(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】パティキュレート浄化用触媒材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/10 20060101AFI20220614BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20220614BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220614BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220614BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20220614BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20220614BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B01J23/10 A ZAB
B01J37/03 B
B01J37/08
B01D53/94 241
F01N3/24 E
F01N3/10 A
F01N3/035 A
(21)【出願番号】P 2018064499
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 知也
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩一郎
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-535135(JP,A)
【文献】特開2013-154309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/24
F01N 3/10
F01N 3/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Prを含有し、内燃機関の排気ガス中に含まれるパティキュレートを浄化するためのパティキュレート浄化用触媒材であって
、
Zr
と、前記Prの一部とを含有するZr系
複合酸化物材と、
前記Pr
の残部と、1種以上のPr以外の希土類元素とを含むPr系複合酸化物材とを備え
、
X線回折測定を行ったときに、蛍石型構造に由来する(220)反射ピークとして、前記Zr系複合酸化物材由来のピークと、前記Pr系複合酸化物材由来のピークがそれぞれ別のピークとして観測されるとともに、Pr
6
O
11
の(220)反射ピークが観測されない状態で、前記Pr系複合酸化物材は前記Zr系複合酸化物材に含有されている
ことを特徴とするパティキュレート浄化用触媒材。
【請求項2】
請求項
1において、
前記希土類元素は、Nd及び/又はYである
ことを特徴とするパティキュレート浄化用触媒材。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2において、
前記Zr系
複合酸化物材は、
さらにNd及び/又はYを含む
ことを特徴とするパティキュレート浄化用触媒材。
【請求項4】
請求項1乃至請求項
3のいずれか一に記載のパティキュレート浄化用触媒材を製造する方法であって、
少なくとも、Zr塩
とPr塩とを共沈させて第1共沈物を得る共沈工程と、
前記第1共沈物に対し、Pr塩と希土類元素を含有する塩とを加えて共沈させることにより第2共沈物を得る添加工程と、
前記第2共沈物を乾燥させる乾燥工程と、
乾燥させた前記第2共沈物を焼成させる焼成工程とを備えた
ことを特徴とするパティキュレート浄化用触媒材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パティキュレート浄化用触媒材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやリーンバーンガソリンエンジンの排気ガス中には炭素を主成分とするパティキュレート(微粒子状のパティキュレートマター)が含まれている。そこで、排気ガス通路にフィルタを配置してパティキュレートを捕集するとともに、その捕集量が多くなったときに、パティキュレートを燃焼させてフィルタから除去することにより、フィルタを再生することが行なわれている。そして、パティキュレートの燃焼を促進するためにフィルタ本体に触媒が担持されている。
【0003】
そのような触媒に使用される触媒材として、例えば、Zrと、Ce以外の希土類元素とを含むZr系複合酸化物が知られている(例えば、特許文献1参照)。Zr系複合酸化物は、酸素交換反応によって活性な酸素を放出することで、パティキュレートを効率よく燃焼させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、希土類元素であるPrは容易に価数変化を生じることから、Pr酸化物(Pr6O11)は高い酸素放出特性を有することが知られており、パティキュレート浄化用の触媒材として期待できる。
【0006】
しかしながら、Pr酸化物を単独でフィルタに担持させると、シンタリングにより触媒性能が低下するという課題があった。
【0007】
そこで本発明では、Prの耐シンタリング性を向上させることで、さらにパティキュレート燃焼性能の高いパティキュレート浄化用触媒材をもたらすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、ここに開示する第1の技術に係るパティキュレート浄化用触媒材は、Prを含有し、内燃機関の排気ガス中に含まれるパティキュレートを浄化するためのパティキュレート浄化用触媒材であって、Zrと、前記Prの一部とを含有するZr系複合酸化物材と、前記Prの残部と、1種以上のPr以外の希土類元素とを含むPr系複合酸化物材とを備え、X線回折測定を行ったときに、蛍石型構造に由来する(220)反射ピークとして、前記Zr系複合酸化物材由来のピークと、前記Pr系複合酸化物材由来のピークがそれぞれ別のピークとして観測されるとともに、Pr
6
O
11
の(220)反射ピークが観測されない状態で、前記Pr系複合酸化物材は前記Zr系複合酸化物材に含有されていることを特徴とする。
【0009】
Pr酸化物を単独でパティキュレート浄化用触媒材とすると、シンタリングによりPr酸化物の触媒活性が低下する。本技術によれば、Prを、PrとPr以外の金属元素とを含有する複合酸化物としてパティキュレート浄化用触媒材に含有させることで、Prの耐シンタリング性を向上させることができる。また、パティキュレート浄化用触媒材に含有されるPrの残部を、Prと1種以上のPr以外の希土類元素とを含むPr系複合酸化物材として、Zr系複合酸化物材にドープさせた状態とすることで、Prの耐シンタリング性をさらに向上させて、パティキュレート燃焼性能の高いパティキュレート浄化用触媒材をもたらすことができる。
【0010】
また、前記パティキュレート浄化用触媒材に含有されるPrは、Pr6O11を形成していない。
【0011】
PrがPr6O11を形成した状態でパティキュレート浄化用触媒材に含有されていると、シンタリングにより劣化し得る。本技術によれば、パティキュレート浄化用触媒材にPr6O11を含有しないことで、パティキュレート浄化用触媒材の耐シンタリング性を向上させることができ、パティキュレート燃焼性能の高いパティキュレート浄化用触媒材をもたらすことができる。
【0012】
第2の技術は、第1の技術において、前記希土類元素は、Nd及び/又はYであることを特徴とする。
【0013】
本技術によれば、Pr系複合酸化物材に希土類元素としてPrよりもイオン半径が小さいNd及び/又はYを固溶させることで、Pr系複合酸化物材の安定性が向上し、耐シンタリング性が向上する。そうして、パティキュレート燃焼性能の高いパティキュレート浄化用触媒材をもたらすことができる。
【0014】
第3の技術は、第1又は第2の技術において、前記Zr系複合酸化物材は、さらにNd及び/又はYを含むことを特徴とする。
【0015】
本技術によれば、Zrと、追加の希土類元素としてCe以外の希土類元素であるNd及び/又はYをさらに含む複合酸化物は優れたPM燃焼性能を有する。ゆえに、このようなZr系複合酸化物材にPr系複合酸化物材を含有させることで、さらにパティキュレート浄化用触媒材のパティキュレート燃焼性能を向上させることができる。
【0016】
ここに開示する第4の技術に係るパティキュレート浄化用触媒材の製造方法は、第1乃至第3の技術のいずれか一に記載のパティキュレート浄化用触媒材を製造する方法であって、少なくとも、Zr塩とPr塩とを共沈させて第1共沈物を得る共沈工程と、前記第1共沈物に対し、Pr塩と希土類元素を含有する塩とを加えて共沈させることにより第2共沈物を得る添加工程と、前記第2共沈物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥させた前記第2共沈物を焼成させる焼成工程とを備えたことを特徴とする。
【0017】
本技術によれば、Zr系複合酸化物材にPr系複合酸化物材がドープされたパティキュレート浄化用触媒材を得ることができる。このパティキュレート浄化用触媒材は、Prの耐シンタリング性に優れ、高いパティキュレート燃焼性能を有することができ、排気ガスの浄化用触媒として有用である。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明によると、Prを、PrとPr以外の金属元素とを含有する複合酸化物としてパティキュレート浄化用触媒材に含有させることで、Prの耐シンタリング性を向上させることができる。また、パティキュレート浄化用触媒材に含有されるPrの少なくとも一部を、Prと1種以上のPr以外の希土類元素とを含むPr系複合酸化物材として、Zr系酸化物材にドープさせた状態とすることで、Prの耐シンタリング性をさらに向上させて、パティキュレート燃焼性能の高いパティキュレート浄化用触媒材をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るパティキュレート浄化用触媒材の構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るパティキュレート浄化用触媒材の製造工程を説明するためのフローチャートである。
【
図3】PrREOxによるカーボン燃焼反応に寄与する内部酸素放出特性への影響を示すグラフである。
【
図4】実施例1~3及び比較例1,2の触媒材についてのX線回折測定結果を示すグラフである。
【
図5】実施例4及び比較例3の触媒材についてのX線回折測定結果を示すグラフである。
【
図6】実施例3及び比較例1の触媒材について、真空中での酸素放出特性を示すグラフである。
【
図7】実施例4及び比較例3,4の触媒材について、真空中での酸素放出特性を示すグラフである。
【
図8】実施例3,4及び比較例1,3の触媒材について、触媒内部酸素(
16O)の放出量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0021】
(実施形態1)
<パティキュレート浄化用触媒材>
実施形態1に係るパティキュレート浄化用触媒材1(以下、「触媒材1」と称することがある。)は、内燃機関の排気ガス中に含まれる炭素を主成分とするパティキュレート(以下、「PM」と称する。)を浄化するためのものである。
【0022】
内燃機関は、排気ガスにPMが含まれるものであればよく、例えば自動車のディーゼルエンジン、リーンバーンガソリンエンジンといったリーン燃焼のエンジンの他、PM排出量は比較的少ないが、ストイキ燃焼の直噴もしくはポート噴射のガソリンエンジン等が挙げられる。
【0023】
触媒材1は、
図1に示すように、Zr系酸化物材11に、PrとPr以外の希土類元素を含有するPr系複合酸化物材12としてドープされた構成となっている。
【0024】
なお、本明細書において、「元素が固溶している状態」とは、添加した元素が格子内に溶け込み固溶体を形成していることを示し、X線回折測定(XRD)により得られたXRD回折ピークが単層を示している状態をいう。また、「元素がドープされている状態」とは、元素が、後述する添加工程S2において添加されたものであることを示し、この状態のXRD回折ピークは、共沈工程S1で得られた共沈物が与えるピークと異なる位置にピークを与え得る。さらに、「元素が担持されている状態」とは、後述する焼成工程S5の後に、蒸発乾固法により元素が添加された状態をいう。そして、「元素が含有されている状態」又は「元素が含まれている状態」とは、触媒材中に、元素が「固溶」、「ドープ」及び/又は「担持」された状態で存在していることをいう。
【0025】
≪Zr系酸化物材≫
Zr系酸化物材11は、Zrを含有する酸化物である。Zr系酸化物材11は、Zrに加え、1種以上のCe以外の希土類元素RE(追加の希土類元素)を含む複合酸化物であってもよい。ZrとCe以外の希土類元素を含む複合酸化物は、優れたPM燃焼性能を有するため、パティキュレート浄化用触媒材1のパティキュレート燃焼性能の向上に資することができる。Ce以外の希土類元素は、具体的には例えば、Pr、Nd、Y、La、及びScの群から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはPr、Ndを含有するZrPrNd複合酸化物や、Pr、Yを含有するZrPrY複合酸化物である。
【0026】
なお、Zr系酸化物材11にPrが含有される場合は、Prは、Pr系複合酸化物材として触媒材1に含有されるだけでなく、Prと、1種以上のPr以外の金属元素としてZrとを含むZr系複合酸化物としても、触媒材1に含有されることになる。
【0027】
≪Pr系複合酸化物材≫
Pr系複合酸化物材12は、Zr系酸化物材11にドープされている。Prと希土類元素とを含むPr系複合酸化物材12として、Zr系酸化物材にドープさせた状態とすることで、Pr酸化物の耐シンタリング性を向上させることができる。Pr系複合酸化物材12をZr系酸化物材11にドープさせた状態とすることで、Pr酸化物の耐シンタリング性をさらに向上させて、パティキュレート燃焼性能の高いパティキュレート浄化用触媒材をもたらすことができる。
【0028】
Pr系複合酸化物材12は、Prと1種以上のPr以外の希土類元素とを含む複合酸化物である。なお、Pr以外の希土類元素は、酸素欠陥の導入による複合酸化物の安定化の観点から、さらにCe以外の3価の希土類元素であることが望ましい。言い換えると、Pr系複合酸化物材12は、Prと、Ce及びPr以外の希土類元素とを含む酸化物であることが望ましい。Prと1種以上のPr以外の希土類元素とを含む複合酸化物は、XRD回折パターンより蛍石型構造をとることが知られており、酸素欠陥を導入することで蛍石型構造を安定化し得ることが知られている。このため、Pr以外の希土類元素は、3価と4価をとり得るCeよりも3価のみをとり得るCe以外の希土類元素であることが望ましい。Pr以外の希土類元素は、具体的には例えば、Nd、Y、La、及びScの群から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはNd及び/又はYである。Prよりもイオン半径が小さいNd及び/又はYを含有させることで、Pr酸化物の安定性が向上し、耐シンタリング性が向上する。
【0029】
<パティキュレート浄化用触媒材の製造方法>
触媒材1の製造工程は、
図2に示すように、共沈工程S1と、添加工程S2と、乾燥工程S3と、粉砕工程S4と、焼成工程S5とを備えている。
【0030】
≪共沈工程≫
共沈工程S1は、Zr塩と、必要に応じてCe以外の希土類元素とをアルカリ性条件下、共沈させて第1共沈物を得る工程である。
【0031】
具体的には例えば、Zr、及び必要に応じてCe以外の希土類元素の硝酸塩の酸性溶液にアルカリ性溶液を加えて中和させ、第1共沈物を得る。
【0032】
≪添加工程≫
添加工程S2は、共沈工程S1で得られた第1共沈物に対し、Pr塩とPr以外の希土類元素を含有する塩とを加え、さらに塩基性溶液を添加して中和させることで、Pr複合酸化物を析出沈殿、すなわちさらに共沈させることにより第2共沈物を得る工程である。この第2共沈物を遠心分離し、上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に必要回数繰り返す。そうして、ゲル状の第2共沈物を得る。
【0033】
≪乾燥工程≫
乾燥工程S3は、上記添加工程S2で得られた第2共沈物を乾燥させる工程である。乾燥方法は、限定する意図ではないが、具体的には例えば、空気中において100℃~180℃程度で5時間~24時間程度保持することにより乾燥させることができる。
【0034】
≪粉砕工程≫
粉砕工程S4は、上記乾燥工程S3で乾燥させた第2共沈物を所望の大きさとなるように粉砕する工程である。粉砕工程S4では、例えばボールミル等により第2共沈物を所望の平均粒径D50となるまで粉砕する。
【0035】
≪焼成工程≫
焼成工程S5は、上記粉砕工程S4で粉砕した第2共沈物を焼成させる工程である。焼成条件は、限定する意図ではないが、具体的には例えば、空気中において300℃~700℃の温度で1時間~4時間程度保持することにより焼成させることができる。
【0036】
こうして、Zr系酸化物材11にPr系複合酸化物材12がドープされた触媒材1を得ることができる。なお、第2共沈物を粉砕する必要がない場合には、粉砕工程S4を省略することができる。
【0037】
<パティキュレート浄化用触媒材の組成、形状、サイズ>
上記のごとく調製された触媒材1は、Zr酸化物(ZrO2)、Pr酸化物(Pr2O3)及び希土類元素酸化物(REOx)からなる組成を有する。
【0038】
触媒材1の上記組成中におけるZr酸化物(ZrO2)の成分量は、触媒性能向上の観点から、好ましくは50モル%以上80モル%以下、より好ましくは55モル%以上75モル%以下、特に好ましくは60モル%以上70モル%以下である。
【0039】
触媒材1の上記組成中におけるPr酸化物(Pr2O3)の成分量は、触媒性能向上の観点から、好ましくは5モル%以上45モル%以下、より好ましくは10モル%以上40モル%以下、特に好ましくは15モル%以上30モル%以下である。
【0040】
触媒材1の上記組成中における希土類元素酸化物(REOx)の成分量は、触媒性能向上の観点から、好ましくは3モル%以上35モル%以下、より好ましくは5モル%以上30モル%以下、特に好ましくは6モル%以上25モル%以下である。
【0041】
触媒材1に含有されるPr酸化物(Pr2O3)成分のうち、Pr系複合酸化物材12(PrREOx)としての成分量は、触媒材1に含有されるPr酸化物(Pr2O3)の総成分量に対する比で、好ましくは0.1以上0.7以下、より好ましくは0.12以上0.6以下、特に好ましくは0.15以上0.5以下である。
【0042】
触媒材1に含有される希土類元素酸化物(REOx)成分のうち、Pr系複合酸化物材12(PrREOx)としての成分量は、触媒材1に含有される希土類元素酸化物(REOx)の総成分量に対する比で、好ましくは0.1以上0.7以下、より好ましくは0.12以上0.6以下、特に好ましくは0.15以上0.5以下である。
【0043】
触媒材1の形状は、特に限定されるものではないが、排気ガスとの接触面積を増加させて、触媒性能を向上させる観点から、例えば粒子状の粉末とすることができる。粉末の平均粒径D50は、特に限定されるものではないが、例えば10nm以上5mm以下とすることができる。粉末の粒子の最大径を最小径で除して得られるアスペクト比は、特に限定されるものではないが、例えば1以上20以下とすることができる。
【0044】
<パティキュレート浄化用触媒材の特徴>
ここに、触媒材1は、Zrと、Prと、1種以上のPr以外の希土類元素とを含有する酸化物材ということができる。触媒材1中において、Prは、Pr以外の金属元素と複合酸化物を形成しており、特に、Prの少なくとも一部は、触媒材1中において、Pr以外の希土類元素と複合酸化物を形成した状態で存在している。そして、Prは、Pr酸化物、特にPr6O11として含有されていない。
【0045】
このような触媒材1は、蛍石型構造を有している。そして、X線回折測定(XRD)を行ったときに、蛍石型構造に由来する(220)反射ピークとして、Zr系酸化物材11由来のピークと、Pr系複合酸化物材12由来のピークがそれぞれ別のピークとして観測されるとともに、Pr酸化物、特にPr6O11の(220)反射ピークが観測されない。
【0046】
Zr系酸化物材11由来のピークと異なる位置に、Pr系複合酸化物材12由来のピークが観測されることは、触媒材1中において、Pr系複合酸化物材12が形成されていることを示している。また、Pr酸化物、特にPr6O11由来のピークが観測されないことは、Pr酸化物、特にPr6O11が形成されていないことを示している。
【0047】
触媒材1は、PrがPr以外の金属元素と複合酸化物を形成して存在することにより、Prの耐シンタリング性が向上するから、その耐熱性が向上するとともに、内部酸素放出性能によるPM燃焼性能に優れる。後述する評価実験1の手法により測定されたカーボン燃焼反応に寄与する内部酸素の放出量について、触媒材1の内部酸素放出量は、添加工程を設けず全ての塩を共沈工程で加えて調製した触媒材に比べ、好ましくは1.03倍以上、より好ましくは1.03倍以上1.20倍以下、特に好ましくは1.03倍~1.10倍にまで増加し得る。
【0048】
また、触媒材1は、Pr系複合酸化物材12の高い酸素放出特性により、排気ガス中のPMと接触して酸素を放出し得る。そうすると、Pr系複合酸化物材12に酸素空孔が形成され得る。そして、形成された酸素空孔を介すことで、Zr系酸化物材11のPM燃焼性能を有効に活用することができると考えられる。ゆえに、触媒材1は、添加工程を設けず全ての塩を共沈工程で加えて調製した触媒材に比べ、特に還元雰囲気において優れた酸素放出特性を発揮し得ると考えられる。
【0049】
<パティキュレート浄化用触媒材の使用方法>
触媒材1は、例えば内燃機関の排気ガス通路に配置されるPM捕集用のパティキュレートフィルタに担持されて使用され得る。触媒材1のパティキュレートフィルタへの担持方法は特に限定されるものではなく一般的な方法を採用することができるが、具体的には例えば、以下のように担持することができる。すなわち、触媒材1は、他の触媒材や、サポート材、そしてバインダ材等とともにイオン交換水に混合され、触媒材1を含むスラリーが調製される。そして、コージェライト、SiC、Si3N4、サイアロン、AlTiO3のような無機多孔質材料から形成されたハニカム構造等を有するフィルタ本体の出口側から、上記スラリーを吸引して、フィルタ本体に含ませる。その後、余分なスラリーをエアブローで除去した後、大気中においてスラリーの乾燥(150℃)及び焼成(500℃で2時間保持)を行う。これにより、フィルタ本体に触媒材1が担持される。
【0050】
他の触媒材やサポート材は、特に限定されるものではないが、具体的には例えば、活性アルミナ材、ZrとCeとを含むCeZr系複合酸化物材等が挙げられる。
【0051】
また、触媒材1や他の触媒材、サポート材には、Pt、Pd、Rh等の触媒金属を含有させてもよい。
【0052】
触媒材1に触媒金属を固溶又はドープさせる場合は、それぞれ共沈工程S1又は添加工程S2において、触媒金属の例えば硝酸塩を酸性溶液に加えることにより行うことができる。他の触媒材、サポート材に触媒金属を固溶又はドープさせる場合も同様に行うことができる。また、触媒金属を担持させる場合は、触媒材1、他の触媒材、サポート材に対して、蒸発乾固法等を用いて触媒金属を担持することができる。
【0053】
バインダ材は、触媒材1、他の触媒材、サポート材の粒子間及びフィルタ本体の壁面との密着性を向上させるためのものであり、具体的には例えば、ジルコニアバインダ等が挙げられる。また、バインダ材にも触媒性能を付与する観点から、Zr及びCe以外の希土類元素を含有するZr系複合酸化物や、Ce及びZrを含有するCeZr系複合酸化物の粉末、これらの粉末に触媒金属を含有させた粉末を、平均粒径D50が例えば150nm以下、さらには80nm以下にまで粉砕して得られた微粒子粉末をバインダ材として用いてもよい。
【0054】
このように、触媒材1に加え、他の触媒材、サポート材、触媒金属、バインダ材等の他の成分を含有させることで、PM燃焼性能を向上させたり、排気ガスに含有される、例えばHC、CO、NOx等の他の浄化成分の浄化性能を付与したりすることができる。
【0055】
(その他の実施形態)
以下、本発明に係る他の実施形態について説明する。なお、これらの実施形態の説明において、実施形態1と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0056】
上記実施形態1の触媒材1をパティキュレートフィルタへ担持させる方法は、フィルタ本体の壁面に触媒層を1層だけ設ける構成であったが、触媒材1や他の触媒材、サポート材、触媒金属、バインダ材等を含む追加の触媒層を複数積層させる構成としてもよい。
【実施例】
【0057】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0058】
<触媒材>
実施例1~4及び比較例1~4の触媒材の構成を表1に示す。
【0059】
【0060】
以下、実施例1~4及び比較例1~4の各触媒材の調製方法について説明する。なお、表1において、-(ハイフン)を記入している個所は、該当する塩の添加が行われていないことを示している。また、斜線を記入している個所は、添加工程が設けてられていないことを示している。
【0061】
≪実施例1≫
Zr系酸化物材11としてのZrYPrOxに、Pr系複合酸化物材12としてのPrYOxをドープさせた、触媒材1としてのZrYPrOx(組成;70モル%ZrO2-8モル%Y2O3-22モル%Pr2O3)を調製した。
【0062】
オキシ硝酸ジルコニウム(Zr塩)、硝酸イットリウム(Y塩)、及び硝酸プラセオジウム6水和物(Pr塩)をイオン交換水に溶かした後、この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、第1共沈物を得た。(共沈工程)。
【0063】
このゲル状の第1共沈物に、硝酸プラセオジウム6水和物、及び硝酸イットリウムをイオン交換水に溶解させてなる水溶液を加えて、さらに28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより第2共沈物を得た。この第2共沈物を遠心分離し、上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に3回程度数繰り返し、最終的にゲル状の第2共沈物を得た(添加工程)。
【0064】
そして、このゲル状の第2共沈物を空気中において150℃の温度で一昼夜乾燥させた後(乾燥工程)、ボールミルにより粉砕し(粉砕工程)、空気中において500℃の温度に2時間保持する焼成を行うことにより、触媒材1としてのZrYPrOx粉末を得た(焼成工程)。
【0065】
なお、各工程で添加したZr塩、Pr塩、Y塩の添加比率は、表1に示すとおりである。すなわち、Zr塩は共沈工程でのみ添加した。Pr塩の共沈工程及び添加工程における添加比率(共沈工程におけるPr塩量/添加工程におけるPr塩量)は0.85/0.15であった。また、Y塩の共沈工程及び添加工程における添加比率(共沈工程におけるY塩量/添加工程におけるY塩量)は0.85/0.15であった。
【0066】
≪実施例2≫
Pr塩の共沈工程及び添加工程における添加比率(共沈工程におけるPr塩量/添加工程におけるPr塩量)は0.75/0.25であった。また、Y塩の共沈工程及び添加工程における添加比率(共沈工程におけるY塩量/添加工程におけるY塩量)は0.75/0.25であった。
【0067】
上記以外は実施例1と同様に触媒材1としてのZrYPrOxを調製した。
【0068】
≪実施例3≫
Pr塩の共沈工程及び添加工程における添加比率(共沈工程におけるPr塩量/添加工程におけるPr塩量)は0.5/0.5であった。また、Y塩の共沈工程及び添加工程における添加比率(共沈工程におけるY塩量/添加工程におけるY塩量)は0.5/0.5であった。
【0069】
上記以外は実施例1と同様に触媒材1としてのZrYPrOxを調製した。
【0070】
≪実施例4≫
Zr系酸化物材11としてのZrNdPrOxに、Pr系複合酸化物材12としてのPrNdOxをドープさせた、触媒材1としてのZrNdPrOx(組成;70モル%ZrO2-8モル%Nd2O3-22モル%Pr2O3)を調製した。
【0071】
オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ネオジム6水和物、及び硝酸プラセオジウム6水和物をイオン交換水に溶かした後、この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、第1共沈物を得た。(共沈工程)。
【0072】
この第1共沈物に、さらに硝酸プラセオジウム6水和物、及び硝酸ネオジム6水和物をイオン交換水に溶解させてなる水溶液を加えて、さらに28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより第2共沈物を得た。この共沈物を遠心分離し、上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に3回程度数繰り返し、最終的にゲル状の第2共沈物を得た(添加工程)。
【0073】
そして、このゲル状の第2共沈物を空気中において150℃の温度で一昼夜乾燥させた後(乾燥工程)、ボールミルにより粉砕し(粉砕工程)、空気中において500℃の温度に2時間保持する焼成を行うことにより、触媒材1としてのZrNdPrOx粉末を得た(焼成工程)。
【0074】
なお、各工程で添加したZr塩、Pr塩、Nd塩の添加比率は、表1に示すとおりである。すなわち、Zr塩は共沈工程でのみ添加した。Pr塩の共沈工程及び添加工程における添加比率(共沈工程におけるPr塩量/添加工程におけるPr塩量)は0.5/0.5であった。また、Nd塩の共沈工程及び添加工程における添加比率(共沈工程におけるNd塩量/添加工程におけるNd塩量)は0.5/0.5であった。
【0075】
≪比較例1≫
添加工程を設けず、Zr塩、Pr塩、Y塩の全てを共沈工程で加えた以外は、実施例1と同様に触媒材としてのZrYPrOx粉末を得た。
【0076】
≪比較例2≫
Y塩を全て共沈工程で加えた。そして、添加工程では、硝酸プラセオジウム6水和物の水溶液を加えた。なお、Pr塩の共沈工程及び添加工程における添加比率(共沈工程におけるPr塩量/添加工程におけるPr塩量)は0.5/0.5であった。
【0077】
上記以外は、実施例1と同様に触媒材としてのZrYPrOx粉末を得た。
【0078】
≪比較例3≫
添加工程を設けず、Zr塩、Pr塩、Nd塩の全てを共沈工程で加えた以外は、実施例4と同様に触媒材としてのZrNdPrOx粉末を得た。
【0079】
≪比較例4≫
オキシ硝酸ジルコニウム、及び硝酸ネオジム6水和物をイオン交換水に溶かした後、この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、共沈物を得た。この共沈物を遠心分離し、上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に3回程度数繰り返し、最終的にゲル状の共沈生成物を得た(共沈工程)。この共沈生成物を空気中において150℃の温度で一昼夜乾燥させた後(乾燥工程)、空気中において500℃の温度に2時間保持する焼成を行うことにより、ZrNdOx粉末(90モル%ZrO2-10モル%Nd2O3)を得た(焼成工程)。
【0080】
その後、ZrNdOx粉末に対し、硝酸プラセオジウム6水和物をイオン交換水に溶解させてなる水溶液を用いて、蒸発乾固法によりPr2O3を担持した。なお、ZrNdOx粉末に対するPr2O3の担持量は20質量%であった。
【0081】
<評価実験>
実施例1~4及び比較例1~4の触媒材に対し、大気雰囲気中で800℃の温度に24時間保持するエージングを施した。その後、以下の方法で各触媒特性を調べた。
【0082】
≪評価実験1≫
評価実験1として、カーボン燃焼反応に寄与する内部酸素放出特性への影響を以下の方法で調べた。
【0083】
すなわち、上記エージング済みの各複合酸化物粉末80mgとカーボンブラック20mg(シグマアルドリッチ製)を、メノウ乳鉢を用いて1分間混合してサンプル粉末を調製した。このサンプル粉末を円筒状の石英管に入れた。そして、石英管の長手方向の両側からシリカウールを挿入して、サンプル粉末をシリカウールで挟み込む形にした。次に、石英管にHeガスを流しながらサンプル粉末を580℃まで昇温させた。その後、同温度で、ガスをHeガスから3.5%
18O
2含有Heガス(流量;100cc/分)に切り換えた。このガスの切り換えから10分間にわたって、カーボンの酸化反応によって排出されるCO
2(C
16O
2,C
16O
18O)の濃度を四重極質量分析計(キヤノンアネルバテクニクス株式会社製)を用いて測定し、カーボン酸化反応に使用された内部酸素(
16O)の放出量(mmol/g)を求めた。結果を
図3に示す。
【0084】
実施例1~3及び比較例1,2の触媒材は、希土類元素REとしてYを含有するものである。
図3中C1で示す比較例1の触媒材は、添加工程を設けず、全ての塩を共沈工程で加えたものであり、比較例2(C2)の触媒材は、添加工程でY塩を添加せずPr塩のみを添加したものである。比較例1の触媒材に対し、比較例2の触媒材では、内部酸素の放出量は低下しており、触媒材のカーボン燃焼性能に寄与する内部酸素放出能が低下していることが判る。これに対し、実施例1~3の触媒材は、共沈工程と添加工程の両方でPr塩及びY塩を添加したものである。実施例1~3の触媒材では、比較例1の触媒材に比べて、内部酸素の放出量は増加しており、内部酸素放出能が向上していることが判る。また、実施例1~3の触媒材の内部酸素の放出量を比較すると、添加工程で添加するPr塩及びY塩の添加量が増加するにつれて、内部酸素の放出量も徐々に増加しており、内部酸素放出能が向上していることが判る。
【0085】
実施例4及び比較例3の触媒材は、希土類元素REとしてNdを含有するものである。この場合も比較例3の触媒材に比べて、実施例4の触媒材では、内部酸素の放出量が増加しており、内部酸素放出能が向上していることが判る。
【0086】
なお、比較例1,実施例1,2,3の触媒材の内部酸素の放出量は、
図3からそれぞれ24.6mmol/g、25.4mmol/g、25.45mmol/g、26.1mmol/gであるから、比較例1の触媒材に対して実施例1,2,3の触媒材では、その内部酸素の放出量は、それぞれ1.03倍、1.035倍、1.06倍に増加していると言える。
【0087】
また、比較例3,実施例4の触媒材の内部酸素の放出量は、
図3からそれぞれ23.25mmol/g、24.6mmol/gであるから、比較例3の触媒材に対して実施例4の触媒材では、その内部酸素の放出量は、1.06倍に増加していると言える。
【0088】
そうすると、添加工程を設けず全ての塩を共沈工程で加えた比較例1,3の触媒材に比べ、添加工程を設けてPr塩及びRE塩を部分的に添加工程で添加した実施例1~4の触媒材では、内部酸素の放出量は1.03倍~1.06倍に増加したと言える。
【0089】
≪評価実験2≫
評価実験2として、上記エージング済みの各複合酸化物粉末についてX線回折測定(XRD)を実施した。蛍石型構造に由来する(220)反射ピーク位置から、ZrREPrOxの形成、及びPrREOxの形成、すなわちPrOxに対するRE(RE=Y、Nd)の固溶の有無について考察した。結果を
図4(RE=Y)及び
図5(RE=Nd)に示す。
【0090】
なお、Pr
6O
11(220)反射ピークは、2θ=47度(
図4,
図5中一点鎖線で示す。)に現れることが判っている。そして、PrOxに対してREが固溶して複合酸化物であるPrREOxが形成されている場合には、2θ=47度のピークは右側にシフトすることが判っている。
【0091】
図4に示すように、添加工程を設けず、全ての塩を共沈工程で加えた比較例1(C1)の触媒材では、2θ=48.9度にZrYPrOx由来のピーク(
図4中破線で示す。)が現れている。そして、2θ=47度にはPr
6O
11由来のピークは現れていない。
【0092】
これに対し、添加工程を設け、添加工程でPr塩のみ添加した比較例2(C2)の触媒材では、ZrYPrOx由来のピークが右側にシフトするとともに、2θ=47.6度及び2θ=47度にピークが現れている。
【0093】
ZrYPrOx由来のピークが右側にシフトしたことは、比較例2(C2)の触媒材において、ZrYPrOx中のPrの含有量が減少したことを示していると考えられる。そして、2θ=47.6度及び2θ=47度にピークが現れたことは、添加工程で添加したPrが、その一部は複合酸化物であるPrYOx(2θ=47.6度)を形成するとともに、他の一部はPrOx(2θ=47度)を形成して、ZrYPrOx中にドープされていることを示していると考えられる。
【0094】
そして、実施例1~3(E1~E3)の触媒材では、ZrYPrOx由来のピークは、比較例1(C1)の触媒材に比べてそれぞれ右側にシフトすることが判った。そして、比較例2(C2)の触媒材で観測された2θ=47.6度近傍のピークは観測される一方、2θ=47度のピークは消失した。このことは、実施例1~3(E1~E3)の触媒材では、添加工程で添加されたPr及びYは、複合酸化物であるPrYOxを形成してZrYPrOx中にドープされており、PrOxは形成されていないことを示している。
【0095】
また、
図5に示すように、RE=Ndの触媒材においても、比較例3(C3)の触媒材では、2θ=48.6度にZrNdPrOx由来のピーク(
図5中破線で示す。)が現れ、2θ=47度にはピークは現れていないことが判る。そして、実施例4(E4)の触媒材では、ZrNdPrOx由来のピークは右側にシフトするとともに、2θ=47.2度近傍にピークが現れ、2θ=47度のピークは観測されなかった。ZrNdPrOx由来のピークが右側にシフトしたことは、ZrNdPrOx中のNd,Prの含有量が減少していることを示している。そして、2θ=47.2度にピークが現れ、2θ=47度のピークが観測されなかったことは、添加工程で添加したPrとNdは、複合酸化物であるPrNdOxを形成してZrNdPrOx中にドープされており、PrOxは形成されていないことを示していると考えられる。
【0096】
≪評価実験3≫
評価実験3として、真空中での酸素放出特性の低温化効果を以下の方法により調べた。
【0097】
すなわち、上記エージング済みの各複合酸化物粉末を25トンの加圧力で圧粉し、その後に粉砕し、整粒した各サンプルを100mg秤量して石英管に挿入した。サンプルを石英管の長手方向の両側からシリカウールで挟み込む形にした。前処理として、10%O
2含有Heガス(流量;100cc/分)を流しながら650℃まで10℃/分で昇温し、サンプルの酸化処理を実施した。その後に同ガス雰囲気中にて90℃まで降温し、30分間保持した。そして、石英管内を真空排気雰囲気に切り替え、90℃から650℃まで10℃/分で昇温した。昇温中に粉末から脱離したO
2の量、すなわちO
2放出量(mmol/s・g)を質量分析計(キヤノンアネルバテクニクス株式会社製)にて測定した。そうして、真空中での酸素放出特性を調べた。結果を
図6及び
図7に示す。なお、より低温側でより多くの酸素を放出する触媒材ほど、酸素放出特性は優れているということができる。
【0098】
図6に示すように、RE=Yの触媒材では、比較例1(C1)の触媒材に比べて、実施例3(E3)の触媒材の方が、低温側のO
2放出量が多いことが判る。
【0099】
図7に示すように、RE=Ndの触媒材では、比較例3(C3)の触媒材に比べて、実施例4(E4)の触媒材の方が、低温側のO
2放出量が多いことが判る。また、ZrNdOxにPr
2O
3を担持させた比較例4(C4)の触媒材では、比較例3(C3)及び実施例4(E4)の触媒材と酸素放出特性は大きく異なり、高温側のO
2放出量が多いことが判る。
【0100】
≪評価実験4≫
評価実験4として、Zr系酸化物において特徴的な酸素交換反応特性への影響を以下の方法により調べた。
【0101】
すなわち、上記エージング済みの各複合酸化物粉末を25トンの加圧力で圧粉し、その後に粉砕し、整粒した各サンプルを100mg秤量して石英管に挿入した。サンプルを石英管の長手方向の両側からシリカウールで挟み込む形にした。石英管にHeガスを流しながらサンプルを580℃まで昇温させた後、同温度でHeガスから3.5%
18O
2含有Heガス(流量;100cc/分)に切り換えた。この切り換えから10分間にわたって、サンプルが有する
16O及びガス中の
18Oによって生成する各種のO
2種(
16O
2,
16O
18O,
18O
2)の濃度を四重極質量分析計によって測定し、
16O
2及び
16O
18Oの放出量に基づいて、酸素交換反応によってサンプル内部から放出された格子酸素(
16O)の放出量(mmol/g)を求めた。結果を
図8に示す。
【0102】
RE=Yの触媒材では、比較例1(C1)の触媒材に比べて、実施例3(E3)の触媒材の方が、格子酸素(16O)の放出量が低下していることが判る。
【0103】
RE=Ndの触媒材においても、比較例3(C3)の触媒材に比べて、実施例4(E4)の触媒材の方が、格子酸素(16O)の放出量が低下していることが判る。
【0104】
これらの結果は、比較例1,3の触媒材に比べて、実施例3,4の触媒材では、共沈工程で加えたPr塩及びRE塩の割合が少ないことが関係していると考えられる。
【0105】
このように、実施例3,4の触媒材では、Pr系複合酸化物材の高い酸素放出特性により、カーボンと接触して酸素が放出され得る。そうすると、Pr系複合酸化物材から酸素が引き抜かれることにより酸素空孔が形成され得る。そうして、形成された酸素空孔を介してZr系酸化物材の酸素交換反応が促進されると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、パティキュレート燃焼性能の高いパティキュレート浄化用触媒材をもたらすので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0107】
1 パティキュレート浄化用触媒材
11 Zr系酸化物材
12 Pr系複合酸化物材
S1 共沈工程
S2 添加工程
S3 乾燥工程
S4 粉砕工程
S5 焼成工程