IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の制御装置 図1
  • 特許-車両の制御装置 図2
  • 特許-車両の制御装置 図3
  • 特許-車両の制御装置 図4
  • 特許-車両の制御装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20220614BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20220614BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20220614BHJP
   B60R 21/0134 20060101ALI20220614BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20220614BHJP
   B60W 30/09 20120101ALI20220614BHJP
【FI】
B60W10/00 120
B60T7/12 D
B60T7/12 C
B60R21/0134 313
B60R21/0134 314
G08G1/16 C
B60W10/04
B60W10/18
B60W30/09
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018025813
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2019142266
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100118049
【弁理士】
【氏名又は名称】西谷 浩治
(72)【発明者】
【氏名】陳 希
(72)【発明者】
【氏名】中上 隆
(72)【発明者】
【氏名】片山 翔太
(72)【発明者】
【氏名】手塚 梨絵
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-036270(JP,A)
【文献】特開2000-264097(JP,A)
【文献】特開2012-179936(JP,A)
【文献】特開2007-296950(JP,A)
【文献】特開2016-150711(JP,A)
【文献】特開2012-153164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
B60R 21/0134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方障害物を検出する障害物センサと、
前記自車両の車速を検出する車速センサと、
アクセル操作を検出するアクセル操作センサと、
前記前方障害物が検出された場合、第1自動ブレーキを作動し、ドライバーが加速の意思を示したとみなせる第1操作量以上の前記アクセル操作が検出されたことを停止条件として、第1自動ブレーキの作動を停止する緊急自動ブレーキ制御部と、
前記検出された車速が所定の車速範囲内にある場合において、前記前方障害物が検出され、且つ、前記ドライバーがアクセルペダルを誤操作した場合に想定される前記アクセルペダルの操作量であって前記第1操作量より小さい第2操作量以上の前記アクセル操作が検出された場合、前記自車両のエンジン出力を低減し、且つ、第2自動ブレーキを行う誤発進抑制制御を作動する誤発進抑制制御部と、
前記第1自動ブレーキの前記停止条件と前記第2自動ブレーキの作動条件とが競合した場合、前記第2自動ブレーキを優先させる調停部とを備える車両の制御装置。
【請求項2】
前記緊急自動ブレーキ制御部は、前記検出された車速が、前記誤発進抑制制御における前記車速範囲の下限車速である第1下限車速より大きい第2下限車速以上の場合、前記第1自動ブレーキを作動する請求項1記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記障害物センサは、前記前方障害物と前記自車両との距離を更に検出し、
前記誤発進抑制制御部は、更に、前記検出された距離が所定距離以下の場合、前記誤発進抑制制御を作動する請求項1又は2記載の車両の制御装置。
【請求項4】
ブレーキ操作を検出するブレーキ操作センサを更に備え、
前記誤発進抑制制御部は、前記アクセル操作が連続してN(Nは2以上の整数)回検出された場合、又は前記ブレーキ操作が検出された場合、前記誤発進抑制制御の作動を停止する請求項1~3のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記誤発進抑制制御部は、前記検出された車速が、前記誤発進抑制制御における前記車速範囲の下限車速である第1下限車速以下の場合、前記自車両のエンジン出力のみを低減する誤発進抑制制御を作動する請求項1~4のいずれかに記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の自動ブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、アクセルペダルの誤操作によって、自車両が急発進した場合の衝突時の被害を抑制する誤発進抑制制御と、緊急時に自動ブレーキを作動させて衝突時の被害を抑制する緊急自動ブレーキとを備える車両が知られている。誤発進抑制制御は、自車両に対して所定距離内に前方障害物がある状態で、所定量以上のアクセル操作量が検出された場合、所定車速以下においてエンジン出力を抑制することで、車両の急発進を抑制する制御である。
【0003】
緊急自動ブレーキは、自車両に対して所定距離内に前方障害物が検出された場合に、ドライバーのブレーキ操作に拘わらず、ブレーキを作動させることで、前方障害物と自車両との衝突を回避するブレーキ制御である。なお、緊急自動ブレーキでは、アクセル操作量がある値を超えると、ドライバーは加速の意思を示しているとみなし、作動が停止される。
【0004】
特許文献1には、誤発進抑制制御に相当するアクセル誤踏み込み制御と、緊急自動ブレーキに相当するPB(プリクラッシュブレーキ)制御とを備える車両が開示されている。
【0005】
具体的には、特許文献1では、車速が所定車速以上となってアクセル誤踏み込み制御が終了条件を満たしたとしても、車両の急発進を抑制する必要がある場面では、アクセル操作量が大きくてもPB制御を継続させることで、この場面においてアクセル誤踏み込み制御及びPB制御の両方が作動しないことを回避する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-129228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のアクセル誤踏み込み制御は、エンジン出力の抑制のみが行われており、自動ブレーキは作動されない。また、PB制御は所定車速以上でなければ作動されない。そのため、特許文献1では、所定車速より小さい車速範囲において、自動ブレーキを作動させることができないという課題がある。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、急発進抑制制御と緊急自動ブレーキとを備える車両において、所定の車速範囲において、自動ブレーキが作動されない事態を回避する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る車両の制御装置は、自車両の前方障害物を検出する障害物センサと、
前記自車両の車速を検出する車速センサと、
アクセル操作を検出するアクセル操作センサと、
前記前方障害物が検出された場合、第1自動ブレーキを作動し、ドライバーが加速の意思を示したとみなせる第1操作量以上の前記アクセル操作が検出されたことを停止条件として、第1自動ブレーキの作動を停止する緊急自動ブレーキ制御部と、
前記検出された車速が所定の車速範囲内にある場合において、前記前方障害物が検出され、且つ、前記ドライバーがアクセルペダルを誤操作した場合に想定される前記アクセルペダルの操作量であって前記第1操作量より小さい第2操作量以上の前記アクセル操作が検出された場合、前記自車両のエンジン出力を低減し、且つ、第2自動ブレーキを行う誤発進抑制制御を作動する誤発進抑制制御部と、
前記第1自動ブレーキの前記停止条件と前記第2自動ブレーキの作動条件とが競合した場合、前記第2自動ブレーキを優先させる調停部とを備える。
【0010】
前方障害物が検出された場合、アクセル操作が第2操作量から第1操作量までの範囲にあれば、第1自動ブレーキの停止条件と第2自動ブレーキの作動条件とが競合する可能性があるが、この場合、本態様では、第2自動ブレーキが優先される。そのため、本態様では、第2自動ブレーキの作動中において、第1操作量以上のアクセル操作が検出されて第1自動ブレーキの停止条件が満たされたとしても、第2自動ブレーキの作動が継続される。その結果、所定の車速範囲において、自動ブレーキが全く作動されない事態を回避することができる。
【0011】
上記態様において、前記緊急自動ブレーキ制御部は、前記検出された車速が、前記誤発進抑制制御における前記車速範囲の下限車速である第1下限車速より大きい第2下限車速以上の場合、前記第1自動ブレーキを作動することが好ましい。
【0012】
本態様によれば、第2下限車速以下であり第1自動ブレーキの作動条件が満たされていなくても、第2下限車速よりも小さな第1下限車速より大きければ、第2自動ブレーキを作動させることができるので、第2下限車速よりも小さい車速範囲において、自動ブレーキが全く作動されない事態を回避することができる。
【0013】
上記態様において、前記障害物センサは、前記障害物と前記自車両との距離を更に検出し、
前記誤発進抑制制御部は、更に、前記検出された距離が所定距離以下の場合、前記誤発進抑制制御を作動することが好ましい。
【0014】
本態様によれば、前方障害物と自車両との距離が所定距離以下の場合に、誤発進抑制制御が作動されるので、誤発進を抑制する必要がない程度に前方障害物が自車両に対して離れている場合に誤発進抑制制御が作動され、誤発進抑制制御が頻発される事態を回避できる。
【0015】
上記態様において、ブレーキ操作を検出するブレーキ操作センサを更に備え、
前記誤発進抑制制御部は、前記アクセル操作が連続してN(Nは2以上の整数)回検出された場合、又は前記ブレーキ操作が検出された場合、前記誤発進抑制制御の作動を停止することが好ましい。
【0016】
本態様によれば、連続してN回以上アクセル操作がされてドライバーにより加速の意思が明示された場合、誤発進抑制制御が停止されるので、ドライバーが加速の意思を明示しているにも拘わらず、誤発進抑制制御の作動が継続されることを防止できる。また、ブレーキ操作が検出された場合、誤発進抑制制御の作動が停止されるので、ドライバーが停止操作を入力しており、誤発進抑制制御を作動させる必要がないシーンにおいて、誤発進抑制制御が作動されることを防止できる。
【0017】
上記態様において、前記誤発進抑制制御部は、前記検出された車速が、前記誤発進抑制制御における前記車速範囲の下限車速である第1下限車速以下の場合、前記自車両のエンジン出力のみを低減する誤発進抑制制御を作動することが好ましい。
【0018】
本態様によれば、車速が第1下限車速になるまではエンジン出力のみを低減させ、第2下限車速を超えると、第2自動ブレーキの作動を伴う誤発進抑制制御を実施することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、急発進抑制制御と緊急自動ブレーキとを備える車両において、所定の車速範囲において、自動ブレーキが作動されない事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】PTCとAEBとの作動タイミングの一例を示すグラフである。
図3図1に示すPTC制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
図4図1に示すAEB制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
図5図1に示す調停部63の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置1の構成を示すブロック図である。車両の制御装置1は、四輪自動車に搭載され、四輪自動車のブレーキアシスト制御を司る装置である。車両の制御装置1は、障害物センサ2、アクセルペダルセンサ3、車速センサ4、ブレーキペダルセンサ5、ECU(Electronic Control Unit)6、ブレーキアクチュエータ7、及びスロットル弁8を備える。
【0022】
障害物センサ2は、例えば、レーザレーダ21及びソナー22で構成される。レーザレーダ21は、例えば、自車両のフロントグリルに設けられ、自車両の前方の所定の角度範囲を走査するようにレーザビームを照射し、反射したレーザビームを受光することによって、前方障害物の有無を検出すると共に、自車両から前方障害物までの距離を検出する。ソナー22は、例えば、自車両のフロントグリルに設けられ、自車両の前方に音波を照射し、反射した音波を受信することによって、前方障害物の有無を検出すると共に、自車両から前方障害物までの距離を検出する。ここで、前方障害物とは、自車両に対して進行方向に沿って直ぐ前方にある、停止中の車両、走行中の車両、又は車両以外の物体が該当する。
【0023】
レーザレーダ21は、ソナー22に比べて長距離に位置する障害物を検出することができるが、障害物が検出可能な自車両の車速(自車速)の下限値がソナー22より大きいという特性を持つ。例えば、障害物が検出可能な自車速の下限値は、レーザレーダ21が4km/hであるのに対して、ソナーは2km/hである。
【0024】
本実施の形態では、PTC制御部62は、ソナー22の測定データから前方障害物に関する情報を取得し、AEB制御部61は、レーザレーダ21の測定データから前方障害物に関する情報を取得する。但し、これは一例であり、PTC制御部62は、レーザレーダ21の測定データを用いて前方障害物に関する情報を取得してもよいし、AEB制御部61は、ソナー22の測定データ用いて前方障害物に関する情報を取得してもよい。ここで、前方障害物に関する情報には、例えば、前方障害物の有無を示す情報と、前方障害物までの距離を示す情報が含まれる。
【0025】
アクセルペダルセンサ3(アクセル操作センサの一例)は、例えば、抵抗体の上を接点が摺動するポテンショ式の角度センサで構成され、アクセルペダルの踏みこみ量を検出して電気信号に変換してECU6に出力する。本実施の形態では、アクセルペダルセンサ3は、アクセルペダルの最大踏みこみ量を100としたときの実際の踏み込み量の割合によってアクセルペダルの踏みこみ量を表す。
【0026】
車速センサ4は、例えば、車輪速センサで構成され、自車両の車速を検出する。ここで、車輪速センサは、例えば、ブレーキドラムなどの回転部分に設けられた歯車状のロータと、ロータに対して一定の隙間を設けて配置され、コイル及び磁極等で構成されたセンシング部とを備え、ロータの回転によりコイルに発生する交流電圧に基づいて、車輪の回転速度を検出する。
【0027】
ブレーキペダルセンサ5(ブレーキ操作センサの一例)は、例えば、抵抗体の上を接点が摺動するポテンショ式の角度センサで構成され、ブレーキペダルの踏みこみ量を検出して電気信号に変換してECU6に出力する。本実施の形態では、ブレーキペダルセンサ5は、ブレーキペダルの最大踏みこみ量を100としたときの実際の踏み込み量の割合によってブレーキペダルの踏みこみ量を表す。
【0028】
ECU6は、CPU等のプロセッサと、ROM及びRAM等のメモリとを備えるコンピュータで構成され、車両の制御装置1の全体制御を司る。本実施の形態では、ECU6は、AEB(Autonomous Emergency Braking)制御部61、PTC(Pre-collision Throttle Control)制御部62、及び調停部63の機能を備えている。AEB制御部61、PTC制御部62、及び調停部63は、それぞれ、ECU6のプロセッサが所定の制御プログラムを実行することで実現される。但し、これは一例であり、AEB制御部61、PTC制御部62、及び調停部63は、それぞれ、異なるコンピュータで構成されてもよい。
【0029】
AEB制御部61(緊急自動ブレーキ制御部の一例)は、レーザレーダ21により前方障害物が検出された場合、AEB(第1自動ブレーキの一例)を作動する。また、AEB制御部61は、アクセルペダルセンサ3により、第1操作量以上のアクセル操作が検出されたことを停止条件として、AEBの作動を停止する。AEBは、緊急時に自動ブレーキを作動させて衝突時の被害を軽減する自動ブレーキである。第1操作量としては、ドライバーが加速の意思を示したとみなせるアクセルペダルの踏み込み量が採用され、本実施の形態では、50%が採用される。但し、これは一例であり、第1操作量は、ドライバーが加速の意思を示したとみなせる値であれば、50%以外の値が採用されてもよい。
【0030】
PTC制御部62(誤発進抑制制御部の一例)は、車速センサ4により検出された車速が所定の車速範囲内にある場合において、前方障害物が検出され、且つ、第1操作量より小さい第2操作量以上のアクセル操作が検出された場合、自車両のエンジン出力を低減し、且つ、PTC自動ブレーキ(第2自動ブレーキの一例)を行うPTCを作動する。PTCは、アクセルペダルの誤操作によって自車両が急発進した場合の衝突時の被害を軽減する急発進抑制制御である。以下、PTCにおいて、エンジン出力を低減させることを「PTC低減制御」と記述する。なお、PTC低減制御を作動させる場合、PTC制御部62は、スロットル弁8を閉じでエンジンへの燃料の供給を停止させることで、エンジン出力を低減すればよい。
【0031】
ここで、所定の車速範囲としては、図2のグラフPTC_BCに示されるように、2km/hから15km/hまでの車速範囲が採用できる。但し、これは、一例であり、所定の車速範囲は、アクセルペダルの誤操作による急発進を自動ブレーキで抑制する必要がある車速範囲であれば、他の車速範囲が採用されてもよい。また、第2操作量としては、例えば、ドライバーがアクセルペダルを誤操作した場合に想定されるアクセルペダルの踏み込み量の最小値が採用でき、本実施の形態では、10%が採用される。但し、これは一例であり、第2操作量としては、第1操作量より小さい範囲内において10%より大きな値、或いは、10%よりも小さな値が採用できる。
【0032】
図1を参照し、調停部63は、AEBの停止条件とPTC自動ブレーキの作動条件とが競合した場合、PTC自動ブレーキを優先させる。
【0033】
ブレーキアクチュエータ7は、ECU6から出力されるブレーキコマンドにしたがって、ブレーキコマンドが示す制動力をブレーキ(図略)に発生させる。ここで、ブレーキアクチュエータ7は、例えば、ブレーキコマンドが示す制動力に対応する油圧でブレーキを作動させればよい。スロットル弁8は、ECU6のコマンドにしたがって、エンジン(図略)への吸気量を調節する。ブレーキは、例えば、ディスク式又はドラム式のブレーキで構成され、車両の車輪を制動する。
【0034】
図2は、PTCとAEBとの作動タイミングの一例を示すグラフである。図2において、縦軸は前方障害物との距離(m)を示し、横軸は自車速(km/h)を示している。
【0035】
図2において、四角形の点でプロットされたグラフはAEBの作動タイミングを示すグラフ(以下、「グラフAEB」と記述する。)であり、AEB制御部61は、自車速と前方障害物までの距離とがグラフAEBよりも下側の領域に位置する場合、AEBを作動する。
【0036】
グラフAEBは、自車速が0km/hから4km/hまでの車速範囲では前方障害物までの距離を0(m)に維持している。したがって、AEB制御部61は、この車速範囲ではAEBを作動させない。また、グラフAEBは、自車速が4km/h(第2下限車速の一例)を超えると、自車速が増大するにつれて、前方障害物までの距離が、下側に緩やかに湾曲したカーブに沿って増大している。したがって、AEB制御部61は、自車速が4km/h以上になると、自車速が減少するにつれて、より近くに前方障害物が位置していなければ、AEBを作動さない。
【0037】
図2において、菱形の点がプロットされたグラフはPTC自動ブレーキの作動タイミングを示すグラフ(以下、「グラフPTC_BC」と記述する。)である。PTC制御部62は、前方障害物までの距離と自車速とがグラフPTC_BCの下側の領域に位置する場合、PTC自動ブレーキを作動させる。
【0038】
グラフPTC_BCは、自車速が0km/hから2km/h(第1下限車速の一例)までの車速範囲では前方障害物までの距離を0mに維持している。したがって、PTC制御部62は、この車速範囲ではPTC自動ブレーキを作動させない。また、グラフPTC_BCは、自車速が2km/hから15km/hまでの車速範囲では、前方障害物までの距離が4mを上限として、自車速が増大するにつれて前方障害物までの距離が増大している。したがって、PTC制御部62は、自車速が2km/hから、前方車両までの距離が4mに到達する13km/hまでの車速範囲では、自車速が減少するにつれて、より近くに前方障害物が位置していなければ、PTC自動ブレーキを作動させない。また、PTC制御部62は、自車速が13km/hから15km/hまでの車速範囲では、前方障害物までの距離が4m以下になるとPTC自動ブレーキを作動する。
【0039】
図2において、バツ印の点がプロットされたグラフはPTC低減制御の作動タイミングを示すグラフ(以下、「グラフPTC_TC」と記述する。)である。PTC制御部62は、前方障害物までの距離と自車速とがグラフPTC_TCの下側の領域に位置する場合、PTC低減制御を作動させる。
【0040】
グラフPTC_TCは、自車速が0km/hから15km/hまでの車速範囲では、前方障害物までの距離を4mに維持している。したがって、PTC制御部62は、自車速が15km/h以下の車速範囲では、前方障害物までの距離が4m以下になるとPTC低減制御を作動させる。
【0041】
図2に示すように、本実施の形態では、自車速が2km/hより大きくなると、前方障害物までの距離に応じたPTC自動ブレーキが作動され、自車速が4km/hより大きくなると、PTC自動ブレーキに加えて、AEBも作動条件を満たし、両自動ブレーキが競合することになる。PTC自動ブレーキとAEBとが共に作動条件を満たす場合に、AEBのみを作動させる態様が採用されると、アクセル踏み込み量が50%より大きくなってAEBが停止されると、2km/hから15km/hの車速範囲において、車両に対して自動ブレーキが全く作動されくなる。
【0042】
そこで、本実施の形態では、調停部63は、PTC自動ブレーキとAEBとが共に作動条件を満たした場合、PTC自動ブレーキを優先する態様を採用した。これにより、4km/hから15km/hまでの車速範囲において、AEBが停止条件を満たしても、PTC自動ブレーキが作動を継続するので、この場面において、車両に対して自動ブレーキが全く作動しなくなる事態を回避することができる。但し、この場面では、自動ブレーキが全く作動されなくても、PTC低減制御が作動されるので、車両に対する制動力が全く作用しないわけではない。
【0043】
ここで、AEB制御部61とPTC制御部62とは、それぞれ、独立して駆動している。そして、AEB制御部61は、AEBを作動させる場合、予め定められた目標減速度を設定し、車両の減速度を目標減速度にするためのブレーキコマンドを生成する。同様に、PTC制御部62も、PTC自動ブレーキを作動させる場合、予め定められた目標減速度を設定し、車両の減速度を目標減速度にするためのブレーキコマンドを生成する。
【0044】
したがって、調停部63は、AEBとPTC自動ブレーキとが共に作動条件を満たす場合、PTC制御部62に対して作動指示を出力し、AEB制御部61に対して非作動指示を出力すればよい。
【0045】
なお、AEBの目標減速度とPTC自動ブレーキの目標減速度とは、例えば、自車速に拘わらず一定の値が採用されてもよいし、自車速が大きくなるにつれて段階的又は連続的に大きくなる値が採用されてもよい。
【0046】
図2において、自車速が15km/hより大きくなると、PTC制御部62は、PTC自動ブレーキとPTC低減制御との両方の作動を停止させる。そのため、自車速が15km/hより大きい車速範囲では、前方障害物との距離に応じてAEBが作動することになる。これにより、自車速が15km/hより大きく、急発進を抑制する必要がない場面においてPTCが作動されることを防止することができ、操作性を高めることができる。
【0047】
また、図2において、PTC自動ブレーキが作動する車速範囲の下限値が2km/hに設定されている。これは、PTC制御部62はソナー22の測定データを用いてPTCの作動の有無を判定しており、ソナー22が障害物を検出可能な自車速の下限値が2km/hであるからである。また、AEBが作動する車速範囲の下限値が4km/hに設定されている。これは、AEB制御部61はレーザレーダ21の測定データを用いてAEBの作動の有無を判定しており、レーザレーダ21が障害物を検出可能な自車速の下限値が4km/hであるからである。
【0048】
また、図2において、PTC自動ブレーキとPTC減速制御とが作動する車速範囲の上限値が15km/hに設定されている。これは、アクセルペダルの誤踏み込みによる急発進が発生する場面の自車速の上限値は、およそ15km/h程度と考えられているからである。
【0049】
図3は、図1に示すPTC制御部62の処理の一例を示すフローチャートである。S301では、PTC制御部62は、ソナー22の測定データから、ソナー22が前方障害物を検出したか否かを判定する。ソナー22が前方障害物を検出した場合(S301でYES)、PTC制御部62は、ソナー22の測定データからその前方障害物までの距離を取得し、その距離が4mより大きいか否かを判定する(S302)。一方、ソナー22が前方障害物を検出していない場合(S301でNO)、処理はS312に進む。
【0050】
前方障害物までの距離が4m以上である場合(S302でNO)、処理はS312に進み、前方障害物までの距離が4mより小さい場合(S302でYES)、処理はS303に進む。
【0051】
S303では、PTC制御部62は、アクセルペダルセンサ3が検出したアクセルペダルの踏み込み量が10%より大きいか否かを判定する。S303で、アクセルペダルの踏み込み量が10%より大きい場合(S303でYES)、処理はS304に進み、アクセルペダルの踏み込み量が10%以下の場合(S303でNO)、処理はS312に進む。
【0052】
S304では、PTC制御部62は、車速センサ4が検出した自車速が2km/hより小さいか否かを判定する。S304で、自車速が2km/hより小さい場合(S304でYES)、処理はS305に進み、自車速が2km/h以上の場合(S304でNO)、処理はS308に進む。
【0053】
S305では、PTC制御部62は、PTCのフラグF(PTC)が0又は2である場合(S305でYES)、PTC減速制御を作動させるために、フラグF(PTC)を「1」に設定する(S306)。ここで、フラグF(PTC)は、「0」、「1」、又は「2」の値をとり、「0」はPTCの非作動を示し、「1」はPTC減速制御の作動を示し、「2」はPTC減速制御及びPTC自動ブレーキの作動を示す。以下、PTC減速制御のみが作動するPTCを単に「PTC減速制御」と記載し、PTC減速制御及びPTC自動ブレーキが作動するPTCを「自動ブレーキを伴うPTC」と記述する。
【0054】
すなわち、S306では、前方障害物までの距離と自車速とがグラフPTC_TCの下側の領域に位置するので、PTC減速制御を作動させるために、フラグF(PTC)が「1」に設定されるのである。
【0055】
S305において、フラグF(PTC)が「1」であり(S305でNO)、PTC減速制御が作動中であれば、処理はS307に進む。
【0056】
S308では、PTC制御部62は、自車速が2km/hから15km/hまでの車速範囲にあるか否かを判定する。自車速が2km/hから15km/hまでの車速範囲にあれば(S308でYES)、処理はS309に進み、自車速が2km/hから15km/hまでの車速範囲になければ(S308でNO)、処理はS312に進む。
【0057】
S309では、PTC制御部62は、S302で取得した前方障害物までの距離がグラフPTC_BC(図2)の下側の領域に位置するか否かを判定することにより、当該距離がPTC自動ブレーキの作動条件を満たすか否かを判定する。
【0058】
当該距離がPTC自動ブレーキの作動条件を満たす場合(S309でYES)、処理はS310に進み、当該距離がPTC自動ブレーキの作動条件を満たさない場合(S309でNO)、処理はS312に進む。
【0059】
S310では、フラグF(PTC)が「0」又は「1」であり(S310でYES)、自動ブレーキを伴うPTCが作動中でなければ、PTC制御部62は、自動ブレーキを伴うPTCを作動させるために、フラグF(PTC)を「2」に設定する(S311)。一方、フラグF(PTC)が「2」であり(S310でNO)、自動ブレーキを伴うPTCが作動中であれば、処理をS307に進める。
【0060】
S307では、PTC制御部62は、アクセルペダルセンサ3の測定データから、アクセルペダルの操作が連続して3回行われたか、又はブレーキペダルセンサ5の測定データから、ブレーキペダルの操作が行われた否かを判定する。アクセルペダルの操作が連続して3回行われた場合、ドライバーは加速の意思を示しており、PTCが不要である。また、ブレーキペダルが操作された場合、ドライバーのブレーキペダルの操作によって、前方障害物との衝突の軽減を図ることができる。そこで、本フローではS307の処理を設けた。
【0061】
S307で、アクセルペダルの操作が連続して3回行われた、又は、ブレーキペダルの操作が行われた場合(S307でYES)、PTCの作動を停止させるために、処理はS312に進む。一方、S307で、アクセルペダルの操作が連続して3回行われておらず、且つ、ブレーキペダルの操作も行われていない場合(S307でNO)、PTCの作動を継続するために、処理はS301に戻る。
【0062】
S312では、フラグF(PTC)が「1」又は「2」であり(S312でYES)、PTCが作動中であれば、PTC制御部62は、PTCを非作動にするために、フラグF(PTC)を「0」に設定し(S313)、処理をS301に戻す。一方、S312で、フラグF(PTC)が「0」であり(S312でNO)、PTCが非作動であれば、処理はS301に戻る。
【0063】
このように、PTC制御部62は、図3のフローを繰り返し、PTCの作動の有無を判定する。
【0064】
図4は、図1に示すAEB制御部61の処理の一例を示すフローチャートである。S401では、AEB制御部61は、レーザレーダ21の測定データから、レーザレーダが前方障害物を検出したか否かを判定する。レーザレーダ21が前方障害物を検出した場合(S401でYES)、AEB制御部61は、車速センサ4の測定データから自車速を取得し、自車速が2km/hより大きいか否かを判定する(S402)。一方、レーザレーダ21が前方障害物を検出していない場合(S401でNO)、処理はS407に進む。
【0065】
自車速が2km/hより大きい場合(S402でYES)、処理はS403に進み、自車速が2km/h以下の場合(S402でNO)、処理はS407に進む。
【0066】
S403では、AEB制御部61は、レーザレーダ21の測定データから前方障害物までの距離を取得し、その距離がグラフAEB(図2)の下側の領域に位置するか否かを判定することにより、当該距離がAEBの作動条件を満たすか否かを判定する。
【0067】
当該距離がAEBの作動条件を満たす場合(S403でYES)、処理はS404に進み、当該距離がAEBの作動条件を満たしていない場合(S403でNO)、処理はS407に進む。
【0068】
S404では、AEB制御部61は、AEBのフラグF(AEB)が「0」である場合(S404でYES)、AEBを作動させるために、フラグF(AEB)を「1」に設定する(S405)。ここで、フラグF(AEB)は、「0」又は「1」の値をとり、「0」はAEBの非作動を示し、「1」はAEBの作動を示す。
【0069】
S404でフラグF(AEB)が「1」であり(S404でNO)、AEBが作動中であれば、処理はS406に進む。
【0070】
S406では、AEB制御部61は、アクセルペダルセンサ3の測定データからアクセルペダルの踏み込み量を取得し、その踏み込み量が50%以上の場合(S406でYES)、ドライバーは加速の意思を示しており、AEBの停止条件を満たすため、処理をS407に進める。一方、アクセルペダルの踏み込み量が50%より小さい場合(S406でNO)、ドライバーは加速の意思を示していないため、処理はS401に戻る。
【0071】
S407では、フラグF(AEB)が「1」であれば(S407でYES)、AEB制御部61は、AEBを非作動にするために、フラグF(AEB)を「0」に設定する(S408)。一方、フラグF(AEB)が「0」であり(S407でNO)、AEBが非作動であれば、処理はS401に戻る。
【0072】
このように、AEB制御部61は、図4のフローを繰り返し、AEBの作動の有無を判定する。
【0073】
図5は、図1に示す調停部63の処理の一例を示すフローチャートである。調停部63は、フラグF(PTC)が2である場合(S501でYES)、フラグF(AEB)の値に拘わらず、自動ブレーキを伴うPTCの作動指示を、PTC制御部62に出力する(S502)。この場合、調停部63はAEB制御部61に対して、非作動指示を出力する。これにより、PTC制御部62からブレーキアクチュエータ7にブレーキコマンドが出力され、PTC制御部62の制御の下、自動ブレーキを伴うPTCが作動される。
【0074】
すなわち、S501、S502の処理は、PTC自動ブレーキとAEBとの両方が作動条件を満たしたとしても、PTC自動ブレーキを優先的に作動させる処理になっている。これにより、4km/hから15km/hまでの車速範囲において、アクセルペダルの踏み込み量が50%を超えてAEBの停止条件が満たされたとしても、自動ブレーキが非作動になることを防止できる。
【0075】
フラグF(PTC)が「2」でない場合(S501でNO)、調停部63は、フラグF(PTC)が「1」であるか否かを判定する(S503)。フラグF(PTC)が「1」の場合(S503でYES)、フラグF(AEB)が「1」であれば(S504でYES)、すなわち、フラグF(PTC)及びフラグF(AEB)が共に1である場合、調停部63は、PTC低減制御の作動指示をPTC制御部62に出力し、且つ、AEBの作動指示をAEB制御部61に出力する。これにより、AEB制御部61からブレーキアクチュエータ7にブレーキコマンドが出力されると共に、PTC制御部62によりPTC低減制御が作動される。
【0076】
S504でフラグF(AEB)が「0」の場合(S504でNO)、すなわち、フラグF(PTC)が「1」、且つ、フラグF(AEB)が「0」の場合、調停部63は、PTC低減制御の作動指示をPTC制御部62に出力する(S506)。これにより、PTC低減制御のみが作動される。
【0077】
S503でフラグF(PTC)が「0」の場合(S503でNO)、フラグF(AEB)が「1」であれば(S507でYES)、すなわち、フラグF(PTC)が「0」、且つ、フラグF(AEB)が「1」の場合、調停部63は、AEBの作動指示をAEB制御部61に出力する(S508)。このとき、調停部63は、PTCの非作動指示をPTC制御部62に出力する。これにより、AEBのみが作動される。
【0078】
フラグF(AEB)が「0」の場合(S507でNO)、すなわち、フラグF(PTC)が「0」、且つ、フラグF(AEB)が「0」の場合、調停部63は、AEBの非作動指示をAEB制御部61に出力し、且つ、PTCの非作動指示をPTC制御部62に出力する(S509)。これにより、AEB及びPTCの作動が停止される。
【0079】
S502、S505、S506、S508、S509の処理が終了すると、処理はS501に戻る。このように、調停部63は、図5のフローを繰り返し、AEBとPTC自動ブレーキとの調停を行う。
【0080】
このように、本実施の形態によれば、PTC自動ブレーキの作動中に、第1操作量以上のアクセル踏み込み量が検出されてAEBが停止条件を満たしたとしても、PTC自動ブレーキは継続される。その結果、2km/hから4km/hの車速範囲において、自動ブレーキが全く作動されない事態を回避することができる。
【0081】
なお、本発明は以下の変形例が採用できる。
【0082】
(1)図3のS307では、アクセルペダルの操作が連続して3回検出された場合にYESと判定されているが、これは一例であり、2回又は4回以上検出された場合にYESと判定されてもよい。
【0083】
(2)図2では、PTC自動ブレーキが作動される車速範囲の下限値はAEBが作動される車速範囲の下限値よりも小さく設定されているが、この関係は逆であってもよいし、この下限値は同じであってもよい。
【0084】
(3)図2において、PTC自動ブレーキが作動される車速範囲の上限値と、PTC減速制御が作動される車速範囲の上限値とは同じ15km/hに設定されているが、これは一例であり、両上限値は異なる値に設定されてもよい。
【0085】
(4)図2において、グラフAEBはグラフPTC_BCよりも全体的に上側に位置しているが、この関係は逆であってもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 車両の制御装置
2 障害物センサ
3 アクセルペダルセンサ
4 車速センサ
5 ブレーキペダルセンサ
6 ECU
7 ブレーキアクチュエータ
8 スロットル弁
21 レーザレーダ
22 ソナー
61 AEB制御部
62 PTC制御部
63 調停部
図1
図2
図3
図4
図5