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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】6軸ロボットの姿勢調整方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
B25J9/10 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018068175
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177451
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】日下 岳士
(72)【発明者】
【氏名】ドアン ナット タン
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-078173(JP,A)
【文献】特開2000-263477(JP,A)
【文献】特開2012-196716(JP,A)
【文献】特開平03-136780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボット設置面に略垂直な方向に起立する6軸ロボットの姿勢を調整する方法であって、
前記6軸ロボットのうち、前記略垂直な方向において異なる高さにある3軸の軸中心位置を特定するステップと、
前記3軸のうちの前記ロボット設置面から遠い2軸を回転中心としてそれぞれ描いた2つの円弧を含む2つの面を特定するステップと、
前記2つの円弧のうち、前記ロボット設置面から前記軸中心位置が遠い方の円弧上の前記6軸ロボットの頂部である所定点の位置を特定するステップと、
特定された前記3軸の軸中心位置と、前記2つの面と、前記6軸ロボットの頂部である前記所定点の位置とに基づいて、前記3軸の回転方向の角度調整量と、前記2軸の間に延びる軸の回転方向の角度調整量とを決定するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記角度調整量を決定するステップは、前記6軸ロボットのキャリブレーションを行う前に行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記6軸ロボットは、
前記ロボット設置面から順に第1、第2、第3、第4、第5及び第6回転関節部を有し、
前記3軸は、
前記第2回転関節部の回転軸と、
前記第3回転関節部の回転軸と、
前記第5回転関節部の回転軸である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記角度調整量は、
前記垂直な方向と、前記第2回転関節部から前記第3回転関節部に延びる第1アームとの角度差をゼロにする量である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記角度調整量は、
前記垂直な方向と、前記第4回転関節部から前記第5回転関節部に延びる第2アームとの角度差をゼロにする量である請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2回転関節部の回転軸の軸中心位置を特定するステップは、
前記第3回転関節部と前記第5回転関節部とを固定した状態で、前記第2回転関節部の回転軸の現在の軸中心位置を中心にして前記6軸ロボットの先端が描く円弧上の少なくとも3点から前記第2回転関節部の回転軸の軸中心位置を算出するステップを含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第3回転関節部の回転軸の軸中心位置を特定するステップは、
前記第2回転関節部と前記第5回転関節部とを固定した状態で、前記第3回転関節部の回転軸の現在の軸中心位置を中心にして前記6軸ロボットの先端が描く円弧上の少なくとも3点から前記第3回転関節部の回転軸の軸中心位置を算出するステップを含む、請求項3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第5回転関節部の回転軸の軸中心位置を特定するステップは、
前記第2回転関節部と前記第3回転関節部とを固定した状態で、前記第5回転関節部の回転軸の現在の軸中心位置を中心にして前記6軸ロボットの先端が描く円弧上の少なくとも3点から前記第5回転関節部の回転軸の軸中心位置を算出するステップを含む、請求項3~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記円弧上の少なくとも3点を、レーザトラッカを使用して取得するステップをさらに有する請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ロボット設置面に略垂直な方向に起立する6軸ロボットの姿勢を調整する装置であって、
前記6軸ロボットのうち、前記略垂直な方向において異なる高さにある3軸の軸中心位置を特定する第1特定部と、
前記3軸のうちの前記ロボット設置面から遠い2軸を回転中心としてそれぞれ描いた2つの円弧を含む2つの面を特定する第2特定部と、
前記2つの円弧のうち、前記ロボット設置面から前記軸中心位置が遠い方の円弧上の前記6軸ロボットの頂部である所定点の位置を特定する第3特定部と、
特定された前記3軸の軸中心位置と、前記2つの面と、前記6軸ロボットの頂部である前記所定点の位置とに基づいて、前記3軸の回転方向の角度調整量と、前記2軸の間に延びる軸の回転方向の角度調整量とを決定する決定部と、
を備える装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は6軸ロボットの姿勢調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多関節ロボットとして6軸ロボットが知られている。6軸ロボットの各軸の原点位置の較正は、6軸ロボットが作業者により組み立てられた後に行われる。特許文献1には、6軸ロボットの原点位置を較正する方法が開示されている。
特許文献1の6軸ロボットは、ロボット設置面から順に第1軸~第6軸を有し、第1軸の回転軸がロボット設置面と直交し、第2軸の回転軸が第1軸の回転軸と直交し、第2軸の回転軸と第3軸の回転軸と第5軸の回転軸とが平行で、第5軸の回転軸が第4軸の回転軸及び第6軸の回転軸と同一点で直交し、第1軸の回転軸を含み第2軸の回転軸に直交する平面上に測定点が存在するように構成されている。そして、特許文献1の較正方法では、第4軸を180度回転させる工程と、第5軸を所定角度の2倍回転させる工程と、第5軸をさらに回転させて誤差角度を導出する工程と、誤差角度に上記所定角度を加算して第5軸の原点位置を較正する工程と、を順次行うことにより、6軸ロボットの第5軸の原点位置を較正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-274186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、上記所定角度を得るために第4軸の回転軸と第6軸の回転軸とが形成する角度を計測する必要がある。また、上記誤差角度を導出するために、ます、測定姿勢での測定点の座標と第5軸を所定角度の2倍回転させた後の測定点の座標とを結ぶ線分を導出する必要がある。さらに、導出した線分の中心座標を通り且つ当該線分と直交する直線上に測定点の座標が重なるように第5軸を回転させる必要がある。よって、第5軸の原点位置の較正のための作業が煩雑で、較正を短時間で行うことは難しい。また、ロボット全体の姿勢を較正するとなると、さらに作業が煩雑で、較正を短時間で行うことは難しい。
本発明は、上記した課題を解決するものであり、その目的は、6軸ロボットの姿勢を調整するための調整量を簡単な手法で決定することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様による6軸ロボットの姿勢調整方法は、ロボット設置面に略垂直な方向に起立する6軸ロボットの姿勢を調整する方法であって、前記6軸ロボットのうち、前記略垂直な方向において異なる高さにある3軸の軸中心位置を特定するステップと、前記3軸のうちの前記ロボット設置面から遠い2軸を回転中心としてそれぞれ描いた2つの円弧を含む2つの面を特定するステップと、前記2つの円弧のうち、前記ロボット設置面から遠い方の円弧上の所定点の位置を特定するステップと、特定された前記3軸の軸中心位置と、前記2つの面と、前記所定点の位置とに基づいて、前記3軸の回転方向の角度調整量と、前記2軸の間に延びる軸の回転方向の角度調整量とを決定するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、6軸ロボットの姿勢を調整するための調整量を簡単な手法で決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る6軸ロボットの斜視図。
図2】実施形態の6軸ロボットの左側面図。
図3】初期誤差が調整される前の6軸ロボットの正面図。
図4】初期誤差が調整された後の6軸ロボットの正面図。
図5】実施形態の角度調整方法を説明する概略正面。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための実施形態を詳細に説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の実現手段としての一例であり、本発明が適用される装置やシステムの構成や各種条件によって適宜修正または変更されるべきものであり、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0009】
(ロボットの構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかるロボット1の斜視図である。説明の便宜上、図1の上方向をZ方向と称し、左方向をY方向と称し、手前方向をX方向と称する。Z方向は、ロボット1の高さ方向である。また、Z方向と反対の方向を下方と称し、Z方向と同じ方向を上方と称する。図2は、図1に示すロボット1の左側面図である。
【0010】
本実施形態のロボット1は、所定の製品の組立や製造等に用いることができる6軸ロボットであり、例えば、組立ラインや製造ラインに設置されて使用される。図1及び図2に示すように、ロボット1は、6個の回転関節部2A~2Fと2個のアーム3A、3Bとを備えている。以下の記載において、6個の回転関節部2A~2Fは、ロボット設置面4側から、第1回転関節部2A、第2回転関節部2B、第3回転関節部2C、第4回転関節部2D、第5回転関節部2Eおよび第6回転関節部2Fと称する。また、2本のアーム3A、3Bは、ロボット設置面4側から、第1アーム3Aおよび第2アーム3Bと称する。図1は、ロボット1がロボット設置面4に略垂直な方向に起立している状態を示している。
【0011】
ロボット1は、ロボット1の基端部分を構成する支持部材5を備えている。支持部材5は設置面4に固定される。第1回転関節部2Aは、支持部材5に相対回動可能に連結されている。
第1アーム3A及び第2アーム3Bは、細長い円筒状に形成されている。第2アーム3Bの外径は、第1アーム3Aの外径よりも小さい。また、第2アーム3Bの長さは、第1アーム3Aの長さよりも短い。
【0012】
第1回転関節部2Aと第2回転関節部2Bは相対回動可能に連結され、第2回転関節部2Bと第1アーム3Aの基端(下端)は固定されている。第1アーム3Aの先端と第3回転関節部2Cは固定され、第3回転関節部2Cと第4回転関節部2Dは相対回動可能に連結されている。第4回転関節部2Dと第2アーム3Bの下端は相対回動可能に連結され、第2アーム3Bの先端と第5回転関節部2Eは固定されている。第5回転関節部2Eと第6回転関節部2Fは相対回動可能に連結されている。第6回転関節部2Fには、エンドエフェクタ等(図示せず)が相対回動可能に取り付け可能な取付部7が設けられている。
【0013】
なお、本実施形態では、第1回転関節部2Aと第2回転関節部2Bと第3回転関節部2Cとがほぼ同じ構造を有し、第4回転関節部2Dと第5回転関節部2Eと第6回転関節部2Fとがほぼ同じ構造を有する。よって、図1及び図2に示すように、第1回転関節部2Aと第2回転関節部2Bと第3回転関節部2Cとがほぼ同じ大きさで形成され、第4回転関節部2Dと第5回転関節部2Eと第6回転関節部2Fとがほぼ同じ大きさで形成されている。また、第4回転関節部2D、第5回転関節部2Eおよび第6回転関節部2Fは、第1回転関節部2A、第2回転関節部2Bおよび第3回転関節部2Cよりも小さい。
ただし、第1回転関節部2A、第2回転関節部2Bおよび第3回転関節部2Cと、第4回転関節部2D、第5回転関節部2Eおよび第6回転関節部2Fとは、大きさが相違する点を除けば同様な構成を有している。
【0014】
(回転関節部の構成)
第1回転関節部2A~第6回転関節部2Fのそれぞれは、モータ(図示せず)と、モータに連結される減速機(図示せず)と、モータの回転位置を検出するための位置検出機構(図示せず)と、モータおよび位置検出機構が電気的に接続される回路基板(図示せず)と、モータと減速機と位置検出機構と回路基板とが収容されるケース体6A~6Fとを備えている。各モータは、モータを制御するコントローラ(図示せず)に無線または有線で接続されいる。
【0015】
(回転関節部とアームの連結構造)
支持部材5と第1回転関節部2Aとは、第1回転関節部2Aの出力側部材(図示せず)が支持部材5に固定されることで連結されている。第1回転関節部2Aの中心軸10Aと支持部材5の中心軸とが一致するように支持部材5と第1回転関節部2Aとが連結されている。
第1回転関節部2Aと第2回転関節部2Bとは、第1回転関節部2Aの中心軸10Aと第2回転関節部2Bの中心軸10Bとが直交するように連結されている。また、第1回転関節部2Aのケース体6Aと第2回転関節部2Bのフランジ部11Bとが直接固定されている。
このように、第1回転関節部2Aの中心軸10Aと第2回転関節部2Bの中心軸10Bとが直交するように、第1回転関節部2Aと第2回転関節部2Bのフランジ部11Bとが直接固定される。また、支持部材5に対して、第1回転関節部2Aの中心軸10Aを回動軸として、第1回転関節部2Aと第2回転関節部2Bが回動できる。
【0016】
第2回転関節部2Bと第1アーム3Aとは、第2回転関節部2Bの中心軸10Bと第1アーム3Aの長手方向の中心軸とが直交するように連結されている。また、第2回転関節部2Bのケース体6Bに第1アーム3Aの下端が固定されている。
第1アーム3Aと第3回転関節部2Cとは、第1アーム3Aの長手方向の中心軸と第3回転関節部2Cの中心軸10Cとが直交するように連結されている。また、第3回転関節部2Cのケース体6Cに第1アーム3Aの先端が固定されている。中心軸10Cは、中心軸10Bに平行である。
【0017】
第3回転関節部2Cと第4回転関節部2Dとは、第3回転関節部2Cの中心軸10Cと第4回転関節部2Dの中心軸10Dとが直交するように連結されている。また、第4回転関節部2Dのケース体6Dの取付面9Dと第3回転関節部2Cのフランジ部11Cとが、第3回転関節部2Cの中心軸10Cに所定の厚さ(長さ)を有する連結部材12を介して固定されている。中心軸10Dと中心軸10Aは同軸上にある。
第4回転関節部2Dと第2アーム3Bとは、第4回転関節部2Dの中心軸10Dと第2アーム3Bの長手方向の中心軸とが一致するように連結されている。また、第4回転関節部2Dのフランジ部11Dに第2アーム3Bの下端が固定されている。
よって、第1アーム3Aに対して、第3回転関節部2Cの中心軸10Cを回動軸として第2アーム3Bが回動できる。
【0018】
第2アーム3Bと第5回転関節部2Eとは、第2アーム3Bの長手方向の中心軸と第5回転関節部2Eの中心軸10Eとが直交するように連結されている。また、第5回転関節部2Eのケース体6Eに第2アーム3Bの先端が固定されている。中心軸10Eは、中心軸10Bと中心軸10Cに平行である。
第5回転関節部2Eと第6回転関節部2Fとは、第5回転関節部2Eの中心軸10Eと第6回転関節部2Fの中心軸10Fとが直交するように連結されている。また、第6回転関節部2Fのケース体6Fの取付面9Fと第5回転関節部2Eのフランジ部11Eとが直接固定されている。
【0019】
よって、第1アーム3Aに対して第3回転関節部2Cの中心軸10Cを回動軸とする相対回動が可能となっている第2アーム3Bは、第1回転関節部2Aの中心軸10Aを含む平面上で回動し得る。また、第2アーム3Bは、中心軸10Cを中心として回動する際に、第1回転関節部2Aと第5回転関節部2Eとが干渉しないように、第1アーム3Aよりも短くなっている。
【0020】
(初期誤差)
ロボットは作業者により組み立てられて、初期姿勢(理想的には、例えば、図4に示すような直立の姿勢)にされる。そして、初期姿勢の状態から、所謂、キャリブレーションが行われる。本明細書では、初期姿勢を補正(調整)することを初期誤差の補正と称し、初期姿勢が確定した後に行われる補正をキャリブレーションと称する。
一般的に、ロボット組み立て直後の初期姿勢は、ある程度の誤差(初期誤差)を含む。特に、ロボットの回転関節部は回転しやすいので、ロボットの初期姿勢において、回転関節部の中心軸回りの角度が設計値とは異なってしまう場合(角度誤差)が生ずる。また、組み立て後に、作業者の目視や冶具により、ロボットの初期姿勢を調整することもあるが、ロボットの初期姿勢を調整した後においても、ロボットの初期姿勢は誤差(初期誤差)を有している場合がある。
【0021】
ロボットの初期姿勢が確定した後、キャリブレーションを行う。しかし、キャリブレーションは収束演算を利用するので、初期誤差が大きい場合、演算が発散してしまうことがある。キャリブレーションで使用するアルゴリズムによっては、初期誤差に非常に敏感な場合もある。また、初期誤差が大きい場合、キャリブレーションの演算に長時間を要することもある。図3は、初期誤差を含むロボット1の正面図である。
本実施形態では、初期誤差を無くすまたは小さくする方法を説明する。初期誤差を小さくすれば、その後に行われるキャリブレーション演算がスムースに進む。つまり、キャリブレーションの演算時間を短くすることができる。なお、初期誤差の理解を容易にするために、図3の初期誤差は誇張して描かれている。
【0022】
(回転関節部の位置の測定・取得)
本実施形態では、ロボットの初期姿勢において、図3のような初期誤差がある場合に、ロボットの初期姿勢を調整して、図4のような初期姿勢にする。以下、ロボットの初期姿勢を調整する方法を図5を用いて説明する。
図5は組み立て直後のロボット1の概略正面図であり、図5において、点P2は中心軸10Bの位置であり、点P3は中心軸10Cの位置(軸中心位置)であり、点P5は中心軸10Eの位置である。図5の左方向がY軸のプラス方向で、右方向がY軸のマイナス方向である。本実施形態では、位置計測器としてレーザトラッカを使用する。レーザトラッカから発せられるレーザを反射するミラーは、エンドエフェクタ取付部7上の位置Mに取り付けられているとする。位置Mはロボットの頂部の位置であり、点P6とも表す場合もある。なお、図5はロボット1の初期姿勢を調整する方法の原理を説明するための図であり、初期誤差は極小に描かれている。
【0023】
まず、組み立て直後のロボット1において、点P3と点P5を固定し、点P2を中心として第1アーム3AをY軸方向に動かす。この際、コントローラが第2回転関節部2Bのモータへ回転指示を出し、それ以外の回転関節部(第1回転関節部2A,第3回転関節部2C、第4回転関節部2D、第5回転関節部2E及び第6回転関節部2F)のモータへ停止指示を出す。点P3と点P5を固定するとは、図5のようにロボット1を正面から見た場合に、点P3と点P5を中心とした回動が起きないようにすることを意味する。
【0024】
コントローラからの指示に基づいて、第1アーム3Aは、例えば、Y軸のプラス方向に20度動かされ、ロボット頂部(図2の位置Mまたは点P6)は点P21の位置で止まる。点P3と点P5が固定されているので、第1アーム3Aと第2アーム3Bは一緒に動く。この状態で、点P21の位置をレーザトラッカにより計測する。その後、コントローラからの指示に基づいて、第1アーム3AはY軸のマイナス方向に40度動かされ、ロボット頂部は点P23で止まる(-20度の位置)。この状態で、点P23の位置をレーザトラッカにより計測する。そして、コントローラからの指示に基づいて、第1アーム3AはY軸方向の0度に戻され(つまり、点P22の位置に移動させられ)、ロボット頂部は点P22で止まる。点P22の位置をレーザトラッカにより計測する。このようにして、点P2を中心とした円弧R1上の3点(P21、P22及びP23)の位置を取得する。点P21、P22及びP23の位置が取得できると、回転中心である点P2の位置(座標値)が算出できる。点P2の位置の算出は、例えば、レーザトラッカが行う。
点P2の位置を算出する際に、点P3及び点P5を固定しているので、点P3及び点P5に初期誤差があっても、位置Mまたは点P6の軌道は常に円になる。従って、点P2の位置(Z軸座標位置)の算出は、点P3及び点P5の初期誤差の影響を受けず、点P2の理想の位置(設計値)と比較するのに十分に正確な値となる。
【0025】
次に、点P2と点P5を固定し、点P3を中心として第2アーム3BをY軸方向に動かす。この際、コントローラは第3回転関節部2Cのモータへ回転指示を出し、それ以外の回転関節部のモータへ停止指示を出す。コントローラからの指示に基づいて、第2アーム3BはY軸のプラス方向に動かされ、ロボット頂部は点P31の位置で止まる。この状態で、点P31の位置をレーザトラッカにより計測する。その後、第2アーム3BをY軸のマイナス方向に動かし、ロボット頂部を点P33で止める。この状態で、点P33の位置をレーザトラッカにより計測する。そして、第2アーム3BをY軸方向の0度に戻し(つまり、ロボット頂部を点P32の位置に移動し)、点P32の位置をレーザトラッカにより計測する。このようにして、点P3を中心とした円弧R2上の3点(P31、P32及びP33)の位置を取得する。点P31、P32及びP33の位置が取得できると、回転中心である点P3の位置が算出できる。なお、P32の位置はP22と同じであるので、レーザトラッカによる位置計測は省略してもよい。
【0026】
最後に、点P2と点P3を固定し、点P5を中心としてエンドエフェクタ取付部7をY軸方向に動かす。この際、コントローラが第5回転関節部2Eのモータへ回転指示を出し、それ以外の回転関節部のモータへ停止指示を出す。コントローラからの指示に基づいて、エフェクタ取付部7はY軸のプラス方向に動かされ、ロボット頂部は点P51の位置で止まる。この状態で、点P51の位置をレーザトラッカにより計測する。その後、エフェクタ取付部7をY軸のマイナス方向に動かし、ロボット頂部を点P53で止める。この状態で、点P53の位置をレーザトラッカにより計測する。そして、エフェクタ取付部7をY軸方向の0度に戻し(つまり、ロボット頂部を点P52の位置に移動し)、点P52の位置をレーザトラッカにより計測する。このようにして、点P5を中心とした円弧R3上の3点(P51、P52及びP53)の位置を取得する。点P51、P52及びP53の位置が取得できると、回転中心である点P5の位置が算出できる。なお、P52の位置はP22と同じであるので、レーザトラッカによる位置計測は省略してもよい。
【0027】
第1アーム3Aの長手方向中心線の傾斜角(垂直方向からのずれ)と、第2アーム3Bの長手方向中心線の傾斜角は無視できるので、点P2、点P3及び点P5は1つの平面上に位置する。この平面はZ軸とY軸で規定される面と平行な面である。
【0028】
(ロボットの初期姿勢の調整)
次に、ロボット1の初期姿勢を調整する方法について説明する。ロボット1を正面から見た場合、図3のように初期誤差を有するロボット1が図4のような姿勢になれば、その後に行われるキャリブレーションが短時間でできる。よって、ロボット1が図3から図4のような姿勢になることを「ロボットの初期姿勢の調整」と称する。点P2、P3及びP5の理想の位置(設計座標)は、予め分かっているとする。
ロボット1の組み立て時における回転関節部2B、2C及び2Eの角度誤差をそれぞれdth2、dth3及びdth5と表すと、回転関節部2B、2C及び2Eの角度誤差は、以下の(式1)~(式5)により求められる。角度誤差dth2、dth3及びdth5は、ロボット1を正面から見た場合の、垂直方向から角度ずれである。
【0029】
【数1】
【0030】
なお、(式1)~(式5)において、P3zは点P3のZ軸座標位置であり、P2zは点P2のZ軸座標位置であり、P3xは点P3のX軸座標位置であり、P2xは点P2のX軸座標位置である。P6zは点P6のZ軸座標位置であり、P6xは点P6のX軸座標位置であり、P5zは点P5のZ軸座標位置であり、P5xは点P5のX軸座標位置である。また、dth4は回転関節部2Dの角度誤差であり、dth4は点P51、P52、P53で規定される面(円弧R3を含む面)と、点P31、P32、P33で規定される面(円弧R2を含む面)との間の角度として計算できる。dth4の値を取得するには、これら2つの面の法線ベクトル間の角度を取得すれるだけでよい。dth2~dth5の計算は、例えば、レーザトラッカが行う。dth2~dth5は、ロボット1の初期誤差を無くすための角度調整量である。sgm3は点P5から点P3への方向ベクトルの傾きの角度であり、sgm6は点P5から点P6への方向ベクトルの傾きの角度である。d5は第5回転関節部2Eと第6回転関節部2Fとを連結する長さの設計値である。d5は、図2において、中心軸10Dと10Eの交点から点P5までの距離である。初期誤差を含むロボットのd5の実測値と設計値とは異なるが、d5の実測値と設計値との差は限りなく微小であるため、本実施形態では設計値を用いている。なお、d5は初期誤差を含む実測値を用いてもよい。
なお、第1回転関節部2A及び第6回転関節部2Fの角度誤差は、ロボット1を図4のような姿勢にする際には無関係であるので、本実施形態では考慮しない。
【0031】
dth2~dth5が計算された後、例えば、レーザトラッカが、角度誤差dth2~dth5を電気信号(パルス)に変換し、当該パルスをコントローラに送信する。コントローラは、受信したパルスに基づいて、回転関節部2B~2Eのモータに回転指示を送る。当該回転指示に基づいて、回転関節部2B~2Eのモータが回転すると、回転関節部2B~2Eの角度誤差(初期誤差)が無くなる。
初期誤差が無くなると、図4に示すように、第1アーム3Aと第2アーム3Bは設置面から垂直に延びるようになり、第1アーム3Aと第2アーム3Bの角度(正面視)は略180度になる。
【0032】
(実施形態1の効果)
本実施形態によれば、(式1)~(式5)に基づいてdth2~dth5を決定することができる。よって、6軸ロボットの初期姿勢を調整するための角度調整量を簡単な手法で決定することができる。
【0033】
(変形例)
上記した本実施形態では点P2、P3、P5の位置を算出する際に、円弧上の3点(例えば、P21、P22及びP23)の位置を計測・取得したが、本実施形態はこのような計測に限定されない。例えば、点P2を中心とした円弧上の5点の位置を計測し、当該5点の位置に基づいて、点P2の位置を算出してもよい。
また、位置計測器としてレーザトラッカを使用したが、その他の位置計測器を使用してもよい。
上記した実施形態では、ロボットが組み立てられた直後の姿勢(初期姿勢)は図3図4)のような直立姿勢であるとしたが、直立姿勢以外の姿勢を初期姿勢としてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…6軸ロボット、2B…第2回転関節部、2C…第3回転関節部、2E…第5回転関節部、4…ロボット設置面、10C~10E…中心軸、R2、R3…円弧、dth2~dth5…角度誤差

図1
図2
図3
図4
図5