求項2】
エッチングピット長を異ならせた少なくとも二種類の電解コンデンサが並列に接続され
少なくとも二種類の前記電解コンデンサがそれぞれ、電解液のみからなる電解質を含み、
第1の種類の前記電解コンデンサは、エッチングピット長を27〔μm〕以下とした電解コンデンサであり、
第2の種類の前記電解コンデンサは、エッチングピット長を27〔μm〕超とした電解コンデンサである電解コンデンサモジュールを含むフィルタ回路。
【請求項3】
エッチングピット長を異ならせた少なくとも二種類の電解コンデンサが並列に接続され
少なくとも二種類の前記電解コンデンサがそれぞれ、電解液のみからなる電解質を含み、
第1の種類の前記電解コンデンサは、エッチングピット長を27〔μm〕以下とした電解コンデンサであり、
第2の種類の前記電解コンデンサは、エッチングピット長を27〔μm〕超とした電解コンデンサである電解コンデンサモジュールを含むフィルタ回路を備える電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチングピット長が異なる電極箔で特定される電解コンデンサのモジュール化および回路技術に関する。
【背景技術】
【0002】
直流や交流の電力変換にはインバータやコンバータなど、スイッチングにより電力変換を行う電力変換器が用いられる。この電力変換器には、スイッチングで生じた高周波成分を除くためのコンデンサを備えたフィルタが用いられる。
このフィルタにおけるコンデンサについて、高周波損失の大きい大容量のコンデンサと、高周波損失の小さい小容量のコンデンサを並列化して用いることが知られている(特許文献1)。しかし、この特許文献1にはアルミ電解コンデンサが損失が大きい旨の記載があるに止まり、特許文献1に記載のコンデンサの並列化に電解コンデンサを用いることの言及はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-204721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ワイドバンドギャップを有する半導体材料として、SiCやGaNなどが知られているが、斯かる半導体材料を用いる次世代パワーデバイスとして、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などが注目されている。このパワーデバイスは既に研究段階を脱して実用化に移行し、電源システムの高性能化に寄与しつつある。
斯かるパワーデバイスには、シリコンを用いた従前のパワーデバイスに比較して低いオン抵抗、高速スイッチング、高温環境下で動作可能などの特長がある。このようなパワーデバイスを電力変換器に適用すれば、低いオン抵抗および高速スイッチングで電力損失の抑制による高効率化が図られ、その結果、冷却ファンやヒートシンクなどの冷却部品の簡略化や高周波化による受動部品の小型化、さらにはコスト削減や省エネ化に貢献することになる。
【0005】
この電力変換器の小型化や高効率化にはその主要部品である電解コンデンサが密接に関連し、電解コンデンサには高速スイッチング特性、高周波に対する応答性、低損失化を改善すべき課題がある。電解コンデンサではおおよそ300〔Hz〕以下の低周波領域で高い静電容量密度が得られる。これはフィルムコンデンサやMLCC(Multi-layer Ceramic Capacitor:積層セラミックコンデンサ)など、他のコンデンサにはない長所であるが、数10〔kHz〕以上の高周波領域では、容量低下率が大きくなる、ESR(Equivalent Series Resistance)が高い、リプル電流耐性に劣る(許容リプル電流が上げられない)など、改善すべき課題がある。
電解コンデンサを以て高周波領域で必要な静電容量や、必要なリプル電流耐量を実現するには、大きなサイズの電解コンデンサを選定しなければならない。サイズが大きい電解コンデンサを用いれば、電力変換器の小型化や低コスト化が妨げられる。
【0006】
静電容量は対向電極の表面積に依存する。電解コンデンサでは、電極箔の表面積の拡大(拡面化)のため、電極箔に交流または直流を用いたエッチング処理が施される。低圧用の電極箔では交流エッチングにより電極箔表面に海綿状エッチングピットが形成され、高圧用の電極箔では直流エッチングにより電極箔表面にトンネル状エッチングピットが形成される。電極箔の深部までエッチングピットを到達させるなど、ピット長を長くすれば、電極箔の表面積をより拡大でき、理論的には静電容量を増加させることができる。
【0007】
しかしながら、100〔kHz〕以上の高周波領域での情報処理が一般化しているディジタル機器のように、電解コンデンサの用途が低周波領域から高周波領域に拡大されると、高周波領域におけるコンデンサ性能が問題となる。
本発明者は、トンネル状エッチングピットを形成した電極箔の周波数依存性に着目し、電極箔におけるトンネル状エッチングピットの等価回路シミュレーションおよび検証実験を実施し、高速スイッチング時にエッチングピットの電極箔の深さ方向における過渡現象を検証した。
【0008】
斯かる検証により、本発明者は、
(1) 高周波領域における容量低下率やESRが高くなるのは、エッチングピット長に起因し、ピットの深部で高速スイッチング動作の応答性を悪化させ、高周波領域では静電容量発現に寄与しない、
(2) エッチングピット長を長く(深く)すれば、低周波領域では容量発現に寄与するのに対し、高周波領域では容量発現に寄与しない、
(3) ピット長を短くして電極箔を薄くすれば、同一サイズ比較で電極箔を薄くした分だけ電極箔の搭載量の増加により静電容量を増大させることができる、
(4) 同一サイズ比較において高周波領域において容量低下率が小さく、リプル電流耐量を向上させることができる、
(5) ピット長を異ならせて、低周波領域で容量効率のよい電解コンデンサ、高周波領域で容量効率のよい電解コンデンサの二種類の電解コンデンサが得られる、
(6) 二種類の電解コンデンサにより単一の電解コンデンサにはない優れたコンデンサ特性を実現できる、
などの知見を得たのである。
【0009】
そこで、本発明の第一の目的は、上記課題とともに斯かる知見に基づき、電解コンデンサが持つ高周波領域の性能を向上させることにある。
本発明の第二の目的は、高周波領域での容量低下率の抑制とともに、高周波領域でのリプル電流耐量を増大させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の電解コンデンサモジュールの一側面によれば、エッチングピット長を異ならせた少なくとも二種類の電解コンデンサが並列に接続され、少なくとも二種類の前記電解コンデンサがそれぞれ、電解液のみからなる電解質を含み、第1の種類の前記電解コンデンサは、エッチングピット長を27〔μm〕以下とした電解コンデンサであり、第2の種類の前記電解コンデンサは、エッチングピット長を27〔μm〕超とした電解コンデンサであればよい
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のフィルタ回路の一側面によれば、エッチングピット長を異ならせた少なくとも二種類の電解コンデンサが並列に接続され、少なくとも二種類の前記電解コンデンサがそれぞれ、電解液のみからなる電解質を含み、第1の種類の前記電解コンデンサは、エッチングピット長を27〔μm〕以下とした電解コンデンサであり、第2の種類の前記電解コンデンサは、エッチングピット長を27〔μm〕超とした電解コンデンサモジュールを含んでいればよい
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の電力変換器の一側面によれば、エッチングピット長を異ならせた少なくとも二種類の電解コンデンサが並列に接続され、少なくとも二種類の前記電解コンデンサがそれぞれ、電解液のみからなる電解質を含み、第1の種類の前記電解コンデンサは、エッチングピット長を27〔μm〕以下とした電解コンデンサであり、第2の種類の前記電解コンデンサは、エッチングピット長を27〔μm〕超とした電解コンデンサモジュールを含むフィルタ回路を備えていればよい
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、次のいずれかの効果が得られる。
<電解コンデンサモジュール>
(1) 少なくとも二つの電解コンデンサを備える電解コンデンサモジュールについて、トンネル状エッチングピット長が異なる二種類の電解コンデンサを含むことにより、低周波領域から高周波領域の広い周波数領域において高効率で静電容量を発現できる。
(2) ピット長が短い電極箔は薄厚化による箔の搭載量の増加により、高周波領域での高容量化を図ることができ、ピット長の長い電極箔では低周波領域で電解コンデンサを高容量化でき、単一の電解コンデンサにはない広い周波数領域でのコンデンサ特性および高効率の容量を実現できる。
【0014】
(3) 高周波領域の用途ではピット長が短い電極箔を備える電解コンデンサの高周波領域での応答性が高められ、ピット長が長い電極箔を用いた電解コンデンサの応答性を補完できる。
(4) トンネル状エッチングピットの該ピット長が長い電極箔を用いた電解コンデンサと、ピット長が短い電極箔を用いた電解コンデンサが併用されるので、広い周波数領域に適する電解コンデンサモジュールを実現でき、その小型化や軽量化を図ることができる。
(5) 少なくとも二つの電解コンデンサを備える電解コンデンサモジュールのうち、高周波領域において容量効率の高い電解コンデンサでは、容量に寄与しない深さのエッチングピットが存在しないので、残芯部を十分に残しつつ薄厚化でき、電極箔の強度を保ちつつ、電解コンデンサの単位体積当たりの容量を向上させることができる。
(6) ピット長が長い電極箔を用いた電解コンデンサであっても、箔面積を大きくすれば、高周波領域において、ピット長が短い電極箔を用いた電解コンデンサと同じ静電容量を発現できる。しかし、箔面積を大きくすれば、電解コンデンサの容積はいきおい大きくなってしまう。このような電解コンデンサを搭載させ、ピット長が短い電極箔で作製した電解コンデンサを併用する電解コンデンサモジュールと同じ静電容量を得ようとしても、同一体積の電解コンデンサモジュールを作製できない。これに対し、ピット長が短い電極箔で作製した電解コンデンサを併用すれば、電解コンデンサモジュールを小型化できるし、同一体積の電解コンデンサモジュールを作製する場合、ピット長が短い電極箔の電解コンデンサを併用すれば、ピット長が長い電極箔の電解コンデンサのみの場合に比較し、高周波領域での静電容量の発現がより大きい電解コンデンサモジュールを実現できる。
【0015】
<フィルタ回路>
(5) 低周波領域から高周波領域までの広領域における高周波成分や変動成分を効率よく除くことができる。
(6) フィルタ回路の小型化、軽量化を図ることができる。
【0016】
<電力変換器>
(7) 低周波領域から高周波領域の広い高周波成分や変動成分が除去された電力変換出力を出力することができる。
(8) 電力変換器に占める電解コンデンサや該電解コンデンサを用いたフィルタが占める体積比率を低減でき、電力変換器の小型化や軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】Aは一実施の形態に係る電解コンデンサモジュールを示す図、Bは電解コンデンサモジュールの変形例を示す図である。
図2】Aは一実施の形態に係るフィルタ回路を示す図、Bは一実施の形態に係る電力変換器を示す図である。
図3】AおよびBは一実施の形態に係る電力変換器を示す図である。
図4】Aは一実施例に係るエッチングピットモデルを示す図、Bはエッチングピットの等価回路モデルを示す図である。
図5】AおよびBはエッチングピットの等価回路モデルを示す図である。
図6】過渡応答シミュレーションに用いた等価回路モデルを示す図である。
図7】Aは電流パルス幅=1〔μs〕の電流パルスを用いた過渡応答を示す図、Bは電流パルス幅=10〔μs〕の電流パルスを用いた過渡応答を示す図、Cは電流パルス幅=100〔μs〕の電流パルスを用いた過渡応答を示す図である。
図8】Aは電解コンデンサセルの各部材を示す図、Bは電解コンデンサセルを示す図である。
図9】典型的な電解コンデンサの電流パルス応答を示す図である。
図10】Aは異なるピット長と静電容量の関係を示す図、Bはピット長=55〔μm〕での静電容量の周波数特性を示す図、Cはピット長=27〔μm〕での静電容量の周波数特性を示す図である。
図11】ピット長=55〔μm〕、27〔μm〕での静電容量の周波数依存性を示す図である。
図12】実施例1~4および比較例1~4のピット長、周波数および静電容量を説明するための一覧表である。
図13】Aは比較例1に係る静電容量の周波数特性を示す図、Bは比較例1に係るESRの周波数依存性を示す図である。
図14】Aは比較例2に係る静電容量の周波数特性を示す図、Bは比較例2に係るESRの周波数依存性を示す図である。
図15】Aは比較例3に係る静電容量の周波数特性を示す図、Bは比較例3に係るESRの周波数依存性を示す図である。
図16】Aは比較例4に係る静電容量の周波数特性を示す図、Bは比較例4に係るESRの周波数依存性を示す図である。
図17】Aは実施例1に係る静電容量の周波数特性を示す図、Bは実施例1に係るESRの周波数依存性を示す図である。
図18】Aは実施例1および比較例1~比較例4の静電容量の周波数依存性を示す図、Bはピット長の異なる電極箔による静電容量の周波数依存性を示す図である。
図19】周波数=120〔Hz〕、100〔kHz〕をパラメータとしたピット長と静電容量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<電解コンデンサモジュール>
図1のAは、一実施の形態に係る電解コンデンサモジュールを示している。図1に示す構成は一例であり、斯かる構成に本発明が限定されるものではない。
この電解コンデンサモジュール(以下単に「コンデンサモジュール」と称する)2には、電極箔にエッチングピットが形成された少なくとも二つの電解コンデンサであり、該エッチングピット長が異なる二種類の電解コンデンサとして、第1の電解コンデンサ4-1、第2の電解コンデンサ4-2が備えられる。ここで、「エッチングピット長が異なる二種類」とは、電解コンデンサに用いるコンデンサ素子の電極箔に形成されたトンネル状のエッチングピットの長さ(深さ)をピット長と称し、このピット長を分類概念とし、分類したものである。
【0019】
この一実施の形態では、電解コンデンサ4-1はエッチングピット長が短い電解コンデンサ、電解コンデンサ4-2はエッチングピット長が長い電解コンデンサである。電解コンデンサ4-1、4-2はたとえば、アルミ電解コンデンサである。
電極箔はたとえば、陽極側の電極箔であり、アルミニウムなどの弁金属箔体である。エッチングピットは実施例で詳述するがたとえば、直流エッチングにより電極箔に形成され、箔表面から厚み方向に延びるトンネル状のピットである。ピット長は、箔表面のピット開口から箔深部のピット先端までの長さ(深さ)である。
電解コンデンサ4-1は一例として、ピット長=27〔μm〕以下とした電解コンデンサである。電解コンデンサ4-2はたとえば、ピット長=27〔μm〕超とした電解コンデンサであって、ピット長が55〔μm〕の電解コンデンサである。
【0020】
このコンデンサモジュール2には筐体6が備えられる。この筐体6は、絶縁体で形成してもよいし、表面を絶縁した導体で形成してもよい。この筐体6には電解コンデンサ4-1、4-2が収納されている。電解コンデンサ4-1、4-2は、それぞれを単一で構成してもよいし、複数であってもよいし、またそれぞれを異なる設置数としてもよい。
電解コンデンサ4-1には陽極側および陰極側のそれぞれに外部端子8-1、10-1が備えられ、電解コンデンサ4-2にも同様に外部端子8-2、10-2が備えられる。各外部端子8-1、8-2、10-1、10-2は、絶縁されて筐体6から外部に引き出されている。
【0021】
各電解コンデンサ4-1、4-2はたとえば、図1のBに示すように、陽極側を共通に接続し、同様に陰極側を共通に接続して並列化することにより、陽極側に共通の外部端子8、陰極側に共通の外部端子10を備えてもよい。
陽極側の共通接続または陰極側の共通接続は、筐体6の内部で行ってもよいし、筐体6の外部で行ってもよい。
【0022】
このコンデンサモジュール2において、電解コンデンサ4-1の静電容量をC1、等価直列抵抗ESR1、等価インダクタンスをESL1とすると、電解コンデンサ4-1のインピーダンスZ1は、
Z1=ESR1+j{ωESL1-1/ωC1}
=ESR1+jXs1 ・・・(1)
で表される。jXs1はインダクタンス成分と容量成分の合成インピーダンスである。
電解コンデンサ4-2の静電容量をC2、等価直列抵抗ESR2、等価インダクタンスをESL2とすると、電解コンデンサ4-2のインピーダンスZ2は、
Z2=ESR2+j{ωESL2-1/ωC2}
=ESR2+jXs2 ・・・(2)
で表される。jXs2はインダクタンス成分と容量成分の合成インピーダンスである。
【0023】
<フィルタ回路>
図2のAは、コンデンサモジュール2を用いたフィルタ回路を示している。図2のAにおいて、図1と同一部分には同一符号を付してある。
コンデンサモジュール2はたとえば、図2のAに示すように、フィルタ回路14に利用できる。このフィルタ回路14では電解コンデンサ4-1、4-2は、各陽極側を共通に接続し、かつ各陰極側を共通に接続して並列回路を構成している。つまり、コンデンサモジュール2はパワー半導体回路の基本構成であり、ピット長のみを異ならせた電解コンデンサ4-1、4-2が並列に接続させている。
電解コンデンサ4-1、4-2の並列回路に電源16が接続されている。この電源16はたとえば、高周波電源であり、具体的にはインバータやコンバータなど、スイッチングにより電力変換を行う電力変換器において、高周波出力が生成されるスイッチング部などである。
【0024】
このフィルタ回路14を用いれば、高周波領域において、電解コンデンサ4-1が容量効率のよいコンデンサを構成し、低周波領域において、電解コンデンサ4-2が容量効率のよいコンデンサを構成する。
電源16から交流または直流の電流iがコンデンサモジュール2に加えられると、電流iに含まれる高周波成分や変動成分が電解コンデンサ4-1、4-2の蓄電機能によるフィルタ機能により除かれる。したがって、電解コンデンサ4-1、4-2の端子間には、電源16の直流成分出力、つまり、高周波成分や変動成分が除去された出力Voが取り出される。
【0025】
ここで、電源16から電解コンデンサ4-1、4-2に加えられる電圧をe、電解コンデンサ4-1、4-2の並列回路に流れる電流をi、電解コンデンサ4-1に流れる電流をi1、電解コンデンサ4-2に流れる電流をi2、電解コンデンサ4-1のインピーダンスをZ1、電解コンデンサ4-2のインピーダンスをZ2、合成インピーダンスをZtとすると、
i=i1+i2
=e/Z1+e/Z2
=e(1/Z1+1/Z2)
=e/Zt ・・・(3)
が成立する。したがって、合成インピーダンスZtは、
Zt=Z1・Z2/(Z1+Z2) ・・・(4)
である。コンデンサモジュール2の電解コンデンサ4-1、4-2の合成静電容量をCtとすると、合成静電容量Ctは、式(1) 、(2) および(4) により、
Ct=C1+C2 ・・・(5)
と表すことができる。
このフィルタ回路14では、電解コンデンサ4-1、4-2のみで構成したが、抵抗やインダクタを併用してもよいし、各電解コンデンサ4-1、4-2は2以上の電解コンデンサであってもよい。
【0026】
<電力変換器>
図2のBは、電力変換器の一例を示している。図2のBにおいて、図2のAと同一部分には同一符号を付してある。
この電力変換器18には、コンバータ20およびフィルタ回路14が備えられる。コンバータ20はたとえば、MOSFETやIGBTなどのスイッチング素子26を備え、スイッチングによりたとえば、バッテリー22の直流電圧を断続させて交流電圧に変換する。フィルタ回路14はインダクタ24を備えた既述のフィルタ回路14であり、コンバータ20のスイッチングで生じた高周波成分や変動成分を除く。したがって、出力端子28-1、28-2には高周波成分や変動成分のない交流出力Voutが取り出される。
【0027】
図3のAは、他の電力変換器を示している。図3のAにおいて、図2と同一部分には同一符号を付してある。
この電力変換器30にはフィルタ回路14およびインバータ32が備えられる。フィルタ回路14は既述の電解コンデンサ4-1、4-2が備えられる。電解コンデンサ4-1は従前のフィルムコンデンサに代えて設置されている。
入力端子34-1、34-2に加えられた直流電圧Eは電解コンデンサ4-1、4-2の蓄電機能により平滑され、直流電圧Eから変動成分や交流成分が除去された後、インバータ32に加えられる。
インバータ32は、MOSFETやIGBTなどのスイッチング素子36を備え、スイッチングにより直流電圧をたとえば、三相交流出力に変換する。この三相交流出力は負荷であるモーター38に加えられ、モーター38を回転させる。
【0028】
図3のBは、他の電力変換器を示している。図3のBにおいて、図3のAと同一部分には同一符号を付してある。
この電力変換器40には、平滑部42、整流部44、フィルタ回路14、コンバータ20、波形調整部46が備えられる。
平滑部42はソーラーパネル48の発電出力を平滑する。その平滑部42の出力は整流部44により整流されてフィルタ回路14を通過させる。フィルタ回路14は既述の電解コンデンサ4-1、4-2を備え、電解コンデンサ4-1、4-2の蓄電機能により変動成分を平滑し、高周波成分を除去して直流出力を生成する。
コンバータ20は既述のように、MOSFETやIGBTなどのスイッチング素子36を備え、スイッチングにより直流電圧をたとえば、単相交流出力に変換する。この単相交流出力は波形調整部46により正弦波出力に調整され、出力端子50-1、50-2から取り出され、商用交流出力となる。
【0029】
<一実施の形態の効果>
この一実施の形態によれば、次の効果が得られる。
(1) ピット長が異なる二種類の電解コンデンサである、電解コンデンサ4-1、4-2の並列回路では、高周波領域の容量効率の高い電解コンデンサ4-1の併用により、たとえば、電解コンデンサ4-2のみの並列回路に比較し、装置の大型化を抑制できる。
(2) 高周波領域の容量確保のため、アルミ電解コンデンサとフィルムコンデンサの並列回路に比較し、体積が大きいフィルムコンデンサを除くことができ、フィルムコンデンサのために装置が大型化するという課題を解消することができる。
(3) 電解コンデンサの高周波領域におけるコンデンサ性能を高め、フィルタ回路14や電力変換器18、30、40など多様な用途に活用することができる。
【実施例
【0030】
<電解コンデンサ4-1、4-2に用いられる電極箔>
電極箔は高圧用でありかつ100〔kHz〕以上の高周波領域で用いられる電解コンデンサに好適であり、陽極箔、陰極箔または両方に用いられる。
この電極箔の形成には弁金属が用いられる。電極箔にはアルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマスおよびアンチモンなどから選択される弁金属材料を選択すればよい。電極箔を形成する弁金属の純度について、陽極箔では99.9〔%〕以上、陰極箔では99〔%〕以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛などの不純物が含まれていても良い。
【0031】
電極箔は、エッチング処理により箔両面を拡面化されている。エッチング処理された電極箔では、箔両面から厚み方向にトンネル状に延びる無数のエッチングピットが形成されている。エッチングピットは箔表面から箔内に延びる円筒状のピットであり、このピットのない部分には箔体の地金部(残芯部)が存在している。
エッチング処理は化学エッチングまたは電気化学的エッチングの何れでもよい。直流エッチングではたとえば、ハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中に浸漬した電極箔を陽極として直流電流を印加することにより、電極箔にトンネル状のエッチングピットを形成できる。エッチング用の酸性水溶液にはたとえば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、食塩の何れかの水溶液、またはこれらの混合液を用いればよい。
【0032】
エッチングピットのピット長は、電流の印加時間で調整する。エッチング処理はたとえば、2工程とし、その第1工程ではたとえば、塩素イオンを含む水溶液中に電極箔を浸漬し、直流電流を通流して電気化学的エッチングを施し、エッチングピットを形成する。第2の工程ではたとえば、硝酸イオンまたは塩素イオンを含む水溶液中に第1工程を経た電極箔を浸漬し、第1工程で形成されたエッチングピットを電気化学的エッチングまたは化学的エッチングにより拡大させる。エッチングピットのピット長は、第1工程の電流印加時間の影響を受ける。
【0033】
このエッチングピットについて、ピット長はたとえば、27〔μm〕以下である。100〔kHz〕以上の高周波領域では、27〔μm〕超のピット長の深部領域では静電容量を増加することがなく、電極箔の残芯部を薄厚化し、電極箔の強度を大きくするには電極箔を厚肉化しなければならないデメリットを生じる。これらの理由は後述する。
100〔kHz〕以上の高周波領域において、ピット長が12〔μm〕以上20〔μm〕以下では、静電容量の増加率に鈍化傾向があるものの、ピット長にほぼ比例して静電容量に増加傾向が見られる。したがって、このピット長領域では最も効率よく静電容量の増加に寄与するので、効率性の観点からすれば、12〔μm〕以上20〔μm〕以下のピット長が好ましい。
また、ピット長が20〔μm〕超27〔μm〕以下では、100〔kHz〕以上の周波数領域において、静電容量の増加が見込まれる。したがって、静電容量の観点からすれば、20〔μm〕超27〔μm〕以下のピット長が好ましい。
【0034】
エッチングピットのピット長は、化成皮膜レプリカ法により測定し規定した。ここで、化成皮膜レプリカ法とは、電極箔にエッチング処理の後、誘電体皮膜を生成させ、ヨウ素-メタノール溶液などによりアルミニウム素地を溶解させ、エッチングピットの形状をSEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)で観察する方法である。無数のエッチングピットからランダムに100本のピットを選択してピット長を測定し、その平均値をピット長とした。
電極箔には化成処理により誘電体皮膜が形成される。この誘電体皮膜は電極箔の表面に酸化処理で形成され、エッチングピットの内壁面にも形成される。この誘電体皮膜の形成法には、典型的には、ハロゲンイオン不在の緩衝溶液中に電極箔を浸漬し、陽極にして電圧印加する方法が取られる。緩衝溶液にはホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、有機酸アンモニアなどが用いられる。
【0035】
<電解コンデンサ4-1、4-2>
電解コンデンサ4-1、4-2は、電極箔を巻回したコンデンサ素子に電解液を含浸した非固体電解コンデンサのほか、ハイブリッド形電解コンデンサ、両極性電解コンデンサ、積層型コンデンサなど、既述の電極箔を用いた電解コンデンサであればよい。
電解コンデンサ4-1、4-2に含侵される電解質は液体または固体のいずれを用いた電解コンデンサのほか、陽極箔に誘電体皮膜を形成した非固体電解コンデンサ、この電解質として、液体と固体を備えたハイブリッド形電解コンデンサ、および陽極箔と陰極箔の双方に誘電体皮膜を形成した両極性電解コンデンサの何れでもよい。
【0036】
電解コンデンサ4-1に用いられるコンデンサ素子は既述の電極箔により陽極箔および陰極箔を構成し、陽極箔および陰極箔の間にセパレータを挟み込んで円筒状に巻回している。電極箔には誘電体皮膜が形成され、ピット長を27〔μm〕以下としている。
このコンデンサ素子は、電解液を含浸した後、陽極箔から陽極端子、陰極箔から陰極端子が引き出される。このコンデンサ素子は外装ケースに収められる。この外装ケースの封口には封口体が用いられる。この封口体には合成樹脂板などの硬質絶縁板にゴム板などの弾性絶縁体が貼り付けられた積層板が用いられる。この封口体には陽極側および陰極側の外部端子が一体に固定され、陽極側の外部端子にはコンデンサ素子の陽極端子、陰極側の外部端子にはその陰極端子が外装ケースの封口前に接続される。コンデンサ素子を収納した外装ケースは封口体で封止され、製品化前、コンデンサ素子にエージング処理される。
【0037】
陽極箔および陰極箔間を絶縁するセパレータについて、陽極箔および陰極箔の間に重ねられるセパレータはたとえば、シート状である。このセパレータの形成材料として、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨンなどのセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドなどのポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂の何れかまたはこれらの2以上を選択して混合してもよい。
【0038】
コンデンサ素子に含浸する電解液について、高圧用途の電解液の溶媒はエチレングリコールが好ましが、他の溶媒を併用してもよい。
電解液の溶媒として、プロトン性の有機極性溶媒には、一価アルコール類、多価アルコール類およびオキシアルコール化合物類が挙げられる。一価アルコール類としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
多価アルコール類としては、エチレングリコールの他、γ-ブチロラクトン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、グリセリン、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオールなどが挙げられる。オキシアルコール化合物類としては、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノールなどが挙げられる。
【0039】
非プロトン性の有機極性溶媒には、アミド系、ラクトン類、スルホラン類、環状アミド系、ニトリル系およびオキシド系が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N ジメチルホルムアミド、N エチルホルムアミド、N,N ジエチルホルムアミド、N メチルアセトアミド、N,N ジメチルアセトアミド、N エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミドなどが挙げられる。環状アミド系としては、γ ブチロラクトン、N メチル2 ピロリドン、エチレンカルボネイト、プロピレンカルボネート、イソブチレンカルボネート、イソブチレンカルボネートなどが挙げられる。ニトリル系としては、アセトニトリルなどが挙げられる。オキシド系としては、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0040】
電解液の溶質として、酸の共役塩基をアニオン成分とする、アンモニウム塩、アミン塩、4級アンモニウム塩および環状アミジン化合物の四級塩が挙げられる。アミン塩を構成するアミンとしては1級アミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミンなど)、2級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミン、ジフェニルアミンなど)、3級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルアミン、1,8 ジアザビシクロ(5,4,0) ウンデセン7など)が挙げられる。第4級アンモニウム塩を構成する第4級アンモニウムとしてはテトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウムなど)、ピリジウム(1 メチルピリジウム、1 エチルピリジウム、1,3 ジエチルピリジウムなど)が挙げられる。また、環状アミジン化合物の四級塩を構成するカチオンとしては、以下の化合物を四級化したカチオンが挙げられる。すなわち、イミダゾール単環化合物(1 メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,4 ジメチル2 エチルイミダゾール、1 フェニルイミダゾールなどのイミダゾール同族体、1-メチル-2-オキシメチルイミダゾール、1-メチル-2-オキシエチルイミダゾールなどのオキシアルキル誘導体、1-メチル-4(5)-ニトロイミダゾール、1,2-ジメチル-4(5)-ニトロイミダゾールなどのニトロおよびアミノ誘導体)、ベンゾイミダゾール(1-メチルベンゾイミダゾール、1-メチル-2-ベンジルベンゾイミダゾールなど)、2-イミダゾリン環を有する化合物(1 メチルイミダゾリン、1,2-ジメチルイミダゾリン、1,2,4-トリメチルイミダゾリン、1,4-ジメチル-2-エチルイミダゾリン、1-メチル-2-フェニルイミダゾリンなど)、テトラヒドロピリミジン環を有する化合物(1-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン、1,2-ジメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン、1,8-ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ〔48.3.0〕ノネンなど)などである。アニオン成分としては、カルボン酸、フェノール類、ほう酸、リン酸、炭酸、ケイ酸などの酸の共役塩基が挙げられる。
【0041】
<電極箔のエッチングピットの構造および機能>
電極箔に形成されたトンネル状のエッチングピットはたとえば、ピット径=約1〔μm〕、ピット長さ=27〔μm〕であり、大きなアスペクト比を有する。このようなエッチングピットが形成される電極箔において、箔強度を維持するため、エッチングピットの貫通を避け、適度な厚みで残芯部分を残すようにエッチング処理が施される。
電極箔に形成されたエッチングピットには、高い静電容量を発現させるため、その内部に電解液を十分に浸透させる。つまり、電気化学的な処理によるエッチングピットの制御技術とともにピット内への電解液の浸透により、高い静電容量密度を実現できる。
陽極側の電極箔のエッチングピットには陽極酸化処理により、その内壁に酸化アルミニウム(Al23)からなる誘電体皮膜が形成されている。この誘電体皮膜は誘電体として機能することから、誘電体皮膜が厚いほど、電解コンデンサの漏れ電流が小さくなる。そこで、誘電体皮膜は、電解コンデンサの定格電圧や許容される漏れ電流に適する厚さに形成される。
【0042】
<エッチングピットの等価回路モデル>
陽極箔に形成された無数のエッチングピットから任意に1本のエッチングピットを選択すれば、図4のAに示すように、円筒形ピットとして表すことができる。
エッチングピット52は既述の通り、大きなアスペクト比を有し、内壁に誘電体皮膜を有することから、図4のBに示すように、簡易構造モデルに表すことができる。図4のBのriはエッチングピット52の内半径、roはエッチングピット52の外半径を示している。
【0043】
図4のBに示すRtは、1本のエッチングピット52における電解液の浸透部の抵抗である。この抵抗Rtは、式(6) のように、
Rt=ρL/πri 2 ・・・(6)
で表すことができる。同様にエッチングピット52で得られる静電容量をCtとすれば、この静電容量Ctは、式(7) のように、
Ct=2πε/ln(ro /ri ) ・・・(7)
で表すことができる。ここで、ρ〔Ωcm〕は電解液の比抵抗、ri〔m〕はエッチングピットの内半径、ro〔m〕はエッチングピットの外半径、L〔m〕はエッチングピット長、εは誘電体皮膜の誘電率である。なお、ro-riは、誘電体皮膜の厚さに相当する。
【0044】
図5のAは、エッチングピットの等価回路モデルを示す。1本のエッチングピットは、分布定数回路により、キャパシタおよび抵抗からなるCRラダー回路で表すことができる。この等価回路モデルは、電力変換器向けの標準的な仕様の電解コンデンサを想定し、陽極箔におけるエッチングピットのピット長、孔径、ピット密度、誘電体皮膜の厚さなど、陽極箔のモフォロジー情報の回路モデルを表している。
この等価回路モデルについて、電解液、陽極箔と陰極箔の間に配置されたセパレータなどの電極箔以外の構成部材の複合抵抗に相当するパラメータR0 を考慮すれば、図5のBに示す等価回路モデルで表すことができる。
【0045】
<電流パルスに対する過渡応答>
高周波領域において、電解コンデンサの容量低下率が大きくなる現象を確認するため、電流パルスに対する過渡応答シミュレーションを実施した。このシミュレーションでは既述の等価回路モデルにパルス幅を異ならせた複数の電流パルスを印加し、その過渡応答がピット長によって相違することをSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis )シミュレータにより解析した。SPICEシミュレータは、電子回路のアナログ動作をシミュレーションするソフトウェアのソルバーである。
【0046】
図6は、シミュレーションに用いた等価回路モデル54、この等価回路モデル54に電流パルスを印加する電流パルス源56の負荷条件を示している。等価回路モデル54について、C1 ~C10はピット長方向に存在するキャパシタ成分、R0 ~R9 は抵抗成分である。R0 はセパレータおよび電解液の複合抵抗、R1 ~R9 はピット内部の電解液抵抗に起因する抵抗成分である。キャパシタ成分C1 ~C10について、C1 はピット入口側のキャパシタ成分、C10はピット内部の最も深い箇所のキャパシタ成分を表す。
ここで、エッチングピットに関するモルフォロジー情報、電解液やセパレータなどの抵抗値に関する実測データを用いて抵抗Rtは式(6) により算出し、静電容量Ctは式(7) により算出した。
【0047】
ピット断面積に対応する抵抗成分R0 について、広い周波数領域における実際の電解コンデンサ(たとえば、定格電圧400〔V〕-2400〔μF〕のネジ端子形のアルミ電解コンデンサ)から測定したESR(等価直列抵抗)を用いて、R0 を算出した。
これらの計算値および測定結果から、抵抗R0 の値は4.0〔G〕、抵抗R1 1~R9 の値は0.1〔G〕、キャパシタ成分C1 ~C10の各静電容量は2.48〔fF〕であった。
【0048】
<過渡応答シミュレーションの結果>
過渡応答シミュレーションには、パルス振幅=7〔pA〕、パルス幅=1〔μs〕、10〔μs〕、100〔μs〕のように、パルス幅のみを異ならせた複数の電流パルスを使用し、この電流パルスを印加した等価回路モデルの過渡応答としてキャパシタ成分C1 ~C10に現れる端子間電圧(=充電電圧)を解析した。
図7のA~Cは、電流パルスおよび過渡応答の解析結果を示す。図7のAは、パルス幅=1〔μs〕の電流パルスの印加した際のC1 ~C10に現れた端子間電圧の推移を示している。
パルス幅=1〔μs〕の電流パルスを印加した場合、C1 ~C10の端子間電圧の上昇速度(充電速度)を比較すると、ピット入口側のC1 では速く、ピット最深部側に向かって徐々に遅くなり、ピット最深部側のC10では充電速度が極めて遅くなっている。しかも、ピット中間から最深部におけるC5 ~C10では電流パルスによる充電電圧の上昇がなく、電流パルスに追従する充電応答がない。したがって、ピット深部側に想定されるC5 ~C10は電解コンデンサの静電容量に寄与していない。
【0049】
図7のBは、パルス幅=10〔μs〕の電流パルスの印加した際のC1 ~C10に現れた端子間電圧の推移を示している。
パルス幅=10〔μs〕の電流パルスの場合には、ピット中間から最深部におけるC5 ~C10では電流パルスによる充電電圧の上昇があるものの、ピット入口側からピット最深部に向かって充電速度に大きな差が生じている。ピット最深部に向かって充電応答が鈍化している。
パルス幅=10〔μs〕の電流パルスに対する充電応答について、パルス幅=1〔μs〕の場合と比較すると、ピット中間からピット最深部側における応答性に改善があるものの、ピット中間からピット最深部に向かって充電電圧が分布している。
【0050】
図7のCは、パルス幅=100〔μs〕の電流パルスの印加した際のC1 ~C10に現れた端子間電圧の推移を示している。
パルス幅=100〔μs〕の電流パルスの場合には、ピットの深さ方向に僅かな電圧分布があり、充電の上昇速度にも若干の違いがあるものの、ピット最深部側の応答性はパルス幅=1〔μs〕または10〔μs〕の場合に比較して良好である。
このような応答特性から高速なスイッチング動作を想定すると、ピット長を過度に長くしても、ピット深部側の応答性が低下し、ピット深部の実効面積の有効性が低く、静電容量の発現に寄与していないことが明らかとなった。
【0051】
<ピット長が異なる陽極箔の性能評価>
シミュレーション結果の妥当性の検証と、高速スイッチングに適する陽極箔構造としてピット長の把握を目的とし、ピット長の異なる電極箔として、ピット長:55〔μm〕、48〔μm〕、42〔μm〕、33〔μm〕、27〔μm〕のエッチングピットを有する陽極箔を作製した。
この陽極箔の形成には、原箔として厚さ:125〔μm〕、4N高純度のアルミニウム箔を使用した。酸性水溶液にアルミニウム箔を浸漬させ、このアルミニウム箔に直流電圧の印加により電気化学的にエッチング処理を行い、トンネル状のエッチングピットを形成した。
このエッチング処理を行ったアルミニウム箔はホウ酸水溶液に浸漬し、650〔V〕の化成処理を行い、箔全面に誘電体皮膜を形成させて試料とした。
この試料はSEMを用いて断面観察を行い、平均トンネル長および箔厚を測定した。箔単体の静電容量の測定では試料から4〔cm2 〕の面積に打ち抜いて試料片を形成し、これをホウ酸アンモニウム水溶液に浸漬させた状態で、周波数120〔Hz〕の正弦波電圧1〔v〕を印加し、静電容量をLCRメータにより測定した。
【0052】
ピット長:55〔μm〕、48〔μm〕、42〔μm〕、33〔μm〕、27〔μm〕の陽極箔を形成した。図8のAに示すように、各陽極箔を用いてコンデンサ素子を組み立て、このコンデンサ素子に電解液を含浸させ、図8のBに示すように、簡易構造の電解コンデンサセル58を形成した。電解コンデンサセル58において、60-1、60-2、60-3は電極箔、62-1、62-2、62-3はリード部、64-1、64-2はセパレータ、66-1、66-2はガラスプレートである。
各電解コンデンサセルに周波数範囲10〔Hz〕~100〔kHz〕、正弦波電圧1〔V〕を印加し、LCRメータを使用して各電解コンデンサセル58の静電容量を測定し、静電容量の周波数依存性を確認した(その確認結果を図10に示す。)。
【0053】
さらに、ピット長の相違が高速スイッチング動作時の充電応答性にどのように影響するかを確認した。
各電解コンデンサセル58の充電応答性について、各電解コンデンサセル58にパルス幅の異なる複数の電流パルスを印加した際、各電流パルスによって生じる電流値および端子間電圧を測定した。
この測定には、パルス幅=2000〔μs〕、200〔μs〕、20〔μs〕の電流パルスを使用し、電解コンデンサセル58に対する積算電気量(総電荷量)Qpが常にQp=4μC(一定)になるよう、電解コンデンサセル58に充電電流を流すための充電抵抗の値を変更した。なお、電解コンデンサセル58に印加するパルス電流のDuty比を50〔%〕とすれば、パルス幅=2000〔μs〕は周波数=250〔Hz〕、パルス幅=200〔μs〕は周波数=2.5〔kHz〕、パルス幅=20〔μs〕は周波数=25〔kHz〕に相当する。
【0054】
図9は、電解コンデンサセルに電流パルスを印加した場合、電解コンデンサセルの端子間電圧の挙動を示している。この場合、電流パルスは、パルス幅=2〔μs〕、電流=2〔A〕である。
電解コンデンサセルの端子間電圧は電流パルスの印加中、ほぼ直線的に増加している。これは、電解コンデンサセルが電流パルスで充電されることを表している。電流パルスの印加を停止すると、停止直後、端子間電圧は急激に低下している。これは電解コンデンサセルのESRに起因するIR降下による。よって、電流パルスの印加停止直後に現れる端子間電圧Vc は電解コンデンサセルに蓄積された電荷量に対応する電圧と考えられる。
ここで、電流パルスの印加中の積算電気量Qp 、電流パルスの印加停止直後の端子間電圧Vc を用いて、電流パルスに応答可能な静電容量Cp は、式(8) から求めることができる。
Cp =Qp /Vc ・・・・・(8)
【0055】
<エッチングピットとコンデンサ性能の関係>
図10のAは、ピット長と水溶液中で測定される箔単体の静電容量の関係、図10のBは、陽極箔の平均ピット長=55〔μm〕と箔厚、一般的構造の電解コンデンサセル58にした場合の静電容量、図10のCは、陽極箔の平均ピット長=27〔μm〕と箔厚、一般的構造の電解コンデンサセル58にした場合の静電容量を示している。これらの静電容量の値から明らかなように、ピット長を長くすれば、静電容量が増加し、この静電容量に周波数依存性があることを示している。
ピット長=55〔μm〕、ピット長=27〔μm〕の各陽極箔を比較すると、10〔Hz〕~10〔kHz〕程度の低周波領域では、ピット長=55〔μm〕による静電容量が明らかに大きいことがわかる。つまり、これはピット長に比例して陽極箔の実効表面積が大きくなるので、この実効表面積に起因する静電容量の増加である。
【0056】
100〔kHz〕近傍の高周波領域では、ピット長=55〔μm〕、27〔μm〕によらずほぼ同等の静電容量となっている。つまり、ピット長が長くなれば、静電容量の周波数依存性が大きく、数10〔kHz〕~100〔kHz〕程度の高周波領域では、静電容量の低下率が大きくなることがわかる。
この結果は、過渡応答シミュレーションの結果と同様の傾向を示しており、エッチングピットのピット長が必要以上に長くなると、高周波領域ではピット深部で正常な充電が生じないことを示している。
したがって、高周波用途向けの電解コンデンサでは、最適なピット長を持つ電極箔が有効である。
【0057】
図11は、ピット長=55〔μm〕、ピット長=27〔μm〕の陽極箔を用いた電解コンデンサセルに対し、パルス幅の異なる複数の電流パルスを印加した場合のスイッチング周波数と静電容量Cpの関係を示している。なお、静電容量Cpは、既述の式(7) から同様に求められる。
ピット長が短い場合と長い場合の静電容量の差異は、周波数が上昇するにつれて小さくなることから、既述のように、使用周波数領域に応じて最適なピット長を持つ電極箔を用いることが有効かつ必要である。
【0058】
<実施例1~実施例4および比較例1~比較例4>
以下、実施例1~実施例4および比較例1~比較例4について説明する。図12は、ピット長、周波数、1回目ないし3回目の測定結果である静電容量、その平均値を示している。
<実施例1>
エッチングピットのピット長=27〔μm〕の電極箔を陽極箔に用いた実施例1のコンデンサ素子を作製した。
陽極側の電極箔には、広さ=20〔mm〕×20〔mm〕、箔厚=125〔μm〕のアルミニウム箔を使用し、これを陽極箔とした。この電極箔に2段階のエッチング処理を施し、第1段階のエッチング処理では、塩酸を含む水溶液に電極箔を浸漬し、直流電圧にて電気化学的にアルミニウム箔にエッチングを施し、エッチングピットを形成した。
第2段階のエッチング処理では、硝酸を含む水溶液に第1段階のエッチング処理を経た電極箔を浸漬し、電気化学的または化学的にエッチング処理を行い、第1段階で形成されたエッチングピットを拡大した。このようなエッチング処理を行った電極箔をホウ酸アンモニウム水溶液中で化成化処理を行い、箔表面に化成被膜層を形成した。化成被膜レプリカ法によりエッチングピット長を測定することにより、ピット長=27〔μm〕を確認した。
【0059】
陰極側の電極箔には、広さ=30〔mm〕×25〔mm〕、箔厚=約20〔μm〕のアルミニウム箔を使用し、これを陰極箔とした。
陽極箔および陰極箔には、シリコンで首部を被覆したアルミニウム製のリード線を取り付け、2枚の陰極箔に30〔mm〕×25〔mm〕のクラフトからなるセパレータを挟み、1枚の陽極箔を重ね合わせた。予め、セパレータには、主溶媒=エチレングリコール、主溶質=ホウ酸を用いた電解液を含浸させたものを用いる。積層した陽極箔、陰極箔およびセパレータの1組をガラスプレートで挟み、実施例1のコンデンサ素子とした。
【0060】
<比較例1~4>
エッチング処理において、電圧の印加時間を調整することにより、異なるエッチングピット長の電極箔を以て比較例1~4のコンデンサ素子を作製した。比較例1はエッチングピット長=55〔μm〕の陽極箔を用いたコンデンサ素子、比較例2はエッチングピット長=48〔μm〕の陽極箔を用いたコンデンサ素子、比較例3はエッチングピット長=42〔μm〕の陽極箔を用いたコンデンサ素子、比較例4はエッチングピット長=33〔μm〕の陽極箔を用いたコンデンサ素子である。
これら比較例1~4のコンデンサ素子は、エッチングピット長を除き、実施例1のコンデンサ素子と同一方法および同一条件で作製されている。
【0061】
<静電容量の測定1>
この測定1では、実施例1および比較例1~4のコンデンサ素子の静電容量を測定した。この測定にはLCRメータ(Agilent Technologies社製、4284A)を用いた。測定条件は、周囲温度=21〔℃〕、交流電圧=1.0〔Vrms〕であり、測定周波数=1〔Hz〕から100〔kHz〕の範囲とした。静電容量の測定方法は、各周波数で3回ずつ行い、その測定結果を横軸に周波数、縦軸に静電容量のグラフ上にプロットした。その測定結果を図13図18に示す。
図13は比較例1、図14は比較例2、図15は比較例3、図16は比較例4、図17は実施例1の測定結果を示している。図18は、実施例1および比較例1~4の各平均値をプロットして示している。なお、図13のA、図14のA、図15のA、図16のA、図17のAは静電容量の測定結果、図13のB、図14のB、図15のB、図16のB、図17のBはESRの測定結果を示している。
【0062】
図13図18に示すように、10〔kHz〕未満の低周波領域ではエッチングピット長に応じて静電容量が高くなっている。比較例1~4に対して実施例1では、静電容量が1.0~0.5〔μF〕ほど小さいが、10〔kHz〕超の高周波領域では、周波数が高くなるほど、エッチングピット長に応じて生じていた静電容量差が小さくなっている。
100〔kHz〕の高周波数では、静電容量が実施例1=平均0.97〔μF〕、比較例1=平均1.09〔μF〕、比較例2=平均1.05〔μF〕、比較例3=平均1.07〔μF〕、比較例4=平均1.00〔μF〕となっている。つまり、100〔kHz〕の高周波領域では、実施例1のエッチングピット長=27〔μm〕と浅いにも関わらず、実施例1の静電容量と比較例1~4の静電容量とが1.0〔μF〕前後の値を呈している。
【0063】
120〔kHz〕の高周波数では、実施例1=平均0.90〔μF〕、比較例1=平均1.01〔μF〕、比較例2=平均0.98〔μF〕、比較例3=平均0.99〔μF〕、比較例4=平均0.93〔μF〕である。実施例1はエッチングピット長=27〔μm〕と浅いにも関わらず、120〔kHz〕の周波数では、実施例1の静電容量と比較例1~4の静電容量とが0.95〔μF〕前後の値を呈し、静電容量に変わるところが無くなった。
このように、100〔kHz〕以上の高周波領域では、実施例1のエッチングピットは27〔μm〕と浅いにも関わらず、実施例1の静電容量と比較例1~4の静電容量とが殆ど同値となっている。この結果は、100〔kHz〕以上の高周波領域では、エッチングピット長=27〔μm〕以下であれば、エッチングピットの全域において効率的な充放電が行われる。これに対し、27〔μm〕超のピット深部では充分な充放電が行われず、静電容量の発現に寄与していないことを示している。
【0064】
したがって、エッチングピット長=27〔μm〕以下の電極箔によれば、電極箔に良好な強度を維持するに必要な残芯部の厚みを確保しつつ、箔厚を薄くできることになる。たとえば、巻回型コンデンサ素子を用いた電解コンデンサでは、コンデンサ素子の小型化、電極箔の巻回数の増加、積層型のコンデンサ素子では、その小型化とともに電極箔の積層数を増加でき、小型化と相まって静電容量を増大させることができる。
【0065】
<実施例2~実施例4>
実施例2はエッチングピット長=20〔μm〕の電極箔を陽極箔としたコンデンサ素子、実施例3はエッチングピット長=12〔μm〕の電極箔を陽極箔としたコンデンサ素子、実施例4はエッチングピット長=6〔μm〕の電極箔を陽極箔としたコンデンサ素子を実施例1と同じ製造法および同一条件で作製した。
【0066】
<静電容量の測定2>
これら実施例2~4のコンデンサ素子の静電容量について、実施例1および比較例1~4と同一条件で測定した。図18のBは、その測定結果を実施例1および比較例1~4の平均値とともに示している。図18のBに示すグラフは、実施例1~4および比較例1~4の測定結果を1Hzから100〔kHz〕までの周波数範囲でプロットしている。
図19は、実施例1~4および比較例1~4のコンデンサ素子に周波数=120〔Hz〕および100〔kHz〕の交流電流を流したとき、各交流電流における静電容量とエッチングピット長の関係を示している。
エッチングピット長=6〔μm〕である場合、1〔Hz〕から100〔kHz〕の周波数では静電容量に変化がない。エッチングピット長=12〔μm〕では、高周波領域で静電容量に若干の低下が生じ始め、周波数=120〔Hz〕、100〔kHz〕で静電容量に相違が生じる基点がある。
【0067】
エッチングピット長=20〔μm〕(エッチングピット長=12〔μm〕の約1.6倍)では、周波数=100〔kHz〕での静電容量=0.83〔μF〕である。この値は、エッチングピット長=12〔μm〕、周波数=100〔kHz〕の静電容量=0.42〔μF〕の約2倍に相当する。
エッチングピット長=27〔μm〕(エッチングピット長=12〔μm〕の2.25倍)では、周波数=100〔kHz〕で、静電容量=0.97〔μF〕である。この値は、エッチングピット長=12〔μm〕、周波数=100〔kHz〕での静電容量=0.42〔μF〕の約2.3倍に相当する。
これにより、エッチングピット長=12〔μm〕以上20〔μm〕以下では、エッチングピット長による静電容量の増加率は鈍化し始めるものの、エッチングピット長に応じた静電容量が効率良く得られている。
【0068】
エッチングピット長=20〔μm〕超27〔μm〕以下では、エッチングピット長による静電容量の増加率は鈍化するものの、エッチングピット長=27〔μ〕超と比較して静電容量の増加があることがわかる。したがって、エッチングピット長による静電容量の増加効率性の観点からすれば、エッチングピット長=12〔μm〕以上20〔μm〕までが望ましいが、電極箔の強度および静電容量の観点からすれば、エッチングピット長=20〔μm〕超27〔μm〕以下が望ましい。
各実施例1~4では、周波数=100〔kHz〕の電流を流した場合について述べているが、本発明はこのような周波数や電流に限定されることはない。電極箔に、周波数=100〔kHz〕以上の高周波成分波形と、周波数=100〔kHz〕未満の低周波成分波形を含む電圧や電流を印加しても実施例と同様の効果を得ることができる。
このような電解コンデンサでは、コンバータやインバータなど、既述のパワー半導体のスイッチング周波数を用いる高周波回路に適用でき、電力変換器の高効率化、小型化に寄与する。
この実施例から明らかなように、電極箔のピット長を必要以上に長くしても、高周波領域における応答性が悪化する。エッチングピットのピット深部では、高周波領域において、充電速度がピット入口側に比較して極端に低下し、正常な充放電が得られないため、有効な静電容量成分として機能しない。
また、高周波領域では長いピット長のエッチングピット構造の電極箔を備える従来の電解コンデンサは静電容量密度が低く、不利であるから、高周波用途向けの電解コンデンサには高周波用途に最適なピット長とした電極箔を適用することが望ましい。
【0069】
<実施例の効果>
この実施例によれば、次の効果が得られる。
(1) このような電解コンデンサを用いれば、コンバータやインバータなど、既述のパワー半導体のスイッチング周波数を用いる高周波回路に適用でき、電力変換器の高効率化、小型化を図ることができる。
(2) 高周波領域で最適なピット長の電極箔を適用すれば、高周波領域でコンデンサ性能に優れる電解コンデンサを実現できるとともに、その小型化とリプル電流耐量の向上を図ることができる。
(3) 電解コンデンサ4-1では、容量に寄与しない深さのエッチングピットが存在しないので、残芯部を十分に残しつつ薄厚化でき、電極箔の強度を保ちつつ、電解コンデンサの単位体積当たりの静電容量を高めることができる。
【0070】
(4) 電解コンデンサ4-1、4-2の電極箔に形成されるエッチングピットに関し、たとえば、ピット長=55〔μm〕の電極箔を用いた2つの電解コンデンサの並列回路に周波数=120〔Hz〕の低周波成分、周波数=100〔kHz〕の高周波成分を含む電流が流れたものとする。この場合、120〔Hz〕領域では斯かる電解コンデンサからピット長に応じた静電容量が引き出されるのに対し、100〔kHz〕領域ではピット長の長さに比べて引き出される静電容量は小さくなる。
そこで、ピット長=55〔μm〕の電極箔を用いた2つの電解コンデンサのうち、一方の電解コンデンサをピット長=27〔μm〕の電極箔を用いた電解コンデンサに変更する。つまり、一方の電解コンデンサをピット長=55〔μm〕の電極箔を用いた電解コンデンサ、他方の電解コンデンサをピット長=27〔μm〕の電極箔を用いた電解コンデンサとする。これらエッチングピット長を異ならせた少なくとも二種類の電解コンデンサを用いて並列回路を構成し、この並列回路に周波数=120〔Hz〕の低周波成分、周波数=100〔kHz〕の高周波成分を含む電流が流れたものとする。
ピット長=55〔μm〕の電極箔を用いた電解コンデンサでは、120〔Hz〕領域に対応する静電容量が多く引き出されるのに対し、100〔kHz〕領域に対応する静電容量はピット長の深部側で利用されないため、引き出せる静電容量が小さくなる。
【0071】
他方、ピット長=27〔μm〕の電極箔を用いた電解コンデンサでは、電極箔の厚さが薄いために電極箔の巻回数を増加させてピット長=55〔μm〕の電極箔を用いた電解コンデンサと同径のコンデンサ素子を用いることができる。つまり、電極箔の搭載量増加による静電容量の増加を見込むことができる。そうとすれば、ピット長=27〔μm〕の電極箔を用いた電解コンデンサでは、100〔kHz〕領域について、ピット長=55〔μm〕の電極箔を用いた電解コンデンサより多くの静電容量を引き出すことができる。
つまり、ピット長=55〔μm〕の電極箔を用いた電解コンデンサでは静電容量を引き出すことができなかった周波数領域についてまでも、ピット長=27〔μm〕の電極箔を用いた電解コンデンサではその周波数領域における静電容量の補完ができることになる。したがって、電極箔にエッチングピットが形成された少なくとも二つの電解コンデンサを備え、該エッチングピット長を異ならせた少なくとも二種類の電解コンデンサを含ませれば、つまり、静電容量を効率よく引き出せる周波数域が異なる電解コンデンサの併用により、異なる周波数成分を含む電流や電圧を扱う電力変換器に対して小型で効率よく必要な静電容量を提供でき、電力変換器の小型化とともに高効率化を図ることができる。
【0072】
以上説明したように、本発明の最も好ましい実施の形態などについて説明した。本発明は、上記記載に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載され、または発明を実施するための形態に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能である。斯かる変形や変更が、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、エッチングピット長の異なる二種類の電解コンデンサの併用により、周波数領域に応じた各電解コンデンサの特徴を生かし、低周波から高周波に至る幅の広い周波数領域で効率のよいコンデンサ機能を実現でき、フィルタ回路や電力変換器の小型化などに寄与することができる。
【符号の説明】
【0074】
2 電解コンデンサモジュール
4-1 第1の電解コンデンサ
4-2 第2の電解コンデンサ
6 筐体
8、10 外部端子
12 抵抗
14 フィルタ回路
16 電源
18、30、40 電力変換器
20 コンバータ
22 バッテリー
24 インダクタ
26、36 スイッチング素子
28-1、28-2、50-1、50-2 出力端子
32 インバータ
34-1、34-2 入力端子
38 モーター
42 平滑部
44 整流部
46 波形調整部
48 ソーラーパネル
52 エッチングピット
54 等価回路モデル
56 電流パルス源
58 電解コンデンサセル
60-1、60-2 電極箔
62-1、62-2、62-3 リード部
64-1、64-2 セパレータ
66-1、66-2 ガラスプレート

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19