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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】酸素吸収性フィルムおよび包装材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20220614BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220614BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B32B27/18 G
B32B27/00 H
B65D65/40 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018079064
(22)【出願日】2018-04-17
(65)【公開番号】P2019181897
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小出 洋子
(72)【発明者】
【氏名】塩川 俊一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 野枝
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/023899(WO,A1)
【文献】特開2002-144507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D30/00-33/38
65/00-65/46
67/00-79/02
81/18-81/30
81/38-81/38
85/88
B29C48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材と酸素吸収性コート層とアルカリシーラント層を順次積層してなる酸素吸収性フィルムにおいて、前記酸素吸収性コート層上に前記アルカリシーラント層を積層し、前記酸素吸収性コート層および前記アルカリシーラント層が非水溶性樹脂を含有し、前記酸素吸収性コート層の塗布量が2g/m 以上~8g/m 以下であることを特徴とする酸素吸収性フィルム。
【請求項2】
前記酸素吸収性コート層が、酸素吸収性物質としてフェロール化合物を少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載の酸素吸収性フィルム。
【請求項3】
前記酸素吸収性コート層が、酸素吸収性物質としてピロガロール基を有するフェロール化合物を少なくとも含むことを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載の酸素吸収性フィルム。
【請求項4】
前記酸素吸収性コート層が、酸素吸収性物質として没食子酸、もしくは没食子酸プロピル、またはその両方を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の酸素吸収性フィルム。
【請求項5】
前記酸素吸収性コート層に含まれる酸素吸収性物質の添加量は、酸素吸収性コート層全体に対して20wt%以上60wt%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の酸素吸収性フィルム。
【請求項6】
前記アルカリシーラント層が、アルカリ物質として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、炭酸水素カリウム、ピロリン酸カリウム、焼成カルシウム、リン酸カリウム、酒石酸ナトリウムから選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の酸素吸収性フィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の酸素吸収性フィルムを含むことを特徴とする包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品、薬剤、医薬品、化粧品、電子部品等に好適に用いられる酸素吸収剤及び酸素吸収性樹脂組成物を有する酸素吸収性フィルム及び包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の包装において包装体内に酸素が存在することにより、内容物である食品等が酸化して、劣化したり、変色したりすることがあった。このような問題を解決するために、上記包装体内の残存酸素を酸素吸収性フィルム等により吸収して除去することが行われている。
【0003】
これまでに、安全かつ衛生的で、さらに十分な酸素吸収速度を有する酸素吸収性フィルムとして、基材、没食子酸を酸素吸収性物質として用いた酸素吸収性コート層、シーラント層からなる積層構造を有する酸素吸収性フィルムが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1によれば、酸素吸収性コート層は、没食子酸配合層と、アルカリ物質配合層の2層で形成しており、酸素吸収性コート層を塗工した基材とシーラント層を積層することにより、シーラント層側に酸素吸収性物質がブリードアウトすることがなく、また、それ自体で酸素吸収能力を有する包装材料を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-138410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように没食子酸配合層とアルカリ物質配合層を設けると、塗工直後から没食子酸とアルカリ物質が接触し化学反応が開始され、包装体として使用する際にはすでに酸素吸収能力が失活してしまうという問題があった。
特に、水溶性の樹脂をバインダーとして用いた場合は、没食子酸も水溶性のため溶解し表面積が大きい状態でアルカリ物質と接触するため、反応速度が速くなり、よりこの傾向が大きくなる。
【0007】
そこで本発明では、包装体として使用する際に十分な酸素吸収性能が安定して発揮することができる酸素吸収性フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第一の発明は、
少なくとも基材と酸素吸収性コート層とアルカリシーラント層を順次積層してなる酸素吸収性フィルムにおいて、前記アルカリシーラント層がアルカリ物質を含有することを特徴とする酸素吸収性フィルムである。
【0009】
また第二の発明は、
少なくとも基材と酸素吸収性コート層と中間層とアルカリシーラント層を順次積層してなる酸素吸収性フィルムにおいて、前記アルカリシーラント層がアルカリ物質を含有することを特徴とする酸素吸収性フィルムである。
【0010】
第三の発明は、
少なくとも基材と酸素吸収性コート層と中間層とアルカリ物質を含有するアルカリコート層と、アルカリ物質を含有しないシーラント層とを順次積層してなることを特徴とする酸素吸収性フィルムである。
【0011】
第四の発明は、
前記酸素吸収性コート層が、酸素吸収性物質としてフェノール化合物を少なくとも含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の酸素吸収性フィルムである。
【0012】
第五の発明は、
前記酸素吸収性コート層が、酸素吸収性物質としてピロガロール基を有するフェノール化合物を少なくとも含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の酸素吸収性フィルムである。
【0013】
第六の発明は、
前記酸素吸収性コート層が、酸素吸収性物質として没食子酸、もしくは没食子酸プロピル、またはその両方を少なくとも含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の酸素吸収性フィルムである。
【0014】
第七の発明は、
前記酸素吸収性コート層に含まれる酸素吸収性物質の添加量は、酸素吸収性コート層全体に対して20wt%以上60wt%以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の酸素吸収性フィルムである。
【0015】
第八の発明は、
前記アルカリシーラント層または前記アルカリコート層が、アルカリ物質として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、炭酸水素カリウム、ピロリン酸カリウム、焼成カルシウム、リン酸カリウム、酒石酸ナトリウムから選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の酸素吸収性フィルムである。
【0016】
第九の発明は、
前記アルカリシーラント層または前記アルカリコート層に含まれるアルカリ物質の添加量は、アルカリシーラント層全体又はアルカリコート層全体に対して10wt%以上50wt%以下であることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の酸素吸収性フィルムである。
【0017】
第十の発明は、
請求項1~9のいずれか1項に記載の酸素吸収性フィルムを含むことを特徴とする包装材である。
【発明の効果】
【0018】
上記の構成を採用することにより、本発明の酸素吸収性フィルムは、コストが安く、加工性に優れ、さらにアルカリシーラント層内にアルカリ物質を含有することで酸素吸収性コート層との化学反応が徐々に進むことで、酸素吸収機能の持続性が高い包装材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に関わる第一の実施形態の酸素吸収性フィルムを示す概略断面図である。
図2】本発明に関わる第二の実施形態の酸素吸収性フィルムを示す概略断面図である。
図3】本発明に関わる第三の実施形態の酸素吸収性フィルムを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に、本発明における第一の実施形態の酸素吸収性フィルムの概略断面図を示す。図1の酸素吸収性フィルム100は、基材10、酸素吸収性コート層20およびアルカリ物質を含有するアルカリシーラント層30を含む。
【0021】
図2に、本発明の第二の実施形態における本実施形態の酸素吸収性フィルムの概略断面図を示す。図2の酸素吸収性フィルム200は、基材10、酸素吸収性コート層20および中間層40、アルカリシーラント層30を含む。
【0022】
図3に、本発明の第三の実施形態における本実施形態の酸素吸収性フィルムの概略断面図を示す。図3の酸素吸収性フィルム300は、基材10、酸素吸収性コート層20および中間層40、アルカリコート層50、アルカリ物質を含有しないシーラント層60を含む。
【0023】
以下に、本発明において示される各層の材料や機能等について説明する。
【0024】
(基材)
本発明に用いる基材10としては、機械的、物理的および化学的等において優れた性質を有し、強度に優れるとともに、耐熱性や防湿性、耐ピンホール性、耐突き刺し性等に優れた樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン(登録商標)などのポリアミド(PA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、からなる群から選択される合成樹脂を含む。
【0025】
また、酸化珪素等の無機物や酸化アルミニウム等の金属酸化物を蒸着したプラスチックフィルム、ポリビニルアルコールや塩化ビニリデン等のガスバリア性組成物をコーティングしたプラスチックフィルム、および、MXDナイロン等のガスバリア性を有するフィルムを用いることができる。
【0026】
特には、ガスバリア性に優れるとともに、その経時劣化が少なく、内容物の外包材として用いた際に、外包材を通しての酸素の行き来が少ない事が好ましい。また、ガスバリア性を有するフィルムは酸素吸収性物質の透過性が低い材料で形成することが望ましい。特には、酸化珪素等の無機物を蒸着したプラスチックフィルムが好適である。プラスチックフィルムからなる基材10上に、プラズマ化学気相成長法で形成された炭素含有酸化珪素からなる蒸着層を1層以上積層したものも、好ましく使用される。
【0027】
基材10は、単層であってもよいし、複数層の積層構造を有してもよい。また基材10は、10μm以上50μm以下の膜厚を有してもよい。前述の範囲内の膜厚を有することにより、良好な加工性および取り扱い性を得ることができる。さらに基材10は、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤などの当該技術において知られている任意の添加剤を含有してもよい。
【0028】
(酸素吸収性コート層)
酸素吸収性コート層20は、酸素吸収性物質とコート剤とを含む。コート剤が接着剤の場合、接着剤は、酸素吸収性物質の担持の機能と、酸素吸収性コート層20に対して基材10およびアルカリシーラント層30を接着させる、または基材10および中間層40を接着させる機能とを有する。
用いることができる接着剤としては、ポリエステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、
およびポリエーテル系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、エチレン-酢酸ビニル系接着剤、塩化ビニル系接着剤、シリコーン系接着剤、ゴム系接着剤等が挙げられる。接着剤は、特に酸素透過性と水蒸気透過性があるものの方が、酸素吸収性コート層で吸収する酸素量が多くなる点で好ましい。これらの接着剤は、1種類でもいいし、2種類以上を混合させて用いることができる。
【0029】
酸素吸収性コート層20に含まれる酸素吸収性物質としては、フェノール化合物が好ましい。フェノール化合物は、没食子酸、アスコルビン酸、カテコール、ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。その中でも、特にピロガロール基を有するフェノール化合物は、酸素吸収に使われる水酸基の数が多く持つ点で好ましい。用いることのできるピロガロール基を有するフェノール化合物として、没食子酸、没食子酸プロピル、没食子酸エチル、没食子酸オクチル等の没食子酸エステルが挙げられる。より好ましくは、没食子酸、没食子酸プロピルである。これらは食品添加物で、比較的コストも安いため、安全で安価な酸素吸収機能を持つ包装材料を提供する事が出来る。
【0030】
さらに酸素吸収性コート層20は、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤などの当該技術において知られている任意の添加剤を含有してもよい。
【0031】
酸素吸収剤の添加量は、酸素吸収性コート層20の全質量に対して20wt%以上60wt%以下添加されている事が好ましい。さらに十分な酸素吸収能力を発現するためには、30wt%以上60wt%以下添加されている事がより好ましい。20wt%未満では吸収する酸素の量が不十分であり、60wt%より多いと基材10とアルカリシーラント層30、または基材10と中間層40との接着力が低くなる。
【0032】
酸素吸収性コート層の厚みとしては、その塗布量が2g/m以上8g/m以下である事が好ましい。2g/mより薄い場合、酸素吸収量が極端に少なくなる。8g/mより厚い場合、コート層自体の強度が弱くなる。
【0033】
酸素吸収性コート層20に酸素吸収性物質を含有させる理由としては、特に没食子酸類が、酸素吸収能力は高いが熱により劣化する特徴を持つためである。
【0034】
前記酸素吸収性コート層20の没食子酸類は、アルカリ物質と水分が存在する環境下で、水酸基が酸素と反応する事で、酸素吸収性を発現する事が知られている。没食子酸類の反応は、pH8以上で進行する。
【0035】
(アルカリシーラント層)
アルカリ物質を含有するアルカリシーラント層30は、加熱時に被着材に対する優れた接着性を示す熱可塑性樹脂を使用することが望ましい。
具体的には、ポリエチレン(PE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、未延伸ポリプロピレン(CPP)などのポリオレフィン、ヒートシール性ポリエステル等のフィルムが使用できる。さらには、酸素透過率が1000cc/m・day・atm以上あると、吸収される酸素量が多くなる点で好ましい。
【0036】
アルカリシーラント層30は、20μm以上200μm以下の膜厚を有してもよい。この範囲内の膜厚を有することにより、良好な密封強度とアルカリシーラント層30自体の強度(特性、性能等)を得ることができる。
【0037】
アルカリシーラント層30は、必要に応じて接着促進剤、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤などの当該技術において知られている任意の添加剤を含有してもよい。
【0038】
前記アルカリシーラント層30に含まれるアルカリ物質としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ルビジウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムカリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウムカリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられるが、安全面から食品添加物であることが好ましく、さらに熱可塑性の樹脂に練りこめる程度の耐熱性があるものが好ましい。
特に、単体でpH8以上を示す炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、炭酸水素カリウム、ピロリン酸カリウム、焼成カルシウム、リン酸カリウム、酒石酸ナトリウムを用いると、含有させるアルカリ物質を少なくしてコストを下げられる点で、より好ましい。
【0039】
アルカリシーラント層30の形成方法としては、熱可塑性樹脂とアルカリ物質を混練させ、Tダイ法、もしくはインフレーション法による押出コートラミネートで形成してもよい。また、市販品を酸素吸収性コート層または中間層とドライラミネートで貼り合わせるなど、当該技術において知られている任意の技術によって実施することができる。
【0040】
アルカリシーラント層30に含まれるアルカリ物質の添加量は、アルカリシーラント層30全体に対して10wt%以上50wt%以下が好ましく、特に30wt%以上50wt%以下が好ましい。10wt%未満では、没食子酸の酸素吸収反応を進行させるには不十分であり、一方で、50wt%より多いと、製膜の際に発泡が起きて、製膜するのが難しくなる。
【0041】
(中間層)
中間層40は、酸素吸収性物質とアルカリ物質が中間層に移動し徐々に酸素吸収反応させるための層として設けられている。
【0042】
中間層40に用いる材料としては、酸素吸収性コート層20やアルカリシーラント層30に使用される樹脂と類似の材料を使用することができる。それによって、各層間の接着強度を維持する事が出来ると同時に、酸素吸収性物質とアルカリ物質が中間層40に移動しやすくなり接触し易くなると考えられる。
【0043】
上記中間層の厚みは0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。0.1μm未満であると酸素吸収性コート層とアルカリコート層もしくはアルカリシーラント層の密着強度が低く包装材として使用する際に層間にてはがれてしまう可能性があり、さらには酸素吸収反応が早く進んでしまい、使用時に酸素吸収機能の多くが失われる。また、20μmよりも大きいと、酸素吸収性物質とアルカリ物質が接触しにくくなり使用時においても、酸素吸収性反応が発現しない可能性がある。
【0044】
(アルカリコート層)
アルカリコート層50は、アルカリ物質とコート剤を含む。コート剤が接着剤の場合、接着剤としては、酸素吸収性コート層20やアルカリシーラント層30に使用される熱可塑樹脂と同様の材料を使用することができる。アルカリ物質としては、アルカリシーラント層30に含まれるアルカリ物質と同様のものを使用することができる。
【0045】
アルカリコート層50に含まれるアルカリ物質の添加量は、アルカリコート層50全体に対して10wt%以上50wt%以下が好ましく、特に30wt%以上50wt%以下
が好ましい。10wt%未満では、没食子酸の酸素吸収反応を進行させるには不十分であり、一方で、50wt%より多いと、中間層40とシーラント層60の接着強度が低くなる。アルカリコート層50は、必要に応じて接着促進剤、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤などの当該技術において知られている任意の添加剤を含有してもよい。
【0046】
前記アルカリコート層50は、0.1μm以上20μ以下の膜厚を有していても良い。この範囲内の膜厚を有することにより、良好な密着強度と、コート層自体の強度を得ることが出来る。
【0047】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態である酸素吸収性フィルム100は、図1に示すように、基材10に酸素吸収性コート層20、アルカリシーラント層30を積層した構成である。酸素吸収性コート層20およびアルカリシーラント層30に非水溶性樹脂を用いる事で、水溶性の酸素吸収性物質およびアルカリ物質は、層内において粉体の状態で分散される。その結果、酸素吸収性物質およびアルカリ物質の周囲が樹脂に覆われる事により、酸素吸収性物質とアルカリ物質の接触する面積が小さくなり、加工直後には反応しにくくなる。
【0048】
一方で、酸素吸収性コート層20にアルカリ物質を含有するアルカリシーラント層30を貼り合わせることによって、アルカリシーラント層30がアルカリ性を示し、徐々に酸素吸収性コート層20をアルカリ環境下にすることができる。酸素吸収性コート層20がアルカリ環境下になるに伴い、酸素吸収性物質の酸素吸収反応が徐々に進行する。
【0049】
(第二の実施形態)
また、本発明の第二の実施形態である酸素吸収性フィルム200は、図2に示すように、基材10に酸素吸収性コート層20、中間層40、アルカリシーラント層30を順次積層した構成である。
この構成では、酸素吸収性コート層20とアルカリ物質を含有するアルカリシーラント層30とを、その間に設けられた中間層40で隔てることにより、加工直後の反応が起こり難くなり、酸素吸収機能の失活を抑制する事ができる。一方で、酸素吸収性物質とアルカリ物質が中間層40に移行し接触する事で、酸素吸収反応は徐々に発現する。
【0050】
(第三の実施形態)
本発明の第三の実施形態である酸素吸収性フィルム300は、図3に示すように、基材10に酸素吸収性コート層20、中間層40、アルカリコート層50もしくはアルカリシーラント層30、シーラント層60を順次積層した構成である。シーラント層60は、アルカリ物質を含有しないシーラントである。
この構成では、酸素吸収性コート層20と中間層40、アルカリ物質を含むアルカリコート層50もしくはアルカリシーラント層30の3層で酸素吸収性フィルムが構成されている。酸素吸収性コート層20とアルカリコート層50を中間層40で隔てる事で、酸素吸収機能の劣化をより一層抑制する事ができる。一方で、第二の実施形態と同様、酸素吸収性材料とアルカリ物質が中間層40に移行し接触する事で、酸素吸収反応は発現する。
【0051】
また上記第一~第三の実施形態において、基材10にバリア機能を持たせ、アルカリシーラント層30あるいはアルカリコート層50に酸素透過機能を持たせれば、包装材料内の溶存酸素やヘッドスペース内の残存酸素、及び時間経過と共に酸素透過性のある接着剤の端面から進入してくる酸素を、酸素吸収性コート層20によって吸収し、内容物の酸化劣化を抑制する事が可能になる。
【0052】
本発明に係る包装材は、上記の酸素吸収性フィルムを含むことを特徴とする。具体的には、包装材の少なくとも一部が、酸素吸収性フィルムで形成される。なお本発明の包装材には、酸素吸収性フィルムの他に、印刷層やバリア層、表面保護層などの機能層を設けてもよい。
【0053】
本実施形態の包装材の応用例は、たとえば袋、MA包材、蓋材(トップ材)、シート、チャック付き袋、カバーフィルム、内装段ボールを含む。また、袋形状の包装材は、2枚の酸素吸収性フィルムを、シーラント層30が内側に配置した状態で周縁部を加熱して貼り合わせることによって形成してもよい。さらに、貼り合わせを行う周縁部に第3のフィルムを介在させて、いわゆる「マチ」付きの袋を形成してもよい。
袋形状の包装材は、矩形、円形、三角形を含む任意の形状を有してもよい。またチャック付き袋として、機械加工によって、袋形状の包装材の開口部に開閉自在の嵌合部を設けたものでもよい。
【0054】
本実施形態の包装材を用いて包装される物品の例は特に限定しないが、例えば食品・飲料、化粧品、産業資材、医薬品、医療器具、電子機器、文化財を含む。
【実施例
【0055】
以下、本発明の具体例を以下の実施例によって具体的に述べるが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
厚さ12μmの透明蒸着ポリエステルフィルム(凸版印刷製GLフィルム)を基材10として、ウレタン系コート剤に没食子酸を酸素吸収性物質として30wt%添加した酸素吸収性コート層20を6μm設けた。さらに、酸素吸収性コート層20上に、低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン製「LC600A」)に炭酸ナトリウムを30wt%添加したアルカリシーラント層30を厚さ30μmで押出コートラミネートにて形成して、酸素吸収性フィルムを作製した。
【0057】
(酸素吸収性試験)
上記で作製した酸素吸収性フィルムを用いて、全体寸法が横10cm×縦10cmの包装袋を作成し、袋内に100ccの空気を注入した。50℃の恒温槽で一定期間保管後の酸素濃度を測定し、初期酸素濃度との差から、それぞれの酸素吸収量を確認した。残存酸素量が10%以下の場合に「○」、10%以上の場合に「×」と評価した。
得られた酸素吸収性フィルムの評価結果を表1に示す。
【0058】
<実施例2>
酸素吸収性物質を没食子酸プロピルに変更したことを除いて実施例1の手順を繰り返して、酸素吸収性フィルムを作製した。
得られた酸素吸収性フィルムの評価結果を表1に示す。
【0059】
<実施例3>
厚さ12μmの透明蒸着ポリエステルフィルム(凸版印刷製GLフィルム)を基材10として、上記基材上に、ウレタン系コート剤に没食子酸を酸素吸収性物質として30wt%添加した酸素吸収性コート層20を6μm設けた。さらに、酸素吸収性コート層20上に、中間層40として低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン製「LC600A」)を5μmと、低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン製「LC600A」)に炭酸ナトリウムを30w%添加したアルカリシーラント層30を30μm、押出コートラミネートで形成し、酸素吸収性フィルムを作製した。
得られた酸素吸収性フィルムの評価結果を表1に示す。
【0060】
<実施例4>
厚さ12μmの透明蒸着ポリエステルフィルム(凸版印刷製GLフィルム)を基材10とし、上記基材上に、ウレタン系コート剤に没食子酸を酸素吸収性物質として30wt%添加した酸素吸収性コート層20を6μm設けた。さらに、酸素吸収性コート層20上に、中間層40として低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン製「LC600A」)を5μmと、低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン製「LC600A」)に炭酸ナトリウムをアルカリ物質30wt%添加したアルカリシーラント層30を30μmと、アルカリ物質を含有しないシーラント層60として低密度ポリエチレンフィルム10μmを、押出コートラミネートにて形成し、酸素吸収性フィルムを作製した。
得られた酸素吸収性フィルムの評価結果を表1に示す。
【0061】
<比較例1>
厚さ12μmの透明蒸着ポリエステルフィルム(凸版印刷製GLフィルム)を基材として、上記基材上に、ウレタン系コート剤に酸素吸収性物質として没食子酸30wt%とアルカリ物質として炭酸ナトリウム30wt%を添加した酸素吸収性コート層を6μm設けた。シーラント層として低密度ポリエチレンフィルム30μmを、酸素吸収性コート層20にドライラミネートで貼り合せて、酸素吸収性フィルムを作製した。
得られた酸素吸収性フィルムの評価結果を表1に示す。
【0062】
<比較例2>
厚さ12μmの透明蒸着ポリエステルフィルム(凸版印刷製GLフィルム)を基材として、上記基材上に、ウレタン系コート剤に酸素吸収性物質として没食子酸を30wt%添加した酸素吸収性コート層6μmを設けた。更に、ウレタン系コート剤にアルカリ物質として炭酸ナトリウムを30wt%添加したアルカリコート層6μmを設けた。シーラント層として、低密度ポリエチレンフィルム30μmとドライラミネートで貼り合せて、酸素吸収性フィルムを作製した。
得られた酸素吸収性フィルムの評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、実施例1~4においては、加工直後の反応は抑制され、フィルムを使用するタイミング(内容物充填時など)で酸素吸収能力を発現している。
一方で、比較例1~2においては、加工直後に反応を起こし、フィルムを使用するタイミング(内容物充填時など)には酸素吸収能力は失われ、殆ど酸素吸収を示さなかった。これは、比較例1~2はいずれも酸素吸収性物質とアルカリ物質が直接接触しているため、加工直後から酸素吸収反応が進行したと考えられる。
以上の結果から、本発明の酸素吸収性フィルムは、加工直後の反応を抑制する事によってフィルムを使用するタイミングで十分な酸素吸収機能を安定して発現する事がわかった。
【符号の説明】
【0065】
10 基材
20 酸素吸収性コート層
30 アルカリシーラント層
40 中間層
50 アルカリコート層
60 シーラント層
100、200、300 酸素吸収性フィルム
図1
図2
図3