(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】熱間プレス加工方法及び加工装置
(51)【国際特許分類】
B21D 43/00 20060101AFI20220614BHJP
B21D 22/02 20060101ALI20220614BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20220614BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20220614BHJP
B21D 53/88 20060101ALI20220614BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20220614BHJP
B21D 37/16 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B21D43/00 U
B21D22/02 B
B21D22/20 H
B21D22/26 D
B21D53/88 Z
B21D22/20 G
B21D24/00 F
B21D24/00 H
B21D24/00 M
B21D37/16
(21)【出願番号】P 2018066487
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入江 直之
(72)【発明者】
【氏名】猪 一郎
(72)【発明者】
【氏名】平尾 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】大川 慧
【審査官】山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-321405(JP,A)
【文献】特開2018-012115(JP,A)
【文献】特開2013-128955(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0125645(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 43/00
B21D 22/02
B21D 22/20
B21D 22/26
B21D 53/88
B21D 24/00
B21D 37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ワークと第2ワークを各々の少なくとも一部が互いに重なったプレス成形品に加工する熱間プレス加工方法であって、
上記第1ワーク及び上記第2ワークのうちの一方をプレス成形前に他方と重ねることなく加熱する加熱工程と、
上記第1ワーク及び上記第2ワーク各々をプレス成形用の上型と下型の間に搬入する搬入工程と、
上記上型を下降させることにより、上記第1ワークと上記第2ワークが各々の少なくとも一部において互いに重なったプレス成形品を得るプレス工程とを備え、
上記上型と下型の間に搬入される上記第1ワークは、上記第2ワークを該第1ワークに対してずれないように係合させるための係合部を有していて、
上記プレス工程において、上記第2ワークにおける上記第1ワークの上記係合部に対応する部位を塑性変形させて該係合部に係合させ
、
上記加熱工程において、上記第1ワーク及び上記第2ワークのうちの、上記係合部に係合するように塑性変形される上記第2ワークを加熱することを特徴とする熱間プレス加工方法。
【請求項2】
請求項
1において、
上記下型は上方に突出した凸状成形面を備え、
上記第1ワークを、上記下型の上記凸状成形面に倣った形状に成形しておいて上記下型の上記凸状成形面に嵌め、
上記プレス工程において、上記第2ワークを上記第1ワークの外面に倣った形状に成形することを特徴とする熱間プレス加工方法。
【請求項3】
請求項
2において、
上記プレス工程において、上記第2ワークに上記第1ワークの下縁から下方へ張り出した張出し部を形成し、上記第1ワークの下縁を上記係合部として、上記第2ワークの張出し部を塑性変形させて上記第1ワークの当該下縁に係合させることを特徴とする熱間プレス加工方法。
【請求項4】
請求項
1において、
上記第1ワークは上記第2ワークに向かって開口した凹部又は孔を有し、
上記プレス工程において、上記第1ワークの上記凹部又は孔の縁を上記係合部として、上記第2ワークにおける上記第1ワークの上記凹部又は孔に対応する部位を塑性変形させて上記縁に係合させることを特徴とする熱間プレス加工方法。
【請求項5】
第1ワークと第2ワークを各々の少なくとも一部が互いに重なったプレス成形品に加工する熱間プレス加工方法であって、
上記第1ワーク及び上記第2ワークのうちの一方をプレス成形前に他方と重ねることなく加熱する加熱工程と、
上記第1ワーク及び上記第2ワーク各々をプレス成形用の上型と下型の間に搬入する搬入工程と、
上記上型を下降させることにより、上記第1ワークと上記第2ワークが各々の少なくとも一部において互いに重なったプレス成形品を得るプレス工程とを備え、
上記上型と下型の間に搬入される上記第1ワークは、上記第2ワークを該第1ワークに対してずれないように係合させるための係合部を有していて、
上記プレス工程において、上記第2ワークにおける上記第1ワークの上記係合部に対応する部位を塑性変形させて該係合部に係合させ、
上記第1ワークと上記第2ワークとによって断面ハット状のプレス成形品を得ることを特徴とする熱間プレス加工方法。
【請求項6】
請求項
5において、
上記断面ハット状のプレス成形品が自動車の車体構成部品であることを特徴とする熱間プレス加工方法。
【請求項7】
請求項
5において、
上記断面ハット状のプレス成形品が自動車の車体の骨格構成部品であることを特徴とする熱間プレス加工方法。
【請求項8】
請求項
5において、
上記断面ハット状のプレス成形品が自動車のピラー部品であることを特徴とする熱間プレス加工方法。
【請求項9】
第1ワークと第2ワークを各々の少なくとも一部が互いに重なったプレス成形品に加工する熱間プレス加工装置であって、
上記第1ワークは上記第2ワークを該第1ワークに対してずれないように係合させるための係合部を有し、且つ上記第1ワーク及び上記第2ワークのうちの一方が加熱されてプレス成形に供されるものであり、
上記第1ワークと上記第2ワークが各々の少なくとも一部において互いに重なったプレス成形品を得るためのプレス成形用の上型及び下型を備え、
上記上型及び上記下型のうちの上記第2ワークが接触する型に、上記第2ワークにおける上記第1ワークの上記係合部に対応する部位を該係合部に係合するように塑性変形させる係合用の成形部が設けられていることを特徴とする熱間プレス加工装置。
【請求項10】
請求項
9において、
上記第1ワーク及び上記第2ワークのうちの、上記係合部に係合するように塑性変形される上記第2ワークが加熱されることを特徴とする熱間プレス加工装置。
【請求項11】
請求項
10において、
上記下型は上方に突出した凸状成形面を備え、
上記第1ワークは、上記下型の上記凸状成形面に倣った形状に成形されていて上記下型の上記凸状成形面に嵌められ、上記第2ワークが上記第1ワークの外面に倣った形状に成形されることを特徴とする熱間プレス加工装置。
【請求項12】
請求項
11において、
上記上型及び下型は、上記第2ワークに上記第1ワークの下縁から下方へ張り出した張出し部を形成するものであり、
上記係合用の成形部は、上記第1ワークの下縁を上記係合部として、上記第2ワークの張出し部を塑性変形させて上記第1ワークの当該下縁に係合させることを特徴とする熱間プレス加工装置。
【請求項13】
請求項
10において、
上記第1ワークは上記第2ワークに向かって開口した凹部又は孔を有し、
上記係合用の成形部は、上記第1ワークの上記凹部又は孔の縁を上記係合部として、上記第2ワークにおける上記第1ワークの上記凹部又は孔に対応する部位を塑性変形させて該上記縁に係合させることを特徴とする熱間プレス加工装置。
【請求項14】
請求項
9乃至請求項
13のいずれか一において、
上記第1ワークと上記第2ワークとによって断面ハット状のプレス成形品を得ることを特徴とする熱間プレス加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱間プレス加工方法及び加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の熱間プレス加工方法として、2枚以上の金属板を各々の少なくとも一部が互いに重なったプレス成形品に加工する方法が一般に知られている。例えば、特許文献1には、複数の溶着部で接合されて重ね合わされた2枚以上の金属板からなる接合板を加熱する加熱工程と、成形凹部を有するダイと該成形凹部に対応する成形凸部を有するパンチとの間に接合板を配置する配置工程と、ダイとパンチで接合板をプレスすることにより成形凹部と成形凸部に対応した成形部を形成する成形工程と、を備えた熱間プレス加工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、接合板の加熱工程において、2枚のワーク(金属板)の重なった部分の温度上昇が他の部分に比して遅れることから、サイクルタイムが長くなる。また、接合板の曲げ加工において、2枚のワークの溶着部(ナゲット)にせん断力が加わって、その溶着部の破損やワークの歪みを招く懸念がある。
【0005】
本発明は、上述の如き溶着部を予め設けることなく、2枚のワークが少なくとも一部において互いに重なり且つ位置ずれを生じないように係合してなるプレス成形品を得ること、そして、サイクルタイムの延長化問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、2枚のワークのうちの一方を加熱し、両ワークのプレス工程において、両ワークを互いにずれないように係合させるようにした。
【0007】
ここに開示する熱間プレス加工方法は、第1ワークと第2ワークを各々の少なくとも一部が互いに重なったプレス成形品に加工する方法であって、
上記第1ワーク及び上記第2ワークのうちの一方をプレス成形前に他方と重ねることなく加熱する加熱工程と、
上記第1ワーク及び上記第2ワーク各々をプレス成形用の上型と下型の間に搬入する搬入工程と、
上記上型を下降させることにより、上記第1ワークと上記第2ワークが各々の少なくとも一部において互いに重なったプレス成形品を得るプレス工程とを備え、
上記上型と下型の間に搬入される上記第1ワークは、上記第2ワークを該第1ワークに対してずれないように係合させるための係合部を有していて、
上記プレス工程において、上記第2ワークにおける上記第1ワークの上記係合部に対応する部位を塑性変形させて該係合部に係合させ、
上記第1ワーク及び上記第2ワークのうちの上記係合部に係合するように塑性変形される上記第2ワークを加熱することを特徴とする。
【0008】
この方法によれば、第1及び第2の両ワークの一方を加熱してプレス成形するから、成形性が良好になる。また、プレス成形前のワークの昇温に時間がかかることが避けられるため、サイクルタイムの短縮に有利になる。そうして、プレス工程において、第2ワークを部分的に塑性変形させて第1ワークの係合部に係合させるから、第1ワーク及び第2ワークを所定形状にプレス成形するとともに、当該係合によって両ワークを互いにずれない状態にすることができる。
【0009】
ここに、本発明は、上記プレス成形後に両ワークの重なり部分にスポット溶接等の接合加工を追加することを排除するものではない。そのような追加工を行なう場合でも、既に両ワークが互いにずれないように係合しているから、その加工は容易であり、例えば、スポット溶接であれば、その打点数を減らすことも可能になる。
【0010】
従って、本発明は、両ワークをプレス成形前に溶着させるケースに比べて、追加工を行なう場合でも、サイクルタイムが長くなることはなく、かえって、その短縮が図れ、しかも、ナゲットの損壊による強度低下や、ワークの歪みも避けられる。
【0011】
さらに、本発明によれば、第2ワークを第1ワークの係合部に係合するように塑性変形させることが容易になる。しかも、この第2ワークの冷却による熱収縮を利用して、第1ワークの係合部に対する第2ワークの係合を強化することも可能になる。
【0012】
一実施形態では、上記下型は上方に突出した凸状成形面を備え、
上記第1ワークを、上記下型の上記凸状成形面に倣った形状に成形しておいて上記下型の上記凸状成形面に嵌め、
上記プレス工程において、上記第2ワークを上記第1ワークの外面に倣った形状に成形する。
【0013】
これによれば、予め成形されて下型の凸状成形面に嵌められた第1ワークの外面を成形面として、第2ワークをプレス成形することができる。上型の下降によってプレス成形されるのは加熱された第2ワークのみであるから、プレス成形が容易になり、第2ワークを塑性変形させて第1ワークの係合部に確実に係合させる上で有利になる。
【0014】
一実施形態では、上記プレス工程において、上記第2ワークに上記第1ワークの下縁から下方へ張り出した張出し部を形成し、上記第1ワークの下縁を上記係合部として、上記第2ワークの張出し部を塑性変形させて上記第1ワークの当該下縁に係合させる。
【0015】
これによれば、第1ワークの下縁を係合部として、この下縁に第2ワークの張出し部を係合させるから、第1ワークに新たに係合部を設ける必要がなく、工数の削減ないしは生産性の向上に有利になる。
【0016】
一実施形態では、上記第1ワークは上記第2ワークに向かって開口した凹部又は孔を有し、
上記プレス工程において、上記第1ワークの上記凹部又は孔の縁を上記係合部として、上記第2ワークにおける上記第1ワークの上記凹部又は孔に対応する部位を塑性変形させて上記縁に係合させる。
【0017】
これにより、第1ワークと第2ワークを互いにずれないように係合させることができる。
【0018】
ここに開示する別の熱間プレス加工方法は、第1ワークと第2ワークを各々の少なくとも一部が互いに重なったプレス成形品に加工する方法であって、
上記第1ワーク及び上記第2ワークのうちの一方をプレス成形前に他方と重ねることなく加熱する加熱工程と、
上記第1ワーク及び上記第2ワーク各々をプレス成形用の上型と下型の間に搬入する搬入工程と、
上記上型を下降させることにより、上記第1ワークと上記第2ワークが各々の少なくとも一部において互いに重なったプレス成形品を得るプレス工程とを備え、
上記上型と下型の間に搬入される上記第1ワークは、上記第2ワークを該第1ワークに対してずれないように係合させるための係合部を有していて、
上記プレス工程において、上記第2ワークにおける上記第1ワークの上記係合部に対応する部位を塑性変形させて該係合部に係合させ、
上記第1ワークと上記第2ワークとによって断面ハット状のプレス成形品を得ることを特徴とする。例えば、自動車の断面ハット状車体構成部品、車体の断面ハット状骨格構成部品、又は自動車の断面ハット状ピラー部品を得ることができる。
【0019】
ここに開示する熱間プレス加工装置は、第1ワークと第2ワークを各々の少なくとも一部が互いに重なったプレス成形品に加工する装置であって、
上記第1ワークは上記第2ワークを該第1ワークに対してずれないように係合させるための係合部を有し、且つ上記第1ワーク及び上記第2ワークのうちの一方が加熱されてプレス成形に供されるものであり、
上記第1ワークと上記第2ワークが各々の少なくとも一部において互いに重なったプレス成形品を得るためのプレス成形用の上型及び下型を備え、
上記上型及び上記下型のうちの上記第2ワークが接触する型に、上記第2ワークにおける上記第1ワークの上記係合部に対応する部位を該係合部に係合するように塑性変形させる係合用の成形部が設けられていることを特徴とする。
【0020】
これによれば、上記熱間プレス加工方法を実施して、サイクルタイムの短縮を図りながら、第1ワークと第2ワークが互いにずれないように係合したプレス成形品を得ることができる。
【0021】
上記装置の一実施形態では、上記第1ワーク及び上記第2ワークのうちの、上記係合部に係合するように塑性変形される上記第2ワークが加熱される。これによれば、これによれば、第2ワークを第1ワークの係合部に係合するように塑性変形させることが容易になる。しかも、この第2ワークの冷却による熱収縮を利用して、第1ワークの係合部に対する第2ワークの係合を強化することも可能になる。
【0022】
上記装置の一実施形態では、上記下型は上方に突出した凸状成形面を備え、
上記第1ワークは、上記下型の上記凸状成形面に倣った形状に成形されていて上記下型の上記凸状成形面に嵌められ、上記第2ワークが上記第1ワークの外面に倣った形状に成形される。
【0023】
これによれば、予め成形されて下型の凸状成形面に嵌められた第1ワークを成形面として、第2ワークをプレス成形することができる。上型の下降によってプレス成形されるのは加熱された第2ワークのみであるから、プレス成形が容易になり、第2ワークを塑性変形させて第1ワークの係合部に確実に係合させる上でも有利になる。
【0024】
上記装置の一実施形態では、上記上型及び下型は、上記第2ワークに上記第1ワークの下縁から下方へ張り出した張出し部を形成するものであり、
上記係合用の成形部は、上記第1ワークの下縁を上記係合部として、上記第2ワークの張出し部を塑性変形させて上記第1ワークの当該下縁に係合させる。
【0025】
これによれば、第1ワークの下縁を第2ワークが係合する係合部とするから、第1ワークに新たに係合部を設ける必要がなく、工数の削減ないしは生産性の向上に有利になる。
【0026】
上記装置の一実施形態では、上記第1ワークは上記第2ワークに向かって開口した凹部又は孔を有し、
上記係合用成形部は、上記第1ワークの上記凹部又は孔の縁を上記係合部として、上記第2ワークにおける上記第1ワークの上記凹部又は孔に対応する部位を塑性変形させて該上記縁に係合させる。
【0027】
これによれば、第1ワークと第2ワークを互いにずれないように係合させることができる。
【0028】
上記装置の一実施形態では、上記第1ワークと上記第2ワークとによって断面ハット状のプレス成形品を得る。例えば、自動車の断面ハット状車体構成部品、車体の断面ハット状骨格構成部品、又は自動車の断面ハット状ピラー部品を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る熱間プレス加工方法及び熱間プレス加工装置各々によれば、サイクルタイムの短縮を図りながら、第1ワークと第2ワークが互いにずれないように係合したプレス成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施形態1に係る熱間プレス加工装置の上型と下型の間にワークを搬入した状態を示す断面図。
【
図2】同熱間プレス加工装置の上型を下降させた状態を示す断面図。
【
図3】同熱間プレス加工装置によるワークのプレス状態を示す断面図。
【
図4】同熱間プレス加工装置におけるプレス成形品の脱型状態を示す断面図。
【
図9】実施形態3に係る第1ワーク成形用金型の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0032】
<実施形態1>
図1乃至
図4に本実施形態に係る熱間プレス加工装置1を示す。熱間プレス加工装置1は、プレス成形により、
図4に示すように第1ワーク2と第2ワーク3が少なくとも一部において互いに重なった高張力鋼製プレス成形品4を得るものである。
【0033】
(プレス成形品)
本実施形態のプレス成形品4は、断面形状がハット状であり、具体的には、自動車の車体の骨格を構成するピラー部品である。第2ワーク3がフランジ3aを有する断面ハット状のピラー本体を形成し、第1ワーク2がピラー本体を内側から補強する断面ハット状の補強パッチ(言わば、内パッチ構造)になっている。
【0034】
プレス成形品4においては、第2ワーク3は、第1ワーク2の両側の下縁5から下方に張り出した張出し部6を有する。この第2ワーク3の張出し部6には、第1ワーク2の下縁5から張り出した際(きわ)から第1ワーク2の板厚分だけ内側に突出した塑性変形部7が形成されていて、この塑性変形部7が第1ワーク2の下縁5に係合している。
【0035】
すなわち、第1ワーク2の下縁5は、第2ワーク3を第1ワーク2に対してずれないように係合させるための係合部を構成しており、この下縁5と塑性変形部7の係合により、第1ワーク2と第2ワーク3とは互いに位置ずれしないように一体化している。ここに、第2ワーク3が第1ワーク2を塑性変形部7によって下から言わば抱きかかえる形になっている。
【0036】
プレス成形品4においては、第2ワーク3の塑性変形部7がプレス成形品4の長手方向に間隔をおいて複数箇所に設けられている。なお、プレス成形品4の長手方向の全長にわたって、或いは当該長手方向の所定範囲にわたって、連続して延びる塑性変形部7を設けてもよい。
【0037】
(熱間プレス加工装置)
図1に示すように、熱間プレス加工装置1は、上記プレス成形品4を得るための金型、すなわち、プレス成形用の上型11及び下型12を備える。上型11は上型ホルダ13に固定されている。上型ホルダ13はプレス機械の昇降するスライダ(図示省略)に取り付けられている。下型12は下型ホルダ14に固定されている。
【0038】
下型12は、上方に突出した凸状成形面15を備えている。上型11は、下型12の凸状成形面15に対応する凹状成形面16を備えている。上型11及び下型12には、プレス成形品4をプレス状態で型冷却するための液状冷媒(例えば、冷却水)が供給される冷媒通路17,18が設けられている。
【0039】
第1ワーク2は、予め断面ハット状に成形されており、上型11と下型12の間に搬入されて、下型12の凸状成形面15に嵌められる。第2ワーク3は、平板状のブランク材であって、プレス成形前に所定温度(オーステナイト温度域)に加熱されて、上型11と下型12の間の第1ワーク2の上に搬入される。
【0040】
ここに、第1ワーク2については、加熱したブランク材をプレス成形すると同時にプレス状態で冷却させるホットスタンプによって成形しておくことができる。或いは、冷間プレスによって第1ワーク2を成形しておくようにしてもよい。
【0041】
上型11の凹状成形面16の傾斜した両側面には、下型12の凸状成形面15に嵌められた第1ワーク2の下縁5に対応する部位において内側に突出した係合用の成形部19が形成されている。上型11が下型12に向かって下降したとき、係合用の成形部19が第2ワーク3における第1ワーク2の下縁5に対応する部位を内側に塑性変形させる。これにより、下縁5に係合する塑性変形部7が形成される。係合用の成形部19は、上型11の長手方向に間隔をおいて複数箇所に設けられている。
【0042】
係合用の成形部19の形状は、断面くの字状になっていて、その上部はプレス成形品4の脱型を可能とするべく略垂直になっている。係合用の成形部19の略垂直になった上部に続く下部は外側へ下降傾斜した下向きの斜面になっている。
【0043】
(熱間プレス加工方法)
[加熱工程]
プレス成形前の平板状の第2ワーク2を所定温度(オーステナイト温度域)に加熱する。
【0044】
[搬入工程]
図1に示すように、予めハット状に成形した第1ワーク2を上型11と下型12の間に搬入して、下型12の凸状成形面15に嵌める。加熱された第2ワーク3を上型11と下型12の間に搬入して第1ワーク2の上に位置付ける。
【0045】
[プレス工程]
図2及び
図3に示すように、上型11を下降させて第2ワーク3を上型11の凹状成形面16及び下型12の凸状成形面15に倣った形状に成形する。この場合、下型11に嵌められた第1ワーク2の外面は、第2ワーク3をハット状に成形する成形面の一部を構成することになる。すなわち、第2ワーク3の上部の下面は第1ワーク2の外面に倣った形状に成形される。
【0046】
同時に、上型11の係合用の成形部19が、第1ワーク2の下縁5から張り出した第2ワーク3の張出し部6の際を内側に塑性変形させて第1ワーク2の下縁5に係合する塑性変形部7を形成する。
【0047】
[冷却工程]
上型11と下型12によって第1ワーク2と第2ワーク3をプレスした状態において、上型11及び下型12の冷媒通路17,18に冷媒を通す。これにより、第2ワーク3は、型冷却されて焼入れ状態になる。すなわち、第2ワーク3が硬化する。冷媒は、第1ワーク2と第2ワーク3がプレス状態になる直前から冷媒通路17,18に供給するようにしてもよい。
【0048】
[脱型工程]
図4に示すように、上型11を上昇させてプレス成形品4を脱型する。プレス成形品4においては、第2ワーク3側の冷却による熱収縮によって、第1ワーク2の下縁5に対する第2ワーク3の塑性変形部7の係合が強くなる。
【0049】
[搬出工程]
脱型したプレス成形品4を次の加工ステーション等に送るべく、下型12から取り上げてベルトコンベヤ等の搬送装置に移載する。
【0050】
(溶接工程)
プレス成形品4には、第1ワーク2と第2ワーク3の結合を強化すべく、必要に応じて、第1ワーク2と第2ワーク3の重なり部分にスポット溶接を行なう。
【0051】
<実施形態2>
(プレス成形品)
図5に本実施形態に係るプレス成形品21を示す。このプレス成形品21も、断面形状はハット状であり、自動車の車体の骨格を構成するピラー部品である。このプレス成形品21では、実施形態1のブレス成形品4とは違って、第1ワーク22がフランジ22aを有する断面ハット状のピラー本体を形成し、第2ワーク23がピラー本体を外側から補強する断面ハット状の補強パッチ(言わば、外パッチ構造)になっている。
【0052】
第1ワーク22の両側の傾斜部には係合孔24が形成されている。この係合孔24はワーク長手方向に延びる長孔になっている。第2ワーク23の両側の下端の内側に突出した塑性変形部25が第1ワーク22の係合孔24に入って該係合孔24の縁に係合している。この係合により、第1ワーク22と第2ワーク23とは互いに位置ずれしないように一体化している。
【0053】
第1ワーク22の係合孔24は、プレス成形品21の長手方向に間隔をおいて複数箇所に設けられ、これに対応して、第2ワーク23の塑性変形部25もプレス成形品21の長手方向に間隔を置いて複数箇所に設けられている。
【0054】
(熱間プレス加工装置)
図6に示すように、熱間プレス加工装置は、上記プレス成形品21を得るための金型であるプレス成形用の上型26及び下型27を備える。
【0055】
実施形態1と同じく、上型26はプレス機械のスライダに取り付けられる上型ホルダに固定され、下型27は下型ホルダに固定されている。下型27は上方に突出した凸状成形面28を備え、上型26は下型27の凸状成形面28に対応する凹状成形面29を備えている。上型26及び下型27には冷媒通路31,32が設けられている。
【0056】
第1ワーク22は、予め両側の傾斜部に係合孔24を有する断面ハット状に成形されており、上型26と下型27の間に搬入されて、下型27の凸状成形面28に嵌められる。第2ワーク23は、平板状のブランク材であって、予め所定温度(オーステナイト温度域)に加熱されて、上型26と下型27の間の第1ワーク22の上に搬入される。
【0057】
第1ワーク22については、ホットスタンプ又は冷間プレスによって成形しておくことができる。
【0058】
上型26の凹状成形面29の傾斜した両側面には、下型27の凸状成形面28に嵌められた第1ワーク22の係合孔24に対応する部位において内側に突出した係合用の成形部33が形成されている。上型26が下型27に向かって下降したとき、係合用の成形部33が第2ワーク23における第1ワーク22の係合部24に対応する部位を内側に塑性変形させることにより、この係合孔24の縁に係合する塑性変形部25を成形する。
【0059】
係合用の成形部33について説明すると、本実施形態の上型26の傾斜した両側面は、中間に段部を備えて下部が上部よりも相対的に内側に張り出しており、その段部が係合用の成形部33になっている。係合用の成形部33は、プレス成形品21の脱型を可能とするべく略垂直になっている。
【0060】
(熱間プレス加工方法)
[加熱工程]
プレス成形前の平板状の第2ワーク23を所定温度(オーステナイト温度域)に加熱する。
【0061】
[搬入工程]
図6に示すように、予めハット状に成形した第1ワーク22を上型26と下型27の間に搬入して、下型27の凸状成形面28に嵌める。そして、加熱された第2ワーク23を上型26と下型27の間に搬入して第1ワーク22の上に位置付ける。
【0062】
[プレス工程]
図7に示すように、上型26を下降させて第2ワーク23を上型26の凹状成形面29及び下型27に嵌められた第1ワーク22の外面に倣った形状に成形する。このとき、上型26の係合用の成形部33が、第2ワーク23の下端を内側に塑性変形させて第1ワーク22の係合孔24の縁に係合する塑性変形部25を形成する。
【0063】
[冷却工程]
上型26と下型27によって第1ワーク22と第2ワーク23をプレスした状態において、上型26及び下型27の冷媒通路31,32に冷媒を通す。これにより、第2ワーク23は、型冷却されて焼入れ状態になる。すなわち、第2ワーク23が硬化する。冷媒は、第1ワーク22と第2ワーク23がプレス状態になる直前から冷媒通路31,32に供給するようにしてもよい。
【0064】
[脱型工程]
上型26を上昇させてプレス成形品21を脱型する。プレス成形品21においては、第2ワーク23側の冷却による熱収縮によって、第1ワーク22の係合孔24の縁に対する第2ワーク23の塑性変形部25の係合が強くなる。
【0065】
[搬出工程]
脱型したプレス成形品21を次の加工ステーション等に送るべく、下型27から取り上げてベルトコンベヤ等の搬送装置に移載する。
【0066】
(溶接工程)
プレス成形品21には、第1ワーク22と第2ワーク23の結合を強化すべく、必要に応じて、第1ワーク22と第2ワーク23の重なり部分にスポット溶接を行なう。
【0067】
<実施形態3>
実施形態1及び実施形態2では、第1ワーク又は第2ワークの端部を両ワークの係合に利用しているが、
図8乃至
図11に示すように、両ワークを互いに重なった部分において互いにずれないように係合させてもよい。
【0068】
(プレス成形品)
図8にプレス成形品41の概略構成を示すように、このプレス成形品41は断面ハット状のピラー本体を形成する第1ワーク42と、補強パッチ(外パッチ構造)としての第2ワーク43とを頂部において係合させてなる。すなわち、第1ワーク42の頂部には外側(上方)に略垂直に突出した係合部としての係合凸部44が形成されている。そして、第2ワーク43の頂部に、第1ワーク42の係合凸部44に嵌合して係合している塑性変形部45が形成されている。係合凸部44及び塑性変形部45は、プレス成形品41の長手方向に間隔をおいて複数箇所に設けられている。
【0069】
係合凸部44及び塑性変形部45の平面形状としては、円形、角形、星形など任意の形状を採用することができる。
【0070】
図9に第1ワーク42を成形するための金型を示す。下型46は、上方に突出した凸状成形面47を備え、該凸状成形面47の頂部に上方に突出した凸部48を有する。上型49は、下型46の凸状成形面47に対応する凹状成形面51を備え、該凹状成形面51に下型46の凸部48に対応する凹部52を有する。凸部48は下型46の長手方向に間隔をおいて複数箇所に設けられ、これに対応して、凹部52も上型49の長手方向に間隔をおいて複数箇所に設けられている。上型49及び下型46には冷媒通路53,54が設けられている。
【0071】
加熱した平板状ブランク材50を上型49と下型46によってプレスすることにより(ホットプレス)、
図8に示す係合凸部44を有する断面ハット状の第1ワーク42を得る。
【0072】
(熱間プレス加工装置)
図10及び
図11にプレス成形品41を得るための熱間プレス加工装置の金型を示す。下型55は、第1ワーク42を成形するための下型46と同じ構成であり、凸状成形面56の頂部に上方に突出した凸部57を有する。上型58は、下型55の凸状成形面57に対応する凹状成形面59の奥部に、塑性変形部45を形成するための凹状の係合用の成形部61を有する。凸部59は下型55の長手方向に間隔をおいて複数箇所に設けられ、これに対応して、嵌合用の成形部61も上型58の長手方向に間隔をおいて複数箇所に設けられている。上型58及び下型55には冷媒通路62,63が設けられている。
【0073】
(熱間プレス加工方法)
[加熱工程]
プレス成形前の平板状の第2ワーク43を所定温度に加熱する。
【0074】
[搬入工程]
予め成形した断面ハット状の第1ワーク42を上型58と下型55の間に搬入して下型55の凸状成形面56に嵌める。加熱した平板状の第2ワーク43を上型58と下型55の間に搬入して第1ワーク42の上に位置付ける。
【0075】
[プレス工程]
上型58を下降させて第2ワーク43を上型58の凹状成形面59及び下型55に嵌められた第1ワーク42の外面に倣った形状に成形する。このとき、上型58の係合用の成形部61が、第2ワーク43の頂部を塑性変形させて第1ワーク42の係合凸部44に係合する上方へ凸になった塑性変形部45を形成する。
【0076】
[冷却工程]
上型58と下型55によって第1ワーク42と第2ワーク43をプレスした状態において、上型58及び下型55の冷媒通路62,63に冷媒を通す。これにより、第2ワーク43は、型冷却されて焼入れ状態になる(硬化する)。冷媒は、第1ワーク42と第2ワーク43がプレス状態になる直前から冷媒通路62,63に供給するようにしてもよい。
【0077】
[脱型工程]
上型58を上昇させてプレス成形品41を脱型する。プレス成形品41においては、第2ワーク43側の冷却による熱収縮によって、第2ワーク43の塑性変形部45が第1ワーク42の係合凸部44に焼嵌めされた状態になる。これにより、第1ワーク42の係合凸部44に対する第2ワーク43の塑性変形部45の係合が強くなる。
【0078】
得られたプレス成形品41において、第1ワーク42と第2ワーク43は、係合凸部44と凹状の塑性変形部45との係合により互いにずれないように一体化した状態になっている。
【0079】
[搬出工程]
脱型したプレス成形品41を次の加工ステーション等に送るべく、下型55から取り上げてベルトコンベヤ等の搬送装置に移載する。
【0080】
(溶接工程)
プレス成形品41には、第1ワーク42と第2ワーク43の結合を強化すべく、必要に応じて、第1ワーク42と第2ワーク43の重なり部分にスポット溶接を行なう。
【0081】
(その他)
プレス成形品41は、第1ワーク42がピラー本体であり、第2ワーク43が補強パッチとして第1ワーク42の外側に設けられた外パッチ構造になっているが、本実施形態は内パッチ構造にも適用することができる。すなわち、実施形態1と同様に、第2ワークをピラー本体とし、第1ワークを補強パッチとしてピラー本体の内側に設ける構造である。
【0082】
<実施形態4>
図12及び
図13に示すように、本実施形態は、実施形態3と同じく、第1ワーク71と第2ワーク72を互いに重なった部分において係合させるようにしたものである。
【0083】
すなわち、第1ワーク71と第2ワーク72を重ねてなるプレス成形品は、自動車の車体の骨格を構成する断面ハット状のピラー部品である。第1ワーク71の頂部には第2ワーク72側(上側)に向かって開口した係合部としての係合凹部73が形成されている。係合凹部73は第1ワーク71の長手方向に間隔をおいて複数箇所に設けられている。第2ワーク72の頂部には第1ワーク71の係合凹部73に係合する下方へ凸になった塑性変形部80が形成されている。当該プレス成形品においては、第1ワーク71と第2ワーク72は、係合凹部73と凸状の塑性変形部80との係合により互いにずれないように一体化した状態になっている。
【0084】
図12及び
図13は上記プレス成形品を得るための金型(上型74及び下型75)を示す。なお、
図12及び
図13では冷媒通路の図示を省略している。
【0085】
断面ハット状のプレス成形品を形成すべく、下型75は上方に凸になった凸状成形面76を有し、上型74は凸状成形面76に対応する下方に開口した凹状成形面78を有する。下型75の凸状成形面76の頂部には、第1ワーク71の係合凹部73の形成によって下方へ突出した部分を嵌める凹部77が形成されている。上型74の凹状成形面78の奥部には、第2ワーク72に塑性変形部80を形成するための下方に突出した係合用の成形部79が設けられている。
【0086】
予め断面ハット状に形成され、その頂部に係合凹部73を有する第1ワーク71を上型74と下型75の間に搬入し、下型75の凸状成形面76に嵌める。第1ワーク71の係合凹部73の形成によって下方に突出した部分は下型75の頂部に形成された凹部77に嵌める。上型74と下型75の間に搬入される第2ワーク72は、予め加熱した平板状のブランク材であり、これを第1ワーク71の上に載せる(
図12)。
【0087】
上型74を下降させて第2ワーク72を上型74の凹状成形面78及び下型75に嵌められた第1ワーク71の外面に倣った形状に成形する。このとき、上型74の係合用の成形部79が、第2ワーク72の頂部を塑性変形させて第1ワーク71の係合凹部73に係合する下方へ凸になった塑性変形部80を形成する(
図13)。そうして、第1ワーク71及び第2ワーク72をプレス状態で型冷却した後、脱型する。
【0088】
プレス成形品の冷却後、第1ワーク71と第2ワーク72の重なり部分に必要に応じてスポット溶接を行なう。
【0089】
本実施形態も、実施形態3と同じく、外パッチ構造及び内パッチ構造のいずれにも実施することができる。
【0090】
また、係合凹部73及び塑性変形部80の平面形状としては、実施形態3と同じく、任意の形状を採用することができる。
【0091】
<実施形態5>
図14及び
図15に示すように、本実施形態も、実施形態3,4と同じく、第1ワーク81と第2ワーク82を互いに重なった部分において係合させるようにしたものである。
【0092】
すなわち、第1ワーク81と第2ワーク82を重ねてなるプレス成形品は、自動車の車体の骨格を構成する断面ハット状のピラー部品である。第1ワーク81の頂部には、第2ワーク82側(上側)に向かって開口した係合部としての係合孔83が形成されている。係合孔83は第1ワーク81の長手方向に間隔をおいて複数箇所に設けられている。第2ワーク82の頂部の貫通孔部に形成された塑性変形部(フランジ)90が第1ワーク81の係合孔83の縁に係合している。この係合により、第1ワーク81と第2ワーク82は、互いにずれないように一体化した状態になっている。
【0093】
図14及び
図15は上記プレス成形品を得るための金型(上型84及び下型85)を示す。なお、
図14及び
図15では冷媒通路の図示を省略している。
【0094】
断面ハット状のプレス成形品を形成すべく、下型85は上方に凸になった凸状成形面86を有し、上型84は凸状成形面76に対応する下方に開口した凹状成形面88を有する。上型84の凹状成形面88の奥部には、下方に突出した係合用の成形部(バーリングポンチ)89が設けられている。係合用の成形部89は、上型84の長手方向に間隔をおいて複数箇所に設けられている。
【0095】
予め断面ハット状に形成され、その頂部に係合孔83を有する第1ワーク81を上型84と下型85の間に搬入し、下型85の凸状成形面86に嵌める。上型84と下型85の間に搬入される第2ワーク82は、予め加熱した平板状のブランク材であり、第1ワーク81の係合孔83に対応する位置にバーリング用孔91が設けられている。この第2ワーク82を第1ワーク81の上に載せる(
図14)。
【0096】
上型84を下降させて第2ワーク82を上型84の凹状成形面88及び下型85に嵌められた第1ワーク81の外面に倣った形状に成形する。このとき、上型84の係合用の成形部89が、第2ワーク82のバーリング用孔91に進入して該第2ワーク82の頂部を塑性変形させて第1ワーク81の係合孔83の縁に係合する塑性変形部(フランジ)90を形成する(
図15)。そうして、第1ワーク81及び第2ワーク82をプレス状態で型冷却した後、脱型する。
【0097】
得られたプレス成形品においては、第1ワーク81と第2ワーク82は、係合孔83の縁と塑性変形部(フランジ)90との係合により互いにずれないように一体化した状態になっている。
【0098】
プレス成形品の冷却後、第1ワーク81と第2ワーク82の重なり部分に必要に応じてスポット溶接を行なう。
【0099】
本実施形態も、実施形態3,4と同じく、外パッチ構造及び内パッチ構造のいずれにも実施することができる。
【0100】
また、係合孔83及び塑性変形部90の平面形状としては、実施形態3,4と同じく、任意の形状を採用することができる。
【0101】
<その他>
上記各実施形態ではプレス状態でのワークの焼入れ硬化に型冷却を採用したが、金型から液状冷媒をプレス成形品に向けて噴出させてプレス成形品を冷媒で直接冷却するようにしてもよい。
【0102】
上記各実施形態は、第1ワーク及び第2ワークの一方を補強パッチとするケースであるが、第1ワークと第2ワークが互いに全体にわたって重なったプレス成形品や、第1ワークと第2ワーク各々の一部が互いに重なったプレス成形品を得るケースにも、本発明は適用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 熱間プレス加工装置
2,22,42,71,81 第1ワーク
3,23,43,72,82 第2ワーク
4,21,41 プレス成形品
5 第1ワークの下縁(係合部)
6 第2ワーク張出し部
7,25,45,80,90 塑性変形部
11,26,58,74,84 上型
12,27,55,75,85 下型
15,28,56,76,86 凸状成形面
16,29,59,78,88 凹状成形面
19,33,61,79,89 係合用の成形部
24,83 係合孔(係合部)
44 係合凸部(係合部)
73 係合凹部(係合部)