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特許7087361樹脂成形体及び樹脂成形体形成用組成物からなるコーティング剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】樹脂成形体及び樹脂成形体形成用組成物からなるコーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/02 20060101AFI20220614BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220614BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20220614BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20220614BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20220614BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C08J5/02 CFF
C08J5/18
C08K7/02
C08L1/02
C08L75/04
C09D175/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017230323
(22)【出願日】2017-11-30
(65)【公開番号】P2019099645
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 奈緒
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141394(JP,A)
【文献】特許第5733761(JP,B2)
【文献】国際公開第2013/146847(WO,A1)
【文献】特開2015-183096(JP,A)
【文献】特開2014-040535(JP,A)
【文献】特開2013-227487(JP,A)
【文献】国際公開第2011/013567(WO,A1)
【文献】特開2000-230138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02,5/12-5/22
C08L
C08K
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水性ポリウレタン分散体と、親水性繊維とを含む組成物からなる樹脂成形体であって、
前記水性ポリウレタン分散体由来の合成樹脂の少なくとも一部が複数の樹脂粒子が凝集した凝集体であり、前記合成樹脂と前記親水性繊維とが互いに相分離した海島構造を形成しており、
前記樹脂成形体の透湿度が、6.58×10g/m・day以上1×10g/m・day以下であり、
前記親水性繊維の含有量が、前記合成樹脂100重量部に対して30重量部以上200重量部以下の範囲内であり、
前記親水性繊維の平均繊維幅が、3nm以上200nm以下の範囲内であり、
透湿性および透水性を有し、かつ無孔性であることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項2】
前記樹脂成形体の表面の水に対する接触角が、接液から10秒後において60°を超えることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
前記樹脂成形体の含水率が8%以下の状態での前記樹脂成形体の膜厚20nm換算における波長660nmの光線透過率が、70%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂成形体。
【請求項4】
前記樹脂成形体の厚みが、1μm以上500μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項5】
前記親水性繊維のアスペクト比が100以上1000以下であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項6】
前記親水性繊維が、セルロース繊維であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項7】
少なくとも、水性ポリウレタン分散体と、親水性繊維とを含む樹脂成形体形成用組成物からなるコーティング剤であって、
前記親水性繊維の含有量が、前記水性ポリウレタン樹脂分散体由来の合成樹脂100重量部に対して30重量部以上200重量部以下の範囲内であり、
前記親水性繊維の平均繊維幅が、3nm以上200nm以下の範囲内であることを特徴とする、コーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体及び樹脂成形体形成用組成物からなるコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
透湿性や透水性を要求されるフィルムやシートは様々な分野で用いられている。例えば、生鮮食品用の吸水シートがある。鮮魚や生肉等の生鮮食品は、鮮度が落ちる過程でドリップと呼ばれる水分が滲出する。この滲み出しは鮮度の落ちている証として商品価値を下げると共に、ドリップを放置するとさらなる鮮度低下の原因となるため、生鮮食品の多くにはドリップを吸収するシートが敷かれている。吸水シートには、必要以上に水分を吸収しすぎず適度な保湿状態を維持することや、直接生鮮食品に触れるために見栄えや衛生面が要求される。
【0003】
或いは、農業用の温室ハウスで用いる内張りカーテンがある。内張りカーテンの場合、ハウス内の保温性を向上させ、熱エネルギーの削減を主な目的としている。それに加え、ハウス内の湿度を速やかに吸湿して過湿状態を防ぎ、湿度によるカビなどを抑制する役割や、湿度による凝集水が滴下して作物の外観や育成に不具合を生じさせないよう凝集水を吸収したり流下させたりする役割が求められる。さらに、作物が太陽光エネルギーを十分取り込めるよう、高い光線透過率が要求される。
【0004】
或いは、水を浄化する浄化システムにも透湿性や透水性のフィルムが求められる。無機塩や放射性物質などの汚染水を水源として植物を栽培するなどの場合、植物に対して有害な物質をフィルムにより除去し、低コストかつ効率的に水を浄化し、植物に供給することが求められる。この場合、水を透過させず水蒸気を選択的に透過させる方法や、汚染水をフィルムに接触させて浄化した水のみを選択的に透過させる方法などが取られ得る。これらの際、汚染物質を再度流出させることなくフィルム内に保持することや、状況に応じた浄水の回収速度の制御などがさらに要求される。
【0005】
上記の用途に加え、濃縮果汁の製造や人工透析といった生活・環境分野から燃料電池用セパレーター等のエネルギー分野に至るまで、その要求性能や求められる付加価値は多岐に渡る。
【0006】
また、近年、資源の枯渇や大気の二酸化炭素濃度の増加による温暖化や環境汚染、廃棄物問題などを背景に、環境に配慮された材料(バイオマス材料)の利用が注目されている。このバイオマス材料は、製造時の化石資源の使用量が少なく、かつ廃棄時において低エネルギーで処理できて二酸化炭素の排出が少ないというような特徴を持つ。バイオマス材料の中でもその生産量の約半分を占めるセルロースは、その生産量の多さから有効利用が期待されている。さらにセルロースは、高強度、高弾性率、極めて低い熱膨張係数を有しており、耐熱性に関しては、ガラス転移点を持たず、230度という高い熱分解温度を示す。一方で、セルロースは、その多量な生産量に対して材料としての利用が多いとは言えない。その理由の一つに水系や非水系溶媒への溶解性・分散性の低さがある。セルロースは、ブドウ糖の6員環であるD-グルコピラノースがβ-(1→4)グルコシド結合したホモ多糖であり、C2位、C3位、C6位に水酸基を持つ。そのため、分子内、分子間に強固な水素結合を形成しており、水や一般的な溶媒に対して溶解しない。
【0007】
しかしながら、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)をはじめとするN-オキシル化合物を触媒とした酸化反応を用いてセルロースを処理し、処理度を調整すると、水中での軽度な分散処理により均質な分散体が得られる。この際、セルロースはミクロフィブリルレベルまで解繊され、繊維幅が数nm~数百nmに分散したセルロース繊維分散体として存在する。さらに、このTEMPO酸化反応は、有機溶媒を使用せず水のみを反応溶媒として用い、常温・常圧の温和な条件下、短時間で反応が完了するなど反応プロセスの環境適応性が極めて高い。
【0008】
TEMPO酸化反応により得られた酸化セルロースが軽度な機械的な処理によりナノレベルまで分散するメカニズムは、以下のように知られている。まず、酸化反応によりセルロースのミクロフィブリル表面のC6位の水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基を経由してカルボキシル基が導入される。そして、このカルボキシル基がアニオンとして荷電反発し、分散媒中で浸透圧効果を示す。このため、ナノオーダーのミクロフィブリルが孤立しやすくなり、均質なセルロース繊維分散体が得られる。さらに、セルロースに導入したカルボキシル基の静電的な作用を利用して、対イオンとしてカチオン性を有する様々な塩を形成することにより、特性の異なるセルロース修飾体を得ることができる。本処理では原料セルロースの結晶性を壊すことなく保持できるため、高い物理特性を有する。
【0009】
このように、ナノ分散体や液体状態、修飾体として用いることができるセルロースは、環境への負荷が低く、さらに高い物理特性を有するため、TEMPO酸化反応による処理及び酸化物はセルロースの新たな利用形態として期待されている。
【0010】
工業的利用として盛んに開発が進められている一例として、樹脂との複合化がある。樹脂中にセルロース分散体を混合することにより、セルロースの軽量、高強度、高弾性率、低線熱膨張係数、高耐熱性を利用した樹脂の高機能化を目的とするものである。この際の機能性向上の重要な要素として、樹脂中でのセルロース繊維の分散性が挙げられている。セルロース繊維が偏在または凝集していると、セルロース繊維混合の効果が顕著に低下することが知られている。
【0011】
そこで、疎水性を有する樹脂との親和性を高めて分散性を向上させるために、樹脂として水性エマルジョンを使用しコンポジットを形成する方法が開発されてきた。水性エマルジョンであれば、分散媒としてセルロース繊維との相溶性の高い水が主に用いられている上、高分子量であっても分散媒中に微小な樹脂粒子として分散されている。このため、セルロース繊維と混合した際の増粘を抑えることができ、取り扱いが簡便となる。その一方、セルロース繊維と水性エマルジョンとの混合物は固形分濃度が低く、また分散媒として沸点の高い水を使用している。このため、分散媒除去に多大なエネルギーと時間を要する。その結果、セルロースを用いた材料の生産性は、一般的に低かった。
【0012】
セルロースを用いた材料の生産性を向上させる技術としては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献には、水性エマルジョンとセルロース繊維との混合物をセルロース凝結剤を用いてゲル化させ、多孔性基材上でろ過した上で乾燥する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第5747818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、セルロースを用いた材料の生産性を向上させるための技術については、これまでに開示されたものはあるが、合成樹脂とセルロース繊維を用いて無孔性かつ、透湿性や透水性を有するシートやフィルムに関する技術については開示されたものはなかった。
【0015】
本発明は、無孔性でありながら透湿性や透水性を有する樹脂成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る樹脂成形体は、少なくとも、水性ポリウレタン分散体と、親水性繊維とを含む組成物からなり、水性ポリウレタン分散体由来の合成樹脂の少なくとも一部が複数の樹脂粒子が凝集した凝集体であり、合成樹脂と親水性繊維とが互いに相分離した海島構造を形成しており、樹脂成形体の透湿度が、6.58×10g/m・day以上1×10g/m・day以下であり、親水性繊維の含有量が、合成樹脂100重量部に対して30重量部以上200重量部以下の範囲内であり、親水性繊維の平均繊維幅が、3nm以上200nm以下の範囲内であり、透湿性および透水性を有し、かつ無孔性であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様に係る樹脂成形体形成用組成物からなるコーティング剤は、少なくとも、水性ポリウレタン分散体と、親水性繊維とを含み、親水性繊維の含有量が、水性ポリウレタン分散体由来の合成樹脂100重量部に対して30重量部以上200重量部以下の範囲内であり、親水性繊維の平均繊維幅が、3nm以上200nm以下の範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の各態様によれば、無孔性でありながら透湿性や透水性を有する樹脂成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る樹脂成形体の一部分を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る樹脂成形体の一部分をAFM(原子間力顕微鏡)により観察した図である。
図3】透水性試験における樹脂成形体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。ここで、図面は模式的なものである。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、材質、形状、及び構造等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る樹脂成形体の一部分を模式的に示す図であり、図1(a)は樹脂成形体の一部分の正面模式図であり、図1(b)は樹脂成形体の一部分の断面模式図である。図1に示すように、本実施形態に係る樹脂成形体1は合成樹脂2と親水性繊維3とから構成される。合成樹脂2は、少なくとも一部が複数の樹脂粒子4が凝集した凝集体として形成されており、凝集体同士が部分的に結着して一体化しつつ凝集体の表面を親水性繊維3が覆うようにして存在する。このように、合成樹脂領域と親水性繊維領域は微視的には相分離していながら連続的な無孔性体となっている。
【0022】
なお、ここで言う無孔性とは、物理的にサブミクロンサイズやミクロンサイズ、或いはそれ以上の空隙が樹脂成形体内に連続的または不連続に存在する多孔性に対して、これらの空隙がない状態を示したものである。透水性材料において、多孔性体の場合は、連続的に存在する空隙を通過して水を透過する。撥水性材料を使用したり、空隙サイズを小さくしたりすることにより、水の表面張力により水は空隙を通過できず、水蒸気のみが透過できる、撥水性と透湿性を兼ね備えた材料として設計することもできる。一方、本実施形態に係る無孔性体の樹脂成形体1を用いた透湿性フィルム或いは透水性フィルムの場合、水や水蒸気は材料表面に凝集した後、材料内部に溶解し、濃度勾配が駆動力となり濃度の低い方へ拡散することで水や水蒸気の透過が可能となる。
【0023】
ここで、本実施形態に係る樹脂成形体1においては、疎水性の高い合成樹脂2と親水性繊維3とがそれぞれ微視的に海島構造とよばれる相分離構造を形成している。「島」となる合成樹脂2の凝集体を「海」となる親水性繊維が覆っており、「海」領域の親水性繊維において水や水蒸気を透過することにより本発明の効果を発現することを可能とする。
【0024】
<合成樹脂>
本実施形態に係る樹脂成形体1は、水性樹脂分散体からなる合成樹脂2を含んでいる。ここで、水性樹脂分散体とは、水性ディスパージョンや水性エマルジョン、或いは水性ディスパーションや水性エマルションと呼ばれることがあり、水を含む水性分散媒中に分散された高分子量の樹脂の形態であれば、本実施形態に係る水性樹脂分散体に含まれるものとする。また、親水性繊維と対になる表現として、合成樹脂という表現を用いるものとする。
【0025】
この水性樹脂分散体は、主な分散媒として水を用い、ポリマーをサブミクロンから数ミクロンの粒径に分散させたものである。これらの分散媒を揮発させることによりポリマー同士が変形融合し、連続的な構造を形成する。
【0026】
水性樹脂分散体は、樹脂としての水溶性モノマーや水溶性オリゴマーと比較して設計上の自由度が高いため、目的の性能や機能に合わせた材料選定ができるという利点がある。更に、乳化剤の添加や樹脂への親水性基の導入により分散媒中での分散安定性が付与されるが、合成樹脂自体は疎水性であり、高い耐水性や耐湿性を有している。そのため、外部の湿度環境に左右されにくく、また樹脂成形体として含水率を変化させた際も顕著な変形はなく、樹脂成形体としての構造を維持することが可能である。
【0027】
また、水性樹脂分散体の形態において、合成樹脂の重合度は高いが個々に独立した微粒子を形成しているため、塗液としての粘度は低い。そのため、本実施形態の構成材料である親水性繊維3が高い粘度を有していても良好な混合性を得ることができる。
【0028】
本実施形態における水性樹脂分散体は、前述のように、水を含む水性分散媒中に樹脂粒子4が分散したものである。そして、その樹脂粒子4は、ある程度粒子径に分布を持っている。樹脂成形体1の成形前の塗液段階や成形時は、混合する親水性繊維3やその他の成分との相互作用や溶融温度等が変形融合する際の樹脂粒子4の凝集形態に影響を及ぼす。このため、樹脂粒子4の粒子径が樹脂成形体1の構造中の合成樹脂2からなる疎水領域のサイズを一義的に決定付ける要素には当たらない。但し、樹脂粒子4の粒子径が小さすぎる場合は、その比表面積が大きいために樹脂粒子4表面の電気的作用等により混合する親水性繊維3やその他の成分との相互作用が大きくなりやすく、樹脂粒子4同士の融着が起こりにくくなる。その結果、合成樹脂2からなる疎水領域のサイズが小さくなる。この場合、合成樹脂2からなる疎水領域と親水性繊維3からなる親水領域とにおいて多数の界面が存在するため、含水率に関わらず光の界面による散乱が生じ、樹脂成形体1のヘイズが上昇してしまう。一方、樹脂粒子4の粒子径が大きすぎる場合は、樹脂成形体1の成形時に、合成樹脂2と、親水性繊維3を含むその他の成分とが均一に分散することが困難となる。そのため、樹脂粒子4の粒子径は、本実施形態の目的にあった適度な大きさである0.01μm以上10μm以下の範囲内が好ましい。尚、図2は、本実施形態に係る樹脂成形体の一部分をAFM(原子間力顕微鏡)により観察した図であり、樹脂粒子4の凝集体の寸法が642nmであることが表されている。
【0029】
また、水性樹脂分散体は、樹脂粒子4表面のイオン性によってアニオン性、カチオン性、ノニオン性に大別される。本実施形態においてはいずれの使用も制限されないが、混合する親水性繊維3がアニオン性の場合、カチオン性の合成樹脂を混合するとその荷電を阻害する可能性があるため、アニオン性またはノニオン性が好ましい。
【0030】
合成樹脂2としては、例えば、酢酸ビニル系、ウレタン系、アクリル系、スチレン系、フェノール系、アミノ系、アミド系、ポリエステル系、エチレン系、ポリビニルアルコール系が用いられる。また、これらは単独でもよく、共重合したものや二種類以上併せて用いたものであってもよい。また、反応性の合成樹脂を用いても構わない。その場合、例えば、硬化剤や硬化触媒、光重合開始剤、連鎖移動剤等を併用することができる。ここで、樹脂成形体1を構成する合成樹脂2と親水性繊維3との間での相分離により生じる脆性を良化するため、合成樹脂2としては柔軟性を有することが好ましく、ウレタン系がより好ましい。ウレタン系においては、ウレタン構造を構成するポリオールの種類によってポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等が開発されており、いずれも用いることができる。
【0031】
<親水性繊維>
本実施形態に用いる親水性繊維3の主な役割としては、合成樹脂2と適度な相互作用を有することにより、合成樹脂2の樹脂粒子4の凝集サイズを調整したり、合成樹脂2の凝集界面同士を十分に結着させたりすることである。また別の役割としては、水や水蒸気を透過させる親水性領域を確保することである。
【0032】
親水性繊維3の繊維幅が大きすぎると含水率に関わらず光の界面による散乱が生じ、樹脂成形体1のヘイズが上昇してしまい、常時白色を呈するために透明性を必要とする用途に用いることができなくなる。そのため、親水性繊維3の繊維幅は十分に小さい必要がある。以上を鑑みると、親水性繊維3としては、少なくとも、親水性、イオン性、強度、繊維幅において本実施形態を満たすものであれば用いることができる。
【0033】
上記要件を満たす親水性繊維3として、例えば、セルロースをTEMPO酸化反応により酸化した後に機械的処理を行い、繊維幅をナノレベルまで解繊したセルロース繊維を好適に用いることができる。セルロースをTEMPO酸化反応することにより、セルロースのミクロフィブリル表面のC6位の水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基を経由してカルボキシル基が導入される。このカルボキシル基の荷電反発により、ナノレベルまでの解繊が可能になる。また、セルロースはI型結晶を維持し、結晶化度の低下がほとんどないため、セルロース本来の高い弾性率を維持することができる。また、TEMPO酸化反応条件により導入されるカルボキシル基量によってイオン性は制御できる。TEMPO酸化反応条件により導入されるカルボキシル基量は制御できるため、樹脂成形体に適用される合成樹脂に応じてカルボキシル基に由来する電荷量を調整することが可能である。また、セルロースは、グルコースユニット当たり3つの水酸基を有し、ナノレベルまで解繊されることによりミクロフィブリル表面に多数の水酸基が露出された構造を取るため、高い親水性を有し、そのため水への膨潤率が極めて高くなる。
【0034】
本実施形態で用いるセルロース繊維は、その平均繊維幅が3nm以上200nm以下である。繊維幅が200nmより広い繊維を含むと、繊維幅が可視光の波長に近づくために樹脂成形体1の透明性の低下を招くとともに、表面積の低下や繊維の絡み合いが低下するために機械特性の低下を引き起こす。また、繊維幅が3nm未満の繊維においては、機械的強度や均一性に優れた特性を有するものを製造することは困難なため、繊維幅は3nm以上であることが好ましい。また、繊維長は長いほど繊維同士の絡み合いが生じやすいために、低含有量で効果を発現し易い。但し、長すぎると分散や生成に要するエネルギーが増大し分散が困難となるため、繊維幅と繊維長のアスペクト比は100以上1000以下が好ましい。
【0035】
本実施形態で用いるセルロース繊維の繊維幅について、測定方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法によって測定できる。固形分濃度が0.001wt%以上0.01wt%以下の範囲内となるように水中にセルロース繊維を分散させたものをマイカ上に展開して自然乾燥させる。その後、そのセルロース繊維を透過型電子顕微鏡にて観察することによりセルロース繊維の繊維幅を確認(測定)することができる。
【0036】
また、透過型電子顕微鏡以外を用いた、樹脂成形体1中のセルロース繊維の繊維幅の測定方法としては、例えば、原子間力顕微鏡を用いる方法がある。具体的には、原子間力顕微鏡の位相モードを用いると、セルロース繊維と合成樹脂2の特性の違いによりカンチレバー振動の位相にずれが生じるので、その位相のずれからセルロース繊維を検出しその幅を測定することができる。
【0037】
本実施形態で用いるセルロースを出発原料とした材料としては、例えば、天然セルロースまたは化学変成したセルロースを用いることができる。具体的には、漂白及び未漂白クラフト木材パルプ、前加水分解済みクラフト木材パルプ、亜硫酸木材パルプ等の木材を原料としたパルプ、或いは綿やバクテリアセルロース等非木材パルプ、並びにこれらの混合物を用いることができる。また、これらを物理的、化学的処理した物質の何れを用いてもよい。好適には、結晶形I型を有する天然セルロースが機械特性、熱特性、薬品耐性等の材料特性が高いため望ましい。
【0038】
本実施形態で用いるセルロースは、例えば、セルロースの水酸基の一部がカルボキシル基に置換されているものを用いる。原料となるセルロースにカルボキシル基を導入する方法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。例えば、一般的に知られている水酸基からアルデヒドを経てカルボン酸に酸化させる方法から適宜選択することができる。その中でも、N-オキシル化合物を触媒として次亜ハロゲン酸塩や亜ハロゲン酸塩等を共酸化剤として用いる方法が好ましい。特に、触媒として2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペジニルオキシラジカル(TEMPO)を使用し、pHを調整しながら次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を用いて処理するTEMPO酸化法は、反応溶媒として有機溶媒を用いることなく完全に水中での反応であること、試薬の入手しやすさ、コスト、反応の安定性の点から好適である。
【0039】
このTEMPO酸化法においては、結晶性のセルロースミクロフィブリルの表面のみを酸化し、結晶内部には酸化が起こらないため、結晶構造を維持できる。そのため、生成物はセルロース本来の高強度、高弾性率、低線熱膨張係数、高耐熱性の特性を有する。
【0040】
(TEMPO酸化法による酸化処理)
本実施形態では、上述のTEMPO酸化法による酸化処理を次の手順で行う。
【0041】
水中で分散させたセルロースにN-オキシル化合物と酸化剤や共酸化剤を添加してセルロースの酸化を行う。酸化反応中に水酸化ナトリウムを添加し、反応系内のpHを9から11に制御する。反応温度は0℃以上40℃以下が好適である。この時、セルロース繊維表面のC6位の水酸基がカルボキシル基に酸化される。反応を停止させた後、十分水洗して酸化処理したセルロースを回収し、本実施形態における構成材料として用いることができる。
【0042】
なお、酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩が使用でき、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。また、共酸化剤としては、例えば、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム等が挙げられるが、取り扱いの簡便さから臭化ナトリウムが好ましい。
【0043】
セルロースに導入されるカルボキシル基の含有量は、反応条件を適宜設定することにより調整可能である。カルボキシル基が導入されたセルロースは、分散工程においてカルボキシル基の荷電反発により分散媒中に分散することから、セルロース中のカルボキシル基の含有量が少なすぎると安定的に分散媒中に分散させることができない。一方、セルロース中のカルボキシル基の含有量が多すぎると、分散媒への親和性が増大し耐水性が低下する。これらの観点から、セルロースに導入されるカルボキシル基の含有量は、好ましくは酸化処理したセルロース繊維の乾燥重量1g当たり0.5mmol以上3.0mmol以下の範囲内である。さらに、酸化処理したセルロース繊維の乾燥重量1g当たり0.8mmol以上2.5mmol以下の範囲内がより好ましい。
【0044】
なお、セルロースに含有されるカルボキシル基量は、例えば、以下の方法にて算出される。酸化処理したセルロースの乾燥重量換算0.2gをビーカーにとり、イオン交換水80mlを添加する。そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加え、攪拌させながら0.1M塩酸を加えて全体がpH2.0となるように調整する。ここに自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、AUT-701)を用いて0.1M水酸化ナトリウム水溶液を0.05ml/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続ける。得られた電導度曲線から水酸化ナトリウムの滴定量を求めることで、カルボキシル基含有量を算出することができる。
【0045】
酸化反応を停止させた後、生成物をろ過により反応液中から回収する。反応終了後はセルロースに導入されたカルボキシル基は、反応溶媒中に存在するカチオンに由来する金属イオンを対イオンとした塩を形成する。
【0046】
酸化処理後のセルロースの回収方法としては、例えば、
(A)カルボキシル基が塩を形成したままろ別する方法、
(B)反応液に酸を添加して系内を酸性下に調整し、カルボン酸としてろ別する方法、
(C)有機溶媒を添加して凝集させた後にろ別する方法、
が挙げられる。その中でも、ハンドリング性や回収効率、廃液処理の観点から、(B)カルボン酸として回収する方法が好適である。また、対イオンとして金属イオンを含有しないほうが副生成物の生成を抑制でき、置換効率に優れる点からも、(B)カルボン酸として回収する方法が好ましい。
【0047】
なお、酸化反応後のセルロース中の金属イオン含有量は、様々な分析方法で調べることができ、例えば、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素分析によって簡易的に調べることができる。(A)塩を形成したままろ別する方法を用いて回収した場合、金属イオンの含有率が5wt%以上であるのに対し、(B)カルボン酸としてろ別する方法により回収した場合、1wt%以下となる。
【0048】
さらに回収したセルロースは洗浄を繰り返すことにより精製でき、触媒や副生成物を除去することができる。このとき、塩酸等を用いてpH3以下の酸性条件に調製した洗浄液で洗浄を繰り返した後に、純水で洗浄を繰り返すことにより、残存する金属イオン及び塩類の量を低減することができる。
【0049】
カルボキシル基を導入したセルロースの懸濁液に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む水酸化物を添加することにより、カルボキシル基の一部または全部がアルカリ金属塩型またはアルカリ土類金属塩型に置換される。カルボキシル基の荷電によりセルロースは分散媒中で浸透圧効果を示し、ナノオーダーへの分散が可能となる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の添加量としては、セルロースに導入されたカルボキシル基に対して0.8当量以上2.0当量以下の範囲内であることが好ましい。特に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の添加量が、セルロースに導入されたカルボキシル基に対して1.0当量以上1.8当量以下の範囲内であると、過剰量のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物を添加することなく対イオン交換できるため、より好ましい。また、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物を過剰量添加した後に、再度セルロースを水洗することにより過剰量のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物を除去することも可能である。過剰なアルカリを除去することにより、セルロース等の材料の経時的な劣化を抑えることが可能になる。
【0050】
ここで、アルカリ金属種またはアルカリ土類金属種としては、セルロースがナノオーダーで分散される限りにおいて特に限定されないが、分散性の観点から、ナトリウムが好ましい。
【0051】
<樹脂成形体>
本実施形態の合成樹脂2の少なくとも一部は、水性樹脂分散体から形成されている。合成樹脂2の少なくとも一部は、水性樹脂分散体の複数の樹脂粒子4が凝集した凝集体として形成されており、凝集体同士が部分的に結着して一体化しつつ凝集体の表面を親水性繊維3が覆うようにして存在する。このように、疎水性の高い合成樹脂2と親水性繊維3がそれぞれ微視的に海島構造とよばれる相分離構造を形成しており、「島」となる合成樹脂2の凝集体を「海」となる親水性繊維3が覆っている。ここで、樹脂成形体1の物性としては、「島」となる合成樹脂2を構成する水性樹脂分散体の樹脂粒子4そのものやその凝集体の有する機械特性が樹脂成形体1全体に大きく寄与し、構造体としての物理的安定性を付与する。また、合成樹脂2の高い疎水性により、高湿下や水との接液下においても膨潤することなく形状安定性を保持する。一方、「海」領域の親水性繊維3において、水や水蒸気を透過することにより透湿性や透水性を発現する。ここで、合成樹脂2と親水性繊維3とが相分離せずに相溶すると、液体状態の水が浸透できる十分な通路が確保できず、合成樹脂2の親水性の低さのために透水性を付与することは困難になる。
【0052】
合成樹脂2と、親水性繊維3とは互いに相分離構造を形成しつつ、化学的に相互作用していることにより、樹脂成形体1としての構造安定性を有する。相互作用としては、合成樹脂2と親水性繊維3との互いの電気的な相互作用のほか、親水性繊維3が両親媒性を持つ場合に、疎水性相互作用により吸着すると考えられる。
【0053】
樹脂成形体1の含水率が8%以下の状態での20mm厚に換算した際の波長660nmにおける光線透過率は、70%以上であることが好ましい。さらに、上記光線透過率は、80%以上が特に好ましい。含水率8%とは、常温常湿以下の環境下で平衡に達した状態を指す。常温常湿で透明性を保持することにより、適用可能な用途が広がる。
【0054】
樹脂成形体1における親水性繊維3の含有量は、合成樹脂2の100重量部に対して5重量部以上200重量部以下の範囲である。親水性繊維3が5重量部より少ない場合、樹脂成形体1の相分離構造が十分に発達せず、透湿性は有するものの、透水性を発揮することが困難となる。また、親水性繊維3が200重量部より多くなると、合成樹脂2による疎水領域が親水性繊維3の「海」中に分散した状態となり、樹脂成形体1自体の透湿性や透水性の制御が困難となる他、疎水領域の界面が相対的に減少するため、結果として白濁を招くことがある。
【0055】
樹脂成形体1の透湿度は、1×10g/m・day以上1×10g/m・day以下である。透湿に実質的に寄与する領域としては親水性繊維3によるものが大半であり、樹脂成形体1の浸透度は、親水性繊維3の水への親和性と親水性繊維領域の樹脂成形体1に占める割合に依存する。
【0056】
さらに、樹脂成形体1の表面の水に対する接触角が、接液から10秒後において60°を超えることが好ましい。接触角が60°を超えることにより、樹脂成形体1の透湿や透水において水分と樹脂成形体1との接触時間が確保されるため、水を選択的に透過することが可能となる。
【0057】
<樹脂成形体の製造方法>
以下、本実施形態に係る樹脂成形体1の製造方法について説明する。本実施形態における樹脂成形体1は、少なくとも一部が水性樹脂分散体である合成樹脂2と、親水性繊維3とを混合した組成物により形成される。このとき、親水性繊維3を予め水や水性溶剤により分散させておくことにより、合成樹脂2との混合性を向上させることができる。ウェット塗工における塗液の固形分濃度を低下させない等の目的のため、水性樹脂分散体中において未分散状態の親水性繊維3の分散処理を施してもよい。分散処理の方法としては、水性樹脂分散体の樹脂粒子4の分散媒中での分散性やその後の樹脂成形体1の形成において問題のない場合において、既に知られている各種分散処理が可能である。例えば、ホモミキサー処理、回転刃つきミキサー処理、高圧ホモジナイザー処理、超高圧ホモジナイザー処理、超音波ホモジナイザー処理、ナノジナイザー処理、ディスク型レファイナー処理、コニカル型レファイナー処理、ダブルディスク型レファイナー処理、グラインダー処理、ボールミル処理、二軸混練機による混練処理、水中対向処理等がある。この中でも、微細化効率の面から回転刃つきミキサー処理、高圧ホモジナイザー処理、超高圧ホモジナイザー処理、超音波ホモジナイザー処理が好適である。なお、これらの処理のうち、二つ以上の処理方法を組み合わせて分散を行うことも可能である。なお、ここで言う組成物とは、少なくとも一部が水性樹脂分散体からなる合成樹脂2と親水性繊維3とを含有したものであり、加熱や光による構造形成や反応をする前の状態を指す。また、樹脂成形体とは、上記組成物を用いて形成したフィルム状、シート状、構造体等の種種の形態を指すものとする。
【0058】
このように調製した合成樹脂2と親水性繊維3とを混合した組成物を用いて樹脂成形体1を形成する方法としては、特に制限はないが、組成物は流動性を有しているため、樹脂基材やガラス基材上といった支持体上に組成物をウェット塗工し、塗膜を硬化させることにより樹脂成形体1を得ることができる。
【0059】
塗工方法としては公知の方法を用いることができる。具体的には、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、エアドクターコーティング法、プレードコーティング法、ワイヤードクターコーティング法、ナイフコーティング法、リバースコーティング法、トランスファロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スロットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等を用いることができる。
【0060】
合成樹脂2と親水性繊維3とを混合した組成物を塗工する基材の濡れ性や密着性を向上させる目的で、基材に前処理を施してもよい。前処理方法としては特に制限されることはなく、例えば、予めアンカー層を形成してもよいし、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理等を施してもよい。
【0061】
支持体上に塗工した組成物を乾燥させて、つまり、系内の余分な分散媒を除去することにより樹脂成形体1を形成することができる。さらに、樹脂成形体1の作製後に樹脂の反応進行やその他の特性向上を目的として、樹脂成形体1を追加熱してもよい。また、光反応性材料を用いる場合は、反応を進行させる波長の光を樹脂成形体1に照射しても構わない。
【0062】
本実施形態で得られる樹脂成形体1の厚さTは、1μm以上500μm以下の範囲内が好ましく、10μm以上200μm以下の範囲内が特に好ましい。厚さTが1μm未満になると、樹脂成形体1の強度が極端に弱くなり、生産に不向きとなる。また、厚さTが500μmを超えると、乾燥速度に非常に時間がかかり生産性が極端に低下したり、樹脂成形体1の内部に余分な水分が残留したりするなどの問題が生じるため好ましくない。
【0063】
樹脂成形体1を形成する際に組成物を塗工するその他の支持体としては、吸水速度や透明度の制御のため、保湿性を有する保湿層を積層したものを用いても構わない。保湿層を構成する保湿剤には特に限定はなく、例えば、セルロース、セルロース誘導体、キチン、キトサン誘導体、デンプン、ヒアルロン酸、アルギン酸、ゼラチン、カオリン、デキストリン、グリセリン、ポリグリセリン、D-ソルビトール、PVAなどを挙げることができ、特にグリセリンやソルビトールが好ましい。また、保湿層に用いる保湿剤は、1種類のみを用いることができ、2種類以上を組み合わせて用いても構わない。
【0064】
或いは、本実施形態で得られる樹脂成形体1の機械的強度を考慮して、樹脂成形体1の一部または全部を透湿性や透水性を有する他の材料で覆っても良い。他の材料と樹脂成形体1とは接触していても良く、必要に応じて間隙をおいて配置してもよい。このような材料としては、例えば、金属、プラスチック、セラミック、木材などの比較的硬い材料が挙げられる。
【0065】
<各種添加材料>
本実施形態では、合成樹脂2と親水性繊維3とを混合した組成物に熱硬化性樹脂をさらに添加しても構わない。熱硬化性樹脂を用いると、塗工した組成物中に含まれた水等の分散媒を除去する工程と、合成樹脂2の樹脂粒子4同士が融着する成形工程とを同時に進行させることができる
【0066】
また、塗工した組成物の塗膜に紫外線や電子線などの活性エネルギー線を照射することにより塗膜の硬化を選択的に進行させるため、合成樹脂2と親水性繊維3とを混合した組成物に光硬化性樹脂をさらに添加しても構わない。なお、硬化反応の過程で溶剤の除去や反応性を向上させる目的などで加熱工程を入れても構わない。
【0067】
これらの熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂を合成樹脂2と親水性繊維3とを混合した組成物に添加することにより、合成樹脂2の疎水領域間の結着性を高めたり、樹脂成形体1の力学物性や親水性繊維3の吸水速度を制御したりするなど、種々の目的に合った調整をすることができる。
【0068】
また、耐水性や耐磨耗性を向上させるなどの目的により架橋構造を形成するため、合成樹脂2と親水性繊維3とを混合した組成物は各種架橋剤を含んでもよい。加熱によって架橋構造を形成する架橋剤としては、限定されないが、例えば、オキサゾリン、ジビニルスルホン、カルボジイミド、ジヒドラジン、ジヒドラジド、エピクロルヒドリン、グリオキザール、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物などを用いることができる。また、それらの中の2種類以上を混合して用いることも可能である。これらの中で、カルボジイミドは大きなエネルギーを加えなくても効率的に架橋構造を形成することができるため好ましい。
【0069】
さらに、光硬化性樹脂を添加した組成物の塗膜に紫外線や電子線などの活性エネルギー線を照射することにより塗膜の硬化を進行させる際に、光架橋剤や光重合開始剤等を用いてもよい。これらの種類は特に限定されないが、例えば、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤等を挙げることができる。
【0070】
また、合成樹脂2と親水性繊維3とを混合した組成物に、凝集や沈殿を生じない範囲において、粘度調整や乾燥速度の調整、異種材料との親和性向上等を目的として、付加したい機能に応じて、水をはじめ、様々な有機溶媒を混合させることができる。このとき異種溶媒を混合することにより生じるショックを緩和するため、例えば、添加速度やpHの調整、攪拌方法、温度等を適宜選択することができる。
【0071】
また、樹脂成形体1は金属等を含んでもよい。樹脂成形体1に含まれる金属としては、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属またはこれらの合金、または酸化物、複酸化物、炭化物などを用いることができる。
【0072】
上記金属の担持方法としては、例えば、合成樹脂2と親水性繊維3とを混合した組成物に金属または金属酸化物等の微粒子を混合する方法の他、カルボキシル基を有するセルロース繊維が金属または金属酸化物の錯体を形成し、還元剤を添加することで金属粒子として析出させる方法がある。この方法を用いると、微小な金属粒子がセルロース繊維表面に均一に固定化されるため、微量な金属量によって効率的に効果を発揮させることができる。
【0073】
水分の透過と共に選択的分離能を付与するために、親水性繊維3に官能基を導入しても良い。例えば、イオン交換基として陰イオン交換体官能基であるジエチルアミノエチル(DEAE)三級アミン官能基や四級アンモニウム基、ジエチルアミノプロピル(ANX)アミン基や、陽イオン交換体官能基であるスルホ基やカルボキシル基などを導入することで、透過させる水分のイオンを分離することが可能となる。官能基の導入工程としては、合成樹脂2と混合した組成物を形成する前段階に実施してもよく、樹脂成形体1の形成後に実施することも可能である。但し、前者の場合、合成樹脂2との電荷バランスの調整が難しく、水性樹脂分散体の凝集体サイズや親水性繊維3による凝集体への被覆の制御において再現性が得られにくいことがある。
【0074】
さらに、合成樹脂2と親水性繊維3とを混合した組成物は、凝集や沈殿が生成しない範囲において、より組成物内の荷電反発を増大させる目的や分散体の粘度を制御する目的で、水溶性多糖類を含む各種添加物、各種樹脂を含んでもよい。例えば、化学修飾したセルロース、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、寒天、可溶化澱粉、グリセリン、ソルビトール、消泡剤、水溶性高分子、合成高分子等を含むことができる。あるいは塗工性やぬれ性など機能性付与などの為に、各種溶剤を含んでもよい。例えば、アルコール類、セルソルブ類、グリコール類等を含むことができる。さらには意匠性を付与する目的で、各種染料や顔料、有機フィラー、無機フィラー等を含んでも構わない。また、反応性を向上させるなどの目的で、酸やアルカリを添加することによってpHを調整することができる。
【実施例
【0075】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。
【0076】
(実施例1)
以下の手順により、水性ディスパージョン及び水性エマルジョンの少なくとも一方により形成される合成樹脂と、親水性繊維とを混合した組成物の調整及び樹脂成形体の作製を行った。
【0077】
<親水性繊維の作製方法>
親水性繊維として用いるセルロース繊維を作製した。
(1)試薬・材料
・セルロース: 漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ「MACHENZIE」)
・TEMPO: 市販品(東京化成工業社製、純度98%)
・次亜塩素酸ナトリウム: 市販品(和光純薬社製、Cl:5%)
・臭化ナトリウム: 市販品(和光純薬社製)
【0078】
(2)TEMPO酸化処理
乾燥重量10gの漂白クラフトパルプを2リットル(l)のガラスビーカーに入れたイオン交換水500ml中で一晩静置し、パルプを膨潤させた。ここにTEMPO0.1gと臭化ナトリウム1gとを添加して攪拌し、パルプ懸濁液とした。さらに攪拌しながらセルロース重量当たり5mmol/gの次亜塩素酸ナトリウムを添加した。この際、約1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してパルプ懸濁液のpHを約10.5に保持した。その後、3時間反応させ、エタノール10gを添加して反応を停止させ、セルロースにカルボキシル基が導入された酸化セルロースを得た。なお、この際導入されたカルボキシル基は反応溶媒中に残存する反応試薬に由来するナトリウムイオンを対イオンとした塩を形成した。続いて0.5Nの塩酸を滴下してpHを2まで低下させた。次に、ガラスフィルターを用いてセルロースをろ別し、さらに0.05Nの塩酸で3回洗浄してカルボキシル基をカルボン酸とした後に純水で5回洗浄し、固形分濃度20%の湿潤状態の酸化セルロースを得た。得られた酸化セルロースは、水酸化ナトリウムによる中和滴定からセルロースの乾燥重量当たりカルボキシル基量は1.6mmol/gと算出された。
【0079】
(3)アルカリ金属処理
上記により調製した酸化セルロースを固形分濃度5%となるよう水を加えて懸濁液とし、ここにアルカリ種としてアルカリ金属の水酸化物である水酸化ナトリウムを酸化セルロースのカルボキシル基量に対して1.0当量加えた。2時間攪拌した後ガラスフィルターを用いて酸化セルロースをろ別し、対イオン置換酸化セルロースを得た。
【0080】
(4)分散処理
溶媒置換した酸化セルロースを分散媒となる水に加え、ミキサー(大阪ケミカル社製、アブソルートミル、14,000rpm)を用いて1時間処理することにより固形分濃度0.2%のセルロース繊維分散体を得た。得られた分散体の波長660nmにおける光線透過率は94%を示した。また、このときのセルロース繊維の平均繊維幅は4nmであった。
【0081】
<組成物及び樹脂成形体の作製>
(1)組成物の作製
水性樹脂分散体(日華化学社製、ポリウレタンディスパージョンタイプ、X-7096)と上述した手順にて作製したセルロース繊維分散体とを用いて、合成樹脂とセルロース繊維とが固形分重量比でこの順に100:10となるようにスターラーにて一晩混合し、合成樹脂とセルロース繊維の組成物を調製した。
【0082】
(2)樹脂成形体の作製
調製した上記の組成物をPETフィルム(ルミラーT60-75μm:東レ)にアプリケーターにて塗工してオーブンにて120℃で10分間乾燥した後にPETフィルムを剥離することで、20μm厚の樹脂成形体を作製した。
【0083】
(実施例2)
合成樹脂とセルロース繊維とが固形分重量比でこの順に100:30となるように組成物を調製した。その他は実施例1と同様の条件にて樹脂成形体を作製した。
【0084】
(実施例3)
合成樹脂とセルロース繊維とが固形分重量比でこの順に100:100となるように組成物を調製した。その他は実施例1と同様の条件にて樹脂成形体を作製した。
【0085】
(実施例4)
カルボジイミド基を持つ架橋剤(日清紡ケミカル社製、カルボジライトV-02-L2)を用いて、合成樹脂とセルロース繊維と架橋剤とが固形分重量比でこの順に100:30:10となるように組成物を調製した。その他は実施例1と同様の条件にて樹脂成形体を作製した。
【0086】
(実施例5)
架橋剤による熱硬化性樹脂であるPVA(クラレ社製、PVA105)の15wt%水溶液を作製し、合成樹脂とセルロース繊維とPVAとが固形分重量比でこの順に100:30:10となるように組成物を調製した。その他は実施例1と同様の条件にて樹脂成形体を作製した。
【0087】
(実施例6)
合成樹脂とセルロース繊維と光硬化性樹脂(KJケミカルズ社製、HEAA)と光重合開始剤(BASF社製、Irgacure500)とが固形分重量比でこの順に100:30:10:0.3となるように組成物を調製した。調製した組成物をPETフィルム(ルミラーT60-75μm:東レ)にアプリケーターにて塗工してオーブンにて120℃で10分間乾燥した後に、窒素雰囲気下、高圧水銀灯で500mJ/cmにて光照射処理を施した以外は、実施例1と同様の条件にて樹脂成形体を作製した。
【0088】
(比較例1)
合成樹脂とセルロース繊維とが固形分重量比でこの順に100:250となるように組成物を調製した。その他は実施例1と同様の条件にて樹脂成形体を作製した。
【0089】
(比較例2)
セルロース繊維の代わりに同重量の水を用いた他は実施例1と同様の条件にて樹脂成形体を作製した。
【0090】
(比較例3)
合成樹脂の代わりに同重量の水を用いた。さらに乾燥条件を50℃で7日間とした他は実施例1と同様の条件にて樹脂成形体を作製した。
【0091】
(比較例4)
セルロース繊維の作製においてミキサーを用いた分散処理時間を10分とした。その他は実施例1と同様の条件にて樹脂成形体を作製した。このときのセルロース繊維の平均繊維幅は500nmであった。
【0092】
[評価]
実施例1~6及び、比較例1~4について、作製条件を後述の表1に、評価結果を表2に示した。
【0093】
[セルロース繊維幅の測定]
セルロース繊維の固形分濃度が0.001wt%となるように水で希釈し、マイカ上に展開して自然乾燥させた後、サンプルを透過型電子顕微鏡にて観察した。10サンプルを無作為に取り出し、平均値を平均繊維幅(nm)として求めた。
【0094】
[樹脂成形体の透湿度]
樹脂成形体の透湿度については、JIS Z0280:1976(防湿包装材料の透湿度試験法;カップ法)に準拠して測定した。塩化カルシウムを入れたJIS所定の透湿カップに試験片として樹脂成形体を取り付け、試験片の縁を封かんした。この透湿カップを40℃90%RHの環境に保管し、約5日間保管した。測定は3回行い、カップの重量増加量の平均値から透湿度(g/m・day)として求めた。
【0095】
[樹脂成形体の透水性]
樹脂成形体の透水性については、水を張ったシャーレに樹脂成形体を浮かべ、水に接する面と反対側の面からの水の滲み出しを確認した。10分間観察を続け、水滴として水の滲み出しが確認できたものを○、確認できなかったものを×として示した。図3は、透水性試験における樹脂成形体を示す図であり、1分後には樹脂成形体の表面に水滴が確認され、10分後に水滴として水の滲み出しが確認できた様子を示す図である。
【0096】
[樹脂成形体の水接触角]
樹脂成形体の水に対する接触角については、JIS R3257:1999(基板ガラス表面のぬれ性試験方法)に準拠して測定した。試験片として樹脂成形体の一方の面を両面テープでガラスに貼り付けた後、蒸留水3μlを試験片に滴下し、滴下10秒後の接触角を測定した。測定は3回行い、その平均値を接触角として求めた。
【0097】
[樹脂成形体の光線透過率]
樹脂成形体について、UV-VIS分光光度計(島津製作所社製、UV3600)を用いて、膜厚20nm換算における波長660nmの光線透過率(%)を測定した。試験片として樹脂成形体を測定の1日以上前に23℃50%RH下にて調湿し、光線透過率測定前にカールフィッシャー水分計(三菱ケミカルアナリテック社製、CA-200)にて含水率を測定したところ、全ての試験片は0.5%以上3%以内であった。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
表2の結果から、合成樹脂と親水性繊維としてのセルロース繊維とが所定の組成比であり、親水性繊維の平均繊維幅が広過ぎなければ(実施例1~実施例6であれば)、透湿性と透水性を有することが分かった。
【0101】
一方、親水性繊維の含有量が多過ぎる場合(比較例1の場合)、親水性繊維が含まれない場合(比較例2の場合)、合成樹脂が含まれない場合(比較例3の場合)は、合成樹脂と親水性繊維とが微視的には相分離していながら連続的な無孔性体を形成することができないため、親水性繊維による水の浸透を十分に制御できず、透水性を有さなかった。また、親水性繊維の平均繊維幅が大きい場合(比較例4の場合)、親水性繊維に水が浸透して樹脂成形体の表面が水面下に潜り込んだため、水滴としての水の滲み出しを確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の樹脂成形体によれば、無孔性でありながら透湿性や透水性を有し、常温常湿下で高い透明性を有する樹脂成形体の特性を利用して、水分の吸湿や保湿の調整など、生活・環境分野からエネルギー分野に至る幅広い用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0103】
1 樹脂成形体
2 合成樹脂
3 親水性繊維
4 樹脂粒子
図1
図2
図3