(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】積層体及び真空断熱材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220614BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20220614BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220614BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20220614BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220614BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20220614BHJP
F16L 59/065 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B32B27/00 D
B32B27/26
B32B9/00 A
B32B15/08 N
B32B27/30 A
B32B27/28 102
F16L59/065
(21)【出願番号】P 2018040728
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆太
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-138638(JP,A)
【文献】特開2016-188662(JP,A)
【文献】特開2006-327098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F16L 59/065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム、第1のガスバリア層、第2のガスバリア層及びシーラント層をこの順に積層して成る積層体において、
前記第1のガスバリア層が無機物又は金属の蒸着膜を有する蒸着フィルムであり、
前記第2のガスバリア層がエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムであり、
前記各層が互いにアクリル系粘着剤層を介して接合されて
おり、
前記アクリル系粘着剤層は、アクリル系粘着剤主剤とこれを架橋する架橋剤とを互いに反応させて架橋したものであることを特徴とする積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の積層体を外装フィルムとして、この外装フィルムでコア材を密封したことを特徴とする真空断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体に関するもので、この積層体は、例えば、真空断熱材の外装フィルムとして適している。
【背景技術】
【0002】
真空断熱材は、例えば、冷蔵庫や低温コンテナあるいは住居の外壁材等に適用して、その内外の熱伝導を遮断するものである。その断熱性能の優れた真空断熱材として、コア材2を外装フィルムである積層体1内に封入し、内部を真空排気して外装フィルムである積層体1をヒートシールすることにより密封した構成の真空断熱材Aが知られている(
図2参照)。
【0003】
この外装フィルムである積層体1は、外部からのガスの侵入を防ぎ、内部を長期間真空状態に保持するために、ガスバリア性に優れたものである必要がある。そこで、2層のガスバリア層を使用して、高いガスバリア性を持たせた外装フィルムである積層体1が知られている(特許文献1)。この2層のガスバリア層は、例えば、その一方のガスバリア層はアルミナ等の無機物を蒸着した蒸着フィルムであり、他方のガスバリア層はアルミニウム等の金属を蒸着した蒸着フィルムである。
【0004】
この外装フィルムである積層体1はガスバリア性に優れると共に、ヒートシール部分を折り曲げてもガスバリア性を維持できるという優れたものであった。
【0005】
しかしながら、例えば、冷蔵庫等に適用する場合には、真空断熱材に溝を付ける必要があり、この溝で屈曲されるため、真空断熱材はこの屈曲に沿って変形させる必要がある。しかしながら、従来の真空断熱材の外装フィルムは、この屈曲で部分的に引き伸ばされるため、ガスバリア性が低下して真空断熱材の断熱性能が低下することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、真空断熱材を変形させた場合でもガスバリア性が低下しない外装フィルムとして使用できる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、基材フィルム、第1のガスバリア層、第2のガスバリア層及びシーラント層をこの順に積層して成る積層体において、
前記第1のガスバリア層が無機物又は金属の蒸着膜を有する蒸着フィルムであり、
前記第2のガスバリア層がエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムであり、
前記各層が互いにアクリル系粘着剤層を介して接合されており、
前記アクリル系粘着剤層は、アクリル系粘着剤主剤とこれを架橋する架橋剤とを互いに反応させて架橋したものであることを特徴とする積層体である。
【0012】
次に、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の積層体を外装フィルムとして、この外装フィルムでコア材を密封したことを特徴とする真空断熱材である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層体は、従来技術と同様に2層のガスバリア層を有しているため、ガスバリア性に優れており、しかも、ヒートシール部分を屈曲してもガスバリア性を維持することができる。
【0014】
ところで、アクリル系粘着剤はヤング率が低く、柔軟性に富む。本発明の積層体では、基材フィルム、第1のガスバリア層、第2のガスバリア層及びシーラント層の各層をこのアクリル系粘着剤層を介して接合しており、第1のガスバリア層と第2のガスバリア層のいずれもアクリル系粘着剤層に挟まれているため、この積層体を伸張した際にもアクリル系粘着剤が各層間で緩衝材の機能を発揮して、ガスバリア層の損傷を防止する。本発明の積層体を外装フィルムとしてコア材を密封した真空断熱材を、屈曲して変形させたときにも、ガスバリア層の損傷が生じることなく、ガスバリア性を維持して、真空断熱材の断熱性能を保つことが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明の積層体の具体例を示す断面説明図である。
【
図2】
図2は真空断熱材の例に係り、
図2(a)はその斜視説明図、
図2(b)はその断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
【0017】
図1は本発明の積層体の具体例を示す断面説明図である。この図から分かるように、積層体1は、基材フィルム11、第1のガスバリア層12、第2のガスバリア層13及びシーラント層14をこの順に積層して構成されるもので、各層11,12,13,14は互いにアクリル系粘着剤層a1,a2,a3を介して接合されている。すなわち、基材11と第1のガスバリア層12とはアクリル系粘着剤層a1を介して接合されており、第1のガスバリア層12と第2のガスバリア層13とはアクリル系粘着剤層a2を介して接合されている。また、第2のガスバリア層13とシーラント層14とはアクリル系粘着剤層a3を介して接合されている。このように、第1のガスバリア層と第2のガスバリア層とは、そのいずれもがアクリル系粘着剤層に挟まれている。
【0018】
基材フィルム11としては、任意の樹脂フィルムを使用することができる。単層構造のフィルムでもよいし、複数の樹脂フィルムを積層した多層構造の積層フィルムであってもよい。また、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムのいずれでもよい、寸法安定性に優れる点から、一軸延伸フィルムや二軸延伸フィルムを好適に利用できる。また、その厚みは、例えば、3~200μmであってよい。
【0019】
この基材フィルム11に利用できる樹脂フィルムを例示すると、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ビニルアルコール系樹脂フィルム等を挙げることができる。ポリエステル系樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のフィルムを例示できる。ポリアミド系樹脂フィルムとしては、ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のフィルムを挙げることができる。また、ポリオレフィン系樹脂フィルムとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のフィルムを例示できる。ビニルアルコール系樹脂フィルムとしては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のフィルムが挙げられる。
【0020】
第1のガスバリア層12及び第2のガスバリア層13は、いずれも、真空断熱材内部へのガスの侵入を防止する機能を有するものである。アルミニウム箔等の金属箔であってもよいが、金属箔は熱伝導率が高く、この金属箔を通して真空断熱材内外に熱が伝わり、この結果、断熱性能を低下させることがある。このため、これら第1のガスバリア層12及び第2のガスバリア層13は、いずれも、無機物又は金属の蒸着膜を有する蒸着フィルムで構成することが望ましい。望ましくは無機物の蒸着膜を有する蒸着フィルムである。なお、第1のガスバリア層12又は第2のガスバリア層13として、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムを使用することも可能である。
【0021】
無機物の蒸着膜を有する蒸着フィルム(無機蒸着フィルム)は、その蒸着基材に酸化金属等の無機物の薄膜を形成したものである。この酸化金属としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム(アルミナ)等が使用できる。このような酸化金属の薄膜は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法等の気相成長法によって形成することができる。無機蒸着フィルムの蒸着基材としては、ポリアミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム等を使用することができる。
【0022】
また、金属の蒸着膜を有する蒸着フィルム(金属蒸着フィルム)は、その蒸着基材に金属の薄膜を形成したものである。この金属としてはアルミニウムが使用できる。また、その薄膜は前記気相成長法によって形成することが可能である。金属蒸着フィルムの蒸着基材としては、前記無機蒸着フィルムの蒸着基材と同様に、ポリアミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム等を使用することができる。
【0023】
なお、無機蒸着フィルムの蒸着基材としてポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、しかも、金属蒸着フィルムの蒸着基材としてエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムを使用することが望ましい。この場合には、長期間にわたって耐水性と酸素バリア性とを向上させることが可能となる。
【0024】
なお、第1のガスバリア層12及び第2のガスバリア層13とを同種の蒸着フィルムで構成してもよいし、互いに異種の蒸着フィルムで構成してもよい。例えば、第1のガスバリア層12及び第2のガスバリア層13の両者を無機蒸着フィルムで構成することもできるし、この両者を金属蒸着フィルムで構成することもできる。また、第1のガスバリア層12を無機蒸着フィルムで構成し、他方、第2のガスバリア層13を金属蒸着フィルムで構成することも可能である。もちろん、第1のガスバリア層12を金属蒸着フィルムで構成し、第2のガスバリア層13を無機蒸着フィルムで構成してもよい。
【0025】
次に、シーラント層14には、各種のポリエチレン系の樹脂やポリプロピレンなどが使用することができる。特に、密度が0.935g/cm3以下の直鎖状低密度ポリエチレンフィルムを用いることが好ましい。厚みは30~80μmが好ましい。密度が0.935g/cm3より高く、例えば、密度が0.94g/cm3と高ければ、耐屈曲性が悪くなり、好ましくない。
【0026】
前述のように、これら各層11,12,13,14は互いにアクリル系粘着剤層a1,
a2,a3を介して接合する必要がある。アクリル系粘着剤層a1,a2,a3としては、有機溶剤タイプのアクリル系粘着剤を好適に使用できる。中でも、アクリル系粘着剤主剤とこれを架橋する架橋剤との二液型アクリル系粘着剤が好適である。例えば、アクリル系粘着剤主剤としてトーヨーケム社製オリバインBPS5296を使用し、架橋剤としてトーヨーケム社製オリバインBXX4773を使用して、この両者を混合した後塗布し、両者を反応させて架橋することにより、これらアクリル系粘着剤層a1,a2,a3を形成することが可能である。なお、このアクリル系粘着剤層a1,a2,a3は、ドライラミネーション法によって塗布形成することができる。
【0027】
こうして各層11,12,13,14をアクリル系粘着剤層a1,a2,a3を介して接合することにより、伸張してもガスアリア性の低下のない積層体1を製造することができる。
【0028】
再三に渡って説明したように、この積層体1は真空断熱材の外装フィルムとして好適である。すなわち、この積層体1を使用して袋を製袋し、その開口部からコア材2を収納した後、袋内部を真空吸引しながら、開口部をヒートシールして密封することにより、真空断熱材Aを製造することができる。コア材2としてはガラス繊維などの無機系繊維やポリスチレン繊維などの有機系繊維を用いることができる。また、粉末を固めてボード化したものや、発泡樹脂を用いることもできる。また、発泡パーライト等の粉末を用いてもよい。
【0029】
こうして得られた真空断熱材Aは断熱性能に優れている。しかも、その外装フィルムは、これを屈曲して部分的に伸張したときにも、高いガスバリア性を維持する。例えば、真空断熱材Aを冷蔵庫等に適用する場合には、真空断熱材に溝を付ける必要があり、この溝で屈曲されるため、真空断熱材はこの屈曲に沿って変形し、外装フィルムは約6%伸張される。このように6%伸張したときにも高いガスバリア性を維持するので、優れた断熱性能を保つことが可能となる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例によって本発明を説明する。
【0031】
なお、これら実施例と比較例とは2種類に区分できる。まず、第1のガスバリア層12として、無機物の蒸着膜を形成した無機蒸着フィルムを使用した実施例1及び比較例1である。次に、第1のガスバリア層12として、金属の蒸着膜を形成した金属蒸着フィルムを使用した実施例2及び比較例2である。そこで、これら無機蒸着フィルムを使用した実施例1及び比較例1と金属蒸着フィルムを使用した実施例2及び比較例2とを区分して、各別に説明する。
【0032】
なお、以下の実施例1,2及び比較例1,2で使用した基材フィルム11、第2のガスバリア層13及びシーラント層14は、それぞれ、次のとおりであり、これらは実施例1,2及び比較例1,2に共通している。
【0033】
すなわち、まず、基材フィルム11として、厚さ25μmのポリアミドフィルム(興人フィルム・アンド・ケミカルズ社製ボニールRX)を使用した。
【0034】
第2のガスバリア層13としては、厚さ15μmのエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(クラレ社製TM-XL)を使用した。
【0035】
シーラント層14は、厚さ50μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(アイセロ社製N601)である。
【0036】
(実施例1)
この例では、第1のガスバリア層12として、厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに無機物の蒸着膜を形成した無機蒸着フィルムを使用した。
【0037】
また、各層1,12,13,14を接合する接着剤として、アクリル系粘着剤主剤とこれを架橋する架橋剤との二液型アクリル系粘着剤を使用した。アクリル系粘着剤主剤はトーヨーケム社製オリバインBPS5296であり、架橋剤はトーヨーケム社製オリバインBXX4773である。これら主剤と架橋剤とを混合し、ドライラミネーション法によって塗布した後、主剤と架橋剤とを互いに反応させて架橋させることにより、アクリル系粘着剤層a1,a2,a3を形成した。
【0038】
(比較例1)
この例で使用した第1のガスバリア層12は、実施例1の無機蒸着フィルムと同じである。そして、この例では、各層1,12,13,14を接合する接着剤として、エステル系ラミネート接着剤主剤とこれを架橋する架橋剤との二液型エステル系接着剤を使用した。エステル系ラミネート接着剤主剤は東洋モートン社製TM570であり、架橋剤は東洋モートン社製CAT10Lである。そして、実施例1と同様に、これら主剤と架橋剤とを混合し、ドライラミネーション法によって塗布した後、主剤と架橋剤とを互いに反応させて架橋させることにより、エステル系粘着剤層を形成して、各層1,12,13,14を接合した。
【0039】
(実施例1及び比較例1の評価)
これら実施例1及び比較例1で得られた積層体を6%伸張して、その伸張前後の酸素透過度を測定することにより評価した。なお、酸素透過度は、温度30℃、相対湿度70%の条件下でMOCON法によって測定した。この結果を表1に示す。
【0040】
【0041】
この結果から分かるように、各層1,12,13,14を接合する接着剤としてアクリル系粘着剤を使用した場合(実施例1)には、これ以外の接着剤を使用した場合(比較例1)に比較して、伸張したときのガスバリア性の劣化が著しく少ない。このため、例えば、この積層体を外装フィルムとして使用した真空断熱材は、屈曲して変形させたときにも、優れた断熱性能を保つことが理解できる。
【0042】
(実施例2)
この例では、第1のガスバリア層12として、厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに金属アルミニウムの蒸着膜を形成した金属蒸着フィルムを使用した。各層1,12,13,14を接合する接着剤は、実施例1と同じ二液型アクリル系粘着剤である。
【0043】
(比較例2)
この例で使用した第1のガスバリア層12は、実施例2の金属蒸着フィルムと同じである。また、接着剤は、比較例1の二液型エステル系接着剤と同じである。
【0044】
(実施例2及び比較例2の評価)
これら実施例2及び比較例2で得られた積層体について、6%伸張前後の酸素透過度を測定することにより評価した。なお、酸素透過度の測定は、前述のように、温度30℃、相対湿度70%の条件下でMOCON法によって測定した。この結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
この結果から、第1のガスバリア層12として金属蒸着フィルムを使用した場合でも、
各層1,12,13,14を接合する接着剤としてアクリル系粘着剤を使用した場合(実施例2)には、これ以外の接着剤を使用した場合(比較例2)に比較して、伸張したときのガスバリア性の劣化が少ないことが分かる。
【0047】
なお、実施例1と実施例2とを比較して理解できるように、第1のガスバリア層12として無機蒸着フィルムを使用した方(実施例1)が、金属蒸着フィルムを使用した場合(実施例2)に比較して、伸張したときのガスバリア性の劣化が著しく少ない。
【符号の説明】
【0048】
1:積層体
11:基材フィルム 12:第1のガスバリア層 13:第2のガスバリア層 14:シーラント層
a1~a3:アクリル系粘着剤層