(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
B60C11/03 C
B60C11/03 300C
B60C11/03 200D
(21)【出願番号】P 2018074052
(22)【出願日】2018-04-06
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】東浦 一樹
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-199120(JP,A)
【文献】国際公開第2012/046724(WO,A1)
【文献】特開2004-224249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤであって、
第1トレッド端及び第2トレッド端を含むトレッド部を含み、
前記トレッド部には、タイヤ軸方向に対して斜めに延びる複数の傾斜溝が形成されており、
前記複数の傾斜溝は、
前記第1トレッド端に連通する開放端からタイヤ赤道を越えかつ前記第2トレッド端の手前に途切れ端を有する第1傾斜溝と、
前記第2トレッド端に連通する開放端からタイヤ赤道を越えかつ前記第1トレッド端の手前に途切れ端を有する第2傾斜溝とを含み、
前記第1傾斜溝と前記第2傾斜溝とは、それぞれ、タイヤ軸方向に対する傾斜に関して、前記開放端側の第1急傾斜部と、前記途切れ端側の第2急傾斜部と、それらの間の緩傾斜部とを含
み、
前記第1急傾斜部は、前記開放端からタイヤ赤道側に向かってタイヤ軸方向に対する角度が漸増している部分であり、
前記緩傾斜部は、前記第1急傾斜部側から前記第2急傾斜部側に向かって、タイヤ軸方向に対する角度が漸減している部分であり、
前記第2急傾斜部は、
前記緩傾斜部から前記途切れ端側に向かってタイヤ周方向に対する角度が漸減する
本体部を含む部分であり、
前記第1傾斜溝の前記途切れ端から前記第2トレッド端までのタイヤ軸方向の距離は、前記第1トレッド端から前記第2トレッド端までのタイヤ軸方向の距離であるトレッド幅の0.05~0.15倍である、
タイヤ。
【請求項2】
タイヤであって、
第1トレッド端及び第2トレッド端を含むトレッド部を含み、
前記トレッド部には、タイヤ軸方向に対して斜めに延びる複数の傾斜溝が形成されており、
前記複数の傾斜溝は、
前記第1トレッド端に連通する開放端からタイヤ赤道を越えかつ前記第2トレッド端の手前に途切れ端を有する第1傾斜溝と、
前記第2トレッド端に連通する開放端からタイヤ赤道を越えかつ前記第1トレッド端の手前に途切れ端を有する第2傾斜溝とを含み、
前記第1傾斜溝と前記第2傾斜溝とは、それぞれ、タイヤ軸方向に対する傾斜に関して、前記開放端側の第1急傾斜部と、前記途切れ端側の第2急傾斜部と、それらの間の緩傾斜部とを含み、
前記第1急傾斜部は、前記開放端からタイヤ赤道側に向かってタイヤ軸方向に対する角度が漸増している部分であり、
前記緩傾斜部は、前記第1急傾斜部側から前記第2急傾斜部側に向かって、タイヤ軸方向に対する角度が漸減している部分であり、
前記第2急傾斜部は、前記緩傾斜部から前記途切れ端側に向かってタイヤ周方向に対する角度が漸減する本体部と、前記本体部に連なり、かつ、前記途切れ端に向かってタイヤ周方向に対する角度が漸増している先端部とからなる部分であり、
前記第1急傾斜部は、タイヤ周方向の一方側に向かって凸に湾曲しており、
前記緩傾斜部は、タイヤ周方向の他方側に向かって凸に湾曲している、
タイヤ。
【請求項3】
タイヤであって、
第1トレッド端及び第2トレッド端を含むトレッド部を含み、
前記トレッド部には、タイヤ軸方向に対して斜めに延びる複数の傾斜溝が形成されており、
前記複数の傾斜溝は、
前記第1トレッド端に連通する開放端からタイヤ赤道を越えかつ前記第2トレッド端の手前に途切れ端を有する第1傾斜溝と、
前記第2トレッド端に連通する開放端からタイヤ赤道を越えかつ前記第1トレッド端の手前に途切れ端を有する第2傾斜溝とを含み、
前記第1傾斜溝と前記第2傾斜溝とは、それぞれ、タイヤ軸方向に対する傾斜に関して、前記開放端側の第1急傾斜部と、前記途切れ端側の第2急傾斜部と、それらの間の緩傾斜部とを含み、
前記第1急傾斜部は、前記開放端からタイヤ赤道側に向かってタイヤ軸方向に対する角度が漸増している部分であり、
前記緩傾斜部は、前記第1急傾斜部側から前記第2急傾斜部側に向かって、タイヤ軸方向に対する角度が漸減している部分であり、
前記第2急傾斜部は、前記緩傾斜部から前記途切れ端側に向かってタイヤ周方向に対する角度が漸減する本体部を含む部分であり、
前記トレッド部には、複数の前記第1傾斜溝と複数の前記第2傾斜溝とが設けられ、
前記複数の第1傾斜溝のそれぞれは、タイヤ赤道と前記第2トレッド端との間で2本以上の前記第2傾斜溝と交差している、
タイヤ。
【請求項4】
前記複数の第2傾斜溝のそれぞれは、タイヤ赤道と前記第1トレッド端との間で2本以上の前記第1傾斜溝と交差している、請求項3記載のタイヤ。
【請求項5】
前記緩傾斜部のタイヤ軸方向に対する角度は、5~30°である、請求項1ないし4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記第2急傾斜部のタイヤ軸方向に対する角度は、40~70°である、請求項1ないし5のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関し、詳しくは、雪路走行に適したタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッド部に複数の傾斜横溝が設けられた冬用のタイヤが提案されている。傾斜横溝は、接地端の外側からタイヤ赤道近傍の内端まで、タイヤ赤道を横切ることなく延びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冬用のタイヤは、雪路性能のさらなる向上に加え、ウェット性能の向上も要求されている。しかしながら、特許文献1の傾斜横溝は、タイヤ赤道を横切ることなく途切れているため、雪路でのトラクションや排水性が不足する傾向があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、優れた雪路性能及びウェット性能を発揮し得るタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤであって、第1トレッド端及び第2トレッド端を含むトレッド部を含み、前記トレッド部には、タイヤ軸方向に対して斜めに延びる複数の傾斜溝が形成されており、前記複数の傾斜溝は、前記第1トレッド端に連通する開放端からタイヤ赤道を越えかつ前記第2トレッド端の手前に途切れ端を有する第1傾斜溝と、前記第2トレッド端に連通する開放端からタイヤ赤道を越えかつ前記第1トレッド端の手前に途切れ端を有する第2傾斜溝とを含み、前記第1傾斜溝と前記第2傾斜溝とは、それぞれ、タイヤ軸方向に対する傾斜に関して、前記開放端側の第1急傾斜部と、前記途切れ端側の第2急傾斜部と、それらの間の緩傾斜部とを含み、前記第2急傾斜部は、前記途切れ端側に向かってタイヤ周方向に対する角度が漸減する部分を含む。
【0007】
本発明のタイヤにおいて、前記トレッド部には、複数の前記第1傾斜溝と複数の前記第2傾斜溝とが設けられ、前記複数の第1傾斜溝のそれぞれは、タイヤ赤道と前記第2トレッド端との間で2本以上の前記傾斜溝と交差しているのが望ましい。
【0008】
本発明のタイヤにおいて、前記複数の第2傾斜溝のそれぞれは、タイヤ赤道と前記第1トレッド端との間で2本以上の前記傾斜溝と交差しているのが望ましい。
【0009】
本発明のタイヤにおいて、前記第1傾斜溝の前記緩傾斜部は、タイヤ軸方向に対する角度が前記第2トレッド端側に向かって漸減しているのが望ましい。
【0010】
本発明のタイヤにおいて、前記第2傾斜溝の前記緩傾斜部は、タイヤ軸方向に対する角度が前記第1トレッド端側に向かって漸減しているのが望ましい。
【0011】
本発明のタイヤにおいて、前記第1急傾斜部は、タイヤ周方向の一方側に向かって凸に湾曲しているのが望ましい。
【0012】
本発明のタイヤにおいて、前記緩傾斜部は、タイヤ周方向の他方側に向かって凸に湾曲しているのが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のタイヤのトレッド部には、タイヤ軸方向に対して斜めに延びる複数の傾斜溝が形成されている。複数の傾斜溝は、第1トレッド端に連通する開放端からタイヤ赤道を越えかつ第2トレッド端の手前に途切れ端を有する第1傾斜溝と、第2トレッド端に連通する開放端からタイヤ赤道を越えかつ第1トレッド端の手前に途切れ端を有する第2傾斜溝とを含む。第1傾斜溝及び第2傾斜溝は、タイヤ赤道を横切って延びており、ウェット走行時に高い排水性を発揮する一方、雪路走行時、タイヤ軸方向に比較的長い雪柱を形成し、大きな雪柱せん断力を提供することができる。
【0014】
第1傾斜溝と第2傾斜溝とは、それぞれ、タイヤ軸方向に対する傾斜に関して、開放端側の第1急傾斜部と、途切れ端側の第2急傾斜部と、それらの間の緩傾斜部とを含む。緩傾斜部は、相対的にタイヤ軸方向に近い角度で延びるとともに、直進時に大きな接地圧が作用する。このため、緩傾斜部は、雪路での直進走行時、大きな雪上トラクションを提供する。
【0015】
一方、第1急傾斜部及び第2急傾斜部は、相対的にタイヤ周方向に近い角度で延びるとともに、これらに作用する接地圧は旋回時に大きくなる。このため、第1急傾斜部及び第2急傾斜部は、雪路での旋回時、タイヤ軸方向の大きな雪柱せん断力を提供し、ひいては雪路での旋回性能を高めるのに役立つ。
【0016】
一般に、緩傾斜部のようなタイヤ軸方向に対する角度が相対的に小さい溝部分は、その内部で水が流れ難くなり、排水性の低下を招くおそれがある。本発明の第1傾斜溝及び第2傾斜溝では、緩傾斜部が、内部で水が流れ易い第1急傾斜部と第2急傾斜部との間に配されているため、緩傾斜部による排水性の低下を最小限に抑制しながら、雪上トラクションを高めることができる。また、各傾斜溝の第2急傾斜部は、途切れ端側に向かってタイヤ周方向に対する角度が漸減する部分を含んでいるため、タイヤの回転を利用して傾斜溝の内部の水を積極的に途切れ端側又は開放端側に案内できる。従って、本発明の傾斜溝は、優れた排水性も発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態のタイヤのトレッド部の展開図である。
【
図4】比較例のタイヤのトレッド部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態のタイヤ(以下、単に「タイヤ」という場合がある。)1のトレッド部2の展開図である。
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、例えば、冬用の空気入りタイヤであって、乗用車用であるのが望ましい。但し、本発明のタイヤ1は、このような態様に限定されるものではない。
【0019】
本実施形態のタイヤ1は、例えば、回転方向Rが指定された方向性パターンを具えている。回転方向Rは、例えば、サイドウォール部(図示省略)に、文字又は記号で表示される。
【0020】
本実施形態のタイヤ1のトレッド部2は、第1トレッド端Te1及び第2トレッド端Te2を含む。トレッド部2は、例えば、タイヤ赤道Cと第1トレッド端Te1との間の第1トレッド部2Aと、タイヤ赤道Cと第2トレッド端Te2との間の第2トレッド部2Bとを含んでいる。第1トレッド部2Aと第2トレッド部2Bとは、タイヤ周方向に位置ずれしている点を除き、実質的に線対称に構成されている。このため、第1トレッド部2Aの各構成は、第2トレッド部2Bに適用することができる。
【0021】
第1トレッド端Te1及び第2トレッド端Te2は、空気入りタイヤの場合、正規状態のタイヤ1に正規荷重が負荷されキャンバー角0°で平面に接地したときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置である。正規状態とは、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、正規状態で測定された値である。
【0022】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0023】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0024】
「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0025】
トレッド部2には、タイヤ軸方向に対して斜めに延びる複数の傾斜溝10が設けられている。傾斜溝10は、複数の第1傾斜溝11と複数の第2傾斜溝12とを含む。第1傾斜溝11は、前記第1トレッド端に連通する開放端11aからタイヤ赤道Cを越えかつ第2トレッド端Te2の手前に途切れ端11bを有する。第2傾斜溝12は、第2トレッド端Te2に連通する開放端12aからタイヤ赤道Cを越えかつ第1トレッド端Te1の手前に途切れ端12bを有する。第2傾斜溝12は、第1傾斜溝11と実質的に同様の構成を有している。このため、特に断りの無い限り、第1傾斜溝11の構成は、第2傾斜溝12に適用することができる。第1傾斜溝11及び第2傾斜溝12は、タイヤ赤道Cを横切って延びており、ウェット走行時に高い排水性を発揮する一方、雪路走行時、タイヤ軸方向に比較的長い雪柱を形成し、大きな雪柱せん断力を提供することができる。
【0026】
本実施形態の傾斜溝10は、例えば、第1傾斜溝11及び第2傾斜溝12よりもタイヤ軸方向の長さが小さい傾斜副溝13を含む。傾斜副溝13は、例えば、複数の第1傾斜副溝14と複数の第2傾斜副溝15とを含む。第1傾斜副溝14は、例えば、第1トレッド端Te1に連通する開放端14aからタイヤ赤道Cを越えかつ第1傾斜溝11の途切れ端11bよりもタイヤ赤道C側に途切れ端14bを有する。本実施形態では、第1トレッド部2Aにおいて、第1傾斜溝11と第1傾斜副溝14とがタイヤ周方向に交互に設けられている。
【0027】
第2傾斜副溝15は、例えば、第2トレッド端Te2に連通する開放端15aからタイヤ赤道Cを越えかつ第2傾斜溝12の途切れ端12bよりもタイヤ赤道C側に途切れ端15bを有する。本実施形態では、第2トレッド部2Bにおいて、第2傾斜溝12と第2傾斜副溝15とがタイヤ周方向に交互に設けられている。
【0028】
望ましい態様では、各傾斜溝10は、トレッド端Te1、Te2から、タイヤ赤道C側に向かって、回転方向Rの先着側に傾斜している。但し、本発明は、このような態様に限定されるものではない。
【0029】
傾斜溝10の溝幅W1は、例えば、トレッド幅TWの2.0%~6.0%であるのが望ましい。溝幅W1は、例えば、開放端側から途切れ端側に向かって漸減しているのが望ましい。傾斜溝10の深さは、乗用車用の冬用タイヤの場合、例えば、6.0~12.0mmであり、好ましくは8.0~10.0mmである。トレッド幅TWは、前記正規状態における第1トレッド端Te1から第2トレッド端Te2までのタイヤ軸方向の距離である。
【0030】
第1傾斜溝11と第2傾斜溝12とは、それぞれ、タイヤ軸方向に対する傾斜に関して、開放端側の第1急傾斜部16と、途切れ端側の第2急傾斜部17と、それらの間の緩傾斜部18とを含む。緩傾斜部18は、相対的にタイヤ軸方向に近い角度で延びるとともに、直進時に大きな接地圧が作用する。このため、緩傾斜部18は、雪路での直進走行時、大きな雪上トラクションを提供する。
【0031】
一方、第1急傾斜部16及び第2急傾斜部17は、相対的にタイヤ周方向に近い角度で延びるとともに、これらに作用する接地圧は旋回時に大きくなる。このため、第1急傾斜部16及び第2急傾斜部17は、雪路での旋回時、タイヤ軸方向の大きな雪柱せん断力を提供し、ひいては雪路での旋回性能を高めるのに役立つ。
【0032】
本発明の第1傾斜溝11及び第2傾斜溝12では、緩傾斜部18が、内部で水が流れ易い第1急傾斜部16と第2急傾斜部17との間に配されているため、緩傾斜部18による排水性の低下を最小限に抑制しながら、雪上トラクションを高めることができる。
【0033】
さらに、第2急傾斜部17は、途切れ端に向かってタイヤ周方向に対する角度が漸減する部分を含む。このような第2急傾斜部17は、タイヤの回転を利用して傾斜溝10の内部の水を積極的に途切れ端側又は開放端側に案内できる。従って、本発明の傾斜溝10は、優れた排水性も発揮することができる。
【0034】
第1傾斜溝11のそれぞれは、例えば、タイヤ赤道Cと第2トレッド端Te2との間で2本以上の傾斜溝10と交差しているのが望ましい。第1傾斜溝11は、例えば、タイヤ赤道Cと第2トレッド端Te2との間でより望ましくは3本以上、さらに望ましくは4本以上の傾斜溝10と交差している。これにより、第1傾斜溝11と他の傾斜溝10との交差部分によって、雪路走行時に複数の雪柱を形成でき、より大きな雪柱せん断力が得られる。
【0035】
同様の観点から、第2傾斜溝12のそれぞれは、例えば、タイヤ赤道Cと第1トレッド端Te1との間で2本以上の傾斜溝10と交差しているのが望ましい。第2傾斜溝12は、例えば、タイヤ赤道Cと第1トレッド端Te2との間でより望ましくは3本以上、さらに望ましくは4本以上の傾斜溝10と交差している。
【0036】
本実施形態では、傾斜溝10同士の交差部分が全て十字路で構成されているが、このような態様に限定されず、上記交差部分のいずれかが三叉路で構成されても良い。
【0037】
第1傾斜溝11の第1急傾斜部16は、例えば、開放端11aからタイヤ赤道Cの手前まで延びている。本実施形態の第1急傾斜部16は、例えば、第1トレッド部2Aのタイヤ軸方向の中心位置を横切っている。
【0038】
第1急傾斜部16のタイヤ軸方向に対する角度θ1は、例えば、15~70°である。第1急傾斜部16は、例えば、開放端11a側からタイヤ赤道C側に向かってタイヤ軸方向に対する角度が漸増している。第1急傾斜部16は、例えば、タイヤ周方向の一方側に向かって凸に湾曲しているのが望ましい。本実施形態の第1急傾斜部16は、例えば、回転方向Rの後着側に向かって凸に湾曲している。このような第1急傾斜部16は、雪路走行時、弓形状に湾曲した雪柱を形成する。このような雪柱は、回転方向Rの先着側に向かって向かって大きな雪柱せん断力を発揮し、雪路でのブレーキ性能を高めるのに役立つ。
【0039】
緩傾斜部18は、例えば、タイヤ赤道Cを横切っている。本実施形態の緩傾斜部18の第1トレッド端Te1側の端部は、例えば、第1トレッド部2Aのタイヤ軸方向の中心位置よりもタイヤ赤道C側に配されている。同様に、本実施形態の緩傾斜部18の第2トレッド端Te2側の端部は、例えば、第2トレッド部2Bのタイヤ軸方向の中心位置よりもタイヤ赤道C側に配されている。
【0040】
緩傾斜部18のタイヤ軸方向に対する角度θ2は、第1急傾斜部16のタイヤ軸方向に対する最大の角度よりも小さい。緩傾斜部18の角度θ2は、例えば、5~30°である。第1傾斜溝11の緩傾斜部18は、例えば、タイヤ軸方向に対する角度θ2が第2トレッド端Te2側に向かって漸減している。同様に、第2傾斜溝12の緩傾斜部18は、タイヤ軸方向に対する角度θ3が第1トレッド端Te1側に向かって漸減している。このような緩傾斜部18は、ウェット走行時、内部に入った水をタイヤ軸方向のいずれか一方に移動し易くする。
【0041】
緩傾斜部18は、例えば、タイヤ周方向の他方側、より望ましくは第1急傾斜部16とは反対側に向かって凸に湾曲しているのが望ましい。具体的には、緩傾斜部18は、回転方向Rの先着側に向かって凸に湾曲している。このような緩傾斜部18は、雪路走行時、第1急傾斜部16が形成する雪柱とは反対側に向かって弓形状に湾曲した雪柱を形成し、ひいては雪路でのトラクション性能を効果的に高めることができる。
【0042】
第2急傾斜部17は、タイヤ赤道Cと第2トレッド端Te2との間に配されている。本実施形態の第2急傾斜部17は、例えば、第2トレッド部2Bのタイヤ軸方向の中心位置を横切っている。本実施形態の第2急傾斜部17は、例えば、緩傾斜部18から途切れ端11bに向かって、タイヤ周方向に対する角度が漸減する本体部17aと、本体部17aに連なる先端部19とを含んでいる。本体部17aは、例えば、第2急傾斜部17の全体の長さの好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上の長さを有している。また、本体部17aには、少なくとも2本の傾斜溝10が交差している。
【0043】
第2急傾斜部17は、例えば、タイヤ軸方向に対して緩傾斜部18よりも大きい角度θ4で傾斜している。第2急傾斜部17のタイヤ軸方向に対する角度θ4は、例えば、40~70°である。
【0044】
第2急傾斜部17の本体部17aは、例えば、第1急傾斜部16と同じ向きに向かって凸に湾曲しているのが望ましい。このような第2急傾斜部17は、第1急傾斜部16と同じ向きに大きな雪柱せん断力を提供できる。
【0045】
第2急傾斜部17の先端部19は、例えば、タイヤ周方向に対する角度が途切れ端11b側に向かって漸増しているのが望ましい。
【0046】
第1傾斜溝11及び第2傾斜溝12のさらに詳細な構成を説明するための図として、
図2には、第1傾斜溝11の輪郭の拡大図が示されている。
図2に示されるように、第1傾斜溝11は、他の傾斜溝10との交差部分を複数含んでいる。各交差部分は、第1傾斜溝11の溝中心線と他の傾斜溝10の溝中心線との交点を有する。本実施形態の第1傾斜溝11は、例えば、第1トレッド端Te1とタイヤ赤道Cとの間の領域において、3つの交差部分を有し、各交差部分の交点が第1交点21、第2交点22及び第3交点23とされる。第1交点21は、最も第1トレッド端Te1側の交差部分の交点である。第2交点22は、第1交点21の第2トレッド端Te2側に隣り合う交差部分の交点である。第3交点23は、第2交点22の第2トレッド端Te2側に隣り合う交差部分の交点である。
【0047】
本実施形態の第1傾斜溝11は、例えば、第2トレッド端Te2とタイヤ赤道Cとの間の領域において、4つの交差部分を有し、各交差部分の交点が第4交点24、第5交点25、第6交点26及び第7交点27とされる。第4交点24は、第3交点23の第2トレッド端Te2側に隣り合う交差部分の交点である。第5交点25は、第4交点24の第2トレッド端Te2側に隣り合う交差部分の交点である。第6交点26は、第5交点25の第2トレッド端Te2側に隣り合う交差部分の交点である。第7交点27は、第6交点26の第2トレッド端Te2側に隣り合う交差部分の交点であり、最も第2トレッド端Te2側に形成されている。
【0048】
本実施形態では、開放端11aと第3交点23との間で第1急傾斜部16が構成されている。第1トレッド端Te1と第1傾斜溝11の溝中心線との交点から第1交点21までの延びる第1直線20aのタイヤ軸方向に対する角度θ5は、例えば、10~20°であるのが望ましい。第1交点21から第2交点22までの延びる第2直線20bのタイヤ軸方向に対する角度θ6は、例えば、20~45°であるのが望ましい。第2交点22から第3交点23までの延びる第3直線20cのタイヤ軸方向に対する角度θ7は、例えば、40~55°であるのが望ましい。
【0049】
タイヤ赤道Cから第3交点23までのタイヤ軸方向の距離L1は、例えば、トレッド幅TWの0.05~0.15倍であるのが望ましい。このような第1傾斜溝11は、雪路性能とドライ路面での操縦安定性とをバランス良く高めるのに役立つ。
【0050】
本実施形態では、第3交点23と第4交点24との間で緩傾斜部18が構成されている。第3交点23から第4交点までのびる第4直線20dのタイヤ軸方向に対する角度θ8は、例えば、15~25°であるのが望ましい。
【0051】
タイヤ赤道Cから第4交点24までのタイヤ軸方向の距離L2は、例えば、トレッド幅TWの0.05~0.15倍であるのが望ましい。
【0052】
本実施形態では、第4交点24と第7交点27との間で第2急傾斜部17が構成されている。第4交点24から第5交点25までの延びる第5直線20eのタイヤ周方向に対する角度θ9は、例えば、50~60°であるのが望ましい。第5交点25から第6交点26までの延びる第6直線20fのタイヤ周方向に対する角度θ10は、例えば、35~50°であるのが望ましい。第6交点26から第7交点27までの延びる第7直線20gのタイヤ周方向に対する角度θ11は、例えば、20~30°であるのが望ましい。
【0053】
第2トレッド端Te2から途切れ端11bまでのタイヤ軸方向の距離L3は、例えば、トレッド幅TWの0.05~0.15倍であるのが望ましい。このような第1傾斜溝11は、第2トレッド端Te2付近の剛性を維持しつつ、雪路性能及びウェット性能を高めることができる。
【0054】
図1に示されるように、第1傾斜副溝14は、第1傾斜溝11と同様、第1急傾斜部16及び緩傾斜部18を有している。第1傾斜副溝14の第1急傾斜部16及び緩傾斜部18には、上述した第1傾斜溝11の第1急傾斜部16及び緩傾斜部18の構成を適用することができる。
【0055】
タイヤ赤道Cから第1傾斜副溝14の途切れ端14bまでのタイヤ軸方向の距離L4は、例えば、トレッド幅TWの0.30~0.40倍であるのが望ましい。
【0056】
第2傾斜副溝15は、第2傾斜溝12と同様、第1急傾斜部16及び緩傾斜部18を有している。第2傾斜副溝15の第1急傾斜部16及び緩傾斜部18には、上述した第2傾斜溝12の第1急傾斜部16及び緩傾斜部18の構成を適用することができる。また、第1傾斜副溝14と第2傾斜副溝15とは、タイヤ周方向に位置ずれしている点を除き、実質的に線対称に構成されている。このため、第2傾斜副溝15には、上述した第1傾斜副溝14の構成も適用することができる。
【0057】
トレッド部2に上述の傾斜溝10及び傾斜副溝13が設けられることにより、トレッド部2は、傾斜溝10と傾斜副溝13との間に区分された複数の傾斜陸部30を含んでいる。傾斜陸部30は、第1トレッド部2Aに配された第1傾斜陸部31と、第2トレッド部2Bに配された第2傾斜陸部32とを含む。第1傾斜陸部31と第2傾斜陸部32とは、タイヤ赤道Cで実質的に線対称の形状を有し、第2傾斜陸部32には、第1傾斜陸部31の構成を適用することができる。
【0058】
図3には、第1傾斜陸部31の部分拡大図が示されている。
図3に示されるように、第1傾斜陸部31は、例えば、2つのブロックで構成された2分割陸部33と、3つのブロックで構成された3分割陸部34と含んでいる。
【0059】
2分割陸部33は、例えば、タイヤ赤道C側の第1ブロック35と、第1トレッド端Te1側の第2ブロック36とを含んでいる。第1ブロック35は、タイヤ赤道C上に設けられている。第2ブロック36は、そのエッジの一部が第1トレッド端Te1を構成している。
【0060】
3分割陸部34は、例えば、タイヤ赤道C側の第3ブロック37と、第3ブロック37のタイヤ軸方向外側に隣り合う第4ブロック38と、第1トレッド端Te1側の第5ブロック39とを含んでいる。第3ブロック37は、タイヤ赤道C上に設けられている。第5ブロック39は、そのエッジの一部が第1トレッド端Te1を構成している。
【0061】
各ブロックには、例えば、ジグザグ状にのびるサイプ40が設けられている。なお、本明細書において、サイプとは、幅が1.5mm未満の切れ込みを意味する。
【0062】
第1ブロック35に設けられた第1サイプ41は、例えば、第1傾斜溝11とは逆向きに傾斜しているのが望ましい。第2ブロック36に設けられた第2サイプ42は、例えば、第1サイプ41と同じ向きに傾斜し、かつ、タイヤ軸方向に対する角度が第1サイプ41よりも小さいのが望ましい。このような第1サイプ41及び第2サイプ42は、そのエッジによって第1傾斜溝11とは異なる向きの摩擦力を高めることができる。
【0063】
第3ブロック37に設けられた第3サイプ43は、例えば、第1サイプ41と同じ向きに傾斜している。第3サイプ43は、タイヤ軸方向に対して第1サイプ41よりも小さい角度で延びているのが望ましい。
【0064】
第4ブロック38に設けられた第4サイプ44及び第5ブロック39に設けられた第5サイプ45は、例えば、第2サイプ42と同じ向きに傾斜しているのが望ましい。本実施形態の第4サイプ44及び第5サイプ45は、例えば、第2サイプ42に沿って延びている。
【0065】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、例えば、ブロックにスタッドピン又はスタッドピン用の孔47が複数個設けられたスタッドタイヤであるのが望ましい。このようなスタッドタイヤは、とりわけ氷路での走行性能を効果的に高める。但し、本発明のタイヤ1は、このような態様に限定されるものではなく、スタッドピンを含まないスタッドレスタイヤとして用いられても良い。
【0066】
スタッドピン用の孔47の周囲8mm以内の領域には、溝及びサイプが配されていないのが望ましい。これにより、孔47周辺のクラックが抑制される。
【0067】
本実施形態のトレッド部2のランド比Lrは、例えば、55%~70%であるのが望ましい。これにより、ドライ路面での操縦安定性と雪路性能とがバランス良く高められる。本明細書において、「ランド比」とは、各溝及びサイプを全て埋めた仮想接地面の全面積Saに対する、実際の合計接地面積Sbの比Sb/Saである。
【0068】
同様の観点から、トレッド部2を形成するトレッドゴムのゴム硬度Htは、例えば、45~65°であるのが望ましい。本明細書において、前記「ゴム硬度」は、JIS-K6253に準拠し、23℃の環境下におけるデュロメータータイプAによる硬さである。
【0069】
以上、本発明の一実施形態のタイヤが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例】
【0070】
図1の基本トレッドパターンを有するサイズ205/55R16の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。比較例として、
図4に示されるように、傾斜溝aが第2急傾斜部を含まないタイヤが試作された。各テストタイヤの雪路性能、ウェット性能及びドライ路面での操縦安定性がテストされた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
テスト車両:排気量2000cc
テストタイヤ装着位置:全輪
リム:16×6.5
タイヤ内圧:前輪240kPa、後輪220kPa
トレッド接地幅:172mm
傾斜溝の溝深さ:9.6mm
トレッドゴムのゴム硬度:55°
【0071】
<雪路性能>
上記テスト車両で雪路を走行したときの走行性能が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例を100とする評点であり、数値が大きい程、雪路性能が優れていることを示す。
【0072】
<ウェット性能>
上記テスト車両で、水深5mmかつ長さ20mの水たまりが設けられた半径100mのアスファルト路面を走行し、前輪の横加速度(横G)が計測された。結果は、速度50~100km/hの平均横Gであり、比較例の値を100とする指数で示されている。数値が大きい程、ウェット性能が優れていることを示す。
【0073】
<ドライ路面での操縦安定性>
上記テスト車両でドライ路面の周回コースを走行したときの操縦安定性が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例を100とする評点であり、数値が大きい程、ドライ路面での操縦安定性が優れていることを示す。
テストの結果が表1に示される。
【0074】
【0075】
テストの結果、実施例のタイヤは、優れた雪路性能及びウェット性能を発揮していることが確認できた。また、実施例のタイヤは、ドライ路面での操縦安定性も維持されていることが確認できた。
【符号の説明】
【0076】
2 トレッド部
10 傾斜溝
11 第1傾斜溝
12 第2傾斜溝
16 第1急傾斜部
17 第2急傾斜部
18 緩傾斜部
Te1 第1トレッド端
Te2 第2トレッド端