(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ガスバリア積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20220614BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220614BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/36
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2018014726
(22)【出願日】2018-01-31
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】石井 敏也
(72)【発明者】
【氏名】大木 智子
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/050951(WO,A1)
【文献】特開2016-186106(JP,A)
【文献】特開2013-204123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/40
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート基材、酸化アルミニウム膜、及びオーバーコート層をこの順に備え
(ただし、前記ポリエチレンテレフタレート基材及び前記酸化アルミニウム膜間に炭素-アルミニウムの共有結合を含む場合を除く)、局所変調熱分析で測定される、前記基材の前記酸化アルミニウム膜側の面の最大変位が300nm以上である、ガスバリア積層体。
【請求項2】
局所変調熱分析で測定される、前記基材の前記酸化アルミニウム膜側の面の軟化温度が250℃以上である、請求項1に記載のガスバリア積層体。
【請求項3】
前記酸化アルミニウム膜の厚さが5~30nmである、請求項1又は2に記載のガスバリア積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品、医薬品、精密電子部品等を長期間保存するための包装材料が知られている。酸素、水蒸気、その他内容物を変質させる気体が包装材料内に侵入すると内容物の変質が生じ、機能や性質が変化してしまうため、包装材料にはこれらを遮断するガスバリア性が求められている。そのため従来から、アルミニウム箔等の金属箔をガスバリア層として備える包装材料が一般的に用いられてきた。
【0003】
ところが、アルミニウム箔等の金属箔を備える包装材料は、上記のとおりガスバリア性には優れるものの、可視光までも遮断されるため内容物を確認することができず、また廃棄の際は不燃物として処理しなければならないという事情がある。また、内容物の検査の際に金属探知機が使用できない等の事情もある。
【0004】
このような事情から、例えば特許文献1及び2に記載されているようなフィルムが開発されている。当該フィルムは、高分子フィルム上に真空蒸着法やスパッタリング法等により酸化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化物のバリア膜が形成された蒸着フィルムである。蒸着フィルムは透明性に加え、酸素、水蒸気等のガス遮断性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第3442686号明細書
【文献】特公昭63-28017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に酸化アルミニウム膜が蒸着されたフィルムでは、PET基材と酸化アルミニウム膜との密着性が十分ではない。そのため、PET基材の表面に、樹脂材料から形成されるアンカーコートを予め施した後に酸化アルミニウム膜を蒸着することで、PET基材と酸化アルミニウム膜の密着性を向上させる試みがなされている。
【0007】
しかしながら、発明者らの知見によれば、アンカーコートを施したとしても、両者の密着性を向上させるのには限界がある。そのため、PET基材及び酸化アルミニウム膜間においてより強固な密着性を実現し、優れた機械的特性を有する積層体を得るためには、アンカーコートに代わる新たな技術の検討が必要とされている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、機械的特性に優れるガスバリア積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らが鋭意検討を行った結果、ガスバリア積層体におけるポリエチレンテレフタレート基材表面の最大変位が、上記課題を解決する上で極めて重要であることを見出した。最大変位は局所変調熱分析(LTA)で測定される。より具体的には、分析装置の探針を基材表面に接触させ、探針に電圧をかけて基材表面を加熱した際の挙動を分析することで、最大変位を測定することができる。発明者らはこの際、最大変位が適切な値になっていない場合には、基材と酸化アルミニウム膜間において密着性低下を起こし易いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート基材、酸化アルミニウム膜、及びオーバーコート層をこの順に備え、局所変調熱分析で測定される、基材の酸化アルミニウム膜側の面の最大変位が300nm以上である、ガスバリア積層体を提供する。
【0011】
本発明のガスバリア積層体は、PET基材及び酸化アルミニウム膜間が強固に密着されており、優れた機械的特性を有する。従来技術である樹脂系のアンカーコートを用いた場合に比して、本発明のガスバリア積層体においては基材表層が剥離劣化箇所とはならない。そのため、例えば引張り、圧縮、せん断等の外力に対して良好な耐久性を有し、レトルト処理やボイル処理等の包装材料ならではの処理にさらされても、内容物を好適に保存することが可能である。
【0012】
本発明において、局所変調熱分析で測定される、基材の酸化アルミニウム膜側の面の軟化温度が250℃以上であることが好ましい。これにより、ガスバリア積層体の機械的特性をより向上することができる。
【0013】
本発明において、酸化アルミニウム膜の厚さが5~30nmであることが好ましい。これにより、優れたガスバリア機能及び膜の柔軟性を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、機械的特性に優れるガスバリア積層体を提供することができる。本発明のガスバリア積層体であれば、例えばレトルト処理、ボイル処理等がなされた場合であっても、PET基材及び酸化アルミニウム膜間の密着性の低下を抑制することができる。
【0015】
本発明のガスバリア積層体は、透明性に加えて、酸素、水蒸気等に対するガスバリア性、耐熱性、耐水性などに優れており、さらにラミネート加工、印刷加工、製袋加工等の後加工適正などを有する。また、本発明のガスバリア積層体は、飲食品、医薬品、電子機器部品等の充填包装適性、保存適正、保護適性などに優れている。なお、本発明のガスバリア積層体の用途は上述の分野だけに限定されるものではなく、要求特性に応じて様々な分野に応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガスバリア積層体を示す模式断面図である。
【
図2】リアクティブイオンエッチング処理に用いられるフィルム処理装置を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ガスバリア積層体>
図1は、本発明の一実施形態に係るガスバリア積層体を示す模式断面図である。ガスバリア積層体100は、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材11と、酸化アルミニウム膜12と、オーバーコート層13と、をこの順に備えている。
【0018】
(基材)
基材はPETフィルムから構成される。オーバーコート層と酸化アルミニウム膜の透明性を生かすために、透明なPETフィルムであることが好ましい。PETフィルムは延伸されていても未延伸であってもよいが、機械的強度や寸法安定性の観点からは延伸されていることが好ましい。
【0019】
基材の厚さは特に制限されないが、酸化アルミニウム膜とオーバーコート層を形成する際の加工性を考慮すると、実用的には3~200μmであることが好ましく、6~50μmであることがより好ましい。厚さが3μm未満であると、巻取り装置で加工する場合にシワの発生やフィルムの破断が生じ易く、一方200μm超であると、フィルムの柔軟性が低下するため巻き取り装置では加工が困難になり易い。
【0020】
局所変調熱分析(LTA)で測定される、基材の酸化アルミニウム膜側の面の最大変位は300nm以上である。これにより、基材と酸化アルミニウム膜間の良好な密着性を発現することができる。この観点から、最大変位は320nm以上であることが好ましく、350nm以上であることがより好ましく、400nm以上であることがさらに好ましい。なお、最大変位の上限値は特に限定されないが、後述のリアクティブイオンエッチングによる過度な処理は最大変位を低下させ、密着性を却って悪化させることになる傾向があることから、600nmとすることができる。
【0021】
局所変調熱分析で測定される、基材の酸化アルミニウム膜側の面の軟化温度は250℃以上であることが好ましい。これにより、基材と酸化アルミニウム膜間の密着性をより向上することができる。この観点から、軟化温度は250℃超であることがより好ましく、255℃以上であることがさらに好ましい。なお、軟化温度の上限値は特に限定されないが、後述のリアクティブイオンエッチングによる過度な処理は軟化温度を低下させ、密着性を却って悪化させることになる傾向があることから、270℃とすることができる。
【0022】
基材表面の最大変位と軟化温度を測定する方法としては、上述のとおり局所変調熱分析が最も適切であり、ばらつきも小さい。したがって、ほぼ正確に最大変位と軟化温度を測定することができる。
【0023】
基材表面の最大変位及び軟化温度は、基材に対するリアクティブイオンエッチングの条件を変動させることで調整することができる。基材の極表層の物性が適切に調整されているという意味では、基材上にリアクティブイオンエッチングによる処理層が形成されているということもできる。なお、例えばリアクティブイオンエッチング処理を行わないPETフィルム表面の最大変位は50nm、軟化温度は248℃である。リアクティブイオンエッチング処理によりPETフィルム表層の凝集力が強くなり、かつ柔軟になることにより、レトルト処理やボイル処理での密着性の低下を防ぐことができると推察される。
【0024】
基材の、酸化アルミニウム膜が設けられる面と反対側の面には、公知の添加剤(例えば帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等)が付着していてもよい。さらにこの面上にはポリエチレン層が設けられていてもよい。ポリエチレン層は、温度を300~340℃としたポリエチレンを押出ラミネーションにより押し出すことで形成できる。
【0025】
(酸化アルミニウム膜)
酸化アルミニウム膜(酸化アルミニウム蒸着膜)は、酸素、水蒸気等のガス遮断性を有するガスバリア機能を有する。酸化アルミニウム膜の厚さは、一般的には5~30nmであることが好ましく、10~20nmであることがより好ましい。膜厚が5nm未満であると均一な酸化アルミニウム膜が得られ難いことや、ガスバリア機能を十分に発揮し難い傾向がある。また、膜厚が30nm超である場合は膜の残留応力によりフレキシビリティを保持させ難くなり、外的な要因により膜に亀裂を生じる虞がある。
【0026】
(オーバーコート層)
オーバーコート層は、酸化アルミニウム膜の保護、押出し樹脂との接着性向上、及び印刷適性向上機能を有する。オーバーコート層を形成する材料としては、溶剤溶解性又は水溶性のポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル系樹脂、ビニルアルコール樹脂、EVOH樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、アルキルチタネート等が挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよく2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
オーバーコート層は、バリア性、耐摩耗性、滑り性等向上のため、シリカゾル、アルミナゾル、粒子状無機フィラー及び層状無機フィラーからなる群より選択される少なくとも1種を含む樹脂組成物の重合あるいは縮合反応により形成された層であることが好ましい。
【0028】
オーバーコート層の厚さは、100~500nmであることが好ましい。厚さが100nm以上であると、オーバーコート層としての上述の機能を発現し易い。また、厚さが500nm以下であると、オーバーコート層にクラックや膜厚ムラなどの欠陥が発生し難い。
【0029】
(その他の層)
包装材料としての適性を考慮して、ガスバリア積層体は、酸化アルミニウム膜とオーバーコート層以外のその他の層を備えていてもよい。その他の層を形成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ジビニル等のフッ素系樹脂などが挙げられる。
【0030】
<ガスバリア積層体の製造方法>
ガスバリア積層体100の製造方法は、ポリエチレンテレフタレート基材11の表面を所定の条件にてリアクティブイオンエッチングにより処理をする前処理工程と、基材11の前処理をした面に酸化アルミニウム膜12を蒸着する蒸着工程と、酸化アルミニウム膜12上にオーバーコート層13を形成するオーバーコート工程と、を備えることができる。なお、リアクティブイオンエッチングによる処理は、例えばアンカーコートのように処理液を要する処理に比べて環境を汚染しないという利点がある。
【0031】
(前処理工程)
図2は、リアクティブイオンエッチング処理(プラズマ処理)に用いられるフィルム処理装置(プラズマ処理装置)を模式的に示す断面図である。
図2に示されるように、フィルム処理装置1は、例えば真空装置内に配置され、2つのマグネトロン・カソードに交流電圧を印加することで相互に放電を行うマグネトロンプラズマ処理装置であり、ボックス2と、ボックス2内に並列に配置される第1放電電極ユニット3及び第2放電電極ユニット4と、第1放電電極ユニット3及び第2放電電極ユニット4に電気的に接続される交流電源5とを備えて構成されている。加工対象のフィルムF(ガスバリア積層体における基材11に相当)はフィルム処理装置1内に挿入され、装置内部で生成されるプラズマPにより表面処理が行われる。なお、マグネトロンプラズマ処理装置は、電極の裏面側に磁石(S極、N極)を配置して磁界Gを形成し、高密度プラズマを発生させてイオンエッチング等(基材表面のアモルファス化や官能基の変化なども含む)を行う装置である。このような処理を行うことで、発生したラジカルやイオンを利用したPET基材表面の状態を調整することができる。第1放電電極ユニット3及び第2放電電極ユニット4の電極は、フィルムFの流れ方向(MD、
図2における左右方向)に対して直交する方向(TD、「フィルム幅方向」と言う。
図2の紙面に対して直交する方向)に並列に配置されている。そして、フィルム幅方向の電極幅がフィルムFの幅以上に設計されていることにより、フィルムの全面に均一に処理を行うことが可能になっている。
【0032】
平板状の電極3a,4aは、例えばステンレスから構成されるが、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)等の金属から構成されていてもよい。また、磁石3b及び磁石4bは、S極とN極とが対になった複数の永久磁石(例えばネオジム磁石等)から構成されており、隣接する磁石の磁化方向が異なっており、これにより、空間中に磁界Gを形成し、高密度プラズマを生成することができる。
【0033】
交流電源5は、所定の高周波電力を第1放電電極ユニット3及び第2放電電極ユニット4に供給するためのプラズマ発生電源である。交流電源5が交流である高周波電力を第1放電電極ユニット3及び第2放電電極ユニット4に供給することにより、一方の放電電極ユニットがカソードの際に他方の放電電極ユニットがアノードとなり、荷電粒子が第1放電電極ユニット3及び第2放電電極ユニット4との間を行き来する状態が形成される(
図2(a)及び(b)参照)。つまり、交流電源5からの高周波信号により、第1放電電極ユニット3及び第2放電電極ユニット4において交互にマグネトロン放電が為される。
【0034】
交流電源5から供給される高周波電力は、例えば3kW以上である。基材表面の最大変位及び軟化温度を所望の範囲とする観点から、このフィルム処理装置1では、プラズマ処理に用いられる電極幅(流れ方向の電極長さ)と処理速度当たりの処理強度Epdが好ましくは100[W・s/m2]以上、より好ましくは400[W・s/m2]以上となるように、交流電源5は、所定の電力を第1放電電極ユニット3及び第2放電電極ユニット4に供給することができる。ここでいう「Epd」は、以下の式(1)又は式(2)により表すことができ、処理パワー[W]は交流電源5からの電力であり、フィルムFの流れ方向の電極幅[m]/電極面積[m2]は放電電極ユニットの電極幅/電極面積であり、処理速度[m/s]は、処理されるフィルムの搬送速度である。
【0035】
【数1】
なお、上記式(1)及び(2)における電極面積とは、カソード電極の面積を意味するが、カソード電極は、交流電圧の印加のために電極3a,4aで交互に入れ替わることになるため、2つの電極の面積を足して2で割ったものに等しく、同一形状であれば一方の面積に等しい。
【0036】
また、交流電源5から供給される高周波電力の周波数は、例えば基材表面の最大変位及び軟化温度を所望の範囲とする観点から、1kHz~400kHzであることが好ましく、10kHz~100kHzであることがより好ましい。なお、大きな電圧降下は、マグネトロン電極表面側で発生し、フィルムFの表面(図示下面)側ではそれよりは小さくなるが、このフィルム処理装置1によれば、交流による極性の切替え処理により、より高い電力を各放電電極ユニットに供給することができ、磁石によって生じる磁界GによってプラズマはフィルムFに近づくようブリッジ状に生成されるため、フィルムFの表面に対する処理の強度を強めることができるようになっている。
【0037】
フィルム処理装置1のボックス2内には、例えば、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)又は窒素(N)からなる1種以上の不活性ガスが導入される。導入する不活性ガスとしては、希ガスで気体であるアルゴンガスを用いることが好ましい。この際、酸素(O2)などの反応性の高いガスを導入するようにしてもよい。ボックス2内の圧力は、例えば0.1Pa以上50Pa未満となるように調整される。
【0038】
フィルムFがボックス2内を所定の搬送速度で通過することにより、リアクティブイオンエッチング処理がフィルムFの処理面に対して施される。フィルムFの搬送速度としては、基材表面の最大変位及び軟化温度を所望の範囲とする観点から、例えば2m/s~20m/sを例示することができる。このような処理により、例えば、フィルムFの表面の結晶構造を崩して非晶化し、蒸着の前処理(密着化処理)を行ったり、または、他のフィルムとの積層(貼り合わせ等含む)のための前処理(密着化処理)を行ったりすることができる。なお、上述したプラズマ処理をフィルムFに対して繰り返し行う(例えば同じ処理を2~3回繰返す)ようにしてもよい。また、当該処理をフィルムFの両面に対して行ってもよい。
【0039】
(蒸着工程)
前処理工程が施されたフィルムFの処理面に対して、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)等の公知の成膜手段を用いて、酸化アルミニウムからなるガスバリア膜を形成する。生産性等を考慮すると、真空蒸着法を用いることが好ましい。真空蒸着法の加熱手段としては電子線加熱方式、抵抗加熱方式又は誘導加熱方式のいずれかの方式を用いることが好ましいが、蒸発材料の選択性の幅広さを考慮すると電子線加熱方式又は抵抗加熱方式を用いることがより好ましい。また蒸着膜と基材の密着性及び蒸着膜の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いて蒸着膜を形成することも可能である。また、蒸着膜の透明性を上げるために、酸素等の各種ガスを吹き込む反応蒸着を実施してもよい。
【0040】
(オーバーコート工程)
酸化アルミニウム膜上に所定の樹脂組成物を塗布し、その重合あるいは縮合反応を進めることで、オーバーコート層を形成する。塗布方法は特に限定されないが、例えば、グラビアコート法、グラビアリバースコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、ダイコート法、バーコート法、キスコート法、コンマコート法等の方法を用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明のガスバリア積層体の実施例を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、
図2に示されるフィルム処理装置を用いてリアクティブイオンエッチング処理を施した。交流電源から供給される高周波電力を20kW、高周波電力の周波数を40kHz、処理強度Epdを437W・s/m
2、不活性ガスをアルゴンガスとして処理を行った。その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムの処理面に、電子線加熱方式を用いて酸化アルミニウム膜を10nmの厚みで蒸着し、さらに当該酸化アルミニウム膜上にPVA及びTEOSを含む塗布液を乾燥してなるオーバーコート層を300nmの厚みで形成して、積層体を作製した。
【0043】
(実施例2)
高周波電力を25kW、処理強度Epdを546W・s/m2としてリアクティブイオンエッチング処理をしたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0044】
(実施例3)
高周波電力を35kW、処理強度Epdを765W・s/m2としてリアクティブイオンエッチング処理をしたこと以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。
【0045】
(比較例1)
リアクティブイオンエッチング処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0046】
(比較例2)
高周波電力を10kW、処理強度Epdを218W・s/m2としてリアクティブイオンエッチング処理をしたこと以外は、実施例1と同様にガスバリア積層体を作製した。
【0047】
(比較例3)
高周波電力を45kW、処理強度Epdを983W・s/m2としてリアクティブイオンエッチング処理をしたこと以外は、実施例1と同様にガスバリア積層体を作製した。
【0048】
(評価)
得られた各実施例及び比較例の積層体に対し、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0049】
[局所変調熱分析(LTA)による最大変位と軟化温度の測定]
まず、得られた積層体からオーバーコート層を除去した。除去にはX線光電子分光分析装置(XPS)付属のArイオンエッチング銃を用いた。加速電圧は500V、エミッション電流は8.5mAとした。イオンエッチング後の表面に対してXPS測定を行い、アルミニウムが検出されるまで繰り返しエッチングを行った。
【0050】
次に、酸化アルミニウム膜を除去した。除去には、蒸留水にトリエタノールアミンを3wt%混合して95℃としたものを用い、これにオーバーコート層除去後の積層体を1分間浸漬させた。
【0051】
以上のようにしてオーバーコート層及び酸化アルミニウム膜が除去されたポリエチレンテレフタレートフィルムを準備し、これらの層及び膜が形成されていた面の最大変位と軟化温度を測定した。
測定装置としてオックスフォード・インストゥルメンツ社製の走査プローブ顕微鏡(SPM)MFP-3D-SAを用い、LTAオプションとしてZtherm変調熱分析装置を用いた。最大変位と軟化温度を求めるために探針をPET表面に近づけ5μm×5μmの視野で形状測定を実施し、得られた形状像から測定箇所を10点決めた。次にLTA測定を実施し、測定痕の確認のため形状測定を実施した。探針に電圧をかけてPET表面を加熱すると、PET表面が熱膨張すると共に探針が撓んで上昇した。その後、ある程度の温度まで達するとPET表面が軟化して探針が降下した。探針の撓みの変曲点から、PET表面の最大変位と軟化温度とを計測した。触圧は0.1V、昇温速度0.5V/sとした。探針の温度は、事前に軟化温度が既知である標準試料を4種用いて、校正を行っておいた。なお、各実施例及び比較例の軟化温度は、それぞれ257℃(実施例1)、260℃(実施例2)、262℃(実施例3)、248℃(比較例1)、250℃(比較例2)、250℃(比較例3)であった。
【0052】
なお、リアクティブイオンエッチング処理後、酸化アルミニウム膜及びオーバーコート層を形成する前のPET表面と、上記のとおり酸化アルミニウム膜及びオーバーコート層を形成して除去した後のPET表面とで、計測される最大変位及び軟化温度に変化は見られなかった。
【0053】
[剥離強度]
得られた各実施例及び比較例の積層体のバリアコート層上に、ウレタン系接着剤を用いてさらに厚さ15μmのナイロン(ONy)及び60μmポリプロピレンフィルム(CPP)を貼り合せ、ラミネートフィルムを作製した。これを用いてA5サイズの三方パウチを作製した。内容物として市水を使用した。
【0054】
121℃、30分間の条件でレトルト処理をして、レトルト処理後2時間以内にガスバリア積層体とナイロン間の180°剥離強度を、オリエンテック社製の引張試験機テンシロンRTC-1250で測定した。そして、以下の評価基準に従って評価した。
〇評価:剥離強度が2N/15mm以上
×評価:剥離強度が2N/15mm未満
【0055】
【0056】
表1に示されるように、PET表面の最大変位が300nm以上であることにより優れた剥離強度が発現された。これは、強固に密着させることが困難なPET基材及び酸化アルミニウム膜同士が強固に密着し、両者間における界面剥離が抑制されたためであると推察される。その結果、優れた機械的特性を有する積層体が得られたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のガスバリア積層体は、飲食品、医薬品、電子機器部品等の充填包装適性、保存及び保護適性などに優れている。
【符号の説明】
【0058】
1…フィルム処理装置、2…ボックス、3…第1放電電極ユニット、3a,4a…電極、3b,4b…磁石、4…第2放電電極ユニット、5…交流電源、11…ポリエチレンテレフタレート基材、12…酸化アルミニウム膜、13…オーバーコート層、100…ガスバリア積層体、F…フィルム、P…プラズマ、G…磁界。