(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20220614BHJP
A63B 45/00 20060101ALI20220614BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20220614BHJP
C08K 5/34 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
A63B37/00 510
A63B45/00 B
C08L21/00
C08K5/34
(21)【出願番号】P 2018121541
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】阪峯 良太
(72)【発明者】
【氏名】唯岡 弘
(72)【発明者】
【氏名】三倉 千恵美
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-029879(JP,A)
【文献】特開2014-138658(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0142568(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0056137(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0206476(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00
A63B 45/00
C08L 21/00
C08K 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層以上のカバーとを有するゴルフボールであって、
前記球状コアが、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤を含有し、
前記(b)共架橋剤が、(b1
)カルボン酸および/またはその金属塩を含有するゴム組成物から形成されて
おり、
前記(b1)カルボン酸および/またはその金属塩が、構造式(3-3)~(3-11)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩であることを特徴とするゴルフボール。
【化1】
[式(3-3)~(3-11)において、X
3
は単結合または炭素数1~20の2価の炭化水素基を表す。
式(3-3)~(3-7)において、R
3
またはR
4
は水素原子または炭素数1~20の1価の炭化水素基を表し、R
3
またはR
4
の少なくとも1つは炭素数1~20の1価の炭化水素基である。
式(3-8)~(3-10)において、R
3
は炭素数1~20の1価の炭化水素基を表す。]
【請求項2】
球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層以上のカバーとを有するゴルフボールであって、
前記球状コアが、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤を含有し、
前記(b)共架橋剤が、(b1)カルボン酸および/またはその金属塩を含有するゴム組成物から形成されており、
前記(b1)カルボン酸および/またはその金属塩が、構造式(3-1)~(3-11)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩であることを特徴とするゴルフボール。
【化2】
[式(3-1)~(3-11)において、X
3
は、シクロアルキレン基、アルケニレン基、または、アリーレン基を表す。R
3
~R
5
は水素原子または炭素数1~20の1価の炭化水素基を表す。]
【請求項3】
前記ゴム組成物が、前記(a)基材ゴム100質量部に対して、前記(b1
)カルボン酸および/またはその金属塩を、5質量部~200質量部含有する請求項1または2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記(b)共架橋剤が、(b2)炭素数が3~8のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩を含有し、
前記(b1)のカルボン酸成分のモル数と前記(b2)の不飽和カルボン酸成分のモル数とのモル比((b2)/(b1))が、0超、15以下である請求項1~3のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反発性能に優れたゴルフボールに関し、詳細には、ゴルフボールのコアの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ソリッドゴムゴルフボールのコアは、基材ゴムとしてのポリブタジエンゴム、共架橋剤としての不飽和カルボン酸金属塩、架橋開始剤としてのジクミルパーオキサイドなどを含有するゴム組成物を加熱加圧成型することで作製される。この組成物において、不飽和カルボン酸金属塩は、ジクミルパーオキサイドなどの架橋開始剤によってポリブタジエン主鎖にグラフトされ、共架橋剤として働く。
【0003】
また、コア用のゴム組成物に、種々のカルボン酸を配合することで、コアの硬度分布を制御することが提案されている。例えば、特許文献1には、球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層以上のカバーとを有し、前記球状コアが、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤として炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩、(c)架橋開始剤および(d)複素環を有するカルボン酸および/またはその塩を含有するゴム組成物から形成されていることを特徴とするゴルフボールが記載されている(特許文献1(請求項1、段落0034-0053)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のゴルフボールコア用のゴム組成物では、基材ゴム(特に、ポリブタジエンゴム)の共架橋剤として、不飽和カルボン酸の金属塩が用いられており、特に(メタ)アクリル酸が多用されている。このようなゴム組成物では、加熱により基材ゴムと共架橋剤とが反応することで、ゴムが硬化し、反発性等の物性が発現する。しかしながら、共架橋剤として(メタ)アクリル酸亜鉛を用いた場合、共架橋剤と基材ゴムとの反応だけでなく、共架橋剤同士の副反応も生じてしまう。この場合、硬化後のゴム内部にゴムの架橋に寄与しない共架橋剤の重合物が存在し、材料の物性を十分に発現できない。また、一般的な共架橋剤は、ポリブタジエンゴムとの親和性が悪いため、基材ゴムへの分散性が悪い。この分散性の悪さも、架橋効率が向上しない原因となっている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ポリブタジエンゴムへの分散性が良好で架橋効率の高い共架橋剤を用いることで、反発性に優れたゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することができた本発明のゴルフボールは、球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層以上のカバーとを有し、前記球状コアが、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤を含有し、前記(b)共架橋剤が、(b1)構造式(1)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩を含有するゴム組成物から形成されていることを特徴とする。
【0008】
【化1】
[式(1)において、A
1~A
4は、それぞれ独立して窒素原子または炭素原子を表す。X
1は単結合または2価の有機基を表す。R
1は水素原子または1価の有機基を表す。なお、A
1~A
4は少なくとも1つが炭素原子であり、X
1およびR
1は炭素原子に結合する。nは0~3の整数を表す。A
1~A
4のうち1つが炭素原子の場合、nが0である。A
1~A
4のうち2つが炭素原子の場合、nが1である。A
1~A
4のうち3つが炭素原子の場合、nが2である。A
1~A
4が全て炭素原子の場合、nが3である。nが2以上の場合、複数存在するR
1はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、複数存在するR
1が互いに結合し、環構造を形成してもよい。]
【0009】
前記(b1)成分は、分子中に、ジアジン構造、トリアジン構造、テトラジン構造またはペンタジン構造を有しており、これらの構造によって基材ゴムと結合することができる。また、これらのジアジン構造等は、基材ゴムに対する親和性が高く、分散性が高い。よって、(b)共架橋剤として、(b1)成分を使用することで、反発性に優れたゴルフボールが得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反発性に優れたゴルフボールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るゴルフボールが示された一部切り欠き断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のゴルフボールは、球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層以上のカバーとを有し、前記球状コアが、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤を含有するゴム組成物から形成されている。そして、前記(b)共架橋剤が、(b1)構造式(1)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩を含有することを特徴とする。
【0013】
前記(b1)成分は、分子中に、ジアジン構造、トリアジン構造、テトラジン構造またはペンタジン構造を有しており、これらの構造によって基材ゴムと結合することができる。また、これらのジアジン構造等は、基材ゴムに対する親和性が高く、分散性が高いため、架橋効率が向上する。よって、(b)共架橋剤として、(b1)成分を使用することで、反発性に優れたゴルフボールが得られる。
【0014】
(a)基材ゴム
前記(a)基材ゴムとしては、天然ゴムおよび/または合成ゴムを使用することができ、例えば、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)などを使用できる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。(a)基材ゴムは、ジエン系ゴムが好ましい。前記(a)基材ゴム中のジエン系ゴムの含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、ジエン系ゴムのみを用いることも好ましい。ジエン系ゴムの中でも、特に、反発に有利なシス-1,4-結合を、40質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上有するハイシスポリブタジエンが好適である。前記(a)基材ゴム中のハイシスポリブタジエンの含有量は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上である。
【0015】
前記ハイシスポリブタジエンは、1,2-ビニル結合の含有量が2.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.7質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。1,2-ビニル結合の含有量が多すぎると反発性が低下する場合がある。
【0016】
前記ハイシスポリブタジエンは、希土類元素系触媒で合成されたものが好適であり、特に、ランタン系列希土類元素化合物であるネオジム化合物を用いたネオジム系触媒の使用が、1,4-シス結合が高含量、1,2-ビニル結合が低含量のポリブタジエンゴムを優れた重合活性で得られるので好ましい。
【0017】
前記ハイシスポリブタジエンとしては、分子量分布Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、2.0以上であることが好ましく、より好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.4以上、最も好ましくは2.6以上であり、6.0以下であることが好ましく、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.0以下、最も好ましくは3.4以下である。ハイシスポリブタジエンの分子量分布(Mw/Mn)が小さすぎると作業性が低下し、大きすぎると反発性が低下するおそれがある。なお、分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー社製、「HLC-8120GPC」)により、検知器として示差屈折計を用いて、カラム:GMHHXL(東ソー社製)、カラム温度:40℃、移動相:テトラヒドロフランの条件で測定し、標準ポリスチレン換算値として算出した値である。
【0018】
前記ハイシスポリブタジエンは、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が、30以上であることが好ましく、より好ましくは32以上、さらに好ましくは35以上であり、140以下が好ましく、より好ましくは120以下、さらに好ましくは100以下、最も好ましくは80以下である。なお、本発明でいうムーニー粘度(ML1+4(100℃))とは、JIS K6300に準じて、Lローターを使用し、予備加熱時間1分間、ローターの回転時間4分間、100℃の条件下にて測定した値である。
【0019】
前記ゴム組成物は、前記(a)基材ゴムとして、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が異なるハイシスポリブタジエンを少なくとも2種含有することが好ましく、2種含有することがより好ましい。2種のハイシスポリブタジエンを含有する場合、第一ハイシスポリブタジエンのムーニー粘度(ML1+4(100℃))が50未満であり、第二ハイシスポリブタジエンのムーニー粘度(ML1+4(100℃))が50以上であることが好ましい。
【0020】
前記第一ハイシスポリブタジエンのムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、30以上が好ましく、より好ましくは32以上、さらに好ましくは35以上であり、50未満が好ましく、より好ましくは49以下、さらに好ましくは48以下である。前記第二ハイシスポリブタジエンのムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、50以上が好ましく、より好ましくは52以上、さらに好ましくは54以上であり、100以下が好ましく、より好ましくは90以下、さらに好ましくは80以下、最も好ましくは70以下である。
【0021】
前記(a)基材ゴム中の第一ハイシスポリブタジエンと第二ハイシスポリブタジエンとの質量比(第一ハイシスポリブタジエン/第二ハイシスポリブタジエン)は、0.3以上が好ましく、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上であり、3.0以下が好ましく、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0022】
前記ゴム組成物は、前記(a)基材ゴムとして、ポリブタジエンゴムおよびポリイソプレンゴムを含有することも好ましい。前記ポリイソプレンゴムのムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、55以上が好ましく、より好ましくは60以上、さらに好ましくは65以上であり、120以下が好ましく、より好ましくは110以下、さらに好ましくは100以下である。
【0023】
前記(a)基材ゴム中のポリブタジエンゴムとポリイソプレンゴムとの質量比(ポリブタジエンゴム/ポリイソプレンゴム)は、1以上が好ましく、より好ましくは2以上、さらに好ましくは4以上であり、20以下が好ましく、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下である。
【0024】
(b)共架橋剤
前記(b)共架橋剤は、(b1)構造式(1)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩を含有する。(b1)成分は、分子中に、ジアジン構造、トリアジン構造、テトラジン構造またはペンタジン構造を有しており、これらの構造によって基材ゴムと結合することができる。また、これらのジアジン構造等は、基材ゴムに対する親和性が高く、分散性が高い。よって、(b)共架橋剤として、(b1)成分を使用することで、反発性に優れたゴルフボールが得られる。前記(b1)成分は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
【化2】
[式(1)において、A
1~A
4は、それぞれ独立して窒素原子または炭素原子を表す。X
1は単結合または2価の有機基を表す。R
1は水素原子または1価の有機基を表す。なお、A
1~A
4は少なくとも1つが炭素原子であり、X
1およびR
1は炭素原子に結合する。nは0~3の整数を表す。A
1~A
4のうち1つが炭素原子の場合、nが0である。A
1~A
4のうち2つが炭素原子の場合、nが1である。A
1~A
4のうち3つが炭素原子の場合、nが2である。A
1~A
4が全て炭素原子の場合、nが3である。nが2以上の場合、複数存在するR
1はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、複数存在するR
1が互いに結合し、環構造を形成してもよい。]
【0026】
X1で表される2価の有機基とは、ヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基(飽和でも不飽和でも良く、直鎖型でも分岐型でも良く、構造中に環状構造を含んでも良い)である。ヘテロ原子としては、窒素、酸素、硫黄、リンなどが挙げられる。
【0027】
R1で表される1価の有機基とは、ヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい1価の炭化水素基(飽和でも不飽和でも良く、直鎖型でも分岐型でも良く、構造中に環状構造を含んでも良い)である。ヘテロ原子としては、窒素、酸素、硫黄、リンなどが挙げられる。
【0028】
前記(b1)構造式(1)で表されるカルボン酸の金属塩を構成する金属原子としては、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金などの遷移金属;ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、スズ、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウムなどの卑金属が挙げられる。前記金属原子は、単独または2種以上であってもよい。これらの中でも、前記金属原子としては、2価の金属イオンを形成し得る金属原子が好ましく、より好ましくはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛およびバリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属である。
【0029】
前記金属原子が2価の金属イオンを形成し得る場合、前記(b1)構造式(1)で表されるカルボン酸の金属塩は、下記式(1-1)で表されるように全てのカルボン酸成分が構造式(1)で表されるカルボン酸であってもよいし、下記式(1-2)で表されるように、一方のカルボン酸成分が構造式(1)で表されるカルボン酸で、他方が他のカルボン酸であってもよい。
【0030】
【化3】
[式(1-1)、(1-2)において、A
1~A
4は、それぞれ独立して窒素原子または炭素原子を表す。X
1は単結合または2価の有機基を表す。R
1は水素原子または1価の有機基を表す。なお、A
1~A
4は少なくとも1つが炭素原子であり、X
1およびR
1は炭素原子に結合する。nは0~3の整数を表す。A
1~A
4のうち1つが炭素原子の場合、nが0である。A
1~A
4のうち2つが炭素原子の場合、nが1である。A
1~A
4のうち3つが炭素原子の場合、nが2である。A
1~A
4が全て炭素原子の場合、nが3である。nが2以上の場合、複数存在するR
1はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、複数存在するR
1が互いに結合し、環構造を形成してもよい。Mは2価の金属イオンを表す。R
11は1価の炭化水素基を表す。]
【0031】
R11で表される1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アラルキル基などが挙げられる。R11で表される1価の炭化水素基の炭素数は1~20が好ましい。
【0032】
前記(b1)構造式(1)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩は、構造式(2)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩が好ましい。
【0033】
【化4】
[式(2)において、A
5~A
8は、それぞれ独立して窒素原子または炭素原子を表す。X
2は単結合または炭素数1~20の2価の炭化水素基を表す。R
2は水素原子または炭素数1~20の1価の炭化水素基を表す。なお、A
5~A
8は少なくとも1つが炭素原子であり、少なくとも1つが窒素原子であり、X
2およびR
2は炭素原子に結合する。mは0~2の整数を表す。A
5~A
8のうち1つが炭素原子の場合、mが0である。A
5~A
8のうち2つが炭素原子の場合、mが1である。A
5~A
8のうち3つが炭素原子の場合、mが2である。mが2の場合、複数存在するR
2はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0034】
X2で表される2価の炭化水素基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基などが挙げられる。これらの中でも、基材ゴムとの親和性の観点からアリーレン基が好ましい。X2で表される2価の炭化水素基の炭素数は1~20が好ましい。
【0035】
前記アルキレン基の炭素数は、1以上が好ましく、より好ましくは2以上であり、20以下が好ましく、より好ましくは10以下である。前記アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、デシレン基等が挙げられる。
前記シクロアルキレン基の炭素数は、3以上が好ましく、より好ましくは4以上であり、20以下が好ましく、より好ましくは10以下である。前記シクロアルキレン基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロデシレン基等が挙げられる。
前記アルケニレン基の炭素数は、2以上が好ましく、より好ましくは3以上であり、20以下が好ましく、より好ましくは10以下である。前記アルケニレン基としては、エテニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基、デセニレン基等が挙げられる。
前記アリーレン基の炭素数は、6以上が好ましく、より好ましくは7以上であり、20以下が好ましく、より好ましくは10以下である。前記アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
【0036】
R2で表される1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アラルキル基などが挙げられる。R2で表される1価の炭化水素基の炭素数は1~20が好ましい。
【0037】
前記アルキル基の炭素数は、1以上が好ましく、より好ましくは2以上であり、20以下が好ましく、より好ましくは10以下である。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。
前記シクロアルキル基の炭素数は、3以上が好ましく、より好ましくは4以上であり、20以下が好ましく、より好ましくは10以下である。前記シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基等が挙げられる。
前記アルケニル基の炭素数は、2以上が好ましく、より好ましくは3以上であり、20以下が好ましく、より好ましくは10以下である。前記アルケニル基としては、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基等が挙げられる。
前記アリール基の炭素数は、6以上が好ましく、より好ましくは7以上であり、20以下が好ましく、より好ましくは10以下である。前記アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0038】
前記(b1)構造式(1)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩の具体例としては、構造式(3-1)~(3-11)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩が挙げられる。
【0039】
【化5】
[式(3-1)~(3-11)において、X
3は単結合または炭素数1~20の2価の炭化水素基を表す。R
3~R
5は水素原子または炭素数1~20の1価の炭化水素基を表す。]
【0040】
X3で表される2価の炭化水素基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基などが挙げられる。これらの中でも、基材ゴムとの親和性の観点からアリーレン基が好ましい。X3で表される2価の炭化水素基の炭素数は1~20が好ましい。
【0041】
R3~R5で表される1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アラルキル基などが挙げられる。R3~R5で表される1価の炭化水素基の炭素数は1~20が好ましい。
【0042】
前記構造式(1)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩の具体例としては、4-(6-メチル-1,2,4,5-テトラジン-3-イル)安息香酸(下記式(4-1))、6-メチル-1,2,4,5-テトラジン-3-酢酸(下記式(4-2))、4-(6-メチル-1,2,4,5-テトラジン-3-イル)フェニル酢酸(下記式(4-3))、および、これらの金属塩が挙げられる。
【0043】
【0044】
前記構造式(1)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩は、市販されているものを購入してもよいし、新たに合成してもよい。構造式(1)で表されるカルボン酸の製造方法は、例えば、米国特許出願公開第2015/246893号明細書に記載されている。また、構造式(1)で表されるカルボン酸の金属塩の製造方法は、例えば、特開平5-345742号公報に記載されている。
【0045】
前記ゴム組成物中の前記(b1)構造式(1)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩の含有量は、前記(a)基材ゴム100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは40質量部以上であり、200質量部以下が好ましく、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下である。前記(b1)成分の含有量が5質量部以上であれば架橋を形成することで高反発効果が得られ、200質量部以下であれば架橋が多くなり過ぎることがなく打球感が良好となる。
【0046】
前記(b)共架橋剤は、本発明の効果を損なわない程度に、前記(b1)構造式(1)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩以外の他の共架橋剤を含有してもよい。前記他の共架橋剤としては、例えば、(b2)炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩が挙げられる。前記(b2)炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩は、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有する。前記炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0047】
(b2)炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸の金属塩を構成する金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。前記金属成分は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。これらの中でも、前記金属成分としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属が好ましい。炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸の2価の金属塩を用いることにより、ゴム分子間に金属架橋が生じやすくなるからである。
【0048】
前記(b)共架橋剤が、(b2)炭素数が3~8のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩を含有する場合、前記(b1)のカルボン酸成分のモル数と前記(b2)の不飽和カルボン酸成分のモル数とのモル比((b2)/(b1))は、0超が好ましく、より好ましくは0.5以上であり、15以下が好ましく、より好ましくは10以下、さらに好ましくは1以下である。モル比((b2)/(b1))が15以下であれば(b1)による架橋を形成できる。
【0049】
前記(b1)のカルボン酸成分のモル数は、(b1)成分に含まれる構造式(1)で表されるカルボン酸のモル数である。例えば、(b1)成分がカルボン酸である場合、(b1)成分1モルに含まれるカルボン酸成分は1モルである。(b1)成分が2価の金属塩である場合、(b1)成分1モルに含まれるカルボン酸成分は2モルである。
【0050】
前記他の架橋剤を使用する場合、前記(b)共架橋剤中の前記構造式(1)で表されるカルボン酸および/またはその金属塩の含有率は、14質量%以上であり、17質量%以上が好ましく、より好ましくは40質量%以上であり、100質量%以下が好ましく、より好ましくは60質量%以下である。上記範囲内であれば、金属架橋が生じやすくなる。
【0051】
前記ゴム組成物中の前記(b)共架橋剤の含有率は、前記(a)基材ゴム100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、50質量部以下が好ましく、より好ましくは45質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下である。前記(b)共架橋剤の含有量が10質量部未満では、ゴム組成物から形成される部材を適当な硬さとするために、後述する(c)架橋開始剤の量を増加しなければならず、架橋ゴム成形体の反発性が低下する傾向がある。一方、(b)共架橋剤の含有量が50質量部を超えると、ゴム組成物から形成される部材が硬くなりすぎる傾向がある。
【0052】
(c)架橋開始剤
前記ゴム組成物は(c)架橋開始剤を含有してもよい。特に、前記(b2)成分を含有する場合は、(c)架橋開始剤を含有することが好ましい。(c)架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。前記有機過酸化物は、具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でもジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。
【0053】
前記(c)架橋開始剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.5質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは2.5質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以下である。0.2質量部未満では、ゴム組成物から形成される部材が柔らかくなりすぎて、ゴルフボールの反発性が低下する傾向があり、5.0質量部を超えると、ゴム組成物から形成される部材を適切な硬さにするために、前述した(b)共架橋剤の使用量を減少する必要があり、ゴルフボールの反発性が不足したり、耐久性が悪くなるおそれがある。
【0054】
(d)金属化合物
前記(b)共架橋剤として金属塩を使用しない場合は、(d)金属化合物をさらに含有することが好ましい。前記(d)金属化合物としては、ゴム組成物中において(b)共架橋剤として配合されるカルボン酸成分を中和することができるものであれば、特に限定されない。前記(d)金属化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物が挙げられる。(d)前記金属化合物として好ましいのは、二価金属化合物であり、より好ましくは亜鉛化合物である。二価金属化合物は、炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸と反応して、金属架橋を形成するからである。また、亜鉛化合物を用いることにより、反発性の高いゴルフボールが得られる。これらの(d)金属化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
(e)有機硫黄化合物
前記ゴム組成物は、さらに(e)有機硫黄化合物を含有してもよい。(e)有機硫黄化合物としては、例えば、チオフェノール類、チオナフトール類、ポリスルフィド類、チウラム類、チオカルボン酸類、ジチオカルボン酸類、スルフェンアミド類、ジチオカルバミン酸塩類、チアゾール類およびこれらの金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。球状コアの硬度分布が大きくなるという観点から、(e)有機硫黄化合物としては、チオール基(-SH)を有する有機硫黄化合物、または、その金属塩が好ましく、チオフェノール類、チオナフトール類、または、これらの金属塩が好ましい。
【0056】
チオール類としては、例えば、チオフェノール類、チオナフトール類が挙げられる。前記チオフェノール類としては、例えば、チオフェノール;4-フルオロチオフェノール、2,5-ジフルオロチオフェノール、2,6-ジフルオロチオフェノール、2,4,5-トリフルオロチオフェノール、2,4,5,6-テトラフルオロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノールなどのフルオロ基で置換されたチオフェノール類;2-クロロチオフェノール、4-クロロチオフェノール、2,4-ジクロロチオフェノール、2,5-ジクロロチオフェノール、2,6-ジクロロチオフェノール、2,4,5-トリクロロチオフェノール、2,4,5,6-テトラクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノールなどのクロロ基で置換されたチオフェノール類;4-ブロモチオフェノール、2,5-ジブロモチオフェノール、2,6-ジブロモチオフェノール、2,4,5-トリブロモチオフェノール、2,4,5,6-テトラブロモチオフェノール、ペンタブロモチオフェノールなどのブロモ基で置換されたチオフェノール類;4-ヨードチオフェノール、2,5-ジヨードチオフェノール、2,6-ジヨードチオフェノール、2,4,5-トリヨードチオフェノール、2,4,5,6-テトラヨードチオフェノール、ペンタヨードチオフェノールなどのヨード基で置換されたチオフェノール類;または、これらの金属塩が挙げられる。金属塩としては、亜鉛塩が好ましい。
【0057】
前記チオナフトール類(ナフタレンチオール類)としては、2-チオナフトール、1-チオナフトール、1-クロロ-2-チオナフトール、2-クロロ-1-チオナフトール、1-ブロモ-2-チオナフトール、2-ブロモ-1-チオナフトール、1-フルオロ-2-チオナフトール、2-フルオロ-1-チオナフトール、1-シアノ-2-チオナフトール、2-シアノ-1-チオナフトール、1-アセチル-2-チオナフトール、2-アセチル-1-チオナフトール、またはこれらの金属塩を挙げることができ、2-チオナフトール、1-チオナフトール、またはこれらの金属塩が好ましい。金属塩としては、好ましくは2価の金属塩、より好ましくは亜鉛塩である。金属塩の具体的としては、例えば、1-チオナフトールの亜鉛塩、2-チオナフトールの亜鉛塩が挙げられる。
【0058】
ポリスルフィド類とは、ポリスルフィド結合を有する有機硫黄化合物であり、例えば、ジスルフィド類、トリスルフィド類、テトラスルフィド類が挙げられる。前記ポリスルフィド類としては、ジフェニルポリスルフィド類が好ましい。
【0059】
ジフェニルポリスルフィド類としては、ジフェニルジスルフィドの他;ビス(4-フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5-ジフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6-ジフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5-トリフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6-テトラフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4-クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5-トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6-テトラクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4-ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5-ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6-ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5-トリブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6-テトラブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4-ヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5-ジヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6-ジヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5-トリヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6-テトラヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタヨードフェニル)ジスルフィド等のハロゲン基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4-メチルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5-トリメチルフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタメチルフェニル)ジスルフィド、ビス(4-t-ブチルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5-トリ-t-ブチルフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタ-t-ブチルフェニル)ジスルフィド等のアルキル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;などが挙げられる。
【0060】
チウラム類としては、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラムモノスルフィド類、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドなどのチウラムジスルフィド類、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどのチウラムテトラスルフィド類が挙げられる。チオカルボン酸類としては、例えば、ナフタレンチオカルボン酸が挙げられる。ジチオカルボン酸類としては、例えば、ナフタレンジチオカルボン酸が挙げられる。スルフェンアミド類としては、例えば、N-シクロへキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドが挙げられる。
【0061】
(e)前記有機硫黄化合物は、単独もしくは二種以上を混合して使用することができる。(e)有機硫黄化合物としては、チオフェノール類および/またはその金属塩、チオナフトール類および/またはその金属塩、ジフェニルジスルフィド類、およびチウラムジスルフィド類よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、より好ましくは2,4-ジクロロチオフェノール、2,6-ジフルオロチオフェノール、2,6-ジクロロチオフェノール、2,6-ジブロモチオフェノール、2,6-ジヨードチオフェノール、2,4,5-トリクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール、1-チオナフトール、2-チオナフトール、ジフェニルジスルフィド、ビス(2,6-ジフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6-ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6-ジヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドである。
【0062】
(e)有機硫黄化合物の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは2.0質量部以下である。(e)有機硫黄化合物の含有量が、0.05質量部未満では、(e)有機硫黄化合物を添加した効果が得られず、ゴルフボールの反発性が向上しないおそれがある。また、(e)有機硫黄化合物の含有量が、5.0質量部を超えると、得られるゴルフボールの圧縮変形量が大きくなって、反発性が低下するおそれがある。
【0063】
(f)カルボン酸および/またはその塩
前記ゴム組成物は(f)カルボン酸および/またはその塩を含有してもよい。前記(f)カルボン酸および/またはその塩を含有することで、得られる球状コアの外剛内柔度合を大きくできる。前記(f)カルボン酸および/またはその塩としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸および芳香族カルボン酸塩が挙げられる。前記(f)カルボン酸および/または塩は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。なお、前記(f)カルボン酸および/またはその塩は、(b)架橋剤に使用される化合物とは異なる化合物であり、(b1)構造式(1)で表されるカルボン酸およびその金属塩、(b2)炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸およびその金属塩は含まない。
【0064】
前記脂肪族カルボン酸は、飽和脂肪族カルボン酸(以下、「飽和脂肪酸」と称する場合がある。)、不飽和脂肪族カルボン酸(以下、「不飽和脂肪酸」と称する場合がある。)のいずれであっても良い。また、脂肪族カルボン酸は、分岐構造や環状構造を有していてもよい。前記飽和脂肪酸の炭素数は、1以上が好ましく、30以下が好ましく、より好ましくは18以下、さらに好ましくは13以下である。前記不飽和脂肪酸の炭素数は、5以上が好ましく、より好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上であり、30以下が好ましく、より好ましくは18以下、さらに好ましくは13以下である。
【0065】
前記芳香族カルボン酸としては、分子中にベンゼン環を有するもの、分子中に複素芳香環を有するものが挙げられる。前記芳香族カルボン酸は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ベンゼン環を有するカルボン酸としては、例えば、ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した芳香族カルボン酸、ベンゼン環に脂肪族カルボン酸が結合した芳香族-脂肪族カルボン酸、縮合ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した多核芳香族カルボン酸、縮合ベンゼン環に脂肪族カルボン酸が結合した多核芳香族-脂肪族カルボン酸などが挙げられる。前記複素芳香環を有するカルボン酸としては、例えば、複素芳香環に直接カルボキシル基が結合したものが挙げられる。
【0066】
脂肪族カルボン酸塩または芳香族カルボン酸塩としては、上述した脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸の塩を用いることできる。これらの塩のカチオン成分としては、例えば、金属イオン、アンモニウムイオン、および、有機陽イオンを挙げることができる。金属イオンとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、銀などの一価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウム、銅、コバルト、ニッケル、マンガンなどの二価の金属イオン;アルミニウム、鉄などの3価の金属イオン;錫、ジルコニウム、チタンなどのその他のイオンが挙げられる。前記カチオン成分は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。
【0067】
前記有機陽イオンとは、炭素鎖を有する陽イオンである。前記有機陽イオンとしては、特に限定されず、例えば、有機アンモニウムイオンが挙げられる。前記有機アンモニウムイオンとしては、例えば、ステアリルアンモニウムイオン、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2-エチルヘキシルアンモニウムイオンなどの1級アンモニウムイオン、ドデシル(ラウリル)アンモニウムイオン、オクタデシル(ステアリル)アンモニウムイオンなどの2級アンモニウムイオン;トリオクチルアンモニウムイオンなどの3級アンモニウムイオン;ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオンなどの4級アンモニウムイオンなどが挙げられる。これらの有機陽イオンは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
前記脂肪族カルボン酸および/またはその塩としては、飽和脂肪酸および/またはその塩、不飽和脂肪酸および/またはその塩が挙げられる。前記飽和脂肪酸および/またはその塩が好ましく、カプリル酸(オクタン酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、または、これらのカリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩が好ましい。前記不飽和脂肪酸および/またはその塩としては、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸もしくはアラキドン酸、または、これらのカリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩が好ましい。
【0069】
前記芳香族カルボン酸および/またはその塩としては、特に、安息香酸、ブチル安息香酸、アニス酸(メトキシ安息香酸)、ジメトキシ安息香酸、トリメトキシ安息香酸、ジメチルアミノ安息香酸、クロロ安息香酸、ジクロロ安息香酸、トリクロロ安息香酸、アセトキシ安息香酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、アントラセンカルボン酸、フランカルボン酸もしくはテノイル酸、または、これらのカリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩が好ましい。
【0070】
前記(f)カルボン酸および/またはその塩の含有量は、例えば、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1.0質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上であって、40質量部以下が好ましく、より好ましくは35質量部以下であり、さらに好ましくは30質量部以下である。(f)カルボン酸および/またはその塩の含有量が0.5質量部以上であれば、球状コアの外剛内柔度合が大きくなり、40質量部以下であれば、コア硬度の低下が抑制され、反発性が良好となる。
【0071】
前記ゴム組成物は、必要に応じて、顔料、重量調整などのための充填剤、老化防止剤、しゃく解剤、軟化剤などの添加剤を含有してもよい。また、ゴム組成物は、ゴルフボールのコアや、コア作製時に発生した端材を粉砕したゴム粉末を含有してもよい。
【0072】
ゴム組成物に配合される顔料としては、例えば、白色顔料、青色顔料、紫色顔料などを挙げることができる。前記白色顔料としては、酸化チタンを使用することが好ましい。酸化チタンの種類は、特に限定されないが、隠蔽性が良好であるという理由から、ルチル型を用いることが好ましい。また、酸化チタンの含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは2質量部以上であって、8質量部以下が好ましく、より好ましくは5質量部以下である。
【0073】
ゴム組成物が白色顔料と青色顔料とを含有することも好ましい態様である。青色顔料は、白色を鮮やかに見せるために配合され、例えば、群青、コバルト青、フタロシアニンブルーなどを挙げることができる。また、前記紫色顔料としては、例えば、アントラキノンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、メチルバイオレットなどを挙げることができる。
【0074】
ゴム組成物に用いる充填剤としては、主として最終製品として得られるゴルフボールの重量を調整するための重量調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。
【0075】
前記老化防止剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
【0076】
ゴム組成物の調製
本発明で使用するゴム組成物は、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤、および、必要に応じてその他の添加剤などを混合して、混練することにより得られる。混練の方法は、特に限定されず、例えば、混練ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどの公知の混練機を用いて行えばよい。
【0077】
本発明のゴルフボールが有する球状コアは、混練後のゴム組成物を金型内で成形することにより得ることができる。球状コアに成形する温度は、球状コアに成形する温度は、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましく、170℃以下が好ましい。成形温度が170℃を超えると、コア表面硬度が低下する傾向がある。また、成形時の圧力は、2.9MPa~11.8MPaが好ましい。成形時間は、10分間~60分間が好ましい。
【0078】
前記球状コアの直径は、34.8mm以上が好ましく、より好ましくは36.8mm以上、さらに好ましくは38.8mm以上であり、42.2mm以下が好ましく、41.8mm以下がより好ましく、さらに好ましくは41.2mm以下であり、最も好ましくは40.8mm以下である。前記球状コアの直径が34.8mm以上であれば、カバーの厚みが厚くなり過ぎず、反発性がより良好となる。一方、球状コアの直径が42.2mm以下であれば、カバーが薄くなり過ぎず、カバーの機能がより発揮される。
【0079】
前記球状コアは、直径34.8mm~42.2mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にセンターが縮む量)が、2.0mm以上が好ましく、2.8mm以上がより好ましく、6.0mm以下が好ましく、5.0mm以下がより好ましい。前記圧縮変形量が、2.0mm以上であれば打球感がより良好となり、6.0mm以下であれば、反発性がより良好となる。
【0080】
カバー
前記カバーは、樹脂成分を含有するカバー用組成物から形成される。前記樹脂成分としては、例えば、アイオノマー樹脂、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマーなどが挙げられる。
【0081】
前記アイオノマー樹脂としては、例えば、オレフィンと炭素数3~8個のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体中のカルボキシ基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、オレフィンと炭素数3~8個のα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシ基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、あるいは、これらの混合物を挙げることができる。前記オレフィンとしては、炭素数が2~8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができ、特にエチレンが好ましい。前記炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β-不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n-ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。これらのなかでも、前記アイオノマー樹脂としては、エチレン-(メタ)アクリル酸二元共重合体の金属イオン中和物、エチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル三元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。
【0082】
前記アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井・デュポン・ポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、1557(Zn)、1605(Na)、1706(Zn)、1707(Na)、AM3711(Mg)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、ハイミラン1856(Na)、1855(Zn)など)」が挙げられる。
【0083】
さらにデュポン社から市販されているアイオノマー樹脂としては、「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、9945(Zn)、8140(Na)、8150(Na)、9120(Zn)、9150(Zn)、6910(Mg)、6120(Mg)、7930(Li)、7940(Li)、AD8546(Li)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、サーリン8120(Na)、8320(Na)、9320(Zn)、6320(Mg)、HPF1000(Mg)、HPF2000(Mg)など)」が挙げられる。
【0084】
またエクソンモービル化学(株)から市販されているアイオノマー樹脂としては、「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、8030(Na)、7010(Zn)、7030(Zn)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、アイオテック7510(Zn)、7520(Zn)など)」が挙げられる。
【0085】
なお、前記アイオノマー樹脂の商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。前記アイオノマー樹脂は、単独で若しくは2種以上を混合して使用しても良い。
【0086】
前記カバーを構成するカバー用組成物は、樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーまたはアイオノマー樹脂を含有することが好ましい。アイオノマー樹脂を使用する場合には、熱可塑性スチレンエラストマーを併用することも好ましい。カバー用組成物の樹脂成分中のポリウレタンまたはアイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
【0087】
前記カバー用組成物は、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、酸化亜鉛、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
【0088】
前記白色顔料(例えば、酸化チタン)の含有量は、カバーを構成する樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上であって、10質量部以下が好ましく、より好ましくは8質量部以下である。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、カバーに隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られるカバーの耐久性が低下する場合があるからである。
【0089】
前記カバー用組成物のスラブ硬度は、所望のゴルフボールの性能に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、飛距離を重視するディスタンス系のゴルフボールの場合、カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で50以上が好ましく、55以上がより好ましく、60以上がさらに好ましく、80以下が好ましく、70以下がより好ましく、68以下がさらに好ましい。カバー用組成物のスラブ硬度を50以上にすることにより、ドライバーショットおよびアイアンショットにおいて、高打出角で低スピンのゴルフボールが得られ、飛距離が向上する。また、カバー用組成物のスラブ硬度を80以下とすることにより、耐久性に優れたゴルフボールが得られる。また、コントロール性を重視するスピン系のゴルフボールの場合、カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で、50未満が好ましく、20以上が好ましく、25以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。カバー用組成物のスラブ硬度が、ショアD硬度で50未満であれば、ドライバーショットでは、本発明のコアにより、高飛距離化がはかれるとともに、アプローチショットのスピン量が高くなり、グリーン上で止まりやすいゴルフボールが得られる。また、スラブ硬度を20以上とすることにより、耐擦過傷性が向上する。複数のカバー層の場合は、各層を構成するカバー用組成物のスラブ硬度は、上記範囲内であれば、同一あるいは異なっても良い。
【0090】
前記カバーを成形する方法としては、例えば、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する方法(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)、あるいは、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する方法を挙げることができる。
【0091】
圧縮成形法によりカバーを成形する場合、ハーフシェルの成形は、圧縮成形法または射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。カバー用組成物を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1MPa以上、20MPa以下の圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、-20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いてカバーを成形する方法としては、例えば、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形してカバーに成形する条件としては、例えば、0.5MPa以上、25MPa以下の成形圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、-20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一なカバー厚みを有するゴルフボールカバーを成形できる。
【0092】
カバー用組成物を射出成形してカバーを成形する場合、押出して得られたペレット状のカバー用組成物を用いて射出成形しても良いし、あるいは、基材樹脂成分や顔料などのカバー用材料をドライブレンドして直接射出成形してもよい。カバー成形用上下金型としては、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねているものを使用することが好ましい。射出成形によるカバーの成形は、ホールドピンを突き出し、コアを投入してホールドさせた後、カバー用組成物を注入して、冷却することによりカバーを成形することができ、例えば、9MPa~15MPaの圧力で型締めした金型内に、200℃~250℃に加熱したカバー用組成物を0.5秒~5秒で注入し、10秒~60秒間冷却して型開きすることにより行う。
【0093】
カバーを成形する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0094】
前記カバーの厚みは、4.0mm以下が好ましく、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下である。カバーの厚みが4.0mm以下であれば、得られるゴルフボールの反発性や打球感がより良好となる。前記カバーの厚みは、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、さらに好ましくは0.8mm以上、特に好ましくは1.0mm以上である。カバーの厚みが0.3mm未満では、カバーの耐久性や耐摩耗性が低下する場合がある。複数のカバー層の場合は、複数のカバー層の合計厚みが上記範囲であることが好ましい。
【0095】
前記カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。前記塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が50μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
【0096】
ゴルフボール
本発明のゴルフボールの構造は、球状コアと、前記球状コアを被覆する一層以上のカバーとを有するものであれば、特に限定されない。前記球状コアは、単層構造であることが好ましい。単層構造の球状コアは、多層構造の界面における打撃時のエネルギーロスがなく、反発性が向上するからである。また、カバーは、一層以上の構造であればよく、単層構造、あるいは、少なくとも二層以上の多層構造を有していてもよい。本発明のゴルフボールとしては、例えば、球状コアと前記球状コアを被覆するように配設された単層のカバーとからなるツーピースゴルフボール;球状コアと前記球状コアを被覆するように配設された二層以上のカバーを有するマルチピースゴルフボール(スリーピースゴルフボールを含む);球状コアと前記球状コアの周囲に設けられた糸ゴム層と、前記糸ゴム層を被覆するように配設されたカバーとを有する糸巻きゴルフボールなどを挙げることができる。上記いずれの構造のゴルフボールにも本発明を好適に利用できる。
【0097】
本発明のゴルフボールの直径は、40mmから45mmが好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。また、本発明のゴルフボールの質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0098】
本発明のゴルフボールは、直径40mm~45mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向に縮む量)は、2.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.2mm以上、さらに好ましくは2.4mm以上であり、4.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは3.5mm以下、さらに好ましくは3.4mm以下である。前記圧縮変形量が2.0mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、圧縮変形量を4.0mm以下にすることにより、反発性が高くなる。
【0099】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール1が示された一部切り欠き断面図である。ゴルフボール1は、球状コア2と、球状コア2を被覆するカバー3とを有する。このカバーの表面には、多数のディンプル31が形成されている。このゴルフボール3の表面のうち、ディンプル31以外の部分は、ランド32である。このゴルフボール1は、カバー3の外側にペイント層およびマーク層を備えているが、これらの層の図示は省略されている。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0101】
[評価方法]
(1)圧縮変形量(mm)
コアまたはゴルフボールに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向にコアまたはゴルフボールが縮む量)を測定した。
【0102】
(2)反発係数
各コアに198.4gの金属製円筒物を40m/秒の速度で衝突させ、衝突前後の円筒物およびコアの速度を測定し、それぞれの速度および重量から各コアの反発係数を算出した。測定は各コアについて12個ずつ行って、その平均値を各コアの反発係数とした。なお、各コアの反発係数は、ゴルフボールNo.1のコアの反発係数との差(反発係数の差=各コアの反発係数-ゴルフボールNo.1のコアの反発係数)で示した。
【0103】
(3)ドライバー飛距離(yd)
ゴルフラボラトリー社製のスイングロボットM/Cに、メタルヘッド製W#1ドライバー(ダンロップスポーツ社製、XXIO S ロフト11°)を取り付け、ヘッドスピード40m/秒でゴルフボールを打撃し、飛距離(発射始点から静止地点までの距離)を測定した。測定は、各ゴルフボールについて12回ずつ行って、その平均値をそのゴルフボールの測定値とした。なお、各ゴルフボールの飛距離は、ゴルフボールNo.1の飛距離との差(飛距離の差=各ゴルフボールの飛距離-ゴルフボールNo.1の飛距離)で示した。
【0104】
(4)打球感
アマチュアゴルファー(上級者)10人により、ドライバーを用いた実打テストを行って、各人の打撃時のフィーリングを下記基準で評価させた。10人の評価のうち、最も多い評価をそのゴルフボールの打球感とした。
評価基準
○:衝撃が少なくてフィーリングが良い。
△:普通。
×:衝撃が大きくてフィーリングが悪い。
【0105】
[4-(6-メチル-1,2,4,5-テトラジン-3-イル)安息香酸の亜鉛塩の調製]
窒素雰囲気下で、4-シアノ安息香酸2.00gとアセトニトリル5.58gと亜鉛トリフラート2.47gとの混合物に、ヒドラジン一水和物34.02gを添加した。得られた溶液を、窒素雰囲気下で、油槽にて、60℃で24時間加熱した。冷却後、亜硝酸ナトリウム水溶液(亜硝酸ナトリウム18.76g、水54.42g)を添加した。この溶液に、塩酸(濃度5質量%)を徐々に加え、pHを3に調整した。その後、溶液を15分間撹拌し、沈殿物をろ取した。ろ過物を、塩酸(濃度1質量%)で3回洗浄した後、乾燥させ、粗体を得た。ジクロロメタン/メタノール=5/1の溶媒を用いて再結晶を行い、4-(6-メチル-1,2,4,5-テトラジン-3-イル)安息香酸を得た。
【0106】
前記4-(6-メチル-1,2,4,5-テトラジン-3-イル)安息香酸を、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム0.11g、水13.04g)に投入し、撹拌溶解させた。続いて、溶液を激しく撹拌しながら、塩化亜鉛水溶液(塩化亜鉛0.119g、水6.52g)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で2時間撹拌した後、水6.52gを追加し、60℃に加温し、2時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、更に1晩放置した。次に、析出物をろ取し、ろ過物を500gの水で撹拌洗浄を5回行った。洗浄後の析出物を自然乾燥し、4-(6-メチル-1,2,4,5-テトラジン-3-イル)安息香酸の亜鉛塩を得た。
【0107】
[ゴルフボールの作製]
(1)コアの作製
表1に示す配合のゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃、20分間加熱プレスすることにより直径39.8mmの球状コアを得た。なお、硫酸バリウムは、得られるゴルフボールの質量が、45.4gとなるように適量加えた。
【0108】
【0109】
表1で用いた材料は下記の通りである。
ポリブタジエンゴム:JSR社製、「BR730」(ハイシスポリブタジエンゴム(シス-1,4-結合含有量=96質量%、1,2-ビニル結合含有量=1.3質量%、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))=55、分子量分布(Mw/Mn)=3))
ZN-DA90S:日触テクノファインケミカル社製、アクリル酸亜鉛(ステアリン酸亜鉛を10質量%含有)
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
PBDS:川口化学工業社製、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
【0110】
(2)カバーの成形
表2に示した配合材料を用いて、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のカバー用組成物を得た。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は押出機のダイの位置で160℃~230℃に加熱された。
【0111】
【0112】
表2で用いた材料は下記の通りである。
ハイミラン(登録商標)1605:三井・デュポン・ポリケミカル社製、ナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
ハイミラン1706:三井・デュポン・ポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
酸化チタン:石原産業社製、A220
【0113】
前記で得たカバー用組成物を、前述のようにして得た球状コア上に射出成形することにより、前記球状コアを被覆するカバーを成形した。カバーを成形するための成形用上下金型は、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねている。カバー成形時には、ホールドピンを突き出し、コアを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に210℃~260℃に加熱した樹脂を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてゴルフボールを取り出した。
【0114】
得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、クリアーペイントを塗布し、40℃のオーブンで塗料を乾燥させ、直径42.8mm、質量45.4gのゴルフボールを得た。得られたゴルフボールについて、評価した結果を表1に示した。
【0115】
ゴルフボールNo.1は、球状コアが、共架橋剤としてアクリル酸亜鉛のみを含有するゴム組成物から形成されている。ゴルフボールNo.2~6は、球状コアが、(b)共架橋剤として、(b1)構造式(1)で表されるカルボン酸および/または金属塩を含有するゴム組成物から形成されている。これらのゴルフボールNo.2~6は、ゴルフボールNo.1に比べて反発係数が向上し、かつ、打球感も優れている。ゴルフボールNo.7はゴム組成物中のアクリル酸亜鉛の配合量を増加させた場合である。このゴルフボールNo.7は、反発係数が増加しているものの、打球感が低下している。
【符号の説明】
【0116】
1:ゴルフボール、2:球状コア、3:カバー、31:ディンプル、32:ランド