(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】燃料電池用電極触媒層およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220614BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220614BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20220614BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20220614BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220614BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/88 K
B01J23/42 M
B01J37/02 301C
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2018065719
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017156657
(32)【優先日】2017-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 弘幸
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2002/037585(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/046971(WO,A1)
【文献】特開2009-211869(JP,A)
【文献】特開2010-212127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が担持された担体からなる触媒担持粒子と、繊維状物質と、イオン交換容量が異なる第一の高分子電解質および第二の高分子電解質と、を含み、
前記第一の高分子電解質のイオン交換容量は前記第二の高分子電解質のイオン交換容量より大きく、
前記第一の高分子電解質のイオン交換容量は2.2meq/g以上3.0meq/g以下であり、前記第二の高分子電解質のイオン交換容量は2.0meq/g以上2.8meq/g以下であり、
前記第一の高分子電解質のイオン交換容量と、前記第二の高分子電解質のイオン交換容量の差が、0.1meq/g以上0.5meq/g以下であり、
前記触媒担持粒子に対して、前記第一の高分子電解質よりも前記第二の高分子電解質が離れて存在
し、
前記繊維状物質に対して、前記第二の高分子電解質よりも前記第一の高分子電解質が離れて存在する燃料電池用電極触媒層。
【請求項2】
前記繊維状物質の平均繊維長は0.7μm以上、20μm以下である請求項
1に記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項3】
前記第一の高分子電解質のイオン交換容量と、前記第二の高分子電解質のイオン交換容量の差が、0.4meq/g以上である請求項1又は2に記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項4】
前記第一の高分子電解質のイオン交換容量と、前記第二の高分子電解質のイオン交換容量の差が、0.5meq/g以上である請求項1又は2に記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項5】
前記第一の高分子電解質のイオン交換容量は2.7meq/g以上3.0meq/g以下であり、前記第二の高分子電解質のイオン交換容量は2.2meq/g以上2.8meq/g以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項6】
触媒が担持された担体からなる触媒担持粒子と、繊維状物質と、イオン交換容量が異なる第一の高分子電解質および第二の高分子電解質と、を含み、
前記第一の高分子電解質のイオン交換容量は前記第二の高分子電解質のイオン交換容量より大きく、
前記第一の高分子電解質のイオン交換容量は1.4meq/g以上3.0meq/g以下であり、前記第二の高分子電解質のイオン交換容量は0.8meq/g以上2.8meq/g以下であり、
前記第一の高分子電解質のイオン交換容量と、前記第二の高分子電解質のイオン交換容量の差が、0.1meq/g以上0.5meq/g以下であり、
前記触媒担持粒子に対して、前記第一の高分子電解質よりも前記第二の高分子電解質が離れて存在
し、
前記繊維状物質に対して、前記第二の高分子電解質よりも前記第一の高分子電解質が離れて存在する燃料電池用電極触媒層。
【請求項7】
触媒が担持された担体からなる触媒担持粒子、繊維状物質、高分子電解質、および溶媒を含む触媒インクを製造する第一工程と、前記触媒インクを基材上に塗布して前記溶媒を乾燥させることで電極触媒層を形成する第二工程と、を含み、
前記高分子電解質として、イオン交換容量が異なる第一の高分子電解質および第二の高分子電解質を用い、前記第一の高分子電解質のイオン交換容量は前記第二の高分子電解質のイオン交換容量より大きく、
前記第一の高分子電解質のイオン交換容量は0.9meq/g以上3.0meq/g以下であり、前記第二の高分子電解質のイオン交換容量は0.8meq/g以上2.8meq/g以下であり、
前記第一の高分子電解質のイオン交換容量と、前記第二の高分子電解質のイオン交換容量の差が、0.1meq/g以上0.5meq/g以下であり、
前記第一工程は、
前記第一の高分子電解質を含む第一の高分子電解質溶液と前記触媒担持粒子とを前記溶媒中で混合し、前記触媒担持粒子を分散させる処理を経て第一のインクを作製する工程と、
前記第二の高分子電解質を含む第二の高分子電解質溶液と前記繊維状物質とを前記溶媒中で混合し、前記繊維状物質を分散させる処理を経て第二のインクを作製する工程と、
前記第一のインクと前記第二のインクを混合し、前記触媒担持粒子および前記繊維状物質を分散させる工程と、
を含む燃料電池用電極触媒層の製造方法。
【請求項8】
前記繊維状物質の平均繊維長は0.7μm以上、20μm以下である請求項
7に記載の燃料電池用電極触媒層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒層とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと酸素を含む酸化剤ガスとを用いて、触媒を含む電極で水の電気分解の逆反応を起こさせ、熱と同時に電気を生み出す発電システムである。この発電システムは、従来の発電方式と比較して高効率で低環境負荷、低騒音などの特徴を有し、将来のクリーンなエネルギー源として注目されている。用いるイオン伝導体の種類によってタイプがいくつかあり、プロトン伝導性高分子膜を用いた電池は、固体高分子形燃料電池と呼ばれる。
【0003】
燃料電池の中でも固体高分子形燃料電池は、室温付近で使用可能なことから、車載用電源や家庭据置用電源などへの使用が有望視されており、近年、様々な研究開発が行われている。固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜の両面に一対の電極触媒層を配置させた膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:以下、MEAと称すことがある)を、一対のセパレータ板で挟持した電池である。
【0004】
一方のセパレータ板には、電極の一方に水素を含有する燃料ガスを供給するためのガス流路が形成されており、他方のセパレータ板には、電極の他方に酸素を含む酸化剤ガスを供給するためのガス流路が形成されている。
ここで、燃料ガスが供給される上述した他方の電極を燃料極、酸化剤ガスが供給される上述した一方の電極を空気極とする。これらの電極は、高分子電解質と白金系の貴金属などの触媒を担持したカーボン粒子とを積層してなる電極触媒層、およびガス通気性と電子伝導性とを兼ね備えたガス拡散層を備えている。また、これらの電極は、ガス拡散層がセパレータと対向するように配置されている。
【0005】
電極触媒層に対しては、燃料電池の出力密度を向上させるため、ガス拡散性を高める取り組みがなされてきた。電極触媒層中の細孔は、セパレータ板からガス拡散層を通じた先に位置し、複数の物質を輸送する通路の役割を果たす。燃料極は、酸化還元の反応場である三相界面に燃料ガスを円滑に供給するだけでなく、生成したプロトンを高分子電解質膜内で円滑に伝導させるための水を供給する機能を果たす。空気極は、酸化剤ガスの供給と共に、電極反応で生成した水を円滑に除去する機能を果たす。
固体高分子形燃料電池では、燃料極および空気極における物質輸送の妨げにより発電反応が停止する、いわゆる「フラッディング」と呼ばれる現象を防止するため、これまで排水性を高める構成が検討されてきた(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
【0006】
また、固体高分子形燃料電池の実用化に向けての課題は、出力密度や耐久性の向上などが挙げられるが、最大の課題は低コスト化(コスト削減)である。
この低コスト化の手段の一つに、加湿器の削減が挙げられる。膜電極接合体の中心に位置する高分子電解質膜には、パーフルオロスルホン酸膜や炭化水素系膜が広く用いられている。そして、優れたプロトン伝導性を得るためには飽和水蒸気圧雰囲気に近い水分管理が必要とされており、現在、加湿器によって外部から水分供給を行っている。そこで、低消費電力やシステムの簡略化のために、加湿器を必要としないような、低加湿条件下であっても、十分なプロトン伝導性を示す高分子電解質膜の開発が進められている。
【0007】
しかしながら、排水性を高めた電極触媒層では、低加湿条件下において高分子電解質がドライアップするため、電極触媒層構造の最適化を行い、保水性を向上させる必要がある。これまで、低加湿条件下における燃料電池の保水性を向上させるため、例えば、電極触媒層とガス拡散層の間に、湿度調整フィルムを挟み込む方法が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献5には、導電性炭素質粉末とポリテトラフルオロエチレンから構成された湿度調整フィルムが、湿度調節機能を示してドライアップを防止する方法が記載されている。
また、特許文献6には、高分子電解質膜と接する触媒電極層の表面に溝を設ける方法が記載されている。この方法では、触媒電極層の表面に0.1~0.3mmの幅を有する溝を形成することで、低加湿条件下における発電性能の低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-120506号公報
【文献】特開2006-332041号公報
【文献】特開2007-87651号公報
【文献】特開2007-80726号公報
【文献】特開2006-252948号公報
【文献】特開2007-141588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献5および6に記載された方法によれば、電極触媒層の排水性を高める(電極反応で生成した水の除去を阻害しない)と同時に、電極触媒層の低加湿条件下での保水性を改善することが期待できる。しかし、これらの方法で得られた電極触媒層を用いた燃料電池には、低加湿条件下での発電性能や耐久性の点で改善の余地がある。また、これらの方法は煩雑であり、電極触媒層の製造コストが高いという問題点もある。
本発明は、電極反応で生成した水の除去を阻害せずに、低加湿条件下での保水性が改善され、また、低加湿条件下でも高い発電性能と耐久性を示す燃料電池用電極触媒層を提供することを目的とする。また、本発明は、このような燃料電池用電極触媒層を低コストで製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一態様は、下記の構成(1)~(3)を有する燃料電池用電極触媒層である。
(1)触媒が担持された担体からなる触媒担持粒子と、繊維状物質と、イオン交換容量が異なる第一の高分子電解質および第二の高分子電解質と、を含む。第一の高分子電解質のイオン交換容量は第二の高分子電解質のイオン交換容量より大きい。
(2)触媒担持粒子を覆うように第一の高分子電解質が存在し、さらに第二の高分子電解質が第一の高分子電解質を覆うように存在する。すなわち、第一の高分子電解質は触媒担持粒子に近い位置に存在し、第二の高分子電解質は触媒担持粒子から離れた位置に存在する。
(3)繊維状物質を覆うように第二の高分子電解質が存在し、さらに第一の高分子電解質が第二の高分子電解質を覆うように存在する。すなわち、第二の高分子電解質は繊維状物質に近い位置に存在し、第一の高分子電解質は繊維状物質から離れた位置に存在する。
【0012】
本発明の第二態様は、下記の構成(10)~(30)を有する燃料電池用電極触媒層の製造方法である。
(10)触媒が担持された担体からなる触媒担持粒子、繊維状物質、高分子電解質、および溶媒を含む触媒インクを製造する第一工程と、触媒インクを基材上に塗布して溶媒を乾燥させることで電極触媒層を形成する第二工程と、を含む。
(20)高分子電解質として、イオン交換容量が異なる第一の高分子電解質および第二の高分子電解質を用い、第一の高分子電解質のイオン交換容量は第二の高分子電解質のイオン交換容量より大きい。
(30)第一工程は、(31)第一の高分子電解質を含む第一の高分子電解質溶液と触媒担持粒子とを溶媒中で混合し、触媒担持粒子を分散させる処理を経て第一のインクを作製する工程と、(32)第二の高分子電解質を含む第二の高分子電解質溶液と繊維状物質とを溶媒中で混合し、繊維状物質を分散させる処理を経て第二のインクを作製する工程と、(33)第一のインクと第二のインクを混合し、触媒担持粒子および繊維状物質を分散させる工程と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第一態様によれば、電極反応で生成した水の除去を阻害せずに、低加湿条件下での保水性が改善され、低加湿条件下でも高い発電性能を示す燃料電池用電極触媒層が提供される。本発明の第二態様によれば、第一態様の燃料電池用電極触媒層が低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極触媒層を有する膜電極接合体を模式的に示す分解斜視図である。
【
図2】
図1の膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池の構造を模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定されるものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
〔膜電極接合体〕
まず、
図1を用いて、本発明のある実施形態の燃料電池用電極触媒層(以下、電極触媒層ということがある)を有する膜電極接合体について説明する。
図1に示す膜電極接合体11は、高分子電解質膜1と、高分子電解質膜1を高分子電解質膜1の上下各面から狭持する電極触媒層2(
図1中、上側に示す)および電極触媒層3(
図1中、下側に示す)とを備える。また、膜電極接合体11において、2つの電極触媒層2、3は触媒担持粒子と高分子電解質とを備える。
【0017】
2つの電極触媒層2、3の少なくとも一方は、下記の構成(a),(b),(c),(d)を有する。
(a)触媒担持粒子と、繊維状物質と、イオン交換容量が異なる第一の高分子電解質および第二の高分子電解質と、を含む。繊維状物質の平均繊維長は0.7μm以上、20μm以下であることが好ましく、1μm以上、10μm以下であることがより好ましい。
(b)第一の高分子電解質のイオン交換容量は第二の高分子電解質のイオン交換容量より大きい。第一の高分子電解質のイオン交換容量と、第二の高分子電解質のイオン交換容量の差は、0.1meq/g以上0.5meq/g以下であることが好ましく、0.25meq/g以上0.45meq/g以下であることがより好ましい。
【0018】
(c)触媒担持粒子を覆うように第一の高分子電解質が存在し、さらに第二の高分子電解質が第一の高分子電解質を覆うように存在する。すなわち、触媒担持粒子に対して、第一の高分子電解質よりも第二の高分子電解質が離れて存在する。換言すれば、第一の高分子電解質は触媒担持粒子に近い位置に存在し、第二の高分子電解質は触媒担持粒子から離れた位置に存在する。このような第一の高分子電解質と第二の高分子電解質との位置関係は、触媒層断面における触媒近傍の組成分析により測定することで確認することができる。この組成分析の方法としては、例えば、透過型電子顕微鏡像で観察するエネルギー分散型X線分光分析による組成分析等が挙げられる。
【0019】
(d)繊維状物質を覆うように第二の高分子電解質が存在し、さらに第一の高分子電解質が第二の高分子電解質を覆うように存在する。すなわち、繊維状物質に対して、第二の高分子電解質よりも第一の高分子電解質が離れて存在する。換言すれば、第二の高分子電解質は繊維状物質に近い位置に存在し、第一の高分子電解質は繊維状物質から離れた位置に存在する。このような第一の高分子電解質と第二の高分子電解質との位置関係は、触媒層断面における触媒近傍の組成分析により測定することで確認することができる。この組成分析の方法としては、例えば、透過型電子顕微鏡像で観察するエネルギー分散型X線分光分析による組成分析等が挙げられる。
【0020】
前記構成(a),(b),(c),(d)を有する電極触媒層2、3は、高い結晶性の繊維状物質の絡み合いによって、耐久性低下の起因となる電極触媒層のクラック発生を抑制するなど、高い耐久性と機械特性が得られる。また、第一のインクでは、イオン交換容量の大きい第一の高分子電解質が触媒担持粒子に吸着するため、第二のインクと混合しても殆ど混ざらない。イオン交換容量の大きい第一の高分子電解質が、電極反応に寄与する触媒担持粒子に近い位置に存在することにより、低加湿条件下でも電極反応で生成した水を保持することができ、水を加湿用途として有効に活用することができる。また、イオン交換容量の小さい第二の高分子電解質が触媒担持粒子から離れた位置に存在する(つまり、繊維状物質に近い位置に存在する)ことにより、反応ガスの拡散性を高めることができる。
【0021】
第一の高分子電解質のイオン交換容量と、第二の高分子電解質のイオン交換容量の差が0.1meq/gに満たない場合は、第一の高分子電解質が吸着する触媒担持粒子における保水性が改善されず、また、繊維状物質における反応ガスの拡散性を高めることが出来ず、高い発電性能を示さない場合がある。また、第一の高分子電解質のイオン交換容量と、第二の高分子電解質のイオン交換容量の差が0.5meq/gを超える場合は、触媒担持粒子に近接する高分子電解質が水を過剰に保持し、反応ガスの拡散性の確保が困難となる場合がある。
【0022】
繊維状物質の平均繊維長が0.7μmに満たない場合は、繊維状物質の絡み合いが弱い影響で、機械特性が低下する場合がある。また、繊維状物質の平均繊維長が20μmを超える場合は、繊維状物質の絡み合いが強い影響で、インクとして分散できない場合がある。
ここで、前記構成(a),(b),(c),(d)を有する電極触媒層2、3は下記の構成(e)を有することが好ましい。
(e)第一の高分子電解質のイオン交換容量は0.9meq/g以上3.0meq/g以下であり、第二の高分子電解質のイオン交換容量は0.8meq/g以上2.8meq/g以下である。
【0023】
第一の高分子電解質のイオン交換容量が0.9meq/gに満たない場合は、触媒担持粒子に近接する高分子電解質における水の保持が困難となり、触媒活性が低下する場合がある。また、第一の高分子電解質のイオン交換容量が3.0meq/gを超える場合は、触媒担持粒子に近接する高分子電解質が水を過剰に保持し、反応ガスの拡散性の確保が困難となる場合がある。
第二の高分子電解質のイオン交換容量が0.8meq/gに満たない場合は、繊維状物質に近接する高分子電解質における水の保持が困難となり、プロトン伝導性が低下する場合がある。また、第二の高分子電解質のイオン交換容量が2.8meq/gを超える場合は、触媒担持粒子に近接しない高分子電解質が水を過剰に保持し、反応ガスの拡散性の確保が困難となる場合がある。
【0024】
膜電極接合体11では、従来の湿度調整フィルムの適用や、電極触媒層表面への溝の形成によって低加湿化を図る場合とは異なり、界面抵抗の増大による発電特性の低下が見られない。これにより、膜電極接合体11を備える固体高分子形燃料電池によれば、従来の膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池と比較して、低加湿条件下での発電特性が高くなる。
なお、本実施形態では、2つの電極触媒層2、3の少なくとも一方が構成(a),(b),(c),(d)を有する場合について説明したが本発明はこれに限定されるものではない。2つの電極触媒層2、3の少なくとも一方は、構成(a),(b),(c)を有していればよく、また、構成(a),(b),(d)を有していればよい。
【0025】
〔固体高分子形燃料電池〕
次に、
図2を用いて、実施形態の膜電極接合体11を備えた固体高分子形燃料電池について説明する。
図2に示す固体高分子形燃料電池12は、膜電極接合体11の電極触媒層2と対向するように配置される空気極側のガス拡散層4と、電極触媒層3と対向するように配置される燃料極側のガス拡散層5とを備える。電極触媒層2とガス拡散層4とは、空気極(カソード)6を形成する。電極触媒層3とガス拡散層5とは、燃料極(アノード)7を形成する。
【0026】
また、ガス流通用のガス流路8a、8bと、冷却水流通用の冷却水流路9a、9bとを備えた、導電性および不透過性を有する材料よりなる一組のセパレータ10a、10bが、ガス拡散層4および5の外側にそれぞれ配置される。
燃料極7側のセパレータ10bのガス流路8bからは、燃料ガスとして例えば水素ガスが供給される。一方、空気極6側のセパレータ10aのガス流路8aからは、酸化剤ガスとして例えば酸素ガスが供給される。燃料ガスの水素と、酸化剤ガスの酸素とを触媒の存在下で電極反応させることにより、燃料極と空気極の間に起電力を生じさせることができる。
固体高分子形燃料電池12は、一組のセパレータ10a、10bに、高分子電解質膜1と、2つの電極触媒層2、3と、ガス拡散層4,5とが狭持されている。固体高分子形燃料電池12は単セル構造の燃料電池であるが、セパレータ10a又はセパレータ10bを介して複数のセルを積層して固体高分子形燃料電池としても良い。
【0027】
〔電極触媒層の製造方法〕
次に、前記構成(a),(b),(c),(d)を有する電極触媒層2、3の製造方法を説明する。
前記構成(a),(b),(c),(d)を有する電極触媒層2、3は、下記の第一工程と第二工程を含む方法で製造される。
第一工程は、触媒が担持された担体からなる触媒担持粒子、繊維状物質、高分子電解質、および溶媒を含む触媒インクを製造する工程である。第一工程では、高分子電解質として、イオン交換容量が異なる第一の高分子電解質および第二の高分子電解質を用いる。第一の高分子電解質のイオン交換容量は第二の高分子電解質のイオン交換容量より大きい。
【0028】
第一工程は、以下の三工程を有する。一つ目の工程は、第一の高分子電解質を含む第一の高分子電解質溶液と触媒担持粒子とを溶媒中で混合し、触媒担持粒子を分散させる処理を経て第一のインクを作製する工程である。二つ目の工程は、第二の高分子電解質を含む第二の高分子電解質溶液と繊維状物質とを溶媒中で混合し、繊維状物質を分散させる処理を経て第二のインクを作製する工程である。三つ目の工程は、第一のインクと第二のインクを混合し、触媒担持粒子および繊維状物質を分散させる工程である。
【0029】
第二工程は、第一工程で得られた触媒インクを基材上に塗布して溶媒を乾燥させることで、電極触媒層2、3を形成する工程である。
また、電極触媒層2、3を高分子電解質膜1の上下各面に貼り付けることで、膜電極接合体11が得られる。電極触媒層2、3の両方が上述の方法で製造されたものであってもよいし、一方が上述の方法で製造され、他方が従来の方法で製造されたものであってもよい。
なお、第一工程における一つ目の工程と二つ目の工程の順序は問わず、二つ目の工程から先に行ってもよい。
【0030】
〔詳細〕
以下、電極接合体11および固体高分子形燃料電池12について更に詳細に説明する。
高分子電解質膜1としては、プロトン伝導性を有するものであれば良く、例えば、フッ素系高分子電解質膜、炭化水素系高分子電解質膜を用いることができる。フッ素系高分子電解質膜の例として、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)等を用いることができる。
また、炭化水素系高分子電解質膜としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質膜を用いることができる。特に、高分子電解質膜1として、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。
【0031】
電極触媒層2,3は、触媒インクを用いて高分子電解質膜1の両面に形成される。電極触媒層2,3用の触媒インクは、触媒担持粒子と高分子電解質と溶媒を含む。また、電極触媒層2,3の少なくともいずれかに用いる触媒インクは、触媒担持粒子、繊維状物質、イオン交換容量が異なる二種類の高分子電解質、および溶媒を含む。
触媒インクに含まれる高分子電解質としては、プロトン伝導性を有するものであれば良く、高分子電解質膜1と同様の材料を用いることができ、例えば、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質の例として、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料等を用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質を用いることができる。特に、フッ素系高分子電解質として、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。
【0032】
本実施形態で用いる触媒(以下、触媒粒子あるいは触媒と称すことがある)としては、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウムもしくはアルミニウム等の金属又はこれらの合金、酸化物もしくは複酸化物等を用いることができる。なお、ここでいう複酸化物とは2種類の金属からなる酸化物のことをいう。
触媒粒子が、白金、金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、および、イリジウムから選ばれた1種又は2種以上の金属である場合、電極反応性に優れ、電極反応を効率良く安定して行うことができる。触媒粒子が、白金、金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、および、イリジウムから選ばれた1種又は2種以上の金属である場合、電極触媒層2,3を備えた固体高分子形燃料電池12が高い発電特性を示すので好ましい。
【0033】
また、上述した触媒粒子の平均粒子径は、0.5nm以上20nm以下が好ましく、1nm以上5nm以下がより好ましい。ここで、平均粒子径とは、カーボン粒子などの担体に担持された触媒であれば、X線回折法から求めた平均粒子径である。また、担体に担持されていない触媒であれば、粒度測定から求めた算術平均粒子径である。触媒粒子の平均粒子径が0.5nm以上20nm以下の範囲にある場合、触媒の活性および安定性が向上するため好ましい。
【0034】
上述の触媒を担持する電子伝導性の粉末(担体)としては、一般的にカーボン粒子が使用される。カーボン粒子の種類は、微粒子状で導電性を有し、触媒におかされないものであれば限定されるものではないが、例えば、カーボンブラックやグラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレンを用いることができる。
カーボン粒子の平均粒子径は、10nm以上1000nm以下程度が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。ここで、平均粒子径とは、SEM像から求めた平均粒子径である。カーボン粒子の平均粒子径が10nm以上1000nm以下の範囲にある場合、触媒の活性および安定性が向上するため好ましい。電子伝導パスが形成されやすくなり、また、2つの電極触媒層2,3のガス拡散性や触媒の利用率が向上するため好ましい。
【0035】
第二のインクに含有する繊維状物質としては、例えば電子伝導性繊維およびプロトン伝導性繊維を用いることができる。電子伝導性繊維には、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、および、導電性高分子ナノファイバーなどを挙げることができる。導電性や分散性の観点から、カーボンナノファイバーを繊維状物質として用いることが好ましい。
【0036】
触媒能を有する電子伝導性繊維は、貴金属によって形成される触媒の使用量を低減できる点でより好ましい。電極触媒層が酸素極を構成する電極触媒層として用いられる場合には、触媒能を有する電子伝導性繊維には、カーボンナノファイバーから作製したカーボンアロイ触媒を挙げることができる。触媒能を有する電子伝導性繊維は、燃料極用の電極活物質を繊維状に加工した繊維であってもよい。電極活物質には、Ta、Nb、Ti、および、Zrから構成される群から選択される少なくとも一つの遷移金属元素を含む物質を用いることができる。遷移金属元素を含む物質には、遷移金属元素の炭窒化物の部分酸化物、または、遷移金属元素の導電性酸化物、および、遷移金属元素の導電性酸窒化物を挙げることができる。
【0037】
プロトン伝導性繊維は、プロトン伝導性を有する高分子電解質を繊維状に加工した繊維であればよい。プロトン電槽性繊維を形成するための材料には、フッ素系高分子電解質、および、炭化水素系高分子電解質などを用いることができる。フッ素系高分子電解質には、例えば、デュポン社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、および、ゴア社製のGore Select(登録商標)などを用いることができる。炭化水素系高分子電解質には、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、および、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質を用いることができる。これらのなかでも、高分子電解質としてデュポン社製のNafion(登録商標)を用いることが好ましい。
【0038】
繊維状物質には、上述した繊維のうちの一種のみが用いられてもよいし、二種以上が用いられてもよい。繊維状物質として、電子伝導性繊維とプロトン伝導性繊維とを併せて用いてもよい。繊維状物質は、上述した繊維状物質のなかでも、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、および、電解質繊維から構成される群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0039】
触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、触媒物質担持粒子や高分子電解質を浸食することがなく、高分子電解質を流動性の高い状態で溶解又は微細ゲルとして分散できるものあれば特に限定されるものではない。しかしながら、溶媒には、揮発性の有機溶媒が少なくとも含まれていることが望ましい。触媒インクの分散媒として使用される溶媒の例として、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等の極性溶剤等を用いることができる。また、溶媒は、上述の材料のうち二種以上を混合させた混合溶媒を用いても良い。
【0040】
また、触媒インクの分散媒として使用される溶媒として、低級アルコールを用いたものは発火の危険性が高いため、低級アルコールを用いる場合は、水との混合溶媒にするのが好ましい。更に、高分子電解質となじみが良い水(親和性が高い水)が含まれていても良い。水の添加量は、高分子電解質が分離して白濁を生じたり、ゲル化したりしない程度であれば特に制限されるものではない。
触媒物質担持粒子を分散させるために、触媒インクに分散剤が含まれていても良い。分散剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等を挙げることができる。
【0041】
アニオン界面活性剤の例として、アルキルエーテルカルボン酸塩、エーテルカルボン酸塩、アルカノイルザルコシン、アルカノイルグルタミン酸塩、アシルグルタメート、オレイン酸・N-メチルタウリン、オレイン酸カリウム・ジエタノールアミン塩、アルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、特殊変成ポリエーテルエステル酸のアミン塩、高級脂肪酸誘導体のアミン塩、特殊変成ポリエステル酸のアミン塩、高分子量ポリエーテルエステル酸のアミン塩、特殊変成リン酸エステルのアミン塩、高分子量ポリエステル酸アミドアミン塩、特殊脂肪酸誘導体のアミドアミン塩、高級脂肪酸のアルキルアミン塩、高分子量ポリカルボン酸のアミドアミン塩、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等のカルボン酸型界面活性剤、ジアルキルスルホサクシネート、スルホコハク酸ジアルキル塩、1,2-ビス(アルコキシカルボニル)-1-エタンスルホン酸塩、アルキルスルホネート、アルキルスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホネート、直鎖アルキルベンゼンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ポリナフチルメタンスルホネート、ポリナフチルメタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホネート-ホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホネート、アルカノイルメチルタウリド、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、セチル硫酸エステルナトリウム塩、ステアリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイル硫酸エステルナトリウム塩、ラウリルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸型界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩、硫酸アルキル塩、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、アルキルポリエトキシ硫酸塩、ポリグリコールエーテルサルフェート、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、硫酸化油、高度硫酸化油等の硫酸エステル型界面活性剤、リン酸(モノ又はジ)アルキル塩、(モノ又はジ)アルキルホスフェート、(モノ又はジ)アルキルリン酸エステル塩、リン酸アルキルポリオキシエチレン塩、アルキルエーテルホスフェート、アルキルポリエトキシ・リン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、リン酸アルキルフェニル・ポリオキシエチレン塩、アルキルフェニルエーテル・ホスフェート、アルキルフェニル・ポリエトキシ・リン酸塩、ポリオキシエチレン・アルキルフェニル・エーテルホスフェート、高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩、高級アルコールリン酸ジエステルジナトリウム塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛等のリン酸エステル型界面活性剤等が挙げられる。
【0042】
カチオン界面活性剤の例として、ベンジルジメチル{2-[2-(P-1,1,3,3-テトラメチルブチルフェノオキシ)エトキシ]エチル}アンモニウムクロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、テトラデシルアミン酢酸塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂トリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、1-ヒドロキシエチル-2-牛脂イミダゾリン4級塩、2-ヘプタデセニルーヒドロキシエチルイミダゾリン、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン塩酸塩、トリエタノールアミンモノステアレートギ酸塩、アルキルピリジウム塩、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリアクリルアミドアミン塩、変成ポリアクリルアミドアミン塩、パーフルオロアルキル第4級アンモニウムヨウ化物等が挙げられる。
【0043】
両性界面活性剤の例として、ジメチルヤシベタイン、ジメチルラウリルベタイン、ラウリルアミノエチルグリシンナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、アミドベタイン、イミダゾリニウムベタイン、レシチン、3-[ω-フルオロアルカノイル-N-エチルアミノ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、N-[3-(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]-N,N-ジメチル-N-カルボキシメチレンアンモニウムベタイン等が挙げられる。
【0044】
非イオン界面活性剤の例として、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、オレイン酸ジエタノールアミド(1:1型)、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールヤシアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコール牛脂アミン、ポリエチレングリコール牛脂プロピレンジアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ジメチルステアリルアミンオキサイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、ポリビニルピロリドン、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリットの脂肪酸エステル、ソルビットの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、砂糖の脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0045】
上述した界面活性剤の中でも、アルキルベンゼンスルホン酸、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸型の界面活性剤は、カーボンの分散効果、分散剤の残存による触媒性能の変化等を考慮すると、分散剤として、好適に用いることができる。
触媒インク中の高分子電解質の量を多くすると細孔容積は一般に小さくなる。一方、触媒インク中のカーボン粒子の量を多くすると、細孔容積は大きくなる。また、分散剤を使用すると、細孔容積は小さくなる。
【0046】
また、触媒インクは必要に応じて分散処理が行われる。触媒インクの粘度と、触媒インクに含まれる粒子のサイズとを、触媒インクの分散処理の条件によって制御することができる。分散処理は、様々な装置を採用して行うことができる。特に、分散処理の方法は限定されるものではない。例えば、分散処理としては、ボールミルやロールミルによる処理、せん断ミルによる処理、湿式ミルによる処理、超音波分散処理等が挙げられる。また、遠心力で攪拌を行うホモジナイザー等を採用しても良い。細孔容積は、分散時間が長くなるのに伴い、触媒担持粒子の凝集体が破壊されて小さくなる。
【0047】
触媒インク中の固形分含有量は、多すぎると触媒インクの粘度が高くなるため、電極触媒層2および3の表面にクラックが入りやすくなる。一方、触媒インク中の固形分含有量が、少なすぎると成膜レートが非常に遅く、生産性が低下してしまう。したがって、触媒インク中の固形分含有量は、1質量%(wt%)以上50質量%以下であることが好ましい。また、固形分は、触媒物質担持粒子と高分子電解質からなるが、固形分のうち、触媒物質担持粒子の含有量を多くすると、同じ固形分含有量でも粘度は高くなる。一方、固形分のうち、触媒物質担持粒子の含有量を少なくすると、同じ固形分含有量でも粘度は低くなる。したがって、固形分に占める触媒物質担持粒子の割合は10質量%以上80質量%以下が好ましい。また、触媒インクの粘度は、0.1cP以上500cP以下(0.0001Pa・s以上0.5Pa・s以下)程度が好ましく、5cP以上100cP以下(0.005Pa・s以上0.1Pa・s以下)がより好ましい。また触媒インクの分散時に分散剤を添加することで、粘度の制御をすることもできる。
【0048】
また、触媒インクに造孔剤が含まれていても良い。造孔剤は、電極触媒層の形成後に除去することで、細孔を形成することができる。酸やアルカリ、水に溶ける物質や、ショウノウ等の昇華する物質、熱分解する物質等を挙げることができる。造孔剤が、温水で溶ける物質であれば、発電時に発生する水で取り除いても良い。
【0049】
酸やアルカリ、水に溶ける造孔剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム等の酸可溶性無機塩類、アルミナ、シリカゲル、シリカゾル等のアルカリ水溶液に可溶性の無機塩類、アルミニウム、亜鉛、スズ、ニッケル、鉄等の酸又はアルカリに可溶性の金属類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸一ナトリウム等の水溶性無機塩類、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の水溶性有機化合物類等が挙げられる。また、上述した造孔剤は1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いても良いが、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
触媒インクを基材上に塗布する塗布方法としては、例えば、ドクターブレード法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ロールコーティング法等を採用することができる。
【0050】
電極触媒層2,3の製造に用いる基材としては、転写シートを用いることができる。
基材として用いられる転写シートとしては、転写性が良い材質であれば良く、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂を用いることができる。また、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子シート、高分子フィルムを転写シートとして用いることができる。また、基材として転写シートを用いた場合には、高分子電解質膜1に溶媒除去後の塗膜である電極膜を接合した後に転写シートを剥離し、高分子電解質膜1の両面に電極触媒層2,3を備える膜電極接合体11とすることができる。
【0051】
ガス拡散層4,5としては、ガス拡散性と導電性とを有する材質を用いることができる。例えば、ガス拡散層4,5として、カーボンクロス、カーボンペーパー、不織布等のポーラスカーボン材を用いることができる。
セパレータ10(10a,10b)としては、カーボンタイプあるいは金属タイプのもの等を用いることができる。なお、ガス拡散層4,5とセパレータ10(10a,10b)はそれぞれ一体構造となっていても良い。また、セパレータ10(10a,10b)もしくは電極触媒層2,3が、ガス拡散層4,5の機能を果たす場合は、ガス拡散層4,5は省略しても良い。固体高分子形燃料電池12は、ガス供給装置、冷却装置等、その他付随する装置を組み立てることにより製造することができる。
【実施例】
【0052】
以下に、本実施形態における固体高分子形燃料電池用電極触媒層の製造方法について具体的な実施例および比較例を挙げて説明するが、本実施形態は下記の実施例および比較例によって制限されるものではない。
<実施例1>
先ず、以下の方法で第一のインクを製造した。
担持密度50質量%である白金担持カーボン粒子(触媒担持粒子)と、イオン交換容量が1.4meq/gである第一の高分子電解質を含む20質量%高分子電解質溶液(第一の高分子電解質溶液)と、を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルで10分間の分散処理を行った。
白金担持カーボン粒子は、白金触媒がカーボン粒子に担持されたものであり、カーボン粒子と第一の高分子電解質との配合比を質量比で1:1とした。溶媒は超純水と1-プロパノールの混合溶媒であり、両者の配合比を体積比で1:1とした。インクにおける固形分含有量は8質量%となるように調整した。
【0053】
次に、以下の方法で第二のインクを製造した。
平均繊維長が10μmである繊維状物質と、イオン交換容量が1.0meq/gである第二の高分子電解質を含む20質量%高分子電解質溶液(第二の高分子電解質溶液)と、を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルで10分間の分散処理を行った。繊維状物質には多層カーボンナノチューブを用いた。
カーボン粒子と第二の高分子電解質との配合比は、質量比で1:1とした。溶媒は超純水と1-プロパノールの混合溶媒であり、両者の配合比を体積比で1:1とした。インクにおける固形分含有量は8質量%となるように調整した。
次に、第一のインクと第二のインクを、質量比で第一のインク:第二のインク=3:1となるように混合し、遊星型ボールミルで20分間の分散処理を行った。これにより、触媒インクが得られた。得られた触媒インクを測定したところ、前記触媒担持粒子に対して、前記第一の高分子電解質よりも前記第二の高分子電解質が離れて存在することが確認された。
【0054】
得られた触媒インクを、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの基材上にドクターブレード法で塗布し、大気雰囲気中70℃で乾燥させた。触媒インクの塗布量は、燃料極(アノード)となる電極触媒層では白金担持量0.1mg/cm2とし、空気極(カソード)となる電極触媒層では白金担持量0.3mg/cm2となるようにそれぞれ調整した。アノードとなる電極触媒層を形成した基材およびカソードとなる電極触媒層を形成した基材を、5cm×5cmにそれぞれ打ち抜き、高分子電解質膜の両面に転写温度130℃、転写圧力5.0×106Paの条件で転写して、実施例1の膜電極接合体を作製した。この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の触媒担持粒子について、触媒層断面における触媒近傍の組成分析によって調べたところ、触媒担持粒子を第一の高分子電解質が覆い、さらに第二の高分子電解質で覆われている構造が確認された。また、この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の繊維状物質について、触媒層断面における繊維状物質近傍の組成分析によって調べたところ、繊維状物質を第二の高分子電解質が覆い、さらに第一の高分子電解質で覆われている構造が確認された。
【0055】
<実施例2>
実施例1における第一の高分子電解質および第二の高分子電解質を、イオン交換容量がそれぞれ3.5meq/g、3.0meq/gである第一の高分子電解質および第二の高分子電解質とした以外は実施例1と同様にして実施例2の膜電極接合体を作製した。なお、実施例2でも、得られた触媒インクを測定したところ、前記触媒担持粒子に対して、前記第一の高分子電解質よりも前記第二の高分子電解質が離れて存在することが確認された。この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の触媒担持粒子について、触媒層断面における触媒近傍の組成分析によって調べたところ、触媒担持粒子を第一の高分子電解質が覆い、さらに第二の高分子電解質で覆われている構造が確認された。また、この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の繊維状物質について、触媒層断面における繊維状物質近傍の組成分析によって調べたところ、繊維状物質を第二の高分子電解質が覆い、さらに第一の高分子電解質で覆われている構造が確認された。
【0056】
<実施例3>
実施例1における第一の高分子電解質および第二の高分子電解質を、イオン交換容量がそれぞれ2.2meq/g、2.0meq/gである第一の高分子電解質および第二の高分子電解質として、また、平均繊維長が0.8μmである繊維状物質とした以外は実施例1と同様にして実施例3の膜電極接合体を作製した。なお、実施例3でも、得られた触媒インクを測定したところ、前記触媒担持粒子に対して、前記第一の高分子電解質よりも前記第二の高分子電解質が離れて存在することが確認された。この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の触媒担持粒子について、触媒層断面における触媒近傍の組成分析によって調べたところ、触媒担持粒子を第一の高分子電解質が覆い、さらに第二の高分子電解質で覆われている構造が確認された。また、この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の繊維状物質について、触媒層断面における繊維状物質近傍の組成分析によって調べたところ、繊維状物質を第二の高分子電解質が覆い、さらに第一の高分子電解質で覆われている構造が確認された。
【0057】
<実施例4>
実施例1における第一の高分子電解質および第二の高分子電解質を、イオン交換容量がそれぞれ2.7meq/g、2.2meq/gである第一の高分子電解質および第二の高分子電解質として、また、平均繊維長が18μmである繊維状物質とした以外は実施例1と同様にして実施例4の膜電極接合体を作製した。なお、実施例4でも、得られた触媒インクを測定したところ、前記触媒担持粒子に対して、前記第一の高分子電解質よりも前記第二の高分子電解質が離れて存在することが確認された。この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の触媒担持粒子について、触媒層断面における触媒近傍の組成分析によって調べたところ、触媒担持粒子を第一の高分子電解質が覆い、さらに第二の高分子電解質で覆われている構造が確認された。また、この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の繊維状物質について、触媒層断面における繊維状物質近傍の組成分析によって調べたところ、繊維状物質を第二の高分子電解質が覆い、さらに第一の高分子電解質で覆われている構造が確認された。
【0058】
<比較例1>
実施例1における触媒インクの製造工程において、全ての成分を一度に混合、分散して触媒インクを得た以外は実施例1と同様にして比較例1の膜電極接合体を作製した。なお、比較例1の触媒インクは、実施例1の触媒インクと同じ組成である。
具体的には、以下のようにして比較例1の膜電極接合体を作製した。
【0059】
〔触媒インクの調整〕
担持密度50質量%である白金担持カーボン粒子(触媒担持粒子)と、イオン交換容量が1.4meq/gである第一の高分子電解質を含む20質量%高分子電解質溶液(第一の高分子電解質溶液)と、繊維状物質と、イオン交換容量が1.0meq/gである第二の高分子電解質を含む20質量%高分子電解質溶液(第二の高分子電解質溶液)と、を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルで30分間の分散処理を行った。
【0060】
白金担持カーボン粒子のカーボン粒子(担体)と、繊維状物質と、第一の高分子電解質と、第二の高分子電解質の配合比を、質量比で、担体:繊維状物質:第一の高分子電解質:第二の高分子電解質=3:1:3:1とした。溶媒は超純水と1-プロパノールの混合溶媒であり、両者の配合比を体積比で1:1とした。インクにおける固形分含有量は8質量%となるように調整した。得られた触媒インクを測定したところ、前記触媒担持粒子に対して、前記第一の高分子電解質よりも前記第二の高分子電解質が離れていないものが多く存在することが確認された。また、得られた触媒インクを測定したところ、前記繊維状物質に対して、前記第二の高分子電解質よりも前記第一の高分子電解質が離れていないものが多く存在することが確認された。この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の触媒担持粒子について、触媒層断面における触媒近傍の組成分析によって調べたところ、触媒担持粒子を第一の高分子電解質が覆い、さらに第二の高分子電解質で覆われている構造は確認されなかった。また、この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の繊維状物質について、触媒層断面における繊維状物質近傍の組成分析によって調べたところ、繊維状物質を第二の高分子電解質が覆い、さらに第一の高分子電解質で覆われている構造は確認されなかった。
【0061】
<比較例2>
実施例1において、繊維状物質と、第二の高分子電解質とを含まない組とした以外は実施例1と同様にして比較例2の膜電極接合体を作製した。
具体的には、以下のようにして比較例2の膜電極接合体を作製した。
【0062】
〔触媒インクの調整〕
担持密度50質量%である白金担持カーボン粒子(触媒担持粒子)と、イオン交換容量が1.4meq/gである第一の高分子電解質を含む20質量%高分子電解質溶液(第一の高分子電解質溶液)と、を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルで30分間の分散処理を行った。
白金担持カーボン粒子のカーボン粒子(担体)と、第一の高分子電解質の配合比を、質量比で、担体:第一の高分子電解質=1:1とした。溶媒は超純水と1-プロパノールの混合溶媒であり、両者の配合比を体積比で1:1とした。インクにおける固形分含有量は8質量%となるように調整した。得られた触媒インクを測定したところ、第二の高分子電解質が含まれてないので、前記触媒担持粒子に対する第一の高分子電解質と第二の高分子電解質との位置関係は確認できなかった。また、この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の触媒担持粒子について、触媒層断面における触媒近傍の組成分析によって調べたところ、触媒担持粒子を第一の高分子電解質のみが覆う構造しか確認されなかった。
【0063】
<比較例3>
実施例1において、繊維状物質を含まない組とした以外は実施例1と同様にして比較例3の膜電極接合体を作製した。なお、得られた触媒インクを測定したところ、前記触媒担持粒子に対して、前記第一の高分子電解質よりも前記第二の高分子電解質が離れていないものが多く存在することが確認された。また、この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の触媒担持粒子について、触媒層断面における触媒近傍の組成分析によって調べたところ、触媒担持粒子を第一の高分子電解質が覆い、さらに第二の高分子電解質で覆われている構造は確認されなかった。
【0064】
<比較例4>
実施例1において、第二の高分子電解質を含まない組とした以外は実施例1と同様にして比較例4の膜電極接合体を作製した。得られた触媒インクを測定したところ、第二の高分子電解質が含まれてないので、前記触媒担持粒子に対する第一の高分子電解質と第二の高分子電解質との位置関係は確認できなかった。また、この膜電極接合体を構成する電極触媒層中の触媒担持粒子について、触媒層断面における触媒近傍の組成分析によって調べたところ、触媒担持粒子を第一の高分子電解質のみが覆う構造しか確認されなかった。
【0065】
<評価>
〔発電特性〕
実施例1~4および比較例1~4で得られた各膜電極接合体を挟持するように、ガス拡散層としてカーボンペーパーを貼りあわせて、発電評価セル内に設置し、燃料電池測定装置を用いて電流電圧測定を行った。測定時のセル温度は80℃とし、運転条件は以下に示すフル加湿と低加湿を採用した。また、燃料ガスとして水素を、酸化剤ガスとして空気を用い、利用率一定による流量制御を行った。なお、背圧は50kPaとした。
〔運転条件〕
条件1(フル加湿):相対湿度 アノード100%RH、カソード100%RH
条件2(低加湿):相対湿度 アノード30%RH、カソード30%RH
【0066】
〔測定結果〕
実施例1~4で作製した膜電極接合体は、比較例1~4で作製した膜電極接合体よりも、低加湿の運転条件下で優れた発電性能を示した。また、実施例1~4で作製した膜電極接合体は、低加湿の運転条件下においても、フル加湿の運転条件下と同等レベルの発電性能であった。特に、電流密度0.5A/cm2付近の発電性能が向上した。実施例1で作製した膜電極接合体の電流密度0.5A/cm2におけるセル電圧は、比較例1で作製した膜電極接合体の電流密度0.5A/cm2におけるセル電圧と比べて0.22V高い発電特性を示し、比較例2で作製した膜電極接合体の電流密度0.5A/cm2におけるセル電圧と比べて0.28V高い発電特性を示した。
【0067】
実施例1~4で作製した膜電極接合体と比較例1~4で作製した膜電極接合体との発電特性の結果から、実施例1~4の膜電極接合体は保水性が高まり、低加湿の運転条件下における発電特性が、フル加湿の運転条件下と同等の発電特性を示すことが確認された。
また、フル加湿の運転条件下では、実施例1で作製した膜電極接合体の電流密度0.5A/cm2におけるセル電圧は、比較例1で作製した膜電極接合体の電流密度0.5A/cm2におけるセル電圧と比べて0.19V高い発電特性を示し、比較例2で作製した膜電極接合体の電流密度0.5A/cm2におけるセル電圧と比べて0.23V高い発電特性を示した。
実施例1~4で作製した膜電極接合体と比較例1~4で作製した膜電極接合体との発電特性の結果から、実施例1~4で作製した膜電極接合体では、反応ガスの拡散性が高く、電極反応で生成した水の除去等を阻害していないことが確認された。
【0068】
<まとめ>
本実施形態では、低加湿条件下で高い発電特性を示す膜電極接合体11と、その製造方法、その膜電極接合体を備えてなる固体高分子形燃料電池12について説明している。
本実施形態の膜電極接合体11の電極触媒層2,3において、触媒担持粒子に近接する高分子電解質のイオン交換容量は、繊維状物質に近接する高分子電解質のイオン交換容量よりも大きい。
【0069】
本実施形態に係る電極触媒層の製造方法で製造された膜電極接合体は、電極反応で生成した水の除去等を阻害せずに保水性を高め、低加湿条件下でも高い発電特性を示す。また、本実施形態に係る電極触媒層の製造方法は、上述したような膜電極接合体を効率良く経済的に容易に製造することができる。
つまり、触媒担持粒子と第一の高分子電解質溶液とを溶媒に分散させた第一の触媒インクと、繊維状物質と第二の高分子電解質溶液とを溶媒に分散させた第二の触媒インクをそれぞれ混合させ、この触媒インクを用いて電極触媒層を形成するだけで、上述の膜電極接合体を製造することができる。
【0070】
したがって、複雑な製造工程を伴うことなく製造することができると共に、上述の手順で作製した電極触媒層を用いることで保水性および反応ガスの拡散性を共に向上させることができるため、例えば加湿器等の特別な手段を設けることなく運用することができ、コスト削減を図ることができる。
なお、高分子電解質膜1の両面に形成される電極触媒層2,3のうち一方のみを、第一工程により作製した触媒インクを用いた電極触媒層としてもよい。その場合、第一工程により作製した触媒インクを用いた電極触媒層を、電極反応により水が発生する空気極(カソード)側に配置することが好ましい。ただし、低加湿条件下における高分子電解質の水分保持の点から、高分子電解質膜1の両面に形成されることがより好ましい。
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、実際には、前記の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1…高分子電解質膜
2…電極触媒層
3…電極触媒層
4…ガス拡散層
5…ガス拡散層
6…空気極(カソード)
7…燃料極(アノード)
8a,8b…ガス流路
9a,9b…冷却水流路
10a,10b…セパレータ
11…膜電極接合体
12…固体高分子形燃料電池