(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】切削加工方法
(51)【国際特許分類】
B23B 1/00 20060101AFI20220614BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20220614BHJP
B23B 27/08 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B23B1/00 Z
B23B27/14 A
B23B27/08 A
(21)【出願番号】P 2018033298
(22)【出願日】2018-02-27
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 浩史
(72)【発明者】
【氏名】東 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 佑典
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/082454(WO,A1)
【文献】特開2017-019071(JP,A)
【文献】特開2017-007003(JP,A)
【文献】特開2005-272899(JP,A)
【文献】特開2006-159339(JP,A)
【文献】特表平07-505442(JP,A)
【文献】特開2000-234171(JP,A)
【文献】特開2001-342539(JP,A)
【文献】特開2008-036769(JP,A)
【文献】特表2010-523351(JP,A)
【文献】特開2011-098437(JP,A)
【文献】特開2019-147219(JP,A)
【文献】国際公開第2012/008405(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0049175(US,A1)
【文献】国際公開第2014/024862(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00-25/06
B23B 27/00-29/34
B23P 5/00-17/06
B23P 23/00-25/00
C22C 35/00-45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面をすくい面と
し軸方向端面を逃げ面とする環状の切れ刃を有する環状工具を用いて、
前記環状工具を中心軸線まわりに回転させながら工作物を切削する切削加工方法であって、
前記工作物は、
γ-アルミナを含有し、
前記切れ刃による前記工作物の切削加工時に前記工作物の加工部位に発生する切削熱の温度がγ-アルミナからα-アルミナへ変態する温度を超えるような前記環状工具の回転速度、及び、前記工作物に対する前記環状工具の送り速度にて切削加工を行い、
前記工作物に含有される
γ-アルミナ
が変態したα-アルミナを前記切れ刃に被膜しながら切削加工を行う、切削加工方法。
【請求項2】
前記切削加工方法は、
前記環状工具の前記外周面に対し、
α-アルミナを被膜させながら切削加工を行う、請求項
1に記載の切削加工方法。
【請求項3】
前記切削加工方法は、前記環状工具の
前記軸方向端面に対し、
α-アルミナを被膜させながら切削加工を行う、請求項1
又は2に記載の切削加工方法。
【請求項4】
前記環状工具は、円錐台状に形成され、前記円錐台状の外周面をすくい面とし、前記円錐台状の軸方向端面を逃げ面とする、請求項1~3の何れか1項に記載の切削加工方法。
【請求項5】
前記工作物は、鉄及びケイ素を含有し、
前記切れ刃による前記工作物の切削加工時に前記工作物の加工部位に発生する切削熱の温度が、アルミナの融点よりも低い温度で、かつ、鉄の酸化物の融点及びケイ素の酸化物の融点よりも高い温度となるような前記環状工具の回転速度、及び、前記工作物に対する前記環状工具の送り速度にて切削加工を行う、請求項1~4の何れか1項に記載の切削加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、外周面をすくい面とする環状の切れ刃を有する環状工具を回転させながら、円筒状の工作物に対する切削加工を行う技術が記載されている。この環状工具を用いた切削加工では、環状工具を回転させながら切削加工を行うことにより、切れ刃に発生する切削熱を外周面全周に分散し、工具寿命の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来技術は、環状工具及び工作物を高速で回転させることにより効率の高い切削加工を行うことができる一方、高効率で切削加工を行うほど切削加工時に発生する切削熱も高くなり、環状工具が早期に摩耗して工具寿命となる。
【0005】
本発明は、加工能率の向上と工具寿命の向上とを両立させることができる切削加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切削加工方法は、外周面をすくい面とし軸方向端面を逃げ面とする環状の切れ刃を有する環状工具を用いて、前記環状工具を中心軸線まわりに回転させながら前記工作物を切削する切削加工方法である。前記工作物は、γ-アルミナを含有し、前記切れ刃による前記工作物の切削加工時に前記工作物の加工部位に発生する切削熱の温度がγ-アルミナからα-アルミナへ変態する温度を超えるような前記環状工具の回転速度、及び、前記工作物に対する前記環状工具の送り速度にて切削加工を行い、前記工作物に含有されるγ-アルミナが変態したα-アルミナを前記切れ刃に被膜しながら切削加工を行う。
【0007】
本発明の切削加工方法は、工作物に含有されるアルミナを切れ刃に被膜しながら切削加工を行う。これにより、本発明の切削加工方法は、環状工具の回転速度及び送り速度を高速することで切削加工時に加工部位で発生する切削熱が上昇したとしても、アルミナが切れ刃に被膜されているため、その切削熱が切れ刃に伝わることを抑制できる。即ち、本発明の切削加工方法は、環状工具の回転速度及び送り速度を高く設定しつつ、環状工具の摩耗を抑制できるので、加工能率の向上と工具寿命の向上とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】本発明の一実施形態における切削加工方法に用いる切削装置の全体構成を示す平面図である。
【
図1B】
図1AのIB-IB線における切削装置の断面図である。
【
図2】工具保持装置に保持された環状工具及び工作物の拡大図であり、環状工具の切れ刃と工作物とが接触した状態を示す。
【
図4A】工作物Wを切削する環状工具の拡大図であって、環状工具の刃先を拡大して示す。
【
図4B】加工後の環状工具の刃先を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る切削加工方法を適用した実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、
図1Aから
図3を参照して、本発明の一実施形態における切削加工方法に用いる切削装置1の構成を説明する。
【0010】
(1.切削装置1の全体構成)
図1に示すように、切削装置1は、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)と、1つの回転軸(C軸)と、を備えた4軸マシニングセンタである。切削装置1は、工作物保持装置10と、工作物送り装置20と、工具保持装置30と、制御装置100とを主に備える。
【0011】
工作物保持装置10は、工作物Wを回転可能に保持する。工作物保持装置10は、主軸台11と、心押台12とを備える。主軸台11は、工作物Wの軸線方向一端側(
図1A右側)を回転可能に支持する。主軸台11は、ハウジングとしての主軸台本体13と、主軸台本体13に回転可能に支持される回転主軸14と、回転主軸14を回転させるための駆動力を付与する回転主軸モータ15と、を備える。心押台12は、ハウジングとしての心押台本体16と、工作物Wの軸線方向他端側(
図1A左側)を回転可能に支持する心押センタ17とを備える。
【0012】
工作物保持装置10は、工作物Wの回転軸線AwをX軸方向と平行に向けた状態で、回転軸線Aw方向両端を回転主軸14と心押センタ17により支持する。そして、工作物Wは、回転主軸モータ15が駆動することにより、回転軸線Awまわりに回転する。
【0013】
工作物送り装置20は、工作物WをX軸方向へ送る。工作物送り装置20は、送り台21と、X軸駆動装置22(
図3参照)とを備える。なお、
図1A及び
図1Bでは、X軸駆動装置22の図示が省略されている。送り台21は、ベッド2の上面をX軸方向へ移動可能に設けられる。具体的に、ベッド2の上面には、X軸方向へ延びる一対のX軸ガイドレール23が設けられ、送り台21は、X軸ガイドレール23に案内されながらX軸方向へ移動可能に設置される。X軸駆動装置22は、ベッド2に対して送り台21をX軸方向(工作物Wの回転軸線Aw方向)へ送るねじ送り装置である。
【0014】
送り台21の上面には、主軸台11及び心押台12が設置され、主軸台11及び心押台12に支持された工作物Wは、X軸駆動装置22を駆動し、送り台21をX軸方向へ移動させることにより、工作物Wの回転軸線Aw方向へ送られる。
【0015】
工具保持装置30は、後述する環状工具50を回転可能に保持する。工具保持装置30は、コラム31と、Z軸駆動装置32(
図3参照)と、サドル33と、Y軸駆動装置34(
図3参照)と、工具主軸35と、工具主軸モータ36(
図3参照)とを備える。なお、
図1A及び
図1Bでは、Z軸駆動装置32及びY軸駆動装置34の図示を省略している。
【0016】
コラム31は、ベッド2の上面をZ軸方向へ移動可能に設けられる。具体的に、ベッド2の上面には、Z軸方向へ延びる一対のZ軸ガイドレール37が設けられ、コラム31は、Z軸ガイドレール37に案内されながらZ軸方向へ移動可能に設置される。Z軸駆動装置32は、ベッド2に対してコラム31をZ軸方向へ送るねじ送り装置である。
【0017】
サドル33は、コラム31の側面をY軸方向へ移動可能に設けられる。具体的に、コラム31の側面には、Y軸方向(鉛直方向)へ延びる一対のY軸ガイドレール38が設けられ、サドル33は、Y軸ガイドレール38に案内されながらY軸方向へ移動可能に配置される。Y軸駆動装置34は、サドル33をY軸方向へ送るねじ送り装置である。
【0018】
工具主軸35は、サドル33に対し、Z軸方向に平行な軸線まわりに回転可能に支持される。工具主軸モータ36は、工具主軸35を回転させるための駆動力を付与するモータであり、サドル33の内部に収容される。工具主軸35の先端には、工作物Wの加工に用いる環状工具50が着脱可能に装着される。環状工具50は、工具保持装置30に回転可能に保持され、コラム31及びサドル33の移動に伴い、ベッド2に対してZ軸方向及びY軸方向(送り方向に直交する方向)へ平行移動する。
【0019】
ここで、
図2を参照しながら、環状工具50について説明する。
図2に示すように、環状工具50は、工具本体51と、工具軸部52とを備える。工具本体51は、工作物Wに対する切削を行う部位であり、CBNから構成される。工具本体51は、円錐台状に形成され、工具本体51の外周面53は、すくい面を形成する。また、工具本体51の大径側の端面54は、平坦な逃げ面として形成され、外周面53と端面54とがなす稜線は、連続した円形状、即ち、途中で分断されていない環状の切れ刃55として形成される。工具軸部52は、工具本体51の小径側の端面から延びる円柱状の部位であり、工具主軸35に装着される。環状工具50の回転軸線Twは、工具主軸35と同軸に設けられ、環状工具50は、工具主軸35の回転に伴って回転軸線Tw周りに回転する。
【0020】
図3に示すように、制御装置100は、工作物回転制御部110と、工具回転制御部120と、送り制御部130と、変位制御部140と、を備える。工作物回転制御部110は、回転主軸モータ15の駆動制御を行い、回転主軸14と心押センタ17とにより支持された工作物Wを回転させる。工具回転制御部120は、工具主軸モータ36の駆動制御を行い、工具主軸35に装着された環状工具50を回転させる。送り制御部130は、X軸駆動装置22の駆動制御を行い、送り台21をX軸方向へ移動させることにより、工作物保持装置10に保持された工作物WをX軸方向へ送る。変位制御部140は、Y軸駆動装置34及びZ軸駆動装置32の駆動制御を行い、工具保持装置30に装着された環状工具50をY軸方向及びZ軸方向へ平行移動させる。
【0021】
(2.切削加工方法)
次に、
図4A及び
図4Bを参照しながら、切削装置1を用いた工作物Wの切削加工方法を説明する。ここで、工作物Wは、ごく微量のアルミナが介在物として含有される鋼材であって、軸受鋼等が例示される。なお、本実施形態における工作物Wは、熱処理が施された軸受鋼であるSUJ2(高炭素クロム軸受鋼鋼材)とする。具体的に、SUJ2としての工作物Wは、熱処理として、焼入れ処理が施された後に焼戻し処理が施されている。
【0022】
図4Aに示すように、切削装置1は、工作物Wを回転軸線Aw周りに回転させながら、環状工具50を回転軸線Twまわりに回転させる。そして、切削装置1は、工具本体51の端面54と工作物Wとの間に所定の隙間(逃げ角θ)を形成しながら切れ刃55を工作物Wに接触させることにより、工作物Wの切削加工を行う。このとき、例えば、切削装置1は、環状工具50による工作物Wの加工部位で発生する切削熱が工作物Wの焼入れ温度を超える温度に到達するように、環状工具50の回転速度及び送り速度を設定する。
【0023】
ここで、
図4Bに示すように、上記した方法で工作物Wの切削加工を行うと、加工後の工具本体51の刃先には、切削加工時に工作物Wに含有される成分が溶着する。そして、発明者は、切れ刃55と外周面53及び端面54のうち切れ刃55の近傍部分とを含む領域Pに溶着する溶着物C1の主成分がアルミナであることを見いだした。
【0024】
また、SUJ2は、非金属介在物の清浄度を0.18%以下とすること、及び、B系介在物及びC系介在物の清浄度を0.05%以下とすることがJISG4805に規定されており、アルミナは、B系介在物に分類される。つまり、領域Pに付着したアルミナは、工作物Wに含有されていたB系介在物の一部であり、切削加工時に工作物Wに含有されるアルミナが、加工後の工具本体51の刃先の領域Pに溶着したと考えられる。
【0025】
領域Pに溶着した溶着物C1は、領域Pを被膜し、切削加工時に発生した切削熱が刃先に伝達されることを抑制する保護膜としての役割を果たす。即ち、環状工具50は、アルミナを主成分とする溶着物C1が刃先に被膜されることにより、刃先の摩耗を抑制することができる。このように、切削装置1は、刃先にアルミナを主成分とする溶着物C1を被膜させながら切削加工を行うことにより、環状工具50の工具寿命を向上させることができる。
【0026】
また、切削加工後の工具本体51の刃先に付着した溶着物Cに関して、領域Pよりも切れ刃55から離れた外周面53及び端面54の領域Qに溶着する溶着物C2の主成分は、ケイ素の酸化物である。更に、領域Qよりも切れ刃55から更に離れた外周面53及び端面54の領域Rに溶着する溶着物C3の主成分は、鉄の酸化物である。
【0027】
ここで、ケイ素の酸化物は、アルミナよりも融点が低く、鉄の酸化物は、ケイ素の酸化物よりも融点が低い。このことから、環状工具50による工作物Wの加工部位に発生する切削熱は、アルミナの融点よりも低く、且つ、ケイ素の酸化物及び鉄の酸化物の融点よりも高い温度に到達し、領域Pに溶着したケイ素の酸化物及び鉄の酸化物は、切削加工時に発生した切削熱によって溶融したと考えられる。
【0028】
つまり、切削装置1は、環状工具50による工作物Wの加工部位に発生する切削熱が、アルミナの融点よりも低く、且つ、ケイ素の酸化物及び鉄の酸化物の融点よりも高い温度となるように、切削加工を行う。これにより、切削装置1は、領域Pに付着したケイ素の酸化物や鉄の酸化物を切削熱によって溶融させつつ、領域Pに溶着したアルミナを残存させることができ、その結果、アルミナを主成分とする溶着物C1によって領域P(切れ刃55及び切れ刃55近傍)を被膜することができる。
【0029】
さらに、領域Pに溶着するアルミナの結晶構造は、αアルミナである。これに対し、熱処理後の工作物Wに含有されるアルミナの結晶構造は、γアルミナである。つまり、SUJ2に含有されていたγアルミナは、切削加工時に発生する切削熱によって加熱され、γアルミナからαアルミナに変態したと考えられる。なお、αアルミナは、γアルミナと比べて耐熱性及び耐摩耗性に優れており、刃先を被膜する保護膜としてのαアルミナは、γアルミナと比べて、環状工具50の工具寿命の向上を図る点において有利である。
【0030】
なお、一般的に、切削工具は、切削加工時に加工部位に発生する切削熱が高いほど、早期に摩耗する。従って、切削加工を行う際、加工部位の切削熱が高くなり過ぎないように切削工具の回転速度及び送り速度を制限することが通常である。つまり、従来の切削加工において、γアルミナからαアルミナに変態する温度まで切削熱が到達するような回転速度及び送り速度で切削加工を行うと、切削工具が早期に摩耗するという考え方が一般的であった。
【0031】
これに対し、切削装置1は、環状工具50の回転速度及び送り速度を、切削熱がγアルミナからαアルミナに変態する温度(変態点)に到達するような回転速度及び送り速度に設定することで、刃先にαアルミナを溶着させつつ、工作物Wに対する切削加工を行う。これにより、切削装置1は、回転速度及び送り速度を高速にして工作物Wの切削加工に要する時間の短縮を図りつつ、工具本体51の刃先がαアルミナを主成分とする溶着物C1に被膜されることによって刃先の摩耗を軽減することができる。よって、切削装置1は、環状工具50の工具寿命の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0032】
なお、本実施形態において、切削装置1は、環状工具50の回転速度及び送り速度を、切削熱が変態点に到達するような回転速度及び送り速度に設定し、領域Pにαアルミナを主成分とする溶着物C1を溶着させながら切削加工を行う。従って、環状工具50の回転速度及び送り速度は、工作物Wに含有されるγアルミナをαアルミナへ変態させるのに十分な切削熱を発生させるのに十分な速度を設定すればよく、加工部位に発生させる熱は、工作物Wに応じて決定すればよい。
【0033】
さらに、環状工具50は、環状の切れ刃55を備え、切削装置1は、環状工具50を回転させながら切削加工を行うので、切れ刃55のうち工作物Wに接触する部位は、環状工具50の回転に伴って変わる。そのため、切れ刃55のうち工作物Wに接触した部位及びその部位に溶着した溶着物Cは、工作物Wから離れて再び工作物Wに接触するまでの間に冷却される。よって、環状工具50は、工具本体51への切削熱の伝達を抑制できるので、環状工具50の工具寿命を向上させることができる。
【0034】
これに加えて、切れ刃55のうち工作物Wに接触する部位は、環状工具50の回転に伴って変わるので、シングルポイント加工のように切れ刃55の特定部位を継続して工作物Wに接触させる場合に生じる、いわゆる構成刃先と比べて、領域Pに溶着する溶着物C1の部位あたりの厚みの成長が抑制される。よって、環状工具50を用いた切削加工は、領域Pに溶着する溶着物C1によって環状工具50の刃先形状が変化することを抑制できる。その結果、環状工具50を用いた切削加工は、環状工具50による工作物Wの加工精度を維持することができる。
【0035】
以上説明したように、切削装置1は、切削加工時に工作物Wに含有されるアルミナを、切れ刃55、及び、切れ刃55近傍の外周面53及び端面54を含む領域Pに被膜しながら切削加工を行う。これにより、環状工具50を用いた切削加工は、環状工具50の回転速度及び送り速度を高速にすることで切削加工時に加工部位で発生する切削熱が上昇したとしても、アルミナを主成分とする溶着物C1によって切削熱が領域Pに伝わることを抑制できる。即ち、環状工具50を用いた切削加工は、環状工具50の回転速度及び送り速度を高く設定しつつ、環状工具50の刃先である切れ刃55、すくい面としての外周面53、及び、逃げ面としての端面54が早期に摩耗することを抑制できるので、加工能率の向上と工具寿命の向上とを両立させることができる。
【0036】
そして、環状工具50を用いた切削加工は、切削加工時にγ-アルミナからα-アルミナへ変態する温度を超える切削熱が発生するように、環状工具50の回転速度及び送り速度を高速に設定するので、工作物Wの加工能率を向上させることができる。よって、環状工具50を用いた切削加工は、加工能率の向上と工具寿命の向上とを両立させることができる。
【0037】
(3.その他)
以上、上記実施形態に基づいて本発明を説明したが、上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。また、上記実施形態で挙げた数値は一例であって、他の数値を適用することも可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態では、工作物WがSUJ2である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、本発明の切削加工方法は、アルミナを含有する工作物Wであれば、SUJ2以外の工作物Wの切削加工に適用することが可能である。また、上記実施形態では、環状工具50の工具本体51がCBNである場合を例に挙げて説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、工具本体51がCBN以外の材料、例えば、超硬合金やセラミックス等で構成されていてもよい。
【0039】
上記実施形態では、切削装置1がクーラントを使用しないドライ加工による切削加工を行う場合について説明したが、領域Pに付着する溶着物C1の主成分がアルミナとなるのに十分な切削熱を加工部位に発生させることができる場合には、クーラントを供給しながら切削加工を行ってもよい。例えば、切削装置1は、切削加工時に加工部位で発生する温度がαアルミナの融点を超える場合に、クーラントを供給し、加工部位に発生する温度がαアルミナの融点以下となるように調整してもよい。
【符号の説明】
【0040】
50:環状工具、 53:外周面、 54:端面、 55:切れ刃、 C,C1,C2,C3:溶着物、 W:工作物