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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】扉
(51)【国際特許分類】
   E06B 7/22 20060101AFI20220614BHJP
   E06B 5/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
E06B7/22 F
E06B5/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018087698
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019190233
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100166958
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 喜代造
(72)【発明者】
【氏名】河西 勉
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-192894(JP,U)
【文献】国際公開第2018/043740(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 7/22
E06B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設の壁体の水平開口を開閉する扉本体と、
枠体と、
を備え、
前記扉本体の周縁部と前記枠体とが近接又は離間することにより開閉可能とされる扉であって、
前記周縁部と前記枠体とのうち何れか一方には、前記周縁部又は前記枠体に沿ってパッキンが設けられ、
前記パッキンは、長尺の柱状に形成された弾性部材と、開口部を有する溝形状が形成されるとともに前記溝形状に前記弾性部材が挿入される保持部材と、を含み
前記開口部の開口幅は非圧縮状態における前記弾性部材の最小径よりも小さく形成され、
前記周縁部と前記枠体とが離間した開状態において、前記弾性部材の一部が前記開口部から延出され、
前記周縁部と前記枠体とが近接した閉状態において、前記弾性部材が、前記周縁部と前記枠体とのうち何れか他方により前記保持部材の側に押し込まれるとともに、前記枠体と前記周縁部とにより押圧されて、押圧方向と直交する方向の幅寸法が第一寸法として最大となる第一圧縮状態に弾性変形し、
前記保持部材は、前記弾性部材が前記第一圧縮状態の際に前記第一寸法となる箇所の内側面の幅寸法が、前記第一寸法以上となる大きさで形成され
前記保持部材と前記他方とが当接する面は互いに平坦である、
扉。
【請求項2】
前記周縁部と前記枠体とのうち何れか他方と前記保持部材とが当接する押圧状態において、前記弾性部材が前記枠体と前記周縁部とによりさらに押圧されて、押圧方向と直交する方向の幅寸法が第一寸法よりも大きな第二寸法として最大となる第二圧縮状態に弾性変形し、
前記保持部材は、前記弾性部材が前記第二圧縮状態の際に前記第二寸法となる箇所の内側面の幅寸法が、前記第二寸法以上となる大きさで形成される、請求項1に記載の扉。
【請求項3】
前記保持部材は、前記開口部の側に向かうに従って前記溝形状が縮幅して形成される、請求項1又は請求項2に記載の扉。
【請求項4】
前記保持部材は、前記溝形状の幅寸法を狭める狭小部が形成され、前記狭小部が前記開口部として形成される、請求項1又は請求項2に記載の扉。
【請求項5】
前記パッキンは一本の前記弾性部材が連続して設けられる、請求項1から請求項4の何れか1項に記載の扉。
【請求項6】
前記パッキンには前記保持部材が連続して設けられる、請求項5に記載の扉。
【請求項7】
前記弾性部材は、軸方向に直交する断面が真円形状に形成される、請求項1から請求項6の何れか1項に記載の扉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はに関し、詳細には施設への浸水、又は、施設からの溢水を防止する大型の扉のパッキン構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工場や発電所等の大規模な施設において、施設への浸水又は施設からの溢水を防ぐために、大きな水圧を受けた時の水密性を確保した大型の扉が設置されている。このような大型の扉として、建造物にヒンジを介して回動可能に組付けられたものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-159946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献に記載の扉によれば、ゴム等の弾性部材を枠体に設け、扉に形成した突起部等を弾性部材に押し付けることにより、扉を閉塞した際の水密性を確保している。このような構成において、弾性部材を枠体又は扉に設ける際に接着剤が用いられることがある。しかし、接着剤を用いて弾性部材を枠体又は扉に取付けた場合、接着品質の不良や接着剤の経年劣化によって、水密性を充分に確保できないことがある。また、扉のメンテナンスのために弾性部材を交換するときに、接着剤を充分に剥離しきれない場合がある。この場合、新たな弾性部材を取付けた際に、残存する接着剤によって弾性部材の周囲に隙間が生じ、扉の水密性が悪くなることがある。
【0005】
また、上記の構成において扉を閉塞した際に、突起部が弾性部材に押し付けられ、弾性部材が変形して、弾性部材を保持する保持部材の内側面に密着する場合がある。変形した弾性部材から受ける反力が枠体又は扉において分散すると、弾性部材との密着性が弱くなる部分が生じる。これにより、扉において水密性が低くなる箇所が生じ、当該箇所からの浸水又は溢水の原因となる。
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、接着剤を用いずに弾性部材を枠体又は扉に設けるとともに、弾性部材が変形した際に受ける反力を集中させることにより、高い水密性を確保することのできる、扉、及び、パッキン構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下に構成するを提供する。
【0008】
(1)
施設の壁体の水平開口を開閉する扉本体と、枠体と、を備え、前記扉本体の周縁部と前記枠体とが近接又は離間することにより開閉可能とされる扉であって、前記周縁部と前記枠体とのうち何れか一方には、前記周縁部又は前記枠体に沿ってパッキンが設けられ、前記パッキンは、長尺の柱状に形成された弾性部材と、開口部を有する溝形状が形成されるとともに前記溝形状に前記弾性部材が挿入される保持部材と、を含み、前記開口部の開口幅は非圧縮状態における前記弾性部材の最小径よりも小さく形成され、前記周縁部と前記枠体とが離間した開状態において、前記弾性部材の一部が前記開口部から延出され、前記周縁部と前記枠体とが近接した閉状態において、前記弾性部材が、前記周縁部と前記枠体とのうち何れか他方により前記保持部材の側に押し込まれるとともに、前記枠体と前記周縁部とにより押圧されて、押圧方向と直交する方向の幅寸法が第一寸法として最大となる第一圧縮状態に弾性変形し、前記保持部材は、前記弾性部材が前記第一圧縮状態の際に前記第一寸法となる箇所の内側面の幅寸法が、前記第一寸法以上となる大きさで形成され、前記保持部材と前記他方とが当接する面は互いに平坦である、扉。
【0009】
(2)
前記周縁部と前記枠体とのうち何れか他方と前記保持部材とが当接する押圧状態において、前記弾性部材が前記枠体と前記周縁部とによりさらに押圧されて、押圧方向と直交する方向の幅寸法が第一寸法よりも大きな第二寸法として最大となる第二圧縮状態に弾性変形し、前記保持部材は、前記弾性部材が前記第二圧縮状態の際に前記第二寸法となる箇所の内側面の幅寸法が、前記第二寸法以上となる大きさで形成される、(1)に記載の扉。
【0010】
(3)
前記保持部材は、前記開口部の側に向かうに従って前記溝形状が縮幅して形成される、(1)又は(2)に記載の扉。
【0011】
(4)
前記保持部材は、前記溝形状の幅寸法を狭める狭小部が形成され、前記狭小部が前記開口部として形成される、(1)又は(2)に記載の扉。
【0012】
(5)
前記パッキンは一本の前記弾性部材が連続して設けられる、(1)から(4)の何れか一に記載の扉。
【0013】
(6)
前記パッキンには前記保持部材が連続して設けられる、(5)に記載の扉。
【0014】
(7)
前記弾性部材は、軸方向に直交する断面が真円形状に形成される、(1)から(6)の何れか一に記載の扉。
【発明の効果】
【0015】
以上における本発明に係るは、以下に示す効果を奏する。
【0016】
(1)の構成によれば、接着剤を用いずに弾性部材を枠体又は扉に設けるとともに、弾性部材が変形した際に受ける反力を集中させることにより、扉において高い水密性を確保することができる。
【0017】
(2)の構成によれば、扉が大きな水圧を受けた場合でも、弾性部材による水密性の低下を防止できる。
【0018】
(3)の構成によれば、弾性部材が枠体又は扉から離脱することを防止できる。
【0019】
(4)の構成によれば、弾性部材が枠体又は扉から離脱することを防止できる。
【0020】
(5)の構成によれば、扉においてより高い水密性を確保することができる。
【0021】
(6)の構成によれば、扉において弾性部材の保護性を高めることにより、より高い水密性を確保することができる。
【0022】
(7)の構成によれば、弾性部材の枠体又は扉への取り付けを容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態に係る扉を示す正面図。
図2図1におけるA-A線断面図。
図3図1におけるB-B線断面図。
図4図2におけるC-C線断面図。
図5】(a)及び(b)はそれぞれ扉の閉塞前後におけるパッキン近傍の平面断面図。
図6】(a)、(b)、及び(c)はそれぞれ、弾性部材が非圧縮状態、第一圧縮状態、及び第二圧縮状態の際のパッキンの平面断面図。
図7】(a)から(d)はそれぞれ、第二実施形態~第五実施形態に係るパッキンの平面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<扉1>
以下では図1から図6を用いて、本発明の第一実施形態に係る扉1について説明する。図1から図3中に示す矢印は扉1の方向を示している。図1から図3に示す如く、扉1は工場や発電所等の大規模な施設において、壁体10の開口部10aを開閉可能とする大型扉である。扉1の各部材は耐食性の高いステンレス鋼(熱間圧延ステンレス鋼板又は冷間圧延ステンレス鋼板)で形成されている。扉1は大きさ(縦横の寸法)が数mで形成された横長の矩形状に形成されている。扉1は施設への浸水又は施設からの溢水を防ぐために、大きな水圧を受けた時の水密性を確保するように設計されている。具体的には図3に示す如く、扉1の前方に水Wが溜まった場合でも、後方の開口部10aに水Wを侵入させないように構成されている。
【0025】
図1から図3に示す如く、本実施形態に係る扉1は扉本体2、枠体3、ヒンジ4・4、及び、ハンドル5等を備える。図2中の仮想線で示す如く、扉1は開口部10aを開く際には扉本体2を前方に開くように構成されている。そして、図2中の一点鎖線矢印に示す如く、扉本体2を後方に回動して枠体3に当接させる(詳細には、扉本体2に設けられた後述するパッキン6を枠体3に当接させる)ことにより開口部10aが閉塞される。扉本体2の開閉動作及び密閉動作は、使用者がハンドル5を把持することにより手動で行う。
【0026】
本実施形態において、扉1の左右の両側方のうち、ヒンジ4が設けられた側である正面視における左側方を「吊元側」と記載し、吊元側と反対の右側方を「戸先側」と記載する。また、扉本体2の前面を表面2f、後面を裏面2rと記載する。図2に示す如く、扉本体2は壁体10の開口部10aを片開きで開閉可能に設けられる。
【0027】
壁体10の前面には、ステンレス鋼で形成された枠体3が設けられる。枠体3は三本の角筒部材が戸先側、吊元側、及び下側の三方に配置され、互いに直交するように一体的に接合されている。即ち、枠体3は正面視で略U字状に構成されており、上側は開放されている。なお、枠体3を扉1の四辺全てに設ける構成とすることも可能である。本実施形態においては、それぞれの角筒部材を戸先側枠体3a、吊元側枠体3b、及び、下側枠体3cと記載する。本実施形態においては、扉本体2が開口部10aを開放した状態を扉1の「開状態」、閉塞した状態を扉1の「閉状態」と記載する。
【0028】
扉本体2は図2及び図3に示す如く、表面2fの側に設けた表側鋼板21と、裏面2rの側に設けた裏側鋼板22とを、複数の連結部材23・23・・を介して接合することにより形成されている。図2に示す如く、裏側鋼板22及び連結部材23・23・・の左右方向の外形寸法は枠体3の左右方向の内周寸法よりも小さく形成され、表側鋼板21の左右方向の外形寸法は枠体3の左右方向の内周寸法よりも大きく形成されている。
【0029】
本実施形態において、表側鋼板21の後面の周縁部(詳細には、左右の縁部及び下縁部)には図2及び図3に示す如く、この周縁部に沿って、本発明に係るパッキン構造の一実施形態であるパッキン6が設けられている。図2に示す如く、扉1は扉本体2の周縁部と枠体3とが近接又は離間することにより開閉可能とされている。本実施形態に係る扉1においては、扉本体2の周縁部と枠体3との近接部分の全てにパッキン6が設けられている。
【0030】
なお、パッキン構造として構成されるパッキン6を設ける対象物としては、本実施形態に示す扉1に限定されることはなく、例えば収納用具やケース等における開口部分に設けることも可能である。即ち、第一の部材(本実施形態における表側鋼板21の周縁部)に設けられ、第一の部材と第二の部材(本実施形態における枠体3)との間に挟みこまれる構成であれば、本発明に係るパッキン構造を採用することができる。
【0031】
扉本体2が開口部10aを閉塞した際には、表側鋼板21の周縁部の後面が枠体3の前面に近接する。この際、パッキン6が枠体3に当接することにより、扉1における水密性が確保される。扉本体2が開口部10aを閉塞した際には、裏側鋼板22及び連結部材23・23・・は図2に示す如く枠体3の内側に挿入される。なお、扉本体2の周縁部のうち下側の半分など、枠体3との近接部分における所定部分にパッキン6を設ける構成とすることも可能である。
【0032】
本実施形態においてはパッキン6を扉本体2における表側鋼板21の後面に設けているが、パッキン6を枠体3の前面に設けることもできる。即ち、扉1を閉状態とした際に、パッキン6が扉本体2の表側鋼板21の後面に当接することにより水密性を確保する構成とすることも可能である(後述する他の実施形態についても同様)。この場合、パッキン6が常に通路(開口部10a)の近傍に位置するため、扉1を開状態として荷物を搬出入する際に、荷物とパッキン6とが接触することによりパッキン6が損傷する可能性がある。このため、本実施形態においてはパッキン6を扉本体2に設ける構成としている。なお、扉1において扉本体2を引戸等で構成する場合は、後述する弾性部材62の組付性及びメンテナンス性の観点より、パッキン6を枠体3に設ける構成が好ましい。
【0033】
吊元側枠体3bと扉本体2の吊元側端部とは、固定ヒンジ4a及び可動ヒンジ4bからなる二個のヒンジ4・4により連結されている。具体的には、吊元側枠体3bにはヒンジ4における固定ヒンジ4aがボルト等の固定具により組付けられている。また、扉本体2の表面2fにおける吊元側端部にはヒンジ4における可動ヒンジ4bがボルト等の固定具により組付けられている。これにより、扉本体2は枠体3に対して、ヒンジ4・4を中心として前後方向に回動可能に組付けられる。
【0034】
本実施形態に係る扉1において扉本体2の内部空間には、扉本体2を枠体3に対して密着させるための密閉機構7が収容されている。具体的には図4に示す如く、密閉機構7は、密閉機構7を駆動させるためのハンドル5(表側ハンドル5f及び裏側ハンドル5r)、第一~第四ジョイント51a~51d、第一~第八ベベルジャッキ52a~52h、第一~第八テーパロッド53a~53h、これらを連結する連結軸、及び、枠体3に固定された第一~第八受圧ピン54a~54hで構成されている。
【0035】
本実施形態において、ベベルジャッキ、テーパロッド、及び、受圧ピンで構成された機構を「単位機構」と記載する。図4に示す如く、扉1には戸先側に四個の単位機構(第一単位機構7a~第四単位機構7d)が設けられている。同様に、下側に三個の単位機構(第五単位機構7e~第七単位機構7g)、吊元側に一個の単位機構(第八単位機構7h)が設けられている。例えば、第一単位機構7aは、第一ベベルジャッキ52a、第一テーパロッド53a、及び、第一受圧ピン54aで構成されている(第二単位機構7b~第八単位機構7hも同様)。
【0036】
ハンドル5は扉本体2の戸先側に設けられ、表側ハンドル5fは扉本体2の表面2fから前方に突出し、裏側ハンドル5rは扉本体2の裏面2rから後方に突出して設置される。表側ハンドル5fと裏側ハンドル5rとは扉本体2の内部で相対回転不能に連結されている。使用者が扉本体2の前側から表側ハンドル5fを閉側に回動する、又は後側から裏側ハンドル5rを閉側に回動することにより、ハンドル5に連結されている連結軸を軸心回りに回動させる。
【0037】
連結軸の回動は、第一~第四ジョイント51a~51d及び他の連結軸を介して第一~第八ベベルジャッキ52a~52hに伝えられる。第一~第八ベベルジャッキ52a~52hは連結軸から入力された回転力を、第一~第八テーパロッド53a~53hの先端を扉本体2の外側(戸先側、下側、及び吊元側)に延出させるとともに枠体3に挿入させる直進方向の力に変換する。
【0038】
図5(a)及び(b)に示す如く、第一テーパロッド53aの先端にはテーパ面55が形成されている。第一テーパロッド53aが戸先側に変位し、戸先側枠体3aの内部に挿入されると、図5(b)に示す如く、テーパ面55が第一受圧ピン54aに当接し、テーパ面55が第一受圧ピン54aを前側(扉本体2の開放側)に押圧する。第一受圧ピン54aは枠体3に固定されているため、第一テーパロッド53aは第一受圧ピン54aからの反力を受け、後側(扉本体2の閉塞側)に変位する。これにより、扉本体2に対して閉塞側への力が発生する。そして、扉本体2の表側鋼板21と枠体3とが近接することにより、図5(b)に示す如くパッキン6が枠体3に密着するのである。第二単位機構7a~第八単位機構7hについても、第一単位機構7aと同様に構成されている。
【0039】
上記の如く構成された密閉機構7において、使用者がハンドル5を閉側に回動すると、各単位機構(第一単位機構7a~第八単位機構7h)において、扉本体2に対する閉塞側への力が発生する。そして、扉本体2の表側鋼板21と枠体3とが近接することにより、パッキン6が枠体3に密着し、開口部10aを密閉するのである。使用者がハンドル5を開側に回動した場合、枠体3へのパッキン6の密着状態が解消するため、扉本体2による開口部10aの密閉状態は解除される。
【0040】
本実施形態において、パッキン6は図5及び図6に示す如く、弾性部材62と、弾性部材62を保持する保持部材61と、で構成されている。弾性部材62はゴム等の弾性素材により長尺の円柱状に形成されている。本実施形態において、パッキン6には一本の弾性部材62が連続して(継ぎ目なく)設けられている。
【0041】
本実施形態において弾性部材62は軸方向に直交する断面が真円形状に形成されている。なお、弾性部材62の断面を真円形状とせず、例えば楕円形状とすることも可能であるが、作業者が弾性部材62を保持部材61に組付ける際の容易性、及び、高い水密性を確保するという観点から、弾性部材62の断面を真円形状とすることが好ましい。
【0042】
保持部材61は表側鋼板21の後面の周縁部に沿って扉本体2に組付けられた二本一対の棒状部材である。図5及び図6に示す如く、保持部材61は二本の棒状部材を所定の間隔で固定することにより構成される。これにより、保持部材61は後側に開口部を有する溝形状に形成される。保持部材61を構成する棒状部材は、図6(a)に示す如く互いに対向する面が、表側鋼板21から離れるに従って互いに近づく方向に傾斜して形成されている。これにより、保持部材61は開口部の側に向かうに従って溝形状が縮幅して形成される。
【0043】
保持部材61の溝形状には、弾性部材62が挿入される。この際、作業者が手で弾性部材62を押し込むことにより、保持部材61の溝形状に弾性部材62が挿入される。なお、本実施形態において保持部材61を二本の棒状部材により構成しているが、弾性部材62を挿入可能な溝形状を備える一部材で保持部材を構成することも可能である。
【0044】
図5(a)に示す如く、表側鋼板21の周縁部と枠体3(戸先側枠体3a)とが離間した扉1の開状態、及び、弾性部材62が枠体3に接触のみしている状態(図6(a)を参照)においては、弾性部材62には表側鋼板21及び枠体3からの圧縮力が加わらない。このように、弾性部材62に圧縮力が加わらない状態を「非圧縮状態」と記載する。そして、図6(a)に示す如く、保持部材61の開口部の開口幅Ltは、非圧縮状態における弾性部材62の直径Dよりも小さく形成されている。このため、弾性部材62は強制的に引き出されない限り、保持部材61から離脱することはない。なお、弾性部材62の断面を楕円形状とした場合は、弾性部材62が保持部材61から離脱することを防ぐために、開口幅Ltは弾性部材62の最小径(楕円の短径)よりも小さく形成されていれば良い。
【0045】
図5(a)に示す如く、表側鋼板21の周縁部と枠体3とが離間した扉1の開状態(図6(a)に示す如く弾性部材62が枠体3と接触して非圧縮状態である場合を含む)において、弾性部材62の一部は保持部材61の開口部から延出される。そして、前述のように密閉機構7により扉本体2の表側鋼板21と枠体3とが近接して扉1が閉状態になると、弾性部材62は図6(b)に示す如く、枠体3により保持部材61の側に押し込まれる。この際、枠体3と保持部材61との間には隙間が存在している(弾性部材62の一部は
保持部材61の開口部から延出している)。
【0046】
この際、弾性部材62は、枠体3と表側鋼板21の周縁部とにより押圧されて、図6(b)に示す如く押圧方向(前後方向)と直交する方向に拡幅する。このように、扉1が密閉機構7により閉状態となった際に、枠体3と表側鋼板21の周縁部とから弾性部材62に圧縮力が加わった状態を「第一圧縮状態」と記載する。図6(b)に示す如く、弾性部材62が第一圧縮状態となった際の最大の幅寸法(第一圧縮状態における弾性部材62の前後方向略中央部分の幅寸法)を第一寸法S1とする。
【0047】
本実施形態に係る扉1において、保持部材61は図6(b)に示す如く、弾性部材62が第一圧縮状態の際に第一寸法S1となる箇所(前後方向位置)の内側面61aの幅寸法L1が、第一寸法S1以上となる大きさで形成されている(L1≧S1)。
【0048】
本実施形態に係る扉1によれば、上記の如く扉1が密閉機構7により閉状態となり、弾性部材62が第一圧縮状態となった際に、弾性部材62が保持部材61の内側面61aに押し付けられることがない。このため、弾性変形した弾性部材62からの反力を、表側鋼板21の周縁部と枠体3とで集中して受けることができる。即ち、弾性部材62と、表側鋼板21の周縁部及び枠体3との密着性を高く維持できるため、高い水密性を維持することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態に係る扉1によれば、弾性部材62を保持部材61に圧入するだけで、弾性部材62を保持部材61で保持することができる。即ち、扉1においては弾性部材62を保持するための接着剤等を不要とすることができる。このため、扉1によれば接着品質の不良や接着剤の経年劣化による水密性の低下が生じない。また、扉1のメンテナンスのために弾性部材62を交換する場合でも、弾性部材62を保持部材61から引張り出すことによって弾性部材62を扉本体2から取り外すことができ、接着剤が残存するようなことがない。このため、新たな弾性部材62を保持部材61に組付けた際に、弾性部材62と扉本体2(又は枠体3)とを隙間なく密着させることができるため、扉1の水密性を高い状態に復元することができる。
【0050】
本実施形態に係る扉1において、図3に示す如く扉1の前方に水Wが溜まった場合、水圧により扉本体2は枠体3の方向に押圧力を受ける。これにより、弾性部材62が枠体3と表側鋼板21の周縁部とによりさらに押圧されて弾性変形するため、枠体3は保持部材61に当接する。本実施形態において、扉本体2が押圧されて枠体3と保持部材61とが当接する状態を「押圧状態」と記載する。
【0051】
また、弾性部材62は図6(c)に示す如く押圧方向(前後方向)と直交する方向にさらに拡幅する。このように、扉1が水からの圧力を受けた際に、枠体3が保持部材61に当接することにより、枠体3と表側鋼板21の周縁部とから弾性部材62にさらに圧縮力が加わった状態を「第二圧縮状態」と記載する。図6(c)に示す如く、弾性部材62が第二圧縮状態となった際の最大の幅寸法(第二圧縮状態における弾性部材62の前後方向略中央部分の幅寸法)を第二寸法S2とする。図6(b)及び(c)に示す如く、第二寸法S2は第一寸法S1よりも大きくなる。
【0052】
本実施形態に係る扉1において、保持部材61は図6(c)に示す如く、弾性部材62が第二圧縮状態の際に第二寸法S2となる箇所(前後方向位置)の内側面61aの幅寸法L2が、第二寸法S2以上となる大きさで形成されている(L2≧S2)。
【0053】
本実施形態に係る扉1によれば、上記の如く扉1が水からの圧力を受け、弾性部材62が第二圧縮状態となった際でも、弾性部材62が保持部材61の内側面61aに押し付けられることがない。このため、弾性変形した弾性部材62からの反力を、表側鋼板21の周縁部と枠体3とで集中して受けることができる。即ち、扉1が大きな水圧を受けた場合でも、弾性部材62と、表側鋼板21の周縁部及び枠体3との密着性を高く維持できるため、高い水密性を維持することが可能となる。
【0054】
本実施形態に係る扉1において、表側鋼板21の周縁部には、枠体3との近接部分である左右の縁部及び下縁部の全てにパッキン6が設けられている。また、パッキン6は一本の弾性部材62が継ぎ目なく連続して設けられる。これにより、表側鋼板21の周縁部と枠体3との間をパッキン6における一本の弾性部材62でシールすることが可能となり、扉1においてより高い水密性を確保することができる。なお、本実施形態に係る扉1は、枠体3が正面視で略U字状に形成されており、環状となっていないため、弾性部材62の継ぎ目をなくすことが可能となる。但し、扉1が枠体3を四辺全て備える構成とすることも可能である。この場合、弾性部材62は一箇所又は複数箇所で接合される。
【0055】
本実施形態に係る扉1において、パッキン6には保持部材61が連続して設けられている。即ち、パッキン6の両端部の間において、保持部材61は隙間なく設けられている。これにより、扉1において弾性部材62が完全に露出することを防いでいる。即ち、弾性部材62の保護性を高めることにより、扉1においてより高い水密性を確保することができる。なお、保持部材61を断続的に設ける構成や、扉本体2のコーナー部に保持部材61を設けない構成とすることも可能である。
【0056】
<別実施形態>
なお、パッキン(保持部材)の構成は上記の第一実施形態に限定されるものではなく、図7(a)~(d)に示す他の実施形態の構成とすることも可能である。即ち、保持部材は、弾性部材62が第一圧縮状態の際に第一寸法S1となる箇所の内側面の幅寸法が、第一寸法S1以上となる大きさで形成されていれば良く、他の部分についてはあらゆる形状とすることが可能である。なお、下記の何れの実施形態においても、弾性部材62は保持部材161~461の溝形状に挿入されることにより保持されている。
【0057】
具体的には図7(a)に示す第二実施形態に係るパッキン106の如く、保持部材161の断面形状を平行四辺形とすることも可能である。また、図7(b)に示す第三実施形態に係るパッキン206の如く、保持部材261の内側面の形状を曲面とすることも可能である。また、図7(c)に示す第四実施形態に係るパッキン306の如く、保持部材361の内周形状を、前後方向中央部分が窪んだ形状とすることも可能である。また、図7(d)に示す第五実施形態に係るパッキン406の如く、棒状の保持部材461の後面に板部材462を設け、板部材462によって溝形状の幅寸法を狭める狭小部を形成することも可能である。即ち、板部材462の間の狭小部を開口部として形成するのである。
【0058】
これらの別実施形態においても、扉が密閉機構により閉状態となり、弾性部材62が第一圧縮状態となった際に、弾性部材62が保持部材の内周面に押し付けられることがない。このため、弾性変形した弾性部材62からの反力を、表側鋼板21の周縁部と枠体とで集中して受けることができる。即ち、弾性部材62と、表側鋼板21の周縁部及び枠体との密着性を高く維持できるため、高い水密性を維持することが可能となる。
【0059】
また、上記別実施形態に係る扉においても、弾性部材62を各保持部材に圧入するだけで、弾性部材62を保持することができる。即ち、弾性部材62を保持するための接着剤等が不要となるため、第一実施形態に係る扉1と同様に高い水密性を確保することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 扉 2 扉本体
2f 表面 2r 裏面
3 枠体 3a 戸先側枠体
3b 吊元側枠体 3c 下側枠体
4 ヒンジ 4a 固定ヒンジ
4b 可動ヒンジ 5 ハンドル
5f 表側ハンドル 5r 裏側ハンドル
6 パッキン 7 密閉機構
7a~7h 単位機構 10 壁体
10a 開口部 21 表側鋼板
22 裏側鋼板 23 連結部材
51a~51d ジョイント 52a~52h ベベルジャッキ
53a~53h テーパロッド 54a~54h 受圧ピン
55 テーパ面 61 保持部材
61a 内側面 62 弾性部材
106 パッキン 161 保持部材
206 パッキン 261 保持部材
306 パッキン 361 保持部材
406 パッキン 461 保持部材
462 板部材 D 直径
Lt 開口幅 L1 第一幅寸法
L2 第二幅寸法 S1 第一寸法
S2 第二寸法 W 水




図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7